(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/53 20060101AFI20240708BHJP
A61F 13/475 20060101ALI20240708BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
A61F13/53 200
A61F13/475 111
A61F13/475 112
A61F13/15 210
(21)【出願番号】P 2020198129
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼平 明良
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-049247(JP,A)
【文献】特開2015-211740(JP,A)
【文献】特開2015-002765(JP,A)
【文献】特開2014-117364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
A61L15/16-15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面形状が前後方向に長い縦長で略小判形の吸収体と、肌当接面側の両側部にそれぞれ前後方向の全長に亘って配置されたサイドシートと、
前記サイドシートの幅方向内側部が幅方向に適宜に折り畳まれこの折り畳み部分に弾性伸縮部材が伸張状態で配置されることにより肌側に起立する左右一対の立体ギャザーと、前記サイドシートの幅方向外側部
が幅方向に適宜に折り畳まれこの折り畳み部分に前後方向に沿うとともに幅方向に間隔を空けて配置された複数の弾性伸縮部材
が伸張状態で配置された左右一対の側端ギャザーとを備え、
前記側端ギャザーに配置された複数の弾性伸縮部材の前端部及び後端部に対応する前記吸収体の両側部にそれぞれ、側方に突出する吸収体凸部が形成され、
前記側端ギャザーに配置された複数の弾性伸縮部材のうち、少なくとも最も幅方向内側に配置された弾性伸縮部材の両端部がそれぞれ、前記吸収体凸部と厚み方向に重なっていることを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記吸収体凸部に重なる前記弾性伸縮部材の長さは、5mm以上である請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記吸収性物品は、個装状態で、前方部及び後方部がそれぞれ幅方向に沿う前側折り線及び後側折り線にて前後方向に折り畳まれ、
前記前側折り線及び後側折り線がそれぞれ、前記弾性伸縮部材が前記吸収体凸部に重なる部分より前後方向の外側に設けられている請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記吸収体凸部には高吸水性ポリマーが含まれていない請求項1~3いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記吸収体は、複数のシート状吸収体の積層体からなり、
前記積層体のうち、少なくとも1つの前記シート状吸収体に、前記吸収体凸部が形成されている請求項1~4いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記吸収体凸部の厚みが幅方向外側に向かうに従って徐々に小さく形成されている請求項1~5いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記吸収性物品は、失禁パッドである請求項1~6いずれかに記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主には失禁パッド、生理用ナプキン、おりものシート、医療用パッド、トイレタリー、使い捨ておむつ等に使用される吸収性物品に係り、詳しくは肌当接面側の両側部にそれぞれサイドシートが配置されるとともに、前記サイドシートの幅方向外側部に、前後方向に沿って弾性伸縮部材が配置されることにより側端ギャザーが形成された吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、
図9に示されるように、ポリエチレンシートまたはポリエチレンシートラミネート不織布などからなる不透液性の裏面シート51と、不織布または透液性プラスチックシートなどからなる透液性の表面シート52との間に吸収体53が介在されるとともに、肌当接面側の両側部にサイドシート54、54が設けられ、前記サイドシート54の幅方向外側部に、前後方向に沿って弾性伸縮部材55、55が配置されることにより、前記吸収体53の側方に延出するサイドフラップ部56に側端ギャザー57が形成された吸収性物品50が知られている(例えば、下記特許文献1~3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-167105号公報
