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特許7516465半導体デバイスならびに関連するチップおよび作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】半導体デバイスならびに関連するチップおよび作成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20240708BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240708BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
H01L29/78 655B
H01L29/78 658H
H01L29/78 653A
H01L29/78 657D
【請求項の数】 20
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022102603
(22)【出願日】2022-06-27
(65)【公開番号】P2023007491
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】202110721082.9
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503433420
【氏名又は名称】華為技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】HUAWEI TECHNOLOGIES CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Huawei Administration Building, Bantian, Longgang District, Shenzhen, Guangdong 518129, P.R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133569
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 進
(72)【発明者】
【氏名】ウェンタオ・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ロウチェン・ダイ
(72)【発明者】
【氏名】チャオファン・ソン
(72)【発明者】
【氏名】ボニン・フアン
(72)【発明者】
【氏名】ジフア・リウ
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/080288(WO,A1)
【文献】特開2020-027921(JP,A)
【文献】特開2020-043301(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0001257(US,A1)
【文献】特開2000-040951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/739
H01L 21/336
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイスであって、前記半導体デバイスは、
N型ドリフト層と、前記N型ドリフト層に隣接するN型フィールドストップ層とを含み、前記N型フィールドストップ層における自由電子の密度が前記N型ドリフト層における自由電子の密度よりも高く、
前記N型フィールドストップ層は、第1の不純物粒子と、第2の不純物粒子とを含み、前記第2の不純物粒子の半径は、前記第1の不純物粒子の半径よりも大きく、
前記N型フィールドストップ層少なくとも前記第1の不純物粒子の複数のドーピング密度ピークを含み、前記N型ドリフト層に隣接する領域内の前記第1の不純物粒子の1つのドーピング密度ピークは、その他の領域内の前記第1の不純物粒子の別のドーピング密度ピークよりも高い、
半導体デバイス。
【請求項2】
前記第1の不純物粒子は水素イオンまたはヘリウムイオンであり、前記第2の不純物粒子はリン原子またはヒ素原子である、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項3】
前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークは、前記N型フィールドストップ層から前記N型ドリフト層に向かって連続的に増加する、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項4】
前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークは低下し、その後、前記N型フィールドストップ層から前記N型ドリフト層に向かって上昇し、その結果、前記N型フィールドストップ層では、前記N型ドリフト層に隣接する前記領域内の前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークが最も高くなる、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項5】
前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークはランダムであり、その後、前記N型フィールドストップ層から前記N型ドリフト層に向かって上昇し、その結果、前記N型フィールドストップ層では、前記N型ドリフト層に隣接する前記領域内の前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークが最も高くなる、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項6】
前記第1の不純物粒子は、第1のドープ領域を形成するために使用され、前記第2の不純物粒子は、第2のドープ領域を形成するために使用され、前記第1のドープ領域の厚さは、前記第2のドープ領域の厚さより大きい、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項7】
前記半導体デバイスは、
前記N型フィールドストップ層の表面であって、前記N型ドリフト層から離れる方向に面する表面に配置された、P型コレクタ層と、
前記N型ドリフト層の表面であって、前記N型フィールドストップ層から離れる方向に面する表面に配置された、P型ベース層と、
前記P型ベース層の表面であって、前記N型ドリフト層から離れる方向に面する表面に配置された、N型エミッタ層と、
酸化物層を介して前記P型ベース層に結合された、ゲートと
をさらに含む、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項8】
前記ゲートは、前記N型エミッタ層と前記P型ベース層とを貫通する、または
前記ゲートは、前記P型ベース層の表面であって、前記N型ドリフト層から離れる方向に面する前記表面に配置される、
請求項7に記載の半導体デバイス。
【請求項9】
半導体デバイス作成方法であって、
N型基板を提供するステップであって、前記N型基板は、対向して配置された第1の表面と第2の表面とを備える、ステップと、
前記第1の表面にP型ベース層と、N型エミッタ層と、酸化物層と、ゲートとを形成するステップであって、前記P型ベース層は、前記N型基板の前記第1の表面に配置され、前記N型エミッタ層は、前記P型ベース層の表面であって、前記N型基板から離れる方向に面する表面に配置され、前記ゲートは、前記酸化物層を介して前記P型ベース層に結合される、ステップと、
前記第2の表面から第1の不純物粒子と第2の不純物粒子とを注入するステップであって、前記第1の不純物粒子の粒子半径は、前記第2の不純物粒子の粒子半径より小さく、前記第1の不純物粒子の注入深さは、前記第2の不純物粒子の注入深さより深く、少なくとも前記第1の不純物粒子を注入するプロセス多段階注入プロセスを含み、前記N型基板の前記第1の表面に隣接する領域内の、前記第1の不純物粒子の1つのドーピング密度ピークは、その他の領域内の前記第1の不純物粒子の別のドーピング密度ピークより高い、ステップと、
前記第2の表面にP型コレクタ層を形成するステップと
を含む方法。
【請求項10】
前記第1の不純物粒子は水素イオンまたはヘリウムイオンであり、前記第2の不純物粒子はリン原子またはヒ素原子である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の表面から第1の不純物粒子および第2の不純物粒子を注入する前記ステップは、
第1の注入エネルギーで、前記第2の表面から前記第1の不純物粒子を注入するステップと、
第2の注入エネルギーで、前記第2の表面から前記第2の不純物粒子を注入するステップとを含み、
