(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】車両の走行制御方法及び走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/09 20120101AFI20240708BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240708BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20240708BHJP
【FI】
B60W30/09
G08G1/16 D
B60W60/00
(21)【出願番号】P 2020202686
(22)【出願日】2020-12-07
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒川 貴都
(72)【発明者】
【氏名】松永 寛之
(72)【発明者】
【氏名】田家 智
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-135215(JP,A)
【文献】特開2019-200464(JP,A)
【文献】特開2016-122308(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0182587(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0133610(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 60/00
G08G 1/00 - 99/00
G01C 21/00 - 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両を自律走行制御し、走行経路に沿って、非優先道路から優先道路へ進入させる場合において、
前記優先道路の、前記非優先道路からの進入地点より上流側に、前記自車両からの死角を生じさせる物体が存在するときは、
前記非優先道路から前記優先道路へ進入する前記自車両の走行経路上に、前記死角が解消する死角解消位置が存在するか否かを判定し、
前記死角解消位置が存在するか否かに基づいて、前記自車両を前記優先道路に進入させる自律走行制御を実行する
車両の走行制御方法において、
前記非優先道路から前記優先道路へ進入する前記自車両の走行経路上に前記死角解消位置が存在すると判定された場合には、前記自車両の停止位置を、前記非優先道路から前記優先道路への進入地点から、前記死角解消位置に更新する車両の走行制御方法。
【請求項2】
前記非優先道路から前記優先道路へ進入する前記自車両の走行経路上に前記死角解消位置が存在しないと判定された場合には、前記走行経路に沿って前記自車両を前記優先道路に進入させる請求項1に記載の車両の走行制御方法。
【請求項3】
前記走行経路に沿って前記自車両を前記優先道路に進入させる場合に、前記優先道路に存在する移動物体を検出し、
前記自車両と前記移動物体とが干渉するか否かを判定し、
干渉すると判定した場合は、前記自車両を停止する請求項2に記載の車両の走行制御方法。
【請求項4】
前記非優先道路から前記優先道路へ進入する前記自車両の走行経路上に前記死角解消位置が存在すると判定された場合には、前記走行経路に沿って前記自車両を前記死角解消位置まで前進させ、
前記優先道路に存在する移動物体を検出し、
前記自車両と前記移動物体とが干渉するか否かを判定し、
干渉しないと判定した場合は、前記走行経路に沿って前記自車両を走行させる請求項
1~3のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項5】
前記非優先道路から前記優先道路へ進入する前記自車両の走行経路上に前記死角解消位置が存在するか否かの判定は、前記走行経路のうちの、
前記自車両が、前記非優先道路から前記優先道路へ進入する進入地点から、
前記自車両が、前記優先道路に進入を完了する位置に至るまでの走行経路に対して実行される請求項1~
4のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項6】
自車両の自律走行制御を実行するためのプロセッサを備える車両の走行制御装置において、
前記プロセッサは、
前記自車両を自律走行制御し、走行経路に沿って、非優先道路から優先道路へ進入させる場合であって、
前記優先道路の、前記非優先道路からの進入地点より上流側に、前記自車両からの死角を生じさせる物体が存在するときは、
前記非優先道路から前記優先道路へ進入する前記自車両の走行経路上に、前記死角が解消する死角解消位置が存在するか否かを判定し、
前記死角解消位置が存在するか否かに基づいて、前記自車両を前記優先道路に進入させる自律走行制御を実行
し、
