(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】混合トリグリセリド
(51)【国際特許分類】
A23L 33/115 20160101AFI20240708BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20240708BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240708BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20240708BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240708BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240708BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240708BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240708BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240708BHJP
A61P 15/08 20060101ALI20240708BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240708BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20240708BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20240708BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240708BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240708BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240708BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240708BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240708BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
A23L33/115
A23D9/00 516
A23L33/10
A61K31/22
A61P1/16
A61P3/00
A61P3/04
A61P3/10
A61P9/10
A61P15/08
A61P25/00
A61P25/06
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/18
A61P25/20
A61P25/24
A61P25/28
(21)【出願番号】P 2021531757
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2019085525
(87)【国際公開番号】W WO2020127182
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-06
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ブランチャード, カリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】クナウド, ベルナルト
(72)【発明者】
【氏名】デスタイラッツ, フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】フォーブス-ブロム, エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】ウルトリング, ヘイコー
(72)【発明者】
【氏名】パティン, アマウリー
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0077300(US,A1)
【文献】米国特許第03870733(US,A)
【文献】特表平08-506607(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02126082(GB,A)
【文献】特表2009-524587(JP,A)
【文献】特表平08-507566(JP,A)
【文献】国際公開第2019/022149(WO,A1)
【文献】Mette Johannsen Mandoe et al.,Nutrition and Diabetes,2018年,8:2,pp.1-10,doi: 10.1038/s41387-017-0011-z
【文献】Asmo Kemppinen et al.,Journal of Chromatography A,2006年,1134,pp.260-283,doi: 10.1016/j.chroma.2006.08.089
【文献】Valerie St-Pierre et al.,Journal of Functional Foods,2017年,32,pp.170-175,doi:10.1016/j.jff.2017.02.024
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/10 -33/115
A23D 9/00
A61P 1/16 -25/28
A61K 31/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物及び式(4)を有する化合物を含み、
式(1)を有する前記化合物が、組成物の全トリグリセリドの15~30重量%を構成し、式(2)を有する前記化合物が、組成物の全トリグリセリドの10~25重量%を構成し、式(3)を有する前記化合物が、組成物の全トリグリセリドの10~25重量%を構成し、式(4)を有する前記化合物が、組成物の全トリグリセリドの5~15重量%を構成し、
式(1)を有する前記化合物、式(2)を有する前記化合物、式(3)を有する前記化合物及び式(4)を有する前記化合物が、組成物の全トリグリセリドの少なくとも50重量%を構成する、組成物。
【化1】
[式中、n1、n2、n3、n4、n5、及びn6は、独立して4~10である。]
【請求項2】
式(1)を有する前記化合物、式(2)を有する前記化合物、式(3)を有する前記化合物及び式(4)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの少なくとも
60重量%を構成する、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
式(1)を有する前記化合物、式(2)を有する前記化合物、式(3)を有する前記化合物及び式(4)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの少なくとも70重量%を構成する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
式(1)を有する前記化合物、式(2)を有する前記化合物、式(3)を有する前記化合物及び式(4)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの少なくとも80重量%を構成する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
式(1)を有する前記化合物、式(2)を有する前記化合物、式(3)を有する前記化合物及び式(4)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの少なくとも90重量%を構成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
式(1)を有する前記化合物、式(2)を有する前記化合物、式(3)を有する前記化合物及び式(4)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの少なくとも95重量%を構成する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
式(1)を有する前記化合物、式(2)を有する前記化合物、式(3)を有する前記化合物及び式(4)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの少なくとも99重量%を構成する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
次式を有する化合物又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の組成物。
【化2】
【請求項9】
前記組成物が、式(5)を有する前記化合物、式(6)を有する前記化合物、式(7)を有する前記化合物、及び式(8)を有する前記化合物を含む、請求項
8に記載の組成物。
【請求項10】
式(5)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの20~30重量%を構成し、式(6)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの15~25重量%を構成し、式(7)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの10~20重量%を構成し、式(8)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの5~15重量%を構成する、請求項
8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
