(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】アイソレータ
(51)【国際特許分類】
H03M 3/02 20060101AFI20240708BHJP
H04L 1/00 20060101ALI20240708BHJP
H04L 25/02 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
H03M3/02
H04L1/00 A
H04L25/02 303B
(21)【出願番号】P 2021050719
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】大高 章二
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-509667(JP,A)
【文献】特開2003-060721(JP,A)
【文献】特表2020-534723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 3/02
H04L 25/02
H04L 1/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ入力信号を1ビットのデジタル信号に変換し、通常データとして伝送するΔΣ型アナログデジタルコンバータと、
前記ΔΣ型アナログデジタルコンバータからの前記通常データを
2つの出力間のレベル差があるデジタル差動信号に変換して伝送することと、
2つの出力間のレベル差がなく前記デジタル差動信号としてあり得ない特殊信号を伝送することと、を交互に行う時間方向多重化を行う時間方向多重化回路と、
前記時間方向多重化回路から伝送される前記デジタル差動信号および前記特殊信号を、絶縁層を介して伝送する絶縁伝送回路と、
を備える、アイソレータ。
【請求項2】
mを2以上の整数とすると、前記特殊信号はm種類あり、
前記時間方向多重化回路は、前記通常データをデジタル差動信号に変換して1動作クロックで伝送することと、m種類の前記特殊信号をm動作クロックで伝送することと、を交互に行う、
請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項3】
前記アナログ入力信号の振幅が過大入力閾値を超えているか否かを判定して、判定結果を示す判定信号を生成する異常検出回路をさらに備え、
前記時間方向多重化回路は、
前記判定信号を受信し、
前記判定信号が前記過大入力閾値を超えていないことを示す場合には、前記ΔΣ型アナログデジタルコンバータからの前記通常データをデジタル差動信号に変換して前記絶縁伝送回路へ伝送し、
前記判定信号が前記過大入力閾値を超えていることを示す場合には、前記時間方向多重化を行った前記デジタル差動信号および前記特殊信号を前記絶縁伝送回路へ伝送する、
請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項4】
前記時間方向多重化回路は、
前記ΔΣ型アナログデジタルコンバータからの前記通常データにローパスフィルタ処理を行うローパスフィルタ回路と、
前記ローパスフィルタ処理が行われた複数ビットの前記通常データを、間引き回路により間引くことと、量子化器により1ビットに量子化することと、を任意の順序で行う、前記間引き回路および前記量子化器と、
を備える、請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項5】
前記時間方向多重化回路は、
前記ΔΣ型アナログデジタルコンバータからの前記通常データにローパスフィルタ処理を行うローパスフィルタ回路と、
前記ローパスフィルタ処理が行われた複数ビットの前記通常データを間引く間引き回路と、
前記間引き回路により間引かれた複数ビットの前記通常データを1ビットに量子化し、量子化する際の量子化誤差を次の複数ビットの通常データに加算して量子化ノイズを高周波側に偏在させるノイズシェーピング処理を行うノイズシェーピング回路と、
を備える、請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項6】
前記ノイズシェーピング回路は、
前記間引き回路により間引かれた複数ビットの前記通常データが入力される加算器と、
前記加算器の出力を量子化する量子化器と、
前記加算器の出力から、前記量子化器により量子化された出力を減算する減算器と、
前記減算器の出力を遅延する遅延素子と、
を備え、前記遅延素子の出力は前記加算器に入力されて、前記加算器により、前記複数ビットの前記通常データと加算される、
請求項5に記載のアイソレータ。
【請求項7】
前記時間方向多重化回路は、
前記判定信号が入力され、前記判定信号が前記過大入力閾値を超えていることを示す場合には、動作クロックの周波数を1/2倍して出力する2分周器と、
前記ΔΣ型アナログデジタルコンバータからの前記通常データが入力される第1のANDゲートと、
前記第1のANDゲートと並列に接続され、前記ΔΣ型アナログデジタルコンバータからの前記通常データが入力される第1のXORゲートと、
前記第1のANDゲートの出力が入力される第2のXORゲートと、
前記第2のXORゲートの出力と、前記2分周器の出力と、前記判定信号と、が入力される3入力ANDゲートと、
前記第1のXORゲートの出力と、前記判定信号と、が入力される第2のANDゲートと、
前記3入力ANDゲートの出力と、前記動作クロックと、が入力される第1のラッチと、
前記第2のANDゲートの出力と、前記動作クロックと、が入力される第2のラッチと、
を備え、
前記第1のラッチの出力は、前記第2のXORゲートに入力され、
前記第2のラッチの出力は、前記第1のANDゲートおよび前記第1のXORゲートに入力される、
請求項3に記載のアイソレータ。
【請求項8】
前記時間方向多重化回路は、
前記ΔΣ型アナログデジタルコンバータからの前記通常データと、前記第2のXORゲートの出力と、前記判定信号と、が接続される第1のセレクタをさらに備え、
前記第1のセレクタは、
前記判定信号が前記過大入力閾値を超えていないことを示す場合には、前記ΔΣ型アナログデジタルコンバータからの前記通常データを選択して出力し、
前記判定信号が前記過大入力閾値を超えていることを示す場合には、前記第2のXORゲートの出力を選択して出力する、
請求項7に記載のアイソレータ。
【請求項9】
前記時間方向多重化回路は、
前記第1のセレクタからの出力を前記デジタル差動信号に変換する差動出力アンプと、
前記差動出力アンプからの前記デジタル差動信号と、前記特殊信号と、前記2分周器の出力と、が接続される第2のセレクタと、
をさらに備え、
前記2分周器は、前記判定信号が前記過大入力閾値を超えていないことを示す場合には、常にリセットされて0を出力し、
前記第2のセレクタは、
前記2分周器の出力が0である場合には、前記差動出力アンプからの前記デジタル差動信号を出力し、
前記2分周器の出力が前記動作クロックの周波数を1/2倍した出力である場合には、前記差動出力アンプからの前記デジタル差動信号と、前記特殊信号と、を交互に出力する、
請求項8に記載のアイソレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、アイソレータに関する。
【背景技術】
【0002】
対象機器としての例えばモータを制御装置により制御する際に、モータと制御装置は、アイソレータを介して接続される。アイソレータは、入力側と出力側との間に絶縁層が設けられており、モータで検出された電流/電圧等の信号が、制御装置側へ安全に伝送される。
【0003】
アイソレータは、絶縁層を挟んで、例えば、入力側の1次回路と、出力側の2次回路と、に区別される。1次回路は、対象機器から入力されたアナログ信号をデジタル化し、変調した後に絶縁層へ伝送する。2次回路は、絶縁層を介して伝送されたデータを復調して、制御装置側へ出力する。
【0004】
このとき、アイソレータの1次回路には、アナログ入力信号をデジタル化する構成として、例えばデルタシグマ・アナログデジタルコンバータ(ΔΣADC)が採用される。ΔΣADCは、アナログ信号をオーバーサンプリングし、ΔΣ変調して量子化することで、アナログ信号の振幅に応じたパルス列に変換して出力する回路である。ΔΣADCの出力信号は、ΔΣ変調により量子化ノイズが高周波側に偏在されるため、ローパスフィルタをかけることで、量子化ノイズを良好に除去できる。
【0005】
