IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7516437染料水溶液の製造方法、水性インクの製造方法、インクカートリッジの製造方法及びインクジェット記録方法
<>
  • 特許-染料水溶液の製造方法、水性インクの製造方法、インクカートリッジの製造方法及びインクジェット記録方法 図1
  • 特許-染料水溶液の製造方法、水性インクの製造方法、インクカートリッジの製造方法及びインクジェット記録方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】染料水溶液の製造方法、水性インクの製造方法、インクカートリッジの製造方法及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20240708BHJP
   C09B 67/44 20060101ALI20240708BHJP
   C09B 67/54 20060101ALI20240708BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240708BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
C09D11/328
C09B67/44 A
C09B67/54 Z
B41J2/01 501
B41M5/00 100
B41M5/00 120
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022021537
(22)【出願日】2022-02-15
(65)【公開番号】P2022132141
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2021030770
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021030771
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】長尾 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】宮町 尚利
(72)【発明者】
【氏名】山上 英樹
(72)【発明者】
【氏名】笠井 健
(72)【発明者】
【氏名】大塚 健太
(72)【発明者】
【氏名】宮本 洋雄
(72)【発明者】
【氏名】内海 可成
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029610(JP,A)
【文献】特開2005-023116(JP,A)
【文献】米国特許第04239543(US,A)
【文献】特開2007-238892(JP,A)
【文献】特開昭57-212071(JP,A)
【文献】特公昭49-045681(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/328
C09B 67/44
C09B 67/54
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット用の水性インクの調製に用いる染料水溶液の製造方法であって、
染料及び不純物を含有する原料水溶液を、平均粒子径が0.15mm以上である活性炭に接触させる工程を有し、
前記染料が、C.I.アシッドレッド249であるとともに、前記不純物が、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一方であり、
前記活性炭のカラメル脱色性能が、94%以上であることを特徴とする染料水溶液の製造方法。
(前記一般式(1)中、R 、R 、R 、R 、及びR は、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を表し、R 、R 、R 、R 、及びR の少なくとも1つはハロゲン原子である。前記一般式(2)中、R はアルキル基を表し、nは5~15の数を表す)
【請求項2】
インクジェット用の水性インクの調製に用いる染料水溶液の製造方法であって、
染料及び不純物を含有する原料水溶液を、平均粒子径が0.15mm以上である活性炭に接触させる工程を有し、
前記染料が、下記一般式(3)で表される化合物であるとともに、前記不純物が、下記一般式(4)で表される化合物であり、
前記活性炭の平均細孔径が、1.8nm以上2.9nm以下であることを特徴とする染料水溶液の製造方法。
(前記一般式(3)中、Mは、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表し、xは1.0~4.0の数を表し、yは0.0~3.0の数を表し、x+yは1.0~4.0である)
(前記一般式(4)中、R はハロゲン原子を表し、zは1~6の数を表す)
【請求項3】
前記活性炭が充填されたカラムに前記原料水溶液を通過させて、前記原料水溶液を前記活性炭に接触させる請求項1又は2に記載の染料水溶液の製造方法。
【請求項4】
1hr-1以上10hr-1以下の空間速度で前記原料水溶液を前記活性炭に接触させる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の染料水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記原料水溶液中の前記染料の含有量(質量%)が、原料水溶液の全質量を基準として、5.0質量%以上20.0質量%以下である請求項1乃至のいずれか1項に記載の染料水溶液の製造方法。
【請求項6】
35℃以下の前記原料水溶液を前記活性炭に接触させる請求項1乃至のいずれか1項に記載の染料水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記活性炭の使用量が、前記原料水溶液中の前記染料の使用量に対する質量比率で、0.01倍以上である請求項1乃至のいずれか1項に記載の染料水溶液の製造方法。
【請求項8】
前記活性炭の使用量が、前記原料水溶液中の前記染料の使用量に対する質量比率で、0.10倍以上である請求項1乃至のいずれか1項に記載の染料水溶液の製造方法。
【請求項9】
前記原料水溶液中の前記一般式(3)で表される化合物の、620nm付近の極大吸収波長における吸光度Aが、660nm付近の極大吸収波長における吸光度Bに対する比率で、1.34倍以上1.54倍以下であり、
前記活性炭に接触させて得られる染料水溶液中の前記一般式(3)で表される化合物の、620nm付近の極大吸収波長における吸光度Aが、660nm付近の極大吸収波長における吸光度Bに対する比率で、1.34倍以上1.54倍以下である請求項に記載の染料水溶液の製造方法。
【請求項10】
インクジェット用の水性インクの製造方法であって、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の製造方法により製造された染料水溶液と、その他の成分とを混合する工程を有することを特徴とする水性インクの製造方法。
【請求項11】
インクジェット用のインクカートリッジの製造方法であって、
請求項10に記載の製造方法により製造された水性インクをインク収容部に充填する工程を有することを特徴とするインクカートリッジの製造方法。
