(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】酸化物超電導線材および超電導ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 12/06 20060101AFI20240708BHJP
【FI】
H01B12/06 ZAA
(21)【出願番号】P 2020192416
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 真司
【審査官】井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-033883(JP,A)
【文献】特開2015-032363(JP,A)
【文献】特開平01-031313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に積層された中間層と、
前記中間層上に積層された超電導層と、を備え、
前記基板、前記中間層、および前記超電導層が積層された積層方向と、長手方向と、の双方に直交する方向を幅方向とするとき、前記超電導層の前記幅方向における両端部には、前記超電導層の前記幅方向における中央部よりも厚さが小さい薄層部が形成され、
前記幅方向における前記基板の寸法をWとするとき、前記薄層部の前記幅方向における寸法は
0.15W~0.25Wである、酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記薄層部の厚さの平均値が、前記中央部の厚さの平均値の0.52~0.63倍である、請求項
1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
芯材と、
請求項1
または2に記載の酸化物超電導線材と、を備え、
前記酸化物超電導線材が前記芯材に螺旋状に巻き付けられている、超電導ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材および超電導ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板と、基板上に積層された中間層と、中間層上に積層された超電導層と、を備えた酸化物超電導線材が開示されている。このような酸化物超電導線材は、芯材に螺旋状に巻き付けられることで、超電導ケーブルとして用いられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
芯材に巻き付けられることで、酸化物超電導線材は捻回された状態となる。捻回により、幅方向における両端部に位置する超電導層には、引張歪が作用する。この引張歪により、超電導層にクラック等の劣化が生じる場合がある。超電導層を薄くするとこのような劣化を抑制可能であるが、その場合には、酸化物超電導線材が流すことができる臨界電流値が低下してしまう。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、酸化物超電導線材が流すことができる臨界電流値を確保しつつ、捻回による超電導層の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1態様に係る超電導線材は、基板と、前記基板上に積層された中間層と、前記中間層上に積層された超電導層と、を備え、前記基板、前記中間層、および前記超電導層が積層された積層方向と、長手方向と、の双方に直交する方向を幅方向とするとき、前記超電導層の前記幅方向における両端部には、前記超電導層の前記幅方向における中央部よりも厚さが小さい薄層部が形成され、前記幅方向における前記基板の寸法をWとするとき、前記薄層部の前記幅方向における寸法は0.29W以下である。
【0007】
上記態様によれば、超電導層の幅方向の両端部に薄層部が形成されている。薄層部では超電導層の厚みが小さいことで、引張歪に対する強度が高められており、捻回に伴う引張歪によって超電導層の両端部にクラックなどが生じることが抑制できる。これにより、捻回に伴う超電導層の劣化を抑制できる。さらに、超電導層の幅方向における中央部まで厚みを小さくする場合と比較して、超電導層の断面積を確保し、酸化物超電導線材が流すことができる臨界電流値を確保することができる。
【0008】
ここで、前記薄層部の前記幅方向における寸法は0.15W~0.25Wであってもよい。
【0009】
本願発明者らが検討したところ、薄層部の寸法を上記範囲としたときに、少なくとも効果が得られることが確認された。
【0010】
また、前記薄層部の厚さの平均値が、前記中央部の厚さの平均値の0.52~0.63倍であってもよい。
【0011】
この場合、薄層部を形成しない場合と比較して、1mあたりの捻回数が10.4~14.6の範囲において、Ic1/Ic0の値を0.02以上改善することが可能となる。
【0012】
