(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】蓄電池の容量損失を算定する方法、装置およびコンピュータプログラム製品
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20240708BHJP
G01R 31/3828 20190101ALI20240708BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20240708BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20240708BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240708BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/3828
G01R31/385
G01R31/387
H01M10/44 P
H01M10/48 P
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022101470
(22)【出願日】2022-06-24
【審査請求日】2022-11-22
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】アルノ アルツベルガー
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/089786(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/142550(WO,A1)
【文献】特開2017-067788(JP,A)
【文献】特開2017-083474(JP,A)
【文献】特開2022-182460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/44、
11/00-11/66、
21/00-22/10、
35/00-35/06、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
H01M 10/42-10/48、
B60L 1/00-3/12、
7/00-13/00、
15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池(2)の少なくとも1つの平均容量損失を算出する方法であって、
複数の負荷サイクル(100)を用いて前記蓄電池(2)の一連の測定の結果を提供するステップであって、前記負荷サイクル(100)が充電フェーズと放電フェーズを含み、前記結果が電流測定の値を含む、ステップと、
第1および第2の計算規則により前記一連の測定の前記結果から前記蓄電池(2)の第1および第2の放電容量(Q
0,i、Q
meas,i)を算出するステップであって、前記電流測定の較正が前記第1および第2の計算規則に別々に含まれ、前記較正が前記電流測定の値を補正するための計算規則である、ステップと、
算出された前記第1および第2の放電容量(Q
0,i,、Q
meas,i)の最大の一致が得られるような前記電流測定の較正が行われるように、最適化プロセスを実行するステップと、を含む方法。
【請求項2】
負荷サイクル(100)の前記第1の放電容量(Q
0,i)が、前記負荷サイクル(100)の放電ドリフトと前記負荷サイクル(100)のクーロン効率から計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
負荷サイクル(100)の前記第1の放電容量(Q
0,i)が、前記負荷サイクル(100)の前記充電フェーズの後の容量値と、前記負荷サイクル(100)の前記充電フェーズの前の容量値とから計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
負荷サイクルの前記第2の放電容量(Q
meas,i)が、先行する別の負荷サイクルに対する第1の放電容量と、前記負荷サイクルと前記別の負荷サイクルとの間にある負荷サイクルの容量損失の合計と、から算出される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記較正の計算と最適化のため、電流0Aにおける実電流値と測定電流値との差を示すオフセット値を用い、実電流と測定電流との比例係数を示す勾配値を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記較正の計算および最適化のために、実電流と測定電流との間の非線形を示す曲率係数を