【請求項12】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項10に記載の製造方法により製造された水性インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料水溶液の製造方法、水性インクの製造方法、インクカートリッジの製造方法及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用の水性インクに用いられる色材として、染料が幅広く利用されている。染料は発色性に優れた色材であることから、インクジェット記録の分野以外、例えば、繊維や織布を染色する分野においても広く利用されている。インクジェット用のインクに用いられる染料は、インクの保存性や吐出性などの信頼性を確保する観点で、不純物が少ないことが要求される。しかし、染料を含む組成物(以下、「染料組成物」と記載することがある)には、通常、合成の原料や反応助剤などの反応原料、また、合成経路における副反応物などが不純物として含まれているため、これらの不純物を除去するために精製が必要とされる。
【0003】
インクジェット用のインクを調製するために用いる染料組成物中の不純物を除去する方法として、逆浸透膜を用いて染料組成物を処理する方法や、染料組成物を撹拌しながら、粉末状の活性炭により吸着処理する方法が提案されている(特許文献1乃至3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭56-155264号公報
【文献】特開2003-138158号公報
【文献】特開2007-238892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、逆浸透膜を用いる処理方法では、染料組成物中の無機塩類を除去することは可能ではあるが、有機不純物を除去することは困難であった。また、粉末状の活性炭を用いる処理方法では除去することが困難な不純物もある。有機溶剤による洗浄、再結晶、晶析、及び塩析などの公知の精製方法によって不純物を除去することも可能ではあるが、これらの精製方法では染料の収率が低下するといった課題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、不純物を簡便な操作で効果的に除去して染料水溶液を高い収率で得ることが可能な、インクジェット用の水性インクの調製に用いる染料水溶液の製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、この染料水溶液の製造方法により製造した染料水溶液を用いる水性インクの製造方法、この水性インクの製造方法により製造した水性インクを用いるインクカートリッジの製造方法及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明によれば、インクジェット用の水性インクの調製に用いる染料水溶液の製造方法であって、染料及び不純物を含有する原料水溶液を、平均粒子径が0.15mm以上である活性炭に接触させる工程を有し、前記染料が、C.I.アシッドレッド249であるとともに、前記不純物が、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一方であり、前記活性炭のカラメル脱色性能が、94%以上であることを特徴とする染料水溶液の製造方法が提供される。
(前記一般式(1)中、R 、R 、R 、R 、及びR は、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を表し、R 、R 、R 、R 、及びR の少なくとも1つはハロゲン原子である。前記一般式(2)中、R はアルキル基を表し、nは5~15の数を表す)
【0008】
また、本発明によれば、インクジェット用の水性インクの調製に用いる染料水溶液の製造方法であって、染料及び不純物を含有する原料水溶液を、平均粒子径が0.15mm以上である活性炭に接触させる工程を有し、前記染料が、下記一般式(3)で表される化合物であるとともに、前記不純物が、下記一般式(4)で表される化合物であり、前記活性炭の平均細孔径が、1.8nm以上2.9nm以下であることを特徴とする染料水溶液の製造方法が提供される。
【0009】
(前記一般式(3)中、Mは、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表し、xは1.0~4.0の数を表し、yは0.0~3.0の数を表し、x+yは1.0~4.0である)
(前記一般式(4)中、R はハロゲン原子を表し、zは1~6の数を表す)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、不純物を簡便な操作で効果的に除去して染料水溶液を高い収率で得ることが可能な、インクジェット用の水性インクの調製に用いる染料水溶液の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、この染料水溶液の製造方法により製造した染料水溶液を用いる水性インクの製造方法、この水性インクの製造方法により製造した水性インクを用いるインクカートリッジの製造方法及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】インクカートリッジの一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0013】
モノアゾ染料や銅フタロシアニン染料を含む組成物には、通常、合成の原料や反応助剤などの反応原料、また、合成経路における副反応物などの不純物が含まれている。特に、モノアゾ染料はカップリング反応を経て合成されるものが多いため、所望の構造を有するモノアゾ染料に加えて、構造が類似した副反応物が多く生じ、これが組成物に混入しうる。いずれの染料の場合も、染料組成物を用いて調製したインクジェット用の水性インクに要求される各種の性能への不純物による影響を低減するために、不純物を除去する必要がある。但し、従来の染料組成物の精製方法では、染料の収率が低下するといった課題があった。
【0014】
本発明者らは、上記の不純物を効果的に除去して、モノアゾ染料及び銅フタロシアニン染料からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に「染料」と記載することがある)の水溶液(染料水溶液)を高収率で得る方法について検討した。より詳細には、染料を含む組成物から、染料の損失をできるだけ避けて、収率を保ちながら、不純物を除去することについて検討した。その結果、平均粒子径が0.15nm以上である活性炭で処理すれば、後処理が不要となる又は簡略化しうるため、簡便な操作で不純物を有効に除去しうることを見出し、本発明に至った。すなわち、各種の染料のなかでも、モノアゾ染料や銅フタロシアニン染料を含む組成物に混入しうる主要な不純物の除去には、従来用いられてきたような粉末状の活性炭ではなく、ある程度の粒子径を有する活性炭のほうが適している。一方、粉末状の活性炭を含む粒子径0.15mm未満の活性炭を用いても、その表面特性から、モノアゾ染料や銅フタロシアニン染料を含む組成物に混入しうる主要な不純物の除去性と、目的物である染料の収率とをバランスよく両立することはできない。
【0015】
<染料水溶液の製造方法>
本発明の染料水溶液の製造方法は、インクジェット用の水性インクの調製に用いる染料水溶液を製造する方法である。本発明の染料水溶液の製造方法は、染料及び不純物を含有する原料水溶液を、平均粒子径が0.15mm以上である活性炭に接触させる工程(以下、「精製工程」とも記す)を有する。染料は、モノアゾ染料及び銅フタロシアニン染料からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0016】
(精製工程)
