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特許7516231積層造形装置、積層造形方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】積層造形装置、積層造形方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/105 20060101AFI20240708BHJP
   B29C 64/295 20170101ALI20240708BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20240708BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240708BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240708BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
B22F3/105
B29C64/295
B29C64/393
B33Y30/00
B33Y50/02
B22F3/16
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020202653
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2022090322
(43)【公開日】2022-06-17
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】只野 智史
(72)【発明者】
【氏名】日野 武久
(72)【発明者】
【氏名】中谷 祐二郎
(72)【発明者】
【氏名】大西 春樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 大輔
(72)【発明者】
【氏名】川上 宏
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-184623(JP,A)
【文献】特開2021-094698(JP,A)
【文献】特開2017-179517(JP,A)
【文献】特開2017-161981(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049981(WO,A1)
【文献】特開2020-097193(JP,A)
【文献】特表2017-530027(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126073(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105
B29C 64/295
B29C 64/393
B33Y 30/00
B33Y 50/02
B22F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料に対して熱源を走査することにより積層造形物を造形する積層造形装置において、
前記積層造形物の下方に空間がある部分であるオーバーハング部が造形される工程において前記熱源の走査に応じて変化しうる少なくとも前記オーバーハング部の温度場の時間的変化を造形条件ごとに評価する温度評価手段と、
前記温度評価手段により評価された造形条件ごとの温度場の時間的変化に基づき、前記オーバーハング部が造形される工程において前記熱源により材料が溶融して形成される溶融部がその凝固過程で力学的溶融温度に達する際に、既に凝固している前記オーバーハング部の既造形部のうちの少なくとも温度場が力学的溶融温度以上に保持されている既造形部分と前記溶融部とが力学的溶融温度の温度領域内に収まる温度場を保ちながら力学的溶融温度未満に冷却される造形条件を決定する造形条件決定手段と、
前記造形条件決定手段により決定された造形条件に基づき、前記熱源の走査を実施する熱源走査手段と、
を具備する、積層造形装置。
【請求項2】
前記温度評価手段は、
材料物性を示すデータおよび造形物形状を示すデータに基づき、造形条件を変数とする熱伝導解析を行うことにより、造形条件が異なる前記オーバーハング部の温度場の時間的変化を示す複数のデータを生成する、
請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項3】
前記造形条件決定手段は、
要件を満たす造形条件が無い場合には、要件を満たす造形条件が得られるまで、前記温度評価手段に対して造形条件の修正および修正後の造形条件に基づく温度場の時間的変化の再評価を指示する、
