(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】食肉加工品用の変性防止剤、食肉加工品の製造方法及び変性防止方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/40 20230101AFI20240708BHJP
A23B 4/08 20060101ALI20240708BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20240708BHJP
A23L 13/60 20160101ALI20240708BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20240708BHJP
【FI】
A23L13/40
A23B4/08 B
A23B4/08 J
A23L13/00 A
A23L13/60 A
A23L13/60 Z
A23L17/00 101C
A23L17/00 102
(21)【出願番号】P 2022023073
(22)【出願日】2022-02-17
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591264197
【氏名又は名称】OCI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092439
【氏名又は名称】豊永 博隆
(72)【発明者】
【氏名】竹内 裕一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 孝
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-299964(JP,A)
【文献】特開2009-011188(JP,A)
【文献】特開2007-070264(JP,A)
【文献】特開2008-228696(JP,A)
【文献】特表2018-531302(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0279659(US,A1)
【文献】特開平08-256732(JP,A)
【文献】特開2012-157291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサン、穀物ファイバー、果実ファイバーの少なくとも一種から選ばれた不溶性食物繊維と、
(B)エーテル化度が0.5~1.0、且つ、25℃での1%水溶液の粘度が200~5000mPa・sの
カルボキシメチルセルロース及びその塩(CMC類)と、
(C)コラーゲン
とを含有することを特徴とする食肉加工品用の変性防止剤。
【請求項2】
請求項1に記載の変性防止剤を食品原材料に
含有するとともに、
当該変性防止剤を食品原材料に0.1~2.0重量%の割合で含有することを特徴とする食肉加工品。
【請求項3】
請求項1の食肉加工品用の変性防止剤をピックル液に添加し、当該ピックル液を食品原材料にインジェクション注入することを特徴とする食肉加工品の製造方法。
【請求項4】
さらに、大豆タンパク、卵タンパク、乳タンパク、血漿タンパクから選ばれたタンパク類の少なくとも一種をピックル液に添加することを特徴とする
請求項3に記載の食肉加工品の製造方法。
【請求項5】
食肉加工品がハム、ソーセージ、ベーコン、焼き豚、ローストビーフ、蒸し鶏、トンカツ、ハンバーグ、ミートボール、蒲鉾、ちくわ、つくね、唐揚げ、フライドチキン、メンチカツから選ばれた一種であることを特徴とする
請求項3又は4に記載の食肉加工品の製造方法。
【請求項6】
食肉加工品に請求項1の変性防止剤を添加することにより、食肉加工品を冷凍保存し、解凍した際の離水を抑制することを特徴とする食肉加工品の変性防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食肉加工品用の変性防止剤、食肉加工品の製造方法並びに変性防止方法に関して、食肉加工品を冷凍し、解凍した際の離水が少なく、滑らかで軟らかい食感を保持したハム、ベーコン、ローストビーフ、蒸し鶏などの食肉加工品を提供できる。
【背景技術】
【0002】
ハム、ベーコン、ローストビーフ、蒸し鶏、蒲鉾などの食肉加工品では、調理品を冷凍した場合、解凍時に多量の離水が生じるため、ジューシーで軟らかな食感が損なわれ、食味・風味も低下するという問題がある。
そこで、食肉加工品を冷凍して解凍する際、或いは肉類食品を加工する際に、水分損失を軽減し、食品の食感を保持することを目的とした食肉加工品用の処理剤、特に、食物繊維を有効成分として含有する処理剤、或いは、当該処理剤を食肉加工品に適用する手法などを挙げると、以下の通りである。
【0003】
(1)特許文献1
食用肉塊に、食物繊維とカードランと異種タンパクを含むピックル液をインジェクションし、食用肉塊中の食物繊維の含有量が0.25~3.0重量%、カードランの含有量が0.008~0.4重量%、異種タンパクの含有量が0.5~5.0重量%、或いはさらにリン酸塩含有量が0.25重量%以下になるように仕込むことを特徴とする加工肉食品の製造方法であり(請求項1、[0027])、ピックル液において、肉繊維に水を結合する必要成分として用いられるリン酸塩の含有量を極力減らすことを特徴とする([0018]~[0020])。
