(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】腎移植後のBKウイルス腎症のリスクの層別化方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20240708BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20240708BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240708BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240708BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/6888 Z
G01N33/53 M ZNA
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2020571477
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2019066100
(87)【国際公開番号】W WO2019243372
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-07
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(73)【特許権者】
【識別番号】505386960
【氏名又は名称】アンスティテュト ナショナル ド ラ サンテ エ ド ラ ルシェルシュ メディカル (アンセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】ヤシン、タウフィーク
(72)【発明者】
【氏名】アントワーヌ、ドゥルバッハ
(72)【発明者】
【氏名】マノン、デカイザー
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】PLoS Pathog,2016年,12(10): e1005903
【文献】American Journal of Transplantation,2011年,11:2443-2452
【文献】Transplantation,2017年,101(6):1479-1487
【文献】Clin J Am Soc Nephrol,2007年,2: 1037-1042
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎移植を受けた患者におけるBKウイルス(BKV)腎症を発症するリスクの評価方法であって、下記の工程:
a)前記患者の生物学的サンプル中のBKVのウイルス量を測定する工程、
b)前記患者からの生物学的サンプル中のBKVウイルスに特異的なCD4
+またはCD8
+メモリーT細胞応答の正規化された強度を測定する工程(前記正規化は、工程a)において測定されたBKVウイルス量に対して実行される)、ならびに
c)腎臓ドナーと前記患者のHLA対立遺伝子差異を決定する工程
を含んでなり、
下記の場合にBKウイルス(BKV)腎症の発症リスクが高いと結論付けられる、方法:
a)血液1mLあたりBKウイルス10
3コピーのウイルス量に関連して、
b)BKVに特異的なCD4
+またはCD8
+メモリーT細胞応答の前記正規化された強度が100強度測定単位以下であり、かつ
c)前記患者と移植された腎臓のドナーとの間での差異数が5以下である。
【請求項2】
前記
工程a)、b)およびc)
により決定されるパラメーターが、前記患者がBKウイルス腎症を発症するリスクの層別化指標を作出するために、次いで編集される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記BKVウイルス量が、工程a)において、前記患者からの全血または血漿のサンプルからの定量的PCRにより測定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)において測定されたBKV特異的CD4
+またはCD8
+メモリーT細胞の応答が、前記患者からの末梢血単核細胞をBKVウイルスペプチドと接触させ
、次いで前記単核細胞に存在するT細胞の増殖を4~7日の培養
後に評価することにより決定される、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記増殖が、前記ペプチドの存在下で4~7日の培養
後に増殖マーカーを希釈したCD4
+T細胞の割合を決定することにより測定される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記増殖が、前記ペプチドの存在下で4~7日の培養
後に増殖マーカーを希釈したCD8
+T細胞の割合を決定することにより測定される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法であって、工程c)が腎臓ドナーと前記患者のHLA IおよびIIの間での不適合数を決定する工程からなり、下記の場合にBKウイルス(BKV)腎症の発症リスクが高いと結論付けられる、方法:
前記患者と移植された腎臓のドナーとの間での不適合数が5以下である。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法であって、下記の場合にBKウイルス(BKV)腎症の発症リスクが低いと結論付けられる、方法:
a)血液1mLあたりBKウイルス10
3コピーのウイルス量に関連して、
b)BKVに特異的なCD4
+またはCD8
+メモリーT細胞応答の前記正規化された強度
が100強度測定単位より大きく、かつ
c)前記患者と移植ドナーとの間での不適合数
が5より大きい。
【請求項9】
免疫抑制治療の変更後のBKVの血液複製に対する腎移植患者の応答のイン・ビトロ評価方法であって、移植後に一定の時間間隔で請求項1~8に記載の方法を繰り返すことを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項1~8に記載の方法を各治療変更の前および後に繰り返す、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~8に記載の方法をおよそ3~6か月ごとに繰り返す、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11に記載の方法を血液において実施する
ためのキットであって、下記を含む、キット:
a)BKウイルス定量的PCRを行うための試薬、および
b)請求項4~6に記載の免疫学的方法を血液に対して行うための試薬。
【請求項13】
前記試薬b)が、BKVペプチド配列またはポリクローナルリンパ球刺激ペプチド配
列を含む、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
下記を含む、請求項12に記載のキット:
a)BKVゲノムの一部を増幅するための特異的プライマー、ならびに
b)BKVペプチド配
列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の要旨
本発明は、腎移植を受けた患者においてBKウイルス腎症(以下「BKV Nx」)を発症するリスクを特定および層別化するための新しい方法を説明し、特許請求する。この方法は、i)抗BKVメモリーT細胞応答(BKVに特異的なメモリーT細胞、以下「抗BKV TCm」)の強度、ii)移植ドナーとレシピエントの間でのクラスIおよびクラスIIのHLA対立遺伝子についての不適合数、iii)患者の血液におけるBKVウイルス量の考慮、という少なくとも3つのバイオマーカーを組み合わせた指標を使用する。本方法は、移植された腎臓をよりよく保存するために免疫抑制治療を最適化することを目的として、試験の翌月にBKV Nxを発症するリスクを非常に正確に評価することを可能にする。
【背景技術】
【0002】
本願では以下の略語を使用した:
・BKV:ヒトBKポリオーマウイルス
・CFSE:リンパ球増殖マーカーであるカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル
・HLA:ヒト白血球抗原
・JCV:ヒトJCポリオーマウイルス
・抗BKV TCm: BKVに特異的なメモリーT細胞
・BKV Nx:BKウイルス腎症
・抗BKV TCm応答:BKVに特異的なメモリーT細胞の応答
【0003】
末期慢性腎疾患とその代替療法
末期慢性腎疾患は、腎機能の完全かつ決定的な障害であり、腎臓代替治療(透析または移植による)の使用を必要とする。フランスでは、2015年の末期慢性腎疾患の患者数は82,295人、つまり住民100万人あたり1,232人であった。
【0004】
現在、末期慢性腎疾患の最も効果的な治療は、腎移植である。腎移植は、透析を維持することに比べて、患者の生存および生活の質を改善し、財務的コストを削減する。腎移植は、世界最大の実質臓器移植活動である。
【0005】
2014年には、臓器提供と移植の国際観察機関(the Global Observatory for Organ Donation and Transplantation)(GODT、世界保健機関(the World Health Organization)の組織)によると、世界的に見て腎移植患者79,948人(67%)を含む119,873人の移植患者が記録された。フランスでは、2015年の機能性腎移植を受けた患者の推定数は36,729人、つまり住民100万人あたり552.4症例の患者数であり、従って、末期慢性腎疾患の治療を受けた82,295人の患者の44.6%に相当した。
【0006】
現在、総ての腎移植の必要性を満たす臓器が不足しているため(4.7人の待機者に対して1回の腎移植が利用可能であり、待機時間の中央値は18.5か月である)、現在13年と推定されている腎移植片の寿命を延ばすことが不可欠である。([1]、[2])。この目的のために、移植患者は、免疫抑制療法を日常的に受ける。この方策は、同種異系免疫応答を制御し、移植片生存期間を延長させるために実際に不可欠である。しかしながら、治療的免疫抑制は、合併症、特に感染性合併症と関連している可能性があり、これは移植に有害である可能性がある。これらの感染症は、移植された腎臓の喪失につながる可能性があり、従って、患者は透析に戻る必要があり(結果として生じる総ての有害な結果を伴い)、腎移植を待つ患者の数の増加につながる。
【0007】
腎移植におけるBKおよびJCポリオーマウイルスの再活性化
ウイルスの再活性化は、免疫不全の患者によく見られる合併症である。具体的には、特定のポリオーマウイルスの再活性化が特に懸念されている。ヒトでは、現在ポリオーマウイルスの13の既知の種が存在する。ポリオーマウイルスはよく見られるウイルスであり、種特異性で多くの動物種に感染する。これらのウイルス感染の血清陽性率は世界的に非常に高く(成人年齢で80~90%)、早期かつ広範なウイルス曝露を示している。2つの主要な代表がBKウイルス(BKV)およびJCウイルス(JCV)である。これらのウイルスの共通の特徴は、体内で無症候で長期間存続し、免疫抑制の状況で病原体になる能力である([3]、[4])。
【0008】
移植後、BKVは、尿路の上皮細胞および移植された腎臓の腎実質に感染することが知られている。腎移植患者では、BKウイルスの再活性化は、血液中での検出可能なウイルス量(200コピー/mLより多い)につながる可能性がある。
【0009】
従って、腎移植との関連において、BKVは、腎症(以下BKV Nx)、腎不全または尿管狭窄の原因となる([4])。造血幹細胞移植との関連において、BKVは、出血性膀胱炎の原因となる([4])。
【0010】
