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特許7516252オルタナティブオートファジー誘導剤を含む紫外線起因性炎症抑制剤
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  • 特許-オルタナティブオートファジー誘導剤を含む紫外線起因性炎症抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】オルタナティブオートファジー誘導剤を含む紫外線起因性炎症抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/53 20060101AFI20240708BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 36/65 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 36/82 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 36/738 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 36/28 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 36/38 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 36/18 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20240708BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240708BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20240708BHJP
【FI】
A61K36/53
A61K36/899
A61K36/65
A61K36/82
A61K36/738
A61K36/28
A61K36/38
A61K36/18
A61P43/00 105
A61P17/16
C12Q1/02 ZNA
C12Q1/6851 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020554992
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043163
(87)【国際公開番号】W WO2020091070
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2018207589
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 達也
(72)【発明者】
【氏名】中島 優哉
(72)【発明者】
【氏名】宮井 雅史
(72)【発明者】
【氏名】清水 重臣
(72)【発明者】
【氏名】本田 真也
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/124002(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/032966(WO,A1)
【文献】特開平09-118614(JP,A)
【文献】特開2003-306440(JP,A)
【文献】特開2009-155317(JP,A)
【文献】特表2017-511790(JP,A)
【文献】特開2016-000706(JP,A)
【文献】特開2009-013106(JP,A)
【文献】特表2012-530769(JP,A)
【文献】特開2008-169174(JP,A)
【文献】特表2018-528236(JP,A)
【文献】nature,2009年,Vol.461,pp.654-658
【文献】顕微鏡,2010年,Vol.45(2),pp.94-96
【文献】FRAGRANCE JOURNAL,Vol.47(8),2019年,pp.20-24
【文献】COMMUNICATIONS BIOLOGY,2019年,Vol.2(37),pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 36/00
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンメイソウエキス、オドリコソウエキス、カラスムギ抽出液、シャクヤクエキス、ツバキ種子エキス、ブルガリアローズウォーター、ひまわり油、マンゴスチンエキス、モリンガエキス、及びユキノシタエキスからなる群から選ばれる少なくとも1を含む、Rab9に制御されるAtg5/Atg7非依存的オートファジー誘導剤。
【請求項2】
前記Rab9に制御されるAtg5/Atg7非依存的オートファジー誘導剤が、皮膚外用剤である、請求項1に記載の誘導剤
【請求項3】
前記Rab9に制御されるAtg5/Atg7非依存的オートファジー誘導剤が、Rab9に制御されるAtg5/Atg7非依存的オートファジー選択的に誘導することができる、請求項1又は2に記載の誘導剤
【請求項4】
前記Rab9に制御されるAtg5/Atg7非依存的オートファジー誘導剤が、エンメイソウエキスを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の誘導剤
【請求項5】
Rab9に制御されるAtg5/Atg7非依存的オートファジー活性を指標とした紫外線起因性炎症の抑制剤のスクリーニング方法であって、
被験物質を含む培地で培養されたAtg5及び/又はAtg7非発現株において、オートファジーモニター色素を添加してオートファジー活性を測定する工程;
対照と比較してオートファジー活性が増加していた場合に被験物質を紫外線起因性炎症抑制剤として選択する工程
を含む、前記方法。
【請求項6】
Atg5及び/又はAtg7非発現株が、Atg5及び/又はAtg7遺伝子ノックアウト株、或いはAtg5及び/又はAtg7遺伝子ノックダウン株である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
Rab9に制御されるAtg5/Atg7非依存的オートファジー活性を指標とした紫外線起因性炎症の抑制剤のスクリーニング方法であって、
被験物質を含む培地で培養されたAtg5及び/又はAtg7非発現株において、Lamp1の遺伝子発現又はタンパク質量を測定する工程;
