(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】無針注射器
(51)【国際特許分類】
A61M 5/30 20060101AFI20240708BHJP
A61M 5/145 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
A61M5/30
A61M5/145
(21)【出願番号】P 2020566376
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051529
(87)【国際公開番号】W WO2020149152
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2019005168
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 弘充
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕三
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/163348(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/036938(WO,A1)
【文献】特表2004-516108(JP,A)
【文献】特表2005-511253(JP,A)
【文献】特表2005-537907(JP,A)
【文献】特開2002-291887(JP,A)
【文献】特開2014-104112(JP,A)
【文献】特表2018-516699(JP,A)
【文献】特開2003-310758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/30
A61M 5/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象領域の表面に対して射出口を接触させた状態で、該射出口から注射目的物質を該対象領域に射出する無針注射器であって、
前記注射目的物質が収容される収容空間を有する収容部と、
前記収容部に収容されている前記注射目的物質を前記射出口まで導く流路を画定するノズル部と、
前記注射目的物質を射出するための射出エネルギーを付与する駆動部と、
前記射出エネルギーが付与されることで、前記無針注射器の内部で所定方向に移動又は変形するように配置された推進体を介して、前記収容空間に収容されている前記注射目的物質を加圧する加圧部と、
前記駆動部により前記射出エネルギーが付与され前記注射目的物質が前記対象領域内に送達された後において、
前記対象領域の開裂部分が閉塞するのに要する時間に関する第1タイミングであって前記射出口と前記対象領域の表面との接触状態を解消する第1タイミングに関する所定通知をユーザに対して行う通知部と、
を備える、無針注射器。
【請求項2】
前記通知部は、前記駆動部による前記射出エネルギーの付与が開始されてから前記第1タイミングまでの間、前記所定通知に関する信号を継続して発生させる、
請求項1に記載の無針注射器。
【請求項3】
前記対象領域及びユーザに関する第1情報を記憶する記憶部を、更に備え、
前記通知部は、前記記憶部に記憶されている前記第1情報に基づいて前記所定通知を行う、
請求項1又は請求項2に記載の無針注射器。
【請求項4】
前記射出口と前記対象領域の表面との接触状態において該射出口近傍の該対象領域に関する第2情報を取得する所定センサを、更に備え、
前記通知部は、前記所定センサによって取得された前記第2情報に基づいて前記所定通知を行う、
請求項1又は請求項2に記載の無針注射器。
【請求項5】
前記射出口と前記対象領域の表面との接触状態を検知可能な圧力センサを、更に備え、
前記通知部は、前記駆動部による前記射出エネルギーの付与が開始されてから前記第1タイミングが経過するまでに、前記圧力センサによる検出値が所定の第1圧力値を下回った場合には、前記対象領域の表面に対する前記射出口の押圧力を増加するようにユーザに対して追加の通知を行う、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の無針注射器。
【請求項6】
前記駆動部は、前記圧力センサによる検出値が所定の第2圧力値以上となったときに作動が許可される、
請求項5に記載の無針注射器。
【請求項7】
前記通知部により前記所定通知が行われると、前記ノズル部を前記無針注射器内部に退避させて前記射出口と前記対象領域の表面との接触状態を解消する退避部を、更に備える、
請求項1から請求項6の何れか1項に記載の無針注射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、注射針を介することなく注射目的物質を対象領域に射出する無針注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体等の対象領域に薬液等を射出する装置として注射針を有しない無針注射器が例示できるが、近年、取り扱いの容易さや衛生面等からも着目されその開発が行われている。一般に、無針注射器では、圧縮ガスやバネ等の駆動源により加圧された薬液を対象領域に向かって射出し、その薬液が有する運動エネルギーを利用して対象領域の内部に薬液が射出される構成が実用化されている。
【0003】
特許文献1に開示される無針注射器は、薬液等を患者等に注入する際にノズルの先端が皮膚に適切な状態で接触しているかを感知するセンサを備えている。この無針注射器では、ノズルの先端が薬液の注入に適切な定位置にないことをセンサが感知すると、薬液を噴出するマイクロジェットが駆動しないように制御される。更に、この無針注射器は、ノズルの先端が定位置にないことをユーザに通知するブザー等のアラーム機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、無針注射器による薬液投与時に無針注射器と患者等の皮膚とが適切な接触状態にあるかをセンサで感知し、無針注射器と患者等の皮膚とが適切な接触状態にない場合には、薬液が射出されないように駆動源が制御されている。
【0006】
ここで、無針注射器において、薬液の射出後に皮膚から当該薬液が逆流することを防ぐため、薬液の射出直後に無針注射器を皮膚から離すのではなく、無針注射器を皮膚に接触させた状態を一定時間維持することが好ましい。これは、無針注射器は、噴出された薬液が有する運動エネルギーで皮膚の一部を開裂させて当該薬液を所定部位に送達するため、薬液噴出後に皮膚の開裂部分が閉塞するのに要する間は、無針注射器と皮膚の表面を接触させた状態を維持することが好ましいからである。
【0007】
しかしながら、従来の技術では、薬液射出後の無針注射器と皮膚との接触時間を確保するための構成等については言及されていない。薬液射出後に無針注射器と皮膚との接触時間が一定時間確保されないと、当該薬液が皮膚表面に逆流してしまうという問題がある。
【0008】
そこで、本開示は、上記した問題に鑑み、無針注射器が注射目的物質を射出した後に当該注射目的物質の逆流を抑制し得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の無針注射器では、注射目的物質が対象領域内に送達された後において、射出口と対象領域の表面との接触状態を解消する第1タイミングに関する所定通知をユーザに対して行う構成を採用した。このような構成により、注射目的物質送達後の無針注射器と対象領域の表面とを接触させる保持時間を確保することができるので、無針注射器が注射目的物質を射出した後に当該注射目的物質の逆流を抑制できる。
【0010】