精製工程では、染料及び不純物を含有する原料水溶液を活性炭に接触させる。原料水溶液を活性炭に接触させる方法としては、バッチ式による接触方法及びカラム式による接触方法を挙げることができる。なかでも、カラム式による接触方法のほうが、不純物の除去性だけでなく、収率をより向上させることができる点で好ましい。加えて、効率よく精製することができるため、染料水溶液を用いて製造するインクジェット用の水性インクの吐出性をさらに向上させることができる。カラム式による接触方法では、具体的には、活性炭が充填されたカラムに原料水溶液を通過させることで、原料水溶液を活性炭に接触させることができる。
【0017】
活性炭の使用量(A)は、原料水溶液中の染料の使用量(D)に対する質量比率(A/D)で、0.01倍以上とすることが好ましく、0.10倍以上とすることがさらに好ましい。上記の質量比率は、1.00倍以下とすることが好ましく、0.50倍以下とすることがさらに好ましい。上記の質量比率(A/D)を0.01倍以上とすることで、除去性をさらに向上させることができる。また、上記の質量比率(A/D)を0.10倍以上とすることで、染料水溶液を用いて製造するインクジェット用の水性インクの吐出性をさらに向上させることができる。
【0018】
原料水溶液と活性炭との接触時間(空間速度)は、不純物除去の観点から長い方が好ましい。空間速度(hr-1)は、原料水溶液の流速(mL/hr)を、活性炭の体積(mL)で除した値である。具体的には、空間速度を1hr-1以上10hr-1以下とすることが好ましく、1hr-1以上5hr-1以下とすることがさらに好ましい。空間速度を1hr-1以上とすることで、除去性及び収率をバランスよく向上させることができる。また、空間速度を10hr-1以下とすることで、除去性をさらに向上させることができる。また、空間速度を1hr-1以上10hr-1以下の範囲内とすることで、効率よく精製することができるため、染料水溶液を用いて製造するインクジェット用の水性インクの吐出性をさらに向上させることができる。
【0019】
活性炭に接触させる原料水溶液の温度は、60℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがさらに好ましい。活性炭への吸着反応は発熱反応であることから、接触温度を低くすることで、より効率的に不純物を活性炭に吸着させることができる。特に、活性炭に接触させる原料水溶液の温度が35℃以下であると、効率よく精製することができるため、染料水溶液を用いて製造するインクジェット用の水性インクの吐出性をさらに向上させることができる。活性炭に接触させる原料水溶液の温度は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがさらに好ましい。
【0020】
[染料]
染料は、モノアゾ染料及び銅フタロシアニン染料からなる群より選択される少なくとも1種である。上述の通り、上記の各染料を含む組成物には、通常、反応原料などの不純物が含まれている。また、モノアゾ染料を含む組成物には、所望の構造を有するモノアゾ染料及び反応原料に加えて、構造が類似した副反応物が多く含まれている。これらの染料を含む原料水溶液に混入しうる不純物は、平均粒子径が0.15mm以上である活性炭に接触させる工程を経ることで、簡便な操作で特異的かつ効果的に除去することが可能であり、精製された染料水溶液を高い収率で得ることができる。
【0021】
モノアゾ染料としては、その分子構造にアゾ結合(-N=N-)を1つのみ有する化合物であれば特に限定されない。モノアゾ染料としては、具体的には、C.I.アシッドレッド249、C.I.フードイエロー3、C.I.アシッドイエロー17、C.I.アシッドブラック52:1などを挙げることができる。なかでも、C.I.アシッドレッド249が特に好ましい。
【0022】
銅フタロシアニン染料としては、その分子構造に、中心元素が銅であるフタロシアニン骨格を有する化合物であれば特に限定されない。銅フタロシアニン染料としては、下記一般式(3)で表される化合物が好ましい。下記一般式(3)で表される化合物としては、例えば、C.I.ダイレクトブルー:86、87、199などを挙げることができる。x+yの値は、C.I.ダイレクトブルー86が2.0、C.I.ダイレクトブルー87が3.0、C.I.ダイレクトブルー199が1.0~4.0(混合物)である。
【0023】
(前記一般式(3)中、Mは、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表し、xは1.0~4.0の数を表し、yは0.0~3.0の数を表し、x+yは1.0~4.0である)
【0024】
一般式(3)で表される化合物は、銅フタロシアニンにクロロスルホン酸などのハロゲン化スルホン酸を反応させてスルホン酸基を導入(スルホン化)した後、アンモニアを反応させてスルホン酸基をスルホンアミド化することで合成することができる。また、スルホン化した、又はスルホンアミド化したフタル酸やフタロニトリルを出発物質として銅フタロシアニンとした後、必要に応じてさらにスルホンアミド化することでも、一般式(3)で表される化合物を合成することができる。一般式(3)中のx+yの値は、フタロシアニンのスルホン化・スルホンアミド化の反応条件を調整することによって制御することができる。また、異なる条件で合成した一般式(3)で表される複数の化合物を任意の割合で混合することでも、一般式(3)中のx+yの値を制御することができる。
【0025】
一般式(3)中のx+yの値は、高速液体クロマトグラフィー質量分析計(LC/MS)を使用して測定することができる。高速液体クロマトグラフィー(LC)により分離した後、分離した各成分(ピーク)の分子量を質量分析(MS)することで、置換基の種類及び数を特定、x+yの値を算出することができる。
【0026】
活性炭に接触させる原料水溶液中の染料の含有量(質量%)は、原料水溶液の全質量を基準として、5.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。原料水溶液中の染料の含有量が5.0質量%以上であると、原料水溶液中にある程度の不純物が存在するため、活性炭の吸着性能が効率よく発揮され、不純物の除去性をさらに向上させることができる。また、効率よく精製することができるため、染料水溶液を用いて製造するインクジェット用の水性インクの吐出性をさらに向上させることができる。一方、原料水溶液中の染料の含有量が20.0質量%以下であると、収率をさらに向上させることができる。これは、染料が活性炭に吸着されるといった現象が生じにくくなるとともに、原料水溶液の粘度が低く保たれるため、活性炭の細孔内への原料水溶液の浸透速度が十分に速くなり、不純物が活性炭により効率的に吸着するためであると考えられる。
【0027】
[不純物]
モノアゾ染料や銅フタロシアニン染料を含む原料水溶液には、合成の原料や反応助剤などの反応原料、また、合成経路における副反応物などの不純物が含まれている。また、モノアゾ染料はカップリング反応を経て合成されるものが多いため、所望の構造を有するモノアゾ染料に加えて、構造が類似した副反応物が多く生じ、これが組成物に混入しうる。原料水溶液中の不純物の含有量は活性炭による精製工程を実施するのに適した範囲であれば特に限定されない。
【0028】
本発明の染料水溶液の製造方法によって得られる染料水溶液中の不純物は、ガスクロマトグラフィー(GC)で分析することによって検出することができる。ガスクロマトグラムにおける、対象とする不純物のピークの高さが、ベースラインのノイズ幅の2倍未満である場合に、「不純物が染料水溶液に含まれない」と判断することができる。
【0029】
[活性炭]
