(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】付加製造用組成物、および特に原子炉部品を付加製造する方法
(51)【国際特許分類】
G21C 21/02 20060101AFI20240708BHJP
B29C 64/165 20170101ALI20240708BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20240708BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240708BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20240708BHJP
【FI】
G21C21/02
B29C64/165
B29C64/314
B33Y10/00
B33Y70/10
(21)【出願番号】P 2021560379
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(86)【国際出願番号】 US2020025944
(87)【国際公開番号】W WO2021002902
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-02-15
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521440998
【氏名又は名称】ビーダブリューエックスティ・アドバンスト・テクノロジーズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BWXT Advanced Technologies LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ベンジャミン ディ
(72)【発明者】
【氏名】サラシン,ジョン アール
(72)【発明者】
【氏名】ウィギンズ,ブライアン ブレイク
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0070748(US,A1)
【文献】国際公開第2018/036813(WO,A1)
【文献】Ahmed Shama et al.,,Simulation of the microfluidic mixing and the droplet generation for 3D printing of nuclear fuels,Additive Manufacturing,NL,Elsevier,2018年12月21日,Vol. 26,pp. 1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/314
B33Y 70/10
B33Y 10/00
B29C 64/165
G21C 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉系の部品を製造する方法であって、
核燃料スラリーを用いて付加製造プロトコルを使用して、原子炉系の部品の素地体を製造することを含み、
前記付加製造プロトコルが代用スラリーを用いて開発され、
前記核燃料スラリーが、
30体積%~45体積%のモノマー樹脂、
30体積%~
55体積%の複数の粒子、
>0体積%~7体積%の分散剤、
0体積%よりも多い光活性化染料、
0体積%よりも多い光吸収剤、
0体積%よりも多い光開始剤、および
0体積%~18体積%の残部としての希釈剤
を含む組成物(体積%は核燃料スラリーの全体積に対するもの)を有し、
前記粒子がウラン含有物質を含む組成物を有
し、
前記ウラン含有物質が、ウラン炭化物、ウラン炭酸化物、ウラン窒化物、またはウランケイ化物であり、
前記ウラン含有物質が、0%よりも大きいU235の濃縮度を有する
方法。
【請求項2】
前記ウラン含有物質中のU235の濃縮度が0%よりも大きく20%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の粒子が、40nm~10μmのD50粒子寸法を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記モノマー樹脂が、アクリラート系モノマー樹脂もしくはメタクリラート系モノマー樹脂、またはそれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記モノマー樹脂は、少なくとも50%がアクリラート系である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記モノマー樹脂は、70~90%がアクリラート系である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記アクリラート系モノマー樹脂が、単一官能性、二官能性、三官能性もしくは四官能性のものであるか、またはそれらの混合物である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記アクリラート系モノマー樹脂は、少なくとも50%が二官能性のものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アクリラート系モノマー樹脂は、少なくとも80%が二官能性のものである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アクリラート系モノマー樹脂は、70~90%が二官能性のものである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記光活性化染料が、トリアリールメタン染料であり、前記光吸収剤が、トリアジン系光吸収剤であり、前記光開始剤が、タイプIまたはタイプIIの光開始剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記希釈剤がメチルナフタレンである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が光開始により硬化可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記光活性化染料が、C
25
H
30
ClN
3
であり、前記光吸収剤が、18~20%の2-メトキシ-1-プロピルアセテートとともに用いる2-ヒドロキシフェニル-s-トリアジンであり、前記光開始剤がビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシドである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の粒子が、40nm~10μmのD50粒子寸法を有し、
前記モノマー樹脂が、アクリラート系モノマー樹脂もしくはメタクリラート系モノマー樹脂、またはそれらの混合物であり、
