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特許7516318温度リスク判定方法及び温度リスク判定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】温度リスク判定方法及び温度リスク判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/50 20060101AFI20240708BHJP
【FI】
G01N25/50 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021111907
(22)【出願日】2021-07-06
(65)【公開番号】P2023008381
(43)【公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】池田 志保
(72)【発明者】
【氏名】樋口 徹
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡則
(72)【発明者】
【氏名】重久 卓夫
(72)【発明者】
【氏名】小山 武志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 優貴
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109184800(CN,A)
【文献】特開2018-185264(JP,A)
【文献】国際公開第2015/108121(WO,A1)
【文献】特開昭61-047562(JP,A)
【文献】特開2010-248047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯蔵物が貯蔵されている貯蔵庫内部の温度リスク判定方法であって、
上記貯蔵庫内に発熱の有無の判定対象としての上記貯蔵物を貯蔵するに先立って、上記貯蔵庫内における上記貯蔵物の発熱によって増加する第1成分ガスの濃度と、上記貯蔵物の発熱によって減少する第2成分ガスの濃度との相関を表す関係式を導出する関係式導出工程と、
発熱の有無の判定対象としての上記貯蔵物を上記貯蔵庫内に貯蔵した後に、上記貯蔵庫内に存在する上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度を測定する濃度測定工程と、
上記関係式導出工程で導出された関係式と、上記濃度測定工程で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とに基づいて、上記貯蔵庫内部の温度リスクの有無を判定する判定工程と
を備える温度リスク判定方法。
【請求項2】
上記関係式導出工程で導出された関係式に関連して、上記第1成分ガス及び上記第2成分ガスの基準濃度領域を設定する基準濃度領域設定工程をさらに備え、
上記判定工程で、上記基準濃度領域と、上記濃度測定工程で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とを対比する請求項1に記載の温度リスク判定方法。
【請求項3】
上記第1成分ガスが二酸化炭素であり、上記第2成分ガスが酸素である請求項1又は請求項2に記載の温度リスク判定方法。
【請求項4】
上記関係式が、上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度をそれぞれ変数とする1次関数である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の温度リスク判定方法。
【請求項5】
上記関係式導出工程を上記貯蔵庫に貯蔵し得る上記貯蔵物の種類毎に行う請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の温度リスク判定方法。
【請求項6】
上記貯蔵物が石炭である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の温度リスク判定方法。
【請求項7】
貯蔵物が貯蔵されている貯蔵庫内部の温度リスク判定システムであって、
上記貯蔵庫内に発熱の有無の判定対象としての上記貯蔵物を貯蔵するに先立って、上記貯蔵庫内における上記貯蔵物の発熱によって増加する第1成分ガスの濃度と、上記貯蔵物の発熱によって減少する第2成分ガスの濃度との相関を表す関係式を導出する関係式導出部と、
発熱の有無の判定対象としての上記貯蔵物を上記貯蔵庫内に貯蔵した後に、上記貯蔵庫内に存在する上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度を測定する濃度測定部と、
