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特許7516401複合フィルタ材を作成するための方法およびこの方法によって得られた複合フィルタ材
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  • 特許-複合フィルタ材を作成するための方法およびこの方法によって得られた複合フィルタ材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】複合フィルタ材を作成するための方法およびこの方法によって得られた複合フィルタ材
(51)【国際特許分類】
   D06M 10/02 20060101AFI20240708BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20240708BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240708BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20240708BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20240708BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
D06M10/02 C
D01D5/04
D04H1/728
B32B3/30
B32B5/02 Z
B01D39/16 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021545781
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-23
(86)【国際出願番号】 IB2020059889
(87)【国際公開番号】W WO2021079282
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-05-02
(31)【優先権主張番号】102019000019760
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(31)【優先権主張番号】102020000024580
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593197248
【氏名又は名称】サーティ・エッセ・ピ・ア
【氏名又は名称原語表記】SAATI S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モメンテ、ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ルチニャーノ、カルミネ
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ、マルティーナ
(72)【発明者】
【氏名】カノニコ、パオロ
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-134634(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0081394(US,A1)
【文献】特表2018-523588(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03101170(EP,A1)
【文献】特開昭61-089374(JP,A)
【文献】特開平01-201582(JP,A)
【文献】特開2017-064684(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0275692(US,A1)
【文献】特表2011-504207(JP,A)
【文献】特表2012-525243(JP,A)
【文献】特表2015-505725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M、D01D、D04H、B32B、B01D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合フィルタ材(1)を作成するための方法であって、
モノフィラメント(3)で形成された基布(2)上に、電界紡糸プロセスによってナノ繊維(4)を堆積させることによって第1のフィルタ材(8)を形成するステップと、
前記基布(2)および前記ナノ繊維(4)の露出面を覆うように、コーティング(7)を形成するポリマー含有ガスの存在下で、前記第1のフィルタ材(8)上に前記コーティング(7)をプラズマ堆積させることにより前記複合フィルタ材(1)を覆う後続のステップと、