本発明の第2態様に係る超電導ケーブルは、芯材と、上記第1態様の酸化物超電導線材と、を備え、前記酸化物超電導線材が前記芯材に螺旋状に巻き付けられている。
【0013】
上記態様によれば、巻き付けにより超電導層が捻回されることに伴う劣化を抑制しながら、臨界電流値の大きさを確保した超電導ケーブルを提供できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記態様によれば、酸化物超電導線材が流すことができる臨界電流値を確保しつつ、捻回による超電導層の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る酸化物超電導線材の横断面図である。
【
図2】本実施形態に係る超電導ケーブルの側面図である。
【
図3】薄層部を有する超電導層を形成する方法の一例を示す図である。
【
図4】比較例、実施例1、および実施例2の超電導層の厚さの分布を示す図である。
【
図5】比較例、実施例1、および実施例2の捻回試験の結果を示す図である。
【
図7】超電導層の厚みと不可逆歪の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態の酸化物超電導線材および超電導ケーブルについて図面に基づいて説明する。
図1に示すように、酸化物超電導線材10は、基板11、中間層12、超電導層13、および保護層14をこの順に積層して構成された積層体15を有している。
図2に示すように、酸化物超電導線材10は、超電導ケーブル1の構成部材として用いられてもよい。超電導ケーブル1は、芯材2と、酸化物超電導線材10と、を備えている。酸化物超電導線材10は、芯材2に螺旋状に巻き付けられる。
図2では1本の酸化物超電導線材10が芯材2に巻き付けられているが、複数の酸化物超電導線材10が芯材2に巻き付けられてもよい。
【0017】
(方向定義)
本実施形態では、酸化物超電導線材10の長手方向を単に長手方向といい、積層体15が積層された方向を積層方向という。また、長手方向および積層方向の双方に直交する方向を幅方向という。
図1は、長手方向に直交する断面(横断面)である。
図1における左右方向が幅方向である。
【0018】
基板11は、テープ状の金属基板である。金属基板を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル合金、ステンレス鋼、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni-W合金などが挙げられる。
【0019】
中間層12は、多層構成でもよく、例えば基板11側から超電導層13側に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。これらの層は必ずしも1層ずつ設けられるとは限らず、一部の層を省略する場合や、同種の層を2以上繰り返し積層する場合もある。中間層12は、金属酸化物であってもよい。配向性に優れた中間層12の上に超電導層13を成膜することにより、配向性に優れた超電導層13を得ることが容易になる。
【0020】
超電導層13は、酸化物超電導体から構成される。酸化物超電導体としては、例えば一般式REBa2Cu3Oy(RE123)等で表されるRE-Ba-Cu-O系酸化物超電導体が挙げられる。希土類元素REとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上が挙げられる。RE123の一般式において、yは7-x(酸素欠損量)である。
【0021】
本実施形態における超電導層13の幅方向の両端部には、薄層部13bが形成されている。薄層部13bは、超電導層13の幅方向の中央部13aよりも、積層方向における厚さが小さい部分である。薄層部13bのうち保護層14側の面は、幅方向における外側に向かうに従い、中間層12側に向かうように傾斜している。このため、薄層部13bの積層方向における厚さは、幅方向における外側に向かうに従って小さくなっている。
【0022】
本実施形態では、基板11、中間層12、超電導層13、および保護層14(すなわち、積層体15)の幅方向における寸法をWと表す。詳細は後述するが、薄層部13bの幅方向における寸法は、0.29W以下であることが好ましく、0.15W~0.25Wであることがより好ましい。
【0023】
保護層14は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、超電導層13と保護層14の上に設けられる層との間で起こる化学反応を抑制したりする等の機能を有する。保護層14を構成する材料としては、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)又はこれらの1種以上を含む合金(例えばAg合金、Cu合金、Au合金)が挙げられる。保護層14は、2種以上の金属又は2層以上の金属層から構成されてもよい。保護層14は、蒸着法、スパッタ法等により形成することができる。保護層14は、超電導層13上に略均一な厚さで形成される。本実施形態では、超電導層13の幅方向における両端部(薄層部13b)の保護層14側の面が傾斜しているため、この傾斜に沿うように、保護層14の幅方向における両端部も傾斜して形成されている。