前記第1の注入エネルギーおよび前記第2の注入エネルギーは、前記第1の不純物粒子の前記注入深さが、前記第2の不純物粒子の前記注入深さよりも深くなることを可能にする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークは、前記第2の表面から前記第1の表面に向かって低下した後で上昇し、その結果、前記N型基板の前記第1の表面に隣接する前記領域内の、前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークが最も高くなる、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークは、前記第2の表面から前記第1の表面に向かって低下した後で上昇し、その結果、前記N型基板の前記第1の表面に隣接する前記領域内の、前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークが最も高くなる、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークはランダムであり、その後、前記第2の表面から前記第1の表面に向かって上昇し、その結果、前記N型基板の前記第1の表面に隣接する前記領域内の、前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークが最も高くなる、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の表面から第1の不純物粒子と第2の不純物粒子とを注入する前記ステップの後で、前記方法が、
前記第1の不純物粒子と前記第2の不純物粒子とが注入される前記N型基板で、アニーリングを行うステップ
をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの半導体デバイスと、ダイオードデバイスと、基板とを含むパワーモジュールであって、前記半導体デバイスは、
N型ドリフト層と、前記N型ドリフト層に隣接するN型フィールドストップ層とを含み、前記N型フィールドストップ層における自由電子の密度が前記N型ドリフト層における自由電子の密度よりも高く、
前記N型フィールドストップ層は、第1の不純物粒子と、第2の不純物粒子とを含み、前記第2の不純物粒子の半径は、前記第1の不純物粒子の半径よりも大きく、
前記N型フィールドストップ層少なくとも前記第1の不純物粒子の複数のドーピング密度ピークを含み、前記N型ドリフト層に隣接する領域内の前記第1の不純物粒子の1つのドーピング密度ピークは、その他の領域内の前記第1の不純物粒子の別のドーピング密度ピークよりも高く、
前記半導体デバイスと前記ダイオードデバイスとは並列に接続され、前記半導体デバイスと前記ダイオードデバイスとは互いに絶縁され、前記基板は前記半導体デバイスと前記ダイオードデバイスとをパッケージングするために使用される、パワーモジュール。
【請求項17】
前記第1の不純物粒子は水素イオンまたはヘリウムイオンであり、前記第2の不純物粒子はリン原子またはヒ素原子である、請求項16に記載のパワーモジュール。
【請求項18】
前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークは、前記N型フィールドストップ層から前記N型ドリフト層に向かって連続的に増加する、請求項16に記載のパワーモジュール。
【請求項19】
前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークは低下し、その後、前記N型フィールドストップ層から前記N型ドリフト層に向かって上昇し、その結果、前記N型フィールドストップ層では、前記N型ドリフト層に隣接する前記領域内の前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークが最も高くなる、請求項16に記載のパワーモジュール。
【請求項20】
前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークはランダムであり、その後、前記N型フィールドストップ層から前記N型ドリフト層に向かって上昇し、その結果、前記N型フィールドストップ層では、前記N型ドリフト層に隣接する前記領域内の前記第1の不純物粒子の前記ドーピング密度ピークが最も高くなる、請求項16に記載のパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願の実施形態は、半導体技術の分野に関し、特に半導体デバイス、関連するチップ、および作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁ゲート型バイポーラ電界効果トランジスタ(insulated gate bipolar transistor、IGBT)は、バイポーラ接合トランジスタ(bipolar junction transistor、BJT)と金属酸化物半導体トランジスタ(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor、MOSFET)とを含む、複合型完全制御電圧駆動パワー半導体デバイスである。BJTは、飽和電圧降下が小さく、かつ電流搬送能力が高いが、駆動電流は大きい。MOSFETは、駆動電力が極めて小さくスイッチング速度が速いが、オン状態の電圧降下が大きく、電流搬送能力が低い。IGBTは、MOSFETとBJTとの利点を併せ持ち、入力インピーダンスが高い、スイッチング速度が速い、熱安定性がよい、駆動回路が簡素、駆動電流が小さい、飽和電圧降下が小さい、電圧抵抗が高い、電流搬送能力が高い、などの利点がある。したがって、IGBTは直流電圧600 V以上のコンバータシステム、例えば、交流モータ、周波数コンバータ、スイッチング電源、点灯回路、ならびにトラクションおよび伝送などの分野に適用可能である。
【0003】
ノンパンチスルーIGBT(すなわちNPT-IGBT)と比較して、N型フィールドストップ層(N型バッファ層とも呼ばれる)は、フィールドストップ層を有するIGBT(すなわちFS-IGBT)の背面に追加され、N型フィールドストップ層のドーピング密度は、FS-IGBTの基板のドーピング密度よりわずかに大きい。この場合は、電界の強度を迅速に低減でき、その結果電界全体が台形になって、電界を停止し、N型ドリフト領域の必要な厚さを大幅に削減する。加えて、N型フィールドストップ層は、エミッタの伝送効率を調節するためにさらに使用されてもよく、IGBTがオフにされたときに存在するテーリング電流および損失を改善する。
【発明の概要】
【0004】
従来の技術では、プロトン(H+)注入などによってフィールドストップ層を形成して、フィールドストップ層の幅を増加させることができる。しかしながら、対応するIGBTは寄生インダクタンスが大きい回路内で、周波数が高く、振幅が非常に大きく、かつ幅が非常に狭いピーク電圧を生成し、IGBT自体、または回路内の他のコポーネントが、過電圧のために破損したり損傷したりしやすくなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本出願の実施形態は、フィールドストップ層がプロトン(H+)注入によって形成される半導体デバイスが、寄生インダクタンスが大きい回路内で過度に高いピーク電圧を生成する状況を緩和するための、半導体デバイスと、関連するチップと、作成方法とを提供する。
【0006】
本出願の実施形態における第1の態様は半導体デバイスを提供し、半導体デバイスは、N型ドリフト層と、N型ドリフト層に隣接するN型フィールドストップ層とを含む。
【0007】
IGBTにおいて、フィールドストップ層における自由電子の密度は、N型ドリフト層における自由電子の密度より高く、その結果、電界強度を急速に低減できて電界全体が台形になり、これにより電界を迅速に停止する。フィールドストップ領域は、2種類の不純物粒子をドープすることによって形成されてもよく、第1の不純物粒子の半径は第2の不純物粒子の半径より小さく、N型ドリフト層に隣接する領域内の第1の不純物粒子の注入密度は、その他の領域の第1の不純物粒子の注入密度より高い。
【0008】
前述した半導体では、フィールドストップ層は、第1の不純物粒子と第2の不純物粒子とをドープすることによって形成される。第1の不純物粒子はサイズが小さいため必要とされる注入エネルギーが小さく、厚さが大きいフィールドストップ層が容易に形成される。第2の不純物粒子は半径が大きいため必要とされる注入深さが比較的浅く、高いアニーリング温度は必要とされない。したがって、N型基板の前面にあるMOSFET構造に対する、高温アニーリングによる損傷を回避することができる。加えて、N型ドリフト層の表面に隣接する領域内の第1の不純物粒子の注入密度が最も高く、その結果、デバイスがオフにされたときに存在するピーク電圧を効果的に低減でき、IGBT性能を大幅に向上させることができる。
【0009】
任意選択の一実施態様では、第1の不純物粒子は、水素イオンまたはヘリウムイオンであってよく、第2の不純物粒子は、リン原子またはヒ素原子であってよい。水素イオンまたはヘリウムイオンは、比較的少ない注入エネルギーでN型基板に深く注入され、これによりフィールドストップ層の厚さを大幅に増加させ得ることを理解されたい。加えて、リン原子またはヒ素原子の注入深さは比較的浅く、高いアニーリング温度が必要とされないことにより、高温アニーリングによってIGBT構造が損傷するのを防止する。
【0010】
任意選択の一実施態様では、フィールドストップ領域において、第1の不純物粒子の注入密度は、フィールドストップ層からN型ドリフト層に向かって連続的に増加する。フィールドストップ層で不純物粒子の注入密度が高いことは、電界の変化率が大きいことを示す。したがって、不純物粒子が前述した勾配方式で注入される場合は、IGBTがオフにされたときは、フィールドストップ層における電界の変化率はまず最大に達した後で徐々に減少し、ここで電界の変化率は、N型ドリフト層に隣接する領域で最大になり、その結果、電界は短時間で急速に減少し得る。このように、デバイスがオフにされたときに存在するピーク電圧を効果的に低減でき、IGBT性能を大幅に向上させることができる。
【0011】