先行のプラズマ堆積ステップにおいて得られた前記複合フィルタ材(1)を、窒素、ヘリウム、アルゴン、および酸素から選択されるキャリアガスの存在下で、いかなるポリマー含有ガスを有さずに、10~400mTorrの作業圧力、100~2000Wの電極電力、および5秒~5分の曝露時間の下でさらなるプラズマ処理をすることによって前記コーティングを再び活性化させ、前記コーティング(7)の層の表面に、ナノ溝の形態の表面の凹凸を形成することにより、PSA接着剤層への前記コーティング(7)の接着を有利にする後続のステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電界紡糸プロセスは、適切な溶媒に溶解させたポリマーをノズル(5)によって押し出すことと、その後に前記ノズル自体と電極との間で繊維を引き延ばすことで、前記ノズルと前記電極との間に適切に介在させた前記基布へのナノ繊維(4)の堆積物を得ることとを含み、次いで、このようにして得られた前記第1のフィルタ材(8)に、前記基布(2)および前記ナノ繊維(4)の露出面へのナノメートル厚のコーティング(7)のプラズマ堆積による表面処理が施されて、前記基布(2)の前記モノフィラメント(3)および前記ナノ繊維(4)の外面が前記コーティング(7)でコーティングされた前記複合フィルタ材(1)が得られることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プラズマ堆積ステップでの処理は、10~50mTorrの真空の生成、150~350Wの電極出力、および0.5~6分の曝露時間を含む、ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合フィルタ材を作成するための方法に関する。さらに、本発明は、この方法によって得られた複合フィルタ材に及ぶ。
【0002】
本発明の分野は、複合フィルタ材の分野であり、とりわけ、例えば家電製品、とくには携帯電話機の電気音響部品において、最良の音響伝達のために、高い空気透過性、すなわち低い音響インピーダンスが保証されるように、塵埃粒子の侵入に対する保護をもたらすとともに、水および油などの液体全般をはじくために使用される複合フィルタ材の分野である。
【背景技術】
【0003】
既知の複合フィルタ材は、横糸および経糸の基布によって支持されたナノ繊維の少なくとも1つの層の組み合わせによって形成され、ナノ繊維層は、電界紡糸プロセスによって基布上に堆積させられ、プラズマコーティングが、基布およびナノ繊維に適用される。この方法は、ナノ繊維層が基布に接着した複合フィルタ材を生じる。
【0004】
その最終用途において、フィルタ材は、典型的には、保護されるべき開口部を含む装置(例えば、スマートフォン)のプラスチック製または金属製の本体上にフィルタ材を組み付けるために使用されるPSA(感圧接着剤)の1つまたは2つの層、あるいは実質的には接着剤と組み合わせられた「ダイカット部品」、すなわち小さな材料片にパッケージされる。
【0005】
フィルタ材は、大量の空気流、すなわち可能な限り低い音響インピーダンスを保証する高い空気透過性を維持しつつ、粒子および加圧液体の侵入に対する保護を保証しなければならないため、先行技術のフィルタ材は、上述のように、ナノ繊維の層で覆われた通常の基布によって形成された基材からなり、そのすべてがきわめて低い表面エネルギを有するコーティング層で覆われている。このコーティングは、水および油に対するフィルタ材の所望のレベルの反発性を保証して、加圧液体の浸入に対する抵抗を確実にするために不可欠である。
【0006】
一方では、低い表面エネルギが高いレベルの性能を保証するが、他方では、水および油性液体に対する反発性が、フィルタ材とPSAとの間の効果的な接着に対して障害となる。この理由で、フィルタ材の適用が不可能ではないにしても困難であり、接着剤にくっつかない可能性がある。結果として、たとえフィルタ材が加圧液体を確実に防ぐとしても、PSAの層への接着が不充分であることで、加圧液体が横から浸入して漏れ、したがって接着剤の層とフィルタ材自体との間に自由に浸透できるというリスクが生じる。
【発明の概要】
【0007】
本発明の主な目的は、複合フィルタ材およびその製造プロセスであって、この種の既知のフィルタ材と比較して、加圧液体の侵入に対して所望のレベルの阻止をもたらすだけでなく、フィルタ材をその標的支持体に取り付けるために使用される接着剤の層に対してフィルタ材を固定する複合フィルタ材およびその製造プロセスを提供することである。
【0008】
これらの目的および他の目的は、それぞれ請求項1および請求項6に記載の方法およびフィルタ材によって達成される。本発明の好ましい実施形態は、残りの請求項から明らかになるであろう。
【0009】
既知のフィルタ材に対して、本発明のフィルタ材は、所望のレベルの撥水性および撥油性を維持しつつ、液体の浸入に対して保護されるべき開口部が位置している物体へのフィルタ材の確実な接着を妨げることがないという利点を提供する。