前記光活性化染料が、トリアリールメタン染料であり、
前記光吸収剤が、トリアジン系光吸収剤であり、
前記光開始剤が、タイプIまたはタイプIIの光開始剤であり、
前記希釈剤が、メチルナフタレンである、
請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記核燃料スラリーの組成物が、
0.05体積%~0.10体積%の光活性化染料、
0.05体積%~0.10体積%の光吸収剤、
0.05体積%~0.10体積%の光開始剤
(体積%は核燃料スラリーの全体積に対するもの)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記核燃料スラリーの組成物が、
35体積%~45体積%のモノマー樹脂、
45体積%~55体積%の複数の粒子、
3体積%~7体積%の分散剤、
0体積%よりも多い光活性化染料、
0体積%よりも多い光吸収剤、
0体積%よりも多い光開始剤、および
0体積%~18体積%の残部としての希釈剤
を含み、
前記複数の粒子が、40nm~10μmのD50粒子寸法を有し、
前記モノマー樹脂が、アクリラート系モノマー樹脂もしくはメタクリラート系モノマー樹脂、またはそれらの混合物である、
請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記光活性化染料が、トリアリールメタン染料であり、
前記光吸収剤が、トリアジン系光吸収剤であり、
前記光開始剤が、タイプIまたはタイプIIの光開始剤であり、
前記希釈剤が、メチルナフタレンである、
請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記素地体を焼結して、
前記原子炉系の部品を形成することをさらに含む、請求項
1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記原子炉系の部品が、前記ウラン含有物質を含む複数の燃料要素を含む燃料アセンブリである、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野および産業上の利用可能性
本開示は、概して、付加製造(または積層造形;additive manufacturing)に用いられる組成物および付加製造方法に関する。特に、開示される組成物は、部品を製造する付加製造プロセスで代用スラリーとして用いることができ、それにより付加製造プロトコルが開発され、付加製造プロトコルはそれから、燃料アセンブリ構造体物質(例えば、Ni、W、MoまたはN-W-Mo合金)、モデレータ物質(例えば、グラファイト、ホウ素または炭素系物質)、および核燃料スラリー物質(例えば、ウランまたはウラン-モリブデン系物質)のような適切な物質とともに用いられて、原子炉で用いる部品のような、半完成の又は完成した部品を付加製造する。原子炉部品の場合、代用スラリーは、ウラン含有物質を代理するために選択される複数の代用粒子を30体積%~70体積%含み、これらの代用粒子はそれから、核燃料スラリーにおいてウラン含有物質(例えば、ウラン金属、ウラン合金、ウランセラミック、またはウラン-モリブデン合金)を含む組成物を有する粒子で置き換えられる。関連する要旨において、開示されるスラリーおよび付加製造プロセスは、その場での(またはin-situの)体積検査に用いることができ、当該検査において付加製造製品は光源にさらされる光活性化染料成分を含み、それは例えば、紫外線への露出により活性化されて、製造欠陥を特定するために検査され得る信号を生成する紫外線活性染料成分である。
本開示はまた、代用スラリーの組成、および核燃料スラリーそれ自体の組成に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の検討において、ある構成および/または方法が説明される。しかしながら、下記の説明は、これらの構成および/または方法が先行技術を構成することの自認として解釈されるべきではない。出願人は、そのような構成および/または方法が本発明に対する先行技術足り得ないものであることを立証する権利を明示的に留保する。
【0003】
例えば物質を一緒に付加することによって(例えば液体分子または粉粒体を一緒に融合させて)、コンピュータ制御下で物質を結合し又は固体化して三次元の物体を作製する、種々のプロセスを用いることができる。溶融/堆積技術に基づいて、または堆積/硬化技術に基づいて多くの様々な技術が存在し、これらの技術は、例えば3Dモデル、またはコンピュータ支援設計(computer-aided design;CAD)モデルまたは付加製造ファイル(Additive Manufacturing File)AMF)のファイル(通常連続した層である)のような他の電子データソースからのデジタルモデルデータを用いて、ほぼ任意の形状または幾何構造の物体を製造するのに用いることができる。
【0004】
数多くのこれらの製造プロセスが利用できる。プロセス間の主な違いは、層を堆積させてパーツを形成する方法および用いられる物質にあり、各々の方法/材料は利点および欠点を有している。いくつかの方法は、物質を溶融または軟化させて層を生成する。例として、熱溶解フィラメント製造方式(fused filament fabrication; FFF)が挙げられ、これは熱溶解積層方式(fused deposition modeling;FDM)、溶融粒子製造方式(fused particle fabrication; FPF)または溶融粉粒体製造方式(fused granular fabrication; FGF)としても知られている。当該方式は物質の小さなビーズまたは流れを押し出し、直ちに層を硬化させることによって部品を製造する。他の方法は液状物質を種々の技術で硬化させるものであり、各方法は、層ごとの(または層単位の)アプローチで液状物質を硬化させて、製造される対象物を作り上げる。例として、種々の光学又は化学硬化プロセスを(関連する光反応性または化学反応性物質とともに)用いる光造形法(SL)が挙げられる。各例において、製造される製品は製造材料に基づく特性を有する。
【発明の概要】
【0005】
概して、本開示は、付加製造に用いられる組成物および付加製造方法に関する。連続した一層ごとの製造プロセスのために、開示される付加製造プロセスは複雑な部品を製造するのに適している。原子炉部品の場合には、複雑な部品の例として、燃料アセンブリ(例えば、燃料要素(燃料および可燃性のポイゾンを含む)の配列、燃料アセンブリ構造体の機械的な支持体、スペーサ・グリッド(部品間の間隔と燃料要素の案内を確実にする)、および例えば制御棒または炉心計装のような非燃料チューブ(燃料束としても知られている)が挙げられる。構造体の複雑さは、原子炉の他のシステムにも及び、それには一次系(一次冷却材に当てられる、接触する、または曝される系を意味する)の種々の部品、例えば、設計に応じて、配管、ポンプ、計装(または計測器)、熱交換器、および蒸気発生器が含まれる。したがって、燃料要素、燃料アセンブリ、炉心および原子炉系(または原子炉システム)の構築はすべて、精密な設計および製造基準を必要とするとともに、製造前、製造中および製造後に、原料供給、取り扱い、設置、検査および試験に関する制御のような、広範にわたる制御を必要とする。