活性炭としては、平均粒子径が0.15mm以上のものを用いる。「JIS K 1474:2014活性炭試験方法」においては、粒度(平均粒子径)表示が150μm(0.15mm)以上の活性炭を「粒状試料」とし、150μm未満の活性炭を「粉末試料」としている。すなわち、本発明の染料水溶液の製造方法で用いる活性炭は粒子状である。本明細書における活性炭の「平均粒子径」は、「JIS K 1474:2014活性炭試験方法」における「7.5有効径、均等係数及び平均粒径」で規定される方法によって測定される物性値である。具体的には、粒度累積線図において、横軸50%の点の垂直線と粒度累計線図との交点から、縦軸に水平線を引いて交点の示すふるいの目開き(mm)を求め、これを平均粒子径とする。すなわち、本発明における平均粒子径は、メジアン径(D50)である。
【0030】
平均粒子径が0.15mm以上の活性炭は、精製工程後の液体に混入しにくい。このため、活性炭を除去する工程を省くことができる、又は少ない回数の除去工程で活性炭を除去することができる。したがって、平均粒子径が0.15mm以上の活性炭を用いることで、簡便な操作で効果的に不純物を除去して、染料水溶液を高い収率で得ることができる。一方、活性炭の平均粒子径が0.15mm未満であると、不純物を効率よく除去することが困難となる場合があるとともに、粉末状の活性炭を除去するのに多大な負荷がかかり、収率が不十分となる。
【0031】
粒子状の活性炭としては、粒状、破砕状、及び球状などの形状を有するものを挙げることができる。カラムに充填して用いる場合などを考慮すると、原料水溶液の通過性や、処理後の活性炭の除去しやすさなどから、活性炭の平均粒子径は0.20mm以上であることが好ましく、0.30mm以上であることがさらに好ましい。また、活性炭の平均粒子径は、1.00mm以下であることが好ましく、0.70mm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
活性炭は、使用前にイオン交換水や精製水などを通過させ、洗浄してから使用してもよい。使用後の活性炭は、再生処理後に所定の特性が維持されるのであれば、再生処理をしたものを繰り返し使用してもよい。再生処理後の活性炭の平均粒子径は、0.15mm以上であることが好ましい。なお、再生処理前(未使用)の活性炭の平均細孔径は、0.15mm以上である。再生処理前(未使用)及び再生処理後の活性炭の平均粒子径は、いずれも、1.00mm以下であることが好ましく、0.70mm以下であることがさらに好ましい。
【0033】
活性炭は、通常、炭素質原料を多孔質材料に変える反応操作である賦活により製造される。賦活は、活性炭の孔を成長させる反応処理であるとともに、活性炭の表面特性も変化させる処理法である。賦活方法としては薬品賦活及びガス賦活を挙げることができ、いずれの賦活方法により得られた活性炭であっても用いることができる。
【0034】
[染料と活性炭の組み合わせ]
〔C.I.アシッドレッド249〕
染料がC.I.アシッドレッド249である場合、染料を含む組成物には、副反応物である下記一般式(1)で表される化合物や、反応助剤として用いられる下記一般式(2)で表される化合物などの不純物が含まれている。
【0035】
(前記一般式(1)中、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を表し、R、R、R、R、及びRの少なくとも1つはハロゲン原子である。前記一般式(2)中、Rはアルキル基を表し、nは5~15の数を表す)
【0036】
一般式(1)中、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を表し、R、R、R、R、及びRの少なくとも1つはハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、及びヨウ素原子などを挙げることができる。なかでも、ハロゲン原子は塩素原子であることが好ましい。
【0037】
一般式(2)中、Rはアルキル基を表し、nは5~15の数を表す。Rで表されるアルキル基は、直鎖及び分岐鎖のいずれであってもよい。Rで表されるアルキル基の炭素数は、1~20であることが好ましい。
【0038】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、下記式(1a)で表される化合物などを挙げることができる。
【0039】
【0040】
一般式(2)で表される化合物の具体例としては、下記式(2a)で表される化合物及び下記式(2b)で表される化合物などを挙げることができる。
【0041】
(式(2a)中、nは5~15の数を表す。式(2b)中、nは5~15の数を表す)
【0042】
本発明者らは、上記の不純物を効果的に除去してC.I.アシッドレッド249の水溶液(染料水溶液)を高収率で得る方法について検討した。その結果、カラメル脱色性能が94%以上である活性炭で処理することで上記の不純物を効率よく除去しうるとともに、染料水溶液を用いて製造する水性インクの吐出性を向上しうることを見出した。活性炭のカラメル脱色性能は、「JIS K 1474:2014活性炭試験方法」における「7.2カラメル脱色性能」で規定される方法によって測定される物性値である。カラメル脱色性能の数値が高いほど、吸着性能が高いことを意味する。
【0043】
一般式(1)及び(2)で表される化合物は、疎水性吸着、共有結合、水素結合、及びイオン結合のような強い力ではなく、もっぱらファンデルワールス力のような弱い力によって活性炭に吸着しうると考えられる。このため、所定の表面特性を持った活性炭を選択して用いることで、特定の不純物の吸着除去が可能になったと考えられる。活性炭の表面特性は、カラメル脱色性能の値と相関関係を有する。このため、一定以上のカラメル脱色性能の活性炭を用いることで、収率を低下させずに不純物を効果的に除去することができると考えられる。また、効率よく精製することができるため、染料水溶液を用いて製造するインクジェット用の水性インクの吐出性をさらに向上させることができる。
【0044】
染料がC.I.アシッドレッド249である場合、カラメル脱色性能が94%以上であるともに、平均粒子径が0.15mm以上である活性炭を用いることで、特に効率よく上記の不純物を除去することができる。さらに、薬品賦活により製造された活性炭を用いると、効率よく精製することができるため、染料水溶液を用いて製造するインクジェット用の水性インクの吐出性をより向上させることができる。薬品賦活によって製造した活性炭は、C.I.アシッドレッド249を含む組成物から効率的に不純物を除去しうる、特に好ましい表面特性になっていると推測される。薬品賦活に用いる薬品としては、塩化亜鉛、リン酸などを挙げることができ、なかでも、塩化亜鉛が好ましい。
【0045】
〔一般式(3)で表される化合物〕
染料が下記一般式(3)で表される化合物である場合、染料を含む組成物には、反応原料である下記一般式(4)で表される化合物などの不純物が含まれている。
【0046】
(前記一般式(3)中、Mは、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表し、xは1.0~4.0の数を表し、yは0.0~3.0の数を表し、x+yは1.0~4.0である)
【0047】
(前記一般式(4)中、Rはハロゲン原子を表し、zは1~6の数を表す)
【0048】