ところで、アイソレータにおいて、例えば過大入力などの異常状態があったときには、対象機器の動作をできる限り短時間で停止させたい。しかし、ΔΣADCの出力は1ビットのデータ列であり、複数ビットのデータを取得した後でないと、入力信号の振幅が大きいか否かを判定することができない。一方、異常状態であることを示すデータを伝送するための専用の伝送経路をアイソレータに設けると、回路面積や消費電流が増加してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、実施形態は、通常データ以外のデータを、専用の伝送経路を設けることなく、短い遅延時間で伝送できるアイソレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のアイソレータは、アナログ入力信号を1ビットのデジタル信号に変換し、通常データとして伝送するΔΣ型アナログデジタルコンバータと、前記ΔΣ型アナログデジタルコンバータからの前記通常データを2つの出力間のレベル差があるデジタル差動信号に変換して伝送することと、2つの出力間のレベル差がなく前記デジタル差動信号としてあり得ない特殊信号を伝送することと、を交互に行う時間方向多重化を行う時間方向多重化回路と、前記時間方向多重化回路から伝送される前記デジタル差動信号および前記特殊信号を、絶縁層を介して伝送する絶縁伝送回路と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の比較例に係わるアイソレータの構成を示す図である。
【
図2】第2の比較例に係わるアイソレータの構成を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係わるアイソレータの構成を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係わるアイソレータの、信号1次回路と絶縁1次回路における信号伝送を説明するためのタイミングチャートである。
【
図5】第1の実施形態に係わるアイソレータの、絶縁1次回路と絶縁2次回路における信号伝送を説明するためのタイミングチャートである。
【
図6】第1の実施形態に係わるアイソレータの、過大入力時における出力を説明するためのタイミングチャートである。
【
図7】第2の実施形態に係わり、時間方向コーディングによりΔΣADCの出力を間引いたときに、ΔΣADCの出力に含まれる高周波側に偏在した量子化ノイズが低周波側に折り返すのを、低減する技術を説明するための図である。
【
図8】第2の実施形態に係わる高速帰還処理回路(FFB)の構成例を示す図である。
【
図9】第3の実施形態に係わり、時間方向コーディングによりΔΣADC1bの出力を間引いたときに、ΔΣADC1bの出力に含まれる高周波側に偏在した量子化ノイズが低周波側に折り返すのを、さらに低減する技術を説明するための図である。
【
図10】第3の実施形態に係わる高速帰還処理回路(FFB)の第1の構成例を示す図である。
【
図11】第3の実施形態に係わる高速帰還処理回路(FFB)の第2の構成例を示す図である。
【
図12】第3の実施形態に係わる高速帰還処理回路(FFB)の第3の構成例を示す図である。
【
図13】第3の実施形態に係わる
図12の高速帰還処理回路(FFB)の、ロジックセルによる構成例を示す図である。
【
図14】第1~第3の実施形態に係わり、間引きなし(14A)、単純間引き(14B)、第2の実施形態の
図8の構成(14C)、第3の実施形態の
図9の構成(14D)のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照して実施形態を説明するに先立ち、比較例についてまず説明する。
(第1の比較例)
【0010】
図1は、第1の比較例に係わるアイソレータの構成を示す図である。
【0011】
アイソレータは、絶縁層を挟んで、入力側に位置する1次回路101と、出力側に位置する2次回路102と、を備える絶縁増幅器である。1次回路101は、入力側の信号1次回路101Sと、絶縁側の絶縁1次回路101Iとを備える。2次回路102は、絶縁側の絶縁2次回路102Iと、出力側の信号2次回路102Sとを備える。
【0012】
なお、
図1、および後述する
図2、
図3においては、1次回路が信号1次回路と絶縁1次回路との2チップで構成され、2次回路が信号2次回路と絶縁2次回路との2チップで構成される例を説明するが、これに限定されるものではない。例えば、1次回路の全体を1チップで構成し、2次回路の全体を1チップで構成しても構わない。
【0013】
アイソレータは、図示を省略するが、入力側に、電流/電圧などを検出する対象となるモータなどの機器(対象機器)が接続されるようになっている。また、アイソレータの出力側には、例えば外部ローパスフィルタ等を経由して、対象機器を制御するための制御装置が接続されるようになっている。
【0014】
対象機器からのアナログ入力信号は、アイソレータの信号1次回路101Sの入力端子INP,INNに入力される。通常、負側の入力端子INNは接地されるため、対象機器の状態を表す信号は正側の入力端子INPに入力される。入力端子INP,INNからのアナログ入力信号は、入力段プリアンプ(INPUT)101aにより所定の利得倍に増幅される。入力段プリアンプ101aにより増幅されたアナログ入力信号は、ΔΣ(デルタシグマ)型アナログデジタルコンバータ(ΔΣADC)101bに入力される。ΔΣADC101bは、アナログ入力信号にΔΣ変調を行って1ビットのデータ列にデジタル化し出力する。ΔΣADC101bから出力された1ビットデータは、信号1次回路101Sの出力バッファ(BUF1)101cから、絶縁1次回路101Iへ出力される。
【0015】
絶縁1次回路101Iは、信号1次回路101Sから出力された1ビットデータを、信号検出器(SDI1)101dから取り込んで、データ変調器(DATA Mod)101eにより変調する。データ変調器101eは、1ビットデータに、絶縁1次回路101Iから絶縁2次回路102Iへ伝送するためのデータ変調を行う。データ変調器101eにより1ビットデータを変調して得られた被変調データは、ドライバ(DRID)101fによりトランス1次コイル101gへ出力される。トランス1次コイル101gは、被変調データに応じた磁気信号を2次回路102側へ伝送する。
【0016】
なお、
図1、および後述する
図2、
図3等においては、絶縁層における無線による信号伝送を、コイルを用いた磁気絶縁方式により行う例を説明するが、これに限定されるものではない。絶縁層における無線による信号伝送を、例えば、コンデンサを用いた容量絶縁方式により行ってもよいし、発光素子およびフォトトランジスタを用いた光絶縁方式により行っても構わない。
【0017】
2次回路102は、絶縁2次回路102Iのトランス2次コイル102aにより、トランス1次コイル101gからの磁気信号を受信して、電気信号に変換する。電気信号に変換された被変調データは、増幅器(AMPD)102bにより増幅され、復調器(Comp/Dec)102cにより1ビットデータに復調される。復調された1ビットデータは、バッファ(BUFD)102dを介して信号2次回路102Sへ出力される。
【0018】
信号2次回路102Sは、絶縁2次回路102Iから出力された1ビットデータを、信号検出器(SDS2)102eにより取り込む。出力制御回路102fは、信号検出器(SDS2)102eにより取り込まれた1ビットデータが、通常の出力データ(通常データ)であるか、過大入力等の異常を検出した出力データであるかを判定する。出力制御回路102fは、さらに、判定結果に応じてタイミングを調整して、1ビットデータをローパスフィルタ回路(LPF)102gへ出力する。LPF102gは、復調器102cにより復調された1ビットのデータ列をアナログ化して所定のローパスフィルタをかけ、ローパスフィルタを通過したアナログ信号を出力端子OUTP,OUTNから出力する。
【0019】
アイソレータにおいて、例えば過大入力などの異常状態があったときには、対象機器の動作をできる限り短時間で停止させたい。しかし、ΔΣADC101bの出力は1ビットのデータ列であり、複数ビットのデータを取得した後でないと、入力信号の振幅が大きいか否かを判定することができない。
図1に示したアイソレータの出力端子OUTP,OUTNの後段には、通常、狭帯域フィルタを用いた信号検出器を配置し、高い信号対ノイズ比(SNR)を得るように構成される。この信号検出器は、判定を行うのに、例えば数10μs程度の遅延時間を要する。信号検出器として、狭帯域フィルタを用いた高SNR検出器と、狭帯域フィルタを用いない低SNR検出器との両方を用意すれば、低SNR検出器を用いることで判定までの遅延時間を例えば2μs程度に短縮できる。しかし、絶縁破壊電界強度、飽和電子速度、熱伝導度などが高いシリコンカーバイド(SiC)等を用いたデバイスは、過大入力によって数μsの時間で破壊されることもあるため、アイソレータの遅延時間は1μs以下であることが望まれる。
(第2の比較例)
【0020】
図2は、第2の比較例に係わるアイソレータの構成を示す図である。
図2の構成は、過大入力などの異常状態が発生した情報を、アイソレータ内において短い遅延時間で伝送する一例である。
