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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】記録装置および検出方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20240708BHJP
【FI】
B41J2/165 501
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020182529
(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公開番号】P2022072858
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】下山 洋司
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-143607(JP,A)
【文献】特開平06-316085(JP,A)
【文献】特開平11-192724(JP,A)
【文献】特開2013-248860(JP,A)
【文献】特開平07-060987(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0122186(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/165
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータを用いて液体に熱エネルギーを与えて該液体を複数の吐出口から吐出させる記録装置において、
前記複数の吐出口を有する吐出口形成部材と、
前記吐出口形成部材が配置された基板と、
前記基板の温度を測定する温度計と、
前記複数の吐出口それぞれに対応する前記ヒータを、互いに近接する吐出口ごとに振り分けられたグループごとに駆動する駆動部と、
前記ヒータが駆動された前記グループごとに、前記温度計が測定した温度に基づいて、前記グループに属する吐出口に前記液体が供給されているか否かを判定する判定部と、
を有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記録装置において、
前記判定部は、前記ヒータが駆動されているときに前記温度計が測定する、時間当たりの温度上昇量と、該ヒータの駆動を停止された後に前記温度計が測定する、時間当たりの温度下降量とに基づいて、前記グループに属する吐出口に前記液体が供給されているか否かを判定する記録装置。
【請求項3】
請求項2に記載の記録装置において、
前記判定部は、前記温度上昇量が第1の閾値よりも小さく、前記温度下降量が第2の閾値よりも大きな場合、前記グループに属する吐出口に前記液体が供給されていると判定する記録装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の記録装置において、
前記ヒータを用いて前記液体に与える熱エネルギーを、前記グループと前記温度計との間の距離に応じて制御する熱エネルギー制御部を有する記録装置。
【請求項5】
請求項4に記載の記録装置において、
前記熱エネルギー制御部は、前記グループと前記温度計との間の距離が遠いほど、前記ヒータから大きな熱エネルギーを前記液体に与える記録装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の記録装置において、
前記駆動部は、前記温度計からの距離が遠い前記グループから順に、該グループに属する吐出口に対応するヒータを駆動する記録装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の記録装置において、
前記グループと前記温度計との間の距離が遠いほど、該グループに属する吐出口の数が多い記録装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の記録装置において、
前記駆動部は、前記吐出口から前記液体を吐出させないレベルの熱エネルギーを、前記液体に与えるように前記ヒータを駆動する記録装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の記録装置において、
1つの前記グループに属する複数の吐出口は、直線上に配列されている記録装置。
【請求項10】
液体にヒータを用いて熱エネルギーを与えて該液体を複数の吐出口から吐出させる記録ヘッドを用いて媒体に記録を行う記録装置における検出方法であって、
前記複数の吐出口を有する吐出口形成部材が配置された基板の温度を測定する処理と、
前記複数の吐出口それぞれに対応する前記ヒータを、前記複数の吐出口のうち互いに近接する吐出口ごとに振り分けられたグループごとに駆動する処理と、
