(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】振動型アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02N 2/12 20060101AFI20240708BHJP
H02N 2/16 20060101ALI20240708BHJP
G02B 7/04 20210101ALI20240708BHJP
G02B 7/08 20210101ALI20240708BHJP
【FI】
H02N2/12
H02N2/16
G02B7/04 E
G02B7/08 B
(21)【出願番号】P 2020194434
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】小田 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】土屋 聡司
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-289371(JP,A)
【文献】特開昭63-178773(JP,A)
【文献】特開2020-173306(JP,A)
【文献】特開2004-180493(JP,A)
【文献】特開2004-304887(JP,A)
【文献】特開2014-204563(JP,A)
【文献】特表2016-525718(JP,A)
【文献】特開平06-130780(JP,A)
【文献】特開2014-083957(JP,A)
【文献】特開2020-089237(JP,A)
【文献】特開2017-022941(JP,A)
【文献】国際公開第2011/072094(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/12
H02N 2/16
G02B 7/04
G02B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体と電気-機械エネルギー変換素子を備える振動体と、
前記振動体と接し前記振動体に対して相対的に移動する接触体と、
前記振動体を加圧する加圧部材と、
前記加圧部材と前記振動体との間に設けられた発泡部材、を有し、
前記発泡部材のセルの平均円相当径が
70μm以上105μm以下である振動型アクチュエータ。
【請求項2】
前記振動体との接触面において、前記発泡部材における表層は厚み60μm以下のスキン層である請求項1に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項3】
前記発泡部材の硬度は平均のアスカーC硬度が7以上10以下である請求項1
または2のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項4】
前記発泡部材の厚さは1mm以上2mm以下であること請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項5】
前記発泡部材は前記振動体に生じる振動の腹と節とをともに加圧する面を備える請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項6】
前記電気-機械エネルギー変換素子は圧電素子であり、前記圧電素子を構成する圧電材料の分極軸の方向ベクトルが前記発泡部材と交差する請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項7】
前記振動体は環状であり、前記振動体に発生する振動は環状に進行する進行波振動である請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項8】
前記振動体は矩形状であり、前記振動体に発生する振動は異なる2つの曲げ振動である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項9】
前記発泡部材はケイ素と酸素からなるシロキサン結合(Si-O-Si)を骨格とし、前記骨格にメチル基が結合したポリマーを主成分とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項10】
前記発泡部材はシリコーンゴムを含有するスポンジである請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項11】