任意選択の一実施態様では、フィールドストップ領域において、第1の不純物粒子の注入密度は低下し、その後、フィールドストップ層からN型ドリフト層に向かって上昇する。フィールドストップ層で不純物粒子の注入密度が高いことは、電界の変化率が大きいことを示す。したがって、前述した勾配注入が使用される場合は、IGBTがオフにされたときに、フィールドストップ層における電界の電界変化率は、N型ドリフト層に隣接する領域で最大に達し、その結果、電界は短時間で急速に減少し得る。このように、デバイスがオフにされたときに存在するピーク電圧を効果的に低減でき、IGBT性能を大幅に向上させることができる。
【0012】
任意選択の一実施態様では、フィールドストップ領域において、第1の不純物粒子の注入密度はランダムであり、その後、フィールドストップ層からN型ドリフト層に向かって上昇する。フィールドストップ層で不純物粒子の注入密度が高いことは、電界の変化率が大きいことを示す。したがって、前述した勾配注入が使用される場合は、IGBTがオフにされたときに、フィールドストップ層における電界の電界変化率は、N型ドリフト層に隣接する領域で最大に達し、その結果、電界は短時間で急速に減少し得る。このように、デバイスがオフにされたときに存在するピーク電圧を効果的に低減でき、IGBT性能を大幅に向上させることができる。
【0013】
前述した3つの事例では、N型ドリフト層に隣接する領域内の第1の不純物粒子の注入密度が、その他の領域内の第1の不純物粒子の注入密度より高ければ、電界強度を短時間で迅速に低減できることにより、ピーク電圧が過度に高くなるのを回避する。
【0014】
任意選択の一実施態様では、N型フィールドストップ領域は、2種類の不純物粒子をドープすることによって形成され、これにより、N型ドリフト層の表面に連続的に配置された、第1のドープ領域と第2のドープ領域とを形成する。第1のドープ領域は、半径が小さい第1の不純物粒子をドープすることによって形成され、第2のドープ領域は、半径が大きい第2の不純物粒子をドープすることによって形成され、第1のドープ領域の厚さは、第2のドープ領域の厚さより大きい。
【0015】
前述した半導体において、第1の不純物粒子は半径が小さいため、第1の不純物粒子は、比較的小さい注入エネルギーでN型基板の奥深くに注入することができる。加えて、第1のドープ領域の厚さが大きいことは、フィールドストップ領域の厚さが大きいことを示す。このようにして、IGBTがオフにされたときに存在する、テーリング電流および損失を低減することができる。
【0016】
任意選択の一実施態様では、半導体は、
フィールドストップ層の表面であって、N型ドリフト層から離れる方向に面する表面に配置された、P型コレクタ層と、
N型ドリフト層の表面であって、フィールドストップ層から離れる方向に面する表面に配置された、P型ベース層と、P型ベース層の表面であって、N型ドリフト層から離れる方向に面する表面に配置された、N型エミッタ層と、酸化物層を介してP型ベース層に結合された、ゲートと
をさらに含む。
【0017】
任意選択の一実施態様では、半導体において、ゲートは、N型エミッタ層とP型ベース層とを貫通し得る、またはP型ベース層の表面であって、N型ドリフト層から離れる方向に面する表面に配置され得る。
【0018】
本出願の実施形態の第2の態様は、以下のことを含む半導体作成方法を提供する。
【0019】
N型基板が提供され、N型基板は、対向して配置された第1の表面と第2の表面とを含む。
【0020】
P型ベース層、N型エミッタ層、酸化物層、およびゲートは第1の表面に形成され、P型ベース層はN型基板の第1の表面に配置され、N型エミッタ層は、P型ベース層の表面であって、N型基板から離れる方向に向かう表面に配置され、ゲートは、酸化物層を介してP型ベース層に結合される。
【0021】
第1の不純物粒子および第2の不純物粒子は、N型基板の第2の表面から注入され、第1の不純物粒子の粒子半径は、第2の不純物粒子の粒子半径より小さく、第1の不純物粒子の注入深さは、第2の不純物粒子の注入深さより大きい。第1の不純物粒子を注入するプロセスにおいて、N型基板の第1の表面に隣接する領域内の第1の不純物粒子の注入密度は、その他の領域内の第1の不純物粒子の注入密度より高い。
【0022】
P型コレクタ層は、N型基板の第2の表面に形成される。
【0023】
任意選択の一実施態様では、第1の不純物粒子は、水素イオンまたはヘリウムイオンであってよく、第2の不純物粒子は、リン原子またはヒ素原子であってよい。水素イオンまたはヘリウムイオンは、比較的少ない注入エネルギーでN型基板に深く注入され、これによりフィールドストップ層の厚さを大幅に増加させ得ることを理解されたい。加えて、リン原子またはヒ素原子の注入深さは比較的浅く、高いアニーリング温度が必要とされないことにより、高温アニーリングによってIGBT構造が損傷するのを防止する。
【0024】
任意選択の一実施態様では、第1の不純物粒子は、第1の注入エネルギーで第2の表面から注入されてよく、第2の不純物粒子は、第2の注入エネルギーで第2の表面から注入されてよく、その結果、第1の注入エネルギーおよび第2の注入エネルギーは、第1の不純物粒子の注入深さが、第2の不純物粒子の注入深さより大きくなるようにすることができる。
【0025】
第1の不純物粒子の半径は、第2の不純物粒子の半径より小さい。したがって、第1の注入エネルギーと第2の注入エネルギーとが同じであれば、第1の不純物粒子の注入深さは第2の不純物粒子の注入深さより大きくなり、言い換えれば、第1の不純物粒子は、より小さい注入エネルギーでより深く注入することができる。したがって、前述の勾配密度注入方式を使用して、注入エネルギーを削減することができる。
【0026】
任意選択の一実施態様では、フィールドストップ領域において、第1の不純物粒子の注入密度は、フィールドストップ層からN型ドリフト層に向かって連続的に増加する。フィールドストップ層で不純物粒子の注入密度が高いことは、電界の変化率が大きいことを示す。したがって、不純物粒子が前述した勾配方式で注入される場合は、IGBTがオフにされたときは、フィールドストップ層における電界の変化率はまず最大に達した後で徐々に減少し、ここで電界の変化率は、N型ドリフト層に隣接する領域で最大になり、その結果、電界は短時間で急速に減少し得る。このように、デバイスがオフにされたときに存在するピーク電圧を効果的に低減でき、IGBT性能を大幅に向上させることができる。
【0027】
任意選択の一実施態様では、フィールドストップ領域において、第1の不純物粒子の注入密度は低下し、その後、フィールドストップ層からN型ドリフト層に向かって上昇する。フィールドストップ層で不純物粒子の注入密度が高いことは、電界の変化率が大きいことを示す。したがって、前述した勾配注入が使用される場合は、IGBTがオフにされたときに、フィールドストップ層における電界の電界変化率は、N型ドリフト層に隣接する領域で最大に達し、その結果、電界は短時間で急速に減少し得る。このように、デバイスがオフにされたときに存在するピーク電圧を効果的に低減でき、IGBT性能を大幅に向上させることができる。
【0028】
任意選択の一実施態様では、フィールドストップ領域において、第1の不純物粒子の注入密度はランダムであり、その後、フィールドストップ層からN型ドリフト層に向かって上昇する。フィールドストップ層で不純物粒子の注入密度が高いことは、電界の変化率が大きいことを示す。したがって、前述した勾配注入が使用される場合は、IGBTがオフにされたときに、フィールドストップ層における電界の電界変化率は、N型ドリフト層に隣接する領域で最大に達し、その結果、電界は短時間で急速に減少し得る。このように、デバイスがオフにされたときに存在するピーク電圧を効果的に低減でき、IGBT性能を大幅に向上させることができる。
【0029】
任意選択の一実施態様では、第2の表面から第1の不純物粒子および第2の不純物粒子が注入された後で、第1の不純物粒子および第2の不純物粒子が注入されるN型基板で、アニーリングが行われることがさらに必要になる。
【0030】
本出願の実施形態の第3の態様は、パワーモジュールを提供し、第1の態様または第1の態様の任意の実施態様によれば、パワーモジュールは、少なくとも1つの半導体デバイスを含んでよく、あるいは少なくとも1つの半導体デバイスは、第2の態様または第2の態様の任意の実施態様による方法を使用して作成される。
【0031】
例えば、パワーモジュールは、ダイオードデバイスと基板とをさらに含む。半導体デバイスとダイオードデバイスとは並列で接続され、半導体デバイスとダイオードデバイスとは互いに絶縁され、基板は半導体デバイスおよびダイオードデバイスをパッケージングするために使用される。
【0032】
半導体デバイスはIGBTであり、パワーモジュールは、IGBTディスクリートデバイス、IGBTモジュール、インテリジェントパワーモジュール(intelligent power module、IPM)などであってもよい。
【0033】
本出願の実施形態の第4の態様は、第1の態様または第1の態様の任意の実施態様による少なくとも1つの半導体デバイスを含む、電力変換回路を提供し、あるいは少なくとも1つの半導体デバイスは、第2の態様または第2の態様の任意の実施態様による方法を使用して作成される。
【0034】
電力変換回路は、周波数変換、電圧変換、位相変更、整流、反転、および電圧/電流のスイッチングなどの機能を実施するように構成された回路である。電力変換回路は、インバータ回路(inverter circuit)、整流回路(rectifier)、コンバータ回路などであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本出願の一実施形態によるIGBTの概略断面図である。