請求項1又は2に記載の積層造形装置。
【請求項4】
前記熱源走査手段は、
前記材料を溶融させる前の予熱工程において、前記オーバーハング部を選択的に繰り返し予熱し、前記オーバーハング部の温度を溶融温度以下および力学的溶融温度以上の温度範囲内に収まるように調整する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項5】
前記熱源走査手段は、
前記材料を溶融させる溶融工程において、前記オーバーハング部にて前記熱源を走査する方向を水平面のうち前記オーバーハング部が前記積層造形物のベース部から突出する方向に垂直な方向とし、走査する前記熱源を定期的に当該熱源の幅よりも小さいピッチで前記突出する方向へ移動させてから走査方向の向きを反対方向にする折り返しを繰り返しながら前記熱源の走査を行う、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項6】
前記熱源走査手段は、
前記材料を溶融させた後の後熱工程において、前記オーバーハング部を選択的に繰り返し後熱し、前記オーバーハング部の温度を溶融温度以下および力学的溶融温度以上の温度範囲内に収まるように調整する、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項7】
材料に対して熱源を走査することにより積層造形物を造形する積層造形装置に適用される積層造形方法であって、
温度評価手段により、前記積層造形物の下方に空間がある部分であるオーバーハング部が造形される工程において前記熱源の走査に応じて変化しうる少なくとも前記オーバーハング部の温度場の時間的変化を造形条件ごとに評価する温度評価ステップと、
造形条件決定手段により、前記温度評価ステップにおいて評価された造形条件ごとの温度場の時間的変化に基づき、前記オーバーハング部が造形される工程において前記熱源により材料が溶融して形成される溶融部がその凝固過程で力学的溶融温度に達する際に、既に凝固している前記オーバーハング部の既造形部のうちの少なくとも温度場が力学的溶融温度以上に保持されている既造形部分と前記溶融部とが力学的溶融温度の温度領域内に収まる温度場を保ちながら力学的溶融温度未満に冷却される造形条件を決定する造形条件決定ステップと、
熱源走査手段により、前記造形条件決定ステップにおいて決定された造形条件に基づき、前記熱源の走査を実施する熱源走査ステップと、
を含む、積層造形方法
【請求項8】
材料に対して熱源を走査することにより積層造形物を造形する積層造形装置に適用されるコンピュータのプログラムであって、
コンピュータを、
前記積層造形物の下方に空間がある部分であるオーバーハング部が造形される工程において前記熱源の走査に応じて変化しうる少なくとも前記オーバーハング部の温度場の時間的変化を造形条件ごとに評価する温度評価手段、
前記温度評価手段により評価された造形条件ごとの温度場の時間的変化に基づき、前記オーバーハング部が造形される工程において前記熱源により材料が溶融して形成される溶融部がその凝固過程で力学的溶融温度に達する際に、既に凝固している前記オーバーハング部の既造形部のうちの少なくとも温度場が力学的溶融温度以上に保持されている既造形部分と前記溶融部とが力学的溶融温度の温度領域内に収まる温度場を保ちながら力学的溶融温度未満に冷却される造形条件を決定する造形条件決定手段、
前記造形条件決定手段により決定された造形条件に基づき、前記熱源の走査を実施する熱源走査手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、積層造形装置、積層造形方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形技術は、素材に金属粉末や金属ワイヤなどの材料を使い、溶融熱源としてレーザーや電子ビームを用いることを特徴とする。そのため、構造物を目的の形状に対してニアネットシェイプに製造できる可能性はある。しかしながら、現状は、完全なニアネットシェイプに造形物を製作することは困難である。それは、造形時に生じる造形物の面外変形が原因である。そのため、造形物にはこの面外変形を抑制するためのサポートを取り付けるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-77887号公報
【文献】特開2018-94817号公報
【文献】特開2018-126946号公報
【文献】特許第6295001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したサポートは、造形終了後に加工にて取り除く必要があるため、後工程の増加が問題となっている。後工程の増加を避けるためには、サポートの使用は望ましくない。