対照と比較してLamp1の遺伝子発現又はタンパク質量が増加していた場合に被験物質を紫外線起因性炎症抑制剤として選択する工程
を含む、前記方法。
【請求項8】
Atg5及び/又はAtg7非発現株が、Atg5及び/又はAtg7遺伝子ノックアウト株、或いはAtg5及び/又はAtg7遺伝子ノックダウン株である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルタナティブオートファジーを誘導する薬剤を有効成分として含む紫外線起因性炎症の抑制剤に関する。また、本発明はオルタナティブオートファジー誘導剤、及びオルタナティブオートファジー活性を指標とした、紫外線起因性炎症抑制剤のスクリーニング方法、及びヒト皮膚における紫外線起因性炎症に対する抵抗性の評価方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
細胞における細胞質成分(オルガネラ、細胞質タンパク質等)の分解・再生機構には、選択的なタンパク質分解を担うユビキチン・プロテアソーム系と、原則として非選択的でバルク分解系と称されるオートファジーによる機構が存在する。オートファジーは自食作用とも呼ばれ、二重膜(隔離膜)によって分解に供する細胞質成分を取り囲み、次いで隔離膜を閉鎖した上でリソソームと融合することにより、内容物である細胞質成分を分解することができる。オートファジーは、正常時の細胞の新陳代謝に寄与している他、ある種のストレスに晒された場合に細胞質内に過剰に作られたタンパク質や異常タンパク質を分解することに寄与しており、様々な生理機能を有することが判明している。例えば、オートファジーが関連するとされる疾患としては、癌、神経障害疾患(筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病等)、肝炎(急性肝炎、慢性肝炎)、肝硬変、感染症、免疫異常等などが報告されており、オートファジー機能を調節することによりかかる疾患に対する治療効果を期待した医薬品、例えば、抗癌剤、抗痴呆薬及び神経変性疾患治療薬等の開発が進められている。
【0003】
オートファジーの分子機構についての研究が進むことで、30余りのオートファジーに関する分子が同定されており、これらの分子の中で、Atg5、Atg7、LC3等がオートファジーの実行に必須と考えられてきた。LC3は、細胞質で合成された後にAtg7等によりプロセッシングを受け、Atg5等により構成される複合体を介して隔離膜に結合すると考えられている。しかしながら、近年の研究により、これらの分子を必要としないオートファジーの存在が報告されており(非特許文献1)、このようなオートファジーを、慣用型のAtg5/Atg7依存的のオートファジー(単にAtg5依存的オートファジーと呼ぶこともある)と区別してオルタナティブオートファジー又はAtg5/Atg7非依存的オートファジーと呼ばれている。オルタナティブオートファジーは、慣用型のAtg5/Atg7依存的のオートファジーに関連するUlk1及びBeclin1に加えて、オルタナティブオートファジーにのみ関与するRab9により制御される。オルタナティブオートファジーは細胞ストレスによって誘導されることから、この機構が破綻すると、癌などを誘発すると考えられており、オルタナティブオートファジーを利用する抗癌剤が開発されている(特許文献1)。また、Atg5依存的オートファジー経路に関わるAtg5をノックアウトしたマウスを用いた研究により、Atg5依存的オートファジー経路が、炎症疾患の一つであるアテローム動脈硬化症の発症を改善することが示されている。一方で、Beclin1をヘテロ接合体欠損させた場合にはアテローム性動脈硬化症の発症に変化しないが、Atg5のノックアウトでは炎症が促進されたことが報告されている(非特許文献2)。また、慣用型のオートファジーが、ケラチノサイトの炎症を抑制することが報告されている(非特許文献4)。非特許文献4では、Atg5をノックダウンされたケラチノサイトにおいて、MALP-2により炎症を誘導した場合に、炎症性サイトカインであるTNF-α及びIL-6が対照(Atg5非ノックダウン)に比較して大幅に増大したことを示している。このように、慣用型のオートファジーであるAtg5依存的オートファジーと炎症との関わりは一部明らかになってきているが、オルタナティブオートファジーと、炎症との関連については未だ明らかにされていなかった。
【0004】
一方で、紫外線は、紫外域の波長を有する電磁波であり、約320nmより長い長波長域紫外線(UV-A)と、約320~約280nmの中波長域紫外線(UV-B)と、約280nmより短い短波長域紫外線(UV-C)とに分類される。このうちUV-Cはオゾン層に吸収されるので地上に達する太陽光には通常含まれず、地上に到達する紫外線の約95%をUV-Aが占めており、約5%をUV-Bが占めている。紫外線は、生体に対し、メラニン色素の産生、DNAの損傷、コラーゲンやエラスチンなどの真皮層における弾性線維の変性、活性酸素の産生など様々な悪影響を及ぼすことが知られており、美容面では、シミ、シワ、たるみ、肌の褐色化、皮膚老化など様々な悪影響を及ぼすことは周知である。紫外線障害は、主に急性障害と慢性障害に分けることができ、急性障害としては、日焼け(サンバーン、サンタン)、紫外線角膜炎、免疫機能の低下などが挙げられ、慢性障害としてシワ、シミ、皮膚癌、白内障などが挙げられる。紫外線により生じる炎症が、こうした急性障害や慢性障害の原因の一つとなっており、紫外線に起因する炎症を抑制することが、紫外線障害の予防及び治療に重要となっている。紫外線に起因する炎症メカニズムを解明することが求められており、そのようにして解明された紫外線に起因する炎症メカニズムに沿って炎症を抑制する物質の探索する方法が望まれている。
【0005】
上述したように、オルタナティブオートファジーは、近年新たに発見されたオートファジー経路であり、その生理機構への影響や、疾患への関与について研究が行われているところであるが、未だ十分な知見は得られていない。特に紫外線起因性の炎症との関連性は全く明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/118842号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Yuya Nishida, et al., Nature 461, 654-658
【文献】Babak Razani et al., Cell Metabolism 2012, 15(4), 534-544
【文献】Shaun Steele et al., PLOS Pathog 2013, vol.9, Issue 8, e1003562