具体的には、本開示は、対象領域の表面に対して射出口を接触させた状態で、該射出口から注射目的物質を該対象領域に射出する無針注射器であって、前記注射目的物質が収容される収容空間を有する収容部と、前記収容部に収容されている前記注射目的物質を前記射出口まで導く流路を画定するノズル部と、前記注射目的物質を射出するための射出エネルギーを付与する駆動部と、前記射出エネルギーが付与されることで、前記無針注射器の内部で所定方向に移動又は変形するように配置された推進体を介して、前記収容空間に収容されている前記注射目的物質を加圧する加圧部と、前記駆動部により前記射出エネルギーが付与され前記注射目的物質が前記対象領域内に送達された後において、前記射出口と前記対象領域の表面との接触状態を解消する第1タイミングに関する所定通知をユーザに対して行う通知部と、を備える。
【0011】
上記の無針注射器において、注射目的物質を対象領域に対して射出するために、駆動部が、収容部に収容されている注射目的物質に対して射出エネルギーの付与を行う。本願における「射出」は、駆動部により射出エネルギーを注射目的物質に付与してその注射目的物質が収容部から射出口に流れることで実現される。
【0012】
ここで、無針注射器で射出される注射目的物質としては、対象領域内で効能が期待される成分や対象領域内で所定の機能の発揮が期待される成分を含む所定物質が例示できる。そのため、少なくとも上記の射出エネルギーによる射出が可能であれば、注射目的物質の物理的形態は問わない。例えば注射目的物質が液体内に溶解した状態で存在してもよく、又は液体に溶解せずに単に混合された状態であってもよい。一例を挙げれば、送りこむべき所定物質として、抗体増強のためのワクチン、美容のためのタンパク質、毛髪再生用の培養細胞等があり、これらが射出可能となるように、液体の媒体に含まれることで注射目的物質が形成される。なお、上記媒体としては、対象領域内部に注入された状態において所定物質の上記効能や機能を阻害するものでない媒体が好ましい。別法として、上記媒体は、対象領域内部に注入された状態において、所定物質とともに作用することで上記効能や機能が発揮される媒体であってもよい。
【0013】
また、無針注射器から注射目的物質を対象領域に向けて射出し、その内部に送り込むためには、対象領域の表面を射出された注射目的物質で開裂させる必要がある。そのため、射出初期では注射目的物質を比較的高速に対象領域に向けて射出する必要がある。この点を考慮すると、一例として、駆動部は、点火薬の燃焼により放出される燃焼生成物を利用して射出エネルギーを付与するのが好ましい。なお、前記点火薬として、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬、アルミニウムと酸化銅を含む火薬、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬のうち何れか一つの火薬、又はこれらのうち複数の組み合わせからなる火薬の何れかを採用できる。上記点火薬の特徴としては、その燃焼生成物が高温状態では気体であっても常温では気体成分を含まないため、点火後燃焼生成物が直ちに凝縮を行う結果、駆動部は、極めて短期間に射出エネルギーの付与を行うことができる。また、駆動部は、点火薬の燃焼による射出エネルギーに代えて、圧電素子等の電気的エネルギーやばね等の機械的エネルギーを射出エネルギーとして利用してもよく、これらの形態のエネルギーを適宜組み合わせることで射出エネルギーを生成するようにしてもよい。また、推進体には、無針注射器の内部で所定方向に移動するように配置されたピストン、所定方向に膨らむ薄膜、所定方向に伸びる襞等を用いることができる。
【0014】
ここで、通知部は、駆動部により射出エネルギーが付与され注射目的物質が対象領域内に送達された後において、射出口と対象領域の表面との接触状態を解消する第1タイミングに関する所定通知をユーザに対して行う。無針注射器は、ユーザに第1タイミングに関する所定通知が行われるまで射出口と対象領域の表面との接触状態を保持時間の間維持させることができるので、注射目的物質が逆流するのを抑制できる。
【0015】
また、上記無針注射器の通知部は、前記駆動部による前記射出エネルギーの付与が開始されてから前記第1タイミングまでの間、前記所定通知に関する信号を継続して発生させてもよい。通知部は、射出口を対象領域の表面から離してもよい時間まで所定通知を行い、保持時間の経過後に所定通知を終了する。これにより、本願の無針注射器は、ユーザに第1タイミングに関する所定通知が終了するまで射出口と対象領域の表面との接触状態を保持時間の間維持させることができるので、注射目的物質が逆流するのを抑制できる。
【0016】
また、上記無針注射器において、前記対象領域及びユーザに関する第1情報を記憶する記憶部を、更に備え、前記通知部は、前記記憶部に記憶されている前記第1情報に基づいて前記所定通知を行ってもよい。第1情報には、対象領域の部位、被投与者の年齢、性別等が含まれてもよい。第1情報は、無針注射器の使用前において予め記憶部に記憶されている。この構成を備える無針注射器は、第1情報に基づいて保持時間を決定して所定通知を行うことができ、ユーザが射出口と対象領域の表面との接触状態を解消する第1タイミングを把握することができるので、注射目的物質が逆流するのを抑制できる。
【0017】
ここで、上述までの無針注射器において、前記射出口と前記対象領域の表面との接触状態において該射出口近傍の該対象領域に関する第2情報を取得する所定センサを、更に備え、前記通知部は、前記所定センサによって取得された前記第2情報に基づいて前記所定通知を行ってもよい。第2情報は、対象領域の部位の水分、弾力性、皮膚の厚さ等であってもよい。無針注射器は、第2情報に基づいて保持時間を決定して所定通知を行うことができ、ユーザが射出口と対象領域の表面との接触状態を解消する第1タイミングを把握することができるので、注射目的物質が逆流するのを抑制できる。
【0018】
また、上述までの無針注射器において、前記射出口と前記対象領域の表面との接触状態を検知可能な圧力センサを、更に備え、前記通知部は、前記駆動部による前記射出エネルギーの付与が開始されてから前記第1タイミングが経過するまでに、前記圧力センサによる検出値が所定の第1圧力値を下回った場合には、前記対象領域の表面に対する前記射出口の押圧力を増加するようにユーザに対して追加の通知を行ってもよい。この構成を備える無針注射器は、保持時間が経過するまで射出口と対象領域の表面との接触状態を所定の第1圧力値以上で保持できるので、注射目的物質が逆流するのを抑制できる。ここで、所定の第1圧力値は、保持時間において注射目的物質を対象領域に送達させるために、又は送達させた注射目的物質を逆流させないために必要な圧力である。
【0019】
上記の無針注射器の前記駆動部は、前記圧力センサによる検出値が所定の第2圧力値以上となったときに作動が許可される。所定の第2圧力値は、注射目的物質を漏れなく対象領域に送達するために必要な圧力であって、例えば、注射目的物質の有する運動エネルギーで対象領域における皮膚の一部を開裂させるときに、対象領域と射出口に隙間を形成させないために必要な圧力である。この構成を備えた無針注射器は、所定の第2圧力値で射出口と対象領域の表面とが接触している状態で注射目的物質を射出することができるので、注射目的物質を対象領域内の皮膚下に送達することができ、以て、注射目的物質が逆流するのを抑制できる。
【0020】
上述までの無針注射器において、前記通知部により前記所定通知が行われると、前記ノズル部を前記無針注射器内部に退避させて前記射出口と前記対象領域の表面との接触状態を解消する退避部を、更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本開示の技術によれば、無針注射器が注射目的物質を射出した後に当該注射目的物質の逆流を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図4】無針注射器のハウジングの構成を示す図である。