上記関係式導出部で導出された関係式と、上記濃度測定部で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とに基づいて、上記貯蔵庫内部の温度リスクの有無を判定する判定部と
を備える温度リスク判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度リスク判定方法及び温度リスク判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば火力発電装置等の発電用に用いられる石炭は、船倉に貯蔵されて運ばれた後、発電装置に投入される前に一旦サイロ内に貯蔵される。近年、この石炭として、種々の炭種のものの使用が検討されている。一方で、この石炭は、炭種によっては発熱リスクが大きくなる。例えば低品位炭(概して無水無灰炭基準での炭素含有量の低い石炭)は、安価である反面、自然発熱するリスクが大きいとされている。そのため、今日では、貯蔵庫内部の温度リスクを適切に判定できる技術が望まれている。
【0003】
貯蔵庫内部の温度リスクを判定する方法として、貯蔵庫の上部から吊り下げた熱電対によって石炭層の温度を測定することが行われている。しかしながら、この方法を用いた場合、貯蔵庫内への石炭投入時の荷重によって熱電対が切断されるおそれがある。また、この方法によると、石炭層の一部の温度しか測定することができず、貯蔵庫全体の温度リスクを正確に測定し難い。すなわち、この技術によると、熱電対による測定位置から離れた位置にホットスポットが存在していた場合でも、このホットスポットの存在を把握することは困難である。
【0004】
一方で、今日では、貯蔵庫内の発熱と貯蔵庫内に存在するガスの組成とに相関があることが分かっている。この観点から、貯蔵庫内に存在するガスに含まれる成分の濃度を検知することで貯蔵庫内の発熱の有無を検知するシステムが発案されている(特開2018-185264号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-185264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、貯蔵庫内に存在する一酸化炭素、二酸化炭素又は臭気の濃度を検知することで、石炭の自然発熱を検知することが記載されている。
【0007】
特許文献1に記載されている技術は、貯蔵庫内に存在するガスを吸引ホースで吸引し、このガスに含まれている一酸化炭素、二酸化炭素又は臭気の濃度をガスセンサで検知することで貯蔵庫内の発熱の有無を検知するものである。すなわち、特許文献1に記載されている技術は、貯蔵庫内に存在するガスに含まれている単一の成分の濃度を発熱リスクの指標として用いるものである。
【0008】
しかしながら、貯蔵庫内における単一のガスの成分の濃度は、大気変動、集塵機による貯蔵庫内のガスの強制放出、又は機器の損傷等の外的要因に基づいて誤差を生じることがある。
【0009】
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、貯蔵庫内部の温度リスクを適切に判定することができる温度リスク判定方法及び温度リスク判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る温度リスク判定方法は、貯蔵物が貯蔵されている貯蔵庫内部の温度リスク判定方法であって、上記貯蔵物の発熱によって増加する第1成分ガスの濃度と、上記貯蔵物の発熱によって減少する第2成分ガスの濃度との相関を表す関係式を導出する関係式導出工程と、上記貯蔵庫内に存在する上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度を測定する濃度測定工程と、上記関係式導出工程で導出された関係式と、上記濃度測定工程で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とに基づいて、上記貯蔵庫内部の温度リスクの有無を判定する判定工程とを備える。
【0011】
