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  • 特許-大動脈瘤の治療用医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】大動脈瘤の治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4704 20060101AFI20240708BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
A61K31/4704
A61P9/14
A61P43/00 121
A61P3/06
A61K31/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021505156
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020011042
(87)【国際公開番号】W WO2020184703
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2019045333
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】海野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】矢田 達朗
(72)【発明者】
【氏名】嘉山 貴文
(72)【発明者】
【氏名】井上 敬介
(72)【発明者】
【氏名】戸屋 清志
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-178460(JP,A)
【文献】国際公開第2013/103148(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/132091(WO,A1)
【文献】特許第7300387(JP,B2)
【文献】ZHANG, Q. et al.,Suppression of Experimental Abdominal Aortic Aneurysm in a Rat Model by the Phosphodiesterase 3 Inhi,Journal of Surgical Research,2011年,Vol.167,P. e385-e393
【文献】UMEBAYASHI, R. et al.,Cilostazol Attenuated Angiotensin II-induced Abdominal Aortic Aneurysms in Apolipoprotein E deficien,第44回日本動脈硬化学会総会プログラム・抄録集,2012年,P.252
【文献】KOGA, Y. et al.,2(1H)-Quinolinone derivatives as novel anti-arteriostenotic agents showing anti-thrombotic and anti-,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,1998年,Vol.8,P.1471-1476
【文献】TAKAGI, H. et al.,A meta-analysis of clinical studies of statins for prevention of abdominal aortic aneurysm expansion,J. Vasc. Surg.,2010年,Vol.52/No.5,P.1675-1681
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを有効成分とする大動脈瘤の治療剤であって、
大動脈瘤の治療が、瘤の破裂抑制、及び瘤の拡大抑制からなる群から選択される少なくとも一の治療を含み、
スタチンがプラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン及びロスバスタチンからなる群から選択されるものである、
治療剤
【請求項2】
(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを有効成分とする大動脈瘤の破裂抑制剤であって、
スタチンがプラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン及びロスバスタチンからなる群から選択されるものである、
破裂抑制剤
【請求項3】
大動脈瘤が腹部大動脈瘤である、請求項に記載の破裂抑制剤。
【請求項4】
破裂抑制が、ステントグラフト内挿術後の破裂抑制である、請求項又はに記載の破裂抑制剤。
【請求項5】
(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを有効成分とする大動脈瘤の拡大抑制剤であって、
スタチンがプラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン及びロスバスタチンからなる群から選択されるものである、
拡大抑制剤
【請求項6】
大動脈瘤が腹部大動脈瘤である、請求項に記載の拡大抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大動脈瘤の治療用医薬組成物に関する。特には、腹部大動脈瘤の治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
大動脈瘤は「大動脈の一部の壁が、全周性、または局所性に(径)拡大または突出した状態」として定義される。ここで、大動脈壁の一部が局所的に拡張して瘤を形成する場合、または直径が正常径の1.5倍(胸部で45mm、腹部で30mm)を超えて拡大した(紡錘状または嚢状に拡大した)場合に「瘤(Aneurysm)」と称される。我が国における年間発症頻度は人口10万人あたりおよそ3人と報告されているが、日本胸部外科学会の統計によれば、大動脈瘤手術の件数は年々増加傾向にある。
【0003】
大動脈瘤は、その瘤壁の形態、瘤の存在部位、原因、瘤の形などによって分類される。
瘤壁の形態としては、真正、仮性、及び解離性の大動脈瘤に分類される。
瘤の存在部位としては、胸部、胸腹部、及び腹部大動脈瘤に分類される。
大動脈瘤は、その原因から動脈硬化性、外傷性、炎症性、感染性、及び先天性のものに分類される。
また、瘤の形から、大動脈瘤は紡錘状及び嚢状に分類される。
【0004】