【
図5】無針注射器に組み込まれる注射器アセンブリの概略構成を示す図である。
【
図6】無針注射器に組み込まれるアクチュエータの概略構成を示す図である。
【
図7】無針注射器に組み込まれるピストンの概略構成を示す図である。
【
図8】無針注射器に組み込まれるアタッチメントの概略構成を示す図である。
【
図9】無針注射器に組み込まれるプランジャロッド及びプランジャの概略構成を示す図である。
【
図10】無針注射器に組み込まれるコンテナの概略構成を示す図である。
【
図11】第1の実施形態に係る無針注射器の制御部のブロック図である。
【
図12】第1の実施形態に係る無針注射器の制御部が行う処理に関するフローチャートである。
【
図13】第2の実施形態に係る無針注射器の制御部が行う処理に関するフローチャートである。
【
図14】第3の実施形態に係る無針注射器の制御部のブロック図である。
【
図15】第4の実施形態に係る無針注射器に組み込まれるコンテナの概略構成を示す図である。
【
図16】第4の実施形態に係る無針注射器の制御部のブロック図である。
【
図17】第4の実施形態に係る無針注射器の制御部が行う処理に関するフローチャートである。
【
図18】第4の実施形態に係る無針注射器の制御部が行う処理に関するフローチャートである。
【
図19】第5の実施形態に係る無針注射器に組み込まれるコンテナのノズル部近傍の拡大図である。
【
図20】第5の実施形態に係る無針注射器の制御部のブロック図である。
【0023】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係る無針注射器(以下、単に「注射器」と称する)1について説明する。当該注射器1は、火薬の燃焼エネルギーを利用して、本願の注射目的物質に相当する射出液を対象領域に射出する無針注射器、すなわち、注射針を介することなく、射出液を対象領域に射出して注射を行う装置である。
【0024】
なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本件開示は、実施形態によって限定されることはなく、請求の範囲によってのみ限定される。本実施形態では、注射器1においてその長手方向における相対的な位置関係を表す用語として、「先端側」及び「基端側」を用いる。当該「先端側」は、後述する注射器1の先端寄り、すなわち射出口77寄りの位置を表し、当該「基端側」は、注射器1の長手方向において「先端側」とは反対側の方向、すなわち注射器アセンブリ10(後述の
図5を参照のこと)における点火器22側の方向を表している。
【0025】
<注射器1の構成>
ここで、
図1は、注射器1の外観を概的に示す図である。
図2は注射器1の第1の断面図であり、その断面は、後述の
図4におけるAA断面である。また、
図3は注射器1の第2の断面図であり、その断面は、後述の
図4におけるBB断面であり、BB断面はAA断面に直交する。なお、
図4は注射器1を構成するハウジング2の構成を示す図であることに留意する。ここで、注射器1は、ハウジング2に注射器アセンブリ10が取り付けられて形成される。また、ハウジング2には、注射器アセンブリ10内の点火器22に駆動電流を供給するための電源ケーブル3が接続される。
【0026】
なお、本願の以降の記載においては、注射器1により対象領域に射出される射出液は、当該対象領域で期待される効能や機能を発揮する所定物質が液体の媒体に含有されることで形成されている。その射出液において、所定物質は媒体である液体に溶解した状態となっていてもよく、また、溶解されずに単に混合された状態となっていてもよい。
【0027】
射出液に含まれる所定物質としては、例えば生体である対象領域に対して射出可能な生体由来物質や所望の生理活性を発する物質が例示でき、例えば、生体由来物質としては、DNA、RNA、核酸、抗体、細胞等が挙げられ、生理活性を発する物質としては、低分子、蛋白、ペプチド等からなる医薬、ワクチン、温熱療法や放射線療法のための金属粒子等の無機物質、キャリアとなる担体を含む各種の薬理・治療効果を有する物質等が挙げられる。また、射出液の媒体である液体としては、これらの所定物質を対象領域内に投与するために好適な物質であればよく、水性、油性の如何は問われない。また、所定物質を注射器1にて射出可能であれば、媒体である液体の粘性についても特段に限定されるものではない。
【0028】
注射器1において、注射器アセンブリ10は、ハウジング2に対して脱着自在となるように構成されている。注射器アセンブリ10に含まれるコンテナ70とプランジャ80との間に形成される収容空間75(
図5を参照)には、注射器1の作動前である準備段階において射出液が充填され、そして、当該注射器アセンブリ10は、射出液の射出を行う度に交換されるユニットである。注射器アセンブリ10の詳細については、後述する。
【0029】
一方で、ハウジング2は、注射器1のユーザがその使用のために把持するグリップ部2aが形成されるとともに、射出液の射出を実現するために注射器1を操作する複数のスイッチが設けられている。なお、注射器1は、ユーザが片手で把持し、その操作が可能となるように構成されている。そこで、
図4に基づいてハウジング2について説明する。
図4において、(a)はハウジング2を前方から見た場合の外観を表しており、(b)はハウジング2を側方から見た場合の外観を表しており、(c)はハウジング2を後方から見た場合の外観を表しており、(d)はハウジング2を上方から見た場合の外観を表している。ここで、「前方」とは、ユーザがハウジング2を把持したときにユーザの遠位に位置する部位であり
図4(b)において左側に位置し、「後方」とは、逆にユーザの近位に位置する部位であり
図4(b)において右側に位置する。したがって、ユーザがハウジング2を片手で把持したとき、その指先は遠位側であるハウジング2の前方に掛かり、その手首は近位側であるハウジング2の後方に近接した状態となる。また、「上方」とは、注射器1の基端側の部位である。
【0030】
このようなユーザによる把持を考慮して、ハウジング2の前方寄りにはユーザの指先が掛かりやすくなるようにグリップ部2aが設けられている。グリップ部2aには複数のディンプルが形成され、ユーザの指先の掛かりを改善している。また、更にユーザによるハウジングの把持を安定させるために、グリップ部2aの前方側の外郭は緩やかに凹凸が形成され(
図4(b)を参照)、ユーザの人差し指や中指が掛かりやすくなっている。
【0031】
更に、ハウジング2には、注射器1を操作するための2つの操作スイッチである第1スイッチ5と第2スイッチ6が設けられている。第1スイッチ5及び第2スイッチ6は、ハウジング2内に配置されたマイコン等の制御部82(
図11参照)に接続され、制御部82は、各スイッチからの信号に基づいて点火器22への着火電流の供給を制御し、以て注射器1の動作制御を行う。ここで、第1スイッチ5は、ハウジング2の後方に設けられたスライド式のスイッチであり、そのスライド方向はハウジング2の上下方向(先端と基端を結ぶ方向)である。第1スイッチ5は常時上方向に付勢されており、ユーザは、第1スイッチ5をその付勢力に抗して一定時間下方(先端側)にスライドさせ続けることで、注射器1をスタンバイ状態に至らしめることができる。当該スタンバイ状態とは、注射器1において射出液を射出する準備ができた状態であり、更にユーザによる追加の操作が行われれば射出が実行される状態である。
【0032】
続いて第2スイッチ6は、ハウジング2の上方の傾斜面2bに設けられた押下式のスイッチであり、ユーザは第2スイッチ6をハウジング2の内部方向に押下可能である。注射器1が上記の第1スイッチ5の操作によりスタンバイ状態に置かれているときに、第2スイッチ6の押下操作が行われることで、制御部82は、点火器22に対して着火電流を供給するように構成されている。更に、ハウジング2の上方の傾斜面2bの前方には、電源ケーブル3が接続されるコネクタ4が設けられている。本実施形態では、コネクタ4はUSBコネクタであり、電源ケーブル3はハウジング2に対して着脱可能とされている。