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記非線形は、二次関係である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記較正の計算および最適化のために、実電流と測定電流との関係を、少なくとも3つの補間点を有する部分的な線形関係としてモデル化する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記一連の測定の前記結果を高精度クーロメトリ装置(4)によって生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記負荷サイクル(100)の充電および放電を、前記蓄電池(2)の下位電圧(26)と上位電圧(25)との間で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
連続する各負荷サイクル(100)において、前記負荷サイクル内に一定の温度が存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
第1の電荷シフトを、第1の上側充電状態(24)と第2の上側充電状態(22)との差として算出し、
第2の電荷シフトを、第1の下側充電状態(23)と第2の下側充電状態(21)との差として算出し、
前記第1の電荷シフトと前記第2の電荷シフトとの差からの容量損失を算定する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記複数の負荷サイクル(100)を、2つ以上の連続した負荷サイクル(100)にお
ける容量損失がほぼ一定になるま
で実行する、請求項
1に記載の方法。
【請求項14】
計算ユニット(10)によるコンピュータ支援で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
複数の負荷サイクル(100)を備えた蓄電池(2)の一連の測定の結果を記憶するメモリであって、前記負荷サイクル(100)は充電フェーズと放電フェーズを含み、前記結果が電流測定の値を含む、メモリと、
計算ユニット(10)と、を備え、
前記計算ユニット(10)が、
前記蓄電池(2)の第1および第2の放電容量(Q
0、i、Q
meas、i)を前記一連の測定の前記結果から第1および第2の計算規則により算出するように設計されており、前記電流測定の較正が前記第1および第2の計算規則に別々に加わるようにし、前記較正が前記電流測定の値を算出するための計算規則であり
、
算出された
前記第1および第2の放電容量(Q
0、i、Q
meas、i)の最大の一致が達成される前記電流測定の較正がなされるように最適化プロセスを実行する、ように構成されている、ことを特徴とする、装置(1)。
【請求項16】
プログラミング可能な計算ユニット(10)のメモリに直接ロード可能なコンピュータプログラム製品であって、前記計算ユニット(10)で実行されるときに、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法を実行するためのプログラムコード手段を備える、コンピュータプログラム製品(13)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の容量損失を算定する、特に蓄電池の予想される劣化を算定するための方法、この方法を実施するための装置、およびコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン蓄電池は、以下にリチウムイオン電池とも呼ばれるが、その高い出力とエネルギー密度のため、移動および定置用途のエネルギー蓄積器として使用される。これらの電気化学エネルギー蓄積器を安全に、確実に、そしてできるだけ長くメンテナンスなしで作動できるようにするために、特に、充電状態(英語:State of Charge、SOC)と劣化状態(英語:State of Health、健全状態、SOH)に関して、重要な作動状態をできるだけ正確に知ることが必要である。
【0003】
電池の劣化、特に、いわゆるサイクリック劣化は、高温環境や低温での急速充電によって、また充電状態や放電深度、ならびに充電電力や放電電力に応じて、マイナスの影響を受けることが知られている。したがって、同じタイプの電池セルであっても、上述のパラメータに依存して、負荷サイクル数が著しく異なる可能性がある。
【0004】
