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特許7516319コンクリート構造物の補強パネルおよび補強構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の補強パネルおよび補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240708BHJP
【FI】
E04G23/02 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021114000
(22)【出願日】2021-07-09
(65)【公開番号】P2023010118
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 愛枝
(72)【発明者】
【氏名】今井 和正
(72)【発明者】
【氏名】相馬 智明
(72)【発明者】
【氏名】河村 圭亮
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206858(JP,A)
【文献】特開2020-016081(JP,A)
【文献】特開2001-219502(JP,A)
【文献】特開平04-185498(JP,A)
【文献】特開平07-329236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04C 2/00 - 2/54
B32B 1/00 -43/00
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から順に木材部、木質ボード部、炭素繊維シート部、フレキシブルボード部が積層されている補強パネルであって、
木質ボード部は、下層側からの薬剤の浸透を防止する不透性を備えている
ことを特徴とするコンクリート構造用の補強パネル。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート構造物の補強パネルを複数用いてコンクリート構造物の表面に貼り合わせて形成したコンクリート構造物の補強構造であって、
隣り合う前記補強パネル間に隙間を有し、該隙間に接続用のカバーパネルが配置されており、
前記補強パネルの端部は、前記木材部の端部より前記木質ボード部の端部が長く、前記木質ボード部の端部より前記フレキシブルボード部の端部が長く張り出しており、前記炭素繊維シート部は、前記フレキシブルボード部の端部よりも外側まで伸びる長さを備えており、
前記カバーパネルは、木材部の裏面に木質ボード部が積層されており、
前記カバーパネルの端部は、前記木材部の端部が前記木質ボード部の端部より張り出しており、その張り出し長は、前記補強パネルの前記木質ボード部の端部の前記木材部の端部からの張り出し長さに相当することを特徴とする
ことを特徴とするコンクリート構造物の補強構造。
【請求項3】
前記補強パネルにて構成された複数の屈曲パネルと、前記屈曲パネル同士の接続部に取り付けられる平板状のカバーパネルとを備え、
前記屈曲パネルは、前記コンクリート構造物の角部を覆う屈曲部を備えており、
前記屈曲パネルは、断面コ字形状を呈し、断面矩形の前記コンクリート構造物を両側から挟むように一対設けられている
ことを特徴とする請求項2に記載のコンクリート構造物の補強構造。
【請求項4】
請求項1に記載のコンクリート構造物の補強パネルを用いて断面円形もしくは楕円形のコンクリート構造物を補強するコンクリート構造物の補強構造であって、
前記補強パネルにて構成された複数の湾曲パネルと、前記湾曲パネル同士の接続部に取り付けられる板状のカバーパネルとを備え、
前記湾曲パネルは、前記コンクリート構造物の湾曲部を覆う湾曲部を備えており、
横方向に隣り合う前記湾曲パネルの前記炭素繊維シート部は、前記フレキシブルボード部の先端よりも突出して重なり合っており、
横方向に隣り合う前記湾曲パネルの前記フレキシブルボード部は、木質ボード部の先端よりも突出しており、隣り合う前記木質ボード部間に第一の隙間が形成され、
横方向に隣り合う前記湾曲パネルの前記木質ボード部は、前記木材部の先端よりも突出しており、隣り合う前記木材部間に第二の隙間が形成され、
前記カバーパネルは、前記第一の隙間に挿入される木質ボード部と、前記第二の隙間に挿入される木材部とを重ね合わせてなり、
前記カバーパネルの前記木質ボード部の厚さ寸法は、前記湾曲パネルの前記木質ボード部の厚さ寸法よりも小さい
ことを特徴とするコンクリート構造物の補強構造。
【請求項5】
前記湾曲パネルは、断面円弧形状を呈し、断面矩形の前記コンクリート構造物を両側から挟むように一対設けられている
