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特許7516548水性樹脂用粘性調整剤および水性塗料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】水性樹脂用粘性調整剤および水性塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240708BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240708BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240708BHJP
   C09D 7/43 20180101ALI20240708BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240708BHJP
   C09D 177/06 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
C09K3/00 103N
C09K3/00 103H
C09K3/00 103G
C09D5/02
C09D201/00
C09D7/43
C09D7/63
C09D177/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022560838
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2021041013
(87)【国際公開番号】W WO2022097747
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2020186155
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000225854
【氏名又は名称】楠本化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119585
【弁理士】
【氏名又は名称】東田 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100131576
【弁理士】
【氏名又は名称】小金澤 有希
(72)【発明者】
【氏名】大谷 宜之
(72)【発明者】
【氏名】中西 雄大
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-111832(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158252(WO,A1)
【文献】特開2002-146336(JP,A)
【文献】特表2016-530245(JP,A)
【文献】特開2010-132723(JP,A)
【文献】特開2009-233508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2~12のジアミンからなる群より選択されるジアミン成分(A1)と、少なくとも水酸基を有するモノカルボン酸からなる群より選択されるモノカルボン酸成分(A2)とを反応させることにより得られるジアマイド化合物(A)、および/または水素添加ひまし油(A’)を必須成分として含み、ジアミン成分(B1)と、当該ジアミン成分(B1)に対して過剰量のジカルボン酸成分(B2)とを反応させることにより得られるポリアミド化合物(B)を任意成分として含む粘性付与成分(X)を1質量%~30質量%と、
水酸基、エーテル基、エステル基、アミド基およびケトン基からなる群より選択された少なくとも1種の置換基を有する第1の溶剤(C)を10質量%~99質量%と、
を含有し、
前記ジアミン成分(A1)は、直鎖または分岐鎖状のジアミンを含み、
前記ポリアミド化合物(B)が含まれる場合には、前記ポリアミド化合物(B)の酸価が30~140であり、
前記粘性付与成分(X)の全体量を100質量部としたときに、前記ジアマイド化合物(A)と前記水素添加ひまし油(A’)の含有量の合計が60質量部以上であることを特徴とする、水性樹脂用粘性調整剤。
【請求項2】
炭素数2~12のジアミンからなる群より選択されるジアミン成分(A1)と、少なくとも水酸基を有するモノカルボン酸からなる群より選択されるモノカルボン酸成分(A2)とを反応させることにより得られるジアマイド化合物(A)および/または水素添加ひまし油(A’)と、ジアミン成分(B1)と、当該ジアミン成分(B1)に対して過剰量のジカルボン酸成分(B2)とを反応させることにより得られるポリアミド化合物(B)と、含む粘性付与成分(X)を1質量%~30質量%と、
水酸基、エーテル基、エステル基、アミド基およびケトン基からなる群より選択された少なくとも1種の置換基を有する第1の溶剤(C)を10質量%~99質量%と、
を含有し、
前記ジアミン成分(A1)は、直鎖または分岐鎖状のジアミンを含み、
前記ポリアミド化合物(B)の酸価が30~140であり、
前記粘性付与成分(X)の全体量を100質量部としたときに、前記ジアマイド化合物(A)と前記水素添加ひまし油(A’)の含有量の合計が60質量部以上であり、前記ポリアミド化合物(B)の含有量が40質量部以下であることを特徴とする、水性樹脂用粘性調整剤。
【請求項3】
前記第1の溶剤(C)が、デービス法により算出されたHLB値が3~10の溶剤であることを特徴とする、請求項1または2に記載の水性樹脂用粘性調整剤。
【請求項4】
前記第1の溶剤(C)が、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、ジグリコール系溶剤、トリグリコール系溶剤、エステル系溶剤およびアミド系溶剤からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤であることを特徴とする、請求項1または2に記載の水性樹脂用粘性調整剤。
【請求項5】
グリフィン法により算出されたHLB値が3~18.5のノニオン性界面活性剤(E)をさらに含有し、
前記界面活性剤(E)の含有量が、前記ジアマイド化合物(A)および/または前記水素添加ひまし油(A’)100質量部に対して300質量部以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性樹脂用粘性調整剤。
【請求項6】
前記第1の溶剤(C)よりも相対的に極性が高い第2の溶剤(F)をさらに含有し、
前記第2の溶剤(F)の含有量が20質量%以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の水性樹脂用粘性調整剤。
【請求項7】
水(D)をさらに含有し、
前記水(D)の含有量が80質量%以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の水性樹脂用粘性調整剤。
【請求項8】
水性樹脂と、顔料と、水性樹脂用粘性調整剤とを含有する水性塗料組成物であって、
前記水性樹脂用粘性調整剤は、
炭素数2~12のジアミンからなる群より選択されるジアミン成分(A1)と、少なくとも水酸基を有するモノカルボン酸からなる群より選択されるモノカルボン酸成分(A2)とを反応させることにより得られるジアマイド化合物(A)、および/または水素添加ひまし油(A’)を必須成分として含み、ジアミン成分(B1)と、当該ジアミン成分(B1)に対して過剰量のジカルボン酸成分(B2)とを反応させることにより得られるポリアミド化合物(B)を任意成分として含む粘性付与成分(X)を1質量%~30質量%と、
水酸基、エーテル基、エステル基、アミド基およびケトン基からなる群より選択された少なくとも1種の置換基を有する第1の溶剤(C)を10~99質量%と、
を含有し、
前記ジアミン成分(A1)は、直鎖または分岐鎖状のジアミンを含み、
前記ポリアミド化合物(B)が含まれる場合には、前記ポリアミド化合物(B)の酸価が30~140であり、
前記粘性付与成分(X)の全体量を100質量部としたときに、前記ジアマイド化合物(A)と前記水素添加ひまし油(A’)の含有量の合計が60質量部以上であることを特徴とする、水性塗料組成物。
【請求項9】
水性樹脂と、顔料と、水性樹脂用粘性調整剤とを含有する水性塗料組成物であって、
前記水性樹脂用粘性調整剤は、
炭素数2~12のジアミンからなる群より選択されるジアミン成分(A1)と、少なくとも水酸基を有するモノカルボン酸からなる群より選択されるモノカルボン酸成分(A2)とを反応させることにより得られるジアマイド化合物(A)および/または水素添加ひまし油(A’)と、ジアミン成分(B1)と、当該ジアミン成分(B1)に対して過剰量のジカルボン酸成分(B2)とを反応させることにより得られるポリアミド化合物(B)と、含む粘性付与成分(X)を1質量%~30質量%と、
水酸基、エーテル基、エステル基、アミド基およびケトン基からなる群より選択された少なくとも1種の置換基を有する第1の溶剤(C)を10質量%~99質量%と、
を含有し、
前記ジアミン成分(A1)は、直鎖または分岐鎖状のジアミンを含み、
前記ポリアミド化合物(B)の酸価が30~140であり、
前記粘性付与成分(X)の全体量を100質量部としたときに、前記ジアマイド化合物(A)と前記水素添加ひまし油(A’)の含有量の合計が60質量部以上であり、前記ポリアミド化合物(B)の含有量が40質量部以下であることを特徴とする、水性塗料組成物。
【請求項10】
前記第1の溶剤(C)が、デービス法により算出されたHLB値が3~10の溶剤であることを特徴とする、請求項8または9に記載の水性塗料組成物。
【請求項11】
前記第1の溶剤(C)が、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、ジグリコール系溶剤、トリグリコール系溶剤、エステル系溶剤およびアミド系溶剤からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤であることを特徴とする、請求項8または9に記載の水性塗料組成物。
【請求項12】
グリフィン法により算出されたHLB値が3~18.5のノニオン性界面活性剤(E)をさらに含有し、
前記界面活性剤(E)の含有量が、前記ジアマイド化合物(A)および/または前記水素添加ひまし油(A’)100質量部に対して300質量部以下であることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項13】
前記第1の溶剤(C)よりも相対的に極性が高い第2の溶剤(F)をさらに含有し、
前記第2の溶剤(F)の含有量が20質量%以下であることを特徴とする、請求項8~12のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項14】
水(D)をさらに含有し、
前記水(D)の含有量が80質量%以下であることを特徴とする請求項8~13のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項15】
前記水性樹脂用粘性調整剤は、前記粘性付与成分(X)の含有量が前記水性塗料組成物の全固形分に対して0.1質量%~1.0質量%となる量で含有されることを特徴とする、請求項8~14のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂用粘性調整剤および水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性塗料は、環境保護に対応した塗料であるため、その適用分野が増加しており、防食塗料分野においても水性塗料の採用が増えてきている。これらの水性塗料には、多くの種類のチクソトロピック剤が使用されており、例えば、貯蔵中の塗料における顔料の沈降防止およびハードケーキング防止、塗装時における塗料のダレ防止および塗面のレベリングなどの目的で使用されている。このようなチクソトロピック剤としては、例えば、特許文献1および特許文献2に記載されているような沈降防止剤がある。特許文献1および特許文献2には、ジアミンと、ジアミンに対し過剰のジカルボン酸などとを反応して得られるポリアマイドなどを、中和用塩基(アミンなど)を用いて中和後に水を主体とする媒体中に分散させて成る水性塗料用沈降防止剤が開示されている。