本発明の他の一態様に係る温度リスク判定システムは、貯蔵物が貯蔵されている貯蔵庫内部の温度リスク判定システムであって、上記貯蔵物の発熱によって増加する第1成分ガスの濃度と、上記貯蔵物の発熱によって減少する第2成分ガスの濃度との相関を表す関係式を導出する関係式導出部と、上記貯蔵庫内に存在する上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度を測定する濃度測定部と、上記関係式導出部で導出された関係式と、上記濃度測定部で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とに基づいて、上記貯蔵庫内部の温度リスクの有無を判定する判定部とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る温度リスク判定方法及び本発明の他の一態様に係る温度リスク判定システムは、貯蔵庫内部の温度リスクを適切に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る温度リスク判定方法を示すフロー図である。
図2図2は、貯蔵庫内における二酸化炭素及び酸素の濃度の関係の一例を示すグラフである。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る温度リスク判定システムを示す模式図である。
図4図4は、図3の温度リスク判定システムの設定部を示す模式図である。
図5図5は、本発明の他の実施形態に係る温度リスク判定方法を示すフロー図である。
図6図6は、A炭における二酸化炭素の濃度と酸素の濃度との関係を示すグラフである。
図7図7は、B炭における二酸化炭素の濃度と酸素の濃度との関係を示すグラフである。
図8図8は、C炭における二酸化炭素の濃度と酸素の濃度との関係を示すグラフである。
図9図9は、図7の関係式に対して温度リスクが発生した場合の二酸化炭素及び酸素の濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0015】
本発明の一態様に係る温度リスク判定方法は、貯蔵物が貯蔵されている貯蔵庫内部の温度リスク判定方法であって、上記貯蔵物の発熱によって増加する第1成分ガスの濃度と、上記貯蔵物の発熱によって減少する第2成分ガスの濃度との相関を表す関係式を導出する関係式導出工程と、上記貯蔵庫内に存在する上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度を測定する濃度測定工程と、上記関係式導出工程で導出された関係式と、上記濃度測定工程で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とに基づいて、上記貯蔵庫内部の温度リスクの有無を判定する判定工程とを備える。
【0016】
当該温度リスク判定方法は、温度リスクの指標として上記貯蔵庫内に存在するガスの濃度を用いることで、従来の熱電対によっては測定し難い貯蔵庫内部全体における温度リスクを判定することができる。また、当該温度リスク判定方法は、濃度を測定するガスとして、上記貯蔵物の発熱によって増加する第1成分ガスと、上記貯蔵物の発熱によって減少する第2成分ガスとを用いることで、外的要因等に基づいて誤差が生じることを抑制し、上記貯蔵庫内部の温度リスクを適切に判定することができる。
【0017】
当該温度リスク判定方法は、上記関係式導出工程で導出された関係式に関連して、上記第1成分ガス及び上記第2成分ガスの基準濃度領域を設定する基準濃度領域設定工程をさらに備え、上記判定工程で、上記基準濃度領域と、上記濃度測定工程で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とを対比するとよい。このように、上記判定工程で、上記基準濃度領域と、上記濃度測定工程で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とを対比することで、上記貯蔵庫内部の温度リスクをより容易に判定することができる。
【0018】
上記第1成分ガスが二酸化炭素であり、上記第2成分ガスが酸素であるとよい。このように、上記第1成分ガスが二酸化炭素であり、上記第2成分ガスが酸素であることによって、上記貯蔵庫内部の温度リスクを容易かつ確実に判定することができる。
【0019】
上記関係式が、上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度をそれぞれ変数とする1次関数であるとよい。このように、上記関係式が、上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度をそれぞれ変数とする1次関数であることによって、上記貯蔵庫内部の温度リスクを容易かつ確実に判定することができる。
【0020】
