(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】顆粒状食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20240708BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20240708BHJP
A23L 29/10 20160101ALI20240708BHJP
A23L 23/10 20160101ALN20240708BHJP
【FI】
A23L5/00 D
A23D9/00 514
A23L29/10
A23D9/00
A23L23/10
(21)【出願番号】P 2022557393
(86)(22)【出願日】2021-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2021036859
(87)【国際公開番号】W WO2022085440
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2020177979
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021115282
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000106531
【氏名又は名称】サンヨー食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】永岡 宏行
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-021016(JP,A)
【文献】特開2003-304826(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135439(WO,A1)
【文献】特開2005-328794(JP,A)
【文献】特開昭58-146238(JP,A)
【文献】特開平10-305221(JP,A)
【文献】国際公開第2008/059652(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、
(B)ポリオールと、
(C)油脂と、
(D)食品原料と
を含む顆粒状食品であって、安息角と崩壊角の和が87度以下であり、圧縮率が15%以下であ
り、前記ポリオールがグリセリンである、顆粒状食品。
【請求項2】
前記安息角と崩壊角の和が82度以下であり、圧縮率が12%以下である、請求項1に記載の顆粒状食品。
【請求項3】
前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分の炭素原子数が16~22である、請求項1又は2のいずれかに記載の顆粒状食品。
【請求項4】
前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルが、モノグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとの混合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の顆粒状食品。
【請求項5】
前記ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸部分の炭素原子数が16~22である、請求項1~4のいずれか一項に記載の顆粒状食品。
【請求項6】
前記ショ糖脂肪酸エステルが、ショ糖パルミチン酸エステル及びショ糖ステアリン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の顆粒状食品。
【請求項7】
前記脂肪酸エステルの含有量が0.2質量%~1.6質量%である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の顆粒状食品。
【請求項8】
前記油脂の含有量が1質量%~20質量%である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の顆粒状食品。
【請求項9】
デキストリン化合物の含有量が10質量%以下である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の顆粒状食品。
【請求項10】
澱粉及び加工澱粉の合計含有量が10質量%以下である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の顆粒状食品。
【請求項11】
前記脂肪酸エステルの融点が50℃以上である、請求項1~
10のいずれか一項に記載の顆粒状食品。
【請求項12】
前記脂肪酸エステル及び前記食品原料を含む混合物が、前記ポリオール及び前記油脂を含む混合物で被覆されている、請求項1~
11のいずれか一項に記載の顆粒状食品。
【請求項13】
前記顆粒状食品が顆粒状スープである、請求項1~
12のいずれか一項に記載の顆粒状食品。
【請求項14】
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(D)食品原料との混合物を造粒して造粒物を形成すること、及び
(B)ポリオール及び(C)油脂を含むポリオール分散油を前記造粒物に吹き付けること、
を含む顆粒状食品の製造方法
であって、前記ポリオールがグリセリンである、顆粒状食品の製造方法。
【請求項15】
(D)食品原料を造粒して造粒物を形成すること、並びに
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(B)ポリオールと、(C)油脂とを含むポリオール分散油を前記造粒物に吹き付けること、
を含む顆粒状食品の製造方法
であって、前記ポリオールがグリセリンである、顆粒状食品の製造方法。
【請求項16】
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(D)食品原料との第1混合物を調製すること、
(B)ポリオール及び(C)油脂を含むポリオール分散油と、前記第1混合物との第2混合物を調製すること、及び
前記第2混合物を造粒して造粒物を形成すること、
を含む顆粒状食品の製造方法
であって、前記ポリオールがグリセリンである、顆粒状食品の製造方法。
【請求項17】
前記ポリオール分散油が、エキス及びペースト状調味料からなる群より選ばれる少なくとも1つの添加物を更に含む、請求項
16に記載の顆粒状食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、顆粒状食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
即席カップ麺、即席カップスープなどの即席食品のスープとして、一般に粉末スープを造粒によって顆粒状にしたものが用いられる。粒径の小さい粉末スープは、即席食品の容器に充填する際に飛散し易い。飛散した粉末スープは、静電気又は湿気により容器内壁に付着する、あるいは充填工程における充填量の制御を困難にするおそれがある。顆粒状スープではこれらの問題が生じにくい。粉末スープを顆粒状に加工する方法としては、例えば、押出造粒及び流動層造粒が知られている。
【0003】
液体又は半固体の油脂を増量することで即席食品の風味及び美味しさを高めることができる。油脂を増量する手段として、液体油脂を乳化し、噴霧乾燥などにより乾燥して得られる粉末油脂が一般に知られている。粉末油脂中の液体油脂は乳化されているため、即席食品にお湯を注加してもスープ表面に油滴が殆ど生じない。そのため、粉末油脂を使用した即席食品の喫食時の外観は、店舗で提供されるラーメン、スープなどとは異なる。
【0004】
即席食品のカレー風味のスープなどにおいては、押出造粒を用いて油脂を高濃度で含有させた顆粒状スープが知られている。しかし、押出造粒は高温工程を含むため、調味油の香気が失われ易い。
【0005】
即席食品の喫食時の外観を店舗で提供される食品により近づけ、調味油の香気を維持するために、個包装された液体又は半固体の調味油を即席食品に添付することが一般に知られている。個包装された調味油は、即席食品の容器の蓋の上に糊付けされるか、あるいは容器の内部に封入された状態で製品として出荷され、喫食時に即席食品に添加される。しかし、調味油の個包装は、追加の包装資材及び工数を要するため、即席食品の製造コストを増加させる。そのため、高濃度で油脂を含有する顆粒状スープが望まれている。
【0006】
特許文献1(特開2015-019589号公報)は、「5~30重量%の油脂、油脂包含用基材、およびポリオールを含む、粉末または顆粒状の調味料組成物」を記載している。
【0007】
特許文献2(特開2004-035700号公報)は、「油脂、油脂包含用基材、およびポリオールを含有し、水分含有量が15重量%以下であると共に、最大粒径が10mm以下、平均粒径が5mm以下であり、さらに、安息角が70°以下であることを特徴とする粉状または粒状油脂」を記載している。
【0008】
特許文献3(特開昭64-027430号公報)は、「油脂、油脂包含用基材およびポリオールを含んでなる油脂含有組成物であって、その水分含量が15重量%以下であり、粒子径が最大10mm以下で、かつ平均粒径が5mm以下、安息角が70°以下であることを特徴とする粉状または粒状油脂」を記載している。
【0009】
特許文献4(特開昭59-166043号公報)は、「回分式混合機を用い、加温した粉粒体へ融点が30~70℃、常温で固体脂指数70以上の溶融オイルを添加、混合、冷却することを特徴とする粉粒体のオイル被覆法」を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-019589号公報
【文献】特開2004-035700号公報
【文献】特開昭64-027430号公報
【文献】特開昭59-166043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
顆粒状スープに含まれる油脂の濃度が高くなると、顆粒状スープの表面に油脂が滲出して顆粒状スープの粉体としての流動性が低下する。流動性が低い顆粒状スープは、ホッパーの排出口でのブリッジの形成、又はホッパーの内壁への付着により、充填工程に支障をきたすおそれがあり、充填量の制御も難しい。
【0012】
本開示は、高濃度で油脂を含有しつつ、容器への充填に適した高い流動性を有しており、熱水を注加したときに油脂の油滴を形成することができる顆粒状食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、特定の脂肪酸エステルとポリオールとを組み合わせることで、油脂を高濃度で含有させた場合であっても顆粒状食品の流動性を高めることができることを見出して、本発明を完成させた。
【0014】
本発明は、以下の実施態様[1]~[18]を包含する。
[1]