図2】本出願の一実施形態による別のIGBTの概略断面図である。
図3】本出願の一実施形態によるさらに別のIGBTの概略断面図である。
図4】本出願の一実施形態によるIGBT作成方法の概略的流れ図である。
図5A】本出願の一実施形態によるIGBTの構造の概略図である。
図5B】本出願の一実施形態による別のIGBTの構造の概略図である。
図5C】本出願の一実施形態によるさらに別のIGBTの構造の概略図である。
図5D】本出願の一実施形態によるさらに別のIGBTの構造の概略図である。
図6】本出願の一実施形態による、N型基板の第1の表面にNチャネルMOSFET構造を形成する概略的流れ図である。
図7A】本出願の一実施形態による、深さを有するフィールドストップ層における、不純物のドーピング密度の分布を示す概略図である。
図7B】本出願の一実施形態による、深さを有するフィールドストップ層における、不純物のドーピング密度の別の分布を示す概略図である。
図7C】本出願の一実施形態による、深さを有するフィールドストップ層における、不純物のドーピング密度のさらに別の分布を示す概略図である。
図8】本出願の一実施形態による、IGBTの電界の概略図である。
図9】本出願の一実施形態による、IGBTに対応するピーク電圧の電圧変換図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本出願の実施形態は、フィールドストップ層がプロトン(H+)注入によって形成される半導体デバイスが、寄生インダクタンスが大きい回路内で過度に高いピーク電圧を生成する状況を緩和するための、半導体デバイスと、関連するチップと、作成方法とを提供する。
【0037】
スイッチングデバイスとして、IGBTは、BJTおよびMOSFETを含む、複合型完全制御電圧駆動のパワー半導体デバイスである。IGBTは、エネルギー変換および伝送回路などの分野で使用でき、例えば、周波数変換、電圧変換、位相変更、整流、反転、および電圧/電流のスイッチングに使用することができる。BJTは、飽和電圧降下が小さく、かつ電流搬送能力が高いが、駆動電流は比較的大きい。MOSFETは、駆動電力が極めて小さくスイッチング速度が速いが、オン状態の電圧降下が大きく、電流搬送能力が低い。IGBTは、MOSFETとBJTとの利点を併せ持ち、入力インピーダンスが高い、スイッチング速度が速い、熱安定性がよい、駆動回路が簡素、駆動電流が小さい、飽和電圧降下が小さい、電圧抵抗が高い、電流搬送能力が高い、などの利点がある。
【0038】
したがって、IGBTは、周波数変換、電圧変換、位相変更、整流、反転、および電圧/電流のスイッチングなどの機能を実施する、インバータ回路(inverter circuit)、整流回路(rectifier)、およびコンバータ回路などの電力変換回路に適用され得る。以下で各回路およびその適用シナリオについて個別に説明する。
【0039】
1.インバータ回路は、直流の電気エネルギーを、周波数が一定でかつ電圧が一定の交流電源、もしくは周波数が調整されかつ電圧が調整された交流電源に変換する回路であり、通常はインバータブリッジ、論理制御、フィルタ回路などを含む。前述のIGBTデバイスは、インバータブリッジのスイッチングデバイスとして使用される。本出願で提供される半導体デバイスがスイッチングデバイスとして使用されるインバータ回路は、電力供給が直流電源であり、交流負荷に電力が供給される必要があるシナリオに適用され得る。例えば、電気自動車のバッテリが交流モータに電力を供給するときは、インバータ回路を使用して電気エネルギーが変換されなければならない。別の例では、太陽電池が交流送電網に提供される前に、インバータ回路を使用して、電気エネルギーが変換される必要がある。
【0040】
2.整流回路は、交流の電気エネルギーを直流の電気エネルギーに変換する回路であり、通常は主回路と、フィルタと、コンバータとを含む。主回路は、整流ダイオードと、本出願で提供されるIGBTデバイスとを使用して形成され得る。フィルタは、主回路と負荷との間に接続され、パルス直流電圧内の交流成分を濾過するように構成される。トランスが配置されるかどうかは、実際の状況による。トランスは、交流入力電圧と直流出力電圧とを一致させ、交流グリッドと整流回路との間でガルバニック絶縁を実施するように構成される。本出願で提供される、IGBTデバイスがスイッチングデバイスとして使用される整流回路は、交流電源が直流電源に変換される必要があるシナリオに適用され得る。例えば、電気自動車がバッテリを充電するときは、整流回路を含む充電パイルまたは充電器を使用して、交流電源が、定格電圧を有しかつ電気自動車に必要とされる直流電源に変換され得る。
【0041】
3.コンバータ回路は、昇圧コンバータ(Boost Converter)または降圧変換回路(Buck Converter)であってよい。
【0042】
昇圧コンバータは、昇圧ができる直流-直流コンバータであり、昇圧コンバータの出力(負荷)電圧は、入力(電源)電圧より大きい。昇圧コンバータは、少なくとも1つのダイオードと、少なくとも1つのトランジスタと、少なくとも1つのエネルギー貯蔵素子(インダクタ)とを主に含む。本出願で提供されるIGBTデバイスは、トランジスタとして使用されてもよい。
【0043】
降圧変換回路は降圧コンバータとも呼ばれ、電圧を降圧できる直流-直流コンバータである。降圧コンバータの出力(負荷)電圧は、入力(電源)電圧より小さいが、降圧コンバータの出力電流は入力電流より大きい。降圧コンバータは、少なくとも1つのダイオードと、少なくとも1つのトランジスタと、少なくとも1つのエネルギー貯蔵素子(キャパシタおよび/またはインダクタ)とを主に含む。任意選択で、電圧リップルを低減するために、キャパシタに基づくフィルタが、出力端と入力端とにさらに追加されてもよい。本出願で提供されるIGBTデバイスは、トランジスタとして使用されてもよい。
【0044】
本出願で提供される半導体デバイスは、スイッチングデバイスとして使用されてよく、かつパワー半導体デバイスを必要とする、直流昇圧回路および直流降圧回路などの別の回路に代替的に適用されてもよい。これは特に限定されない。
【0045】
IGBTの構造は以下で詳細に説明される。図1は、本出願の一実施形態によるIGBTの概略断面図である。図1に示されるように、IGBTはトレンチ型IGBTであり、連続的に上から下に向かって、エミッタ201、絶縁層202、N+型エミッタ層203、P+型ベース領域204、酸化物層205、ゲート206、P型ベース層207、N-型ドリフト層208、フィールドストップ層209、P+型コレクタ層210、およびコレクタ211などの、一部またはすべての層構造を含む。
【0046】
IGBTの層構造が説明される前に、N型半導体およびP型半導体が最初に説明される。
【0047】
(1)N(負)型半導体は、電子型半導体とも呼ばれ、電子伝導を有する半導体である。具体的には、N型半導体は、真性半導体にドナー不純物をドープして得られる。例えば、純粋なシリコンに少量の5価元素(リン、ヒ素など)がドープされ、リンが周囲の4価シリコン原子に共有結合されると、余分な自由電子が存在することになる。N型は、N+型(多電子型)と、N-型(低電子型)とに分けることができる。N+型半導体内の不純物粒子のドーピング密度は、N-型半導体の不純物粒子のドーピング密度より大きい。N+型(多電子型)とN-型(低電子型)とは相対的であることが理解されよう。
【0048】
本出願のこの実施形態では、N+型エミッタ層203、N-型ドリフト層208、フィールドストップ層209、N型基板などは、すべてN型半導体である。
【0049】
(2)P(正)型半導体は、正孔型半導体とも呼ばれ、正孔伝導を有する半導体である。具体的には、P型半導体は、真性半導体にアクセプタ不純物をドープして得られる。例えば、純粋なシリコンに少量の3価元素(ホウ素、インジウムなど)がドープされ、周囲の4価シリコン原子とホウ素を共有結合させると、電子が欠落して正孔が形成される。P型は、P+型(多正孔型)と、P-型(低正孔型)とに分けることができる。P+型半導体内の不純物粒子のドーピング密度は、P-型半導体の不純物粒子のドーピング密度より大きい。
【0050】
本出願のこの実施形態では、P+型ベース領域204、P型ベース層207、P+型コレクタ層210などは、すべてP型半導体である。
【0051】
N-型ドリフト層208およびフィールドストップ層209は、両方ともN型基板に属する。フィールドストップ層209は、N型基板の背面(コレクタ111に隣接する表面)に不純物粒子を注入することによって形成され、N-型ドリフト層208よりドーピング密度が高い。したがって、フィールドストップ層209は、N+フィールドストップ層とも呼ばれる。
【0052】
N-型ドリフト層208はN型基板の一部であり、対向して配置された第1の表面と第2の表面とを有する。P型ベース層207は、N-型ドリフト層208の第1の表面の上に配置される。N-型ドリフト層208の第1の表面は、N型基板の第1の表面または前面であってもよく、P型ベース層207は、N型基板のエピタキシャル層であってもよい。あるいは、N型基板の前面は、P型ベース層207の表面であって、N-型ドリフト層208から遠い方の表面であってもよい。この場合、P型ベース層207は、N型基板の前面から不純物を注入することによって形成される。本明細書では、N型基板の表面であって、コレクタ211に隣接する表面は、N型基板の第2の表面または背面と呼ばれる。N型基板の第1の表面および第2の表面は、N型基板に対向して配置された2つの表面である。
