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特許7516409神経変性疾患の予防および/または治療のための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】神経変性疾患の予防および/または治療のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/047 20060101AFI20240708BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 36/23 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
A61K31/047
A61K31/19
A61K31/704
A61K36/23
A61P25/00
A61P25/28
A61P39/06
A61P43/00 121
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021553452
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2020039361
(87)【国際公開番号】W WO2021085232
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019195258
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】313004104
【氏名又は名称】原 英彰
(74)【代理人】
【識別番号】110003557
【氏名又は名称】弁理士法人レクシード・テック
(72)【発明者】
【氏名】原 英彰
(72)【発明者】
【氏名】三上 雅史
(72)【発明者】
【氏名】小島 弘之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】アルナシリ イダマルゴダ
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】UDDIN Md. Sahab et al.,Nootropic and Anti-Alzheimer's Actions of Medicinal Plants: Molecular Insight into Therapeutic Poten,Molecular Neurobiology,2018年11月09日,Vol.56(2019), No.7,p.4925-4944
【文献】SCHULTE, K. E. et al.,Polyacetylene aus Hydrocotyle asiatica L.,Arch. Pharm.,1973年12月31日,Vol.306, No.3,p.197-209
【文献】CHENG Wen-Ling et al.,Inhibitory Effect of Human Breast Cancer Cell Proliferation via p21-Mediated G1 Cell Cycle Arrest by,Planta Med,2011年12月31日,Vol.77, No.2,p.164-168
【文献】GAJBHIYE Narendra A. et al.,LC-ESI-MS/MS Method for Simultaneous Determination of Triterpenoid Glycosides and Aglycones in Cente,Chromatographia,2016年12月31日,Vol.79, No.11-12,p.727-739
【文献】三上 雅史ほか,神経細胞死に対するツボクサ(Centella asiatica)及びショウブ(Acorus calamus)抽出物の細胞保護作用,日本薬学会第138年会要旨集,2018年12月31日,26PA-am183S
【文献】三上 雅史ほか,ツボクサ抽出物及びasiaticosideの酸化ストレス及び小胞体ストレス誘発神経細胞障害に対する保護作用,日本薬理学雑誌,2019年10月24日,第154巻, 増刊号(第135回近畿部会),B-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
で表される化合物若しくはその異性体またはそれらの塩を有効成分として含有する組成物であって、脳機能改善用の経口用組成物。
【請求項2】
マデカシン酸、アジアティック酸またはそれらの配糖体から選択される少なくとも1つの成分をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記式(I)の化合物の質量に対し、0.5~30倍のマデカシン酸と、0.25~30倍のアジアティック酸とを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