ことを特徴とする請求項4に記載のコンクリート構造物の補強構造。
【請求項6】
上下方向に隣り合う前記木質ボード部同士は、隙間をあけて配置され、
前記隙間には、上下方向に隣り合う前記炭素繊維シート部同士の接続部に当接するバックアップ材が介設されている
ことを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の補強構造。
【請求項7】
隣り合う前記木質ボード部同士の接続部と、隣り合う前記木材部同士の接続部とは、オフセットしており、
前記隣り合う木材部同士は、隙間をあけて配置されている
ことを特徴とする請求項2乃至請求項6のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の補強パネルおよび補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
既設コンクリート柱等のコンクリート構造物を補強する補強パネルとしては、特許文献1に開示されたものがあった。特許文献1の補強パネルは、炭素繊維シートをフレキシブルボードで挟み込んだパネルである。このような補強パネルを使用すると、現場貼り炭素繊維シート耐震補強に比べて、現場作業が少ない(居ながら補強に向いている)ことや内装下地が不要(柱見付け幅が小さい)といったメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-19138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の補強パネルは、耐震性能の向上は期待できるものの、仕上がりが意匠性に欠ける問題があった。そのため、商業施設やホテルのロビーやエントランスなど、高い意匠性が要求される空間に露出する構造部材の補強工事には採用され辛かった。前記補強パネルでは表面にシール処理が残ってしまうため、仮に意匠性を要する補強工事に採用する場合には、補強パネルの上からさらに仕上げ工事を実施する必要があり、費用、工期の両面でデメリットを抱えていた。
このような観点から、本発明は、意匠性が良好で、施工手間と費用を低減することができるコンクリート構造物の補強パネルおよび補強構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するための本発明は、表面側から順に木材部、木質ボード部、炭素繊維シート部、フレキシブルボード部が積層されている補強パネルであって、木質ボード部は、下層側からの薬剤の浸透を防止する不透性を備えていることを特徴とするコンクリート構造用の補強パネルである。
本発明に係るコンクリート構造物の補強パネルによれば、表面に木材部を設けているので、意匠性が向上するとともに、仕上げ工事を省略あるいは簡素化できるので、施工手間と費用が低減される。また、下層側からの薬剤の浸透を防止する不透性を備えている木質ボード部を、木材部の裏側に設けているので、薬剤が木材部に染み出すことを防止できる。さらに、木材部と木質ボード部とは、変形率が近いので、木材部が沿ったり剥がれたりすることを抑制できる。
【0006】
前記課題を解決するための第二の本発明は、請求項1に記載のコンクリート構造物の補強パネルを複数用いてコンクリート構造物の表面に貼り合わせて形成したコンクリート構造物の補強構造である。かかる補強構造は、隣り合う前記補強パネル間に隙間を有し、該隙間に接続用のカバーパネルが配置されている。前記補強パネルの端部は、前記木材部の端部より前記木質ボード部の端部が長く、前記木質ボード部の端部より前記フレキシブルボード部の端部が長く張り出しており、前記炭素繊維シート部は、前記フレキシブルボード部の端部よりも外側まで伸びる長さを備えている。前記カバーパネルは、木材部の裏面に木質ボード部が積層されており、前記カバーパネルの端部は、前記木材部の端部が前記木質ボード部の端部より張り出しており、その張り出し長は、前記補強パネルの前記木質ボード部の端部の前記木材部の端部からの張り出し長さに相当することを特徴とする。
本発明に係るコンクリート構造物の補強構造によれば、補強パネルの木材部と木質ボード部と、カバーパネルの木材部と木質ボード部とを噛み合わせることができる。
本発明のコンクリート構造物の補強構造においては、前記補強パネルにて構成された複数の屈曲パネルと、前記屈曲パネル同士の接続部に取り付けられる平板状のカバーパネルとを備え、前記屈曲パネルは、前記コンクリート構造物の角部を覆う屈曲部を備えており、前記屈曲パネルは、断面コ字形状を呈し、断面矩形の前記コンクリート構造物を両側から挟むように一対設けられているものが好ましい。このような構成によれば、パネルの部品点数が減るので、施工手間と費用をより一層低減できる。
