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特許7516512リチウム二次電池正極活物質、その製造方法、及びこれを含むリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】リチウム二次電池正極活物質、その製造方法、及びこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20240708BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240708BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240708BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240708BHJP
【FI】
H01M4/505
C01G53/00 A
H01M4/36 C
H01M4/525
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022523167
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(86)【国際出願番号】 KR2020014281
(87)【国際公開番号】W WO2021075941
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0130033
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0135029
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 博明
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ムンホ
(72)【発明者】
【氏名】ホ, ギョンジェ
(72)【発明者】
【氏名】チェ, スンヒョン
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-222607(JP,A)
【文献】特開2014-041720(JP,A)
【文献】特開2012-190772(JP,A)
【文献】特開2015-099646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
C01G 53/00
H01M 4/36
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式1で表されるリチウム過剰層状酸化物;及び
前記化学式1で表されるリチウム過剰層状酸化物の表面に形成されたイオン伝導性コーティング層;を含み、
前記イオン伝導性コーティング層は、下記の化学式2で表される物質を含み、下記の化学式3で表される物質を含
1次粒子が凝集することによって2次粒子を形成する、二次電池用正極活物質。
[化1]rLiMnO・(1-r)LiNiCoMnM11-(x+y+z)
(前記化学式1において、0<r≦0.6、0<a≦1、0≦x≦1、0≦y<1、0≦z<1、及び0<x+y+z≦1であり、前記M1は、Na、K、Mg、Al、Fe、Cr、Y、Sn、Ti、B、P、Zr、Ru、Nb、W、Ba、Sr、La、Ga、Mg、Gd、Sm、Ca、Ce、Fe、Al、Ta、Mo、Sc、V、Zn、Cu、In、S、B、Ge、Si及びBiから選ばれる少なくともいずれか一つ以上である。)
[化2]LiM2
(前記0<a≦4、0<b≦5及び0<c≦12であり、M2は、Ti、Al及びZrから選ばれる少なくともいずれか一つ以上である。)
[化3]LiM3O
(前記0<a≦8、0<b≦15であり、M3は、Ba、Sr、B、P、Y、Nb、Mo、Ta及びWから選ばれる少なくともいずれか一つ以上である。)
【請求項2】
前記イオン伝導性コーティング層は、前記リチウム過剰層状酸化物に対して0.05モル%~5.0モル%の含量で含まれる、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記イオン伝導性コーティング層の厚さは1nm~100nmである、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記正極活物質は、大きさが300nm~10μmである1次粒子が前記2次粒子を構成する1次粒子中に50vol%~100vol%に調節される、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記化学式1の前記M1は、前記1次粒子を成長させる融剤(