式(5)を有する前記化合物、式(6)を有する前記化合物、式(7)を有する前記化合物及び式(8)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの少なくとも50重量
%を構成する、請求項
8~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
式(5)を有する前記化合物、式(6)を有する前記化合物、式(7)を有する前記化合物及び式(8)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの少なくとも60重量%を構成する、請求項8~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
式(5)を有する前記化合物、式(6)を有する前記化合物、式(7)を有する前記化合物及び式(8)を有する前記化合物が、前記組成物の全トリグリセリドの少なくとも70重量%を構成する、請求項8~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
式(5)を有する前記化合物、式(6)を有する前記化合物、式(7)を有する前記化合物及び式(8)を有する前記化合物が、前記組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも50重量%を構成する、請求項8~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
式(5)を有する前記化合物、式(6)を有する前記化合物、式(7)を有する前記化合物及び式(8)を有する前記化合物が、前記組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも60重量%を構成する、請求項8~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
式(5)を有する前記化合物、式(6)を有する前記化合物、式(7)を有する前記化合物及び式(8)を有する前記化合物が、前記組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも70重量%を構成する、請求項8~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
式(5)を有する前記化合物、式(6)を有する前記化合物、式(7)を有する前記化合物及び式(8)を有する前記化合物が、前記組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも80重量%を構成する、請求項8~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
式(5)を有する前記化合物、式(6)を有する前記化合物、式(7)を有する前記化合物及び式(8)を有する前記化合物が、前記組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも90重量%を構成する、請求項8~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
式(5)を有する前記化合物、式(6)を有する前記化合物、式(7)を有する前記化合物及び式(8)を有する前記化合物が、前記組成物中の全オクタノエート部分含有トリグリセリドの少なくとも50重量%を構成する、請求項8~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
式(5)を有する前記化合物、式(6)を有する前記化合物、式(7)を有する前記化合物及び式(8)を有する前記化合物が、前記組成物中の全オクタノエート部分含有トリグリセリドの少なくとも60重量%を構成する、請求項8~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
式(5)を有する前記化合物、式(6)を有する前記化合物、式(7)を有する前記化合物及び式(8)を有する前記化合物が、前記組成物中の全オクタノエート部分含有トリグリセリドの少なくとも70重量%を構成する、請求項8~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
トリブチリンが、前記組成物中の全トリグリセリドの10重量%未
満を構成する、請求項1~
21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
トリブチリンが、前記組成物中の全トリグリセリドの8重量%未満を構成する、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
トリブチリンが、前記組成物中の全トリグリセリドの5重量%未満を構成する、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
前記組成物が栄養組成物であ
る、請求項1~
24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記組成物が、カプセル、錠剤、サッシェ、粉末又は液体ショットの形態であるダイエタリーサプリメントである、請求項1~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
改良された官能特性を有するブチレートの供給源を提供するための、請求項1~
26のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項28】
血中ケトン濃度の増加に使用するため、及び/又は血中ケトン濃度を増加させることによって治療可能な疾患の治療に使用するための、請求項1~
26のいずれか一項に記載の組成物であって
、前記疾患が、脳エネルギー欠乏状態、神経学的状態、片頭痛、記憶障害、加齢に伴う記憶障害、脳損傷、卒中、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、認知障害、集中治療後認知障害、加齢に伴う認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、先天性代謝異常
症、鬱病、統合失調症、てんかん、ナルコレプシー、糖尿病、肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、及び多嚢胞性卵巣症候群からなるリストから選択される、組成物。
【請求項29】
神経疾患、代謝疾患、癌、又は心虚血の治療又は予防に使用するための、請求項1~
26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
トリブチリンと、トリヘキサノイン、トリヘプタノイン、トリカプリリン、トリノナノイン、トリカプリン、トリウンデカノイン、及びトリドデカノインからなるリストから選択される1つ以上のトリグリセリドとのエステル交換を含む、請求項1~
26のいずれか一項に記載の組成
物の製造方法。
【請求項31】
前記トリグリセリドが、トリカプリリンである、請求項30に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された官能特性を有する酪酸含有トリグリセリドの食品素材(dietary source)に関する。本発明はまた、豊富なケトン源を提供する酪酸含有トリグリセリドも提供する。
【背景技術】
【0002】
酪酸の塩及びエステルは、ブチレート又はブタノエートと呼ばれる。エステル形態の酪酸は、多くの食品、例えば乳、特にヤギ、ヒツジ、牛、ラクダ、及びバッファローの乳、並びに乳由来産物、例えばバター、及びチーズ、例えばパルメザンチーズにおいて見られる。酪酸はまた、例えば、腸内細菌叢によって産生される発酵産物のように、嫌気性発酵の産物である。トリブチリンは、3つのブチレート部分を有する3つのエステル官能基と、グリセロール骨格とからなるトリグリセリドである。消化中に生じる条件などのような加水分解条件下では、トリブチリンは、トリブチリン1モル当たり3モルの酪酸の供給源となり得る。
【0003】
哺乳動物及び家畜において、ブチレートの数多くの有益な効果が十分に記録されている。腸管レベルでは、ブチレートは経上皮による流体輸送を調節するよう機能し、粘膜炎及び酸化状態を回復し、腸のバリア機能を強化し、内臓知覚及び腸運動に作用する。
【0004】
ブチレートは、短腸症候群の子豚の腸構造を改善すること(Bartholome et al.,J of Parenter Enteral Nutr.2004;28(4):210-222)、及びヒト細胞株における結腸癌細胞の増殖を減少させること(Lupton,J Nutr.,2004;134(2):479-482)が明らかとなっている。結腸癌における食物繊維の働きには、発酵性繊維からの酪酸などの揮発性脂肪酸の生成が寄与し得る(Lupton,J Nutr.,2004;134(2):479-482)。酢酸、プロピオン酸、及び酪酸が挙げられるがこれらに限定されない短鎖脂肪酸は、非消化性繊維及び/又はプレバイオティクスを餌とする、又はこれらを発酵させる結腸細菌によって生成される。酪酸はまた、エネルギー生成を増加させることによって大腸細胞にも利益をもたらす。ブチレートは更に、下痢の発生率を低下させること(Berni Canani et al.,Gastroenterol.,2004;127(2):630-634)、炎症性腸疾患を改善すること(Scarpellini et al.,Dig Liver Dis.,2007;1(1):19-22)、及び小腸の健康を改善すること(Kotunia et al.,J Physiol Pharmacol.1994;55(2):59-68)が明らかにされている。
【0005】