前記課題を解決するための第三の本発明は、請求項1に記載のコンクリート構造物の補強パネルを用いて断面円形もしくは楕円形のコンクリート構造物を補強するコンクリート構造物の補強構造である。かかる補強構造は、前記補強パネルにて構成された複数の湾曲パネルと、前記湾曲パネル同士の接続部に取り付けられる板状のカバーパネルとを備え、ている。前記湾曲パネルは、前記コンクリート構造物の湾曲部を覆う湾曲部を備えており、横方向に隣り合う前記湾曲パネルの前記炭素繊維シート部は、前記フレキシブルボード部の先端よりも突出して重なり合っており、横方向に隣り合う前記湾曲パネルの前記フレキシブルボード部は、木質ボード部の先端よりも突出しており、隣り合う前記木質ボード部間に第一の隙間が形成され、横方向に隣り合う前記湾曲パネルの前記木質ボード部は、前記木材部の先端よりも突出しており、隣り合う前記木材部間に第二の隙間が形成され、前記カバーパネルは、前記第一の隙間に挿入される木質ボード部と、前記第二の隙間に挿入される木材部とを重ね合わせてなり、前記カバーパネルの前記木質ボード部の厚さ寸法は、前記湾曲パネルの前記木質ボード部の厚さ寸法よりも小さいことを特徴とする。
本発明に係るコンクリート構造物の補強構造によれば、コンクリート構造物が断面円形または楕円形であっても、湾曲パネル同士の接合強度を高めることができる。さらに、湾曲パネルとカバーパネルの外表面を面一にすることができる。
本発明のコンクリート構造物の補強構造において、前記湾曲パネルは、断面円弧形状を呈し、断面矩形の前記コンクリート構造物を両側から挟むように一対設けられているものが好ましい。このような構成によれば、パネルの部品点数が減るので、施工手間と費用をより一層低減できる。
本発明のコンクリート構造物の補強構造において、上下方向に隣り合う前記木質ボード部同士は、隙間をあけて配置され、前記隙間には、上下方向に隣り合う前記炭素繊維シート部同士の接続部に当接するバックアップ材が介設されているものが好ましい。このような構成によれば、炭素繊維シート部の接着剤をバックアップ材で押さえられるので、木材部に接着剤が流れ出ない。
本発明のコンクリート構造物の補強構造において、隣り合う前記木質ボード部同士の接続部と、隣り合う前記木材部同士の接続部とは、オフセットしており、前記隣り合う木材部同士は、隙間をあけて配置されているものが好ましい。このような構成によれば、木材部間に隙間が形成されているので、湿度の変化などによる木材部の寸法変化を吸収することができる。また、木材部間の隙間の奥には木質ボード部が存在するので、バックアップ材や炭素繊維シート部が外側から見えず、意匠性の低下を防止できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコンクリート構造物の補強パネルおよび補強構造によれば、意匠性が良好となり、施工手間と費用を低減することができる
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の補強パネルおよび補強構造を示した斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の補強パネルおよび補強構造を示した断面図である。
図3】本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の補強構造の組立状態を示した図であって、(a)は屈曲パネルをコンクリート柱に設置する前の状態を示した断面図、(b)はカバーパネルをコンクリート柱に設置する前の状態を示した断面図である。
図4】本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の補強構造の組立状態を示した図であって、(a)は屈曲パネルの端部の炭素繊維シート部を重なり合わせた状態を示した拡大断面図、(b)はカバーパネルを設置した状態を示した拡大断面図である。
図5】本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の補強構造の上下方向に隣り合う補強パネル同士の連結状態を示した図であって、(a)は連結前の状態を示した拡大断面図、(b)は連結後の状態を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の補強パネルおよび補強連結について、添付した図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の補強パネルおよび補強構造を示した斜視図であり、図2は、断面図である。本実施形態では、補強されるコンクリート構造物1が鉄筋コンクリート造の柱である場合を例に挙げて、コンクリート構造物1の補強パネル2および補強構造3を説明する。以下の説明において、上下前後左右の方向は、前記柱を正面側から見た際の向きである(図1参照)。