腹部大動脈瘤(Abdominal Aortic Aneurysm;以下、「AAA」とも言う。)は、大動脈壁が脆弱となり正常径の1.5倍以上(AAA最大短径30mm超)に拡大する疾患であり、破裂に至った場合の死亡率は50~90%に上ると言われている。AAAの破裂率(%/年)は、AAA最大短径が30mm程度の場合はほぼ0%/年であるものの、径が大きくなる程高まり、70mmを超えると20~40%/年にもなると言われている。破裂のおそれがあるAAAに対する薬物治療は確立しておらず、大動脈瘤切除術(人工血管置換術)又はステントグラフト内挿術により瘤の破裂を防ぐ外科的手術が唯一の治療法である。外科的手術の実施目安はAAA最大短径50mm超あるいは半年以内に5mm以上の拡大を認めたものとされている(参考文献http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_takamoto_d.pdf)。しかし、AAAは高齢者に多く、開腹を要する大動脈瘤切除術を全身状態の悪さから選択できない患者や、大動脈瘤の形態学的な制約によりステントグラフトが適応できない患者では治療を行うことができない。そのため、瘤の拡大、破裂を予防あるいは抑制することによる大動脈瘤治療剤の開発が強く望まれている。
【0005】
AAAの治療剤開発に関しては、APO-E欠損マウスを用いてのAngiotensinII持続投与(AngII)誘発モデル、エラスターゼ誘発モデル、塩化カルシウム(CaCl)誘発モデルなどの動物モデルを用いた研究が知られている。しかし、これらの動物モデルでの有効性を確認した後、さらに臨床試験で有効性を示し得た薬剤はない。結果として臨床で使用可能な治療剤は今日に至るまで1つも存在しない。
【0006】
上記の事実は、これらの動物モデルを用いた基礎研究自体の限界を示唆しているとも考えられる。即ち、これらの動物モデルは、血管壁を構成する内膜、中膜、外膜のうち内膜の動脈硬化や中膜に外的に炎症を惹起させて動脈瘤を形成させるものであるが、このようにして誘発される大動脈瘤はヒトAAAの病態の一部を構成しているにすぎない。すなわち、ヒト大動脈瘤の病態を忠実に反映しているとは必ずしもいえない。具体的には、動脈瘤が破裂に至らない(エラスターゼ誘発、又はCaCl誘発モデル)、最大短径が持続的に拡大しない(AngII誘発、エラスターゼ誘発、又はCaCl誘発モデル)、大動脈瘤の壁内に壁在血栓が付着しない(AngII誘発、又はCaCl誘発モデル)など、ヒトAAAとの相違点が多いことが問題とされている(非特許文献1)。
【0007】
既存モデルの中で破裂に至るモデルとして、AngII誘発モデルがある。しかしこのモデルでは、そもそも腹部というより胸部や、横隔膜直下の大動脈に瘤が形成されるので、ヒトAAAのほとんどが腎動脈分枝以下の大動脈に発生することを考慮すると、AngII誘発モデルはヒトAAAを直接模倣するものではない。また、大動脈の一部の壁が拡大(または突出)した状態であるヒトAAAとは異なり、大動脈壁が二層に剥離し動脈走行に沿って二腔になった状態である大動脈解離像を呈することから、病理学的にも相違が認められる。よって、AngII誘発モデルはAAAの破裂を評価する実験モデルとしては適切とは言えない。またモデル動物において誘発された動脈瘤の拡大を抑制しても破裂を抑制しえなかった事例(非特許文献2)もあることから、既存モデルを参照する限り、AAA拡大を抑制することによってAAAの破裂を抑制できると考える蓋然性はない。
【0008】
このような中、ヒトAAAの病理組織観察より、大動脈壁内血流を司る微小血管であるvasa vasorum(VV)の狭窄からAAA壁が虚血、低酸素状態にあることが見出され、VVの循環不全、壁組織の低酸素を惹起することにより、従来のモデルと比べヒトのAAA病理組織像により近似した動物モデルが新たに開発された(非特許文献3)。このモデルの大動脈瘤病理組織像では、動脈壁の内膜肥厚や中膜変性像に加え、従来の動物モデルでは認められなかった壁在血栓の増加や外膜の脂肪細胞の増加が再現されており、このモデルを利用することで新たにAAA破裂と壁の脂肪細胞造成との関連が示された(非特許文献4)。発明者等はラットで作成された本モデル(以下、「大動脈壁低酸素誘発ラットAAAモデル」と表記することがある。)を用いることにより、従来モデルよりもより適切に薬剤の効果を評価することが可能と考えられた。
【0009】
(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン(以下、「化合物1」と表記することがある。)は、抗血小板作用、抗血栓作用やPDE3阻害作用を有し、適用対象としては、脳粥状硬化、脳梗塞、一過性脳虚血発作、回復型虚血性神経脱落症等の脳疾患、心筋梗塞、狭心症等の心疾患、バージャー病、閉塞性動脈硬化症、間欠性跛行等の慢性動脈閉塞症、糖尿病性神経症、糖尿病性皮膚潰瘍、糖尿病性腎症等の糖尿病合併症、経皮的冠動脈形成術(PTCA)、方向性冠動脈粥腫切除術(DCA)やステントのインターベンション処置後の再狭窄防止、人工血管等の人工臓器や腎等の移植処置後の再閉塞の防止、また手術後、人工腎透析等の体外循環時の血栓、塞栓の発生防止等の虚血性疾患等が知られている(非特許文献5、特許文献1)。しかしながら、化合物1が大動脈瘤の治療、例えば腹部大動脈瘤の破裂抑制や拡大抑制に基づく治療に有効であることは知られていない。
【0010】
一方、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤として知られているスタチンは、脂質異常症の治療のために広く世界中で使用されている。このクラスの薬物は、LDL-Cレベルを低下させるのに特に効果的であり、心血管疾患の罹患率を低下させると信じられている。
スタチンのAAAに対する効果に関しては、スタチンの抗炎症効果等を期待した複数の報告がある(非特許文献6~9)ものの、有効性について一貫した結果を得ていないことが指摘されている(非特許文献10)。
また、化合物1とスタチンとを併用した場合のAAAに対する効果については何ら知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】

【文献】WO97/12869号
【非特許文献】
【0012】
【文献】Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 2017(Mar);37(3):401-10
【文献】Atherosclerosis 2010; 210(1):51-6
【文献】PLoS ONE 2015;10(8):e0134386
【文献】Sci. Rep. 2016;6:31268
【文献】Biochem. Biophys. Research Commun. 2007;353(4):1111-14
【文献】J. Vasc. Surg. 2006;43(1):117-24
【文献】Ann. Surg. 2005;241(1):92-101
【文献】Atherosclerosis 2009;202(1):34-40
【文献】Int. J. Mol. Sci. 2015;16(5):11213-28
