(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】無針注射器
(51)【国際特許分類】
A61M 5/303 20060101AFI20240708BHJP
A61M 5/31 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
A61M5/303
A61M5/31 520
(21)【出願番号】P 2020195296
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 弥生
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/138475(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/091765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/303
A61M 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射針を介することなく注射目的物質を対象領域に射出する無針注射器であって、
前記注射目的物質が収容された注射器カートリッジと、
前記注射器カートリッジが取り付けられる筒状の取付ホルダを有し、該取付ホルダに前記注射器カートリッジが着脱可能な注射器筐体と、
を備え、
前記注射器カートリッジは、
前記注射目的物質が収容される収容空間を有するとともに該注射目的物質が前記対象領域に対して射出されるように流路を画定する収容部と、
駆動電流が供給されることによって、前記注射目的物質を射出するための射出エネルギーを付与する駆動部と、
を有し、
前記注射器筐体は、
前記注射器カートリッジが前記取付ホルダの内側に形成された取付孔の定位置まで物理的に挿入されていることを検知する第1検知部と、
前記駆動部に前記駆動電流を供給する端子部と該駆動部とを含む回路の導通状態を検知する第2検知部と、
前記第1検知部及び前記第2検知部による検知結果をユーザに報知する報知部と、
起動電流を内蔵基板の回路へ供給するための第1のスイッチであって、前記第1検知部及び前記第2検知部がいずれもオン状態である場合に操作可能となる第1のスイッチと、
前記駆動部に前記駆動電流を供給することで該駆動部を作動させる第2のスイッチと、
を有する、
無針注射器。
【請求項2】
前記駆動部は、ブリッジワイヤと該ブリッジワイヤに電気的に接続された導電ピンとを有し、前記駆動電力が供給されることで点火薬を燃焼させて前記射出エネルギーを生成する点火装置であり、
前記端子部は、前記取付孔に前記注射器カートリッジが定位置まで挿入された際に前記導電ピンと接続されるように構成されており、
前記第2検知部は、前記端子部と前記ブリッジワイヤと前記導電ピンとを含む回路の導通状態を検知する、
請求項1に記載の無針注射器。
【請求項3】
前記報知部は、前記第1検知部及び前記第2検知部の検知結果に応じて異なる態様で該検知結果をユーザに報知する、
請求項1又は請求項2に記載の無針注射器。
【請求項4】
前記注射器筐体は、前記取付孔の内径側面部の中心に向かって付勢され且つ出没自在に配設された判定用突起部を有し、
前記第1検知部は、前記取付孔に挿入された前記注射器カートリッジによって前記判定用突起部が没入方向に押動された際の該判定用突起部の没入位置に基づいて前記注射器カートリッジが前記取付孔に定位置まで物理的に挿入されていることを検知可能である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の無針注射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無針注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体等の対象領域に薬液等を射出する装置として、注射針を介することなく注射目的物質を対象領域に射出する無針注射器が知られている。近年、無針注射器は、取り扱いの容易さや衛生面等からも着目されその開発が行われている。一般に、無針注射器では、圧縮ガスやバネ等の駆動源により加圧された薬液を対象領域に向かって射出し、その薬液が有する運動エネルギーを利用して対象領域の内部に薬液が射出される構成が実用化されている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2には、注射目的物質を収容し、注射目的物質を射出する毎に交換される注射器アセンブリと当該注射器アセンブリが脱着自在となる注射器筐体とで構成された無針注射器が開示されている。この無針注射器は、注射器筐体に設けられたスイッチがユーザによって操作されることによって注射目的物質を射出するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/138475号
【文献】国際公開第2020/149152号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
注射目的物質が収容された注射器アセンブリなどの注射器カートリッジと、当該注射器カートリッジが脱着自在となる注射器筐体とで構成された無針注射器においては、注射器カートリッジが注射器筐体に確実に取り付けられていない状態でユーザが注射器筐体に設けられたスイッチを操作しても作動せず、注射目的物質は射出されない。このように、無針注射器においては、注射器カートリッジが注射器筐体に確実に取り付けられていないことが不作動の一原因となる。
【0006】
しかしながら、無針注射器においては、使用済みの注射器アセンブリが注射器筐体に取り付けられたままとなっていることなど他の要因も不作動の原因となり得る。従来の無針注射器においては、いずれかの不作動の原因が生じていることをユーザが容易に認識できる技術は提案されていない。
【0007】
そこで、本開示は、上記した問題に鑑み、いずれかの不作動の原因が生じていることをユーザが容易に認識できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の無針注射器では、注射器カートリッジの挿入状態を検知する第1検知部と、駆動部に駆動電流を供給する端子部と該駆動部とを含む回路の導通状態を検知する第2検知部と、を設けた。