【0021】
第2の比較例のアイソレータは、信号1次回路201Sおよび絶縁1次回路201Iを備える1次回路201と、絶縁2次回路202Iおよび信号2次回路202Sを備える2次回路202と、を備えている。1次回路201には、入力端子INP,INNからアナログ入力信号が入力される。2次回路202は、出力端子OUTP,OUTNからアナログ信号を出力する。
【0022】
信号1次回路201Sは、入力段プリアンプ(INPUT)および異常検出回路201a、ΔΣADC201b、出力バッファ201c、および出力バッファ201hを備えている。ΔΣADC201bおよび出力バッファ201cは、
図1のΔΣADC101bおよび出力バッファ201cとそれぞれ同様に構成されている。
【0023】
絶縁1次回路201Iは、信号検出器201d、データ変調器201e、ドライバ201f、トランス1次コイル201g、信号検出器201i、データ変調器201j、ドライバ201k、およびトランス1次コイル201mを備えている。信号検出器201d、データ変調器201e、ドライバ201f、およびトランス1次コイル201gは、
図1の信号検出器101d、データ変調器101e、ドライバ101f、およびトランス1次コイル101gとそれぞれ同様に構成されている。
【0024】
絶縁2次回路202Iは、トランス2次コイル202a、増幅器202b、復調器202c、バッファ202d、トランス2次コイル202h、増幅器202i、復調器202j、およびバッファ202kを備えている。トランス2次コイル202a、増幅器202b、復調器202c、およびバッファ202dは、
図1のトランス2次コイル102a、増幅器102b、復調器102c、およびバッファ102dとそれぞれ同様に構成されている。
【0025】
信号2次回路202Sは、信号検出器202e、出力制御回路202f、ローパスフィルタ回路202g、および信号検出器202mを備えている。信号検出器202eは、
図1の信号検出器102eと同様に構成されている。
【0026】
信号1次回路201Sの入力段プリアンプおよび異常検出回路201aは、入力段プリアンプとして動作するだけでなく、入力端子INP,INNからのアナログ入力信号が過大入力であるか否かを判定して、判定信号を生成し出力する。過大入力(例えば過大電圧)の判定は、例えば、アナログ入力信号の振幅(例えば電圧)を閾値と比較することにより行う。
【0027】
入力段プリアンプおよび異常検出回路201aから出力された判定信号は、出力バッファ201hを経由して、絶縁1次回路201Iへ出力される。従って判定信号は、ΔΣADC201bを経由しないで絶縁1次回路201Iへ伝送される。絶縁1次回路201Iは、信号1次回路201Sから出力された判定信号を、信号検出器201iから取り込んで、データ変調器201jにより変調する。データ変調器201jは、判定信号に、絶縁1次回路201Iから絶縁2次回路202Iへ伝送するためのデータ変調を行う。データ変調器201jにより変調された判定信号(被変調判定信号)は、ドライバ201kによりトランス1次コイル201mへ出力される。トランス1次コイル201mは、被変調判定信号に応じた磁気信号を2次回路202側へ伝送する。
【0028】
2次回路202は、絶縁2次回路202Iのトランス2次コイル202hにより、トランス1次コイル201mから磁気信号を受信して、電気信号に変換する。電気信号に変換された被変調判定信号は、増幅器202iにより増幅され、復調器202jにより判定信号に復調される。復調された判定信号は、バッファ202kを介して信号2次回路202Sへ出力される。
【0029】
信号2次回路202Sは、絶縁2次回路202Iから出力された判定信号を、信号検出器202mにより取り込む。出力制御回路202fは、信号検出器202mにより取り込まれた判定信号を入力して、判定信号が過大入力であることを示す信号である場合、過大入力であることを認識する。すると出力制御回路202fは、ローパスフィルタ回路202gを制御して、ローパスフィルタ回路202gから過大入力を示すアナログ信号を、出力端子OUTP,OUTNへ出力させる。または、2次回路202に出力端子OUTP,OUTNとは異なる専用の出力端子を設けて、出力制御回路202fが、専用の出力端子から過大入力を示すアナログ信号を出力しても構わない。
【0030】
こうして、
図2の構成では、ΔΣADC201bを経由して通常データを伝送する伝送経路とは別に、判定信号を信号1次回路201Sから信号2次回路202Sまで伝送する伝送経路を設けている。判定信号がΔΣADC201bを経由しないことで、判定信号を短い遅延時間で信号1次回路201Sから信号2次回路202Sへ伝送できる。しかし、
図2の構成のアイソレータは2系統の伝送経路が必要になるため、
図1の構成のアイソレータよりも回路面積および消費電流が大幅に増加する。
【0031】
そこで、回路面積および消費電流を大幅に増加することなく、通常データとは異なるデータを通常データよりも短い遅延時間で伝送するアイソレータについて、以下の実施形態で説明する。
(第1の実施形態)
【0032】
図3は、第1の実施形態に係わるアイソレータの構成を示す図である。
図3を
図1および
図2と比較すれば分かるように、本実施形態のアイソレータは、
図2のアイソレータのような2系統の伝送経路は設けられておらず、
図1のアイソレータと同様に1系統の伝送経路が基本となっている。このため、
図3のアイソレータは、多くの部分が
図1のアイソレータと同様に構成されている。
【0033】
すなわち、本実施形態のアイソレータは、絶縁層を挟んで、入力側に位置する1次回路1と、出力側に位置する2次回路2と、を備える絶縁増幅器である。1次回路1は、入力側の信号1次回路1Sと、絶縁側の絶縁1次回路1Iとを備える。2次回路2は、絶縁側の絶縁2次回路2Iと、出力側の信号2次回路2Sとを備える。絶縁1次回路1Iおよび絶縁2次回路2Iは、絶縁伝送回路を構成し、信号1次回路1Sからの差動信号を絶縁層を介して伝送する。上述したように、本実施形態では、信号1次回路1S、絶縁1次回路1I、絶縁2次回路2I、および信号2次回路2Sがそれぞれ1チップで構成されることを想定しているが、これに限定されるものではない。
【0034】
図3に示すアイソレータの構成を、
図4~
図6のタイミングチャートを参照しながら説明する。
図4は、本実施形態に係わるアイソレータの、信号1次回路1Sと絶縁1次回路1Iにおける信号伝送を説明するためのタイミングチャートである。
図5は、本実施形態に係わるアイソレータの、絶縁1次回路1Iと絶縁2次回路2Iにおける信号伝送を説明するためのタイミングチャートである。
図6は、本実施形態に係わるアイソレータの、過大入力時における出力を説明するためのタイミングチャートである。
【0035】
モータなどの対象機器から出力されたアナログ信号は、アイソレータの信号1次回路1Sの入力端子INP,INNに入力される。入力端子INP,INNからのアナログ入力信号は、入力段プリアンプ(INPUT)および異常検出回路1aにより、過大入力であるか否かが判定される。上述したように、負側の入力端子INNは、通常、接地されるため、入力段プリアンプおよび異常検出回路1aは、正側の入力端子INPから入力された信号の振幅が、過大入力閾値Th以下の場合には通常動作であると判定し、過大入力閾値Thよりも大きい場合には過大入力であると判定する(
図6のINP参照)。入力段プリアンプおよび異常検出回路1aは、通常動作であると判定すると判定信号S
FFBとしてL(ローレベル)(デジタル値「0」)を生成して出力し、過大入力であると判定すると判定信号S
FFBとしてH(ハイレベル)(デジタル値「1」)を生成して出力する(
図4~
図6のS_FFB参照)。
【0036】
また、入力段プリアンプおよび異常検出回路1aは、入力端子INP,INNからのアナログ入力信号を、所定の利得倍に増幅する。入力段プリアンプおよび異常検出回路1aにより増幅されたアナログ入力信号は、ΔΣ(デルタシグマ)型アナログデジタルコンバータ(ΔΣADC)1bに入力される。ΔΣADC1bは、アナログ入力信号にΔΣ変調を行って1ビットのデータ列にデジタル化し出力する。ΔΣADC1bの2つの出力A,Bは、デジタル差動信号であり、一方がHであれば他方がL(H/L)、2つの出力の一方がLであれば他方がH(L/H)となる(
図4~
図6のΔΣOUT参照)。ΔΣADC1bから出力された1ビット信号は、高速帰還処理回路(FFB)1cに入力される。
【0037】
FFB1cは、入力段プリアンプおよび異常検出回路1aからの判定信号S
FFBを入力する。FFB1cは、判定信号S
FFBがL(通常動作を示す)のとき、ΔΣADC1bの出力をそのまま出力バッファ(BUF
1)1dへ出力する。このため、出力バッファ1dの2つの出力C,Dは、H/LまたはL/Hとなる(