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、
(B)ポリオールと、
(C)油脂と、
(D)食品原料と
を含む顆粒状食品であって、安息角と崩壊角の和が87度以下であり、圧縮率が15%以下である、顆粒状食品。
[2]
前記安息角と崩壊角の和が82度以下であり、圧縮率が12%以下である、[1]に記載の顆粒状食品。
[3]
前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分の炭素原子数が16~22である、[1]又は[2]のいずれかに記載の顆粒状食品。
[4]
前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルが、モノグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとの混合物を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の顆粒状食品。
[5]
前記ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸部分の炭素原子数が16~22である、[1]~[4]のいずれかに記載の顆粒状食品。
[6]
前記ショ糖脂肪酸エステルが、ショ糖パルミチン酸エステル及びショ糖ステアリン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の顆粒状食品。
[7]
前記ポリオールがグリセリンを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の顆粒状食品。
[8]
前記脂肪酸エステルの含有量が0.2質量%~1.6質量%である、[1]~[7]のいずれかに記載の顆粒状食品。
[9]
前記油脂の含有量が1質量%~20質量%である、[1]~[8]のいずれかに記載の顆粒状食品。
[10]
デキストリン化合物の含有量が10質量%以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の顆粒状食品。
[11]
澱粉及び加工澱粉の合計含有量が10質量%以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の顆粒状食品。
[12]
前記脂肪酸エステルの融点が50℃以上である、[1]~[11]のいずれかに記載の顆粒状食品。
[13]
前記脂肪酸エステル及び前記食品原料を含む混合物が、前記ポリオール及び前記油脂を含む混合物で被覆されている、[1]~[12]のいずれかに記載の顆粒状食品。
[14]
前記顆粒状食品が顆粒状スープである、[1]~[13]のいずれかに記載の顆粒状食品。
[15]
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(D)食品原料との混合物を造粒して造粒物を形成すること、及び
(B)ポリオール及び(C)油脂を含むポリオール分散油を前記造粒物に吹き付けること、
を含む顆粒状食品の製造方法。
[16]
(D)食品原料を造粒して造粒物を形成すること、並びに
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(B)ポリオールと、(C)油脂とを含むポリオール分散油を前記造粒物に吹き付けること、
を含む顆粒状食品の製造方法。
[17]
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(D)食品原料との第1混合物を調製すること、
(B)ポリオール及び(C)油脂を含むポリオール分散油と、前記第1混合物との第2混合物を調製すること、及び
前記第2混合物を造粒して造粒物を形成すること、
を含む顆粒状食品の製造方法。
[18]
前記ポリオール分散油が、エキス及びペースト状調味料からなる群より選ばれる少なくとも1つの添加物を更に含む、[17]に記載の顆粒状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高濃度で油脂を含有しつつ、容器への充填に適した高い流動性を有しており、熱水を注加したときに油脂の油滴を形成することができる顆粒状食品を提供することができる。
【0016】
上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的で、詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0018】
〈顆粒状食品〉
一実施態様の顆粒状食品は、(A)脂肪酸エステルと、(B)ポリオールと、(C)油脂と、(D)食品原料とを含む。
【0019】
(A)脂肪酸エステル
脂肪酸エステルは、グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つである。いかなる理論に拘束される訳ではないが、脂肪酸エステルは、液体又は半固体の油脂の共存下でネットワーク構造を形成して、そのネットワーク構造の内部にその液体又は半固体の油脂を取り込むことにより、ゲル又は固形物を形成させると考えられる。このことは、ゲル又は固形物中で油脂は粗乳化されているともいえる。これにより、顆粒状食品の油脂の含有量を高めつつ、油脂の滲み出しを抑制して顆粒状食品に高い流動性を付与することができる。また、脂肪酸エステルのネットワーク構造は、例えば90℃~100℃の熱水中で崩壊して、粗乳化された比較的大きい油脂の塊を外部に放出する。これにより、顆粒状食品に熱水を注加したときに油脂の油滴を形成することができる。
【0020】
脂肪酸エステルの融点は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上である。脂肪酸エステルの融点が50℃以上であることにより、脂肪酸エステルの溶融を回避しつつ顆粒状食品に防湿性を賦与することができる。脂肪酸エステルの融点は、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。脂肪酸エステルの融点が100℃以下であることにより、メンテナンス製造設備の配管内の洗浄等を容易に行うことができる。
【0021】
《(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル》
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸とグリセリン又はグリセリンの縮合物(ポリグリセリン)とのエステルである。グリセリン部分の平均重合度は1~8である。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、完全にエステル化されていてもよく、部分エステル化されていてもよい。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分は、飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0022】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルのHLBは、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下である。親油基の多い(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを含む顆粒状食品は高い防湿性を有する。この観点から、脂肪酸エステルのHLBは、1以上、又は3以上とすることができる。本開示において、HLBは、Griffinの経験式から算出される値である。
HLB=20×(1-SV/NV)
SV:(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステルのけん化値
NV:脂肪酸の中和価
【0023】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分の炭素原子数は16~22であることが好ましい。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとして、例えば、モノグリセリンパルミチン酸エステル、モノグリセリンステアリン酸エステル、モノグリセリンエイコサン酸エステル、モノグリセリンベヘン酸エステルなどのモノグリセリン脂肪酸エステル;ジグリセリンパルミチン酸エステル、ジグリセリンステアリン酸エステル、ジグリセリンエイコサン酸エステル、ジグリセリンベヘン酸エステルなどのジグリセリン脂肪酸エステル;トリグリセリンパルミチン酸エステル、トリグリセリンステアリン酸エステル、トリグリセリンエイコサン酸エステル、トリグリセリンベヘン酸エステルなどのトリグリセリン脂肪酸エステル;テトラグリセリンパルミチン酸エステル、テトラグリセリンステアリン酸エステル、テトラグリセリンエイコサン酸エステル、テトラグリセリンベヘン酸エステルなどのテトラグリセリン脂肪酸エステル;ペンタグリセリンパルミチン酸エステル、ペンタグリセリンステアリン酸エステル、ペンタグリセリンエイコサン酸エステル、ペンタグリセリンベヘン酸エステルなどのペンタグリセリン脂肪酸エステル;ヘキサグリセリンパルミチン酸エステル、ヘキサグリセリンステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンエイコサン酸エステル、ヘキサグリセリンベヘン酸エステルなどのヘキサグリセリン脂肪酸エステル;ヘプタグリセリンパルミチン酸エステル、ヘプタグリセリンステアリン酸エステル、ヘプタグリセリンエイコサン酸エステル、ヘプタグリセリンベヘン酸エステルなどのヘプタグリセリン脂肪酸エステル;オクタグリセリンパルミチン酸エステル、オクタグリセリンステアリン酸エステル、オクタグリセリンエイコサン酸エステル、オクタグリセリンベヘン酸エステルなどのオクタグリセリン脂肪酸エステル;及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸部分がステアリン酸(炭素原子数18)である、(ポリ)グリセリンステアリン酸エステルを含むことがより好ましい。
【0024】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、モノグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとの混合物を含むことが好ましく、モノグリセリンベヘン酸エステル及びオクタグリセリンステアリン酸エステルの混合物;モノグリセリンステアリン酸エステル、ペンタグリセリンパルミチン酸エステル、及びペンタグリセリンステアリン酸エステルの混合物;又はモノグリセリンステアリン酸エステル、及びジグリセリンステアリン酸エステルの混合物を含むことがより好ましく、モノグリセリンベヘン酸エステル及びオクタグリセリンステアリン酸エステルの混合物を含むことが特に好ましい。モノグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとの混合物は、顆粒状食品の流動性を改善し、喫食時の油滴形成を促進し、油脂及び香辛料抽出物(スパイス)を包括して風味を保持することができる。