前記非優先道路から前記優先道路へ進入する前記自車両の走行経路上に前記死角解消位置が存在すると判定された場合には、前記自車両の停止位置を、前記非優先道路から前記優先道路への進入地点から、前記死角解消位置に更新する車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御方法及び走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非優先道路から優先道路に進入する場面において、進入先の優先道路に停車する車両により自車両からの死角が生じる場合がある。その際、自車両からの死角情報と、自車両と後続車両の通過可能性との組み合わせに基づいて、死角が解消するまで自車両の停止又は発進を制御する走行支援システムが知られている。この走行支援システムでは、優先道路に停車する車両の状況に拘らず、自車両からの死角が生じる場合は、自車両の停止又は発進を判断し制御する(特許文献1の
図4A,
図4Bの第2走行シーン参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術では、進入先の優先道路に死角が生じる場合はいつでも、自車両の停止又発進の制御を繰り返すので、円滑な走行が妨げられるという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、進入先の優先道路に死角が生じたとしても、円滑に優先道路に進入することができる車両の走行制御方法及び車両の走行制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自車両を走行経路に沿って、非優先道路から優先道路へ進入させる場合において、優先道路の、非優先道路からの進入地点より上流側に、自車両からの死角を生じさせる物体が存在するときは、非優先道路から優先道路へ進入する自車両の走行経路上に、死角が解消する死角解消位置が存在するか否かを判定し、死角解消位置が存在するか否かに基づいて自律走行制御を実行することによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、非優先道路から優先道路へ進入する自車両の走行経路上に、死角が解消する死角解消位置が存在するか否かに基づいて、自車両の停止又は発進の判断をするので、自車両が優先道路を走行する他車両に干渉する可能性に応じて、自車両の停止又発進の制御をすることができる。その結果、進入先の優先道路に死角が生じたとしても、円滑に優先道路に進入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の車両の走行制御装置の一実施形態を示すブロック図である。
【
図2】本発明の車両の走行制御装置にて実行される走行制御の一例を示すフローチャートである。
【
図3A】本発明の車両の走行制御装置によって自律走行制御を実行する走行シーンの一例(その1)を示す平面図である。
【
図3B】本発明の車両の走行制御装置によって自律走行制御を実行する走行シーンの一例(その2)を示す平面図である。
【
図4A】本発明の車両の走行制御装置によって自律走行制御を実行する走行シーンの他例(その1)を示す平面図である。
【
図4B】本発明の車両の走行制御装置によって自律走行制御を実行する走行シーンの他例(その2)を示す平面図である。
【
図5】
図4A及び
図4Bの走行経路における死角解消位置の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る車両の走行制御装置1の構成を示すブロック図である。本実施形態の車両の走行制御装置1は、本発明に係る車両の走行制御方法を実施する一実施の形態でもある。
【0010】
図1に示すように、本実施形態の車両の走行制御装置1は、物体検出部11、目的地設定部14、自車位置推定部12、地図取得部13、処理部15、提示部17及びアクチュエータ18を備える。これらの装置は、たとえばCAN(Controller Area Network)その他の車載LANにより接続され、相互に情報の送受信を行うことができる。
【0011】
物体検出部11は、自車両V1の周囲に存在する物体を検出する物体検出センサを備える。たとえば、物体検出センサとして、自車両の前方を撮像する前方カメラ、自車両の後方を撮像する後方カメラ、自車両の前方の障害物を検出する前方レーダー、自車両の後方の障害物を検出する後方レーダー、自車両の左右の側方に存在する障害物を検出する側方レーダーなどが挙げられる。物体検出部11は、上述した複数のセンサのうち1つを物体検出センサとして用いる構成としてもよいし、複数の異なる種類のセンサを組み合わせて用いる構成としてもよい。
【0012】
物体検出部11は、物体検出センサを用いて、自車両V1の周囲の走行環境を検出する。物体検出センサが検出する対象物は、たとえば、自車両以外の自動車(他車両)、オートバイ、自転車、歩行者を含む移動物体、及び停止車両を含む静止物体である。物体検出部11は、これらの対象物の自車両に対する位置、姿勢、大きさ、速度、加速度、ヨーレート等を検出し、検出結果を所定時間間隔で処理部15に出力する。なお、物体検出センサは、自車両V1の周囲に存在する路面標識、道路標識、ガードレール等の自車両V1の走行に影響を与える可能性がある物体を検出するものであってもよい。