【文献】Hye-Mi Lee et al., The Journal of Immunology (2011) 186(2), 1248-58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、紫外線起因性炎症メカニズムの一端を解明すると共に、その紫外線起因性炎症の抑制剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、皮膚炎症メカニズムについて鋭意研究を行った結果、皮膚炎症の一因である紫外線により生じる炎症の軽減にAtg5/Atg7非依存的オートファジーが選択的に寄与していることを初めて見出した。具体的に、皮膚培養細胞において、オートファジーを誘導することにより、紫外線により生じる皮膚炎症を軽減することができたことを見出した。この紫外線起因性の炎症とオートファジーとの関係についてさらに研究を進めたところ、オートファジーの代表的経路であるAtg5/Atg7依存的オートファジーではなく、Atg5/Atg7非依存的オートファジーによって、紫外線により生じる皮膚炎症を軽減できることを突き止め、本発明に至った。したがって、本発明は以下の発明に関する。
【0010】
[1] オルタナティブオートファジー誘導剤を有効成分とする紫外線起因性炎症の抑制剤。
[2] 前記紫外線起因性炎症が、紫外線起因性皮膚炎症である、項目1に記載の抑制剤。
[3] 前記抑制剤が、皮膚外用剤である、項目2に記載の抑制剤。
[4] 前記オルタナティブオートファジー誘導剤が、エンメイソウエキス、オドリコソウエキス、カラスムギ抽出液、シャクヤクエキス、ツバキ種子エキス、ブルガリアローズウォーター、ひまわり油、マンゴスチンエキス、モリンガエキス、及びユキノシタエキスからなる群から選ばれる少なくとも1である項目1~3のいずれか一項に記載の抑制剤。
[5] 前記オルタナティブオートファジー誘導剤が、オルタナティブオートファジー選択的に誘導することができる、項目1~3のいずれか一項に記載の抑制剤。
[6] 前記オルタナティブオートファジー誘導剤が、エンメイソウエキスである、項目5に記載の抑制剤。
[7] オルタナティブオートファジー活性を指標とした紫外線起因性炎症の抑制剤のスクリーニング方法。
[8] オルタナティブオートファジー活性が、Rab9の遺伝子発現量又はタンパク質量により測定される項目7に記載のスクリーニング方法。
[9] 慣用型オートファジー因子非発現株において、オートファジー活性を測定することによる、項目7に記載のスクリーニング方法。
[10] オートファジー活性の測定が、Beclin1、Ulk1、及びRab9からなる群から選ばれる1以上の遺伝子発現又はタンパク質量により測定される項目9に記載の評価方法。
[11] オートファジー活性の測定が、オートファジー小胞の検出による、項目9に記載のスクリーニング方法。
[12] 皮膚におけるオルタナティブオートファジー活性を指標とした、紫外線障害に対する抵抗性の評価方法。
[13] オルタナティブオートファジー活性が、Beclin1、Ulk1、及びRab9からなる群から選ばれる1以上の遺伝子発現又はタンパク質量により測定される項目12に記載の評価方法。
[14] オルタナティブオートファジー活性が、Rab9の遺伝子発現又はタンパク質量により測定される項目13に記載の評価方法。
[15] 前記紫外線障害が、紫外線起因性皮膚炎症である、項目12~14のいずれか一項に記載の評価方法。
[16] オルタナティブオートファジー誘導剤の有効量を、紫外線起因性炎症を必要とする対象に投与することを含む、紫外線起因性炎症の抑制又は治療方法。
[17] 前記紫外線起因性炎症が、紫外線起因性皮膚炎症である、項目16に記載の方法。
[18] 前記オルタナティブオートファジー誘導剤が経皮投与される、項目17に記載の方法。
[19] 前記オルタナティブオートファジー誘導剤が、エンメイソウエキス、オドリコソウエキス、カラスムギ抽出液、シャクヤクエキス、ツバキ種子エキス、ブルガリアローズウォーター、ひまわり油、マンゴスチンエキス、モリンガエキス、及びユキノシタエキスからなる群から選ばれる少なくとも1である項目16~18のいずれか一項に記載の方法。
[20] 前記オルタナティブオートファジー誘導剤が、オルタナティブオートファジー選択的に誘導することができる、項目16~18のいずれか一項に記載の方法。
[21] 前記オルタナティブオートファジー誘導剤が、エンメイソウエキスである、項目20に記載の方法。
[22] 紫外線起因性炎症の抑制又は治療において使用するための、オルタナティブオートファジー誘導剤。
[23] 前記紫外線起因性炎症が、紫外線起因性皮膚炎症である、項目22に記載のオルタナティブオートファジー誘導剤。
[24] 皮膚外用で使用される、項目23に記載のオルタナティブオートファジー誘導剤。
[25] 前記オルタナティブオートファジー誘導剤が、エンメイソウエキス、オドリコソウエキス、カラスムギ抽出液、シャクヤクエキス、ツバキ種子エキス、ブルガリアローズウォーター、ひまわり油、マンゴスチンエキス、モリンガエキス、及びユキノシタエキスからなる群から選ばれる少なくとも1である、項目22~24のいずれか一項に記載のオルタナティブオートファジー誘導剤。
[26] 前記オルタナティブオートファジーが、オルタナティブオートファジー選択的に誘導することができる、項目22~24のいずれか一項に記載のオルタナティブオートファジー誘導剤。
[27] オルタナティブオートファジーを誘導することを介して、紫外線起因性炎症の抑制又は治療において使用するための、エンメイソウエキス、オドリコソウエキス、カラスムギ抽出液、シャクヤクエキス、ツバキ種子エキス、ブルガリアローズウォーター、ひまわり油、マンゴスチンエキス、モリンガエキス、及びユキノシタエキスからなる群から選ばれる少なくとも1のエキス。
[28] オルタナティブオートファジーを選択的に誘導することを介して、紫外線起因性炎症の抑制又は治療において使用するための、エンメイソウエキス。
[29] 紫外線起因性炎症の治療又は抑制剤の製造のための、オルタナティブオートファジー誘導剤の使用。
[30] 前記紫外線起因性炎症が、紫外線起因性皮膚炎症である、項目29に記載の使用。
[31] 前記抑制剤が、皮膚外用剤である、項目30に記載の使用。
[32] 前記オルタナティブオートファジー誘導剤が、エンメイソウエキス、オドリコソウエキス、カラスムギ抽出液、シャクヤクエキス、ツバキ種子エキス、ブルガリアローズウォーター、ひまわり油、マンゴスチンエキス、モリンガエキス、及びユキノシタエキスからなる群から選ばれる少なくとも1を含む、項目29~31のいずれか一項に記載の使用。