【0006】
開示される付加製造方法の利用は、これらの複雑な構造体、特に燃料要素および燃料アセンブリの製造に好都合であることが分かり、製造プロセスそれ自体および製造される複雑な構造体(そのような構造体の品質保証を含む)の両方を改良する。開示される付加製造方法を開示される組成物と組み合わせて利用することは、これらの目的のために特に有利であることがわかった。
【0007】
本明細書で開示される実施形態には、部品、特に核分裂炉の部品を付加製造する方法、およびそのような部品の付加製造において、付加製造プロセスの開発中およびプロトタイプの開発中に、ならびに作動するパーツの最終の製造において用いられるスラリーの組成物が含まれる。
【0008】
原子炉系(または原子炉システム)の部品を製造する方法の実施形態は、代用スラリーを用いて、付加製造プロトコルを反復的に開発すること、開発した付加製造プロトコルにおいて核燃料スラリーで代用スラリーを置き換えること、開発した付加製造プロトコルにおいて核燃料スラリーを用いて原子炉系の部品の素地体(または未焼成体もしくはグリーンボディ)を製造することを含む。
【0009】
付加製造のための核燃料スラリーの実施形態は、
30体積%~45体積%のモノマー樹脂、
45体積%~60体積%の複数の粒子、
>0体積%~7体積%の分散剤、
0体積%よりも多い光活性化染料、
0体積%よりも多い光吸収剤、
0体積%よりも多い光開始剤、および
0体積%~20体積%の(残部としての)希釈剤
を含む組成物(体積%は核燃料スラリーの全体積に対するもの)を有する。粒子は、ウラン含有物質を含む組成物を有する。いくつかの実施形態において、ウラン含有物質は、ウラン金属、ウラン合金、ウランセラミック、またはウラン-モリブデン合金である。いくつかの実施形態において、ウラン含有物質は、ウラン酸化物、ウラン二酸化物、ウラン炭化物、ウラン炭酸化物、ウラン窒化物、ウランケイ化物、ウランフッ化物、ウラン塩化物、ウラン酸化物およびタングステンのサーメット、ウラン二酸化物およびタングステンのサーメット、ウラン酸化物およびモリブデンのサーメット、またはウラン二酸化物およびモリブデンのサーメット、ZrもしくはSi系セラミック複合体(例えば、ZrC-UCもしくはSiC-UN)である。加えて、他のウラン含有物質を用いることができ、他のウラン含有物質として、無機種(またはスピーシーズ)を含むもの、および有機配位子/アニオン種(スピーシーズ)を含むものが挙げられる。
【0010】
ウラン含有物質中のU235の濃縮度は0%よりも大きい。いくつかのNTP用途について、濃縮度は20%よりも小さく、好ましくは19.75%以下の濃縮度である。他のNTP用途に関し、濃縮度は90%~98%である。いくつかのCANDU用途については、濃縮度は天然レベルである。いくつかの地上発電用原子炉の用途に関して、濃縮度は20%未満であり、好ましくは4%~15%である。別の実施形態において、ウラン含有物質の濃縮は、トリウム系のような他の分裂性材料を用いることができる。
【0011】
一つの特定の実施形態において、付加製造のための核燃料スラリーは、
30体積%~45体積%のアクリラート(acrylate)系モノマー樹脂、
45体積%~60体積%の、ウラン含有物質を含む組成物を有する複数の粒子、
>0体積%~7体積%の、核燃料スラリー中の複数の粒子を分散させるのに適した分散剤、
0体積%よりも多い、後の品質管理検査中に活性化させるための光活性化染料、
0体積%よりも多い、スラリーのフリーラジカル重合を抑制し、それにより架橋を減らす光吸収剤、
0体積%よりも多い、スラリー組成物を硬化させるために用いる光の波長に合うように選択される、または光開始剤、および
0体積%~18体積%の、(残部としての)希釈剤としてのメチルナフタレン
を含む組成物を有する。
【0012】
一つの特定の実施形態において、付加製造のための代用スラリーは、
30体積%~45体積%のアクリラート系モノマー樹脂、
45体積%~60体積%の、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を含む組成物を有する複数の代用粒子、
>0体積%~7体積%の、核燃料スラリー中の複数の粒子を分散させるのに適した分散剤、
0体積%よりも多い、後の品質管理検査中に活性化させるための光活性化染料、
0体積%よりも多い、スラリーのフリーラジカル重合を抑制し、それにより架橋を減らす光吸収剤、
0体積%よりも多い、スラリー組成物を硬化させるために用いる光の波長に合うように選択される、またはその逆に光開始剤に合わせて波長が選択される、光開始剤、および
0体積%~18体積%の、(残部としての)希釈剤としてのメチルナフタレン
を含む組成物である。
【0013】
光造形付加製造プロトコルのような付加製造プロトコルは、代用スラリーを用いて、付加製造プロトコルが所望の質の所望の部品を製造するようになるまで付加製造パラメータを反復して調節することにより、開発することができる。代用スラリーを用いて付加製造プロトコルを開発する方法の実施形態の一例は、付加製造用の第1の代用スラリーを調製すること、第1の付加製造技術によって第1の代用スラリーから第1の素地体(またはグリーン体)を準備すること、第1の素地体に存在する欠陥を特定すること、第1の代用スラリーの組成又は第1の付加製造技術のパラメータを、1または複数の特定された欠陥に基づいて調節すること、および(a)調節した第1の代用スラリーから付加製造技術によって、または(b)第1の代用スラリーから調節した第1の付加製造技術によって、または(c)調節した第1の代用スラリーから調節した第1の付加製造技術によって、第2の素地体を作製することを含む。
【0014】
さらに、本明細書に開示されている実施形態は、核分裂炉や核分裂炉の個々の部品の設計を適格化し、許容できる製造を確認するために使用することができる。例えば、本明細書で開示されている原子炉の部品を製造する方法はまた、作製された構造物の性能および完全さを測定し、かつ確認するために用いることもできる。そのようなものとして、当該方法は、例えば、政府規制機関、政府機関・省庁、電力会社などの商業団体などの第三者による、原子炉または原子炉の部品の適格性を確認する、または合格判定基準の情報を提供する手段として機能することができる。
【0015】