【0013】
自車位置推定部12は、GPS(Global Positioning System)ユニット、ジャイロセンサ、車速センサなど自車両V1の現在位置を計測する位置検出センサを備える。自車位置推定部12は、GPSユニットにより複数の衛星通信から送信される電波を検出し、自車両V1の位置情報を周期的に取得する。また、自車位置推定部12は、取得した自車両V1の位置情報と、ジャイロセンサから取得した角度変化情報と、車速センサから取得した車速とに基づいて、自車両V1の現在位置、姿勢、速度、加速度等を検出し、検出結果を所定時間間隔で処理部15に出力する。
【0014】
地図取得部13は、自車両V1が走行する道路の構造を示す地図情報を格納した、地図データベースを備える。なお、地図取得部13は、処理部15からアクセス可能な地図データベースを所有してもよいし、クラウドコンピューティングにより地図情報を外部の地図データサーバから取得してもよい。地図取得部13が取得する地図データは、いわゆる三次元高精度地図情報であり、地図情報とともに、カーブ路及びそのカーブの大きさ(たとえば曲率又は曲率半径)、道路の合流地点、分岐地点、料金所、車線数の減少位置などの詳細かつ高精度の位置情報が、三次元情報として関連付けられた地図情報である。
【0015】
目的地設定部14は、自車両V1の走行経路TRを設定するために必要な目的地の情報をユーザから受け付けし、処理部15に出力する。
【0016】
処理部15は、制御部またはコントローラの一例であり、自車両の走行を制御するためのプログラムを格納したROM(Read Only Memory)と、このROMに格納されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)等を備える。なお、動作回路としては、CPUに代えて又はこれとともに、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などを用いることができる。
【0017】
処理部15は、ROMに格納されたプログラムをCPUにより実行することにより、走行制御装置1が備える地図内位置演算部151、自車経路生成部152、及び自律走行制御部16の各情報処理を実現する。なお、本実施形態では、処理部15内に地図内位置演算部151、自車経路生成部152、及び自律走行制御部16を構成しているが、各情報処理を実行するためのハードウェアを処理部15とは別個に構成してもよいし、情報処理ごとに異なるハードウェアで構成してもよい。さらに、地図内位置演算部151、自車経路生成部152、及び自律走行制御部16は、車両にかかわる他の制御に用いる電子制御ユニット(ECU)と兼用してもよい。なお、走行制御装置1が備える処理部15における、地図内位置演算部151、自車経路生成部152、及び自律走行制御部16の各情報処理については、後述する。
【0018】
提示部17は、処理部15の制御に応じて、ユーザに各種の提示情報を通知する。提示部17は、たとえば、ナビゲーション装置のディスプレイ等の表示装置や、オーディオ装置のスピーカー等の出力装置から構成される。
【0019】
アクチュエータ18は、処理部15からの実行指令を受信して、自車両V1のアクセルやブレーキ、ステアリング等の各部を駆動する。たとえば、アクチュエータ18は、自律速度制御機能により自車両が設定速度で定速走行する場合には、自車両が設定速度となるように、加速および減速、並びに走行速度を維持するために、駆動機構の動作(エンジン自動車にあっては内燃機関の動作、電気自動車系にあっては走行用モータの動作を含み、ハイブリッド自動車にあっては内燃機関と走行用モータとのトルク配分も含む)およびブレーキ動作を制御する。また、アクチュエータ18は、自律速度制御機能により自車両が先行車両に追従走行する場合には、自車両と先行車との車間距離が一定距離となるように、加減速度および走行速度を実現するための駆動機構の動作およびブレーキ動作を制御する。
【0020】
また、アクチュエータ18は、自律操舵制御機能により、上述した駆動機構とブレーキの動作制御に加えて、ステアリングアクチュエータの動作を制御することで、自車両の操舵制御を実行する。たとえば、アクチュエータ18は、自律操舵制御機能によりレーンキープ制御を実行する場合に、自車両が走行する自車線のレーンマーカを検出し、自車両が自車線内の所定位置を走行するように、自車両の幅員方向における走行位置を制御する。また、アクチュエータ18は、車線変更支援を実行する場合に、自車両が車線変更を行うように、自車両の幅員方向における走行位置を制御する。さらに、アクチュエータ18は、自律操舵制御機能により右左折支援を実行する場合には、交差点などにおいて右折又は左折する走行制御を行う。なお、アクチュエータ18による走行制御方法として、その他の公知の方法を用いることもできる。また、本実施形態の自律走行制御部16が実行する自律走行制御は、自律走行制御及び自律操舵制御の全てを実行すること以外にも、自律走行制御及び自律操舵制御の一部を実行し、残余はドライバーの手動操作に依ることも含まれる。
