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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】クロスローラ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20240708BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20240708BHJP
   F16C 23/06 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/36
F16C23/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021000845
(22)【出願日】2021-01-06
(65)【公開番号】P2022106105
(43)【公開日】2022-07-19
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】川上 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】片渕 恵太
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106195015(CN,A)
【文献】特開2010-151152(JP,A)
【文献】実開平03-012015(JP,U)
【文献】特開2010-133560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/58
F16C 19/36
F16C 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
V溝状の外輪軌道面(5)が内径側に形成された外輪(2)と、
前記外輪軌道面(5)と対向するV溝状の内輪軌道面(6)が外径側に形成された内輪(3)と、
前記外輪軌道面(5)と、前記内輪軌道面(6)との間に、傾斜角度が交互に変わるように、周方向の全周に亘って配置された複数のローラ(4)と、
を有し、
前記外輪軌道面(5)または前記内輪軌道面(6)の少なくとも一方に、周方向断面が直線状のストレート部(9、10)と、所定のドロップ量を有する第一クラウニング部(11)と、前記ストレート部(9、10)と前記第一クラウニング部(11)とを滑らかに接続する所定の曲率半径(R)を有する第二クラウニング部(12)とが形成されており、
前記外輪軌道面(5)と前記内輪軌道面(6)のそれぞれに、互いに形状が異なる前記第一クラウニング部(11)が形成されているクロスローラ軸受。
【請求項2】
前記各軌道面(5、6)の溝底側と溝肩側の少なくとも一方に前記第一クラウニング部(11)が形成されている請求項に記載のクロスローラ軸受。
【請求項3】
前記溝底側と前記溝肩側のそれぞれに、互いに形状が異なる前記第一クラウニング部(11)が形成されている請求項に記載のクロスローラ軸受。
【請求項4】
前記曲率半径(R)が0.1mm以上3.0mm以下の範囲内である請求項1からのいずれか1項に記載のクロスローラ軸受。
【請求項5】
前記周方向断面において前記ストレート部(9、10)を前記第一クラウニング部(11)側に延長した延長線と前記第一クラウニング部(11)の両端を結ぶ直線を前記ストレート部(9、10)側に延長した延長線との交点から、前記第二クラウニング部(12)までの距離(L)が0.1μm以上3.0μm以下の範囲内である請求項1からのいずれか1項に記載のクロスローラ軸受。
【請求項6】
前記外輪(2)および前記内輪(3)がその軸方向に分割されない一体構造となっており、前記外輪(2)に、その外周面から前記外輪軌道面(5)に至る前記ローラ(4)の挿入用のローラ挿入穴(8)が形成されており、前記ローラ挿入穴(8)に、該ローラ挿入穴(8)を塞ぐとともに前記外輪軌道面(5)の一部を構成する止め栓(13)が設けられる請求項1からのいずれか1項に記載のクロスローラ軸受。
【請求項7】
周方向に隣り合う前記ローラ(4)間に所定の間隔を保持するための保持器または間座を設けない総ころ形式とした請求項1からのいずれか1項に記載のクロスローラ軸受。