一般式(4)中、Rはハロゲン原子を表し、zは1~6の数を表す。Rで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子などを挙げることができる。一般式(3)で表される化合物の汎用の合成方法により染料組成物中に混入しやすいのは、Rが塩素原子である一般式(4)で表される化合物である。より詳細には、モノクロロベンゼンではなく、zが2~5程度のポリクロロベンゼンが混入しやすく、特にはテトラクロロベンゼンが混入しやすい。なかでも、1,2,3,4-テトラクロロベンゼンが混入することが多い。
【0049】
一般式(4)で表される化合物がインクに混入すると、記録ヘッドの吐出口付近に不純物が付着しやすくなり、インク滴の吐出方向に影響を及ぼす場合がある。このため、記録媒体へのインク滴の付着位置が意図した位置からずれやすくなり、記録される画像に乱れ(スジやカスレ)などが生じやすくなる。
【0050】
本発明者らは、上記の不純物を効果的に除去して一般式(3)で表される化合物の水溶液(染料水溶液)を高収率で得る方法についてさらに検討を進めた。すると、一般式(3)で表される化合物を含む組成物を活性炭で処理すると、発色性が低下する場合があることが判明した。この原因について検討した結果、活性炭で処理することで染料の吸収スペクトルが変化すること、及び用いた活性炭の平均細孔径が大きいほど吸収スペクトルが大きく変化することを見出した。染料の吸収スペクトルが変化すると、精製処理によって色調が変化し、発色性が低下する場合がある。一般式(3)で表される化合物は、通常、置換基の数及び置換位置の異なる複数の化合物を含む混合物である。活性炭の平均細孔径が大きいと、特定の置換基数及び置換位置の化合物が活性炭に吸着されるために吸収スペクトルが変化する。そして、一般式(3)で表される化合物のなかでも、置換基の数が少なく、分子サイズが比較的小さい化合物が吸着されるため、吸収スペクトルが変化すると考えられる。また、クロロベンゼンなどのハロゲン化ベンゼンが不純物として含まれる場合、活性炭の平均細孔径が小さいとこれらの不純物が十分に吸着されないことがわかった。
【0051】
さらなる検討の結果、平均細孔径が1.8nm以上2.9nm以下である活性炭で処理することで、発色性を維持しながら、上記の不純物を効率よく除去しうるとともに、染料水溶液を用いて製造する水性インクの吐出性を向上しうることを見出した。本明細書における活性炭の「平均細孔径」は、例えば、自動比表面積/細孔分布測定装置を用いたガス吸着法により測定される「平均細孔直径(4V/A)」である。ガス吸着法により測定される平均細孔直径は、活性炭の細孔をひとつの円筒型の細孔として扱って計算する方法である。具体的には、活性炭の比表面積(A)及び全細孔容積(V)から、平均細孔直径D=4V/Aの式に基づいて算出される値である。
【0052】
染料が一般式(3)で表される化合物である場合、活性炭の平均細孔径が1.8nm以上であると、一般式(4)で表される化合物の除去性がさらに向上するとともに、染料水溶液を用いて製造する水性インクの吐出性をさらに向上させることができる。活性炭の平均細孔径が2.9nm以下であると、一般式(3)で表される化合物のうち、置換基の導入数が少なく、分子サイズが比較的小さい化合物の活性炭への吸着が適切に抑制されて、吸収スペクトルの変化が抑えられ、発色性の低下を抑制することができる。
【0053】
染料が一般式(3)で表される化合物である場合、平均細孔径が1.8nm以上2.9nm以下であとともに、平均粒子径が0.15mm以上である活性炭を用いることで、特に効率よく上記の不純物を除去することができる。また、この場合、ガス賦活により製造された活性炭を用いることが好ましい。ガス賦活に用いるガスとしては、水蒸気、二酸化炭素、空気、燃焼ガスなどを挙げることができ、なかでも、水蒸気が好ましい。
【0054】
原料水溶液中の一般式(3)で表される化合物の、620nm付近の極大吸収波長における吸光度Aは、660nm付近の極大吸収波長における吸光度Bに対する比率(A/B)で、1.34倍以上1.54倍以下であることが好ましい。また、原料水溶液を活性炭に接触させて得られる染料水溶液中の一般式(3)で表される化合物の、620nm付近の極大吸収波長における吸光度Aは、好ましくは以下の通りである。すなわち、染料水溶液中の一般式(3)で表される化合物の、620nm付近の極大吸収波長における吸光度Aは、660nm付近の極大吸収波長における吸光度Bに対する比率(A/B)で、好ましくは1.34倍以上1.54倍以下である。前述の通り、一般式(3)で表される化合物は、通常、置換基の数及び置換位置の異なる複数の化合物を含む混合物である。すなわち、染料が一般式(3)で表される化合物である場合、平均細孔径が特定の範囲内にある活性炭によって原料水溶液を精製処理するため、精製処理の前後で吸収スペクトルが変化しにくい。そして、このような吸収スペクトルを示す一般式(3)で表される化合物を含有するインクは、発色性により優れた画像を記録することができる。
【0055】
一般式(3)表される化合物の吸収スペクトルは、分光光度計を使用して測定することができる。具体的には、一般式(3)で表される化合物の含有量が約0.002質量%である水溶液を測定試料として吸収スペクトルを測定する。そして、620nm付近の極大吸収波長における吸光度(A及びA)、及び660nm付近の極大吸収波長における吸光度(B及びB)を得ることができる。本明細書における「620nm付近」とは、「620±18nm」の範囲内の波長を意味し、「660nm付近」とは、「660±18nm」の範囲内の波長を意味する。620nm付近に極大吸収波長(ピーク)を有しない場合には、620nmにおける吸光度を「620nm付近の極大吸収波長における吸光度」とする。また、660nm付近に極大吸収波長(ピーク)を有しない場合には、660nmにおける吸光度を「660nm付近の極大吸収波長における吸光度」とする。
【0056】
一般式(3)で表される化合物を含む染料組成物のうち、620nm付近の極大吸収波長における吸光度が、660nm付近の極大吸収波長における吸光度に対する比率で、1.34倍以上1.54倍以下となるものの具体例を以下に示す。以下に示す4種類の化合物を含む染料組成物の、620nm付近の極大吸収波長における吸光度は、660nm付近の極大吸収波長における吸光度に対する比率で、1.51倍である。
・一般式(3)中のx+yの値が1.0である化合物の組成比率:0.5質量%
・一般式(3)中のx+yの値が2.0である化合物の組成比率:25.2質量%
・一般式(3)中のx+yの値が3.0である化合物の組成比率:73.9質量%
・一般式(3)中のx+yの値が4.0である化合物の組成比率:0.4質量%
【0057】
[その他の成分]
原料水溶液は、本発明の効果が損なわれない限り、染料及び不純物以外の成分を含有してもよい。また、同様に、製造した染料水溶液も、本発明の効果が損なわれない限り、染料以外の成分を含有してもよい。但し、不純物の除去効率の観点から、原料水溶液には染料及び不純物以外の成分を含有させなくてもよい。また、染料水溶液を製造した後に、その後にインクを構成するその他の成分と混合することになるので、染料水溶液にも、染料以外の成分を含有させなくてもよい。
【0058】
(その他の処理工程)
反応原料及び副反応物のいずれとも異なる不純物(その他の不純物)が原料水溶液に含まれている場合には、その他の不純物を除去する処理を行ってもよい。例えば、その他の不純物として無機塩類が原料水溶液に含まれている場合には、逆浸透膜を用いて原料水溶液を処理することが好ましい。また、その他の不純物として多価金属が原料水溶液に含まれている場合には、キレート樹脂を用いて原料水溶液を処理することが好ましい。さらに、その他の不純物が水不溶性の粒子である場合には、精密ろ過法や遠心分離法により除去してもよい。原料水溶液及び染料水溶液は、いずれもpH調整してもよい。