前記発泡部材はエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)を含有するスポンジである請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項12】
前記発泡部材はアクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)を含有するスポンジである請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項13】
駆動部に請求項1乃至
12のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータを備えた光学機器。
【請求項14】
基材と、前記基材に請求項1乃至
12のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータを備えた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体に被駆動体を加圧接触させ摩擦駆動するいわゆる振動型アクチュエータに関し、特に振動型アクチュエータの振動体の加圧支持に関するものである
【背景技術】
【0002】
振動型アクチュエータは、圧電素子等の電気-機械エネルギー変換素子と弾性体とから構成された振動体と、振動体に加圧接触する接触体を有する。振動型アクチュエータは、振動体に励起された振動の駆動力によって生じる摩擦を利用して接触体を相対移動させる振動波モータとして利用されている。振動型アクチュエータの一種として円環状の振動波モータが挙げられる。円環状の振動波モータは中空部にレンズを取り付けてカメラのオートフォーカスやズーム機能のためにレンズを移動させたり、中空部に配線を通すことによりパン、チルト動作の駆動源として用いたりされている。
【0003】
振動型アクチュエータの一種である円環状の振動波モータの構造及び駆動原理の概略を示す。円環状の振動波モータは、円環状の振動体と該振動体に加圧部材によって加圧接触された円環状の接触体を備えている。この時、加圧部材が振動体を均一に与圧するためには剛性を高めて振動体と接することが望ましい。しかしながら、高剛性の部材が振動体に接すると振動体の振動を阻害する虞がある。そこで、加圧部材と振動体との間に振動を阻害しない部材を振動減衰部材等として配置する構造が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には振動体の支持体としてスポンジ、発泡スチロール、フェルトが挙げられており、その中でも羊毛フェルトが特に優れているとの記載がある。特許文献1における振動体の支持体は振動を阻害しないための部材が用いられており、振動減衰部材と機能は同等である。
【0005】
また、特許文献2は円環状ではないが、振動遮断部材としてシリコーンゴム等からなる発泡性樹脂を用いる例が記載されている。特許文献2においても振動体と加圧部材との間に振動遮断部材が配置されており思想としては同様である。
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によると、特許文献に記載されているように振動体と加圧部材の間にスポンジや発泡部材を配置した構成の振動型アクチュエータでは、十分な出力を生じさせることが困難であることが分かった。また、フェルトを用いた場合はフェルトが潰れてしまう等の経年変化により出力が低下する虞があった
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平3-289371号公報
【文献】特開2015-146718号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題に対して、振動体と加圧部材との間に発泡部材を配置した構成において、長期にわたり安定しかつ十分な出力が得られる振動型アクチュエータの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の振動型アクチュエータは、弾性体と電気-機械エネルギー変換素子を備える振動体と、
前記振動体と接し前記振動体に対して相対的に移動する接触体と、
前記振動体を加圧する加圧部材と、
前記加圧部材と前記振動体との間に設けられた発泡部材、を有し、