【文献】Eur. J. Vasc. Endovasc. Surg. 2015;50(6):702-13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、大動脈瘤に対する治療用組成物、特には、腹部大動脈瘤の破裂や拡大を抑制する治療用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、化合物1とスタチンとを併用することにより、大動脈壁低酸素誘発ラットAAAモデルにて腹部大動脈瘤の破裂を抑制し、さらに、拡大を抑制することを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン(化合物1)若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを組み合わせてなる大動脈瘤の治療用医薬組成物に関する。より好ましくは、本発明は、化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを組み合わせてなる腹部大動脈瘤の治療用医薬組成物に関する。さらに好ましい態様において、本発明の腹部大動脈瘤の治療とは大動脈瘤の破裂抑制及び/又は拡大抑制であって、本発明は、化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを組み合わせてなる腹部大動脈瘤の破裂抑制及び/又は拡大抑制剤に関する。ここで、大動脈瘤の破裂抑制とは、大動脈瘤の破裂予防と言うこともできる。よって、本発明の一態様である(腹部)大動脈瘤の破裂抑制剤とは、(腹部)大動脈瘤の破裂予防剤と言うこともできる。
【0016】
また、本発明は、一つの好ましい態様として、ステントグラフト内挿術後の大動脈瘤患者に対する治療用医薬組成物に関する。当該医薬組成物は、破裂抑制、拡大抑制、及び/又は縮小化によって大動脈瘤の治療を行うものである。例えば、本発明は、(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを組み合わせてなるステントグラフト内挿術後の腹部大動脈瘤の破裂抑制剤に関する。
【0017】
また、別の好ましい態様として、本発明は、ステントグラフト内挿術あるいは大動脈瘤切除術(人工血管置換術)前の大動脈瘤患者に対する治療用医薬組成物に関する。ステントグラフト内挿術あるいは大動脈瘤切除術(人工血管置換術)前の段階において、本発明の治療用医薬組成物は大動脈瘤の治療(破裂抑制、拡大抑制、及び/又は縮小化)のために用いられる。例えば、本発明は、(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを組み合わせてなるステントグラフト内挿術あるいは大動脈瘤切除術(人工血管置換術)前の腹部大動脈瘤の破裂抑制剤に関する。
【0018】
すなわち、本発明は、(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンとの併用による、大動脈瘤の治療用途に関する。本発明は、(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを含む組成物を提供する。当該組成物の一態様は、医薬組成物である。当該医薬組成物の一態様は、大動脈瘤治療用の医薬組成物である。より具体的には、本発明は、次の[1]~[49]に関する。
[1](-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを組み合わせてなる、大動脈瘤の治療用医薬組成物。
[2]大動脈瘤の治療が、瘤の破裂抑制、瘤の拡大抑制及び瘤の縮小化からなる群から選択される少なくとも一の治療を含む、前記[1]に記載の治療用医薬組成物。
[3]大動脈瘤の治療が大動脈瘤の破裂抑制である、前記[1]又は[2]に記載の治療用医薬組成物。
[4]大動脈瘤の治療が大動脈瘤の拡大抑制である、前記[1]又は[2]に記載の治療用医薬組成物。
[5]ステントグラフト内挿術後の大動脈瘤患者に用いられるものである、前記[1]乃至[4]のいずれか一に記載の治療用医薬組成物。
[6]ステントグラフト内挿術あるいは大動脈瘤切除術(人工血管置換術)前の大動脈瘤患者に用いられるものである、前記[1]乃至[4]のいずれか一に記載の治療用医薬組成物。
[7]大動脈瘤が腹部大動脈瘤である、前記[1]乃至[6]のいずれか一に記載の治療用医薬組成物。
[8]腹部大動脈瘤の最大短径が30mm超、又は40mm超の腹部大動脈瘤患者に用いられるものである、前記[7]に記載の治療用医薬組成物。
[9]腹部大動脈瘤の最大短径が50mm以下の腹部大動脈瘤患者に用いられるものである、前記[8]に記載の治療用医薬組成物。
[10]腹部大動脈瘤の最大短径が50mm超、60mm超、又は70mm超の腹部大動脈瘤患者に用いられるものである、前記[7]又は[8]に記載の治療用医薬組成物。
[11]薬学的に許容される担体を含有するものである、前記[1]乃至[10]のいずれか一に記載の治療用医薬組成物。
[12]スタチンが、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、及びロスバスタチンからなる群から選択されるスタチンである、前記[1]乃至[11]のいずれか一に記載の治療用医薬組成物。
[13]スタチンが、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である、前記[1]乃至[12]のいずれか一に記載の治療用医薬組成物。
[14]スタチンが、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である前記[1]乃至[13]のいずれか一に記載の治療用医薬組成物。
【0019】
[15]治療を必要とする対象に有効量の(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを投与する工程を含む、大動脈瘤の治療方法であって、対象が腹部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、及び胸部大動脈瘤からなる群から選択される大動脈瘤を有する患者である、治療方法。
[16]必要とされる治療が、大動脈瘤の破裂抑制、拡大抑制及び縮小化からなる群から選択される治療である、前記[15]に記載の治療方法。
[17]必要とされる治療が大動脈瘤の破裂抑制である、前記[15]又は[16]に記載の治療方法。
[18]必要とされる治療が大動脈瘤の拡大抑制である、前記[15]又は[16]に記載の治療方法。
[19]対象がステントグラフト内挿術後の大動脈瘤患者である、前記[15]乃至[18]のいずれか一に記載の治療方法。
[20]対象がステントグラフト内挿術あるいは大動脈瘤切除術(人工血管置換術)前の大動脈瘤患者である、前記[15]乃至[18]のいずれか一に記載の治療方法。