【0025】
《ショ糖脂肪酸エステル》
ショ糖脂肪酸エステルは、脂肪酸とショ糖とのエステルである。ショ糖脂肪酸エステルのHLBは8以下である。ショ糖脂肪酸エステルは、完全にエステル化されていてもよく、部分エステル化されていてもよい。ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸部分は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸部分は、飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0026】
ショ糖脂肪酸エステルのHLBは、好ましくは6以下、より好ましくは4以下である。親油基が多く親水基が少ないショ糖脂肪酸エステルを含む顆粒状食品は高い防湿性を有する。この観点から、ショ糖脂肪酸エステルのHLBは、1以上、又は3以上とすることができる。
【0027】
ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸部分の炭素原子数は16~22であることが好ましい。ショ糖脂肪酸エステルとして、例えば、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖エイコサン酸エステル、及びショ糖ベヘン酸エステルが挙げられる。ショ糖脂肪酸エステルは、脂肪酸部分がパルミチン酸(炭素原子数16)である、ショ糖パルミチン酸エステル、及び脂肪酸部分がステアリン酸(炭素原子数18)である、ショ糖ステアリン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましい。
【0028】
(B)ポリオール
ポリオールは複数のアルコール性水酸基を有する化合物であり、環境中の湿度に応じて水分を保持又は放出する能力(保湿性)を有する。いかなる理論に拘束される訳ではないが、ポリオールを疎水性の油脂と組み合わせることで、油脂を半固体化又は固体化させて、顆粒状食品に保持させることができる。
【0029】
ポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、無毒性グリコール、糖類、若しくは糖アルコール、又はこれら2種以上の組み合わせを使用することができる。無毒性グリコールとしては、例えば、グリセリン、及びプロピレングリコールが挙げられる。糖類としては、例えば、ショ糖、及びブドウ糖が挙げられる。糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール、キシリトール、及びマンニトールが挙げられる。ポリオールは常温(23℃)で液体であることが好ましい。ポリオールがグリセリンを含むことが特に好ましい。
【0030】
(C)油脂
油脂としては、特に限定されないが、植物油、動物油脂、若しくは加工油脂、又はこれらの2種以上の組み合わせを使用することができる。植物油としては、例えば、大豆油、なたね油、パーム油、ヤシ油、コーン油、綿実油、ごま油、米油、オリーブ油、紅花油、落花生油、グレープシード油、しそ油、亜麻仁油、椿油、月見草油、ハーブ油、及びラー油が挙げられる。動物油脂としては、例えば、豚脂(ラード)、牛脂(ヘット)、鶏脂、及び魚油が挙げられる。加工油脂としては、例えば、マーガリン、ショートニング、中鎖脂肪酸含有油、モノグリセリド、及びジグリセリドが挙げられる。
【0031】
(D)食品原料
食品原料は、顆粒状食品の風味及び香味を決定する主成分であり、一般に、結晶物及び粉末原料を含む混合物である。
【0032】
結晶物としては、例えば、塩、グラニュー糖、グルタミン酸ソーダ、イノシン酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、グルコース、及びリボヌクレオチド二ナトリウムが挙げられる。結晶物は微粒子化されていることが好ましい。
【0033】
粉末原料は一般に風味成分を含む。風味成分とは、味(味覚)又は香り(嗅覚)を食品に付与する要素である。風味成分としては、例えば、食塩、砂糖などの一般調味料;醤油、食酢、味醂、味噌などの発酵調味料;ガーリック、ジンジャー、胡椒、ローレル、タイム、セイジなどのスパイス;肉エキス、魚介エキス、野菜エキスなどのエキス;クエン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸などの酸味料;及びアミノ酸、核酸、酸味料以外の有機酸、無機塩、酵母エキス、タンパク加水分解物、核酸分解物などの調味料が挙げられる。粉末原料は、香辛料、香料、安定剤(カゼインナトリウム、キサンタンガムなど)、乳化剤、若しくは酸化防止剤、又はこれらの2種以上の組み合わせを更に含んでもよい。
【0034】
《安息角と崩壊角の和》
顆粒状食品の安息角と崩壊角の和は87度以下である。顆粒状食品の安息角と崩壊角の和は82度以下であることが好ましく、80度以下であることがより好ましい。安息角と崩壊角の和を87度以下に制御することにより、容器への充填に適した流動性を顆粒状食品に付与することができる。安息角及び崩壊角は、粉体特性評価装置を用いて、室温(23℃)にて以下の手順に従って決定される。直径8cmの円盤の上に出口高さ12cm、出口内径7mmの漏斗を通して顆粒状食品を落下させ、顆粒状食品が形成した山の裾野の角度を安息角、山に衝撃を3回与えた後の裾野の角度を崩壊角と定義する。
【0035】
《圧縮率》
顆粒状食品の圧縮率は15%以下である。顆粒状食品の圧縮率は12%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。圧縮率を15%以下に制御することにより、顆粒状食品の充填量の制御を精密に行うことができる。圧縮率は、粉体特性評価装置を用いて、室温(23℃)にて以下の手順に従って決定される。内径40mm、高さ80mm、容積100cm3の円筒容器の上面から38cmの高さに漏斗の出口(出口内径7mm)を合わせて、約120cm3の顆粒状食品を漏斗に入れて落下させたときに円筒容器に充填された顆粒状食品の質量をゆるめ嵩密度a(g/100cm3)とし、同じ円筒容器に継ぎ足し用のキャップを取り付け、ゆるめ嵩密度aの測定と同様の手順で顆粒状食品を落下させ、10回タッピングして顆粒状スープを密にし、その後キャップを外し、円筒容器の上面から突出した余剰の顆粒状食品を掻き取った後に円筒容器に充填されていた顆粒状スープの質量を固め嵩密度b(g/100cm3)として、式:(b-a)×100/bにより得られる値を圧縮率と定義する。
【0036】
顆粒状食品の平均粒径D50は、30μm~1600μm、40μm~1500μm、又は50μm~1400μmとすることができる。本開示において、粉末又は顆粒の平均粒径D50は、レーザー回折散乱法を用いて決定される累積体積中位径である。
【0037】
顆粒状食品の脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは0.2~1.6質量%、より好ましくは0.4~1.6質量%、更に好ましくは0.8~1.2質量%である。
【0038】
一実施態様では、顆粒状食品の脂肪酸エステルの含有量は、顆粒状食品の油脂の含有量に応じて決定される。例えば、油脂含有量6~8質量%の範囲では、脂肪酸エステル含有量を0.2~1.6質量%の範囲とすることが好ましく、油脂含有量15~20質量%の範囲では、脂肪酸エステルの含有量を0.8~1.6質量%の範囲とすることが好ましい。
【0039】
顆粒状食品のポリオールの含有量は、好ましくは0.5~2.2質量%、より好ましくは0.6~1.9質量%、更に好ましくは0.7~1.6質量%である。
【0040】
顆粒状食品の油脂の含有量は、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは1~19質量%であり、更に好ましくは1~16質量%、特に好ましくは1~12質量%である。油脂含有量は、食品原料、脂肪酸エステル、及び油脂の種類によって変動する。
【0041】
顆粒状食品の食品原料の含有量は、一般に79~99質量%、好ましくは82質量%~98.3質量%、より好ましくは86.5質量%~98質量%である。
【0042】
顆粒状食品において、デキストリン化合物の含有量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。デキストリン化合物の含有量を上記範囲とすることで、デキストリン化合物の持つ人工的な臭気により損なわれるおそれのある、繊細な風味及び香味を保持することができる。
【0043】
顆粒状食品において、澱粉及び加工澱粉の合計含有量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。澱粉及び加工澱粉の合計含有量を上記範囲とすることで、風味及び美味しさを維持しつつ1食当たりの量目(g/食)を抑えることができる。
【0044】
顆粒状食品は、脂肪酸エステル及び食品原料を含む混合物が、ポリオール及び油脂を含む混合物で被覆されているものであることが好ましい。顆粒状食品がこのような構造を有することにより、顆粒状食品に熱水を注加したときの油滴形成をより促進することができる。
【0045】
〈顆粒状食品の製造方法1〉
第1実施態様の顆粒状食品の製造方法は、(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(D)食品原料との混合物を造粒して造粒物を形成すること、及び(B)ポリオールと(C)油脂とを含むポリオール分散油を造粒物に吹き付けることを含む。
【0046】
《造粒物の形成》
脂肪酸エステルと、食品原料とを、コニカルブレンダー、ナウター、リボンミキサーなどの混合装置を用いて混合することによって、混合物を調製することができる。食品原料の成分をコニカルブレンダー、ナウター、リボンミキサーなどの混合装置を用いて予備混合してプレミックスを調製し、その後、プレミックスと脂肪酸エステルとを混合することもできる。
【0047】
造粒物の形成方法は、特に限定されないが、例えば、流動層造粒、及び押出造粒が挙げられる。造粒物の形成には、流動層造粒を好適に使用することができる。流動層造粒では、粉末状態の上記混合物を浮遊させながら、粉末を液体架橋により凝集させるためのバインダーを混合物に噴霧してもよい。噴霧方式としては、トップスプレー、ボトムスプレー、及び接線スプレーが挙げられる。バインダーとしては、例えば、水、増粘多糖類(グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガムなど)、澱粉、コーンシロップ、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びゼラチンが挙げられる。増粘多糖類、澱粉、コーンシロップ、CMC及びゼラチンは、一般に水溶液の形態で噴霧される。バインダーにより粉末を液体架橋させることにより、造粒物の圧縮率を高めることができる。造粒物の圧縮率を高めると、ストロークフィーダ装置を用いた自動カップ充填における量目誤差を縮小することができる。バインダーの使用量は、脂肪酸エステル及び食品原料の合計100質量部に対して、一般にパイロットスケールで0.04質量部~0.05質量部、実機スケールで0.08質量部~0.1質量部とすることができる。