活性酸素抑制剤である、請求項1~3の何れか一項に記載の組成物。

【発明の詳細な説明】
【クロスリファレンス】
【0001】
本出願は、日本国において、2019年10月28日に出願された特願2019-195258号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願に記載された内容は全て、参照によりそのまま本明細書に援用される。また、本願において引用した全ての特許、特許出願及び文献に記載された内容は全て、参照によりそのまま本明細書に援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、神経変性疾患の予防および/または治療のための組成物に関し、より詳細には、ゴツコラから抽出される特定の化合物を含む神経変性疾患の予防および/または治療のための組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
高齢者の増加と共にアルツハイマー病に代表される神経変性疾患の患者数は年々増加している。神経変性疾患とは、神経細胞が障害され、運動や記憶などの機能が低下する状態を含む。その発症機構が明確でなく、根治療法が存在しないことが問題となっている。神経変性疾患に共通する所見としては、脳における異常タンパク質の蓄積が知られている。神経細胞に蓄積した異常タンパク質が酸化ストレスおよび小胞体(ER)ストレスの原因となるらしい。また、神経変性疾患の病態に酸化ストレスおよびERストレスが関与するという多くの報告がある。
【0004】
ゴツコラ(Centella asiatica;別名ツボクサともいう。)は、古くからアーユルベーダで用いられる植物であり、解熱、鎮痛、抗炎症、認知機能改善などの多岐にわたる作用を有することが知られている。日本をはじめとしたアジア、南アフリカおよびアメリカに広く分布し、食用としても広く親しまれている。
【0005】
特許文献1には、ツボクサとゴマを含む、脳の強壮剤としての薬草製剤が開示されている。また、特許文献2には、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とする、アストロサイトのグルコース代謝活性化剤、脳内神経細胞賦活化剤、脳機能低下抑制剤、脳機能向上剤、または脳機能障害の予防もしくは改善剤が開示されている。
【0006】
一方、山菜として好まれるウド(独活、学名:Aralia cordata)の葉から単離されたポリアセチレン化合物であるアラリアジオール(Araliadiol;3(S),8(R)-pentadeca-1,9(Z)-diene-4,6-diyne-3,8-diol)は、ヒト乳がん細胞株(MCF-7)の細胞周期を停止させ、増殖を阻害することが報告されている。しかしながら、この化合物の神経変性疾患に対する効果については明らかではない(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Cheng WL et al.(2011)Planta Med;77:164-168
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4624263号公報
【文献】特開2017-137296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患に対する予防および/または治療に役立つような組成物を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、HT22細胞(マウス脳海馬神経由来細胞株)を用いて、ゴツコラ抽出物の成分分析を行った結果、活性酸素(ROS)産生抑制と小胞体ストレスの軽減効果(これらの効果は神経変性疾患の予防および/または治療に有効な効果)を有する下記構造の化合物などを新たに見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の実施形態を含む。
(1)下記式(I):
【化1】
で表される化合物若しくはその異性体またはそれらの塩を有効成分として含有する、神経変性疾患の予防および/または治療のための組成物。
(2)マデカシン酸、アジアティック酸またはそれらの配糖体から選択される少なくとも1つの成分をさらに含む(1)に記載の組成物。
(3)式(I)の化合物の質量に対し、0.5~30倍のマデカシン酸と、0.25~30倍のアジアティック酸とを含む(2)に記載の組成物。
(4)ゴツコラ抽出物からなる(1)~(3)の何れか一項に記載の組成物。
(5)活性酸素抑制剤である、(1)~(4)の何れか一項に記載の組成物。
(6)脳機能改善用飲食品の形態にある(1)~(5)の何れか一項に記載の組成物。