【0009】
具体的には、本開示は、注射針を介することなく注射目的物質を対象領域に射出する無針注射器であって、前記注射目的物質が収容された注射器カートリッジと、前記注射器カートリッジが取り付けられる筒状の取付ホルダを有し、該取付ホルダに前記注射器カート
リッジが着脱可能な注射器筐体と、を備え、前記注射器カートリッジは、前記注射目的物質が収容される収容空間を有するとともに該注射目的物質が前記対象領域に対して射出されるように流路を画定する収容部と、駆動電流が供給されることによって、前記注射目的物質を射出するための射出エネルギーを付与する駆動部と、を有し、前記注射器筐体は、前記注射器カートリッジが前記取付ホルダの内側に形成された取付孔の定位置まで物理的に挿入されていることを検知する第1検知部と、前記駆動部に前記駆動電流を供給する端子部と該駆動部とを含む回路の導通状態を検知する第2検知部と、前記第1検知部及び前記第2検知部による検知結果をユーザに報知する報知部と、起動電流を内蔵基板の回路へ供給するための第1のスイッチであって、前記第1検知部及び前記第2検知部がいずれもオン状態である場合に操作可能となる第1のスイッチと、前記駆動部に前記駆動電流を供給することで該駆動部を作動させる第2のスイッチと、を有する。このような構成を備える無針注射器によれば、第1検知部と第2検知部による検知結果を報知部によってユーザに報知することができるので、いずれかの不作動の原因が生じていることをユーザが容易に認識できる。
【0010】
上記の無針注射器において、前記駆動部は、ブリッジワイヤと該ブリッジワイヤに電気的に接続された導電ピンとを有し、前記駆動電力が供給されることで点火薬を燃焼させて前記射出エネルギーを生成する点火装置であり、前記端子部は、前記取付孔に前記注射器カートリッジが定位置まで挿入された際に前記導電ピンと接続されるように構成されており、前記第2検知部は、前記端子部と前記ブリッジワイヤと前記導電ピンとを含む回路の導通状態を検知してもよい。
【0011】
上記の無針注射器において、前記報知部は、前記第1検知部及び前記第2検知部の検知結果に応じて異なる態様で該検知結果をユーザに報知してもよい。
【0012】
上記の無針注射器において、前記注射器筐体は、前記取付孔の内径側面部の中心に向かって付勢され且つ出没自在に配設された判定用突起部を有し、前記第1検知部は、前記取付孔に挿入された前記注射器カートリッジによって前記判定用突起部が没入方向に押動された際の該判定用突起部の没入位置に基づいて前記注射器カートリッジが前記取付孔に定位置まで物理的に挿入されていることを検知可能であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の技術によれば、いずれかの不作動の原因が生じていることをユーザが容易に認識できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】無針注射器のハウジングの構成を示す図である。
【
図5】無針注射器に組み込まれる注射器アセンブリの概略構成を示す図である。
【
図6】無針注射器に組み込まれるアクチュエータの概略構成を示す図である。
【
図7】無針注射器に組み込まれるピストンの概略構成を示す図である。
【
図8】無針注射器に組み込まれるアタッチメントの概略構成を示す図である。
【
図9】無針注射器に組み込まれるプランジャロッド及びプランジャの概略構成を示す図である。
【
図10】無針注射器に組み込まれるコンテナの概略構成を示す図である。
【
図11】無針注射器の操作手順を示すフローチャートである。
【
図12】無針注射器の制御部の各機能を示すブロック図である。
【
図13】無針注射器の第1検知部及び第2検知部による検知方法とランプによる報知方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係る無針注射器(以下、単に「注射器」と称する)1について説明する。当該注射器1は、火薬の燃焼エネルギーを利用して、本願の注射目的物質に相当する射出液を対象領域に射出する無針注射器、すなわち、注射針を介することなく、射出液を対象領域に射出して注射を行う装置である。
【0016】
なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、請求項によってのみ限定される。本実施形態では、注射器1においてその長手方向における相対的な位置関係を表す用語として、「先端側」及び「基端側」を用いる。当該「先端側」は、後述する注射器1の先端寄り、すなわち射出口77(後述の
図2を参照のこと)寄りの位置を表し、当該「基端側」は、注射器1の長手方向において「先端側」とは反対側の方向、すなわち注射器アセンブリ10(後述の
図5を参照のこと)における点火器22側の方向を表している。
【0017】
<注射器1の構成>
ここで、
図1は、注射器1の外観を概的に示す図である。
図2は注射器1の第1の断面図であり、その断面は、後述の
図4におけるAA断面である。また、
図3は注射器1の第2の断面図であり、その断面は、後述の
図4におけるBB断面であり、BB断面はAA断面に直交する。なお、
図4は注射器1を構成するハウジング2の構成を示す図であることに留意する。ここで、注射器1は、ハウジング2(本願における「注射器筐体」の一例)に注射器アセンブリ10(本願における「注射器カートリッジ」の一例)が取り付けられて形成される。また、ハウジング2には、注射器アセンブリ10内の点火器22に着火電流(本願における「駆動電流」の一例)を供給するための電源ケーブル3が接続される。
【0018】
なお、本願の以降の記載においては、注射器1により対象領域に射出される射出液は、当該対象領域で期待される効能や機能を発揮する所定物質が液体の媒体に含有されることで形成されている。その射出液において、所定物質は媒体である液体に溶解した状態となっていてもよく、また、溶解されずに単に混合された状態となっていてもよい。