【0033】
なお、上記の通り、本実施形態は点火器22を作動させるための電力は電源ケーブル3を介して外部から供給されるが、その態様に代えて、ハウジング2の内部に、当該電力供給のためのバッテリが設けられてもよい。この場合、当該バッテリに電力が残っている限りにおいて、注射器アセンブリ10を交換しながらハウジング2は繰り返し使用することができる。そして、バッテリの電力が無くなった場合には、そのバッテリを交換すればよい。
【0034】
ここで、注射器アセンブリ10の概略構成を
図5に示す。注射器アセンブリ10は、
図2及び
図3に示すように、ハウジング2に対して取り付けられることで注射器1を形成するものであり、具体的には、注射器アセンブリ10は、アクチュエータ20、アタッチメント30、コンテナ70、プランジャ80を含む組立体である。注射器アセンブリ10の組立については、後述する。
【0035】
先ず、アクチュエータ20について
図6に基づいて説明する。アクチュエータ20は、そのボディ21が筒状に形成されている。ボディ21は、その中央に中央部21aを有し、その先端側に先端部21bを有し、その基端側に基端部21cを有している。ボディ21において、先端部21b、中央部21a、基端部21cは、それぞれの内部空間が連通しており、更に、先端部21bの先端側において開口部27が設けられている。ここで、ボディ21の基端部21cには、点火薬22aを燃焼させて射出のためのエネルギーを発生させる電気式点火器である点火器22がキャップ23を介して取り付けられている。点火器22は外部から着火電流が供給される点火ピン22bを有し、この点火ピン22bは、ハウジング2に注射器アセンブリ10が取り付けられた状態においてハウジング2側のソケット7と結合される。また、点火器22が作動することで生成される燃焼生成物が、ボディ21の中央部21a側に放出されるようにボディ21に対する点火器22の取付状態が決定されている。すなわち、燃焼生成物の放出面22cが中央部21a側に向くように、点火器22はボディ21の基端部21cに取り付けられている。
【0036】
ここで、点火器22において用いられる点火薬の燃焼エネルギーは、注射器1が射出液を対象領域に射出するためのエネルギーとなる。なお、当該点火薬としては、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼生成物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。適切な射出液の射出が可能な限りにおいて、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
【0037】
ここで、点火器22から燃焼生成物が放出される、ボディ21の中央部21aの内部空間は燃焼室20aとされる。更に、中央部21aの外表面の一部には雄ネジ部26が形成されている。雄ネジ部26は後述するアタッチメント30の雌ネジ部38と螺合するように構成され、両者の間に必要な結合力を確保できるように雄ネジ部26と雌ネジ部38の有効長が決定される。そして、中央部21aに隣接する先端部21bの内部空間は円筒状に形成され、そこをピストン40がスライド可能となるようにシール部材であるOリング25とともに配置されている。ピストン40は金属製であり、
図7に示すように軸部材41を有し、その基端側に第1フランジ42が設けられ、第1フランジ42の近傍に更に第2フランジ43が設けられている。第1フランジ42と第2フランジ43は円盤形状を有し、その直径は同一である。第1フランジ42と第2フランジ43との間、及び第2フランジ43の更に横にOリング25が配置されることになる。また、軸部材41の先端面には、所定の大きさを有する凹部44が形成されている。アクチュエータ20の作動前においてピストン40が先端部21bの内部空間に配置されている状態では、点火器22からの燃焼生成物による受圧面となる第1フランジ42が燃焼室20a側に露出した状態となるとともに、ピストン40の軸部材41の先端は開口部27に挿入された状態となっている。
【0038】
そして、点火器22が作動して燃焼生成物が燃焼室20aに放出され、そこの圧力が上昇すると第1フランジ42が当該圧力を受けピストン40が先端側にスライドしていくことになる。すなわち、アクチュエータ20は、点火器22を作動源としピストン40を出力部とする機構を有している。そして、第2フランジ43の直径は、開口部27の直径より大きいため、ピストン40のスライド量は制限され、以て、ピストン40の軸部材41がボディ21の先端部21bの先端面から突出する量も限られた量となる。また、ピストン40は樹脂製でもよく、その場合、耐熱性や耐圧性が要求される部分は金属を併用してもよい。
【0039】
また、ピストン40に掛かる圧力を調整するための別法として、アクチュエータ20の燃焼室20aに、点火器22からの燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させるガス発生剤を更に配置してもよい。その配置場所は、点火器22からの燃焼生成物に晒され得る場所である。また、別法としてガス発生剤を、国際公開公報01-031282号や特開2003-25950号公報等に開示されているように、点火器22内に配置してもよい。ガス発生剤の一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。燃焼室20a等に配置されるときのガス発生剤の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤の燃焼完了時間を変化させることが可能であり、これによりピストン40に掛かる圧力を所望の圧力となるように調整することができる。
【0040】
なお、ピストン40は、注射器1の内部で所定方向に移動するように配置された推進体の一例である。注射器1は、ピストン40に代えて別の推進体を備えていてもよい。例えば、米国特許出願公開第2006/0089595号明細書に開示されているように、燃焼ガスによって所定方向に膨らむ薄膜や、米国特許第7063019号明細書に開示されているように、燃焼ガスによって所定方向に伸びる襞等のように、注射器1の内部で所定方向に変形するように配置された推進体を用いることも可能である。
【0041】
次に、
図8に基づいてアタッチメント30について説明する。なお、
図8の左図(a)はアタッチメント30の断面図であり、右図(b)はアタッチメント30の外観図である。アタッチメント30は、
図5に示すようにアクチュエータ20、プランジャ80、コンテナ70を取り付けるための部品である。アタッチメント30のボディ31には、例えば、公知のナイロン6-12、ポリアリレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド又は液晶ポリマー、ポリカーボネート、ポリカーボネートとアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)との混合物等が使用できる。また、これら樹脂にガラス繊維やガラスフィラー等の充填物を含ませてもよく、ポリブチレンテレフタレートにおいては20~80質量%のガラス繊維を、ポリフェニレンサルファイドにおいては20~80質量%のガラス繊維を、また液晶ポリマーにおいては20~80質量%のミネラルを含ませることができる。
【0042】
ボディ31の内部空間のうち基端側から中央にかけての第1領域33は、