【0003】
しかし、上記特許文献1および特許文献2に記載されているように中和用塩基を用いる場合、防食塗料分野で使用される水性下塗りエポキシ塗料(主剤)では、アミンなどの塩基を用いて中和されたアマイド系の水性粘性調整剤を添加すると、主剤のエポキシ樹脂と中和に用いたアミンとが反応してゲル化してしまう問題があった。また、水性下塗りエポキシ塗料では、主剤のpHは酸性から中性の範囲となるが、この主剤を硬化剤として用いるアミンと混合すると塩基性となるため、酸性から塩基性の広い範囲のpHにおいて沈降防止、ダレ防止などの効果を示す水性樹脂用粘性調整剤が望まれていた。さらに、水性下塗りエポキシ塗料以外の水性塗料を用いた場合でも、アミンなどの中和用塩基を用いると臭気(アミン臭など)が不快であるなどの問題もあり、この点でも改善が望まれている。
【0004】
上記のような中和用塩基を使用しないチクソトロピック剤の一例として、例えば特許文献3には、水素添加ひまし油脂肪酸とプライマリージアミンとの縮合反応生成物であるジアマイド化合物の微粒子を、アルコール系溶剤と環式飽和炭化水素およびエステルから選ばれる少なくとも1つの溶剤とから成る混合溶剤中に分散させ、加温処理することによって得られる、顆粒状生成物を含まないペースト状チクソトロピック剤が開示されている。特許文献3に記載のペースト状チクソトロピック剤によれば、分散不良などの問題を引き起こす原因となるペースト中の顆粒状物を含まないアマイド系ペースト状チクソトロピック剤が得られる、とされている。
【0005】
また、中和用塩基を使用しないチクソトロピック剤の他の例として、例えば特許文献4には、ポリオキシアルキレングリコールとポリイソシアネートからなるポリウレタン系増粘剤(ウレタンシックナー)が開示されている。この特許文献4に記載されているようなウレタンシックナーは、一般に水性塗料用として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-310726号公報
【文献】特開2012-111832号公報
【文献】特開2002-146336号公報
【文献】特開平11-199854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載のペースト状チクソトロピック剤では、環式飽和炭化水素、エステルなどの非水系溶剤を使用しており、このような非水系溶剤を使用したチクソトロピック剤は、水性塗料に用いる水性樹脂溶液中には容易に分散しない。したがって、特許文献3のチクソトロピック剤を水性塗料(水性樹脂溶液)用の粘性調整剤として使用することは困難である。
【0008】
また、特許文献4に記載されているようなウレタンシックナーは、アマイド系の粘性調整剤と比較して、粘性付与効果、擬塑性付与効果、熱安定性などの効果が劣るという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、粘性調整剤中における中和用塩基の使用量を低減させることができるとともに、粘性付与効果、擬塑性付与効果および熱安定性に優れ、かつ、これらの効果を酸性から塩基性の広い範囲のpHにおいて発揮することが可能な、水性樹脂用粘性調整剤およびこの粘性調整剤を含む水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水性樹脂用粘性調整剤中に、特定の構造を有するジアマイド化合物などと、特定の構造を有する溶剤とを含有させることにより、粘性調整剤中における中和用塩基の使用量を低減させることができるとともに、粘性付与効果、擬塑性付与効果および熱安定性に優れ、かつ、これらの効果を酸性から塩基性の広い範囲のpHにおいて発揮できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、炭素数2~12のジアミンからなる群より選択されるジアミン成分(A1)と、少なくとも水酸基を有するモノカルボン酸からなる群より選択されるモノカルボン酸成分(A2)とを反応させることにより得られるジアマイド化合物(A)、および/または水素添加ひまし油(A’)を必須成分としてみ、ジアミン成分(B1)と、当該ジアミン成分(B1)に対して過剰量のジカルボン酸成分(B2)とを反応させることにより得られるポリアミド化合物(B)を任意成分として含む粘性付与成分(X)を1質量%~30質量%と、水酸基、エーテル基、エステル基、アミド基およびケトン基からなる群より選択された少なくとも1種の置換基を有する第1の溶剤(C)を10~99質量%と、を含有し、前記ジアミン成分(A1)は、直鎖または分岐鎖状のジアミンを含み、前記ポリアミド化合物(B)が含まれる場合には、前記ポリアミド化合物(B)の酸価が30~140であり、前記粘性付与成分(X)の全体量を100質量部としたときに、前記ジアマイド化合物(A)と前記水素添加ひまし油(A’)の含有量の合計が60質量部以上であることを特徴とする、水性樹脂用粘性調整剤である。
【0012】
また、本発明は、炭素数2~12のジアミンからなる群より選択されるジアミン成分(A1)と、少なくとも水酸基を有するモノカルボン酸からなる群より選択されるモノカルボン酸成分(A2)とを反応させることにより得られるジアマイド化合物(A)および/または水素添加ひまし油(A’)と、ジアミン成分(B1)と、当該ジアミン成分(B1)に対して過剰量のジカルボン酸成分(B2)とを反応させることにより得られるポリアミド化合物(B)と、含む粘性付与成分(X)を1質量%~30質量%と、水酸基、エーテル基、エステル基、アミド基およびケトン基からなる群より選択された少なくとも1種の置換基を有する第1の溶剤(C)を10質量%~99質量%と、を含有し、前記ジアミン成分(A1)は、直鎖または分岐鎖状のジアミンを含み、前記ポリアミド化合物(B)の酸価が30~140であり、前記粘性付与成分(X)の全体量を100質量部としたときに、前記ジアマイド化合物(A)と前記水素添加ひまし油(A’)の含有量の合計が60質量部以上であり、前記ポリアミド化合物(B)の含有量が40質量部以下であることを特徴とする、水性樹脂用粘性調整剤である
【0013】
本発明の他の態様において、前記第1の溶剤(C)が、デービス法により算出されたHLB値が3~10の溶剤であることが好ましい。あるいは、本発明のさらに他の態様において、前記第1の溶剤(C)が、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、ジグリコール系溶剤、トリグリコール系溶剤、エステル系溶剤およびアミド系溶剤からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤であることが好ましい。
【0014】
本発明の他の態様において、グリフィン法により算出されたHLB値が3~18.5のノニオン性界面活性剤(E)をさらに含有し、前記界面活性剤(E)の含有量が、ジアマイド化合物(A)および/または水素添加ひまし油(A’)100質量部に対して300質量部以下であってもよい。
【0015】
本発明の他の態様において、前記第1の溶剤(C)よりも相対的に極性が高い第2の溶剤(F)をさらに含有し、前記第2の溶剤(F)の含有量が20質量%以下であってもよい。
【0016】
本発明の他の態様において、水(D)をさらに含有し、前記水(D)の含有量が80質量%以下であってもよい。
【0017】
また、本発明は、水性樹脂と、顔料と、上述した水性樹脂用粘性調整剤とを含有する水性塗料組成物である。
【0018】
本発明の他の態様において、前記水性樹脂用粘性調整剤は、前記粘性付与成分(X)の含有量が前記水性塗料組成物の全固形分に対して0.1質量%~1.0質量%となる量で含有されてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水性樹脂用粘性調整剤中に、特定の構造を有するジアマイド化合物などと、特定の構造を有する溶剤とを含有させることにより、粘性調整剤中における中和用塩基の使用量を低減させることができるとともに、この粘性調整剤を含む水性塗料への粘性付与効果、擬塑性付与効果および水性塗料の熱安定性に優れ、かつ、これらの効果を酸性から塩基性の広い範囲のpHにおいて発揮することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
[粘性調整剤]
本発明に係る粘性調整剤は、水性塗料組成物において水性樹脂とともに用いられる添加剤であって、ジアマイド化合物(A)および/または水素添加ひまし油(A’)を含む粘性付与成分(X)と、第1の溶剤(C)とを必須成分として含有する。これにより、本発明によれば、粘性調整剤中における中和用塩基の使用量を低減させることができるとともに、この粘性調整剤を含む水性塗料への粘性付与効果、擬塑性付与効果および水性塗料の熱安定性に優れ、かつ、これらの効果を酸性から塩基性の広い範囲のpHにおいて発揮することが可能となる。
【0022】
ここで、本発明における粘性付与効果とは、粘性調整剤を添加した水性塗料の粘度を高める(増粘)効果のことをいう。また、本発明における擬塑性付与効果とは、粘性調整剤を添加した水性塗料が剪断応力を受けた場合に粘度が低下する性質を付与する効果のことをいう。さらに、本発明における熱安定性とは、温度変化に伴う沈降防止性の変化が小さな性質のことをいう。以下、これらの必須成分、および、本発明に係る粘性調整剤に含まれる任意成分について詳細に述べる。
【0023】
(粘性付与成分(X))
本発明に係る粘性付与成分(X)は、粘性調整剤が添加された水性塗料組成物に粘性および擬塑性を付与するとともに、水性塗料組成物の熱安定性を高めるために添加される有効成分である。この粘性付与成分(X)としては、必須成分として、ジアマイド化合物(A)と水素添加ひまし油(A’)のうちの少なくともいずれか一方が含まれる。また、粘性付与成分(X)の任意成分として、ポリアミド化合物(B)が含まれる。すなわち、本発明に係る粘性調整剤に含まれる粘性付与成分(X)としては、(1)ジアマイド化合物(A)のみ、(2)水素添加ひまし油(A’)のみ、(3)ジアマイド化合物(A)と水素添加ひまし油(A’)の組み合わせ、(4)ジアマイド化合物(A)とポリアミド化合物(B)の組み合わせ、(5)水素添加ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)の組み合わせ、ジアマイド化合物(A)と水素添加ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)の組み合わせ、があり得る。なお、後述する実施例に示すように、熱安定性を向上させる観点からは、粘性付与成分(X)として少なくともジアマイド化合物(A)を含むことが好ましい。
【0024】
<ジアマイド化合物(A)>
本発明に係るジアマイド化合物(A)は、ジアミン成分(A1)とモノカルボン酸成分(A2)とを反応させることにより得られる脂肪酸ジアマイドである。
【0025】
本発明に係るジアマイド化合物(A)を得るための原料としては、炭素数2~12のジアミンからなる群より選択されるジアミン成分(A1)と、少なくとも水酸基を有する直鎖飽和脂肪酸からなる群より選択されるモノカルボン酸成分(A2)とがある。ジアミン成分(A1)およびモノカルボン酸成分(A2)としては、以下に例示される化合物が挙げられる。なお、反応の条件(反応温度、各成分の配合比など)は、公知の方法により適宜設定すればよい。この場合、必要に応じてキシレンなどの脱水助剤を用いることもできる。
【0026】
<<ジアミン成分(A1)>>
本発明に係るジアミン成分(A1)としては、例えば、エチレンジアミン(EDA)、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン(TMDA)、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、オクタメチレンジアミン(OMDA)、ドデカメチレンジアミン(DMDA)などの脂肪族ジアミン、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、パラキシリレンジアミン(PXDA)、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、メチレンビスクロロアニリンなどの芳香族ジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミンなどが使用できる。