[21]対象が腹部大動脈瘤を有する患者である、前記[15]乃至[20]のいずれか一に記載の治療方法。
[22]対象が最大短径が30mm超、又は40mm超の腹部大動脈瘤を有する患者である、前記[21]に記載の治療方法。
[23]対象が最大短径が50mm以下の腹部大動脈瘤を有する患者である、前記[22]に記載の治療方法。
[24]対象が最大短径が50mm超、60mm超、又は70mm超の腹部大動脈瘤を有する患者である、前記[21]又は[22]に記載の治療方法。
[25]薬学的に許容される担体と共に投与されるものである、前記[15]乃至[24]のいずれか一に記載の治療方法。
[26]スタチンが、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、及びロスバスタチンからなる群から選択されるスタチンである、前記[15]乃至[25]のいずれか一に記載の治療方法。
[27]スタチンが、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である、前記[15]乃至[26]のいずれか一に記載の治療方法。
[28]スタチンが、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である、前記[15]乃至[27]のいずれか一に記載の治療方法。
【0020】
[29]大動脈瘤の治療用医薬組成物の製造のための、(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンの組合せの使用。
[30]大動脈瘤の治療が、瘤の破裂抑制、瘤の拡大抑制及び瘤の縮小化からなる群から選択される少なくとも一の治療を含む、前記[29]に記載の使用。
[31]大動脈瘤の治療が大動脈瘤の破裂抑制である、前記[29]又は[30]に記載の使用。
[32]大動脈瘤の治療が大動脈瘤の拡大抑制である、前記[29]又は[30]に記載の使用。
[33]ステントグラフト内挿術後の大動脈瘤患者に用いられるものである、前記[29]乃至[32]のいずれか一に記載の使用。
[34]ステントグラフト内挿術あるいは大動脈瘤切除術(人工血管置換術)前の大動脈瘤患者に用いられるものである、前記[29]乃至[32]のいずれか一に記載の使用。
[35]大動脈瘤が腹部大動脈瘤である、前記[29]乃至[34]のいずれか一に記載の使用。
[36]治療用医薬組成物が薬学的に許容される担体を含有するものである、前記[29]乃至[35]のいずれか一に記載の使用。
[37]スタチンが、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、及びロスバスタチンからなる群から選択されるスタチンである、前記[29]乃至[36]のいずれか一に記載の使用。
[38]スタチンが、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である、前記[29]乃至[37]のいずれか一に記載の使用。
[39]スタチンが、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である、前記[29]乃至[38]のいずれか一に記載の使用。
【0021】
[40]大動脈瘤の治療における使用のための、(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンの組合せ。
[41]大動脈瘤の治療が、瘤の破裂抑制、瘤の拡大抑制及び瘤の縮小化からなる群から選択される少なくとも一の治療を含む、前記[40]に記載の(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンの組合せ。
[42]大動脈瘤の治療が大動脈瘤の破裂抑制である、前記[40]又は[41]に記載の(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンの組合せ。
[43]大動脈瘤の治療が大動脈瘤の拡大抑制である、前記[40]又は[41]に記載の(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンの組合せ。
[44]治療がステントグラフト内挿術後の大動脈瘤患者に対する治療である、前記[40]乃至[43]のいずれか一に記載の(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンの組合せ。
[45]治療がステントグラフト内挿術あるいは大動脈瘤切除術(人工血管置換術)前の大動脈瘤患者に対する治療である、前記[40]乃至[43]のいずれか一に記載の(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンの組合せ。
[46]大動脈瘤が腹部大動脈瘤である、前記[40]乃至[45]のいずれか一に記載の(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンの組合せ。
[47]スタチンが、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、及びロスバスタチンからなる群から選択されるスタチンである、前記[40]乃至[46]のいずれか一に記載の(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンの組合せ。
[48]スタチンが、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である、前記[40]乃至[47]のいずれか一に記載の(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンの組合せ。
[49]スタチンが、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である、前記[40]乃至[48]のいずれか一に記載の(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンの組合せ。
【0022】
また、本発明は、次の[A]~[G]のように記載される発明にも関する。
[A](-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを有効成分とする大動脈瘤の治療剤。
[B]大動脈瘤の治療が、瘤の破裂抑制、瘤の拡大抑制及び瘤の縮小化からなる群から選択される少なくとも一の治療を含む、前記[A]に記載の治療剤。
[C](-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを有効成分とする大動脈瘤の破裂抑制剤。
[D]大動脈瘤が腹部大動脈瘤である、前記[C]に記載の破裂抑制剤。
[E]破裂抑制が、ステントグラフト内挿術後の破裂抑制である、前記[C]又は[D]に記載の破裂抑制剤。