図5に示すようにアクチュエータ20が配置される領域である。そして、第1領域33の基端側の領域33aには、概ねアクチュエータ20の基端部21cが位置し、第1領域33の先端側であって領域33aより直径が小さい領域33bには、概ねアクチュエータ20の中央部21a及び先端部21bが位置する。また、領域33bのうち領域33aに近い部位の内壁面には雌ネジ部38が配置され、雌ネジ部38は上記の通りアクチュエータ20の中央部21aに設けられている雄ネジ部26と螺合するように形成されている。
【0043】
更に、ボディ31の内部空間においては第1領域33に連通して第2領域34が形成される。第2領域34は、
図5に示すように概ねプランジャ80が配置される領域であり、ボディ31の軸方向に沿って円筒状に形成される中空領域である。第2領域34の一方の端部は、第1領域33の領域33bに連通している。第2領域34の直径は、領域33bの直径よりも細くなって、プランジャ80が摺動可能な直径となっている。なお、ボディ31には、アタッチメント30の側方の外表面から第2領域34まで貫通している貫通孔37が形成されている。ユーザは、この貫通孔37を通して、注射器アセンブリ10内のプランジャ80の状況(例えば、注射器アセンブリ10が作動前か作動後か等)を外部から確認することができる(
図1を参照)。
【0044】
更に、ボディ31の内部空間においては第2領域34に連通して第3領域35が形成される。第3領域35は、
図5に示すように概ねコンテナ70の一部が配置される領域であり、その一端が第2領域34に連通するとともにその他端がアタッチメント30の先端面に開口している。そして、第3領域35には、コンテナ70を取り付けるための雌ネジ部36が形成されている。雌ネジ部36は、後述する
図10に示すコンテナ70の雄ネジ部74と螺合して、アタッチメント30とコンテナ70との結合が実現される。
【0045】
次に、
図9に基づいてプランジャ80について説明する。なお、
図9の左図(a)はプランジャ80を構成する部材の一つであるプランジャロッド50の外観図であり、右図(b)はプランジャ80の外観図である。プランジャ80は、ピストン40から受けたエネルギーによって射出液を加圧する部材であり、プランジャロッド50には、その加圧のために好適な樹脂材料、例えばアタッチメント30と同種の樹脂材料を使用できる。ここで、プランジャロッド50は軸部材51を有し、その基端側の端面には突起部54が形成されている。突起部54は、プランジャ80が注射器アセンブリ10に組み込まれたときにアクチュエータ20に含まれるピストン40の軸部材の凹部44に嵌まり込むことが可能となるように、その形状および大きさが画定される。また、軸部材51の途中であって基端寄りの部位に、他の軸部材51の直径より縮径された縮径部52が設けられている。
【0046】
更に、プランジャロッド50においては、軸部材51の先端側には、軸部材51より直径の小さい首部55を介して突起部56が設けられている。突起部56は、首部55との接続部位近くではその直径は首部55の直径よりも大きいが、先端側に進むほどその直径が小さくなるように錘状に形成されている。ただし、突起部56の最大直径も軸部材51の直径よりは小さい。首部55及び突起部56に対してはゴム等の弾性部材で形成されたストッパ部60が取り付けられることで、プランジャ80が形成される(
図9(b)参照)。ストッパ部60には図示しない取付孔が形成されており、当該取付孔と、首部55及び突起部56とが係合することで、ストッパ部60がプランジャロッド50から外れにくくなっている。
【0047】
なお、ストッパ部60の具体的な材質としては、例えば、ブチルゴムやシリコンゴムが採用できる。更には、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマーや、これにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンや流パラ、プロセスオイル等のオイルやタルク、キャスト、マイカ等の粉体無機物を混合したものがあげられる。さらにポリ塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーや天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムのような各種ゴム材料(特に加硫処理したもの)や、それらの混合物等を、ストッパ部60の材質として採用することもできる。また、ストッパ部60は、後述のコンテナ70内において摺動しながら射出液を加圧することから、ストッパ部60とコンテナ70の収容空間75の内壁面75aとの間の摺動性を確保・調整する目的で、ストッパ部60の表面やコンテナ70の内壁面75aを各種物質によりコーティング・表面加工してもよい。そのコーティング剤としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、シリコンオイル、ダイヤモンドライクカーボン、ナノダイヤモンド等が利用できる。
【0048】
次に、
図10に基づいてコンテナ70について説明する。なお、
図10の左図(a)はコンテナ70の断面図であり、右図(b)はコンテナ70の外観図である。コンテナ70は、プランジャ80によって加圧される射出液を収容する部材であり、その加圧された射出液を対象領域に対して射出するための流路を画定する部材である。その点を考慮して、コンテナ70を形成する樹脂材料を採用でき、例えばアタッチメント30と同種の樹脂材料を使用できる。
【0049】
コンテナ70は、射出液を収容可能な空間であってプランジャ80のストッパ部60が推進可能に形成された収容空間75と、収容空間75とコンテナ70の外部とを繋ぐ流路76を含むノズル部71とを有する。ノズル部71の先端側の外周は柱状に形成されている。なお、注射器アセンブリ10においては、
図5に示すようにプランジャ80のストッパ部60が収容空間75内をノズル部71方向(先端側方向)に摺動可能となるように、プランジャ80とコンテナ70との相対位置が決定される。そして、プランジャ80のストッパ部60とコンテナ70との間に形成される空間が、射出液が封入される空間となる。ここで、コンテナ70の流路は、ノズル部71の先端面73に開口し、射出口77が形成されている。したがって、収容空間75内をプランジャ80が摺動することで、収容空間75に収容されている射出液が加圧されて、流路76を通って射出口77より射出されることになる。
【0050】
また、コンテナ70に設けられた流路76の内径は、収容空間75の内径よりも細く形成されている。このような構成により、高圧に加圧された射出液が射出口77から外部に射出されることになる。また、コンテナ70の基端側には、コンテナ70をアタッチメント30に取り付けるための雄ネジ部74が形成されている。雄ネジ部74は、アタッチメント30の雌ネジ部36と螺合する。
【0051】
なお、プランジャ80のストッパ部60の先端側の輪郭は、収容空間75と流路76とが接続する部位(収容空間75の最奥部)近傍の内壁面75aの輪郭に概ね一致する形状となっている。これにより、射出液の射出時にプランジャ80が摺動し、収容空間75の最奥部に到達したときに、ストッパ部60とコンテナ70の内壁面75aとの間に形成される隙間を可及的に小さくでき、射出液が収容空間75内に残り無駄となることを抑制することができる。ただし、ストッパ部60の形状は、本実施形態の注射器1において所望の効果が得られる限りにおいて、特定の形状に限定されるものではない。
【0052】
ここで、注射器アセンブリ10の組立について説明する。コンテナ70の収容空間75にプランジャ80のストッパ部60を最奥部まで挿入した状態で、コンテナ70の射出口77を射出液と連通させてプランジャ80を引き戻す。ストッパ部60と収容空間75の内壁面75aは好適に密に接触しているため、その引き戻し動作によって収容空間内に負圧を発生させ、射出口77から収容空間75内に射出液を充填することができる。このときのプランジャ80の引き戻し量は、その状態でコンテナ70をアタッチメント30に取り付けたときに、コンテナ70から飛び出しているプランジャ80(プランジャロッド50)が第2領域34を経て、第1領域33(