【0024】
図1に示すように、積層体15の外周には安定化層16が設けられていてもよい。安定化層16は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、超電導層13及び保護層14を機械的に補強したりする等の機能を有する。安定化層16の材質としては、例えば銅を採用可能である。
【0025】
次に、酸化物超電導線材10の製造方法の一例について説明する。なお、以下で説明する製造方法は一例であり、他の製造方法を採用してもよい。
【0026】
まず基板11を用意する。
次に、基板11上に中間層12を積層する。中間層12は、IBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などの蒸着法を用いて形成できる。
【0027】
次に、中間層12上に超電導層13を積層する。超電導層13は、PLD法を用いて形成できる。
図3に、PLD法を用いて超電導層13を形成する様子を示す。
図3に示すように、超電導層13を形成するためのターゲットTを、基板11のうち中間層12が積層された面に対向するように配置する。ターゲットTは酸化物超電導体により形成されている。ターゲットTにレーザー光Lを照射することで、ターゲットTの構成粒子を叩き出し、若しくは蒸発させて、プルームPを発生させる。プルームPに含まれるターゲットTの構成粒子が、中間層12上に積層することで、中間層12の表面に超電導層13が形成される。
【0028】
超電導層13を形成する際、
図3に示すように、基板11および中間層12の幅方向における両端部とターゲットTとの間を遮るように、2つの遮蔽部材Sを設けるとよい。これにより、基板11および中間層12の両端部には、超電導層13が積層されにくくなる。したがって、超電導層13の幅方向における両端部を、中央部13aよりも薄くし、薄層部13bを形成することができる。なお、プルームPは遮蔽部材Sと中間層12との間の隙間にも進入するため、中間層12のうち遮蔽部材Sと対向している部分にも超電導層13が形成される。
【0029】
遮蔽部材Sと対向する部分における超電導層13の厚さは、中間層12と遮蔽部材Sとの間の隙間の寸法(積層方向における距離)によって調整できる。また、基板11および中間層12に対する、遮蔽部材Sの幅方向における相対的な位置を調整することで、薄層部13bの幅方向における寸法を調整できる。すなわち、遮蔽部材Sの積層方向および幅方向の位置を調整することで、薄層部13bの寸法や厚さを調整することが可能である。
【0030】
次に、超電導層13上に保護層14を積層する。保護層14は、スパッタ法等によって形成できる。これにより、積層体15が得られる。
次に、必要に応じて酸素アニール処理を行った後、積層体15の外周に安定化層16を形成する。これにより酸化物超電導線材10が得られる。安定化層16は、めっき等により形成できる。
【0031】
次に、具体的な実験例を用いて、薄層部13bの好ましい寸法等について説明する。
表1に示すように、3種類の酸化物超電導線材(比較例、実施例1、実施例2)を用意した。
【0032】
【0033】
比較例、実施例1、および実施例2の酸化物超電導線材は、いずれも、基板11、中間層12、超電導層13、保護層14、および安定化層16を有している。基板11として、幅Wが4mm、厚さが75μm、長さが300mmのハステロイを用いた。中間層12として、AL
2O
3、Y
2O
3、IBAD-MgO、CeO
2の各層を積層した。超電導層13の酸化物超電導体として、GdBCOを採用し、PLD法によって中間層12上に積層した。超電導層13を積層する際、実施例1および実施例2については、
図3に示すような2つの遮蔽部材Sを配置し、薄層部13bを形成した。比較例については、遮蔽部材Sを用いなかったため、超電導層13の幅方向における両端部の厚みは、中央部13aと同様になった。実施例1、2において、遮蔽部材Sの位置を調整することで、薄層部13bの幅方向の寸法および厚さの分布を異ならせた。
【0034】
比較例、実施例1、および実施例2について、幅方向における超電導層13の厚さの分布を測定した。具体的には、硝酸を用いて超電導層13をエッチングし、中間層12を幅方向全体にわたって露出させた。中間層12の表面と超電導層13の表面との段差を幅方向に位置を変えて触針式段差計を用いて測定することで、
図4に示す測定結果が得られた。
図4の横軸は超電導層13の幅方向における位置を示しており、縦軸は超電導層13の厚さを示している。
【0035】