【文献】特開2016-52400号公報
【文献】特開2015-89382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような吸収性物品50においては、柔軟な肌触りを重視するため、前記サイドシート54として柔軟性に富んだシートが多く用いられている。ところが、前記サイドシート54として柔らかいシートを用いた場合には、
図9に示されるように、前記弾性伸縮部材55の収縮力によって前記側端ギャザー57が幅方向内側に縮こまりやすくなり、これによって吸収性物品50の装着時に、側端ギャザー57が身体にフィットせず、体液の漏れが生じやすいという問題が生じていた。
【0005】
そこで本発明の主たる課題は、肌当接面側の両側部にそれぞれ配置されたサイドシートの幅方向外側部に、前後方向に沿って弾性伸縮部材が配置されることにより側端ギャザーが形成された吸収性物品において、前記側端ギャザーが幅方向内側に縮こまりにくく、身体にフィットして体液の漏れが確実に防止できるようにした吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために第1の態様として、平面形状が前後方向に長い縦長で略小判形の吸収体と、肌当接面側の両側部にそれぞれ前後方向の全長に亘って配置されたサイドシートと、前記サイドシートの幅方向内側部が幅方向に適宜に折り畳まれこの折り畳み部分に弾性伸縮部材が伸張状態で配置されることにより肌側に起立する左右一対の立体ギャザーと、前記サイドシートの幅方向外側部が幅方向に適宜に折り畳まれこの折り畳み部分に前後方向に沿うとともに幅方向に間隔を空けて配置された複数の弾性伸縮部材が伸張状態で配置された左右一対の側端ギャザーとを備え、
前記側端ギャザーに配置された複数の弾性伸縮部材の前端部及び後端部に対応する前記吸収体の両側部にそれぞれ、側方に突出する吸収体凸部が形成され、
前記側端ギャザーに配置された複数の弾性伸縮部材のうち、少なくとも最も幅方向内側に配置された弾性伸縮部材の両端部がそれぞれ、前記吸収体凸部と厚み方向に重なっていることを特徴とする吸収性物品が提供される。
【0007】
上記第1の態様では、平面形状が前後方向に長い縦長で略小判形の吸収体と、肌当接面側の両側部にそれぞれ前後方向の全長に亘って配置されたサイドシートと、前記サイドシートの幅方向内側部が幅方向に適宜に折り畳まれこの折り畳み部分に弾性伸縮部材が伸張状態で配置されることにより肌側に起立する左右一対の立体ギャザーと、前記サイドシートの幅方向外側部が幅方向に適宜に折り畳まれこの折り畳み部分に前後方向に沿うとともに幅方向に間隔を空けて配置された複数の弾性伸縮部材が伸張状態で配置された左右一対の側端ギャザーとを備えた吸収性物品において、前記側端ギャザーに配置された複数の弾性伸縮部材の前端部及び後端部に対応する吸収体の両側部にそれぞれ、側方に突出する吸収体凸部が形成され、かつ前記側端ギャザーに配置された複数の弾性伸縮部材のうち、少なくとも最も幅方向内側に配置された弾性伸縮部材の両端部がそれぞれ、前記吸収体凸部と厚み方向に重なっている。本発明に係る吸収性物品では、側方に突出した吸収体凸部の剛性によって、側端ギャザーの前後端部がそれぞれ補強されるため、側端ギャザーが幅方向内側に縮こまることなく、吸収体の側部に大きく広がった状態で設けられるようになる。このため、側端ギャザーが確実に身体にフィットし、体液の漏れが確実に防止できるようになる。
【0008】
第2の態様として、前記吸収体凸部に重なる前記弾性伸縮部材の長さは、5mm以上である請求項1記載の吸収性物品が提供される。
【0009】
上記第2の態様では、前記弾性伸縮部材の端部と吸収体凸部との重なり長さを所定の長さ以上とすることにより、弾性伸縮部材の前後端部が確実に吸収体凸部によって補強され、側端ギャザーを大きく広げる効果が向上する。
【0010】
第3の態様として、前記吸収性物品は、個装状態で、前方部及び後方部がそれぞれ幅方向に沿う前側折り線及び後側折り線にて前後方向に折り畳まれ、
前記前側折り線及び後側折り線がそれぞれ、前記弾性伸縮部材が前記吸収体凸部に重なる部分より前後方向の外側に設けられている請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0011】