図4~
図6のS_FFBがLである部分に対応するBUF1OUTを参照)。
【0038】
一方、FFB1cは、判定信号S
FFBがH(過大入力を示す)のとき、ΔΣADC1bの通常データと、ΔΣADC1bの出力とは異なる(ΔΣADC1bの出力ではあり得ない)特殊データ(特殊信号)と、をクロック毎に交互に出力する。ここで、ΔΣADC1bの通常データは、2つの出力がH/LまたはL/Hとなる。そこで、FFB1cは、H/LでもL/Hでもない特殊データとして、L/L、またはH/Hを出力する(以下では、特殊データがL/Lである例を説明するが、L/Lに代えてH/Hであっても構わない)。その結果、出力バッファ1dの2つの出力C,Dは、クロック毎に、通常データと特殊データとの交互になる(
図4~
図6のS_FFBがHである部分に対応するBUF1OUTを参照)。
【0039】
判定信号SFFBは、ΔΣADC1bを経由することなく、入力段プリアンプおよび異常検出回路1aからFFB1cへ直接入力され、FFB1cは判定信号SFFBがHのときに、1クロックおきの通常データの間に特殊データを入れて伝送する。従って、過大入力であると判定されたときの特殊データの伝送は、ΔΣADC1bをバイパスして行われる。
【0040】
なお、通常データ以外のデータは、アイソレータにおける異常検知に用いられる。例えば、信号1次回路1Sの電源がオフ状態になっている場合には、出力バッファ1dの2つの出力C,Dは連続的なL/Lとなり、信号2次回路2Sの信号検出器(SDS2)2eの2つの入力I,JはL/Lとなる。同様に、絶縁1次回路1I、または絶縁2次回路2Iが電源オフ状態になっている場合にも、信号2次回路2Sの信号検出器2eの2つの入力I,Jは、L/Lとなる。
【0041】
従って、信号2次回路2Sが入力I,Jとして最初のL/Lを受信したとき、出力制御回路2fは、信号1次回路1S、絶縁1次回路1I、絶縁2次回路2Iの内の1つ以上の電源がオフ状態になっていることを示しているか、または、信号1次回路1Sが過大入力を検出したことを示しているかを判定できない。
【0042】
しかし、信号2次回路2Sは、次のクロックで入力I,Jとして受信したのがH/LまたはL/Hである場合には、信号1次回路1Sが過大入力を検出したと判定できる。一方、信号2次回路2Sは、次のクロックで入力I,Jとして受信したのが引き続きL/Lである場合には、信号1次回路1S、絶縁1次回路1I、絶縁2次回路2Iの内の1つ以上の電源がオフ状態になっていると判定できる。
【0043】
なお、特殊データとしてH/Hを用いれば、信号1次回路1S、絶縁1次回路1I、絶縁2次回路2Iの内の1つ以上の電源がオフ状態(L/L)になっているのではなく、信号1次回路1Sが過大入力を検出したことを、最初のH/Hを受信した時点で判定できる。
【0044】
こうして、FFB1cは、過大入力を、信号1次回路1S、絶縁1次回路1I、絶縁2次回路2Iの電源オフ状態と区別できるように、時間方向における1クロックおきにL/L信号(またはH/H信号)を生成している。このような、時分割で(つまり時間方向に)複数の信号を多重化して伝送する技術(時間方向の信号多重化技術)を、時間方向コーディング(coding)と呼ぶことにする。FFB1cは、時間方向多重化を行う時間方向多重化回路である。
【0045】
信号1次回路1Sと絶縁1次回路1Iとのチップ間の信号伝送、および絶縁2次回路2Iと信号2次回路2Sとのチップ間の信号伝送は、有線により行われる。また、絶縁1次回路1Iと絶縁2次回路2Iとのチップ間の信号伝送は、トランスを介して無線により行われる。チップ間において、これら有線、無線の何れを用いた信号伝送の場合も、通常データを伝送する際に、相補な2つの入力および2つの出力による差動信号(いわゆる、差動信号2ピン)を用いることが、時間方向コーディングを用いるための条件である。つまり、通常データとしてH/LまたはL/Hの差動信号を用いることで、特殊データとしてのL/LまたはH/Hを時間方向コーディングにより伝送することが可能となるからである。
【0046】
なお、消費電流の観点からチップ内では必ずしも差動信号で伝送する必要はないが、チップ内で差動信号を伝送しない場合には、チップ間インタフェース部においてピン数が増加し、かつインタフェース部の消費電流が大きくなるため、チップ内でも同一の伝送経路で差動信号を伝送することが好ましい。
【0047】
時間方向コーディングは、一般に、2種類以上のデータDi(iはデータの種類を示し、i=1,2,…)を時分割で伝送できる。例えばi=2の場合、kを動作クロックの番号を示すとすると、D1(k),D2(k+1),D1(k+2),D2(k+3)…のように、第1の種類のデータD1と第2の種類のデータD2とを動作クロック毎に交互に伝送する。このとき、時分割により送付できなくなったデータ、ここでは、D2(k),D1(k+1),D2(k+2),D1(k+3)…は、例えばそのまま廃棄する。
【0048】
第1の種類のデータD1を通常データとして、例えば2種類のデータが伝送される場合、周期的に繰り返される第2の種類のデータD2(k+1),D2(k+3),…は特殊データである。特殊データが所定周期毎に検出されることで、2種類のデータが伝送されていることを判別できる。
【0049】
3種類以上のデータが伝送される場合も同様である。mを2以上の整数とし、前記特殊データがm種類あるとする。このとき、時間方向多重化回路は、通常データをデジタル差動信号に変換して1動作クロックで伝送することと、m種類の特殊データをm動作クロックで伝送することと、を交互に行う。m種類の特殊データは、定められた順序で伝送される。この場合、i=(m+1)となるので、D1(k),D2(k+1),D3(k+2),…,D(m+1)(k+m),D1(k+m+1),D2(k+m+2)…のような順序でのデータ伝送が行われる。
【0050】
こうして本実施形態では、過大入力でない場合には通常データD1を伝送し、過大入力などの2種類以上のデータを伝送する必要が生じた場合に、時間方向コーディングにより2種類以上のデータDi(i=1,2,…)を伝送している。
【0051】
出力バッファ1dは、FFB1cから入力した信号を、絶縁1次回路1Iへ出力する。
【0052】
絶縁1次回路1Iは、信号1次回路1Sから出力された信号を、信号検出器(SD
I1)1eから取り込む。ここで、絶縁1次回路1Iの2つの入力E,Fは、信号1次回路1Sの2つの出力C,Dよりも、チップ間伝送に要する時間だけ遅延することになるが、
図5では、遅延がないものとして記載した。
【0053】
データ変調器(DATA Mod)1fは、信号検出器1eから取り込んだ信号に、絶縁1次回路1Iから絶縁2次回路2Iへ伝送するためのデータ変調を行う。信号検出器1eから取り込んだ信号をデータ変調器1fにより変調して得られた被変調データは、ドライバ(DRID)1gによりトランス1次コイル1hへ出力される。トランス1次コイル1hは、被変調データに応じた磁気信号を2次回路2側へ伝送する。
【0054】
なお、絶縁1次回路1Iから絶縁2次回路2Iへトランスを介して信号伝送する場合、信号検出器1eがL/Lを受信したときは、絶縁1次回路1Iが絶縁2次回路2Iへデータを送信しないことにすれば、絶縁2次回路2Iは実質的にL/L信号を受信することになる。従って、所定時間内に絶縁1次回路1Iからの信号を検出できなかった場合に、L/L信号を受信したと解釈する受信器を、実際の絶縁2次回路2Iに実装してもよい。
【0055】
2次回路2は、絶縁2次回路2Iのトランス2次コイル2aにより、トランス1次コイル1hからの磁気信号を受信して、電気信号に変換する。電気信号に変換された被変調データは、増幅器(AMPD)2bにより増幅され、復調器(Comp/Dec)2cにより元のデータに復調される。復調されたデータは、バッファ(BUFD)2dを介して信号2次回路2Sへ出力される。
【0056】
絶縁2次回路2Iの2つの出力G,H(
図5および
図6のBUFDOUT参照)は、絶縁1次回路1Iの2つの入力E,F(
図5および
図6のSD1IN参照)を2クロック分遅延したものとなる。つまり、絶縁2次回路2Iは、時間方向コーディングを維持したまま、信号を信号2次回路2Sへ伝達する。
【0057】
信号2次回路2Sは、絶縁2次回路2Iから出力されたデータを、信号検出器(SDS2)2eにより取り込む。出力制御回路2fは、信号検出器2eから取り込まれたデータを、データ伝送経路を経由してローパスフィルタ回路(LPF)2gへ出力する。また、このデータ伝送経路とは異なる信号伝送経路(通知ライン)で、出力制御回路2fとLPF2gとが接続されている。
【0058】
