IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

<>
  • 特許-液圧制御ユニット 図1
  • 特許-液圧制御ユニット 図2
  • 特許-液圧制御ユニット 図3
  • 特許-液圧制御ユニット 図4
  • 特許-液圧制御ユニット 図5
  • 特許-液圧制御ユニット 図6
  • 特許-液圧制御ユニット 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】液圧制御ユニット
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/171 20060101AFI20240708BHJP
   B60T 17/22 20060101ALI20240708BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
B60T8/171 Z
B60T17/22 Z
B60T8/17 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022573807
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 IB2021062088
(87)【国際公開番号】W WO2022149034
(87)【国際公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2021001170
(32)【優先日】2021-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐希
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-202597(JP,A)
【文献】特開2019-215009(JP,A)
【文献】国際公開第2021/193157(WO,A1)
【文献】特開2003-247504(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102019219395(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/171
B60T 17/22
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)の挙動制御システム(10)に用いられる液圧制御ユニット(5)であって、
基体(51a)と、当該基体(51a)に組み込まれ、前記挙動制御システム(10)の作動液に生じさせる液圧を制御するための電磁弁(31)を含むコンポーネントと、を含む液圧制御機構(51)と、
前記コンポーネントの動作を制御する制御部(52b)を含む制御装置(52)と、
を備え、
前記電磁弁(31)は、巻線(314)と、前記巻線(314)への電流の印加に伴って移動するアーマチュア(312)と、を含み、前記巻線(314)に電流が印加されている通電状態において閉じる弁又は開く弁であり、
前記制御装置(52)は、前記作動液の粘度を評価する評価部(52c)を含み、
前記評価部(52c)は、前記巻線(314)への電流の印加開始時において前記巻線(314)に流れる電流の電流値(i)が目標電流値(isw)に向けて上昇する過程で前記電流値(i)が一時的に下降する際の前記電流値(i)の下降量(Δi)に基づいて、前記粘度を評価する、
液圧制御ユニット。
【請求項2】
前記評価部(52c)は、前記下降量(Δi)に加えて、前記作動液の温度に基づいて、前記粘度を評価する、
請求項1に記載の液圧制御ユニット。
【請求項3】
前記評価部(52c)は、前記下降量(Δi)に加えて、前記目標電流値(isw)に基づいて、前記粘度を評価する、
請求項1又は2に記載の液圧制御ユニット。
【請求項4】
前記制御部(52b)は、前記粘度の評価結果に基づいて、報知動作を制御する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の液圧制御ユニット。
【請求項5】
前記制御部(52b)は、前記粘度の評価結果に基づいて、前記目標電流値(isw)を制御する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の液圧制御ユニット。
【請求項6】
前記制御部(52b)は、前記粘度が基準粘度よりも高い場合に、前記目標電流値(isw)を大きくする、
請求項5に記載の液圧制御ユニット。
【請求項7】
前記評価部(52c)は、前記下降量(Δi)が基準量よりも小さい場合、前記作動液の温度が上昇した後に前記粘度を評価する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の液圧制御ユニット。
【請求項8】
前記評価部(52c)は、前記電流値(i)の下降開始時点から基準時間経過後の時点における前記電流値(i)が、前記下降開始時点における前記電流値(i)と比較して基準値以上低い場合に、前記電流値(i)が一時的に下降したと判定する、
請求項1~7のいずれか一項に記載の液圧制御ユニット。
【請求項9】
前記車両(100)は、モータサイクルである、