上記関係式導出工程を上記貯蔵庫に貯蔵し得る上記貯蔵物の種類毎に行うことが好ましい。「貯蔵物の種類」とは、例えば貯蔵物の組成を含む。このように、上記関係式導出工程を上記貯蔵庫に貯蔵し得る上記貯蔵物の種類毎に行うことによって、実際に貯蔵する貯蔵物の種類に応じて上記関係式を使い分けることができる。その結果、上記貯蔵庫内部の温度リスクを容易かつ確実に判定することができる。
【0021】
上記貯蔵物が石炭であるとよい。当該温度リスク判定方法は、石炭の温度リスクの判定に適している。
【0022】
本発明の他の一態様に係る温度リスク判定システムは、貯蔵物が貯蔵されている貯蔵庫内部の温度リスク判定システムであって、上記貯蔵物の発熱によって増加する第1成分ガスの濃度と、上記貯蔵物の発熱によって減少する第2成分ガスの濃度との相関を表す関係式を導出する関係式導出部と、上記貯蔵庫内に存在する上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度を測定する濃度測定部と、上記関係式導出部で導出された関係式と、上記濃度測定部で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とに基づいて、上記貯蔵庫内部の温度リスクの有無を判定する判定部とを備える。
【0023】
当該温度リスク判定システムは、温度リスクの指標として上記貯蔵庫内に存在するガスの濃度を用いることで、従来の熱電対によっては測定し難い貯蔵庫内部全体における温度リスクを判定することができる。また、当該温度リスク判定システムは、濃度を測定するガスとして、上記貯蔵物の発熱によって増加する第1成分ガスと、上記貯蔵物の発熱によって減少する第2成分ガスとを用いることで、外的要因等に基づいて誤差が生じることを抑制し、上記貯蔵庫内部の温度リスクを適切に判定することができる。
【0024】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0025】
[第一実施形態]
<温度リスク判定方法>
図1の温度リスク判定方法は、貯蔵物が貯蔵されている貯蔵庫内部の温度リスクを判定する。より詳しくは、当該温度リスク判定方法は、上記貯蔵庫内部における上記貯蔵物の発熱の有無を判定する。
【0026】
当該温度リスク判定方法は、上記貯蔵物の発熱によって増加する第1成分ガスの濃度と、上記貯蔵物の発熱によって減少する第2成分ガスの濃度との相関を表す関係式を導出する関係式導出工程S1と、上記貯蔵庫内に存在する上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度を測定する濃度測定工程S3と、関係式導出工程S1で導出された関係式と、濃度測定工程S3で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とに基づいて、上記貯蔵庫内部の温度リスクの有無を判定する判定工程S4とを備える。また、当該温度リスク判定方法は、関係式導出工程S1で導出された関係式に関連して、上記第1成分ガス及び上記第2成分ガスの基準濃度領域を設定する基準濃度領域設定工程S2をさらに備える。
【0027】
当該温度リスク判定方法では、例えば上記貯蔵庫内に発熱の有無の判定対象としての貯蔵物を貯蔵するに先立って、関係式導出工程S1によって予め上記関係式を導出しておく。また、当該温度リスク判定方法では、上記貯蔵庫内に発熱の有無の判定対象としての貯蔵物を貯蔵するに先立って、基準濃度領域設定工程S2によって、上記基準濃度領域を設定しておく。当該温度リスク判定方法は、上記貯蔵庫内に発熱の有無の判定対象としての貯蔵物を貯蔵した後に、濃度測定工程S3を行い、上記貯蔵庫内に存在する上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度を測定する。判定工程S4では、関係式導出工程S1で予め導出しておいた上記関係式と、濃度測定工程S3で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とに基づいて、上記貯蔵庫内部の温度リスクの有無を判定する。
【0028】
〔貯蔵物〕
上記貯蔵庫内に貯蔵される貯蔵物としては、特に限定されるものではないが、典型的には石炭が挙げられる。当該温度リスク判定方法によると、石炭の温度リスクを適切に判定することができる。以下では、当該温度リスク判定方法の各工程について、上記貯蔵物が石炭である場合を例に説明する。
【0029】
(関係式導出工程)