出力制御回路2fは、信号検出器2eから取り込まれたデータが、H/LまたはL/Hとなる通常データと、L/Lとなる特殊データと、の何れであるかを判定する。通常データであると判定した場合、出力制御回路2fは、通知ラインを経由して、通常データであることを示す判定結果をLPF2gへ通知する。
【0059】
一方、出力制御回路2fは、信号検出器2eから取り込まれたデータが特殊データ(L/L)であると判定した場合には、さらに、次のクロックで取り込まれたデータの判定を行う。すなわち、出力制御回路2fは、次のクロックで取り込まれたデータが、H/LまたはL/Hである場合には過大入力であると判定し、L/Lである場合にはそれ以外の異常状態(信号1次回路1S、絶縁1次回路1I、絶縁2次回路2Iの内の1つ以上の電源がオフ状態)であると判定する。こうして、特殊データを検出した場合の出力制御回路2fによる過大入力の判定は、連続する2クロックのデータを用いる。
【0060】
出力制御回路2fは、過大入力であると判定した場合、通知ラインを経由して、過大入力であることを示す判定結果をLPF2gへ送信する。
【0061】
LPF2gは、出力制御回路2fからデータ伝送経路を経由して受信したデータ(1ビットのデータ列)をアナログ化して所定のローパスフィルタをかける。LPF2gは、出力制御回路2fから通常データであることを示す判定結果を受けた場合、ローパスフィルタを通過したアナログ信号を、出力端子OUTPからプラス(+)の信号として出力し、出力端子OUTNからマイナス(-)の信号として出力する。出力端子OUTPから出力される信号と、出力端子OUTNから出力される信号とは、信号の正負が異なるだけで同じ同相電圧を出力する。
【0062】
LPF2gは、出力制御回路2fから過大入力であることを示す判定結果を受けた場合、出力端子OUTP,OUTNから出力する信号の同相電圧を、同時に、例えば適宜の+電圧だけシフトさせる(
図6のOUTPおよびOUTN参照)。
【0063】
図6に示すタイミングチャートでは、LPF2gが、L/Lを受信した後に、H/LまたはL/Hを受信したときに、受信したH/LまたはL/Hの立ち上がりを検出した時点で同相信号をシフトする例を示した。ただし、LPF2gの設計によっては、H/LまたはL/Hを受信した後、設計した回路の信号処理遅延により同相信号のシフトがさらに1クロック遅延する場合もある。なお、LPF2gによる同相電圧のシフトは、一般には所定の時定数による電圧の立ち上がりとして行われるが、
図6では、時定数を考慮しない急峻な立ち上りの例を図示した。また、
図6における出力端子OUTPの信号に対して示した閾値Th'は、入力端子INPの信号の過大入力閾値Thに対応する値である。
【0064】
第1の実施形態によれば、時間方向コーディングを行うことで、アイソレータ内に特殊データ専用の伝送経路を設けることなく、通常データ以外の特殊データを伝送することが可能となる。これにより、アイソレータの回路面積および消費電流の大幅な増加を抑制できる。
【0065】
このとき、入力段プリアンプおよび異常検出回路1aが過大入力を検出した場合には、ΔΣADC1bを経由することなく、判定信号SFFBをFFB1cへ伝送するようにしたために、過大入力であることを示すデータを、短い遅延時間で伝送できる。
【0066】
また、過大入力を検出した場合には、LPF2gから出力する同相信号をシフトするようにしたために、過大入力であることを示す信号を出力端子OUTP,OUTNから出力することができ、別途に専用の出力端子を設ける必要がなくなる。
(第2の実施形態)
【0067】
図7は、第2の実施形態に係わり、時間方向コーディングによりΔΣADC1bの出力を間引いたときに、ΔΣADC1bの出力に含まれる高周波側に偏在した量子化ノイズが低周波側に折り返すのを、低減する技術を説明するための図である。第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の部分に同一の符号を付して説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0068】
ΔΣADC1bは、アナログ信号をオーバーサンプリングし、ΔΣ変調して量子化することで、アナログ信号の振幅に応じたパルス列に変換して出力する回路である。ΔΣ変調により量子化ノイズが高周波側に偏在されるため、ローパスフィルタをかけることで、量子化ノイズを良好に除去できる。
【0069】
しかし、第1の実施形態では、過大入力を検出した場合にFFB1cが1クロックおきに特殊データを入れるため、ΔΣADC1bから出力される通常データは1クロックおきに間引かれたデータとなる。すると、通常データの周波数が半分となって、高周波側の量子化ノイズが低周波側に折り返し、直流(DC)に近い低周波側の信号帯域に重なってしまう。間引かれた通常データは、絶縁層を経由して伝送された後に、例えば、0挿入とフィルタリング処理(適宜、引き伸ばし処理という)により元の周波数で2クロック続けて同じデータを出力することで、データの引き伸ばしが行われる。しかし、データ引き伸ばし後にローパスフィルタをかけたとしても、低周波側の信号帯域に折り返された量子化ノイズを除去することはできず、信号対ノイズ比(SNR)が大幅に低下してしまう。ΔΣADC1bへの入力信号の変化が緩やかであって、SNRが大幅に低下するのは同様である(後述する
図14も参照)。
【0070】
ただし、SNRが大幅に低下するのはΔΣADC1bへの入力信号がADCレンジ内にある場合、つまり、ΔΣADC1bから出力されるデータにH/LとL/Hの両方が含まれる場合である。これに対し、ΔΣADC1bへの入力信号がADCレンジ外となる場合には、ΔΣADC1bから出力されるデータは全てH/Lが連続するか、または全てL/Hが連続する。このために、ΔΣADC1bから出力されるデータには量子化誤差が発生せず、1クロックおきに間引いたとしても量子化ノイズが折り返しで重畳されることはない。さらに、絶縁層を経由してデータを伝送した後に引き伸ばしを行うと、ΔΣADC1bから出力されたデータがそのまま復元されるために、結局、間引きの影響を受けることはない。従って、ΔΣADC1bへの入力信号がADCレンジ内にあっても、入力段プリアンプおよび異常検出回路1aが過大入力を検出するように設定される場合に、この第2の実施形態(および後述する第3の実施形態)による量子化ノイズを低減する技術が有効となる。
【0071】
以下では、ΔΣADC1bの出力信号をΔΣ(k)と記載し、ΔΣ(k)を1つ置きに間引いた信号をΔΣ
dcm(2j+1)と記載する。ここで、kはクロックの番号を示し、k=(2j+1)(ここで、jは整数)である。そして、ΔΣ(k)は、ADCレンジ内にある入力信号を変換した信号であって、
図7中のグラフG1に示すように、信号帯域の高周波側に、ハッチングを付して示す量子化ノイズが偏在しているものとする。なお、各グラフG1,G3~G6,G8においては、横軸は周波数、縦軸は電力の相対値を表し、信号とノイズの値を加算せず、信号とノイズを並べて(ノイズが手前側に見えるように)記載している。また、グラフG2,G7においては、横軸は周波数、縦軸は通過特性(相対的な通過率)を表している。
【0072】
図7を参照して、高周波側に偏在した量子化ノイズが間引きにより折り返すのを低減する技術について説明する。
【0073】
ΔΣADC1bは、アナログの入力信号を、20Mbps(信号成分は10MHz以下)でオーバーサンプリングし、ΔΣ変調して量子化し、例えば10MHzの周波数で1ビットのパルス列の信号ΔΣ(k)を出力する。
【0074】
本実施形態のFFB1cは、ノイズ抑圧フィルタとしてのローパスフィルタ回路(LPF)11と、間引き回路12と、量子化器13と、を備えている。
【0075】
ΔΣADC1bからの信号ΔΣ(k)は、FFB1cのLPF11に入力される。LPF11の帯域通過特性は、グラフG2に示すような、低周波側から高周波側へ向けて、通過する信号が減衰する特性である。こうした特性を実現するLPF11としては、例えば、移動平均等の簡易な処理を行う回路構成で構わない。ただし、移動平均は、LPF11の回路内で加算、減算等を行うため、nを1より大きい整数とすると、LPF11から出力される信号のビット数はnビットとなる。
【0076】
LPF11から出力される信号のスペクトルは、グラフG1において高周波側に偏在していた量子化ノイズが、グラフG3に示すように低減されたものとなる。
【0077】
間引き回路12は、LPF11から出力される信号を、1ビットおきに出力し、出力しなかったビットは捨てることにより、1/2に間引く処理を行う。この間引き処理により、信号ΔΣdcm(2j+1)の高周波域に残存する量子化ノイズは、グラフG4に示すように折り返されるが、LPF11を通過した後の量子化ノイズの残存量が小さいため、LPF11がない場合と比べると、SNRが大幅に低下することはない。
【0078】