予想される劣化経過を算定するために、従来技術では、使用される電池セルの劣化特性は、電池システムの設計フェーズ中の測定によって算定される。実際の負荷プロファイルを使用した実際の劣化速度は、多くの場合テストされない。むしろいわゆるラフテスト(Rafftest)において、劣化速度またはサイクル安定性が圧縮負荷プロファイルで算定される。これらの結果により、経験的な劣化モデルがパラメータ化され、そこから劣化プロセスが応用に至る。将来の劣化の進行は、負荷プロファイル、作動点および環境条件に関係する物理的および/または化学的測定に基づいて決定され、基礎となる物理的および化学的プロセスの非線形性とそれらの複雑な相互作用のために実行が極めて困難である。
【0005】
高精度クーロメトリ(HPC)法を用いて、実運用における容量損失の測定と劣化の推定を改善することが可能である。HPC測定では、負荷サイクルが実行され、容量測定の過程から容量損失が算出される。
【0006】
HPC測定では、測定された電流強度を積分することによって、電池に課せられた電荷量と電池から取り出される電荷量との比較的小さな差異が算定される。したがって、HPC測定は、特に電流測定では、常に非常に高い測定精度が求められる。この高い測定精度は、HPC測定用に特別に設計されたテストデバイスによってのみ遵守できる。
【0007】
電池製造に使用されるタイプの一般的なテストデバイスは、測定のばらつきが大きいため、そもそも信憑力がない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、HPC測定の内在的な精度を改善することを可能にする方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの課題は、請求項1に記載の容量損失を算定する方法、請求項14に記載の装置、および請求項15に記載のコンピュータプログラム製品によって解決される。
【0010】
蓄電池の少なくとも平均的な容量損失を算出する本発明による方法では、多数の負荷サイクルを備えた蓄電池の一連の測定の結果が用意される。負荷サイクルには、充電フェーズと放電フェーズが含まれる。その結果には、負荷サイクルに対する電流測定値、すなわち、充電と放電の値が含まれる。
【0011】
一連の測定の結果から、蓄電池の第1および第2の放電容量は、第1および第2の計算規則を使用して算定される。この場合、電流測定の較正が第1と第2の計算規則に異なる方法で含まれるような計算規則が使用される。較正は、実際に存在する電流と電流測定値との関係である。
【0012】
最後に最適化方法は、電流測定の較正により、算出された第1と第2の充電容量の大部分の一致が達成されるように、実行される。
【0013】
先行する請求項の1つに記載の方法を実行するための本発明に係る装置は、複数の負荷サイクルを有する蓄電池における一連の測定の結果を記録するためのメモリを備える。この場合、負荷サイクルは充電フェーズと放電フェーズを有し、その結果には電流測定値が含まれる。
【0014】
この装置はさらに計算ユニットを含む。このユニットは、第1および第2の計算規則により、一連の測定の結果から蓄電池の第1および第2の放電容量の計算を実施するように設計されている。この場合、電流測定の較正は、第1および第2の計算規則に別々に関与し、較正は実際に存在する電流と電流測定の値との間の関係である。
【0015】
また計算ユニットは、算出された第1の充電容量と第2の充電容量との間の最大の一致が達成される電流測定の較正が求められる最適化方法を実行するように設計されている。
【0016】
本発明によるコンピュータプログラム製品は、プログラミング可能な計算ユニットのメモリに直接ロードすることができる。これは、コンピュータプログラム製品が計算ユニット内で実行されるときに本発明方法を実行するためのプログラムコード手段を含む。
【0017】
最適化は、計算ユニットでコンピュータ支援により実行されるのが合目的的であることは言うまでもない。
【0018】
本発明による措置により、電池特性の測定における不正確さ、特に電流測定における誤差を帯びたすなわち不正確な較正に起因する電荷量の測定の形での不正確さ、が除去されることが達成される。本発明では、負荷サイクルを測定するときに記録される電流測定値から少なくとも2つの電荷値が算定され、これらは名目上一致するが、電流測定の較正が種々の強さで結果に作用するということが認識された。これにより、較正の影響が除去される。
【0019】
これにより特にHPCテスタを用いる際にも、測定精度が高められるので有利である。工場出荷時の較正が極めて不正確なテスタであっても、電池測定の過程で本発明による方法で正確に較正することができる。さらに、本発明による方法でなければ必要な精度を有する有意義な測定が不可能な「標準的テスタ」での有効なHPC測定ですら可能となる。
【0020】