(7)脳機能改善用医薬品の形態にある(1)~(5)の何れか一項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組成物は、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患に対する予防および/または治療に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、典型的なゴツコラ抽出物のHPLCパターンを示す。
図2図2は、ゴツコラ抽出物から有効成分を分画する方法の概略を示す。
図3図3は、種々の濃度のゴツコラ抽出物およびL-グルタミン酸(2mM)を添加したHT22細胞についてヨウ化プロピジウム(PI)染色および核染色による死細胞率を定量した結果を示す。
図4図4は、種々の濃度のゴツコラ抽出物およびツニカマイシン(50ng/mL)を添加したHT22細胞についてヨウ化プロピジウム(PI)染色および核染色による死細胞率を示す。
図5図5は、種々の濃度のゴツコラ抽出物を添加したHT22細胞を用いて、L-グルタミン酸により酸化ストレスを惹起したときの活性酸素種(ROS)の産生量を示す。
図6図6は、種々の濃度のゴツコラ抽出物を添加したHT22細胞を用いて、ツニカマイシンによる小胞体ストレスを惹起したときのBiPの産生量を示す。
図7図7は、種々の濃度のゴツコラ抽出物を添加したHT22細胞を用いて、ツニカマイシンによる小胞体ストレスを惹起したときのリン酸化されるPERKタンパク質量を示す。
図8図8は、ゴツコラ抽出物の精製画分を用いて、L-グルタミン酸(2mM)を添加したHT22細胞についてヨウ化プロピジウム(PI)染色および核染色による死細胞率の定量結果を示す。
図9図9は、ゴツコラ抽出物の精製画分を用いて、ツニカマイシン(50ng/mL)を添加したHT22細胞についてヨウ化プロピジウム(PI)染色および核染色による死細胞率の定量結果を示す。
図10図10は、試験例3での蒸留水、組成物及びスコポラミンの投与の時系列を示す。
図11図11は、試験例3で用いたY字型迷路装置の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(定義)
本明細書において、神経変性疾患とは、神経細胞が障害を受けて運動や記憶などの脳などの機能(脳機能など)が低下する疾患を総称するものである。具体的には、アルツハイマー病やレビー小体型認知症などの変性性認知症、萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、多系統萎縮症および脊髄小脳変性症等が例示される。
【0015】
脳機能とは、認知機能と言い換えてもよい。脳機能は、通常、判断、計算、記憶、理解、学習、思考、言語などの脳内の情報処理によって実現する機能を包括した、脳の高次機能を表す。脳機能改善とは、上記の脳機能、すなわち認知機能が改善されることを含む。
【0016】
(有効成分)
本実施形態の神経変性疾患の予防および/または治療のための組成物は、下記式(I):
【化2】
で表される化合物若しくはその異性体またはそれらの塩を有効成分として含有する。上記式(I)で表される化合物は、3位と8位に不斉炭素原子を含み、かつ9位と10位の炭素原子間の二重結合はシス型(Z)の立体配座を有する。したがって、有効成分としては、これらの位置に関する光学異性体、ラセミ体および/または幾何異性体であってもよい。式(I)で表される化合物は天然に存在する1つの異性体であり、ウド(Aralia cordata)の葉のエタノール抽出物から単離されている(非特許文献2)。本発明者らはゴツコラのエタノール抽出液からHPLCにより精製して得られた式(I)で表される化合物が、神経変性疾患の予防および/または治療のための主な有効成分であることを見出した。したがって、本発明の有効成分は、ゴツコラおよびウドなどの薬用植物から有機溶媒抽出およびカラムクロマトグラフィー精製により製造することができる。
【0017】
本実施形態で使用するゴツコラは花、花穂、果実、茎、葉、葉柄、枝、枝葉、根茎、根、種子または全草を用いるが、その他、同属種を用いることもできる。抽出方法としては、水または有機溶媒(エタノール溶液など)にて抽出することができ、好ましくは、50%エタノール水溶液を抽出溶媒として用いる。本実施形態においては、ゴツコラの全草を用いたエタノール抽出物を用いることが好ましい。
【0018】
なお、本発明の有効成分は塩の形態であってもよく、式(I)で表される化合物のヒドロキシ基が適度な酸性を有する場合の塩としては、例えば、アルミニウムのような金属塩、リチウム、ナトリウムまたはカリウムのようなアルカリ金属塩、カルシウムまたはマグネシウムのようなアルカリ土類金属塩、およびアンモニウムまたは置換アンモニウム塩、例えば、トリエチルアミンのような低級アルキルアミン、2-ヒドロキシエチルアミン、ビス-(2-ヒドロキシエチル)-アミンまたはトリ-(2-ヒドロキシエチル)-アミンのようなヒドロキシアルキルアミン、ビシクロヘキシルアミンのようなシクロアルキルアミンとの塩、またはプロカイン、ジベンジルピペリジン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、デヒドロアビエチルアミン、N,N’-ビスデヒドロアビエチルアミン、グルカミン、N-メチルグルカミン、またはピリジン、コリジン、キニンもしくはキノリンのようなピリジン型の塩基との塩が挙げられる。
