(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】電刷子
(51)【国際特許分類】
H01R 39/20 20060101AFI20240708BHJP
C22C 1/05 20230101ALI20240708BHJP
【FI】
H01R39/20
C22C1/05 Q
C22C1/05 U
(21)【出願番号】P 2021211930
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政広
(72)【発明者】
【氏名】蛯谷 玄太
【審査官】濱田 莉菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087110(JP,A)
【文献】特開2008-043028(JP,A)
【文献】特開平10-212146(JP,A)
【文献】特開平01-222641(JP,A)
【文献】特開平11-103562(JP,A)
【文献】特開平07-213022(JP,A)
【文献】特開平07-067294(JP,A)
【文献】国際公開第2016/010104(WO,A1)
【文献】特開2008-259352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R39/18
H01R39/20
B22F1/00-8/00
B22F10/00-12/90
C22C1/04-1/059
C22C33/02-33/02
H02K13/00-13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末と黒鉛粉末とケイ酸塩化合物とを含有する電刷子であって、
前記ケイ酸塩化合物がモンモリロナイト、カオリン、べントナイト、スメクタイト、タルクから選ばれる1種であり、前記金属粉末及び
前記黒鉛粉末の総量100重量%に対して、前記ケイ酸塩化合物が0.1重量%以上、1.0重量%以下含有されていることを特徴とする電刷子。
【請求項2】
前記ケイ酸塩化合物が、モンモリロナイト、べントナイト、スメクタイトから選ばれる1種であることを特徴とする請求項1に記載の電刷子。
【請求項3】
前記ケイ酸塩化合物が、前記金属粉末及び前記黒鉛粉末の総量100重量%に対して、0.6重量%以上、1.0重量%以下含有されていることを特徴とする請求項1に記載の電刷子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気機械等に用いられる電刷子に関し、例えば、スリップリングと接触して、良好な摺動状態を維持しながら通電する電刷子に関する。
【背景技術】
【0002】
電刷子は、摺動接触により、回転電機の固定部から回転部に通電する機能を有する部材であるため、導電性、摺動性及び耐摩耗性が要求される。
この電刷子は、特許文献1に示すように、導電性を確保するための銅粒子、摺動性及び耐摩耗性を確保するための黒鉛粒子、並びに銅粒子と黒鉛粒子とを結合させるためのバインダーを混合して成形した後、焼成することによって製造される。
【0003】
そしてまた、特許文献2では、自動車のスリップリングは高電流密度、高速度の過酷な条件下で用いられるため、カーボンブラシの耐摩耗性を向上させることを目的に、黒鉛粒子と、導電性ダイヤモンドライクカーボン膜によって被覆された銅粒子とを含むカーボンブラシが提案されている。
【0004】
更に、特許文献3では、導電性金属、黒鉛、バインダーの炭化物であるカーボン成分及び二硫化モリブデンからなる金属-黒鉛質電刷子において、前記導電性金属の粒子の表面に二硫化モリブデンを被膜状に存在させることによって、摩擦係数を小さくし、かつ、耐摩粍性を向上させた金属-黒鉛質電刷子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-299319号公報
【文献】特開2017-17796号公報
【文献】特開2002-175860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に示したいずれの電刷子も、摺動時において、社会的な要求を満たすような、安定した摺動状態が得られるものでなかった。
即ち、摺動時には摺動面の水分が減少し(適度な水分を含んだ黒鉛被膜の生成が抑制され)、黒鉛の潤滑性が悪化し、電刷子の摩耗が増大し、社会的な要求を満足させることができないという課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、適度な水分を含んだ黒鉛被膜が生成され、安定した摺動状態が得られる電刷子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた本発明にかかる電刷子は、金属粉末と黒鉛粉末とケイ酸塩化合物とを含有する電刷子であって、前記ケイ酸塩化合物がモンモリロナイト、カオリン、べントナイト、スメクタイト、タルクから選ばれる1種であり、前記金属粉末及び前記黒鉛粉末の総量100重量%に対して、前記ケイ酸塩化合物が0.1重量%以上、1.0重量%以下含有されていることを特徴としている。