【0027】
これらのジアミンと、後述する少なくとも水酸基を有するモノカルボン酸とを反応させることにより得られる水酸基含有ジアマイドをジアマイド化合物(A)の主成分として用いることにより、十分な粘性付与効果、擬塑性付与効果および熱安定性が得られる。ただし、粘性付与効果、擬塑性付与効果および熱安定性効果をさらに高めるためには、上述したジアミンの中でも、直鎖または分岐鎖状のジアミン(例えば、EDA、TMDA、HMDA、OMDA、DMDAなど)をジアミン成分(A1)として使用することが好ましい。また、沈降防止性を向上させる観点からは、ジアミン成分(A1)としては、炭素数が10以下のジアミンを用いることが好ましい。
【0028】
<<モノカルボン酸成分(A2)>>
本発明に係るモノカルボン酸成分(A2)としては、少なくとも水酸基を有するモノカルボン酸が含まれていれば特に制限はされない。水酸基を有するモノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸(ベヘン酸)などの飽和脂肪族モノカルボン酸の水素原子の一部が水酸基に置換された化合物、および、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルシン酸、天然油脂より得られる混合脂肪酸(トール油脂肪酸、米ヌカ脂肪酸、大豆油脂肪酸、牛脂脂肪酸など)などの不飽和脂肪族モノカルボン酸の水素原子の一部が水酸基に置換された化合物が挙げられる。
【0029】
本発明に係る粘性調整剤による粘性付与効果、擬塑性付与効果および熱安定性効果を高めるためには、モノカルボン酸成分(A2)として、水素添加ひまし油をケン化分解して得られる12-ヒドロキシステアリン酸(以下、「12-HSA」と記載する。)などの水素添加ひまし油脂肪酸を少なくとも含むことが好ましい。また、ジアマイド化合物(A)の原料としてアルカン酸が含まれる場合には、熱安定性を向上させる観点から、そのアルカン酸の炭素数が16以下であることが好ましい。
【0030】
また、ジアマイド化合物(A)を合成する際のモノカルボン酸成分(A2)に対するジアミン成分(A1)の反応モル比(A1/A2)は、未反応基が残存しないようにするため、1:2であることが好ましい。なお、反応モル比(A1/A2)とは、モノカルボン酸成分(A2)の量に対するジアミン成分(A1)の量の比(モル比)のことを意味する。
【0031】
<水素添加ひまし油(A’)>
水素添加ひまし油(A’)は、ひまし油に水素添加することで得られる、飽和脂肪酸のトリグリセリドであり、エチレンオキサイド(EO)鎖を有さない化合物である。水素添加ひまし油(A’)としては市販品を使用することができ、市販品の例としては、C-ワックス(小倉合成工業株式会社製)、カオーワックス85P(花王株式会社製)、ヒマシ硬化油(山桂産業株式会社製)などが挙げられる。
【0032】
<ポリアミド化合物(B)>
本発明に係る粘性付与成分(X)は、上述したジアマイド化合物(A)と水素添加ひまし油(A’)のうちの少なくともいずれか一方を必須成分として含んでいるが、これらに加え、任意成分としてポリアミド化合物(B)を含んでいてもよい。このポリアミド化合物(B)は、ジアミン成分(B1)と、当該ジアミン成分(B1)に対して過剰量のジカルボン酸成分(B2)とを反応させることにより得られるポリアミドである。
【0033】
ポリアミド化合物(B)としては、上記のジアミン成分(B1)とジカルボン酸成分(B2)とを反応させることにより得られ、アミド結合(-CONH-)を有する高分子化合物であれば、いかなる化学構造を有するポリアミドであっても使用できる。なお、反応の条件(反応温度、各成分の配合比など)は、公知の方法により適宜設定すればよい。この場合、必要に応じてキシレンなどの脱水助剤を用いることもできる。このとき、ジアミン成分(B1)とジカルボン酸成分(B2)との反応モル比(B1/B2)が1未満であることが好ましい。すなわち、アミン成分(B1)に対して過剰量(モル比)のカルボン酸成分(B2)を反応させることが好ましい。この場合、ポリアミド化合物(B)の少なくとも1つの末端がカルボキシル基となる。ただし、本発明で必要とされる効果を得るためには、必ずしも、ポリアミド化合物(B)の少なくとも1つの末端がカルボキシル基でなくてもよく、すべての末端がアミノ基であってもよい。なお、反応モル比(B1/B2)とは、カルボン酸成分(B2)の量に対するアミン成分(B1)の量の比(モル比)のことを意味する。
【0034】
<<ジアミン成分(B1)>>
ジアミン成分(B1)としては、炭素数2~12のジアミンからなる群から選択される少なくとも1種のアミンが使用できる。上記ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン(EDA)、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン(TMDA)、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、オクタメチレンジアミン(OMDA)、ドデカメチレンジアミン(DMDA)などの脂肪族ジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミンが挙げられる。これらのジアミン成分(B1)として使用される各化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
<<ジカルボン酸成分(B2)>>
ジカルボン酸成分(B2)としては、例えば、炭素数4~36のジカルボン酸から選択される少なくとも1種のカルボン酸が使用できる。上記ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ダイマー酸などが挙げられる。ダイマー酸は、大豆油、トール油、亜麻仁油、綿実油などの植物油から得られる不飽和脂肪酸(例えば、炭素数18または22の不飽和脂肪酸)を重合(二量化)して得られる重合脂肪酸で、一般に、炭素数36などのダイマー酸が市販されている。市販のダイマー酸中には、ダイマー酸の他にモノマー酸やトリマー酸が含まれているが、ダイマー酸の含有量が多いものが好ましい。これらのジカルボン酸成分(B2)として使用される各化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
ここで、本発明に係る粘性調整剤を含有する水性塗料組成物への粘性付与効果、擬塑性付与効果、および水性塗料組成物の熱安定性効果を高めるためには、ジカルボン酸成分(B2)が、少なくとも重合脂肪酸を含むことが好ましい。本発明のジカルボン酸成分(B2)として用いられる重合脂肪酸は、不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸を重合して得られる重合物、または不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸のエステルを重合して得られる重合物である。不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸としては、通常1~3個の不飽和結合を有する総炭素数が8~24の不飽和脂肪酸が用いられる。これらの不飽和脂肪酸として、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、天然の乾性油脂肪酸、天然の半乾性油脂肪酸などが挙げられる。また、不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸のエステルとしては、上記不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸と脂肪族アルコール、好ましくは、炭素数1~3の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。以上のような重合脂肪酸のうち、ジカルボン酸成分(B2)として特に好適なものは、ダイマー酸である。
【0037】
<<ポリアミド化合物(B)の物性>>
本発明に係るポリアミド化合物(B)の酸価は、30以上140以下であることが好ましい。ポリアミド化合物(B)の酸価を上記範囲内とすることにより、本発明に係る粘性調整剤による水性塗料への粘性付与効果および擬塑性付与効果、ならびに、水性塗料の熱安定性向上効果をさらに高めることができる。また、ポリアミド化合物(B)の酸価が30未満であると、ポリアミド化合物(B)の疎水性が高くなりすぎるため、水性塗料組成物中への分散が困難となる場合があり、酸価が140を超えると、当該ポリアミドの合成が困難となる場合がある。
【0038】
ここで、本明細書における酸価は、JIS K0070-1992に準じて測定することができる。なお、酸価とは、試料1g中に含有する遊離脂肪酸などを中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数のことをいう。また、酸価の測定方法には、中和滴定法と電位差滴定法とがあるが、本明細書における酸価は、中和滴定法により測定した値である。
【0039】
<ジアマイド化合物(A)および水素添加ひまし油(A’)の含有比>
本発明に係る粘性付与成分(X)において、粘性付与成分(X)の全体量を100質量部としたときに、ジアマイド化合物(A)と水素添加ヒマシ油(A’)の含有量の合計が60質量部以上であることが必要である。また、粘性付与成分(X)としてポリアミド化合物(B)を含む場合には、ポリアミド化合物(B)の含有量が40質量部以下であることが好ましい。言い換えると、粘性付与成分(X)中におけるジアマイド化合物(A)と水素添加ヒマシ油(A’)の含有量の合計Q(A+A’)と、ポリアミド化合物(B)の含有量Q(B)との比[Q(A+A’):Q(B)]は、60:40~100:0の範囲となる。
【0040】
<粘性付与成分(X)の含有量>
本発明に係る粘性調整剤中の粘性付与成分(X)の含有量は、1質量%以上30質量%以下である。粘性付与成分(X)の含有量が1質量%未満であると、粘性調整剤による水性塗料組成物への粘性付与効果および擬塑性付与効果が得られない恐れがある。一方、粘性付与成分(X)の含有量が30質量%を超えると、粘性付与成分(X)の水を主体とする媒体中での分散性が低下し、水性塗料組成物の沈降防止性および熱安定性が悪化する恐れがある。ダレ防止性を向上させる観点からは、粘性付与成分(X)の含有量が3.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
(中和用塩基(G))
ここで、本発明に係る粘性調整剤においては、水を主体とする媒体中にポリアミド化合物(B)を分散させるため(すなわち、ポリアミド化合物(B)の親水化を助ける親水化助剤として)のアミンなどの中和用塩基の使用を禁止するものではない。しかし、上述したように、中和用塩基を用いる場合、防食塗料分野で使用される水性下塗りエポキシ塗料(主剤)中に、アミンを用いて中和されたポリアミドを含有する粘性調整剤を添加すると、主剤のエポキシ樹脂と中和に用いたアミンとが反応してゲル化する問題があることから、中和用塩基(G)の含有量は極力少ない方が好ましい。このような観点から、例えば、中和用塩基(G)の含有量は、粘性調整剤中に2質量%以下であることが好ましく、中和用塩基(G)を実質的に含まないことがより好ましい。
【0042】