図1および図2に示すように、補強パネル2は、コンクリート構造物1の外面に付設される。本実施形態では、コンクリート構造物1は、断面矩形のコンクリート柱であり、コンクリート構造物1の外周面の全体に渡って補強パネル2が周設されている。
【0010】
補強パネル2は、木材部10と、木質ボード部20と、炭素繊維シート部30と、フレキシブルボード部40とが表面側から順に積層されている。
木材部10は、例えば杉などの天然木材を用いた板材にて構成されており、表面に木目が現れ良好な意匠性を備えている。木材部10は、縦長の短冊状に形成された複数の羽目板11からなり、横方向並べられて木質ボード部20の表面に貼り付けられている。横方向に隣り合う羽目板11の端面同士は、さね加工された状態で接続されている。なお、羽目板11の端面形状は、さね形状に限定されるものではなく、特に加工せずに、単に突き合せた状態で接続してもよい。木材部10の表面には、例えばニスやステインが塗布されている。すなわち、木材部10の表面は、木目を生かした状態で保護されている。
木質ボード部20は、例えば木材を繊維化して成形したもの(ファイバーボード)や、木材の小片に合成樹脂接着剤を塗布して熱圧成形したもの(パーティクルボード)である。木質ボード部20は、エポキシ系樹脂の接着剤にて炭素繊維シート部30に接着されている。木質ボード部20は、木材部10を構成する天然木材よりも密度が高く、液体の浸透性が低い。木質ボード部20は、後記する炭素繊維シート部30に含侵されたエポキシ樹脂(接着剤)や、フレキシブルボード部40とコンクリート構造部1との間に充填される充填剤50の染み込みが発生しない密度を有している。つまり、木質ボード部20は、下層側からの薬剤(接着剤や充填剤50)の浸透を防止する不透性を備えている。したがって、木質ボード部20は、エポキシ樹脂や充填剤50が、木材部10へ浸透してしまうことを抑制する。
【0011】
炭素繊維シート部30は、コンクリート構造物1を実質的に補強する部分であって、炭素繊維シート31とエポキシ樹脂32とを備えている。炭素繊維シート31は、複数積層されており、フレキシブルボード部40を覆っている。エポキシ樹脂32は、炭素繊維シート31を構成する炭素繊維素線群を一体化させ、炭素繊維シート31に荷重が作用した際に素線が個別に破断するのを防ぐ。さらに、エポキシ樹脂32は、複数層の炭素繊維シート31を互いに固定するためのものであって、炭素繊維シート31に含浸されている。エポキシ樹脂32は、工場にて充填され、固化した状態で搬出される。炭素繊維シート部30の上下方向端部は、平坦状に形成されており、上下方向に隣り合う炭素繊維シート部30,30の端面同士は突き合わされている(図5の(b)参照)。
炭素繊維シート部30の横方向端部は、設置前の状態において、炭素繊維シート31にエポキシ樹脂32が含浸されていない(図3の(a)参照)。エポキシ樹脂32は、木質ボード部20の端部に相当する位置まで充填されており、それより先は、炭素繊維シート31が張り出している。炭素繊維シート31は、フレキシブルボード部40の先端よりもさらに突出している。突出した炭素繊維シート31の端部は、コンクリート構造物1への装着時に、隣り合う補強パネル2の炭素繊維シート31に重ねられ、現場にてその周囲にエポキシ樹脂32が充填される(図3の(b)参照)。
補強パネル2の高さ寸法は、炭素繊維シート31のロール高さ(例えば500mm)に合わせて設定されている。
【0012】
フレキシブルボード部40は、コンクリート構造物1の表面に対向する部位であって、セメントと補強繊維が主原料の不燃ボードであるフレキシブルボードにて構成されている。フレキシブルボード部40とコンクリート構造物1との間には、所定厚さの隙間が形成されており、当該隙間には充填材50が充填される。
充填材50は、フレキシブルボード部40をコンクリート構造物1に接着させるものであって、例えば無収縮モルタルや、エポキシ樹脂製の接着剤にて構成されている。充填材50は、補強パネル2の外表面から内表面に貫通された充填孔51(図2参照)を介して充填される。充填孔51は、少なくとも二つ設けられており、少なくとも一つは充填材50の充填用、残りは空気抜き用となる。充填材50の充填後、充填孔51の表面側端部には、木材部10と同じ材質の木栓52が嵌合される。
フレキシブルボード部40の上下方向両端部は、炭素繊維シート部30と同じ高さで平坦状に形成されており、上下方向に隣り合うフレキシブルボード部40,40の端面同士は突き合わされている(図5の(b)参照)。フレキシブルボード部40の横方向両端部は、平坦状に形成されており、横方向に隣り合うフレキシブルボード部40,40の端面同士は突き合わされている(図4参照)。