請求項2では食肉加工品がハムで、ピックル液にさらにカラギーナンを含むものであり、請求項3では食肉加工品が焼き豚で、ピックル液にさらにデンプンを含むものである。
上記食物繊維は不溶性又は水溶性セルロースであり、不溶性セルロースが好ましい([0022])。また、上記異種タンパクは食肉中のタンパクとは異なるタンパクを意味し、大豆タンパク、卵タンパク、乳タンパクを例示する([0026])。
例えば、ロース肉100重量部にピックル液100重量部をインジェクションしてハムを製造する場合、ピックル液の含有量は食用繊維0.5~6.0重量%、カードラン0.016~0.8重量%、異種タンパク3.0~9.0重量%である([0018])。
【0004】
(2)特許文献2
液卵とセルロースを含有する液卵組成物であり、上記セルロースは結晶性の繊維状セルロースとセルロース乾燥組成物とを含み、セルロース乾燥組成物は前記繊維状セルロースと水溶性高分子又は親水性物質とを含む(請求項1、[0016])。
上記繊維状セルロースは、微細化されたセルロース(長径0.5μm~1mm、短径2nm~60μm)であり([0013])、木材、ケナフ、マニラ麻、バガス、麦わら、竹などの天然セルロースを主成分とする([0013])。
上記水溶性高分子は、カードラン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、ゼラチン、寒天、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム(CMC・Na)、メチルセルロース(MC)などであり、CMC・Naが好ましい([0017]、[0027])。
上記親水性物質は、デキストリン類、ブドウ糖、果糖、乳糖、キシロース、トレハロースなどの水溶性糖類、キシリトール、ソルビトールなどの糖アルコール類などである([0018])。
例えば、実験例2では、市販バガスパルプとCMC・Naからなる微細化された繊維状セルロースA′と、CMC・Na及びデキストリンとを混合してセルロース乾燥物Bを調製している([0048])。
【0005】
(3)特許文献3
(A)微細繊維状セルロースと、水溶性高分子又は親水性物質とを含むセルロース複合体と、
(B)グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類から選ばれた多糖類
とを含有し、或いはさらにキサンタンガムを含有する耐熱性ゲル状組成物の製造方法であり、冷解凍しても離水が少なく滑らかで軟らかい食感を保持できる(請求項1~2、4、[0009])。
上記繊維状セルロース、水溶性高分子、親水性物質の具体例は前記特許文献2と共通する。
実施例1では、多糖類はグルコマンナンを用いている([0079])。
【0006】
(4)特許文献4
水溶性のハイドロコロイドと、特定の保水力を有する天然由来の食物繊維とを含有する可食性フィルムである(請求項1)。
上記食物繊維はパルプ由来の結晶セルロースや繊維状セルロース、小麦ファイバー、コーンファイバー、大豆由来ファイバーなどであり(請求項3)、上記ハイドロコロイドはCMC-Na、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)、MC、ゼラチン、各種ガムなどである(請求項4)。
尚、上記ゼラチンはコラーゲンの立体構造を変性させた類縁物である。
【0007】
(5)その他の公報
(a)特許文献5
(i)ジェランガムと、(ii)グルコマンナン又はCMCとを含有する冷凍食品である(請求項1)。
CMCの使用に特徴がある。冷凍食品はハンバーグ、肉まん、シュウマイ、餃子などである([0008])。実施例1([0022])はハンバーグの例である。
(b)特許文献6
食肉加工品に特定性状のCMCを使用することを特徴とする(請求項1)。
CMCの外に、カラギーナン、コラーゲンたんぱく質、コンニャク又は澱粉を組み合わせることができる(請求項9)。
(c)特許文献7
コラーゲンと、カードランとを含有するハム・ベーコン類であり、保水性、食感、風味を改良できる(請求項1、[0004])。
本発明は上記コラーゲンの使用に特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-157291号公報
【文献】特開2009-065836号公報
【文献】特開2009-261293号公報
【文献】特開2018-023311号公報
【文献】特開2001-095533号公報
【文献】特表2005-504545号公報
【文献】特開平08-256732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
食肉加工品においては、その水分損失、特に、冷凍して解凍する際の離水や加熱調理後の離水を有効に抑制することが求められ、上記特許文献では夫々に離水を抑止する効果は認められる。
例えば、上記特許文献1の発明の効果では([0014])、食品を高い加水率で保持できることが記載されるが、離水抑制効果を増し、食肉加工品の食感や風味を保持する点では、当該文献1の外、他の文献2~7についても、充分でないという実情がある。
【0010】