【0019】
射出液に含まれる所定物質としては、例えば生体である対象領域に対して射出可能な生体由来物質や所望の生理活性を発する物質が例示でき、例えば、生体由来物質としては、DNA、RNA、核酸、抗体、細胞等が挙げられ、生理活性を発する物質としては、低分子、蛋白、ペプチド等からなる医薬、ワクチン、温熱療法や放射線療法のための金属粒子等の無機物質、キャリアとなる担体を含む各種の薬理・治療効果を有する物質等が挙げられる。また、射出液の媒体である液体としては、これらの所定物質を対象領域内に投与するために好適な物質であればよく、水性、油性の如何は問われない。また、所定物質を注射器1にて射出可能であれば、媒体である液体の粘性についても特段に限定されるものではない。
【0020】
注射器1において、注射器アセンブリ10は、ハウジング2に対して脱着自在となるように構成されている。注射器アセンブリ10に含まれるコンテナ70(本願における「収容部」の一例)とプランジャ80との間に形成される収容空間75(
図5を参照)には、注射器1の作動前である準備段階において射出液が充填され、そして、当該注射器アセンブリ10は、射出液の射出を行う度に交換されるユニットである。注射器アセンブリ10の詳細については、後述する。
【0021】
一方で、ハウジング2は、注射器1のユーザがその使用のために把持するグリップ部2
aが形成されるとともに、射出液の射出を実現するために注射器1を操作する複数のスイッチが設けられている。なお、注射器1は、ユーザが片手で把持し、その操作が可能となるように構成されている。ハウジング2は、注射器アセンブリ10が取り付けられる筒状の取付ホルダ90を有し、取付ホルダ90の内側に形成された取付孔91に注射器アセンブリ10を差し込むことで、取付ホルダ90に注射器アセンブリ10が取り付けられる。また、取付孔91から注射器アセンブリ10を引き抜くことで、取付ホルダ90から注射器アセンブリ10を取り外し可能である。このように、ハウジング2は、取付ホルダ90に注射器アセンブリ10が着脱可能に構成されている。また、ハウジング2は、取付孔91の内径側面部の中心に向かって付勢され且つ出没自在に配設された判定用突起部92を有する。この判定用突起部92は、注射器アセンブリ10が取付孔91の定位置まで物理的に挿入されていることを検知するために設けられている。この検知方法の詳細については後述する。
【0022】
また、
図4に基づいてハウジング2について説明する。
図4において、(a)はハウジング2を前方から見た場合の外観を表しており、(b)はハウジング2を側方から見た場合の外観を表しており、(c)はハウジング2を後方から見た場合の外観を表しており、(d)はハウジング2を上方から見た場合の外観を表している。ここで、「前方」とは、ユーザがハウジング2を把持したときにユーザの遠位に位置する部位であり
図4(b)において左側に位置し、「後方」とは、逆にユーザの近位に位置する部位であり
図4(b)において右側に位置する。したがって、ユーザがハウジング2を片手で把持したとき、その指先は遠位側であるハウジング2の前方に掛かり、その手首は近位側であるハウジング2の後方に近接した状態となる。また、「上方」とは、注射器1の基端側の部位である。
【0023】
このようなユーザによる把持を考慮して、ハウジング2の前方寄りにはユーザの指先が掛かりやすくなるようにグリップ部2aが設けられている。グリップ部2aには複数のディンプルが形成され、ユーザの指先の掛かりを改善している。また、更にユーザによるハウジングの把持を安定させるために、グリップ部2aの前方側の外郭は緩やかに凹凸が形成され(
図4(b)を参照)、ユーザの人差し指や中指が掛かりやすくなっている。
【0024】
更に、ハウジング2には、注射器1を操作するための2つの操作スイッチである第1スイッチ5と第2スイッチ6が設けられている。第1スイッチ5及び第2スイッチ6は、ハウジング2内に配置されたマイコン等を含んで構成された制御部83(
図12参照)に接続され、制御部83は、各スイッチからの信号に基づいて点火器22への着火電流の供給を制御し、以て注射器1の動作制御を行う。ここで、第1スイッチ5は、ハウジング2の後方に設けられたスライド式のスイッチであり、そのスライド方向はハウジング2の上下方向(先端と基端を結ぶ方向)である。第1スイッチ5は常時上方向に付勢されており、ユーザは、第1スイッチ5をその付勢力に抗して一定時間下方(先端側)にスライドさせ続けることで、注射器1をスタンバイ状態に至らしめることができる。当該スタンバイ状態とは、注射器1において射出液を射出する準備ができた状態であり、更にユーザによる追加の操作が行われれば射出が実行される状態である。
【0025】
続いて第2スイッチ6は、ハウジング2の上方の傾斜面2bに設けられた押下式のスイッチであり、ユーザは第2スイッチ6をハウジング2の内部方向に押下可能である。注射器1が上記の第1スイッチ5の操作によりスタンバイ状態に置かれているときに、第2スイッチ6の押下操作が行われることで、制御部83は、点火器22に対して着火電流を供給するように構成されている。ハウジング2の上方の傾斜面2bの前方には、電源ケーブル3が接続されるコネクタ4が設けられている。本実施形態では、コネクタ4はUSBコネクタであり、電源ケーブル3はハウジング2に対して着脱可能とされている。更に、ハウジングの上方の傾斜面2bにおけるコネクタ4と第2スイッチ6との間にはユーザにエラー等の報知を行うためのランプ81とスピーカ82(ランプ81とスピーカ82は、本
願における「報知部」の一例)が設けられている。ランプ81及びスピーカ82は制御部83によって制御される。なお、ランプ81には、例えば、LEDランプが用いられる。
【0026】
なお、上記の通り、本実施形態は点火器22を作動させるための電力は電源ケーブル3を介して外部から供給されるが、その態様に代えて、ハウジング2の内部に、当該電力供給のためのバッテリが設けられてもよい。この場合、当該バッテリに電力が残っている限りにおいて、注射器アセンブリ10を交換しながらハウジング2は繰り返し使用することができる。そして、バッテリの電力が無くなった場合には、そのバッテリを交換すればよい。