量子化器13は、間引き回路12から出力される例えば5MHzの周波数のnビット信号を量子化して、10Mbps(信号成分は5MHz以下)の1ビットのデータ列の信号に変換する。量子化器13により変換された1ビット信号を、ΔΣRQdcm(2j+1)と記載する。ここで、量子化器13により再度1ビット信号に戻すのは、チップ間伝送をnビットのまま行うと、nビット分のインタフェースが必要になり、かつ消費電流が増加するためである。
【0079】
量子化器13から出力される信号のスペクトルは、グラフG5に示すように、グラフG4に示した間引き後のスペクトルに対して、周波数上フラットな量子化ノイズが加算されたスペクトルになる。従って、量子化器13から出力される信号のSNRは、間引き回路12から出力される信号のSNRよりも低下する。しかし、LPF11を通過させることなくΔΣADC1bからの出力信号をそのまま間引き回路12で間引きする場合と比べると、SNRを高く維持できる。
【0080】
なお、
図7では前段に間引き回路12を配置し後段に量子化器13を配置したが、順序を逆にして、前段に量子化器13を配置し後段に間引き回路12を配置しても構わない。
【0081】
第1の実施形態で述べたように、チップ間のデータ伝送は、過大入力であることを示す特殊データのL/L(例えば5MHz)と、量子化器13から出力される1ビットのデータ列の通常データ(例えば5MHz)とを、例えば10MHzの1クロック毎に交互に配列した信号で行われる。
【0082】
チップ間伝送された5MHzの信号ΔΣRQdcm(2j+1)は、例えば出力制御回路2f内に設けられた引き伸ばし回路21により、上述した0挿入とフィルタリング処理による引き伸ばし処理が行われる。ここでの引き伸ばし処理は、具体的に、10MHzのクロックに同期して、2クロック毎に同一のビット値の信号、例えば「0」を出力する処理である。引き伸ばし処理後の信号は、サンプリング周波数がΔΣADC1bからの出力信号の周波数と同じ20MHzに戻っており、ΔΣRQ(j)と記載する。この引き伸ばし処理により、グラフG6に示すように、高周波側の量子化ノイズが引き伸ばされて、ピーク値が低くなる。
【0083】
引き伸ばし回路21から出力された1ビット信号は、LPF2gにより20MHzの動作クロックでローパスフィルタ処理が行われる。LPF2gの帯域通過特性は、例えばグラフG7に示すような、直流(DC)に近い低周波側の信号帯域の信号だけを通過させ、信号帯域よりも高周波側の帯域の信号をほぼカットする特性である。
【0084】
このような特性のLPF2gによりローパスフィルタ処理された多ビットの信号は、グラフG8に示すように、信号帯域中の量子化ノイズは残存するが、それ以外の量子化ノイズはほぼ抑制される。この処理結果は、LPF11を通過させることなくΔΣADC1bからの出力信号をそのまま間引き回路12で間引きする場合と比べると、SNRが高い。
【0085】
図8は、本実施形態に係わる高速帰還処理回路(FFB)1cの構成例を示す図である。
【0086】
LPF11は、加算器11aと、遅延素子11bと、1/2倍素子11cとを備えている。遅延素子11bは、ΔΣADC1bから加算器11aへの伝送経路から分岐した分岐経路に配置されている。遅延素子11bの出力は、加算器11aに入力される。1/2倍素子11cは、加算器11aの後段に、加算器11aと直列に配列されている。
【0087】
ΔΣADC1bから出力された1ビットの信号ΔΣ(k)は、加算器11aと、遅延素子11bとに入力される。遅延素子11bは、入力された信号を1クロック遅延して出力する。従って、加算器11aは、現クロックの信号ΔΣ(k)と、現クロックよりも1クロック前の信号ΔΣ(k-1)とを加算した2ビットの信号{ΔΣ(k)+ΔΣ(k-1)}を出力する。1/2倍素子11cは、加算器11aから出力された加算信号{ΔΣ(k)+ΔΣ(k-1)}を、ビットシフトにより1/2倍する。すなわち、
図8に示すLPF11は、移動平均によるローパスフィルタ処理を行う構成例となっている。
【0088】
LPF11の1/2倍素子11cから出力された20Mbpsの2ビット信号は、間引き回路12に入力されて、10MHzのクロックに同期してオン/オフするスイッチ12aを経由することで、1つおきに間引きされ、10Mbpsの2ビット信号になる。
【0089】
間引き回路12から出力される2ビットのデータ列は、1ビット量子化器として構成された量子化器13に入力され、1ビットの信号ΔΣRQdcm(2j+1)に量子化される。FFB1cが、その後に、信号ΔΣRQdcm(2j+1)をL/Lと交互に伝送することは、上述した通りである。
【0090】
第2の実施形態によれば、上述した第1の実施形態とほぼ同様の効果を奏するとともに、間引き回路12の前にLPF11を設けることで、間引き後の量子化ノイズを低減することができ、伝送されるデータの品質低下を抑制できる。
(第3の実施形態)
【0091】
図9は、第3の実施形態に係わり、時間方向コーディングによりΔΣADC1bの出力を間引いたときに、ΔΣADC1bの出力に含まれる高周波側に偏在した量子化ノイズが低周波側に折り返すのを、さらに低減する技術を説明するための図である。第3の実施形態では、第1,2の実施形態と同様の部分に同一の符号を付して説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0092】
図9に示す構成は、
図7に示した構成におけるFFB1cの量子化器13を、ノイズシェーピング回路14に替えたものである。
【0093】
ノイズシェーピング回路14は、後で
図10以降を参照して具体的に説明するが、ΔΣ変調と同様に、入力されたnビット信号を1ビット信号に量子化したときの余り(量子化誤差)を、次に入力される信号に加算する処理を行うことで、量子化ノイズを高周波側に偏在させる回路である。
【0094】
図7の量子化器13から出力される信号のスペクトルは、グラフG5に示したように、周波数上フラットな量子化ノイズが加算されたスペクトルになっている。これに対して、
図9のノイズシェーピング回路14から出力される信号のスペクトルは、グラフG5'に示すように、量子化ノイズの高周波側への偏在率がより高くなる。これにより、グラフG5'に示す低周波側の信号帯域における量子化ノイズは、
図7のグラフG5よりも低減される。
【0095】
その結果、引き伸ばし回路21から出力される1ビット信号は、グラフG6'に示すように、低周波側の信号帯域における量子化ノイズが、
図7のグラフG6よりも低減される。従って、LPF2gによりローパスフィルタ処理された信号は、グラフG8'に示すように、量子化ノイズが、
図7のグラフG8よりもさらに低減され、SNRが高くなる。
【0096】
図10は、本実施形態に係わる高速帰還処理回路(FFB)1cの第1の構成例を示す図である。
【0097】
FFB1c内において、間引き回路12の後段に配置されたノイズシェーピング回路14は、加算器14aと、減算器14bと、量子化器14cと、遅延素子14dと、を備えている。ノイズシェーピング回路14への入力は、加算器14aに接続される。加算器14aの出力は、減算器14bと量子化器14cとへ接続される。量子化器14cは、信号をFFB1cの外部へ出力すると共に、減算器14bへ出力する。減算器14bは、加算器14aの出力から量子化器14cの出力を減算して、遅延素子14dへ出力する。遅延素子14dは、加算器14aに接続される。
【0098】
このような回路構成により、間引き回路12から入力された2ビット信号は、加算器14aを介して、量子化器14cと減算器14bに入力される。量子化器14cは、2ビット信号をビットシフトして、1ビットの信号に量子化する。減算器14bは、量子化器14cにより量子化される前の信号から、量子化器14cにより量子化された後の信号を減算する。これにより、減算器14bは、量子化器14cによる量子化の余り(量子化誤差)を、遅延素子14dへ出力する。遅延素子14dは、減算器14bから入力された量子化誤差を、1クロック遅延させて加算器14aへ出力する。加算器は14aは、遅延素子14dから入力された1クロック前の量子化誤差を、新たに間引き回路12から入力された信号に加算して出力する。
【0099】
こうして、量子化器14cで発生する量子化誤差が、減算器14bにより算出されてフィードバックされることで、ΔΣ変調の原理と同様にしてシェーピング処理がなされ、量子化ノイズが、高周波側に偏在され、低周波側では小さくなる。
【0100】
なお、
図10に示す構成は1次ノイズシェーピングを行う例であるが、高次ノイズシェーピングを行うように構成して、量子化ノイズを高周波側により大きく偏在させ、信号帯域の量子化ノイズをさらに減らすようにしても構わない。
【0101】
図11は、本実施形態に係わる高速帰還処理回路(FFB)1cの第2の構成例を示す図である。
図11は、
図10の回路構成を原型として、回路トポロジを変形した回路である。