前記発泡部材のセルの平均円相当径が70μm以上105μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発泡部材と振動体との接触面積を減らし、発泡部材のバネ性を有効に利用することができるため、発泡部材が振動体の振動を阻害することなく十分な出力を得ることができる。また、発泡部材のセルの平均円相当径を適切に選ぶことで、発泡部材の潰れを抑制し、長期に良好な特性を保つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施例における振動型アクチュエータの断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施例における振動型アクチュエータの振動体の固定状態を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施例における振動型アクチュエータにおいて振動体と加圧部材との間に発泡部材を挟む構成を説明する図である。
【
図4】本発明における発泡部材の検討結果である出力を比較したグラフである
【
図5】本発明における発泡部材の特性の一覧表である。
【
図6】本発明における発泡部材の検討結果である速度の最大値を比較したグラフである。
【
図7】本発明における(a)は各サンプルの密度と入力電力の関係、(b)は各サンプルの平均円相当径と入力電力の関係を示したグラフである。
【
図8】本発明における発泡部材を表す模式図である。
【
図9】本発明における発泡部材を加圧したときの変形を説明する図である。
【
図10】
図10(a)、(b)は本発明における発泡部材を側面から見た図である。
【
図11】本発明の第2の実施例における振動型アクチュエータを駆動方向に垂直な方向から見た断面図である
【
図12】本発明の第2の実施例における振動型アクチュエータの構成を説明する分解図である。
【
図13】本発明の第3の実施例における雲台装置の図である。
【
図14】本発明の第4の実施例におけるカメラの図である。
【
図15】本発明の第2の実施例における振動体である。
【
図16】本発明の第2の実施例における振動体の振動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第一の実施例]
図1は本発明の実施例1における回転型振動型アクチュエータの断面図である。また、中心線L1は回転型振動型アクチュエータの回転軸である。弾性体2の接触体5と接触する面に対向する面には電気‐機械エネルギー変換素子である圧電素子3が貼り付けられており振動体1を構成している。この圧電素子を構成する圧電材料の分極軸の方向ベクトルが以下に述べる発泡部材と交差するように構成してもよい。
【0013】
接触体5は本体部5bと接触部5aとからなり、本体部5bと接触部5aとは接着や溶接等により結合し形成されている。本実施例において、本体部5bは真鍮等の加工性に優れた金属で形成されている。また、接触部5aは焼き入れ処理したステンレス鋼で形成されており、バネ性を有する厚みとなっている。そのため、振動体1に対して安定した接触が可能となっている。
【0014】
振動体1は接触体5に複数の付勢部材11により加圧されている。付勢部材11と振動体1との間には複数の付勢部材11の付勢力を均等に伝えるための加圧受け部材10が設けられており、付勢部材11と加圧受け部材10を合わせて加圧部材9を構成している。そして加圧部材9と振動体1との間に発泡部材8が設けられており、振動体1で励振した振動が加圧部材に伝達することを防ぎ、異音の発生を抑制している。発泡部材としてふさわしい材料については後述する。本実施例では付勢部材11としてコイルバネを用いているが、ウェーブワッシャや板バネ等を用いて付勢部材としてもよい。
【0015】
出力部7はシャフト15と一体的に回転可能となるようシャフト15にねじ18で締結されている。出力部7と移動体5とはブチルゴム等のゴム部材6で連結されている。ゴム部材6の代わりに接着やねじ締結等の手段で固定してもよい。シャフト15は支持部13に二つの回転軸受け17を介して相対的に回転可能に支持されている。二つの回転軸受け17の外輪側は、支持部13の内周側に設けられた突起部13aで回転軸L1方向に位置決めされている。また回転軸受け17の内輪側は抜け防止部材16で支持部13に対して回転軸L1方向に位置決めされている。また、本実施例では回転軸受け17として深溝玉軸受けを用いているが、滑り軸受やスラストベアリング等の別形態の軸受けを用いてもよい。