Flux)として作用するドーパントである、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記化学式1の前記M1は、Ba、Sr、B、P、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びWから選ばれる少なくともいずれか一つ以上である、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記化学式1の前記M1は、前記リチウム過剰層状酸化物全体の金属のモル数に対して0.001モル%~10モル%で含まれる、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記化学式1で表されるリチウム過剰層状酸化物に含まれるNi、Co、又はMnの全体の金属のモル数に対するリチウムのモル数の比率(Li/Ni+Co+Mn)は、1.1~1.6である、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項9】
前記化学式1で表されるリチウム過剰層状酸化物において、Ni全体のモル数に対するMnのモル数の比率(Mn/Ni)は、1~4.5である、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項10】
請求項1の二次電池用正極活物質を製造する方法において、
正極活物質前駆体を製造する第1段階;
前記正極活物質前駆体にリチウム化合物を混合して焼成し、リチウム複合酸化物を形成する第2段階;及び
前記第2段階で形成されたリチウム複合酸化物とコーティング前駆体とを混合し、イオン伝導性コーティング層を形成する第3段階;を含む、二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記第2段階は、前記化学式1のM1を含む化合物をさらに混合して焼成する、請求項10に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記コーティング前駆体は、TiO、Al、Al(OH)、ZrO、及びZr(OH)から選ばれる少なくともいずれか一つ以上である、請求項10に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項13】
請求項1の正極活物質を含む二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム過剰層状酸化物を含む正極活物質に関し、より詳細には、表面にイオン伝導性コーティング層が形成されたリチウム二次電池正極活物質、その製造方法、及びこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、MP3プレーヤー、タブレットPCなどの携帯用モバイル電子機器の発展に伴い、電気エネルギーを貯蔵できる二次電池に対する需要が爆発的に増加している。特に、電気自動車、中大型エネルギー貯蔵システム、及び高エネルギー密度が要求される携帯機器の登場により、リチウム二次電池に対する需要が増加している実情である。
【0003】
近年、正極活物質として最も脚光を浴びている物質は、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物Li(NiCoMn)O(この場合、前記x、y、zは、それぞれ独立的な酸化物組成元素の原子分率であり、0<x≦1、0<y≦1、0<z≦1、及び0<x+y+z≦1)である。この正極活物質材料は、これまで正極活物質として活発に研究されて使用されてきたLiCoOより高電圧で使用されるので、高容量を示すという長所を有し、Co含量が相対的に少ないので、低価格であるという長所を有する。しかし、レート特性(rate capability)及び高温での寿命特性が良くないという短所を有している。
【0004】
そこで、既存のLi(NiCoMn)Oを凌ぐ、高い可逆容量を示すリチウム過剰層状酸化物をリチウム二次電池に適用するための研究が進められている。
【0005】
しかし、このようなリチウム過剰層状酸化物は、寿命サイクリングの間に発生する放電容量減少(cycle life)及び電圧降下(voltage decay)現象が問題となるが、これらは、寿命サイクリング中における遷移金属の移動によるスピネルと類似する構造からキュービック(cubic)までの相転移によるものである。このようなリチウム過剰層状酸化物の放電容量減少及び電圧降下現象は、リチウム二次電池への商用化のために必ず解決しなければならない問題である。
【0006】