【0059】
<インクの製造方法>
本発明のインクの製造方法は、インクジェット用の水性インクを製造する方法であり、前述の製造方法により製造された染料水溶液と、その他の成分とを混合する工程(混合工程)を有する。
【0060】
(混合工程)
混合工程では、染料水溶液と、その他の成分とを混合する。これにより、目的とするインクジェット用の水性インクを得ることができる。その他の成分としては、インクジェット用の水性インクに配合される染料以外の通常の成分を挙げることができる。その他の成分としては、例えば、水性媒体及びその他の添加剤などを挙げることができる。
【0061】
[水性媒体]
水性媒体としては、例えば、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒を用いることができる。水は、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましく、50.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
【0062】
水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶媒、含硫黄極性溶媒などを用いることができる。なかでも、25℃における蒸気圧が水よりも低い水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上90.0質量%以下、さらには10.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0063】
[その他の添加剤]
インクには、その他の添加剤を必要に応じて含有させることができる。その他の添加剤としては、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類;尿素、エチレン尿素、ヒダントイン類などの尿素誘導体;糖類などの、常温で固体の水溶性有機化合物;などを挙げることができる。さらに、その他の添加剤としては、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及び水溶性樹脂などを挙げることができる。
【0064】
(インクの物性)
インクの物性値は、インクジェット方式の記録ヘッドからの吐出特性を考慮して適切に制御することが好ましい。具体的には、25℃におけるインクの表面張力は、10mN/m以上60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以上60mN/m以下であることがさらに好ましい。なかでも、30mN/m以上50mN/m以下であることが好ましく、30mN/m以上40mN/m以下であることが特に好ましい。また、25℃におけるインクの粘度は、1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましく、1.0mPa・s以上5.0mPa・s以下であることがさらに好ましく、1.0mPa・s以上3.0mPa・s以下であることが特に好ましい。25℃におけるインクのpHは、5.0以上9.0以下であることが好ましい。
【0065】
<インクカートリッジの製造方法>
本発明のインクカートリッジの製造方法は、インクジェット用のインクカートリッジを製造する方法であり、前述の製造方法により製造された水性インクをインク収容部に充填する工程(充填工程)を有する。
【0066】
インクカートリッジは、通常、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。充填工程では、このインク収容部に水性インクを充填する。図1は、インクカートリッジの一例を模式的に示す断面図である。図1に示すように、インクカートリッジの底面には、記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給口12が設けられている。インクカートリッジの内部はインクを収容するためのインク収容部となっている。インク収容部は、インク収容室14と、吸収体収容室16とで構成されており、これらは連通口18を介して連通している。また、吸収体収容室16はインク供給口12に連通している。インク収容室14には液体のインク20が収容されており、吸収体収容室16には、インクを含浸状態で保持する吸収体22及び24が収容されている。インク収容部は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容されるインク全量を吸収体により保持する形態であってもよい。また、インク収容部は、吸収体を持たず、インクの全量を液体の状態で収容する形態であってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0067】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録する方法であり、インクが、前述の製造方法により製造された水性インクである。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。本発明においては、インクに熱エネルギーを付与してインクを吐出する方式を採用することが特に好ましい。前述の製造方法によって製造されたインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【0068】
図2は、本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。インクジェット記録装置には、記録媒体32を搬送する搬送手段(不図示)、及びキャリッジシャフト34が設けられている。キャリッジシャフト34にはヘッドカートリッジ36が搭載可能となっている。ヘッドカートリッジ36は記録ヘッド38及び40を具備しており、インクカートリッジ42がセットされるように構成されている。ヘッドカートリッジ36がキャリッジシャフト34に沿って主走査方向に搬送される間に、記録ヘッド38及び40から記録媒体32に向かってインク(不図示)が吐出される。そして、記録媒体32が搬送手段(不図示)により副走査方向に搬送されることによって、記録媒体32に画像が記録される。
【実施例
【0069】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0070】
<活性炭の準備>
表1に示す種類の活性炭を準備した。
【0071】
【0072】
<染料組成物の製造>
(染料組成物I-1)
一般式(2)で表される化合物を反応助剤として用いないこと以外は、公知の合成方法にしたがってC.I.アシッドレッド249(略称「AR249」)を合成した。これにより、C.I.アシッドレッド249及び不純物(副反応物)である式(1a)で表される化合物を含有する染料組成物I-1を得た。
【0073】
(染料組成物I-2)
染料組成物I-1 8.0kg及びイオン交換水16.0kgを混合した後、塩化ナトリウム800.0gを添加して塩析し、固体を析出させた。析出した固体をろ過して分取し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを適量のイオン交換水に溶解させた後、大量の2-プロパノールを添加して固体を析出させた。析出した固体をろ過して分取した。これにより、染料組成物I-1から式(1a)で表される化合物を除去して、染料組成物I-2を得た。
【0074】
(染料組成物I-3~I-9)