【0021】
次に、走行制御装置1の処理部15における、地図内位置演算部151、自車経路生成部152、及び自律走行制御部16の各情報処理について、必要に応じて
図3A~
図5を参照しながら説明する。
【0022】
地図内位置演算部151は、自車位置推定部12により検出された自車両V1の現在位置と、地図取得部13により取得された地図データから、地図上における自車両V1の位置及び姿勢を演算する。たとえば、自車両V1が走行している道路や、当該道路における自車両V1の走行車線を特定する。
【0023】
自車経路生成部152は、地図内位置演算部151で算出した、地図上における自車両V1の情報と、目的地設定部14でユーザから受け付けた目的地情報から、目的地までのルート(走行経路)を演算し、予め設定された経路探索条件に基づいて、自車両V1の走行経路TRを生成する。経路探索条件は、たとえば、地図取得部13で取得した地図データや、走行経路TR及び走行経路TR周辺の交通情報、交通法規、時間帯、道路種別及び経路決定におけるユーザの優先事項等により設定されてもよい。
【0024】
自律走行制御部16は、物体検出部11により検出された物体の検出結果と、自車経路生成部152により生成された自車両V1の走行経路TRに基づいて、自車両V1を自律走行制御する。特に本実施形態の自律走行制御部16は、自車両V1を非優先道路から優先道路へ進入させる場合に、以下の制御を実行する。なお、以下においては、日本の交通法規のように、車両は左側通行、人間は右側通行と規定された交通法規に従う走行シーンに、本発明を適用した例を説明する。ただし、車両は右側通行と規定された交通法規に従う走行シーンに対しても、以下の説明において左右を入れ替えた読み替えを行うことにより、本発明を適用することができる。
【0025】
図3A~
図5で例示される走行シーンは、自車両V1が走行する合流道路2(非優先道路)が1車線道路であり、自車両V1が進入する進入目標道路3(優先道路)が片側2車線の対向道路である。ただし、本発明が適用できる範囲は図示する構成のみに限定されず、複数車線の合流道路2であってもよく、1車線又は3車線以上の進入目標道路3であってもよい。
【0026】
図3A及び
図3Bは、自車両V1を非優先道路である合流道路2から、優先道路である進入目標道路3(の進入目標車線31)に進入させる場合の走行シーンの一例を示す平面図である。自車両V1が走行する合流道路2よりも優先度が高い、進入目標道路3に進入する場合、自車位置推定部12により、自車両V1が合流道路2の先頭に到着したことを認識すると、自律走行制御部16において、以下の優先道路進入処理が開始される。
【0027】
まず、
図3Aに示すように、進入位置特定部161は、自車両V1が走行する合流道路2と交差する道路を進入目標道路3として特定する。そして、自車経路生成部152によって生成された、自車両V1の走行経路TRの情報を取得し、進入目標道路3における自車両V1が進入を開始する位置、すなわち、合流道路2と進入目標道路3の接続地点を進入地点P1として設定する。自車両V1は、進入地点P1から走行経路TRに沿って進入目標車線31に進入する。
【0028】
次に、進入目標道路3の進入地点P1から上流側の所定範囲に認識領域Rを設定し、物体検出部11により、認識領域Rに存在する物体を検出する。認識領域Rを画定する範囲は、特に限定されないが、進入目標道路3の制限速度から設定してもよいし、自車両V1が進入目標車線31に進入を完了するまでに要する時間から設定してもよい。なお、進入目標道路3の進入地点P1から上流側とは、交通法規上の進行方向に沿う上流をいう。進入目標道路3に進入する際、自車両V1が注視しなければならないのは、進入地点P1より上流側だからである。
【0029】
進入目標道路3の認識領域Rに物体が検出されたとき、死角領域算出部162は、その物体により物体検出部11からの死角が生じるか否かを判定する。死角領域算出部162で取り扱い対象となる物体とは、瞬間的ではなく、ある程度の時間をもって死角領域が維持される物体をいう。したがって、車線内に駐車又は停車した車両などは死角を生じさせる物体に該当するが、進入目標道路3を走行する車両などは瞬間的にしか死角を生じさせないので、当該死角を生じさせる物体には該当しない。認識領域Rに検出された物体が、物体検出部11からの死角を生じさせないと判定された場合であって、自車両V1と当該物体との干渉が生じないときは、発進判断部163は、駆動装置のアクチュエータ18を制御して、自車両V1を進入地点P1から走行経路TRに沿って前進させ、進入目標車線31に進入させる制御を行う。
【0030】