腎移植を受けた患者では、BKV再活性化のいくつかのレベルが観察される(
図1)。
【0011】
患者は以下を提示する可能性がある:
1-ウイルス血症または腎障害が検出されない「BKVウイルス尿症」。これらの患者では、BKVは尿路で複製している。ウイルス尿症は、腎移植患者のほぼ40%で観察され、通常移植後の最初の3~6か月で起こる。
2-腎移植片で検出可能な特定の腎臓損傷がない「孤立性BKVウイルス血症」。このようなウイルス血症は、腎移植患者のほぼ24%で観察され、通常腎移植後の最初の12か月で起こる。
3-BKV Nx。これらの患者では、ウイルス血症およびウイルス尿症に加えて、腎移植片におけるウイルス複製が観察され、特定の腎臓損傷の原因となっている。診断は現在、組織学的であり、核内ウイルス封入体(SV40 T陽性抗原)、核ジストロフィー、多形細胞浸潤および腎線維症を示す。この重篤な合併症は、腎移植患者のほぼ10%で診断され、通常腎移植後の最初の24か月で起こる。([5]~[6])。BKV Nxの進行は、腎実質損傷の程度に依存し、それ自体がウイルス量の強度に関連している(表8、Hirsch et al.、2014[7]参照)。転帰は、免疫系がBKV実質内複製の制御で成功した患者に有利である。見返りとして、BKVの強烈で長期の実質内ウイルス複製の持続は、腎実質に不可逆的損傷を引き起こし、慢性機能不全、腎疾患、最終的には50%を上回る症例で移植片の喪失につながる。
【0012】
Hirsch et al, Clinical Microbiology and Infection 2014[7]の表8は、BKV Nxの種々の組織学的病期、ならびに組織学的損傷に関連する腎臓の予後診断を示す。
【0013】
図2は、BKV Nxを有する場合またはBKV Nxのない場合の、患者における移植後3年での腎機能評価(糸球体濾過速度の測定による-パートa)および腎移植片の生存率(パートb)を示す。これらのデータは、本発明の開発につながったコホート研究からえられている。この観察(非介入)研究は、本発明者らによって、2014年11月から2017年11月まで、BKV再活性化の程度に応じて4グループに分けられた94人の腎移植患者のコホートで行われた:BKV再活性化のない1グループ(n=25)、孤立性BKVウイルス尿症を有する1グループ(n=25)、孤立性BKVウイルス血症を有するが組織学的に証明されたBKV Nxのない1グループ(n=22)および組織学的に証明されたBKV Nxを有する1グループ(n=22)。
図2は、BKV Nxを有する患者が腎移植片の重度機能不全を有することを示す。この機能不全は、BKV Nxと診断されるとすぐに現れ、徐々に悪化し、3年間のフォローアップ後に症例の50%で移植片は喪失している。
【0014】
従って、腎移植患者においてBKV Nxを早期に検出すること、あるいはそれを予測することさえも不可欠であり、それを止めようとする方がよい。
【0015】
BKV Nxのリスク因子と現在の診断的および治療的アプローチ
BKVの複製は、免疫抑制治療の性質および強度ならびにBKVに特異的な免疫応答の障害を含む種々の因子によって促進されることが知られている([8])。より正確には、BKV Nxを発症するリスクは、免疫抑制治療であるタクロリムス-ミコフェノール酸モフェチルの組合せ(腎移植における現在の標準治療)の強度ならびにコルチコステロイドへの実質的な累積曝露(BKVウイルス血症の前の6か月間に3000mgのコルチコステロイドより多い)と有意に関連している。ドナーおよびレシピエントの年齢、レシピエントの性別または虚血再潅流損傷などの移植片に特有の特徴など、免疫抑制治療とは関係のない他のリスク因子も特定されている([7])。
【0016】
現在、このウイルスに対する特定の抗ウイルス療法はない。シドフォビルなどの治療は、腎移植の重大な毒性の原因であり、重度の移植片機能不全の場合には禁忌である。さらに、レフルノミドまたはフルオロキノロンは、孤立した症例で効果的であることが証明されている。しかしながら、これらの稀な症例の一貫性のない有効性と不十分な数により、現在、一般的な慣行でのこれらの薬物分子の使用の推奨は認められていない[24])。
【0017】
現在認識されている唯一のBKV Nxの治療は、移植レシピエントが受ける治療的免疫抑制を軽減することである([7]、[24])。実際に、BKVウイルスの再活性化は、免疫抑制治療により免疫系の活動が低下したときに起こる。BKV Nxが検出された場合、最初の治療反射は免疫抑制を減らすことである。しかしながら、この治療上の調整は経験的に行われ、量に関する制限はないため、患者は移植片の同種異系拒絶反応と喪失のリスクに曝される。従って、患者が実際にBKV Nxを有するかまたはその発症リスクが非常に高いと考えられる場合にのみ、この治療的アプローチに頼ることが重要であり、それは段階的かつ制御された方法で行う必要がある。その後、移植拒絶のリスクを増加させないように、免疫抑制治療を再度増加させる必要がある。また、単に孤立性BKVウイルス血症またはウイルス尿症を有するだけの患者において免疫抑制を低下させないことも重要である。これは、移植片がBKVに感染していなくても、この低下がそれを危険に曝すためである。
【0018】
BKV感染は、尿または血液サンプルに対する定量的PCRにより容易に検出することができる。しかしながら、上で説明したように、ウイルス血症またはウイルス尿症を有する多数の患者はBKV Nxを発症しない(ウイルスの再活性化は、移植片自体で常に達成されるとは限らない)ため、移植患者の血液または尿中のBKVの検出は、必ずしも移植の不良の予後診断と関連しているわけではない。実際に、血液1mLあたり104コピー以上のBKVウイルス量は、感度90%に関連しているが、この試験は、その陽性反応的中度が55%を超えないため、BKV Nxの診断に十分な有効性はない([1]、[25]、[26])。
【0019】
現在、免疫抑制治療は、BKVが証明されているかまたは疑われる場合(少なくとも4週間のPCRがBKV陽性および血液1mLあたり10
4コピー以上)には減らしている。しかしながら、腎移植を伴わない単純な孤立性ウイルス血症を有する患者は、「リスクがある」と考えられるため、この解決法は最適ではない。
図3はこの問題を示している。
【0020】
腎移植生検後の腎実質の組織学的分析は、現在唯一の信頼性が高いBKV Nx診断方法である。しかしながら、出血性合併症のリスクを伴う侵襲的な手技であり、また、症例の10~30%で、特に、BKV Nxの初期段階で偽陰性を示す可能性もある。さらに、腎移植片機能の低下がない場合、BKVに起因する損傷の存在を検出または確認するためにこれらの患者に繰り返し生検を行うことは推奨されない([7])。従って、BKV Nxに対して現在推奨される診断的アプローチは、患者の血液中のBKVウイルス量の長期的モニタリングと、移植片機能の低下および/または少なくとも4週間連続してBKVウイルス量が血液1mLあたり10
4コピー以上である場合の腎移植生検の実施に依存している。しかしながら、糸球体濾過速度により評価された移植片機能障害は、BKV Nx診断の場合、すでに著しい線維化病変拡大を伴う後期マーカーである。この不可逆的損傷は、移植片喪失の重大なリスクと関連している(Hirsch et al.、2014[7]の表8および
図2参照)。
【0021】
従って、現在の戦略は診断の遅れと困難を引き起こすが、この合併症の治療管理は、不可逆的損傷の発生を回避するために可能な限り早期でなければならない。
【0022】
BKV Nxに対する他の診断試験は過去に提案されている。これらには、全T細胞または抗ウイルスT細胞の機能的能力の研究に基づいた、ウイルス合併症のリスクが最も高い患者を特定することを目的とした免疫ウイルス学的モニタリングが含まれる([12])。一部の著者らは、BKV Nxのリスクがある患者を特定するために特定の抗BKV免疫応答を研究している([8]、[9])、[27])。BKV抗原によって刺激されたT細胞のインターフェロン-γ分泌能(ELISAまたはELISPOT試験)によって評価される低特異的抗BKV免疫応答は、BKV血液再活性化を有する患者において見出された([22]、[23])。他のチームは、血液および尿のBKV反応との関連において「Cylex ImmunKnow Test」などのリンパ球免疫応答全体の試験を使用した([20])。この研究では、著者ら[20]は、リンパ球応答全体とBKV Nxとの関連を証明しておらず、ウイルス血症との関連だけであった。さらに、一部の著者らは、BKVウイルス量の測定[25]、[30])または抗BKVリンパ球応答([8])など、BKV Nxのリスクを評価するための種々の個別技術を提案した。これらの文献は、BKV Nxのリスク予測指標を得るために、種々のパラメーターを組み合わせることまたは正規化パラメーターを適用することを提案していない。従って、これらの方法では、BKV Nxを診断することもまたはBKV Nxを発症するリスクがある患者を確実に特定することもできなかった。最適なパラメーターの捜索は継続中である([21])。現在、BKV Nxの客観的診断が可能なのは、腎臓生検で実施される組織学だけである([7]、[9])。
【発明の概要】
【0023】
従って、BKV Nxを有する患者を、確実に、早期にかつ非侵襲的に診断することだけでなく、腎移植を受けた患者においてこの合併症を発症するリスクを層別化することが急務である。これらの診断および予後診断方法は、BKV Nxを発症するリスクがある患者を、移植の関与やこのタイプの合併症のその後のリスクなしに、孤立性BKVウイルス血症を有する患者から理想的に区別する必要がある。
【0024】
本発明は、BKV Nxのリスクの非侵襲的かつ早期の個別化評価を提供することによって、この必要性を満たす。本発明の方法の独創性は、患者に固有の3つのパラメーター、すなわちi)患者の血液中のBKVウイルス量によって評価されるウイルス学的パラメーター、ii)患者における抗BKVメモリーT細胞応答(抗BKV TCm応答)の強度によって評価される免疫学的パラメーター、およびiii)[ドナー/レシピエント]ペアにおけるHLA不適合数、の組合せの考慮に基づく(
図4)。これらのパラメーターを組み合わせて、所定の時間tでの腎移植患者の個別のモニタリングを可能にする完全で信頼性が高く再現性のある指標を取得する必要がある。孤立性BKVウイルス血症を有する患者は「リスクがある」と分類されないため、この方法は従来技術の試験よりも信頼性が高い(試験した27人の患者のうち、その陽性反応的中度は100%であり、偽陽性率はゼロである;下記実施例参照)。さらに、抗BKVメモリーT細胞(抗BKV TCm)と関連しているマーカーの使用により、腎実質に対する不可逆的損傷が発生する前にBKV Nxのリスクの早期評価が可能になる。とりわけ、この方法は、あまり侵襲的ではなく(単純な血液サンプルが必要である)、従って、患者のリスクなしに移植後の異なる時間に再現することができる。この潜在的再現性から、本発明の方法は、治療管理に対する応答をよりよく評価することを可能にし、最終的には、治療的免疫抑制またはBKV再活性化の制御を可能にするいずれもの他の治療を調節するのに役立ち、総ては腎移植生検を必要としない。
【0025】
本発明の方法は、3つの因子、ウイルス学的パラメーター、免疫学的パラメーターおよび遺伝学的パラメーターの考慮に基づいており、これらは一緒に組み合わせる必要がある。これにより、特定の患者のBKV Nxを発症するリスクの完全で信頼性が高い早期指標を取得可能である。これらの因子は以下の通りである:
i)所定の時間における患者の血液中のBKVウイルスのウイルス量、
ii)同時に同じ患者の抗BKV TCm応答の強度、
iii)腎移植時に決定された移植ドナーとその患者/レシピエントとの間でのHLA分子不適合数。