【0027】
ここで、注射器アセンブリ10の概略構成を
図5に示す。注射器アセンブリ10は、
図2及び
図3に示すように、ハウジング2に対して取り付けられることで注射器1を形成するものであり、具体的には、注射器アセンブリ10は、アクチュエータ20、アタッチメント30、コンテナ70、プランジャ80を含む組立体である。注射器アセンブリ10の組立については、後述する。
【0028】
先ず、アクチュエータ20について
図6に基づいて説明する。アクチュエータ20は、そのボディ21が筒状に形成されている。ボディ21は、その中央に中央部21aを有し、その先端側に先端部21bを有し、その基端側に基端部21cを有している。ボディ21において、先端部21b、中央部21a、基端部21cは、それぞれの内部空間が連通しており、更に、先端部21bの先端側において開口部27が設けられている。ここで、ボディ21の基端部21cには、点火薬22aを燃焼させて射出のためのエネルギーを発生させる電気式点火器である点火器22(本願でいう「駆動部」の一例)がキャップ23を介して取り付けられている。点火器22は外部から着火電流が供給される点火ピン22b(本願における「導電ピン」の一例)を有し、点火ピン22bはブリッジワイヤ29と電気的に接続されている。点火器22は、ブリッジワイヤ29を介して着火電流が供給されることで点火薬22aを燃焼させることができる。その際、ブリッジワイヤ29は着火電流の導通による熱または点火薬22aの燃焼により切断され、ブリッジワイヤ29の切断後に点火器22を電気的に接続しても、点火器22に着火電流は供給されない。また、ハウジング2は、取付孔91に注射器アセンブリ10が定位置まで挿入された際に点火ピン22bと接続される端子が形成されたソケット7(本願における「端子部」の一例)を有しており、点火ピン22bは、ハウジング2に注射器アセンブリ10が取り付けられた状態においてハウジング2のソケット7と結合される。また、点火器22が作動することで生成される燃焼生成物が、ボディ21の中央部21a側に放出されるようにボディ21に対する点火器22の取付状態が決定されている。すなわち、燃焼生成物の放出面22cが中央部21a側に向くように、点火器22はボディ21の基端部21cに取り付けられている。
【0029】
ここで、点火器22において用いられる点火薬の燃焼エネルギーは、注射器1が射出液を対象領域に射出するためのエネルギーとなる。なお、当該点火薬としては、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼生成物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。適切な射出液の射出が可能な限りにおいて、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
【0030】
ここで、点火器22から燃焼生成物が放出される、ボディ21の中央部21aの内部空間は燃焼室20aとされる。更に、中央部21aの外表面の一部には雄ネジ部26が形成されている。雄ネジ部26は後述するアタッチメント30の雌ネジ部38と螺合するように構成され、両者の間に必要な結合力を確保できるように雄ネジ部26と雌ネジ部38の有効長が決定される。そして、中央部21aに隣接する先端部21bの内部空間は円筒状に形成され、そこをピストン40がスライド可能となるようにシール部材であるOリング25とともに配置されている。ピストン40は金属製であり、
図7に示すように軸部材41を有し、その基端側に第1フランジ42が設けられ、第1フランジ42の近傍に更に第2フランジ43が設けられている。第1フランジ42と第2フランジ43は円盤形状を有し、その直径は同一である。第1フランジ42と第2フランジ43との間、及び第2フランジ43の更に横にOリング25が配置されることになる。また、軸部材41の先端面には、所定の大きさを有する凹部44が形成されている。アクチュエータ20の作動前においてピストン40が先端部21bの内部空間に配置されている状態では、点火器22からの燃焼生成物による受圧面となる第1フランジ42が燃焼室20a側に露出した状態となるとともに、ピストン40の軸部材41の先端は開口部27に挿入された状態となっている。
【0031】
そして、点火器22が作動して燃焼生成物が燃焼室20aに放出され、そこの圧力が上昇すると第1フランジ42が当該圧力を受けピストン40が先端側にスライドしていくことになる。すなわち、アクチュエータ20は、点火器22を作動源としピストン40を出力部とする機構を有している。そして、第2フランジ43の直径は、開口部27の直径より大きいため、ピストン40のスライド量は制限され、以て、ピストン40の軸部材41がボディ21の先端部21bの先端面から突出する量も限られた量となる。また、ピストン40は樹脂製でもよく、その場合、耐熱性や耐圧性が要求される部分は金属を併用してもよい。
【0032】
また、ピストン40に掛かる圧力を調整するための別法として、アクチュエータ20の燃焼室20aに、点火器22からの燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させるガス発生剤を更に配置してもよい。その配置場所は、点火器22からの燃焼生成物に晒され得る場所である。また、別法としてガス発生剤を、国際公開公報01-031282号や特開2003-25950号公報等に開示されているように、点火器22内に配置してもよい。ガス発生剤の一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。燃焼室20a等に配置されるときのガス発生剤の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤の燃焼完了時間を変化させることが可能であり、これによりピストン40に掛かる圧力を所望の圧力となるように調整することができる。
【0033】