図8に示す領域33b)まで到達する程度の引き戻し量とされる。
【0053】
収容空間75に射出液を充填した状態のコンテナ70をアタッチメント30に取り付けた後に、そのアタッチメント30に対してアクチュエータ20を第1領域33側から挿入される。アクチュエータ20は、その先端部21bの先端面が、アタッチメント30の領域33bの先端面33c(
図8を参照)に突き当たるまで挿入され、このときアクチュエータ20の中央部21aに設けられている雄ネジ部26が、アタッチメント30の雌ネジ部38と螺合することで、アクチュエータ20とアタッチメント30が好適に結合される。そして、このときアクチュエータ20に組み込まれているピストン40の軸部材41の凹部44が、プランジャ80の軸部材51の突起部54と嵌め合った状態となり、プランジャ80はピストン40によって先端側に向かって押し込まれていく。なお、ピストン40のアクチュエータ20の先端部21b内での固定力は、点火器22による燃焼生成物から受ける圧力によっては、ピストン40が十分に円滑に先端部21b内を摺動できる程度であり、且つ、注射器アセンブリ10の組み立てに際しては、ピストン40がプランジャ80から受ける力に対しては十分に抗し、ピストン40の位置が変動しない程度とされる。別法として、
図6に示すようにピストン40の第1フランジ42の頂面が、アクチュエータ20の燃焼室20aに面し、且つ燃焼室20a側へ変位しないように、ピストン40が位置すべき場所にストッパを形成してもよい。また、アタッチメント30にアクチュエータ20とプランジャ80が組み立てられた際にピストン40が移動するのを防ぐために、アクチュエータ20の開口部27の開口径をプランジャ80の第1フランジ40の直径よりも小さくすることで、プランジャ80がピストン40を基端部側に押さないような構造とし、プランジャ80の位置決めは、第1フランジ40がアクチュエータ20の先端側端面に当たることで行われてもよい。
【0054】
したがって、上記のようにコンテナ70及びプランジャ80が取り付けられたアタッチメント30に対してアクチュエータ20が取り付けられると、プランジャ80はピストン40から先端側に向かって進むように押し込まれ、コンテナ70内においてプランジャ80が所定の位置に位置決めされる。なお、このプランジャ80の押し込みに応じて、射出液の一部が射出口77から吐出される。
【0055】
このようにプランジャ80が最終位置に位置決めされると、注射器アセンブリ10の形成が完了することになる。この注射器アセンブリ10においては、コンテナ70の収容空間75におけるプランジャ80のストッパ部60の位置が機械的に決定される。このストッパ部60の最終的な位置は、注射器アセンブリ10において一義的に決定される位置であるから、注射器アセンブリ10において最終的に収容空間75内に収容される射出液の量、すなわち射出される射出液の量を、予め決められた所定量とすることが可能となる。
【0056】
このように構成された注射器アセンブリ10は、点火器22の点火ピン22bがハウジング2側のソケット7に嵌め込まれて、ハウジング2に装填されて、使用可能な注射器1が準備できる(
図1~
図3を参照)。ユーザは、そのような注射器1のハウジング2を片手で把持し、ハウジング2の後方に位置する第1スイッチ5を所定時間スライドさせ続けて注射器1をスタンバイ状態とする。その上で、ユーザは射出口77を対象領域に接触させた状態で第2スイッチ6を押下することで点火器22が作動し、ピストン40、プランジャ80を介して、射出液が加圧され、その射出が実行され、対象領域内に射出液が注射されることになる。
【0057】
<注射器による所定通知>
<第1の実施の形態>
ここで、
図11に基づいて注射器1の第1の実施の形態について説明する。
図11は、本実施の形態に係る注射器1が備える制御部82のブロック図である。制御部82は、
図2、
図3に示すようにハウジング2内に配置され、種々の制御を行う。制御部82は、CPU等で構成された演算処理部83と、電力やデータやスイッチからの入力信号が入力される入力部84と、制御信号等を出力する出力部85とを有する。入力部84には、コネクタ4が接続されており、電源ケーブル3を介して電力が入力される。更に、入力部84には、第1スイッチ5及び第2スイッチ6が接続されており、これらのスイッチからの入力信号が入力される。出力部85には、点火器22とスピーカ81が接続されている。スピーカ81は、
図2や
図4(d)に示すように、第1スイッチ5と第2スイッチ6の間に配置されている。制御部82は、コネクタ4から供給される電力によって作動し、第1スイッチ5と第2スイッチ6からの入力信号に基づいて、点火器22やスピーカ81を制御する。更に制御部82は、スピーカ81を制御してブザー音等の効果音や音声等の出力によってユーザに対し種々の通知(所定通知や追加の通知)を行う。なお、スピーカ81に代えて注射器1のハウジング2にランプや文字、数字等を表示する表示装置等を設け、制御部82がランプや表示装置等を制御してユーザに対する種々の通知を行ってもよい。注射器1がランプを備える場合には制御部82はランプを制御して所定通知をランプの点灯や点滅を行う。注射器1が表示装置を備える場合には制御部82は表示装置を制御して所定通知を「終了」等の文字を表示する。なお、スピーカ、ランプ及び表示装置の2つ以上の組み合わせがハウジング2に設けられており、制御部82は、これらを制御してユーザに対する種々の通知を行ってもよい。
【0058】
制御部82は、射出口77と対象領域の表面との接触状態を解消する第1タイミングに関する所定通知をユーザに対して行う通知部として機能する。以下、所定通知について説明する。
図12は、注射器1の動作時における制御部82が行う処理を示すフローチャートである。まず、制御部82には、第1スイッチ5がオンにされたか否かを入力信号に基づいて判定する(ステップS101)。第1スイッチ5がオンにされることによって、注射器1はスタンバイ状態となる。制御部82は、第1スイッチがオンにされた状態であると判定すると(ステップS101のYes)、第2スイッチ6がオンにされたか否かを入力信号に基づいて判定する(ステップS102)。制御部82は、第2スイッチ6がオンにされたことを検知すると(ステップS102のYes)、点火器22への着火電流を供給して点火器22を作動させる(ステップS103)。
【0059】
点火器22が作動すると、ピストン40が先端側にスライドしてプランジャ80を先端側に押し、射出液に射出エネルギーが付与される。これにより、射出液が射出口77から射出される。射出液が有する運動エネルギーで対象領域内の皮膚の一部が開裂され、射出液が皮膚下に送達される。注射器1は、射出液を射出してから皮膚の開裂部分が閉塞するのに要する間、射出口77と皮膚とを接触させた状態が保持されるようにすることで、射出液の逆流を抑制できる。射出後に射出口77と皮膚とを接触させた状態を保持する保持時間は、射出液を射出してから皮膚の開裂部分が閉塞するのに要する時間であって射出液の逆流を抑制するのに必要な時間である。保持時間は、例えば、対象領域の部位、射出液の被投与者の年齢、性別等のデータに基づいて予め設定される。保持時間は、対象領域の水分、弾力性、皮膚の厚さ、ノズル部71の径、薬液の吐出圧力(火薬式の注射器1であれば、使用される火薬類の所定容積における最大燃焼圧力に相当)に基づいて設定されてもよい。保持時間はこれらのデータに基づいて例えば3~20秒の間で設定される。この設定は、USBケーブルをコネクタ4に接続することによって注射器1をパーソナルコンピュータに接続し、当該パーソナルコンピュータから保持時間の設定情報を制御部82に送信することによって予め行われてもよい。制御部82は、保持時間の設定情報をパーソナルコンピュータから受信すると演算処理部83内のCPUやRAM等にこの設定情報を記憶する。なお、制御部82は、この設定情報を記憶する不揮発性メモリ等の記憶部を別途備えていてもよい。または、ハウジング2に、これらの情報を入力する装置(例えば作動ボタンによるデータ選択や入力による設定が行える入力装置)が組み込まれていてもよい。