【0053】
N+型エミッタ層203は、P型ベース層207の表面であって、N-型ドリフト層208から離れる方向に面する表面の上に配置され、不純物を注入することによって形成され得る。N+型エミッタ層203は、P型ベース層207で離間されている。任意選択で、P型ベース層207において、IGBTの2つのN+型エミッタ層203同士の間に、P+型ベース領域204がさらに含まれてもよい。この場合、P型ベース層207は、P-型ベース層と呼ばれてもよい。
【0054】
酸化物層205はP型ベース層207を覆い、ゲート206は酸化物層205を介してP型ベース層207に結合されている。このように、ゲート206とエミッタ201との間に印加される電圧VGSが臨界値VGESより大きいと、P型ベース層207にあって、かつ酸化物層205に隣接する位置がチャネルを形成でき、これを通じてN+型エミッタ層203とN-型ドリフト層208とが導通する。
【0055】
P+型コレクタ層210は、フィールドストップ層209の表面であって、N-型ドリフト層208から離れる方向に面する表面に配置される。コレクタ211は、P+型コレクタ層210の表面であって、フィールドストップ層209から離れる方向に面する表面に配置される。
【0056】
前述のIGBTにおいて、前面のN+型エミッタ層203はソース領域を形成し、これに取り付けられた電極がエミッタ201であり、P+型コレクタ層210から引き出された背面にある電極がコレクタ211である。IGBTデバイスの制御領域はゲート206であり、チャネルはゲート領域境界に近接して形成される。N+型エミッタ層203はチャネルの片側にあり、N-型ドリフト層208はチャネルのもう一方の側にある。IGBTが正常に動作しているときは、P型ベース層207の表面に導電性チャネルが形成される。電子はN-型ドリフト層を通ってエミッタ層からコレクタ層に流れ、正孔はコレクタ層からN-型ドリフト層に継続的に注入される。この場合、外部から見るとIGBTには負荷電流が存在し、IGBTはオン状態になっている。N-型ドリフト層208の幅が比較的大きいために、ここでは正孔の一部が電子の導電率変調を有し、これによりデバイスのオン状態の電圧降下を低減し、残りの正孔は、P型ベース層207とN-型ドリフト層208とによって形成されたPN接合に拡散し、最終的にエミッタ層203によって収集される。
【0057】
前述したIGBTでは、フィールドストップ層209のドーピング密度は、N型基板のドーピング密度よりわずかに高い。したがって、フィールドストップ層209の導入により、電界強度を迅速に低減して電界全体が勾配になるようにすることができ、これによって電界を停止し、N-型ドリフト層208に必要とされる厚さを大幅に削減する。加えて、フィールドストップ層209は、P+型ベース領域204の伝送効率をさらに調節して、オフの際に存在するテーリング電流および損失を変化させることができる。特定の範囲内で、フィールドストップ層がさらに厚ければ、IGBTをオフにするプロセスで存在する電圧ストレスを緩和でき、デバイスの電圧抵抗が向上する。
【0058】
フィールドストップ層209を形成するための従来の処理方法は、以下のいくつかの方法を主に含んでおり、1つの方法では、フィールドストップ層は、エピタキシャル基板を直接使用することによって形成される。しかしながら、この方法はエピタキシャル工程を必要とし、基板に比較的コストがかかる。別の方法では、N型基板の背面からリンイオンを注入し、その後アニーリングを行うことによってフィールドストップ層が形成される。この解決法では、リンイオンがN型基板の背面から注入されるため、リンイオンの注入深さが注入エネルギーの影響を受け、リンイオンを奥深く注入することが困難である。加えて、注入エネルギーが増加するとフラグメントが生じやすく、工程がかなり難しくなる。別の方法では、プロトン(H+)注入によってフィールドストップ層が形成される。プロトン(H+)注入によって、正孔/水素関連錯体が形成されて、フィールドストップ領域でドナーとして提供され、ここでは体積当たりのドナーの量によってドーピング密度が決まる。この技術の短所は、IGBT製品が高温下にあると、IGBT製品の対応するリーク電流が非常に大きくなることである。高温下でリーク電流が大きい場合、待機モードになっているデバイスのリーク損失が直接影響を受け、デバイスが焼損することもある。加えて、デバイスの熱抵抗がデバイスの周囲温度と一致していると、デバイスの対応する電力消費および対応する接合温度がより高くなる。さらに、前述した工程を使用して作られたIGBT製品は、オフプロセスで極めて大きいピーク単一電圧を生成する。これにより、IGBT製品自体、または回路内の他のコンポーネントが、過電圧のために破損したり損傷したりする場合がある。
【0059】
IGBTを迅速にオンおよびオフにすればスイッチング時間を短縮し、スイッチング損失を低減するのに役立つが、IGBTをオンおよびオフにするのが速すぎると、寄生インダクタンスが大きい回路にとって有害である。その理由は、寄生インダクタがない場合は、IGBTがオンからオフにされたときに、還流ダイオードの還流によって形成された電流ループがあり、電圧が、バス電圧より高いダイオード電圧降下値の値に達するまで、IGBTの電圧がゆっくりと上昇するためである。寄生インダクタがある場合は、負荷回路は、還流ダイオードへのスイッチングが防止され、インダクタの両端でバス電流の増加を防止する電圧が生成され、電圧はIGBTの両端のピーク電圧の形態で、電源電圧で重畳される。これは、ピーク電圧の急激な上昇、およびオーバーシュート現象につながる。この場合、IGBTはより強い衝撃に耐え、IGBT自体、または回路内の他のコンポーネントに、過電圧による破損や損傷が生じやすい。したがって、IGBTの製造工程を改善することによって、IGBT性能を大幅に改善し、デバイスがオフにされたときに存在するピーク電圧を緩和することができる。
【0060】
前述の説明に基づき、本出願の一実施形態は、図2に示す新しいフィールドストップ領域構造を提供する。図2は、本出願の一実施形態による別のIGBTの概略断面図である。IGBTはやはりトレンチ型IGBTであり、連続的に上から下に向かって、エミッタ201、絶縁層202、N+型エミッタ層203、P+型ベース層204、酸化物層205、ゲート206、P型ベース層207、N-型ドリフト層208、フィールドストップ層209、P+型コレクタ層210、およびコレクタ211などの、一部またはすべての層構造を含む。前述した層は、図1に示した実施形態における層と同様の構造および機能を有していることが理解されよう。本明細書では、詳細は重ねて記載されない。
【0061】
フィールドストップ層209は、第1の不純物粒子と第2の不純物粒子とを含む2種類の不純物粒子をドープすることによって形成される。第1の不純物粒子は、第2の不純物粒子とは半径が異なる。半径が小さい第1の不純物粒子は、少ない注入エネルギーでフィールドストップ層209のより深い領域に注入でき、半径が大きい第2の不純物粒子は注入深さが比較的小さく、より低いアニーリング温度を提供して、高温アニーリング中にIGBT構造が損傷するのを防止する。フィールドストップ層209の自由電子の密度は、N-型ドリフト層208の自由電子の密度より高く、第1の不純物粒子および第2の不純物粒子は、N型基板の背面から注入される方式で、両方ともフィールドストップ領域209に入ることが理解されよう。
【0062】
第1の不純物粒子は粒子半径が比較的小さく、第2の不純物粒子は粒子半径が比較的大きく、そして第1の不純物粒子はサイズが小さい。したがって、同じ注入深さに必要とされる注入エネルギーが小さく、厚さが大きいフィールドストップ層を実装することができる。第1の不純物粒子と第2の不純物粒子とを含むフィールドストップ領域によりN型電子層の厚さが増加し、IGBTのコレクタとエミッタとの間で漏電が低減され得る。
【0063】
例えば、第1の不純物粒子は水素イオン(H+)またはヘリウムイオン(He+)であり、第2のドープ領域の不純物は、リン原子やヒ素原子などの、5価または高原子価の原子である。本出願の一実施形態では、水素イオン(H+)またはヘリウムイオン(He+)は、N型基板1の奥深くに注入される必要があり、その理由は、その注入深さに必要なエネルギーが、リン原子およびヒ素原子の注入深さに必要なエネルギーよりはるかに小さいためである。フィールドストップ層の厚さは、多量の水素イオン(H+)またはヘリウムイオン(He+)を注入することによって大幅に増加させることができる。フィールドストップ層が厚ければ、IGBTがオフにされたときに存在するテーリング電流および損失がより小さくなり、IGBT性能が高まることが理解されよう。
【0064】
第1の不純物粒子が注入されるときは、N-型ドリフト層208の表面に隣接する領域内の第1の不純物粒子の注入密度が、その他の領域内の第1の不純物粒子の注入密度よりも確実に高くなるようにすることが必要になる。このように、電界変化率はN-型ドリフト層208の表面に隣接する領域内で最大に達し、電界強度は短時間で急速に減少し、その結果、デバイスがオフにされたときに存在するピーク電圧を効果的に低減でき、IGBT性能を大幅に向上させることができる。注入深さとは、不純物粒子とN型基板の背面との間の距離のことをいう。
【0065】