上記第3の態様では、吸収性物品が前側折り線及び後側折り線にて前後方向に3つ折りされて個装される場合において、前記前側折り線及び後側折り線をそれぞれ、弾性伸縮部材が吸収体凸部に重なる部分より前後方向の外側に設けている。これにより、個装時に前記折り線位置に形成される折り癖により、吸収体凸部が側端ギャザーを拡張させる機能が低下するのが防止でき、より確実に側端ギャザーが大きく広がるようになる。
【0012】
第4の態様として、前記吸収体凸部には高吸水性ポリマーが含まれていない請求項1~3いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0013】
上記第4の態様では、体液を吸収した高吸水性ポリマーが膨張することで、側端ギャザーを構成するサイドシートと他の部材との接着が剥離するのを防止するため、前記吸収体凸部には高吸水性ポリマーを含有しないようにしている。
【0014】
第5の態様として、前記吸収体は、複数のシート状吸収体の積層体からなり、
前記積層体のうち、少なくとも1つの前記シート状吸収体に、前記吸収体凸部が形成されている請求項1~4いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0015】
上記第5の態様では、吸収体凸部の厚みが厚いと、側端ギャザーを構成するサイドシートと他の部材との接着が剥離しやすくなるため、前記吸収体を複数のシート状吸収体の積層体で構成し、この積層体のうち、少なくとも1つのシート状吸収体に、前記吸収体凸部を形成することにより、吸収体凸部を本体部分の吸収体より小さな厚みで形成している。
【0016】
第6の態様として、前記吸収体凸部の厚みが幅方向外側に向かうに従って徐々に小さく形成されている請求項1~5いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0017】
上記第6の態様では、吸収体凸部の厚みが幅方向に一定して厚いと、側端ギャザーを構成するサイドシートと他の部材との接着が剥離しやすくなるため、前記吸収体凸部の厚みを幅方向外側に向かうに従って徐々に小さくなるように形成している。
【0018】
第7の態様として、前記吸収性物品は、失禁パッドである請求項1~6いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0019】
失禁パッドは、着用者の体液排出部とその周辺のみを覆う大きさで形成されるものであり、使い捨ておむつ等と比較して、側部から体液が漏れやすい構造である。また、失禁パッドが主に吸収する体液は尿であり、生理用ナプキンが主に吸収する経血等と比較して、体液の粘性が小さいため、表面を流れて広い範囲に拡散しやすく、側部からの漏れが特に懸念される。このため、上記第7の態様では、吸収性物品のうち、特に両側部からの体液(尿)の漏れが生じやすい失禁パッドについて、両側部の側端ギャザーが大きく広がるようにし、側端ギャザーが身体にフィットして体液の漏れが確実に防止できるようにしている。
【発明の効果】
【0020】
以上詳説のとおり本発明によれば、側端ギャザーが幅方向内側に縮こまりにくく、身体にフィットして体液の漏れが確実に防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る失禁パッド1の一部破断展開図である。
【
図6】変形例に係る吸収体凸部15の拡大平面図である。
【
図7】変形例に係る失禁パッド1の横断面図(
図1のIII-III線矢視図に相当する図)である。
【
図8】変形例に係る失禁パッド1の横断面図(
図1のIII-III線矢視図に相当する図)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0023】
〔失禁パッド1の基本構成〕
本発明に係る失禁パッド1は、
図1~
図4に示されるように、ポリエチレンシートなどからなる不透液性の裏面シート2と、尿などを速やかに透過させる透液性の表面シート3と、これら両シート2、3間に介装された吸収体4と、必要に応じて前記表面シート3と吸収体4との間に配置される親水性のセカンドシート6と、肌当接面側の両側部にそれぞれ前後方向の全長に亘って配置されたサイドシート7、7とから主に構成され、かつ前記吸収体4の周囲においては、その前後方向端縁部では前記裏面シート2と表面シート3との外縁部がホットメルトなどの接着剤やヒートシール等の接合手段によって接合され、またその両側縁部では吸収体4よりも側方に延出している前記裏面シート2と前記サイドシート7とがホットメルトなどの接着剤やヒートシール等の接合手段によって接合されている。
【0024】
以下、さらに前記失禁パッド1の構造について詳述すると、