離水抑制の見地から上記特許文献1~7に開示されている成分は多岐にわたるが、本発明ではこれらの成分、或いは新たな成分を選択し、且つ、適正に組み合わせることにより、食肉加工品を冷凍して解凍する際の離水、或いは加熱調理後の離水を有効に低減し、軟らかい食感を保持することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、食物繊維の中でもセルロース、ヘミセルロースなどの不溶性食物繊維と、多種に亘るセルロース誘導体群の中から選択したカルボキシメチルセルロース(CMC)及びその塩と、さらにコラーゲンを加えた変性防止剤をハム・ソーセージ、ベーコンなどの食肉加工品の原材料に添加すると、冷凍し解凍しても離水を防止して、滑らかな食感を保全できること、さらに変性防止剤に所定のタンパク類を副次的に併用すると、離水防止機能が増すことを見い出して、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明1は、
(A)セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサン、穀物ファイバー、果実ファイバーの少なくとも一種から選ばれた不溶性食物繊維と、
(B)エーテル化度が0.5~1.0、且つ、25℃での1%水溶液の粘度が200~5000mPa・sのカルボキシメチルセルロース及びその塩(CMC類)と、
(C)コラーゲン
とを含有することを特徴とする食肉加工品用の変性防止剤である。
【0013】
本発明2は、上記本発明1に記載の変性防止剤を食品原材料に含有するとともに、
当該変性防止剤を食品原材料に0.1~2.0重量%の割合で含有することを特徴とする食肉加工品である。
【0015】
本発明3は、本発明1の食肉加工品用の変性防止剤をピックル液に添加し、当該ピックル液を食品原材料にインジェクション注入することを特徴とする食肉加工品の製造方法である。
【0016】
本発明4は、上記本発明3において、さらに、大豆タンパク、卵タンパク、乳タンパク、血漿タンパクから選ばれたタンパク類の少なくとも一種をピックル液に添加することを特徴とする請求項4に記載の食肉加工品の製造方法である。
【0017】
本発明5は、上記本発明3又は4において、食肉加工品がハム、ソーセージ、ベーコン、焼き豚、ローストビーフ、蒸し鶏、トンカツ、ハンバーグ、ミートボール、蒲鉾、ちくわ、つくね、唐揚げ、フライドチキン、メンチカツから選ばれた一種であることを特徴とする食肉加工品の製造方法である。
【0018】
本発明6は、食肉加工品に上記本発明1の変性防止剤を添加することにより、食肉加工品を冷凍保存し、解凍した際の離水を抑制することを特徴とする食肉加工品の変性防止方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、セルロース、ヘミセルロースなどの不溶性食物繊維と、セルロース誘導体群から選択した所定のエーテル化度と水溶液での粘度を具備したCMC類(CMC及びその塩)に、コラーゲンを加えた変性防止剤をハム、ベーコン、ローストビーフ、蒸し鶏などの食肉加工品の原材料に添加することにより、食肉加工品を冷・解凍しても離水を防止し、滑らかで軟らかい食感を付与できる。
また、上記変性防止剤に、大豆タンパクなどの所定のタンパク類を追加補填すると、冷凍し解凍した場合の離水をより有効に防止し、滑らかで弾力性のある食感を食肉加工品に付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、第一に不溶性食物繊維と特定性状のCMC類とコラーゲンを必須成分とする食肉加工品の変性防止剤、第二に当該変性防止剤を食品原材料に加えたハム、ベーコン、ローストビーフなどの食肉加工品、第三に当該食肉加工品の製造方法、また、第四に当該食肉加工品の変性防止方法であって、食品原材料に上記変性防止剤を添加することで、食肉加工品を冷凍保存し、解凍した際の離水を抑制して、食肉加工品の食感、性状を良好に保全できる。
【0021】
本発明1は、(A)セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサン、穀物ファイバー、果実ファイバーの少なくとも一種から選ばれた不溶性食物繊維と、
(B)エーテル化度が0.5~1.0、且つ、25℃での1%水溶液の粘度が200~5000mPa・sのカルボキシメチルセルロース及びその塩(CMC類)と、
(C)コラーゲン
とを含有する食肉加工品用の変性防止剤である。
上記不溶性食物繊維(A)は、穀類、野菜、豆類、果実、海草などに含まれ、保水性が高く、繊維状、蜂の巣状などを呈するもので、具体的には、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサン、穀物ファイバー(小麦ファイバー、オート麦ファイバー、大豆ファイバーなど)、果実ファイバー(アップルファイバー、シトラスファイバー、オレンジファイバーなど)から1種又は複数種が選ばれる。
上記成分(A)は不溶性を要件とするため、昆布、わかめ、コンニャク、果実、大麦などに含まれる水溶性食物繊維は排除される。
当該不溶性食物繊維(A)の市販品としては、KCフロックW-400G(日本製紙)、VITACELオート麦ファイバーHF600(栄研商事)、VITACELアップルファイバーAF401(栄研商事)などが挙げられる。
【0022】
上記CMC類(B)はカルボキシメチルセルロース及びその塩をいい、特定のエーテル化度と水溶液粘度を具備するものに限定される。