【0102】
図11のFFB1cは、LPF間引き回路15と、ノイズシェーピング回路14と、を備えている。LPF間引き回路15は、
図10において縦列に接続されているLPF11と間引き回路12を1つにまとめた回路である。
図11において、
図10と同じ回路要素には同じ符号を付す。
【0103】
LPF間引き回路15は、加算器11aと、遅延素子11bと、1/2倍素子11cと、スイッチ12aと、減算器15aと、を備えている。ΔΣADC1bからLPF間引き回路15への入力は、加算器11aに接続される。加算器11aの出力は、端子aを経由して、スイッチ12aと減算器15aとへ接続される。スイッチ12aは、クロック毎にオン/オフを切り替える。スイッチ12aの出力は、端子bを経由して、1/2倍素子11cと減算器15aとへ接続される。減算器15aは、端子aを経由した入力から端子bを経由した入力を減算する。減算器15aの出力は、端子cを経由して、遅延素子11bへ出力される。遅延素子11bは、入力を1クロック遅延して出力する。遅延素子11bの出力は、端子dを経由して、加算器11aに接続される。加算器11aは、ΔΣADC1bからの入力と端子dを経由した入力を加算する。1/2倍素子11cは、端子bを経由した入力を、ビットシフトにより1/2倍する。
【0104】
このような構成のLPF間引き回路15の動作について、以下に説明する。なお、表記を簡単にするために、
図11のLPF間引き回路15の動作説明においては、ΔΣADC1bの出力信号ΔΣ(k)を、ΔΣ(k)=Akと記載する。クロック番号kは、k=1,2,3,4,…である。また、端子a,b,c,dのクロック番号kにおける信号値をak,bk,ck,dkで表すことにする。
【0105】
k=1ではスイッチ12aが開き、端子bの値は0(b1=0)、端子dの値は0(d1=0)であるとする。d1=0であるから、ΔΣADC1bからA1が入力された端子aの値はA1(a1=A1)となる。a1=A1、b1=0であるから、端子cの値はA1(c1=A1)となる。b1=0であるから、1/2倍素子11cの出力は0である。
【0106】
k=2ではスイッチ12aが閉じ、端子aの値と端子bの値は等しく(a2=b2)なり、a2=b2であるから、端子cの値は0(c2=0)となる。端子dの値は1クロック前のc1(=A1)であるから、d2=A1となる。ΔΣADC1bからA2が入力された端子aの値はa2=(A1+A2)となり、端子bの値もa2と同じb2=(A1+A2)となる。b2=(A1+A2)であるから、1/2倍素子11cの出力は(A1+A2)/2である。
【0107】
k=3では再びスイッチ12aが開く。このとき端子bの値は0にセットされる(b3=0)とする。端子dの値は1クロック前のc2(=0)であるから、d3=0となる。ΔΣADC1bからA3が入力された端子aの値はa3=A3となる。端子cの値はc3=a3-b3=A3となる。b3=0であるから、1/2倍素子11cの出力は0である。
【0108】
k=4では再びスイッチ12aが閉じる。このとき、端子aの値と端子bの値は等しく(a4=b4)なり、a4=b4であるから、端子cの値は0(c4=0)となる。端子dの値は1クロック前のc3(=A3)であるから、d4=A3となる。ΔΣADC1bからA4が入力された端子aの値はa4=(A3+A4)となり、端子bの値もa4と同じb4=(A3+A4)となる。b4=(A3+A4)であるから、1/2倍素子11cの出力は(A3+A4)/2である。
【0109】
上記動作をその後も同様に行うことで、LPF間引き回路15は、ΔΣADC1bの連続する2クロックの出力平均値を、1つおきに間引いて、ノイズシェーピング回路14へ出力する。従って、
図11のLPF間引き回路15は、
図10のLPF11と間引き回路12とを組み合わせた回路と等価になっている。
【0110】
図12は、本実施形態に係わる高速帰還処理回路(FFB)1cの第3の構成例を示す図である。
図12は、
図11の回路トポロジをさらに変形した回路である。
【0111】
図12のFFB1cは、LPF間引きノイズシェーピング回路16を備えている。LPF間引きノイズシェーピング回路16は、
図12において縦列に接続されているLPF間引き回路15とノイズシェーピング回路14を1つにまとめた回路である。
図12において、
図10および
図11と同じ回路要素には同じ符号を付す。
【0112】
LPF間引きノイズシェーピング回路16は、加算器11aと、遅延素子11bと、1/2倍素子11cと、スイッチ12aと、量子化器14c'と、減算器15aと、を備えている。ΔΣADC1bからLPF間引きノイズシェーピング回路16への入力は、加算器11aに接続される。加算器11aの出力は、端子aを経由して、スイッチ12aと減算器15aとへ接続される。スイッチ12aは、クロック毎にオン/オフを切り替える。スイッチ12aの出力は、量子化器14c'へ接続される。量子化器14c'は、例えば右シフトおよび左シフトを組み合わせてビットシフトを行うことで、下位ビットの値を0にして信号を量子化する。ここで量子化された信号は2ビットのままである。量子化器14c'は、端子b'を経由して、1/2倍素子11cと減算器15aとへ接続される。減算器15aは、端子aを経由した入力から端子b'を経由した入力を減算する。端子aからは量子化前の信号が入力され、端子b'からは量子化後の信号が入力されるから、減算器15aは、量子化の余り(量子化誤差)を算出して出力する。減算器15aの出力は、端子cを経由して、遅延素子11bへ出力される。遅延素子11bは、入力を1クロック遅延して出力する。遅延素子11bの出力は、端子dを経由して、加算器11aに接続される。加算器11aは、ΔΣADC1bからの入力と端子dを経由した入力を加算する。従って、減算器15aが出力した量子化誤差は、加算器11aにより次のクロックの入力信号に加算される。1/2倍素子11cは、端子b'を経由した入力を、ビットシフトにより1/2倍し、1ビット信号として出力する。
【0113】
図12の構成のLPF間引きノイズシェーピング回路16の動作は、
図11の動作に準ずるために、簡潔に説明する。
図12の説明においても、ΔΣ(k)=Akと記載する。
【0114】
k=1においてスイッチ12aが開くと、加算器11aに入力されたA1が遅延素子11bに保持され、1/2倍素子11cの出力は0である。
【0115】
k=2においてスイッチ12aが閉じると、加算器11aに入力されたA2と遅延素子11bからのA1とが加算され、量子化器14c'により量子化されて、1/2倍素子11cによりビットシフト(平均化)されて出力される。また、減算器15aにより量子化前の(A1+A2)から量子化後の(A1+A2)を引いた量子化誤差が算出され、遅延素子11bに保持される。
【0116】
k=3においてスイッチ12aが開くと、加算器11aに入力されたA3が遅延素子11bに保持され、1/2倍素子11cの出力は0である。
【0117】
k=4においてスイッチ12aが閉じると、加算器11aに入力されたA4と遅延素子11bからのA3とが加算され、量子化器14c'により量子化されて、1/2倍素子11cによりビットシフト(平均化)されて出力される。また、減算器15aにより量子化前の(A3+A4)から量子化後の(A3+A4)を引いた量子化誤差が算出され、遅延素子11bに保持される。
【0118】
こうして、量子化器14c'で発生する量子化誤差が、減算器15aにより算出されてフィードバックされることで、ΔΣ変調の原理と同様にしてシェーピング処理がなされ、量子化ノイズが、高周波側に偏在され、低周波側では小さくなる。
【0119】
図13は、
図12の高速帰還処理回路(FFB)1cの、ロジックセルによる構成例を示す図である。
【0120】
入力段プリアンプおよび異常検出回路1aは、電圧検出器1a-1を備えている。
【0121】
電圧検出器1a-1は、アナログ入力信号の過大入力判定を行って、過大入力を検知した場合には判定信号SFFBとして1を生成してラッチ31へ出力し、過大入力を検知しない場合には判定信号SFFBとして0を生成してラッチ31へ出力する。
【0122】
ラッチ31には、電圧検出器1a-1からの判定信号と、内部クロック(動作クロック)とが入力される。ラッチ31は、判定信号を、内部クロックに同期して、2分周器32と、3入力ANDゲート44と、ANDゲート45と、セレクタ48と、へ出力する。なお、内部クロックは、ΔΣADC1bと、LPF間引きノイズシェーピング回路16内のラッチ46およびラッチ47と、2分周器32とへも入力される。
【0123】
2分周器32は、ラッチ31からの判定信号が1である場合、内部クロックの周波数を1/2倍して出力する。また、2分周器32は、ラッチ31からの判定信号が0である場合、常にリセットされて0を出力する。
【0124】