【0016】
図2は支持部13が振動体1を支持した状態を示す斜視図である。弾性体2には複数の溝部2bにより隔てられた複数の突起2aが設けられている。そして振動体1は不図示の電極によって交流電流を印可することにより進行波振動を励振し突起部2aに楕円運動を生じさせ、突起部2aと加圧接触した被駆動体である不図示の接触体5を相対的に回転させている。弾性体2は円環状のステンレス鋼等の金属材料である。また、突起部2aの先端面には耐久性(耐摩耗性)を高めるための硬化処理として窒化処理や硬質粒子が含有されたメッキ処理等が施されている。
【0017】
図2において、位置止め部材19に設けられた複数の突起部19aが弾性体2に設けられた溝部2bに挿入されている。そして、Z軸方向において支持部13と位置止め部材19との間に弾性体2が位置するように支持部13に位置止め部材19が固定されている。これにより、振動体1が支持部13とθ方向に相対的に移動することを防止している。
【0018】
図3は本実施例における振動型アクチュエータの加圧機構の組み込みを説明する図である。
図3に示すように、複数の付勢部材11の内周部に加圧受け部材10に設けられた複数の突起部10aを挿入する。さらに、複数の付勢部材11が支持部13に設けられた複数の穴部13aに挿入されることで付勢部材11及び加圧受け部材13がθ方向に位置決めされる。そして加圧受け部材10と振動体1との間に発泡部材8を挟持する。不図示の
図1に記された移動体4をシャフト15に固定することで振動体1と接触体5とが加圧接触した状態となる。
【0019】
発泡部材8を組み込んだ時の特性や最適な発泡部材について説明する。従来の振動型アクチュエータ、中でも円環型振動型アクチュエータでは振動体1と加圧部材9とで挟持される部材としてフェルトが用いられてきた。本発明者らは数種類の発泡部材を同一の振動型アクチュエータに組み込んだ時の振動型アクチュエータの特性の中でも出力(速度とトルク)に注目して比較を行った。発泡部材としてふさわしい材料として、ケイ素と酸素からなるシロキサン結合(Si-O-Si)を骨格とし、この骨格にメチル基が結合したポリマーを主成分とするものが挙げられる。また、発泡部材はシリコーンゴムを含有するスポンジでもよい。あるいは発泡部材は、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)を含有するスポンジや、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)を含有するスポンジであってもよい。
【0020】
その時の検討結果を
図4~
図7に示す。
図4は発泡部材のセル(気泡)のサイズと最大出力(トルク)の関係を示したグラフである。本発明者らの検討においては発泡部材としてゴムスポンジを選定し、硬度や密度の異なる複数のサンプルについて比較を行っている。
図5はこれらのサンプルの特徴についてセルサイズの他、硬度や密度の差を表にまとめたものである。
図6は各サンプルに一定の負荷をかけて駆動したときの最大速度を比較したものである。
図7(a)は各サンプルの密度と入力電力の関係を、
図7(b)は各サンプルの平均円相当径と入力電力の関係を示したグラフである。
【0021】
ここで、発泡部材のセルサイズの定義について説明する。
図8は本発明の発泡部材を顕微鏡等で拡大して観察した状態を表す模式図である。
図8に示すように発泡部材8には多数のセル8aが存在する。発泡部材8は例えばゴムスポンジであり、ゴムに発泡剤を混入し発泡させたものである。発泡で生じた気孔を本実施例ではセルと表記する。
図8において、セル8aは発泡で生じたものであるが球状ではなく不定形となっている。そこで、セルサイズの指標として平面上の平均円相当径を算出している。すなわち、
図8に示す模式図のような画像に対して画像処理を行い各セルの断面積と個数を算出する。算出した各セルの断面積を円に換算したときの直径を求め、各セルの直径の平均値を本実施例における平均円相当径と定義する。ここで求める平均円相当径は非圧縮状態のものであり、実際に使用するときは圧縮された状態となっている。
【0022】