ブチレートはまた、摂取時にケトンの大量生成を刺激することも知られている。(Saint-Pierre et al.,2016;32 Journal of Functional Foods 32:170-175)。ケトンは、脳などの末梢器官に効果的に到達できる代替的エネルギー源(炭水化物、タンパク質及び脂肪以外の)である。ケトンは、ミトコンドリアにおいてアセチル-CoAを直接生成してATPの生成を支持することができ、並びに神経組織ではグルコースの代わりに使用され得る(Tetrick et al,2010,Comparative Medicine 60:486-490)。ケトンは、フリーラジカルによる損傷からニューロンを保護する効果も示し得る(Vanltallie TB et al,2003,Ketones:metabolism’s ugly duckling.Nutr.Rev.61:327-41)。
【0006】
いくつかの研究では、虚血性傷害後のケトン投与が、虚血性傷害が脳に与える影響を低減することが示唆されている。実際、ケトンの補給は、外傷性脳損傷の治療候補と考えられている(White and Venkatesh、2011,Critical Care 15:219)。更に、いくつかの研究では、パーキンソン病及びアルツハイマー病などの神経変性疾患が、ケトン投与から恩恵を受けることを示唆している。例えば、Reger et al,(2004,Neurobiol Aging.25:311-4.14)は、アルツハイマー患者において血清ケトン濃度の上昇が認知スコアを改善することを見出した。
【0007】
酪酸及びトリブチリンは両方とも、安全であると一般的にみなされる(GRAS)食品添加物(それぞれ、21CFR582.60及び21CFR184.1903)であり、多くの乳製品の天然成分である。しかしながら酪酸は、嘔吐物、糞便、及びチーズのような匂い特性などの、ネガティブな官能品質を伴う。トリブチリンはまた、ネガティブな官能品質、特に高度の苦味も有する。これらの不快な味覚及び臭気特性により、特に小児集団において、これらの化合物を含む組成物の経口投与を行うことが、特に困難になることがある。
【0008】
中鎖トリグリセリド(MCT)及び中鎖脂肪酸(MCFA)もケトンの供給源である。オクタン酸(C8)は、ヒトにおける血中ケトンの生成において最も効率的なMCFAである(Vanderberghe et al.;2017 Curr.Dev.Nutr.1(4))。しかしながら、高用量摂取(10g超)には、下痢及び胃痙攣などの胃腸不耐性に関する望ましくない影響が伴うことから、1回に摂取できる量が限られ、その結果、生成される血中ケトンの量は制限される。
【0009】
利用可能な製品と比較して改良された官能特性を有する食品等級のブチレートの供給源を提供することは、有益となる。
【0010】
[発明の概要]
本発明は、改善された官能特性を有しており、ヒト及び他の哺乳動物における経口摂取又は経腸摂取後にケトン生成を高めるのに有望である、ブチレートの供給源である化合物を提供する。特に、本発明は、ブチレートと中鎖脂肪酸(MCFA)との混合物を含む新しいトリグリセリド(TG)を提供する。化合物は、酪酸、酪酸塩、及び/又はトリブチリンと比較して、改善された臭気及び/又は味を有する。化合物は、酪酸の食品素材として使用することができる。化合物は、例えば、栄養組成物及びダイエタリーサプリメントに使用されてもよく、ケトンの供給源として使用されてもよい。化合物は、ブチレート及びケトンの血中濃度の増加も同時にもたらし得る。
【0011】
脂肪酸は、胃腸管において天然に存在するリパーゼにより、トリグリセリドから脱離する。酪酸塩と比較すると、当該化合物が、最終的な配合物に更なるミネラル塩を添加することはない。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、次式を有する化合物又はこれらの組み合わせを含む組成物が提供される。
【0013】
【化1】
[式中、n1、n2、n3、n4、n5、及びn6は、独立して4~10である。]
【0014】
一実施形態では、n1=n2、及び/又はn5=n6である。更なる実施形態では、n1=n2=n3=n4=n5=n6である。
【0015】
組成物は、式(1)を有する化合物と、式(2)を有する化合物とを含んでもよい。
【0016】
組成物は、式(1)を有する化合物と、式(3)を有する化合物とを含んでもよい。
【0017】
組成物は、式(1)を有する化合物と、式(4)を有する化合物とを含んでもよい。
【0018】
組成物は、式(2)を有する化合物と、式(3)を有する化合物とを含んでもよい。
【0019】
組成物は、式(2)を有する化合物と、式(4)を有する化合物とを含んでもよい。
【0020】
組成物は、式(3)を有する化合物と、式(4)を有する化合物とを含んでもよい。
【0021】
組成物は、式(1)を有する化合物と、式(2)を有する化合物と、式(3)を有する化合物とを含んでもよい。
【0022】
組成物は、式(1)を有する化合物と、式(2)を有する化合物と、式(4)を有する化合物とを含んでもよい。
【0023】
組成物は、式(1)を有する化合物と、式(3)を有する化合物と、式(4)を有する化合物とを含んでもよい。
【0024】
組成物は、式(2)を有する化合物と、式(3)を有する化合物と、式(4)を有する化合物とを含んでもよい。
【0025】
組成物は、式(1)を有する化合物と、式(2)を有する化合物と、式(3)を有する化合物と、式(4)を有する化合物とを含んでもよい。
【0026】
一実施形態では、式(1)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも2重量%、5重量%、10重量%、又は15重量%を構成する。一実施形態では、式(1)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの2~35重量%、5~30重量%、又は10~25重量%を構成する。
【0027】
一実施形態では、式(2)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも2重量%、5重量%、10重量%、又は15重量%を構成する。一実施形態では、式(2)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの2~35重量%、5~30重量%、又は10~25重量%を構成する。
【0028】
一実施形態では、式(3)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも2重量%、5重量%、10重量%、又は15重量%を構成する。一実施形態では、式(3)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの2~35重量%、5~30重量%、又は10~25重量%を構成する。
【0029】
一実施形態では、式(4)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも2重量%、5重量%、10重量%、又は15重量%を構成する。一実施形態では、式(4)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの2~35重量%、5~30重量%、又は10~25重量%を構成する。
【0030】
式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物及び式(4)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、又は99重量%を構成し得る。
【0031】
一実施形態では、式(1)を有する化合物は、組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも2重量%、5重量%、10重量%、又は15重量%を構成し、及び/又は式(2)を有する化合物は、組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも2重量%、5重量%、10重量%、又は15重量%を構成し、及び/又は式(3)を有する化合物及び/又は式(4)を有する化合物は、組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも2重量%、5重量%、10重量%、又は15重量%を構成するは、組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも2重量%、5重量%、10重量%、又は15重量%を構成する。
【0032】
式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物及び式(4)を有する化合物は、組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、又は99重量%を構成してもよく、及び/又は組成物中の全中鎖脂肪酸部分含有トリグリセリドの少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、又は99重量%を構成してもよい。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、次式を有する化合物又はこれらの組み合わせを含む組成物が提供される。
【0034】
【0035】
組成物は、式(5)を有する化合物と、式(6)を有する化合物とを含んでもよい。
【0036】
組成物は、式(5)を有する化合物と、式(7)を有する化合物とを含んでもよい。
【0037】
組成物は、式(5)を有する化合物と、式(8)を有する化合物とを含んでもよい。
【0038】
組成物は、式(6)を有する化合物と、式(7)を有する化合物とを含んでもよい。
【0039】
組成物は、式(6)を有する化合物と、式(8)を有する化合物とを含んでもよい。
【0040】
組成物は、式(7)を有する化合物と、式(8)を有する化合物とを含んでもよい。
【0041】
組成物は、式(5)を有する化合物と、式(6)を有する化合物と、式(7)を有する化合物とを含んでもよい。
【0042】
組成物は、式(5)を有する化合物と、式(6)を有する化合物と、式(8)を有する化合物とを含んでもよい。
【0043】
組成物は、式(5)を有する化合物と、式(7)を有する化合物と、式(8)を有する化合物とを含んでもよい。