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系の反応助剤を用いないこと以外は、公知の合成方法にしたがって、以下に示す染料を合成した。これにより、所定の染料及びこの染料の合成経路における副反応物(表3-1及び3-2中、「上記以外の副反応物」と表記)を含有する染料組成物I-3~I-9を得た。
・C.I.フードイエロー3(略称「FY3」、モノアゾ染料)
・C.I.アシッドイエロー17(略称「AY17」、モノアゾ染料)
・C.I.アシッドブラック52:1(略称「ABk52:1」、モノアゾ染料)
・C.I.アシッドイエロー79(略称「AY79」、ジスアゾ染料)
・C.I.ダイレクトイエロー20(略称「DY20」、ジスアゾ染料)
・C.I.フードブラック2(略称「FBk2」、ジスアゾ染料)
・C.I.ダイレクトブラック19(略称「DBk19」、テトラキスアゾ染料)
【0075】
(染料組成物II-1~II-7)
銅フタロシアニンをクロロスルホン酸によってスルホン化し、続いてアンモニアによってスルホン酸をスルホンアミド化する方法により一般式(3)で表される化合物を合成した。これにより、一般式(3)で表される化合物及び不純物(反応原料)である1,2,3,4-テトラクロロベンゼンを含む染料組成物を得た。得られた染料組成物の組成を表2に示す。製造した染料組成物II-1~II-7は、いずれも、一般式(3)におけるxが1.0~4.0の範囲内、yが0.0~3.0の範囲内にある、以下に示す染料を含むものであった。A/Bの値(倍)は、染料の含有量が約0.002%となるように染料組成物をイオン交換水で希釈して得た水溶液を試料として測定した、620nm付近の極大吸収波長の吸光度Aの値及び660nm付近の極大吸収波長の吸光度Bの値から算出した。吸光度は、分光光度計(商品名「U-3900H」、日立ハイテクサイエンス製)を使用し、測定波長:400~700nm、スキャンスピード300nm/min、スリット幅2.0nmの条件で測定した。上記のようにして製造した染料組成物に1,2,3,4-テトラクロロベンゼンが含まれることは、得られた染料組成物をガスクロマトグラフィー(商品名「GC-2014」、島津製作所製)により分析することで確認した。ガスクロマトグラフィーの条件は、カラム:フェニルメチルシリコン化学結合型のカラム(商品名「SH-Rtx-50」、島津製作所製)、キャリアガス:ヘリウムガス、カラム温度:210℃、キャリアガスの線速度40cm/秒とした。
・C.I.ダイレクトブルー199(略称「DBl199」、銅フタロシアニン染料)
・C.I.ダイレクトブルー86(略称「DBl86」、銅フタロシアニン染料)
・C.I.ダイレクトブルー87(略称「DBl87」、銅フタロシアニン染料)
【0076】
【0077】
(染料組成物II-8~II-10)
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系の反応助剤を用いないこと以外は、公知の合成方法にしたがって、以下に示す染料を合成した。これにより、所定の染料及びこの染料の合成経路における副反応物(表4-1及び4-2中、「上記以外の副反応物」と表記)を含有する染料組成物II-8~II-10を得た。
・C.I.アシッドブルー9(略称「ABl9」、トリフェニルメタン染料)
・C.I.ダイレクトブルー15(略称「DBl15」、ジスアゾ染料)
・C.I.ダイレクトブルー71(略称「DBl71」、トリスアゾ染料)
【0078】
<原料水溶液I-1~I-15の調製>
表3-1及び3-2の上段に示す成分を混合して撹拌した後、ポアサイズ10μmのミクロフィルターでろ過し、各原料水溶液を調製した。表3-1及び3-2の上段中、イオン交換水の「残量」は、原料水溶液中の染料の量が表3-1及び3-2の下段に示す値(%)となる量である。式(2a)で表される化合物としては、商品名「Tergitol NP-10」(シグマアルドリッチ製、n=10)を用いた。式(2b)で表される化合物としては、商品名「Triton X-100」(シグマアルドリッチ製、n=9~10)を用いた。原料水溶液中の染料の含有量(%)、及び原料水溶液中の不純物の種類(含有されているものを「*」で示す)を表3-1及び3-2の下段に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
<原料水溶液II-1~II-17の調製>
表4-1及び4-2の上段に示す成分を混合して撹拌した後、ポアサイズ10μmのミクロフィルターでろ過し、各原料水溶液を調製した。表4-1及び4-2の上段中、イオン交換水の「残量」は、原料水溶液中の染料の量が表4-1及び4-2の下段に示す値(%)となる量である。原料水溶液中の染料の含有量(%)、及び原料水溶液中の不純物の種類(含有されているものを「*」で示す)を表4-1及び4-2の下段に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
<染料の精製>
(実施例I-1、I-5、I-6、I-8~I-28、I-30、I-31、II-1~II-5、II-7~II-31、II-34~II-36参考例I-2~I-4、I-29、II-32、II-33、II-37、II-38、比較例I-1~I-4、I-8~I-11、II-1~II-3、II-6~II-8)
表5及び6に示す種類及び量の活性炭をカラムに充填した後、イオン交換水1,000gをカラムに通して活性炭を洗浄した。洗浄後の活性炭の体積を表5及び6に示す。表5及び6に示す種類の原料水溶液1.0kgを洗浄後のカラムに通して精製した。原料水溶液をカラムに通した際の流速、空間速度及び原料水溶液の液温を表5及び6に示す。例えば、実施例I-1の場合、流速240mL/時間で体積80mLの活性炭に原料水溶液を通過させたため、空間速度は「3hr-1」となる。カラムを活性炭と同体積のイオン交換水で後置換して、カラムに残った染料を回収するとともに、染料濃度を調整して、染料の含有量が8.0%である染料水溶液を得た。
【0085】
(実施例I-7、II-6)
表5及び6に示す種類及び量の活性炭及び原料水溶液を容量200mLの容器に入れ、20分間撹拌してバッチ処理により精製した。その他の条件を表5及び6に示す。その後、染料濃度を調整して、染料の含有量が8.0%である染料水溶液を得た。
【0086】
(比較例I-5、I-6、II-4)
クロスフローろ過膜(商品名「ミニメイトTFFカプセル オメガメンブレン(1KDa)」、日本ポール製)を使用し、表5及び6に示す種類の原料水溶液を限外ろ過により精製した。具体的には、クロスフローろ過膜に原料水溶液を通過させるとともに、排出されるろ液の量だけイオン交換水を補給した。塩素イオン及び硫酸イオンの含有量がいずれも0.01%になるまで継続した後、染料濃度を調整して、染料の含有量が8.0%である染料水溶液を得た。
【0087】
(比較例I-7、II-5)
表5及び6に示す種類の原料水溶液1.0kg及びイオン交換水2.0kgを混合した後、塩化ナトリウム400.0gを添加して塩析し、固体を析出させた。析出した固体をろ過して分取し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを適量のイオン交換水に溶解させた後、大量のメタノールを添加して固体を析出させた。析出した固体を適量のイオン交換水に溶解させた後、大量の2-プロパノールを添加して固体を析出させた。析出した固体をろ過して分取した後、染料濃度を調整して、染料の含有量が8.0%である染料水溶液を得た。
【0088】
【0089】
【0090】
<評価>