前記裏面シート2は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の少なくとも遮水性を有するシート材が用いられるが、この他に防水フィルムを介在して実質的に不透液性を確保した上で不織布シート(この場合には、防水フィルムと不織布とで裏面シートを構成する。)などを用いることができる。近年はムレ防止の観点から透湿性を有するものが好適に用いられる傾向にある。この遮水・透湿性シート材としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂中に無機充填剤を溶融混練してシートを成形した後、一軸または二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートが好適に用いられる。
【0025】
次いで、前記表面シート3は、有孔または無孔の不織布や多孔性プラスチックシートなどが好適に用いられる。不織布を構成する素材繊維としては、たとえばポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維とすることができ、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法等の適宜の加工法によって得られた不織布を用いることができる。これらの加工法の内、スパンレース法は柔軟性、ドレープ性に富む点で優れ、サーマルボンド法は嵩高で圧縮復元性が高い点で優れている。前記表面シート3に多数の透孔を形成した場合には、体液が速やかに吸収されるようになり、ドライタッチ性に優れたものとなる。不織布の繊維は、長繊維または短繊維のいずれでもよいが、好ましくはタオル地の風合いを出すため短繊維を使用するのがよい。また、エンボス処理を容易とするために、比較的低融点のポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系繊維のものを用いるのがよい。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイド-バイ-サイド型繊維、分割型繊維の複合繊維を好適に用いることもできる。
【0026】
前記裏面シート2と表面シート3との間に介在される吸収体4は、たとえば綿状パルプと高吸水性ポリマーとにより構成されている。前記高吸水性ポリマーは吸収体を構成するパルプ中に、例えば粒状粉として混入されている。前記パルプとしては、木材から得られる化学パルプ、溶解パルプ等のセルロース繊維や、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維からなるものが挙げられ、広葉樹パルプよりは繊維長の長い針葉樹パルプの方が機能および価格の面で好適に使用される。図示例では平面形状がパッド前後方向に長い縦長の略小判形とされている。なお、前記吸収体4の形状保持および拡散性向上のために、前記吸収体4をクレープ紙又は不織布などからなる被包シート(図示せず)で囲繞してもよい。
【0027】
また、前記吸収体4には合成繊維を混合しても良い。前記合成繊維は、例えばポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系、ナイロンなどのポリアミド系、及びこれらの共重合体などを使用することができるし、これら2種を混合したものであってもよい。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイド-バイ-サイド型繊維、分割型繊維などの複合繊維も用いることができる。前記合成繊維は、体液に対する親和性を有するように、疎水性繊維の場合には親水化剤によって表面処理したものを用いるのが望ましい。
【0028】
必要に応じて前記表面シート3の非肌側に隣接して配置される親水性のセカンドシート6は、体液に対して親水性を有するものであればよい。具体的には、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維を用いることにより素材自体が親水性を有するものを用いるか、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維を親水化剤によって表面処理し親水性を付与した繊維を用いることができる。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイド-バイ-サイド型繊維、分割型繊維等の複合繊維を用いることができる。前記セカンドシート6と吸収体4(被包シート)とは、ホットメルト接着剤等により接合するのが望ましい。前記セカンドシート6と吸収体4とを接合することにより、体液を前記セカンドシート6から吸収体4に速やかに移行させることができるようになる。
【0029】