【0060】
制御部82は、点火器22が作動して射出液が対象領域内に送達された後において、射出口77と対象領域の表面との接触状態を解消する第1タイミングに関する所定通知をユーザに対して行う。本実施の形態では、制御部82は、射出液が対象領域内に送達された時を点火器22が作動した時として、点火器22が作動してから保持時間が経過したか否かを判定する(ステップS104)。制御部82は、保持時間が経過したと判定すると(ステップS104のYes)、所定通知を行い(ステップS105)、この処理を終了する。所定通知は、射出口77と対象領域の表面との接触状態を解消する第1タイミングに関する通知である。制御部82はスピーカ81を制御して所定通知をユーザに対して行う。これにより、注射器1は、ユーザに第1タイミングに関する所定通知が行われるまで射出口77と対象領域の表面との接触状態を保持時間の間維持させることができるので、射出液が逆流するのを抑制できる。なお、注射器1のハウジング2に振動モータを含む振動部を設け、制御部82が当該振動部を制御して所定の通知を振動によって行ってもよい。所定の通知は、射出液が対象領域内に送達された後に行われるものであるのでハウジング2等を振動させて行われてもよい。
【0061】
<第2の実施の形態>
次に、
図13に基づいて注射器1の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態において制御部82は、ピストン40が先端側にスライドしてプランジャ80による射出エネルギーの付与が開始されてから第1タイミングまでの間、所定通知に関する信号を継続して発生させる。
【0062】
制御部82は、点火器22が作動して射出液が対象領域内に送達された後において、射出口77と対象領域の表面との接触状態を解消する第1タイミングに関する所定通知をユーザに対して行う。
図13は、注射器1の動作時における制御部82が行う処理を示すフローチャートである。
図13のフローチャートにおけるステップS201~S203の各処理は、
図12のフローチャートにおけるステップS101~S103の各処理と同じであるため、これらの説明は省略する。
【0063】
ステップS204では、制御部82は所定通知を行う。具体的には、制御部82は、点火作動と同時に所定通知に関する信号を継続して発生させてスピーカ81に送信する。これにより、制御部82は、スピーカ81を制御して所定通知を行う。例えば、制御部82は、スピーカ81を制御してブザー音等の効果音や音声等を出力して所定通知を行う。なお、スピーカ81に代えて注射器1のハウジング2にランプや表示装置等を設けてもよい。なお、注射器1が表示装置を備える場合には制御部82は表示装置を制御して所定通知を保持時間の残り時間を示すカウントダウン表示で行ってもよい。
【0064】
次いで、制御部82は、射出液が対象領域内に送達された時を点火器22が作動した時として、点火器22が作動してから保持時間が経過したか否かを判定する(ステップS205)。制御部82は、保持時間が経過したと判定すると(ステップS205のYes)、所定通知を終了して(ステップS206)、この処理を終了する。制御部82は、スピーカ81に対して所定通知に関する信号の送信を停止して所定通知を終了する。
【0065】
本実施形態では、制御部82は、保持時間中で所定通知を行い、保持時間の経過後に所定通知を終了する。これにより、注射器1は、ユーザに第1タイミングに関する所定通知が終了するまで射出口77と対象領域の表面との接触状態を保持時間の間維持させることができるので、射出液が逆流するのを抑制できる。
【0066】
<第3の実施の形態>
次に、
図14に基づいて注射器1の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態において注射器1は、対象領域及びユーザに関する第1情報を記憶する記憶部86を備えている。
図14に示すように、記憶部86は制御部82に含まれているがこの構成に限られず、記憶部86は制御部82外に別途設けられていてもよい。
【0067】
記憶部86は、不揮発性メモリで構成されており、第1情報を記憶している。第1情報には、対象領域の部位、被投与者の年齢、性別等が含まれる。制御部82は、記憶部86に記憶されている第1情報に基づいて所定通知を行う。例えば、第1情報は、USBケーブルをコネクタ4に接続することによって注射器1をパーソナルコンピュータに接続し、当該パーソナルコンピュータから第1情報を制御部82に送信することによって予め記憶部86に記憶される。例えば、記憶部86は、第1情報に基づいて保持時間を決定するためのデータテーブルを有しており、制御部82は、第1情報に基づいて当該データテーブルを参照して保持時間を決定し、
図12や
図13に示す処理を行って所定通知を行う。これにより、注射器1は、第1情報から適切な保持時間を決定して所定通知を行うことができるので、射出液が逆流するのを抑制できる。なお、記憶部86に対して第1情報を入力するためパーソナルコンピュータを使用する以外に、年齢や投与部位、被投与者の身体データ(身長、体重等)、駆動部(点火器22)の仕様などを選択画面から選択して最適な保持時間を設定できるような入力装置がハウジング2内に組み込まれていてもよいし、又は、当該入力装置を外部機器として準備しておき、第1情報入力時に制御部82の入力部84に接続して第1情報を記憶部86に入力してもよい。
【0068】
<第4の実施の形態>
次に、
図15及び
図16に基づいて注射器1の第4の実施の形態について説明する。
図15の左図(a)はコンテナ70の断面図であり、右図(b)はコンテナ70の外観図である。本実施の形態に係る注射器1は、ノズル部71の先端面73に射出口77を囲むように配置されたセンサ87を備えている。本実施の形態では、センサ87は、射出口77と対象領域の表面との接触状態において射出口77近傍の対象領域に関する第2情報を取得する。第2情報は、対象領域の部位の水分、弾力性、皮膚の厚さ等である。
【0069】
センサ87は、コンテナ70に着脱可能に取り付けられている。なお、注射器1がハウジング2から注射器アセンブリ10の長手方向に沿ってコンテナ70の射出口77まで延びる腕部を備えており、センサ87は当該腕部の先端部に取り付けられていてもよい。
【0070】
図16は、本実施の形態に係る注射器1が備える制御部82のブロック図である。センサ87は、入力部84に接続されている。制御部82は、センサ87によって取得された第2情報に基づいて所定通知を行う。制御部82は、第2情報に基づいて保持時間を決定し、
図12や
図13に示す処理を行って所定通知を行う。注射器1は、第2情報から保持時間を決定して所定通知を行うことができるので、射出液が逆流するのを抑制できる。なお、
図16に示す制御部82においても記憶部86が設けられていてもよい。この場合、制御部82は、第2情報に基づいて保持時間を決定するためのデータテーブルを有しており、制御部82は、第2情報に基づいて当該データテーブルを参照して保持時間を決定してもよい。
【0071】
<第4の実施の形態の変形例1>
次に、
図15~
