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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】架橋物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20240708BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20240708BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20240708BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L9/06
C08K3/00
B60C1/00 A
B60C1/00 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021512125
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014611
(87)【国際公開番号】W WO2020203984
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019070194
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】足立 拓海
(72)【発明者】
【氏名】坂上 裕人
(72)【発明者】
【氏名】千賀 寛文
(72)【発明者】
【氏名】佐野 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】福本 天斗
(72)【発明者】
【氏名】海津 充孝
(72)【発明者】
【氏名】菊池 利充
(72)【発明者】
【氏名】早川 俊之
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-083884(JP,A)
【文献】特開2019-014796(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064646(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/086208(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/039005(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/119168(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0130639(US,A1)
【文献】国際公開第2002/034800(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
B60C1/00-19/12
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、無機フィラー及び架橋剤を含有し、かつ下記の(a)~(d)の条件を満たす重合体組成物を架橋してなる架橋物であって、
(a)前記ゴム成分として、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の重合体中の構成比(モル比)をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記数式(i)で表される値αが0.80以上0.97以下である共役ジエン系重合体(A)を含有する。
α=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s) …(i)
(b)前記共役ジエン系重合体(A)の配合割合が、前記ゴム成分の全量に対して10質量%以上である。
(c)前記無機フィラーの配合割合が、前記ゴム成分100質量部に対して40~150質量部である。
(d)前記架橋物のガラス転移点(Tg)が-25℃以下である。
【化1】
前記共役ジエン系重合体(A)のガラス転移点が-45℃以下であり、
前記共役ジエン系重合体(A)は、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのランダム共重合体であり、
前記共役ジエン系重合体(A)における芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有割合が、前記共役ジエン系重合体(A)の全モノマー単位量に対して、3~33質量%(ただし、20質量%以上の場合を除く。)である、架橋物
【請求項2】
前記共役ジエン系重合体(A)は、前記無機フィラーと相互作用する官能基を有する、請求項1に記載の架橋物。
【請求項3】
前記共役ジエン系重合体(A)は、融点が-10℃以上であり、かつ示差走査熱量計により-100℃から200℃まで20℃/分で昇温することにより測定される融解熱量が3J/g以上である、請求項1又は2に記載の架橋物。
【請求項4】
前記共役ジエン系重合体(A)の配合割合が、前記ゴム成分の全量に対して70質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の架橋物。
【請求項5】
ゴム成分、無機フィラー及び架橋剤を含有し、かつ下記の(a)~(d)の条件を満たす重合体組成物を架橋する、架橋物の製造方法であって、
(a)前記ゴム成分として、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の重合体中の構成比(モル比)をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記数式(i)で表される値αが0.80以上0.97以下である共役ジエン系重合体(A)を含有する。
α=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s) …(i)
(b)前記重合体(A)の配合割合が、前記ゴム成分の全量に対して10質量%以上である。
(c)前記無機フィラーの配合割合が、前記ゴム成分100質量部に対して40~150質量部である。
(d)前記架橋物のガラス転移点(Tg)が-25℃以下である。
【化2】
前記共役ジエン系重合体(A)のガラス転移点が-45℃以下であり、
前記共役ジエン系重合体(A)は、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのランダム共重合体であり、
前記共役ジエン系重合体(A)における芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有割合が、前記共役ジエン系重合体(A)の全モノマー単位量に対して、3~33質量%(ただし、20質量%以上の場合を除く。)である、架橋物の製造方法
【請求項6】
前記共役ジエン系重合体(A)の配合割合が、前記ゴム成分の全量に対して70質量%以上である、請求項5に記載の架橋物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の架橋物によりトレッド及びサイドウォールの一方又は両方が形成されたオールシーズンタイヤ。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の架橋物によりトレッド及びサイドウォールの一方又は両方が形成された冬用タイヤ。
【請求項9】
防振用部材、ベルト用部材、ロール用部材、ホース用部材、ワイヤーハーネス用部材又は靴底用部材であるゴム成形品であって、請求項1~のいずれか一項に記載の架橋物からなるゴム成形品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年4月1日に出願された日本特許出願番号2019-70194号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、架橋物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0003】
共役ジエン系重合体(例えば、スチレン-ブタジエン共重合体等)は、耐熱性、耐摩耗性、機械的強度、成形加工性等の各種特性が良好であることから、空気入りタイヤや防振ゴム、ホース等の各種工業製品に広く使用されている。また従来、共役ジエン系重合体が有する不飽和結合の一部を水素化した水添共役ジエン系重合体を使用することにより、高強度かつ低摩耗な加硫ゴムを得ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/064646号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高飽和共役ジエン系重合体を用いて製造された従来の加硫ゴムは、低温下における柔軟性が十分でなく、低温環境下での使用が想定される用途への適用が制限されることがあった。