このような中和用塩基(G)としては、有機塩基および無機塩基のいずれも用いることができる。有機塩基としては、例えば、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどのアルキルアミンや、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N’-ジメチルエタノールアミンなどのアルコールアミンなどが使用できる。無機塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが使用できる。これらは、単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(第1の溶剤(C))
本発明に係る水性樹脂用粘性調整剤は、上述した粘性付与成分(X)に加え、必須成分として、第1の溶剤(C)を含有している。第1の溶剤(C)は、水を主体とする媒体中への粘性付与成分(X)の分散を容易にするために用いられる。また、粘性付与成分(X)を第1の溶剤(C)と混合し、混合物を熱処理することで、水性塗料組成物への粘性付与効果や擬塑性付与効果を発現させることができる。すなわち、第1の溶剤(C)は、粘性付与成分(X)による粘性付与効果や擬塑性付与効果の発現(粘性付与成分(X)の活性化)を助ける活性化助剤として用いられる。
【0044】
この第1の溶剤(C)としては、水酸基、エーテル基、エステル基、アミド基およびケトン基からなる群より選択された少なくとも1種の置換基を有する溶剤が使用できる。第1の溶剤(C)の例としては、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、ジグリコール系溶剤、トリグリコール系溶剤、エステル系溶剤およびアミド系溶剤が挙げられる。アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、イソプロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノールなどのような脂肪族アルコールや、ベンジルアルコールなどの環状アルコールなどが挙げられる。グリコール系溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2-エチルヘキシルグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、フェニルグリコールなどが挙げられる。ジグリコール系溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。トリグリコール系溶剤としては、例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。エステル系溶剤としては、例えば、グルタル酸メチル、コハク酸メチル、アジピン酸メチルなどのような二塩基酸エステルや、プロピレングリコールモノメチルアセテート、プロピオン酸アミル、エトキシプロピオン酸エチル、2,2,4-トリメチルペンタンジオールモノイソブチレートなどが挙げられる。アミド系溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホアミドなどの非環状アミドや、N-メチルピロリドンなどの環状アミドなどが挙げられる。その他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、キシリトールなどの多価アルコールも溶剤(C)として用いることができる。以上に挙げたような溶剤は、単独で用いることもできるし、複数種類を組み合わせて用いることもできる。
【0045】
また、第1の溶剤(C)の添加効果(粘性付与効果、擬塑性付与効果など)をさらに高めるという観点から、第1の溶剤(C)として、HLB値が3以上10以下の範囲内である溶剤を使用することが好ましい。このような溶剤としては、例えば、エチルヘキサノール、ブタノール、2-エチルヘキシルグリコール、フェニルグリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、2,2,4-トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、プロピレングリコールモノメチルアセテートなどが挙げられる。なお、第1の溶剤(C)のHLB値としては、デービス法により算出された値を用いることとする。
【0046】
本発明に係る粘性調整剤中の第1の溶剤(C)の含有量は、5質量%以上99質量%以下である。第1の溶剤(C)の含有量が5質量%未満であると、粘性調整剤による水性塗料組成物への粘性付与効果および擬塑性付与効果、ならびに、水性塗料組成物の熱安定性向上効果が得られない恐れがある。一方、第1の溶剤(C)の含有量の上限は特に制限されないが、本発明の粘性調整剤中には、必須成分として粘性付与成分(X)が1質量%以上含有されているため、第1の溶剤(C)の含有量は99質量%とする。熱安定性を向上させるという観点からは、第1の溶剤(C)の含有量が、10質量%~99質量%であることが好ましい。
【0047】
(水(D))
本発明に係る粘性調整剤は、水性樹脂用であり、有効成分である粘性付与成分(X)などを、水を主体とする媒体中へ分散させることにより得られるものである。水(D)としては、例えば、イオン交換水を用いることができる。水(D)は、本発明に係る粘性調整剤の必須成分ではない(すなわち、水(D)は、粘性調整剤中に含まれていなくてもよい)が、上述した第1の溶剤(C)の含有量は、環境面および人体面への影響から極力少ない方が好ましく、水(D)を含有させることにより、溶剤(C)の含有量を低減することができる。ただし、水(D)の含有量が多すぎると、粘性調整剤中に粘性付与成分(X)および溶剤(C)を必要量含有させることができなくなる恐れがあるため、水(D)の含有量は、粘性調整剤の全質量に対して80質量%以下であることが好ましい。
【0048】
(界面活性剤(E))
本発明に係る粘性調整剤は、任意成分として、界面活性剤(E)を含有していてもよい。この界面活性剤(E)は、粘性付与成分(X)を親水化させ、水を主体とする媒体中への粘性付与成分(X)の分散を容易にするための親水化助剤として用いられる。界面活性剤(E)の例としては、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンひまし油や、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテルや、モノイソステアリン酸ポリオキシエチレン硬化ひまし油、トリイソステアリン酸ポリオキシエチレン硬化ひまし油や、モノイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリルなどのポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルや、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステルや、ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体などが挙げられる。
【0049】
本発明で用いる界面活性剤(E)の種類としては、ノニオン性界面活性剤であれば、良好な沈降防止性および熱安定性を示すことができる。ただし、界面活性剤(E)の添加効果(粘性付与成分(X)の分散を容易にする効果)をさらに高め、ダレ防止性を高めるという観点から、界面活性剤(E)として、HLB値が3以上18.5以下の範囲内であるノニオン性界面活性剤を使用することが好ましい。なお、界面活性剤(E)のHLB値としては、グリフィン法により算出された値を用いることとする。同様に、ダレ防止性を高めるという観点からは、界面活性剤(E)として、芳香環を含まない化合物を使用することが好ましい。
【0050】
また、界面活性剤(E)として上記で例示した化合物を用いる場合、エチレンオキサイド(EO)の付加モル数は、3モル以上200モル以下であることが好ましい。ここで、本発明の粘性調整剤を含む水性塗料のダレ防止性を高めるという観点からは、EOの付加モル数が10モル以上200モル以下であることがより好ましく、10モル以上100モル以下であることがさらに好ましい。一方、本発明の粘性調整剤を含む水性塗料の経時安定性を高めるという観点からは、EOの付加モル数が10モル以上200モル以下であることがより好ましい。
【0051】
本発明に係る界面活性剤(E)の含有量は、ジアマイド化合物(A)および/または水素添加ひまし油(A’)100質量部に対して300質量部以下であることが好ましい。界面活性剤(E)の含有量を上記範囲内とすることにより、界面活性剤(E)の添加効果(粘性付与成分(X)の分散を容易にする効果)をさらに高めることができる。特に、塗料の経時安定性およびダレ防止性を高めるという観点からは、界面活性剤(E)の含有量は、ジアマイド化合物(A)および/または水素添加ひまし油(A’)100質量部に対して200質量部以下であることがより好ましい。ダレ防止性を特に高めるという観点からは、界面活性剤(E)の含有量は、ジアマイド化合物(A)および/または水素添加ひまし油(A’)100質量部に対して40質量部以上であることがより好ましい。
【0052】
(第2の溶剤(F))
本発明に係る粘性調整剤は、任意成分として、第2の溶剤(F)を含有していてもよい。この第2の溶剤(F)は、水性塗料組成物中における粘性調整剤の分散性を向上させる役割を有する。第2の溶剤(F)としては、第1の溶剤(C)とは異なる溶剤であり、かつ、第1の溶剤(C)よりも相対的に極性が高い溶剤が用いられる。このような第2の溶剤(F)の例としては、アルコール、多価アルコール、グリコール、ジグリコール、トリグリコールなどを用いることができる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、イソプロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノールなどのような脂肪族アルコールや、ベンジルアルコールなどの環状アルコールなどが挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、キシリトールなどが挙げられる。グリコールとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2-エチルヘキシルグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、フェニルグリコールなどが挙げられる。ジグリコールとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。トリグリコールとしては、例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。
【0053】
本発明に係る第2の溶剤(F)の含有量は、粘性調整剤の全質量に対して20質量%以下であることが好ましい。第2の溶剤(F)の含有量を上記範囲内とすることにより、第2の溶剤(F)の添加効果(塗料の安定性を改善する効果)をさらに高めることができる。熱安定性を特に高めるという観点からは、第2の溶剤(F)の含有量は、10質量%以下であることがより好ましい。また、沈降防止性を高めるという観点からは、第2の溶剤(F)の含有量は、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0054】
(他の助剤)
本発明の水性樹脂用粘性調整剤は、他の機能を付与する目的で助剤を含んでいてもよい。例えば、塗膜の光沢保持、顔料の分散性、水性塗料組成物の消泡性、流し面などの改善を目的として、各種助剤を加えてもよい。
【0055】
(粘性調整剤の製造方法)
上述した各成分を含有する粘性調整剤は、例えば、以下のようにして製造できる。まず、水(D)、または、必要に応じて第1の溶剤(C)または第2の溶剤(F)を水に混合した混合溶液を冷却し、冷水または冷却溶液(以下、「冷水など」と記載する。)を作製する。このとき、冷水などの温度は特に制限されないが、例えば、5~15℃程度とすればよい。一方、粘性付与成分(X)と第1の溶剤(C)(必要に応じて、さらに界面活性剤(E))を混合した混合溶解液を作製する。混合溶解液を作製する際の混合条件は特に制限されないが、各成分が溶解状態にあると混合効率が向上するため、通常、90~150℃の温度において混合する。粘性付与成分(X)としてポリアミド化合物(B)が含まれている場合には、混合溶解液に中和用塩基(G)を添加してポリアミド化合物(B)を中和する。