【0005】
一方で、面外変形が特に問題となる場所がオーバーハング部(例えばベース部から突出している部分)であることから、造形物の造形方向を変えることでオーバーハング部が生じることを避ける方法や、オーバーハング部に限らず一般的な方法として、ビーム照射領域を分割することで変形を抑制する方法、温度を調整することで変形を抑制する方法などが報告されている。しかしながら、面外変形の原因は、造形物内に生じる熱ひずみの偏りであり、すなわち、凝固時の温度分布の偏りである。そのため、上述した各種の方法は、オーバーハング部に面外変形が生じるという根本的な問題を解決するものではない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、積層造形物のオーバーハング部を造形する際の面外変形の発生を抑制することのできる、積層造形装置、積層造形方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の積層造形装置は、材料に対して熱源を走査することにより積層造形物を造形する積層造形装置において、前記積層造形物の下方に空間がある部分であるオーバーハング部が造形される工程において前記熱源の走査に応じて変化しうる少なくとも前記オーバーハング部の温度場の時間的変化を造形条件ごとに評価する温度評価手段と、前記温度評価手段により評価された造形条件ごとの温度場の時間的変化に基づき、前記オーバーハング部が造形される工程において前記熱源により材料が溶融して形成される溶融部がその凝固過程で力学的溶融温度に達する際に、既に凝固している前記オーバーハング部の既造形部のうちの少なくとも温度場が力学的溶融温度以上に保持されている既造形部分と前記溶融部とが力学的溶融温度の温度領域内に収まる温度場を保ちながら力学的溶融温度未満に冷却される造形条件を決定する造形条件決定手段と、前記造形条件決定手段により決定された造形条件に基づき、前記熱源の走査を実施する熱源走査手段と、を具備する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、積層造形物のオーバーハング部を造形する際の面外変形の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る三次元積層造形装置が積層造形物を造形する様子を示す積層造形物の斜視図。
図2図1に示される積層造形物の平面図および側面図。
図3】同実施形態に係る三次元積層造形装置の構成の一例を示すブロック図。
図4】熱源の走査と折返しピッチの例を説明する図。
図5】オーバーハング部の温度場の評価の説明に使用する簡易なモデルの例を示す図。
図6】温度評価部による評価結果の例(その1)を示す図。
図7】温度評価部による評価結果の例(その2)を示す図。
図8】温度評価部による評価結果の例(その3)を示す図。
図9図3に示される三次元積層造形装置による動作の一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る三次元積層造形装置が積層造形物を造形する様子を示す積層造形物の斜視図である。また、図2(a)は同積層造形物の平面図、図2(b)は同積層造形物の側面図である。
【0012】
なお、本例は、説明を理解しやすいものとするため、簡易な造形物を造形する場合の一例を示しているが、実施形態に係る三次元積層造形装置は、より複雑な形状を有する構造物(例えば、湾曲部を有するタービンのブレード、配管、格子状の構造物など)を造形することが可能である。
【0013】
図1及び図2に示されるように、三次元積層造形装置により造形される積層造形物11は、ベース部12と、このベース部12から突出しているオーバーハング部13とを含む。なお、ここでいうオーバーハング部とは、図1のようにベース部の一部から突出するような部分だけに限られない。積層造形物の種類によっては、ブリッジ部、横穴の天井部など、下方に空間があるために温度が力学的溶融温度よりも高い場合に自重によって形状が変形しやすい部分がある。そのような部分をオーバーハング部と称している。
【0014】
積層造形物11は、パウダベッド等に配置された金属粉末もしくは金属ワイヤなどの材料に対して照射されるレーザビーム等による熱源14を水平方向(x方向もしくはy方向)に走査することにより各層が形成される。熱源14は1つであってもよいが、同時に走査する熱源14が複数あってもよい。熱源14の走査により、材料を溶融させて1つの層を形成した後、次にその上にも別の層を形成し、さらにその上に別の層を形成するという処理を繰り返すことにより、最終的に複数の層が積層方向(z方向)に積層された積層造形物11が造形される。ベース部12もオーバーハング部13も、複数の層で形成される。オーバーハング部13のそれぞれの層は、同じ高さにある対応するベース部12の層と共に一体として形成される。