【0006】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高強度であって、かつ低温特性に優れた架橋物を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような従来技術の課題を解決するべく鋭意検討した結果、高飽和の共役ジエン系重合体、無機フィラー及び架橋剤を所定割合で含む重合体組成物を架橋した架橋物が所定の性質を示すことにより、上記課題を解決可能であることを見出した。具体的には、本開示により以下の手段が提供される。
【0008】
[1]ゴム成分、無機フィラー及び架橋剤を含有し、かつ下記の(a)~(d)の条件を満たす重合体組成物を架橋してなる架橋物。
(a)前記ゴム成分として、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の重合体中の構成比(モル比)をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記数式(i)で表される値αが0.80以上0.97以下である共役ジエン系重合体(A)を含有する。
α=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s)…(i)
(b)前記共役ジエン系重合体(A)の配合割合が、前記ゴム成分の全量に対して10質量%以上である。
(c)前記無機フィラーの配合割合が、前記ゴム成分100質量部に対して40~150質量部である。
(d)前記架橋物のガラス転移点(Tg)が-25℃以下である。
【化1】
[2]ゴム成分、無機フィラー及び架橋剤を含有し、かつ上記の(a)~(d)の条件を満たす重合体組成物を架橋する、架橋物の製造方法。
[3]上記[1]の架橋物によりトレッド及びサイドウォールの一方又は両方が形成されたオールシーズンタイヤ。
[4]上記[1]の架橋物によりトレッド及びサイドウォールの一方又は両方が形成された冬用タイヤ。
[5]防振用部材、ベルト用部材、ロール用部材、ホース用部材、ワイヤーハーネス用部材又は靴底用部材であるゴム成形品であって、上記[1]の架橋物からなるゴム成形品。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、高強度であって、かつ低温特性(特に、低温下における柔軟性)に優れた架橋物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施に関連する事項について詳細に説明する。本開示の架橋物は、ゴム成分、無機フィラー及び架橋剤を含有する重合体組成物を架橋することにより得られる。なお、本明細書において、重合体組成物に含まれる「ゴム成分」は、熱硬化によりゴム弾性を示す硬化物を得ることが可能な重合体をいう。この硬化物は、室温において小さな力で大きな変形(例えば、室温で伸ばすと2倍以上に伸びる変形)を起こし、力を取り除くと急速にほぼ元の形状に戻る性質を示す。「加硫ゴム」は、ゴム成分を熱硬化することにより得られる硬化物をいう。
【0011】
<重合体組成物>
・ゴム成分
本開示に係る重合体組成物は、ゴム成分として、共役ジエン系重合体であって、かつ下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の重合体中の構成比(モル比)をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記数式(i)で表される値αが0.80以上0.97以下である重合体(A)を含有する。
α=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s)…(i)
【化2】
【0012】
重合体(A)は、例えば、共役ジエン化合物を含むモノマーを重合して、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得る工程(重合工程)と、共役ジエン系重合体を水添する工程(水添工程)と、を含む方法により製造することができる。また、当該方法は、任意に、重合工程により得られた共役ジエン系重合体を変性する工程(変性工程)を含んでいてもよい。具体的には、国際公開第2014/133097号に記載の方法に従って、使用目的に合う様に、分子量や、芳香族ビニル化合物量、ビニル結合含有量、水添率、変性剤の種類等を適宜変更することにより重合体(A)を製造することができる。また、国際公開第2015/190073号に記載の方法に従い、1,3-ブタジエン等のジエン系モノマーと、非共役オレフィンとを共重合することにより重合体(A)を製造することもできる。以下、水添共役ジエン系重合体を例にとり、重合体(A)及びその製造方法について詳細に説明する。
【0013】
(重合工程)
重合に際し、共役ジエン化合物としては1,3-ブタジエンを好ましく用いることができる。また、上記重合では、1,3-ブタジエンの他、1,3-ブタジエン以外の共役ジエン化合物を用いてもよい。1,3-ブタジエン以外の共役ジエン化合物の具体例としては、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。1,3-ブタジエン以外の共役ジエン化合物としては、中でもイソプレンが好ましい。なお、共役ジエン化合物は、1種の化合物が単独で使用されてもよく、又は2種以上の化合物が組み合わされて使用されてもよい。
【0014】
重合体(A)は、共役ジエン化合物を用いた単独重合体であってもよいが、架橋物の強度を高める観点から、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体であることが好ましい。重合に使用する芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。芳香族ビニル化合物は、これらの中でも、スチレン及びα-メチルスチレンから選ばれる1種以上の化合物であることが特に好ましい。なお、芳香族ビニル化合物としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
重合体(A)が、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体である場合、アニオン重合におけるリビング性が高い点で、これらのうち、1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体であることが好ましい。重合体(A)は、フィラーの分散性をより良好にすることができる点で、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との分布が不規則なランダム共重合体であることが好ましい。なお、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのランダム共重合体は、本開示の効果が得られる限り、共役ジエン化合物又は芳香族ビニル化合物からなるブロック部分をさらに有していてもよい。
【0016】
共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体において、芳香族ビニル化合物の使用量は、架橋物の低温特性(具体的には、低温下における柔軟性)や低ヒステリシスロス特性を良好にする観点から、重合に使用するモノマーの全体量に対して、3~33質量%であることが好ましい。芳香族ビニル化合物の使用量は、重合に使用するモノマーの全体量に対して、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましい。また、芳香族ビニル化合物の使用量は、重合に使用するモノマーの全体量に対して、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが更に好ましい。芳香族ビニル化合物の含量を上記範囲内にすることで、生産性と強度の両立が可能となる。重合体(A)の製造に使用されるモノマーは、重合に使用されるモノマーの全量100質量部に対し、1,3-ブタジエンを50~97質量部、芳香族ビニル化合物を3~33質量部、及び、1,3-ブタジエン以外の共役ジエン化合物を0~30質量部含むことが好ましい。こうした配合量とすることにより、架橋物の強度と低温特性とのバランスを良好に保持できる点で好適である。
【0017】
なお、上記で例示した共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物は、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得ることが可能である点において、いずれも同様の作用を有するものである。したがって、後述の実施例に記載されていないものであっても、本開示において使用することが可能である。
【0018】