前記ヒータを駆動した前記グループごとに前記測定した温度に基づいて、前記グループに属する吐出口に前記液体が供給されているか否かを判定する処理とを行うことを特徴とする検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置および検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクタンクを交換して使用する構成が一般的であるインクジェット記録装置においては、記録に先立って、その記録中にインクが無くなるおそれがあるか否かを利用者へ知らせることが重要である。サーマルインクジェット記録方式を用いた記録装置においては、ヒータの駆動前後における記録ヘッドの温度変化を検出して、インク残量を判定する方法が知られている。記録ヘッドの温度変化に基づいてインク残量を推定する方法として、特許文献1に、記録ヘッドからインクが吐出されない程度の熱エネルギーをインクに付与したときの記録ヘッドの温度変化量と記録ヘッドからインクが吐出される程度の熱エネルギーをインクに付与したときの記録ヘッドの温度変化量との比を基準値と比較した結果に基づいてインクの有無を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3133866号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の記録ヘッドの温度変化に基づくインク有無の判定方法においては、熱エネルギーを記録ヘッド全体に与えたときの温度変化に基づいてインク等の液体の有無を判定するものである。そのため、液体が吐出口に供給されていない部分を特定することができないという問題点がある。
本発明の目的は、液体が吐出口に供給されていない部分を特定することができる記録装置および検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の記録装置は、
ヒータを用いて液体に熱エネルギーを与えて該液体を複数の吐出口から吐出させる記録装置において、
前記複数の吐出口を有する吐出口形成部材と、
前記吐出口形成部材が配置された基板と、
前記基板の温度を測定する温度計と、
前記複数の吐出口それぞれに対応する前記ヒータを、互いに近接する吐出口ごとに振り分けられたグループごとに駆動する駆動部と、
前記ヒータが駆動された前記グループごとに、前記温度計が測定した温度に基づいて、前記グループに属する吐出口に前記液体が供給されているか否かを判定する判定部と、
を有することを特徴とする記録装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、液体が吐出口に供給されていない部分を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】インクジェット記録装置を示す概略斜視図である。
図2図1に示したインクジェット記録ヘッドを示す図である。
図3図1に示したインクジェット記録装置の制御系のブロック構成図である。
図4図1に示したヒータの駆動タイミングチャートおよび駆動ブロック図である。
図5】ヒータの駆動による温度の時間的変化を示すグラフである。
図6】吐出口に泡が発生したインクジェット記録ヘッドの様子の第1の例を示す図である。
図7】インクの有無を検出する処理の第1の例を説明するためのフローチャートである。
図8】吐出口に泡が発生したインクジェット記録ヘッドの様子の第2の例を示す図である。
図9】インクの有無を検出する処理の第2の例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信機能を有するファクシミリ、印刷機能を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。この液体吐出ヘッドを用いて、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の被記録媒体(以下、媒体と称する)に記録を行うことができる。本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を媒体に対して付与することも意味する。また、「インク」とは、広く解釈されるべきものであり、媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、媒体の加工、あるいはインクまたは媒体の処理に供される液体を意味する。ここで、インクまたは媒体に必要な処理としては、例えば、媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では,同一の機能を有する構成には図面中の同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
(インクジェット記録装置)
【0009】
