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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240708BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240708BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240708BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20240708BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240708BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M50/434
H01M10/0562
H01M50/491
H01M10/0568
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020186495
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076192
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】宮本 卓
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳平
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彩子
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-300173(JP,A)
【文献】特開2017-208250(JP,A)
【文献】国際公開第2013/176275(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 50/409
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
順に、正極層、セパレータ及び負極層を含む二次電池であって、
前記正極層は、第1の電解液を保持する第1の保持体を含み、
前記負極層は、前記第1の電解液と化学組成が異なる第2の電解液を保持する第2の保持体を含み、
前記セパレータは、前記第1の電解液および前記第2の電解液に接する圧粉体を含み、前記圧粉体は、水素化物系の固体電解質を主成分とする二次電池。
【請求項2】
前記セパレータは、無機材料からなる多孔質体を含み、
前記多孔質体は、前記正極層に面する第1面と、前記負極層に面する第2面と、前記第1面および前記第2面に開口する開気孔と、を含み、
前記圧粉体は、前記開気孔に充填されている請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記圧粉体の空隙率は10%以下である請求項1又は2に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
第1の電解液が収容された正極と、第1の電解液と化学組成が異なる第2の電解液が収容された負極と、の間に、電解液を通さないセパレータが配置された二次電池が知られている(特許文献1)。特許文献1に開示の技術では、セパレータはLiS-P系固体電解質からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-300173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
LiS-P系固体電解質からなるセパレータは、LiS-Pの反応によって充放電時に多硫化物などの中間体を生成する。この中間体は電解液に溶け易いという問題点がある。さらに液絡を防ぐための構造が複雑になるという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、セパレータの溶解を低減し、簡易な構造で液絡を低減できる二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の二次電池は、順に、正極層、セパレータ及び負極層を含む。正極層は、第1の電解液を保持する第1の保持体を含み、負極層は、第1の電解液と化学組成が異なる第2の電解液を保持する第2の保持体を含む。セパレータは、第1の電解液および第2の電解液に接する圧粉体を含む。圧粉体は、水素化物系の固体電解質を主成分とする。
【発明の効果】
【0007】
第1の態様によれば、正極層に含まれる第1の保持体が第1の電解液を保持し、負極層に含まれる第2の保持体が、第1の電解液と化学組成が異なる第2の電解液を保持する。保持体に拘束される電解液の割合が多いので、簡易な構造で液絡を低減できる。さらにセパレータは第1の電解液および第2の電解液に接する圧粉体を含み、圧粉体は水素化物系の固体電解質を主成分とする。水素化物系の固体電解質は、LiS-P系固体電解質に比べ、電解液に溶け易い中間体が生じ難いので、セパレータの溶解を低減できる。
【0008】
第2の態様によれば、セパレータは無機材料からなる多孔質体を含む。多孔質体は、正極層に面する第1面と、負極層に面する第2面と、第1面および第2面に開口する開気孔と、を含み、圧粉体は開気孔に充填されている。セパレータが多孔質体を含むので、第1の態様の効果に加え、セパレータの機械的強度を向上できる。