【0009】
このように、金属粉末及び黒鉛粉末の総量100重量%に対して、モンモリロナイト、カオリン、べントナイト、スメクタイト、タルクから選ばれる1種である前記ケイ酸塩化合物が0.1重量%以上、1.0重量%以下含有されているため、適度な水分を含んだ黒鉛被膜が生成され、安定した摺動状態を得ることができ、電刷子の摩耗も抑制できる。
【0010】
ここで、特に、前記ケイ酸塩化合物が、モンモリロナイト、べントナイト、スメクタイトから選ばれる1種であることが望ましい。
また、前記ケイ酸塩化合物が、前記金属粉末及び前記黒鉛粉末の総量100重量%に対して、特に、0.6重量%以上、1.0重量%以下含有されていることが望ましい。
前記黒鉛粉末が60重量%以上95重量%以下、金属粉末が5重量%以上40重量%以下であることが望ましい。また、前記黒鉛粉末が黒鉛造粒粉であり、金属粉末が電解銅粉であることが望ましい。
【0012】
この本発明にかかる電刷子は、金属粉末及び黒鉛粉末の総量100重量%に対して、前記ケイ酸塩化合物が0.1重量%以上、1.0重量%以下配合した後、プレス成型し、焼成することによって、電刷子が製造される。
この電刷子は適度な水分を含んだ黒鉛被膜が生成され、安定した摺動状態を得ることができ、摩耗も抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、適度な水分を含んだ黒鉛被膜が生成され、安定した摺動状態が得られ、電刷子の摩耗を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明にかかる電刷子は、金属粉末と黒鉛粉末とケイ酸塩化合物とを含有し、加圧成形することによって形成される電刷子であって、前記金属粉末及び黒鉛粉末の総量100重量%に対して、前記ケイ酸塩化合物が0.1重量%以上、1.0重量%以下含有されている。
特に、ケイ酸塩化合物が0.1重量%以上、1.0重量%以下含有されている点に特徴がある。
【0015】
このように、ケイ酸塩化合物を用いることにより、水分を保持でき、摺動時に適度な水分を含んだ黒鉛被膜を生成でき、安定した摺動状態を得ることができる。これにより、電刷子の摩耗も抑制できる。尚、ケイ酸塩化合物を含有させた場合においても、従来の電刷子の製造方法と同様に、加圧成形し、その後、焼結(焼成)することにより電刷子を製造することができる。
【0016】
そして、前記ケイ酸塩化合物の含有量が、0.1重量%未満の場合には、電刷子の摩耗抑制が少なく、好ましくない。また、ケイ酸塩化合物の含有量が1.0重量%を超える場合には、抵抗率の上昇、強度の低下、潤滑の低下により短ライフとなり、好ましくない。
【0017】
前記ケイ酸塩化合物としては、保水性のある含水ケイ酸塩鉱物である、フィロケイ酸塩鉱物であることが望ましい。
このフィロケイ酸塩鉱物としては、モンモリロナイト、カオリン、ベントナイト、スメクタイト、タルク等がある。
【0018】
また、使用する金属粉末としては例えば銅、銀、アルミニウム、錫、鉛、マンガン、鉄、ニッケルなどを用いることができるが、特に銅、銀が好ましい。前記銅、銀を用いた場合には、導電性にすぐれているという特質をいかすことができる。
また、金属粉末として導電性に優れ、抵抗率や強度の調整が容易などの理由から電解銅粉末を用いるのが好ましい。
【0019】
また、黒鉛粉末としては、例えば燐片状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛粉末、カーボンブラック、コークス粉末などの人造黒鉛を挙げることができるが、特に天然黒鉛粉末を使用することが好ましい。天然黒鉛粉末を用いた場合には、人造黒鉛よりも潤滑性に優れているために、摺動特性を向上させることができ、電刷子としての寿命を長くさせることに寄与できる。
【0020】
黒鉛粉末はバインダーを添加し、造粒する。また、前記した黒鉛粉末に対して添加されるバインダーとしては、常温においては粉末状であり、加熱によって液状となる例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を使用するのが望ましい。
また前記バインダーの添加量は成型後、熱処理により必要充分な結合強度を得られる量であればよい。好ましくは、バインダーの添加量は1~30重量%である。
【0021】
黒鉛造粒粉の粒度分布は、20μm乃至1000μmのもの(または15メッシュパス)が用いられ、より好ましくは、50μm乃至300μmのものが用いられる。