[F](-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンを有効成分とする大動脈瘤の拡大抑制剤。
[G]大動脈瘤が腹部大動脈瘤である、前記[F]に記載の拡大抑制剤。
【発明の効果】
【0023】
本発明の化合物1とスタチンとの併用は、後記実施例に示すとおり、大動脈壁低酸素誘発ラットAAAモデルにおいてAAAの破裂を抑制し、非破裂生存率の改善を示した。さらに、大動脈壁低酸素誘発ラットAAAモデルにおいてAAA瘤径の拡大を抑制した。従って、本発明の(-)-6-[3-[3-シクロプロピル-3-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]-2(1H)-キノリノン若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及びスタチンは、腹部大動脈瘤の破裂抑制及び/又は拡大抑制に代表される、大動脈瘤に対する新たな内科的治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、大動脈壁低酸素誘発ラットAAAモデルに一般飼料、又は化合物1のみ、若しくは化合物1及びピタバスタチンカルシウムを一般飼料に混餌させた飼料をAAAモデル作成手術の1週間前(術前7日)から投与した時の瘤径(AAA最大短径)の経日変化を示す図である。縦軸は瘤径、横軸はAAA誘導処置の術後経過日数(PODは術後日数を意味する)を示す。箱ひげ図は、各群の瘤径の最小値、第一四分位数、中央値、第三四分位数、最大値(mm)を示す。検体数(n)は各時点の生存例を測定しているため、時点により異なる。なお、手術後7日の瘤径計測までに死亡したラットはいないが、手術後14日以降では死亡したラットの瘤径が欠測している。図中、アスタリスク(*)は、各時点についてKruskal-Wallis検定によりp<0.05である時に、さらに各群間についてDunn-Bonferroni法でp<0.05の有意差が認められたことを示す。
図2図2は、大動脈壁低酸素誘発ラットAAAモデルに一般飼料、又は化合物1のみ、若しくは化合物1及びピタバスタチンカルシウムを一般飼料に混餌させた飼料をAAAモデル作成手術の1週間前(術前7日)から投与した時の非破裂生存率を示す図である。縦軸を累積生存(大動脈壁低酸素誘発ラットAAAモデルの誘発処置時点の生存を1.0とする)、横軸に術後経過日数(誘発処置日を0日とした処置後の経過日数)として、対照群(n=22)、化合物1群(n=22)及び併用群(n=10)の生存関数を示した。なお観察中に認めた原因不明の死亡並びに28日観察終了に伴う犠牲死は、破裂による死亡と生存のどちらにも該当しないことから打ち切り(×)とし、その後の生存率、破裂率の集計から除外した。図2の下部の表において、検体数は各時点の開始時における生存例を示す。なお各時点の瘤径測定までに死亡した検体があるため、図1とは検体数が異なる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明における化合物1は公知であり、前記特許文献1(WO97/12869号)に記載の方法、又はそれに準じた方法によって製造することができる。
また、本発明では化合物1の塩若しくは溶媒和物を用いることもできる。化合物1の塩及び溶媒和物は、常法により製造することができる。
【0026】
本発明の化合物1の塩としては塩基との付加塩が挙げられ、薬学的に許容できるものであれば特に制限はない。このような塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属類、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属類との塩基付加塩が挙げられる。
【0027】
本発明の化合物1の溶媒和物としては、水和物、アルコール和物(例えば、エタノール和物)等が挙げられる。
【0028】
化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、患者の体重、年齢、性別、症状等によって異なり、当業者であれば適宜設定することができるが、通常成人の場合、化合物1として一日0.01~1000mg、好適には5~400mg、特に好適には25~200mgを1回又は2回以上に分けて投与するのが好ましい。
【0029】
本明細書において「スタチン」とはHMG-CoA還元酵素阻害剤であり、例えば、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン若しくはそれらの塩又はそれらの溶媒和物が挙げられる。好ましいスタチンとしてはピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が挙げられる。また、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン若しくはそれらの塩又はそれらの溶媒和物は、市販品として入手できる。
【0030】
本明細書において「プラバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」には、プラバスタチンそのもののほか、プラバスタチンの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩;アンモニウム塩等)、さらにはプラバスタチンやその薬学上許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物も含まれ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
プラバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、プラバスタチンナトリウム(化学名:Monosodium(3R,5R)-3,5-dihydroxy-7-{(1S,2S,6S,8S,8aR)-6-hydroxy-2-methyl-8[-(2S)-2-methylbutanoyloxy]-1,2,6,7,8,8a-hexahydronaphthalen-1-yl}heptanoate)が好ましい。
プラバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の化合物であり、例えば、特開昭57-2240号公報、米国特許第4346227号明細書等に記載の方法により製造することができる。
【0031】
プラバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、プラバスタチンナトリウム換算で1~160mg、より好適には2~120mg、特に好適には5~80mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0032】