関係式導出工程S1では、上述のように、上記第1成分ガスの濃度と、上記第2成分ガスの濃度との相関を表す関係式を導出する。関係式導出工程S1では、上記貯蔵庫内に石炭を貯蔵した際における上記第1成分ガスと上記第2成分ガスとの濃度分布から近似曲線を導出する。例えば関係式導出工程S1では、上記貯蔵庫内に石炭を貯蔵した際における上記第1成分ガスの濃度と上記第2成分ガスの濃度とを経時的に測定しておき、これらのガスの濃度分布から、上記第1成分ガスの濃度を縦軸とし、上記第2成分ガスの濃度を横軸とする近似曲線を導出する。一例として、関係式導出工程S1では、一定の期間に亘って上記貯蔵庫内に石炭を貯蔵し、この貯蔵期間中における上記第1成分ガスと上記第2成分ガスとの濃度分布の推移を経時的に監視する。そして、監視した濃度分布から、上記第1成分ガスの濃度を縦軸とし、上記第2成分ガスの濃度を横軸とする近似曲線を導出する。この際、温度リスクの生じなかった濃度分布を基に上記関係式を導出することが好ましい。
【0030】
上記第1成分ガスとしては、石炭の発熱によって濃度が増加するものである限り特に限定されるものではなく、例えば二酸化炭素(CO)、一酸化炭素(CO)等が挙げられる。また、上記第2成分ガスとしては、石炭の発熱によって濃度が減少するものである限り特に限定されるものではなく、例えば酸素(O)が挙げられる。中でも、上記第1成分ガスと上記第2成分ガスとの組み合わせとしては、上記第1成分ガスが二酸化炭素であり、上記第2成分ガスが酸素であることが好ましい。
【0031】
本発明者らは、石炭が貯蔵された貯蔵庫(サイロ)内における二酸化炭素の濃度と酸素の濃度とを経時的に監視することで、二酸化炭素濃度と酸素濃度との相関について検討した。その結果、図2に示すように、二酸化炭素濃度と酸素濃度とは負の相関を有していることが分かった。このことから、仮に二酸化炭素又は酸素の一方のみの濃度に依存すると、外的な要因等によって濃度が変化した際に、この変化が温度リスクをはらんでいるか否かを判定し難いのに対し、二酸化炭素及び酸素の両方の濃度の相関を考慮することで、濃度の変化を温度リスクとの関係で適切に判定しやすいことが分かった。従って、上記第1成分ガスとして二酸化炭素を用い、上記第2成分ガスとして酸素を用いることによって、上記貯蔵庫内部の温度リスクを容易かつ確実に判定することができる。
【0032】
上記関係式としては、上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度をそれぞれ変数とする1次関数が好ましい。すなわち、関係式導出工程S1では、上記貯蔵庫内に石炭を貯蔵した際における上記第1成分ガスと上記第2成分ガスとの経時的な濃度分布を線形近似した1次関数を導出することが好ましい。当該温度リスク判定方法は、上記関係式が上述の1次関数であることで、上記貯蔵庫内部の温度リスクを容易かつ確実に判定することができる。
【0033】
関係式導出工程S1は、上記貯蔵庫に貯蔵し得る貯蔵物の種類毎に行うことが好ましい。換言すると、関係式導出工程S1は、上記貯蔵庫に貯蔵し得る石炭の炭種毎に行うことが好ましい。本発明者らの知見によると、上記関係式は、石炭の炭種毎に相違する。そのため、関係式導出工程S1で、上記関係式を石炭の炭種毎に導出することによって、上記関係式を実際に貯蔵する貯蔵物の種類に応じて使い分けることができる。その結果、上記貯蔵庫内部の温度リスクを容易かつ確実に判定することができる。
【0034】
(基準濃度領域設定工程)
基準濃度領域設定工程S2では、温度リスクの基準となる基準濃度領域を設定する。基準濃度領域設定工程S2では、例えば関係式導出工程S1で導出した関係式のみに基づいて上記基準濃度領域を設定することができる。この場合、基準濃度領域設定工程S2では、例えば上記関係式を基準とする一定の範囲の領域を基準濃度領域として算出する。また、基準濃度領域設定工程S2では、関係式導出工程S1で導出した関係式と、上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度の実測値とを用いて、上記第1成分ガス及び上記第2成分ガスの濃度分布の正常な範囲を基準濃度領域として定めることも可能である。なお、上記第1成分ガス及び上記第2成分ガスの経時的な濃度分布は、石炭の炭種毎に異なってくることが考えられる。このような観点から、基準濃度領域設定工程S2では、この濃度分布を加味して上記基準濃度領域を設定することが好ましい。
【0035】
(濃度測定工程)
濃度測定工程S3では、発熱の有無の判定対象としての石炭を上記貯蔵庫内に貯蔵した後に、上記貯蔵庫内に存在する上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度を経時的に測定する。濃度測定工程S3における上記第1成分ガス及び上記第2成分ガスの採取位置としては、特に限定されないが、上記貯蔵庫内における石炭の投入口近傍が好ましい。