上記エーテル化度は水への易溶性の指標であり、変性防止剤をピックル液に添加した場合、エーテル化度が1.0を越えるとピックル液の粘度が増して、食肉加工品の原材料にピックル液を注入する場合、原材料内に均一分散せずに食感を損ね、逆に、0.5未満になると、冷凍した食肉加工品を解凍した場合、解凍後の離水抑制効果が低下する恐れがある。
また、上記CMC類(B)の水溶液粘度が5000mPa・sを越えると、ピックル液の粘度が増して、インジェクションに際し食肉加工品の原材料内へのピックル液の分散が不均一になり、もって食肉加工品の食感を損ねる問題があり、逆に、200mPa・s未満になると、食肉加工品の解凍後の離水抑制効果が低下する恐れがある。
【0023】
当該CMC類(B)の市販品としては、CMCF-10(エーテル化度:0.5~0.8、水溶液の粘度:900~1400mPa・s、(株)キミカ)、CMC1150(エーテル化度:0.6~0.8、同粘度:200~300mPa・s、ダイセルミライズ(株))、サンローズF150LC(エーテル化度:0.55~0.65、同粘度:1200~1800mPa・s、日本製紙(株))などが挙げられる。
このため、エーテル化度や粘度が上記特定範囲から外れるCMC類、例えば、CMCF-1120(エーテル化度:0.6~0.8、同粘度:20~50mPa・s、ダイセルミライズ(株))、サンローズF600MC(エーテル化度:0.65~0.75、同粘度:6000~8000mPa・s、日本製紙(株))、サンローズSLD-F1(エーテル化度:0.2~0.3、同粘度:10~200mPa・s、日本製紙(株))などは、本発明の成分(B)には属しない。
また、本発明の変性防止剤の必須成分であるセルロース誘導体には所定のCMC類(B)を限定的に選択したので、他のセルロース誘導体、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)などは排除される。
尚、カードランやデキストリンなどは、水溶性の多糖類に属する点でCMC類と共通するが、これらは本発明の成分(B)に代替できるものではない。
【0024】
上記コラーゲン(C)は粉末状コラーゲンが好ましく、また、水溶性を考慮して粒径0.1mm以下のものが好ましい。
本発明の変性防止剤を含むピックル液を食肉加工品の原材料に注入する場合、コラーゲン粉末の粒径が大きいと、膨潤したコラーゲン粒子がインジェクターで注入するための針孔に詰まり易い。また、原材料の肉塊にピックル液を注入した後、膨潤したコラーゲン粒子が肉塊内で流動し難くなるため、肉塊の軟らかな部位に集まってコラーゲン溜まりができ、品質が低下する問題もある。
従って、成分(C)に粒径0.1mm以下の微粉コラーゲンを用いると、ピックル液中で適度に膨潤し、インジェクター針に目詰まりすることなく、良好な流動性により肉塊中に均一分散し、熱処理時でも完全に溶解することなく、食肉加工品中にとどまって冷・解凍時に変性防止効果を有効に発揮できる。
尚、コラーゲンに熱を加えて抽出したゼラチン、或いはコラーゲン分解物は分散性は高いが、食肉加工品の加熱処理で完全に溶けて加工品表面に滲み出てしまうため、充分な変性防止効果に乏しく、本発明の成分(C)から排除される。
粉末状のコラーゲン(C)の市販品としては、PK-100(新田ゼラチン(株))などが挙げられる。
【0025】
上述のように、本発明の変性防止剤は所定の不溶性食物繊維(A)と所定のCMC類(B)とコラーゲン(C)を必須成分とする。
上記変性防止剤全体に対する不溶性食物繊維(A)の含有量は20~80重量%、好ましくは30~70重量%、より好ましくは40~60重量%である。
同じく、CMC類(B)の含有量は20~80重量%、好ましくは30~70重量%、より好ましくは40~60重量%である。
また、コラーゲン(C)の含有量は1~20重量%、好ましくは3~15重量%、より好ましくは5~10重量%である。
食肉加工品を冷・解凍した場合の離水を抑制し、食肉加工品に滑らかで弾力のある性状を保全するには、各成分(A)~(C)を上記一般的な含有量の上限並びに下限の範囲内に制御することが好ましい(下記の実施例1~8参照)。
【0026】
本発明2は、上記本発明1の変性防止剤を食品原材料に所定の割合で含有する食肉加工品である。
食品原材料に対する変性防止剤の所定の含有量は0.1~2.0重量%であり、好ましくは0.2~1.5重量%、より好ましくは0.3~1.0重量%である。
変性防止剤の含有量が0.1重量%より少ないと変性防止能、即ち、離水防止効果が低減し、また、2.0重量%を越えると、粘度が増して食肉加工品の原材料に均一分散されず、食感を損なう恐れがある。
本発明の変性防止剤を食肉加工品の食品原材料に含有するには、変性防止剤をピックル液に添加し、当該ピックル液を食品原材料にインジェクション注入する方式が一般的である(本発明3参照)。
また、上記インジェクション方式とは別に、食品原材料をピックル液に漬け込む方式で本発明の変性防止剤を食品原材料に供給することもできる。
以上は、本発明1の変性防止剤を適用した食肉加工品であるが、これを当該変性防止剤を用いる方法の形式で記述すると、食肉加工品に本発明1の変性防止剤を添加することにより、食肉加工品を冷凍保存し、解凍した際の離水を抑制する食肉加工品の変性防止方法ということになる(本発明6参照)。
【0027】
上記ピックル液には、本発明の変性防止剤に加えて、さらに、大豆タンパク、卵タンパク、乳タンパク、血漿タンパクから選ばれたタンパク類の少なくとも一種を添加することができる(本発明4参照)。