図4に示すように、比較例については、幅方向の全域にわたって、超電導層13の厚さが略一定となった。幅方向の全域における平均膜厚は2.0μmであった。実施例1については、幅方向における両端から中央に向けて1mmの範囲内において、超電導層13の厚さが中央部13aよりも厚さが小さくなった。実施例2については、幅方向における両端から中央に向けて0.6mmの範囲内において、超電導層13の厚さが中央部13aよりも小さくなった。
【0036】
つまり、表1に示すように、薄層部13bの幅方向の寸法は、実施例1については1mm、実施例2については0.6mmとなった。基板11の幅Wは4mmであるため、実施例1の薄層部13bの幅方向の寸法は0.25W、実施例2の薄層部13bの幅方向の寸法は0.15Wである。薄層部13bにおいては、超電導層13の厚さは中央側が最も大きく、両端側が最も小さく形成されていた。薄層部13bの厚さの平均値は、実施例1において1.0μm、実施例2において1.3μmとなった。薄層部13bの厚さは、中央側が最も大きく、両端側が最も小さく形成されていた。
【0037】
表1の「比率R」の欄は、薄層部13bの厚さの平均値の、中央部13aの厚さの平均値に対する比率Rを示している。実施例1では、R=1.0÷2.0=0.5である。実施例2では、R=1.3÷2.0=0.65(≒0.7)である。
比較例、実施例1、および実施例2に共通して、銀によって保護層14を形成し、銅めっきによって安定化層16を形成した。
【0038】
比較例、実施例1、および実施例2について、捻回試験を行った結果を
図5に示す。捻回試験の詳細は以下の通りである。まず、捻回を行う前に、各実験例のサンプルについて、臨界電流値Ic0を測定する。次に、捻回装置を用いて各実験例のサンプルを捻回する。捻回装置は、0.24mの間隔を空けて配置された2つのチャックを有している。2つのチャックは、互いが対向する方向(酸化物超電導線材のサンプルの長手方向)に沿う軸線を中心として、相対回転可能となっている。2つのチャックでサンプルの長手方向における両端部を把持し、2つのチャックを相対回転させることで、サンプルを捻回することができる。なお、2つのチャックは、サンプルに2kgfの張力をかけるように構成されている。
【0039】
例えば、2つのチャックを軸線回りに相対的に1回転(360°回転)させると、サンプルには、1mあたり4.16(=1÷0.24)回の捻回が加えられる。所定の捻回を加えた後、サンプルを捻回装置から取り外して直線状に戻し、その状態における臨界電流値Ic1を測定する。臨界電流値Ic1を測定した後、当該サンプルを再び捻回装置に取り付け、前回よりも多い数の捻回を加える。その後、再び当該サンプルを捻回装置から取り外し直線状とし、臨界電流値Ic1を測定する。これを繰り返すことで、
図5の結果が得られた。
【0040】
図5の横軸は1mあたりの捻回数を示しており、縦軸はIc1/Ic0の値を示している。Ic1/Ic0の値が大きいほど、捻回によって臨界電流値が低下していないことを示す。
図5に示すように、比較例では、捻回数が8.3以下ではIc1/Ic0の値に変化は見られなかったが、捻回数が9.4を超えると、Ic1/Ic0の値が次第に低下した。Ic1/Ic0の値の低下は、捻回によって、超電導層13の幅方向における両端部にクラックなどが生じたことが原因であると考えられる。
【0041】
実施例1、2では、捻回数が10.4以下ではIc1/Ic0の値に変化は見られなかった。このように、Ic1/Ic0の値が低下し始める捻回数が、比較例よりも大きくなった。捻回数が11.5を超えると、Ic1/Ic0の値が次第に低下したが、低下の程度は比較例より小さくなった。このように、実施例1、2は比較例に比べて、捻回に対する臨界電流値の低下を抑制できることが確認できた。
【0042】
このような結果が得られた原因について考察する。酸化物超電導線材10に捻回を加えたとき、酸化物超電導線材10に作用する長手方向における歪εは、幅方向における位置によって異なる。より詳しくは、幅方向における位置をxと表すと、歪εは以下の数式(1)により表される。
【0043】
【0044】
数式(1)において、θは単位長さ当たりの捻り角であり、Wは酸化物超電導線材10の幅である。数式(1)に基づいて、幅4mm、長さ240mmの酸化物超電導線材10を3.5回転だけ捻回した場合のグラフを作成すると、
図6が得られる。
図6の横軸は、酸化物超電導線材10の幅方向における位置(x)であり、縦軸は長手方向における歪εである。なお、x=0が酸化物超電導線材10の幅方向における中心であり、x=-0.5およびx=0.5が幅方向における両端である。εの値が正の範囲では引張歪が作用し、負の範囲では圧縮歪が作用する。
【0045】
数式(1)から明らかなように、θの値とは無関係に、x=±√(1/12)Wのときに、ε=0となる。すなわち、-0.5W<x<-√(1/12)Wおよび√(1/12)W<x<0.5Wの範囲では、酸化物超電導線材10に引張歪が作用する。つまり、酸化物超電導線材10のうち、幅方向における位置が両端から0.29Wまでの範囲では引張歪が作用する。