図1(a)は、インクジェット記録装置(液体吐出装置)を示す概略斜視図である。100および101は、インクタンクと一体に構成された記録ヘッドである。記録ヘッド100,101は、インクジェット記録装置に搭載可能な液体吐出ヘッドユニットである。記録ヘッド100,101は、図1(a)に示したようなインクタンク一体型の記録ヘッドに限定されず、インクタンクと分離可能な構成であってもよい。記録ヘッド100側のインクタンクには、ブラックインクが収容され、記録ヘッド101側のインクタンクには、シアンインク、マゼンタインク、およびイエローインクが収容される。記録ヘッド100の構成と記録ヘッド101の構成とは、収容するインク以外の構成は互いに同じである。記録ヘッド100,101には、各色のインクに対応して複数配列された吐出口102が形成されている。103は搬送ローラであり、104は補助ローラである。搬送ローラ103と補助ローラ104とが協働して媒体である記録媒体Pを抑えながら図1(a)に示した矢印の方向に回転することにより、記録媒体Pを矢印Yの副走査方向に間欠的に搬送する。105は給紙ローラであり、記録媒体Pの給紙を行なうと共に、搬送ローラ103および補助ローラ104と同様に、記録媒体Pを挟んで抑える役割も果たす。106は、記録ヘッド100,101を搭載可能なキャリッジであり、矢印Xに沿う主走査方向(X1,X2方向)に往復移動される。キャリッジ106は、記録を行っていないとき、あるいは記録ヘッド100,101の回復動作などを行なうときには、図1(a)に示した破線のホームポジションhに移動して待機する。本実施形態の記録装置において、記録可能な最大記録媒体のサイズはA4サイズである。107はプラテンであり、記録位置において記録媒体Pを安定的に支える役割を果たす。108は、キャリッジ106を主走査方向に移動させるためのキャリッジベルトである。
(ヘッドユニット)
【0010】
図1(b)は、図1(a)に示した記録ヘッド100の斜視図である。記録ヘッド100に設けられた液体吐出ヘッドとしてのインクジェット記録ヘッド121は、フレキシブルフィルム配線基板123を介してインクジェット記録装置と接続するコンタクトパッド124に導通している。なお、図1(b)に示した記録ヘッド100は、インクジェット記録ヘッド121とインクタンク122とが一体化した構成となっているが、インクタンク122を分離できる分離型とすることもできる。
(インクジェット記録ヘッド)
【0011】
図2(a)は、図1(b)に示したインクジェット記録ヘッド121の斜視図である。図1(b)に示したインクジェット記録ヘッド121は図2(a)に示すように、液体吐出ヘッド用基板としてのインクジェット記録ヘッド用基板201(以下、基板201)と、基板201に配置された吐出口形成部材204と、を有している。基板201には、インクを吐出するために利用される熱エネルギーを発生するヒータ212が設けられている。また、基板201には、インクを供給する供給口207やインクジェット記録装置といった外部の装置との電気接続のための端子(不図示)が設けられている。吐出口形成部材204は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の硬化物で設けることができ、液体を吐出するための吐出口205と、吐出口205に連通する圧力室209の壁204aとを有している。壁204aを内側にして、吐出口形成部材204が基板201と接することで圧力室209が設けられている。吐出口形成部材204に設けられた吐出口205は、基板201に設けられた供給口207に沿って所定のピッチで列をなすように設けられている。なお、ヒータ212は、吐出口205それぞれに対応して設けられている。
供給口207から供給されたインクは圧力室209に運ばれ、さらにヒータ212の発生する熱エネルギーによってインクが膜沸騰して気泡が生じる。この気泡によってインクが吐出口205から吐出されることで、記録動作が行われる。吐出口205の入口や圧力室209に泡がある場合、その泡が吐出口205へのインクの供給を妨げ、正常な記録動作を行うことができなくなってしまう。また、基板201に温度計208を設け、温度計208が吐出口形成部材204が設けられた基板201の温度を測定する。温度計208は、例えば、ダイオードセンサである。
【0012】
図2(b)は、図2(a)に示したインクジェット記録ヘッド121のAの方向から見た模式図である。吐出口列218,219それぞれに複数の吐出口205が配列されている。吐出口205それぞれの下には、インクに気泡を発生させて、インクを吐出口205から吐出させるためのヒータ212が備えられている。このように、吐出口205は吐出口列218,219を形成するように複数設けられ、ヒータ212は、それら複数の吐出口205のそれぞれに対応して複数備えられている。本実施形態においては、吐出口列218,219上に配列された吐出口205の数は600個、吐出口205の間隔は1/600インチであり、記録画素密度が600dpiになるように構成されている。
【0013】
図3は、図1に示したインクジェット記録装置の制御系のブロック構成図である。図3に示した制御系の各構成要素は、ソフトウェア系制御手段とハードウェア系処理手段とに大別することができる。ソフトウェア系制御手段には、メインバスライン305にアクセスする画像入力部303と、画像信号処理部304と、中央制御部であるCPU300といった処理手段が含まれる。ハードウェア系処理手段には、操作部308と、回復系制御回路309と、ヘッド温度制御回路314と、ヘッド駆動制御回路316と、キャリッジ駆動制御回路306と、紙送り制御回路307といった処理手段が含まれる。