食肉加工品の原材料に対する上記タンパク類の含有量は一般に0.1~5.0重量%、好ましくは0.5~4.0重量%、より好ましくは1.0~3.0重量%である。
0.1重量%より少ないと、保水性が低下して適度な硬さが失われる恐れがあり、5.0重量%を越えると、硬さが過剰になり弾力性、食感に欠ける恐れがある。
尚、ピックル液には、さらに、リン酸塩、亜硝酸塩、L-アスコルビン酸ナトリウムなどの添加剤を含有できる。
【0028】
本発明の変性防止剤を適用する食肉加工品は、ハム、ソーセージ、ベーコン、焼き豚、ローストビーフ、蒸し鶏、トンカツ、ハンバーグ、ミートボール、蒲鉾、ちくわ、つくね、唐揚げ、フライドチキン、メンチカツなどである(本発明5参照)。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の変性防止剤の実施例、当該変性防止剤を適用したロースハムの製造例、当該ロースハムを冷凍し、解凍した際の食品断面の性状、食感並びに離水率の各種試験例を述べるとともに、上記変性防止剤の適用対象をロースハムからベーコンに変えた場合の上記食品断面の性状、食感並びに離水率の各種試験例を併記する。
上記製造例、実施例、試験例の「部」、「%」は基本的に重量基準である。
尚、本発明は下記の実施例、製造例、試験例などに拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0030】
《食品変性防止剤の実施例及び比較例》
下表1~表2に記載の各原材料(即ち、成分(A)~(C)に対応する原材料)の2倍量をビニール袋に秤取して封入し、手動で1分間撹拌して均一状態に保持した。その後、24メッシュの篩(ふるい)にかけて、実施例1~8並びに比較例1~10の各種変性防止剤を得た。
本発明の変性防止剤は、当該表1~表2の[配合表]に示す通り、次のA群、B群、C群の特定成分を所定割合(重量%)で混合して調製した。
【0031】
(a)A群
本発明の不溶性食物繊維(A):KCフロックW-400G(日本製紙)、オート麦ファイバーHF600(栄研商事)、アップルファイバーAF401(栄研商事)
(b)B群
(1)本発明のCMC類(B):CMCF-10(エーテル化度0.5~0.8、粘度900~1400mPa・s、(株)キミカ)、CMC1150(エーテル化度0.6~0.8、粘度200~300mPa・s、ダイセルミライズ)、サンローズF150LC(エーテル化度0.55~0.65、粘度1200~1800mPa・s、日本製紙)
(2)本発明の成分(B)から外れるCMC類:CMC1120(エーテル化度0.6~0.8、粘度20~50mPa・s、ダイセルミライズ(株))、サンローズF600MC(エーテル化度0.65~0.75、粘度6000~8000mPa・s、日本製紙)、サンローズSLD-F1(エーテル化度0.2~0.3、粘度10~200mPa・s、日本製紙)、
(3)CMC類以外のセルロース誘導体:メチルセルロースMCE4000(信越化学)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースSFE4000(信越化学)、カードラン
(c)C群
(1)本発明のコラーゲン(C):ポークコラーゲンPK-100(新田ゼラチン(株))
(2)コラーゲン(C)以外の成分:ゼラチンAP-200微粉(新田ゼラチン(株))
【0032】
[表1]
[変性防止剤(実施例)の配合表]
原材料 実1 実2 実3 実4 実5 実6 実7 実8
KCフロックW-400G(A) 46 38 35 64 - - 45 35
CMCF-10(B) 46 55 61 31 24 72 - -
コラーゲンPK-100(C) 8 7 4 5 2 5 17 12
オート麦ファイバー(A) - - - - 74 - - -
アップルファイバー(A) - - - - - 23 - -
CMC1150(B) - - - - - - 38 -
サンローズF150LC(B) - - - - - - - 53
合計(重量%) 100 100 100 100 100 100 100 100
【0033】
上表において、「実」は実施例の略であり、例えば、「実1」は実施例1を意味するる。
上記実施例1は成分(A)~(C)が夫々より好ましい範囲内に含まれる例、実施例2は成分(B)~(C)がより好ましい範囲、成分(A)が好ましい範囲に含まれる例、実施例3は成分(A)~(C)が夫々好ましい範囲内に含まれる例、実施例4は成分(A)~(B)が好ましい範囲、成分(C)がより好ましい範囲に含まれる例、実施例5は成分(A)~(C)が夫々一般の範囲に含まれる例、実施例6は成分(A)~(B)が一般の範囲、成分(C)がより好ましい範囲に含まれる例、実施例7は成分(A)がより好ましい範囲、(B)が好ましい範囲、成分(C)が一般の範囲に含まれる例、実施例8は成分(A)と(C)が好ましい範囲、成分(B)がより好ましい範囲に含まれる例である。
【0034】
[表2]
[変性防止剤(比較例)の配合表]
原材料 比1 比2 比3 比4 比5 比6 比7 比8 比9 比10
W-400G(A) - 45 45 45 45 45 45 45 45 70
CMCF-10(B) 45 - - - - - - 45 45 -
PK-100(C) 10 10 10 10 10 10 10 - - -