【0048】
流動層造粒では、造粒物の粒度分布が広くなる、あるいは造粒物が低密度となる傾向がある。そのため、造粒後に振動ふるいなどを用いて粒径の大きいものを除去してもよく、造粒物を加熱して水分量を低減することにより、造粒物の圧縮率を高めてもよい。
【0049】
造粒物の平均粒径D50は、20μm~1400μmであることが好ましく、30μm~1300μmであることがより好ましい。造粒物の平均粒径を20μm以上、1400μm以下とすることにより、顆粒状食品の圧縮率をより低くすることができる。
【0050】
造粒物の圧縮率は、11%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。造粒物の圧縮率を11%以下とすることにより、顆粒状食品の圧縮率をより低くすることができる。
【0051】
《ポリオール分散油の吹付け》
次に、得られた造粒物に、ポリオールと油脂とを含むポリオール分散油を吹き付ける。
【0052】
ポリオール分散油は、通常の撹拌機又はホモジナイザーを用いて調製することができる。例えば、実機スケールとして内径476mmのタンク(品番SPTL、株式会社シロ産業製)を用いる場合は、トルネード撹拌機(品名:TORNADO、タービン型T-125、撹拌シャフト50cm、アズワン株式会社製)の撹拌羽根(直径135mm)をタンク中央に、タンク内壁から撹拌羽根先端までの隙間が170mm、タンク底面からの高さが5~10mmとなるように配置して撹拌する。パイロットスケールとして内径165mmの3Lガラスビーカー(AGCテクノグラス株式会社製)を用いる場合は、トルネード撹拌機(品名:TORNADO、プロペラ型P-65、撹拌シャフト50cm、アズワン株式会社製)の撹拌羽根(直径65mm)をビーカー中央に、ビーカー内壁から撹拌羽根先端までの隙間が50mm、ビーカー底面からの高さが2~5mmとなるように配置して撹拌する。
【0053】
ポリオールと油脂の二層系は、例えば、回転数400~450rpm、撹拌時間10~20分の撹拌により均一な分散系となる。ポリオール分散油中のポリオール濃度は、好ましくは7~12質量%、より好ましくは8~11質量%、更に好ましくは9~10質量%である。具体的には、例えば以下の手順でポリオール分散油を調製することができる。トルネード撹拌機の撹拌羽根をタンクの底面から5~10mmの高さで、タンク中央に固定する。泡が立たないように回転数400~450rpmで混合する。10~15分間撹拌して得られたポリオール分散油の撹拌を継続しながら、チューブ式ローラー送液定量ポンプを介してポリオール分散油を吹き付け工程に供給してもよい。
【0054】
ポリオールとしてグリセリンを用い、ポリオール濃度を9.0~10質量%とする場合、ポリオール分散油の比重は、0.934~0.941とすることが好ましい。分散油の比重が高いほど、グリセリンが調味油中でより均一に分散しているといえる。撹拌条件を調整して分散油の比重を高めることにより、より効果的に多量の油脂を顆粒状スープに含ませることができる。
【0055】
ポリオール及び油脂は互いに相溶性を有さないことから、ポリオール分散油中のポリオールは油脂から経時で分離する。そのため、ポリオール分散油の調製は吹き付け前に開始する。ポリオール分散油の調製後、チューブ式ローラー送液定量ポンプを用いて、ポリオール分散油を流動層造粒機内へ送液して速やかに造粒物に吹き付けることが好ましい。送液速度は例えば10mL/分~20mL/分とすることができる。吹付条件としては、例えば、噴霧エアー圧0.01MPa~0.02MPa、ダンパー開度0.03MPa~0.05MPa、ノズル径7mm~8mmが挙げられる。ポリオール分散油の吹付けは、円錐形リボン混合乾燥装置を用いても流動層造粒機と同様に行うことができる。
【0056】
ポリオール分散油の造粒物への吹き付けは、55℃~70℃で行うことが好ましく、60℃~65℃で行うことがより好ましい。吹付温度を55℃以上とすることにより、脂肪酸エステルの固化を抑制して、脂肪酸エステルのネットワーク形成を促進することができる。吹付温度を70℃以下とすることにより、油脂中の香味の揮発を抑制して、優れた香味を有する顆粒状食品を得ることができる。
【0057】
吹付け前に、例えば造粒物の温度を55℃~70℃に1分間~10分間維持することにより造粒物を更に乾燥して、造粒物の圧縮率を高めてもよい。
【0058】
ポリオール分散油の吹付け後に得られた顆粒状食品を静置して放冷することにより、脂肪酸エステルのネットワーク形成、及びポリオールによる油脂の半固体化又は固体化を促進することができる。静置放冷後に振動ふるいなどを用いて粒径の大きいものを除去してもよい。
【0059】
〈顆粒状食品の製造方法2〉
第2実施態様の顆粒状食品の製造方法は、(D)食品原料を造粒して造粒物を形成すること、並びに(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(B)ポリオールと、(C)油脂とを含むポリオール分散油を造粒物に吹き付けることを含む。
【0060】
《造粒物の形成》
食品原料の成分を、コニカルブレンダー、ナウター、リボンミキサーなどの混合装置を用いて混合することによって、食品原料を調製することができる。
【0061】
造粒物の形成方法は、特に限定されないが、例えば、流動層造粒、及び押出造粒が挙げられる。造粒物の形成には、流動層造粒を好適に使用することができる。流動層造粒では、粉末状態の上記食品原料を浮遊させながら、粉末を液体架橋により凝集させるためのバインダーを食品原料に噴霧してもよい。噴霧方式としては、トップスプレー、ボトムスプレー、及び接線スプレーが挙げられる。バインダーとしては、例えば、水、増粘多糖類(グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガムなど)、澱粉、コーンシロップ、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びゼラチンが挙げられる。増粘多糖類、澱粉、コーンシロップ、CMC及びゼラチンは、一般に水溶液の形態で噴霧される。バインダーにより粉末を液体架橋させることにより、造粒物の圧縮率を高めることができる。造粒物の圧縮率を高めると、ストロークフィーダ装置を用いた自動カップ充填における量目誤差を縮小することができる。バインダーの使用量は、脂肪酸エステル及び食品原料の合計100質量部に対して、一般にパイロットスケールで0.04質量部~0.05質量部、実機スケールで0.08質量部~0.1質量部とすることができる。
【0062】
流動層造粒では、造粒物の粒度分布が広くなる、あるいは造粒物が低密度となる傾向がある。そのため、造粒後に振動ふるいなどを用いて粒径の大きいものを除去してもよく、造粒物を加熱して水分量を低減することにより、造粒物の圧縮率を高めてもよい。
【0063】
造粒物の平均粒径D50は、20μm~1400μmであることが好ましく、30μm~1300μmであることがより好ましい。造粒物の平均粒径を20μm以上、1400μm以下とすることにより、顆粒状食品の圧縮率をより低くすることができる。
【0064】
造粒物の圧縮率は、11%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。造粒物の圧縮率を11%以下とすることにより、顆粒状食品の圧縮率をより低くすることができる。
【0065】
《ポリオール分散油の吹付け》
次に、得られた造粒物に、脂肪酸エステルとポリオールと油脂とを含むポリオール分散油を吹き付ける。
【0066】
ポリオール分散油は、通常の撹拌機を用いて調製することができる。例えば、実機スケールとして内径476mmのタンク(品番SPTL、株式会社シロ産業製)を用いる場合は、トルネード撹拌機(品名:TORNADO、タービン型T-125、撹拌シャフト50cm、アズワン株式会社製)の撹拌羽根(直径135mm)をタンク中央に、タンク内壁から撹拌羽根先端までの隙間が170mm、タンク底面からの高さが5~10mmとなるように配置して撹拌する。パイロットスケールとして内径165mmの3Lガラスビーカー(AGCテクノグラス株式会社製)を用いる場合は、トルネード撹拌機(品名:TORNADO、プロペラ型P-65、撹拌シャフト50cm、アズワン株式会社製)の撹拌羽根(直径65mm)をビーカー中央に、ビーカー内壁から撹拌羽根先端までの隙間が50mm、ビーカー底面からの高さが2~5mmとなるように配置して撹拌する。
【0067】
脂肪酸エステルとポリオールと油脂とは、例えば、回転数400~450rpm、撹拌時間10~20分の撹拌により均一に分散させることができる。湯煎又は電子レンジを用いて、脂肪酸エステルを少量の油脂に溶かして10~50質量%油脂混合物とし、その後、残りの油脂とポリオールとを油脂混合物に加えてポリオール分散油を調製してもよい。ポリオール分散油中のポリオール濃度は、好ましくは7~12質量%、より好ましくは8~11質量%、更に好ましくは9~10質量%である。ポリオール分散油中の脂肪酸エステル濃度は、好ましくは2.5~10質量%、より好ましくは4~6質量%である。ポリオール分散油中の脂肪酸エステルは、互いに相溶しないポリオール及び油脂の分散状態の維持に役立つ。
【0068】
ポリオール分散油の吹付けは、第1実施態様の顆粒状食品の製造方法と同様に行うことができる。ポリオール分散油の吹付けは、円錐形リボン混合乾燥装置を用いても流動層造粒機と同様に行うことができる。
【0069】
ポリオール分散油の造粒物への吹き付けは、55℃~70℃で行うことが好ましく、60℃~65℃で行うことがより好ましい。吹付温度を55℃以上とすることにより、脂肪酸エステルの固化を抑制して、脂肪酸エステルのネットワーク形成を促進することができる。吹付温度を70℃以下とすることにより、油脂中の香味の揮発を抑制して、優れた香味を有する顆粒状食品を得ることができる。
【0070】
吹付け前に、例えば造粒物の温度を55℃~70℃に1分間~10分間維持することにより造粒物を更に乾燥して、造粒物の圧縮率を高めてもよい。
【0071】
ポリオール分散油の吹付け後に得られた顆粒状食品を静置して放冷することにより、脂肪酸エステルのネットワーク形成、及びポリオールによる油脂の半固体化又は固体化を促進することができる。静置放冷後に振動ふるいなどを用いて粒径の大きいものを除去してもよい。
【0072】
〈顆粒状食品の製造方法3〉