重合に際しては、共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物以外の他のモノマーを使用することができる。他のモノマーとしては、例えばアクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等を挙げることができる。他のモノマーの使用量は、重合に使用するモノマーの全体量に対して、30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましく、10質量%以下とすることが更に好ましい。
【0019】
重合体(A)を得るための重合法としては、溶液重合法、気相重合法、バルク重合法のいずれを用いてもよいが、溶液重合法が特に好ましい。また、重合形式としては、回分式及び連続式のいずれを用いてもよい。溶液重合法を用いる場合、具体的な重合方法の一例としては、有機溶媒中において、共役ジエン化合物を含むモノマーを、重合開始剤及び必要に応じて用いられるランダマイザーの存在下、重合を行う方法が挙げられる。
【0020】
重合開始剤としては、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物のうち少なくともいずれかを用いることができる。アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、アニオン重合の開始剤として通常用いるものを使用することができる。重合開始剤の具体例としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウムなどのアルキルリチウム、1,4-ジリチオブタン、フェニルリチウム、スチルベンリチウム、ナフチルリチウム、ナフチルナトリウム、ナフチルカリウム、ジ-n-ブチルマグネシウム、ジ-n-ヘキシルマグネシウム、エトキシカリウム、ステアリン酸カルシウム等を挙げることができる。これらの中でも、重合開始剤はリチウム化合物が好ましい。
【0021】
重合反応は、上記のアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物のうち少なくともいずれかと、無機フィラーと相互作用する官能基を有する化合物(以下、「化合物(C1)」ともいう。)とを混合して得られる化合物(以下、「化合物(R)」ともいう。)の存在下で行ってもよい。化合物(R)の存在下で重合を行うことにより、重合体(A)の重合開始末端に、無機フィラーと相互作用を有する官能基を導入することができる。また、重合体(A)として、開始末端が変性された重合体を用いることにより、加硫ゴムの低ヒステリシスロス性能を向上させることができ好適である。
【0022】
なお、本明細書において「相互作用」とは、分子間で共有結合を形成するか、又は共有結合よりも弱い分子間力(例えば、イオン-双極子相互作用、双極子-双極子相互作用、水素結合、ファンデルワールス力等といった分子間に働く電磁気学的な力)を形成することを意味する。「無機フィラーと相互作用する官能基」は、無機フィラーと相互作用する原子を少なくとも1つ有する基を意味する。重合体組成物が無機フィラーとしてシリカを含有する場合、重合体(A)は、シリカと相互作用する官能基を有していることが好ましい。「シリカと相互作用する官能基」とは、窒素原子、硫黄原子、リン原子、酸素原子、ケイ素原子等のシリカと相互作用する原子を少なくとも1つ有する基である。ただし、「シリカと相互作用する官能基」が有するケイ素原子は、ヒドロカルビルオキシシリル基中のケイ素原子である。
【0023】
化合物(C1)は、第2級アミン化合物などの窒素含有化合物が好ましい。上記化合物(R)としては、中でもアルキルリチウム等のリチウム化合物と、第2級アミン化合物などの窒素含有化合物との反応生成物であることが好ましい。化合物(C1)としての窒素含有化合物としては、例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ドデカメチレンイミン、N,N’-ジメチル-N’-トリメチルシリル-1,6-ジアミノヘキサン、ピペリジン、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘプタメチレンイミン、ジシクロヘキシルアミン、N-メチルベンジルアミン、ジ-(2-エチルヘキシル)アミン、ジアリルアミン、モルホリン、N-(トリメチルシリル)ピペラジン、N-(tert-ブチルジメチルシリル)ピペラジン、1,3-ジトリメチルシリル-1,3,5-トリアジナン等が挙げられる。
【0024】
なお、化合物(R)の存在下で重合を行う場合、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物と、化合物(C1)とを予め混合することにより化合物(R)を調製し、その調製した化合物(R)を重合系中に添加して重合を行ってもよい。あるいは、重合系中に、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物と、化合物(C1)とを添加し、重合系中で両者を混合することにより化合物(R)を調製して重合を行ってもよい。
【0025】
ランダマイザーは、上記重合により得られる重合体における1,2-ビニル結合の含有率(ビニル結合含量)の調整等を目的として用いることができる。ランダマイザーの例としては、ジメトキシベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2,2-ジ(テトラヒドロフリル)プロパン、2-(2-エトキシエトキシ)-2-メチルプロパン、トリエチルアミン、ピリジン、N-メチルモルホリン、テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられる。ランダマイザーとしては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
重合に使用する有機溶媒としては、反応に不活性な有機溶剤であればよく、例えば脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素などを用いることができる。中でも、炭素数3~8の炭化水素が好ましく、その具体例としては、例えばn-ペンタン、イソペンタン、n-へキサン、シクロへキサン、プロペン、1-ブテン、イソブテン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン、1-ペンチン、2-ペンチン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘプタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、1-ペンテン、2-ペンテン、シクロヘキセン等を挙げることができる。なお、有機溶媒としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
溶液重合を用いる場合、反応溶媒中のモノマー濃度は、生産性と重合コントロールの容易性のバランスを維持する観点から、5~50質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。重合反応の温度は、-20~150℃であることが好ましく、0~120℃であることがより好ましく、20~100℃であることが特に好ましい。また、重合反応は、モノマーを実質的に液相に保つのに十分な圧力の下で行うことが好ましい。このような圧力は、重合反応に対して不活性なガスによって、反応器内を加圧する等の方法によって得ることができる。
【0028】
上記重合により得られる共役ジエン系重合体の1,2-ビニル含量(ビニル結合含量)は、5~70モル%であることが好ましく、10~60モル%であることがより好ましく、15~50モル%であることが更に好ましい。ビニル結合含量が5モル%以上であると、グリップ特性が良好になる傾向があり、70モル%以下であると、良好な耐摩耗性を示す傾向にある。なお、ビニル結合含量はH-NMRによって測定した値である。
【0029】
(変性工程)
変性工程は、上記重合工程により得られた共役ジエン系重合体の活性末端と、無機フィラーと相互作用する官能基を有する化合物(以下、「化合物(C2)」ともいう。)と、を反応させる工程である。この工程により、重合体(A)の重合終了末端に、無機フィラーと相互作用する官能基を導入することができる。これにより、低ヒステリシスロス性能に優れた架橋物を得ることができ好適である。なお、本明細書において活性末端とは、分子鎖の端に存在する、炭素-炭素二重結合を有するモノマーに由来する構造以外の部分(より具体的には金属末端)を意味する。
【0030】