【0019】
(神経変性疾患の予防および/または治療のための組成物)
本実施形態の組成物における、上記式(I)で表される化合物の含有量は、その投与形態および投与方法等を考慮し、神経変性疾患の予防および/または治療効果が得られるような量であればよく、特に限定されるものではない。例えば、上記式(I)で表される化合物の含有量は、本発明の組成物の全重量に対して0.1質量%以上、好ましくは0.5、1、5、または10質量%以上であり、90質量%以下、好ましくは70、50、30、または15質量%以下である。なお、本明細書において用いる「質量%」は、「重量%」と同義であり、特に断りがない限り重量/重量(w/w)を意味する。
【0020】
本実施形態の組成物は、上記式(I)で表される化合物を有効成分として含む限り、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分として好ましくは、マデカシン酸、アジアティック酸などのトリテルペン酸およびそれらの配糖体を挙げることができる。これらは、ゴツコラに含まれる成分であり、上記有効成分をゴツコラから抽出する際に、同時に抽出することができ、その構造式を以下に示す。
【0021】
【化3】
【0022】
本発明者らの分析によれば、これらのトリテルペン酸およびその配糖体もある程度の神経細胞保護作用を有する。したがって、本実施形態の有効成分と混合することにより、相乗効果を発揮すると考えられる。配合割合としては、式(I)の化合物の質量に対し、0.5~30倍のマデカシン酸(より好ましくは0.5~10倍のマデカシン酸)と、0.25~30倍のアジアティック酸(より好ましくは0.25~10倍のアジアティック酸)とを含むことが好ましい。
【0023】
(作用効果)
本実施形態の組成物は、ROS産生の抑制や小胞体ストレスを軽減することにより、神経変性疾患の改善に寄与すると考えられる。神経変性疾患は、中枢神経系の特定の神経細胞群が障害を受け脱落することで神経機能を損なう疾患である。代表的な神経変性疾患であるアルツハイマー病やパーキンソン病等の発症には、小胞体ストレスが関わっていることが知られている。これらの疾患に共通する特徴として、変性タンパク質の蓄積が観察される。たとえば、アルツハイマー病では細胞外にアミロイドβ、細胞内にタウタンパク質の蓄積が観察される。パーキンソン病においてはα-シヌクレイン、ALSでは変異スーパーオキシドジスムターゼ、ハンチントン病ではハンチンチンタンパク質の蓄積がみられる。プリオン病に分類されるクロイツフェルト・ヤコブ病では異常型プリオンが蓄積して発症する。このように、蓄積するタンパク質は疾患によって異なるが、変性タンパク質の蓄積で特定の神経細胞が障害され細胞死を起こすと考えられる。小胞体は、膜タンパク質や分泌タンパク質の翻訳後修飾や適正な折りたたみを担っており、細胞に内外から種々の刺激負荷がかかると小胞体内でのタンパク質折りたたみは障害され、折りたたみ不全の不良タンパク質が蓄積して小胞体ストレス状態となる。小胞体ストレスが生じると、細胞は状態を改善するために不良タンパク質を排除しようと試みるが、過度な小胞体ストレスを受けると細胞は最終的にアポトーシスを引き起こす。細胞内におけるROSの産生は、1つの小胞体ストレスと考えられる。
【0024】
(脳機能改善用飲食品)
本実施形態の脳機能改善用飲食品は、上記神経変性疾患の予防および/または治療のための組成物を含み、脳機能の障害を呈する疾患または状態の予防または治療用として有用である。かかる脳機能障害を呈する疾患または状態としては、例えば、認知症(例、老人性認知症、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、外傷後認知症、脳腫瘍により生じる認知症、慢性硬膜下血腫により生じる認知症、正常圧脳水腫により生じる認知症、髄膜炎後認知症およびパーキンソン型認知症などの種々の疾患により生じる認知症)、非認知症性の認知障害(例、軽度認知障害(MCI))、記憶または学習障害(例、脳発達障害に伴う記憶および学習障害)等が挙げられる。本実施形態の脳機能改善用飲食品には、認知機能低下の予防、改善、または向上効果をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用食品、サプリメントが包含される。
【0025】
食品として用いる場合、当該食品の形態は、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料などの各種食品組成物の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。種々の形態の食品は、本発明の有効成分を単独で、または他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて調製することができる。