なお、ピストン40は、注射器1の内部で所定方向に移動するように配置された推進体の一例である。注射器1は、ピストン40に代えて別の推進体を備えていてもよい。例えば、米国特許出願公開第2006/0089595号明細書に開示されているように、燃焼ガスによって所定方向に膨らむ薄膜や、米国特許第7063019号明細書に開示されているように、燃焼ガスによって所定方向に伸びる襞等のように、注射器1の内部で所定方向に変形するように配置された推進体を用いることも可能である。
【0034】
次に、
図8に基づいてアタッチメント30について説明する。なお、
図8の左図(a)はアタッチメント30の断面図であり、右図(b)はアタッチメント30の外観図である。アタッチメント30は、
図5に示すようにアクチュエータ20、プランジャ80、コンテナ70を取り付けるための部品である。アタッチメント30のボディ31には、例えば
、公知のナイロン6-12、ポリアリレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド又は液晶ポリマー、ポリカーボネート、ポリカーボネートとアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)との混合物等が使用できる。また、これら樹脂にガラス繊維やガラスフィラー等の充填物を含ませてもよく、ポリブチレンテレフタレートにおいては20~80質量%のガラス繊維を、ポリフェニレンサルファイドにおいては20~80質量%のガラス繊維を、また液晶ポリマーにおいては20~80質量%のミネラルを含ませることができる。
【0035】
ボディ31の内部空間のうち基端側から中央にかけての第1領域33は、
図5に示すようにアクチュエータ20が配置される領域である。そして、第1領域33の基端側の領域33aには、概ねアクチュエータ20の基端部21cが位置し、第1領域33の先端側であって領域33aより直径が小さい領域33bには、概ねアクチュエータ20の中央部21a及び先端部21bが位置する。また、領域33bのうち領域33aに近い部位の内壁面には雌ネジ部38が配置され、雌ネジ部38は上記の通りアクチュエータ20の中央部21aに設けられている雄ネジ部26と螺合するように形成されている。
【0036】
更に、ボディ31の内部空間においては第1領域33に連通して第2領域34が形成される。第2領域34は、
図5に示すように概ねプランジャ80が配置される領域であり、ボディ31の軸方向に沿って円筒状に形成される中空領域である。第2領域34の一方の端部は、第1領域33の領域33bに連通している。第2領域34の直径は、領域33bの直径よりも細くなって、プランジャ80が摺動可能な直径となっている。なお、ボディ31には、アタッチメント30の側方の外表面から第2領域34まで貫通している貫通孔37が形成されている。ユーザは、この貫通孔37を通して、注射器アセンブリ10内のプランジャ80の状況(例えば、注射器アセンブリ10が作動前か作動後か等)を外部から確認することができる(
図1を参照)。
【0037】
更に、ボディ31の内部空間においては第2領域34に連通して第3領域35が形成される。第3領域35は、
図5に示すように概ねコンテナ70の一部が配置される領域であり、その一端が第2領域34に連通するとともにその他端がアタッチメント30の先端面に開口している。そして、第3領域35には、コンテナ70を取り付けるための雌ネジ部36が形成されている。雌ネジ部36は、後述する
図10に示すコンテナ70の雄ネジ部74と螺合して、アタッチメント30とコンテナ70との結合が実現される。
【0038】
次に、
図9に基づいてプランジャ80について説明する。なお、
図9の左図(a)はプランジャ80を構成する部材の一つであるプランジャロッド50の外観図であり、右図(b)はプランジャ80の外観図である。プランジャ80は、ピストン40から受けたエネルギーによって射出液を加圧する部材であり、プランジャロッド50には、その加圧のために好適な樹脂材料、例えばアタッチメント30と同種の樹脂材料を使用できる。ここで、プランジャロッド50は軸部材51を有し、その基端側の端面には突起部54が形成されている。突起部54は、プランジャ80が注射器アセンブリ10に組み込まれたときにアクチュエータ20に含まれるピストン40の軸部材の凹部44に嵌まり込むことが可能となるように、その形状及び大きさが画定される。また、軸部材51の途中であって基端寄りの部位に、他の軸部材51の直径より縮径された縮径部52が設けられている。
【0039】
更に、プランジャロッド50においては、軸部材51の先端側には、軸部材51より直径の小さい首部55を介して突起部56が設けられている。突起部56は、首部55との接続部位近くではその直径は首部55の直径よりも大きいが、先端側に進むほどその直径が小さくなるように錘状に形成されている。ただし、突起部56の最大直径も軸部材51の直径よりは小さい。首部55及び突起部56に対してはゴム等の弾性部材で形成されたストッパ部60が取り付けられることで、プランジャ80が形成される(
図9(b)参照
)。ストッパ部60には図示しない取付孔が形成されており、当該取付孔と、首部55及び突起部56とが係合することで、ストッパ部60がプランジャロッド50から外れにくくなっている。
【0040】
なお、ストッパ部60の具体的な材質としては、例えば、ブチルゴムやシリコンゴムが採用できる。更には、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマーや、これにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンや流パラ、プロセスオイル等のオイルやタルク、キャスト、マイカ等の粉体無機物を混合したものがあげられる。さらにポリ塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーや天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムのような各種ゴム材料(特に加硫処理したもの)や、それらの混合物等を、ストッパ部60の材質として採用することもできる。また、ストッパ部60は、後述のコンテナ70内において摺動しながら射出液を加圧することから、ストッパ部60とコンテナ70の収容空間75の内壁面75aとの間の摺動性を確保・調整する目的で、ストッパ部60の表面やコンテナ70の内壁面75aを各種物質によりコーティング・表面加工してもよい。そのコーティング剤としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、シリコンオイル、ダイヤモンドライクカーボン、ナノダイヤモンド等が利用できる。