図4に示したように、発泡部材のセルの平均円相当径が20μm未満のシリコーンDとシリコーンEの最大トルクは目標トルクに未達であった。平均円相当径が25μm以上120μm以下の範囲のものは目標値を超えており充分なトルクが得られた。より好適な発泡部材のセルの平均円相当径は25μm以上110μm以下の範囲が望ましく、特に平均円相当径が70μm以上105μm以下の範囲にあるものは最もトルクが大であり望ましい特性となっている。なお、この平均円相当径は本発明者らが顕微鏡等を用いて断面を観察した結果から算出したものである。そのため、観察するときの画像の明るさ等の影響を受けやすく、観察結果に対し画像処理でセルと表面を切り分ける際にセルの一部が表面に含まれたり、表面の一部がセルに含まれたりするなどして結果に誤差が生じることがある。したがって、2つ以上の複数の部位において得られた結果、あるいは複数回の計測を行った結果の平均値を発泡部材のセルの平均円相当径として採用する。
【0023】
図4に示した材質の中では気泡径が大きいシリコーンAの方が出力トルクは低く、出力トルクの向上に関しては平均円相当径以外の要素があるとも考えられるが、平均円相当径が25μm以上120μm以下の範囲のものは十分な出力トルクを得ることができた。
【0024】
硬度や密度を比較した結果を
図5に示す。
図5において、硬度が例えば7±5と表記されている例においては複数回あるいは複数の部位の高度の計測を行った結果、その平均値が7であり±5の範囲に複数の計測結果がそれぞれ収まっている、という意味である。
【0025】
図5に示すように、シリコーンAはシリコーンB、シリコーンCより硬度が高いため振動体の振動を阻害しやすくなるため出力が出にくいと考えらえる。また、
図6に示すグラフのシリコーンBとシリコーンCの比較から、硬度が低いときも最大速度が低下することが分かった。本発明者の検討においてはアスカーC硬度8±5のシリコーンBの最大速度が大であったことから硬度8±5が望ましかった。より好ましくは発泡部材の硬度は平均のアスカーC硬度が7以上10以下である。
【0026】
また、測定したサンプルであるゴムスポンジのセルの評価については、空隙率という指標もある。ここでは、空隙率をゴムスポンジと振動体との接触面において、セルの占める割合を表すものとする。空隙率を求める際は顕微鏡等を用いて表面を観察し、観察面内におけるセルの割合を算出しており、セルサイズは空隙率には影響しない。本発明者らが検討したサンプルでは空隙率はどのサンプルも66%~80%で同等であり、特に相関性は見られなかった。
【0027】
空隙率は一般的には発泡部材に含まれるセルをある断面で見たものであり、セルが含まれる割合を2次元的に表したものであるが、3次元的に占有率を考えても同等の値となると考えられる。発泡部材における密度とはみかけ密度であり、発泡部材の外形はセルを含んだものとなるため、発泡部材の密度はセルが占める体積、すなわち占有率によって変化しセルサイズでは変わらない。すなわち、同一の材料であれば占有率が高いほど密度が小さくなると言える。一般に、ゴムにおいては用途に応じて材料のゴムに様々な配合剤を加えることで硬度を変化させることが可能であるが、その時に密度も変化する。すなわち、ゴムスポンジのような発泡部材においては発泡前の材料の密度、すなわち材料の硬度やセルの占有率によって発泡部材の見かけ密度が変化するため、見かけ密度だけを指標として発泡部材の特性を切り分けることは困難である。
【0028】
次に、シリコーンBとシリコーンEとの差について、セルサイズの影響の観点から述べる。
図5に示すようにシリコーンBとシリコーンEとは硬度、密度が同等であるが、
図4、
図6に示すように出力トルクや最大速度の差が生じている。これはセルサイズの影響が大きく、大きなセルが少数含まれるものと小さなセルが多数含まれるものとの差と考えられる。以下、この時の差について説明する。
図9は発泡部材に面荷重Fが加わったときのセル周辺の変形を示す模式図であり、セル8を側面から見たものである。
図9では表面は平らとして模式図を書いているが、実際には細かな凹凸が存在する。実線は変形前の状態を表し、破線は変形後の状態を表しており、表面の沈み込み量をΔTとする。
図9に示すように、表層部に見えているセル8aの形はほぼ変化せずそのまま沈み込む。そして、内部側のセル8bが圧縮方向に変形し、セル8bがバネのように作用している。
図9は表層付近のセル8a、8bを図示しているが実際には内部にも多数のセル8bが存在しており圧縮変形している。この時、ゴムスポンジの硬度が同程度であればセルのサイズに比例してセルの圧縮量が大きくなり、その結果変位量ΔTが大となる。すなわち、セルサイズが小さいときはバネとしての効力が小さくなり、振動を阻害してしまう。ゆえにセルサイズが小さいシリコーンE及びシリコーンFでは出力が小さくなる。