【0026】
(脳機能改善用医薬品)
本実施形態の組成物を医薬品(医薬部外品などを含む)として用いる場合、治療有効量の上記式(I)で表される化合物を含み、類似の有用性を提供する薬剤について許容されている投与形態のうちの任意のものによって投与されるであろう。治療有効量の化合物は、処置されるべき疾患の重篤度、被検体の年齢および相対的な健康状態、使用される化合物の効力、投与経路および形態、投与が向けられる適応症、ならびに関わる医師の好みおよび経験などの数多くの要因に応じて設定される。そのような疾患を処置する当業者は、必要以上に実験を行うことなく、かつ個人的な知識および本出願の開示に依存して、所与の疾患に対する、本発明の化合物の治療有効量を突き止めることができるであろう。
【0027】
本実施形態の脳機能改善用医薬品は、経口(頬側および舌下を含む)、直腸内、鼻腔内、局所、経肺、経膣もしくは非経口(筋肉内、動脈内、髄腔内、皮下および静脈内を含む)投与に適切なものを含む医薬配合物として、または、吸入もしくは通気による投与に適切な形態で、投与されてもよい。好ましい投与方法は、一般的に、苦痛の程度に従って調整することができる好都合の1日投薬レジメンを使用する経口である。
【0028】
薬学的に許容しうる担体は、固体または液体のいずれかであってよい。固体形態の製剤は、粉末剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、カシェ剤、坐剤および分散性顆粒剤を含む。固体担体は、希釈剤、風味剤、可溶化剤、滑沢剤、懸濁化剤、結合剤、防腐剤、錠剤崩解剤、またはカプセル化材料として働くこともできる1種以上の物質であってよい。粉末剤では、担体は一般に、微粉化した活性成分との混合物である微粉化した固体である。錠剤では、活性成分は一般に、必要な結合能力を有する担体と適切な割合で混合され、所望の形状および大きさに成形される。粉末剤および錠剤は好ましくは、活性化合物を約1~約70%含有する。適切な担体は、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等を非限定的に含む。用語「製剤」は、担体を有するかまたは有しない活性成分がそれに関連する担体により周囲を囲まれているカプセル剤を提供する、担体としてのカプセル化材料を有する活性化合物の配合物を含むことを意図されている。同様に、カシェ剤およびトローチ剤が含まれる。錠剤、粉末剤、カプセル剤、丸剤、カシェ剤およびトローチ剤は、経口投与に適切な固体形態としてあることができる。
【0029】
例えば、経口投与に適切な他の形態は、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤、水性液剤、水性懸濁剤を含む液体形態の製剤、または、使用の直前に液体形態の製剤に変換されることが意図されている固体形態の製剤を含む。乳剤は、液剤、例えば、水性プロピレングリコール液剤に調製されることができるか、または、例えばレシチン、ソルビタンモノオレアートもしくはアカシアなどの乳化剤を含有することができる。水性液剤は、活性成分を水に溶解し、適切な着色剤、風味剤、安定剤および増粘剤を加えることにより調製することができる。水性懸濁剤は、微粉化した活性成分を、例えば天然または合成ガム、樹脂、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースおよび他の周知の懸濁化剤などの粘性材料と共に水に分散することにより調製することができる。固体形態の製剤は、液剤、懸濁剤および乳剤を含み、活性成分に加えて、着色剤、風味剤、安定剤、緩衝剤、人工および天然甘味料、分散剤、増粘剤、可溶化剤等を含有することができる。
【0030】
本実施形態の脳機能改善用医薬品は、非経口投与(例えば、注射、例えばボーラス注射または持続性点滴によって)のために処方されることができ、アンプル、予め充填された注射器、小容量点滴の単位用量形態で、または、添加された防腐剤を含む複数用量容器で提供されることもできる。組成物は、油性または水性のビヒクル中の、懸濁剤、液剤もしくは乳剤、例えば水性ポリエチレングリコールの液剤などの形態をとることができる。油性または非水性担体、希釈剤、溶媒もしくはビヒクルの例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、および注射用有機エステル(例えば、エチルオレアート)を含み、防腐剤、湿潤剤、乳化剤もしくは懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤などの配合剤を含有してよい。代替的には、活性成分は、滅菌固体の無菌分離によるか、もしくは、適切なビヒクル、例えば滅菌した発熱物質を含まない水を用いて、使用前の構成用溶液から凍結乾燥することにより得られる粉末形態であってよい。