【0026】
図4は、これらの3つのパラメーターの組合せに基づいた本発明の方法を示す。
【0027】
これらのマーカーの組合せにより、所定の時間tで、試験した患者のBKV Nxの発症リスクを個別に評価することが可能である。従って、この方法により、腎移植患者の個別のモニタリングが可能になる。
【0028】
本方法は、従来技術で提案された試験と比較して、以下の利点を有する:
・本方法は、BKVウイルス量、抗BKV TCm応答の強度およびドナー/レシピエントペアにおけるHLA対立遺伝子差異をマルチパラメトリックに統合し、それによって各患者の免疫およびウイルス学的状況のより完全な評価が可能である。
・本方法は、迅速、安価、標準化可能で信頼性が高く、患者の状態、投与された治療および以前に得られた結果に応じて一定の時間間隔で繰り返すことができる患者の前向きモニタリングが可能である。
・本方法は、患者の血液サンプル15mLしか必要としないため、非侵襲的である。
・本方法は、従来技術の方法、特にBKVに特異的なT細胞のサイトカイン分泌に基づく方法よりも早く、BKV Nxのリスクがある患者を検出することが可能である。
・その結果は、患者間および同じ患者の生涯にわたって比較できる絶対正規化値である。
【0029】
従って、第1の側面において、本発明は、腎移植を受けた患者のBKV Nxを発症するリスクの評価方法であって、以下の工程を含んでなる方法に関する:
a)前記患者の生物学的サンプル中のBKVのウイルス量を測定する工程、
b)前記患者からの生物学的サンプル中の抗BKV TCm応答の正規化強度(例えば、BKVペプチドに対するCD4+および/またはCD8+メモリーT細胞の特異的増殖に基づく)を測定する工程、
c)腎臓ドナーと前記患者のクラスIおよびII HLAの間での不適合数を決定する工程。
【0030】
この方法は、BKV Nxの診断を支援しまたはBKV Nxを発症するリスクを層別化するための上記のパラメーターa)、b)およびc)の収集と組合せの両方が可能である。これらの工程は任意の順序で行うことができる。このようではあるが、腎移植時にHLA不適合数がわかっているため、工程c)は工程a)およびb)の前に行われている。
【0031】
工程a)において使用される生物学的サンプルは、例えば、全血または血漿サンプルであり、一方、工程b)において使用される生物学的サンプルは、好ましくは全血サンプルである。工程a)およびb)が2つの独立した実験室によって行われる態様では、工程a)およびb)の測定のために2つの別個のサンプル、例えば、互いに独立に採取された2つの血液サンプルが使用され得る。2つの別個のサンプルが使用される場合、それらは、好ましくは時間的に接近して、一般には同日に、例えば、数時間(1~4時間)おいて、あるいは同じ時間内にもサンプリングされた。
【0032】
好ましい態様では、工程a)およびb)は、同じ実験室により実施され、工程a)およびb)の測定のために同じ生物学的サンプルが使用される。いっそうより好ましい態様では、このサンプルは、従来の静脈内採血により非侵襲的かつ無痛で採取された血液サンプルである。この血液サンプルは、直接分析することができるしまたは実施される測定に関して以下に提案するように処理することができる。BKVウイルス血症の定量化(血液1mLあたりのコピー数で表される)は、患者の血液からの遠心分離により得られた全血または血漿からの定量的PCRにより行うことができる。抗BKV TCmを含む末梢血単核細胞(PBMC)は、患者の血液サンプルからフィコール勾配によって分離することができる。あるいは、患者の血液中に存在する赤血球を溶解し、フローサイトメトリーによってT細胞の存在を検出し(FSC-AおよびSSC-Aマーカー)、その後、細胞増殖マーカーKi67を使用してBKVで刺激された抗BKV TCmの増殖を測定することが可能である。
【0033】
本発明の文脈において、「患者」は、生涯に腎移植を受けたヒトまたは動物個体である。好ましい態様では、前記移植は、サンプル採取前の過去5年以内に行われた。いっそうより好ましい態様では、前記移植は、サンプル採取前の過去3年以内に行われた。最も好ましい態様では、前記移植は、サンプル採取前の過去24か月以内に行われた。
【0034】
好ましい態様では、本発明の方法は、BKV血液再活性化を有する患者においてBKV Nxの診断または予後診断を行うために使用される。優先的には、本発明の方法は、BKVウイルス量が血液1mLあたり200コピーより多い患者に適用される。
【0035】
最初にBKVウイルス血症を伴う腎移植のみを考慮した場合、これは、フランスでは年間ほぼ840人の患者(年間ほぼ3500回の新規腎移植に対して)、欧州および米国では年間7200人の患者(年間30,000回の新規腎移植に対して)に相当する。
【0036】
本発明の方法はまた、移植拒絶および/または最終的にBKV Nxを発症するリスクの治療を受けた患者(全腎移植患者の15~20%の間、またはフランスでの5500人の患者から欧州および米国での12,000人の間)だけでなく、移植の最初の年を過ぎてBKVウイルス血症および/または原因不明の腎機能低下を有する患者にも適用することができる。
【0037】
従って、この方法は、毎年フランスでのほぼ6340人の腎移植患者と欧州および米国での19,200人以上の腎臓移植患者に関係し得る。本方法はまた、同じ患者をモニタリングするために定期的に再現し得る。
【0038】
本発明の方法の3つの工程を以下に詳述する。
a)工程a:患者の血液中のBKVウイルス量の測定
この工程は、患者の全血または血漿サンプルからの血液1mLあたりのBKVコピー数を測定することからなる。このBKVコピー数は、当技術分野で記載されている標準的な方法に従って定量することができる。一般に、この測定値は、定量的PCRなどのPCR 技術を使用することにより得ることができる。
【0039】
・
BKVウイルス量の評価
患者の血液および/または尿1mLあたりのBKVウイルス量は、国際勧告に従って総ての腎移植患者について日常的に測定される。しかし、BKVウイルス血症またはウイルス尿症を有する多くの患者はBKV Nxを持っていないため、患者の血液および/または尿中のBKVウイルス量の単独測定は、単独では、BKV Nxの診断マーカーにならないことを覚えておくことが重要である(
図1、[9])。従って、この測定値は、一部のチームが提案し得たように([10])、それ自体で、BKV Nxの診断マーカーとして使用することを意図したものではない。この最後の研究([10])は、少数の患者で行われたものであり、より大きな集団では確認されていない。さらに、血中BKVウイルス量では、BKV Nxを有する患者と、孤立性BKVを有する患者を確実に区別することはできなかった。実際、最近のメタ分析では、血液1mLあたり10
4コピー以上のBKVウイルス量がBKV Nx診断での陽性反応的中度55%と関連していることが示された([26])。
図5は、本方法を開発するために本発明者らによって実証された血液および尿のBKVウイルス量のレベルの違いを示すことによってこの概念を示している。さらに、従来技術と一致して、10
5より多い血中BKVウイルス量は、ほぼ100%の感度でBKV Nxと関連している可能性がある([26])が、このパラメーターは、BKV Nx診断時の移植片の腎実質損傷および重度の慢性機能不全にすでに関連しているため、時期を逃していることに注意することが重要である(
図2a)。さらに、孤立性BKVウイルス血症を有する患者とBKV Nxを有する患者の間に有意差がないという事実により、本発明の開発において尿中BKVウイルス量を考慮しなかった(
図5b)。
【0040】
好ましい一態様では、工程a)に使用される生物学的サンプルは、全血サンプル(血漿および血液の有形成分、すなわち赤血球、白血球および血小板を含む)または血漿サンプルである。
【0041】
この全血または血漿サンプルは、標準的な従来技術に従って処理することができた。
【0042】
なおより好ましい態様では、BKVウイルス量は、工程a)において、前記患者からの生物学的サンプル(例えば、全血または血漿)からの定量的PCRにより測定される。
【0043】
・BKV血中ウイルス量の正規化
本発明の文脈において、血中BKVウイルス量の測定は、本発明の試験が実施される時点での患者の血流中のウイルスの定量のみを可能にする。工程a)において測定されたこのウイルス量値により、工程b)において得られた抗BKV TCm応答の強度を正規化して、個体間で比較可能な独立した指標を得ることができる。本発明者らは、ウイルス量を閾値(例えば、少なくとも4週間の間で1mLあたりDNA 4log10コピー)([9])と比較することによって、従来技術で提案されているような予後診断マーカーとしてそれを使用しない。
【0044】
より正確には、この工程は、患者の血液中でウイルス感染がないか、存在するかまたは異常に上昇しているかを明らかにして、サンプリング時の前記患者における抗BKV TCm応答の強度に関して工程b)において得られた結果を重み付けする。
【0045】
本発明の好ましい態様では、血液1mLあたりのBKVコピー固定値に対して、本発明の方法のパラメーターb)を正規化することが可能である。本方法の開発を可能にした結果から、血液1mLあたりBKV 10
3コピーの固定正規化値を、本発明の方法の計算においてウイルス学的パラメーターとして統合した。BKV 10
3コピーのこの正規化値は、孤立性BKVウイルス血症の病期次第できるだけ早くBKV Nxのリスクを評価することができるように定義された(
図5a)。BKVコピーの最高閾値は、BKV Nxの診断(
図5a)および腎実質損傷(
図2a)と関連し、時期を逃していた。
【0046】
しかし、この閾値は、本発明者らによって設定された正規化閾値にすぎず、他の値を使用して、パラメーターb)を、患者、患者グループなどの関数として正規化することができる。
【0047】
BKVウイルス量の閾値陽性値は、血液1mLあたり200コピーで設定され、例えば、3.7log10、4log10または4.2log10を正規化閾値として使用することができる(以前に文献で提案された閾値([26])。
【0048】
従って、正規化されると、工程b)の測定において得られた結果は、個体間で、または、同じ個体の異なる期間で比較することができる。この個体間の比較により、グループのリスクレベルに従って患者を分類することが可能であり、一方、個体内の比較により、同じ患者においてBKV Nxを発症するリスクレベルの経時的進行のモニタリングが可能である。
【0049】
b)工程b:抗BKVメモリーT細胞応答の正規化強度の評価
この工程は、末梢血サンプルから、特定のBKVペプチドによる刺激に応答したリンパ球増殖能を測定することにより所定の時間tでの抗BKV TCm応答を評価することからなる。血液中のBKVウイルス量に対するこの特異的免疫応答の正規化により、抗BKV TCm応答の正規化強度を得ることができるため、個体内および個体間の比較が可能になる。
【0050】
・抗BKV TCm応答の評価
抗BKVメモリーT細胞(抗BKV TCm)は、BKVとの事前接触によってすでに活性化されているBKV抗原に特異的な免疫受容体(TCR)を備えたT細胞である。これらのリンパ球は、一次ウイルス感染時にこのウイルスと遭遇したことの「記憶」を保持する。この記憶は、迅速で効果的な二次応答を発現することにより、このウイルスとの新たな接触時にリンパ球がよりよく反応することを可能にする。ヒトポリオーマウイルスの血清陽性率は世界的に非常に高く(BKVおよびJCVについては成人年齢で80~90%)、これらのウイルスへの早期かつ広範囲の曝露に直面することに注意することが重要である。
【0051】