【0044】
組成物は、式(6)を有する化合物と、式(7)を有する化合物と、式(8)を有する化合物とを含んでもよい。
【0045】
組成物は、式(5)を有する化合物と、式(6)を有する化合物と、式(7)を有する化合物と、式(8)を有する化合物とを含んでもよい。
【0046】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも2重量%、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、又は25重量%を構成する。一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの5~35重量%、10~30重量%、又は20~30重量%を構成する。
【0047】
一実施形態では、式(6)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも2重量%、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、又は25重量%を構成する。一実施形態では、式(6)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの5~35重量%、10~30重量%、又は15~25重量%を構成する。
【0048】
一実施形態では、式(7)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも2重量%、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、又は25重量%を構成する。一実施形態では、式(7)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの5~35重量%、10~30重量%、又は10~20重量%を構成する。
【0049】
一実施形態では、式(8)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも2重量%、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、又は25重量%を構成する。一実施形態では、式(8)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの5~35重量%、5~20重量%、又は5~15重量%を構成する。
【0050】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも5重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも5重量%を構成し、式(7)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも5重量%を構成し、式(8)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも5重量%を構成する。
【0051】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも25重量%重量を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも15重量%を構成し、式(7)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも10重量%重量%を構成し、式(8)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも5重量%を構成する。
【0052】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの20~30重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの15~25重量%を構成し、式(7)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの10~20重量%を構成し、式(8)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの5~15重量%を構成する。
【0053】
式(5)を有する化合物、式(6)を有する化合物、式(7)を有する化合物及び式(8)を有する化合物は、組成物の全トリグリセリドの少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、又は99重量%を構成し得る。
【0054】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも5重量%を構成する。一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも10重量%、20重量%、又は30重量%を構成する。
【0055】
一実施形態では、式(6)を有する化合物は、組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも5重量%を構成する。一実施形態では、式(6)を有する化合物は、組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも10重量%、15重量%、又は20重量%を構成する。
【0056】
一実施形態では、式(7)を有する化合物は、組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも5重量%、10重量%、又は15重量%を構成する。
【0057】
一実施形態では、式(8)を有する化合物は、組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも5重量%、又は10重量%を構成する。
【0058】
式(5)を有する化合物、式(6)を有する化合物、式(7)を有する化合物及び式(8)を有する化合物は、組成物中の全ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、又は99重量%を構成してもよく、及び/又は組成物中の全オクタノエート部分含有トリグリセリドの少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、又は99重量%を構成してもよい。
【0059】
好ましい実施形態では、トリブチリンは、組成物中の全トリグリセリドの10重量%未満、好ましくは8重量%未満、より好ましくは組成物中の全トリグリセリドの5重量%未満を構成する。
【0060】
本発明の組成物は、栄養組成物であってよい。
【0061】
組成物は、ダイエタリーサプリメントであってもよい。ダイエタリーサプリメントは、カプセル、錠剤、サッシェ、粉末、又は液体ショットの形態であってよい。
【0062】
別の態様によれば、改良された官能特性を有する酪酸の供給源を提供するための本発明の組成物が提供される。
【0063】
別の態様によれば、胃腸の健康の改善又は維持に使用するための本発明の組成物が提供される。
【0064】
別の態様によれば、ケトン濃度、好ましくは血中ケトン濃度の増加に使用するための本発明の組成物が提供される。
【0065】
別の態様によれば、ケトン濃度、好ましくは血中ケトン濃度によって治療可能な疾患を治療するための本発明の組成物が提供される。
【0066】
別の態様によれば、低ケトン濃度、好ましくは低血中ケトン濃度に関連する疾患を治療するための本発明の組成物が提供される。一実施形態では、神経疾患、代謝疾患、癌、及び/又は心虚血の治療又は予防に使用するための本発明の組成物が提供される。
【0067】
一実施形態では、脳エネルギー欠乏状態、片頭痛、記憶障害、加齢に伴う記憶障害、脳損傷、卒中、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、認知障害、集中治療後認知障害、加齢に伴う認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、先天性代謝異常症(グルコーストランスポーター1欠損症症候群及びピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症など)、鬱病、統合失調症、てんかん、ナルコレプシー、糖尿病、肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、及び多嚢胞性卵巣症候群からなるリストから選択される1つ以上の疾患の治療又は予防に使用するための、本発明の組成物が提供される。
【0068】
一実施形態では、てんかんの治療又は予防に使用するための本発明の組成物が提供される。
【0069】
別の態様によれば、式(1)を有する化合物が提供される。一実施形態では、n1=n2=6である。この実施形態では、式(1)を有する化合物は、式(5)を有する化合物に相当する。
【0070】
別の態様によれば、式(2)を有する化合物が提供される。一実施形態では、n3=6である。この実施形態では、式(2)を有する化合物は、式(6)を有する化合物に相当する。
【0071】
別の態様によれば、式(3)を有する化合物が提供される。一実施形態では、n4=6である。この実施形態では、式(3)を有する化合物は、式(7)を有する化合物に相当する。
【0072】
別の態様によれば、式(4)を有する化合物が提供される。一実施形態では、n5=n6=6である。この実施形態では、式(4)を有する化合物は、式(8)を有する化合物に相当する。
【0073】
別の態様によれば、改良された官能特性を有するブチレートの供給源を提供するための、本明細書で定義される式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物及び/又は式(4)を有する化合物、好ましくは、式(5)を有する化合物、式(6)を有する化合物、式(7)を有する化合物及び/又は式(8)を有する化合物の使用がもたらされる。
【0074】