以下でN型ドリフト層に隣接する領域について説明する。図2に示すように、N型ドリフト層に隣接する領域が図2ではマーキングされており、これはつまり、N-型ドリフト層208の表面に近接する領域の一部である。第1の不純物粒子の注入方式は、第1の不純物粒子が異なる注入エネルギーで異なる深さに次第に注入され、かつ第1の不純物粒子がN型基板の背面から注入されることであることが理解されよう。したがって、N型ドリフト層に隣接する領域は、最大注入深さに相当する。N型基板の中に注入された後で、第1の不純物粒子は拡散移動を行うが、常に注入深さの周囲で拡散する。したがって、N型ドリフト層に隣接する領域は、最大注入深さに基づいて決定される。特定の領域のサイズが実際の状況に基づいて決定され得るが、具体的には決定されない。
【0066】
N型ドリフト層に隣接する領域内の第1の不純物粒子の注入密度が、その他の領域内の第1の不純物粒子の注入密度より高いことは、絶対ではないことを理解されたい。粒子の拡散移動は不規則な移動である。N型ドリフト層に隣接する領域では、異なる位置における第1の不純物粒子の密度は、完全に同じではない。したがって、第1の不純物粒子の注入密度は、やはり最大注入深さに相当する。言い換えれば、第1の不純物粒子が注入されるときは、注入密度が最大の位置に、第1の不純物粒子の最大用量が注入される。粒子が拡散移動を行った後は、同じ領域サイズの条件下で、N型ドリフト層に隣接する領域内の第1の不純物粒子の平均密度は、別の領域内の第1の不純物粒子の平均密度より高い。このようにして、デバイスがオフにされたときに存在するピーク電圧を効果的に低減することができる。
【0067】
任意選択の一実施態様では、フィールドストップ領域において、第1の不純物粒子の注入密度は、フィールドストップ層からN型ドリフト層に向かって連続的に増加する。フィールドストップ層で不純物粒子の注入密度が高いことは、電界の変化率が大きいことを示す。したがって、不純物粒子が前述した勾配方式で注入される場合は、IGBTがオフにされたときは、フィールドストップ層における電界の変化率はまず最大に達した後で徐々に減少し、ここで電界の変化率は、N型ドリフト層に隣接する領域で最大になり、電界は短時間で急速に減少する。このように、デバイスがオフにされたときに存在するピーク電圧を効果的に低減でき、IGBT性能を大幅に向上させることができる。
【0068】
例えば、フィールドストップ層209において、第1の不純物粒子の注入密度は、注入深さの増加に伴って連続的に増加する。言い換えれば、第1の不純物粒子の注入密度は、フィールドストップ層209からN-型ドリフト層208に向かって連続的に増加し、注入密度は、N-型ドリフト層208に隣接する領域で最大に達する。
【0069】
例えば、フィールドストップ層209において、第1の不純物粒子の注入密度は、注入深さが増加するにつれて、低下した後に上昇して、注入密度は、N-型ドリフト層208に隣接する領域で確実に最大に達する。言い換えれば、第1の不純物粒子の注入密度は低下し、その後、フィールドストップ層209からN-型ドリフト層208に向かって上昇し、第1の不純物粒子の注入密度は、フィールドストップ層209に隣接する領域で最大に達する。
【0070】
例えば、フィールドストップ層209において、第1の不純物粒子の注入密度は、注入深さが増加するにつれて、ランダムになった後に上昇して、N-型ドリフト層208に隣接する領域で注入密度が確実に最大に達する。言い換えれば、フィールドストップ層209からN-型ドリフト層208に向かって、第1の不純物粒子の注入密度は制限されず、N-型ドリフト層208に隣接する領域で第1の不純物粒子の注入密度が最大に達するならば、注入密度はランダムに分布し得る。
【0071】
前述した3つの事例において、IGBTがオフにされたとき、フィールドストップ層209における電界の電界変化率は、N型ドリフト層に隣接する領域で最大に達し、その結果、電界は短時間で急速に減少する。このように、デバイスがオフにされたときに存在するピーク電圧を効果的に低減でき、IGBT性能を大幅に向上させることができる。
【0072】
以下では、第2の不純物粒子のドーピングについて簡単に説明する。
【0073】
図3は、本出願の一実施形態によるさらに別のIGBTの概略断面図である。IGBTはやはりトレンチ型IGBTであり、連続的に上から下に向かって、エミッタ201、絶縁層202、N+型エミッタ層203、P+型ベース領域204、酸化物層205、ゲート206、P型ベース層207、N-型ドリフト層208、フィールドストップ層209、P+型コレクタ層210、およびコレクタ211などの、一部またはすべての層構造を含む。前述した層は、図2に示した実施形態における層と同様の構造および機能を有していることが理解されよう。本明細書では、詳細は重ねて記載されない。フィールドストップ層209は2種類の不純物粒子をドープすることによって形成され、2種類の不純物粒子の注入深さは異なる。したがって、フィールドストップ層209は、N-型ドリフト層208の第2の表面に連続的に積層された、第1のドープ領域2091と第2のドープ領域2092とを含む。
【0074】
第1のドープ領域2091における不純物粒子(第1の不純物粒子)の半径は、第2のドープ領域2092における不純物粒子(第2の不純物粒子)の半径より小さく、第1のドープ領域2091のドーピング密度と第2のドープ領域2092のドーピング密度とは両方とも、N-型ドリフト層208のドーピング密度より高い。第1のドープ領域2091は、N型基板の背面から第1の不純物粒子を注入する方式で形成され、第2のドープ領域2092の不純物は、N型基板の背面から第2の不純物粒子を注入する方式で形成される。
【0075】
第1の不純物粒子は半径が比較的小さく、比較的小さい注入エネルギーで比較的大きい注入深さが達成され得る。したがって、第1のドープ領域2091の厚さは、第2のドープ領域2092の厚さより大きい。例えば、第1のドープ領域2091の厚さは5~50マイクロメートルであり、第2のドープ領域2092の厚さは2~10マイクロメートルである。第1のドープ領域2091の厚さが大きいことは、フィールドストップ層の厚さが大きいことを示す。これにより、IGBTがオフにされたときに存在する、テーリング電流および損失を低減し得る。
【0076】
図3に示すように、厚さとはフィールドストップ層209の長さのことをいい、これはつまり、フィールドストップ層209からN-型ドリフト層208へ向かう方向における、フィールドストップ層209の2つの表面同士の間の距離である。実際のIGBTトランジスタでは、粒子の不規則な拡散のために、第1のドープ領域2091および第2のドープ領域2092は両方とも厚さが不均一な場合がある。したがって、第1のドープ領域2091の厚さが第2のドープ領域2092の厚さより大きいことは絶対ではなく、第1のドープ領域2091の平均厚さが第2のドープ領域2092の平均厚さより大きければ、第1のドープ領域2091の一部の厚さが、第2のドープ領域2092の一部の厚さより小さいことが許容される。
【0077】
第1のドープ領域2091における第1の不純物粒子の注入密度とは、図2に示す実施形態における第1の不純物粒子の注入密度のことをいい、N-型ドリフト層208の表面に近接する領域で第1の不純物粒子の注入密度が最大になるものとする。第2のドープ領域2092では、第2の不純物粒子の注入密度は、P+型コレクタ層210から離れる方向に向かって小さくなる、または実質的に小さくなる。言い換えれば、第2の不純物粒子の注入密度は、フィールドストップ層209からN-型ドリフト層208へ向かう方向に、注入深さが増加するにつれて減少する、または実質的に減少する。
【0078】
不純物粒子のドーピング密度が大きい場合は、フィールドストップ層209にさらに多くの自由電子があり、IGBTがオフにされたときに、単位時間あたりにコレクタ211においてはるかに多くの電子と正孔との再結合があることを理解されたい。この場合、電流は速やかに変化し、結果として電圧ストレスが大きくなる。電圧ストレスが大きいことにより、デバイスの電圧抵抗が不十分になる場合がある。勾配ドーピングが使用されると、P+型コレクタ層110からフィールドストップ層209へ向かう方向にドーピング密度が連続的に減少し、その結果、電流はまず急速に変化し、その後、ゆっくりと変化することができる。これにより、オフ速度に影響を及ぼすことなく、IGBTがオフにされたときに存在する電圧ストレスが低減されて、デバイスの電圧抵抗が向上する。
【0079】
前述したIGBTでは、フィールドストップ層を形成するために複数の種類の不純物粒子を注入することによって、半導体デバイスのリーク電流が大きい問題を効果的に改善することができる。加えて、フィールドストップ層における第1の不純物粒子の注入密度が、フィールドストップ層とN-型ドリフト層との交点で最大に達する必要があることが指定される。このように、半導体デバイスが、寄生インダクタンスが大きい回路内で過度に高いピーク電圧を生成する状況を緩和でき、半導体デバイスの動作性能を大幅に向上させることができる。
【0080】
以下、IGBTを作成する方法を詳しく説明する。図4は、本出願の一実施形態によるIGBT作成方法の概略的流れ図である。この方法は、図2に示すIGBTの作成に使用される。方法は、以下のステップを含むことができるが、それらに限定されない。
【0081】
401.N型基板が提供され、N型基板は対向して配置された第1の表面と第2の表面とを含む。
【0082】
N型基板は、電子伝導を有する半導体である。具体的には、N型半導体は、真性半導体にドナー不純物をドープして得られる。例えば、純粋なシリコンに少量の5価元素(リン、ヒ素など)がドープされ、リンが周囲の4価シリコン原子に共有結合されると、余分な自由電子が存在することになる。具体的構造については、図5Aを参照されたい。
【0083】