【0031】
本実施形態の脳機能改善用医薬品は、軟膏剤、クリーム剤またはローション剤として、あるいは経皮パッチとして表皮へ局所投与するために処方されることができる。例えば、軟膏剤およびクリーム剤は、適切な増粘剤および/またはゲル化剤を加え、水性または油性基剤を用いて処方することもできる。ローション剤は、水性または油性基剤を用いて処方することができ、一般に1種以上の乳化剤、安定化剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤または着色剤も含有するであろう。口腔における局所投与に適する配合物は、通常はスクロースおよびアカシアまたはトラガカントである風味付けされた基剤中に活性剤を含むトローチ剤;ゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシアなどの不活性基剤中に活性成分を含む香錠;ならびに、適切な液体担体中に活性成分を含む口内洗浄薬を含む。
【0032】
他の適切な薬学的担体およびそれらの配合物は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy 1995,E.W.Martin編集, Mack Publishing Company,第19版,Easton,Pennsylvaniaに記載されている。
【実施例
【0033】
[実施例1]ゴツコラ抽出物の調製
ゴツコラの葉、茎または全体の乾燥粉砕物6gに、それぞれ30~90%エタノール75mLを加え、室温で時々攪拌しながら7日間抽出を行った。得られた抽出液を濾過して試験試料とした。これらの試験試料に含まれるアラリアジオールの分析は以下の条件で行った。
【0034】
カラム:Mightysil RP-18 GP 250-4.6(5μm)
溶出液:CHCN:0.1%リン酸=52:48
流速:1.0mL/min
分析温度:40℃
検出器:UV210nm
【0035】
ゴツコラ抽出物中のアラリアジオールの含量は、ゴツコラの産地、部位により変動したが、50%エタノール抽出物が最も回収率が高かった。また、ゴツコラの50%エタノール抽出液には、フェニルプロパノイド、フラボノイドおよびトリテルペノイドなどその他の成分も同時に抽出されることが分かった。図1は、典型的なゴツコラ抽出物のHPLCパターンを示す。この分析条件では、保持時間が約24分の位置にアラリアジオールが溶出される。
【0036】
[実施例2]ゴツコラ抽出物の分画
ゴツコラ抽出物からの有効成分の分画方法の概略を図2に示す。ゴツコラの葉の50%エタノール抽出液を、最初にダイヤイオンHP20(三菱ケミカル株式会社製)を充填したカラムで粗分画した。フラクション11をブタノールで抽出したものを、さらに液体クロマトグラフィーを行い、5つのピークフラクション(C11~C15)に分画した。フラクション12および13についても同様に液体クロマトグラフィーを行い、それぞれ、2つのピーク(C21~C22)および5つのピーク(C31~C35)の各画分を取得した。
【0037】
フラクション13から、C31~C35の各画分を精製した時のHPLC条件は、以下のとおりである。
カラム:Develosil ODS-7 20/250(NW)溶出液:MeOH:Aq=70:30
流速:10.0mL/min
温度:室温
検出器:UV210nm
【0038】
C11~C35の各画分をNMRで分析した結果、C33の成分は、アラリアジオールであることが分かった。また、C21画分にはマデカシン酸が、C35画分にはアジアティック酸が主要成分として含まれていた。核磁気共鳴装置JEOL(日本電子株式会社)JNM-ECA500で測定したアラリアジオールの測定データは以下のとおりである。
【0039】
H-NMR(500MHz,CDCl)δ:0.89(3H,t,J=7.0Hz,15-H),1.26~1.34(4H,m,13,14-H),1.39(2H,m,12-H),2.10(2H,brq,J=7.8Hz,11-H),4.94(1H,brd,J=5.0Hz,3-H),5.21(1H,d,J=8.0Hz,8-H),5.26(1H,d,J=10.0Hz,1-Hb),5.47(1H,d,J=17.0Hz,1-Ha),5.53(1H,brd,J=9.0Hz,9-H),5.60(1H,dt,J=10.5,7.5Hz,10-H),5.94(1H,ddd,J=17.0,10.0,5.0Hz,2-H).
【0040】
13C-NMR(125MHz,CDCl)δ:14.0(C-15),22.5(C-13),27.7(C-11),28.9(C-12),31.4(C-14),58.6(C-8),63.5(C-3),68.7(C-6),70.3(C-5),78.3(C-4),79.9(C-7),117.3(C-1),127.7(C-9),134.7(C-10),135.8(C-2).