別の態様によれば、血中ケトン濃度、好ましくは血中ケトン濃度の増加に使用するための、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物若しくは式(4)を有する化合物又はこれらの組み合わせ、好ましくは、式(5)を有する化合物、式(6)を有する化合物、式(7)を有する化合物若しくは式(8)を有する化合物又はこれらの組み合わせが提供される。
【0075】
別の態様によると、胃腸(GI)の健康の改善又は維持に使用するため、及び/又は血中ケトン濃度を増加させるための、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物若しくは式(4)を有する化合物又はこれらの組み合わせ、好ましくは式(5)を有する化合物、式(6)を有する化合物、式(7)を有する化合物若しくは式(8)を有する化合物又はこれらの組み合わせが提供される。
【0076】
別の態様によれば、薬剤として使用するための、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物若しくは式(4)を有する化合物又はこれらの組み合わせ、好ましくは、式(5)を有する化合物、式(6)を有する化合物、式(7)を有する化合物若しくは式(8)を有する化合物又はこれらの組み合わせが提供される。
【0077】
別の態様によれば、血中ケトン濃度の増加によって治療可能な疾患を治療するための、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物若しくは式(4)を有する化合物又はこれらの組み合わせ、好ましくは、式(5)を有する化合物、式(6)を有する化合物、式(7)を有する化合物若しくは式(8)を有する化合物又はこれらの組み合わせが提供される。
【0078】
別の態様によれば、低ケトン濃度、好ましくは低血中ケトン濃度に関連する疾患を治療するための本発明の組成物が提供される。一実施形態では、神経疾患、代謝疾患、癌、及び/又は心虚血の予防又は治療に使用するための、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物若しくは式(4)を有する化合物又はこれらの組み合わせ、好ましくは、式(5)を有する化合物、式(6)を有する化合物、式(7)を有する化合物若しくは式(8)を有する化合物又はこれらの組み合わせが提供される。
【0079】
一実施形態では、脳エネルギー欠乏状態、片頭痛、記憶障害、加齢に伴う記憶障害、脳損傷、卒中、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、認知障害、集中治療後認知障害、加齢に伴う認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、先天性代謝異常症(グルコーストランスポーター1欠損症症候群及びピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症など)、鬱病、統合失調症、てんかん、ナルコレプシー、糖尿病、肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、及び多嚢胞性卵巣症候群からなるリストから選択される1つ以上の疾患の治療又は予防に使用するための、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物及び/又は式(4)を有する化合物、好ましくは、式(5)を有する化合物、式(6)を有する化合物、式(7)を有する化合物及び/又は式(8)を有する化合物が提供される。
【0080】
一実施形態では、てんかんの治療のための、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物若しくは式(4)を有する化合物又はこれらの組み合わせ、好ましくは、式(5)を有する化合物、式(6)を有する化合物、式(7)を有する化合物若しくは式(8)を有する化合物又はこれらの組み合わせが提供される。
【0081】
別の態様によると、本明細書に定義される化合物又は組成物を、処置を必要とする対象に投与することを含む、ケトン濃度、好ましくは血中ケトン濃度を増加させる方法が提供される。
【0082】
別の態様によると、本明細書に定義される化合物又は組成物を、処置を必要とする対象に投与することを含む、ケトン濃度、好ましくは血中ケトン濃度を増加させることによって治療可能な疾患を治療する方法が提供される。
【0083】
別の態様によると、本明細書に定義される化合物又は組成物を、処置を必要とする対象に投与することを含む、低ケトン濃度、好ましくは低血中ケトン濃度に関連する疾患を治療又は予防する方法が提供される。
【0084】
別の態様によると、本明細書に定義される化合物又は組成物を、処置を必要とする対象に投与することを含む、神経疾患、代謝疾患、癌、及び/又は心虚血を治療又は予防する方法が提供される。
【0085】
一実施形態では、本明細書に定義される化合物又は組成物を、処置を必要とする対象に投与することを含む、脳エネルギー欠乏状態、片頭痛、記憶障害、加齢に伴う記憶障害、脳損傷、卒中、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、認知障害、集中治療後認知障害、加齢に伴う認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、先天性代謝異常症(グルコーストランスポーター1欠損症症候群及びピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症など)、鬱病、統合失調症、てんかん、ナルコレプシー、糖尿病、肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、及び多嚢胞性卵巣症候群からなるリストから選択される1つ以上の疾患を治療又は予防する方法が提供される。
【0086】
別の態様によれば、トリブチリンと、トリヘキサノイン、トリヘプタノイン、トリカプリリン、トリノナノイン、トリカプリン、トリウンデカノイン、及びトリドデカノインからなるリストから選択される1つ以上のトリグリセリドとのエステル交換を含む、本発明の組成物、又は本明細書に定義される式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物若しくは式(4)を有する化合物を製造する方法が提供される。
【0087】
一実施形態によると、トリブチリンと、トリカプリリンとのエステル交換を含む、本発明の組成物又は本明細書に定義される式(5)を有する化合物、式(6)を有する化合物、式(7)を有する化合物若しくは式(8)を有する化合物を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【
図1】本発明によるC4C8ブチレート化トリグリセリド「MCT C4/C8」又は「MCT」の摂取後4時間までの、血漿中総ケトン(BHB及びAcAc)濃度の平均値を示す。
【
図2】本発明によるC4C8ブチレート化トリグリセリド「MCT C4/C8」の摂取後4時間にわたる、血漿中BHB、AcAc、及び総ケトン濃度を示す。
【
図3】図
3は、本発明によるC4C8ブチレート化トリグリセリド「MCT C4/C8」の摂取後4時間にわたる血漿中プロピオン酸、酪酸、及びヘキサン酸濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0089】
トリグリセリド
トリグリセリド(トリアシルグリセロールとも呼ばれる)は、グリセロール及び3つの脂肪酸から誘導されたトリエステルである。
【0090】
脂肪酸は、不飽和又は飽和のいずれであってもよい。他の分子に結合していない脂肪酸は、遊離脂肪酸(FFA)と呼ばれる。
【0091】
用語「脂肪酸部分」は、グリセロールとのエステル化反応において脂肪酸に由来するトリグリセリドの部分を指す。本発明で使用されるトリグリセリドは、少なくとも1つの酪酸(C4)部分と、少なくとも1つの中鎖脂肪酸部分(C6、C7、C8、C9、C10、C11又はC12)とを含む。
【0092】
中鎖脂肪酸部分は、6~12個の炭素原子を含有してもよい。したがって、中鎖脂肪酸部分は、ヘキサノエート(カプロン酸)、ヘプタノエート(エナント酸)、オクタノエート(カプリル酸)、ノナノエート(ペラルゴン酸)、デカノエート(カプリン酸)、ウンデカノエート(ウンデシル酸)又はドデカノエート(ラウリン酸)であってもよい。
【0093】
1つ以上の中鎖脂肪酸部分がトリグリセリド中に存在する場合、中鎖脂肪酸部分は、同数又は異なる数の炭素原子を含有し得る。
【0094】
いくつかの実施形態では、1つ以上の中鎖脂肪酸部分は、6~10個の炭素原子を含有する。好ましい実施形態では、1つ以上の中鎖脂肪酸部分は8個の炭素原子を含有する(中鎖脂肪酸部分はオクタノエートである)。
【0095】
本発明のトリグリセリドは、例えば、中鎖FFA(例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、及び/又はドデカン酸)及び酪酸と、グリセロールとのエステル化によって合成され得る。中鎖脂肪酸部分がオクタノエートであるとき、トリグリセリドは、例えば、オクタン酸及び酪酸と、グリセロールとのエステル化によって合成され得る。
【0096】
あるいは、本発明のトリグリセリドは、例えば、トリブチリンと、トリヘキサノイン、トリヘプタノイン、トリカプリリン、トリノナノイン、トリカプリン、トリウンデカノイン、及び/又はトリドデカノインとの間のエステル交換によって合成され得る。中鎖脂肪酸部分がオクタノエートであるとき、トリグリセリドは、例えば、トリブチリンとトリカプリリン(トリオクタノイン)との間のエステル交換によって合成され得る。
【0097】
例として、式(5)を有する化合物、式(6)を有する化合物、式(7)を有する化合物及び式(8)を有する化合物を得る方法を以下に示す。
【0098】
【0099】
単一のブチレート部分含有トリグリセリドを、本明細書で使用することができる。あるいは、異なるブチレート部分含有トリグリセリドの混合物を使用することができる。