この二次応答の性能は、単に抗BKV TCmの量的増加によるものではない。新たな抗原接触時にすぐに動員できる、より高頻度の特定のクローンに、増殖能、サイトカイン分泌能および細胞傷害能の観点からそれらをナイーブ細胞と比較した場合に、これらの「記憶」細胞のより優れた機能が追加される。メモリーT細胞のこれらの性能の向上は、免疫応答に関与する遺伝子のプロモーターにおけるエピジェネティックな変化に関連している。
【0052】
従って、本発明の方法の工程b)は、試験された患者の生物学的サンプル中に存在する抗BKV TCm応答の強度を、特定のBKVペプチドによる刺激に応答した抗BKV TCmの増殖能を測定することおよび固定BKVウイルス量に対してこの応答を正規化すること(正規化強度)により評価することからなる。
【0053】
増殖能は、CD4およびCD8メモリーT細胞応答の多機能性において極めて重要な要素であり、慢性ウイルス感染症の免疫機能不全時に失われる最初の機能の1つである。増殖能は、TCMおよびTSCM(セントラルメモリーT細胞およびメモリー幹細胞)におけるCD8メモリーT細胞の存在量を反映している。これらの細胞は、増殖、自己複製およびエフェクター細胞への分化について高い能力を有する。さらに、それらはエフェクター細胞の最適な機能に不可欠なヘルプシグナルを出す。
【0054】
従来技術で提案されているように、BKVペプチドの存在下で、患者の血液中に含まれるT細胞のサイトカイン分泌を測定することは問題ではない([9])。より正確には、[22]で提案されているように、ELISAまたはELISPOT技術によりBKV抗原ペプチド刺激に応答したインターフェロンγの分泌を測定することも問題ではなく、[23]で提案されているように、ましてや移植前後の問題でもない。これらの従来技術では、免疫記憶を再構成するための能力の正確な評価はできない。実際、インターフェロン-γの分泌能により、メモリーエフェクターまたはターミナルエフェクタータイプのいわゆる「ターミナル」メモリー細胞亜集団を優先的に研究することが可能になる。これらの高度に分化したリンパ球亜集団は、自己複製、増殖またはリンパ球分化の能力があったとしてもほとんどなく、従って、抗ウイルス免疫記憶の再構成能力を最適に評価することはできない([13]、[14])。本発明の開発を可能にした結果に基づいて、本発明者らは、インターフェロン-γサイトカイン分泌単独の評価は、BKVウイルス血症を有する患者とBKV Nxを有する患者を確実にかつ再現性よく区別するためのリンパ球機能の最適なパラメーターではないことを実証することができた(
図6/1a)。
【0055】
リンパ球増殖は、最も識別力のある評価方法である(
図6/1b)。実際、増殖応答は、BKV Nxを有する患者では、他の3つの患者グループ(BKV再活性化なし、BKVウイルス尿症および孤立性BKVウイルス血症(
図6/1b))と比較して有意に弱かった。これは、インターフェロン-γ分泌の評価による場合には当てはまらず、サイトカイン応答はBKV Nxを有する患者とBKVウイルス尿症患者の間では有意に弱かったが、BKV Nxを有する患者とBKVウイルス血症患者の間ではそうではなかった(
図6/1a)。さらに、抗BKV TCm増殖応答の強度(CFSE
低(low)T細胞数によって評価される(下記参照))は、血液中のBKVウイルス量と負の相関があった(
図7)。
【0056】
従って、本発明者らは、BKVに特異的な免疫記憶を再構成するための能力を評価するため、また、本発明の方法を開発するために、以前に使用された他の技術よりもリンパ球増殖の評価を支持した。
【0057】
・抗BKV TCm応答の特定
好ましい態様では、工程b)において使用される生物学的サンプルは全血サンプルである。なおより好ましくは、生物学的サンプルは、末梢静脈穿刺により無痛で患者から採取された全血サンプルである。
【0058】
上で説明したように、患者がBKVウイルスに感染している場合、このタイプの生物学的サンプルにはメモリーT細胞が自然に存在する。これらのメモリー細胞は、BKVウイルス抗原と(再び)接触するとすぐに反応する。
【0059】
特定の一態様では、生物学的サンプル中に存在する単核細胞は、標準的な細胞精製方法に従って分離される。それらは、フィコール-ハイパック勾配(または同等のもの)を使用することによって密度によりサンプルの他の成分から分離される。遠心分離後、低密度の細胞(リンパ球、単球/マクロファージ、樹状細胞および他の抗原提示細胞)はフィコールの上に浮遊し、一方、サンプルの他の総ての成分はペレットを形成する。次に、単核細胞をピペットで収集することができる。
【0060】
より具体的な態様では、全血単核細胞を、次に、BKVウイルス抗原の混合物(例えば、Miltenyi Biotec(登録商標)により販売されているPepTivator(登録商標)BKV VP1もしくはPepTivator(登録商標)BKV LT、または同等のもの、終濃度1μg/mL/ペプチド)で刺激する。好ましくは、患者間でのHLAの違いを克服するために、重複BKVペプチド混合物を使用する。従って、サンプル中に存在する抗BKV TCmは、これらの抗原と接触して活発に増殖する。この刺激は数日続く可能性がある(一般には4~7日、好ましくは5日)。
【0061】
従って、本発明の方法の工程b)において測定される抗BKV CD4+またはCD8+ TCm応答は、好ましくは、前記患者の末梢血からの単核細胞をBKVウイルスペプチドと接触させ、数日の培養(一般には4~7日、好ましくは5日の培養)後に前記単核細胞中に存在するT細胞の増殖を評価することにより決定される。この増殖は、細胞分裂中に強度が低下する細胞分裂マーカー(CFSEまたは同等のもの)の発現を検出することにより測定することができ、各娘細胞は、母細胞に含まれるマーカーの半数を含む。活発に増殖した抗BK TCmを特異的に特定するために、このリンパ球増殖は、前記患者の自発的T細胞増殖から差し引かれる(T細胞を同じ条件下、同じ時間で、BKVペプチドなしで培養したため)。
【0062】
いっそうより好ましくは、抗BKV TCmの前記特異的増殖は、前記ペプチドの存在下での数日の培養(一般には4~7日、好ましくは5日の培養)後に存在するCFSE(または同等の細胞分裂マーカー)を希釈したCD4+またはCD8+T細胞の割合を決定し、それから、前記ペプチドの不在下、同じ時間でCFSE(または同等の細胞分裂マーカー)を希釈したCD4+またはCD8+T細胞の割合を差し引くことにより測定される。
【0063】
いっそうより好ましくは、抗BKV CD4+ TCmの前記特異的増殖は、前記ペプチドの存在下での培養においてCFSE(または同等の細胞分裂マーカー)を希釈したCD4+T細胞の割合を、同じ培養条件下であるが前記ペプチドなしで培養した、同じマーカーを希釈した前記リンパ球の割合と比較することにより測定される。
【0064】
いっそうより好ましくは、抗BKV CD8+ TCmの前記特異的増殖は、前記ペプチドの存在下での培養においてCFSE(または同等の細胞分裂マーカー)を希釈したCD8+T細胞の割合を、同じ培養条件下であるが前記ペプチドなしで培養した、同じマーカーを希釈した前記リンパ球の割合と比較することにより測定される。
【0065】
抗BKV TCm応答の強度は、任意の標準的な増殖マーカー(CFSE、3TH、BRDUまたは同等のものなど)を使用することにより測定することができる。
【0066】
次に、CD4+およびCD8+陽性T細胞は、市販の抗CD4抗体および抗CD8抗体を使用したフローサイトメトリーにより特定することができる。
【0067】
好ましい態様では、工程b)は、当技術分野で公知の任意の従来の方法(例えば、PAN BIOTECHの細胞分離媒体、参照番号P04-60505、を使用)により精製された末梢血単核細胞を使用する。
【0068】
特定のBKV抗原刺激後に増殖したCD4+および/またはCD8+T細胞は、特定の抗原刺激に応答し、メモリー細胞の典型的な増殖動態を示すため、「レスポンダー」または「機能的」メモリー細胞と呼ばれる。
【0069】
特定のBKVペプチドの存在下での数日の培養(一般には4~7日、好ましくは5日の培養)後、増殖試験は、患者のサンプル中に最初に存在したCD4+またはCD8+抗BKVメモリーT細胞の数に関する情報を提供する。
【0070】
特定のペプチド刺激後、CFSEを希釈したTC(CFSE低TC)の割合は、前記サンプル中に最初に存在した機能的抗BKV TCmの存在と関連している。ペプチド刺激の存在下で測定されたCFSE低TCの割合は、BKVペプチドの不在下で得られたCFSE低TCの割合を差し引くことによって補正される。
【0071】
図8/1は、特定のBKVペプチドのプールに応答した抗BKV TCmの増殖(CFSE
低TCの割合)の分析により抗BKV TCm応答の特定プロトコールを示している。
【0072】
・抗BKV TCm応答の正規化強度の評価
上記で得られたCFSE低抗BKV TCmの割合から、抗BKV TCm応答の強度を、「正規化強度測定単位」に定量化することができる。
【0073】
「正規化強度測定単位」は、本明細書において、106個の全T細胞に対して表され、血液1mLあたりBKV 103コピーに対して正規化されたCFSE低、抗BKV TCmの割合であると定義される。
【0074】
実際には、この「正規化強度測定単位」は、上で得られた抗BKV TCmの割合に10,000を掛け、次に、このように得られた数値を血液1mLあたりBKV 103コピーに対して正規化することにより得られる(工程aにおいて測定された、試験中の患者の実際のウイルス量を考慮に入れる)。
【0075】
より明確に言えば、CFSE低抗BKV TCmの(106個の全T細胞に対して表される)この割合は、血液1mLあたり固定数のBKVコピーに対して正規化され、従って、所与のウイルス量についての抗BKV TCm応答の正規化強度を反映する。抗BKV TCm応答強度のこの正規化により、個体内および個体間の比較が可能になる。
【0076】
図8/2は、抗BKV TCm応答の正規化強度の評価の例である。
【0077】
例えば:
・リンパ球増殖により測定されたCFSE
低抗BKV TCmの割合が、3.12%である場合(BKVペプチドによる刺激後のCFSE
低TCの割合=3.20%(前記ペプチドなしでは0.08%)
図8/1eおよび8/2a:「BKVウイルス血症」の例)。
従って、
・10
6個の全T細胞に対して表されたCFSE
低Tリンパ球のこの割合は31,200(3.12*10,000)である(
図8/2b-「BKVウイルス血症」の例)
・また、試験した患者のウイルス量が血液1mLあたりBKV2×10
4コピーである場合(
図8/2c-「BKVウイルス血症」の例)、
・抗BKV TCm応答の正規化強度測定単位は以下である:
[31,200*1×10
3]/2.0×10
4=1560(
図8/2d-「BKVウイルス血症」の例)。
【0078】
各個体に固有の抗BKV TCm応答のこの正規化強度測定単位は、閾値と比較される。本方法の開発を可能にした結果から、閾値10
2を、本発明の方法の計算において免疫学的パラメーターとして統合した。この閾値10
2は、BKV Nxを有する患者グループにおける抗BKV TCm応答の正規化強度の分布の程度の関数として定義された(
図9)。
【0079】
より明確に言えば、BKV Nxを有する患者は、孤立性BKVウイルス血症を有する患者と比較して、抗BKV TCm応答の正規化強度を低く提示する(
図9)。閾値10
2は、BKV Nxを有する患者グループにおいて、正規化された抗BKV TCm値の最大90パーセンタイルを考慮に入れるために、この応答の強度の非ガウス分布の程度の関数として定義された(
図9)。
【0080】
本発明の好ましい一態様では、CD8
+T細胞の増殖だけが、工程b)において測定され、これが制限されることなく、本発明者らは、CD4