黒鉛造粒粉の粒度分布が1000μmを越える場合においては、機械的な強度が低下するという問題点が発生し、一方、20μm未満の場合においては、抵抗率が著しく増加するという不都合が発生する。
【0022】
そして、上記したように、黒鉛粉末にバインダーを添加、造粒し、所定の粒度分布を有する黒鉛造粒粉とし、金属粉末として電解銅粉を添加するのがより望ましい。
尚、金属粉末と黒鉛粉末とケイ酸塩化合物の他に、固体潤滑剤を添加しても良い。固体潤滑剤としては、高温時の潤滑性に優れているという理由により、二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化タングステン(WS2)、窒化ホウ素(BN)のいずれか1つまたは複数が用いても良い。
【0023】
前記金属粉末と前記黒鉛粉末(黒鉛造粒粉)との配合割合については特に制限はないが、金属含有量を増加させると、電刷子本体の導電率を増大させることができるものの、火花が発生し、摺動不良が発生する。一方、黒鉛粉末(黒鉛造粒粉)を増加させると、電刷子強度の低下、過度の発熱によって、電刷子の耐摩耗性が悪化する。
好ましくは、前記黒鉛粉末が60重量%以上95重量%以下、金属粉末が5重量%以上40重量%以下であることが望ましい。
【0024】
さらに加圧成型については特に制限はなく、通常の公知の方法で行うものとし、例えば成型圧力は2乃至4トン/cm2で成型することが好ましい。熱処理温度は400℃~900℃以下で処理することが好ましい。
【0025】
この本発明にかかる電刷子を製造するには、金属粉末として例えば電解銅粉末を5重量%以上40重量%以下、例えば天然黒鉛粉を用いた黒鉛造粒粉を60重量%以上95重量%以下とし、総量100重量%とする。
そして、ケイ酸塩化合物として、フィロケイ酸塩鉱物を0.1重量%以上、1.0重量%以下添加する。
尚、前記電解銅粉末は、その平均粒径が40乃至50μm(または300メッシュパス)のものが用い、また黒鉛造粒粉は、粒径が50乃至300μm(または50メッシュパス)のものを用いるのが好ましい。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
金属粉末として電解銅粉末を30重量%、天然黒鉛粉を用いた黒鉛造粒粉を70重量%とし、総量100重量%とした。そして、ケイ酸塩化合物として、モンモリロナイトを0.6重量%添加した。
尚、前記電解銅粉末は、その平均粒径が40乃至50μm(または300メッシュパス)のものが用い、また黒鉛造粒粉は、粒径が50乃至300μm(または50メッシュパス)のものを用いた。
【0027】
これにバインダーとしてフェノール樹脂粉末をさらに20重量%添加し、4トン/cm2の成型圧力で角柱状に成型した。これを600℃で2時間熱処理した。
その後、10mm×16mm×32mmに切り出し、リード線を埋め込み電刷子とした。
【0028】
次に、この電刷子とSUS製スリップリングを用いて摺動試験を行った。
スリップリングの材質はSUS304、スリップのリング周速は25m/s、スリップリングのバネ圧:200g/cm2、電流密度:10A/cm2とし、湿度30%、温度20~25℃の条件下で、電刷子をスリップリングに対して1000時間摺動させ、電刷子の摩耗量を測定した。その結果を表1に示す。
【0029】
(実施例2乃至実施例5)
電解銅粉末と黒鉛造粒粉とモンモリロナイトの配合量を表1に示す配合量とし、その他の条件は実施例1と同一とし、電刷子の摩耗量を測定した。その結果を表1に示す。
【0030】
(比較例1乃至比較例5)
電解銅粉末と黒鉛造粒粉とモンモリロナイトの配合量を表1に示す配合量とし、その他の条件は実施例1と同一とし、電刷子の摩耗量を測定した。その結果を表1に示す。
尚、比較例2は電解銅粉末が配合されていない場合を、比較例3、4、5は、モンモリロナイトが配合されていない場合を示している。
【0031】
【0032】
測定結果から、黒鉛粉末が60重量%以上95重量%以下、金属粉末が5重量%以上40重量%以下、モンモリロナイト(ケイ酸塩化合物)が0.1重量%以上、1.0重量%以下含有されている場合に、電刷子の摩耗量が少ないことが確認された。
【0033】
モンモリロナイトをペントナイト、スメクタイトに変え、それぞれ実施例1~5、比較例1、2の含有量で同様に実験をした。
その結果、電刷子摩耗量はモンモリロナイト同様、黒鉛粉末が60重量%以上95重量%以下、金属粉末が5重量%以上40重量%以下、ペントナイト、スメクタイトが0.1重量%以上、1.0重量%以下含有されている場合に、電刷子の摩耗量が少ないことが確認された。
【0034】
本発明の電刷子は、整流子用またはスリップリング用のいずれにも用いることができるが、特に、スリップリングと接触するスリップリング用の電刷子として用いるのが、より好ましい。