【0100】
組成物
本発明は、本明細書で言及されるブチレート部分含有トリグリセリドを含む、組成物を提供する。組成物は、例えば、栄養組成物又はダイエタリーサプリメントであってもよい。
【0101】
表現「栄養組成物」とは、対象に栄養を与える組成物を意味する。
【0102】
いくつかの特定の実施形態では、本発明による栄養組成物は、「経腸栄養組成物」、すなわち、当該組成物の投与に胃腸管が関わる食料品である。胃内導入は、胃に直接導く経鼻胃管又は経口胃管の使用を伴い得る。このような管は、特に病院又は診療所において使用することができる。
【0103】
「ダイエタリーサプリメント」は、個体の栄養を補完するために使用されてもよい(典型的にはそのように使用されるものの、ダイエタリーサプリメントは、摂取を予定している任意の種類の組成物に添加されてもよい)。これは、例えば、錠剤、カプセル、トローチ、又は液体の形態であってもよい。ダイエタリーサプリメントは、保護親水コロイド(ガム、タンパク質、加工デンプンなど)、結合剤、膜形成剤、カプセル化剤/材料、壁/シェル材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、表面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、担体、充填剤、共化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動剤、味覚マスキング剤、増量剤、ゼリー化剤、及びゲル形成剤を更に含有してもよい。ダイエタリーサプリメントはまた、従来の医薬添加剤及び補助剤、賦形剤、及び希釈剤を含有してもよく、これには、水、任意の由来のゼラチン、植物ガム、リグニンスルホネート、タルク、糖、デンプン、アラビアガム、植物油、ポリアルキレングリコール、風味剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝液、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、充填剤などが挙げられるが、これらに限定されない。組成物は、栄養補給剤である場合、単位用量の形態で提供することができる。
【0104】
本発明の栄養組成物は、タンパク質源、炭水化物源、及び/又は脂質源を含有してもよい。しかし、いくつかの実施形態では、特に本発明の栄養組成物が栄養補給剤又は強化剤である場合、脂質(又は脂質源)のみが存在していてもよい。
【0105】
例えば、大豆をベースとしたタンパク質源のみでなく、ホエイ、カゼイン、及びこれらの混合物をベースとしたタンパク質源を使用してもよい。ホエイタンパク質に関して言えば、タンパク質源は酸性ホエイ若しくは甘性ホエイ又はこれらの混合物をベースとしたものであってよく、任意の所望の割合でα-ラクトアルブミン及びβ-ラクトグロブリンを含有し得る。
【0106】
タンパク質は、完全に加水分解されているもの、又は部分的に加水分解されているもの、のいずれであってもよい。加水分解されたタンパク質が必要である場合、加水分解プロセスを、所望に応じて、当該技術分野において既知のように行うことができる。例えば、ホエイタンパク質の加水分解物は、1つ以上のステップでホエイ画分を酵素により加水分解することによって調製することができる。
【0107】
一実施形態では、組成物のタンパク質は、植物性タンパク質である。
【0108】
本発明による栄養組成物は、炭水化物源を含有してもよい。ラクトース、スクロース、サッカロース、マルトデキストリン、デンプン、及びこれらの混合物などの任意の炭水化物源を使用してもよい。本発明の栄養組成物はまた、毎日の食事に必須と考えられるビタミン及びミネラルを、栄養的に有意な量で含有してもよい。特定のビタミン及びミネラルに対する最小必要量が確立されている。本発明の組成物中に任意選択的に存在する、ミネラル、ビタミン、及び他の栄養素の例としては、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンC、ビタミンD、葉酸、イノシトール、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、コリン、カルシウム、リン、ヨウ素、鉄、マグネシウム、銅、亜鉛、マンガン、塩素、カリウム、ナトリウム、セレン、クロム、モリブデン、タウリン、及びL-カルニチンが挙げられる。ミネラルは、通常、塩形態で添加される。特定のミネラル及び他のビタミンの存在及び量は、対象とする集団に応じて異なる。必要な場合、本発明の栄養組成物は、乳化剤及び安定剤、例えば、大豆、レシチン、モノ及びジグリセリドのクエン酸エステルなどを含有してもよい。本発明の栄養組成物はまた、例えばラクトフェリン、オステオポンチン、TGFβ、slgA、グルタミン、ヌクレオチド、ヌクレオシドなどの、有益な効果を有することができる他の物質を含有してもよい。
【0109】
本発明の組成物は、少なくとも1つの難消化性オリゴ糖(例えばプレバイオティクス)を更に含んでもよい。
【0110】
プレバイオティクスは通常、胃又は小腸において分解されず吸収されないという意味で難消化性である。したがって、プレバイオティクスは大腸に入る際にインタクトのままであり、大腸で有益な細菌により選択的に発酵される。プレバイオティクスの例としては、フラクトオリゴ糖(FOS)、イヌリン、キシロオリゴ糖(XOS)、ポリデキストロース、又はこれらの任意の混合物といったある種のオリゴ糖が挙げられる。特定の実施形態では、プレバイオティクスは、フラクトオリゴ糖及び/又はイヌリンであってもよい。特定の実施形態では、プレバイオティクスは、FOSとイヌリンとの組み合わせ、例えば、BENEO-Oraftiにより商標名Orafti(登録商標)オリゴフルクトース(以前にはRaftilose(登録商標))で販売されている製品における組み合わせ、又はBENEO-Oraftiにより商標名Orafti(登録商標)イヌリン(以前にはRaftiline(登録商標))で販売されている製品における組み合わせである。別の例は、70%の短鎖フラクトオリゴ糖と30%のイヌリンとの組み合わせであり、これはNestleによって商標名「Prebio1」として登録されている。本発明の栄養組成物は、BMO(ウシミルクオリゴ糖)及び/又はHMO(ヒトミルクオリゴ糖)であり得る少なくとも1種のミルクオリゴ糖も含むことができる。本発明の組成物は、プロバイオティクス菌株などの少なくとも1種のプロバイオティクス(すなわち、プロバイオティクス菌株)を更に含んでもよい。
【0111】
最も一般的に使用されるプロバイオティクス微生物は、主に、ラクトバチルス属(Lactobacillus spp.)、ストレプトコッカス属(Streptococcus spp.)、エンテロコッカス属(Enterococcus spp.)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium spp.)、クロストリジウム属(Clostridium spp.)、及びサッカロマイセス属(Saccharomyces spp.)の細菌及び酵母である。
【0112】
いくつかの特定の実施形態では、プロバイオティクスは、プロバイオティクス菌株である。いくつかの特定の実施形態では、プロバイオティクス菌株は、ビフィズス菌及び/又はラクトバチルスである。
【0113】
いくつかの特定の実施形態では、微生物は糞便由来である。本発明の組成物は、例えば、固体(例えば、粉末)、液体、又はゼラチン状の形態であり得る。
【0114】
本発明の組成物は、例えば、錠剤、糖衣錠、カプセル、ゲルキャップ、粉末、顆粒、溶液、エマルジョン、懸濁液、被覆粒子、噴霧乾燥粒子、ピル、又はショット(例えば、手軽に、例えば一口分が一回以上(in one or more mouthfuls)摂食され得る少量の液体)の形態であり得る。
【0115】
組成物は、医薬組成物の形態であってもよく、医薬的に許容される1つ以上の好適な担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含んでもよい。
【0116】
本明細書に記載される組成物に好適な、このような賦形剤の例は、「Handbook of Pharmaceutical Excipients」,2nd Edition,(1994),(A Wade and PJ Weller編)に見ることができる。
【0117】
治療用途に許容される担体又は希釈剤は、医薬分野において既知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro edit.1985)に記載される。
【0118】
医薬組成物は、担体、賦形剤、若しくは希釈剤として、又はそれに加え、任意の好適な結合剤、潤滑剤、懸濁化剤、コーティング剤、及び/若しくは可溶化剤を含んでもよい。好適な結合剤の例としては、デンプン、ゼラチン、天然糖、例えばグルコース、無水ラクトース、流動性ラクトース、β-ラクトースなど、コーン甘味料、天然及び合成ガム、例えばアカシア、トラガカント、又はアルギン酸ナトリウムなど、カルボキシメチルセルロース、及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0119】
好適な潤滑剤の例としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。
【0120】
防腐剤、安定剤、染料、及び更には香味剤を、組成物に含ませてもよい。防腐剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、及びp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。酸化防止剤及び懸濁剤もまた、使用することができる。
【0121】
治療
本明細書において「治療」についてなされる全ての言及は、治癒的、緩和的、及び予防的治療を含むものであると理解される。治療には、疾患の重症度の進行を抑止することも含まれ得る。
【0122】