+T細胞と比較してCD8
+T細胞に基づきBKV Nxを有する患者のよりよい識別を示すことができた(
図10)。この改善された効果は、実質内BKV複製の制御においてCD8
+T細胞により媒介される直接作用の重要性にある可能性がある(免疫学的観点から、CD4
+T細胞は、効果的なCD8
+応答の発達および維持に寄与するが、実際には、移植片に浸潤し、BKVに感染した細胞を破壊するのはCD8
+T細胞である)。
【0081】
従って、この態様では、[工程b)において測定され、106個の全CD8+T細胞に対して表された]CFSE低CD8+T細胞の割合は、血液1mLあたりBKV 103コピーに対して正規化され、次に、以下の本発明の指標の特性化で説明されているように、BKV Nxのリスクのレベルに従って患者を分類するために閾値102と比較される。
【0082】
CFSE低抗BKV TCmの割合の評価ならびにBKVウイルス量の測定は、移植後のこれらのパラメーターの値の発展性から、患者の生涯を通じて繰り返されることが好ましい。
【0083】
c)工程c:ドナーとレシピエントの間でのHLA不適合数の測定
この工程は、腎移植のドナーとレシピエントの間でのHLA不適合数を測定することからなる。
【0084】
・ドナーとレシピエントの間でのHLA不適合数の評価
HLA(ヒト白血球抗原)は、主要組織適合性複合体(MHC)に相当する。これは、総ての細胞(白血球を含む)の表面に存在する特殊なタンパク質(抗原)とそれらをコードする遺伝子を指す。MHCは、抗原を提示する機能を果たし、T細胞による、その抗原特異的受容体(TCR)を介した認識を可能にする。MHCの極端な多様性(遺伝子多型)は、実際、個体間の臓器移植の受け入れまたは拒絶の主要決定要因である。
【0085】
HLAタイピングは、個体の主要なHLA遺伝子と細胞表面上に存在する対応する抗原を特定する。このタイピングは、血清学的技法または分子技法により(PCRにより)実施することができる。
【0086】
各移植ドナー-レシピエントペアについて、「HLA不適合数」は、当技術分野で記載されている標準的な方法に従って移植時に決定される。
【0087】
この不適合数は、レシピエントに対する異なるドナーHLA抗原(HLA-A、-B、-DR、-DQ)の数である。それは移植の成功を大きく保証するため、腎移植の間に行われなければならない。移植拒絶のリスクを最小限に抑えるには、ドナーおよびレシピエントのHLA抗原をできるだけ近づけることが重要である。このような理由で、2016年に実施された死亡したドナーからの腎移植の総てにおいて、90%を上回るレシピエントのドナーとのHLA不適合性が6未満であった[28]。
【0088】
HLA適合性を計算するためのルールはよく知られている。例えば、ドナーがHLA-A3および-A33タイプであり、レシピエントがHLA-A33および-A33タイプである場合、ドナー/レシピエントペアはHLA-Aにおいて1つの不適合性を有する。これに対して、ドナーがHLA-A33および-A33タイプであり、レシピエントがHLA-A3および-A33タイプである場合、HLA不適合性に数えられない。HLA不適合性についてのこの計算方法は、科学文献において十分に説明されている。
【0089】
HLA不適合性は、一般的に腎移植時に評価される。これは固定評価である(つまり、進展しない)。
【0090】
BKVウイルス再活性化およびBKV Nxの発症に対するHLA不適合性の潜在的な影響は、いくつかの研究において記載されており、矛盾する結果になっている(特に[29]参照)。これはおそらく、文献での異なるBKV再活性化(ウイルス尿症、ウイルス血症およびBKV Nxの区別)に関する定義の不均一性により説明される。HLA不適合性は血漿BKV複製に関連している([16]、[18])が、BKV Nxの発症に対するそれらの影響は依然として不明なところが多いままである。これらの1つである、Awadalla Y. et al.([11])は2004年に、これらの腎症が高レベルのHLA不適合性と関連していることを示した。従って、これらの著者らは、HLA不適合数を減らすことで、これらの腎症を発症するリスクが低減することを示唆した。この研究に関する重要なコメントは、この関連がBKV Nxを有する患者において、BKV Nxのない患者のウイルス血症またはウイルス尿症の存在を特定せずに、BKV Nxのない患者と比較して文書化されたことである。逆に、つい最近の研究では、ドナーとレシピエントの間で良好なHLA適合性状況にあってもBKV Nxの発生が報告されている([17];[19])。最後に、他の著者らは、BKV Nx患者において低レベルのHLA不適合性とより高い移植片喪失頻度との間に反比例の関係を見出した([15])。
【0091】
本方法の開発を可能にした結果に基づき、本発明者らは、BKV-Nxを有する患者においてHLA不適合数がより少ないことを示した。BKV Nxを有する患者は、孤立性BKVウイルス血症を有する患者と比較して、全HLA不適合数[HLA-A、-B、-DR、-DQ]が少なかった(
図11a)。さらに、このHLA不適合数は、BKVウイルス量と負の相関があった(
図11b)。
【0092】
これらの結果から、HLA-A、-B、-DRおよび-DQにおけるHLA不適合性5の閾値を、本発明の方法の計算において遺伝学的パラメーターとして統合した。この閾値5は、BKVウイルス血症を有する患者グループにおいて、HLA不適合性の最大75パーセンタイルを考慮に入れるために、HLA不適合数の非ガウス分布の程度の関数として特定された(
図11a)。
【0093】
本発明の診断指標を計算するための結果の編集
上記の3つのパラメーターa)、b)およびc)が、患者がBKV Nxを発症するリスクの層別化指標を作出するために、次いで編集される。従って、本発明者らは、本発明の方法を作出し、BKV Nxを発症するリスクを評価するために、3つのパラメーターa)、b)およびc)を単独で使用することではなく、むしろそれらを互いに組み合わせることを提案する。
図12は、本発明の方法に従ってこのBKV Nxリスクを評価することにつながる総ての意思決定段階を示す。
【0094】
実際、以下の実施例および
図12および13に記載されるように、BKV Nx発症リスクが高い患者とそれを発症しない患者との区別を可能にする本発明の3つのパラメーターの組合せから定義される閾値がある。
【0095】
本発明の実施例において使用されたコホートに基づき、これらの閾値は以下である:
・HLA不適合数については5および
・抗BKV TCm応答については正規化強度測定単位102。
【0096】
従って、本発明者らは、全HLA不適合数5以下に関連する抗BKV TCm応答の正規化強度10
2以下が、移植を受ける患者が短期的、中期的または長期的にいつかBKV Nxを発症するリスクが高いことを反映することを実証した(
図13-濃灰色面)。
【0097】
逆に、厳密には5より大きい全HLA不適合数に関連する厳密には10
2より大きい抗BKV TCm応答の正規化強度は、移植を受ける患者が短期的、中期的または長期的にいつかBKV Nxを発症するリスクが非常に低いことを反映する(
図13-白色面)。
【0098】
本願の実施例において使用されたコホートの断面解析では、抗BKV TCm応答の正規化強度10
2以下かつ全HLA不適合数5以下を有する患者の100%がBKV Nxを有していた(
図13、濃灰色面)。逆に、抗BKV TCm応答の正規化強度が10
2より大きくかつ全HLA不適合数が5より大きい患者でBKV Nxを有する患者はいなかった(
図13、白色面)。
【0099】
これらの閾値(HLA不適合数については5および抗BKV TCm応答の正規化強度測定単位については10
2)は、本発明を開発するために研究されたコホートの特定のケースから確立された。これらの閾値は、長期的に追跡されたより大きなコホートの結果に応じて、進化しかつ/または精緻化し得る。本発明者らは、より一般には、そのような集団の特定の特徴を考慮するために、本発明の方法を適合させ得る。具体的には、本発明の指標を得るために、本発明者らは、上記の3つのパラメーターa)、b)およびc)の値を研究し、それらを組み合わせ、そのような集団の分析から得られた結果および図式方式(
図12および13の形式の図式方式)に従って適当な閾値および適当な正規化値を特定することが可能である。
【0100】
研究されたコホートの特定のケースでは、27名以上の腎移植患者(BKVウイルス血症を有する患者11人およびBKV Nx患者16人を含む)に対して実施された分析に基づき、本発明者らによって3つのリスクレベルが特定された:
・
BKV Nxリスク高レベル 抗BKV TCm応答の正規化強度が10
2以下でありかつ全HLA不適合数が5以下である場合(
図13-濃灰色面)。このリスクレベルは、BKV Nxのリスク増大を支持する。強い免疫抑制はBKV Nxのリスク因子であるため、このリスクレベルは、免疫抑制の実質的軽減とウイルス量および腎機能の綿密なモニタリングを主張する。
・
BKV Nxリスク中間レベル 抗BKV応答の正規化強度が10
2以下でありかつ全HLA不適合数が5より大きい場合(
図13-右下の薄灰色面)または抗BKV応答の正規化強度が10
2より大きくかつ全HLA不適合数が5以下である場合(
図13-左上の薄灰色面)。このリスクレベルは、BKV Nxリスクの中間レベルとみなされるべきである。
・
BKV Nxリスク低レベル 抗BKV TCm応答の正規化強度が10
2より大きくかつ全HLA不適合数が5より大きい場合(
図13-白色面)。このリスクレベルは、BKV Nxの低リスクを支持する。この状況では、ウイルス量および腎機能の監視が推奨されるべきである。免疫抑制は維持またはわずかに軽減し得る。
【0101】
研究されたコホートの特定のケースでは、この指標は以下の優れた技術特性を示している:
・方法の結果がBKV Nxリスク高レベルである場合、陽性反応的中度100%(試験が陽性である場合のBKV Nxの確率)、
・方法の結果がBKV Nxリスク低レベルである場合、陰性反応的中度100%(試験が陰性である場合のBKV Nx不存在の確率)、
・方法の結果がBKV Nxリスク中間レベルである場合、60%以上の感度(BKV Nxの場合は陽性試験の確率)、
・方法がBKV Nxリスク高レベルを示す場合、偽陽性率ゼロ(陽性試験は、抗BKV TCm応答の正規化強度が102以下でありかつ全HLA不適合数が5以下であることにより定義される)。
【0102】
従って、本発明の指標は、BKVの血中ウイルス量の関数としてのBKV Nxのリスクの評価について、文献に通常記載されているものよりも高い陽性反応的中度(55%に対して100%)を有するだけでなく、方法がBKV Nxリスク高レベルを示す場合、偽陽性率はゼロである。表1は、BKV Nxのリスクの予測に関連する種々の試験の性能を示した(本発明の方法に対してBKVの血中ウイルス量の関数として)。
【0103】
【0104】
従って、本発明の方法は、好ましくは、以下の場合に、BKウイルス(BKV)腎症を発症するリスクが高いと診断されることを特徴とする:
a)血液1mLあたりBKVウイルス103コピーのウイルス量に関連して、
b)抗BKV CD4+またはCD8+ TCm応答の正規化強度が100強度測定単位以下であり、かつ
c)前記患者と移植された腎臓のドナーとの間での不適合数が5以下である。
【0105】
また、本発明の方法は、好ましくは、以下の場合に、BKVウイルス(BKV)腎症を発症するリスクが高いと診断されることを特徴とする:
a)血液1mLあたりBKVウイルス103コピーのウイルス量に関連して、
b)抗BKV CD4+またはCD8+ TCmの正規化強度が厳密には100強度測定単位より大きく、かつ
c)前記患者と移植された腎臓のドナーとの間でのHLA不適合数が厳密には5より大きい。