第3実施態様の顆粒状食品の製造方法は、(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(D)食品原料との第1混合物を調製すること、(B)ポリオール及び(C)油脂を含むポリオール分散油と、第1混合物との第2混合物を調製すること、及び第2混合物を造粒して造粒物を形成することを含む。
【0073】
《第1混合物の調製》
脂肪酸エステルと、食品原料とを、コニカルブレンダー、ナウター、リボンミキサーなどの混合装置を用いて混合することによって、第1混合物を調製することができる。食品原料の成分をコニカルブレンダー、ナウター、リボンミキサーなどの混合装置を用いて予備混合してプレミックスを調製し、その後、プレミックスと脂肪酸エステルとを混合することもできる。
【0074】
《第2混合物の調製》
ポリオール分散油の調製は、製造方法1と同様にして行うことができる。
【0075】
ポリオール分散油は、エキス及びペースト状調味料からなる群より選ばれる少なくとも1つの添加物を含んでもよい。エキス又はペースト状調味料は、顆粒状食品に食味、香味、風味などを付与する。この実施態様では、ポリオール分散油に含まれるエキス及びペースト状調味料を、油脂と一緒に顆粒状食品に効果的に賦与することができる。エキスとしては、例えば、醤油、魚醤などの醤、ポークエキス、ビーフエキス、チキンエキスなどの畜肉エキス、魚介エキス、及び野菜エキスが挙げられる。ペースト状調味料としては、例えば、味噌、ねりごま、及びカレールーが挙げられる。
【0076】
次に、ポリオール分散油と第1混合物とを混合して第2混合物を調製する。ポリオール分散油は、例えば、直径1.0~4.0mmの穴を底部に設けた容器に入れて、その容器からから第1混合物に対して滴下することができる。ポリオール分散油と第1混合物との混合は、コニカルブレンダー、ナウター、リボンミキサー、ピン型ミキサーなどの混合装置を用いて行うことができる。混合装置は、円錐型のリボンミキサー、又はピン型ミキサーであることが好ましく、ピン型ミキサーであることがより好ましい。
【0077】
ポリオール及び油脂は互いに相溶性を有さないことから、ポリオール分散油中のポリオールは油脂から経時で分離する。そのため、ポリオール分散油は、調製後速やかに第1混合物と混合することが好ましい。混合時間は20分以内であることが好ましく、10分以内であることがより好ましい。
【0078】
《造粒物の形成》
第2混合物から造粒物を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、流動層造粒、及び押出造粒が挙げられる。造粒物の形成には、流動層造粒を好適に使用することができる。
【0079】
流動層造粒では、粉末状態の第2混合物を浮遊させながら、粉末を液体架橋により凝集させるためのバインダーを第2混合物に噴霧してもよい。噴霧方式としては、トップスプレー、ボトムスプレー、及び接線スプレーが挙げられる。バインダーとしては、例えば、水、増粘多糖類(グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガムなど)、澱粉、コーンシロップ、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びゼラチンが挙げられる。増粘多糖類、澱粉、コーンシロップ、CMC及びゼラチンは、一般に水溶液の形態で噴霧される。バインダー水溶液中のバインダー濃度は、0.3質量%~0.6質量%とすることが好ましい。バインダーにより粉末を液体架橋させることにより、造粒物の圧縮率を高めることができる。造粒物の圧縮率を高めると、ストロークフィーダ装置を用いた自動カップ充填における量目誤差を縮小することができる。バインダーの使用量は、脂肪酸エステル及び食品原料の合計100質量部に対して、一般にパイロットスケールで0.04質量部~0.05質量部、実機スケールで0.08質量部~0.1質量部とすることができる。バインダーの噴霧は、55℃以上で行うことが好ましく、60℃~65℃で行うことがより好ましい。噴霧温度を55℃以上とすることにより、脂肪酸エステルのネットワーク形成を促進し、油脂を顆粒状食品に効率的に吸収させることができる。噴霧温度を65℃以下とすることにより、油脂中の香味の揮発を抑制して、優れた香味を有する顆粒状食品を得ることができる。
【0080】
造粒後に得られた顆粒状食品を静置して放冷することにより、脂肪酸エステルのネットワーク形成、及びポリオールによる油脂の半固体化又は固体化を促進することができる。静置放冷後に振動ふるいなどを用いて粒径の大きいものを除去してもよい。
【0081】
造粒物の平均粒径D50は、20μm~1400μmであることが好ましく、30μm~1300μmであることがより好ましい。造粒物の平均粒径を20μm以上、1400μm以下とすることにより、顆粒状食品の圧縮率をより低くすることができる。
【0082】
造粒物の圧縮率は、11%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。造粒物の圧縮率を11%以下とすることにより、顆粒状食品の圧縮率をより低くすることができる。
【0083】
〈顆粒状食品の使用方法〉
顆粒状食品は、様々な用途に使用することができる。顆粒状食品の用途として、例えば、顆粒状スープ、ふりかけ、及び他の食品(例えばスナック菓子、フライドポテトなど)の調味料が挙げられる。顆粒状食品は、顆粒状スープとして特に好適に使用することができる。
【実施例】
【0084】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。表も含めて部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0085】
〈原料〉
本実施例で使用した原料は以下のとおりである。
【0086】
(A)脂肪酸エステル
・脂肪酸エステルAp(モノグリセリンベヘン酸エステル及びオクタグリセリンステアリン酸エステルの混合物)
・脂肪酸エステルBp(モノグリセリンステアリン酸エステル、ペンタグリセリンパルミチン酸エステル、及びペンタグリセリンステアリン酸エステルの混合物)
・脂肪酸エステルCp(モノグリセリンステアリン酸エステル及びジグリセリンステアリン酸エステルの混合物)
・脂肪酸エステルDs(ショ糖ステアリン酸エステル)
・脂肪酸エステルEs(ショ糖パルミチン酸エステル)
・脂肪酸エステルFp(デカグリセリンベヘン酸エステル)
・S-28D(デカグリセリンステアリン酸エステル、三菱ケミカルフーズ株式会社製)
・M-10D(デカグリセリンミリスチン酸エステル、三菱ケミカルフーズ株式会社製)
【0087】
(B)ポリオール
・グリセリン(食品添加物グリセリン、花王株式会社製)
【0088】
(C)油脂
・醤油系調味油(米サラダ油:83.8質量%、香料・調味オイル:16.2質量%)
・味噌系調味油(ラード、米サラダ油及びラー油の合計:81.1質量%、香料・調味オイル:18.9質量%)
・塩系調味油(ごま油:91.7質量%、香料・調味オイル:8.3質量%)
・カレー系調味油(ラード:96.1質量%、香料・調味オイル:3.9質量%)
【0089】
(D)食品原料
・S1(醤油系粉末スープ)(結晶物:41.6質量%、粉末原料:58.4質量%)
・S2(醤油系粉末スープ)(結晶物:32.2質量%、粉末原料:67.8質量%)
・M1(味噌系粉末スープ)(結晶物:49.4質量%、粉末原料:50.6質量%)
・C1(塩系粉末スープ)(結晶物:46.9質量%、粉末原料:53.1質量%)
・K1(カレー系粉末スープ)(結晶物:35.8質量%、粉末原料:64.2質量%)
(結晶物:塩、グラニュー糖、グルタミン酸ソーダ、イノシン酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、グルコース、リボヌクレオチド二ナトリウムなど、粉末原料:チキンエキス、ポークエキス、醤油、ガーリックエキス、ジンジャーエキス、発酵エキスなど)
【0090】
脂肪酸エステルAp、Bp、Cp、Ds、Es、及びFpの組成を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)及びガスクロマトグラフィ(GC)を用いて分析した。
【0091】
GPC測定は、ゲル浸透クロマトグラフ分析装置(DGU-20A3/LC20AD/CBM-20A/SIL-20AHT/CTO-20AC/SPD-M20A/RID-10A/FRC-10A、株式会社島津製作所製)を用いて行った。条件は以下のとおりであった。
・カラム:Shim-pack GPC-80M(長さ300mm×内径80mm)
・検出器:示差屈折率検出器(RID)(脂肪酸エステルAp、Cp、Ds、Es、及びFp)、フォトダイオードアレイ検出器(PDA)(脂肪酸エステルBp)
・カラム温度:40℃
・移動相:テトロヒドロフラン(THF)
・流量:1mL/分
・標準物質:Shodex STANDARD(Type:SM-105、昭和電工株式会社製)
・試料:テトラヒドロフラン(THF)溶液、脂肪酸エステル濃度1g/L、メンブランフィルター(PTFE製、0.5μm)ろ過
・注入量:20μL
【0092】
GC測定は、ガスクロマトグラフAgilent 7890B GCシステム(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて行った。条件は以下のとおりであった。
・カラム:DB-23(アジレント・テクノロジー株式会社製、φ0.25mm×30m、膜厚0.25μm)
・検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
・注入口温度:250℃
・検出器温度:250℃
・カラム温度:50℃(1分保持)→昇温10℃/分→170℃→昇温1.2℃/分→210℃
・試料導入系:スプリット(1:20)
・水素ガス流量:35mL/分
・空気流量:300mL/分
・窒素流量(メイクアップ):20mL/分
・ヘリウムガス(キャリヤーガス)圧力:115kPa
・注入量:1μL
・採取量:0.03615~0.04237g
・最終液量:3mL
【0093】
脂肪酸エステルApについて、GPCでは、重量平均分子量(Mw)が2719~3271(10.782分)及び826~878(11.237分)の位置にピークが観察された。GCでは、脂肪酸の組成がC18:C22=56:38であることが確認された。これらの情報に基づき、グリセロール又はその重合物及び脂肪酸の分子量を用いて、脂肪酸エステルApが、モノグリセリンベヘン酸エステル(分子量755.25=92.09+340.58×2-18)と、オクタグリセリンステアリン酸エステル(分子量3008.72=610.58+284.48×9-18×9)との混合物であると判定した。
【0094】