一連の測定の結果には、時間的積分に近い合算に適した電流測定値が含まれる。換言すれば多数の測定値が対象となる。測定値は通常はデジタル信号などの電気信号として存在する。一連の測定の結果には電圧値も、特に電流値に割り当てられた電圧値も含められる。
【0021】
最適化方法とは、たとえば目的関数を最小化する方法を意味すると理解され、この場合最小化のために目的関数の特定の意図されたパラメータを変化させることが可能である。最適化法は通常は反復的に機能し、分析的な解で置き換えることはできない。この場合たとえば、最小化すべき目的関数は、第1充電容量と第2充電容量との差分の量とすることができる。変化させるべきパラメータは、電流測定の較正を構成するパラメータである。
【0022】
測定結果の提供とは、これらがすでに入手可能であり、したがって記録され、処理されるだけであることを意味することができる。この場合本来の測定が先に行われているため、空間的、時間的に別々に行うことができる。しかしまた測定結果は、測定の途中にすぐに使用可能にして処理することもでき、すなわち測定は方法の実施と一緒に行うことも可能である。
【0023】
本発明による方法の有利な実施態様は、請求項1の従属請求項に示されている。請求項1に係る実施形態は、従属項の1つの特徴と組み合わせることができ、また望ましくは複数の従属項の特徴と組み合わせることもできる。したがって、本方法には、付加的に以下の特徴も提供することができる。
【0024】
負荷サイクルの第1の放電容量は、負荷サイクルの放電ドリフトと、負荷サイクルのクーロン効率と、から算出できる。このためたとえば下記の式3を計算規則として使用することができる。放電ドリフトとは、充電サイクルの下方の充電状態(すなわち放電後)において連続する2つの充電状態の差であり、たとえば式5を用いて算出される。クーロン利率またはクーロン効率は、放電によって失われたエネルギーとその前の充電によって供給されたエネルギーとの比率を示し、これには式4を使用できる。
【0025】
あるいは、負荷サイクルの第1の放電容量は、負荷サイクルの充電フェーズの後の容量値と、この充電フェーズの前の容量値と、から計算することができる。
【0026】
負荷サイクルに関する第2の放電容量は、別の先行する負荷サイクルに関する第1の放電容量と、負荷サイクルと別の負荷サイクルとの間にある負荷サイクルの容量損失の合計と、から算出することができる。このための計算式は式6に示されている。容量損失とは、式7に示されるように、充電ドリフトと、既に用いられている放電ドリフトと、の差である。充電ドリフトは、放電ドリフトと同様に、充電サイクルの上側の充電状態(すなわち充電後)の2つの連続した充電状態の差であり、たとえば、式8を用いて算出される。
【0027】
較正の算出と最適化には、電流0Aでの実電流値と測定電流値との差を示すオフセット値が使用される。さらに、実電流と測定電流との比例係数を示す傾き値を使用できる。これは、1次多項式、すなわち直線による電流経過のマッピングに相当する。この場合実電流は、たとえば測定からの生の電気信号を意味する。
【0028】
このような較正はシンプルで汎用的なもので、電流測定の典型的な状況を反映する。この中でオフセットは、使用されるADコンバータのゼロ値に対応し、傾き値またはゲインは、電気抵抗を示し、これは電流測定のためのシャントとして使用され、その値は製造公差の対象であり、したがって仕様と正確には一致しない。
【0029】
あるいは、較正の算出と最適化には、実電流と測定電流との間の非線形関係、特に二次関係を指定する曲率係数を使用することもできる。これによりオフセットとゲインとともに、2次多項式が実現され、実際の測定に対してさらに正確な調整が可能になる。
【0030】
あるいは、較正の算出と最適化には、実電流と測定電流の関係が、3つ以上の補間点を有する部分的な線形関係としてモデル化することができる。この措置により、単純な直線よりも正確なモデリングが可能になり、補間点の数を増やすことで、実際の電流と測定値との関係の実際の形式に全く依存しない、任意のレベルの精度が原理的に可能になる。
【0031】
一連の測定の結果は、好ましくは、高精度クーロメトリ装置を使用して生成される。これらは、このタイプの測定のために特別に設計されており、電流測定に関して未だ存在する不正確さは、理想的には本発明による手順で補償することができる。
【0032】
このような負荷サイクルは、好ましくは、充放電が常に蓄電池の定義可能な下位の電圧と定義可能な上位の電圧との間で行われるような負荷サイクルが使用される。
【0033】
好ましくは、負荷サイクル中の連続する各サイクル内で一定の温度が維持されるように保証することである。これにより、測定における温度に関連した不正確さが低減される。
【0034】