【0014】
キャリッジ駆動制御回路306は、キャリッジ106を主走査方向に駆動するための制御回路である。
紙送り制御回路307は、記録媒体Pを副走査方向に搬送させための制御回路である。
CPU300は、ROM(Read Only Memory)301と、RAM(Random Access Memory)302と、判定部317と、熱エネルギー制御部318と、駆動部319とを備える。ROM301は、あらかじめ設定された閾値やプログラムを格納するメモリである。RAM302は、ROM301から読み出された条件等の値やプログラムをCPU300が実行可能なように記憶する役割や、CPU300が所定の計算を行う際に利用するワークメモリの役割を果たす。この条件とは、例えば、吐出口205からの予備吐出条件の回復条件等であり、CPU300はRAM302から読み出した回復条件を回復系制御回路309、記録ヘッド100、101等に与える。駆動部319は、入力情報に対して適正な記録条件を与えて、記録ヘッド100、101内のヒータ212を駆動する。駆動部319は、複数の吐出口205それぞれに対応するヒータ212を、複数の吐出口205のうち互いに近接する吐出口205ごとに振り分けられたグループごとに駆動するようにヘッド駆動制御回路316へ指示する。このグループについては後述する。駆動部319は、判定部317がインクの有無を判定する場合、インクを吐出口205から吐出させない程度にヒータ212を駆動するようにヘッド駆動制御回路316へ指示する。この処理は、熱エネルギー制御部318が行っても良い。こうして、ヒータ212は、吐出口205からインクを吐出させないレベルの熱エネルギーをインクに与える。判定部317は、駆動部319がヒータ212を駆動したグループごとに温度計208が測定した温度に基づいて、そのグループに属する吐出口205にインクが供給されているか否かを判定する。判定部317は、駆動部319がヒータ212を駆動しているときに温度計208が測定する、時間に対する温度上昇量と、そのヒータ212の駆動を停止させた後に温度計208が測定する、時間に対する温度下降量とに基づいて、そのグループに属する吐出口205にインクが供給されているか否かを判定する。このとき、判定部317は、温度上昇量が第1の閾値よりも小さく、温度下降量が第2の閾値よりも大きな場合、そのグループに属する吐出口205にインクが供給されていると判定する。熱エネルギー制御部318は、ヒータ212を用いてインクに与える熱エネルギーを、駆動部319が駆動するヒータ212に対応する吐出口205が属するグループと、温度計208との間の距離に応じて制御する。このとき、熱エネルギー制御部318は、駆動部319が駆動するヒータ212に対応する吐出口205が属するグループと、温度計208との間の距離が遠いほど、大きな熱エネルギーをヒータ212を用いてインクに与える。
【0015】
画像入力部303は、記録装置と接続された外部装置(ホスト装置)から送信されてきた、画像データ、コマンド、ステータス信号等を受信する。回復系モータ310は、記録ヘッド100,101、クリーニングブレード311、キャップ312、および吸引ポンプ313を駆動する。クリーニングブレード311およびキャップ312は、記録ヘッド100,101と相対移動する。インク有無を判定するために、後述するように記録ヘッド100,101からインク滴を吐出する際には、そのインク滴をキャップ312内に向かって吐出させることができる。ヘッド温度制御回路314には、記録装置の周囲温度を検出するサーミスタ315の検出信号、および記録ヘッド100,101の各基板201の温度を検出するダイオードセンサ等の温度計208の検出信号が入力される。ヘッド駆動制御回路316は、ヘッド温度制御回路314の出力値に基づいて、記録ヘッド100,101のヒータ212を駆動して、インクの吐出、インクの予備吐出、および保温制御のためのインク温度調整を行なう。また、ヘッド駆動制御回路316は、駆動部319からの指示に従って、ヒータ212を駆動する。ヒータ212を駆動する際には、記録装置から記録ヘッド100,101へ、記録信号(DATA)、記録信号を転送するためのクロック信号(CLK)、ヒータ212を駆動するための駆動信号(HE)および記録信号を保持回路にラッチするためのラッチ信号(LT)が送られる。
【0016】
図4(a)は、図1に示したヒータ212を駆動するための駆動信号のタイミングチャートを示す図である。図4(b)は、図1に示したヒータ212を駆動するための論理回路を示すブロック図である。図4(a)に示すように、クロック信号(CLK)と同期して記録信号(DATA)を入力してから、Lowアクティブのラッチ信号(LT)の信号レベルをLowレベルとすることにより、記録信号(DATA_LTD)を確定させる。その後、Lowアクティブの駆動信号(HE)の信号レベルをLowレベルとすることにより、ドライバにより選択されたヒータ212に駆動電圧が印加されて、そのヒータ212に対応する吐出口205からインクが吐出される。ラッチ信号(LT)および駆動信号(HE)の信号レベルは、記録信号(DATA)の入力が完了するまではディセーブル状態であるHighレベルである。