【0036】
(判定工程)
判定工程S4では、上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度の相関が正常な範囲内であるか否かに基づいて上記貯蔵庫内部の温度リスクの有無を判定する。判定工程S4では、基準濃度領域設定工程S2で設定された基準濃度領域と、濃度測定工程S3で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とを対比することが好ましい。より詳しくは、判定工程S4では、濃度測定工程S3で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度が上記基準濃度領域から外れている場合に、上記貯蔵庫内部の温度リスクがあると判定することが好ましい。当該温度リスク判定方法は、判定工程S4で、上記基準濃度領域と、濃度測定工程S3で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とを対比することで、上記貯蔵庫内部の温度リスクをより容易に判定することができる。なお、判定工程S4では、例えば濃度測定工程S3で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度が、任意の1時点で上記基準濃度領域から外れている場合に、上記貯蔵庫内部の温度リスクがあると判定してもよい。また、判定工程S4では、濃度測定工程S3で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度が、一定時間継続して上記基準濃度領域から外れている場合に、上記貯蔵庫内部の温度リスクがあると判定してもよい。
【0037】
(その他の工程)
当該温度リスク判定方法は、判定工程S4で上記貯蔵庫内部の温度リスクがあると判定された場合に、温度リスクがあることを警報音等によって報知する報知工程をさらに備えていてもよい。また、この報知工程では、濃度測定工程S3で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度が上記基準濃度領域から乖離している割合等に基づいて、報知レベルを増減させてもよい。
【0038】
<利点>
当該温度リスク判定方法は、温度リスクの指標として上記貯蔵庫内に存在するガスの濃度を用いることで、従来の熱電対によっては測定し難い貯蔵庫内部全体における温度リスクを判定することができる。また、当該温度リスク判定方法は、濃度を測定するガスとして、上記貯蔵物の発熱によって増加する第1成分ガスと、上記貯蔵物の発熱によって減少する第2成分ガスとを用いることで、外的要因等に基づいて誤差が生じることを抑制し、上記貯蔵庫内部の温度リスクを適切に判定することができる。
【0039】
<温度リスク判定システム>
次に、図3及び図4を参照して、図1の温度リスク判定方法を実施可能な温度リスク判定システムについて説明する。
【0040】
当該温度リスク判定システムは、貯蔵物Pが貯蔵されている貯蔵庫内部の温度リスクを判定可能に構成されている。当該温度リスク判定システムは、温度リスクの判断基準を設定する設定部11を備える。図4に示すように、設定部11は、貯蔵物Pの発熱によって増加する第1成分ガスの濃度と、貯蔵物Pの発熱によって減少する第2成分ガスの濃度との相関を表す関係式を導出する関係式導出部12と、関係式導出部12で導出された関係式に関連して、上記第1成分ガス及び上記第2成分ガスの基準濃度領域を設定する基準濃度領域設定部13とを有する。また、当該温度リスク判定システムは、貯蔵庫10内に存在する上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度を測定する濃度測定部14と、関係式導出部12で導出された関係式と、濃度測定部14で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とに基づいて、貯蔵庫内部の温度リスクの有無を判定する判定部15とを備える。なお、当該温度リスク判定システムは、判定部15で温度リスクありと判定された場合に、温度リスクがあることを警報音等によって報知する報知部(不図示)をさらに備えていてもよい。
【0041】
(貯蔵庫)
貯蔵庫10としては、貯蔵物Pを貯蔵可能である限り特に限定されるものではないが、例えばサイロ、船倉等が挙げられる。当該温度リスク判定システムは、貯蔵庫10がサイロ又は船倉である場合、貯蔵庫内部の温度リスクを容易に判定しやすい。なお、図3において、貯蔵庫10はサイロである。