【0029】
以上説明したように、発泡部材8はセルがバネのように変形することで振動体1の振動を阻害することなく、振動体1に加圧部材9の加圧力を伝達することができる。このとき、セルの変形量はセルサイズに比例して大となり、セルサイズが大であるほど振動体1の振動を阻害しにくくなる。そのため、本発明者らが検討した中ではセルサイズ25μm~100μm程度のものを用いたときに充分なトルクが得られていた。
【0030】
また、各サンプルで測定した電力についても比較した。
図7(a)は各サンプルの密度と入力電力の関係についてグラフ化したものであり、
図7(b)は各サンプルの平均円相当径と入力電力について比較したものである。
図7(a)に示すように、密度が同等でも入力電力が大となるサンプルや、密度が約0.15g/cm
3のサンプルの方が密度が0.3g/cm
3弱のサンプルよりも入力電力が大となる例があり、密度と入力電力との間に相関性が見られない。それに対し、
図7(b)では平均円相当径が大のサンプルの方が入力電力が小さい傾向があることから入力電力は平均円相当径が大の方が小さくなると言える。
【0031】
ここで、発泡部材の厚さの定義について説明する。
図10(a)は本実施例の発泡部材8の一部を側面から見た模式図である。本実施例で観察した発泡部材8であるゴムスポンジは
図10(a)のように表面にセルの穴8aが開いているものが多数であった。このような発泡部材8では振動体との接触面8bから加圧受け部材との接触面8cまでを発泡部材8の厚さTとする。厚さの測定には一般にはシックネスゲージが用いられるが、測定時に加圧力がかかってしまうため柔らかい発泡部材8では変形する恐れがある。そのため、マイクロゲージやノギス等を用いて発泡部材8が変形しない程度の力で挟み込んだ時の厚さを測定する。厚さは例えば円環型の発泡部材8を90°毎に測定し、4か所の平均値を算出する。4か所でなく6か所、あるいは8か所の平均としてもよい。または実体顕微鏡等を用いて厚さ方向から観察し厚さを測定したり、レーザ変位計等の非接触式の測定器で厚さを測定したりしてもよい。非接触式の測定器であればゴムスポンジが変形しないため、測定の精度が高くなる。
【0032】
発泡部材が1mmより小さいときは振動体1が加圧受け部材10の影響を受けてしまい振動が阻害される虞がある。発泡部材8が厚くなると発泡部材8の変形量を考慮する必要が出るため、振動体1と接触体5との間に作用する与圧力を付勢部材11で適正に管理することが難しくなる。また、振動型アクチュエータが大型化してしまうという問題がある。そのため、発泡部材8の厚さとして1mm以上2mm以下が望ましい。
【0033】
図10(b)は本実施例で検討した発泡部材8のほかの形態を持つ発泡部材81の一部を側面から見た模式図である。
図10(b)において、発泡部材81はセル81bが存在する発泡層81bとセルが設けられていない層81c、81dの3層に分けられている。層81c、81dをスキン層とする。この時、スキン層81cが厚いと接触体との接触面81eが硬度の高い弾性体として作用し振動体1の振動を阻害してしまうため、振動型アクチュエータに組み込んで振動を阻害しないためにはスキン層81cの厚さを制限する必要がある。スキン層の厚さT2、T3とは発泡部材81の表面層81eと複数のセル81aを通る接線で表層81eと略並行なものとの間の距離を厚さと定義する。検討ではスキン層が60μm以下のサンプルでは振動を阻害せず使用することが可能であった。なお、加圧受け部材との接触面81f側のスキン層81dの厚さT3は振動体の振動には影響しないため60μmより大きくても問題なく、例えば発泡部材81の厚さTの1/4程度の厚さであってもよい。発泡部材81がゴムスポンジのようにゴムを主体としたものであればスキン層81dは未発泡のゴムであり、弾性を備えているため加圧受け部材10の影響を受けないため、発泡部材81の厚さも1mm以上2mm以下とすることができる。
【0034】
以上説明したように、発泡部材とのセルサイズを適切に管理することで発泡部材が振動型アクチュエータの振動を阻害することなく、十分な出力が得られる振動型アクチュエータを実現することが可能となる。さらに硬度を管理することでより効果の高い発泡部材を選定することが可能である。
【0035】
[第2の実施例]