そのような、その場での(またはin-situの)体積検査法の実施形態の一例は、付加製造製品を300nm~750nmの波長を有する光または紫外線などの光源に露光することであって、付加製造製品は光活性化染料成分を含み、露光ステップが光活性化染料成分を活性化して信号を生成させること、露光された付加製造製品を光学的に検査すること、および活性化された光活性化染料成分によって生成される信号と標準との比較に基づいて、付加製造製品中の製造上の欠陥を特定することを含む。 ある特定の実施形態では、付加製造製品は、原子炉系(またはシステム)の部品の素地体(または未焼成体もしくはグリーン体)であり、付加製造製品は、核燃料スラリーを用いた光造形付加製造プロトコルによって製造される。
【0016】
開示された原子炉および炉心は、複雑な機械的形状を有する部品を有するが、核分裂性燃料物質を含む一体かつ反復可能な製造は、部品がより容易に製造されることを可能にする。他の利点として、その場で又は層ごとに部品の検査が可能であることが挙げられる。
【0017】
上記概要および以下の実施形態の詳細説明は、添付の図面ともに読むことでより良く理解することができる。説明される実施形態が図示された配置および手段そのものに限定されないことを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、原子炉システムの部品を製造する例示的な方法における工程を示す。
【
図2】
図2は、代用スラリーを用いて付加製造プロトコルを開発するための反復プロセスの例における工程を示す。
【
図3】
図3は、その場での体積検査法の一例における工程を示す。
【
図4A】
図4Aは、本明細書で開示される方法および代用スラリーによって製造される部品の目視検査に関連する写真を含む。
【
図4B】
図4Bは、本明細書で開示される方法および代用スラリーによって製造される部品の目視検査に関連する写真を含む。
【
図5】
図5は、本明細書で開示されるものと合致する付加製造プロセスおよび代用スラリーを用いて製造された素地体の画像である。
【
図6】
図6は、本明細書で開示されるものと合致する付加製造プロセスおよび代用スラリーを用いて製造された第2の素地体の群の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、原子炉システムの部品を製造する例示的な方法(100)における工程を示す。例示的な方法(100)は、代用スラリーを用いて付加製造プロトコル(好ましくは光造形付加製造プロトコル)を反復的に開発すること(110)、開発した付加製造プロトコルにおいて核燃料スラリーで代用スラリーを置換すること(120)、および開発した付加製造プロトコルにおいて核燃料スラリーを用いて原子炉システムの部品の素地体を製造すること(130)を含む。
【0020】
付加製造プロトコルは、任意の適切な付加製造プロセスで用いるために開発することができ、および/または適合させることができる。適切な付加製造プロセスの例は、ISO/ASTM52900-15に開示されている。ISO/ASTM52900-15は、付加製造プロセスのカテゴリ(バインダージェット法、指向性エネルギー堆積法(directed energy deposition)、材料押出法(material extrusion)、材料噴射法(material jetting)、粉末床溶融結合法(powder bed fusion)、シート積層法(sheet lamination)、及び光重合法(photopolymerization)を含む)を規定する。ISO/ASTM52900-15の内容は、引用により本明細書に組み込まれる。光造形は、光重合プロセスを用いる付加製造の一形態である。例示的な実施形態において、光造形付加製造技術には、紫外線またはベータ線への露光からの光開始(または光重合開始)が含まれる。いくつかの例示的な実施形態において、紫外線は、デジタルライトプロセッサ(DLP)または光造形装置(SLA)において生成される。他の例示的な実施形態において、ベータ線が電子ビーム(EBeam)装置または電子照射(EBI)装置において生成される。本明細書に開示されている方法および組成物は光造形に関連して説明されるが、そのような方法および組成物を他の付加製造プロセスに適用することができ、および/または適合させ得ることは、明示的に意図されている。
【0021】
例示的な方法(100)において、付加製造プロトコルは代用スラリーを用いて反復的に開発される(110)。代用スラリーは核燃料スラリーの代用である。これに関して、代用スラリーは、核燃料スラリーの付加製造プロセスにおける挙動に似るように設計された組成を有する。これは、核燃料粒子の代用粒子を用いることによって、特にウラン含有物質を代理するために選択される代用粒子を用いることによって達成される。代用スラリーおよびその組成ならびに核燃料スラリーおよびその組成に関する詳細は後述する。
【0022】
付加製造プロトコルは反復プロセスにおいて開発される(または創り出される)。例えば、(a)堆積ステージの移動(空間的および時間的)、堆積に関連する温度、ステップの順序付けなどの付加製造プロセスのパラメータ、および(b)スラリー組成物の構成要素とその濃度または体積%などの組成を調整しながら付加製造プロセスを繰り返すことは、その後のプロセスの繰り返しにおいて調整される。(a)および(b)の調整は、製造された部品から決定されるパラメータに基づくことができる。当該パラメータとしては、例えば、1または複数の機械特性、1または複数の化学特性、ならびに1または複数の物理的および/または化学的欠陥の特定が挙げられる。(a)および(b)の調整は、別々に又は合わせて行って、最終的な付加製造プロトコル(これはまた、開発された付加製造プロトコルと呼ばれる)に到達することができる。最終的な付加製造プトロコルはそれにより、スラリー組成情報およびデジタルモデルデータの両方を含む。デジタルモデルデータは、例えば、3Dモデル、またはコンピュータ支援設計(computer-aided design;CAD)モデルまたは付加製造ファイル(Additive Manufacturing File;AMF)のファイル、または光造形輪郭(stereolithography contour;SLC)ファイルのような他の電子データソースである。
【0023】
代用スラリーを用いて付加製造プロトコルを開発する例示的な反復プロセスを
図2にて説明する。例示的な反復プロセス(200)において、付加製造のための第1の代用スラリーが調製される(210)。第1の代用スラリーは本明細書で開示されるような組成を有する。第1の代用スラリーを用いて、第1の素地体が、第1の付加製造技術によって形成される(220)。第1の付加製造技術は、本明細書で開示される付加製造技術のいずれであってもよい。第1の素地体はそれから検査および/または試験されて、欠陥および所望の最終製品からの他のずれが特定される(230)。この検査および/または試験には、機械的、目視によるもの、および化学的なものを含む、任意の適切な検査および試験が含まれてよい。
【0024】