【0009】
第3の態様によれば、圧粉体の空隙率は10%以下なので、第1の態様または第2の態様の効果に加え、電解液がセパレータに浸透して生じる液絡を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施の形態における二次電池の断面図である。
図2図1のIIで示す部分を拡大した二次電池の断面図である。
図3】第2実施の形態における二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は第1実施の形態における二次電池10の模式的な断面図である。図1に示すように二次電池10は、順に、正極層11、セパレータ14及び負極層15を含む。
【0012】
正極層11は集電体12と第1の保持体13とが重ね合わされている。集電体12は導電性を有する部材である。集電体12の材料はNi,Ti,Fe及びAlから選ばれる金属、これらの元素の2種以上を含む合金やステンレス鋼が例示される。
【0013】
第1の保持体13は、第1の電解液を保持する部材である。第1の保持体13には活物質が含まれる。活物質は、可逆的にキャリアイオンを挿入・脱離する。活物質は高分子材料、硫黄系材料、無機材料が例示される。活物質としての高分子材料は、ポリアニリン、ジメトキシベンゾキン、アントラキノン、インディゴ、インディゴカルミン、ペンタセンテトロンが例示される。活物質としての硫黄系材料は、S,TiS,NiS,FeS,LiS,MoS、硫黄-カーボンコンポジットが例示される。
【0014】
活物質としての無機材料は、LiCoO,LiNiO,LiMn,LiMnO,LiMn,LiMnO,LiMn12,LiMn2-A (但しM=Co,Ni,Fe,Cr,Zn及びTaからなる群より選ばれる1種であり、A=0.01-0.2である),LiMn(但しM=Fe,Co,Ni,Cu及びZnからなる群より選ばれる1種である),Li1-D Mn(但しM=Mg,B,Al,Fe,Co,Ni,Cr,Zn及びCaからなる群より選ばれる1種であり、D=0.01-0.1である),LiFeO,Fe(SO、LiCo1-E (但しM=Ni,Fe及びMnからなる群より選ばれる1種であり、E=0.01-0.2である),LiNi1-G (但しM=Mn,Fe,Co,Al,Ga,Ca及びMgからなる群より選ばれる1種であり、G=0.01-0.2である),Fe(MoO,FeF,LiFePO,LiMnPOが例示される。
【0015】
第1の保持体13には、活物質以外に、高分子材料や無機材料などが含まれていても良い。保持体13に含まれる高分子材料は、第1の電解液を保持してゲル状になるポリマー、保持体13を構成する物質を結着するバインダーが例示される。
【0016】
第1の電解液を保持するポリマーは、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンの共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリルの共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドの共重合体、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリル塩化ポリエチレンプロピレンジエンスチレン樹脂、アクリロニトリル塩化ビニル樹脂、アクリロニトリルメタアクリレート樹脂、アクリロニトリルアクリレート樹脂が例示される。第1の保持体13を構成するポリマーは第1の電解液をゲル化する。
【0017】
ポリフッ化ビニリデンの共重合体モノマーは、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレンが例示される。ポリアクリロニトリルの共重合体モノマーは、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、イタコン酸、水素化メチルアクリレート、水素化エチルアクリレート、アクリルアミド、塩化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデンが例示される。ポリエチレンオキサイドの共重合体モノマーは、ポリプロピレンオキサイド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチルが例示される。
【0018】
保持体13を構成する物質を結着するバインダーは、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、ホスホン酸基、ヒドロキシ基、チオール(スルファニル)基、イソシアナト基、オキセタニル基、エポキシ基、ジカルボン酸無水物基、シリル基からなる群から選ばれる1種以上の官能基をもつ高分子材料が例示される。例えば、含フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、炭化水素樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、水素添加スチレンブタジエンゴム、ブチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン)、アクリル樹脂、ビニル樹脂、スチレン樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂およびこれらの樹脂の組合せが挙げられる。