(吐出口内のインクの有無の判定方法)
【0017】
以下に、本実施形態のインクジェット記録装置におけるインクの有無を検知する方法について説明する。ある幅のパルス電圧をヒータ212に印加してインクを吐出口205から吐出させた場合、熱エネルギーは基板201上を伝熱して、基板201とインクとを昇温させるとともに、一部が吐出されたインクと共にインクジェット記録装置の外部へ持ち去られる。従って、インクが吐出口205内に存在し正常な吐出が行われた場合と比較すると、インクが吐出口205内に存在せずに正常な吐出が行われなかった場合は、吐出されるインクと共にインクジェット記録装置の外部へ持ち去られるはずの分だけ、基板201に与えられるエネルギーが大きくなる。また、熱エネルギー投入後、温められた基板201は、インクを介して放熱する。従って、インクが吐出口205内に存在し正常な吐出が行われた場合と比較すると、インクが吐出口205内に存在せずに正常な吐出が行われなかった場合は、基板201は長い時間温度を保持している。
【0018】
図5は、記録ヘッド100のブラックインクの吐出用の全吐出口からインクが吐出しない程度の熱エネルギーをインクに与えるようにヒータ212を駆動してから駆動を停止した後にかけての温度計208の出力値の時間的変化を、インクがある場合とない場合とで示すグラフである。ここでは、24kHzの駆動周波数によって6500発分のヒータ駆動動作を行っている。図5に示したグラフにおいて、時刻0secから開始されたヒータ212の駆動が時刻0.27secまで行われると、その間、温度計208の出力値である温度が大きく変化していることがわかる。ヒータ212の駆動停止後、温度計208の出力値から求めたヘッド温度の最大値と温度低下の時間当たりの変化率が、記録ヘッド100にインクがある場合とない場合とで異なる。これは、記録ヘッド100にインクがない場合と比べインクがある場合は、インク分だけ熱容量が大きくなるため、時間当たりの温度上昇量が小さくなって温度が上昇しにくくなり、温度の到達点が低くなる。また、記録ヘッド100にインクがない場合と比べインクがある場合は、インクを介して放熱するため時間当たりの温度下降量が大きくなる。このような測定を行って、記録ヘッド100にインクがない場合とインクがある場合とのヒータ212の駆動直後のヘッド温度変化の最大値と駆動後の温度下降量とはあらかじめ求めておく。こうすることで得られた特性を利用し、温度計208が測定した温度の時間的変化を検出することを用いて、インク有無を検出できる。
(実施例1)
【0019】
図6は、吐出口205に泡が発生したインクジェット記録ヘッド121の様子の第1の例を示す図である。図6に示すように、吐出口205や圧力室209に泡600が発生すると、泡600が発生した部分に配置された吐出口205にインクが供給されない。図6には、インクジェット記録ヘッド121に配置された吐出口列218を複数のグループ601,602,603,604に均等に分割し、吐出口列219を複数のグループ611,612,613,614に均等に分割して、グループ601に泡600が発生した場合を示している。グループ601~604,611~614それぞれには互いに等しい数の吐出口が属される。図6に示した例では、グループ601に泡600が発生しているため、グループ601に配置されている吐出口205にはインクが供給されない。グループ601~604,611~614は、設定されたときにその位置が登録され、どのグループがどの位置に配置されているか、どの吐出口がどのグループに属するかが認識可能となっている。
【0020】
図7は、グループごとにインクの有無を検出する処理の第1の例を説明するためのフローチャートである。まず、複数の吐出口を、吐出口の数が均等になるように複数のグループに振り分ける(ステップS101)。図6に示した例では、近接する3つの吐出口が1つのグループに含まれるように、吐出口列218に直線上に配置されている吐出口をグループ601~604のいずれかに、また、吐出口列219に直線上に配置されている吐出口をグループ611~614のいずれかに振り分ける。均等に駆動グループを分割する方法は、吐出口列218と吐出口列219とについて別個に分割する方法に限らず、吐出口列218と吐出口列219とを跨いだグループに分割する方法であっても良い。
【0021】
吐出口205の複数のグループへの分割後、CPU300は、駆動部319がヒータ212を駆動するグループを選択する(ステップS102)。ここでは、CPU300は、グループのうち温度計208からの距離が遠い方から順に駆動部319がヒータ212を駆動するグループを選択する。つまり、図6に示した例では、CPU300は最初にグループ601,611を選択し、次にグループ602,612を選択し、次にグループ603,613を選択し、最後にグループ604,614を選択する。続いて、駆動部319が選択されたグループに属する吐出口205に対応するヒータ212を駆動する(ステップS103)。そして、温度計208が、ヒータ212を駆動してから駆動を停止した後の所定の時刻にかけての温度の時間的変化を測定する(ステップS104)。