【0106】
本発明の指標の診断的および予後診断的使用。
本発明の方法は、侵襲的ではないため、リスクがある患者(一般には、腎移植を受けた患者)において必要に応じて何度でも再現し得る。その頻度は、各患者のプロファイルに従って、または先行する試験の結果を考慮して個別化し得る。さらに、この指標の結果を使用して、免疫抑制治療の用量を上方または下方へ個別に調整することが可能になる。治療の軽減は、BKV Nx患者またはそれを発症するリスクが高い患者にのみ指示される。この軽減が移植に有益ではないかまたは有害でさえある患者(一般には、腎移植が関与しない孤立性BKVウイルス血症を有する患者)が特定され、最初に指示された治療を維持することができる。
・腎移植を受けた各患者に対して、一定の時間間隔で本発明の方法を実施することが奨励される。この再現は以下の可能性がある:
・BKV Nxの診断に役立つ
・BKV Nxを発症するリスクレベルを個別に特定して、そのような合併症の発生を防ぐ。
・患者の治療的免疫抑制を評価し、特に、免疫抑制治療の調整を誘導して、治療的免疫抑制の不足または過剰を防ぐ。
【0107】
好ましい態様では、本発明の方法は、前記患者に投与される免疫抑制治療の投薬量と同時に実施される。BKV Nxのリスクが高いと結論付けた試験は、免疫抑制治療の軽減を支持して、その発生を防ぐであろう。
【0108】
いっそうより好ましい態様では、本発明の方法は、移植後の治療中に数回、例えば、BKV Nxを発症するリスクがある患者(ウイルス血症を有しかつ/または移植拒絶治療を受けかつ/または原因不明の腎移植片機能低下を有する患者)の集団において3~6か月ごとに繰り返される。
【0109】
BKVウイルス血症を提示する総ての患者における日常的な性能に加えて、以下の状況で本発明の方法を行うことが奨励される:
・移植拒絶の治癒的治療との関連においての治療強化中に、その後のBKV Nx発生リスクを評価するために。
・最初の陽性試験後の免疫抑制の軽減中に、抗BKV TCm応答に対するこの軽減の影響を評価するために。
・原因不明の腎移植片機能低下の場合に、BKV Nxのリスクを評価しかつ/またはBKV Nxの診断を支援するために。
【0110】
本発明の方法は、免疫抑制治療の変更後2~3か月で実施され得る。本発明の方法の結果は、免疫応答が発生した場合、患者において免疫抑制治療を再び増加させるための時間を定めるのに役立ち得る。
【0111】
図14は、本発明の方法の種々の適応症、ならびに前記方法を繰り返すための期間を示す。
【0112】
従って、
図15は、BKV Nxのリスクを評価するために提案されたアプローチを示している。この新規なアプローチは、最初はBKVウイルス量の陽性の閾値(血液1mLあたり200コピー以上)からの患者の血液中のBKVウイルス量の長期的モニタリングに基づく。BKV Nxの通常のアプローチ(
図3)とは異なり、この新規なアプローチは、腎移植生検を実施することによるのではなく、本発明の方法を使用することによって調整される。本方法の適用は、血液BKV再活性化を有する腎移植患者においてBKV Nxのリスクレベルを層別化することを可能にする。これが制限されることなく、実際には、BKV NXのリスクが中程度から高いと評価された患者だけが免疫抑制治療を最小限に抑えられる。BKV Nxのリスクが低い患者は、免疫抑制治療を最小限に抑えられない。総ての場合において、BKVウイルス量の定期的なモニタリングと前記方法の繰り返しもまた推奨される。本発明は、腎移植片機能不全の前にBKV Nxのリスクの評価を可能にする。それにより、時間が節約され、また、BKV Nxリスクの効果的な層別化が可能になり、最終的には治療的免疫抑制の誘導に役立つ(
図15)。
【0113】
本願はまた、免疫抑制治療の変更後のBKVの血液複製に対する腎移植患者の応答のイン・ビトロ(in vitro)評価方法であって、移植後に一定の時間間隔で上記の方法(本発明の指標)を繰り返すことを特徴とする方法に関する。
【0114】
好ましくは、本発明の方法を各治療変更の前および後に繰り返す。
【0115】
好ましくは、本発明の方法を、血漿BKV再活性化のレベルおよび/または前記患者の免疫抑制治療を変更する必要性に応じた頻度で、およそ3~6か月ごとに繰り返す。
【0116】
腎移植で現在使用されている免疫抑制治療は、例えば、以下である:
・腎移植の初期の、高用量コルチコステロイドとポリクローナル抗リンパ球抗体(抗ヒト胸腺細胞免疫グロブリン、サイモグロブリン(登録商標)またはグラファロン(登録商標))または抗CD25モノクローナル抗体(バシリキシマブ、シムレクト(登録商標))を組み合わせた誘導治療;
・誘導治療のフォローアップとして、以下を組み合わせた維持治療
・低用量コルチコセラピー、
・カルシニュリン阻害剤(タクロリムス、プログラフ(登録商標)またはシクロスポリン、ネオーラル(登録商標))およびプリン塩基合成阻害剤(ミコフェノール酸モフェチル、セルセプト(登録商標))、
・あるいはmTOR経路阻害剤(エベロリムス、サーティカン(登録商標))またはCTLA4-Ig(ベラタセプト、Nulojix(登録商標))などの分子[1]。
【0117】
本発明の方法によりBKV Nxを発症する有意なリスクが検出された場合には、治療管理は免疫抑制の軽減、または場合により治療の変更につながるはずである。
【0118】
本発明によるキット
別の側面によれば、本発明は、前述の方法を全血において実施するためのキットに関する。
【0119】
このキットは、例えば、以下を含む:
a)BKV定量的PCRを行うための試薬、および
b)上記の免疫学的方法を全血に対して行うための試薬。
【0120】
好ましくは、前記キットは、BKVゲノムの一部を増幅するための特異的プライマー、および所望により、DNA抽出を伴う定量的PCRを行うために必要な試薬(dNTP、酵素、バッファー、プローブおよび標準)を含む。
【0121】
これらのプライマーは、例えば、BKVウイルスゲノム内の281ヌクレオチドの配列を増幅する配列番号1(CATAGCATGCAAGGGCAGTG)および配列番号2(GAGCTGCCTGGGGAAATCTT)である。
【0122】
PCR反応の特異性を高めるためにプローブを含めることが可能である。そのようなプローブは、例えば、配列番号3の配列(TAGGCCATTCCTTGCAGTAC)を有する。
【0123】
好ましくは、前記キットは、リンパ球刺激に必要な試薬、例えば、所望により、刺激剤を含む細胞培養チューブ(例えば、ブドウ球菌内毒素B(SEB)またはフィトヘマグルチニンP(PHA)、ホルボール12-ミリスタート13-アセタート(PMA)-イオノマイシンのようなリンパ球刺激のためのBKVペプチド配列またはポリクローナルペプチド配列)、および所望により、リンパ球標識に必要な試薬(例えば、Ki67またはCFSEタイプのリンパ球増殖の核マーカー、RBC溶解バッファータイプの赤血球溶解液および/または70%エタノール)を含む。
【0124】
好ましくは、本発明のキットは、以下を含む:
a)BKVゲノムの一部を増幅するための特異的プライマー(BKVウイルス検出キットで提供されるものなど)、ならびに
b)BKVペプチド配列および/またはポリクローナルリンパ球刺激ペプチド配列、好ましくは、PepTivator(登録商標)BKV VP1またはPepTivator(登録商標)BKV LT(11アミノ酸で重複する15量体ペプチド)などの重複ペプチドの混合物、
ならびに、所望により、上記のような
c)DNA抽出を伴う定量的PCRを行うために必要な試薬あるいは
d)リンパ球標識に必要な試薬。
【0125】
さらに、そのキットは、HLA不適合数およびBKV Nxリスク指標の自動計算をするためのコンピュータソフトウエアの参照を提供し得る。
【0126】
このキットは、BKV Nxを発症するリスクの定量化された指標を得るために、本発明の方法を医療病院および/または民間の分析研究所で実施するために使用される。
本発明は以下の通りである。
[1]腎移植を受けた患者におけるBKウイルス(BKV)腎症を発症するリスクの評価方法であって、下記の工程を含んでなる、方法:
a)前記患者の生物学的サンプル中のBKVのウイルス量を測定する工程、
b)前記患者からの生物学的サンプル中のBKVウイルスに特異的なCD4
+
またはCD8
+
メモリーT細胞応答の正規化された強度を測定する工程(前記正規化は、工程a)において測定されたBKVウイルス量に対して実行される)、ならびに
c)腎臓ドナーと前記患者のHLA IおよびIIの間での不適合数を決定する工程。
[2]前記3つのパラメーターa)、b)およびc)が、前記患者がBKウイルス腎症を発症するリスクの層別化指標を作出するために、次いで編集される、上記[1]に記載の方法。
[3]前記BKVウイルス量が、工程a)において、前記患者からの全血または血漿のサンプルからの定量的PCRにより測定される、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]工程b)において測定されたBKV特異的CD4
+
またはCD8
+
メモリーT細胞の応答が、前記患者からの末梢血単核細胞をBKVウイルスペプチドと接触させることにより、および前記単核細胞に存在するT細胞の増殖を4~7日の培養後、一般には5日の培養後に評価することにより決定される、上記[1]、[2]または[3]に記載の方法。
[5]前記増殖が、前記ペプチドの存在下で4~7日の培養後、一般には5日の培養後にCFSEなどの増殖マーカーを希釈したCD4
+
T細胞の割合を決定することにより測定される、上記[4]に記載の方法。
[6]前記増殖が、前記ペプチドの存在下で4~7日の培養後、一般には5日の培養後にCFSEなどの増殖マーカーを希釈したCD8
+
T細胞の割合を決定することにより測定される、上記[4]に記載の方法。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法であって、下記の場合にBKウイルス(BKV)腎症の発症リスクが高いと結論付けられる、方法:
a)血液1mLあたりBKウイルス10
3
コピーのウイルス量に関連して、
b)BKVに特異的なCD4
+
またはCD8
+
メモリーT細胞応答の前記正規化された強度が100強度測定単位以下であり、かつ
c)前記患者と移植された腎臓のドナーとの間での不適合数が5以下である。
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法であって、下記の場合にBKウイルス(BKV)腎症の発症リスクが低いと結論付けられる、方法:
a)血液1mLあたりBKウイルス10
3
コピーのウイルス量に関連して、
b)BKVに特異的なCD4
+
またはCD8
+
メモリーT細胞応答の前記正規化された強度が厳密には100強度測定単位より大きく、かつ
c)前記患者と移植ドナーとの間での不適合数が厳密には5より大きい。
[9]免疫抑制治療の変更後のBKVの血液複製に対する腎移植患者の応答のイン・ビトロ評価方法であって、移植後に一定の時間間隔で上記[1]~[8]に記載の方法を繰り返すことを特徴とする、方法。
[10]上記[1]~[8]に記載の方法を各治療変更の前および後に繰り返す、上記[9]に記載の方法。
[11]上記[1]~[8]に記載の方法をおよそ3~6か月ごとに繰り返す、上記[9]に記載の方法。
[12]上記[1]~[11]に記載の方法を全血において実施することができ、また、実施するように設計されたキットであって、下記を含む、キット:
a)BKウイルス定量的PCRを行うための試薬、および
b)上記[4]~[6]に記載の免疫学的方法を全血に対して行うための試薬。
[13]前記試薬b)が、BKVペプチド配列またはポリクローナルリンパ球刺激ペプチド配列および、所望により、リンパ球標識試薬を含む、上記[12]に記載のキット。