【0019】
保持体13に含まれる無機材料は、SiO,Al,AlOOH,MgO,CaO,ZrO,TiO等の酸化物の粒子、酸化物系や水素化物系の固体電解質の粒子が例示される。酸化物系の固体電解質は、Li,La及びZrを少なくとも含むガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有する酸化物、NASICON型構造を有する酸化物、ペロブスカイト構造を有する酸化物が例示される。
【0020】
ガーネット型の酸化物系の固体電解質は、基本組成がLiLa12(M=Nb,Ta)である。Li,La及びZrを少なくとも含むガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有する酸化物は、5価のMカチオンを4価のカチオンに置換したLiLaZr12や、LiLaZr12に対してMg及びSrの元素置換を行ったものが例示される。
【0021】
NASICON型構造を有する酸化物系の固体電解質は、Li,M(MはTi,Zr及びGeから選ばれる1種以上の元素)及びPを少なくとも含む酸化物、例えばLi(Al,Ti)(PO及びLi(Al,Ge)(POが挙げられる。ペロブスカイト構造を有する酸化物系の固体電解質は、Li,Ti及びLaを少なくとも含む酸化物、例えばLa2/3-XLi3XTiOが挙げられる。
【0022】
水素化物系の固体電解質は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水素化物であって、18族型元素周期律表の13族元素(例えばB,Al,Ga,In,Ta)の少なくとも1種を含むものが例示される。例えばLiBH,LiAlHが挙げられる。固体電解質は、これら酸化物や水素化物の1種または複数種を含んでも良い。
【0023】
第1の保持体13には導電助剤が含まれていても良い。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維,Ni,Pt及びAgが例示される。導電助剤は、正極層11の内部抵抗を低減する。
【0024】
第1の電解液は、電解質塩が溶解したイオン液体や有機溶媒が例示される。電解質塩はキャリアイオンがイオン結合した化合物である。電解質塩は、キャリアイオンがLiイオンの場合、LiBF,LiPF,LiClO,Li(CFSO),LiN(CFSO,LiN(SOF),LiN(CSOが例示される。
【0025】
第1の電解液は、第2の電解液(後述する)に比べ、耐酸化性に優れる。第1の電解液を構成するイオン液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド、1-エチルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチルピリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミドが例示される。イオン液体は、これらのうちから選ばれる少なくとも1種である。
【0026】
第1の電解液を構成する有機溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等のカーボネート系;フッ素化炭酸エステル;スルフォラン等の有機スルフォン類;アジポニトリル、グルタロニトリル等の有機ジニトリル類;BCN,BTFE等のホウ酸エステル類が例示される。有機溶媒は、これらのうちから選ばれる少なくとも1種である。有機溶媒とイオン液体の混合液を第1の電解液に採用できる。
【0027】
負極層15は集電体16と第2の保持体17とが重ね合わされている。集電体16は導電性を有する部材である。集電体16の材料はNi,Ti,Fe,Cu及びSiから選ばれる金属、これらの元素の2種以上を含む合金やステンレス鋼、炭素材料が例示される。
【0028】
第2の保持体17は、第2の電解液を保持する部材である。第2の保持体17には活物質が含まれる。活物質はLi、Li-Al合金、LiTi12、黒鉛、In、Si、Si-Li合金、及び、SiOが例示される。
【0029】
第2の保持体17には、活物質以外に、高分子材料や無機材料などが含まれていても良い。保持体17に含まれる高分子材料は、第2の電解液を保持してゲル状になるポリマー、保持体17を構成する物質を結着するバインダーが例示される。
【0030】
第2の電解液を保持するポリマーは、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンの共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリルの共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドの共重合体、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリル塩化ポリエチレンプロピレンジエンスチレン樹脂、アクリロニトリル塩化ビニル樹脂、アクリロニトリルメタアクリレート樹脂、アクリロニトリルアクリレート樹脂が例示される。第2の保持体17を構成するポリマーは第2の電解液をゲル化する。
【0031】