1または複数の特定された欠陥および/またはずれに基づいて、第1の代用スラリーの組成または第1の付加製造技術のパラメータを調整することができる(240)。例えば、組成物の成分を調節することができ(材料化学または成分の量のいずれか)、また本明細書で開示される組成の範囲内で変化させることができる。他の例として、第1の付加製造技術の1または複数のパラメータ(例えば、堆積ステージの(空間的および時間的)移動、堆積に関連する温度、およびステップの順序付けなど)を調節し、また変化させることができる。調節することができる他のプロセスパラメータには、例えば以下のものが含まれる:樹脂浴の温度をより高い温度に上昇させること、粘度を減少させること、より均一な印刷層の厚さを生成すること、付加製造印刷層の適切なレベリングを許容するために照射の前の遅延を調節すること、移動速度を調節して、油圧ベアリングの力および印刷ウィンドウの剥離を軽減すること、層ごとに複数回の光照射を提供して、散乱を制限し、硬化の深さを増加させること、および所望の特性を最適化するために露光強度を連続的に変化させること(ムービー)。調節され得る他の設計パラメータには、次のようなものが含まれる:印刷能力を下回る薄い幾何形状について設計を変えること、非常に小さくて、露光の間に拡散により塞がってしまうことがある孔を増加させる/減少させること、トラップされた樹脂を除去する目的で、パーツにドレーンまたは洗浄用ホールを付加すること、らせん状及び格子状の成形体を結合して、繊細な形状構成を構造的および中性子的に有用な物質を用いて支持すること。組成および/またはパラメータの調節は独立して又は組み合わせて実施してよい。また、組成および/またはパラメータの調節は、進行中の反復プロセス(200)の後続の反復において、または後の反復プロセス(200)において実施することができる。別法として、第1の代用スラリーの組成または第1の付加製造技術のパラメータの調節は、そのような組成/パラメータを変化させることの効果を測定(または決定)するために実施することができる。そのような因果関係に関する情報は、進行中の反復プロセス(200)の後続反復において、又は後続の反復プロセス(200)において、発展させる(または開発する)ことができ、かつ用いることができる。
【0025】
第1代用スラリーの組成または第1の付加製造技術のパラメータを調節した後で、例示的な反復プロセス(200)は、第2の素地体を調製する(250)。第2の素地体(および反復プロセスにおける後続の素地体)は1または複数の方法で調節される。調節には次のものが含まれ得る:(a)第1(または後続の)代用スラリーを調節すること、および調節された代用スラリーを付加製造技術において用いること、(b)第1の代用スラリー(すなわち、調節されていない代用スラリー)を調節された第1(または後続の)付加製造技術において利用すること、または(c)第1(または後続の)代用スラリーを調節すること、および調節されたスラリーを調節された第1の(または後続の)付加製造技術において使用すること。
【0026】
付加製造技術により代用スラリーから素地体を調製し、素地体における欠陥を特定し、代用スラリーの組成または付加製造技術のパラメータを調節するプロセスは、所望の特性を有する素地体を製造する付加製造技術に到達するまで、必要に応じて繰り返すことができる。付加製造技術プロトコルはそれから、核燃料スラリーとともに用いて、原子炉の部品のような所望の部品の素地体を製造することができる。
【0027】
例示的な方法100において、開発された付加製造プロトコルが一旦得られると、開発した付加製造プロトコルにおいて、核燃料スラリーで代用スラリーを置き換える(120)。それから、原子炉系の部品の素地体が、開発された付加製造プロトコルにおいて核燃料スラリーを用いて製造される(130)。代用スラリーは付加製造技術プロセスにおける核燃料スラリーに似たものであるので、開発された付加製造プロトコルで核燃料スラリーを使用すると、代用スラリーを使用して製造されたものと同じではないにしても、代用粒子を核燃料粒子、例えばウラン含有物質で置換していることを除いては、少なくとも実質的(または材料外観的)には同じ(または製造公差内)である部品の素地体が製造される。
【0028】
続いて、製造(または造形)された素地体を焼結して、原子炉系の製造(または造形)部品のような製造(または造形)部品を形成することができる。例えば、温度、圧力および雰囲気の組み合わせを含む、硬化(または強化もしくは圧密)の他の適切な方式を使用して、製造部品を形成することもできる。硬化された製造部品は、例えば、機械加工、研削、研磨、コーティング、浸炭、窒化、酸化およびエッチングの1または複数によって、さらに加工することができる。
【0029】
付加製造用の代用スラリーの一例は、モノマー樹脂、複数の代用粒子、分散剤、光活性化染料、光吸収剤、光開始剤および希釈剤を含む組成物を有する。付加製造用の核燃料スラリーの例は、モノマー樹脂、複数のウラン含有粒子、分散剤、光活性化染料、光吸収剤、光開始剤および希釈剤を含む組成物を有する。
【0030】
代用スラリーおよび核燃料スラリーの両方は、30体積%~45体積%、あるいは35体積%~40体積%の量で存在するモノマー樹脂を含む。特定の例において、モノマー樹脂はアクリラート(もしくはアクリル酸エステル)系モノマー樹脂もしくはメタクリラート(もしくはメタクリル酸エステル)系モノマー、またはその混合物である。いくつかの実施形態において、モノマー樹脂は少なくとも50%がアクリラート系、あるいは70%~90%がアクリラート系であってよい。他の実施形態において、アクリラート系モノマー樹脂は官能基を有しており、例えば、単一官能性、二官能性、三官能性、もしくは四官能性、またはそれらの混合物である。アクリルラート系モノマー樹脂は、少なくとも50%が二官能性のもの、あるいは少なくとも80%が二官能性のもの、あるいは70%~90%が二官能性のものであってよい。適切なアクリラート系モノマー樹脂の特定の例は、ジアクリル酸ヘキサンジオール(Sartomer (Arkemaグループ)からSR 238の商品名で入手可能)である。適当なアクリラート系モノマー樹脂の他の特定の例は、エトキシル化(4)ペンタエリスリトールテトラアクリラート(Sartomer (Arkemaグループ)からSR 494の商品名で入手可能)である。別法として、オリゴマー系樹脂でアクリラート系モノマー樹脂を置き換えることができる。オリゴマー系樹脂の使用は、モノマー樹脂と比較して、収縮制御、重合速度、および粘度の領域で改良をもたらし得る。
【0031】
核燃料スラリーは、30体積%~70体積%、または30体積%~60体積%、または45体積%~60体積%、または50体積%~55体積%の量で存在するウラン含有物質の粒子を含み、一方、代用スラリーは、30体積%~70体積%、または30体積%~60体積%、または45体積%~60体積%、または50体積%~55体積%の量で存在する代用粒子を含み、ここで代用粒子はウラン含有物質の代わりとなるように選択される。しかしながら、代用スラリーにおける代用粒子の量は、代用粒子と硬化性放射線との相互作用特性(例えば吸収)および代用選択パラメータに基づいて変化する。例示的な実施形態において代用粒子は、ウラン酸化物の中性子吸収断面および屈折率と十分に一致する、ドープされたジルコニア相、炭化物、窒化物、もしくはホウ化物、またはケイ素もしくはジルコニウムである。代用スラリー中の代用粒子の量は、40体積%~60体積%であり、あるいは40体積%~55体積%である。