[14]下記を含む、上記[12]に記載のキット:
a)BKVゲノムの一部を増幅するための特異的プライマー、ならびに
b)BKVペプチド配列、好ましくは、PepTivator(登録商標)BKV VP1もしくはPepTivator(登録商標)BKV LTなどの重複ペプチドの混合物および/またはポリクローナルリンパ球刺激ペプチド配列、
ならびに、所望により、
c)DNA抽出を伴う定量的PCRを行うために必要な試薬ならびに/あるいは
d)リンパ球標識のための試薬。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【
図1】
図1は、BKVウイルス尿症、孤立性BKVウイルス血症、BKV Nxおよび腎移植片の慢性機能不全/喪失に関して腎移植後のBKV再活性化の頻度を記載している[4,5,6,7]。
【
図2】
図2は、BKV Nxを有する場合またはBKV Nxのない場合の、患者における腎移植から3年での転帰を記載している(a-ml/分/1.73m
2で糸球体濾過速度(GFR)(単位を測定することによって評価した腎機能、クラスカル・ウォリス検定およびb-腎移植片の生存、カプラン・マイヤーおよびログランク検定)。
【
図3】
図3は、血中BKVウイルス量および腎移植生検の評価に基づくBKV Nxに対する現在のアプローチを示す。
【
図4】
図4は、以下の3つのパラメーターの組合せに基づいた本発明の方法を示す:・i)患者の血液中のBKVウイルス量によって評価されるウイルス学的パラメーター、・ii)患者における抗BKV TCm応答の強度によって評価される免疫学的パラメーター、および・iii)[ドナー/レシピエント]ペアにおけるHLA不適合数によって評価される遺伝学的パラメーター。
【
図5】
図5は、本明細書において研究されたコホートの異なる患者グループの血液(a)および尿(b)中のBKVウイルス量レベル(ノンパラメトリックでのクラスカル・ウォリス検定)を示す。本発明の方法において使用される閾値(血液中のBKV 10
3コピー/mL)は、可能な限り早期にリスクを評価できるように、これらの結果から定義した。
【
図6】
図6-パート1は、特定のBKVペプチドによる刺激後に行われた種々のリンパ球機能試験を示す。サイトカイン分泌(1a)およびリンパ球増殖(1b)を使用して、本明細書において研究されたコホートの異なる患者グループにおける抗BKV TCm応答を評価した(TC:T細胞;ノンパラメトリックでのクラスカル・ウォリス検定)。
図6-パート2は、抗ウイルスペプチド(サイトメガロウイルス、エプスタイン-バーおよびインフルエンザウイルスを対象としたペプチド)の混合物による刺激後に行われた種々のリンパ球機能試験を示す。サイトカイン分泌(2a)およびリンパ球増殖(2b)を使用して、本明細書において研究されたコホートの異なる患者グループにおけるメモリーT細胞抗ウイルス応答全体を評価した(有意差なし)。
【
図7】
図7は、抗BKV TCm応答の強度とBKVウイルス量(血液1mLあたりのコピー数)の負の相関を示す(ノンパラメトリックでのスピアマンの相関検定)。
【
図8】
図8/1は、特定のBKVペプチドのプールに応答した抗BKV TCmの増殖(CFSE
低T細胞の割合)の分析による、抗BKV TCm応答についての評価プロトコールを示している。活発に増殖した抗BKV TCmの割合(CFSE
低TCの割合)は、特定のBKVペプチドの存在下で測定されたCFSE
低TCの割合からペプチド刺激の不在下で測定されたCFSE
低TCの割合を差し引くことにより測定される。
図8/2は、抗BKV TCm応答の正規化強度の評価を示す。抗BKV TCm応答の正規化強度は「正規化強度測定単位」で定量化される。「正規化強度測定単位」は、本明細書において、10
6個の全T細胞に対して表され、血液1mLあたりBKV 10
3コピーに対して正規化されたCFSE
低抗BKV TCmの割合であると定義される。この正規化により、個体内および個体間の比較が可能になる[本明細書における個体間の比較(孤立性BKVウイルス血症とBKV Nx)]。
【
図9】
図9は、孤立性BKVウイルス血症(n=11)またはBKV Nx(n=16)を有する患者における抗BKV CD8
+ TCm細胞応答の正規化強度を示す。本発明の方法において使用された唯一の閾値(正規化測定強度単位10
2)は、BKV Nxを有する患者において実証された応答強度値の最大90パーセンタイルを考慮に入れるために、それらの結果から定義した。
【
図10】
図10は、孤立性BKVウイルス血症を有する患者(n=11)およびBKV Nxを有する患者(n=16)におけるCD4およびCD8型リンパ球の抗BKV TCm応答の正規化強度の比較を示す。
【
図11】
図11aは、BKV Nxを有する患者では、孤立性BKVウイルス血症を有する患者と比較して、移植ドナーとレシピエントの間でのHLA不適合性数[HLA-A、-B、-DR、-DQ]が少なかったことを示す(マン・ホイットニー検定)。本発明の方法において使用される閾値(移植ドナーとレシピエントの間でのHLA不適合性[HLA-A、-B、-DR、-DQ]5)は、孤立性BKVウイルス血症を有する患者におけるHLA不適合性値の最大75パーセンタイルを考慮に入れるために、これらの結果から定義した。
図11bは、HLA不適合数とBKVウイルス血症(血液1mLあたりのコピー数)の負の相関を示す(ノンパラメトリックでのスピアマンの相関検定)。
【
図12】
図12は、上記の3パラメーターによるBKV Nxリスクについての階層ツリーである。
【
図13】
図13は、BKVウイルス血症の場合の、腎移植後にBKV Nxを発症するリスクレベルを、以下の3つのパラメーターの関数として記載している:・i.正規化された抗BKV TCm応答の強度、・ii.BKV血中ウイルス量(血液1mLあたりBKV 10
3コピー)、および・iii.ドナーとレシピエントの間でのHLA不適合数。
【
図14】
図14は、本発明の方法の種々の適応症、ならびに前記方法を繰り返すための期間を示す。
【
図15】
図15は、血中BKVウイルス量の評価に基づいてBKV Nxリスクを評価するために本明細書において提案されたアプローチおよび本発明の方法を示す。
【実施例】
【0128】
材料および方法:
腎移植後のBKVに対して特異的な細胞応答を特徴付けるために、本発明者らは、94人の腎移植患者を含む観察研究を行った。登録された患者は総てビセートル病院(Bicetre Hospital)(南パリの大学病院(University Hospitals of South Paris))の腎臓科からであった。この場所は、機能性腎移植に関してモニタリングしている2000人以上の患者のアクティブファイルを使用して、全体で年間130件以上の腎移植を実施している。CPPイル・ド・フランス(CPP Ile de France)[倫理委員会]に相談したところ、この研究を行う上での倫理的な障害は見つからなかった。総ての患者に情報書簡を渡し、彼らの同意を書面で集めた。
【0129】
この研究は2014年11月に開始し、登録期間は36か月であった(登録は2017年11月1日に終了した)。選定基準は以下の通りであった:
・18歳以上の患者であること、
・腎臓以外の臓器移植がないこと、
・活動性慢性HIV/HBV/HCV感染がないこと。
【0130】
これらの腎移植患者において、BKVウイルス再活性化の4つのグループを以下の基準に従って定義した:
・BKV再活性化のない患者:
・血漿および尿中BKVウイルス量が少なくとも12か月間未検出。
・BKVウイルス尿症を有する患者:
・BKVウイルス尿症陽性(200コピー/mlより多い)かつ
・BKVウイルス血症が少なくとも12か月間未検出
・孤立性BKVウイルス血症を有する患者:
・過去6か月間BKVウイルス血症陽性(200コピー/mlより多い)かつ
・腎移植生検でBKV Nxの組織学的診断なし
・BKV Nxを有する患者:
・腎移植生検でBKV Nxの診断
・BKVウイルス血症陽性(200コピー/mlより多い)を伴う
【0131】
このコホートの異なる患者グループにおいて抗BKV TCmを特徴付けるために、本研究には、臨床的側面(36か月の前向きフォローアップにわたる臨床的および生物学的データの徹底的な収集)ならびに免疫学的側面(末梢血サンプル中の末梢血単核細胞(PBMC)の研究)を含めた。
【0132】
本研究の臨床的部分に関しては、36か月の長期的フォローアップの一部として以下の臨床的および生物学的データを収集した:
・レシピエントの年齢、性別、初期腎疾患、透析の方法および長さ
・腎移植の特徴:
・腎移植の年齢
・ドナータイプ
・移植順位(初回移植または2回目/3回目等の移植)。
・臓器移植拒絶
・BKVウイルスの再活性化:
・血液および尿中BKVウイルス量(コピー/mLで表される)
・複製期間(月単位で表される)
・MDRD式による糸球体濾過速度の推定:
・移植後1か月および6か月時点
・BKV Nxの診断時または移植後12か月時点
・フォローアップ終了時
・免疫抑制治療
・誘導治療および維持治療
・免疫抑制剤の残留量
・BKV Nxの診断時または腎移植後12か月時点
・BKV Nxの診断による免疫抑制治療変更。
【0133】
表2は、異なる腎移植患者グループにおいて治療的免疫抑制(免疫抑制治療の性質および強度)に関して差がないことを示す(NS=有意差なし)。
【0134】
【0135】
本研究の免疫学的部分に関しては、ベースライン時に15mLの全血(5mLのリチウムヘパリン管3本)の単回採血を実施した。この採血は、通常の患者フォローアップのために実施された組織学的評価中に行った。孤立性BKVウイルス血症を有するグループおよびBKV Nxを有するグループでは、長期的フォローアップも行い、抗BKV TCm応答の進展を評価するために、ベースラインから12か月および24か月の時点で新しいサンプルを採取した。15mLの全血から、平均で800~1000万個のPBMCが分離された。これは、患者の相対的リンパ球減少(血液1mLあたりPBMC 50~60万個)を示している。
【0136】
異なる患者グループにおいて抗BKV TCm応答を特徴付けた。抗BKV TCmの特異的活性化は、BKV VP1およびLT-Agタンパク質(PepTivator BKV、Miltenyi(登録商標)または同等のもの)を含む重複ペプチドプールとともにPBMCを培養することによって行った。これらのペプチドプールはCD4およびCD8 T細胞を活性化し、2つのBKV複製サイクルを対象とする(BKVウイルス複製の初期ではLT-Ag、後期ではVP1)。特定のBKVペプチドによる活性化後、抗BKV TCmのリンパ球多機能性をフローサイトメトリーにより以下に関して評価した:
・サイトカイン分泌:
・特定のBKVタンパク質およびブレフェルジンA(サイトカイン分泌阻害剤)の存在下での400万個のPBMC(1条件あたりPBMC 800,000個)の一晩のインキュベーション、その後の
・IL2、IFN-γおよびTNF-α合成能の研究。
・リンパ球増殖:
・CFSEで標識した400万個のPBMC(1条件あたりPBMC 500,000個)の、特定のBKVペプチドの存在下での5日間の培養、その後の
・CFSE希釈の可視化による増殖能の研究。
【0137】
全てのフローサイトメトリーの取得を18カラーサイトメーター(BD LSRFortessa(商標)または同等のもの)で行い、FlowJo固有の解析ソフトウエアで解析を行った。
【0138】
使用した統計的方法論:
連続変数は、データの正規分布がなく被験者が少数である(n<30)場合、四分位範囲[25~75]の中央値で表される。これらの変数は、2つ以上の分布の比較により、マン・ホイットニー検定またはクラスカル・ウォリスノンパラメトリック検定を使用することによって比較した。相関は、ノンパラメトリックでのスピアマンの相関検定を使用することによって検査した。