【0010】
個々のナノ繊維および布の個々の糸が薄い高度に疎水性かつ疎油性のコーティングで覆われている本発明の複合フィルタ材フィルタ材は、汚れをはじき、とくには液体、とりわけ水(高い表面張力、72mN/m)だけでなく、低い表面張力(30~40mN/m)の油などの液体もはじく能力をさらに有する。本発明のフィルタ材のこの特性は、とりわけ携帯電話機の電気音響部品のための保護スクリーンとしての適用においてきわめて有用である。実際、本発明のフィルタ材は、空気に対するきわめて高い透過性(および、きわめて低い音響インピーダンス)を提供し、したがって粒子の侵入に対する効果的な保護を保証するナノ繊維からなる。さらに、その特定のコーティングゆえに、本発明の複合フィルタ材は、水、油、および他の種類の液体の浸入を防止する。実際、本発明のフィルタ材は、これらの液体の浸入を防止するだけでなく、その撥水性ゆえに洗浄がより容易である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
これらの目的、利点、および特徴、ならびに他の目的、利点、および特徴は、あくまでも本発明を限定するものではない例として添付の図面の図に示される本発明による方法およびフィルタ材の好ましい実施形態の以下の説明から、明らかになるであろう。
【0012】
図1】本発明の複合フィルタ材の一例の断面概略図である。
図2】基布の対応する糸へと電界紡糸によって堆積させられたナノ繊維の詳細図を示しており、ナノ繊維および基布の糸の両方が、プラズマ処理によって適用された撥水撥油ポリマーのナノメートル層ですべてコーティングされている。
図3】本発明のフィルタ材のナノ繊維の層を製作するための電界紡糸方法を示している。
図4】基布上に電界紡糸によって作られたナノ繊維層を堆積させることによって得られた本発明のフィルタ材のプラズマ処理を概略的に示している。
図5】乾燥サンプルおよび湿潤サンプルについて、フィルタ材をまたいで測定された流量と圧力との間の関係を示している。
図6】2つの異なるサンプルについて実施された詰まり除去試験について、除去圧力と対応する圧力降下との間の関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に番号1によって全体として示されている本発明の複合フィルタ材は、経糸および横糸形式の基布2、好ましくはモノフィラメント布によって形成された支持体を備え、その表面にナノ繊維4が電界紡糸によって堆積させられる。ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、アラミド、のモノフィラメントから出発して作られたモノフィラメント3が、本発明に好適であり、基布2のメッシュ開口部は、2500ミクロン~5ミクロンの範囲にある。
【0014】
本発明の複合フィルタ材の作成に使用される基布は、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、アラミド、など、製織に使用されるモノフィラメントの化学的性質が異なる広範囲の合成モノフィラメント布から選択される。また、糸が4~300本/cmである織物構造、10~500ミクロンである糸の直径、重量が15~300g/mである織り方、および18~1000ミクロンの厚さを有する基布が、本発明に好適である。仕上げおよびさらなる表面処理に関して、メタライゼーションに加えて、洗浄およびヒートセットされた「白色」布、着色布、プラズマ処理を施した布、疎水性の布、親水性の布、抗菌性の布、帯電防止布、などを使用することができる。糸が48本/cmであり、直径が55μmであり、基布のメッシュ開口部が153μmであるポリエステルモノフィラメント布が、本発明にとって好ましい。
【0015】
ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、アルギネート、ポリカーボネート、PVA(ポリビニルアルコール)、PLA(ポリ乳酸)、PAN(ポリアクリロニトリル)、PEVA(ポリエチレンビニルアセテート)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PEO(ポリエチレンオキシド)、PE(ポリエチレン)、PVC、PEI、PUR、およびポリスチレンのナノ繊維4が、本発明に好適である。これらのナノ繊維は、50nm~700nmの間の直径を有することができる。75~200nmの範囲の直径を有するPVDF(ポリフッ化ビニリデン)ナノ繊維が好ましい。
【0016】
図3に示されるように、ナノ繊維4の形成およびその後の基布2上への堆積のための電界紡糸プロセスは、適切な溶媒に溶解させたナノ繊維4の形成のための材料をノズル5を通って射出して、電極6上に広げることにある。ノズル5と電極6との間の電位差により、ナノ繊維4が、ノズルによって、電界および電極上に堆積したポリマーの引き延ばしゆえに、溶媒の蒸発を通じて形成される。次いで、このようにして形成されたナノ繊維は、引き延ばされ、その後に基布2上に堆積する。