【0015】
積層造形物11が造形される工程では、図2(a)及び(b)に示されるように、熱源14の走査により材料が溶融して形成される溶融部(溶融した材料がまだ凝固していない熱源14近傍部分)と、熱源14が走査された後の既造形部(溶融した材料が既に凝固している部分)15と、熱源14が走査される前の未造形部(材料がまだ溶融していない部分)16とが存在する。熱源14が走査された後の既造形部は、同一の層で熱源が既に通過した部分のほか、その下の各層の既に造形された部分も含む。
【0016】
図3は、実施形態に係る三次元積層造形装置1の構成の一例を示すブロック図である。
【0017】
図3に示される三次元積層造形装置1は、例えばコンピュータを用いて実現される。当該コンピュータには、各種の機能を実現させるためのプログラムが所定の記録媒体に記録され、そのプログラムがプロセッサ51により実行されるようになっている。プロセッサ51が処理に使用するデータや生成したデータはメモリ52に記憶される。
【0018】
図3に示される三次元積層造形装置1は、主な機能として、温度評価部2、造形条件決定部3、および熱源走査部4を備える。
【0019】
温度評価部2は、積層造形物11のオーバーハング部13が造形される工程において熱源14の走査に応じて変化しうる少なくともオーバーハング部13の温度場(温度分布)の時間的変化を造形条件ごとに評価するものである。
【0020】
造形条件は、予熱工程(材料を溶融させる前に予熱を行う工程)、溶融工程(材料を溶融させる工程)、後熱工程(材料を溶融させた後に後熱を行う工程)のそれぞれにおける、熱源14の入熱量、走査速度、ビーム半径、および走査シーケンス(層ごとの熱源14の走査パターン)を示すものである。なお、予熱工程と後熱工程は、省略することが可能である。
【0021】
温度評価部2は、材料物性入力部21、造形物形状入力部22、造形条件入力部23、および熱伝導解析部24を含む。
【0022】
材料物性入力部21は、造形物の造形に使用する材料の材料物性を示すデータ(温度依存性を有する材料物性値)を熱伝導解析部24に入力するものである。当該データは、外部から材料物性入力部21を通じて熱伝導解析部24に供給することが可能である。
【0023】
造形物形状入力部22は、解析対象の層における造形物の形状(パウダベッド等の形状を含む)を示すデータを熱伝導解析部24に入力するものである。当該データは、外部から造形物形状入力部22を通じて熱伝導解析部24に供給することが可能である。
【0024】
造形条件入力部23は、予熱工程、溶融工程、後熱工程のそれぞれにおける、熱源14の入熱量、走査速度、ビーム半径、および走査シーケンスを示す造形条件のデータを熱伝導解析部24に入力するものである。当該データは、外部から造形条件入力部23を通じて熱伝導解析部24に供給することが可能である。
【0025】
熱伝導解析部24は、材料物性入力部21、造形物形状入力部22、および造形条件入力部23から供給される各種データを入力し、それらのデータを用いて、予熱工程、溶融工程、後熱工程のそれぞれについて、材料物性を示すデータおよび造形物形状を示すデータに基づき、造形条件(例えば、熱源14の入熱量、走査速度、ビーム半径、および走査シーケンス)を変数とする熱伝導解析を行うことにより、造形条件が異なるオーバーハング部13の温度場の時間的変化を示す複数のデータを生成する。
【0026】
造形条件決定部3は、温度評価部2により評価された造形条件ごとの温度場の時間的変化を示す複数のデータに基づき、オーバーハング部13が造形される工程において熱源14により材料が溶融して形成される溶融部がその凝固過程で力学的溶融温度に達する際に、既に凝固しているオーバーハング部13の既造形部のうちの少なくとも熱源14から一定距離以上離れた所定の範囲内にある既造形部分の温度場が力学的溶融温度以上に保持されており、かつ、当該既造形部分と上記溶融部とが予め定めた温度差の範囲に収まる温度場を保ちながら(即ち、できるだけ均一な温度場を保ちながら)力学的溶融温度未満に冷却される造形条件を決定するものである。力学的溶融温度は、ヤング率が溶融金属程度の非常に小さい値を示す温度(降伏応力がほとんど0となる温度)であり、使用される材料に依存する材料固有の物性値である。
【0027】