【0056】
次に、上記の冷水などを攪拌しながら、上述したようにして作製した混合溶解液を冷水などの中に徐々に加える。続いて、必要に応じて、界面活性剤(E)を第1の溶剤(C)で希釈した溶液を、混合溶解液が加えられた冷水などに添加し、粘性付与成分(X)の水性分散物を得る。
【0057】
全ての成分を添加した後、上述したようにして得られた分散物を容器に移し、この分散物を加温処理する。加温処理することにより、粘性付与成分(X)および第1の溶剤(C)が形成する複合的な繊維状粒子の生成が助長され、沈降防止効果を高めることができる。分散物を加温処理する場合の加温温度は特に制限されないが、45~90℃であることが好ましく、50~90℃であることがより好ましい。また、分散物の加温処理時間も特に制限されないが、5~60時間であることが好ましく、10~48時間であることがより好ましい。
【0058】
(粘性調整剤の用途)
本発明に係る粘性調整剤が適する用途は、水性塗料に水性樹脂とともに添加される用途であれば特に制限されるものではないが、本発明に係る粘性調整剤は、例えば、アルミニウム顔料やマイカのようなパール顔料を用いる水性メタリック塗料、または防食顔料のように粒子系が大きく比重も大きな顔料を用いる水性防食塗料などに好適に使用できる。また、本発明に係る粘性調整剤は、上記以外の一般の着色顔料や体質顔料などを用いる水性塗料や、水性インキのような水性コーティング材などにも好適に使用できる。
【0059】
[水性塗料組成物]
本発明に係る水性塗料組成物は、水性樹脂と、顔料と、上述した水性樹脂用粘性調整剤とを必須成分として含有する。また、本発明の水性塗料組成物は、任意成分として、消泡剤、造膜助剤、pH調整剤などのその他の添加剤をさらに含有していてもよい。
【0060】
(粘性調整剤の含有量)
本発明の水性樹脂用粘性調整剤は、水性塗料組成物中のバインダである水性樹脂の種類、顔料などの配合組成などにより異なるが、通常は、粘性付与成分(X)の含有量が水性塗料組成物の全固形分に対して0.1質量%以上1.0質量%以下となる量で含有される。粘性調整剤の含有量を上記範囲とすることにより、粘性調整剤の添加効果(水性塗料組成物への粘性付与効果および擬塑性付与効果、ならびに、水性塗料組成物の熱安定性向上効果)をさらに高めることができる。
【0061】
(水性樹脂)
本発明に係る水性塗料組成物にバインダとして含有される水性樹脂は、水を主体とした媒体に樹脂成分が分散されたものであり、樹脂成分としては、例えば、アクリル系樹脂、アクリルシリコーン樹脂、アルキド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。水性樹脂の形態としては、分散形態に応じて水溶性、コロイダルディスパーション、エマルションに分けられるが、いずれの形態も適応可能である。これらの樹脂は、例えば、加熱硬化型、紫外線硬化型、電子線硬化型、酸化硬化型、光カチオン硬化型、過酸化物硬化型、および触媒存在下または非存在下で化学反応を伴って硬化するものであってもよく、ガラス転移点が高い樹脂で、化学反応を伴わず、希釈媒体が揮発するだけで被膜となるものであってもよい。また、硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物およびエポキシ化合物などが挙げられる。
【0062】
(顔料)
顔料としては、例えば、体質顔料、着色顔料およびメタリック顔料などが挙げられる。体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム(GCC)、沈降炭酸カルシウム(PCC)など)、硫酸バリウム、二酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、タルク、マイカ、有機繊維、ガラス粉などを使用できる。着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、黄鉛、カドミウムイエロー、オーカー、チタンイエロー、ジンクロメート、弁柄、アルミノケイ酸塩、キナクリドン系、フタロシアニン系、アントロキノン系、ジケトピロロピロール系、ベンズイミダゾロン系およびイソインドリノン系などを使用できる。メタリック顔料としては、例えば、アルミニウムフレーク、銅フレーク、雲母状酸化鉄、雲母、および雲母に金属酸化物を被覆した鱗片状粉末などを使用できる。
【0063】
(その他の添加剤)
本発明の水性塗料組成物には、その特性や本発明の目的が損なわれない範囲で、他の物質、例えば、脱水剤(例えば、シランカップリング剤)、密着向上剤、界面活性剤、硬化触媒、造膜助剤、ドライヤー、汚染防止剤、増感剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、耐水化剤、防腐防カビ剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、剥離剤、消臭剤、pH調整剤、香料などの他の添加剤を含有することができる。
【0064】
(水性塗料組成物の製造方法)
本発明の水性塗料組成物は、公知の水性塗料の製造方法に準じて製造できる。例えば、上述した粘性調整剤および顔料以外の成分をイオン交換水などの水を主体とする媒体中に攪拌しながら混合した後、必要に応じてpH調整し、クリヤー塗料を作製する。このクリヤー塗料に粘性調整剤および顔料を添加し、クリヤー塗料中に分散させることにより、水性塗料組成物を製造することができる。
【0065】
また、例えば、2液型の水性エポキシ塗料を製造する場合には、上述した粘性調整剤以外の成分をイオン交換水などの水を主体とする媒体中に攪拌しながら混合し、エポキシ主剤を作製する。このエポキシ主剤に粘性調整剤を添加し、エポキシ主剤中に分散させることにより、粘性調整剤を含有するエポキシ主剤を作製する。次に、このようにして作製されたエポキシ主剤をアミン硬化剤などの硬化剤と混合することにより、水性エポキシ塗料を製造することができる。
【0066】
従来は、酸性から塩基性の広い範囲のpHで粘性付与効果、擬塑性付与効果、熱安定性効果などを発揮できる粘性調整剤が存在しなかったため、粘性調整剤は、アミン硬化剤側への添加に限定されていた。アミン硬化剤側に粘性調整剤を添加する場合、アミン硬化剤は塩基性であり、エポキシ主剤と混合した後も水性エポキシ塗料は塩基性のままであるため、pH変化の影響を受けにくいためである。しかしながら、本発明に係る粘性調整剤によれば、酸性から塩基性の広い範囲のpHで粘性付与効果、擬塑性付与効果、熱安定性効果などを発揮できるため、エポキシ主剤側へ粘性調整剤を添加することが可能となる。
【0067】
ここで、アミン硬化剤は、硬化剤自身の粘度が高いため、アミン硬化剤側に粘性調整剤を添加するとさらに増粘し、液のハンドリング性が低下する。一方、エポキシ主剤の粘度はアミン硬化剤の粘度よりも高くないため、粘性調整剤の添加により増粘してもアミン硬化剤側へ添加した場合のようなハンドリング性の低下などのデメリットはない。むしろ、粘性調整剤をエポキシ主剤側へ添加することにより、粘度の高いアミン硬化剤が増粘せず、粘度の比較的低いエポキシ主剤が増粘することから、粘性調整剤をアミン硬化剤側へ添加した場合よりも、エポキシ主剤とアミン硬化剤との粘度差が小さくなる。このように、エポキシ主剤とアミン硬化剤とを混合する際、混合する2液間の粘度の差が小さくなるため、エポキシ主剤とアミン硬化剤との混合が容易になる。
【0068】
なお、本発明に係る粘性調整剤を水性塗料に添加するタイミングとしては、上記のように顔料を混錬する過程でもよいし、あるいは、水性塗料を製造した後に添加してもよいが、さらにマスターバッチを作って添加することも可能である。また、粘性調整剤および顔料の分散に用いる機器は、水性塗料の製造に一般的に用いられるものが使用できる。さらに、粘性調整剤および顔料の分散時における攪拌速度および攪拌時間の条件も特に制限されるものではなく、粘性調整剤や顔料の分散状態を確認しながら適宜設定すればよい。
【0069】
(水性塗料組成物の用途)
本発明の水性塗料組成物は、アルミニウム顔料やマイカのようなパール顔料を用いる水性メタリック塗料、または防食顔料のように粒子系が大きく比重も大きな顔料を用いる水性防食塗料などに好適に使用できる。また、本発明の水性塗料組成物は、上記以外の一般の着色顔料や体質顔料などを用いる水性塗料や、水性インキのような水性コーティング材などとしても好適に使用できる。
【0070】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述した形態に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で当業者が想到し得る他の形態または各種の変更例についても本発明の技術的範囲に属するものと理解される。
【実施例
【0071】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。また、実施例中の「%」および「部」は特に断らない限り、「質量%」および「質量部」を示す。
【0072】
[ジアマイド化合物(A)の合成]
以下に詳述するように、表1に記載のジアミン成分(A1)とモノカルボン酸(A2)とを表1に示す配合比(モル比)にて反応させることにより、合成例A-1~A-6のジアマイド化合物(A)を得た。
【0073】
(合成例A-1)
攪拌装置、温度調節器、分水器、および窒素導入管を備えた1リットルの4ツ口フラスコに、12-ヒドロキシステアリン酸 298.6部(0.96モル)を計量し、80℃にて加温溶解した。次に、ヘキサメチレンジアミン 55.8部(0.48モル)を4ツ口フラスコに徐々に加えた後、185℃で5時間脱水反応を行い、表1に記載の合成例A-1のジアマイド化合物(A)を得た。
【0074】
(合成例A-2~A-6)
ジアミン成分(A1)およびモノカルボン酸(A2)として表1に記載の成分を用い、これらを表1に記載の配合比にて反応させたこと以外は、合成例A-1と同様にして、合成例A-2~A-6のジアマイド化合物(A)を得た。
【0075】
【表1】
【0076】
[ポリアミド化合物(B)の合成]
以下に詳述するように、表2に記載のジアミン成分(B1)とジカルボン酸(B2)とを表2に示す配合比(モル比)にて反応させることにより、合成例B-1~B-10のポリアミド化合物(B)を得た。
【0077】
(合成例B-1)
攪拌装置、温度調節器、分水器、および窒素導入管を備えた1リットルの4ツ口フラスコに、ダイマー酸(商品名「ハリダイマー250」:ハリマ化成株式会社製) 354部(0.60モル)とキシレン 53.1部(全カルボン酸の15%)を計量し、50℃に加温した。次に、ヘキサメチレンレンジアミン 34.9部(0.30モル)を4ツ口フラスコに徐々に加えた後、150℃で60分間攪拌した。攪拌後、さらに175℃まで緩やかに加温して150分間脱水反応を行い、表2に記載の合成例B-1のポリアミド化合物(B)を得た。
【0078】
(合成例B-2~B-10)
ジアミン成分(B1)およびジカルボン酸(B2)として表2に記載の成分を用い、これらを表2に記載の配合比にて反応させたこと以外は、合成例B-1と同様にして、合成例B-2~B-10のポリアミド化合物(B)を得た。
【0079】
以上のようにして得られた合成例B-1~B-10の酸価を測定した。具体的には、JIS K0070-1992に従い、中和滴定法にて合成例B-1~B-10のポリアミド化合物(B)の酸価を測定し、その結果を表2に示した。
【0080】
【表2】
【0081】
[粘性調整剤の製造]
以下に詳述するように、表3~表6に記載の各成分を表3~表6に示す配合比(質量部)にて配合し、表3~表6に示す加温処理温度にて加温処理することにより、製造例S1~S83の水性樹脂用粘性調整剤を得た。また、表7に記載の各成分を表7に示す配合比(質量部)にて配合し、表7に示す加温処理温度にて加温処理することにより、比較製造例H1~H11の水性樹脂用粘性調整剤を得た。
【0082】
(製造例S1)