また、リチウム過剰層状酸化物の電気化学的特性を向上できる解決策が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、リチウム過剰層状酸化物を含む正極活物質のリチウムイオン伝導性を向上させ、抵抗を減少させることによって、充放電時に発生する過電圧を減少させ、レート特性を向上させることを目的とする。
【0008】
また、Mn-rich正極活物質のMn溶出を抑制し、サイクリング時に正極活物質の表面から開始されるスピネル(spinel)相から岩塩(rock-salt)相への格子変化を抑制することによって放電容量減少及び電圧降下を抑制し、寿命を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施例に係る正極活物質は、下記の化学式1で表されるリチウム過剰層状酸化物を含む。
[化1]rLiMnO・(1-r)LiNiCoMnM11-(x+y+z)
(前記化学式1において、0<r≦0.6、0<a≦1、0≦x≦1、0≦y<1、0≦z<1、及び0<x+y+z≦1であり、前記M1は、Na、K、Mg、Al、Fe、Cr、Y、Sn、Ti、B、P、Zr、Ru、Nb、W、Ba、Sr、La、Ga、Mg、Gd、Sm、Ca、Ce、Fe、Al、Ta、Mo、Sc、V、Zn、Cu、In、S、B、Ge、Si及びBiから選ばれる少なくともいずれか一つ以上である。)
【0010】
前記リチウム過剰層状酸化物は、単斜晶系(monoclinic)構造のLiMnOと菱面体(rhombohedral)構造のLiMOとが混在している固溶体相(phase)であり得る。また、前記Mは、Ni、Co、Mn及びM1から選ばれる少なくともいずれか一つ以上であり得る。
【0011】
また、前記リチウム過剰層状酸化物は、初期充放電プロファイルの4.4V領域でLiMnOによる平坦区間(plateau)が表れ得る。本発明の実施例に係る前記リチウム過剰層状酸化物は、初期充電過程時、リチウムと異なり、4.4V領域まではLiMnO相が電気化学的に非活性状態であり、4.4V以上ではLiMnO相でリチウムが脱離する反応及び酸素発生(oxygen evolution)が起こり得る。
【0012】
前記化学式1で表されるリチウム過剰層状酸化物に含まれるNi、Co、又はMnの全体の金属のモル数に対するリチウムのモル数の比率(Li/Ni+Co+Mn)は、1.1~1.6、1.2~1.6、1.3~1.6、又は1.4~1.5であり得る。
【0013】
前記化学式1において、前記xの値は、0より大きく0.5以下、0より大きく0.4以下、0より大きく0.3以下、0より大きく0.2以下、又は0より大きく0.1以下であり得る。
【0014】
前記化学式1において、前記yの値は、0より大きく0.5以下、0より大きく0.4以下、0より大きく0.3以下、0より大きく0.2以下、又は0.1~0.2であり得る。
【0015】
前記化学式1において、M1は、Na、K、Mg、Al、Fe、Cr、Y、Sn、Ti、B、P、Zr、Ru、Nb、W、Ba、Sr、La、Ga、Mg、Gd、Sm、Ca、Ce、Fe、Al、Ta、Mo、Sc、V、Zn、Nb、Cu、In、S、B、Ge、Si及びBiから選ばれる少なくともいずれか一つ以上の物質であり、一例として、前記リチウム過剰層状酸化物内に含まれ得るドーパントであり得る。より好ましくは、M1は、1次粒子の大きさをより成長させ、特定の範囲により適宜調節できるBa、Sr、B、P、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びWから選ばれる少なくともいずれか一つ以上であり得る。また、最も好ましくは、M1は、Nb及びTaから選ばれる少なくともいずれか一つ以上であり得る。
【0016】
また、Ni全体のモル数に対するMnのモル数の比率(Mn/Ni)が1~4.5、1~4、2~4.5、2~4、3~4.5、又は3~4であり得る。
【0017】
本発明の酸化物は、層状構造であり、リチウム原子層とNi、Co、Mn、又はM1の金属原子層とが酸素原子層を経て交互に重なった層状構造を有することができる。
【0018】
前記正極活物質の層状構造の層をなす面は、C軸に対して垂直な方向に結晶配向性を有し得るが、この場合、前記正極活物質内に含まれるリチウムイオンの移動性が向上し、前記正極活物質の構造安定性が増加し、電池への適用時、初期容量特性、出力特性、抵抗特性及び長期寿命特性が向上し得る。
【0019】
本発明に係る正極活物質は、表面上にイオン伝導性コーティング層を形成することによって、リチウム及びマンガンが豊富な酸化物のMn溶出を抑制し、サイクリング時に主に正極活物質の表面から発生するスピネル(spinel)相から岩塩(rock-salt)相への格子変化を抑制することによって、放電容量減少及び電圧降下を抑制することができる。