ここで、自車両V1を進入地点P1から走行経路TRに沿って前進させる間にも、物体検出部11は、進入目標道路3の上流側に存在する物体を検出する。発進判断部163は、物体検出部11により物体が検出され、自車両V1と当該物体とが干渉する可能性が所定の閾値より高いと判定した場合には、制動装置のアクチュエータ18を制御して自車両V1を停止させる制御を行う。一方、物体が検出されない場合、または、自車両V1と検出された物体とが干渉する可能性が所定の閾値より低いと判定した場合には、発進判断部163は、自車両V1を前進させる制御を続行する。
【0031】
進入目標道路3の認識領域Rに物体が検出され、当該物体により物体検出部11からの死角が生じると判定された場合には、死角領域算出部162は、進入目標道路3の認識領域Rにおける死角領域BSを算出する。
図3Aに示すように、進入目標道路3の進入地点P1から上流側に他車両V2が停車していると、物体検出部11からの死角が生じる。他車両V2により生じた死角で、物体検出部11は、他車両V2の上流を走行する他車両V3を検出することができない。このように、死角領域算出部162は、認識領域Rに存在する物体を検出し、検出した物体により物体検出部11からの死角を生じる範囲に死角領域BSを算出する。
【0032】
次に、発進判断部163は、死角領域算出部162により算出された死角領域BSと、自車経路生成部152により生成された自車両V1の走行経路TRに基づいて、自車両V1の走行経路TR上の所定範囲に、死角解消位置EP(
図4B参照)が存在するか否かを判定する。本実施形態の死角解消位置EPとは、自車両V1の走行経路TR上の位置であって、進入目標道路3における死角領域BSが解消し、物体検出部11が進入目標道路3の進入地点P1より上流側を見通すことができる位置をいう。
【0033】
死角解消位置EPを検出する、自車両V1の走行経路TR上の所定範囲は、特に限定されないが、
図5に示すように、進入目標道路3に自車両V1が進入を開始する進入地点P1から、進入目標道路3に自車両V1が進入を完了する走行地点P2に至るまでの位置に設定することが好ましい。死角解消位置EPの画定範囲を大きく設定すると、自車両V1と干渉する可能性の低い余計な他車両まで検出し、不要な自車両の停止又発進の制御を繰り返すおそれがあるからである。なお、走行経路TR上の所定範囲は、自車両V1が進入地点P1から走行する距離に設定してもよいし、進入地点P1を通過してから走行する時間に設定してもよい。
【0034】
図3Bは、
図3Aに示す状態から自車両V1が走行経路TRに沿って前進した状態を示している。自車両V1が前進した際の認識領域を認識領域RLとし、自車両V1が前進した際の死角領域を死角領域BSLとする。進入目標道路3に検出された他車両V2は、自車両V1の進入目標車線31の上流に存在し、進入目標車線31の幅員方向を大きく占めた状態で停車している。他車両V2が進入目標車線31の幅員方向を塞いでいるため、自車両V1が進入目標車線31に進入した後も、認識領域RLに死角領域BSLが生じる。このような場合、発進判断部163は、自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在しないと判定する。死角領域BSを解消しようとすると、自車両V1は、進入目標車線31に進入した後も、他車両V2の幅員方向に前進しなければならず、走行経路TR(点線矢印)を外れて大きな軌道を描いて左折することになるからである。
【0035】
死角領域BSを生じさせる物体の位置、大きさ、姿勢など、進入目標車線31を占有する状況によっては、自車両V1が進入目標車線31に進入した後も、自車両V1の走行経路TR上では死角領域BSが解消しない場合がある。一方、他車両V2が進入目標車線31の幅員方向を大きく占めた状態であるときは、当該他車両V2が直進を遮る障壁になることから、他車両V2より上流に存在する他車両と、進入目標車線31に進入しようとする自車両V1が干渉する可能性は低い。そのため、自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在しないと判定した場合には、発進判断部163は、駆動装置のアクチュエータ18を制御して、自車両V1を進入地点P1から走行経路TRに沿って前進させ、進入目標車線31に進入させる制御を行う。
【0036】
このように、進入先の優先道路である進入目標道路3に死角が生じたとしても、自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPがなく、自車両V1と他車両が干渉する可能性が低い場合には、自車両V1を進入目標道路3に進入させる制御を行うので、不要な停止又は発進の制御が繰り返し行われることを抑制することができる。これにより、自車両V1を円滑に進入目標道路3に進入させることができる。さらに、優先道路である進入目標道路3に進入を完了するまでの時間を短縮することができ、不要な停止又は発進の制御が行われることによるユーザのストレスを軽減することができる。
【0037】
また、自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPがない場合には、自車両V1の走行状況に応じて死角解消位置EPを再度演算したり、自車両V1の走行経路TRを再度設定したりする必要がないので、余計な演算処理を抑制することができる。