ヒト及び動物の治療の両方が、本発明の範囲内である。
【0123】
胃腸(GI)の健康
本明細書で定義される化合物及び組成物は、ブチレート/酪酸の供給源であり、したがって胃腸(GI)の健康を改善又は維持するために使用され得る。
【0124】
ブチレートがGIの健康に対し数多くの有益な効果を有することが、十分に記録されている。腸管レベルでは、ブチレートは経上皮による流体輸送を調節するよう機能し、粘膜炎及び酸化状態を回復し、上皮防御バリアを強化し、内臓知覚及び腸運動を調節する。
【0125】
酪酸などの脂肪酸は、結腸粘膜の細胞にとって主要エネルギー源であり(Reodriger,Gut.1980;21:793-798)、遠位結腸の結腸細胞にとって最も重要である。酪酸が小腸粘膜に対し強い栄養効果を有することは、実験動物において認められている(Guilteau et al.,2 J Anim Feed Sci 2004;13,Suppl.1:393-396)。腸の酪酸濃度の低下は大腸粘膜の萎縮につながり、この萎縮は、通常、大腸細胞に対する基質の有用性の低下によって説明される。一方、結腸内腔へのブチレートの投与は、体重増加、DNA合成の増加、及び腸陰窩の深さの増加を誘発する(Kripke et al.,J Parenter Enter Nutr.1989;13:109-116)。
【0126】
不溶性食物繊維の発酵によって達成される、又はブチレートの肛門投与後に達成される高濃度の酪酸は、アポトーシスカスケードの鍵となるタンパク質の転写、発現、及び活性化を調節することで、結腸における腫瘍形成の初期段階及び後期段階を阻害し得る(Aviv-Green et al.,J Nutr..2002;132(7):1812-18)。
【0127】
Chapman et al.(Gut 1994;35(1):73-76)は、炎症を起こした結腸粘膜はグルタミン又はグルコースと比較してはるかに多量の酪酸を捕捉することを示した。ラットにおける複数の実験では、ブチレート灌流により、炎症が有意に減少し、結腸壁の潰瘍範囲が減少することが示された(Andoh et al.,J Parenter Enter Nutr.1999;23(5):70-73)。
【0128】
潰瘍性大腸炎を有する患者の臨床観察では、ブチレート浣腸の有効性が示されている(Han et al.,Gastroenterol Clin North Am.1999;28:423-443;Scheppach et al.,Gastroenterol Suppl.1997;222:53-57)。
【0129】
ブチレートの直接的な抗炎症活性は、核内因子κB(NFκB)の移動及びDNAとの結合の阻害、更には、炎症性サイトカインの転写及び産生の阻害と関係し得る(Segain et al.,Gut.2000;47:397-403)。
【0130】
一実施形態では、本明細書に定義される化合物及び組成物は、炎症性腸疾患、例えば、クローン病又は潰瘍性大腸炎の治療に使用され得る。
【0131】
ケトン
上述したように、本発明の化合物及び組成物は、C4及び中鎖脂肪酸を含み、ケトンの豊富な供給源である。
【0132】
体内では、ケトンは、主に肝臓による脂肪酸からのケトン体生成により生成される。ケトン体生成では、酵素によるβ-酸化により中鎖脂肪酸が分解され、アセチル-CoA及び「ケトン体」(ケトン基を含有する水溶性分子)が生成される。オクタノエートは、C4ケトンの生成によりケトンを作製する際に最も効率的な中鎖脂肪酸である。3つの一次ケトン体は、アセトアセテート、β-ヒドロキシブチレート、及びアセトンである。したがって、いくつかの実施形態では、本発明の化合物及び組成物は、アセトアセテート、β-ヒドロキシブチレート、及び/又はアセトンの供給源である。
【0133】
ケトン体生成は、例えば空腹時、飢餓状態、低炭水化物食、長時間運動及び無処置の1型真性糖尿病において、血中グルコースを利用できないことに応答して生じ得る。具体的には、ケトン体生成は、低炭水化物食、又は「ケトン食」によって促進される。一実施形態では、本発明による組成物は、低炭水化物食又はケトン食の一部として使用するためのものである。
【0134】
ブチレートは、ケトン生成のための脂肪酸供給源となることに加えて、脂肪酸酸化及びケトン生成を刺激し得る(Cavaleri,F.and Bashar,E.,2018.Journal of Nutrition and Metabolism)。
【0135】
一実施形態では、本発明による化合物又は組成物は、対象の体液にケトンをもたらすのに使用するためのものである。
【0136】
一実施形態では、本発明による化合物又は組成物は、血中ケトン濃度の増加に使用するためのもの、及び/又は血中ケトン濃度を増加させることによって治療可能な疾患の治療に使用するためのものである。
【0137】
ケトン体は、肝臓から他の組織、特に脳に輸送される。ケトンは、例えば、モノカルボン酸トランスポーター1(MCT1)によって脳へと輸送され、そこで主にニューロンによって代謝される。ケトン体は、アセチル-CoAへと再変換されることでエネルギー源になる。脳は、利用可能なグルコースが正常時より少ないときに、必要なエネルギー量の一部をケトン体から得る。心臓もケトン体を有効に使用することができる。
【0138】
本明細書に記載のトリグリセリドから生成される遊離脂肪酸及びケトンは、グルコースの代替となるエネルギー源になり、筋細胞、心筋細胞、又は神経細胞などの細胞において、エネルギーを補給すること又は補充することができる。したがって、癌、外傷及び虚血などの代謝状態において、ケトン体は、細胞死の可能性のある組織に追加のエネルギー源を提供することから有益となり得る(Baranano,K.W.and Hartman,A.L.,2008.Current treatment options in neurology,10(6),p.410)。例えば、ケトン食(ケトン体の生成を促進する1つの方法)は、薬剤抵抗性てんかんの治療法であり、様々な神経障害に治療効果を有し得る(Gano,L.,Patel,M.and Rho,J.M.,2014.Journal of lipid research,pp.jlr-R048975)。
【0139】
脳組織は、その体積に比して多量のエネルギーを消費する。平均的な健康な対象では、脳は、そのエネルギーの大部分をグルコースの酸素依存的代謝から獲得する。典型的には、脳のエネルギーの大部分は、ニューロン又は神経細胞のシグナル伝達を助けるために使用され、残りのエネルギーは、細胞の健康維持のために使用される。例えば、グルコースの利用が障害されることによって引き起こされる脳のエネルギー欠乏は、神経活動の亢進、痙攣発作及び認知障害をもたらすことがある。
【0140】
したがって、本発明の化合物及び組成物は、神経学的状態又は疾患における欠乏を治療するために使用され得る。本発明の化合物及び組成物は、脳エネルギーの欠乏及び/又は該欠乏に関連する状態を治療するために使用され得る。
【0141】
脳エネルギーの欠乏状態又は疾患の例としては、片頭痛、記憶障害、加齢に伴う記憶障害、脳損傷、神経リハビリテーション、卒中及び卒中後、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、認知障害、集中治療後認知障害、加齢に伴う認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、先天性代謝異常症(グルコーストランスポーター1欠損症症候群及びピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症など)、双極性障害、統合失調症、及び/又はてんかんが挙げられる。
【0142】
「神経学的状態」は、神経系の障害を指す。神経学的状態は、病気又は外傷によって脳、脊柱又は神経に引き起こされた損傷に起因し得る。神経学的状態の症状の例としては、麻痺、筋力低下、協調運動不良、感覚消失、痙攣発作、錯乱、疼痛、及び意識のレベルの変化が挙げられる。接触、圧力、振動、四肢の位置、熱さ、冷たさ、及び痛み並びに反射に対する応答の評価を実施することで、対象において神経系に障害が生じているかどうかを決定することができる。
【0143】
一実施形態では、神経学的状態は、脳の外傷性損傷の結果である。
【0144】
「認知性障害」及び「認知障害」という用語は、認知に障害を生じさせる疾患、特に、学習、記憶、知覚、及び/又は問題解決に主に影響を及ぼす疾患を指す。認知障害は、集中治療後の対象に生じることがある。認知障害は、老化の一部としても生じ得る。
【0145】
用語「認知」とは、知識、注意、長期記憶及び作業記憶、判断及び評価、推論及び「計算」、問題解決及び意思決定、言語の理解及び言語による創作を含む、一連の全ての精神的能力及び過程を指す。
【0146】
認知の水準及び改善は、情報処理速度、遂行機能及び記憶を評価するように設計された認知検査を含む、当該技術分野において既知である任意の好適な神経学的検査及び認知検査を用いて、当業者により容易に評価することができる。好適な試験の例としては、ミニメンタルステート検査(Mini Mental State Examination、MMSE)、ケンブリッジ神経心理学的検査バッテリー(Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery、CANTAB)、アルツハイマー病評価尺度認知試験(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-cognitive test、ADAScog)、ウィスコンシンカード分類課題(WisconsinCard Sorting Test)、言語及び図形流暢性検査及びトレイルメイキングテスト(Verbal andFigural Fluency Test and Trail Making Test)、ウエクスラー記憶検査(WechslerMemory scale、WMS)、図形の即時再生及び遅延再生試験(immediate and delayed Visual Reproduction Test)(Trahan et al.Neuropsychology,1988 19(3)p.173-89)、レイ聴覚性言語学習検査(Rey Auditory Verbal Learning Test、RAVLT)(Ivnik,RJ.et al.Psychological Assessment:A Journal of Consulting and Clinical Psychology,1990(2):p.304-312)、脳波検査(EEG)、脳磁図(MEG)、陽電子放出断層撮影法(Positron Emission Tomography、PET)、単一光子放射断層撮影法(Single Photon Emission Computed Tomography、SPECT)、磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging、MRI)、磁気共鳴機能画像法(functional Magnetic Resonance Imaging、fMRI)、コンピュータ断層撮影法並びに長期増強が挙げられる。