【0020】
また、本発明は、イオン伝導性コーティング層がリチウム過剰層状酸化物の粒子表面にコーティングされるので、イオン伝導度を向上させることによって抵抗を減少させ、その結果、寿命劣化及び電圧降下を抑制することができる。
【0021】
また、本発明は、イオン伝導性コーティング層がリチウム過剰層状酸化物の粒子表面にコーティングされるので、リチウム過剰層状酸化物で充放電時に発生する過電圧を減少させ、レート特性を向上させることができる。
【0022】
前記効果を達成するために、より好ましくは、前記イオン伝導性コーティング層は、Ti、Al及びZrから選ばれる少なくともいずれか一つ以上の元素を含むことができる。
【0023】
また、前記イオン伝導性コーティング層は、下記の化学式2で表される物質を含むことができる。
[化2]LiM2
前記化学式2において、前記0<a≦4、0<b≦5及び0<c≦12であり、M2は、Ti、Al及びZrから選ばれる少なくともいずれか一つ以上であり得る。
【0024】
前記効果を達成するために、前記イオン伝導性コーティング層は、前記リチウム過剰層状酸化物に対して0.05モル%~5モル%、0.1モル%~3モル%、0.1モル%~2モル%、又は0.5モル%~2モル%の含量で含まれ得る。
【0025】
前記イオン伝導性コーティング層は、前記化学式1で表されるリチウム過剰層状酸化物の表面上に均一又は不均一に含まれ得る。
【0026】
また、一例として、前記イオン伝導性コーティング層は、2次粒子又は1次粒子のそれぞれの表面上に形成され得る。
【0027】
また、一例として、前記イオン伝導性コーティング層は、2次粒子又は1次粒子の表面上でイオン伝導性コーティング層に含まれる元素が濃度勾配部を形成することができる。
【0028】
本発明の実施例に係る正極活物質において、前記イオン伝導性コーティング層の厚さは、1nm~100nm、より好ましくは10nm~100nmであり得る。前記コーティング層より薄い場合は改善効果が微々たるものとなり得る一方で、前記コーティング層より厚い場合は、リチウムイオンに対する抵抗が増加し得る。前記イオン伝導性コーティング層が前記範囲を満足する場合、本発明のMn-rich正極活物質のMn溶出を抑制し、サイクリング時に表面から開始されるスピネル(spinel)相から岩塩(rock-salt)相への格子変化を抑制することによって、放電容量減少及び電圧降下を抑制し、寿命を向上させることができる。
【0029】
本発明の実施例に係る前記正極活物質は、1次粒子が凝集することによって2次粒子を形成することができ、大きさが300nm~10μmである1次粒子が前記2次粒子を構成する1次粒子中に50vol%~100vol%、70vol%~100vol%、又は100vol%に調節され得る。
【0030】
また、一例として、前記正極活物質は、大きさが500nmより大きく10μm以下である1次粒子が前記2次粒子を構成する1次粒子中に50vol%~100vol%、70vol%~100vol%、又は100vol%に調節され得る。
【0031】
また、一例として、前記正極活物質は、大きさが1μm~10μmである1次粒子が前記リチウム過剰層状酸化物全体に対して50vol%~100vol%、70vol%~100vol%、又は100vol%に調節され得る。
【0032】
また、一例として、前記正極活物質は、大きさが1μmを超える1次粒子が前記リチウム過剰層状酸化物全体に対して50vol%~100vol%、70vol%~100vol%、又は100vol%に調節され得る。
【0033】
また、一例として、前記正極活物質は、大きさが2μm以上である1次粒子が前記リチウム過剰層状酸化物全体に対して50vol%~100vol%、又は50vol%~70vol%未満に調節され得る。
【0034】
また、一例として、前記正極活物質は、1次粒子の大きさが調節され、2次粒子内の1次粒子の数が1個~1,000個、1個~100個、1個~10個であるか、又は一つの1次粒子からなり得る。
【0035】
前記1次粒子の大きさは、粒子の最大長さを意味する。
【0036】
また、一例として、前記正極活物質の1次粒子の平均粒径は、500nmより大きく10μm以下、又は1μm~10μmに調節され得る。
【0037】
本発明は、リチウム過剰層状酸化物で発生する放電容量減少及び電圧降下の問題を解消し、正極活物質の密度を改善させるために1次粒子の大きさを調節することができる。
【0038】