[33] 前記オルタナティブオートファジー誘導剤が、オルタナティブオートファジー選択的に誘導することができる、項目29~31のいずれか一項に記載の使用。
[34] 前記オルタナティブオートファジー誘導剤が、エンメイソウエキスである、項目33に記載の使用。
【発明の効果】
【0011】
オートファジーの中で、特にオルタナティブオートファジーを誘導することで、紫外線起因性炎症を抑制することが可能となる。紫外線起因性炎症は、急性障害や慢性障害の原因の一つであり、紫外線起因性炎症を軽減することで、紫外線障害の軽減につながる。また、紫外線起因性炎症の軽減にオルタナティブオートファジーが関与することから、オルタナティブオートファジー活性を指標とすることで、紫外線起因性炎症の抑制剤のスクリーニングや、紫外線起因性炎症に対する抵抗性を評価することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1Aは、オートファジー阻害剤である3-MAの添加により、紫外線誘導性のIL-1β産生が増加することを示すグラフである。図1Bは、オートファジー誘導剤であるラパマイシンの添加により、紫外線誘導性のIL-1β産生が抑制されることを示すグラフである。
図2図2Aは、Atg5に対するsiRNAを細胞に導入することにより、Atg5の発現が抑制されたことを示すグラフである。図2Bは、Atg7に対するsiRNAを細胞に導入することにより、Atg7の発現が抑制されたことを示すグラフである。図2Cは、Beclin1に対するsiRNAを細胞に導入することにより、Beclin1の発現が抑制されたことを示すグラフである。
図3図3Aは、Atg5に対するsiRNAが導入された細胞において、紫外線誘導性のIL-1β産生が変化しなかったことを示すグラフである。図3Bは、Atg7に対するsiRNAが導入された細胞において、紫外線誘導性のIL-1β産生が変化しなかったことを示すグラフである。図3Cは、Beclin1に対するsiRNAが導入された細胞において、紫外線誘導性のIL-1β産生が有意に増加したことを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の紫外線起因性炎症の抑制剤は、オルタナティブオートファジー誘導剤を含む。本発明において抑制される炎症は、紫外線により引き起こされる炎症であり、より好ましくは、紫外線起因性皮膚炎症である。
【0014】
炎症は、発赤、熱感、腫脹、及び疼痛 を特徴とする症候であり、微生物感染、異物侵入、重金属暴露、紫外線照射などの外的侵襲により引き起こされる他に、壊死細胞などから放出される内的刺激物質によっても引き起こされる。炎症は、生体のあらゆる組織において生じうる症候であり、組織に応じて、その原因や炎症機序は異なる。特に皮膚組織は、生体の外部に露出しており、外界と生体の境界をなすバリアとして働いている。皮膚のバリア機能が低下すると、様々な外的侵襲により経皮感作を招くことになり、それが皮膚炎やアレルギー疾患などの皮膚炎症の原因となることが分かってきている。皮膚バリアの形成には、角化細胞に発現しているフィラグリンが重要な役割を担っていることが知られている。フィラグリンの変異が炎症性疾患の一つであるアトピー性皮膚炎の発症にも関わっていることが報告されている。このように、皮膚炎症は、生体内における組織における炎症とは異なる特徴的なメカニズムを有している。本発明者らは、本発明のオルタナティブオートファジー経路が、炎症のなかでも特に紫外線起因性炎症において、抑制的に働くことを見出した(実施例、図1及び3)。その一方で、本発明者らは、組織炎症に寄与していると従来言われていたAtg5依存的オートファジー経路が紫外線起因性炎症には関与していないことも見出した(実施例、図3)。非特許文献4において、MALP-2により誘導された皮膚炎症に対し、Atg5依存的オートファジーが抑制的に作用することが示されていることから、紫外線起因性炎症においてAtg5依存的オートファジー経路が関与していないことは予測しうるものではない。皮膚炎症と、紫外線起因性炎症とは、最終的に炎症性サイトカインの産生を伴っているという点では共通するものの、その発生メカニズムが異なることは周知のことである。皮膚炎症と、紫外線起因性炎症とが、制御メカニズムについても異なっていることが本発明者らの実験により初めて示唆された。
【0015】
本発明において紫外線は、UV-A、UV-B、及びUV-Cのいずれを指してもよいが、地上に到達して皮膚に対して炎症を起こさせる観点から、特にUV-A及びUV-Bを指すことが好ましい。UV-AもUV-Bも炎症を引き起こすことが知られているが、炎症への寄与が高いUV-Bのみを指してもよい。
【0016】
紫外線により引き起こされる炎症による症状としては、紅斑や水疱が挙げられ、重症化した場合には、湿疹を生じさせることがある。湿疹は、急性期に紅斑、丘疹、小水疱、膿疱、びらん、痂皮、落屑という形態的変化をとり、治癒するものの、急性湿疹が治癒せずに慢性化すると、苔癬化が生じ色素沈着が起こることもある。紫外線により引き起こされる炎症に起因する皮膚疾患としては、日光皮膚炎、光線口唇炎、光接触皮膚炎、慢性光線過敏性皮膚炎、ベルロック皮膚炎、光線過敏症、光線過敏性薬疹、日光蕁麻疹、色素性乾皮症、皮膚筋炎、ポルフィリン症、ペラグラ、慢性光線皮膚症、多形日光疹、エリテマトーデスなどの疾患が引き起こされる。また、紫外線は、目にも炎症を引き起こし、紫外線角膜炎が生じ、このような炎症に起因して、白内障も生じうる。したがって、本発明の紫外線起因性炎症の抑制剤又はオルタナティブオートファジー誘導剤は、炎症に起因する上記の皮膚疾患及び眼疾患の治療、軽減、抑制、及び予防することができ、これらの皮膚疾患及び眼疾患の治療剤、軽減剤、抑制剤及び予防剤ということもできる。また、皮膚に生じた炎症は、メラノサイト刺激ホルモンの分泌を促進し、それにより皮膚の褐色化やシミの形成にも関与することや、慢性炎症により老化を助長することが知られている。したがって、本発明の紫外線起因性炎症の抑制剤又はオルタナティブオートファジー誘導剤は、日焼け抑制剤、美白剤、皮膚老化剤ということもできる。
【0017】
本発明の紫外線起因性炎症抑制剤を使用する対象は、紫外線起因性炎症の低減を必要とする対象である。通常の健常人をはじめ、屋外で活動する運動選手や作業員、美容上又は健康上日焼けを避けることが必要とされる人、並びに上述の紫外線障害に伴う疾患を患っている患者に対し、本発明の紫外線起因性炎症の抑制剤を投与することができる。また、オルタナティブオートファジー誘導剤は、オルタナティブオートファジー活性が低下している対象に対して投与される。