【0038】
図3Bに戻り、自車両V1が進入地点P1から進入目標車線31に進入を開始し、進入目標車線31への進入を完了するまでの間にも、物体検出部11は、進入目標道路3の上流側に存在する物体の検出を続行する。自車両V1を優先道路に進入させる制御を開始したのちも、自車両V1と他車両の干渉する可能性に応じて適切な停止又は発進の制御を行い、安全性に配慮しながら自車両V1を優先道路である進入目標道路3に進入させるためである。
【0039】
発進判断部163は、検出された物体と自車両V1とが干渉する可能性が所定の閾値より高いと判定した場合、たとえば、
図3Bに示す他車両V3が、他車両V2の横を通過したのちに、車線を変更して進入目標車線31に進入してきたことにより、自車両V1と干渉する可能性が生じたような場合には、制動装置のアクチュエータ18を制御して自車両V1を停止させる制御を行う。一方、進入目標道路3の上流側に物体が検出されない場合、または、検出された物体と自車両V1とが干渉する可能性が所定の閾値より低いと判定した場合には、発進判断部163は、駆動装置のアクチュエータ18を制御して自車両V1を前進させる制御を行う。
【0040】
図4A及び
図4Bは、自車両V1を非優先道路である合流道路2から、優先道路である進入目標道路3(の進入目標車線32)に進入させる場合の走行シーンの他例を示す平面図である。
図4Aに示すように、自車両V1は、進入地点P1から進入目標道路3への進入を開始し、他車両V2が停車する車線31を跨いで進入目標車線32に進入する。
図3A及び
図3Bに示す走行シーンと異なる点は、自車両V1の進入目標車線32が、他車両V2が停車する車線31と異なる車線とされる点である。自律走行制御部16の優先道路進入処理が開始された後、進入位置特定部161により進入地点P1を設定し、物体検出部11により進入目標道路3の認識領域Rに存在する物体を検出し、死角領域算出部162により死角領域BSを算出するまでの流れは、
図3A及び
図3Bと同様であるためここに援用し、詳細な説明を省略する。
【0041】
図4Bは、
図4Aに示す状態から自車両V1が走行経路TRに沿って前進した状態を示している。自車両V1が前進した際の認識領域を認識領域RLとする。自車両V1が進入地点P1から進入目標道路3への進入を開始し、死角領域BSを生じさせる他車両V2の付近まで前進すると、
図4Bに示すように、認識領域RLにおける死角は解消する。その結果、物体検出部11は、進入目標道路3の進入地点P1より上流側を見通すことができるようになり、他車両V2の上流を走行している他車両V3を検出できる。このような場合に、発進判断部163は、自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在すると判定する。そして、停止位置決定部164は、自車両V1の停止位置を死角解消位置EPに設定する。自車両V1の停止位置を死角解消位置EPに設定することで、進入目標車線32の見通しが良くなり、他車両V3を検出しやすくなるからである。
【0042】
停止位置決定部164は、優先道路進入処理が開始されると、自車両V1の停止位置を、
図4Aに示すように、自車両V1の走行経路TR上であって、進入目標道路3に自車両V1が進入を開始する、進入地点P1に設定する。ここで、上述したように、発進判断部163により自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在すると判定された場合には、停止位置決定部164は、自車両V1の停止位置を、進入地点P1から死角解消位置EPに更新する。自車両V1の停止位置を更新することにより、進入目標車線32を走行する他車両V3の検出精度を高めることができる。
【0043】
自車両V1の停止位置が死角解消位置EPに更新されると、発進判断部163は、駆動装置のアクチュエータ18を制御して自車両V1を進入地点P1から進入目標道路3に進入させ、死角解消位置EPまで走行経路TRに沿って前進させる。進入地点P1から死角解消位置EPまで自車両V1を前進させる間にも、物体検出部11は、進入目標道路3の上流側に存在する物体の検出を続行する。進入目標車線32の見通しが良くなるまでの、安全性に配慮するためである。
【0044】
そして、自車両V1が死角解消位置EPまで前進したのちも、物体検出部11により進入目標道路3の上流側に存在する物体の検出を継続しつつ、発進判断部163は、進入目標車線32への進入を完了するまで、自車両V1を走行経路TRに沿って前進させる。進入地点P1から死角解消位置EPまでの走行制御と同様に、物体検出部11は、死角解消位置EPから進入目標車線32への進入を完了するまで物体の検出を続行する。これにより、自車両V1と他車両の干渉する可能性に応じ、安全性に配慮しながら不要な停止制御が行われるのを抑制することができる。
【0045】