攪拌装置、冷却管、および温度計を備えた500ミリリットルの4ツ口フラスコに、水(D)としてイオン交換水 96部と、第2の溶剤(F)としてエチレングリコール 10部とを計量したものを10℃に冷却し、冷水とした。一方、ジアマイド化合物(A)として合成例A-1のジアマイド 10部と、第1の溶剤(C)としてエチレングリコールモノブチルエーテル 76部とを混合した後に120℃に加熱し、混合溶解液とした。次に、この混合溶解液を撹拌中の上記の冷水中に徐々に加えた。続いて、界面活性剤(E)としてHLBが6.4のポリオキシエチレン硬化ひまし油(商品名「ブラウノン CW-10」、青木油脂工業株式会社製) 4部を、第1の溶剤(C)としてのエチレングリコールモノブチルエーテル 4部の50%溶液とし、この50%溶液を、混合溶解液を添加後の上記の冷水中に徐々に加えた。50%溶液を全て加え終わった後、得られた分散物を容器に移し、80℃の恒温槽にて24時間加温処理することにより、表3に示す製造例S1の粘性調整剤を得た。
【0083】
(製造例S2~S8、S71~S83)
粘性調整剤の成分として表3、または表6に記載の成分を用い、これらの成分を表3、または表6に記載の配合比にて加え、表3、または表6に示す加温処理温度にて加温処理したこと以外は、製造例S1と同様にして、製造例S2~S8、S71~S83の粘性調整剤を得た。
【0084】
(製造例S9)
攪拌装置、冷却管、および温度計を備えた500ミリリットルの4ツ口フラスコに、水(D)としてイオン交換水 100部を計量したものを10℃に冷却し、冷水とした。一方、ジアマイド化合物(A)として合成例A-1のジアマイド 14部と、ポリアミド化合物(B)として、合成例B-1のポリアミド 6部と、界面活性剤(E)としてHLBが6.4のポリオキシエチレン硬化ひまし油(商品名「ブラウノン CW-10」、青木油脂工業株式会社製) 4部と、第1の溶剤(C)としてエチレングリコールモノブチルエーテル 74.8部とを混合した後に120℃に加熱し、混合溶解液とした。その後、中和用塩基(G)としてN,N’-ジメチルエタノールアミン 1.2部を混合溶解液に加えて混合した。次に、この混合溶解液を撹拌中の上記の冷水中に徐々に加えた。全て加え終わった後、得られた分散物を容器に移し、80℃の恒温槽にて24時間加温処理することにより、表3に示す製造例S9の粘性調整剤を得た。
【0085】
(製造例S10~S19、S48~S51)
粘性調整剤の成分として表3または表4に記載の成分を用い、これらの成分を表3または表4に記載の配合比にて加え、表3または表4に示す加温処理温度にて加温処理したこと以外は、製造例S9と同様にして、製造例S10~S19、S48~S51の粘性調整剤を得た。
【0086】
(製造例S20)
攪拌装置、冷却管、および温度計を備えた500ミリリットルの4ツ口フラスコに、水(D)としてイオン交換水 40部と、第1の溶剤(C)としてエチレングリコールモノブチルエーテル 57.6部とを計量したものを10℃に冷却し、冷却水とした。一方、ジアマイド化合物(A)として合成例A-1のジアマイド 6部と、第1の溶剤(C)としてエチレングリコールモノブチルエーテル 91.6部とを混合した後に120℃に加熱し、混合溶解液とした。次に、この混合溶解液を撹拌中の上記の冷水中に徐々に加えた。続いて、界面活性剤(E)としてHLBが6.4のポリオキシエチレン硬化ひまし油(商品名「ブラウノン CW-10」、青木油脂工業株式会社製) 2.4部を、第1の溶剤(C)としてのエチレングリコールモノブチルエーテル 2.4部の50%溶液とし、この50%溶液を、混合溶解液を添加後の上記の冷水中に徐々に加えた。全て加え終わった後、得られた分散物を容器に移し、75℃の恒温槽にて24時間加温処理することにより、表3に示す製造例S20の粘性調整剤を得た。
【0087】
(製造例S21~S23)
粘性調整剤の成分として表3に記載の成分を用い、これらの成分を表3に記載の配合比にて加え、表3に示す加温処理温度にて加温処理したこと以外は、製造例S20と同様にして、製造例S21~S23の粘性調整剤を得た。
【0088】
(製造例S24)
攪拌装置、冷却管、および温度計を備えた500ミリリットルの4ツ口フラスコに、第1の溶剤(C)として2-エチルヘキサノール 100部を計量したものを10℃に冷却し、冷溶剤とした。一方、ジアマイド化合物(A)として合成例A-1のジアマイド 10部と、第1の溶剤(C)として2-エチルヘキサノール 90部とを混合した後に120℃に加熱し、混合溶解液とした。次に、この混合溶解液を撹拌中の上記の冷溶剤中に徐々に加えた。全て加え終わった後、得られた分散物を容器に移し、85℃の恒温槽にて24時間加温処理することにより、表4に示す製造例S24の粘性調整剤を得た。
【0089】
(製造例S25~S39)
粘性調整剤の成分として表4に記載の成分を用い、これらの成分を表4に記載の配合比にて加え、表4に示す加温処理温度にて加温処理したこと以外は、製造例S24と同様にして、製造例S25~S39の粘性調整剤を得た。
【0090】
(製造例S40)
攪拌装置、冷却管、および温度計を備えた500ミリリットルの4ツ口フラスコに、水(D)としてイオン交換水 100部を計量したものを10℃に冷却し、冷却水とした。一方、ジアマイド化合物(A)として合成例A-1のジアマイド 10部と、第1の溶剤(C)としてジプロピレングリコールモノブチルエーテル 90部とを混合した後に120℃に加熱し、混合溶解液とした。次に、この混合溶解液を撹拌中の上記の冷水中に徐々に加えた。加え終わった後、得られた分散物を容器に移し、80℃の恒温槽にて24時間加温処理することにより、表4に示す製造例S40の粘性調整剤を得た。
【0091】
(製造例S41~S47)
粘性調整剤の成分として表4に記載の成分を用い、これらの成分を表4に記載の配合比にて加え、表4に示す加温処理温度にて加温処理したこと以外は、製造例S40と同様にして、製造例S41~S47の粘性調整剤を得た。
【0092】
(製造例S52)
攪拌装置、冷却管、および温度計を備えた500ミリリットルの4ツ口フラスコに、水(D)としてイオン交換水 96部を計量したものを10℃に冷却し、冷却水とした。一方、ジアマイド化合物(A)として合成例A-1のジアマイド 10部と、第1の溶剤(C)としてエチレングリコールモノブチルエーテル 86部とを混合した後に120℃に加熱し、混合溶解液とした。次に、この混合溶解液を撹拌中の上記の冷水中に徐々に加えた。続いて、界面活性剤(E)としてHLBが6.4のポリオキシエチレンひまし油(商品名「ブラウノン BR-410」、青木油脂工業株式会社製) 4部を、第1の溶剤(C)としてのエチレングリコールモノブチルエーテル 4部の50%溶液とし、この50%溶液を、混合溶解液を添加後の上記の冷水中に徐々に加えた。全て加え終わった後、得られた分散物を容器に移し、80℃の恒温槽にて24時間加温処理することにより、表5に示す製造例S52の粘性調整剤を得た。
【0093】
(製造例S53~S70)
粘性調整剤の成分として表5に記載の成分を用い、これらの成分を表5に記載の配合比にて加え、表5に示す加温処理温度にて加温処理したこと以外は、製造例S52と同様にして、製造例S53~S70の粘性調整剤を得た。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
(比較製造例H1)
表7に示す比較製造例H1の粘性調整剤として、市販のウレタンシックナー(商品名「ACRYSOLTM RM-2020」、Dow Chemical社製) を用いた。
【0099】
(比較製造例H2)
攪拌装置、冷却管、および温度計を備えた500ミリリットルの4ツ口フラスコに、水(D)としてイオン交換水 156.6部を計量したものを40℃に加温し、温水とした。一方、ポリアミド化合物(B)として合成例B-3のポリアミド 21.0部と、ジアマイド化合物(A)として合成例A-1のジアマイド 2.0部と、水素添加ひまし油 7.0部と、第1の溶剤(C)としてプロピレングリコールモノメチルエーテル10.6部とを混合した後に120℃に加熱し、混合溶解液とした。その後、中和用塩基(G)としてN,N’-ジメチルエタノールアミン 2.8部を混合溶解液に加えて混合した。次に、この混合溶解液を撹拌中の上記の温水中に徐々に加えた。全て加え終わった後、分散を完全にするためにさらに40~50℃の温度範囲で10分間攪拌を続け、分散物を得た。撹拌終了後、得られた分散物を容器に移し、75℃の恒温槽にて20時間加温処理することにより、表7に示す比較製造例H2の粘性調整剤を得た。
【0100】
(比較製造例H3、H4)
粘性調整剤の成分として表7に記載の成分を用い、これらの成分を表7に記載の配合比にて加え、表7に示す加温処理温度にて加温処理したこと以外は、比較製造例H2と同様にして、比較製造例H3、H4の粘性調整剤を得た。
【0101】
(比較製造例H5)
合成例A-1のジアマイドを粉砕機で微粒子化させることにより、平均粒子径10μmの微粒子化したジアマイド化合物を得た。加温処理用密閉容器に、酢酸ブチル(BAC) 126.0部と、専売アルコールを主剤としたアルコール性混合溶剤 54部と、微粒子化した合成例A-1のジアマイド 20部とを加え、20~25℃の温度で十分に分散させることによって、懸濁液を得た。この懸濁液の入った密閉容器を、あらかじめ65℃に設定した恒温槽内に48時間静置し、その後室温で静置することにより冷却し、表7に示す比較製造例H5の粘性調整剤を得た。
【0102】
(比較製造例H6)
攪拌装置、冷却管、および温度計を備えた500ミリリットルの4ツ口フラスコに、水(D)としてイオン交換水 96部と、第2の溶剤(F)としてエチレングリコール 10部とを計量したものを10℃に冷却し、冷却水とした。一方、ジアマイド化合物(A)として合成例A-4のジアマイド 10部と、第1の溶剤(C)としてエチレングリコールモノブチルエーテル 76部とを混合した後に120℃に加熱し、混合溶解液とした。次に、この混合溶解液を撹拌中の上記の冷水中に徐々に加えた。続いて、界面活性剤(E)としてHLBが6.4のポリオキシエチレン硬化ひまし油(商品名「ブラウノン CW-10」、青木油脂工業株式会社製) 4部を、エチレングリコールモノブチルエーテル 4部の50%溶液とし、この50%溶液を、混合溶解液を添加後の上記の冷水中に徐々に加えた。全て加え終わった後、得られた分散物を容器に移し、80℃の恒温槽にて24時間加温処理することにより、表7に示す比較製造例H6の粘性調整剤を得た。
【0103】
(比較製造例H7、H8)
粘性調整剤の成分として表7に記載の成分を用い、これらの成分を表7に記載の配合比にて加え、表7に示す加温処理温度にて加温処理したこと以外は、比較製造例H6と同様にして、比較製造例H7、H8の粘性調整剤を得た。
【0104】
(比較製造例H9)
攪拌装置、冷却管、および温度計を備えた500ミリリットルの4ツ口フラスコに、水(D)としてイオン交換水 100部を計量したものを10℃に冷却し、冷却水とした。一方、ジアマイド化合物(A)として合成例A-1のジアマイド 10部と、ポリアミド化合物(B)として合成例B-1のポリアミド 10部と、界面活性剤(E)としてHLBが6.4のポリオキシエチレン硬化ひまし油(商品名「ブラウノン CW-10」、青木油脂工業株式会社製) 4部と、第1の溶剤(C)としてエチレングリコールモノブチルエーテル 74部とを混合した後に120℃に加熱し、混合溶解液とした。その後、中和用塩基(G)としてN,N’-ジメチルエタノールアミン 2.0部を混合溶解液に加えて混合した。次に、この混合溶解液を撹拌中の上記の冷水中に徐々に加えた。全て加え終わった後、得られた分散物を容器に移し、80℃の恒温槽にて24時間加温処理することにより、表7に示す比較製造例H9の粘性調整剤を得た。
【0105】
(比較製造例H10、H11)
粘性調整剤の成分として表7に記載の成分を用い、これらの成分を表7に記載の配合比にて加え、表7に示す加温処理温度にて加温処理したこと以外は、比較製造例H9と同様にして、比較製造例H10、H11の粘性調整剤を得た。
【0106】
【表7】
【0107】
なお、上記製造例および比較製造例において使用した第1の溶剤(C)、界面活性剤(E)、第2の溶剤(F)および中和用塩基(G)の詳細を以下の表8~表11に示す。