【0046】
ここで、
図7を用いて、超電導層13の厚みと引張歪に対する強さの関係について説明する。
図7の横軸は超電導層13の厚さであり、縦軸は不可逆歪である。不可逆歪とは、先述のIc1/Ic0の値が0.99以下となる引張歪の値である。不可逆歪の値が大きいほど、引張歪によって臨界電流値が低下しにくいことを表している。
図7の横軸は、超電導層13の厚さである。
図7に示すように、超電導層13の厚みが小さいほど、不可逆歪の値が大きくなり、超電導層13の引張歪に対する強度が増すことが分かる。なお、
図7に示すデータは、幅4mmの酸化物超電導線材10について、液体窒素中で測定した結果である。
【0047】
図6、
図7に示すデータから、以下のことが言える。比較例では、超電導層13の幅方向における両端部の厚さが、実施例1、2よりも大きかった。このため、比較例では、捻回試験によって超電導層13の両端部に作用した引張歪により、超電導層13にクラックなどが生じ、Ic1の値の低下が少ない捻回数で生じた。これに対し、実施例1、2では、超電導層13の幅方向の両端部に薄層部13bが形成されている。そして、薄層部13bでは超電導層13の厚みが小さいことで、引張歪に対する強度が比較例よりも高められており、捻回試験に伴う引張歪によって超電導層13の両端部にクラックなどが生じることが抑制された。これにより、Ic1の値の低下が抑制されたと考えられる。
図6に示す通り、引張歪は幅方向における位置が両端から0.29W以下の範囲に作用するため、薄層部13bもこの範囲に形成するとよい。
【0048】
なお、実施例1、2では、薄層部13bの幅が0.15W~0.25Wであった。少なくとも薄層部13bの寸法をこの範囲内に設定することで、良好な結果が得られることが確認された。
【0049】
以上説明したように、実施例1、2の酸化物超電導線材10は、基板11と、基板11上に積層された中間層12と、中間層12上に積層された超電導層13と、を備えている。基板11、中間層12、および超電導層13が積層された積層方向と、長手方向と、の双方に直交する方向を幅方向とするとき、超電導層13の幅方向における両端部には、厚さが中央部13aよりも薄い薄層部13bが形成されている。そして、幅方向における基板11の寸法をWとするとき、薄層部13bの幅方向における寸法は0.29W以下とする。このような構成により、酸化物超電導線材10が流すことができる臨界電流値を確保しつつ、捻回による超電導層13の劣化を抑制することが可能となる。
【0050】
また、
図6に示すように、超電導層13の幅方向における両端から0.29Wの範囲に引張歪が印加することを考慮すると、薄層部13bの幅方向における寸法は0.29Wであることがより好ましい。これにより、超電導層13のうち引張歪が生じる部分の厚さのみを薄くして、不必要に超電導層13の断面積が低下することを回避できる。超電導層13の断面積を確保することで、臨界電流値の大きさをより確実に確保することができる。
【0051】
また、表1の「比率R」の欄に示すように、実施例1、2では、薄層部13bの厚さの平均値が、中央部13aの厚さの平均値の0.52~0.63倍となった。薄層部13bの厚さをこのように設定することで、
図5に示すように、1mあたりの捻回数が10.4~14.6の範囲において、Ic1/Ic0の値を、比較例に対して0.02以上改善することが可能となる。
【0052】
また、上記のような酸化物超電導線材10を、芯材2に螺旋状に巻き付けた構成の超電導ケーブル1によれば、巻き付けにより酸化物超電導線材10が捻回されることに伴う超電導層13の劣化を抑制しながら、臨界電流値の大きさを確保することができる。
【0053】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0054】
例えば、酸化物超電導線材10は、超電導ケーブル1以外の用途に用いられてもよい。酸化物超電導線材10の製造時、あるいは搬送時にも、酸化物超電導線材10が捻回される場合がある。そのような場合に、超電導層13の両端部にクラックなどが生じないようにする目的においても、本実施形態を好適に用いることができる。
【0055】
また、前記実施形態では、超電導層13の薄層部13bが傾斜していたが、薄層部13bは傾斜していなくてもよい。すなわち、薄層部13bの厚さが幅方向において均一であり、中央部13aに対して段差が生じていてもよい。
また、保護層14および安定化層16はなくてもよい。
【0056】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…超電導ケーブル 2…芯材 10…酸化物超電導線材 11…基板 12…中間層 13…超電導層 13a…中央部 13b…薄層部