【請求項8】
前記各軌道面(5、6)にのみ前記第一クラウニング部(11)が形成され、前記ローラ(4)にはクラウニング加工が施されていない請求項1からのいずれか1項に記載のクロスローラ軸受。
【請求項9】
前記第一クラウニング部(11)が、周方向断面が直線状の部位のみから構成されている請求項1からのいずれか1項に記載のクロスローラ軸受。
【請求項10】
V溝状の外輪軌道面(5)が内径側に形成された外輪(2)と、
前記外輪軌道面(5)と対向するV溝状の内輪軌道面(6)が外径側に形成された内輪(3)と、
前記外輪軌道面(5)と、前記内輪軌道面(6)との間に、傾斜角度が交互に変わるように、周方向の全周に亘って配置された複数のローラ(4)と、
を有し、
前記外輪軌道面(5)または前記内輪軌道面(6)の少なくとも一方に、周方向断面が直線状のストレート部(9、10)と、所定のドロップ量を有する第一クラウニング部(11)と、前記ストレート部(9、10)と前記第一クラウニング部(11)とを滑らかに接続する所定の曲率半径(R)を有する第二クラウニング部(12)とが形成されており、
前記各軌道面(5、6)の溝底側と溝肩側の少なくとも一方に前記第一クラウニング部(11)が形成されており、
前記溝底側と前記溝肩側のそれぞれに、互いに形状が異なる前記第一クラウニング部(11)が形成されているクロスローラ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外輪と内輪の間に、周方向に交互に傾斜方向が異なるようにローラが配置されたクロスローラ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットの減速機などに用いられるクロスローラ軸受は、高い位置決め精度や繰り返し精度、高いモーメント剛性などの安定した特性が求められる。
【0003】
例えば、下記特許文献1に示すクロスローラベアリング(クロスローラ軸受)は、環状に形成された一体構造の外輪および内輪を有している。外輪の内周面には、内方に向かって開口するV字状の軌道面が円周方向に沿って形成され、内輪の外周面には、外輪の軌道面と対向するように外方に向かって開口するV字状の軌道面が円周方向に沿って形成されている。例えば図9(a)(b)に示すように、外輪20には、その外周面から外輪軌道面21に至るローラ25(図10参照)の挿入用のローラ挿入穴22が形成されている。そして、このローラ挿入穴22から、多数のローラ25が、隣り合うもの同士の回転軸が交互に直交するように内外輪20、23の軌道面21、24間に介装される(図10参照)。その後、ローラ挿入穴22に、このローラ挿入穴22を塞ぐ略円柱状に形成された蓋(止め栓)が設けられる。
【0004】
一般的に、クロスローラ軸受の軌道面は、クラウニングが施されておらず、軸受の軸心方向に対し45度傾斜したストレート部のみで構成されている。そして、この軌道面にローラの転動面が接触して転動するようになっている(下記特許文献1の段落0012、図1など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3739056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係るクロスローラベアリングのようにクラウニングが施されていない場合、図10に示すように、外輪20と内輪23にそれぞれ形成されたV字状の外輪軌道面21及び内輪軌道面24とローラ25の転動面は、理想的にはローラ25の軸方向の全体に亘って接触する。
【0007】
ところが、モーメント荷重が負荷されたときは、図10中に接触面圧の分布を示すように、V溝の溝肩側(外輪20の内周面側のエッジ部および内輪23の外周面側のエッジ部)と溝底側(内外輪軌道面21、24の溝底に形成されたぬすみ26のエッジ部)の近傍(図10において符号Eを付した部分)でエッジ応力が発生し、その部分を起点とした摩耗、剥離等を生じるおそれがある。
【0008】