測定中、連続した2つ以上の負荷サイクルにおいて容量損失がほぼ一定になるまで、負荷サイクルを実施すると有利である。容量損失の推移に合わせて調整された接線の傾きが、測定された容量損失の最後の10%の傾きの平均値の10%未満の値をとるときに、算定された容量損失はほぼ一定であると見なされる。あるいは、少なくとも2つの連続した容量損失の絶対変化が、特に5%未満である場合、容量損失はほぼ一定、または本質的に一定である、と見なされる。
【0035】
測定結果をさらに使用するためには平均的な容量損失が算出される。これは、種々の負荷サイクルの多数の容量損失からの平均値として生じる。平均的な容量損失は、選択した負荷サイクルの劣化速度をサイクルごとの容量損失単位で表す。それにより、電池の劣化度に関する高精度クーロメトリ装置の測定データの定量的評価を行うことができ、有利である。平均容量損失の算出に基づいて容量の絶対値を算出することができるため、定量的な評価が可能である。この場合、使用される負荷サイクルは電圧限界の選択を通して、平均的な電荷状態(SOC)とサイクル深度(DOD)を特徴とする一定の動作点を定義する。
【0036】
平均容量損失の算定は、コンピュータを用いて、容量損失の値に関するスライド線形フィットを行い、このようにして生成された直線式の中での最小の傾きを見つけることによって、行われると有利である。すべての容量損失に関するフィットに基づいて、算出された容量損失を含むデータセットが継続的に短縮され、新しい直線がフィットされる。フィットはデータセット、すなわち容量損失の一定の最小残差長まで実行される。続いて、直線式がそれらの傾きの値に従って、サイズの増加順にソートされる。測定は、少なくとも2つの勾配の値が容量損失の最後の10%の平均値の10%未満の場合に、有効と見なすことができる。たとえば、最後の20の容量損失の平均値が5mAh/負荷サイクルの場合、特に少なくとも200の容量損失を測定する場合、2つのベストフィットされた接線(「フィット」)の傾きは0.05mAh/負荷サイクル未満である必要があろう。
【0037】
負荷サイクルの過渡的フェーズの後にのみ、容量損失を用いて残容量を算出すると特に有利である。測定の開始時、すなわち過渡的プロセスの間、に求められる容量損失は、誤差を帯びているので、平均容量損失の算出に利用すべきではない。この過渡フェーズは、フィッティングにおいて容量損失に適用された直線の少なくとも2つの傾きが、測定された容量損失の最後の10%の平均値の10%未満であるときに、終了することが判明している。あるいは、2つの連続した容量損失および/または少なくとも20の容量損失にわたる移動平均値が容量損失として5%未満の変化を示す場合、容量損失はほぼ一定であるとみなされる。この手順は、容量損失に基づく残容量の算出を迅速かつ確実に実行できることを有利に保証する。
【0038】
本発明のさらなる有利な実施形態および発展態様では、容量損失の算定内で、連続する各負荷サイクルにおいて一定の温度が優先される。これは言い換えれば、温度は2つの連続した容量損失の算定に際して異なっていてもよい。ただし1つの負荷サイクル中の温度は一定である。従って、異なる温度で記録された負荷サイクルは、温度が1つの負荷サイクル内で一定に保たれている限り、平均容量損失を算定するために組み合わせることができるので有利である。
【0039】
電池または電池セルは、調温室で作動させることができる。この構成では、電池または電池セルは調温室に配置される。特に調温室は、電池の負荷サイクル中に十分に高い温度安定性を保証することを可能にしている。あるいは、接触している温度調節器および/または冷却循環回路によって、蓄電池の温度を安定させることも可能である。調温の利用は、容量損失の算定中、温度が一定に保たれることを保証するので有利である。これは、有利なことに蓄電池の残容量の算定の信頼性を向上させる。
【0040】
本発明のさらなる有利な実施形態および発展態様では、下位電圧は第1の電圧範囲から選択され、上位電圧は第2の電圧範囲から選択される。第2の電圧範囲は、第1の電圧範囲よりも高い電圧とすると合目的的である。特に有利には、第1の電圧範囲と第2の電圧範囲の両方を、蓄電池の全動作電圧範囲から選択することができる。換言すればフルサイクルを実行する必要はない。そのため製品シートに従って、蓄電池の許容電圧範囲またはそれ以上で使用することができる。フルサイクル、すなわち完全な充放電を行わずに容量損失を測定することは、より短い測定時間を可能にする。さらに蓄電池は測定による負荷を受けることが少なくなり、早い劣化を防止するので有利である。
【0041】
特に有利な方法では、平均容量損失を算定する移動平均値は、少なくとも20の容量損失から求められる。
【0042】