CMC1120(B) - - 45 - - - - - - -
F600MC(B) - - - 45 - - - - - -
SLD-F1(B) - - - - 45 - - - - -
MCE4000(B) - - - - - 45 - - - -
SFE4000(B) - - - - - - 45 - - -
ゼラチンAP200(C)- - - - - - - - 10 -
カードラン(B) - - - - - - - - - 10
デキストリン(B)45 45 - - - - - 10 - 20
合計(重量%) 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100
【0035】
上表2において、「比」は比較例の略であり、例えば、「比1」は比較例1を意味するる。
また、上表2の「W-400G(A)」は表1に示したKCフロックW-400G(A)であり、「PK-100(C)」は表1の「コラーゲンPK-100(C)」であり、「CMC1120(B)」は段落31に記載したダイセルCMC1120、以下、同じく「F600MC(B)」はサンローズF600MC、「SLD-F1(B)」はサンローズSLD-F1である。「MCE4000(B)」はメチルセルロース、「SFE4000(B)」はヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)である。
尚、上表2のうち、「CMC1120(B)」から「デキストリン(B)」までの縦方向に列挙した各成分は、本発明の成分(B)~(C)には属しないが、相対比較のため、便宜上(B)、(C)の記号を付した。
上記比較例1は本発明の成分(A)を欠く例、比較例2は本発明の成分(B)を欠く例、比較例3~7は本発明の成分(B)に替えて所定条件から外れるCMC類、或いは、他種のセルロース誘導体を用いた例、比較例8と10は本発明の成分(C)を欠き、冒述の特許文献1~2に準拠した例、比較例9は本発明の成分(C)に替えてゼラチンを用いた例である。
【0036】
《変性防止剤を用いたロースハムの製造例と比較製造例》
水にポリリン酸Na1.2重量%、亜硝酸ナトリウム0.03重量%、L-アスコルビン酸Na0.15重量%、食塩3.0重量%、卵たん白粉末8.0重量%、ホエイたん白2.0重量%、大豆たん白粉末1.0重量%、上記実施例の各食品変性防止剤(実施例1~8、比較例1~10)を1.4重量%添加し、ホモミキサー(TKホモミキサーMarkII;プライミックス社製)にて5,000rpm、5分以上の条件で撹拌溶解し、ピックル液を作成した。
次いで、豚ロース肉(デンマーク産MMロイン)の100重量部に対し、前記ピックル液100重量部をインジェクターで注入した。
注入した原料肉をロータリー式マッサージャーに装着して、真空下で20時間、機械的にマッサージを行い、円柱状の通気性ケーシング(充填径98mm)に詰めて、ケーシングの両端を結紮した。
充填した原料肉をスモークハウス(ヒガシモトキカイ株式会社製)にて、温度70℃、湿度35%で10分乾燥した後、温度75℃、湿度15%で15分乾燥した。次いで、温度75℃で20分燻煙した後、温度85℃、湿度99%で120分加熱調理を行った。その後、加熱調理した原料肉を冷蔵庫内(5℃)で一晩冷却した。
上記ケーシングを除去したロースハムを3~4mmにスライスした後、重ねて真空包装し、冷凍庫(-20℃)で48時間以上冷凍し、製造例1~8及び比較製造例1~10の各ロースハムを得た。
【0037】
そこで、上記実施例n(n=1~8の整数)の変性防止剤とこれを添加した製造例n(n=1~8の整数)のロースハムとの関係を説明する。
例えば、n=1の場合、実施例1の変性防止剤を添加して製造したものが製造例1のロースハムであり、実施例2の変性防止剤には製造例2のロースハムが対応する。以下、n=3~8について、各実施例nの変性防止剤と各製造例nのロースハムも同様に対応する。
また、比較例m(m=1~10の整数)の変性防止剤とこれを添加した比較製造例m(m=1~10の整数)のロースハムについては、例えば、m=1の場合、比較例1の変性防止剤を添加して製造したものが比較製造例1のロースハムであり、以下、m=2~10について、各比較例mの変性防止剤と各比較製造例mのロースハムが同様に対応する。
【0038】
《ロースハムの断面状態、食感及び離水率の各評価試験例》
得られた製造例1~8及び比較製造例1~10の各ロースハムについて、それぞれ水(20℃)で1時間流水解凍を行った。
そして、解凍した各ロースハムの断面の状態、食感及び離水率を以下の方法で評価した。
(1)断面の状態及び食感の評価試験例
解凍した製造例1~8及び比較製造例1~10の各ロースハムについて、下記に示す通り、10名の判定人により断面の状態及び食感を次の基準に従って官能評価し、その数値(評価点)に基づいて○~×の記号でランク分けし、その結果を下表3にまとめた。
【0039】
[官能評価の基準とランク分けされた評価点]
評価項目 官能評価基準 評価点
断面状態 全体的にスが入っておらず、美麗な状態であった。 4
部分的に少しスが入った状態であった。 3
部分的に強くスが入った状態であった。 2
全体的に強くスが入った状態であった。 1
食感 全体的にしっとりと滑らかな食感であった。 4
部分的に少しバサつきのある食感であった。 3