本工程において、化合物(C2)との反応に用いる共役ジエン系重合体は、活性末端を有している限り、重合開始末端が未変性の重合体でもよいし、化合物(C1)により変性された重合体でもよい。化合物(C2)としては、共役ジエン系重合体の活性末端と反応し得る化合物であれば特に限定されないが、窒素原子、硫黄原子、リン原子、酸素原子及びケイ素原子からなる群より選ばれる一種の原子を有し、かつ当該原子に活性水素が結合していない化合物であることが好ましい。特に、化合物(C2)は、アミノ基、炭素-窒素二重結合を有する基、窒素含有複素環基、ホスフィノ基、環状エーテル基、環状チオエーテル基、保護された水酸基、保護されたチオール基及びヒドロカルビルオキシシリル基よりなる群から選ばれる1種以上の官能基(以下、「特定官能基」ともいう。)を有する化合物であることが好ましい。ここで、アミノ基は、保護された1級アミノ基若しくは2級アミノ基、又は3級アミノ基であることが好ましい。重合体(A)を、特定官能基を末端に有する重合体とすることにより、低ヒステリシスロス性能に優れた架橋物を得ることができる点で好ましい。
【0031】
化合物(C2)の具体例としては、例えば、下記(I)~(IV)のそれぞれの化合物等が挙げられる。
(I)下記式(5)で表される化合物(B-1);
【化3】
(式(5)中、Aは、窒素、リン、酸素、硫黄及びケイ素からなる群より選択される少なくとも一種の原子を有し、活性水素を有さず、かつRに対して窒素原子、リン原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、若しくはカルボニル基に含まれる炭素原子で結合する1価の官能基であるか、又は(チオ)エポキシ基である。R及びRはヒドロカルビル基であり、Rはヒドロカルビレン基であり、rは0~2の整数である。ただし、R及びRが複数存在する場合、複数のR及びRは、それぞれ同一の基又は異なる基である。)
【0032】
(II)下記式(6)で表される化合物(B-2);
【化4】
(式(6)中、Aは窒素、リン、酸素、硫黄及びケイ素からなる群より選択される少なくとも一種の原子を有し、活性水素を有さず、かつRに対して窒素原子、リン原子、酸素原子、硫黄原子若しくはケイ素原子で結合する1価の官能基であるか、又は炭素数1~20のヒドロカルビル基である。R及びRは、それぞれ独立してヒドロカルビル基であり、Rはヒドロカルビレン基であり、Rは単結合又はヒドロカルビレン基であり、mは0又は1である。ただし、Rが複数存在する場合、複数のRは、それぞれ同一の基又は異なる基である。)
【0033】
(III)分子中に、環状エーテル基、(チオ)カルボニル基及びイソ(チオ)シアナート基からなる群より選択される少なくとも1種である官能基Pと、窒素原子、リン原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される少なくとも一種の原子(但し、窒素原子、リン原子及び硫黄原子は、少なくともいずれかが3置換のヒドロカルビルシリル基で保護されていてもよい。)を有し、かつ活性水素を有していない、上記官能基Pとは異なる基Qと、を各々1つ以上有する化合物(B-3);
(IV)分子中に、イソ(チオ)シアナート基を2つ以上有する化合物(B-4);
【0034】
上記式(5)及び式(6)において、R、R、R及びRのヒドロカルビル基は、炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であることが好ましい。
及びRのヒドロカルビレン基は、炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状のアルカンジイル基、炭素数3~20のシクロアルキレン基又は炭素数6~20のアリーレン基が好ましい。
r及びmは、共役ジエン系重合体との反応性を高める観点から、0又は1が好ましい。
が上記1価の官能基である場合においてAが有する、窒素、リン、酸素、硫黄及びケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の原子、並びにAが有する、窒素、リン、酸素、硫黄及びケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の原子は、活性水素に結合しておらず、保護基(例えば3置換のヒドロカルビルシリル基等)で保護されていることが好ましい。なお、本明細書において活性水素とは、炭素原子以外の原子に結合した水素原子をいい、好ましくはポリメチレンの炭素-水素結合よりも結合エネルギーが低いものを指す。保護基とは、A、Aを重合活性末端に対して不活性な官能基に変換しておく官能基である。(チオ)エポキシ基とは、エポキシ基及びチオエポキシ基を包含する意味である。
【0035】
は、オニウム塩生成剤によってオニウムイオンになり得る基であってもよい。Aの具体例としては、例えば1級アミノ基の2つの水素原子が2つの保護基によって置換されてなる窒素含有基、2級アミノ基の1つの水素原子が1つの保護基によって置換されてなる窒素含有基、3級アミノ基、イミノ基、ピリジル基、1級ホスフィノ基の2つの水素原子が2つの保護基によって置換されてなるリン含有基、2級ホスフィノ基の1つの水素原子が1つの保護基によって置換されてなるリン含有基、3級ホスフィノ基、エポキシ基、水酸基の水素原子が保護基によって保護された基、チオエポキシ基、チオール基の水素原子が保護基によって置換されてなる硫黄含有基、ヒドロカルビルオキシカルボニル基等を含む基が挙げられる。これらのうち、Aは、シリカとの親和性が良好である点において、窒素原子を有する基であることが好ましく、3級アミノ基、2級アミノ基の1つの水素原子が1つの保護基によって置換されてなる窒素含有基、又は1級アミノ基の2つの水素原子が2つの保護基によって置換されてなる窒素含有基を含む基であることがより好ましい。
【0036】
化合物(B-1)の具体例としては、例えばN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N,N-ジメチル-3-(トリメトキシシリル)プロピルアミン、N,N-ジメチル-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミン、N,N’,N’-トリス(トリメチルシリル)-N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(4-トリメチルシリル-1-ピペラジノ)プロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0037】
化合物(B-2)の具体例としては、例えば2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,2-アザシロリジン、2,2-ジエトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,2-アザシロリジン、2,2-ジメトキシ-1-フェニル-1,2-アザシロリジン、1-トリメチルシリル-2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-(2,2-ジメトキシ-1,2-アザシロリジン-1-イル)-N,N-ジエチルエタン-1-アミン、2-(2,2-ジメトキシ-1,2-アザシロリジン-1-イル)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、3-(2,2-ジメトキシ-1,2-アザシロリジン-1-イル)-N,N-ジエチルプロパン-1-アミン等が挙げられる。
【0038】
化合物(B-3)は、上記基Qが、活性水素に結合していない窒素原子を含む基であることが好ましい。化合物(B-3)の具体例としては、環状エーテル基を有する化合物として、例えばテトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等のエポキシアミン化合物を;(チオ)カルボニル基を有する化合物として、例えば4-N,N-ジメチルアミノベンゾフェノン等の4-アミノアセトフェノン;1,7-ビス(メチルエチルアミノ)-4-ヘプタノン等のビス(ジヒドロカルビルアミノアルキル)ケトン:2-ジメチルアミノエチルアクリレート等のジヒドロカルビルアミノアルキル(メタ)アクリレート;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のヒドロカルビルイミダゾリジノン;1-フェニル-2-ピロリドン等のN-ヒドロカルビルピロリドン;N-メチル-ε-カプロラクタム等のN-ヒロドカルビルカプトラクタム;N,N-ジエチルホルムアミド等のN-ジヒドロカルビルホルムアミド;N,N-ジメチルアセトアミド等のN,N-ジヒドロカルビルアセトアミド;N,N-ジメチルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド;などを;イソ(チオ)シアナート基を有する化合物として、例えば3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン等を;挙げることができる。