上記既造形部分は、上記溶融部の大きさに応じた範囲に設定されることが望ましい。また、造形条件決定部3で使用する力学的溶融温度の値には、実験的に求めた値を適用してもよい。
【0028】
要件を満たす造形条件が無い場合には、要件を満たす造形条件が得られるまで、温度評価部2に対して造形条件の修正および修正後の造形条件に基づく温度場の時間的変化の再評価を指示する(フィードバック制御を行う)ようにしてもよい。あるいは、造形条件の修正が必要である旨を外部に通知し、改めて修正後の造形条件を外部から造形条件入力部23を通じて温度評価部2に供給するようにしてもよい。
【0029】
熱源走査部4は、造形条件決定部3により決定された造形条件に基づき、熱源14の走査を実施するものである。
【0030】
熱源走査部4は、予熱-熱源走査部41、溶融-熱源走査部42、および後熱-熱源走査部43を含む。
【0031】
予熱-熱源走査部41は、予熱工程において、造形条件決定部3により決定された予熱工程に対応する造形条件に基づく熱源走査を外部の図示しない熱源走査装置に指示するものである。
【0032】
この予熱-熱源走査部41は、例えば、予熱工程において、オーバーハング部13もしくはその周辺を選択的に繰り返し予熱し、オーバーハング部13もしくはその周辺の温度を溶融温度以下および力学的溶融温度以上の温度範囲内に収まるように調整する。予熱を行うタイミングは、溶融工程の直前であってもよいし、溶融工程の途中であってもよい。
【0033】
溶融-熱源走査部42は、溶融工程において、造形条件決定部3により決定された溶融工程に対応する造形条件に基づく熱源走査を外部の図示しない熱源走査装置に指示するものである。
【0034】
この溶融-熱源走査部42は、例えば、溶融工程において、オーバーハング部13にて熱源14を走査する方向を水平面のうちオーバーハング部13が積層造形物11のベース部12から突出する方向(x方向)に垂直な方向(y方向もしくはその反対方向)とし、走査する熱源14を定期的に当該熱源の幅よりも小さいピッチで上記突出する方向(x方向)へ移動させてから走査方向の向きを反対方向にする折り返しを繰り返しながら熱源14の走査を行う。
【0035】
走査面における熱源14の面積の大きさ(熱源サイズ)は、熱源14の入熱量および走査速度に応じて設定されてもよい。走査方向は熱源サイズに応じて変えなくてもよいが、折返しピッチ(y方向のピッチ)は、熱源サイズに応じて変わりうる。例えば、熱源サイズが比較的小さい場合は、図4(a)に示されるように、折返しピッチは熱源サイズに応じて小さく設定され、複数の熱源14で分担して走査が行われるようにしてもよい。一方、熱源サイズが比較的大きい場合は、図4(b)に示されるように、折返しピッチは熱源サイズに応じて大きく設定され、1つの熱源14のみで走査が行われるようにしてもよい。
【0036】
後熱-熱走査部43は、後熱工程において、造形条件決定部3により決定された後熱工程に対応する造形条件に基づく熱源走査を外部の図示しない熱源走査装置に指示するものである。
【0037】
この後熱-熱走査部43は、例えば、後熱工程において、オーバーハング部13もしくはその周辺を選択的に繰り返し後熱し、オーバーハング部13もしくはその周辺の温度を溶融温度以下および力学的溶融温度以上の温度範囲内に収まるように調整する(オーバーハング部13やその周辺の温度ができるだけ均一になるようにする)。その際の熱源14の走査シーケンスは、図4(a)及び(b)で説明したような条件に限定されるものではない。
【0038】
次に、図5乃至図8を参照して、温度評価部2により評価される温度場の時間的変化に基づいて造形条件の良し悪しを判定する手法の例、及び、要件を満たさない造形条件を適切に修正する手法の例について説明する。
【0039】
図5は、オーバーハング部13の温度場の評価の説明に使用する簡易なモデルの例を示す図である。
【0040】
図5に示されるように、オーバーハング部13に、既凝固点A、既凝固点B、評価点Vを設ける。
【0041】
熱源14が走査された後のオーバーハング部13の既造形部のうち、走査中の熱源14がある層よりも下方に位置する層の任意の点を既凝固点Aとし、走査中の熱源14がある層と同じ層の任意の点を既凝固点Bとする。熱源14がこれから走査されるオーバーハング部13の未造形部の任意の点を評価点Vとする。
【0042】
図6(a)及び(b)に、温度評価部2による評価結果の例(その1)を示す。
図6(a)は要件を満たさない造形条件による温度場の時間的変化の例を示すものであり、図6(b)は要件を満たす造形条件による温度場の時間的変化の例を示すものである。
【0043】