ポリフッ化ビニリデンの共重合体モノマーは、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレンが例示される。ポリアクリロニトリルの共重合体モノマーは、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、イタコン酸、水素化メチルアクリレート、水素化エチルアクリレート、アクリルアミド、塩化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデンが例示される。ポリエチレンオキサイドの共重合体モノマーは、ポリプロピレンオキサイド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチルが例示される。
【0032】
保持体17を構成する物質を結着するバインダーは、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、ホスホン酸基、ヒドロキシ基、チオール(スルファニル)基、イソシアナト基、オキセタニル基、エポキシ基、ジカルボン酸無水物基、シリル基からなる群から選ばれる1種以上の官能基をもつ高分子材料が例示される。例えば、含フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、炭化水素樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、水素添加スチレンブタジエンゴム、ブチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン)、アクリル樹脂、ビニル樹脂、スチレン樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂およびこれらの樹脂の組合せが挙げられる。
【0033】
保持体17に含まれる無機材料は、SiO,Al,AlOOH,MgO,CaO,ZrO,TiO等の酸化物の粒子、酸化物系や水素化物系の固体電解質の粒子が例示される。酸化物系の固体電解質は、Li,La及びZrを少なくとも含むガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有する酸化物、NASICON型構造を有する酸化物、ペロブスカイト構造を有する酸化物が例示される。第2の保持体17には導電助剤が含まれていても良い。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維,Ni,Pt及びAgが例示される。導電助剤は、負極層15の内部抵抗を低減する。
【0034】
第2の電解液は、電解質塩が溶解したイオン液体や有機溶媒が例示される。第2の電解液は、第1の電解液と化学組成が異なる。第2の電解液は、第1の電解液に比べ、耐還元性に優れる。例えば常温におけるLi/Li参照電極に対する電位窓を比べると、第1の電解液の電位窓は第2の電解液の電位窓よりも高い。
【0035】
第2の電解液を構成するイオン液体は、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピペリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロプルピペリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド、N-トリメチル-N-ブチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N-トリメチル-N-ブチルアンモニウム ビス(フルオロスルホニル)イミドが例示される。イオン液体は、これらのうちから選ばれる少なくとも1種である。
【0036】
第2の電解液を構成する有機溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等のカーボネート系;アルキレングリコールアルキルエーテル、ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系;シクロペンタノン等のケトン化合物;スルフォラン等の有機スルフォン類が例示される。有機溶媒は、これらのうちから選ばれる少なくとも1種である。有機溶媒とイオン液体の混合液を第2の電解液に採用できる。
【0037】
セパレータ14は、正極層11と負極層15との間に配置されている。セパレータ14は正極層11と負極層15との接触を防ぐ。セパレータ14は、キャリアイオン伝導性をもち、第1の電解液や第2の電解液は通さない。セパレータ14の縁は、全周に亘って、第1の保持体13及び第2の保持体17の外に位置する。
【0038】
正極層11、セパレータ14及び負極層15は外装体18に覆われている。外装体18は、表層およびバリア層(いずれも図示せず)を含むシートを接着して作られている。表層は、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリイミドで作られる。バリア層は、例えばアルミニウム等の金属箔や蒸着層で作られる。外装体18は、集電体12,16、保持体13,17及びセパレータ14を密封している。集電体12,16にそれぞれ接続された端子(図示せず)の一部は外装体18の外に引き出されている。外装体18は、集電体12,16、保持体13,17、セパレータ14及び端子と外装体18との間に電気絶縁物が配置された金属製の容器でも良い。
【0039】