【0018】
本発明の紫外線起因性炎症の抑制剤は、紫外線照射によりケラチノサイトにて分泌が高まるIL-1β、IL-1α、TNF-α、IL-4、IL-6、IL-8、IL-12、IL-18、TSLP、GM-CSFなどから選ばれる1又は複数の炎症性サイトカインや、CCL2、CXCL10などのケモカインやPGEなどの炎症性メディエーターの産生を抑制することができる。したがって、紫外線起因性炎症の抑制剤又はオルタナティブオートファジー誘導剤は、炎症性サイトカイン抑制剤又は炎症性メディエーター抑制剤ということもできる。
【0019】
オルタナティブオートファジーとは、オートファジー関連分子Atg5を用いることなく、オートファゴソームが形成され、さらにリソソームが融合することにより、該オートファゴソームに取り込まれた細胞内成分が分解される、細胞内浄化機構を意味する。したがって、オルタナティブオートファジーは、Atg5及び/又はAtg7非依存的オートファジーということもできる。理論に限定されることを意図するものではないが、紫外線の影響で変性された異常タンパク質や誘発された炎症誘発物質をオルタナティブオートファジーの作用により分解することで、炎症の原因を取り除くものと考えられる。本明細書において、オルタナティブオートファジーと区別する観点から、従来型のオートファジー、すなわちAtg5及び/又はAtg7依存的オートファジーを、慣用型オートファジーと呼ぶものとする。
【0020】
オルタナティブオートファジー誘導剤とは、オルタナティブオートファジーの活性を亢進できる物質であれば任意の物質であってもよい。オルタナティブオートファジーを選択的に亢進できる物質が好ましいが、非選択的に他のオートファジーをも亢進する物質であってもよい。したがって、オルタナティブオートファジー誘導剤は、慣用型オートファジー誘導剤を含んでもよいし、別の態様では慣用型オートファジーの誘導剤を除いてもよい。オルタナティブオートファジー以外のオートファジー(例えば慣用型オートファジー)と、オルタナティブオートファジーをともに誘導可能な誘導剤をオルタナティブオートファジー非選択的誘導剤とよび、オルタナティブオートファジーを主に誘導する誘導剤をオルタナティブオートファジー選択的誘導剤とよぶことができる。オルタナティブオートファジー選択的誘導剤としては、特許文献1で示されるベンゾチオフェン化合物や、非特許文献3で示された野兎病菌(Francisella tularensis)が挙げられる。また、本発明のスクリーニング方法により、エンメイソウエキスも、オルタナティブオートファジー選択的誘導剤として作用する物質であることが示された。オルタナティブオートファジーの非選択的誘導剤としては、ラパマイシン、ベラパミル、クロニジンなどが挙げられる。本発明のスクリーニング方法により、エンメイソウエキス、オドリコソウエキス、カラスムギ抽出液、シャクヤクエキス、ツバキ種子エキス、ブルガリアローズウォーター、ひまわり油、マンゴスチンエキス、モリンガエキス、ユキノシタエキスが、オルタナティブオートファジー非選択的誘導剤として作用する物質であることが示された。しかしながら、オートファジー誘導剤は、これらの具体的化合物や菌、エキスに限定されることを意図するものではない。
【0021】
本発明のオルタナティブオートファジー誘導剤又は当該誘導剤を含む紫外線起因性炎症の抑制剤は、紫外線起因性炎症を軽減する目的で、有効成分として機能性表示食品、化粧品や医薬品に配合することができる。配合される化粧品としては、日焼け止め、化粧水、美容液、美容クリーム、アフターケアローション、サンオイルなどが挙げられるが、皮膚に適用されるものであれば任意の化粧料に配合することができる。医薬品としては、抗炎症用の皮膚外用剤、抗炎症用の経口薬剤などが挙げられる。また、オルタナティブオートファジー誘導剤が、紫外線起因性炎症に有効であることを見出したことから、皮膚に直接適用することができる皮膚外用剤として配合されることが好ましい。また、オルタナティブオートファジー誘導剤を、紫外線障害軽減抑制の目的で使用する観点では、白内障などの予防のため点眼薬に配合することもできる。オルタナティブオートファジー誘導剤又は当該誘導剤を含む皮膚炎症の抑制剤は、その効果を損なわない範囲で、化粧品や医薬品等に用いられる任意配合成分を、必要に応じて適宜配合することができる。前記任意配合成分としては、例えば、油分、界面活性剤、粉末、色材、水、アルコール類、増粘剤、キレート剤、シリコーン類、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、pH調整剤、中和剤などが挙げられる。他の薬効成分として、例えば抗炎症成分、美白成分などが含まれていても良い。
【0022】
本発明はまた、オルタナティブオートファジー活性を指標とした紫外線起因性炎症抑制剤のスクリーニング方法にも関する。このスクリーニング方法は、培養細胞に対し、候補薬剤を添加する工程と、培養細胞においてオルタナティブオートファジー活性を測定する工程を含む。対照と比較してオルタナティブオートファジー活性が増加していた場合、候補薬剤を、紫外線起因性炎症抑制剤又はオルタナティブオートファジー誘導剤として選択することができる。使用される候補薬剤は、任意の物質であってよいが、例えば医薬品候補化合物ライブラリーや化粧品素材ライブラリーの物質を用いることができ、化合物のみならず、混合物や抽出物などを用いることもできる。
【0023】
使用される培養細胞としては、任意の細胞を用いることができ、株化細胞や、組織から分離され培養された初代培養細胞、継代培養細胞が用いられてもよい。紫外線の影響を評価する観点から、生体において紫外線の影響を受ける細胞、例えば皮膚細胞や眼細胞を用いることができる。皮膚細胞としては、例えば角化細胞、色素細胞や真皮線維芽細胞などであってもよいし、眼細胞としては、例えば角膜上皮細胞や網膜上皮細胞などであってもよい。また、皮膚培養細胞を重層培養した3次元培養皮膚モデルを用いることもできる。さらに別の態様では、スクリーニング方法に用いられる培養細胞として、慣用型オートファジー因子の少なくとも1つを発現しない、慣用型オートファジー因子非発現株を用いることができる。このような細胞株は、ポイントミューテーション、相同組換え、Crysper-Cas9システムなどのゲノム編集により作成された遺伝子ノックアウト細胞株であってもよいし、siRNAを導入することで、遺伝子発現を抑制されたノックダウン細胞株であってもよい。慣用型オートファジー因子非発現株を用いることで、オルタナティブオートファジーに特異的ではなく、慣用型オートファジーも検出する指標を用いた場合にも、オルタナティブオートファジーの活性誘導剤をスクリーニングすることができる。一例として、Beclin1やUlk1は、オルタナティブオートファジーと慣用型オートファジーの両方に関与することから、慣用型オートファジー因子非発現株においてこれらの遺伝子発現量又はタンパク質量をオートファジー活性の指標とすることで、オルタナティブオートファジーを誘導する薬剤のスクリーニングが可能になる。慣用型オートファジー因子非発現株としては、一例としてAtg5及び/又はAtg7遺伝子ノックアウト株、Atg5及び/又はAtg7遺伝子ノックダウン株などが挙げられる。遺伝子発現量又はタンパク質量を指標とする代わりに、細胞内に存在するオートファジー小胞をオートファジー活性の指標とすることもできる。オートファジー小胞は、オートファゴソームとも呼ばれる。オートファゴソームは、顕微鏡下で観察することができ、一例としてLCなどをマーカーとして利用することで特定することができる。