【0042】
貯蔵庫10は、筒状の胴部10aと、胴部10aの上部開口を閉塞する屋根部10bと、胴部10aの下部開口を閉塞する底部10cとを有する。
【0043】
屋根部10bには、貯蔵物Pを投入するための投入口21が設けられている。投入口21は、貯蔵物Pが胴部10a内に投入される際に開放されるよう開閉可能に構成されている。屋根部10bには、投入口21を介して胴部10a内に貯蔵物Pを投入するための投入用コンベア22が設けられている。また、屋根部10bには、貯蔵物Pが発熱した場合等に貯蔵物Pに散水可能な散水部(不図示)が設けられていてもよい。
【0044】
底部10cには、貯蔵物Pを排出するための排出口(不図示)が設けられている。上記排出口は、貯蔵物Pが排出される際に開放されるよう開閉可能に構成されている。また、底部10cには、貯蔵物Pを排出するための排出用コンベア(不図示)が設けられている。上記排出用コンベアは、上記排出口から排出された貯蔵物Pを貯蔵庫10外に搬送可能に構成されている。
【0045】
(関係式導出部)
関係式導出部12は、上述の関係式導出工程S1を実施可能に構成されている。関係式導出部12は、貯蔵庫10内に貯蔵物Pを貯蔵した際における上記第1成分ガスと上記第2成分ガスとの濃度分布から近似曲線を導出する。上記関係式としては、上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度をそれぞれ変数とする1次関数が好ましい。関係式導出部12は、貯蔵庫10に貯蔵し得る貯蔵物Pの種類毎に上記関係式を導出することが好ましい。
【0046】
(基準濃度領域設定部)
基準濃度領域設定部13は、上述の基準濃度領域設定工程S2を実施可能に構成されている。基準濃度領域設定部13は、例えば関係式導出部12で導出した関係式のみに基づいて上記基準濃度領域を設定することができる。また、基準濃度領域設定部13は、関係式導出部12で導出した関係式と、上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度の実測値とを用いて上記基準濃度領域を設定することも可能である。
【0047】
(濃度測定部)
濃度測定部14は、上述の濃度測定工程S3を実施可能に構成されている。濃度測定部14は、貯蔵庫10内に存在する上記第1成分ガス及び上記第2成分ガスを採取するガス採取部14aと、ガス採取部14aで採取された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度を測定する測定部14bとを有する。ガス採取部14aの配置としては、特に限定されるものではないが、投入口21の近傍、より具体的には胴部10a内の頂部近傍が好ましい。
【0048】
貯蔵庫10は、投入口21及び上記排出口から空気の出入りが可能に構成されている。貯蔵庫10内部に温度リスクがある場合、上記排出口から貯蔵庫10の内部(貯蔵物Pが貯蔵される空間)に流入した空気は、温度が上昇している貯蔵物Pによって温められ、上昇気流を生じ、投入口21から排出される。すなわち、貯蔵庫10内では、上記排出口から投入口21に向けての空気の流れが発生し得る。そのため、ガス採取部14aを投入口21の近傍に配置しておくことで、上記第1成分ガス及び上記第2成分ガスを適切に採取しやすい。
【0049】
(判定部)
判定部15は、上述の判定工程S4を実施可能に構成されている。判定部15は、基準濃度領域設定部13で設定された基準濃度領域と、濃度測定部14で測定された上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度とを対比することが好ましい。判定部15は、例えば上記第1成分ガスの濃度及び上記第2成分ガスの濃度が上記基準濃度領域から外れている場合に、貯蔵庫内部の温度リスクがあると判定することができる。
【0050】
<利点>
当該温度リスク判定システムは、温度リスクの指標として貯蔵庫10内に存在するガスの濃度を用いることで、従来の熱電対によっては測定し難い貯蔵庫内部全体における温度リスクを判定することができる。また、当該温度リスク判定システムは、濃度を測定するガスとして、貯蔵物Pの発熱によって増加する第1成分ガスと、貯蔵物Pの発熱によって減少する第2成分ガスとを用いることで、外的要因等に基づいて誤差が生じることを抑制し、貯蔵庫10内の温度リスクを適切に判定することができる。
【0051】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0052】