【0041】
次に、
図10に基づいてコンテナ70について説明する。なお、
図10の左図(a)はコンテナ70の断面図であり、右図(b)はコンテナ70の外観図である。コンテナ70は、プランジャ80によって加圧される射出液を収容する部材であり、その加圧された射出液を対象領域に対して射出するための流路を画定する部材である。その点を考慮して、コンテナ70を形成する樹脂材料を採用でき、例えばアタッチメント30と同種の樹脂材料を使用できる。
【0042】
コンテナ70は、射出液を収容可能な空間であってプランジャ80のストッパ部60が推進可能に形成された収容空間75と、収容空間75とコンテナ70の外部とを繋ぐ流路76を含むノズル部71とを有する。ノズル部71の先端側の外周は柱状に形成されている。なお、注射器アセンブリ10においては、
図5に示すようにプランジャ80のストッパ部60が収容空間75内をノズル部71方向(先端側方向)に摺動可能となるように、プランジャ80とコンテナ70との相対位置が決定される。そして、プランジャ80のストッパ部60とコンテナ70との間に形成される空間が、射出液が封入される空間となる。ここで、コンテナ70の流路は、ノズル部71の先端面73に開口し、射出口77が形成されている。したがって、収容空間75内をプランジャ80が摺動することで、収容空間75に収容されている射出液が加圧されて、流路76を通って射出口77より射出されることになる。
【0043】
また、コンテナ70に設けられた流路76の内径は、収容空間75の内径よりも細く形成されている。このような構成により、高圧に加圧された射出液が射出口77から外部に射出されることになる。また、コンテナ70の基端側には、コンテナ70をアタッチメント30に取り付けるための雄ネジ部74が形成されている。雄ネジ部74は、アタッチメント30の雌ネジ部36と螺合する。
【0044】
なお、プランジャ80のストッパ部60の先端側の輪郭は、収容空間75と流路76とが接続する部位(収容空間75の最奥部)近傍の内壁面75aの輪郭に概ね一致する形状となっている。これにより、射出液の射出時にプランジャ80が摺動し、収容空間75の最奥部に到達したときに、ストッパ部60とコンテナ70の内壁面75aとの間に形成される隙間を可及的に小さくでき、射出液が収容空間75内に残り無駄となることを抑制す
ることができる。ただし、ストッパ部60の形状は、本実施形態の注射器1において所望の効果が得られる限りにおいて、特定の形状に限定されるものではない。
【0045】
ここで、注射器アセンブリ10の組立について説明する。コンテナ70の収容空間75にプランジャ80のストッパ部60を最奥部まで挿入した状態で、コンテナ70の射出口77を射出液と連通させてプランジャ80を引き戻す。ストッパ部60と収容空間75の内壁面75aは好適に密に接触しているため、その引き戻し動作によって収容空間内に負圧を発生させ、射出口77から収容空間75内に射出液を充填することができる。このときのプランジャ80の引き戻し量は、その状態でコンテナ70をアタッチメント30に取り付けたときに、コンテナ70から飛び出しているプランジャ80(プランジャロッド50)が第2領域34を経て、第1領域33(
図8に示す領域33b)まで到達する程度の引き戻し量とされる。
【0046】
収容空間75に射出液を充填した状態のコンテナ70をアタッチメント30に取り付けた後に、そのアタッチメント30に対してアクチュエータ20を第1領域33側から挿入される。アクチュエータ20は、その先端部21bの先端面が、アタッチメント30の領域33bの先端面33c(
図8を参照)に突き当たるまで挿入され、このときアクチュエータ20の中央部21aに設けられている雄ネジ部26が、アタッチメント30の雌ネジ部38と螺合することで、アクチュエータ20とアタッチメント30が好適に結合される。そして、このときアクチュエータ20に組み込まれているピストン40の軸部材41の凹部44が、プランジャ80の軸部材51の突起部54と嵌め合った状態となり、プランジャ80はピストン40によって先端側に向かって押し込まれていく。なお、ピストン40のアクチュエータ20の先端部21b内での固定力は、点火器22による燃焼生成物から受ける圧力によっては、ピストン40が十分に円滑に先端部21b内を摺動できる程度であり、且つ、注射器アセンブリ10の組み立てに際しては、ピストン40がプランジャ80から受ける力に対しては十分に抗し、ピストン40の位置が変動しない程度とされる。別法として、
図6に示すようにピストン40の第1フランジ42の頂面が、アクチュエータ20の燃焼室20aに面し、且つ燃焼室20a側へ変位しないように、ピストン40が位置すべき場所にストッパを形成してもよい。また、アタッチメント30にアクチュエータ20とプランジャ80が組み立てられた際にピストン40が移動するのを防ぐために、アクチュエータ20の開口部27の開口径をプランジャ80の第1フランジ40の直径よりも小さくすることで、プランジャ80がピストン40を基端部側に押さないような構造とし、プランジャ80の位置決めは、第1フランジ40がアクチュエータ20の先端側端面に当たることで行われてもよい。
【0047】
したがって、上記のようにコンテナ70及びプランジャ80が取り付けられたアタッチメント30に対してアクチュエータ20が取り付けられると、プランジャ80はピストン40から先端側に向かって進むように押し込まれ、コンテナ70内においてプランジャ80が所定の位置に位置決めされる。なお、このプランジャ80の押し込みに応じて、射出液の一部が射出口77から吐出される。
【0048】