特に、外輪20に形成されたローラ挿入穴22に止め栓を設ける形式においては、ローラ挿入穴22を跨ぐように周方向に延設されたぬすみ26のエッジ部(図9(b)において破線丸を付した部分)にローラ25が接触して、このエッジ部を起点として外輪軌道面21に剥離が生じたり、ローラ25に欠けが生じたりしやすい。ローラ25にクラウニングを施して接触面圧の分布の均一化を図ることも考えられるが、ローラ25の組み込み方向の管理が必要となるため、製造コストの上昇の原因となり得る。また、個々のローラに形成されたクラウニング寸法の加工精度のばらつきにより、軸受の安定動作が低下することが考えられる。
【0009】
そこで、この発明は、モーメント荷重の負荷時に軌道面に作用する接触面圧の分布を均一化して軸受の長寿命化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明においては、
V溝状の外輪軌道面が内径側に形成された外輪と、
前記外輪軌道面と対向するV溝状の内輪軌道面が外径側に形成された内輪と、
前記外輪軌道面と、前記内輪軌道面との間に、傾斜角度が交互に変わるように、周方向の全周に亘って配置された複数のローラと、
を有し、
前記外輪軌道面または前記内輪軌道面の少なくとも一方に、周方向断面が直線状のストレート部と、所定のドロップ量を有する第一クラウニング部と、前記ストレート部と前記第一クラウニング部とを滑らかに接続する所定の曲率半径を有する第二クラウニング部とが形成されているクロスローラ軸受を構成した。
【0011】
このようにすると、軌道面とローラが局所的に強く接触することに起因するエッジ応力が低減する。このため、モーメント荷重の負荷時に軌道面に作用する接触面圧の分布を均一化して軸受の長寿命化を図ることができる。
【0012】
前記構成においては、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面のそれぞれに、互いに形状が異なる前記第一クラウニング部が形成されている構成とすることができる。
【0013】
このようにすると、外輪と内輪において生じる接触面圧の分布をそれぞれ均一化して、エッジ応力を適切に低減することができる。
【0014】
前記各構成においては、前記各軌道面の溝底側と溝肩側の少なくとも一方に前記第一クラウニング部が形成されている構成とすることができる。
【0015】
このようにすると、荷重条件に対応して溝底側または溝肩側のいずれかにおいてエッジ応力が生じたときでも、そのエッジ応力を適切に低減することができる。
【0016】
前記構成においては、前記溝底側と前記溝肩側のそれぞれに、互いに形状が異なる前記第一クラウニング部が形成されている構成とすることができる。
【0017】
このようにすると、モーメント負荷時の接触面圧の分布に対応して、溝底側と溝肩側で適切なドロップ量が設定されることとなり、軌道面に作用する接触面圧の分布を均一化することができる。
【0018】
前記各構成においては、前記曲率半径が0.1mm以上3.0mm以下の範囲内である構成とするのが好ましい。
【0019】
このようにすると、軌道面とローラとの間の接触面圧を均一化して軸受寿命を延ばしつつ、高いモーメント剛性を確保することができる。
【0020】
前記各構成においては、前記周方向断面において前記ストレート部を前記第一クラウニング部側に延長した延長線と前記第一クラウニング部の両端を結ぶ直線を前記ストレート部側に延長した延長線との交点から、前記第二クラウニング部までの距離が0.1μm以上3.0μm以下の範囲内である構成とするのが好ましい。
【0021】
このようにすると、軌道面とローラとの間の接触面圧を均一化して軸受寿命を延ばしつつ、高いモーメント剛性を確保することができる。
【0022】
前記各構成においては、前記外輪および前記内輪がその軸方向に分割されない一体構造となっており、前記外輪に、その外周面から前記外輪軌道面に至る前記ローラの挿入用のローラ挿入穴が形成されており、前記ローラ挿入穴に、該ローラ挿入穴を塞ぐとともに前記外輪軌道面の一部を構成する止め栓が設けられる構成とすることができる。
【0023】
このようにすると、ローラ挿入穴を跨ぐように周方向に延設されたぬすみのエッジ部にローラが接触して、このエッジ部を起点として外輪軌道面に剥離が生じたり、ローラに欠けが生じたりすることを防止することができる。
【0024】
前記各構成においては、周方向に隣り合う前記ローラ間に所定の間隔を保持するための保持器または間座を設けない総ころ形式とした構成とすることができる。