図6(a)の例では、走査中の熱源14が評価点Vに達してその場所の溶融が開始されると、実線の曲線に示されるように、評価点Vの温度が急上昇する。その後、評価点Vの温度は低下していき、時刻tにおいて一定の温度領域幅を有する力学的溶融温度Tmeltに達する。このとき、既凝固点A,Bの温度T(t),T(t)は、すでに力学的溶融温度Tmeltを下回っており、評価点Vの温度からかけ離れた状態にある。このような場合、オーバーハング部13の凝固時の温度分布に偏りが生じ、面外変形が発生しやすい。
【0044】
図6(a)のような評価結果に対しては、例えば「熱源の走査速度」を適切に変えることよって造形条件を修正すれば、要件を満たす造形条件を実現することができる。
【0045】
図6(b)の例では、図6(a)の場合よりも「熱源の走査速度」が高く設定されている。走査中の熱源14が早く評価点Vに達することから、図6(a)の場合よりも早く評価点Vの溶融が開始され、実線の曲線に示されるように、評価点Vの温度が急上昇し、その後に低下し、前述した時刻tよりも早い時刻t**に力学的溶融温度Tmeltに達する。このとき、既凝固点A,Bの温度T(t**),T(t**)は、まだ力学的溶融温度Tmeltの下限値以上を保持しており、評価点Vの温度と同様に力学的溶融温度Tmeltの温度領域内にある。そのため、既凝固点A,Bがある既造形部分と評価点Vがある溶融部とは、共に、予め定めた温度差の範囲に収まる温度場を保ちながら(ほぼ均一な温度場を保ちながら)力学的溶融温度未満に冷却される。このような場合、オーバーハング部13の凝固時の温度分布はほぼ均一となり、面外変形が発生しにくい。
【0046】
図7(a)及び(b)に、温度評価部2による評価結果の例(その2)を示す。
図7(a)は要件を満たさない造形条件による温度場の時間的変化の例を示すものであり、図7(b)は要件を満たす造形条件による温度場の時間的変化の例を示すものである。
【0047】
図7(a)は、前述した図6(a)と同じものであり、その説明については省略する。
【0048】
図7(a)のような評価結果に対しては、例えば「予熱」の処理を適切に加えることよって造形条件を修正すれば、要件を満たす造形条件を実現することができる。
【0049】
図7(b)の例では、図7(a)の場合において行われなかった「予熱」が行われるように設定されている。「予熱」は、オーバーハング部13の凝固時の温度分布に不均一な部分が生じないように、材料の溶融を行う前に要所に対して行われる。この「予熱」により、評価点Vの溶融が開始される前に、すでに力学的溶融温度Tmeltを下回っていた既凝固点A,Bの温度が上昇して力学的溶融温度Tmeltを上回る。そして、評価点Vの溶融が開始され、評価点Vの温度が急上昇し、その後に低下し、時刻tに力学的溶融温度Tmeltに達する。このとき、既凝固点A,Bの温度T(t),T(t)は、まだ力学的溶融温度Tmeltの下限値以上を保持しており、評価点Vの温度と同様に力学的溶融温度Tmeltの温度領域内にある。そのため、既凝固点A,Bがある既造形部分と評価点Vがある溶融部とは、共に、予め定めた温度差の範囲に収まる温度場を保ちながら(ほぼ均一な温度場を保ちながら)力学的溶融温度未満に冷却される。このような場合、オーバーハング部13の凝固時の温度分布はほぼ均一となり、面外変形が発生しにくい。
【0050】
図8(a)及び(b)に、温度評価部2による評価結果の例(その3)を示す。
図8(a)は要件を満たさない造形条件による温度場の時間的変化の例を示すものであり、図8(b)は要件を満たす造形条件による温度場の時間的変化の例を示すものである。
【0051】
図8(a)は、前述した図6(a)や図7(a)と同じものであり、その説明については省略する。
【0052】
図8(a)のような評価結果に対しては、例えば「後熱」の処理を適切に加えることよって造形条件を修正すれば、要件を満たす造形条件を実現することができる。
【0053】
図8(b)の例では、図8(a)の場合において行われなかった「後熱」が行われるように設定されている。「後熱」は、オーバーハング部13の凝固時の温度分布に不均一な部分が生じないように、材料の溶融を行った後に要所に対して行われる。走査中の熱源14が評価点Vに達してその場所の溶融が開始されると、実線の曲線に示されるように、評価点Vの温度が急上昇し、その後、評価点Vの温度は低下していく。そして、「後熱」により、評価点Vの温度が再び上昇するとともに、すでに力学的溶融温度Tmeltを下回っていた既凝固点A,Bの温度が上昇して力学的溶融温度Tmeltを上回る。評価点Vの温度と既凝固点A,Bの温度とは共に低下し、時刻t***に力学的溶融温度Tmeltに達する。このとき、既凝固点A,Bの温度T(t***),T(t***)は、まだ力学的溶融温度Tmeltの下限値以上を保持しており、評価点Vの温度と同様に力学的溶融温度Tmeltの温度領域内にある。そのため、既凝固点A,Bがある既造形部分と評価点Vがある溶融部とは、共に、予め定めた温度差の範囲に収まる温度場を保ちながら(ほぼ均一な温度場を保ちながら)力学的溶融温度未満に冷却される。このような場合、オーバーハング部13の凝固時の温度分布はほぼ均一となり、面外変形が発生しにくい。