例えば当該温度リスク判定方法は、図5に示すように、上述の基準温度領域設定工程を備えない構成とすることも可能である。当該温度リスク判定方法は、上記基準温度領域設定工程を備えない場合でも、互いに負の相関を有する第1成分ガスの濃度と第2成分ガスの濃度とを用いることで、上記貯蔵庫内部の温度リスクを適切に判定することができる。また同様に、当該温度リスク判定システムは、上述の基準温度領域設定部を備えない構成とすることも可能である。
【実施例
【0053】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
炭種の異なるA炭からC炭をそれぞれ別個に図3の貯蔵庫10に投入した。A炭からC炭のそれぞれについて、貯蔵庫10内のガスをガス採取部14aで経時的に採取し、濃度測定部14で、二酸化炭素及び酸素の濃度を測定した。次に、A炭からC炭のそれぞれについて、関係式導出部12で、二酸化炭素及び酸素の経時的な濃度分布を、横軸(x軸)を酸素濃度、縦軸(y軸)を二酸化炭素濃度として線形近似した1次関数を導出した(関係式導出工程S1)。A炭の濃度分布及びこの濃度分布から導出された1次関数を図6に、B炭の濃度分布及びこの濃度分布から導出された1次関数を図7に、C炭の濃度分布及びこの濃度分布から導出された1次関数を図8に示す。なお、図6から図8において、グラフ内に記載されている円は、二酸化炭素及び酸素の濃度分布が収束した範囲を示している。
【0055】
図6から図8から、炭種毎に関係式導出工程S1で導出される関係式の傾きが相違していることが分かる。このことから、予め関係式導出工程S1で炭種毎に関係式を導出しておき、その後貯蔵庫10にこの炭種を貯蔵した際に、濃度測定工程S3で測定される第1成分ガス(二酸化炭素)の濃度及び第2成分ガス(酸素)の濃度の実測値と、関係式導出工程S1で導出された関係式とを対比していくことで、判定工程S4によって貯蔵庫内部の温度リスクを判定できることが分かる。
【0056】
なお、炭種が異なる場合でも、場合によっては関係式の傾きが近似することが起こり得るとも考えられる。この場合でも、炭種毎に二酸化炭素と酸素との濃度分布は異なる範囲に収束すると考えられる。そのため、基準濃度領域設定工程S2で、第1成分ガス(二酸化炭素)及び第2成分ガス(酸素)の濃度分布を加味して基準濃度領域を設定することで、判定工程S4によってより適切に貯蔵庫内部の温度リスクを判定できると考えられる。
【0057】
また、図6から図8に表されている二酸化炭素及び酸素の濃度分布に対し、濃度測定工程S3で測定される二酸化炭素の濃度が高い場合(図6から図8に表されている関係式を基準として、二酸化炭素の濃度が上方に位置する場合)には、石炭の自然発熱が進行していることが考えられる。さらに、二酸化炭素に加えて酸素の濃度も高くなるにつれて、石炭の自然発熱がより進行していることが考えられる。一方で、図6から図8に表されている二酸化炭素及び酸素の濃度分布に対し、濃度測定工程S3で測定される二酸化炭素の濃度が低い場合(図6から図8に表されている関係式を基準として、二酸化炭素の濃度が下方に位置する場合)には、測定機器の異常等のおそれが考えられる。
【0058】
図9に、濃度測定工程S3で測定された二酸化炭素及び酸素の濃度の実測値が図7の関係式に対して乖離していた場合の例を示す。図9では、濃度測定工程S3で測定された二酸化炭素及び酸素の濃度の実測値Qが関係式に対して上方に大きく乖離している。また、この実測値Qは、図7に表された二酸化炭素及び酸素の濃度分布と比較して左上方に大きくシフトしている。このことから、実測値Qが測定された時点において、貯蔵庫10内では、石炭の自然発熱が進行していたと考えられる。このように、当該温度リスク判定方法は、判定工程S4で、関係式導出工程S1で導出された関係式と濃度測定工程S3で測定された実測値Qとを比較することで、貯蔵庫内部の温度リスクを適切に判定できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明の一態様に係る温度リスク判定方法は、貯蔵庫内部の温度リスクを判定するのに適している。
【符号の説明】
【0060】
10 貯蔵庫
10a 胴部
10b 屋根部
10c 底部
11 設定部
12 関係式導出部
13 基準濃度領域設定部
14 濃度測定部
14a ガス採取部
14b 測定部
15 判定部
21 投入口
22 投入用コンベア
P 貯蔵物
Q 二酸化炭素及び酸素の濃度の実測値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9