このように、合流道路2から優先度の高い進入目標道路3に進入する際、自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在するか否かに基づいて、自車両の停止又は発進の判断をすることで、自車両が優先道路を走行する他車両に干渉する可能性に応じて、自車両の停止又発進の制御をすることができる。その結果として、自車両V1を進入目標道路3に円滑に進入させることができる。
【0046】
次に、本実施形態の走行制御について説明する。
図2は、本実施形態の自律走行制御部16にて実行される走行制御の一例を示すフローチャートである。図示する処理は、本実施形態の自車位置推定部12により、自車両V1が合流道路2の先頭に到着したことを認識すると開始され、所定の時間間隔で実行される。
【0047】
まず、ステップS1において、
図3Aに示す進入目標道路3までの自車両V1の走行経路TRを取得し、進入地点P1を設定する。続くステップS2において、進入目標道路3の進入地点P1から上流側の認識領域Rに存在する物体を検出する。次に、ステップS3において、検出された物体により物体検出部11からの死角が存在するか否かを判定し、死角領域BSが存在すると判定した場合には、ステップS4へ進む。ステップS3において、検出された物体により物体検出部11からの死角が存在しないと判定した場合には、ステップS5へ進む。
【0048】
ステップS3の判定の結果、
図3Aに示すように、死角領域BSが存在する場合、ステップS4において、自車両V1の走行経路TR上の所定範囲に死角解消位置EPが存在するか否かを判定する。たとえば、
図3Bに示すように、ステップS2で検出された他車両V2が、自車両V1の進入目標車線31の延在方向の上流に存在し、進入目標車線31の幅員方向を大きく占める状態であるときは、自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在しないと判定し、ステップS5へ進む。
【0049】
これに対して、
図4Bに示すように、自車両V1の進入目標車線32が、他車両V2の停車する車線31と異なる車線であり、自車両V1が走行経路TRに沿って前進すると死角領域BSが解消するときは、自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在すると判定し、ステップS7へ進む。そして、ステップS7において、自車両V1の停止位置を死角解消位置EPに設定し、ステップS8において、自車両V1を死角解消位置EPまで前進させる。
【0050】
ステップS3の判定の結果、認識領域Rに検出された物体により物体検出部11からの死角が存在しない場合、ステップS4の判定の結果、自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在しない場合、およびステップS8において自車両V1を死角解消位置EPまで前進させた場合には、ステップS5において、自車両V1と、進入目標道路3に存在する他車両とが干渉するか否かを判定する。そして、自車両V1と、進入目標道路3に存在する他車両とが干渉すると判定された場合には、ステップS9へ進み、自車両V1を停止したのち、ステップ5へ戻る。一方、自車両V1と進入目標道路3に存在する他車両が干渉しないと判定された場合には、ステップS6へ進み、自車両V1を走行経路TRに沿って進入目標道路3に進入させ又は走行経路TRに沿って前進させる。
【0051】
上述した実施形態では、本発明を
図3A~
図4Bに示すT字路に適用した例を説明したが、本発明の車両の走行制御方法及び走行制御装置はT字路にのみ限定されず、自車両を自律走行制御し、非優先道路から優先道路へ進入させる一般的な走行シーンに適用することができる。また、
図3A~
図4Bでは、合流道路2に隣接する車線の、進行方向に沿う車線に進入するシーン(自車両V1が左折するシーン)に適用した例を説明したが、合流道路2に隣接する車線を通過し、対向する車線に進入するシーン(自車両V1が右折するシーン)にも適用することができる。
【0052】
以上のとおり、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、自車両V1を自律走行制御し、自車両V1を走行経路TRに沿って、合流道路2から進入目標道路3へ進入させる場合において、進入目標道路3の、合流道路2からの進入地点P1より上流側に、自車両V1からの死角を生じさせる物体(他車両V2)が存在するときは、合流道路2から進入目標道路3へ進入する自車両V1の走行経路TR上に、死角が解消する死角解消位置EPが存在するか否かを判定し、死角解消位置EPが存在するか否かに基づいて、自車両V1を進入目標道路3に進入させる自律走行制御を実行する。その結果、自車両V1が優先道路を走行する他車両に干渉する可能性に応じて、自車両の停止又発進の制御をすることができ、自車両V1を進入目標道路3に円滑に進入させることができる。