セレクタ48は、例えばマルチプレクサで構成され、ラッチ31からの判定信号が0である場合にはΔΣADC1bからの入力をそのまま出力し、ラッチ31からの判定信号が1である場合にはLPF間引きノイズシェーピング回路16によりノイズシェーピングされた信号を出力する。
【0125】
差動出力アンプ34は、セレクタ48からのシングルエンド入力を、デジタル差動信号に変換して出力する。差動出力アンプ34は、セレクタ48からの出力が、1である場合には1/0(H/L)を出力し、0である場合には0/1(L/H)を出力する。
【0126】
セレクタ33は、例えばマルチプレクサで構成され、2分周器32の出力が0である場合(過大入力でない場合)には、差動出力アンプ34によりデジタル差動信号に変換されたΔΣADC1bの信号をそのまま出力する。
【0127】
また、セレクタ33は、2分周器32の出力が2分周クロックである場合(過大入力である場合)には、差動出力アンプ34からの出力と、0,0と、を交互に出力する。すなわち、セレクタ33は、2分周器32の出力が1(H)であるときに0,0(上述した特殊データのL/L信号)を出力し、2分周器32の出力が0(L)であるときに差動出力アンプ34からの再ノイズシェーピングされた(つまり、ΔΣADC1bによりノイズシェーピングされた後に、さらにノイズシェーピング回路16によりノイズシェーピングされた)データ信号を出力する。
【0128】
LPF間引きノイズシェーピング回路16は、ANDゲート41と、XORゲート42と、XORゲート43と、3入力ANDゲート44と、ANDゲート45と、ラッチ46と、ラッチ47と、を備える。
【0129】
ΔΣADC1bの出力は、セレクタ48と、ANDゲート41と、XORゲート42とに入力される。ANDゲート41の出力は、XORゲート43に入力される。XORゲート43の出力は、セレクタ48と、3入力ANDゲート44とに入力される。3入力ANDゲート44の出力は、遅延素子11bとして機能するラッチ46により1クロック遅延されて、XORゲート43へ出力される。XORゲート42の出力は、ANDゲート45に入力される。ANDゲート45の出力は、遅延素子11bとして機能するラッチ47により1クロック遅延されて、ANDゲート41およびXORゲート42へ出力される。
【0130】
ANDゲート41は、ΔΣADC1bからの1ビット入力を2ビット化したときの上位ビットを処理する。XORゲート42は、ΔΣADC1bからの1ビット入力を2ビット化したときの下位ビットを処理する。
【0131】
ANDゲート41は、ΔΣADC1bからの入力が1であり、かつ1クロック前のANDゲート45の出力が1の場合に1を出力し、それ以外の場合に0を出力する。XORゲート42は、ΔΣADC1bからの入力と、1クロック前のANDゲート45の出力と、の何れか一方が1の場合に1を出力し、それ以外の場合に0を出力する。
【0132】
すなわち、(上位ビット,下位ビット)を表す(ANDゲート41出力,XORゲート42出力)は、ΔΣADC1bからの入力が0である場合、1クロック前のANDゲート45の出力が0であれば(0,0)、1クロック前のANDゲート45の出力が1であれば(0,1)となる。
【0133】
また、(ANDゲート41出力,XORゲート42出力)は、ΔΣADC1bからの入力が1である場合、1クロック前のANDゲート45の出力が0であれば(0,1)、1クロック前のANDゲート45の出力が1であれば(1,0)となる。
【0134】
1クロック前のANDゲート45の出力は、後で説明するように量子化誤差であるために、ANDゲート41およびXORゲート42は、ΔΣADC1bからの1ビット入力を2ビット化して、フィードバックされた量子化誤差を加算する加算器11aとして機能していることが分かる。
【0135】
XORゲート43は、量子化器14c'および1/2倍素子11cとして機能し、ANDゲート41の出力と、1クロック前のラッチ46の出力と、の何れか一方が1の場合に1を出力し、それ以外の場合に0を出力する。2ビット信号における上位ビットを処理するXORゲート43がセレクタ48に接続され、下位ビットがセレクタ48に接続されていないことで、1/2倍素子11cとして機能する。
【0136】
3入力ANDゲート44は、XORゲート43からの入力が1であり、ラッチ31からの判定信号が1であり、かつ2分周器32の出力が1である場合に1を出力し、それ以外の場合に0を出力する。LPF間引きノイズシェーピング回路16の上位ビットを処理する3入力ANDゲート44に2分周器32の2分周クロックが入力されるのは、ノイズシェーピング時に減算するためである。3入力ANDゲート44は、過大入力が検出されている(ラッチ31からの判定信号が1である)ときに、XORゲート43からの入力を出力することを、内部クロックにおける2クロックに1回の割合で行う。
【0137】
ANDゲート45は、XORゲート42からの入力が1であり、かつラッチ31からの判定信号が1である場合に1を出力し、それ以外の場合に0を出力する。従って、ANDゲート45は、過大入力が検出されている(ラッチ31からの判定信号が1である)ときに、XORゲート42からの入力(つまり、加算器11a出力の下位ビット)を出力する。XORゲート42の出力は、ΔΣADC1bの出力に、ラッチ47からフィードバックされた1クロック前の量子化誤差が加算された2ビット信号の下位ビットである。このために、XORゲート42の出力は、現クロックにおける量子化誤差となる。このような構成で、量子化誤差がANDゲート41およびXORゲート42で構成される加算器11aにフィードバックされる。
【0138】
図14は、間引きなし(14A)、単純間引き(14B)、第2の実施形態の
図8の構成(14C)、第3の実施形態の
図9の構成(14D)のシミュレーション結果を示すグラフである。
図14の横軸はクロック番号(時間)、縦軸は相対的な信号振幅(信号振幅の最大値を1に正規化している)を示す。
【0139】
図14のシミュレーション結果を得るに際しては、ΔΣADCを1次ΔΣADCとし、
図9の最終段LPFを2次CIC(Cascaded Integrator Comb)フィルタとしている。また、
図14のシミュレーション結果は、時間が進むにつれて周波数が次第に高くなるチャート信号(所定帯域内での周波数特性を考慮にいれた信号)を入力信号としたときの例である。従って、クロック番号が小さい部分は直流(DC)に近い低周波数部分の結果を示し、クロック番号が大きい部分はより高い周波数部分の結果を示す。
【0140】
図14Bは、
図7および
図8に示すFFB1bの構成における、LPF11および量子化器13を設けていないときの、単純間引きによるシミュレーション結果を示している。
図14Bを見ると、特にDCに近い低周波数部分において、
図14Aの間引きなしと比べてSNRが大幅に低下しているのがわかる。すなわち、1クロックおきに単純間引きされたΔΣADC1b出力は、LPF2gが間引きされたクロックのデータを前クロックのデータで置き換えてから出力端子OUTP,OUTNへの出力を生成するために、入力信号の変化が緩やかなDCに近い低周波数部分において、特に大きな歪みが信号に生じる。
【0141】
図14Cに示す
図8のFFB1cを用いた場合のシミュレーション結果も、
図14Bと同様に、DCに近い低周波数部分において、
図14Aの間引きなしと比べてSNRが大幅に低下するのを抑制できていないことがわかる。
【0142】
一方、
図14Dに示す
図9のFFB1cを用いた場合のシミュレーション結果は、低周波数部分から高周波数部分まで、
図14Bおよび
図14CよりもSNRが高いことが分かる。
【0143】
第3の実施形態によれば、上述した第2の実施形態とほぼ同様の効果を奏するとともに、第2の実施形態における量子化器13をノイズシェーピング回路14に置き換えたために、量子化ノイズを高周波側により偏在させ、信号帯域の量子化ノイズを減らせる。これにより、信号精度の劣化をより小さく抑制できる。
【0144】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0145】
1 1次回路、1I 絶縁1次回路、1S 信号1次回路、1a 入力段プリアンプおよび異常検出回路、1b ΔΣ型アナログデジタルコンバータ、1c 高速帰還処理回路、1d 出力バッファ、1e 信号検出器、1f データ変調器、1g ドライバ、1h トランス1次コイル、2 2次回路、2I 絶縁2次回路、2S 信号2次回路、2a トランス2次コイル、2b 増幅器、2c 復調器、2d バッファ、2e 信号検出器、2f 出力制御回路、2g LPF、11 LPF、12 間引き回路、13 量子化器、14 ノイズシェーピング回路、15 LPF間引き回路、16 LPF間引きノイズシェーピング回路、21 引き伸ばし回路