【0017】
次いで、このようにして得られた複合フィルタ材に、基布2のモノフィラメント3および上述のナノ繊維4の外面を完全に覆う布2およびナノ繊維層4の露出面上のナノメートル厚のポリマー層7のプラズマ堆積による表面処理が施される(図2)。
【0018】
図4に示されるように、図3の先行の電界紡糸プロセスから得られた複合フィルタ材8が、本発明の複合フィルタ材1を覆うように上述のコーティング7を形成するガスの存在下で、プラズマ処理チャンバ9の内部に配置される。
【0019】
フルオロカーボンアクリレート、とくにはヘプタデカフルオロデシルアクリレート、パーフルオロオクチルアクリレート、などに基づくガスが、本発明にとって好ましい。本発明の利点は、フルオロカーボンアクリレートの撥水性および撥油性ゆえに、プラズマ処理によってフルオロカーボンアクリレートの堆積物を形成するガスである。
【0020】
上述のプラズマ処理において、キャリアガスも使用され、キャリアガスは、例えば国際公開第2011089009号に記載されている種類のキャリアガスである。
【0021】
上述のプラズマ処理は、10~50mTorrの真空の生成、150~350Wの電極出力、および0.5~6分の曝露時間を含む。
【0022】
プラズマ技術によって堆積させたコーティングは、最大500nmの厚さを有することができ、使用される特定の技術に起因して、布地のような3D表面でさえもコーティングすることができる連続フィルムの構造を有する。使用される化合物に応じて、上述のコーティングは、疎水性、疎油性、親水性、および帯電防止性などのさまざまな特有の特性を有することができる。
【0023】
出発ガス中の以下の化合物から出発して得られるコーティングが、本発明にとって好ましい。
1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルアクリレート(CAS番号27905-45-9、HC=CHCOCHCH(CFCF
1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルアクリレート(CAS番号17527-29-6、HC=CHCOCHCH(CFCF
【0024】
コーティング7の厚さは15~60nmであり、複合フィルタ材1が布2およびナノ繊維4の両方において形成する細孔を過度に狭めて、音の自由な通過を妨げてしまうことを、防止するために適している。
【0025】
図3の電界紡糸プロセスから得られた複合フィルタ材8について試験を行い、図4の後続のプラズマ処理を施した類似の複合フィルタ材1と比較した。
【0026】
とくには、上述のフィルタ材8は、(例えば、ポリエステルの)合成モノフィラメント3で作られた横糸および経糸の布によって形成され、この布に、音響インピーダンス/空気透過性を測定するためのTextest機器などで測定される25MKS Raylの音響インピーダンスを得るように、やはり合成材料(例えば、ポリエステル)で作られたナノ繊維4が堆積させられている。
【0027】
フィルタ材8のプラズマ処理後に、本発明の複合フィルタ材1について、音響インピーダンスが25MKS Raylの値で不変のままであることを観察することができる。200Paの圧力における5,200l/msという空気透過性およびフィルタリング効率も、不変のままである。
【0028】
他方で、水との接触角(50°から130°)および油との接触角(表面張力が32mN/mのコーン油を含む油の場合、50°から120°)の両方で顕著な増加が観察され、ここで接触角は、Kruss機器で液滴法(液滴の堆積および高解像度カメラによる接触角の測定)を使用して、ナノ繊維4における水または油の液滴について測定される。
詰まり除去試験
【0029】
上述の観察の証拠を提示するために、本発明の複合フィルタ材の表面に付着した油を除去するために必要なエネルギを数値的に定量化する目的で、試験方法を開発した。
【0030】
この試験を、キャピラリーフローポロメトリを使用して試験された試料のバブルポイント、最小細孔径、および細孔径の分布を明らかにする機器であるポロメータ(PMI社製のPMI1200)を用いて行った。キャピラリーフローポロメトリ、または単にポロメトリは、材料の細孔を通る湿潤液体の通過を生じさせるために必要なガスの圧力を測定するというきわめて単純な原理に基づく。細孔が空になる圧力は、細孔自体の大きさに反比例する。大きな細孔は、低い圧力しか必要としないが、小さな細孔は、高い圧力を必要とする。
【0031】