【0024】
本発明のスクリーニング方法により、紫外線起因性炎症抑制剤又はオルタナティブオートファジー誘導剤として、化粧品素材ライブラリーのなかから、下記の植物エキス:エンメイソウエキス、オドリコソウエキス、カラスムギ抽出液、シャクヤクエキス、ツバキ種子エキス、ブルガリアローズウォーター、ひまわり油、マンゴスチンエキス、モリンガエキス、ユキノシタエキスを選択することができた。したがって、本発明の1の態様では、エンメイソウエキス、オドリコソウエキス、カラスムギ抽出液、シャクヤクエキス、ツバキ種子エキス、ブルガリアローズウォーター、ひまわり油、マンゴスチンエキス、モリンガエキス、及びユキノシタエキスからなる群から選ばれる少なくとも1の植物エキスを含む、紫外線起因性炎症抑制剤又はオルタナティブオートファジー誘導剤に関する。これらのエキスは、従来型のオートファジー誘導活性を有する場合もある。その一方で、エンメイソウエキスについては従来型オートファジー誘導活性を有しておらず、その一方で強いオルタナティブオートファジー誘導活性を示すことから、オルタナティブオートファジー選択的誘導剤ということができる。
【0025】
本発明で使用する各植物の植物体又はその抽出物は、各々の植物体の各種部位(花、花穂、果皮、果実、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根、種子又は全草など)をそのまま又は乾燥したものを粉砕して乾燥粉末としたもの、あるいはそのまま又は乾燥・粉砕後、溶媒で抽出したものである。抽出部位として、葉、根、茎、花が考えられるが、抽出部位はこれらに限定されない。
【0026】
エキスの場合、抽出に用いられる抽出溶媒は通常抽出に用いられる溶媒であれば何でもよく、特にメタノール、エタノールあるいは1,3-ブチレングリコール等のアルコール類、含水アルコール類、アセトン、酢酸エチルエステル等の有機溶媒を単独あるいは組み合わせて用いることができ、このうち特に、アルコール類、含水アルコール類が好ましく、特にメタノール、エタノール、1,3-ブチレングリコール、含水エタノールまたは含水1,3-ブチレングリコールが好ましい。また前記溶媒は、室温~溶媒の沸点以下の温度で用いることが好ましい。含水1,3-ブチレングリコールは、1,3-ブチレングリコールを、20~80質量%、好ましくは30~70質量%、さらに好ましくは40~60質量%含む。一例として、抽出溶媒として50質量%の1,3-ブチレングリコール水溶液を使用することができる。
【0027】
抽出方法は特に制限されるものはないが、通常、常温から、常圧下での溶媒の沸点の範囲であれば良く、抽出後は濾過又はイオン交換樹脂を用い、吸着・脱色・精製して溶液状、ペースト状、ゲル状、粉末状とすれば良い。更に多くの場合は、そのままの状態で利用できるが、必要ならば、その効果に影響のない範囲で更に脱臭、脱色等の精製処理を加えても良く、脱臭・脱色等の精製処理手段としては、活性炭カラム等を用いれば良く、抽出物質により一般的に適用される通常の手段を任意に選択して行えば良い。本発明で用いられるエキスは全て化粧品素材として市販されており、その製法は販売元に応じて異なってもよい。
【0028】
エンメイソウ(学名:Isodon japonicus)は、シソ科ヤマハッカ属の日本原産の植物であり、本州、四国、九州に自生する。エンメイソウエキスは、エンメイソウの全草を上述の抽出溶媒により抽出して得られるエキスである。一例として、エンメイソウエキスは、生薬として市販されているエンメイソウの全草の乾燥物を、水、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール又は、これらの混液等により抽出することにより得ることができる。エンメイソウ(延命草)と呼ばれるように、日本では民間薬として利用されている。おもな薬効として保湿、血行促進、収れん、抗菌作用などが知られており、苦味健胃薬としても利用されている。
【0029】
オドリコソウ(学名:Lamium album Linne)は、シソ科の日本原産の植物であり、北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島、及び中国など広い範囲に自生する。オドリコソウエキス (White Nettle Extract)は、オドリコソウの花、茎、又は葉から上述の抽出溶媒により抽出して得られるエキスである。一例として、オドリコソウの花、茎、葉から水、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール又はこれらの混液により抽出して得られる。
【0030】
カラスムギは、イネ科カラスムギ属の植物であり、ヨーロッパから西アジアの地域が原産とされるが、広い地域で野生種と栽培種が存在している。野生種としてはカラスムギ(学名:Avena fatua)がよくみられる一方で、栽培種のエンバク(学名:Avena sativa)もエキスの原材料として使用されうる。カラスムギエキスは、茎、葉、種子、穀粒から上述の抽出溶媒により抽出して得られるエキスである。一例として、カラスムギの穀粒から水、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール又はこれらの混液により抽出して得られる。
【0031】
シャクヤクはボタン科の多年草であり、アジア大陸北東部の原産とされている。シャクヤクエキスに用いられる種としては、シャクヤク(Paeonia lactiflora Pallas (Paeonia albiflora Pallas var.trichocarpa Bunge))又はその他近縁植物(Paeoniaceae)が挙げあられる。シャクヤクの植物体から、上述の抽出溶媒により抽出して得られるエキスである。一例として、シャクヤクの根から水、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール又はこれらの混液により抽出して得られる。