本発明の更なる特徴、特性および利点は、添付の図を参照した以下の説明から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】高精度クーロメトリ装置を用いて平
均容量損失と残容量
とを算定する装置を示す。
【
図2】負荷サイクルの電圧-時間ダイアグラムである。
【
図3】絶対電荷バランスの時間的経過のダイアグラムである。
【
図4】最適化方法を実行する前後の電流較正特性のダイアグラムである。
【
図5】最適化方法を実行する前の放電容量のダイアグラムである。
【
図6】最適化方法を実行した後の放電容量のダイアグラムである。
【
図7】最適化方法の実行前後のクーロン効率値のダイアグラムである。
【0044】
図1は、高精度クーロメトリ装置を用いて平均容量損失と残容量を算定する装置1を示す。装置1は蓄電池2を含み、この蓄電池は、少なくとも1つの電池セルを有する。蓄電池は、調温室3に配置されている。蓄電池2は、電流ケーブル11を介して高精度クーロメトリ装置4に接続される。高精度クーロメトリ装置4は、次に、データケーブル12を介して計算ユニット10に接続される。高精度クーロメトリ装置4は、非常に高い精度で蓄電池2の充電時間ダイアグラムを記録する。この場合蓄電池2は、周期的な負荷サイクル100で作動させられる。
【0045】
図2は、高精度クーロメトリ装置4が蓄電池2の周期的な負荷サイクル100の間に記録した電圧-時間ダイアグラムを示す。負荷サイクル100は、第1の充電状態21から第2の充電状態22への放電を含むが、ここで第1の充電状態21は上位電圧25にあり、第2の充電状態22は下位電圧26にある。続いて負荷サイクル100において蓄電池2は、第2の充電状態22から第3の充電状態23に充電される。負荷サイクル100の次のステップとして、第3の充電状態23は第4の充電状態24に放電される。個々の充電/放電ステップでは、上位電圧25と下位電圧26は電圧限界として維持される。充電には、充電期間t
Cがかかる。放電には、放電期間t
Dがかかる。
【0046】
図2に示す測定に基づいて、個々の充電および放電ステップで
、どれだけの累積電荷量が流れたかを算定することができる。第1の充電量Q1は次式1を使用して算出することができ、ここでIは電流を示し、t
Dは放電期間を示す。
【0047】
【0048】
負荷サイクル100内で、蓄電池2は、次いで第1の充電32によって、第2の充電状態22から第3の充電状態23に充電される。第2の充電量Q2が蓄電池2に充電される。Q2は次式2を使用して計算できる。
【0049】
【0050】
負荷サイクル100内で、蓄電池2は、次に第2の放電33によって、第3の充電状態23から第4の充電状態24へと放電される。次に除去された電荷量Q3は、放電期間および関連する電流から、式1と同様に計算することができる。
【0051】
図3は、このようにして算定された電荷量Q1…3の経過が時間とともに示された概略的かつ非常に単純化されたダイアグラムである。さらなる手順については、たとえば
図3に示すQ
0,2およびQ
0,4のように、放電容量Q
0,iに特に注意が払われる。これらの放電容量は、以下に説明する式を使用して、2つの異なる方法で計算することができる。
【0052】
第1の計算形式では、式3を使用して、放電容量Q0,iが求められる。以下のすべての式において、インデックスiは常にi番目の負荷サイクルにおける充電時点を示し、インデックスjは常に同じ負荷サイクルにおけるこの充電時点に続く放電時点を示す。
【0053】
【0054】
またCEiは、充放電から成る対応するサイクルに対するクーロン効率、すなわち次式4に従って、以前に供給された電荷に対する取り出された電荷の比率を示す。
【0055】
【0056】
ΔD,jは放電ドリフトである。これは次式5に従って計算され、2つの連続する放電状態QjとQj-1の差を示す。
【0057】
【0058】
図3では、いくつかのjの値に対して、放電ドリフトΔ
D,jが示されている。
【0059】
第2の計算形式では、公称的には等しい放電容量Qmeas,iが、次式6により算出される。
【0060】
【0061】
ここで使用される容量損失ΔKap,kは、次式7により、充電ドリフトΔC,iと放電ドリフトΔD,jから計算される。
【0062】
【0063】
放電ドリフトはすでに使用されたものであり、上記の式5に従って算出される。充電ドリフトは次式8により類似の方法で計算される。
【0064】
【0065】
したがって、値Q0,iは基本的にi番目の負荷サイクルに存在する値から計算される。これに対し値Qmeas,iは、初期値(ここでは例としてQ0.2)とi番目の負荷サイクルの間の測定期間全体にわたる結果の値から計算される。理想的なすなわち誤差のない電流測定の場合、2つの値は以下の通り同じである。