【0025】
このようにすると、保持器などを設けた場合と比較してより多くのころを内外輪間に設けることができ、クロスローラ軸受の剛性を向上することができるとともに、より一層の長寿命化を図ることができる。
【0026】
前記各構成においては、前記各軌道面にのみ前記第一クラウニング部が形成され、前記ローラにはクラウニング加工が施されていない構成とすることができる。
【0027】
このようにすると、個々のローラに形成されたクラウニング寸法の加工精度のばらつきにより、軸受の安定動作が低下するのを防止することができるとともに、ローラの組み込み方向の管理が不要となるため、製造コストの抑制を図ることができる。
【0028】
前記各構成においては、前記第一クラウニング部が、周方向断面が直線状の部位のみから構成されている構成とすることができる。
【0029】
このようにすると、第一クラウニング部の周方向断面を曲線状とした場合と比較して加工が容易となり、製造コストを抑制することができる。
【発明の効果】
【0030】
この発明では、クロスローラ軸受において、ストレート部と第一クラウニング部とを滑らかに接続する所定の曲率半径を有する第二クラウニング部を形成したので、モーメント荷重の負荷時に軌道面に作用する接触面圧の分布を均一化して軸受の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】この発明に係るクロスローラ軸受の一部を切り欠いた正面図
図2図1中のII-II線に沿う断面図(第一例)
図3図2の要部の断面図
図4図3のさらに要部の断面図
図5】外輪に止め栓を設ける工程を示す断面図
図6】軌道面に作用する接触面圧の分布の一例を示す断面図
図7】クロスローラ軸受の要部の断面図(第二例)
図8】クロスローラ軸受の要部の断面図(第三例)
図9】(a)は従来の外輪の断面図、(b)は(a)の要部
図10】従来のクロスローラ軸受の軌道面に作用する接触面圧の分布の一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
この発明に係るクロスローラ軸受1の実施形態(第一例)を、図面を用いて説明する。以下の説明では、クロスローラ軸受1の回転軸と平行な方向を軸方向、前記回転軸に対し直交する方向を径方向、前記回転軸を中心とする円弧に沿う方向を周方向という。このクロスローラ軸受1は、図1および図2に示すように、外輪2と、外輪2の内径側に、この外輪2と同軸に配置された内輪3、および、外輪2と内輪3の間に介在する複数のローラ4を主要な構成要素としている。これらの構成要素は、いずれも鋼製である。
【0033】
外輪2の内径側には、略直交するV溝状の外輪軌道面5が、内輪3の外径側には、外輪軌道面5と対向し、略直交するV溝状の内輪軌道面6が、それぞれ形成されている。以下においては、各軌道面5、6の溝肩から溝底に向かう径方向の中間の位置よりも深い側を溝底側、浅い側を溝肩側という。各軌道面5、6の溝底には、周方向の全周に亘って連続するぬすみ7が形成されている。また、外輪2には、図9(a)(b)に示すように、その外周面から外輪軌道面5に至るローラ4の挿入用のローラ挿入穴8(図5参照)が形成されている。
【0034】
図2および図3に示すように、内外輪軌道面5、6の径方向中間位置には、軸方向に対し45度傾斜したストレート部9、10が形成されている。このストレート部9、10の溝底側と溝肩側には、それぞれ所定のドロップ量(ローラ4の転動面と内外輪軌道面5、6との間の隙間の大きさ)を有する第一クラウニング部11が形成されている。第一クラウニング部11の周方向断面は、直線状の部位のみから構成されており、溝底側もしくは外輪2の内周面側または内輪3の外周面側に向かうほどドロップ量は大きくなっている。
【0035】
ストレート部9、10とその溝底側および溝肩側に形成された第一クラウニング部11との間には、このストレート部9、10と第一クラウニング部11とを滑らかに接続する所定の曲率半径Rを有する第二クラウニング部12が形成されている。ここでいう、「滑らかに」とは、第二クラウニング部12の面法線の傾きが、ストレート部9、10との接続部から第一クラウニング部11との接続部まで連続的に変化し、その途中でピン角のように角張った部分や不連続部がないことを意味する。この第二クラウニング部12の加工は、研磨、タンブラ、バレル、ショット、超仕上げなどの機械的に制御できるあらゆる手法、または、ハンドラップなどの手作業で行うことができる。