【0032】
ツバキ(学名:Camellia japonica)は、ツバキ科ツバキ属の常緑樹であり、日本原産の植物である。本州、四国、九州、南西諸島に自生し、また朝鮮半島南部と台湾にも自生する。ツバキ種子エキスは、ツバキの種子を上述の抽出溶媒により抽出して得られるエキスである。一例として、ツバキの種子の粉末又は乾燥粉末から水、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール又はこれらの混液により抽出して得られる。
【0033】
バラは、バラ科バラ属の総称であり、北半球の温帯域に広く自生する植物である。バラには多様な種類が存在しており、任意の種のバラの花から水蒸気蒸留によりローズウォーターが抽出される。特にダマスクローズ(Rosa damascena)という品種は、その香りが優れていることからローズウォーターの原材料として適している。ブルガリア産のダマスクローズから得られたローズウォーターを特に、ブルガリアローズウォーターと呼ぶこともあり、化粧品素材として市販されている。
【0034】
フローラサン90は、ひまわり油の一種であり、化粧品素材として市販されている。ひまわり(学名:Helianthus annuus)はキク科の一年草であり、北アメリカ原産である。ひまわりの種子は、油脂に富み、搾油することでひまわり油を得ることができる。ひまわり油は、品種により含まれる不飽和脂肪酸の種類が異なり、特にオレイン酸含有量の高いひまわり油が特に好ましい。
【0035】
マンゴスチン(学名:Garcinia mangostana)はオトギリソウ科フクギ属の植物であり、東南アジアを原産とする。マンゴスチンエキスは、マンゴスチンの果穂、果皮、果実、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根、種子又は全草を上述の抽出溶媒により抽出して得られるエキスである。一例として、マンゴスチンの果皮から水、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール又はこれらの混液により抽出して得られる。
【0036】
モリンガは、ワサビノキ属に属する植物であり、アフリカから南アジアの熱帯から亜熱帯にかけて自生する。特にワサビノキ(学名:Moringa oleifera Lam)が多く栽培されている。モリンガエキスは、葉、花、樹皮、果実、種子、根から上述の抽出溶媒により抽出して得られるエキスである。一例として、ワサビノキの葉や根から水、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール又はこれらの混液により抽出して得られる。
【0037】
ユキノシタ(Saxifraga stolonifera)は、ユキノシタ属の植物であり、日本、中国などに自生する多年草である。ユキノシタエキスは、全草、葉、茎、根、花、種子から上述の抽出溶媒により抽出して得られるエキスである。一例として、ユキノシタの葉から水、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール又はこれらの混液により抽出して得られる。
【0038】
本発明の別の態様では、オルタナティブオートファジー活性を指標とした皮膚炎症に対する抵抗性の評価方法にも関する。この方法によると、被験者の皮膚サンプルにおいて、オルタナティブオートファジー活性を測定することにより、皮膚炎症に対する抵抗性を評価することができる。評価された皮膚炎症に対する抵抗性に応じて、化粧料を選択することが可能である。例えば、オルタナティブオートファジー活性が低いと評価された被験者に対しては、皮膚炎症を生じさせにくい低刺激性の化粧料を進めることができる。また、皮膚炎症として紫外線起因性炎症に対する抵抗性に着目した場合、オルタナティブオートファジー活性が低いと評価された被験者に対してはより強力な日焼け止めや、アフターケアローションなどの化粧料を勧めることができるし、またオルタナティブオートファジー誘導剤を含む、機能性食品、化粧品、及び医薬品を勧めることができる。
【0039】
オルタナティブオートファジー活性は、オルタナティブオートファジーに寄与する因子の発現又は活性を指標に決定することができる。オルタナティブオートファジーに寄与する因子として、Beclin1、Ulk1、Rab9などが挙げられ、例えばこれらBeclin1、Ulk1、Rab9などの因子の遺伝子・タンパク質発現の変化を検出したり、免疫染色などの手法を用いて可視化してもよい。オルタナティブオートファジーを特異的に測定する観点から、慣用型オートファジーには関与しないと考えられるRab9を用いることが好ましい。さらに別の態様では、オルタナティブオートファジー活性を、オルタナティブオートファジーに関与する細胞内器官又は物質、例えばリソソームや、オートファゴソーム、あるいはリソソーム又はオートファゴソーム由来タンパク質を検出してもよい。例えば、Atg5及び/又はAtg7をノックダウンもしくはノックアウトした細胞でのリソソーム由来タンパク質LAMP1やLAMP2の凝集を免疫染色などの手法を用いて可視化してもよい。
【実施例
【0040】
紫外線誘導性炎症に対するオートファジー阻害剤及び誘導剤の影響
正常ヒト表皮角化細胞 (NHEK)(クラボウ社製)を6ウェルプレートに播種し、サブコンフルエントになるまで表皮角化細胞増殖用培地(EpiLife-KG2;GIBCO社製)で培養した。その後、オートファジー阻害剤として知られている3-メチルアデニン(3-MA)(R&D社製;最終濃度1mM)を含んだ培地、及びオートファジー誘導剤として知られているラパマイシン(Enzo life science社製;最終濃度0.5μM)を含んだ培地にそれぞれ交換し、3時間培養した。培養後、培地を捨て、PBSを添加し、紫外線(290-315 nm)を20mJ/cm2の照射強度で照射した。紫外線照射後、3-MAもしくはラパマイシンを含んだ上記培地条件下で再び培養を続け、48時間後、それぞれの培養上清を得た。得られた培養上清中のIL-1βの濃度をQuantikine Human IL-1β ELISA Kit (R&D 社製)を用いて評価した(図1A及びB)。統計的有意差検定には、ステューデントもしくはウェルチのt検定を用いた。
【0041】