部分的に強くバサついた食感であった。 2
全体的に強くバサバサした食感であった。 1
上記評価点に基づく記号化されたランク判定は次の通りである。
[評価点によるランク判定]
〇:評価点の平均値が3以上、4以下であった。
△:評価点の平均値が2以上、3未満であった。
×:評価点の平均値が1以上、2未満であった。
【0040】
(2)離水の評価試験例
解凍した製造例1~8及び比較製造例1~10の各ロースハムを、直径40mmでくり抜き、円柱状の離水評価用試料を作成した。
上記試料をろ紙(型式:定性ろ紙、No.2、90mm;アドバンテック社製)5枚の中心に設置し、試料の上に同ろ紙を5枚乗せ、その上から500gの分銅を乗せて30分静置し、試料からろ紙に染み出した離水の程度を確認した。
そして、その離水の程度を下記の評価基準でランク分けした。
[離水の評価基準]
〇:ろ紙に染み出した離水が少し認められた。
△:ろ紙に染み出した離水が明確な量で認められた。
×:ろ紙に染み出した離水が多量にあった。
【0041】
[表3]
変性防止剤 ロースハム 断面の状態 食感 離水の状態
実施例1 製造例1 ○ ○ ○
実施例2 製造例2 ○ 〇 ○
実施例3 製造例3 ○ ○ ○
実施例4 製造例4 ○ ○ △
実施例5 製造例5 ○ 〇 △
実施例6 製造例6 ○ ○ ○
実施例7 製造例7 ○ △ ○
実施例8 製造例8 ○ △ ○
比較例1 比較製造例1 × × △
比較例2 比較製造例2 × × △
比較例3 比較製造例3 × × △
比較例4 比較製造例4 △ × △
比較例5 比較製造例5 × × ×
比較例6 比較製造例6 × △ △
比較例7 比較製造例7 × △ △
比較例8 比較製造例8 △ △ ×
比較例9 比較製造例9 △ △ △
比較例10 比較製造例10 × × ×
【0042】
《変性防止剤を用いたベーコンの製造例と比較製造例》
水にポリリン酸Na1.5重量%、亜硝酸ナトリウム0.05重量%、L-アスコルビン酸Na0.25重量%、食塩3.8重量%、卵たん白粉末8.0重量%、ホエイたん白2.0重量%、大豆たん白粉末1.0重量%、食品変性防止剤(実施例1~8、比較例1~10)を0.8重量%添加し、ホモミキサー(TKホモミキサーMarkII;プライミックス社製)にて5,000rpm、5分以上の条件で撹拌溶解し、ピックル液を作成した。
次いで、豚バラ肉(デンマーク産)の100重量部に対し、前記ピックル液70重量部をインジェクターで注入した。
注入した原料肉をロータリー式マッサージャーに装着して、真空化で14時間、機械的にマッサージを行い、ベーコンリテーナーに離型紙を敷いて詰めた。
ベーコンリテーナーに詰めた原料肉をスモークハウス(ヒガシモトキカイ株式会社製)にて、温度60℃、湿度35%で30分乾燥した後、温度65℃、湿度15%で90分乾燥した。次いで、温度70℃で20分燻煙した後、温度80℃、湿度95%で60分加熱調理を行った。その後、加熱調理した原料肉を冷蔵庫内(5℃)で一晩冷却した。
冷却後のベーコンを3~4mmにスライスした後、重ねて真空包装し、冷凍庫(-20℃)で48時間以上冷凍し、製造例9~16及び比較製造例11~20の各ベーコンを得た。
【0043】
上記実施例n(n=1~8の整数)の変性防止剤とこれを添加した製造例p(p=n+8の整数)のベーコンとの関係については、例えば、n=1の場合、実施例1の変性防止剤を添加して製造したものが製造例9(p=1+8)のベーコンであり、実施例2(n=2)が製造例10(p=2+8)に対応し、以下、各実施例n(n=3~6)の変性防止剤と、各製造例p(p=11~16)のベーコンが同様に対応する。
また、比較例m(m=1~10の整数)の食品変性防止剤とこれを添加した比較製造例q(q=m+10の整数)のベーコンについては、例えば、m=1の場合、比較例1の食品変性防止剤を添加して製造したものが比較製造例11(q=1+10)のベーコンであり、また、比較例2(m=2)が比較製造例12(q=2+10)に対応し、以下、各比較例m(m=3~10)の変性防止剤と各比較製造例q(q=13~20)のベーコンが同様に対応する。
【0044】
《ベーコンの断面状態、食感及び離水率の各評価試験例》
得られた製造例9~16及び比較製造例11~20の各ベーコンについて、それぞれ水(20℃)で1時間流水解凍を行った。
そして、解凍した製造例9~16及び比較製造例11~20の各ベーコンについて、上記ロースハムの評価試験例と同様の基準に基づいて、各ベーコンの断面の状態、食感及び離水率を○~×にランク分け評価し、その結果を下表4にまとめた。
【0045】
[表4]
変性防止剤 ベーコン 断面の状態 食感 離水の状態
実施例1 製造例9 ○ ○ ○
実施例2 製造例10 ○ ○ 〇
実施例3 製造例11 ○ ○ ○
実施例4 製造例12 ○ ○ △
実施例5 製造例13 ○ △ △
実施例6 製造例14 ○ ○ ○
実施例7 製造例15 ○ △ ○
実施例8 製造例16 ○ △ ○
比較例1 比較製造例11 △ △ △
比較例2 比較製造例12 × △ △
比較例3 比較製造例13 × × △
比較例4 比較製造例14 △ △ △
比較例5 比較製造例15 × × ×
比較例6 比較製造例16 × △ △
比較例7 比較製造例17 × △ △
比較例8 比較製造例18 △ △ △
比較例9 比較製造例19 △ △ △