【0036】
なお、図2(クロスローラ軸受1の要部の断面図を示す図3図4図5図6図7および図8も同様)においては、内外輪軌道面5、6に形成された第一クラウニング部11および第二クラウニング部12を視覚的に見やすくするために、第一クラウニング部11の傾斜角を誇張して描いているが、実際の傾斜角(例えば2度程度)は十分小さく、また、曲率半径R(例えば0.6mm程度)は十分大きくストレート部9、10から第一クラウニング部11への角度変化が非常に緩やかであるため、モーメント荷重の作用時に、内外輪軌道面5、6とローラ4の転動面が、ローラ4の軸方向の全体に亘って接触することが可能となっている。
【0037】
ストレート部9、10、第一クラウニング部11、および、第二クラウニング部12から構成される内外輪軌道面5、6の形状に基づく軸受寿命およびモーメント剛性は、後述するように、図4に示す(1)第二クラウニング部12の曲率半径Rと、(2)周方向断面においてストレート部9、10を第一クラウニング部11側に延長した延長線と第一クラウニング部11の両端を結ぶ直線をストレート部9、10側に延長した延長線との交点と、第二クラウニング部12までの距離Lの大きさに強く関連している。この第一例においては、外輪軌道面5の溝底側と溝肩側、および、内輪軌道面6の溝底側と溝肩側にそれぞれ形成された第一クラウニング部11および第二クラウニング部12の形状は同じとなっている。なお、内外輪軌道面5、6のV溝の深さ方向に沿う第一クラウニング部11および第二クラウニング部12の幅は適宜決めることができるが、与圧管理の点から、両クラウニング部11、12の幅合計が、ストレート部9、10の幅の50%以下とするのが好ましい。
【0038】
ローラ4は、外輪軌道面5と内輪軌道面6との間に、周方向に隣り合うローラ4の傾斜角度が交互に90度ずつ変わるように、周方向の全周に亘って配置されている。ローラ4の直径は、その回転軸方向の長さよりも若干長くなっている。このため、ローラ4の回転軸方向の端部が、このローラ4の転動面が転動する内外輪軌道面5、6のV溝を構成する一方側の面と略直交する他方側の面に同時に接触することなく、このローラ4をスムーズに転動させることができる。
【0039】
ローラ4の転動面は、その軸方向の全体に亘って外径の大きさが一定の円柱面であり、クラウニングは施されていない。このため、ローラ4を内外輪軌道面5、6の間に組み込む際に、その組み込み方向の管理を行う必要がなく、その組み込み作業をスムーズに行うことができる。この実施形態においては、周方向に隣り合うローラ4間に所定の間隔を保持するための保持器または間座を設けない総ころ形式としたが、ローラ4を保持器で保持したり、隣り合うローラ4の間に間座を配置したりして、ローラ4間に所定の大きさの隙間を確保した構成とすることもできる。
【0040】
ローラ4の組込みが完了したら、図5に示すように、外輪2に形成されたローラ挿入穴8にこのローラ挿入穴8を塞ぐとともに外輪軌道面5の一部を構成する止め栓13を設け、この止め栓13を抜け止めするためのピン14を挿入してクロスローラ軸受1のアセンブリを完了する。この止め栓13には、外輪軌道面5に形成されたぬすみ7、ストレート部9、第一クラウニング部11、および、第二クラウニング部12と周方向に連続するように、周方向断面が同形状のぬすみ7、ストレート部9、第一クラウニング部11、および、第二クラウニング部12がそれぞれ形成されている。
【0041】
なお、第一例においては、内外輪軌道面5、6の溝底側および溝肩側の両方にクラウニングを形成したが、荷重条件によって応力の大きさは変わるため、内外輪軌道面5、6の一方側のみ、あるいは、溝底側または溝肩側の一方側のみにクラウニングを形成した構成とすることができる場合もある。また、外輪軌道面5と内輪軌道面6との間で、または、溝底側と溝肩側との間で、異なる形状のクラウニングを形成した構成とすることができる場合もある。
【0042】