請求項1~8のいずれか一項に記載の液圧制御ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、作動液の粘度を精度良く評価することができる液圧制御ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータサイクル等の車両の挙動を制御するための挙動制御システムとして、作動液に生じさせる液圧を制御する液圧制御ユニットが用いられるものがある。液圧制御ユニットでは、作動液の流路に設けられる電磁弁を動作させることによって作動液に生じさせる液圧が制御される。
【0003】
ここで、作動液の粘度が高くなると、電磁弁における可動部であるアーマチュアの動きが制限されやすくなる。よって、作動液の粘度が過度に高いと、電磁弁による流路を開閉する機能が適切に働かなくなるおそれがある。そこで、電磁弁の作動状態を把握するために、作動液の粘度を評価する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-215009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、作動液の粘度は、作動液の劣化に伴って変化する。例えば、作動液が劣化して作動液の含水率が上がることによって、作動液の粘度が高くなる。しかしながら、液圧制御ユニットに関する従来の技術では、作動液の劣化に伴う粘度の変化が作動液の粘度の評価に加味されておらず、作動液の粘度を精度良く評価することが十分ではなかった。
【0006】
本発明は、上述の課題を背景としてなされたものであり、作動液の粘度を精度良く評価することができる液圧制御ユニットを得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液圧制御ユニットは、車両の挙動制御システムに用いられる液圧制御ユニットであって、基体と、当該基体に組み込まれ、前記挙動制御システムの作動液に生じさせる液圧を制御するための電磁弁を含むコンポーネントと、を含む液圧制御機構と、前記コンポーネントの動作を制御する制御部を含む制御装置と、を備え、前記電磁弁は、巻線と、前記巻線への電流の印加に伴って移動するアーマチュアと、を含み、前記巻線に電流が印加されている通電状態において閉じる弁又は開く弁であり、前記制御装置は、前記作動液の粘度を評価する評価部を含み、前記評価部は、前記巻線への電流の印加開始時において前記巻線に流れる電流の電流値が目標電流値に向けて上昇する過程で前記電流値が一時的に下降する際の前記電流値の下降量に基づいて、前記粘度を評価する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る液圧制御ユニットでは、制御装置は、作動液の粘度を評価する評価部を含み、評価部は、電磁弁の巻線への電流の印加開始時において巻線に流れる電流の電流値が目標電流値に向けて上昇する過程で電流値が一時的に下降する際の電流値の下降量に基づいて、粘度を評価する。それにより、作動液の劣化に伴う粘度の変化を加味して、作動液の粘度を評価することができる。ゆえに、作動液の粘度を精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る車両の概略構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るブレーキシステムの概略構成を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に係る液圧制御ユニットの電磁弁の一例を示す断面模式図である。
図4】本発明の実施形態に係る液圧制御ユニットの電流センサの一例を示す模式図である。
図5】本発明の実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図6】本発明の実施形態に係る液圧制御ユニットの電磁弁の巻線への電流の印加開始時における巻線に流れる電流の電流値の推移の一例を示す模式図である。
図7】本発明の実施形態に係る制御装置が行う作動液の粘度の評価に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る液圧制御ユニットについて、図面を用いて説明する。
【0011】
なお、以下では、二輪のモータサイクル(図1中の車両100を参照)のブレーキシステムに用いられる液圧制御ユニットについて説明しているが、本発明に係る液圧制御ユニットは、ブレーキシステム以外の他の挙動制御システム(例えば、サスペンションの減衰力を制御するためのシステム等)に用いられるものであってもよい。また、本発明に係る液圧制御ユニットは、二輪のモータサイクル以外の車両(例えば、バギー車、三輪のモータサイクル、自転車等の他の鞍乗り型車両、又は、四輪の自動車等)の挙動制御システムに用いられるものであってもよい。なお、鞍乗り型車両は、ライダーが跨って乗車する車両を意味し、スクーター等を含む。
【0012】
また、以下では、前輪制動機構及び後輪制動機構が、それぞれ1つずつである場合を説明しているが(図2中の前輪制動機構12及び後輪制動機構14を参照)、前輪制動機構及び後輪制動機構の少なくとも一方が複数であってもよく、前輪制動機構及び後輪制動機構の一方が設けられていなくてもよい。
【0013】
また、以下で説明する構成及び動作等は一例であり、本発明に係る液圧制御ユニットは、そのような構成及び動作等である場合に限定されない。
【0014】
また、以下では、同一の又は類似する説明を適宜簡略化又は省略している。また、各図において、同一の又は類似する部材又は部分については、符号を付すことを省略しているか、又は同一の符号を付している。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略している。