【0147】
ケトン食は、癌(アストロサイトーマ、前立腺癌、及び胃癌)に加えて、グルコーストランスポーター1(GLUT-1)欠損症、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)欠損症、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)欠損症;及びマッカードル病を含む糖原病などの代謝性疾患に対する治療効果も有し得る(Baranano,K.W.and Hartman,A.L.,2008.Current treatment options in neurology,10(6),p.410)。ケトン食は、2型糖尿病の管理に対する有効な戦略であることも示されている(Azar,S.T.,Beydn,H.M.and Albadri,M.R.,2016.J Obes Eat Disord,2(2))。
【0148】
したがって、本発明の化合物及び組成物は、グルコーストランスポーター1(GLUT-1)欠損症、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)欠損症、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)欠損症;並びにマッカードル病及び糖尿病などの糖原病の治療に使用できる。本発明の化合物及び組成物は、癌及び心虚血を治療するためにも使用され得る。
【0149】
投与
好ましくは、本明細書に記載される化合物及び組成物は、経腸投与される。
【0150】
経腸的投与は、経口、経胃、及び/又は経直腸投与であってよい。
【0151】
一般論として、本明細書に記載される組み合わせ又は組成物の投与は、例えば、経口経路又は別の経路による胃腸管への投与であってもよく、例えば、投与は経管栄養によるものであってもよい。
【0152】
好ましい実施形態では、投与は経口である。
【0153】
対象は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、及び霊長類などの哺乳動物であってもよい。好ましくは、対象は、ヒトである。
【0154】
本発明の更なる好ましい特徴及び実施形態を、非限定的な例として説明する。
【実施例】
【0155】
本発明の実施には、別途記載しない限り、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA及び免疫学の従来技術を用いており、これらの技術は当業者の能力の範囲内である。かかる技術は文献で説明されている。例えば、J.Sambrook,E.F.Fritsch,and T.Maniatis,1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Books 1-3,Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel,F.M.et al.(1995 and periodic supplements;Current Protocols in Molecular Biology,ch.9,13,and 16,John Wiley&Sons,New York,N.Y.);B.Roe,J.Crabtree,and A.Kahn,1996,DNA Isolation and Sequencing:Essential Techniques,John Wiley&Sons;J.M.Polak and James O’D.McGee,1990,In Situ Hybridization:Principles and Practice;Oxford University Press;M.J.Gait(Editor),1984,Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,Irl Press;D.M.J.Lilley and J.E.Dahlberg,1992,Methods of Enzymology:DNA Structure Part A:Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology,Academic Press;並びにE.M.Shevach and W.Strober,1992 and periodic supplements,Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons,New York,NYを参照のこと。これらの一般的なテキストの各々は、本明細書に参照により組み込まれる。
【0156】
実施例1-ブチレート化トリグリセリド(TAG)の調製
ブチレート化TAGを含む組成物は、ナトリウムメトキシド触媒の存在下でトリブチリンとトリカプリリンとの間の化学的エステル交換によって生成した。
【0157】
以下の工程を使用した:
反応
・トリカプリリン(StepanからのNeobee 895)及びトリブチリンを、室温で多目的反応器L2600に逐次的に添加した。ナトリウムメトキシドの添加を促進するため、1リットルのトリカプリリンを取りのけておいた。
・窒素撹拌下で脱気を実施した。
・反応器を60℃に加熱した。
・1リットルのトリカプリリン中に懸濁したナトリウムメトキシドを添加した(添加前にホイップして撹拌)。
・混合物を、不活性雰囲気(窒素)下、3時間(60℃から数えた時間)で、80℃に加熱した。
後処理
・混合物を60℃未満に冷却した。
・混合物を、中性pH(ナトリウムメトキシドの除去)が得られるまで、脱イオン水(約8L)で洗浄した。
・1回目の洗浄後、反応器を空にし、ナトリウムメトキシドの断片が壁に付着している場合には温水で洗浄した。
・最後の洗浄及び水層の除去後、粗生成油を真空乾燥した(60℃で60mBar、残っている水がなくなるまで)。
精製
・懸濁液に3%のTonsil Supreme 110 FFを添加。
・真空(60mbar)下、70℃で40分間攪拌及び加熱。
・窒素補充(Nitrogen Compensation)。
・ブフナー(Filtrox 8-20μm)上での漂白土(bleaching land)の濾過。
・16.48kgの粗製物。
脱臭
・脱色した生成物8kgを6LのL800脱臭剤に添加した。
・蒸気注入(水体積/時=30mL/時)しながら、0.8mbar下、142℃で3時間加熱する(1mbarに対して145℃、1.2mbarに対して149℃、1.5mbarに対して154℃)。
・1時間、2時間、及び脱臭終了の時点でサンプリングする。
・60℃まで冷却する(1時間15)。
・窒素補充。
・濾過。
・6.07kgが得られた。
【0158】
トリグリセリドの構成成分を以下の表1に示す。これらのトリグリセリドは、トリグリセリドが含有する3つの脂肪酸によって表される。これらの脂肪酸は、その脂質数によって表され、ブチレートは4:0、カプリル酸は8:0である。
【0159】
中央の脂肪酸は、トリグリセリドのsn-2位に位置している。一例として、8:0-4:0-8:0は、sn-2位のブチレートと、sn-1位及びsn-3位のオクタノエートとの両方を有するトリグリセリドである。
【0160】
TAGプロファイル及び位置異性体を、高分解能質量分析計に連結した液体クロマトグラフィによって分析した。各脂質の割合を、蒸発光散乱検出器(ELSD)に連結した液体クロマトグラフィによって評価した。
【0161】
C4C8トリグリセリド組成物は、良好な官能特性(くせのない味、無臭)を有した。
【0162】
【0163】
【0164】
実施例2-ブチレート化トリグリセリド(TAG)の投与(in vivo)
一晩の絶食後、ゼロ時間において、15名の健康なボランティアには、実施例1のC4C8 ブチレート化トリグリセリド「MCT C4/C8」15gを、70mLの5%ミルクタンパク質水溶液中に乳化したものを経口摂取させ、別の15名の健康なボランティアには、C8:C10比が約58:42の中鎖トリグリセリドの混合物「MCT」15gを、70mLの5%ミルクタンパク質水溶液中に乳化したものを経口摂取させた。30分の時点で標準的な朝食を提供し、15分かけて喫食させた。静脈カテーテルにより、4時間にわたって一定間隔で血液サンプルを採取し、血漿を、UPLC-MSMSでC3、C4、C8、3-ヒドロキシ酪酸(BHB)及びアセト酢酸(AcAc)について分析した。
【0165】
C4C8ブチレート化トリグリセリド「MCT C4/C8」群、及びMCT群の各処置群のそれぞれ15名の患者の血漿中総ケトン(BHB及びAcAc)濃度の4時間までの平均を
図1に示す。
図1からわかるように、C4C8ブチレート化トリグリセリド処置群では、血漿中ケトンのCmaxがより高いことが観察された。
【0166】
C4C8ブチレート化トリグリセリド「MCT C4/C8」処置群からの1個体について4時間の血漿中C3、C4、C8、BHB、AcAc、及び総ケトン濃度を
図2及び3に示す。総ケトン濃度は、UPLC-MSMSによって測定された3-ヒドロキシ酪酸とアセトアセテートとの合計である。