アセンブリを完了したクロスローラ軸受1に、所定の大きさのモーメント荷重を負荷させたときの内外輪軌道面5、6に作用する接触面圧の分布の一例を図6に示す。内外輪軌道面5、6にストレート部9、10、第一クラウニング部11、および、第二クラウニング部12を形成することにより、V溝の溝肩側(外輪2の内周面側のエッジ部および内輪3の外周面側のエッジ部)と溝底側(内外輪軌道面5、6の底に形成されたぬすみ7のエッジ部)の近傍におけるエッジ応力が、従来(図10参照)と比較して大幅に低減することが確認できた。
【0043】
また、上記のように第一クラウニング部11と第二クラウニング部12によってクラウニングを構成することにより、図5に示すように、外輪2に形成されたローラ挿入穴8に止め栓13を設ける構成のクロスローラ軸受1においても、ぬすみ7のエッジ部にローラ4が接触して、このエッジ部を起点として外輪軌道面5に剥離が生じたり、ローラ4に欠けが生じたりすることを防止することができる。
【0044】
このエッジ応力の低減は、第一クラウニング部11に対数クラウニングを採用し、内外輪軌道面5、6のストレート部9、10と第一クラウニング部11を接線で滑らかに繋げることによっても実現できる可能性がある。しかしながら、対数クラウニングは、その加工が難しいためコスト高となりやすく、比較的に安価に加工ができる第二クラウニング部12によってストレート部9、10と第一クラウニング部11を接続する上記の構成に優位性がある。
【0045】
上記のように、ストレート部9、10と第一クラウニング部11との間に第二クラウニング部12を形成したときと形成しなかったときにおける軸受寿命の違いを検証した。その検証結果を表1に示す。表1に示すサンプルNo.1は第二クラウニング部12を形成しなかったとき(比較例)、サンプルNo.2は第二クラウニング部12を形成したとき(実施例)の結果である。
【0046】
No.2のサンプル(実施例)において、第二クラウニング部12の曲率半径R(R2)は0.6mmで、ストレート部9、10と第一クラウニング部11の延長線同士の交点と第二クラウニング部12までの距離Lは0.5μmであった。No.1のサンプル(比較例)においては、第二クラウニング部12は形成していないが、ストレート部9、10と第一クラウニング部11が交差する部分で若干の丸め(曲率半径R(R1)=0.05mm)が存在し、ストレート部9、10と第一クラウニング部11の延長線同士の交点と前記丸めとの間には0.1μm未満のわずかな距離Lが存在していた。
【0047】
両サンプルに対して軸受の耐久性試験を行ったところ、第二クラウニング部12を形成していない比較例に対して、第二クラウニング部12を形成した実施例の軸受寿命比は2.8となり、寿命が大幅に向上することが確認できた。これは、第二クラウニング部12を形成したことにより、図6に示したように、内外輪軌道面5、6とローラ4との間の接触に伴うエッジ応力が低減されたためと考えられる。
【0048】
【表1】
【0049】
次に、第二クラウニング部12の曲率半径Rを変化させたときの軸受寿命およびモーメント剛性の優劣を評価した。その評価結果を表2に示す。表2(表3も同様)中における記号「◎」は特に優れること、「〇」は優れること、および、「×」は劣る(実用上問題となる可能性がある)ことをそれぞれ意味している。また、記号「-」は、曲率半径Rが大きくなるにつれてストレート部9、10が短くなるのに伴い、優劣が「◎→〇→×」と次第に変化することを意味している。また、曲率半径Rがさらに大きくなると、第一クラウニング部11がなくなって、ぬすみ7、第二クラウニング部12、および、ストレート部9、10のみから構成される形状となる場合がある。この点については、後述する表3において、距離Lが3.0μmを超えて大きくなるときも同様である。
【0050】
この評価結果より、曲率範囲Rが0.1mm以上3.0mm以下の範囲内で、良好な軸受寿命およびモーメント剛性を両立できることが明らかとなった。特に、曲率半径Rが0.6mm以上3.0mm以下の範囲内で軸受寿命が特に優れていた。その一方で、曲率半径Rが0.05mm以下のときは、実用上の軸受寿命が確保できない可能性があること、および、曲率半径Rが3.0mmを超えるときは軸受寿命、モーメント剛性がともに低下することが明らかとなった。