【0022】
続いて、判定部317は、ステップS104で温度計が測定した温度の時間的変化に基づいて、当該グループに属する吐出口にインクが供給されているか否かを判定する(ステップS105)。具体的な判定方法は、上述した通りである。なお、温度計208とヒータ212を駆動したグループとの間の距離に応じた温度情報の減衰に基づいて、インクが供給されているか否かを判定するための閾値を変化させても良い。判定部317は、判定結果をRAM302に記憶させる。CPU300は、全グループでステップS102~S105の処理が行われたかどうかを判定し(ステップS106)、ステップS102~S105の処理が行われていないグループがある場合、CPU300はステップS102~S105の処理が行われていないグループを選択してステップS102~S105の処理を行う。このとき、温度計208からの距離が遠いグループからあらかじめ順に識別番号を付与し、ステップS102~S105の処理対象となる識別番号をインクリメントしていく(ステップS107)ものであっても良い。こうして、ステップS102~S105の処理が、グループごとに順次行われる。このように、CPU300が、温度計208からの距離が遠い位置に配置されているグループから順次選択し、選択されたグループに属する吐出口205に対応するヒータ212を駆動部319が駆動して、温度計208と測定対象グループとの間にすでに駆動して発熱したグループを入れないようにする。これにより、駆動して発熱したグループの熱履歴による検出精度の低下を防止することができる。
【0023】
すべてのグループにおいてステップS102~S105の処理が行われると、CPU300がステップS105の処理の結果に基づいて、インクが供給されていないグループがあるか否かを判定する(ステップS108)。インクが供給されていないグループがある場合、回復系制御回路309が該当するグループに属する吐出口205や圧力室209に対して回復処理を行う(ステップS109)。一方、インクが供給されていないグループがない場合は、処理が終了する。
(実施例2)
【0024】
図8は、吐出口205に泡が発生したインクジェット記録ヘッド121の様子の第2の例を示す図である。図8に示すように、吐出口205や圧力室209に泡800が発生すると、泡800が発生した一部の区間に配置された吐出口205にインクが供給されない。図8には、インクジェット記録ヘッド121に配置された吐出口列218を複数のグループ801,802,803,804に分割し、吐出口列219を複数のグループ811,812,813,814に分割して、グループ802に泡800が発生した場合を示している。グループ801~804,811~814それぞれには、温度計208からの距離に応じた数の吐出口が属される。温度計208からの距離が遠いほど、そのグループに属する数が多くなるように吐出口205がグループに分割される。図8に示した例では、グループ802に泡800が発生しているため、グループ802に配置されている吐出口205にはインクが供給されない。グループ801~804,811~814は、設定されたときにその位置が登録され、どのグループがどの位置に配置されているか、どの吐出口がどのグループに属するかが認識可能となっている。このように、温度計208からの距離に応じて駆動するヒータの数を変えて分割することで、熱エネルギーが駆動グループから温度計208に伝わるまでの距離によって減衰することを補正する。
【0025】
図9は、グループごとにインクの有無を検出する処理の第2の例を説明するためのフローチャートである。まず、温度計208からの距離が遠いほど、そのグループに属する数が多くなるように吐出口205を複数のグループに振り分ける(ステップS201)。図8に示した例では、温度計208から最も遠い距離にあるグループ801,811それぞれには、近接する4つずつの吐出口が含まれるように振り分ける。また、次に遠い距離にあるグループ802,812それぞれには、近接する3つずつの吐出口が含まれるように振り分ける。また、次に遠い距離にあるグループ803,813それぞれには、近接する3つずつの吐出口が含まれるように振り分ける。さらに、温度計208から最も近い距離にあるグループ804,814それぞれには、近接する2つずつの吐出口が含まれるように振り分ける。このような駆動グループを分割する方法は、吐出口列218と吐出口列219とについて別個に分割する方法に限らず、吐出口列218と吐出口列219とを跨いだグループに分割する方法であっても良い。
【0026】