【0032】
ウラン含有物質の例には、ウラン金属、ウラン合金、ウランセラミック、およびウラン-モリブデン合金が含まれる。いくつかの実施形態において、代用粒子で代替されるウラン含有物質は、ウラン酸化物、ウラン二酸化物、ウラン炭化物、ウラン酸炭化物、ウラン窒化物、ウランケイ化物、ウランフッ化物、ウラン塩化物、ウラン酸化物およびタングステンのサーメット、ウラン二酸化物およびタングステンのサーメット、ウラン酸化物およびモリブデンのサーメット、ならびにウラン二酸化物およびモリブデンのサーメットである。他の実施形態において、ウラン含有物質は、化学式U(C,O,N,Si,F,Cl)(式中、炭素(C)、酸素 (O)、窒素 (N)、ケイ素 (Si)、フッ素(F)、塩素 (Cl)およびこれらの組み合わせのいずれか一つまたは複数が、ウランとともに化学量論量または非化学量論量で存在してよい)で表され得る。
【0033】
ウラン含有物質の他の非制限的な例には、U(OH, B, Sb, P, As, S, Se, Te, Cl, Br, I)のような無機種;ウラン水酸化物および水和物;ウラン臭化物;ウランヨウ化物;ウランセレン化物;ウランテルル化物;ウラン塩化物;ウラン硫化物;ウランホウ化物;ウランリン化物;ウラン砒化物およびアンチモン化合物が含まれる。有機配位子/アニオン性種もまた、ウラン含有物質として使用してもよい。しかしながら、これらの多原子イオンの寸法が増加するに従い、それを超えるとウラン質量の濃度の減少がもはや核燃料関連用途の構造物に製造するのに好ましくない限界が存在するであろう。ウラン含有物質の非制限的な例には、アンモニウムウリネート(又はウラン酸アンモニウム)、カルボニルウラン;硝酸ウラニル;シュウ酸ウラニル;過酸化ウラニル;酢酸ウラニル;安息香酸ウラニル;タンニン酸ウラニル;およびキノリン酸ウラニルのような有機配位子/アニオン性種が含まれる。
【0034】
さらに、ウラン含有物質は、一つの形態に付加製造され、その後で例えば、焼結プロセス中の窒化、酸化、還元、浸炭(または炭化)により、他の均一な形態に変換してよい。例えば、付加製造中に形成されたウラン含有物質のウランは、酸化プロセスにより、ウラン酸化物に変換することができる。
【0035】
特定の実施例において、代用スラリー中で代用粒子が代替するように選択されるウラン含有物質の組成は、核燃料スラリーにおけるウラン含有物質の粒子の組成に相当する。代用粒子の選択に寄与する特性は表1に示すものを含む。表1中の特性は重要度が減少する順に示され、3つの階層、階層I、階層IIおよび階層IIIに分類される。適用可能な場合には、表1の選択基準カラムに含まれる上限/下限は、核燃料スラリー中のウラン含有物質のその特性に関する値と比較した(または当該値を基準とした)、代用スラリー中の代用粒子に関するその特性の値についてのものである。
【0036】
【0037】
代用スラリー用の代用粒子の選択は、表1の特性のバランスである。その点に関して、階層Iの特性は、階層IIの特性よりも代用スラリーの性能により関連することが分かっており、同様に階層IIの特性は、階層IIIの特性よりも代用スラリーの性能により関連することがわかっている。加えて、第一近似として、適切な代用粒子を選択する際には、階層Iの特性を利用することができる。特定の例において、代用粒子は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、アルミナ(Al2O3)、 ジルコニア(ZrO2)、セリア(CeO2)、シリカ(SiO2)、 溶融シリカ、ジルコニア強化アルミナ(ZTA)(Al2O3-ZrO2)、アルミナ強化ジルコニア(ATZ)(ZrO2-Al2O3)、またはカオリナイト(Al2O3・2SiO2・2H2O)を含む組成物を有する。さらに別の例において、代用粒子は、ケイ素(Si)またはジルコニウム(Zr)のような遷移金属の炭化物、窒化物、ホウ化物、炭窒化物、炭ホウ化物、窒ホウ化物、または炭窒ホウ化物(carbonitroborides)を含む組成物を有しており、これらは、M(C,N,B) (式中、Mは遷移金属であり、元素C、NおよびBの1または複数が化学量論量または非化学量論量で存在する)で表される。具体的な例として、ZrC、ZrN、ZrB、ZrB2、SiC、SiN、SiB、SiB2が挙げられる。
【0038】
代用粒子の他の特性には、1nm~10μ、あるいは40nm~1μのD10粒子寸法が含まれる。別の実施形態において、D50粒子寸法は1nm~10μ、あるいは40nm~1μであり、D90粒子寸法は、1nm~20μであり、あるいは1nmもしくは40nm~1μもしくは12μもしくは15μである。
【0039】
代用スラリーおよび核燃料スラリーはともに、>0体積%~7体積%の量、または3体積%~7体積%、または4体積%~6体積%の量で存在する分散剤を含む。粒状の分散剤が、スラリー組成物において、代用粒子およびウラン含有物質の粒子の両方を分散させる能力のために選択される。分散剤の量は、粒子を十分に被覆するのに少なくとも十分なものでなければならず、また、十分に分散された剪断減粘性の非ニュートン流体を生成するのに十分であり、チキソトロピックではないものである。一つの例において、スラリーは100000センチポアズ(cP)以下の粘度を有し、あるいは10000cP以下の粘度を有する。粘度が高すぎる場合、スラリーは剪断増粘性を示す。
【0040】
一つの要旨において、分散剤は、分散剤の静電親和性が、代用粒子の静電親和性の値の20%以内、または10%以内であるように選択される。特定の例において、分散剤は、VARIQUAT(登録商標)CC-9またはVARIQUAT(登録商標)CC-42(ともにドイツのEvonik Industries AGから入手できる)のような第四級塩化アンモニウムを含む組成物であり、またはTEGO(登録商標)Dispers 660 CまたはTEGO(登録商標)Dispers 670(ともにドイツのEvonik Industries AGから入手できる)のような高分子量分散剤である。さらに別の特定の例において、二種類の異なる分散剤または分散剤の混合物を用いることができる。例えば、第1組成物の分散剤および第2組成物の分散剤を、第2成分に対する第1成分の比(第1成分:第2成分)が2~2.5、あるいは2.15~2.35の範囲となるように混合してよい。
【0041】