このようにプランジャ80が最終位置に位置決めされると、注射器アセンブリ10の形成が完了することになる。この注射器アセンブリ10においては、コンテナ70の収容空間75におけるプランジャ80のストッパ部60の位置が機械的に決定される。このストッパ部60の最終的な位置は、注射器アセンブリ10において一義的に決定される位置であるから、注射器アセンブリ10において最終的に収容空間75内に収容される射出液の量、すなわち射出される射出液の量を、予め決められた所定量とすることが可能となる。
【0049】
このように構成された注射器アセンブリ10は、点火器22の点火ピン22bがハウジング2側のソケット7に嵌め込まれて、ハウジング2に装填されて、使用可能な注射器1
が準備できる(
図1~
図3を参照)。そして、使用可能状態となった注射器1による射出液の射出のための操作手順について、
図11に基づいて説明する。先ず、ユーザは、注射器1のハウジング2を片手で把持する(S101の処理)。このとき、ユーザの指先はハウジング2の前方に掛かった状態で、グリップ部2aを把持した状態となっている。次に、ユーザは、第1スイッチ5を覆っている掌の部位、すなわち掌の親指付け根近くの部位を第1スイッチ5から離して例えば親指で第1スイッチ5を下方にスライド操作する(S102の処理)。このとき、ユーザは第1スイッチ5のスライド状態を継続する。そして、続くS103では、制御部83が、第1スイッチ5のスライド状態が所定時間(例えば、3秒)継続したか否かを判断し、肯定判定されるとS104の処理へ進み、否定判定されるとスタンバイ状態に移らず再びS102以降の処理が行われる。所定時間継続して第1スイッチ5のスライド状態が継続されることによって、電源からの起動電流が内蔵基板の回路へ供給され、第2スイッチ6の押下操作が有効な状態となる。
【0050】
そして、S104では、制御部83により注射器1がスタンバイ状態とされる。このとき、ユーザが注射器1のスタンバイ状態を認知できるように、注射器1はランプ81やスピーカ82により所定の通知を行うようにしてもよい。その後、ユーザは、射出口77を対象領域に接触させた状態で第2スイッチ6を押下する(S105の処理)。その結果、点火器22へ着火電流が印加され、点火器22が作動し、ピストン40、プランジャ80を介して、射出液が加圧され、その射出が実行され、対象領域内に射出液が注射されることになる(S106の処理)。
【0051】
このように注射器1では、第1スイッチ5と第2スイッチ6に対するユーザの異なる段階的な操作内容が制御部83に入力され、その適否が判断されて点火器22の作動が制御されることになる。第2スイッチ6は、第1スイッチ5の操作判定が肯定された(S103のYes)時点のスタンバイ状態(S104)で操作が有効になり、スタンバイ状態で第2スイッチ6が操作されると点火器22へ着火電流が供給される。なお、注射器1は、スタンバイ状態に移行するまでは、注射器アセンブリ10がハウジング2に正常に取り付けられているか否かに関わらず、第2スイッチ6の操作は無効とする。更に、注射器1における射出液の射出のための一連の操作においては、ハウジング2の把持時における第1スイッチ5の誤操作の抑制、及び第2スイッチ6の認識し易さに関する各スイッチの構成によって、注射器1における安全性の向上と安定した作動の両立が好適に実現されている。
【0052】
ユーザは、そのような注射器1のハウジング2を片手で把持し、ハウジング2の後方に位置する第1スイッチ5を所定時間スライドさせ続けて注射器1をスタンバイ状態とする。その上で、ユーザは射出口77を対象領域に接触させた状態で第2スイッチ6を押下することで点火器22が作動し、ピストン40、プランジャ80を介して、射出液が加圧され、その射出が実行され、対象領域内に射出液が注射されることになる。
【0053】
次に、注射器1における種々のエラー検知について説明する。
図12は、種々のエラーを検知する制御部83の各機能を示すブロック図である。制御部83は、マイコンを含んで構成されており、記憶手段(ROM(Read Only Memory)等(不図示)に記憶されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)(不図示)によって実行させることで各
機能を実現する。
図12に示すように、制御部83は、機能部として、第1検知部83aと第2検知部83bを有する。第1検知部83aは、注射器アセンブリ10が取付孔91の定位置まで物理的に挿入されていることを検知する機能部である。第2検知部83bは、点火器22に着火電流を供給するソケット7と点火器22とを含む回路の導通状態を検知する機能部である。
【0054】
まず、第1検知部83aによる検知方法について、
図2を参照しつつ説明する。
図2に
示すように、注射器アセンブリ10が取付孔91に定位置まで物理的に挿入されることで、取付孔91の内径側面部の中心と反対側に判定用突起部92が所定量だけ押し込まれる。これによって、判定用突起部92の当該反対側に接続された板バネ93が収縮され、感圧センサ94に荷重がかかる。感圧センサ94は、制御部83内の所定回路(不図示)に接続されており、所定荷重がかかる場合に当該所定回路を導通するように構成されている。ここで、所定荷重は、注射器アセンブリ10が取付孔91に定位置まで物理的に挿入される場合に感圧センサ94にかかる荷重である。第1検知部83aは、当該所定回路が導通したと判定した場合に、注射器アセンブリ10が取付孔91に定位置まで物理的に挿入されたと検知する。このように、第1検知部83aは、取付孔91に挿入された注射器アセンブリ10によって判定用突起部92が没入方向に押動された際の判定用突起部92の没入位置に基づいて注射器アセンブリ10が取付孔91に定位置まで物理的に挿入されていることを検知可能である。
【0055】
次に、第2検知部83bによる検知方法について、
図2及び
図6を参照しつつ説明する。上述したように、注射器アセンブリ10が取付孔91に定位置まで物理的に挿入された状態で、点火器22の点火ピン22bがソケット7に電気的に接続される。ここで、注射器アセンブリ10が取付孔91に定位置まで物理的に挿入された状態であっても、注射器アセンブリ10が既に使用済みであるために点火器22のブリッジワイヤ29が切断されている場合と、点火ピン22bに不具合が生じている場合とで点火器22に着火電流を供給する回路が非導通状態となる。第2検知部83bは、ソケット7とブリッジワイヤ29と導電ピン22bとを含む回路の導通状態を検知することで、ソケット7と点火器22とを含む回路の導通状態を検知する。