【0139】
カテゴリー変数はパーセンテージで表される。異なるグループ間で割合を比較するために、カイ二乗検定を使用した。生存関数は、カプラン・マイヤー推定量に従って、ログランク比較検定を使用して行った。
【0140】
統計的有意性の閾値は、P値<0.05について確立した。統計分析は、GraphPad Prismソフトウエアを使用して実施した。
【0141】
本発明の方法の開発:
a)BKVに特異的なメモリーT細胞の増殖の測定
BKVペプチドによる活性化後の抗BKV TCm増殖能の評価に基づいたこのリンパ球機能試験は、本発明者らによって特別に開発された。
【0142】
図8/1は、腎移植患者の全血からのBKVウイルスペプチドによる特異的刺激に応答して増殖した抗BKV TCmの特定プロトコールを示している。
【0143】
抗BKV TCmを含んでなるPBMCは、各患者の全血の血液サンプル15mLから得た。この血液サンプルは末梢静脈タイプで、5mLのリチウムヘパリン管3本(緑色のキャップの付いた試験管)使用して採取した(
図8/1a)。
【0144】
抗BKV TCmの増殖試験には、およそ500~600万個のPBMCが必要であり;血液サンプルは800~1000万個を提供する。
【0145】
PBMCは、FICOLL gradient C(PAN Biotech(登録商標)-参照番号P04-60505または同等のもの)によって分離した。本発明者らは、全血15mLから、平均で800~1000万個のPBMCを分離する(
図8/1b)。
【0146】
PBMCは、終濃度1μg/mL/ペプチドで2つのBKVペプチドプールとともに5日間培養した。ペプチドプールは、Miltenyi Biotecによって販売されている(PepTivator(登録商標)BKV VP1-参照番号:130-097-272およびPepTivator(登録商標)BKV LT-参照番号:130-096-504)または同等のもの(
図8/1c)。使用したLT-AgおよびVP1ペプチド配列は、抗BKV TCmを活性化できると科学文献で広く認識されている免疫優性ペプチドである。2つの応答のうちの強い方が機能的抗BKV TCmの特定用に考えられた。
【0147】
T細胞増殖は、培養日に、リンパ球増殖マーカー(CellTrace CFSE Thermo Fisher Scientific(登録商標)-参照番号:C34554)を添加することによって測定した。他の同等のリンパ球増殖マーカーも使用し得る。細胞培養の5日目に、PBMCを以下の抗体[BD(登録商標)抗CD3抗体(参照番号:564712)、Miltenyi(登録商標)CD4(参照番号:130-096-900)およびMiltenyi(登録商標)CD8(参照番号:130-096-561)または同等のもの]により標識し、フローサイトメトリー(BD LSRFortessa(商標)サイトメーターまたは同等のもの)により分析した(
図8/1d)。BKVに特異的なCD4およびCD8 TCmを特定し、CFSE標識(CFSE
低T細胞)の程度に基づいて計数する。上で説明したように、活発に増殖した抗BKV TCmの割合(CFSE
低TCの割合)は、特定のBKVペプチドの存在下で測定されたCFSE
低TCの割合からペプチド刺激の不在下で測定されたCFSE
低TCの割合を差し引くことにより測定される(
図8/1eおよび8/2a)。
【0148】
次に、機能的抗BKV TCmの割合を10
6個の全T細胞に対して表し、次いで、血液1mLあたりBKV 10
3コピーに対して正規化する。
図8/2は、抗BKV TCm応答の正規化強度の評価を可能にするために、機能的抗BKV TCmの割合のこの正規化を示している。この応答の強度の評価により、個体内および個体間の比較が可能になる。
【0149】
b)ウイルス量の測定
BKVウイルス量は、特定の市販キット(BioMerieux(登録商標)のBKV R-GENE(登録商標)-参照番号 69-013Bまたは同等のもの)を介して測定した。使用される生物学的サンプルは、前記患者からの全血または血漿サンプルであり得る。
c)ドナーとレシピエントの間でのHLA不適合数の測定
移植との関連における総てのHLAタイピングは、セントルイスHLA研究所によって行われ、これらの試験はイル・ド・フランスで集中して行っている。レシピエントのHLAタイピングは、現在次世代の対立遺伝子配列決定技術(HLA A、B、C、DRB1、DQB1、DQA1およびDPB1分子の対立遺伝子配列決定-Illumina(登録商標)のMiSeq装置または同等のもの)によって行われている。HLAドナータイピングは、SABR(Single Antigen Bead Resolution)キットまたは同等のものを使用した「配列特異的プライマー法」(Linkage Biosciences、Thermo Fisher(登録商標))により腎移植時に緊急時に行われている。
【0150】
ドナーおよびレシピエントのHLAタイピングは、国際勧告に従って、腎移植を進めるかどうかを決定するために、移植時に総ての腎移植患者に対して日常的に行われていることを覚えておくことが重要である。それらの結果は、Agence de la Biomedecine[フランスの生物医学局]を介して医療チームに伝達される。
【0151】
結果:
94人の腎移植患者が登録され、BKVウイルス再活性化レベルに従って4グループに分けられた:
・BKV再活性化のない患者(n=25):
・血漿および尿中BKVウイルス量<200コピー/mL
・BKVウイルス尿症を有する患者(n=25):
・尿中BKVウイルス量の中央値 1.9×104[3.9×103~1.8×105]コピー/mL
・血漿中BKVウイルス量(200コピー/mlより多い)
・再活性化までの時間の中央値 21.8[14.6~34.7]か月。
・孤立性BKVを有する患者(n=22):
・血漿中BKVウイルス量の中央値 4.2×103[1.1×103~1.2×104]コピー/mL
・尿中BKVウイルス量 1.1×108[6.2×106~3.8×108]コピー/mL
・再活性化までの時間の中央値 10.3[5.6~21.1]か月および13.8[9.3~27.1]か月
・腎移植生検でBKV Nxの組織学的診断なし
・BKV Nxを有する患者(n=22):
・腎移植生検でBKV Nxの組織学的診断
・血漿中BKVウイルス量 2.8×105[3×104~6.3×105]コピー/mL
・尿中BKVウイルス量 1×109[5.4×107~1.8×109]コピー/mL
・再活性化までの時間のそれぞれの中央値 12.6[5.2~24.7]か月および13.8[4~23.3]か月
【0152】
図5は、異なる患者グループにおける血液および尿のBKVウイルス量のレベルの違いをBKV再活性化程度の関数として示す。従来技術と一致して、10
5より多い血漿中BKVウイルス量は、BKV Nxと関連している可能性がある(
図5a)が、このパラメーターは、BKV Nx診断時の移植片の腎実質損傷および重度の慢性機能不全にすでに関連しているため、時期を逃していることに注意することが重要である(
図2a)。さらに、孤立性BKVウイルス血症を有する患者とBKV Nxを有する患者の尿中BKVウイルス量間に差異がないことを前提として、本発明の開発においてこのパラメーターを考慮しなかった。
【0153】
これまでに得られた臨床的および生物学的データに基づき、研究されたコホート全体の移植までの平均時間は3.5年であった。BKV Nx発生までの時間の中央値は腎移植後12か月であった。
【0154】
免疫抑制の標準化された単一施設管理により、グループは免疫抑制に関して同等であった(免疫抑制治療の性質および強度-表2参照)。
【0155】
BKV Nxの診断から慢性の重度の腎移植片機能不全が見つかった(p<0.0001、
図2a)。腎臓の転帰もまた、BKV Nxのない患者と比較して、BKV Nxを有する患者において移植片喪失率が高く不利であった(p<0.0001、
図2b)。
【0156】
抗BKV TCmの機能障害は、腎移植後のBKV Nxを有する患者において報告された。BKV Nxを有する患者のグループはより低い抗BKV TCm応答を示した:
・サイトカイン分泌能に関して:BKVウイルス尿症を有するグループと比較して、BKV Nxグループにおけるインターフェロンγ分泌能の低下(
図6/1a)。
・リンパ球増殖能に関して:他の3つのグループ(BKV再活性化のない患者、BKVウイルス尿症を有する患者および孤立性BKVウイルス血症を有する患者)と比較して、BKV Nxグループにおけるリンパ球増殖能の低下(
図6/1b)。
【0157】
リンパ球応答のこの障害は、抗BKV TCmに特異的であった。BKV Nxを有する患者は、サイトメガロウイルス、エプスタイン-バーおよびインフルエンザウイルスを対象としたペプチドのプール(Axxora(登録商標)のCEFペプチドプール、参照番号 PT-PA-CEF-002または同等のもの-
図6/2a~b)による刺激後に抗ウイルス応答が保存された。
【0158】
抗BKV TCm増殖応答の強度は、血液中のBKVウイルス量と負の相関があった(
図7)。血液1mLあたりBKV 10
3コピーに対して応答強度を正規化した後、抗BKV応答のこの正規化強度は、孤立性BKVウイルス血症を有する患者と比較して、BKV Nxを有する患者において有意に低かった(
図9)。これらのデータは、抗BKV TCmのリンパ球多機能性の変化を示唆しており、これらのリンパ球の枯渇状態を示唆している。
【0159】
リンパ球増殖は、リンパ球機能の最も識別力のある評価方法である。さらに、この試験は、セントラルメモリーT細胞およびメモリー幹細胞を具体的に評価することを可能にする。しかしながら、すでに説明したように、病原体に対して特異的なメモリーT細胞内のこれらのリンパ球亜集団の大きさは、それらの自己複製、増殖、ヘルプシグナルおよびエフェクターへの分化についての能力を決定する。これらのセントラルメモリーおよびメモリー幹細胞の具体的な評価は、BKVウイルスから保護するための免疫学的能力のより正確な評価を可能にする。サイトカイン分泌能の評価により、メモリーエフェクターまたはターミナルエフェクターT細胞タイプの「ターミナル」メモリー細胞亜集団を優先的に研究することが可能になる。これらの高度に分化したリンパ球亜集団は、自己複製能、増殖能または分化能があったとしてもほとんどない([13]、[14])。従って、この評価方法が支持された。
【0160】
さらに、前述のように、BKV Nxを有する患者ではHLA不適合数がより少ないこと報告されている。BKV Nxを有する患者は、孤立性BKVウイルス血症を有する患者と比較して全HLA不適合数[HLA-A、-B、-DR,および-DQ]が低かった(
図11a)。さらに、この不適合数はBKVウイルス量と負の相関があった(
図11b)。
【0161】
得られたデータから、BKV Nxを発症するリスクの層別化指標を開発した。
【0162】
BKV Nxを有する患者では、以下の間の関連を報告することが可能であった:
・抗BKV TCm応答の正規化強度(血液1mLあたり103コピーのBKVウイルスに対して正規化された応答強度)の低下および
・ドナーとレシピエントの間でのHLA分子不適合数が少ないこと。
【0163】
従って、コホートの断面解析では、抗BKV TCm応答の正規化強度10
2以下かつ全HLA不適合数5以下を有する患者の100%がBKV Nxを有していた(
図13、濃灰色面)。逆に、抗BKV TCm応答の正規化強度が10
2より大きくかつ全HLA不適合数が5より大きい患者でBKV Nxを有する患者はいなかった(
図13、白色面)。
【0164】
【配列表】