しかし、1次粒子が大きくなると、リチウムイオン拡散距離が増加するので、充放電時にリチウムイオンの濃度分極(Concentration Polarization)による過電圧(Overpotential)が発生するという問題がある。結局、キネティクス(Kinetics)が低下し、却って正極活物質の容量が減少し得る。しかし、前記イオン伝導性コーティング層を形成することによって、リチウムイオンのキネティクスが増加するので、容量が増加し、過電圧が減少する。
【0039】
本発明の実施例に係る前記正極活物質の前記2次粒子の平均粒径は、2μm~20μmであり得る。
【0040】
本発明の平均粒径は、粒子の粒径分布曲線において、体積累積量の50%に該当する粒径と定義することができる。前記平均粒径は、例えば、レーザー回折法(laser diffraction method)を用いて測定することができる。
【0041】
本発明の実施例に係る前記正極活物質は、下記の実施例に係る製造工程条件で前駆体段階での1次粒子の大きさより正極活物質段階での1次粒子の大きさが増加する。また、下記の実施例に係る製造工程条件で(融剤として作用するドーパントが追加された正極活物質の1次粒子の大きさ)/(融剤として作用するドーパントが追加されていない正極活物質の1次粒子の大きさ)の比が1以上、より好ましくは30以上、最も好ましくは50以上である。
【0042】
前記化学式1の前記M1は、前記1次粒子を成長させる融剤(Flux)として作用するドーパントであり、格子構造にドーピングされ得る。一実施例として、リチウム化合物との焼成段階で前記融剤(Flux)ドーパントを添加・混合して共に熱処理することによって、1次粒子の大きさが増加するように調節することができる。融剤として作用することは、1次粒子間の成長によって1次粒子の大きさを増加させるドーパントとして作用し得ることを意味する。
【0043】
本発明の実施例に係る正極活物質では、単結晶構造に該当する部分が多いほど、すなわち、1次粒子の数が少ないほど、多結晶で表れる電圧降下の問題が改善され得る。
【0044】
本発明の実施例に係る前記正極活物質のXRD分析時、I(104)での半価幅(FWHM(deg.))は、0.1(deg.)~0.25(deg.)であり得るが、前記値は、マンガンの含量によって変化し得る。そこで、前記ドーパントM1の添加及び含量調節を通じて半価幅の減少率を調節することによって、寿命及び電圧降下の問題を解消することができる。
【0045】
本発明において、リチウム過剰層状酸化物で1次粒子の大きさを増加させるように調節することによって、同一の条件で焼成した場合、XRD分析時、I(104)での半価幅(FWHM(deg.))は、M1が含まれない比較例に比べて、M1が含まれる場合、5%~50%、5%~40%、5%~30%、5%~20%、10%~25%、又は10%~20%に減少するように調節することができる。
【0046】
本発明の実施例に係る正極活物質は、下記の化学式3で表される物質を含むことができる。下記の化学式3で表される物質は、1次粒子間の成長を誘導する融剤として作用するドーパントがリチウムと反応して生成される物質であり得る。
[化3]LiM3O
(前記0<a≦8、0<b≦15であり、M3は、Na、K、Mg、Al、Fe、Cr、Y、Sn、Ti、B、P、Zr、Ru、Nb、W、Ba、Sr、La、Ga、Mg、Gd、Sm、Ca、Ce、Fe、Al、Ta、Mo、Sc、V、Zn、Cu、In、S、B、Ge、Si及びBiから選ばれる少なくともいずれか一つ以上である。)
【0047】
前記化学式1の前記M1は、前記正極活物質を構成する全体の金属のモル数に対して0.001モル%~10モル%、0.01モル%~5.0モル%、0.01モル%~3.0モル%、0.1モル%~2.0モル%、0.1モル%~1.0モル%で含まれ得る。1次粒子の成長を誘導する融剤として含まれるドーパントM1が前記範囲を超える場合は、リチウム複合酸化物が過量で作られ、容量及び効率低下の原因になり得る一方で、ドーパントM1が前記範囲未満である場合は、1次粒子を成長させる効果が微々たるものとなり得る。
【0048】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の体積当たりのエネルギー密度(Wh/L)は、2.7(Wh/L)~4.0(Wh/L)であり得る。
【0049】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の体積当たりのエネルギー密度(Wh/L)は、M1が含まれていない物質に比べて5%~30%の比率で増加し得る。本発明に係る正極活物質は、リチウム過剰層状酸化物で1次粒子の大きさが増加するように調節することによって、体積当たりのエネルギー密度(Wh/L)は、M1が含まれていない比較例に比べて、M1が含まれる場合、5%~25%、5%~20%、10%~25%、又は10%~20%の比率で増加するように調節することができる。