比較例10 比較製造例20 × × ×
【0046】
《上記試験例に基づくロースハム及びベーコンの総合評価》
(1)ロースハムの総合評価
上記表3に基づいて、本発明の変性防止剤を用いたロースハムの試験評価を述べる。
本発明の不溶性食物繊維(A)を欠く変性防止剤(比較例1)を用いた比較製造例1では、ロースハムの断面状態及び食感ともに×の評価、離水の評価は△であり、本発明の特定のCMC塩(B)を欠く比較例2を用いた比較製造例2の場合にも、同じく、断面状態と食感は共に×の評価、離水の評価は△であった。
また、本発明の所定要件のCMC塩(B)に替えて、当該要件から外れる各種CMC塩を含む比較例3~7を用いた比較製造例3~7では、ロースハムの断面状態、食感及び離水状態は×~△の評価であり、特に、比較製造例5は3指標ともに×の評価であった。
本発明の所定条件のCMC塩(B)に替えて、多糖類に属する点で共通するデキストリンを含む比較例8(冒述の先行文献1~2に準拠)を用いた比較製造例8では、ロースハムの断面状態、食感は共に△の評価であり、離水状態は×であった。
本発明のコラーゲン(C)に替えてゼラチンを含む比較例9を用いた比較製造例9では、上記3指標ともに△であった。
本発明の成分(A)に、本発明のCMC塩(B)と同じく多糖類に属するカードラン及びデキストリンを含む比較例10(冒述の先行文献1~2に準拠)を用いた比較製造例10では、上記3指標ともに×であった。
【0047】
以上の結果から、成分(A)~(C)を組み合わせた本発明の変性防止剤のうち、成分(A)或いは(B)を欠く場合、又は、成分(B)が本発明の所定のCMC塩でない場合には、ロースハムの断面状態、食感、離水状態の3指標のうち、1~2個の指標は×、残りの指標は△であるか、3指標ともに×の評価であって、冷凍耐性に欠けることが判断できる。また、成分(B)をデキストリンで代替し、成分(C)を欠く比較例8でも、同様の結果であった。
さらに、成分(B)をデキストリン及びカードランで代替し、成分(C)を欠く比較例10では、3指標ともに×であった。
本発明の成分(C)をコラーゲンからゼラチンに代替した場合には、上記3指標は夫々△の評価であり、×の評価は回避できた(比較例9参照)。
【0048】
そこで、実施例1~8の変性防止剤を用いた製造例1~8を詳細に説明する。
先ず、製造例1~8に見るように、成分(A)~(B)の種類を所定範囲で様々に変更しても(成分(C)の種類は固定)、3つの指標のうち2~3個で〇の評価が得られた。
不溶性食物繊維(A)を好ましい範囲の上限付近に、また、所定のCMC類(B)を好ましい範囲の下限付近に設定した製造例4では、離水状態が△の評価であったが、他の2個の指標は〇の評価であった。
不溶性食物繊維(A)を一般範囲の上限付近に、所定のCMC類(B)を一般範囲の下限付近に、また、コラーゲン(C)を一般範囲の下限付近に夫々設定した製造例5では、上記製造例4と同じように、離水状態が△の評価であったが、他の2個の指標は〇の評価であった。
【0049】
不溶性食物繊維(A)をより好ましい範囲内に、所定のCMC類(B)を好ましい範囲内に、また、コラーゲン(C)を一般範囲の上限付近に夫々設定した製造例7では、食感が△の評価であり、他の2個の指標は〇の評価であった。
不溶性食物繊維(A)を好ましい範囲の下限付近に、所定のCMC類(B)をより好ましい範囲の上限付近に、また、コラーゲン(C)を好ましい範囲の上限付近に夫々設定した製造例8では、上記製造例7と同様に、食感が△の評価であり、他の2個の指標は〇の評価であった。
また、上記製造例4、5、7、8を除く製造例1~3及び6では、3指標の評価は全て〇であった。
従って、本発明の変性防止剤を用いた製造例1~8は、前記比較製造例1~10に比べて合格点の評価水準にあることは明らかであり、食肉加工品(ロースハム)に冷凍耐性を付与する場合、成分(A)~(C)の許容配合割合はかなり広く、また、成分の種類の選択幅も比較的広いことが判断できる。
【0050】
(2)ベーコンの総合評価
上記表4に基づいて、本発明の変性防止剤を上記ロースハムに替えて、ベーコンに添加した場合の試験評価を以下に述べる。
先ず、比較製造例11~20を見ると、比較製造例11、14、18~19では、ベーコンの断面状態、食感、離水状態の3指標ともに全て△の評価であり、3指標ともに×の評価は比較製造例15と20であった。
エーテル化度並びに粘度共に本発明のCMC類(B)から外れたCMC類を含む変性防止剤(比較例5)を用いると、3指標の評価は共に×であり(比較製造例15参照)、また、本発明の成分(B)をデキストリン及びカードランに代替し、成分(C)を欠く比較例10でも、同じく3指標は全て×の評価であった(比較製造例20参照)。
【0051】
これに対して、本発明の変性防止剤を用いた場合、特に、成分(A)~(C)の各含有量をより好ましい範囲に設定した実施例1~3、6を用いた製造例9~11、14では、上記3指標は共に〇の評価であった。
また、ロースハムの前記製造例1~8と同じく、成分(A)~(C)の一部の含有量が一般の範囲、或いは好ましい範囲内に設定された場合には、上記3指標のうち、部分的に△の評価も認められたが、総合評価では、本発明の変性防止剤を用いた製造例9~16は比較製造例11~20に比べて合格点の評価水準にあることは明らかであり、食肉加工品(ベーコン)に優れた冷凍耐性を付与できることが裏付けられた。