【0056】
また、注射器1は、ランプ81やスピーカ82によって、第1検知部83a及び第2検知部83bの検知結果に応じて異なる態様で検知結果をユーザに報知することができる。以下では、注射器アセンブリ10が定位置まで物理的に挿入されていると第1検知部83aが検知したことを第1検知部83aがオン状態であると表記し、その逆を第1検知部83aがオフ状態であると表記する。また、ソケット7と点火器22とを含む回路が導通状態であると検知したことを第2検知部83bがオン状態であると表記し、その逆を第2検知部83bがオフ状態であると表記する。
【0057】
次に、
図13に基づいて、第1検知部83a、第2検知部83bによる検知方法とランプ81による報知方法について説明する。注射器アセンブリ10が取付孔91に挿入されていない状態では、ランプ81の消灯を維持する(S201)。注射器アセンブリ10が取付孔91の定位置まで挿入されていない状態(第1検知部83aがオフ状態;S202のNo)には、ランプ81の消灯を維持する(S201)。なお、第1検知部83aがオフ状態である場合には、第2検知部83bもオフ状態である。
【0058】
一方、注射器アセンブリ10が取付孔91の定位置まで挿入された状態(第1検知部83aがオン状態;S202のYes)には、ランプ81が青色に点灯する(S203)。また、注射器アセンブリ10が取付孔91の定位置まで挿入された状態における第2検知部83bがオフ状態となる要因としては、注射器アセンブリ10が使用済みであるため点火器22のブリッジワイヤ29が切断されている場合と、点火ピン22bに不具合が生じている場合とが例示される。いずれの場合にも、第1検知部83aはオン状態であり、第2検知部83bはオフ状態である。第2検知部83bがオフ状態(S204のNo)では、ランプ81の青色点灯が維持される(S203)。このように、注射器1は、使用不能な状態である場合に、ランプ81を青色に点灯する。
【0059】
また、注射器アセンブリ10が取付孔91に定位置まで挿入され(第1検知部83aがオン状態;S202のYes)、且つ、点火器22のブリッジワイヤ29が切断していな
い場合や点火ピン22bに不具合がない場合には(第2検知部83bがオン状態;S204のYes)には、ランプ81は青色に点滅する(S205)。このように、注射器1は、使用可能な状態である場合に、ランプ81を青色に点滅する。
【0060】
ユーザは、第1検知部83a及び第2検知部83bの両方がオン状態になった後で、
図11に示す操作手順を開始する。第1スイッチ5は、注射器アセンブリ10が取付孔91に定位置まで挿入され(第1検知部83aがオン状態)、且つ、点火器22とソケット7とを含む回路の導通された状態(第2検知部83bがオン状態)で、スライド操作が実行可能となる。このため、ハウジング2は、第1検知部83aまたは第2検知部83bの少なくともいずれか一方がオフ状態である場合に、第1スイッチ5のスライド操作ができないようにするためのロック機構を有していてもよい。また、注射器1の制御部83は、第1検知部83aまたは第2検知部83bの少なくともいずれか一方がオフ状態である場合に第1スイッチ5のスライド操作による入力を無効と判定してもよい。このように、第1スイッチ5は、第1検知部83a及び第2検知部83bがいずれもオン状態である場合に操作可能となる。
【0061】
注射器1は、ランプ81の点灯態様によって、いずれかの不作動の原因が生じていることをユーザに容易に認識させることができる。これにより、ユーザは、注射器アセンブリ10をハウジング2に取り付けた時点で、スイッチ類を操作することなく、注射器アセンブリ10の取付状態と、注射器アセンブリ10が使用可能な状態であることとを容易に認識することができる。また、注射器1は、第1スイッチ5が操作され(S103のYes)、スタンバイ状態(射出準備完了状態、S104)となった場合にランプを青色以外に点滅させ、ユーザにスタンバイ状態となったことを報知してもよい。
【0062】
<その他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、上述した種々の実施形態は可能な限り組み合わせることができる。また、上記実施形態では、駆動部の一例として点火器22を例示したが本開示の技術はこれに限られない。駆動部としては、射出液に射出エネルギーを付与することができるものであれば、例えば、ソレノイドやその他の電気式アクチュエータを採用することができる。
【0063】
また、上記実施形態では、第1検知部83a及び第2検知部83bの検知結果に応じて異なる態様でランプ81が報知していたが、本開示の技術はこれに限られない。例えば、スピーカ82が第1検知部83a及び第2検知部83bの検知結果に応じて異なる態様で報知してもよい。また、第1検知部83aがオン状態とオフ状態の場合とで、ランプ81の点灯色を変更してもよい。同様に、第2検知部83bがオン状態とオフ状態の場合とで、ランプ81の点灯色を変更してもよい。
【0064】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0065】
1 :注射器
2 :ハウジング
2a :グリップ部
3 :電源ケーブル
4 :コネクタ
5 :第1スイッチ
6 :第2スイッチ
10 :注射器アセンブリ
20 :アクチュエータ
21 :ボディ
22 :点火器
29 :ブリッジワイヤ
30 :アタッチメント
31 :ボディ
40 :ピストン
50 :プランジャロッド
51 :軸部材
52 :縮径部
60 :ストッパ部
70 :コンテナ
71 :ノズル部
75 :収容空間
76 :流路
77 :射出口
80 :プランジャ
81 :ランプ
82 :スピーカ
83 :制御部
83a :第1検知部
83b :第2検知部
90 :取付ホルダ
91 :取付孔
92 :判定用突起部
93 :板バネ
94 :感圧センサ