図2図1のIIで示す部分を拡大した二次電池10の断面図である。本実施形態ではセパレータ14は、無機材料からなる多孔質体20を含む。無機材料は、主成分が無機非金属物質からなる固体であり、電解液が浸透しない。多孔質体20は可撓性があっても良いし、剛性が高いものでも良い。多孔質体20は、第1の保持体13(正極層11)に面する第1面21と、第2の保持体17(負極層15)に面する第2面22と、第1面21及び第2面22に開口する開気孔23と、を含む。開気孔23には、水素化物系の固体電解質を主成分とする圧粉体24が充填されている。
【0040】
セパレータ14は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン及びポリエチレン等に代表される合成樹脂製や無機材料製の多孔質膜(図示せず)を含んでも良い。多孔質膜は、多孔質体20の第1面21と第1の保持体13との間や、多孔質体20の第2面22と第2の保持体17との間に配置される。
【0041】
セパレータ14は、多孔質体20の第1面21及び第2面22の少なくとも一方に配置された圧粉体24をさらに含んでも良い。第1面21や第2面22に圧粉体24が配置されると、開気孔23の中の圧粉体24と開気孔23との間の隙間に電解液が浸透する液絡を低減できる。多孔質膜をさらに配置する場合には、多孔質体20の第1面21に配置された圧粉体24と第1の保持体13との間や、多孔質体20の第2面22に配置された圧粉体24と第2の保持体17との間に、多孔質膜が配置される。
【0042】
圧粉体24は、水素化物を主成分とする粉末が圧縮されたものである。本実施形態では、多孔質体20の開気孔23の中に圧粉体24が詰まっている。圧粉体24の主成分である水素化物系の固体電解質は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水素化物であって、18族型元素周期律表の13族元素の少なくとも1種を含むものが例示される。例えばLiBH,LiAlHが挙げられる。水素化物系の固体電解質が主成分というのは、圧粉体24の全量に対する、圧粉体24に含まれる水素化物系の固体電解質の割合が50wt%より多いことをいう。この割合は80wt%以上が好ましく、より好ましくは90wt%以上である。
【0043】
圧粉体24は、水素化物系の固体電解質の他、酸化物系の固体電解質、バインダーを含んでも良い。圧粉体24を構成する粉末は、酸化物系の固体電解質を水素化物系の固体電解質が被覆した粉末でも良い。酸化物系の固体電解質やバインダーは、保持体13,17に含まれる酸化物系の固体電解質やバインダーと同様なので説明を省略する。
【0044】
水素化物は、Li,Na等のアルカリ金属イオンやMg2+等のアルカリ土類金属イオンの伝導性を示す。圧粉体24は、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン等のキャリアイオンを伝導し、電解液は通さない。圧粉体24は、水素化物の結晶構造の最適化により、室温付近でも10-4-10-3S/cmのイオン伝導性を示す。水素化物は負極層15に対して安定であり、5V程度の高電位でも安定である。正極層11及び負極層15の充放電反応がそれぞれ進行するので、高電位の二次電池10が得られる。
【0045】
水素化物は塑性変形し易いので、室温下の一軸加圧成形で緻密な圧粉体24が得られる。電解液が圧粉体24に浸透して生じる液絡を低減するため、圧粉体24の空隙率は10%以下が好ましい。空隙率は、圧粉体24の体積に対する、圧粉体24の中に含まれる隙間(気体)の体積の割合である。圧粉体24の空隙率は小さいほど好ましい。圧粉体24の空隙率は0%でも良い。
【0046】
圧粉体24の空隙率は以下のようにして求める。セパレータ14を構成する物質が固定された状態を得るために、セパレータ14を液体窒素等で凍結させ、若しくは、4官能性のエポキシ系樹脂にセパレータ14を埋め込み固めた後、これを切断して切断面を作り、集束イオンビーム(FIB)を切断面に照射して圧粉体24の平滑な研磨面を作る。研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、圧粉体24の断面の画像を取得する。画像処理によって、例えば固体電解質やバインダー等の物体が白色、空隙(気体)が黒色となるように二値化する。画像処理によって求めた、縦120μm横250μmの大きさの視野の面積に対する空隙(黒色)の面積の割合を空隙率(%)とする。
【0047】
空隙率を求める視野の面積は、精度を確保するため、少なくとも30000μmとする。圧粉体24の厚さが120μm未満のときは、視野の短辺を圧粉体24の厚さ方向に最大に設定し、視野の面積が30000μm以上になるように視野の長辺を設定する。
【0048】
圧粉体24の空隙率を低下させるために、圧粉体24を焼結しても良い。焼結したものも圧粉体24に含まれる。カチオンとなる元素が、電気陰性度が小さいLiやNaなどの場合は水素化物の熱分解温度が高いので、焼結時の熱安定性に優れる。
【0049】
二次電池10は、正極層11に含まれる第1の保持体13が第1の電解液を保持し、負極層15に含まれる第2の保持体17が、第1の電解液と化学組成が異なる第2の電解液を保持する。保持体13,17が無い場合に比べ、保持体13,17に拘束されない電解液の割合が少なくなるので、簡易な構造で液絡を低減できる。さらにセパレータ14に含まれる圧粉体24の主成分である水素化物系の固体電解質は、硫化物系の固体電解質に比べ、電解液に溶け易い中間体が充放電時に生じ難いので、セパレータ14の溶解を低減できる。