代用スラリーおよび核燃料スラリーはともに、光活性化染料、光吸収剤、および光開始剤を含み、それらは各々0体積%よりも多い量で存在し、あるいは0.05体積%~0.10体積%で存在する。ある実施形態において、光活性化染料、光吸収剤および光開始剤は、放射線光源について有効であるように選択され、例えば、光活性化染料、光吸収剤および光開始剤は300nmと750nmとの間で、あるいは300nmと600nmとの間で、または400nm~560nmで有効であるように選択される。一つの例において、光活性化染料、光吸収剤および光開始剤は、620nmと640nmの範囲で有効であるように選択される。
【0042】
光活性化染料は、硬化の際に色を変化させることによって、硬化した層の視覚化をもたらす。そのような視覚化は、紫外光のような、ある波長下で検出することができ、欠陥の検出または他の検査目的のために用いることができる。特定の例において、光活性化染料は、トリアリールメタン染料、好ましくはC25H30ClN3(Crystal violetの商品名で米国のSigma-Aldrich Corp.から入手できる)である。Crystal violetは、青いアニリン誘導体染料である。他の特定の例において、光活性化染料は、0.002モル/モノマー樹脂1リットルの量で存在する。
【0043】
光吸収剤は、ある波長内にある入射線を吸収し、それらの波長に起因するスラリーの遊離ラジカル化重合を阻止または減少し、それにより架橋を減少する。特定の例において、光吸収剤は、トリアジン系光吸収剤、好ましくは18~20%の2-メトキシ-1-プロピルアセテートとともに用いる2-ヒドロキシフェニル-s-トリアジン(例えば、BASFから入手可能なTinuvin(登録商標)477。これは、赤にシフトしたtris-レゾルシノール-トリアジン発色団をベースとする液体トリアジン光吸収剤であり、高い熱安定性、優れた耐光性を示し、また、金属結晶およびアミン架橋剤と最小限の相互作用を示す)。
【0044】
光開始剤は、スラリー組成物を硬化させるのに用いられる入射線に適合するように選択される(またはその逆に光開始剤に合わせて入射線が選択される)。特定の例において、光開始剤は、タイプIまたはタイプIIの光開始剤であり、好ましくはビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシドである(例えば、米国のIGM Resinsから入手可能なOmniRad 819 (前Irgacure 819)。これは紫外線露光による不飽和樹脂のラジカル重合のための光開始剤である)。
【0045】
代用スラリーおよび核燃料スラリーはともに、残部として4体積%~40体積%の量で、あるいは残部として4体積%~20体積%の量で、あるいは残部として4体積%~6体積%の量で、あるいは残部として8体積%~40体積%の量で、あるいは残部として8体積%~20体積%の量で、または残部として8体積%~15体積%の量で存在する、希釈剤を含む。適切な希釈剤は、室温にて液体であり、400℃未満、あるいは300℃未満の温度で取り除かれ得るのに十分に低い沸点を有する。希釈剤が取り除かれたとき、小さなボイド(または穴)が製造されたパーツに残り、また、原子炉の部品において、小さなボイドは、部品のクラッキングを最小化する又は防止するのに寄与する、アウトガス容量(outgassing volume)をもたらす。特定の例において、希釈剤はメチルナフタレンである。
【0046】
開示される核燃料スラリーは、付加製造方法で用いることができる。部品の製造で用いられる物質に関する特定の要求(例えば薬品耐性)に適応させることができ、装置それ自体を利用するための特定の要求(例えば、特定の大気または真空の要求)に適合させることができ、同様に、製造される部品の寸法および形状に適合させることができる、適切な付加製造装置を用いることができる。適切な付加製造装置の例として、SLAおよびDLPマシーン、電子ビーム系付加製造装置、およびDLP光造形装置を挙げることができ、これらのいずれも、特定の要求のために改変することができ、または適合させることができる。
【0047】
付加製造の例示的な方法は、製造される予定の部品の意匠(またはデザインもしくは設計図)を付加製造装置のコントローラに提供することを含み得る。そのような意匠は、付加製造プロトコルに組み込まれ得る。
【0048】
例示的な方法において、浴またはリザーバのような、核燃料スラリー組成物のサプライボリューム(または供給容積)が確立される。それから、部品の素地体のベース部分が、付加製造装置の可動ベースと接しているスラリー組成物の一部を硬化させることによって形成される。別法として、ベース部分は、付加製造プロセスの開始前に、あらかじめ作製することができる。部品の素地体の付加部分は、ベース部分と接するスラリー組成物の一部をまず硬化させて素地体の第1の層を形成し、それから、素地体の先に堆積した層と接しているスラリー組成物の一部を次に硬化させて付加部分を形成し、同時に、サプライボリュームの表面と最も新しく形成された付加(積層)部分との間の界面に対して可動ベースを移動(または直進)させることによって、層単位で(または層ごとに)形成される。可動ベースの移動は、一般的には部品の意匠に従い、付加製造プロトコルによって支配される。例示的な実施形態において、サプライボリュームの表面と最も新しく形成された素地体の付加部分との間の界面に対する可動ベースの移動は、50μまたはそれよりも良好なX軸解像度およびY軸解像度を有し、20μまたはそれよりも良好なZ軸解像度を有する。例示的な実施形態において、層単位で(または一層ずつ)形成される部品の素地体の付加部分は各々、少なくとも25μの厚さを有し、あるいは25μ~50μの厚さを有する。部品の素地体の層単位の製造が完了すると、部品の素地体は付加製造装置から取り出されて、焼結されて(または他の結合剤除去(もしくは脱バインダー)/硬化技術により加工されて)緻密化されたセラミックを形成することができる。
【0049】
開示された方法およびスラリーは、その場での(またはin-situの)体積検査法に組み込むことができ、または当該検査方法を可能にする。
図3は、その場での体積検査の例示的な方法(300)におけるステップを示す。例示的な方法(300)は、UV染料成分を含む付加製造製品を紫外線に露光すること(310)を含む。露光ステップは、UV染料成分を活性化させて、信号を生成させ、露光された付加製造製品はそれから、例えば拡大装置を用いて、光学的に検査される(320)。実体顕微鏡のような拡大装置は、画像解析だけでなく、撮像性能を含むことができる。付加製造製品における欠陥は、活性化されたUV染料成分により生成された信号を標準と比較することに基づいて、特定され得る(330)。
【0050】
本明細書に記載されているように、光活性化染料は、硬化の際に色を変化させることによって、硬化した層の視覚化を提供する。そのような視覚化は、紫外光の下で検出することができ、欠陥検出に又は他の検査目的で用いることができる。