脂肪酸エステルBp、Cp及びFpについても脂肪酸エステルApと同様に、GPC及びGCの測定結果と、グリセロール又はその重合物及び脂肪酸の分子量を用いて、それらの組成を判定した。脂肪酸エステルDs、及びEsについては、グリセロール又はその重合物の分子量の代わりにショ糖の分子量を用い、エステル化率を含めて組成を判定した。
【0095】
実施例で用いた脂肪酸エステルの組成及び物性値を表1に示す。
【0096】
【0097】
〈評価方法〉
顆粒状スープの特性は以下の方法を用いて評価した。
【0098】
《圧縮率》
顆粒状スープの圧縮率を、粉体特性評価装置(パウダテスタ(登録商標)PT-X、ホソカワミクロン株式会社製)を用いて室温(23℃)で測定した。ふるい目開きを1700μm、又は4700μm(調味油吹付量140mL以上の場合のみ)とした。内径40mm、高さ80mm、容積100cm3の円筒容器の上面から38cmの高さに漏斗の出口(出口内径7mm)を合わせて、約120cm3の顆粒状スープを漏斗に入れて落下させたときに円筒容器に充填された顆粒状スープの質量をゆるめ嵩密度a(g/100cm3)とした。同じ円筒容器に継ぎ足し用のキャップを取り付け、ゆるめ嵩密度aの測定と同様の手順で顆粒状スープを落下させ、10回タッピングして顆粒状スープを密にし、その後キャップを外し、円筒容器の上面から突出した余剰の顆粒状スープを掻き取った後に円筒容器に充填されていた顆粒状スープの質量を固め嵩密度b(g/100cm3)とした。圧縮率を式:(b-a)×100/bにより得た。
【0099】
《安息角及び崩壊角》
顆粒状スープの安息角及び崩壊角を、粉体特性評価装置(パウダテスタ(登録商標)PT-X、ホソカワミクロン株式会社製)を用いて室温(23℃)で測定した。ふるい目開きを1700μm、又は4700μm(調味油吹付量140mL以上の場合のみ)とした。直径8cmの円盤の上に出口高さ12cm、出口内径7mmの漏斗を通して顆粒状スープを落下させた。顆粒状スープが形成した山の裾野の角度を安息角、山に衝撃を3回与えた後の裾野の角度を崩壊角とした。安息角から崩壊角を差し引いた値を差角とした。タッピングは、ストローク長18mm(標準)及びタッピング速度60回/分で行った。
【0100】
《Carr指数》
粉体特性評価装置(パウダテスタ(登録商標)PT-X、ホソカワミクロン株式会社製)から得た情報(ゆるめ嵩密度、固め嵩密度、圧縮率、安息角、崩壊角、及び差角)は、流動性指数表及び噴流性指数表を参照して指数化することができる(横山藤平他「Carrの方法による粉体流動性測定装置の試作」、粉体工学研究会誌、Vol.6、No.4(1969)、pp.264-272も参照のこと)。これらの指数に流動性指数を加えた総和がCarr指数(=圧縮率指数+安息角指数+流動性指数+崩壊角指数+差角指数)である。Carr指数は、MT1001k解析ソフト Ver1.02(株式会社セイシン企業製)を用いて算出することができる。
【0101】
《Carr指数に基づく評価》
カップ充填後の顆粒状スープ(造粒物を含む)について、充填量が基準値外のカップ個数とCarr指数との相関を評価した。具体的には、ストロークフィーダ(速度:29ショット/分)を用いて顆粒状スープを充填したカップ100個をそれぞれ秤量した後、基準値(中央値±1g)から外れたカップ個数をCarr指数と比較した。評価基準として、「優」を基準値外のカップが5個以下(Carr指数75以上)、「良」を基準値外のカップが6~10個(Carr指数70以上、75未満)、「可」を基準値外のカップが11~20個(Carr指数65以上、70未満)、「不可」を基準値外のカップが21個以上(Carr指数65未満)とした。
【0102】
《圧縮率、安息角、及び崩壊角による評価》
安息角と崩壊角の和が87度以下、かつ圧縮度15%以下に該当するものは「例」、該当しないものは「比較例」と表記されている。以下の表において、Carr指数に基づく評価「優」は、安息角と崩壊角の和が82度以下、かつ圧縮度12%以下に概ね対応する。Carr指数に基づく評価「良」及び「可」は、安息角と崩壊角の和が87度以下、かつ圧縮度15%以下に概ね対応する。
【0103】
1.脂肪酸エステルの種類及びポリオールの有無
脂肪酸エステルの種類及びポリオール(グリセリン)の有無と顆粒状スープの特性の関係を調べた。
【0104】
例1
顆粒状スープを以下の手順で調製した。
【0105】
《プレミックス調製》
(D)食品原料としてS1(醤油系粉末スープ)、及び(A)脂肪酸エステルApを、コニカルブレンダー(ダブルコーンミキサーWM-20、株式会社セイワ技研製)に投入し、混合して、プレミックスを調製した。(D)食品原料の結晶物は解砕機で予め粉状にした。S1と脂肪酸エステル-Apの配合比は、99.16:0.84(質量比)であった。
【0106】
《流動層造粒》
プレミックスを流動層コーティング装置(フローコーター、株式会社大川原製作所製)の目皿に投入した。吸気(給気)温度を60℃、ダンパー開度を0.03MPa、噴霧空気圧を0.18MPaに設定し、プレミックスを浮遊させながら、増粘剤(グアーガム、オルノーSY-1、オルガノフードテック株式会社製)の0.3質量%水溶液をノズルからプレミックスに噴霧することにより粉末を液体架橋させて造粒物を形成した。造粒物には、プレミックス100質量部に対して増粘剤(固形分)0.04~0.05質量部が含まれていた。その後、吸気(給気)温度を70℃に設定し、4~6分間造粒物を乾燥し、室温まで冷却した。冷却後、ふるい(TESTING SIEVE(目開き2mm、線径0.9mm)、東京スクリーン株式会社製)を用いて粒径の大きい造粒物を除去した。圧縮率16%以上の場合は、得られた造粒物を円錐型リボン混合乾燥装置(リボコーンRM-10D、株式会社大川原製作所製)に投入し、温度を60~65℃に設定し、10分間撹拌して更に水分除去することで、造粒物の圧縮率を低下させた。
【0107】
《ポリオール分散油吹付け》
造粒物を流動層コーティング装置(フローコーター、株式会社大川原製作所製)の目皿に投入した。(C)油脂として醤油系調味油中に(B)ポリオールとしてグリセリンを添加し、トルネード撹拌機(品名:TORNADO、タービン型T-125、撹拌シャフト50cm、アズワン株式会社製)を用いて、回転数400~450rpm、撹拌時間10分で撹拌して、ポリオール分散油(グリセリン濃度9~10質量%)を調製した。撹拌は、撹拌羽根をタンク中央でタンク底面から5~10mmの高さに固定し、泡が立たないように回転数400~450rpmで10分以上行った。その後、チューブ式ローラー送液定量ポンプを用いて、ポリオール分散油調製後20分以内(早いもので5分以内)にポリオール分散油を造粒物に吹き付けた。送液速度は12mL/分(ボリューム10)、吸気温度は60℃、ダンパー開度は0.03~0.05MPa、噴霧空気圧は0.01~0.02MPaであった。グリセリンと油脂は互いに相溶性を有さないことから、ポリオール分散油中のポリオールは油脂から経時で分離するため、撹拌は吹付け終了まで継続した。
【0108】
比較例1
脂肪酸エステル及びグリセリンを使用しなかった以外は例1と同様の手順により顆粒状スープを調製した。
【0109】
比較例2
脂肪酸エステルを使用しなかった以外は例1と同様の手順により顆粒状スープを調製した。
【0110】
例2~例5及び比較例3~比較例5
表2に記載のとおり脂肪酸エステルを変更した以外は例1と同様の手順により顆粒状スープを調製した。
【0111】
例1~例5及び比較例1~比較例5の顆粒状スープの詳細及び特性を表2に示す。
【0112】
【0113】
比較例3~比較例5は、脂肪酸の炭素原子数が異なるデカグリセリン脂肪酸エステルである(Fp:ベヘン酸、融点75℃、HLB3、S-28D:ステアリン酸、融点50℃、HLB9、M-10D:ミリスチン酸、融点22℃、HLB15)。HLB9以上の比較例4(S-28D)と比較例5(M-10D)では、顆粒状スープの防湿性が著しく悪く、顆粒状スープが溶融した。比較例3(Fp)は、防湿性は良いがCarr指数が比較例1(Carr指数68)と変わらなかった。
【0114】
融点が50℃以上、かつHLB6以下である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル(Ap、Bp、及びCp)及びショ糖脂肪酸エステル(Ds及びFs)は、Carr指数に基づく評価が優であり、良好な結果を示した。
【0115】
2.分散油吹付量
脂肪酸エステルの違い及び分散油吹付量と顆粒状スープの特性との関係を調べた。
【0116】
例6~例27、及び比較例10
表3に記載の脂肪酸エステルを使用し、ポリオール分散油の吹付量を表3のとおりとした以外は例1と同様の手順で顆粒状スープを調製した。
【0117】
比較例6~比較例9
表3の記載の脂肪酸エステルを使用し、ポリオール分散油を吹き付けなかった以外は例1と同様の手順で顆粒状スープを調製した。
【0118】
例6~例27及び比較例6~比較例10の顆粒状スープの詳細及び特性を表3に示す。
【0119】
【0120】
「1.脂肪酸エステルの種類及びポリオールの有無」の結果を踏まえて、脂肪酸エステル(Ap、Bp、Cp、Ds、及びFs)含有造粒物に対するポリオール分散油吹付量を増量した。ポリオール分散油を11.1質量%吹き付けた場合、例8(Ap:モノグリセリンベヘン酸エステル及びオクタグリセリンステアリン酸エステルの混合物)、例13(Bp:モノグリセリンステアリン酸エステル、ペンタグリセリンパルミチン酸エステル、及びペンタグリセリンステアリン酸エステルの混合物)、及び例20(Cp:モノグリセリンステアリン酸エステル及びジグリセリンステアリン酸エステルの混合物)が良好な結果を示した。ポリオール分散油を15.8質量%と多量吹き付けた場合であっても、例10(Ap)及び例15(Bp)は良好な結果を示した。
【0121】
3.脂肪酸エステルの配合量
脂肪酸エステルの配合量と顆粒状スープの特性との関係を調べた。
【0122】
例28~例35
脂肪酸エステルの配合量を表4のとおりとした以外は例1と同様の手順で顆粒状スープを調製した。
【0123】
比較例11~比較例18
ポリオール分散油を吹き付けなかった以外は例28~例35と同様の手順で顆粒状スープを調製した。
【0124】
例28~例35及び比較例11~比較例18の顆粒状スープの詳細及び特性を表4に示す。
【0125】
【0126】
0.2~1.6質量%脂肪酸エステルAp含有顆粒状スープは、ポリオール分散油を7.7質量%吹き付けても(7.0質量%の調味油に相当)、ストロークフィーダを介したカップ充填特性に支障は生じない。
【0127】
比較例13~比較例16及び例30~例33を参照すると、造粒物と分散油吹付け後顆粒状スープのCarr指数には殆ど差がなかった(比較例13~比較例16:80.0~82.0、例30~例33:76.3~82.0)。吹き付けた調味油の殆どが、グリセリン及び脂肪酸エステルApの存在下で造粒物中に包含されており、調味油の染み出しは確認されなかった。
【0128】
4.グリセリンの配合量
グリセリンの配合量及び分散油吹付量と顆粒状スープの特性との関係を調べた。
【0129】