【0039】
化合物(B-4)としては、2,4-トリレンジイソシアナート、2,6-トリレンジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアナート、トリフェニルメタントリイソシアナート、p-フェニレンジイソシアナート、トリス(イソシアナートフェニル)チオホスフェート、キシレンジイソシアナート、ベンゼン-1,2,4-トリイソシアナート、ナフタレン-1,2,5,7-テトライソシアナート、1,4-フェニレンジイソチオシアナート等が挙げられる。
【0040】
化合物(C2)としては、シリカとの親和性が強い点において、特に化合物(B-1)及び化合物(B-2)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましく、化合物(B-1)を用いることがより好ましい。化合物(C2)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
上記の末端変性反応は、例えば溶液反応として行うことができる。この溶液反応は、上記重合工程における重合反応の終了後の未反応モノマーを含む溶液を用いて行ってもよく、当該溶液に含まれる共役ジエン系重合体を単離し、シクロヘキサン等の適当な溶媒に溶解した上で行ってもよい。また、末端変性反応は、回分式及び連続式のいずれを用いて行ってもよい。このとき、化合物(C2)の添加方法は特に制限されず、一括して添加する方法、分割して添加する方法、連続的に添加する方法などが挙げられる。
【0042】
末端変性反応に使用する化合物(C2)の量は、反応に使用する化合物の種類に応じて適宜設定すればよいが、重合開始剤が有する重合反応に関与する金属原子に対し、好ましくは0.1モル当量以上、より好ましくは0.3モル当量以上である。化合物(C2)の使用量を0.1モル当量以上とすることにより、変性反応を十分に進行させることができ、シリカの分散性を好適に改良することができる。末端変性反応の温度は、通常、上記重合反応の温度と同じであり、-20~150℃であることが好ましく、0~120℃であることがより好ましく、20~100℃であることが特に好ましい。変性反応の温度が低いと、変性共役ジエン系重合体の粘度が上昇する傾向がある。一方、変性反応の温度が高いと、重合活性末端が失活しやすくなる。変性反応の反応時間は、好ましくは1分~5時間であり、より好ましくは2分~1時間である。
【0043】
なお、重合体(A)のムーニー粘度の調整等を目的として、化合物(C2)を用いた変性反応の前若しくは後、又は化合物(C2)による変性反応と同時に、四塩化ケイ素や多官能エポキシ化合物(例えば、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンなど)等のカップリング剤と、活性末端を有する共役ジエン系重合体とを反応させてもよい。カップリング剤の使用割合は、所望とする重合体(A)のムーニー粘度や、反応に使用する化合物等に応じて適宜設定できるが、重合開始剤が有する重合反応に関与する金属原子に対し、0.01~0.8モル当量とすることが好ましい。なお、カップリング剤としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
(水添反応)
重合体(A)は、上記で得られた変性又は未変性の共役ジエン系重合体を水添することにより得ることができる。水添反応の方法及び条件は、所望の水素添加率(水添率)の共役ジエン系重合体が得られるのであれば、いずれの方法及び条件を用いることも可能である。それらの水添方法の例としては、チタンの有機金属化合物を主成分とする触媒を水添触媒として使用する方法、鉄、ニッケル、コバルトの有機化合物とアルキルアルミニウム等の有機金属化合物からなる触媒を使用する方法、ルテニウム、ロジウム等の有機金属化合物の有機錯体を使用する方法、パラジウム、白金、ルテニウム、コバルト、ニッケル等の金属を、カーボン、シリカ、アルミナ等の担体に担持した触媒を使用する方法などがある。各種の方法の中では、チタンの有機金属化合物単独、又はチタンの有機金属化合物とリチウム、マグネシウム、アルミニウムの有機金属化合物とから成る均一触媒(特公昭63-4841号公報、特公平1-37970号公報)を用い、低圧、低温の穏和な条件で水添する方法は工業的に好ましく、またブタジエンの二重結合への水添選択性も高く本開示の目的に適している。
【0045】
共役ジエン系重合体の水添は、触媒に不活性であって、かつ共役ジエン系重合体が可溶な溶剤中で実施される。好ましい溶媒としては、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタンのような脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘプタンのような脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエンのような芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類の単独又はそれらを主成分とする混合物である。
【0046】
水添反応は、一般には共役ジエン系重合体を水素又は不活性雰囲気下、所定の温度に保持し、攪拌下又は不攪拌下にて水添触媒を添加し、次いで水素ガスを導入して所定圧に加圧することによって実施される。不活性雰囲気とは、水添反応の関与体と反応しない雰囲気を意味し、例えばヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられる。空気や酸素は、触媒を酸化等して触媒の失活を招くので好ましくない。また、窒素は、水添反応時に触媒毒として作用し、水添活性を低下させるので好ましくない。特に、水添反応器内は水素ガス単独の雰囲気であることが最も好適である。
【0047】
水添共役ジエン系重合体を得る水添反応プロセスは、バッチプロセス、連続プロセス、それらの組合せのいずれでも用いることができる。また、水添触媒としてチタノセンジアリール系化合物を用いる場合は、単独でそのまま反応溶液に加えてもよいし、不活性有機溶媒の溶液として加えてもよい。触媒を溶液として用いる場合に使用する不活性有機溶媒は、水添反応の関与体と反応しない各種溶媒を用いることができる。好ましくは水添反応に用いる溶媒と同一の溶媒である。また、触媒の添加量は、水添前の共役ジエン系重合体100g当り0.02~20ミリモルである。
【0048】
重合体(A)は、下記数式(i):
α=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s) …(i)
(数式(i)中、p、q、r及びsは、上記式(1)~式(4)のそれぞれで表される構造単位の重合体中の構成比(モル比)を表す。)
により特定される値αが0.80以上0.97以下である。αを0.80以上とすることにより、強度が十分に高い架橋物を得ることができる。また、架橋物の耐オゾン性を優れたものとすることができる点で好適である。こうした理由から、αは0.82以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましく、0.88以上であることが更に好ましい。また、αは、架橋物の低ヒステリシスロス特性を十分に確保する観点から、0.96以下であることが好ましい。
【0049】
なお、上記数式(i)により規定される値αは、重合体(A)の水添率に相当する。例えば、αが0.80の場合、重合体(A)の水添率は80%である。重合体(A)中の水添率は、水添反応の時間等により調整することができる。この水添率はH-NMRにより測定することができる。重合体(A)がジエン系モノマーと非共役オレフィンとを共重合して得られる重合体の場合、αの値は共重合させるモノマー比率を変更することで調整することができる。
【0050】
重合体(A)を得る好ましい方法は、ブタジエンを含むモノマーをアルカリ金属化合物の存在下で溶液重合し、得られた重合体溶液をそのまま用いて変性工程を行い、次いで水添工程に供することであり、工業的に有用である。この場合、重合体(A)は、上記で得られた溶液から溶媒を除去し、重合体を単離することにより得られる。重合体の単離は、例えばスチームストリッピング等の公知の脱溶媒方法及び熱処理等の乾燥の操作によって行うことができる。
【0051】
重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1.0×10~2.0×10である。Mwが1.0×10よりも小さいと、得られる架橋物の耐摩耗性及び低燃費性能が低下することがあり、2.0×10よりも大きいと、加工性が低下しやすくなる。重合体(A)のMwは、より好ましくは1.0×10以上であり、更に好ましくは1.2×10以上である。また、重合体(A)のMwは、より好ましくは1.5×10以下であり、更に好ましくは1.5×10以下である。なお、本明細書において重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した、ポリスチレン換算の値である。