本明細書において「シンバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」には、シンバスタチンそのもののほか、シンバスタチンの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩;アンモニウム塩等)、さらにはシンバスタチンやその薬学上許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物も含まれこれらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
シンバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、シンバスタチン(化学名:(1S,3R,7S,8S,8aR)-8-[2-[(2R,4R)-4-hydroxy-6-oxotetrahydro-2H-pyran-2-yl]ethyl]-3,7-dimethyl-1,2,3,7,8,8a-hexahydronaphthalen-1-yl 2,2-dimethylbutanoate)が好ましい。
シンバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の化合物であり、例えば、米国特許第4444784号明細書等に記載の方法により製造することができる。
【0033】
シンバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、シンバスタチンのフリー体換算で1~160mg、より好適には2~120mg、特に好適には5~80mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0034】
本明細書において「フルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」には、フルバスタチンそのもののほか、フルバスタチンの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩;アンモニウム塩等)、さらにはフルバスタチンやその薬学上許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物も含まれ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
フルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、フルバスタチンナトリウム(化学名:(±)-(3RS,5SR,6E)-sodium-7-[3-(4-fluorophenyl)-1-(1-methylethyl)-1H-indol-2-yl]-3,5-dihydroxy-6-heptenoate)が好ましい。
フルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の化合物であり、例えば、特表昭60-500015号公報、米国特許第5354772号明細書等に記載の方法により製造することができる。
【0035】
フルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、フルバスタチンのフリー体換算で1~160mg、より好適には5~120mg、特に好適には10~80mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0036】
本明細書において「アトルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」には、アトルバスタチンそのもののほか、アトルバスタチンの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩;アンモニウム塩等)、さらにはアトルバスタチンやその薬学上許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物も含まれ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
アトルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、アトルバスタチンカルシウム水和物(化学名:(-)-Monocalcium bis{(3R,5R)-7-[2-(4-fluorophenyl-5-isopropyl-3-phenyl-4-phenylcarbamoyl-1H-pyrrol-1-yl)-3,5-dihydroxyheptanoate]trihydrate})が好ましい。
アトルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の化合物であり、例えば、特開平3-58967号公報、米国特許第5273995号明細書等に記載の方法により製造することができる。
【0037】
アトルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、アトルバスタチンのフリー体換算で1~160mg、より好適には2~120mg、特に好適には5~80mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0038】
本明細書において「ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」には、ピタバスタチンそのもののほか、ピタバスタチンの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩;アンモニウム塩等)、さらにはピタバスタチンやその薬学上許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物も含まれ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、ピタバスタチンのカルシウム塩又はその水和物が好ましく、ピタバスタチンカルシウム(化学名:(+)-monocalcium bis{(3R,5S,6E)-7-[2-cyclopropyl-4-(4-fluorophenyl)-3-quinolyl]-3,5-dihydroxy-6-heptenoate})又はその水和物(特に、5水和物(pentahydrate))が特に好ましい。
ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の化合物であり、例えば、特開平1-279866号公報、米国特許第5856336号明細書等に記載の方法により製造することができる。
【0039】
ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、ピタバスタチンカルシウム換算で0.1~16mg、より好適には0.5~8mg、特に好適には1~4mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0040】
本明細書において「ロスバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」には、ロスバスタチンそのもののほか、ロスバスタチンの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩;アンモニウム塩等)、さらにはロスバスタチンやその薬学上許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物も含まれ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
ロスバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、ロスバスタチンカルシウム(化学名:Monocalcium bis ((3R,5S,6E)-7-{4-(4-fluorophenyl)-6-isopropyl-2-[methanesulfonyl(methyl)amino]pyrimidin-5-yl}-3,5-dihydroxyhept-6-enoate))が好ましい。
ロスバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の化合物であり、例えば、特開平5-178841号公報、米国特許第5260440号明細書等に記載の方法により製造することができる。
【0041】
ロスバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、ロスバスタチンのフリー体換算で0.5~80mg、より好適には1~60mg、特に好適には2.5~40mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0042】
スタチンとしては、化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物と組み合わせた際に優れた大動脈瘤の治療作用を得る観点から、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が特に好ましい。後記実施例から明らかなとおり、スタチンとしてピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を用いることにより、化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物との併用によって、優れた瘤径拡大抑制作用が認められる。
【0043】
本発明の腹部大動脈瘤の破裂抑制剤は、AAAの破裂を抑制し、ひいては、AAAの破裂による死亡を予防するものである。また、胸腹部大動脈瘤、胸部大動脈瘤等を含む大動脈瘤の破裂抑制にも適用可能である。大動脈瘤切除術(人工血管置換術)前や、ステントグラフト内挿術前又は内挿術後のいずれにおいても大動脈瘤破裂抑制剤として有用である。ステントグラフト内挿術前又は内挿術後のいずれにおいても、本発明の大動脈瘤の治療用医薬組成物は、好ましくはAAAの破裂抑制剤として使用される。さらに、本発明の腹部大動脈瘤の治療用医薬組成物の拡大抑制作用は、AAAの拡大を抑制し、ひいては、AAAの拡大から破裂による死亡を予防するものである。また、胸腹部大動脈瘤、胸部大動脈瘤等を含む大動脈瘤の拡大抑制にも適用可能である。大動脈瘤切除術(人工血管置換術)前や、ステントグラフト内挿術前又は内挿術後のいずれにおいても大動脈瘤拡大抑制剤として有用である。ステントグラフト内挿術前又は内挿術後のいずれにおいても、本発明の大動脈瘤の治療用医薬組成物は、好ましくはAAAの拡大抑制剤としても使用される。
【0044】
化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物とスタチンとの組み合わせ比率は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、優れた大動脈瘤治療作用を得る観点から、化合物1のフリー体換算1質量部に対し、スタチンをフリー体換算で0.0001~16000質量部を組み合わせるのが好ましく、0.00125~24質量部を組み合わせるのがより好ましく、0.005~3.2質量部を組み合わせるのが特に好ましい。特に、スタチンとしてピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を用いる場合においては、優れた大動脈瘤治療作用を得る観点から、化合物1のフリー体換算1質量部に対し、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物をフリー体換算で0.0001~1600質量部を組み合わせるのが好ましく、0.00125~1.6質量部を組み合わせるのがより好ましく、0.005~0.16質量部を組み合わせるのが特に好ましい。
【0045】
化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物とスタチンとを組み合わせてなる、大動脈瘤治療剤は、その成分である化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物とスタチンをそれぞれ別個独立の製剤(例えば、化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する製剤と、スタチンを含有する製剤の組み合わせを含む単一のパッケージ(キット製剤)の形態など)とし、それらを同時又は間隔をおいて投与してもよいし、両成分を共に含有する医薬製剤(配合剤(combination drug))として投与してもよいが、服用の簡便性の観点から、両成分を共に含有する配合剤とするのが好ましい。
【0046】
化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与されるスタチンを含有する大動脈瘤治療剤は、化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物と組み合わせて使用することを用法とするものであり、例えば、スタチンを含有する医薬を、化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する医薬と同時に又は間隔をおいて投与するのがよい。
当該医薬の具体的態様としては、例えば、大動脈瘤を治療するための医薬品であって、下記の(A)及び(B):
(A)スタチンを含有する大動脈瘤を治療するための医薬;