試験は、分析すべき試料を切断し、試験チャンバ内に配置することからなる。次いで、試料は、横方向の空気漏れが存在しないことを確実にするようなやり方で、Oリングによって定位置に保持される。チャンバが閉じられると、フィルタ材の空気透過性が測定され、試料を通る空気の流れをフィルタ材をまたいで測定される圧力降下に関連させる曲線(図5のグラフの乾燥曲線)が得られる。乾燥曲線が得られた後に、試験チャンバを開き、試料を定位置に残しつつ、その表面を低い表面張力(典型的には、20mN/m未満)を有する試験液体で覆う。次いで、試験チャンバを閉じ、材料の空気透過性を再び測定する。材料が試験液体によって閉塞されると、圧力は高くなるが、圧力が液体を押して細孔を通過させるために充分に高くなるまでは、下流において空気流は測定されない。圧力が充分に高くなり、液体が細孔を通過し始めた瞬間から、(それまでは濡れていた)試料が完全に乾燥し、図5の2つの曲線が重なるまで、圧力の値が大きくなるにつれてだんだんと小さなサイズの細孔が空になる。分析の詳細は論じないが、定性的なレベルにおいて、2つの曲線間の差から、バブルポイント値(最大の細孔)、最小の細孔のサイズ、および細孔のサイズの分布を決定することができる。
【0032】
具体的な事例において、撥油性/除去能力を判断するために、試験液体の代わりにコーン油(表面張力は32mN/m)を使用して、この試験を行った。
【0033】
図6のグラフは、除去圧力および対応する圧力降下(除去に必要なエネルギ)を示している。図6のグラフで考慮されているサンプルは、電界紡糸処理からのフィルタ材8(曲線10)および本発明のフィルタ材1(曲線11)である。本発明のフィルタ材1では、プラズマ処理が施されていない複合フィルタ材8よりも、明らかに低い圧力で油を除去することができ、あるいは同じ圧力で明らかに多くの量の油が除去されることを、見て取ることができる。
【0034】
今や、本発明によれば、驚くべきことに、上述の方法に、ポリマー層7でコーティングされた複合フィルタ材1のプラズマ処理というさらなるステップを、今回はキャリアガスのみの存在下で、したがって上述のポリマーコーティング7を形成するガスを含まずに追加することにより、同じフィルタ材が水および油性液体に対する所望の反発度を示すだけでなく、PSA層への優秀なレベルの接着も示すことが発見された。
【0035】
実際、本発明の方法は、ポリマーコーティング7が設けられたフィルタ材1のプラズマ処理、すなわちこのコーティングの上述の堆積後に今回はポリマー含有ガスを含まないプラズマ処理という追加のステップを含む。
【0036】
この追加のステップにおいて、プラズマ処理チャンバ9の内部の適切な作業圧力(10~400mTorr)、100~2000Wの電極電力、および5秒~5分の曝露時間が設定され、好ましくは窒素、ヘリウム、アルゴン、および酸素から選択されるキャリアガスが注入される。
【0037】
このステップにおいて、使用されるガスの不活性な性質に鑑み、フィルタ材を構成する材料は、さらなるコーティングプロセスを被ることがない。プラズマ処理の最中に形成されるキャリアガスのイオンが、先行のステップにおいて堆積させたコーティング7の表面にいくらかのエネルギで衝突することで、コーティング7を再び活性化させ、PSA接着剤層へのポリマーコーティング7の接着にとって有利である例えばマイクロ波形またはナノ溝の形態の表面の凹凸を生じさせる。
【0038】
一方では、このコーティングが被る作用は、コーティングの完全性および連続性に影響を及ぼし、結果として、コーティングの表面エネルギ値を変化させ、フィルタ材の撥水性および撥油性のレベルを著しくではないが低下させるが、他方では、PSA層に対するフィルタ材の接着強度が著しく向上し、フィルタ材の撥水性/撥油性と作業性との間の満足できる妥協点に達する。
【0039】
実際、本発明の上述の方法を使用して得られたフィルタリングシステムは、油とのきわめて大きな接触角(130~135°)を保証し、この場合、既知の技術では、通常はPSAとの接着の値がきわめて低くなり、「ダイカット部品」の正確なシールおよび容易な組み立てが危うくなる。
【0040】
本発明の方法で作成したフィルタ材によって得られた結果を、以下の表に示すが、表中の値は、ポリマー材料の層7を有し、次いでキャリアガスとしてのヘリウムの存在下で100mTorrの真空、700Wの電極出力、および2分の曝露時間で実行されたプラズマ処理に曝されたフィルタ材について測定されている。
【表1】
ここで、「gf/20mm」は、幅20mmのPSAサンプルに対するフィルタ材の接着の値(単位は、重量グラム)を表す。
【0041】
これらの結果から、先行のステップで形成されたポリマーコーティング7のプラズマ再活性化という追加のステップの後で、このようにして得られたフィルタ材は、油とのきわめて大きい接触角(>110°)、およびPSAとの必要最小限の接着レベル、すなわち100gf/mmをはるかに上回る接着レベルの両方を達成することを、見て取ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6