本失禁パッド1の肌当接面側の両側部にはそれぞれ前後方向に沿って、かつ失禁パッド1の全長に亘ってサイドシート7、7が設けられ、このサイドシート7、7の外側部分が側方に延在されるとともに、前記裏面シート2が側方に延在され、これら側方に延在されたサイドシート7部分と裏面シート2部分とをホットメルト接着剤等により接合してサイドフラップ部が形成されている。
【0030】
前記サイドシート7としては、重要視する機能の点から撥水処理不織布または親水処理不織布を使用することができる。たとえば、尿等が浸透するのを防止する、あるいは肌触り感を高めるなどの機能を重視するならば、シリコン系、パラフィン系、アルキルクロミッククロリド系撥水剤などをコーティングしたSSMSやSMS、SMMSなどの撥水処理不織布を用いるのが望ましく、体液の吸収性を重視するならば、合成繊維の製造過程で親水基を持つ化合物、例えばポリエチレングリコールの酸化生成物などを共存させて重合させる方法や、塩化第2スズのような金属塩で処理し、表面を部分溶解し多孔性とし金属の水酸化物を沈着させる方法等により合成繊維を膨潤または多孔性とし、毛細管現象を応用して親水性を与えた親水処理不織布を用いるのが望ましい。かかるサイドシート7としては、天然繊維、合成繊維または再生繊維などを素材として、適宜の加工法によって形成されたものを使用することができる。
【0031】
前記サイドシート7、7は、幅方向外側部が幅方向に適宜に折り畳まれ、この折り畳み部分に弾性伸縮部材11が伸長状態で配置されることにより、失禁パッド1の両側端部にそれぞれ、左右一対の側端ギャザー10、10を形成している。また、図示例の失禁パッド1では、サイドシート7、7の幅方向内側部が幅方向に適宜に折り畳まれて、この折り畳み部分に弾性伸縮部材13が伸長状態で配置されることにより、前記吸収体4の略側縁近傍位置を起立基端として肌側に起立する左右一対の立体ギャザー12、12が形成されており、これら幅方向内側の前記立体ギャザー12、12と、幅方向外側の前記側端ギャザー10、10とによって、2重のギャザー構造を形成しているが、幅方向内側の前記立体ギャザー12、12の配置は任意であり、この立体ギャザー12を設けずに、単に表面シート3の表面にサイドシート7が積層された構造としてもよい。
【0032】
前記側端ギャザー10および立体ギャザー12の構造についてさらに詳しく説明すると、前記サイドシート7は、
図2及び
図3に示されるように、幅方向両側端をそれぞれパッド裏面側に折り返して幅方向外側及び幅方向内側にそれぞれ二重シート部分7a、7bを形成するとともに、前記幅方向外側の二重シート部分7aの内部に、両端または前後方向の適宜の位置が固定された複数本の、図示例では2本の弾性伸縮部材11、11が、前後方向に沿うとともに幅方向に間隔を空けて配設され、かつ前記幅方向内側の二重シート部分7bの内部に、両端または前後方向の適宜の位置が固定された1本または複数本の、図示例では1本の弾性伸縮部材13が、前後方向に沿って配設されており、幅方向外側の二重シート部分7aの基端部が、前記吸収体4よりも側方に延出する裏面シート2の側端部にホットメルト接着剤等により接着されるとともに、前記幅方向内側の二重シート部分7bの基端部が、吸収体4の肌当接面側に配設される表面シート3の側部上面にホットメルト接着剤等により接着されることにより、前記幅方向外側の二重シート部分7aによって側端ギャザー10が形成されるとともに、前記幅方向内側の二重シート部分7bによって肌側に起立する立体ギャザー12が形成されている。なお、前記サイドシート7は、失禁パッド1の前後端部では、
図4に示されるように、前記弾性伸縮部材11、13が配設されないとともに、前記幅方向内側の二重シート部分7bが外側に折り返されてホットメルト接着剤等によって吸収体4側に接合されている。
【0033】
〔吸収体凸部15〕
本失禁パッド1では、前記側端ギャザー10に配置された弾性伸縮部材11の前端部及び後端部に対応する吸収体4の両側部にそれぞれ、側方に突出する吸収体凸部15が形成されている。つまり、吸収体4の一方の側部の前後部にそれぞれ、側方に突出する吸収体凸部15、15が形成されるとともに、他方の側部の前後部にもそれぞれ、側方に突出する吸収体凸部15、15が形成されている。前記吸収体凸部15は、着用者の体液排出部Hにおける吸収体4の側縁より幅方向外側に突出しており、裏面シート2の側縁より内側に位置している。前記吸収体凸部15は、本体部分の吸収体4から分断することなく連続して形成されている。
【0034】
前記吸収体凸部15は、前記吸収体4と同様の素材で構成することができるが、後段で詳述するように、高吸水性ポリマーを含有しない構成としてもよい。
【0035】