【0015】
<車両の構成>
図1図5を参照して、本発明の実施形態に係る車両100の構成について説明する。
【0016】
図1は、車両100の概略構成を示す模式図である。図2は、ブレーキシステム10の概略構成を示す模式図である。
【0017】
車両100は、本発明に係る車両の一例に相当する二輪のモータサイクルである。車両100は、図1に示されるように、胴体1と、胴体1に旋回自在に保持されているハンドル2と、胴体1にハンドル2と共に旋回自在に保持されている前輪3と、胴体1に回動自在に保持されている後輪4と、液圧制御ユニット5と、報知装置6とを備える。液圧制御ユニット5は、車両100のブレーキシステム10に用いられる。報知装置6は、ライダーに対する報知を行う。報知装置6は、音出力機能及び表示機能を備える。音出力機能は、音を出力する機能であり、例えば、スピーカによって実現される。表示機能は、情報を視覚的に表示する機能であり、例えば、液晶ディスプレイ又はランプ等によって実現される。なお、車両100は、エンジン又はモータ等の駆動源を備えており、当該駆動源から出力される動力を用いて走行する。
【0018】
ブレーキシステム10は、図1及び図2に示されるように、第1ブレーキ操作部11と、少なくとも第1ブレーキ操作部11に連動して前輪3を制動する前輪制動機構12と、第2ブレーキ操作部13と、少なくとも第2ブレーキ操作部13に連動して後輪4を制動する後輪制動機構14とを備える。また、ブレーキシステム10は、液圧制御ユニット5を備え、前輪制動機構12の一部及び後輪制動機構14の一部は、液圧制御ユニット5に含まれる。液圧制御ユニット5は、前輪制動機構12によって前輪3に付与される制動力、及び、後輪制動機構14によって後輪4に付与される制動力を制御する機能を担うユニットである。
【0019】
第1ブレーキ操作部11は、ハンドル2に設けられており、ライダーの手によって操作される。第1ブレーキ操作部11は、例えば、ブレーキレバーである。第2ブレーキ操作部13は、胴体1の下部に設けられており、ライダーの足によって操作される。第2ブレーキ操作部13は、例えば、ブレーキペダルである。ただし、スクーター等のブレーキ操作部のように、第1ブレーキ操作部11及び第2ブレーキ操作部13の双方がライダーの手によって操作されるブレーキレバーであってもよい。
【0020】
前輪制動機構12及び後輪制動機構14のそれぞれは、ピストン(図示省略)を内蔵しているマスタシリンダ21と、マスタシリンダ21に付設されているリザーバ22と、胴体1に保持され、ブレーキパッド(図示省略)を有しているブレーキキャリパ23と、ブレーキキャリパ23に設けられているホイールシリンダ24と、マスタシリンダ21のブレーキ液をホイールシリンダ24に流通させる主流路25と、ホイールシリンダ24のブレーキ液を逃がす副流路26と、マスタシリンダ21のブレーキ液を副流路26に供給する供給流路27とを備える。
【0021】
前輪制動機構12及び後輪制動機構14のそれぞれには、作動液であるブレーキ液に生じさせる液圧を制御するための電磁弁31が設けられている。図2の例では、電磁弁31は、込め弁(EV)31aと、弛め弁(AV)31bと、第1弁(USV)31cと、第2弁(HSV)31dとを含む。
【0022】
主流路25には、込め弁31aが設けられている。副流路26は、主流路25のうちの、込め弁31aに対するホイールシリンダ24側とマスタシリンダ21側との間をバイパスする。副流路26には、上流側から順に、弛め弁31bと、アキュムレータ32と、ポンプ33とが設けられている。主流路25のうちの、マスタシリンダ21側の端部と、副流路26の下流側端部が接続される箇所との間には、第1弁31cが設けられている。供給流路27は、マスタシリンダ21と、副流路26のうちのポンプ33の吸込側との間を連通させる。供給流路27には、第2弁31dが設けられている。
【0023】
込め弁31aは、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁31である。弛め弁31bは、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁31である。第1弁31cは、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁31である。第2弁31dは、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁31である。
【0024】
液圧制御ユニット5は、上述した前輪制動機構12の一部及び後輪制動機構14の一部を含む液圧制御機構51と、液圧制御機構51の動作を制御する制御装置(ECU)52とを備える。
【0025】
液圧制御機構51は、基体51aと、当該基体51aに組み込まれブレーキシステム10の作動液であるブレーキ液に生じさせる液圧を制御するための電磁弁31を含むコンポーネントとを含む。コンポーネントは、基体51aに組み込まれる部品等の要素を意味する。
【0026】
基体51aは、例えば、略直方体形状を有し、金属材料によって形成されている。液圧制御機構51の基体51aの内部には、主流路25、副流路26及び供給流路27が形成されており、電磁弁31(具体的には、込め弁31a、弛め弁31b、第1弁31c及び第2弁31d)、アキュムレータ32及びポンプ33が上記コンポーネントとして組み込まれている。これらのコンポーネントの動作は、後述するように、液圧制御ユニット5の制御装置52によって制御される。なお、基体51aは、1つの部材によって形成されていてもよく、複数の部材によって形成されていてもよい。また、基体51aが複数の部材によって形成されている場合、各コンポーネントは、当該複数の部材に分かれて設けられていてもよい。