【0052】
重合体(A)は、優れた材料強度及び低温下における柔軟性を示す架橋物を得る観点から、ガラス転移点(Tg)が-25℃以下であることが好ましい。重合体(A)のガラス転移点は、より好ましくは-30℃以下であり、更に好ましくは-40℃以下であり、より更に好ましくは-45℃以下であり、特に好ましくは-50℃以下である。また、重合体(A)のガラス転移点は、例えば-70℃以上である。なお、重合体のガラス転移点は、ASTM D3418に準拠して示差走査熱量測定(DSC)によって測定した値である。
【0053】
重合体(A)は、重合体組成物のグリーンストレングスを確保する観点から、融解熱量(ΔH)が3J/g以上であることが好ましい。重合体(A)の融解熱量は、より好ましくは5J/g以上であり、更に好ましくは10J/g以上であり、特に好ましくは15J/g以上である。なお、本明細書において、重合体(A)の融解熱量は、示差走査熱量測定法(DSC法)により測定された値である。具体的には、示差走査熱量計(DSC)を使用し、サンプルとなる重合体を180℃で1分保持した後、-100℃まで10℃/分の速度で冷却し、次いで-100℃で1分間保持した後、20℃/分の速度で200℃まで昇温したときの熱流量変化の積算値である。
【0054】
重合体(A)は、重合体組成物のグリーンストレングスを確保する観点から、融点(Tm)が-10℃以上であることが好ましい。重合体(A)の融点は、より好ましくは0℃以上であり、更に好ましくは5℃以上であり、特に好ましくは10℃以上である。なお、本明細書において、重合体(A)の融点はDSC法により測定された値である。具体的には、重合体(A)の融点は、DSCを使用し、サンプルとなる重合体を180℃で1分保持した後、-100℃まで10℃/分の速度で冷却し、次いで-100℃で1分間保持した後、20℃/分の速度で200℃まで昇温したときの熱流量のピーク温度である。
【0055】
特に、重合体(A)の融点(Tm)が-10℃以上であって、かつ融解熱量(ΔH)が3J/g以上であると、重合体組成物のグリーンストレングスをより高くでき、ゴム成形品の意匠性を高めることができる点で好ましい。
【0056】
重合体(A)の配合割合は、重合体組成物に配合されるゴム成分の全量に対して、10質量%以上である。重合体(A)の配合割合が10質量%未満であると、得られる架橋物の強度が十分でなく、また低温特性が劣る。こうした理由から、重合体(A)の配合割合は、重合体組成物に配合されるゴム成分の全量に対して、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。なお、重合体(A)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
上記重合体組成物は、ゴム成分として重合体(A)のみを含有していてもよいが、重合体(A)に加えて、本開示の効果を損なわない範囲において、重合体(A)とは異なるゴム成分(以下、「他のゴム成分」ともいう。)が配合されていてもよい。かかる他のゴム成分の種類は、特に限定されないが、ブタジエンゴム(BR。例えば、シス-1,4結合90%以上のハイシスBR、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(SPB)含有BRなど)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンイソプレン共重合体ゴム、ブタジエンイソプレン共重合体ゴム、ハロゲン化ゴム等が挙げられる。他のゴム成分としてより好ましくは、NR、BR及びSBRよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。他のゴム成分の配合割合は、重合体組成物に含まれるゴム成分(重合体(A)及び他のゴム成分)の合計量に対して、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。
【0058】
・無機フィラー
無機フィラーとしては、カーボンブラック、シリカ、クレー、炭酸カルシウム等の各種の補強性充填剤を用いることができる。好ましくは、カーボンブラック、シリカ、又は、カーボンブラックとシリカとの併用である。シリカは、静動比及び良好な低ヒステリシスロス特性が得られる点で好ましく、カーボンブラックは、重合体組成物及び加硫ゴムの強度の点から好ましい。シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、コロイダルシリカ等が挙げられ、中でも湿式シリカが好ましい。カーボンブラックとしては、例えばファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト等が挙げられ、中でもファーネスブラックが好ましい。
【0059】
本開示に係る重合体組成物は、無機フィラー(2種以上含有する場合にはその合計量)を、重合体組成物中に含まれるゴム成分100質量部に対し、40~150質量部の割合で含有する。無機フィラーの配合割合が40質量部未満では、加硫ゴムの強度及び低温特性を良好にする効果が十分でなく、150質量部を超えると、加硫ゴムの耐摩耗性が劣ってしまう。重合体組成物中における無機フィラーの配合割合は、ゴム成分の全体量100質量部に対して、好ましくは50質量部以上であり、より好ましくは55質量部以上である。また、無機フィラーの配合割合は、ゴム成分の全体量100質量部に対し、好ましくは150質量部以下であり、より好ましくは140質量部以下である。
【0060】
・架橋剤
本開示に係る重合体組成物に含有される架橋剤の種類は特に限定されない。架橋剤の具体例としては、有機過酸化物、フェノール樹脂、硫黄、硫黄化合物、p-キノン、p-キノンジオキシムの誘導体、ビスマレイミド化合物、エポキシ化合物、シラン化合物、アミノ樹脂、ポリオール、ポリアミン、トリアジン化合物、金属石鹸等を挙げることができる。これらのうち、有機過酸化物、フェノール樹脂及び硫黄よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。なお、架橋剤としては、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
有機過酸化物としては、例えば1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキセン-3、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,2’-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-イソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルパーオキシド等を挙げることができる。
【0062】
フェノール樹脂としては、例えば、下記一般式(8)で表されるp-置換フェノール系化合物、o-置換フェノール・アルデヒド縮合物、m-置換フェノール・アルデヒド縮合物、臭素化アルキルフェノール・アルデヒド縮合物等を挙げることができる。なかでも、p-置換フェノール系化合物が好ましい。
【化5】
【0063】
上記式(8)中、Xはヒドロキシル基、ハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子であり、Rは炭素数1~15の飽和炭化水素基であり、nは0~10の整数である。なお、p-置換フェノール系化合物は、アルカリ触媒の存在下における、p-置換フェノールとアルデヒド(好ましくはホルムアルデヒド)との縮合反応により得ることができる。
【0064】
フェノール樹脂の市販品としては、商品名「タッキロール201」(アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業社製)、商品名「タッキロール250-I」(臭素化率4%の臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業社製)、商品名「タッキロール250-III」(臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業社製)、商品名「PR-4507」(群栄化学工業社製)、商品名「ST137X」(ローム&ハース社製)、商品名「スミライトレジンPR-22193」(住友デュレズ社製)、商品名「タマノル531」(荒川化学工業社製)、商品名「SP1059」、商品名「SP1045」、商品名「SP1055」、商品名「SP1056」(以上、スケネクタディ社製)、商品名「CRM-0803」(昭和ユニオン合成社製)を挙げることができる。これらの中でも、「タッキロール201」が好ましく使用される。