【0066】
【0067】
しかし実際には、2つの値は電流測定における完全には正確でない電流較正のために異なる。値の差が大きいほど、電流較正には誤差がある。
【0068】
式9は関数値fを最小化する最適化の基礎として、f=Q0,i-Qmeas,iの形で使用される。最適化のために変更される変数は、電流較正を生成する。電流較正は、測定された電流値から、補正された測定値へのマッピングである。最適化が値Q0,iとQmeas,iの間の広範な一致を達成する場合、補正された測定値は実際の電流に非常に正確に対応する。
【0069】
電流較正は、たとえばオフセット値やゲインなどを有することができる。オフセット値は、測定電流をシフトする定数値を示し、ゲインは電流特性の傾きを示す。最適化は、オフセットとゲインの任意の値から開始される。オフセットの開始値は0(シフトなし)である。
【0070】
最適化は通常はコンピュータベースで実行される。これには既知のプログラムを使用することができ、最小化する関数と境界条件とパラメータのみを与える必要がある。
【0071】
このような最適化の結果を
図4に示す。
図4は、最適化前のオフセットおよびゲインから生じる直線41を示しており、ここではそれは原点を通る直線であり、傾きは1/1000である。さらに
図4は、最適化後の結果である直線42を示す。これからわかるように、最適化は、約-30mAのオフセットと、1/1000のわずかなゲイン
の偏差、すなわち直線のわずかな回転
、につながる。電流較正のこれらの値により、Q
0,i、Q
meas,iの広範な等価性が達成される。
【0072】
較正は電流値を変更するため、最適化には電荷値を形成する積分(または合算)、すなわち式1と式2を新たに再計算する必要がある。積分または合算に算入する電流値は、Ikorr(t)=Offset+Gain*I(t)に変更される。この変更、すなわち較正の補正は、結果として生じる電荷値に影響を与えるが、積分形成のために電荷値Qに対して直接実行することはできない。
【0073】
この実施例では、最適化は、200の充電サイクルを含む測定に基づいて実行される。電流較正の最適化のためには、値Q0,iとQmeas,iの複数の対、すなわち複数の指標iが考慮される。たとえば、200の充電サイクルの一連の測定値のうちの最後の50の値対を考慮に入れることができる。
【0074】
図5は、本例のための最適化の前の値Q
0,iの経過を51が、およびQ
meas,iの経過を52が示す。名目上同一の値は、わずかに誤差を有する電流較正のため、実際には約0.15%異なることがわかる。したがって、HPC測定に通常必要な電流測定の精度0.01%は達成されない。
図6は、最適化後の
、すなわち電流較正を改善した後の、Q
0,iを61が、およびQ
meas,iを62
が示す。この2つの曲線はシフトされているが、曲線61、62は、最適化後は互いにほぼ完全に重なっており、その結果高度な測定精度が達成されることが分かる。この方法で達成された精度は、0.01%の精度の要件を満たしている。
【0075】
図7は、改善された電流較正が他の導出値の精度も改善することを示す。曲線71は、最適化前の式4に従ったクーロン効
率の挙動を示す。クーロン効
率は、測定の広い範囲で約102%であり、これは、電池から
は前に充電されたよりも多くのエネルギーを取り出せないため不可能である。そのため明らかな測定
誤差がある。最適化後はそれに対し曲線72が得られ、その結果
、クーロン効率は、最初は低い値から
測定の大部分でほぼ100%まで増加する。それゆえ少なくともここには明白な測定誤差がもはやなくなっている。
【0076】
クーロン効率の結果が100%未満であっても、電流較正の不良による測定誤差は電池セル間の差よりも大きいため、通常は絶対値を比較することは困難である。この誤差は測定ごとに本発明によって訂正され、したがってほぼ完全に排除されるので、クーロン効率の絶対値を比較することさえ可能である。
【0077】
示された手順は有利なことに、オプティマイザの残差をチェックすることによる測定結果の暗黙的検証を含む。たとえば観察された放電容量の平均値に対して正規化された2つの式3と6の差の合計は、最適化法の目的関数として、すべての測定点に対して実装することができる。これによりセルの容量や放電深度に関係なく、すべての測定で検出された最適品質の一様な測定値が使用可能になる。MATLAB関数"fmincon"などのオプティマイザは、最適化プロセスが正常に終了する品質10-6に設定できる。ターゲット値に達していない場合、または別の理由でオプティマイザが停止した場合は、測定を詳細に調べ、必要に応じて破棄する必要がある。それ以外の場合、測定は有効である、その結果は意味があるものとして分類される。