図11は本実施例におけるリニア型の振動型アクチュエータをその駆動方向と加圧方向に垂直な方向から見た断面図を示した図である。振動型アクチュエータの駆動方向をX軸、加圧方向をZ軸とする。
【0036】
ここで、本実施例におけるリニア型の振動型アクチュエータの駆動原理について説明する。
図15において、振動体101は振動板104と突起部106とで構成され、電気-機械エネルギー変換素子である圧電素子105が接着されている。
【0037】
ここで、振動体の駆動基本構成を簡単に説明する。
図16は該圧電振動体の二つの曲げ振動モードを表した図である。
図16(a)における振動モードは、二つの曲げ振動モードのうち一方の曲げ振動モード(Aモードとする)を表している。このAモードは、矩形の振動体101の長辺方向(矢印X方向)における二次の屈曲運動であり、短辺方向(矢印Y方向)と平行な3本の節を有している。
【0038】
ここで、突起部106はAモードの振動で節となる位置の近傍に配置されており、Aモードの振動により矢印X方向(=電気-機械エネルギー変換素子が接合された面と平行な方向)で往復運動を行う。
【0039】
また、
図16(b)に示す振動モードは二つの曲げ振動モードの内他方の曲げ振動モード(Bモードと呼ぶ)を表している。このBモードは、矩形の振動体106の短辺方向(矢印Y方向)における一次の屈曲振動であり、長辺方向(矢印X方向)と平行な2本の節を有している。
【0040】
ここで、Aモードにおける節とBモードにおける節は、XY平面内において略直交するようになっている。
【0041】
また、突起部106はBモードの振動で腹となる位置の近傍に配置されており、Bモードの振動により矢印Z方向(=電気-機械エネルギー変換素子が接合された面と垂直な方向)に往復運動を行う。
【0042】
上述したAモードとBモードの振動を所定の位相差で発生させることにより、突起部106の先端に楕円運動を発生させ、
図15の矢印X方向(=電気-機械エネルギー変換素子が接合された面と平行な方向)の駆動力を与えている。
【0043】
図11において、52は弾性体、53は電気-機械エネルギー変換素子である圧電素子である。弾性体52の一方の面には2つの突起52aが設けられており、弾性体52の突起52aが設けられた面と対抗する面に圧電素子53が接着されて振動体51を構成している。弾性体52は焼き入れ処理されたステンレス鋼などの金属材料で形成されている。突起52aは弾性体52aと一体的に形成されていてもよいし、溶接等の手段によって別部材を取り付けてもよい。振動体51は振動体支持部材62によって支持されている。
【0044】
55は接触体、56は接触体55を支持する接触体支持部であり、接触体55と接触体支持部56とが結合されて移動部材54を構成している。接触体55はステンレス鋼で形成されており、振動体51との接触面には耐久性(耐摩耗性)を高めるための効果処理として窒化処理や硬質粒子が含有されたメッキ処理等が施されている。接触体支持部はステンレス鋼やアルミ等の金属材で形成されている。本実施例では移動部材54を接触体55と接触体支持部56との2部品で構成しているが、必ずしも2部品でなければならないものではなく、振動体と相対的に移動する構成要素群を本実施例では移動部材としている。
【0045】
60は付勢部材としての竹の子形状のコイルバネである。また、57は発泡部材、59はコイルバネ60の加圧力を振動体51に伝達する加圧伝達部材、61は振動型アクチュエータの外装部である。コイルバネ60と加圧伝達部材59とを合わせて加圧部材58を構成している。コイルバネの形状は竹の子形状でなくてもよく、円筒形状でも構わない。また、コイルバネでなくても板バネやばねワッシャ等を用いてもよい。
【0046】
本実施例においても第1の実施例と同様に、発泡部材57のセルの平均円相当径は20μm~100μmであることが望ましい。厚さや硬度についても第1の実施例と同様である。
【0047】
図13は本実施例における振動型アクチュエータを分解した状態を表す投影図である。コイルバネ60は外装部61に設けられた孔部61bに挿入されることでX軸方向所定の位置に位置決めされている。加圧伝達部材59に設けられたピンをコイルバネ60の内径側に挿入することで加圧伝達部材がコイルバネ60及び外装部61に対してX軸方向所定の位置に位置決めされる。
【0048】