(B)前記医薬を、化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与することを指示する指示書;
を含む医薬品が挙げられる。当該指示書としては、具体的には例えば、効能・効果や用法・用量などに関する説明事項を記載したいわゆる能書(添付文書)、ラベル(label)などが挙げられる。
【0047】
また、スタチンと組み合わせて投与される化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する大動脈瘤治療剤は、スタチンと組み合わせて使用することを用法とするものであり、例えば、化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する医薬を、スタチンを含有する医薬と同時に又は間隔をおいて投与するのがよい。
当該医薬の具体的態様としては、例えば、大動脈瘤を治療するための医薬品であって、下記の(A)及び(B):
(A)化合物1若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する大動脈瘤を治療するための医薬;
(B)前記医薬を、スタチンと組み合わせて投与することを指示する指示書;
を含む医薬品が挙げられる。当該指示書としては、具体的には例えば、効能・効果や用法・用量などに関する説明事項を記載したいわゆる能書(添付文書)、ラベル(label)などが挙げられる。
【0048】
本明細書において、医薬の具体的形状(剤形)は特に限定されるものではなく、固形状、半固形状、又は液状製剤のいずれの形状であってもよく、その利用目的等に応じて選択することができる。医薬の剤形としては、例えば、第十七改正日本薬局方 製剤総則等に記載の剤形が挙げられる。より具体的には、経口投与用の剤形としては、錠剤(例えば、通常錠、口腔内崩壊型錠剤、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解錠などを含む。)、カプセル剤、顆粒剤(例えば、発泡顆粒剤などを含む。)、散剤等の固形製剤;経口ゼリー剤等の半固形状製剤;経口液剤(例えば、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤などを含む。)等の液状製剤等が挙げられる。また、非経口投与用の剤形としては、注射剤、吸入剤、点眼剤、点耳剤、点鼻剤、坐剤、外用固形剤、外用液剤、スプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤等が挙げられる。
医薬の剤形としては、服用の容易性の観点から、経口投与用の固形製剤が好ましく、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤が特に好ましい。
【0049】
医薬は、その剤形に応じ、例えば第十七改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法により製造することができる。この場合において、医薬には、製薬上許容される担体(添加物)を加えてもよい。こうした添加物としては、例えば、賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、矯味剤、香料、被膜剤、希釈剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0051】
実施例1 大動脈壁低酸素誘発ラットAAAモデルに対する効果
大動脈壁を周囲組織から分離し、カテーテルを挿入した後、腹部大動脈を糸でカテーテルと一緒に結紮する手術によって誘導したラットAAAモデル(非特許文献3)における化合物1及びピタバスタチンの作用を検討した。
なお、本試験において、化合物1は前記特許文献1に記載の方法に従って製造し、一般飼料(FR2,フナバシファーム製)に0.15%混餌し、使用した。また、ピタバスタチンはピタバスタチンカルシウムを一般飼料(FR2,フナバシファーム製)に0.003%混餌し、使用した。
【0052】
(1)供試動物及び飼育環境
Sprague-Dawley雄性ラット(300-350g:日本SLC)を実験に用いた。室温:25℃±1℃にて飼育し、餌および水は自由に与えた。
【0053】
(2)大動脈壁低酸素誘発ラットAAAモデルの作成
非特許文献3記載の方法に従い作成した。すなわち、ラットの大動脈壁を周囲組織から分離し、ポリウレタンカテーテルを挿入した後、腹部大動脈をモノフィラメント糸でプラスチックカテーテルと一緒に結紮し、AAA誘導することによってラットAAAモデルを作成した。
【0054】
(3)群構成及び薬物投与
ラットを一般飼料投与群(以下、「対照群」と言う。)(n=22)、化合物1の0.15%混餌飼料投与群(以下、「化合物1群」と言う。)(n=22)と、化合物1の0.15%及びピタバスタチンカルシウムの0.003%混餌飼料投与群(以下、「併用群」と言う。)(n=10)に分けた。一般飼料又は各混餌飼料は、AAAモデル作成手術の1週間前(術前7日)から実験終了まで自由に摂餌させた。
【0055】
(4)観察及び検査方法
各群とも手術の28日後まで、瘤径をエコーにて測定するとともに、生存を比較した。
また、28日後に生存中の動物を犠牲死させ、AAA病理組織を解析した。
AAA最大短径は手術日、手術後7日、14日、21日及び28日に超音波診断装置(Vevo770,VisualSonics社製)により測定した。
【0056】
(5)結果
瘤径の測定結果を図1に示す。
対照群、化合物1群に比べて、併用群では、瘤径の拡大が抑制された。特に、術後14日目では対照群に対して、同21日目では対照群及び化合物1群に対して、同28日目では対照群に対して、併用群では瘤径の拡大が有意に抑制された(いずれもp<0.05)。
次に、非破裂生存率の結果を図2に示す。
手術日から手術後28日までの追跡において化合物1群並びに併用群では破裂による死亡率は対照群と比し低く、即ち、生存率の改善傾向を認めた。なお当該期間内に化合物1群では1匹、対照群では2匹、併用群では1匹の原因不明の死亡例が確認され、打ち切りとして以降の生存率、破裂率の集計から除外した。その余の死亡例はいずれもAAAの破裂によるものと剖検で確認された。
以上の結果から、化合物1とスタチンとの併用がAAAの破裂抑制及び拡大抑制において極めて有効であることが明らかとなり、大動脈瘤の治療用医薬組成物、特にはAAAの破裂抑制剤(AAA破裂の予防薬)、AAAの拡大抑制剤(AAA拡大予防薬)として極めて有用であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の化合物1とスタチンとの併用は、大動脈瘤の破裂抑制及び/又は拡大抑制に有効であり、大動脈瘤に対する内科的な治療を可能とするものとして産業上の利用可能性を有している。
図1
図2