【0108】
【表08】
【0109】
【表9】
【0110】
【表10】
【0111】
【表11】
【0112】
[水性塗料組成物の製造]
上述したようにして得られた製造例S1~S83の粘性調整剤を用い、表12~表16に示す粘性調整剤の種類および塗料の評価配合にて実施例1~95の水性塗料組成物を製造した。また、上述したようにして得られた比較製造例H1~H11の粘性調整剤を用い、表17に示す粘性調整剤の種類および塗料の評価配合にて比較例1~21の水性塗料組成物を製造した。さらに、上述したようにして得られた比較製造例H2~H4の粘性調整剤を用い、参考例1~3の水性塗料組成物を製造した。なお、後述する試験例1~4において、それぞれ、粘性調整剤を含有しない水性塗料組成物(blank 1、blank 1b、blank 2、blank 3)も製造した(表17および表18を参照)。
【0113】
【表12】
【0114】
【表13】
【0115】
【表14】
【0116】
【表15】
【0117】
【表16】
【0118】
【表17】
【0119】
【表18】
【0120】
[水性塗料組成物の評価方法]
上述したようにして得られた実施例1~95、比較例1~21および参考例1~3の水性塗料組成物について、以下のようにして各種の性能試験(試験例1~4)を行った。なお、性能試験の方法については、水性塗料組成物の塗料の評価配合(評価に用いた塗料の配合組成)ごとに分類して以下に詳述する。また、以下の試験例1および2において、水性2液型エポキシ塗料の「主剤」とは、主剤を硬化させる前の2種の液剤のうち、顔料が含まれている方の液剤を意味し、「硬化剤」とは、顔料が含まれていない方の薬剤を意味する。
【0121】
(試験例1:評価配合1で製造した水性塗料組成物の評価)
試験例1では、評価配合として、表19に示した水性2液型エポキシ塗料配合(評価配合1)を用いて、粘性調整剤の性能試験を行った。
【0122】
【表19】
【0123】
表19に示すように、着色顔料(チタン白)としてJR-600A(テイカ社製) 49.14部と、防錆顔料としてK-WHITE 140W(テイカ社製) 34.02部と、体質顔料として硫酸バリウム(堺化学社製) 100.17部およびタルク1号(竹原化学工業社製) 43.47部と、希釈剤としてイオン交換水 98.28部と、消泡剤としてADF-01(楠本化成社製) 3.15部とをラボディスパーにて撹拌混合後、エポキシ樹脂としてjER W1155R55(三菱ケミカル社製) 206.64部およびjER W3435R67(三菱ケミカル社製) 57.33部と、造膜助剤としてエチレングリコールモノブチルエーテル 37.80部とを加え、エポキシ主剤を作製した。このエポキシ主剤に、製造例S20~S23、S43、S52~S70および比較製造例H1~H5のうちのいずれかの粘性調整剤を0.6質量%(有効成分である粘性付与成分(X)の質量換算)加え、ラボディスパー(φ40)を用いて回転数2000rpmで10分間分散させることにより、実施例20~23、53~72および比較例1~5の水性塗料組成物(硬化剤混合前)を製造した。
【0124】
<沈降防止性および熱安定性の評価>
上述のようにして作製した水性塗料組成物(硬化剤混合前)を50mLのガラス瓶に移し、25℃および60℃の恒温槽中に7日間静置し、スパチュラを使用して塗料(硬化剤混合前)中の顔料ケーキングの程度を、blank(粘性調整剤を含有しないエポキシ主剤)のケーキングの程度と比較することにより、以下の基準で沈降防止性を評価した。
(評価基準)
A:顔料が良好に分散されている(blankと同等)
B:僅かにクリヤー層が分離(再撹拌により再分散され、作製時の状態に戻る)
C:ソフトケーキングが発生(再撹拌により再分散され、作製時の状態に戻る)
D:状態変化またはケーキングが発生(再撹拌しても作製時の状態に戻らない)
D:顔料が不均一に存在または分離
【0125】
また、25℃で貯蔵した場合の沈降防止性の評価と60℃で貯蔵した場合の沈降防止性の評価との差に基づき、以下の基準で熱安定性を評価した。
(評価基準)
A:25℃と60℃で沈降防止性の評価が同じ
(ともにA判定、ともにB判定、ともにC判定)
B:25℃と60℃で沈降防止性の評価に1段階の差がある
(A判定とB判定、B判定とC判定、C判定とD判定)
C:25℃と60℃で沈降防止性の評価に2段階の差がある
(A判定とC判定、B判定とD判定)
D:25℃と60℃で沈降防止性の評価に3段階の差がある
(A判定とD判定)
D:判定不能
(25℃の沈降防止性と60℃の沈降防止性の評価がともにD判定)
【0126】
<塗料の経時安定性の評価>
上述のようにして水性塗料組成物(硬化剤混合前)を作製した当日に、B型粘度計を使用して25℃にて60rpmでの粘度(mPa・s)と6rpmでの粘度(mPa・s)を測定し、T.I.値(6rpmでの粘度/60rpmでの粘度)を算出した。また、上記水性塗料組成物(硬化剤混合前)を作製後、25℃恒温槽中に4週間静置し、作製した翌日および作製から1週間毎に、B型粘度計を使用して25℃にて60rpmでの粘度(mPa・s)と6rpmでの粘度(mPa・s)を測定し、T.I.値(6rpmでの粘度/60rpmでの粘度)を算出した。さらに、以下の式により算出される粘度変化率の値により、以下の基準で塗料の経時安定性を評価した。なお、比較例5については、目視により塗料中の分散不良物を確認し、かつ、塗料が不均一であったことから、エポキシ主剤を作製した翌日に経時安定性の評価を中止した。
粘度変化率=(作製から4週間後の60rpmでの粘度/作製当日の60rpmでの粘度)×100
(評価基準)
A:粘度変化率が168%未満(blankと同等)
B:粘度変化率が168%以上190%未満
C:粘度変化率が190%以上220%未満
D:粘度変化率が220%以上
【0127】
<ダレ防止性の評価>
表19に示すように、上述のようにして作製した水性塗料組成物(硬化剤混合前) 100.00部と、アミン硬化剤としてjER WD11M60(三菱ケミカル社製) 23.50部とを混合し、水性塗料組成物(水性エポキシ塗料)を作製した。主剤と硬化剤との混合後、B型粘度計を用いて測定した粘度が20P(25℃)となるように、混合物をイオン交換水にて希釈し、サグテスターを使用してダレ防止性を測定した。この測定値に基づき、以下の基準でダレ防止性を評価した。なお、比較例5については、目視により塗料中の分散不良物を確認し、かつ、塗料が不均一であったことから、ダレ防止性の評価を実施していない。
(評価基準)
A:測定値が450μm以上
B:測定値が400μm以上450μm未満
C:測定値が300μm超400μm未満
D:測定値が300μm以下(blank相当)
【0128】
(試験例2:評価配合1bで製造した水性塗料組成物の評価)
試験例2では、評価配合として、表20に示した水性2液型エポキシ塗料配合(評価配合1b)を用いて、粘性調整剤の性能試験を行った。
【0129】
【表20】
【0130】
表20に示すように、着色顔料(チタン白)としてJR-600A(テイカ社製) 66.30部と、防錆顔料としてK-WHITE 140W(テイカ社製) 45.90部と、体質顔料として硫酸バリウム(堺化学社製) 135.15部およびタルク1号(竹原化学工業社製) 58.65部と、希釈剤としてイオン交換水 132.60部と、消泡剤としてADF-01(楠本化成社製) 4.25部とをラボディスパーにて撹拌混合後、アミンとしてjER WD11M60(三菱ケミカル社製) 199.75部を加え、アミン主剤を作製した。このアミン主剤に、製造例S21、S43、S52、S53、S58、S63、S64、S66、S69、S70および比較製造例H2~H4のうちのいずれかの粘性調整剤を0.6質量%(有効成分である粘性付与成分(X)の質量換算)加え、ラボディスパー(φ40)を用いて回転数2000rpmで10分間分散させることにより、実施例86~95および参考例1~3の水性塗料組成物(硬化剤混合前)を製造した。
【0131】
また、表20に示すように、エポキシ樹脂としてjER W1155R55(三菱ケミカル社製) 170.56部およびjER W3435R67(三菱ケミカル社製) 47.32部と、造膜助剤としてエチレングリコールモノブチルエーテル 31.20部とをラボディスパーにて撹拌混合し、エポキシ硬化剤を作製した。
【0132】
<沈降防止性および熱安定性の評価>
上述のようにして作製した水性塗料組成物(硬化剤混合前)を50mLのガラス瓶に移し、25℃および60℃の恒温槽中に7日間静置し、塗料全量の体積に対する沈降した顔料(イリオジン)の体積の百分率(以下、「沈降率」と記載する。)を測定した。この測定値に基づき、以下の基準で沈降防止性を評価した。
(評価基準)
A:沈降率が80%以上
B:沈降率が50%以上80%未満
C:沈降率が25%以上50%未満
D:沈降率が25%未満
【0133】
また、25℃で貯蔵した場合の沈降防止性の評価と60℃で貯蔵した場合の沈降防止性の評価との差に基づき、以下の基準で熱安定性を評価した。
(評価基準)
A:25℃と60℃で沈降防止性の評価が同じ
(ともにA判定、ともにB判定、ともにC判定)
B:25℃と60℃で沈降防止性の評価に1段階の差がある
(A判定とB判定、B判定とC判定、C判定とD判定)
C:25℃と60℃で沈降防止性の評価に2段階の差がある
(A判定とC判定、B判定とD判定)
D:25℃と60℃で沈降防止性の評価に3段階の差がある
(A判定とD判定)
D:判定不能
(25℃の沈降防止性と60℃の沈降防止性の評価がともにD判定)
【0134】
<ダレ防止性の評価>
表20に示すように、上述のようにして作製した水性塗料組成物(硬化剤混合前) 75.60部と、上述のようにして作製したエポキシ硬化剤 47.90部とを混合し、水性塗料組成物(水性エポキシ塗料)を作製した。主剤と硬化剤との混合後、B型粘度計を用いて測定した粘度が20P(25℃)となるように、混合物をイオン交換水にて希釈し、サグテスターを使用してダレ防止性を測定した。この測定値に基づき、以下の基準でダレ防止性を評価した。
(評価基準)
A:測定値が450μm以上
B:測定値が400μm以上450μm未満
C:測定値が300μm超400μm未満
D:測定値が300μm以下(blank相当)
【0135】
(試験例3:評価配合2で製造した水性塗料組成物の評価)
試験例3では、評価配合として、表21に示したアクリルエマルション塗料配合(評価配合2)を用いて、粘性調整剤の性能試験を行った。
【0136】
【表21】
【0137】
表21に示すように、アクリル樹脂としてNeoCryl XK-12(DSM社製) 586.58部と、造膜助剤としてジプロピレングリコールモノメチルエーテル 27.38部およびジプロピレングリコールモノブチルエーテル 23.48部と、希釈剤としてイオン交換水 98.70部とを撹拌混合後、pH調整剤としてN,N’-ジメチルエタノールアミン 1.50部を用いてpHを8.3に調整し、クリヤー塗料を作製した。このクリヤー塗料に、メタリック顔料であるIriodin(登録商標) 504 Red(Merck社製) 13.88部と、製造例S1~S19、S71~83および比較製造例H1~H9、H11のうちのいずれかの粘性調整剤 0.6質量%(有効成分である粘性付与成分(X)の質量換算)加え、ラボディスパー(φ40)を用いて回転数2000rpmで10分間分散させることにより、実施例1~19、73~85および比較例6~15の水性塗料組成物を製造した。なお、比較例13の水性塗料組成物は、サンプルの分離が発生したため、以下の評価を実施していない。
【0138】
<沈降防止性および熱安定性の評価>
上述のようにして作製した水性塗料組成物(アクリルエマルション塗料)を、フォードカップ♯4を用いて測定した粘度が27秒(25℃)となるようにイオン交換水にて希釈し、希釈された塗料を50mLのガラス瓶に移した。その後、25℃および60℃恒温槽中に7日間静置し、塗料全量の体積に対する沈降した顔料(イリオジン)の体積の百分率(以下、「沈降率」と記載する。)を測定した。この測定値に基づき、以下の基準で沈降防止性を評価した。
(評価基準)
A:沈降率が80%以上
B:沈降率が50%以上80%未満