【0013】
隣り合う木材部10,10同士の接続部と、隣り合う木質ボード部20,20同士の接続部とは、オフセットしている。隣り合う木材部10,10同士は、隙間をあけて配置されており、木材部10,10間の隙間の奥には、一方の木質ボード部20が位置している。言い換えれば、木材部10と木質ボード部20の周縁部は、互いにオフセットして一方が突出した実形状(さね形状)となっている。補強パネル2の横方向端部では、図4に示すように、木材部10および木質ボード部20の一方の端部が他方の端部よりも突出している。補強パネル2の下端縁部では、図5に示すように、木質ボード部20の下端部が、木材部10の下端部よりも下方に突出している。補強パネル2の上端縁部では、木材部10の上端部が、木質ボード部20の下端部よりも上方に突出している。
【0014】
図5に示すように、木質ボード部20の上端部には、バックアップ材21が設置されている。つまり、上下方向に隣り合う木質ボード部20,20同士は、隙間をあけて配置され、この隙間には、バックアップ材21が介設されている。バックアップ材21は、補強パネル2の上下方向の連結部分において、充填材50が木材部10側へ流出するのを防止する部材である。バックアップ材21は、上下方向に隣り合う炭素繊維シート部30,30同士の接続部(目地)に当接するように、炭素繊維シート部30およびフレキシブルボード部40の上下方向の突合せ部に相当する高さ位置に配置されている。このようなバックアップ材21は、炭素繊維シート部30同士の目地に流れた充填材50を外側から押さえる。
図2に示すように、補強パネル2には、外表面から内表面に向けて、木材部10と木質ボード部20と炭素繊維シート部30とフレキシブルボード部40とを貫通する貫通孔55が形成されている。貫通孔55には、アンカー材56が挿通され、補強パネル2がアンカー材56を介してコンクリート構造物1に位置決めされる。貫通孔55の表面側端部には、木材部10と同じ材質の木栓52が嵌合される。
【0015】
次に、コンクリート構造物1の補強構造3を説明する。本実施形態に係る補強構造3は、断面矩形のコンクリート構造物1を補強する補強構造である。図3は、コンクリート構造物1の補強構造3の組立状態を示した断面図である。図4は、コンクリート構造物1の補強構造3の組立状態を示した要部拡大断面図である。図3に示すように、補強構造3は、屈曲パネル60とカバーパネル70とを備えている。
本実施形態の屈曲パネル60は、工場にて屈曲されて構成されており、柱(コンクリート構造物1)の角部を覆う屈曲部61を備えている。屈曲部61は二か所設けられ、屈曲パネル60は平面視でコ字状を呈している。屈曲パネル60は、断面矩形のコンクリート構造物1を左右両側から挟むように一対設けられており、端部同士が互いに接合されている。
図4の(a)に示すように、横方向に隣り合う屈曲パネル60のフレキシブルボード部40は、端面同士が突き合わされている。炭素繊維シート部30は、その先端部がフレキシブルボード部40の先端部よりも外側まで伸びる長さを備えている。フレキシブルボード部40の先端から突出した炭素繊維シート31は、隣り合う他の屈曲パネル60のフレキシブルボード部40の先端から突出した炭素繊維シート31と交互に重ね合わされている。炭素繊維シート31同士を重ね合わせる際には、施工現場にて、炭素繊維シート31同士の間にエポキシ樹脂32を順次塗布して接着する。施工現場にて形成された炭素繊維シート部30(左右に隣り合う屈曲パネル60の炭素繊維シート部30の接続部分)は、工場で形成された炭素繊維シート部30よりも厚さ寸法が大きくなる。
フレキシブルボード部40は、木質ボード部20の先端よりも他の屈曲パネル60側に突出している。つまり、木質ボード部20の端部よりフレキシブルボード部40の端部が長く張り出している。隣り合う木質ボード部20同士の間には、第一の隙間S1が形成されている。木質ボード部20は、木材部10の先端よりも他の屈曲パネル60側に突出している。つまり、木材部10の端部より木質ボード部20の端部が長くなっている。隣り合う木材部10同士の間には、第二の隙間S2が形成されている。第一の隙間S1と第二の隙間S2は連続しており、第一の隙間S1の横方向長さは、第二の隙間S2の横方向長さよりも小さくなっている。つまり、隣り合う木質ボード部20および木材部10の先端部間に、コンクリート構造物1側に向かって中間部が突出する断面凸状の隙間Sが形成されている。つまり、隣り合う屈曲パネル60,60をそれぞれ構成する補強パネル2,2間には、隙間Sが形成されており、この隙間Sに接続用のカバーパネル70が配置されている。
【0016】