【0041】
[試験例1]ゴツコラ抽出物の神経細胞保護作用の測定
96wellプレートに3000cells/wellのマウス海馬神経細胞由来(HT22)細胞を播種し、23時間後に実施例1で調製したゴツコラ抽出物を、終濃度で20~200μg/mLとなるように添加した。添加から1時間後、L-グルタミン酸(2mM)により酸化ストレスを、ツニカマイシン(50ng/mL)により小胞体ストレスを惹起した。それらの測定結果を図3図7に示す。
【0042】
図3は、L-グルタミン酸(2mM)を添加したHT22細胞についてヨウ化プロピジウム(PI)染色および核染色を行い、死細胞率を定量した結果である。ゴツコラ抽出物を添加しない細胞では約50%がPI陽性の死滅細胞となったが、ゴツコラ抽出液の添加により有意に死滅率が低下し、60μg/mLおよび200μg/mL添加した場合は、L-グルタミン酸を添加しないコントロールとほぼ同程度の死滅率であった。図4は、L-グルタミン酸の代わりにツニカマイシン(50ng/mL)を添加した場合の死細胞率を示す。ゴツコラ抽出液の添加により用量依存的に死滅率が低下し、60μg/mLおよび200μg/mL添加により有意差が認められる。
【0043】
酸化ストレスに対する影響を活性酸素種(ROS)の産生量測定により調べた。96wellプレートに播種したHT22細胞に対し、L-グルタミン酸により酸化ストレスを惹起した。その後、ROSインジケーターであるCM-H2DCFDAを添加し、吸光度を測定した。その結果を図5に示す。L-グルタミン酸の添加により発生した活性酸素の量は、ゴツコラ抽出液の添加により容量依存的に低下し、60μg/mLの添加量でコントロールレベルまで低下した。また、200μg/mLまで添加してもL-グルタミン酸非添加のコントロールと差がなかった。
【0044】
小胞体ストレスに対する検討は、ウエスタンブロット法により行った。12wellプレートに30000cells/wellでHT22細胞株を播種し、抽出物添加およびストレス惹起を行った。その後サンプリングし、ウエスタンブロット法によりPKR-like endoplasmic reticulum kinase(PERK)、Immunoglobulin heavy chain-binding ptotein(BiP)およびGlucose-regulated protein(GRP94)について検討した。
【0045】
その結果を図6および図7に示す。小胞体シャペロンの1つであるBiPは正しく折りたたまれていない不全タンパク質を正しく折りたたむ働きを担うといわれている。ツニカマイシンによって引き起こされる小胞体ストレスの影響で増加したBiPは、ゴツコラ抽出液(CAE)の添加により減少した(図6)。一方、PERKは小胞体ストレスセンサーの1つであり、リン酸化した後に多量体化し、下流のシグナル因子が動くことでタンパク質の翻訳停止やアポトーシスを引き起こす。図7に示した結果によれば、ツニカマイシンによって引き起こされる小胞体ストレスの影響でリン酸化されるPERKの量は、ゴツコラ抽出液の添加によって抑制されることが分かった。
【0046】
以上の結果より、ゴツコラ抽出物は酸化ストレスおよび小胞体ストレスに対し細胞保護作用を有しており、そのメカニズムとしてROS産生の抑制と小胞体ストレス発生の抑制が関与することが示唆された。
【0047】
[試験例2]ゴツコラ精製画分を用いた有効成分の検索
実施例2で分画したゴツコラ抽出物の各画分について、試験例1と同様の方法により、L-グルタミン酸およびツニカマイシン誘発神経細胞障害試験を行った。96wellプレートに3000cells/wellのマウス海馬神経細胞由来(HT22)細胞を播種し、23時間後に実施例2で調製したC11~C35の各画分を、ゴツコラ抽出液に含まれる濃度の2倍濃度となるように添加した。例えば、ゴツコラ抽出液中ではC33画分の成分が45μg/mL含まれていたので、C33画分については、その2倍量の90μg/mLとなるように添加した。添加から1時間後、L-グルタミン酸(2mM)により酸化ストレスを、ツニカマイシン(50ng/mL)により小胞体ストレスを惹起した。その24時間後、死細胞および核染色法を用いて細胞数を計測し、死細胞率を求めて神経細胞保護作用の指標とした。その測定結果を図8および図9に示す。