【0050】
また、ドーパントM1の添加及び含量調節を通じて調節された前記正極活物質の充填密度(g/cc)は、2.0(g/cc)~4.0(g/cc)であり得る。
【0051】
また、ドーパントM1の添加及び含量調節を通じて調節された前記正極活物質の比表面積(BET、m/g)は、0.1(BET、m/g)~1.5(BET、m/g)であり得る。
【0052】
本発明に係る正極活物質においては、前記リチウム過剰層状酸化物で1次粒子の大きさを調節することによって、比表面積(BET、m/g)は、M1が含まれていない比較例に比べて、M1が含まれる場合、20%~80%の比率で減少するように調節することができる。
【0053】
本発明は、前記1次粒子の成長を誘導し、前記正極活物質の単結晶構造に該当する部分を調節することによって、体積当たりのエネルギー密度を増加させ、比表面積を減少させることによって正極活物質の表面部が減少し、その結果、寿命及び電圧降下の問題を解消することができる。本発明において、前記1次粒子の成長を誘導することは、nucleation & ostwald ripening & particle aggregation概念を全て含む。
【0054】
本発明の実施例に係る正極活物質の製造方法は、一例として、炭酸塩又は水酸化物などの正極活物質前駆体を製造する第1段階を含む。
【0055】
前記前駆体粒子の平均粒径は、2μm~20μmであり得る。
【0056】
前記前駆体の製造は、共沈(co-precipitation)、噴霧乾燥(spray-drying)、固相法、湿式粉砕、流動層乾燥法、振動乾燥法で行うことができ、これに特に制限されない。
【0057】
本発明の実施例に係る正極活物質の製造方法において、前記第1段階後、第2段階前に、300℃~600℃、又は500℃~600℃で製造された前駆体を焙焼する段階をさらに含むことができる。
【0058】
本発明の実施例に係る正極活物質の製造方法において、前記第1段階後、第2段階前に、前記焼成された物質を水洗及び乾燥する段階をさらに含むことができる。
【0059】
次に、前記正極活物質前駆体にリチウム化合物を混合して焼成し、リチウム複合酸化物を形成する第2段階を含む。
【0060】
前記第2段階は、前記化学式1のM1を含む化合物をさらに混合して焼成することができる。前記M1は、リチウム過剰層状酸化物の粒子に対して0.1モル%~1.0モル%、又は0.3モル%~0.8モル%で混合され得る。
【0061】
前記課題を解決するために、前記焼成する段階の温度は、750℃~950℃、又は850℃~950℃であり得る。
【0062】
本発明の実施例に係る正極活物質の製造方法において、前記第2段階後、第3段階前に、前記焼成された物質を水洗及び乾燥する段階をさらに含むことができる。
【0063】
次に、前記第2段階で形成されたリチウム複合酸化物とコーティング前駆体とを混合し、イオン伝導性コーティング層を形成する第3段階を含む。
【0064】
本発明は、下記の工程を通じて、リチウム過剰層状酸化物の表面上にイオン伝導性コーティング層を均一に塗布することができる。
【0065】
第3段階において、前記コーティング前駆体には乾式混合工程を行うことができる。
【0066】
また、第3段階において、前記コーティング前駆体には湿式混合工程を行うことができ、一例として、前記コーティング前駆体を水、アルコール、又は分散溶液などに分散又は溶解させ、これを前記第2段階で形成された物質と混合することができる。
【0067】
前記第3段階は、第2段階で形成された物質とコーティング前駆体とを混合した後、400℃~800℃、又は600℃~800℃で7時間~12時間維持した後、炉冷(Furnace cooling)する段階を含むことができる。
【0068】
一例として、イオン伝導性コーティング層にTi、Al及びZrから選ばれる少なくともいずれか一つ以上を含む場合、前記コーティング前駆体は、TiO、Al、Al(OH)、ZrO、及びZr(OH)から選ばれる少なくともいずれか一つ以上であり得るが、これに特に限定されるのではない。
【0069】
本発明の実施例に係る二次電池は前記正極活物質を含む。
【0070】
前記正極活物質は、上述した通りであり、バインダー、導電材、及び溶媒は、二次電池の正極集電体上に使用できるものであれば、これに特に制限されない。
【0071】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極、前記正極と対向して位置する負極、及び前記正極と前記負極との間に位置する電解質を含み得るが、二次電池として使用できるものであれば、これに特に制限されない。
【発明の効果】
【0072】