例36~例45及び比較例19~比較例21
食品原料を粉末原料リッチなS2(醤油系粉末スープ)に変更し、ポリオール分散油中のグリセリン濃度及び吹付量を表5のとおりとした以外は例1と同様の手順で顆粒状スープを調製した。
【0130】
例36~例45及び比較例19~比較例21の顆粒状スープの詳細及び特性を表5に示す。
【0131】
【0132】
脂肪酸エステルApの配合量を0.7質量%又は0.82質量%に固定し、ポリオール分散油の吹付量を表4の7.7質量%から15.8質量%~21.0質量%に増量し、ポリオール分散油中のグリセリン濃度を7.4質量%~10.4質量%とした。
【0133】
ポリオール分散油を15.8質量%吹き付けた場合、例38(Carr指数79.5)、例41(Carr指数80.5)、及び例44(Carr指数76.3)で特に良好な結果が得られた。ポリオール分散油を18.0質量%吹き付けた場合、例45(脂肪酸エステルAp:0.82質量%、グリセリン濃度:10.4質量%、Carr指数77.5)で特に良好な結果が得られた。
【0134】
5.グリセリン配合量と撹拌時回転数
撹拌時の回転数を変化させたときのポリオール分散油の比重変化について調べた。グリセリンの比重は1.2~1.3、調味油の比重は0.90~0.92である。グリセリンと調味油は極性の違い及び上記比重差のために互いに相溶性を有さず、ポリオール分散油中のグリセリンは調味油から経時で分離する。したがって、グリセリンを調味油中で均一に分散することが望ましい。
【0135】
例46~例54
食品原料をM1(味噌系粉末スープ)に変更し、脂肪酸エステルApの配合量を0.84質量%に固定し、撹拌時の回転数、ポリオール分散油中のグリセリン濃度、及び吹付量を表6のとおりとした以外は、例1と同様の手順で顆粒状スープを調製した。ポリオール分散油は、内径165mmの3Lガラスビーカー(AGCテクノグラス株式会社製)を用い、トルネード撹拌機(品名:TORNADO、プロペラ型P-65型、撹拌シャフト50cm、アズワン株式会社製)の撹拌羽根(直径65mm)をビーカー中央に、ビーカー内壁から撹拌羽根先端までの隙間が50mm、ビーカー底面からの高さが2~5mmとなるように配置して撹拌することにより調製した。
【0136】
比較例22
ポリオール分散油を吹き付けなかった以外は例46と同様の手順で顆粒状スープを調製した。
【0137】
例46~例54及び比較例22の顆粒状スープの詳細及び特性を表6に示す。表6には、ポリオール分散油中のグリセリン濃度を9.5質量%、又は11.5質量%に固定し、回転数300rpm、400rpm、又は450rpmで10分間撹拌した後のポリオール分散油の比重、及び顆粒状スープの特性が示されている。
【0138】
【0139】
分散油の比重が高いほど、グリセリンが調味油中でより均一に分散しているといえる。撹拌条件を調整して分散油の比重を高めることにより、より効果的に多量の油脂を顆粒状スープに含ませることができる。
【0140】
6.グリセリンと脂肪酸エステルの効果
グリセリン及び脂肪酸エステルの効果を調べた。
【0141】
比較例23~比較例28
脂肪酸エステル及びグリセリンを使用せず、吹付量を表7のとおりとした以外は例1と同様の手順により顆粒状スープを調製した。
【0142】
比較例29~比較例33
脂肪酸エステルを使用せず、吹付量を表7のとおりとした以外は例1と同様の手順により顆粒状スープを調製した。
【0143】
例55~例60
吹付量を表7のとおりとした以外は例1と同様の手順により顆粒状スープを調製した。
【0144】
例55~例60及び比較例23~比較例33の顆粒状スープの詳細及び特性を表7に示す。
【0145】
【0146】
脂肪酸エステルAp及びグリセリンを使用しない場合、最大4.5質量%程度の調味油を含む顆粒状スープを調製することはできる(比較例23~比較例28)。グリセリンを使用すると、調味油の含有量を多少増加させることができる(比較例29~比較例33)。具体的には、グリセリンの使用により、流動性指数(=圧縮度指数+安息角指数)が改善された(比較例29:37.0、吹付量7.7質量%)。
【0147】
一方、脂肪酸エステルApを0.84質量%配合した造粒物にポリオール分散油を7.7質量%吹き付けた場合、流動性指数が39.0に改善されると同時に、噴流性指数(=流動性指数+崩壊角指数+差角指数)も43.0と顕著に改善された(例55)。脂肪酸エステルAp及びグリセリンを組み合わせることで、15.8質量%~18.0質量%と多量の油脂を含有する顆粒状スープを調製することができる(例59及び例60)。
【0148】
いかなる理論に拘束される訳ではないが、グリセリンは、例えば、油脂を固めることにより、流動性指数を改善すると考えられる。一方、脂肪酸エステルApは、例えば、油脂の共存下でネットワーク構造を形成して、そのネットワーク構造の内部にその油脂を取り込むことにより、ゲル又は固形物を形成させると考えられる。以上の2つの効果が相乗的に作用して、油脂を高濃度で含有する顆粒状スープに、容器充填に適した高い流動性が付与されたものと考えられる。
【0149】
7.脂肪酸エステル含有ポリオール分散油の効果
脂肪酸エステルを含有するポリオール分散油の顆粒状スープに及ぼす効果を調べた。
【0150】
例61
食品原料としてM1(味噌系粉末スープ)を使用し、油脂として味噌系調味油中にグリセリンを表8に記載のとおり配合した以外は、例1と同様の手順により顆粒状スープを調製した。
【0151】
例62~例64
食品原料としてM1(味噌系粉末スープ)を使用し、油脂として味噌系調味油中にグリセリン及び脂肪酸エステルBpを表8に記載のとおり配合した以外は、例1と同様の手順により顆粒状スープを調製した。
【0152】
比較例34
食品原料としてM1(味噌系粉末スープ)を使用し、ポリオール分散油を吹き付けなかった以外は例1と同様の手順で顆粒状スープを調製した。
【0153】
例61~例64及び比較例34の顆粒状スープの詳細及び特性を表8に示す。
【0154】
【0155】
食品原料に脂肪酸エステルApを0.84質量%配合し、ポリオール分散油に脂肪酸エステルBpを0.19質量%~0.50質量%配合すると、配合しない場合(例61:Carr指数78.0)に比べて、いずれもCarr指数が4ポイント程度減少したが、顆粒状スープの流動性に顕著な悪影響は観察されなかった。一方、ポリオール分散油中のグリセリンと油脂は、脂肪酸エステルBpの乳化作用により、ポリオール分散油中でより良好に分散していた。
【0156】
8.食品原料-塩系粉末スープ及びカレー系粉末スープ
食品原料違いの顆粒状スープの特性の関係を調べた。
【0157】
例65~例76及び比較例35~比較例36
食品原料をC1(塩系粉末スープ)又はK1(カレー系粉末スープ)に変更し、調味油をそれぞれ対応する塩系調味油又はカレー系調味油に変更し、ポリオール分散油の吹付量を表9のとおりとした以外は例1と同様の手順で顆粒状スープを調製した。
【0158】
例65~例76及び比較例35~比較例36の顆粒状スープの詳細及び特性を表9に示す。
【0159】
【0160】
醤油系粉末スープ及び味噌系粉末スープだけでなく、塩系粉末スープ及びカレー系粉末スープにおいても同様な効果が得られた。
【0161】
9.熱水注加後の油滴形成及び風味保持
様々な食品原料より得られた顆粒状スープの特性と、熱水を注加したときの油脂の油滴形成及び風味保持について調べた。
【0162】
以下の例の顆粒状スープを評価した。
・S1(醤油系粉末スープ)のポリオール分散油13.5質量%吹付品(例9)
・S1(醤油系粉末スープ)のポリオール分散油13.5質量%吹付品(例14)
・S2(醤油系粉末スープ)のポリオール分散油15.8質量%吹付品(例41)
・M1(味噌系粉末スープ)のポリオール分散油13.5質量%吹付品(例54)
・C1(塩系粉末スープ)のポリオール分散油15.8質量%吹付品(例71)
・K1(カレー系粉末スープ)のポリオール分散油15.8質量%吹付品(例75)
【0163】
縦型カップに麺60g及び顆粒状スープ20gを入れて蓋で密封した後、恒温高湿(温度33℃、湿度70%)環境下、3週間放置した。蓋を開封し、熱水注加後3分を経た油滴及び風味をスープ担当者5人で評価した。対照は、食品原料(製品)に対応する調味油(4g)を添加したものとした。
【0164】
油滴については、直径1~2mm程度の油滴が対照と同様に浮遊したか否かを基準とした。風味については、食品原料(製品)の風味と同等の風味であったか否かを基準とした。油滴及び風味について、5人が良好と判断した場合を「優」、4人が良好と判断した場合を「良」、3人が良好と判断した場合を「可」、それ以外を「不可」と判定した。総合評価について、油滴及び風味が両方とも「良」以上であり、かついずれか一方が「優」である場合を「優」、油滴及び風味が両方とも「良」である場合を「良」、油滴及び風味の少なくとも一方が「可」である場合を「可」、それ以外を「不可」と判定した。顆粒状スープに含まれる結晶物、粉末原料、デキストリン化合物、澱粉類(澱粉及び加工澱粉)、及び脂肪酸エステルの詳細、ポリオール分散油の吹付量、並びに評価結果を表10に示す。
【0165】
【0166】
脂肪酸エステルAp含有顆粒状スープは、油滴形成及び風味保持の双方に優れていた。脂肪酸エステルBp含有顆粒状スープは、油滴形成は良好であったが、風味保持は弱めであった。顆粒状スープK1(カレー系粉末スープ)は、熱水注加後の油滴形成が「良」であった。これは、顆粒状スープK1の澱粉含有量(9.6質量%)が大きく、澱粉が酸化澱粉69.8質量%(防湿性を高める)及び加工澱粉30.2質量%(増粘剤)を含むものであるため、油滴が浮遊しにくい状態であったためである。したがって、顆粒状スープK1の油滴形成が「良」であることは、他の顆粒状スープの油滴形成「優」に匹敵するといえる。
【0167】
顆粒状スープのデキストリン化合物の含有量は0.5質量%以下であり、澱粉及び加工澱粉の合計含有量は10質量%以下であった。
【0168】
10.製造方法3-円錐型リボン混合乾燥装置
例1の製造手順(プレミックス調製、流動層造粒、ポリオール分散油吹付け)は製造方法1に対応する。製造手順を製造方法3(第1混合物調製、第2混合物調製、造粒物形成)に変更し、第2混合物の調製に円錐型リボン混合乾燥装置を使用した際の、脂肪酸エステルの種類と顆粒状スープの特性の関係を調べた。
【0169】
例77
顆粒状スープを以下の手順で調製した。
【0170】
《第1混合物の調製》
(D)食品原料としてS1(醤油系粉末スープ)、及び(A)脂肪酸エステルApを、コニカルブレンダー(ダブルコーンミキサーWM-20、株式会社セイワ技研製)に投入し、混合して、第1混合物(プレミックス)を調製した。(D)食品原料の結晶物は解砕機で予め粉状にした。S1と脂肪酸エステル-Apの配合比は、99.02:0.98(質量比)であった。
【0171】
《ポリオール分散油》