図4A~Bは、本明細書で開示される方法および代用スラリーに従って製造された部品の目視検査に関する写真を含む。
図4Aは、紫外光源420に露光された部品410を示す。
図4Bは、
図4Aの部品400の画像450を示す。部品410は、第1領域が光活性化染料を含み、第2領域が光活性化染料を含まないテストパターンを有する。光活性化染料の分布は、
図4Bの画像450に反映されており、当該画像において、暗い領域460は光活性化染料を含む第1の領域と相関し、明るい領域470は光活性化染料を含まない第2の領域と相関する。製造された部品において、第1領域の形状をテストパターンの標準と比較することによって、製造の質、例えば密度および形状、ならびにそのような製造における任意の欠陥を検出することができる。
図4A~4Bにはテストパターンを用いたものが示されているが、類似のその場での(またはin-situの)検査手順を、製造された状態の部品において、より複雑な部品および他の品質パラメータに適用することができる。その場での体積検査は本明細書において紫外光の場合について説明したが、任意の適切な放射線源を、当該放射線源が検出可能な信号を検査される構造物から生じさせる限りにおいて、使用することができる。
【0051】
スラリーの例:
代用スラリー組成物の二つの例を表2に示す。成分および量(スラリーの体積%)の両方が提供される。代用スラリーAは、アクリラート系スラリーの組成物であり、メタクリラートを含まない;代用スラリーBは、混合されたアクリラート系およびメタクリラート系スラリー組成物である。代用スラリーAおよび代用スラリーBの両方において、代用粒子はイットリア安定化ジルコニアである。代用スラリーAは独立した希釈剤成分、すなわちポリエチレングリコールを有している。代用スラリーBは、独立した希釈剤成分を有しておらず、むしろモノマー樹脂中に、メタクリラートモノマー溶液からポリエチレングリコールの形態で希釈剤成分を組み込んでいる。
【0052】
【0053】
一つの例示的な核燃料スラリー組成物を表3に示す。成分および量(スラリーの体積%)の両方が提供される。核燃料スラリーXはアクリラート系組成物であり、メタクリラートを含まない;核燃料スラリーYは、混合されたアクリラート系およびメタクリラート系スラリー組成物である。核燃料スラリーXおよび核燃料スラリーYの両方において、ウラン含有物質はUO2である。核燃料スラリーXは、独立した希釈剤成分、すなわちポリエチレングリコールを有している。核燃料スラリーYは、独立した希釈剤成分を有しておらず、むしろモノマー樹脂中に、メタクリラートモノマー溶液からのポリエチレングリコールの形態でその成分を組み込んでいる
【0054】
【0055】
代用スラリーおよび核燃料スラリーの上記の例のうち、代用スラリーAおよびBは、例示的な部品の素地体を、AMを用いて製造することができるという性能を有していた。例えば、
図5は、本明細書で開示された代用スラリーAを用いて、付加製造、特にデジタルライトプロセッサを用いて製造した素地体の画像である。示した素地体はテスト構造体の形態であるが、適切な付加製造プロトコルを用いて任意の構造に形成することができる。
【0056】
しかしながら、代用スラリーを核燃料スラリーXおよびYに置き換えると、実質的な体積の素地体を形成するのには層の厚さが不十分となった、すなわち、2mm以下の素地体が形成された。したがって、上記の例の核燃料スラリーは素地体を製造することができたが、1つの層について層の厚さが相対的に小さく、形成される体積が小さいことは、製造プロセスを非効率的に長くした。
【0057】
上記の例を基に、さらなる例を作製し、検討した。これらの更なる例示的な核燃料スラリーMおよび核燃料スラリーNを、表4に示す。成分および量(スラリーの体積%)の両方が提供される。核燃料スラリーMは、アクリラート系スラリーの組成物であり、メタクリル酸を含まない;核燃料スラリーNは、アクリラート系のスラリー組成物である。核燃料スラリーMおよび核燃料スラリーNの両方において、ウラン含有物質はUO2である。核燃料スラリーMおよび核燃料スラリーNはともに、独立した希釈剤成分、すなわちポリエチレングリコールまたはPRO14388(Sartomerから市販されている、SR238モノマー/PEG様希釈剤のブレンド)を用いている。
【0058】
【0059】
核燃料スラリーMおよび核燃料スラリーNはともに、付加製造プロセスにおいて、特にデジタルライトプロセッサを用いて使用された。核燃料スラリーNは、第2の素地体を製造した。それらのうちの3つを
図6に示す。
図6に示す第2の素地体は、テスト構造体の形態であるが、適切な付加製造プロトコルを用いることにより任意の所望の構造に形成することができる。
図6に示す第2の素地体は、層(それぞれ約15μの厚さを有する)を用いて形成され、10mmの高さ、およびUO
2物質の体積が0.92cm
3である2.3cm
3のバルク体積を有していた。しかしながら、核燃料スラリーMは、モノマー樹脂の量および種類(すなわち、36.7体積%、SR238)が、一層ずつの形成プロセスを促進するのに十分な機械的強度を与えなかったために、満足のいく素地体をもたらさなかった。核燃料スラリーMを用いて作製した層は脆性破壊を示し、部分的にのみ粘着性であった。核燃料スラリーMおよび核燃料スラリーNを用いた結果から、モノマー樹脂について、核燃料スラリーNにおけるSR238およびSR494の混合物が、(核燃料スラリーNのモノマーと比較して)層間の接着性(または粘着性)が向上するのを促し、かつ硬化した層の機械的特性の向上に寄与するとの結論に至った。
【0060】
本明細書に開示される種々の実施形態は、ウラン系物質を核分裂性成分として有する。しかしながら、他の核分裂性成分として、プルトニウム、トリウム、アメリシウム、キュリウム、ネプツニウム、およびそれらの組み合わせを含む他の核分裂性物質を、ウランに代えて又はウランと組み合わせて用い得ることが理解されるべきである。
【0061】
原子炉の付加製造部品に関連して説明したが、本明細書で開示される付加製造方法およびその場での検査方法は、他の技術の製造、例えば石油化学産業(例えば、化学反応容器の製造)、航空宇宙産業(例えば、タービンブレードを含むタービンのパーツおよびハウジング、燃焼チャンバー、ノズル、バルブおよび冷却管を含むミサイルおよびロケットのパーツの製造)において適用することができ、同様に他の複雑な物品の製造に適合させることができる。加えて、代用スラリーを使用して付加製造プロトコルを開発することは(開発したプロトコルはそれから非代用スラリーを用いて利用される)、前述した石油化学産業および航空宇宙産業等において、他の技術の製造にも適用することができる。
【0062】
特定の実施形態を参照したが、それらの精神および範囲を逸脱することなく、他の当業者が他の実施形態および変形例を考案し得ることは明らかである。添付した特許請求の範囲は、そのような実施形態および等価な変形例のすべてを含むものと解釈されることを意図されている。