402.N型基板の第1の表面にNチャネルMOSFET構造を形成する。
【0084】
図5Bに示すように、N型基板の第1の表面にNチャネルMOSFET構造が形成されるときは、第1の表面にP型ベース層207が確立される必要があり、P型ベース層207にN領域、具体的にはN+型エミッタ層203が形成され、熱酸化プロセスを使用して酸化物層205が決定され、最後に、ゲート206、エミッタ201などが個別に引き出される。図5Bでは、絶縁層202およびエミッタ層203は、NチャネルMOSFET構造の必須の層構造ではない。いくつかの実施形態では、半導体デバイスは、絶縁層202またはエミッタ層203を含んでいなくてもよい。
【0085】
本願におけるこの実施形態では、作成される半導体デバイスはトレンチ型IGBTである。図6は、本出願の一実施形態による、N型基板の第1の表面にNチャネルMOSFET構造を形成する概略的流れ図である。流れ図は以下のステップを含む。
【0086】
601.N型基板の第1の表面にP型ベース層207を形成する。
【0087】
P型ベース層207の複数の作成方式が存在してもよい。例えば、P型ベース層207は、N型基板の第1の表面で、エピタキシャル成長方式で形成されてもよく、あるいはPウェルが、N型基板の第1の表面で不純物を注入することによって形成され、ここでPウェルはP型ベース層207である。特定の形態は限定されない。
【0088】
602.P型ベース層207の表面であって、N型基板から離れる方向に面する表面の一部から不純物を注入して、離間されたN+型エミッタ層203を形成する。N+型エミッタ層203は、IGBTのソース領域を構成する。
【0089】
603.P型ベース層207を貫通する溝を形成する。
【0090】
604.溝の内壁に酸化物層205を形成し、酸化物層205を含む溝に導電性材料を充填してゲート206を形成する。この場合、ゲート206は酸化物層205を介してP型ベース層207に結合されている。このように、ゲート206とN+型エミッタ層203との間に印加される電圧VGSが臨界値VGESより大きいと、P型ベース層207にあって、かつ酸化物層205に隣接する位置がチャネルを形成でき、これを通じてN+型エミッタ層203とN型ドリフト層とが導通する。
【0091】
605.ゲート206の表面に絶縁層202とエミッタ201とを形成し、絶縁層202は、ゲート206とエミッタ201とを分離するために使用され、エミッタ201は、N+型エミッタ層203に結合される。
【0092】
任意選択で、P型ベース層207の表面であって、N型基板から離れる方向に面する表面に、P+型ベース層204がさらに形成されてもよく、P+型ベース層204は、2つの隣接するN+型エミッタ層203同士の間に配置されてもよい。
【0093】
前述した層構造は、フォトリソグラフィ技術および薄膜作成技術を使用して作成され得ることに留意されたい。これは本明細書では限定されない。
【0094】
半導体デバイスは、図5Bに示す前述した内容に限定されず、別の構造および別の作成方法をさらに含んでもよいことにさらに留意されたい。これは、本出願のこの実施形態では限定されない。
【0095】
403.N型基板の第2の表面から、第1の不純物粒子を第1の注入エネルギーで注入する。
【0096】
404.N型基板の第2の表面から、第2の不純物粒子を第2の注入エネルギーで注入する。
【0097】
ステップ403およびステップ404の目的は、IGBTのフィールドストップ層を確立することである。具体的には、複数のドープ領域を含むフィールドストップ層209は、複数の種類の不純物粒子を注入することによって形成され、半導体デバイスのリーク電流が大きい問題を効果的に緩和する。加えて、半導体デバイスが、寄生インダクタンスが大きい回路内で過度に高いピーク電圧を生成する状況を緩和するため、およびIGBT性能を向上させるために、第1の不純物粒子のドーピング密度を指定する必要がある。
【0098】
図5Cに示されるように、2種類の不純物粒子を注入することにより、フィールドストップ層209で第1のドープ領域2091と、第2のドープ領域2092とが形成されてよく、P型ベース層207とフィールドストップ層209との間のN型基板は、N-型ドリフト層208と呼ばれてもよい。N+エミッタ層203と比較して、N-型ドリフト層208は不純物粒子のドーピング密度が低い。
【0099】
第1の不純物粒子の粒子半径は、第2の不純物粒子の粒子半径より小さく、第1の不純物粒子の注入深さは、第2の不純物粒子の注入深さより大きい。形成された第1のドープ領域の深さは、第2のドープ領域の深さより大きく、深さとは、フィールドストップ層209からN-型ドリフト層208へ向かう方向における、不純物粒子の第2の表面に対する距離である。
【0100】
第1の不純物粒子は水素イオン(H+)またはヘリウムイオン(He+)であり、第2の不純物粒子はリン原子、ヒ素原子、その2つの両方などである。半導体材料の中に水素イオン(H+)が注入されると、アニーリング手順後に、正孔/水素関連錯体が形成され、水素関連錯体はドナーとして存在する。
【0101】
第1の注入エネルギーおよび第2の注入エネルギーは、第1の不純物粒子の注入深さが、第2の不純物粒子の注入深さより大きくなるようにすることができる。第1の注入エネルギーおよび/または第2の注入エネルギーはエネルギー値であってよく、あるいはエネルギー範囲であってもよい。任意選択で、第1の注入エネルギーは50 KeV~5 MeVであり、第2の注入エネルギーは50 KeV~5 MeVである。
【0102】
以下、第1の不純物粒子および第2の不純物粒子の注入プロセスについて詳しく説明する。第1の不純物粒子または第2の不純物粒子は、一段階注入方式でドープ領域を形成し得る、あるいは多段階注入方式でドープ領域を形成し得ることが理解されよう。これは本明細書では限定されない。加えて、ステップ403とステップ404との間に実行順序は存在しなくてよく、ステップ403とステップ404とは、あるいは同時に実行されてもよい。
【0103】
リン原子(第2の不純物粒子)および水素イオン(第1の不純物粒子)は、例として使用されている。リン原子および水素イオンの両方に一段階注入方式が使用されるときは、N-型ドリフト層208に隣接する領域内の水素イオンの密度が確実に最大になるように、リン原子のドーピング密度は深さとともに減少させる必要があり、水素イオンのドーピング密度は深さとともに増加する。
【0104】
リン原子および水素イオンの両方に多段階注入方式が使用されるときは、リン原子および水素イオンはそれぞれ複数の注入深さに対応し、ここでリン原子の注入密度は深さとともに減少させる必要があり、具体的には、リン原子が注入されるとき、深さが小さい位置では注入量が多く、深さが大きい位置では注入量が少ない。しかしながら、水素イオンの注入密度については、N型ドリフト層に隣接する領域内の第1の不純物粒子の注入密度が、その他の領域内の第1の不純物粒子の注入密度より高いことのみが確実であればよい。
【0105】
図7Aは、本出願の一実施形態による、深さを有するフィールドストップ層における、不純物粒子のドーピング密度の分布を示す概略図である。図7Aに示されるように、リン原子および水素イオンの両方に多段階注入方式が使用され、水素イオンは4段階で注入され、リン原子は2段階で注入される。曲線で各ピークに対応する深さが注入深さである。リン原子と水素イオンとの注入深さは異なっており、各注入深さにおける注入密度もまた変化することが図からわかる。各注入深さにおいて、リン原子の注入密度に対する注入ピークがある。注入ピークに対応する密度は、深さが増加するとともに減少する。水素イオンの注入密度もまた、深さの変化とともに変化する。具体的には、4つのピークに対応する深さが4つの注入深さであり、4つのピークは、注入深さが増加するとともに増加している。第4の注入深さで、水素イオンの注入密度は最大に達する。
【0106】
図7Aに示す水素イオン注入プロセスでは、N-型ドリフト領域に近接するピークに対応する注入密度が最大になり、残りのピークに対応する注入密度が最大ピークより小さくなることのみが確実であればよい。4つのピークに対応する密度がそれぞれ(1)、(2)、(3)、および(4)で示されており、ピーク値(4)が最大とされる。例えば、ここではこれに限定されないが、(1)、(2)、および(3)がすべて(4)より小さければ、4つのピークに対応する密度は、(1)>(2)>(3)、(1)=(2)>(3)、(1)=(3)>(2)、(1)=(2)=(3)、(1)<(2)<(3)、(2)>(1)>(3)、(3)>(1)>(2)などになり得る。
【0107】
前述の説明に基づき、図7Bは、本出願の一実施形態による、深さを有するフィールドストップ層における、不純物粒子のドーピング密度の別の分布を示す概略図である。図7Bでは、リン原子および水素イオンの両方にやはり多段階注入方式が使用され、リン原子は2段階で注入され、水素イオンは4段階で注入される。しかしながら、水素イオンの注入密度は、深さが増加するにつれて、低下した後に上昇する。第4の注入深さで、水素イオンの注入密度は最大に達する。このようにして、電界強度もまた迅速に低減でき、IGBTトランジスタがオフにされたときに存在するピーク電圧を低減することができる。
【0108】
同様に、図7Cは、本出願の一実施形態による、深さを有するフィールドストップ層における、不純物粒子のドーピング密度のさらに別の分布を示す概略図である。図7Cでは、リン原子および水素イオンの両方にやはり多段階注入方式が使用され、リン原子は2段階で注入され、水素イオンは4段階で注入される。しかしながら、注入深さが増加するにつれて、水素イオンの注入密度は最初はランダムであり、第4段階の注入中に注入密度が最大に達する。このようにして、電界強度もまた迅速に低減でき、IGBTトランジスタがオフにされたときに存在するピーク電圧を低減することができる。