【0050】
セパレータ14は、開気孔23に圧粉体24が充填された多孔質体20を含み、多孔質体20は無機材料からなるので、セパレータ14の機械的強度を向上できる。セパレータ14の破損を低減できるので、セパレータ14の破損が原因の内部短絡を低減できる。
【0051】
二次電池10は、例えば以下のように製造される。まず、第1の保持体13を構成する活物質および導電助剤と、第1の電解液を構成する電解質塩が溶解したイオン液体と、を混合したものに、バインダーが溶解した溶媒を加えて混合し、正極スラリーを得る。集電体12に正極スラリーを塗布した後、溶媒を揮発させて正極層11を得る。正極層11の第1の保持体13において、活物質の割合は75wt%-98wt%、イオン液体の割合は1wt%-20wt%、バインダーの割合は1wt%-24wt%、導電助剤の割合は1wt%-2wt%が例示される。
【0052】
また、第2の保持体17を構成する活物質および導電助剤と、第2の電解液を構成する電解質塩が溶解したイオン液体と、を混合したものに、バインダーが溶解した溶媒を加えて混合し、負極スラリーを得る。集電体16に負極スラリーを塗布した後、溶媒を揮発させて負極層15を得る。負極層15の第2の保持体17において、活物質の割合は55wt%-95wt%、イオン液体の割合は5wt%-30wt%、バインダーの割合は5wt%-30wt%、導電助剤の割合は1wt%-2wt%が例示される。
【0053】
水素化物系の固体電解質の粉末を多孔質体20の開気孔23に充填した後、充填した粉末を加圧して開気孔23に圧粉体24を詰め、セパレータ14を得る。正極層11の第1の保持体13と負極層15の第2の保持体17との間にセパレータ14を挟み、加圧装置を用いてそれらを密着させる。加圧装置は一軸プレス装置、ロールプレス装置、等方圧加圧装置が例示される。集電体12,16にそれぞれ接続した端子(図示せず)の一部を外装体18の外に引き出した状態で、正極層11、セパレータ14及び負極層15を外装体18に密封して二次電池10が得られる。
【0054】
二次電池10の電解液に含まれるイオン液体は常温でも液体状を示し、不揮発性かつ難燃性を有する。よって外装体18に収容する前に、保持体13,17の材料と電解液とを混合して、電解液が保持された保持体13,17を得ることができる。保持体13,17を外装体18の中に配置した後に保持体13,17に電解液を注入する作業を必要としないので、二次電池10を簡易に製造できる。
【0055】
図3を参照して第2実施の形態を説明する。第1実施形態では、セパレータ14に含まれる多孔質体20が圧粉体24を支持する場合について説明した。これに対し第2実施形態では、圧粉体の板がセパレータ31を構成する二次電池30について説明する。なお、第1実施形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図3は第2実施の形態における二次電池30の断面図である。図3は、図2と同様に、図1のIIで示す部分を拡大した断面図である。
【0056】
二次電池30のセパレータ31は、第1の保持体13に保持された第1の電解液および第2の保持体17に保持された第2の電解液に接する圧粉体を含む。圧粉体は、水素化物系の固体電解質を主成分とする。圧粉体は、水素化物系の固体電解質の粉末を圧縮して固めた板である。額縁のような枠をセパレータ31が含む場合に、圧粉体の縁を枠で支持しても良い。電解液がセパレータ31に浸透して生じる液絡を低減するため、圧粉体の空隙率は10%以下が好ましい。セパレータ31を構成する圧粉体の主成分である水素化物系の固体電解質は、硫化物系の固体電解質に比べ、電解液に溶け易い中間体が充放電時に生じ難いので、セパレータ31の溶解を低減できる。
【0057】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0058】
実施形態では、正極層11の集電体12の片面に第1の保持体13が設けられ、負極層15の集電体16の片面に第2の保持体17が設けられ、第1の保持体13と第2の保持体17との間にセパレータ14,31を配置した二次電池10,30について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば集電体の両面に第1の保持体13と第2の保持体17とを設けた電極(いわゆるバイポーラ電極)とセパレータ14,31とを交互に積層し、それを単一の容器に収容した、いわゆるバイポーラ構造の二次電池とすることは当然可能である。
【0059】
実施形態では、第1の保持体13及び第2の保持体17が、それぞれ単一の層からなる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。複数の層からなる第1の保持体13を設けることは当然可能である。複数の層は、活物質を含む層、活物質は含まないが無機材料および高分子材料の少なくとも1種を含む層が例示される。同様に複数の層からなる第2の保持体17を設けることは当然可能である。第1の保持体13、第2の保持体17及びセパレータ14の厚さは適宜設定される。
【符号の説明】
【0060】
10,30 二次電池
11 正極層
13 第1の保持体
14 セパレータ
15 負極層
17 第2の保持体
20 多孔質体
21 第1面
22 第2面
23 開気孔
24 圧粉体
31 セパレータ(圧粉体)
図1
図2
図3