【0051】
【表2】
【0052】
さらに、ストレート部9、10と第一クラウニング部11の延長線同士の交点と第二クラウニング部12までの距離Lを変化させたときの軸受寿命およびモーメント剛性の優劣を評価した。その評価結果を表3に示す。
【0053】
この評価結果より、距離Lが0.1μm以上3.0μm以下の範囲内で、良好な軸受寿命およびモーメント剛性を両立できることが明らかとなった。特に、距離Lが0.2μm以上3.0μm以下の範囲内で軸受寿命が特に優れていた。その一方で、距離Lが0.1μm以下のときは、実用上の軸受寿命が確保できない可能性があること、および、距離Lが3.0μmを超えるときは軸受寿命、モーメント剛性がともに低下することが明らかとなった。
【0054】
【表3】
【0055】
なお、表2および表3に示す評価結果は、産業用ロボットの減速機などに用いられるクロスローラ軸受1(例えば、外径が50~240mm程度)を想定したものであり、軸受サイズがこの範囲から異なると、良好な軸受寿命およびモーメント剛性を発揮する曲率半径Rおよび距離Lの各値も変化する可能性がある。
【0056】
この発明に係るクロスローラ軸受1の他の実施形態(第二例)を図7に示す。第二例に係るクロスローラ軸受1は、第一例と基本的な構成は共通するが、内外輪軌道面5、6の溝底側と溝肩側とでクラウニングの形状が異なっている。すなわち、第二例においては、内外輪軌道面5、6の溝肩側の第一クラウニング部11の周方向断面が曲線状の部位によって構成されており、外輪2の内周面側または内輪3の外周面側に向かうほどドロップ量は大きくなっている。
【0057】
この第二例においても、ストレート部9、10と曲線状の部位によって構成された第一クラウニング部11との間には第二クラウニング部12が形成されており、第一例と同様に、従来と比較してエッジ応力を大幅に低減することができる。なお、第二例においては、第一クラウニング部11の周方向断面形状を溝底側で直線状、溝肩側で曲線状としたが、これとは逆に、溝底側で曲線状、溝肩側で直線状としたり、溝底側および溝肩側の両方で曲線状としたりするなど、第一クラウニング部11の形状を適宜変化することができる場合もある。また、途中で曲率が変化する曲線状とすることができる場合もある。また、内外輪軌道面5、6の一方側にのみクラウニングを形成することができる場合もある。
【0058】
なお、第一クラウニング部11が曲線状のときは、ストレート部9、10を第一クラウニング部11側に延長した延長線と、第一クラウニング部11の両端を結ぶ直線をストレート部9、10側に延長した延長線との交点と、両延長線がなす角の二等分線が第二クラウニング部12と交わる点との距離を上記の距離Lとする。
【0059】
この発明に係るクロスローラ軸受1のさらに他の実施形態(第三例)を図8に示す。第三例に係るクロスローラ軸受1も、第一例と基本的な構成は共通するが、内外輪軌道面5、6の溝底側と溝肩側とでクラウニングの形状が異なっている。すなわち、第三例においては、V溝の深さ方向に沿う第一クラウニング部11の幅が、溝底側よりも溝肩側で広くなっており、溝底側もしくは外輪2の内周面側または内輪3の外周面側に向かうほどドロップ量は大きくなっている。
【0060】
この第三例においても、ストレート部9、10と第一クラウニング部11との間には第二クラウニング部12が形成されており、第一例と同様に、従来と比較してエッジ応力を大幅に低減することができる。なお、第三例においては、第一クラウニング部11の幅を溝底側よりも溝肩側で広くしたが、これとは逆に、溝肩側よりも溝底側で広くできる場合もある。また、内外輪軌道面5、6の一方側にのみクラウニングを形成することができる場合もある。
【0061】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1 クロスローラ軸受
2 外輪
3 内輪
4 ローラ
5 外輪軌道面
6 内輪軌道面
8 ローラ挿入穴
9、10 ストレート部
11 第一クラウニング部
12 第二クラウニング部
13 止め栓
R 曲率半径
L 距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10