紫外線照射によりIL-1βの濃度が増加することから、炎症が誘導されていることが示された。そしてオートファジー阻害剤である3-メチルアデニンを添加した場合、紫外線照射後のIL-1βの濃度が約3倍に増加した。一方で、オートファジーの誘導剤として知られているラパマイシンを添加した場合、紫外線照射後のIL-1βが有意に低下した。これらの結果から、オートファジーを誘導することで、紫外線誘導性の炎症を軽減できることが示された。
【0042】
紫外線誘導性炎症の軽減に寄与するオートファジーの種類の特定
Atg5、Atg7およびBeclin1に対するsmall interfering RNA (siRNA)をInvitrogen社から購入した。それぞれの配列は表1の通りである。
【表1】

NHEK細胞(8.0x10cells)にAmaxa Human Keratinocyte Nucleofector Kit (Lonza社製)を用いて、siRNAの最終濃度が200nMになるようにトランスフェクションした。ノックダウン効率は、RT-PCR法を用いて、Atg5、Atg7およびBeclin1のmRNA発現量より確認した(図2A、BおよびC)。使用したRT-PCRのプライマーは、Sigma-Aldrich社製のプライマーを用い、また、内部標準としてGAPDH(Sigma-Aldrich社製)を使用して発現量を標準化した。これらのプライマーの配列を表2に示す。
【表2】
【0043】
siRNA処置したNHEK細胞を6ウェルプレートに播種し、24時間培養した。その後、培地を捨て、PBSに置換し、紫外線(290-315 nm)を15mJ/cm2の照射強度で照射した。紫外線照射後、培地に再置換して48時間培養し、培養上清を得た。得られた培養上清中のIL-1βの濃度をQuantikine Human IL-1β ELISA Kit(R&D 社製)を用いて評価した(図3A、BおよびC)。統計的有意差検定には、ステューデントのt検定を用いた。
【0044】
Atg5、Atg7およびBeclin1に対するsiRNAを用いることで、これらの遺伝子発現を抑制することができることが示された(図2A、BおよびC)。Atg5、Atg7は、Atg5/Atg7依存的オートファジーに必須のタンパク質と考えられており、Beclin1は、Atg5/Atg7依存的オートファジー及びオルタナティブオートファジーの両経路を含めたオートファジーに必須のタンパク質と考えられている。したがって、Atg5、Atg7の遺伝子発現をそれぞれ抑制された細胞では、Atg5/Atg7依存的オートファジーのみが働いていない一方で、Beclin1の遺伝子発現を抑制された細胞では、Atg5/Atg7依存的オートファジー及びオルタナティブオートファジーを含めたオートファジー経路自体が働いていないと考えられる。
【0045】
Atg5およびAtg7の発現を抑制された角化細胞では、紫外線を照射後のIL-1βの濃度に変化がなかった(図3Aおよび3B)。一方で、Beclin1の発現を抑制された角化細胞では、紫外線照射後にIL-1βの濃度が有意に増加した(図3C)。これにより、紫外線により生じる炎症の軽減には、Atg5/Atg7依存的オートファジーは何ら関与していない一方で、紫外線により生じる炎症の軽減に、オルタナティブオートファジーが寄与していることが示された。
【0046】
オルタナティブオートファジー誘導剤のスクリーニング方法
正常293T細胞及びAtg5欠損293T細胞を、DMEM+10%FBS培地に、1x104細胞/ウェルで播種し、2日間培養した。培養後、培地を、被験物質を含有する培地に置換し、オートファジーモニター色素(同仁化学)を1μM濃度で添加し、オートファジーの活性を調べた。212種類の被験物質のうち、20種類の被験物質が、正常293T細胞とAtg5欠損293T細胞のいずれにおいても同等のオートファジー活性を誘導した。
【0047】
続いて、選択された20の被験物質について、正常ヒト表皮角化細胞(Hacat)細胞におけるオートファジー活性を測定した。上述のAtg5ノックダウン用のsiRNAを処置して、Atg5ノックダウンHacat細胞を取得した。正常Hacat細胞と、Atg5ノックダウンHacat細胞をそれぞれDMEM+10%FBS培地に、1×104細胞/ウェルで播種し、2日間培養した。培養後、培地を、被験物質を含有する培地に置換し、オートファジーモニター色素(同仁化学)を1μM濃度で添加し、オートファジーの活性を調べた。20種類の被験物質のうち、10種類の被験物質が正常Hacat細胞とAtg5ノックダウンHacat細胞のいずれにおいても同等のオートファジー活性を誘導した。これにより、かかる10種類の被験物質が、Atg非依存的オートファジーを、表皮角化細胞において誘導することができることが示された。
【0048】
選択された10種類の被験物質について、従来型オートファジー活性及びオルタナティブオートファジー(Atg5/Atg7非依存的オートファジー)活性の誘導能について測定した。具体的に、正常Hacat細胞を、上記被験物質を添加した培地で培養し、抗LC3-II抗体(Cosmo bio)を用いて免疫染色を行った。蛍光顕微鏡で観察し、被験物質非添加の対照群と比較して、全視野における蛍光輝度の変化を記録した。LC3-IIは、従来型のオートファジーの指標となることから、被験物質非添加の対照群と比較して、蛍光輝度が増加した場合に、従来型オートファジー活性の誘導能を決定した。続いて、Atg5ノックダウンHacat細胞を、上記被験物質を添加した培地で培養し、抗Lamp1抗体(Abcam)を用いて免疫染色を行った。蛍光顕微鏡で観察し、被験物質非添加の対照群と比較して、全視野における蛍光輝度の変化を記録した。Lamp1は、のオートファジーの指標となることから、被験物質非添加の対照群と比較して、蛍光輝度が増加した場合に、Atg非依存的オートファジー活性の誘導能を決定した。結果を下記の表に示す。
【表3】

29:エンメイソウエキス、45:オドリコソウエキス、62:カラスムギ抽出液、95:シャクヤクエキスBG、129:ツバキ種子エキスBG、156:ブルガリアローズウォーター、157:フローラサン90、174:マンゴスチンエキスBG、179:モリンガエキスG、183:ユキノシタエキスBG
【0049】
被験物質番号29、34、129、及び156において、強いオルタナティブオートファジー誘導活性がみられた。また、被験物質29は、従来型オートファジーを誘導しない一方で、オルタナティブオートファジー活性のみを誘導することができた。
図1
図2
図3
【配列表】
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