カバーパネル70は、屈曲パネル60,60同士の接続部に取り付けられるパネルであって平板状を呈している。カバーパネル70は、第一の隙間S1に挿入される木質ボード部71と、第二の隙間S2に挿入される木材部72とを重ね合わせて構成されている。カバーパネル70の木質ボード部71の横方向長さは、第一の隙間S1の横方向長さより短く、木質ボード部71の両端に木質ボード部20との間の隙間が形成される。カバーパネル70の木質ボード部71の厚さ寸法は、屈曲パネル60の木質ボード部20の厚さ寸法よりも小さい。木質ボード部71の厚さと木質ボード部20の厚さの差は、は、施工現場にてエポキシ樹脂32を塗布して形成した炭素繊維シート部30の厚さと工場で形成された炭素繊維シート部30の厚さの差と同等である。
カバーパネル70の木材部72の横方向長さは、第二の隙間S2の横方向長さより短く、木材部72の両端には木材部10との間の目地となる1~2mmの隙間が形成される。カバーパネル70の木材部72は、屈曲パネル60の木材部10と同じ厚さである。
言い換えれば、カバーパネル70の端部は、木材部72の端部が木質ボード部71の端部より張り出しており、その張り出し長は、屈曲パネル60を構成する補強パネル2の木質ボード部20の端部の木材部10の端部からの張り出し長さに相当する。
カバーパネル70には、外表面から内表面に向けて、木材部10と木質ボード部20とを貫通する貫通孔75が形成されている。カバーパネル70の内側の屈曲パネル60の炭素繊維シート部30とフレキシブルボード部40には、貫通孔75と同軸位置に貫通孔55が形成されている。貫通孔75,55には、アンカー材56が挿通され、補強パネル2がアンカー材56を介してコンクリート構造物1に固定される。貫通孔75の表面側端部には、木材部10と同じ材質の木栓52が嵌合される。
【0017】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。本実施形態のコンクリート構造物1の補強パネル2および補強構造3によれば、木目を備えた木材部10を外周表面に設けているので、補強パネル2を設置するだけで、コンクリート構造物1の意匠性が向上する。そして、意匠性を向上させるための表面の仕上げ工事を省略あるいは簡略化できるので、フレキシブルボードが表面に露出した従来の補強パネルの表面に仕上げ工事を行う場合と比較して、施工手間と費用が低減される。また、木材部10の充填孔51や貫通孔55,75には、木栓52が嵌め込まれているので意匠性の低下を抑制できる。
木材部10の内側に、接着剤や充填剤70の染み込みが発生しない密度の木質ボード部20を設けているので、炭素繊維シート部30のエポキシ樹脂32やフレキシブルボード部40の内側の充填材50が、木質ボード部20を超えて木材部10に染み出すことを防止できる。
さらに、木材部10の内側に、木材部10と変形率が近い木質ボード部20が設けられているので、木材部10が反ったり剥がれたりすることを抑制できる。
【0018】
上下方向に隣り合う木質ボード部20,20間には、炭素繊維シート部30,30部同士の接続部(目地)に当接するバックアップ材21が介設されているので、上下に隣接するフレキシブルボード部40,40間および炭素繊維シート部30,30間に沿って充填材50が流れ出たとしても、バックアップ材21で止めることができる。したがって、木材部10に接着剤が流れ出なく、意匠性を低下させることがない。
また、隣り合う木材部10,10間には、隙間が設けられているので、湿度の変化などによる木材部10の寸法変化を吸収することができる。さらに、隣り合う木材部10,10同士の接続部(目地)と、隣り合う木質ボード部20,20同士の接続部(目地)とは、オフセットしているので、木材部10,10間の目地の奥には木質ボード部20が存在する。これによって、バックアップ材21や炭素繊維シート部30が外側から見えず、意匠性の低下を防止できる。
本実施形態のコンクリート構造物1の補強構造3によれば、隣り合う屈曲パネル60,60の炭素繊維シート部30の炭素繊維シート31同士が交互に重なり合い、その周囲にエポキシ樹脂32が塗布されているので、屈曲パネル60同士の接合部においても炭素繊維シート31の連続性を確保できる。
【0019】
また、補強構造3の表面が一様の木材部10,72で覆われるので、意匠性を高めることができる。さらに、カバーパネル70の木質ボード部71が、屈曲パネル60の木質ボード部20よりも薄いので、施工現場で炭素繊維シート31を重ね合わせてエポキシ樹脂32を塗布することで厚くなった炭素繊維シート部30の接続部の厚さ増加を吸収することができる。これによって、屈曲パネル60の木材部10の外表面と、カバーパネル70の木材部72の外表面とを面一にすることができる。