吐出口205の複数のグループへの分割後、CPU300は、駆動部319がヒータ212を駆動するグループを選択する(ステップS202)。ここでは、CPU300は、グループのうち温度計208からの距離が遠い方から順に駆動部319がヒータ212を駆動するグループを選択する。つまり、図8に示した例では、CPU300は最初にグループ801,811を選択し、次にグループ802,812を選択し、次にグループ803,813を選択し、最後にグループ804,814を選択する。続いて、駆動部319が選択されたグループに属する吐出口205に対応するヒータ212を駆動する(ステップS203)。そして、温度計208が、ヒータ212を駆動してから駆動を停止した後の所定の時刻にかけての温度の時間的変化を測定する(ステップS204)。
【0027】
続いて、判定部317は、ステップS204で温度計が測定した温度の時間的変化に基づいて、当該グループに属する吐出口にインクが供給されているか否かを判定する(ステップS205)。具体的な判定方法は、上述した通りである。なお、温度計208とヒータ212を駆動したグループとの間の距離に応じた温度情報の減衰に基づいて、インクが供給されているか否かを判定するための閾値を変化させても良い。判定部317は、判定結果をRAM302に記憶させる。CPU300は、全グループでステップS202~S205の処理が行われたかどうかを判定し(ステップS206)、ステップS202~S205の処理が行われていないグループがある場合、CPU300はステップS202~S205の処理が行われていないグループを選択してステップS202~S205の処理を行う。このとき、温度計208からの距離が遠いグループからあらかじめ順に識別番号を付与し、ステップS202~S205の処理対象となる識別番号をインクリメントしていく(ステップS207)ものであっても良い。こうして、ステップS202~S205の処理が、グループごとに順次行われる。このように、CPU300が、温度計208からの距離が遠い位置に配置されているグループから順次選択し、選択されたグループに属する吐出口205に対応するヒータ212を駆動部319が駆動して、温度計208と測定対象グループとの間にすでに駆動して発熱したグループを入れないようにする。これにより、駆動して発熱したグループの熱履歴による検出精度の低下を防止することができる。
【0028】
すべてのグループにおいてステップS202~S205の処理が行われると、CPU300がステップS205の処理の結果に基づいて、インクが供給されていないグループがあるか否かを判定する(ステップS208)。インクが供給されていないグループがある場合、回復系制御回路309が該当するグループに属する吐出口205や圧力室209に対して回復処理を行う(ステップS209)。一方、インクが供給されていないグループがない場合は、処理が終了する。
(実施例3)
【0029】
他の実施例としては、図3に示した熱エネルギー制御部318の制御を用いるものが挙げられる。上述したように、熱エネルギー制御部318は、ヒータ212を用いてインクに与える熱エネルギーを、そのヒータ212に対応する吐出口205が属するグループと温度計208との間の距離に応じて制御する。具体的には、熱エネルギー制御部318は、駆動部319が駆動するヒータ212に対応する吐出口205が属するグループと温度計208との間の距離が遠いほど、そのヒータ212を用いてより大きな熱エネルギーをインクに与える。このように、グループと温度計との距離に応じてヒータ212を用いてインクに与える熱エネルギーを制御することで、熱エネルギーが駆動グループから温度計208に伝わるまでの距離によって減衰することを補正する。
【0030】
以上、各構成要素に各機能(処理)それぞれを分担させて説明したが、この割り当ては上述したものに限定しない。また、構成要素の構成についても、上述した形態はあくまでも例であって、これに限定しない。
【0031】
上述した各構成要素が行う処理は、目的に応じてそれぞれ作製された論理回路で行うようにしても良い。また、処理内容を手順として記述したプログラムをCPU300にて読取可能な記録媒体に記録し、この記録媒体に記録されたプログラムをCPU300に読み込ませ、実行するものであっても良い。CPU300にて読取可能な記録媒体とは、フロッピー(登録商標)ディスク、光磁気ディスク、DVD(Digital Versatile Disc)、CD(Compact Disc)、Blu-ray(登録商標) Disc、USB(Universal Serial Bus)メモリなどの移設可能な記録媒体の他、情報処理装置に内蔵されたROM301、RAM302等のメモリやHDD(Hard Disc Drive)等を指す。この記録媒体に記録されたプログラムは、CPU300にて読み込まれ、CPUの制御によって、上述したものと同様の処理が行われる。ここで、CPU300は、プログラムが記録された記録媒体から読み込まれたプログラムを実行するコンピュータとして動作するものである。
【符号の説明】
【0032】
102,205 吐出口
121 インクジェット記録ヘッド
208 温度計
212 ヒータ
218,219 吐出口列
317 判定部
319 駆動部
601~604,611~614,801~804,811~814 グループ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9