【0065】
架橋剤の使用量は、重合体組成物中に含まれるゴム成分の合計100質量部に対して、0.01~20質量部とすることが好ましく、0.1~15質量部とすることがより好ましく、0.5~10質量部とすることが更に好ましい。
【0066】
・その他の成分
本開示に係る重合体組成物には、ゴム成分と共に樹脂成分が配合されてもよい。樹脂成分の種類としては特に限定されないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。樹脂成分の配合割合は、重合体組成物中に含まれるゴム成分の全体量100質量部に対して、好ましくは1~50質量部、より好ましくは5~40質量部である。
【0067】
本開示に係る重合体組成物には、上記した成分の他に、例えばタイヤ用、ホース用、防振用、ベルト用等の各種用途の加硫ゴムを得るためのゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。当該添加剤としては、例えば老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、硫黄、加硫促進剤等が挙げられる。それらの配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲において、添加剤の種類に応じて適宜選択することができる。
【0068】
(架橋工程)
本開示の架橋物は、上記重合体組成物を架橋処理することにより得られる。架橋物としてゴム成形品を得る場合、通常、上記重合体組成物を所定形状に成形した後、架橋処理を行う。ゴム成形品の製造は、常法に従い行うことができる。例えばタイヤの製造は、上述した重合体組成物を、ロールやミキサー等の混合機で混合し、所定の形状に成形にしたものを常法に従い外側に配して加硫成形することにより、トレッド及びサイドウォールの一方又は両方が形成され、空気入りタイヤが得られる。
【0069】
本開示の架橋物は、ガラス転移点(Tg)が-25℃以下であることにより、低温下において優れた柔軟性を示す。架橋物のガラス転移点は、高い材料強度を保持しつつ、低温下における柔軟性により優れた架橋物とする観点から、好ましくは-35℃以下であり、より好ましくは-40℃以下であり、更に好ましくは-45℃以下である。なお、架橋物のガラス転移点は、剪断歪0.07%、角速度100ラジアン毎秒で粘弾性測定を行った際のtanδが最大となる温度である。
【0070】
本開示の架橋物(加硫ゴム)は、高強度かつ低温特性に優れていることから、各種ゴム成型品に適用することができる。具体的には、タイヤのトレッド、サイドウォール用の材料;産業機械用や設備用などのロール、防振ゴム類;ダイヤフラム、ラジエータホース、エアーホース等の各種ホース及びホースカバー類;パッキン、ガスケット、ウェザーストリップ、O-リング、オイルシール等のシール類;動力伝達用ベルトなどのベルト類;ライニング、ダストブーツ、ワイヤーハーネス、靴底等の材料として用いることができる。これらの中でも、タイヤ用部材、防振用部材、ベルト用部材、ロール用部材、ホース用部材、ワイヤーハーネス用部材及び靴底用部材として好適であり、タイヤ用部材、防振用部材、ロール用部材及びベルト用部材として更に好適である。
【0071】
また、本開示の架橋物は、強度及び低温特性に加え、低燃費性能に優れているため、タイヤ用部材に特に適しており、タイヤ用部材の中でも特に、冬用タイヤ及びオールシーズンタイヤに適している。さらに、当該架橋物は耐オゾン性に優れており、紫外線を受けやすい箇所(例えば、タイヤのサイドウォール等)の材料としても好適である。
【実施例
【0072】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。重合体の各種物性値の測定方法を以下に示す。
【0073】
[結合スチレン含量(質量%)]:400MHzのH-NMRによって求めた。
[ビニル結合含量(モル%)]:400MHzのH-NMRによって求めた。
[1stピーク重量平均分子量]:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(HLC-8120GPC(商品名(東ソー社製)))を使用して得られたGPC曲線の最大ピークの頂点に相当する保持時間から、ポリスチレン換算で求めた。
(GPCの条件)
カラム;商品名「GMHXL」(東ソー社製)2本
カラム温度;40℃
移動相;テトラヒドロフラン
流速;1.0ml/分
サンプル濃度;10mg/20ml
[ガラス転移点Tg(℃)]:ASTM D3418に準拠して示差走査熱量測定(DSC)によって測定した。
[融点Tm(℃)及び融解熱量ΔH(J/g)]:DSC(商品名「DSC 250」、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて測定を行い、測定により得られた融解曲線から求めた。測定用サンプルは、アルミニウム製サンプルパン(型番「900786.901」と「900779.901」、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)に10mgの重合体を封入して作製した。測定は、測定用サンプルを室温から180℃まで加温し、180℃で1分間保持した後、-100℃まで10℃/分の速度で冷却し、次いで-100℃で1分間保持してから、20℃/minの速度で200℃まで昇温する方法により行った。この-100℃から200℃に昇温する工程における結晶融解に起因する吸熱量の総和を融解熱量(J/g)とし、吸熱量がピークを示す温度(℃)を融点とした。
[水素添加率(%)]及び[α]:400MHzのH-NMRによって求めた。
【0074】
<高飽和ジエン系重合体の製造>
〈水添触媒の製造〉
〔製造例1:触媒Eの合成〕
撹拌機、滴下漏斗を備えた1L容量の三つ口フラスコを乾燥窒素で置換し、無水テトラヒドロフラン200ml及びテトラヒドロフルフリルアルコール0.2モルを加えた。その後、n-ブチルリチウム/シクロヘキサン溶液(0.2モル)を三つ口フラスコ中に15℃にて滴下して反応を行い、テトラヒドロフルフリルオキシリチウムのテトラヒドロフラン溶液を得た。
次に、撹拌機、滴下漏斗を備えた1L容量の三つ口フラスコを乾燥窒素で置換し、ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド49.8g(0.2モル)及び無水テトラヒドロフラン250mlを加えた。そして、上記記載の方法により得られたテトラフルフリルオキシリチウムのテトラヒドロフラン溶液を室温撹拌下にて約1時間で滴下した。約2時間後、赤褐色液を濾過し、不溶部をジクロロメタンで洗浄した。
その後、ろ液及び洗浄液を合わせて減圧下にて溶媒を除去することにより、触媒E[ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタニウム(テトラヒドロフルフリルオキシ)クロライド](「[クロロビス(2,4-シクロペンタジエニル)チタン(IV)テトラヒドロフルフリルアルコキシド]」ともいう。)を得た。なお、収率は95%であった。
【0075】
〈共役ジエン系ゴムの製造〉
〔製造例2:共役ジエン系ゴムP1の合成〕
窒素置換された内容積50リットルのオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン25900g、テトラヒドロフラン91g、スチレン370g、1,3-ブタジエン3219gを仕込んだ。反応器内容物の温度を35℃に調整した後、n-ブチルリチウム(39mmol)を含むシクロヘキサン溶液を添加して重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は85℃に達した。
重合転化率が99%に達したことを確認した後、ブタジエン111gを追加し、更に5分重合させ、重合体を含む反応液を得た。得られた反応液に四塩化ケイ素2mmolを加えて10分間反応させ、N,N-ジメチル-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミン28mmolを加え、さらに20分間反応させた。
得られた共役ジエン系共重合体を含む重合体溶液に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを7.4g添加した。次いで、pH調整剤であるアンモニアによりpH8.5(ガラス電極法による、80℃におけるpH)に調整した水溶液(温度:80℃)を脱溶媒槽に入れ、更に上記重合体溶液を加え(重合体溶液100質量部に対して、上記水溶液200質量部の割合)、脱溶媒槽の液相の温度95℃で2時間スチームストリッピング(スチーム温度:190℃)を行うことにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥を行うことで、共役ジエン系ゴムP1を得た。得られた共役ジエン系ゴムP1の分析値を下記表2に示す。