C:沈降率が25%以上50%未満
D:沈降率が25%未満
D:塗料に曳糸性が現れた
D:塗料がゲル化した
【0139】
また、25℃で貯蔵した場合の沈降防止性の評価と60℃で貯蔵した場合の沈降防止性の評価との差に基づき、以下の基準で熱安定性を評価した。
(評価基準)
A:25℃と60℃で沈降防止性の評価が同じ
(ともにA判定、ともにB判定、ともにC判定)
B:25℃と60℃で沈降防止性の評価に1段階の差がある
(A判定とB判定、B判定とC判定、C判定とD判定)
C:25℃と60℃で沈降防止性の評価に2段階の差がある
(A判定とC判定、B判定とD判定)
D:25℃と60℃で沈降防止性の評価に3段階の差がある
(A判定とD判定)
D:判定不能
(25℃の沈降防止性と60℃の沈降防止性の評価がともにD判定)
【0140】
(試験例4:評価配合3で製造した水性塗料組成物の評価)
試験例4では、評価配合として、表22に示したアクリルメラミン水溶性塗料配合(評価配合3)を用いて、粘性調整剤の性能試験を行った。
【0141】
【表22】
【0142】
表22に示すように、アクリル樹脂としてWATERSOL S-727(DIC社製) 250.16部と、メラミン樹脂として Cymel 303(Allnex社製) 35.87部およびWATERSOL S-695(DIC社製) 23.79部と、希釈剤としてイオン交換水 583.31部とを撹拌混合後、pH調整剤としてN,N’-ジメチルエタノールアミン 4.30部を用いてpHを9.1に調整し、クリヤー塗料を作製した。このクリヤー塗料に、メタリック顔料であるIriodin(登録商標) 504 Red(Merck社製) 17.57部と、製造例S9、S24~S51および比較製造例H1~H5、H10のうちのいずれかの粘性調整剤 0.4質量%(有効成分である粘性付与成分(X)の質量換算)加え、ラボディスパー(φ40)を用いて回転数2000rpmで10分間分散させることにより、実施例24~52および比較例16~21の水性塗料組成物を製造した。
【0143】
<沈降防止性および熱安定性の評価>
上述のようにして作製した水性塗料組成物(アクリルメラミン水溶性塗料)を、B型粘度計を用いて測定した粘度が350mPa・s(25℃)となるようにイオン交換水にて希釈し、希釈された塗料を50mlのガラス瓶に移した。その後、25℃および60℃恒温槽中に7日間静置し、顔料(イリオジン)の沈降率を測定した。この測定値に基づき、以下の基準で沈降防止性を評価した。
(評価基準)
A:沈降率が80%以上
B:沈降率が50%以上80%未満
C:沈降率が25%以上50%未満
D:沈降率が25%未満
D:塗料に曳糸性が現れた
【0144】
また、25℃で貯蔵した場合の沈降防止性の評価と60℃で貯蔵した場合の沈降防止性の評価との差に基づき、以下の基準で熱安定性を評価した。
(評価基準)
A:25℃と60℃で沈降防止性の評価が同じ
(ともにA判定、ともにB判定、ともにC判定)
B:25℃と60℃で沈降防止性の評価に1段階の差がある
(A判定とB判定、B判定とC判定、C判定とD判定)
C:25℃と60℃で沈降防止性の評価に2段階の差がある
(A判定とC判定、B判定とD判定)
D:25℃と60℃で沈降防止性の評価に3段階の差がある
(A判定とD判定)
D:判定不能(25℃の沈降防止性と60℃の沈降防止性の評価がともにD判定)
【0145】
[水性塗料組成物の評価結果]
上述したようにして製造した実施例1~95および比較例1~21の水性塗料組成物に使用した粘性調整剤の種類および評価配合の種別、ならびに、これらの水性塗料組成物に関する評価結果(沈降防止性、熱安定性、塗料経時安定性、ダレ防止性)を上記表12~18に示した。
【0146】
表12~16に示すように、実施例1~95の水性塗料組成物は、いずれも、良好な(C判定以上の)沈降防止性および熱安定性を示していた。また、実施例20~23、53~72の水性塗料組成物は、いずれも、良好な(C判定以上の)塗料経時安定性およびダレ防止性を示していた。
【0147】
ここで、実施例1~8の比較から、粘性付与成分(X)の種類について以下のことがわかる。第1に、ジアミン成分(A1)の炭素数が大きいと、沈降防止性がやや低下する傾向にあることがわかる(特に、実施例1および3を参照)。したがって、沈降防止性を向上させる観点からは、ジアミン成分(A1)としては、炭素数が10以下のジアミンを用いることが好ましいことが示唆された。第2に、粘性付与成分(X)として水素添加ひまし油(A’)のみを用いると、熱安定性にやや劣る傾向にあることがわかる(特に、実施例1、4および5を参照)。したがって、熱安定性を向上させる観点からは、粘性付与成分(X)として少なくともジアマイド化合物(A)を含むことが好ましいことが示唆された。第3に、モノカルボン酸成分(A2)として少なくとも水酸基を有するモノカルボン酸(オキシ酸)が含まれていれば、ジアマイド化合物(A)の原料として、芳香族のジアミンや水酸基を有さないアルカン酸などが含まれていても、良好な(C判定以上の)沈降防止性および熱安定性を示すことがわかる。ただし、その場合でも、アルカン酸の炭素数が大きい(C18以上)と、僅かに熱安定性に劣る傾向にあることがわかる(特に、実施例7および8を参照)。したがって、ジアマイド化合物(A)の原料としてアルカン酸が含まれる場合には、熱安定性を向上させる観点から、炭素数が16以下であることが好ましいことが示唆された。なお、比較例11~13からわかるように、モノカルボン酸成分(A2)として水酸基を有するモノカルボン酸が含まれていない場合には、沈降防止性および熱安定性が悪化することがわかる。
【0148】
また、実施例9~17および比較例15の比較から、ポリアミド化合物(B)の酸価が30~140であれば、沈降防止性および熱安定性に優れることがわかる。
【0149】
また、実施例9、18の比較から、粘性調整剤がポリアミド化合物(B)を含む場合、中和塩基(G)がアルコールアミンであるか、アルキルアミンであるかに関わらず、沈降防止性および熱安定性に優れることがわかる。
【0150】
また、実施例9、19および比較例9の比較から、粘性付与成分(X)の全体量を100質量部としたときに、ジアマイド化合物(A)と水素添加ひまし油(A’)の含有量の合計が60質量部未満となると、沈降防止性および熱安定性が悪化することがわかる。
【0151】
また、実施例20~23の比較から、ダレ防止性を向上させる観点からは、ジアマイド化合物(A)の含有量が3.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましいことがわかる。
【0152】
また、実施例24~39の比較から、溶剤(C)の種類について、溶剤(C)として使用される化合物が、水酸基、エーテル基、エステル基、アミド基およびケトン基のうちの少なくともいずれか1種の置換基を有していれば、良好な(C判定以上の)沈降防止性および熱安定性を示すことがわかる。
【0153】
また、実施例28~32と実施例40~44との比較から、溶剤(C)として特定の溶剤を(例えば、BFDG、BFG、n-BuOH、BCS、BDGなど)用いた場合には、溶剤(C)の含有量を大幅に(半分以下の量に)削減できる、すなわち、溶剤(C)の量を削減しても同等の沈降防止性および熱安定性が得られることがわかる。
【0154】
また、実施例31、43、45~52の比較から、第1の溶剤(C)の含有量が5質量%~99質量%であれば、良好な(C判定以上の)沈降防止性および熱安定性を示すことがわかる。ただし、熱安定性を向上させるという観点からは、第1の溶剤(C)の含有量が、10質量%~99質量%であることが好ましい。
【0155】
また、実施例53~67の比較から、界面活性剤(E)の種類について、ノニオン性界面活性剤であれば、良好な(C判定以上の)沈降防止性および熱安定性を示すことがわかる。ただし、ダレ防止性を高めるという観点からは、界面活性剤(E)として、グリフィン法により算出されたHLB値が3~18.5のノニオン性界面活性剤を使用することが好ましい(特に、実施例63を参照)。同様に、ダレ防止性を高めるという観点からは、界面活性剤(E)として、芳香環を含まない化合物を使用することが好ましい(特に、実施例56を参照)。
【0156】
また、実施例68~72から、界面活性剤(E)の含有量は、ジアマイド化合物(A)および/または水素添加ひまし油(A’)100質量部に対して300質量部以下であることが好ましい。さらに、これらの実施例の比較から、塗料の経時安定性およびダレ防止性を高めるという観点からは、界面活性剤(E)の含有量は、ジアマイド化合物(A)および/または水素添加ひまし油(A’)100質量部に対して200質量部以下であることがより好ましい。ダレ防止性を特に高めるという観点からは、界面活性剤(E)の含有量は、ジアマイド化合物(A)および/または水素添加ひまし油(A’)100質量部に対して40質量部以上であることがより好ましい。
【0157】
また、実施例1、73~82の比較から、第2の溶剤(F)の極性が第1の溶剤(C)の極性よりも相対的に高い限り、第2の溶剤(F)の種類によらず、良好な(C判定以上の)沈降防止性および熱安定性を示すことがわかる。
【0158】
また、実施例1、83~85から、第2の溶剤(F)の含有量は、20質量%以下であることが好ましい。さらに、これらの実施例の比較から、熱安定性特に高めるという観点からは、第2の溶剤(F)の含有量は、10質量%以下であることがより好ましいことがわかる。また、沈降防止性を高めるという観点からは、第2の溶剤(F)の含有量は、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましいことがわかる。
【0159】
また、実施例21と実施例86の比較、実施例53と実施例87の比較、実施例54と実施例88の比較、実施例59と実施例89の比較、実施例64と実施例90の比較、実施例65と実施例91の比較、実施例67と実施例92の比較、実施例43と実施例93の比較、実施例71と実施例94の比較、実施例72と実施例95の比較から、エポキシ主剤側に粘性調整剤を添加した場合(評価配合1)だけでなく、アミン主剤側に粘性調整剤を添加した場合(評価配合1b)にも、本発明の実施例に係る粘性調整剤を添加することにより、優れた沈降防止性、熱安定性およびダレ防止性を有することがわかる。
【0160】
一方、表17における比較例1、6、16に示すように、ウレタンシックナーを粘性調整剤として使用した場合には、例えば、水性2液型エポキシ塗料においてダレ防止性に劣り、その他の種類の塗料においては沈降防止性および熱安定性に劣ることがわかる。
【0161】
また、表17における比較例2~4、7~9、17~19に示すように、粘性付与成分(X)の主成分がポリアミド化合物(B)であり、中和用塩基としてのアミンを多量に使用する場合には、沈降防止性、熱安定性、塗料の経時安定性、ダレ防止性に劣ることがわかる。
【0162】
ここで、表18における参考例1~3に示すように、粘性付与成分(X)の主成分がポリアミド化合物(B)であり、中和用塩基としてのアミンを多量に使用する場合であっても、従来のようにアミン主剤側に粘性調整剤を使用する場合には、良好な沈降防止性、熱安定性、ダレ防止性を有していた。このように、粘性付与成分(X)の主成分がポリアミド化合物(B)であり、中和用塩基としてのアミンを多量に使用する粘性調整剤は、アミン主剤側にしか添加できないという制限があった。しかし、本発明の粘性調整剤には、このような制限はない。すなわち、本発明によれば、粘性調整剤をアミン主剤側に添加した場合だけでなく、エポキシ主剤側に添加した場合であっても、優れた沈降防止性および熱安定性を有し、水性塗料に優れた経時安定性およびダレ防止性を付与できる粘性調整が得られる。
【0163】
また、表17における比較例5、10、20に示すように、粘性付与成分(X)の溶剤として、非水系の非極性溶剤を用いると、水性塗料組成物中で分散不良となるため、水性塗料においては、沈降防止性および熱安定性に劣ることがわかる。
【0164】
また、表17における比較例21に示すように、第1の溶剤(C)を含有しない場合には、沈降防止性および熱安定性に劣ることがわかる。