(C)油脂として醤油系調味油中に(B)ポリオールとしてグリセリンを添加し、トルネード撹拌機(品名:TORNADO、タービン型T-125、撹拌シャフト50cm、アズワン株式会社製)を用いて、回転数400~450rpm、撹拌時間10分で撹拌して、ポリオール分散油(グリセリン濃度9~10質量%)を調製した。撹拌は、撹拌羽根をタンク中央でタンク底面から5~10mmの高さに固定し、泡が立たないように回転数400~450rpmで10分以上行った。
【0172】
《第2混合物の調製》
第1混合物を円錐型リボン混合乾燥装置(リボコーンRM-10D、株式会社大川原製作所製)に投入し、周波数70Hzにて撹拌した。ポリオール分散油の調製後直ちにポリオール分散油を直径1.0~4.0mmの穴を底部に設けた容器に入れ、第1混合物に2.5分間滴下して混合し、滴下開始から5分後に円錐型リボン混合乾燥装置から混合物を取り出すことにより第2混合物を調製した。第2混合物中のポリオール分散油の含有量は15.5質量%であった。ポリオール分散油中のグリセリンの粒子に粉末原料が取り込まれたことに起因して、第2混合物は柔らかい粒状物として得られた。次工程の流動層造粒での浮遊を促進し、粒子同士のブロッキングを抑制するために、第2混合物を16メッシュ(目開き0.9~1.0mm)のふるいにかけた。
【0173】
《流動層造粒》
第2混合物を流動層コーティング装置(フローコーター、株式会社大川原製作所製)の目皿に投入した。吸気(給気)温度を80~95℃、ダンパー開度を0.2~0.4MPa、噴霧空気圧を0.18MPaに設定し、第2混合物を浮遊させながら、排気温度が55℃に到達した後、増粘剤(グアーガム、オルノーSY-1、オルガノフードテック株式会社製)の0.3質量%水溶液をノズルから噴霧することにより粉末を液体架橋(又はコーティング)させ、4~6分間乾燥し、その後室温まで冷却することにより、流動性が良好な造粒物を形成した。ふるい(TESTING SIEVE(目開き2mm、線径0.9mm)、東京スクリーン株式会社製)を用いて粒径の大きい造粒物を除去した。
【0174】
比較例37
脂肪酸エステルを使用しなかった以外は例77と同様の手順により顆粒状スープを調製した。
【0175】
例78~例81及び比較例38
表11に記載のとおり脂肪酸エステルを変更した以外は例77と同様の手順により顆粒状スープを調製した。
【0176】
例77~例81及び比較例37~比較例38の顆粒状スープの詳細及び特性を表11に示す。
【0177】
【0178】
製造方法1で製造された例10、例15、及び例20の顆粒状スープの詳細及び特性を表12に再掲する。
【表12-1】
【表12-2】
【0179】
製造方法1(表12)と比較して、製造方法3(表11)を用いることにより、ポリオール分散油中のグリセリンによる油脂の半固体化又は固体化がより効果的に進行すると考えられる。このことは、製造方法3によって得られる顆粒状スープのCarr指数が、製造方法1によって得られる顆粒状スープのCarr指数よりも概ね大きいことから示唆される。製造方法3でグリセリンによる油脂の半固体化又は固体化がより効果的に進行した理由として、食品原料及び脂肪酸エステルを含む第1混合物とポリオール分散油とが、ダマを形成することなく、より均一に混合されたことが理由と考えられる。また、比較例37及び比較例38と比べて、例77~例81ではいずれも安息角と崩壊角の和が小さく、82度以下であった。
【0180】
製造方法3によれば、作業効率を向上させることができ、得られる顆粒状スープの特性も向上させることができた。また、製造方法3によれば、製造方法1でポリオール分散油を噴霧することに伴う、配管チューブ、目皿、バグフィルターなどのポリオール分散油による汚染、及びこれらの部品の作業後の洗浄を回避することができた。
【0181】
11.製造方法3-ピン型ミキサー
製造方法3において、第2混合物の調製にピン型ミキサーを使用した際の作業性と、得られた顆粒状スープの特性の関係を調べた。
【0182】
例82~例86
食品原料をC1(しお系粉末スープ)に変更し、第2混合物の調製にピン型ミキサーを使用した以外は例77と同様の手順により顆粒状スープを調製した。ピン型ミキサーを使用した混合は具体的には以下のとおりであった。
【0183】
《ピン型ミキサー混合》
第1混合物をピン型ミキサー(用田麺機製作所製ミキサー・ウェーブ装置、(型式)5型、(製造)2004年9月、製品番号05)に投入し、回転数70rpmにて撹拌した。ポリオール分散油の調製後直ちにポリオール分散油を直径1.0~4.0mmの穴を底部に設けた容器に入れ、第1混合物に2.5分間滴下して混合し、滴下開始から5分後に円錐型リボン混合乾燥装置から混合物を取り出すことにより第2混合物を調製した。ポリオール分散油中のグリセリンの粒子に粉末原料が取り込まれたことに起因して、第2混合物は柔らかい粒状物として得られた。次工程の流動層造粒での浮遊を促進し、粒子同士のブロッキングを抑制するために、第2混合物を16メッシュ(目開き0.9~1.0mm)のふるいにかけた。
【0184】
例82~例86の顆粒状スープの詳細及び特性を表13に示す。
【0185】
【0186】
ピン型ミキサーは、底浅横長の撹拌槽の中心軸に沿って延びる撹拌棒を備えており、撹拌棒には中心軸から8方向に延びる複数のピンが設けられている。ピン型ミキサーは簡易式混合装置であるにも拘らず、均一に混合された第2混合物を得ることができた。また、ピン型ミキサーの排出口は広いため、第2混合物の排出が容易であり、次工程の流動層造粒に至る作業を円滑に実施することができた。
【0187】
流動層造粒時の増粘剤水溶液の噴霧については、例82と例83の比較により、ロータリーポンプの圧力目盛りを2.0から4.5に上げる(送出圧力を高める)ことにより、圧縮率、安息角と崩壊角の和、及びCarr指数のいずれも改善された。
【0188】
例1のような食品原料及び脂肪酸エステルを含むプレミックスの流動層造粒の場合、増粘剤水溶液の噴霧量は約80mLであったのに対して、第2混合物の流動層造粒の場合、増粘剤水溶液の噴霧量は35mLと少量で足りた。その理由として、第2混合物中に水溶性であるグリセリンが存在するため、増粘剤水溶液が第2混合物により容易に付着することが考えられる。
【0189】
例82~例86から、ポリオール分散油の混合量を7.7質量%から15.5質量%まで変化させたときでも、ほぼ同等の圧縮率、安息角と崩壊角の和、及びCarr指数を有する顆粒状スープを得ることができた。
【0190】
12.ペースト状調味料又はエキスの添加-味噌系
ポリオール分散油にペースト状調味料又はエキスを添加したときの顆粒状スープの特性を調べた。
【0191】
例87~例96
食品原料をM1(味噌系粉末スープ)に変更し、味噌系調味油と、ねりごま(例91~例93のみ)と、味噌及びポークエキス(例94~例96のみ)とを含むポリオール分散油を使用した以外は、例82と同様の手順で顆粒状スープを調製した。
【0192】
ポリオール分散油は以下の手順で調製した。(C)油脂として味噌系調味油及びねりごま(例91~例93のみ)を含む混合物中に、(B)ポリオールとしてグリセリンを添加し、更に味噌及びポークエキスを添加し(例94~例96のみ)、トルネード撹拌機(品名:TORNADO、タービン型T-125、撹拌シャフト50cm、アズワン株式会社製)を用いて、回転数400~450rpm、撹拌時間10分で撹拌して、ポリオール分散油(グリセリン濃度9~10質量%)を調製した。撹拌は、撹拌羽根をタンク中央でタンク底面から5~10mmの高さに固定し、泡が立たないように回転数400~450rpmで10分以上行った。
【0193】
例87~例93の顆粒状スープの詳細及び特性を表14に、例94~例96の顆粒状スープの詳細及び特性を表15にそれぞれ示す。
【0194】
【0195】
【0196】
表14の例91~例93では、ペースト状のねりごまの半量を油分とみなして油脂の質量%を計算した。表15の例94~例96では、味噌(水分40質量%)及びポークエキスを混合した後、ポリオール分散油を湯煎で80℃まで加熱してから第1混合物と混合した。食品微生物制御に準じて、ポリオール分散油(90g)中の塩分量は8質量%以上、かつアルコール量を2.5質量%以上とした。
【0197】
例87~例90と比較して、例91及び例92では特に高いCarr指数が得られた。これは、例91及び例92のようにねりごまを大量に使用することにより、ごま油以外の固形成分(灰分など)がポリオール分散油中でのグリセリンの均一な分散を補助して、グリセリンと油脂の経時分離が抑制され、その結果、第1混合物とポリオール分散油がより均一に混合されたことが理由と考えられる。
【0198】
例91~例96に示すように、本発明の一実施態様によれば、ねりごま、味噌、ポークエキスなどのエキス及びペースト状調味料を、顆粒状スープと一体(ワンポーション)にして提供することができる。
【0199】
13.ペースト状調味料又はエキスの添加-カレー系
ポリオール分散油にペースト状調味料を添加したときの顆粒状スープの特性を調べた。
【0200】
例97~例99
食品原料をK1(カレー系粉末スープ)に変更し、カレー系調味油と、カレールーとを含むポリオール分散油(湯煎を用いて均一に溶解)を使用した以外は、例82と同様の手順で顆粒状スープを調製した。
【0201】
ポリオール分散油は以下の手順で調製した。(C)油脂としてカレー系調味油、ラード、及びカレールーを含む混合物中に、(B)ポリオールとしてグリセリンを添加し、トルネード撹拌機(品名:TORNADO、タービン型T-125、撹拌シャフト50cm、アズワン株式会社製)を用いて、60~90℃の湯煎中で、回転数400~450rpm、撹拌時間10分で撹拌して、ポリオール分散油(グリセリン濃度3~5質量%)を調製した。撹拌は、撹拌羽根をタンク中央でタンク底面から5~10mmの高さに固定し、泡が立たないように回転数400~450rpmで10分以上行った。
【0202】
例97~例99の顆粒状スープの詳細及び特性を表16に示す。
【0203】
【0204】
表16の例97~例99では、ポリオール分散油中のカレールーは65質量%と高濃度であった。なお、表16において、カレールーに含まれる油脂分は油脂の質量%に含めていない。
【0205】
例97~例99に示すように、本発明の一実施態様によれば、カレールーなどの高粘度のペースト状調味料を、顆粒状スープと一体(ワンポーション)にして提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0206】
本開示の顆粒状食品は、高濃度で油脂及び所望によりエキス又はペースト状調味料を含有しつつ、容器への充填に適した高い流動性を有しており、熱水を注加したときに油脂の油滴を形成することができるため、例えば顆粒状スープなどに好適に使用することができる。顆粒状スープは、例えば、調味油及びエキス又はペースト状調味料の個包装削減による低環境負荷を実現し、追加の包装資材及び工数を減らすことにより製造コストを削減し、熱水を注ぐだけで調味油の油滴及び風味を再現することができる。