【0048】
C11~C35の各画分の中で、アラリアジオールが含まれるC33画分は、L-グルタミン酸およびツニカマイシン誘発細胞死の両方について有意な抑制効果を示した。その他の画分については、トリテルペノイドを含むC34およびC35画分がツニカマイシン誘発細胞死を有意に抑制した(図8および図9)。
【0049】
[試験例3]記憶障害モデルマウスを用いてのアラリアジオールの作用の確認
記憶障害モデルマウスに対して、アラリアジオール(式Iに示す化合物)を含む組成物を投与(ゾンデによる経口投与)により、アラリアジオールの記憶改善作用を確認した。
【0050】
実験方法を以下記載する。以下の群を設定し、未投与群を除き各群のICRマウス(雄性、7週齢/日本SLCより購入)に対して、ゾンデによる経口投与により組成物の投与及び腹腔内投与(i.p)によりスコポラミン(Scopolamine)の投与を行った。当該組成物は、蒸留水に所定量のアラリアジオールが含有された物である。当該スコポラミンの投与は、マウスに記憶障害を起こすために、マウス1kgあたり3mgの量にて行われた。図10に蒸留水、組成物及びスコポラミンの投与の時系列を示す。未投与群以外の群に対して、蒸留水又は組成物を投与開始する日を0日目として、0日目から6日目まで毎日当該蒸留水又は組成物を投与(当該組成物を7回投与)した。7日目に全ての群のマウスに対してY字型迷路試験を行った。Y字型迷路試験開始30分前に、未投与群以外の全ての群のマウスに対して、当該スコポラミンの投与を行った。
【0051】
・未投与群:ICRマウス15匹にて、アラリアジオールを含有しない蒸留水の投与を行ったが、スコポラミンの投与は行われなかった群。
・コントロール群:ICRマウス16匹にて、アラリアジオールを含有しない蒸留水の投与及びスコポラミンの投与を行った群。
・アラリアジオール1mg/kg群:ICRマウス16匹にて、アラリアジオールを含有した組成物の投与(1日たりマウスの体重1kgあたり1mgのアラリアジオールの投与:1mg/kg/day)及びスコポラミンの投与を行った群。
・アラリアジオール10mg/ml群:ICRマウス16匹にて、アラリアジオールを含有した組成物の投与(1日あたりマウスの体重1kgあたり10mgのアラリアジオールの投与:10mg/kg/day)及びスコポラミンの投与を行った群。
【0052】
図11に示すY字型迷路装置(灰色アクリル製:長さ40cm×幅10cm×高さ12cm)を用いて、Y字型迷路試験を行った。Y字型迷路試験は、当該装置内にてマウスを探索行動させ、その際に認められる自発的交替行動を短期記憶として評価する試験である。当該マウスをY字迷路の3つのいずれかのアームの先端に置き、8分間、迷路内を自由に探索させ、進入したアームを順に記録した。マウスが測定時間内(8分間)に各アームに進入した回数(総アーム進入回数)および連続して異なる3本のアームに進入した組み合わせの数(交替行動数)を調べ、下記の式より交替行動率(%)を算出し、短期記憶の指標とした。
交替行動率(%)=交替行動数÷(総アーム進入回数-2)×100
【0053】
結果を表1に示す。コントロール群に比べ、アラリアジオール投与群(アラリアジオール1mg/kg群及びアラリアジオール10mg/kg群)は交替行動率の向上(記憶改善の傾向)が確認できた。アラリアジオール10mg/kg群では、コントロール群に比べ、有意に(Dunnett’s testによる検定で、p<0.05)、交替行動率の向上が確認できた。
【0054】
【表1】
【0055】
以上、本発明の実施の形態(実施例も含め)について、図面も参照して説明してきたが、本発明の具体的構成は、これに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、設計変更等があっても、本発明に含まれるものである。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11