【0053】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、合流道路2から進入目標道路3へ進入する自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在しないと判定された場合には、走行経路TRに沿って自車両V1を進入目標道路3へ進入させるので、進入目標道路3に死角が生じたとしても、自車両V1と他車両が干渉する可能性が低い場合には、不要な停止又は発進の制御が繰り返し行われることを抑制することができる。これにより、自車両V1を円滑に優先道路に進入させることができる。
【0054】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、合流道路2から進入目標道路3へ進入する自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在しないと判定された場合には、走行経路TRに沿って自車両V1を進入目標道路3へ進入させるので、進入目標道路3に進入を完了するまでの時間を短縮することができ、不要な停止又は発進の制御が行われることによるユーザのストレスを軽減することができる。
【0055】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、合流道路2から進入目標道路3へ進入する自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在しないと判定された場合には、自車両V1の走行状況に応じて死角解消位置EPを再度演算したり、自車両V1の走行経路TRを再度設定したりする必要がないので、余計な演算処理を抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、走行経路TRに沿って自車両V1を進入目標道路3へ進入させる場合に、進入目標道路3に存在する移動物体V3を検出し、自車両V1と移動物体V3が干渉するか否かを判定し、干渉すると判定した場合は、自車両V1を停止するので、安全性に配慮しながら自車両V1を進入目標道路3に進入させることができる。
【0057】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、合流道路2から進入目標道路3へ進入する自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在すると判定された場合には、自車両V1の停止位置を、死角解消位置EPに設定するので、進入目標車線32の見通しが良くなり、移動物体V3を検出しやすくなる。
【0058】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、合流道路2から進入目標道路3へ進入する自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在すると判定された場合には、自車両V1の停止位置を、合流道路2から進入目標道路3への進入地点P1から死角解消位置EPに更新するので、進入目標車線32を走行する移動物体V3の検出精度を高めることができる。
【0059】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、合流道路2から進入目標道路3へ進入する自車両V1の走行経路TR上に死角解消位置EPが存在すると判定された場合には、走行経路TRに沿って自車両V1を死角解消位置EPまで前進させ、進入目標道路3に存在する移動物体V3を検出し、自車両V1と移動物体V3とが干渉するか否かを判定し、干渉しないと判定した場合は、自車両V1を走行経路TRに沿って走行させるので、安全性に配慮しながら不要な停止制御が行われるのを抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、合流道路2から進入目標道路3へ進入する自車両V1の走行経路TR上に死角が解消する死角解消位置EPが存在するか否かの判定は、走行経路TRのうちの、自車両V1が、合流道路2から進入目標道路3へ進入する進入地点P1から、自車両V1が、進入目標道路3に進入を完了する位置に至るまでの走行経路TRに対して実行する。そのため、自車両V1と干渉する可能性の低い余計な他車両を検出することを抑制し、不要な自車両の停止又発進を繰り返すことを抑制することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…走行制御装置
11…物体検出部
12…自車位置推定部
13…地図取得部
14…目的地設定部
15…処理部
151…地図内位置演算部
152…自車経路生成部
16…自律走行制御部
161…進入位置特定部
162…死角領域算出部
163…発進判断部
164…停止位置決定部
17…提示部
18…アクチュエータ
2…合流道路
3…進入目標道路
31,32…進入目標車線
V1…自車両
V2,V3…他車両
TR…走行経路
R,RL…認識領域
P1…進入地点
P2…走行地点
BS,BSL…死角領域
EP…死角解消位置