図17に基づいて注射器1の第4の実施の形態の変形例1について説明する。本変形例では、センサ87は、射出口77と対象領域の表面との接触状態を検知可能な圧力センサである。制御部82は、点火器22が作動してピストン40が先端側にスライドしてプランジャ80を先端側に押し、射出液に射出エネルギーの付与が開始されてから保持時間が経過(第1タイミングが経過)するまでに、センサ87による検出値が所定の第1圧力値を下回った場合には、対象領域の表面に対する射出口77の押圧力を増加するようにユーザに対して追加の通知を行う。制御部82は、この追加の通知を、スピーカ81を制御して行う。この制御を
図17に基づいて説明する。
図17は、制御部82が行う処理のフローチャートである。
図17のフローチャートにおけるステップS301~S303の各処理は、
図12のフローチャートにおけるステップS101~S103の各処理と同じであるため、これらの説明は省略する。
【0072】
ステップS304では、制御部82は、点火器22が作動してから保持時間が経過したか否かを判定する。制御部82は、保持時間が経過していないと判定すると(ステップS304のNo)、センサ87による検出値が所定の第1圧力値以上であるか否かを判定する。所定の第1圧力値は保持時間において射出液を対象領域に送達させるために、又は送達させた射出液を逆流させないために必要な圧力である。制御部82は、センサ87による検出値が所定の第1圧力値以上でないと判定すると(ステップS305のNo)、追加の通知を行う(ステップS306)。このように、制御部82は、センサ87による検出値が所定の第1圧力値を下回った場合には、対象領域の表面に対する射出口77の押圧力を増加するようにユーザに対して追加の通知を行う、追加の通知は、所定の通知と識別可能な態様で行われる。制御部82は、スピーカ81を制御してブザー音等の効果音や音声を出力して追加の通知を行う。なお、スピーカ81に代えて注射器1のハウジング2にランプや表示装置等を設け、制御部82がランプや表示装置等を制御して追加の通知を行ってもよい。なお、スピーカ、ランプ及び表示装置の2つ以上の組み合わせがハウジング2に設けられており、制御部82は、これらを制御してユーザに対する種々の通知を行ってもよい。
【0073】
一方、制御部82は、センサ87による検出値が所定の第1圧力値以上であると判定すると(ステップS305のYes)、追加の通知を行わず、保持時間が経過するまでステップS304の判定を繰り返し行う。なお、ステップS307の処理は、
図12のフローチャートにおけるステップS105の処理と同じであるため、この説明は省略する。また、制御部82は、ステップS303の処理の次に
図13に示すフローチャートにおけるステップS204~S206の各処理を行ってもよい。
【0074】
注射器1は、保持時間が経過するまで射出口77と対象領域の表面との接触状態を所定の第1圧力値以上で保持できるので、射出液が逆流するのを抑制できる。
【0075】
<第4の実施の形態の変形例2>
次に、
図15、
図16、
図18に基づいて注射器1の第4の実施の形態の変形例2について説明する。本変形例では、センサ87は、射出口77と対象領域の表面との接触状態を検知可能な圧力センサであり、点火器22は、センサ87による検出値が所定の第2圧力値以上となったときに作動が許可される。本変形例における制御部82の処理について
図18を参照して説明する。
図18は、制御部82が行う処理のフローチャートである。
図18のフローチャートにおけるステップS401、S402の各処理は、
図12のフローチャートにおけるステップS101~S102の各処理と同じであるため、これらの説明は省略する。
【0076】
ステップS403では、制御部82は、センサ87による検出値が所定の第2圧力値以上になったか否かを判定する。所定の第2圧力値は、射出液を漏れなく対象領域に送達するために必要な圧力であって、例えば、射出液の有する運動エネルギーで対象領域における皮膚の一部を開裂させるときに、対象領域と射出口77に隙間を形成させないために必要な圧力である。制御部82は、センサ87による検出値が所定の第2圧力値以上でないと判定すると(ステップS403のNo)、点火器作動のステップS404の処理に移行せず、ステップS402の処理に戻る。この際、制御部82は、スピーカ81を制御してセンサ87による検出値が所定の第2圧力値以上に達していないこと及び第2スイッチ6の操作を再度要することをユーザに通知してもよい。このように、注射器1は、センサ87による検出値が所定の第2圧力値より小さい場合には点火器22の作動を許可しない。なお、ステップS404~S408の各処理は、
図17のフローチャートにおけるステップS303~S307の各処理と同じであるため、これらの説明は省略する。また、制御部82は、ステップS403の処理の次に
図12に示すフローチャートにおけるステップS104~S105の各処理や
図13に示すフローチャートにおけるステップS204~S206の各処理を行ってもよい。
【0077】
注射器1は、射出液の対象領域への送達に必要な所定の第2圧力値で射出口77と対象領域の表面とが接触している状態で点火器22を作動して射出液を射出することができるので、射出液を対象領域内の皮膚下に送達することができ、以て、射出液が逆流するのを抑制できる。
【0078】
<第5の実施の形態>
次に、
図19に基づいて注射器1の第4の実施の形態について説明する。
図18は、コンテナ70のノズル部71近傍を拡大して示す断面図である。本実施の形態に係る注射器1は、制御部82により所定通知が行われると、ノズル部71を注射器1内部に退避させて射出口77と対象領域の表面との接触状態を解消する退避部88を備える。退避部88は、ノズル部71の基端側に配置されており、ノズル部71を基端側に退避させることができる空間である。
【0079】
退避部88には、ノズル部71を先端側及び基端側に移動させる移動機構89が配置されている。移動機構89には、マイクロリニアクチュエータ等の公知のアクチュエータを採用することができる。この移動機構89は、
図20の制御部82のブロック図に示すように、出力部85に接続されており、制御部82により制御される。制御部82は、所定通知を行うと、移動機構を制御して射出口77と対象領域の表面との接触状態を解消すべく退避部88にノズル部71を退避させる。注射器1は、保持時間を経過した後はユーザの判断及び動作によってではなく、射出口77と対象領域の表面との接触状態を解消することができる。なお、退避部88へのノズル部71の退避自体を所定通知としてもよい。更に、コンテナ70の周囲のノズル部71を取り囲むリムを設け、射出液の射出前には当該リムの先端から射出口77が若干突出した状態か又は当該リムと射出口77が面一となる状態とし、保持時間が経過した後、ノズル部71が当該リム内に格納され、当該リムの先端部のみが対象領域と接触し、射出口77は対象領域から離れる構成としてもよい。
【0080】
上記実施の形態に係る注射器1によれば、射出液の射出後の保持時間や射出口77を対象領域の表面から離すタイミングをユーザに通知することができるため、射出液の逆流を抑制し、射出液の送達の信頼性を向上することができる。
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 :注射器
2 :ハウジング
2a :グリップ部
3 :電源ケーブル
4 :コネクタ
5 :第1スイッチ
6 :第2スイッチ
10 :注射器アセンブリ
20 :アクチュエータ
21 :ボディ
22 :点火器
30 :アタッチメント
31 :ボディ
40 :ピストン
50 :プランジャロッド
51 :軸部材
52 :縮径部
60 :ストッパ部
70 :コンテナ
71 :ノズル部
75 :収容空間
76 :流路
77 :射出口
80 :プランジャ
81 :スピーカ
82 :制御部
83 :演算処理部
84 :入力部
85 :出力部
86 :記憶部
87 :センサ
88 :退避部
89 :移動機構