本発明は、リチウム過剰層状酸化物でリチウムイオン伝導性を向上させ、抵抗を減少させることによって、充放電時に発生する過電圧を減少させ、レート特性を向上させる。
【0073】
また、Mn-rich正極活物質のMn溶出を抑制し、サイクリング時に表面から開始されるスピネル(spinel)相から岩塩(rock-salt)相への格子変化を抑制することによって、放電容量減少及び電圧降下を抑制し、寿命を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】本発明の実施例に係るEDS測定結果を示す図である。
図2】本発明の実施例に係るEDS測定結果を示す図である。
図3】本発明の実施例及び比較例に係るSEM測定結果を示す図である。
図4】本発明の実施例及び比較例に係るXRD分析結果を示す図である。
図5】本発明の実施例及び比較例に係るXRD分析結果を示す図である。
図6】本発明の実施例及び比較例に係る充放電特性グラフである。
図7】本発明の実施例及び比較例に係る過電圧曲線グラフである。
図8】本発明の実施例及び比較例に係るレート特性グラフである。
図9】本発明の実施例及び比較例に係る寿命特性グラフである。
図10】本発明の実施例及び比較例に係る寿命特性グラフである。
図11】本発明の実施例及び比較例に係る電圧特性グラフである。
図12】本発明の実施例及び比較例に係る電圧特性グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0075】
以下では、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、本発明が以下の実施例によって限定されるのではない。
【0076】
本明細書で使用される「含む」などの表現は、他の構成要素を含む可能性を内包する開放型用語(open-ended terms)と理解しなければならない。
【0077】
本明細書で使用される「好ましい」及び「好ましく」は、所定の環境下で所定の利点を提供できる本発明の実施形態を称するものであり、本発明の範疇から他の実施形態を排除しようとするものではない。
【0078】
<実施例1>正極活物質の製造
【0079】
合成
共浸法(co-precipitation method)を用いて球状のNi0.2Co0.1Mn0.7CO前駆体を合成した。90L級の反応器でNiSO・6HO、CoSO・7HO、及びMnSO・HOを20:10:70のモル比(mole ratio)で混合した2.5Mの複合遷移金属硫酸水溶液に25wt%のNaCOと28wt%のNHOHを投入した。このとき、反応器内のpHは10.0~12.0に維持し、温度は45℃~50℃に維持した。また、不活性ガスであるNを反応器に投入し、製造された前駆体が酸化されることを防止した。
【0080】
合成・撹拌が完了した後、フィルタープレス(Filter Press、F/P)装備を用いて洗浄及び脱水を進行した。最終的に、脱水品を120℃で2日間乾燥し、75μm(200mesh)の篩でろ過し、18μm及び4μmのNi0.20.1Mn0.7CO前駆体を得た。
【0081】
焙焼
前記製造された前駆体をBox焼成炉でO又は空気(50L/min)雰囲気に維持し、1分当たり2℃に昇温し、550℃で1時間~6時間維持した後、炉冷(furnace cooling)した。
【0082】
焼成
前記焙焼された前駆体に対して、Li/(Ni+Co+Mn)の比率が1.45になるようにLiOH又はLiCOを秤量し、融剤ドーパント(Flux dopant)としてNbを0.6モル%秤量し、これらをミキサー(Manual mixer、MM)を用いて混合した。
【0083】
前記混合品をBox焼成炉でO又は空気(50L/min)雰囲気に維持し、1分当たり2℃に昇温し、焼成温度900℃で7時間~12時間維持した後、炉冷(furnace cooling)することによってリチウム複合酸化物の粒子を製造した。
【0084】
コーティング
表面処理用ドーパントとしてTiO 1.0モル%を秤量し、これをミキサー(Manual mixer、MM)を用いて混合した。
【0085】
前記混合品をBox焼成炉でO又は空気(50L/min)雰囲気に維持し、1分当たり4.4℃に昇温し、焼成温度700℃で7時間~12時間維持した後、炉冷(furnace cooling)することによって正極活物質を製造した。
【0086】
<実施例2>正極活物質の製造
前記実施例1のコーティング段階において、表面処理ドーパントとしてAl 1.0モル%を混合することを除いては、前記実施例1と同一の方法で正極活物質を製造した。
【0087】
<実施例3>正極活物質の製造