更に、本失禁パッド1では、前記側端ギャザー10に配置された弾性伸縮部材11、11のうち、少なくとも最も幅方向内側に配置された弾性伸縮部材11の両端部がそれぞれ、前記吸収体凸部15と厚み方向に重なっている。すなわち、吸収体4の前端部に設けられた吸収体凸部15に、弾性伸縮部材11の前端部が重なっており、吸収体4の後端部に設けられた吸収体凸部15に、弾性伸縮部材11の後端部が重なっている。前記弾性伸縮部材11の端部とは、弾性伸縮部材11がサイドシート7に接着されることにより、その収縮力がサイドシート7に作用している範囲における前側及び後側の端部を指し、実際の弾性伸縮部材11の両端部において、弾性伸縮部材11がサイドシート7に接着されないで遊んでいる部分や、連続してサイドシート7に接着されることにより弾性伸縮部材11の収縮力を殺した部分、弾性伸縮部材11が細かく切断された部分など、弾性伸縮部材11の収縮力が実質的にサイドシート7に作用していない部分は除外される。したがって、弾性伸縮部材11の両端部がそれぞれ吸収体凸部15と厚み方向に重なるとは、弾性伸縮部材11の伸縮力が作用する範囲の両端部と、吸収体凸部15とが厚み方向に重なることを意味している。
【0036】
このように本失禁パッド1では、前記側端ギャザー10に配置された弾性伸縮部材11の両端部がそれぞれ、前記吸収体凸部15と厚み方向に重なっているため、前記吸収体凸部15の剛性によって側端ギャザー10の前後端部がそれぞれ補強され、側端ギャザー10が幅方向内側に縮こまりにくくなり、側端ギャザー10が吸収体4の側部に大きく広がった状態で形成されるようになる。したがって、側端ギャザー10が確実に身体にフィットし、体液の漏れが確実に防止できる。前記吸収体凸部15を設けない場合には、弾性伸縮部材の収縮力によってサイドシートが幅方向内側に縮こまってしまい、側端ギャザーが大きく広がった状態で形成されない(
図9参照)。
【0037】
図5に基づいて吸収体凸部15と弾性伸縮部材11との位置関係について更に詳細に説明すると、
図5は、吸収体凸部15と、この吸収体凸部15と厚み方向に重なる弾性伸縮部材11の位置関係を示す平面図である。前記吸収体凸部15に重なる弾性伸縮部材11の重なり長さAは、5mm以上、好ましくは5~20mm、より好ましくは5~10mmであるのがよい。重なり長さAを所定の長さ以上確保することにより、吸収体凸部15によって側端ギャザー10が確実に大きく広がるようになる。これらの重なり部は、吸収体凸部15のパッド前後方向の中央側の端縁を始点として、吸収体凸部15のパッド前後方向の中間部まで、好ましくは吸収体凸部15のパッド前後方向の中央においてパッド幅方向に延びる中心線Tより、パッド前後方向の外側まで延びている。これによって、幅方向一方側のフラップ部において、前後に設けられた吸収体凸部15、15間に、弾性伸縮部材11が懸架された状態で配置されるため、側端ギャザー10が前後の吸収体凸部15、15によってより確実に外側に大きく広がるようになる。なお、前記弾性伸縮部材11の端部が吸収体凸部15を越えて、吸収体凸部15のパッド前後方向の外側に達すると、吸収体凸部15よりパッド前後方向外側のフラップ部も収縮するため、吸収体凸部15を設けた効果が低下するおそれがあり、好ましくない。
【0038】
図5に示されるように、前記吸収体凸部15が本体部分の吸収体4から突出する基端部のパッド前後方向の長さBは、5mm以上、好ましくは5~30mm、より好ましくは5~20mmであるのがよい。
【0039】
また、吸収体凸部15の平面形状は、
図5に示されるように、幅方向外側に膨出する山形(略半円形又は略三角形)や、
図6(A)に示される基端部が窪んだキノコ形、(B)に示される略四角形など任意の形状で形成することができる。平面形状は、前記中心線Tを中心としてパッド前後方向に線対称な形状であるのが好ましいが、特にこだわらず、非対称な形状としてもよい。
【0040】
図5に示されるように、山型の平面形状からなる吸収体凸部15において、基端部の外形線が延びる接線の角度θ(外形線の接線とパッド前後方向線との成す角)は、35~55°、好ましくは40~50°、より好ましくは45°とするのがよい。
【0041】
本失禁パッド1は、個装状態で、
図1に示されるように、該失禁パッド1の前方部及び後方部がそれぞれ、幅方向に沿う前側折り線X1及び後側折り線X2にて前後方向に折り畳まれ、少なくとも3つ折りとされる。なお、前記前側折り線X1より前側及び/又は前記後側折り線X2より後側に設けられる1又は複数の折り線にて折り畳まれることにより、4つ折り以上としてもよい。前記前側折り線X1及び後側折り線X2はそれぞれ、弾性伸縮部材11が吸収体凸部15に重なる部分より、パッド前後方向の外側に設けるのがよい。すなわち、弾性伸縮部材11が前後の折り線X1、X2間に配置され、弾性伸縮部材11の長さが前後の折り線X1、X2間の距離Lより短い。このように、前記前側折り線X1及び後側折り線X2がそれぞれ弾性伸縮部材11と吸収体凸部15との重なり部より外側に位置しているため、個装時の折り癖によって、吸収体凸部15が側端ギャザー10を拡張させる機能が低下するのが防止でき、より確実に側端ギャザー10を大きく広げることが可能となる。前後の折り線X1、X2間の距離Lは、失禁パッド1の全長の30~50%、好ましくは35~45%とするのがよい。