そして加圧伝達部材59と振動体51との間に矩形状の発泡部材57を挟み込むようにして、外装部61に設けられたピン61aを振動体支持部材62に設けられた穴部に挿入し振動体51と加圧伝達部材59とで発泡部材57を挟持する。これにより、振動体支持部材62及び振動体51がX軸方向所定の位置に位置決めされている。
【0049】
接触体支持部56には複数の溝56a、56b、56cが設けられている。ただし、56cは図では見えない位置に設けられている。そして複数の溝56a、56b、56cと外装部カバーの溝63a、64aとで複数のボール68を挟み込むように外装部カバー63及び64が外装部61に取り付けられる。ボールは硬度の高いものが望ましく、本実施例においてはセラミック球を用いているがこれに限定されるものではない。これにより、振動体51が移動体54と加圧接触した状態となり、さらに移動体54がZ軸方向に安定した状態でX軸方向に移動可能となる。
【0050】
本実施例においても発泡部材57の機能は第1の実施例と同様であり、適切なセルサイズの発泡部材を選定することで十分な出力を持つリニア型振動型アクチュエータを提供することが可能となる。
【0051】
[第3の実施例]
第3の実施例として本発明の振動型アクチュエータを少なくとも2つ以上備える装置の一例として、雲台装置(旋回装置)の構成について説明する。
【0052】
図13(a)は本実施例における雲台装置200の正面図、
図13(b)は本実施例における雲台装置200の側面図である。
【0053】
雲台200はヘッド部210と、ベース部220と、Lアングル230と、撮像装置240とを有する。ヘッド部210の内部に本発明の振動型アクチュエータが2つ配置されている。
【0054】
パン用の振動型アクチュエータ280は、出力部がベース部材220と連結されており、振動型アクチュエータ280の回転駆動により、ヘッド部210をベース部220に対して相対的にパン駆動させる。
【0055】
チルト用の振動型アクチュエータ270は、出力部がLアングル230と連結され、振動型アクチュエータ270の回転駆動によりLアングル230をヘッド部210に対して相対的にチルト駆動させる。
【0056】
Lアングル230に取り付けられた撮像装置240は動画や静止画の撮影用カメラであり、撮影を行いながら2つの振動型アクチュエータの駆動によりパン及びチルト動作が可能となっている。
【0057】
以上説明したように、本発明の振動型アクチュエータを雲台装置の駆動源として用いることができる。
【0058】
[第4の実施例]
第4の実施例として本発明の振動型アクチュエータを備える光学装置の一例として、カメラのレンズを駆動する構成について説明する。
【0059】
図14は本実施例におけるレンズを備えたカメラを示す図である。
【0060】
カメラ本体310は着脱可能であるレンズ鏡筒320を備える。レンズ鏡筒320の内部には振動型アクチュエータ300が設けられており、振動型アクチュエータ300のリニア駆動によりフォーカスレンズまたはズームレンズ330を移動させる。
【0061】
以上説明したように、本発明の振動型アクチュエータをレンズの駆動源として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は超音波モータ等の振動型アクチュエータに利用可能である。また駆動部に上記の振動アクチュエータを備えた光学機器、基材と上記の振動アクチュエータを備えた電子機器として利用することも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 振動体
2 弾性体
3 電気‐機械エネルギー変換素子
4 移動体
5 接触体
6 ゴム部材
7 出力部
8 発泡部材
9 加圧部材
10 加圧受け部材
11 付勢部材
12 外装部
13 支持部
16 抜け防止部材
17 回転軸受け
19 位置止め部材
51 振動体
52 弾性体
53 電気-機械エネルギー変換素子
54 移動部材
55 接触体
56 接触体支持部
57 発泡部材
58 加圧部材
59 加圧伝達部材
60 付勢部材
61 外装部
62 振動体支持部
63 外装部カバー
64 外装部カバー
68 ボール
101 振動体
104 振動板
105 電気-機械エネルギー変換素子
106 突起部
200 雲台装置
210 ヘッド部
220 ベース部
230 Lアングル
240 撮像装置
270 振動型アクチュエータ
280 振動型アクチュエータ
300 振動型アクチュエータ
310 カメラ
320 レンズ鏡筒
330 レンズ