前記実施例1のコーティング段階において、表面処理ドーパントとしてn-ZrO 1.0モル%を混合することを除いては、前記実施例1と同一の方法で正極活物質を製造した。
【0088】
<実施例4>正極活物質の製造
前記実施例1のコーティング段階において、表面処理ドーパントとしてTiO 0.19モル%,Al 0.77モル%、及びn-ZrO 0.04モル%を混合することを除いては、前記実施例1と同一の方法で正極活物質を製造した。
【0089】
<比較例1>正極活物質の製造
前記実施例1で融剤ドーパント(Flux dopant)を混合せず、コーティング段階を行わないことを除いては、前記実施例1と同一の方法で正極活物質を製造した。
【0090】
<比較例2>正極活物質の製造
前記実施例1でコーティング段階を行わないことを除いては、前記実施例1と同一の方法で正極活物質を製造した。
【0091】
<製造例>リチウム二次電池の製造
前記実施例及び比較例に係る正極活物質90重量%、カーボンブラック5.5wt%、PVDFバインダー4.5wt%をN-メチル-2ピロリドン(NMP)30gに分散させ、正極スラリーを製造した。前記正極スラリーを厚さ15μmの正極集電体であるアルミニウム(Al)薄膜に塗布及び乾燥し、ロールプレス(roll press)を実施することによって正極を製造した。正極のローディングレベルは5.5mg/cmであり、電極密度は2.3g/cmであった。
【0092】
前記正極に対して金属リチウムを対極(counter electrode)とし、電解液としては1M LiPF、EC/DMC=1/1(v/v)を使用した。
【0093】
前記正極と負極との間に多孔質ポリエチレン(PE)フィルムからなるセパレーターを介在させることによって電池組立体を形成し、前記電解液を注入することによってリチウム二次電池(コインセル)を製造した。
【0094】
<実験例>
図1を参照すると、前記実施例1~3に係る正極活物質の表面にTi、Al及びZrコーティング層が均一に分布することを確認することができる。
【0095】
図2を参照すると、前記実施例4に係る正極活物質の表面にTi、Al及びZrコーティング層が均一に分布することを確認することができる。
【0096】
図3を参照すると、融剤ドーパント(Flux dopant)Nbによって1次粒子が成長し、成長された1次粒子上にTi、Al及びZrコーティング層が形成されたことを確認することができる。
【0097】
図4及び図5のXRD分析は、CuK α radiation=1.5406Åの波長で使用された。図4及び図5を参照すると、表面処理用ドーパントが粒子の表面に一部ドーピングされる結果を確認することができる。また、一部のドーピングによるインタースラブ(Interslab)拡張効果により、リチウムイオンの拡散を容易にすることを確認することができる。
【0098】
図6を参照すると、比較例2の場合、1次粒子が大きくなるにつれて、リチウムイオン拡散距離が増加するので、キネティクス(Kinetics)が減少し、容量が小幅に減少するという問題があるが、イオン伝導性コーティング層を形成した実施例の場合、容量が増加することを確認することができる。これは、イオン伝導性が増加し、リチウムイオンのキネティクスが増加するためである。
【0099】
図7を参照すると、比較例2の場合、1次粒子が大きくなるにつれて、リチウムイオン拡散距離が増加するので、リチウムイオンの濃度分極(Concentration polarization)による過電圧(Overpotential)が発生するという問題があるが、イオン伝導性コーティング層を形成した実施例の場合、過電圧が減少することを確認することができる。これは、リチウムイオンのキネティクスが増加するためである。
【0100】
図8を参照すると、比較例2に比べて、実施例のレート特性が約10%以上向上することを確認することができる。これは、イオン伝導性コーティング層によって抵抗が減少するためである。
【0101】
図9及び図10を参照すると、比較例2に比べて、実施例の寿命特性が向上し、容量維持率が80%以上であることを確認することができる。これは、イオン伝導性コーティング層によって抵抗が減少し、Mn溶出を抑制し、サイクリング時に表面から開始されるスピネル相から岩塩相への相変化を抑制するためである。
【0102】
図11及び図12を参照すると、比較例2に比べて、実施例の電圧維持率が向上し、電圧降下の問題が解消されることを確認することができる。これは、イオン伝導性コーティング層により、サイクリング時に発生するリチウム過剰層状酸化物の相変化が抑制されたためである。
【0103】
以上の実験結果を下記の表1に示した。
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12