図1に示されるように、前記前側折り線X1及び後側折り線X2はそれぞれ、前側の吸収体凸部15、15及び後側の吸収体凸部15、15を通る位置に配置してもよいし、吸収体凸部15に折り癖が付かないように、吸収体凸部15よりパッド前後方向の外側に配置してもよい。
【0042】
次に、前記失禁パッド1の変形例について説明すると、前記吸収体凸部15には高吸水性ポリマーが含まれないようにすることができる。吸収体凸部15に高吸水性ポリマーが含まれていると、体液を吸収した高吸水性ポリマーが膨張することで、側端ギャザー10を構成するサイドシート7と裏面シート2との接着が剥離するおそれがあるため、これを防止するために吸収体凸部15には高吸水性ポリマーを含まないようにするのがよい。なお、吸収体凸部15は完全に高吸水性ポリマーを含まないようにするのが望ましいが、本体部分の吸収体4に高吸水性ポリマーを配合する製造過程ではみ出たり、本体部分の吸収体4からこぼれ出たりして、若干量の高吸水性ポリマーが含まれていても構わない。前記吸収体凸部15に高吸水性ポリマーを含まないようにするには、吸収体4及び吸収体凸部15を一体として積繊によって製造する場合、本体部分の吸収体4に積繊するパルプのみに高吸水性ポリマーを含有し、吸収体凸部15に積繊するパルプには高吸水性ポリマーを含有しない方法とすることができる。また、後述するように吸収体4が複数のシート状吸収体の積層体からなる場合、前記吸収体凸部15を形成するシート状吸収体として高吸水性ポリマーを含有しないものを用いることによって形成してもよい。
【0043】
他の変形例として、
図7に示されるように、前記吸収体4を、複数のシート状吸収体の積層体で構成した場合において、この積層体のうち、少なくとも1つのシート状吸収体に、前記吸収体凸部15を形成することができる。図示例では、前記積層体が、上層のシート状吸収体4a及び下層のシート状吸収体4bの2層から成り、下層のシート状吸収体4bの両側部の所定部位をそれぞれ側方に延在させることで、前記吸収体凸部15が形成されている。吸収体凸部15を本体部分の吸収体4と同じ厚みで形成すると、側端ギャザー10を構成するサイドシート7と裏面シート2との接着が剥離しやすくなるため、これを防止するために吸収体4を複数のシート状吸収体で構成し、このうち少なくとも1つのシート状吸収体によって前記吸収体凸部15を形成している。前記吸収体凸部15を形成するシート状吸収体は、サイドシート7と裏面シート2との接着が剥離するのを防止する観点から、シート状吸収体と裏面シート2とが全面に亘って隣接し、シート状吸収体や裏面シート2に生じる曲げ応力が小さくなる、最も下層側(裏面シート2側)に配置されたシート状吸収体であるのが好ましいが、これに限るものではない。
【0044】
前記弾性伸縮部材11が厚み方向に重なる部分における吸収体凸部15の厚みは、3~10mmであるのがよい。すなわち、
図7に示されるように、吸収体4が上層のシート状吸収体4aと下層のシート状吸収体4bとからなり、前記下層のシート状吸収体4bのみに前記吸収体凸部15が形成される場合、前記シート状吸収体4bの厚みは3~10mmであるのがよい。
【0045】
また、吸収体凸部15の厚みが厚いことによって側端ギャザー10を構成するサイドシート7と裏面シート2との接着が剥離するのを防止する観点から、
図8に示されるように、吸収体凸部15の厚みが幅方向外側に向かうに従って徐々に小さくなるように形成してもよい。この形態例では、吸収体凸部15の基端部の厚みが相対的に厚いため、吸収体凸部15が変形しにくく、より確実に側端ギャザー10を大きく広げることができる。この場合においても、前記弾性伸縮部材11が厚み方向に重なる部分の吸収体凸部15の厚みは、3~10mmであるのがよい。
【0046】
〔他の形態例〕
上記形態例では、失禁パッド1を例に挙げて説明したが、本発明は、生理用ナプキンや使い捨ておむつなどの他の吸収性物品にも適用することが可能である。吸収性物品の中でも、側端ギャザー10を大きく広げて側部からの体液(尿)の漏れ防止を図る点で、本発明は、特に失禁パッドに適用するのが望ましい。
【符号の説明】
【0047】
1…失禁パッド、2…裏面シート、3…表面シート、4…吸収体、6…セカンドシート、7…サイドシート、10…側端ギャザー、11…弾性伸縮部材、12…立体ギャザー、13…弾性伸縮部材、15…吸収体凸部