一対の断面コ字形状の屈曲パネル60,60を、コンクリート構造物1を両側から挟むように配置し、屈曲パネル60の境界部にカバーパネル70を配置すればよいので、施工手間と費用をより一層低減できる。
【0020】
次に本発明の第二の実施形態に係るコンクリート構造物の補強パネルおよび補強連結について説明する。前記実施形態では、補強するコンクリート構造物1が断面矩形の柱であったが、本実施形態では、補強するコンクリート構造物が断面円形または楕円形の柱である。前記実施形態では補強パネルは平板状であったが、本実施形態の補強パネルは、コンクリート構造物1の表面の曲面に沿った曲面形状となっている。なお、木材部を構成する羽目板は平板形状であり、平板状の補強パネルの羽目板11よりも短冊幅が小さくなっている。羽目板は、曲面に沿って順次傾斜するように木質ボード部の表面に貼り付けられている。その他の木質ボード部と、炭素繊維シート部と、フレキシブルボード部は、曲面形状に形成されており、曲面形状以外の各部構成、材質や寸法は前記実施形態と同等である。
本実施形態のコンクリート構造物の補強構造は、湾曲パネルとカバーパネルとを備えている。本実施形態の湾曲パネルは、コンクリート構造物の湾曲部を覆う湾曲部を備え、平面視で円弧状を呈している。湾曲パネルは、断面円形のコンクリート構造物を左右両側から挟むように一対設けられており、端部同士が互いに接合されている。湾曲パネルは、前記実施形態の屈曲パネル60を曲面形状にしたものであって、曲面形状以外の各部の基本的な構成や連結構造は、屈曲パネル60と同等である。例えば、横方向に隣り合う湾曲パネルの炭素繊維シートは、フレキシブルボード部の先端よりも突出して重なり合っている。横方向に隣り合う湾曲パネルのフレキシブルボード部は、木質ボード部の先端よりも突出しており、隣り合う木質ボード部間に第一の隙間が形成され、横方向に隣り合う湾曲パネルの木質ボード部は、木材部の先端よりも突出しており、隣り合う木材部間に第二の隙間が形成されている。
カバーパネルは、湾曲パネル同士の接続部に取り付けられるパネルであって湾曲した板状を呈している。カバーパネルは、前記実施形態のカバーパネル70を曲面形状にしたものであって、曲面形状以外の各部の基本的な構成や連結構造は、カバーパネル70と同等である。例えば、カバーパネルは、第一の隙間に挿入される木質ボード部と、第二の隙間に挿入される木材部とを重ね合わせて構成されている。また、カバーパネルの木質ボード部の厚さ寸法は、湾曲パネルの木質ボード部の厚さ寸法よりも小さい。
本実施形態に係るコンクリート構造物の補強構造によれば、コンクリート構造物が断面円形または楕円形であっても、前記実施形態と同様に、湾曲パネル同士の接合強度を高めることができる。さらに、湾曲パネルとカバーパネルの外表面を面一にすることができるので、意匠性が向上する。また、湾曲パネルは、コンクリート構造物を両側から挟むように一対設けられているので、パネルの部品点数が減り、施工手間と費用を低減できる。
【0021】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。たとえば、前記実施形態では、補強パネル2の上端部は、木材部10が木質ボード部20よりも上方に突出し、下端部は、木質ボード部20が木材部10よりも下方に突出しているが、逆であってもよい。つまり、補強パネル2の上端部は、木質ボード部20が木材部10よりも上方に突出し、下端部は、木材部10が木質ボード部20よりも下方に突出してもよい。この場合、バックアップ材21は、上側に配置される補強パネル2の木質ボード部20の下端に取り付けられ、木材部10の内側に配置されることになる。
また、断面コ字形状の屈曲パネル60で、コンクリート構造物1を左右両側から挟み込んで補強を行っているが、これに限定されるものではない。屈曲パネルを断面L字形状に形成し、コンクリート構造物1の四隅からそれぞれ覆うような形状にしてもよい。
さらに、前記実施形態では、炭素繊維シート31が複数層設けられているが、コンクリート構造1の断面が小さい場合には、炭素繊維シート31が単層であってもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 コンクリート構造物
2 補強パネル
3 補強構造
10 木材部
20 木質ボード部
21 バックアップ材
30 炭素繊維シート部
31 炭素繊維シート
32 エポキシ樹脂
40 フレキシブルボード部
50 充填材
60 屈曲パネル
61 屈曲部
70 カバーパネル
71 木質ボード部
72 木材部
75 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5