【0076】
〔製造例3:共役ジエン系ゴムP2の合成〕
窒素置換された内容積50リットルのオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン25900g、テトラヒドロフラン130g、スチレン370g、1,3-ブタジエン3219gを仕込んだ。反応器内容物の温度を35℃に調整した後、n-ブチルリチウム(39mmol)を含むシクロヘキサン溶液を添加して重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は85℃に達した。
重合転化率が99%に達したことを確認した後、ブタジエン111gを追加し、更に5分重合させ、重合体を含む反応液を得た。得られた反応液に四塩化ケイ素2mmolを加えて10分間反応させ、さらにN,N-ジメチル-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミン28mmolを加え、20分間反応させた。
次いで、反応液を80℃以上にして系内に水素を導入した後、触媒E0.32g、テトラクロロシラン0.39gを加え、水素圧0.7MPa以上を保つようにして、所定の水素積算値となるまで水素を供給して反応させた後、反応液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、重合体溶液を得た。
得られた水添共役ジエン系共重合体を含む重合体溶液に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを7.4g添加した。次いで、pH調整剤であるアンモニアによりpH8.5(ガラス電極法による、80℃におけるpH)に調整した水溶液(温度:80℃)を脱溶媒槽に入れ、更に上記重合体溶液を加え(重合体溶液100質量部に対して、上記水溶液200質量部の割合)、脱溶媒槽の液相の温度95℃で2時間スチームストリッピング(スチーム温度:190℃)を行うことにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥を行うことで、共役ジエン系ゴムP2を得た。得られた共役ジエン系ゴムP2の分析値を下記表1に示す。
【0077】
〔製造例4~6:共役ジエン系ゴムP3、P4、P6~P14の合成〕
使用する原料を表1のとおりに変更し、水添の時間を変更した以外は製造例3と同様の操作を行い、共役ジエン系ゴムP3,P4,P6~P14をそれぞれ得た。共役ジエン系ゴムP3,P4,P6~P14の分析値を表2に示す。
〔製造例7:共役ジエン系ゴムP5の合成〕
製造例3において、n-ブチルリチウムを使用する替わりに、39mmolのn-ブチルリチウムと27mmolのピペリジンを使用した以外は製造例3と同様の操作を行い、水添共役ジエン系ゴムP5を得た。共役ジエン系ゴムP5の分析値を表2に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
表1及び表2中、化合物の略称は以下の化合物を表す。
化合物A:ピペリジン
化合物B:N,N-ジメチル-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミン
化合物C:四塩化ケイ素
表1及び表2中、「-」は、該当する欄の化合物を使用しなかったことを表す。
【0081】
<ゴム組成物の製造及び特性評価>
[実施例1~12及び比較例1~3]
温度制御装置を付属したプラストミル(内容量250cc)を使用し、一段目の混練として、充填率72%、回転数60rpmの条件で、下記表3の配合処方により、水添又は未水添の共役ジエン系ゴム、シリカ、シランカップリング剤、伸展油、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤を混練した。次いで、二段目の混練として、上記で得た配合物を室温まで冷却後、硫黄、加硫促進剤を混練した。これを成型し、160℃で所定時間、加硫プレスにて加硫した。ゴム組成物、加硫前のゴム及び加硫ゴムを用いて、以下の(1)~(6)の特性評価を実施した。なお、各実施例及び比較例において、使用した共役ジエン系ゴムの種類及び割合は下記表4に記載のとおりである。表4中の「重合体」欄の数値は、ゴム組成物の配合に使用した共役ジエン系ゴムの合計100質量部に対する、各重合体の配合割合を表す。
【0082】
【表3】
【0083】
≪特性評価≫
(1)破壊強度
加硫ゴムを測定用試料として、JISK6251:2010に従って、切断時の引張強さ(TB)を測定した。測定結果は、数値が大きいほど引張強さ(破壊強度)が高く、良好であることを示す。
(2)-20℃における弾性率
加硫前のゴムを測定用試料として、ARES-RDA(TA Instruments社製)を使用し、剪断歪0.14%、角速度100ラジアン毎秒、-20℃の条件で、弾性率を測定した。数値が小さいほど、低温環境下(-20℃)における柔軟性が高く、低温特性が良好であることを示す。
(3)低ヒステリシスロス特性(50℃tanδ)
加硫ゴムを測定用試料として、ARES-RDA(TA Instruments社製)を使用し、剪断歪0.7%、角速度100ラジアン毎秒、50℃の条件で、損失係数(tanδ(50℃))を測定した。比較例1を100とした指数で示し、数値が大きいほどエネルギーロスが小さく、低ヒステリシスロス特性(低燃費性)が良好であることを示す。
(4)耐オゾン性
加硫ゴムを測定用試料として、JIS K6259-1:2015の10.2のA法に準拠し、72時間オゾンに曝し、静的オゾン劣化試験を行った。結果は、以下のとおりランク付けした。
<亀裂の数によるランク付け>
A:亀裂少数
B:亀裂多数
C:亀裂無数
<亀裂の大きさ及び深さによるランク付け>
1:肉眼では見えないが10倍の拡大鏡では確認できるもの
2:肉眼で確認できるもの
3:亀裂が深くて比較的大きいもの(1mm未満)
4:亀裂が深くて大きいもの(1mm以上3mm未満)
5:3mm以上の亀裂又は切断を起こしそうなもの
表4中、例えば「A-4」の表記は、亀裂の数によるランク付けが「A」、亀裂の大きさ及び深さによるランク付けが「4」であることを表す。
(5)ガラス転移点(Tg)
加硫ゴムを測定用試料として、剪断歪0.07%、角速度100ラジアン毎秒で粘弾性測定を行い、tanδが最大となる温度をガラス転移点とした。
(6)グリーンストレングス
未加硫ゴムを、JIS K6251:2017に従って3号ダンベルに打ち抜いて試験片とし、室温、200mm/minの引張速度で引張強さを測定した。比較例1で得られた値を100と規格化し、以下の通りランク付けすることにより評価した。
<グリーンストレングスのランク付け>
A:130を超える
B:110を超えて130以下
C:110以下
実施例1~12及び比較例1~3の特性評価の結果を下記表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
表4に示すように、未水添の重合体を用いた加硫ゴム(比較例1)は、破断強度が最も低く、強度が十分でなかった。また、-20℃における弾性率もやや高い値を示した。更に、比較例1の加硫ゴムの製造に用いた重合体(共役ジエン系ゴムP1)は融解熱量を持たず、加硫ゴムのグリーンストレングスが低かった。また、ガラス転移点が-20℃である加硫ゴム(比較例2)は、引張強さ(TB)の値は高いものの、-20℃における弾性率の値が大きく、低温下での柔軟性に劣っていた。水添率が低い重合体を用いて製造した加硫ゴム(比較例3)は、比較例1と同じく破断強度が低く、またグリーンストレングスが低かった。
【0086】
これに対し、実施例1~12のゴム組成物は、比較例1と比較すると、強度及び-20℃での弾性率のいずれも良好な値を示した。また、実施例1~12のゴム組成物と比較例2とを比較すると、実施例1~12のゴム組成物は、-20℃での弾性率、すなわち低温下での柔軟性が大きく改善された。また、共役ジエン系ゴムP2~P5、P7~P13は融解熱量と融点から結晶性を有し、共役ジエン系ゴムP2~P5、P7~P13を含有する実施例1~12のゴム組成物はグリーンストレングスが高かった。これらの結果により、実施例1~12のゴム組成物によれば、加工性が改善された架橋物を得ることができることが分かった。
【0087】
以上の結果から、高飽和共役ジエン系重合体、無機フィラーを所定割合で含有するゴム組成物を架橋することにより、ガラス転移点が十分に低い加硫ゴムが得られ、更には、高強度であってかつ低温下における柔軟性に優れた加硫ゴムが得られることが分かった。また、実施例1~12の加硫ゴムは、比較例1の加硫ゴムに比べて耐オゾン性、低ヒステリシスロス特性(低燃費特性)及びグリーンストレングスに優れ、また比較例2の加硫ゴムに比べて低ヒステリシスロス特性(低燃費特性)に優れていた。更に、実施例1~12の加硫ゴムは、比較例3の加硫ゴムに比べて、グリーンストレングスに優れていた。