本発明においては、下記の各項目の評価基準で、「AA」、「A」及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。評価結果を表8に示す。
【0091】
(不純物の除去性)
以下に示す方法により、「合成経路における副反応物の低減率(1)」及び「合成原料の低減率(2)」を算出するとともに、不純物の除去性をそれぞれ評価した。そして、評価した不純物の除去性のうち、評価がより低かったほうを採用した。
【0092】
[合成経路における副反応物の低減率(1)]
原料水溶液及び染料水溶液をGC/MS(条件は後述)によりそれぞれ分析し、ピーク面積を測定した。そして、下記式(X)より「合成経路における副反応物の低減率(1)」(以下、「低減率(1)」と表記)を算出するとともに、以下に示す評価基準にしたがって不純物の除去性を評価した。
低減率(1)(%)=((原料水溶液のピーク面積-染料水溶液のピーク面積)/原料水溶液のピーク面積)*100(%) ・・・(X)
GC/MSの測定条件
・GC/MS:ガスクロマトグラフ質量分析計(商品名「Clarus SQ8 GC/MS」、パーキンエルマー製)
・カラム:DB-WAXetr(アジレント・テクノロジー製、長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
・注入条件:120℃、60分(スプリット比約20)
・キャリアガス:ヘリウムガス
・カラムオーブン:50℃(2min)→20℃/min→150℃→10℃/min→250℃(4min)
AA:低減率(1)が90%以上であった。
A:低減率(1)が85%以上90%未満であった。
B:低減率(1)が50%以上85%未満であった。
C:低減率(1)が50%未満であった。
【0093】
[合成原料の低減率(2)]
精製処理前後の染料をLC/MS(条件は後述)によりそれぞれ分析し、ピーク面積を測定した。そして、下記式(Y)より「合成原料の低減率(2)」(以下、「低減率(2)」と表記)を算出するとともに、以下に示す評価基準にしたがって不純物の除去性を評価した。
低減率(2)(%)=((原料水溶液のピーク面積-染料水溶液のピーク面積)/原料水溶液のピーク面積)*100(%) ・・・(Y)
LC/MSの測定条件
・カラム:SunFire C18(商品名、日本ウォーターズ製、2.1mm×150mm)
・カラム温度:40℃
・流速:0.2mL/min
・イオン化法:ESI(商品名「SQ検出器2」、日本ウォーターズ製)
・移動相及びグラジエント条件:表7
AA:低減率(2)が80%以上であった。
A:低減率(2)が75%以上80%未満であった。
B:低減率(2)が50%以上75%未満であった。
C:低減率(2)が50%未満であった。
【0094】
【0095】
(収率)
原料水溶液の吸光度(523nm付近〔±18nm〕の極大吸収波長)から、原料水溶液中の染料の量A(g)を算出した。また、回収した染料水溶液の最大吸収波長における吸光度から、染料水溶液中の染料の量B(g)を算出した。例えば、染料がC.I.アシッドレッド249である場合の吸光度は523nm付近〔±18nm〕で測定した。そして、下記式(Z)より染料の収率を算出し、以下に示す評価基準にしたがって収率を評価した。
収率(%)=(B/A)×100 ・・・(Z)
吸光度の測定条件
・分光光度計:商品名「U-3900H」(日立ハイテクサイエンス製)
・測定波長:400~700nm
・スキャンスピード:300nm/min
・スリット幅:2.0nm
A:収率が95%以上であった。
B:収率が90%以上95%未満であった。
C:収率が90%未満であった。
【0096】
<インクの調製、インクカートリッジの製造、及び画像の記録>
以下に示す各成分を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ0.20μmのフィルタで加圧ろ過して各インクを調製した。「アセチレノールE100」は、ノニオン性界面活性剤(川研ファインケミカル製)の商品名である。調製したインク中の染料の含有量は5.0%であった。
・製造した染料水溶液:62.5%
・グリセリン:7.5%
・1,5-ペンタンジオール:7.5%
・アセチレノールE100:0.8%
・イオン交換水:21.7%
【0097】
(吐出性)
調製したインクをインクカートリッジにそれぞれ充填し、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置(商品名「PIXUS iP2700」、キヤノン製)にセットした。本実施例では、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、1滴当たりの質量が25ng±10%であるインク滴を1滴付与する条件で記録した画像を、記録デューティが100%であると定義する。このインクジェット記録装置を用いて、記録媒体(普通紙、商品名「GF-500」、キヤノン製)に、記録デューティが100%である、19cm×26cmのベタ画像を20枚分記録した。得られたベタ画像のうち、5、10、及び20枚目のベタ画像を目視で確認し、以下に示す評価基準にしたがって吐出性を評価した。
AA:20枚目のベタ画像に乱れがなかった。
A:10枚目のベタ画像に乱れがなかったが、20枚目のベタ画像には乱れがあった。
B:5枚目のベタ画像に乱れがなかったが、10枚目のベタ画像には乱れがあった。
C:5枚目のベタ画像に乱れがあった。
【0098】
(A/Bの値)
銅フタロシアニン染料の染料水溶液について、A/Bの(倍)とA/Bの値(倍)との比較により、発色変化の抑制の評価を行った。染料水溶液をイオン交換水で希釈して、銅フタロシアニン染料の0.002%水溶液を調製した。そして、調製した水溶液を試料として、620nm付近の極大吸収波長の吸光度A及び660nm付近の極大吸収波長の吸光度Bを測定し、これらの値からA/Bの値(倍)を算出した。吸光度は、分光光度計(商品名「U-3900H」、日立ハイテクサイエンス製)を使用し、スキャンスピード300nm/min、スリット幅2.0nmの条件で測定した。A/Bの(倍)とA/Bの値(倍)が等しければ、精製処理によって色調変化が抑制され、発色性の低下が抑制されたことを意味する。
【0099】
(発色性)
銅フタロシアニン染料の染料水溶液を用いて調製したインクについて、発色性の評価を行った。熱エネルギーによりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置(商品名「PIXUS iP2700」、キヤノン製)にインクカートリッジをセットした。本実施例では、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、1滴当たりの質量が25ng±10%であるインク滴を1滴付与する条件を記録デューティが100%であると定義する。このインクジェット記録装置を用いて、記録媒体(光沢紙、商品名「キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド」、キヤノン製)に、記録デューティが100%である、2cm×2cmのベタ画像を記録した。記録したベタ画像を1日乾燥させた後、分光測色計(商品名「X-Rite eXact」、エックスライト製)を使用してLab表色系におけるa及びbを測定し、以下に示す評価基準にしたがって発色性を評価した。
A:aが-30以上-26以下、かつ、bが-62以上-58以下であった。
B:aが-32以上-24以下、かつ、bが-64以上-56以下であり、「A」評価の範囲外であった。
C:aが-32未満又は-24超、及び、bが-64未満又は-56超のいずれかを満たしていた。
【0100】
図1
図2