【0109】
任意選択で、第1の不純物粒子の注入深さd1は5マイクロメートル~50マイクロメートルであり、第2の不純物粒子の注入深さd2は2マイクロメートル~10マイクロメートルである。特定の不純物粒子では、注入エネルギーが大きいことは、N型基板への注入深さが大きいことを示し、注入時間が長いこと、注入量が多いことは、不純物のドーピング密度が大きいことを示していることが理解されよう。この場合、不純物の注入深さは注入エネルギーを制御することによって制御でき、ドーピング密度は、注入時間または注入量を制御することによって制御され得る。
【0110】
任意選択で、第1の不純物粒子の注入量は5E11~1E16であり、第2の不純物粒子の注入量は5E11~1E16である。1回分の用量は、単位面積当たりに注入される不純物粒子の総量であり、深さに対する、不純物粒子のドーピング密度の積分である。
【0111】
注入エネルギーが同じである場合、異なる不純物粒子は注入深さが異なることをさらに理解されたい。不純物粒子の粒子半径が大きいことは、注入深さが小さいことを示す。反対に、不純物粒子の粒子半径が小さいことは、注入深さが大きいことを示す。したがって、不純物粒子の粒子半径が小さい場合は、不純物粒子をN型基板の深さに注入するのが容易になる。言い換えると、粒子が同じ深さに注入される必要があるときは、水素イオン(H+)よりもヘリウムイオン(He+)の注入により大きいエネルギーが必要とされる。
【0112】
フィールドストップ層の幅が同じである場合は、Pを注入してフィールドストップ層を形成する方法と比較して、水素イオン(H+)またはヘリウムイオン(He+)を注入してフィールドストップ層を形成する方法では、注入エネルギーを大きくすることなく大きい注入深さが得られ、幅が大きいフィールドストップ層がより容易に得られることを理解されたい。
【0113】
任意選択で、第1の注入エネルギーが大きいほど第1の不純物粒子のドーピング密度が低くなるように、第1の不純物粒子の第1の注入エネルギーおよび注入時間(または注入量)が制御されてもよい。この方法によれば、第1の不純物粒子の勾配ドーピング、または大まかな勾配ドーピングを実施するために、第1の不純物粒子のドーピング密度は、第2の表面から離れる方向に向かって実質的に上昇する。勾配ドーピングは、IGBTトランジスタがオフにされたときに存在する電圧ストレスを低減でき、電圧抵抗を向上させることができる。加えて、N型基板でのドーピングによって生じたストレスを低減でき、IGBTの性能および歩留まりを向上させることができる。
【0114】
任意選択で、第2の注入エネルギーが大きいほど第2の不純物粒子のドーピング密度が低くなるように、第2の不純物粒子の第2の注入エネルギーおよび注入時間(または注入量)が制御されてもよい。この方法によれば、第2の不純物粒子の勾配ドーピング、または大まかな勾配ドーピングを実施するために、第2の不純物粒子のドーピング密度は、第2の表面から離れる方向に向かって実質的に低下する。このようにして、N型基板でのドーピングによって生じたストレスが低減され、IGBTの性能および歩留まりが改善される。
【0115】
エピタキシャル成長によって第2のドープ領域を形成する方法と比較して、前述した第2の不純物粒子を注入する方法では、作成コストを削減でき、かつ作成効率を向上させることができる。加えて、第1の不純物粒子および第2の不純物粒子が個別に注入されるので、第2の不純物粒子の注入深さが低減され、ウェハが破棄されるリスクを低減することができる。
【0116】
405.第2の表面にP+型コレクタ層210を形成する。
【0117】
図5Dに示すように、P+型コレクタ層210は、第2の表面でのエピタキシャル成長によって形成されてもよく、あるいはP+型コレクタ層210は、第2の表面から不純物を注入することによって形成されてもよい。
【0118】
406.P+型コレクタ層210の表面にコレクタ211を形成する。
【0119】
いくつかの実施形態では、ステップ403、404、405、または406の後でアニーリング処理が実行されてもよい。アニーリング処理は、第1の不純物粒子および第2の不純物粒子が注入されるN型基板のアニーリングであり得ることを理解されたい。
【0120】
本出願のこの実施形態では、格子構造を復元し、不利益を低減するためにアニーリング処理が使用されてよく、格子間不純物原子を代わりの不純物原子に変更してもよい。したがって、アニーリング処理は必要なプロセスである。
【0121】
任意選択で、アニーリングの最大温度は、200°C~500°Cである。その理由は、シリコン(Si)にH+が注入されると、H+は直ちにSi内の不純物、欠点、およびダングリングボンドと結合する可能性があり、複数の水素関連錯体(H関連錯体)が形成されるためである。正孔と水素関連錯体とは、フィールドストップ領域にドナーを形成する。ドーピング密度は、体積単位当たりのドナーの量に依存する。アニーリングが約200°Cで行われるときは、正孔および水素関連錯体の分布はほとんど変化しない。
【0122】
P原子がフィールドストップ層に深く注入されるときは、通常は高いアニーリング温度が必要とされることが理解されよう。しかしながら、Pを注入することによってフィールドストップ層が形成されるIGBTの場合、高アニーリング温度はN型基板の前面のMOSFET構造を破壊する。本出願のこの実施形態で提供される、フィールドストップ層がHとPとの両方を注入して形成されるIGBTによれば、Pの注入深さは浅く、それほど高いアニーリング温度は必要とされない。したがって、N型基板の前面のMOSFET構造が損傷するのを防止することができる。加えて、H+を注入することによって導入される大量の有益な欠点が減少するのを回避でき、IGBTのコレクタ-エミッタ間のリーク電流を低減することができる。
【0123】
図8は、本出願の一実施形態による、IGBTの電界の概略図である。フィールドストップ領域に対応する電界曲線の傾斜は徐々に減少しており、その結果、電圧強度がフィールドストップ領域で急速に低下していることが図8からわかる。このように、過度に高いピーク電圧は生成されない。これにより、過度に高いピーク電圧を回避し、IGBT自体、または回路内の他のコンポーネントが、過電圧により破損したり損傷したりするのを防止する。
【0124】
図9は、本出願の一実施形態による、IGBTに対応する電圧変化図である。同図に示すように、曲線1は、別のIGBTトランジスタがオフにされたときに生じる電圧曲線であり、曲線2は、本出願のこの実施形態のIGBTトランジスタがオフにされたときに生じる電圧曲線であり、曲線1および2のピークに対応する電圧値がピーク電圧値である。本出願のこの実施形態のIGBTトランジスタがオフにされたときに生成されるピーク電圧は明らかに低下しており、IGBTトランジスタの性能が効果的に改善されていることが図9からわかる。
【0125】
最終的に、適用プロセスにおいて、IGBTデバイスは、IGBTディスクリートデバイス、IGBTモジュール、およびインテリジェントパワーモジュール(intelligent power module、IPM)などのパワーモジュールにパッケージングされてもよい。IGBTディスクリートデバイスは単管IGBTであってもよく、あるいは単管IGBTと逆並列ダイオードとを含むデバイスであってもよい。IGBTモジュールは、複数のIGBTチップとダイオードチップとを、絶縁して組み立ててDBC基板にし、その後カプセル化を行うことによって得られる。IPMは「複合型」デバイスであり、駆動回路、過電圧および過電流保護回路、ならびに温度監視および過熱保護回路などの周辺回路を有する、IGBTなどのパワーデバイスを統合している。
【0126】
本発明の実施形態において使用される技術用語は、具体的な実施形態を記載するために使用されるにすぎず、本発明を限定するものではない。本明細書では、単数形「1つ」、「これ」、および「その」は、文脈において他に明確に規定されていない限り、複数形を同時に含むものである。さらに、本明細書で使用される「含む」および/または「含んでいる」という用語は、特徴、全体、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を指すが、1つまたは複数の他の特徴、全体、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在または追加を排除しない。
【0127】
添付の特許請求の範囲では、すべての装置またはステップおよび機能要素の対応する構造、材料、動作、および(もしあれば)等価な形態は、他の明示的に必要な要素を参照して機能を実行するために使用されるあらゆる構造、材料、または動作を含むものである。本発明の説明は、実施形態および説明の目的のために与えられるが、網羅的であるか、または本発明を開示された形態に限定するものではない。
【符号の説明】
【0128】
201 エミッタ
202 絶縁層
203 N+型エミッタ層
204 P+型ベース領域、P+型ベース層
205 酸化物層
206 ゲート
207 P型ベース層
208 N-型ドリフト層
209 フィールドストップ層
2091 第1のドープ領域
2092 第2のドープ領域
210 P+型コレクタ層
211 コレクタ
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9