【0054】
次に、図9を参照して、図3に示される三次元積層造形装置1による動作の一例を説明する。
【0055】
最初に、温度評価部2において、少なくともオーバーハング部13の温度場(温度分布)の時間的変化が造形条件ごとに評価される(ステップS1)。
【0056】
具体的には、材料物性入力部21により、造形物の造形に使用する材料の材料物性を示すデータ(温度依存性を有する材料物性値)が熱伝導解析部24に入力され、造形物形状入力部22により、解析対象の層における造形物の形状(パウダベッド等の形状を含む)を示すデータが熱伝導解析部24に入力され、造形条件入力部23により、予熱工程、溶融工程、後熱工程のそれぞれにおける、熱源14の入熱量、走査速度、ビーム半径、および走査シーケンスを示す造形条件のデータが熱伝導解析部24に入力される。
【0057】
また、熱伝導解析部24により、材料物性入力部21、造形物形状入力部22、および造形条件入力部23から供給される各種データを入力し、それらのデータを用いて、予熱工程、溶融工程、後熱工程のそれぞれについて、材料物性を示すデータおよび造形物形状を示すデータに基づき、造形条件(例えば、熱源14の入熱量、走査速度、ビーム半径、および走査シーケンス)を変数とする熱伝導解析を行うことにより、造形条件が異なるオーバーハング部13の温度場の時間的変化を示す複数のデータを生成する処理が行われる。
【0058】
次に、造形条件決定部3において、温度評価部2により評価された造形条件ごとの温度場の時間的変化に基づき、オーバーハング部13が造形される工程において熱源14により材料が溶融して形成される溶融部がその凝固過程で力学的溶融温度に達する際に、既に凝固しているオーバーハング部13の既造形部のうちの少なくとも熱源14から一定距離以上離れた所定の範囲内にある既造形部分の温度場が力学的溶融温度以上に保持されており、かつ、当該既造形部分と上記溶融部とが予め定めた温度差の範囲に収まる温度場を保ちながら(即ち、できるだけ均一な温度場を保ちながら)力学的溶融温度未満に冷却される造形条件を決定する処理が行われる(ステップS2)。
【0059】
要件を満たす造形条件が無い場合には、要件を満たす造形条件が得られるまで、温度評価部2に対して造形条件の修正および修正後の造形条件に基づく温度場の時間的変化の再評価を指示する(フィードバック制御を行う)処理が行われる。
【0060】
最後に、熱源走査部4において、造形条件決定部3により決定された造形条件に基づき、熱源14の走査を実施する処理が行われる(ステップS3)。
【0061】
具体的には、予熱-熱源走査部41により、予熱工程において、造形条件決定部3により決定された予熱工程に対応する造形条件に基づく熱源走査を外部の図示しない熱源走査装置に指示する処理が行われる。
【0062】
また、溶融-熱源走査部42により、溶融工程において、造形条件決定部3により決定された溶融工程に対応する造形条件に基づく熱源走査を外部の図示しない熱源走査装置に指示する処理が行われる。
【0063】
また、後熱-熱走査部43により、後熱工程において、造形条件決定部3により決定された後熱工程に対応する造形条件に基づく熱源走査を外部の図示しない熱源走査装置に指示する処理が行われる。
【0064】
以上詳述したように、実施形態によれば、積層造形物のオーバーハング部を造形する際の面外変形の発生を抑制することができる。さらに、オーバーハング部についてサポート配置を不要とする造形が可能になり、加工などの後工程の工数を低減することもできる。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1…三次元積層造形装置、2…温度評価部、3…造形条件決定部、4…熱源走査部、11…積層造形物、12…ベース部、13…オーバーハング部、14…熱源、15…既造形部、16…未造形部、21…材料物性入力部、22…造形物形状入力部、23…造形条件入力部、24…熱伝導解析部、41…予熱-熱源走査部、42…溶融-熱源走査部、43…後熱-熱源走査部、51…プロセッサ、52…メモリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9