【0027】
以下、図3を参照して、液圧制御ユニット5に設けられる電磁弁31の詳細な構成について説明する。図3は、液圧制御ユニット5の電磁弁31の一例を示す断面模式図である。なお、以下では、図3中の電磁弁31が通電状態において閉じる弁(具体的には、込め弁31a及び第1弁31c)である場合について主に説明した後に、通電状態において開く弁(具体的には、弛め弁31b及び第2弁31d)について補足する。
【0028】
図3に示されるように、電磁弁31は、例えば、ケース311と、アーマチュア312と、タペット313と、巻線314と、コア315と、スプリング316と、第1流路317と、第2流路318とを含む。
【0029】
アーマチュア312は、ケース311内においてケース311に対して相対的に往復移動可能な可動部に相当する。アーマチュア312は、例えば、略円筒形状を有している。アーマチュア312は、ケース311の内部に形成される内部空間内に配置され、アーマチュア312の軸方向に沿って往復移動可能となっている。タペット313は、アーマチュア312に固定されており、アーマチュア312と一体として移動可能となっている。例えば、タペット313は、円形の断面形状を有する中実の棒状部材であり、アーマチュア312の内周部に嵌合されて固定されている。
【0030】
巻線314は、ケース311に固定されており、電流が印加されることによって磁界を発生させる。例えば、巻線314は、ケース311の内部空間をアーマチュア312の周方向に沿って囲むように設けられている。コア315は、巻線314により生じる磁界によって磁化される鉄芯であり、例えば、略円筒形状を有している。コア315は、ケース311の内部空間においてアーマチュア312と同軸上に配置され、コア315の内周部には、タペット313が挿通されている。コア315が磁化されることによって、コア315に近づく方向の磁力がアーマチュア312に対して作用するようになっている。このように、アーマチュア312は、巻線314への電流の印加に伴って移動する。
【0031】
スプリング316は、アーマチュア312をコア315から遠ざける方向に付勢する。例えば、スプリング316は、ケース311の内部空間において、ケース311の内周部とアーマチュア312のコア315側の端面との間に挟まれて設けられている。
【0032】
第1流路317及び第2流路318は、ケース311の内部に形成されており、電磁弁31が設けられている主流路25、副流路26又は供給流路27の一部を形成している。また、第1流路317及び第2流路318は、ケース311内において、タペット313の先端部が収容されている空間を介して互いに接続されている。
【0033】
通電状態において閉じる電磁弁31(具体的には、込め弁31a及び第1弁31c)では、巻線314に電流が印加されていない状態(つまり、非通電状態)において、アーマチュア312は、図3中で実線により示されるように、スプリング316による付勢力によってコア315から離隔した位置に保持されている。それにより、第1流路317と第2流路318とが、互いに連通された状態(つまり、電磁弁31が開放された状態)となっている。
【0034】
一方、巻線314に電流が印加されている状態(つまり、通電状態)において、アーマチュア312は、磁化されているコア315との間で生じる磁力によってタペット313とともにコア315側に吸引されることによって、図3中で二点鎖線により示される位置に保持される。それにより、第2流路318の端部の開口がタペット313の先端部により閉塞され、第1流路317と第2流路318とが、互いに遮断された状態(つまり、電磁弁31が閉鎖された状態)となる。
【0035】
なお、通電状態において開く電磁弁31(具体的には、弛め弁31b及び第2弁31d)では、非通電状態において、図3中で二点鎖線により示されるように、第2流路318の端部の開口がタペット313の先端部により閉塞され、第1流路317と第2流路318とが、互いに遮断された状態(つまり、電磁弁31が閉鎖された状態)となっている。そして、通電状態において、第2流路318の端部の開口から遠ざかる方向の磁力がアーマチュア312に対して作用し、図3中で実線により示されるように、第1流路317と第2流路318とが、互いに連通された状態(つまり、電磁弁31が開放された状態)となる。
【0036】
図2に示されるように、液圧制御ユニット5には、電磁弁31の巻線314に流れる電流の電流値を検出する電流センサ41が設けられている。なお、電流センサ41は、電磁弁31の巻線314に流れる電流の電流値に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。電流センサ41は、各電磁弁31に対してそれぞれ設けられている。具体的には、電流センサ41は、込め弁31aに対して設けられる電流センサ41aと、弛め弁31bに対して設けられる電流センサ41bと、第1弁31cに対して設けられる電流センサ41cと、第2弁31dに対して設けられる電流センサ41dとを含む。各電流センサ41の検出結果は、制御装置52に出力され、制御装置52が行う処理に用いられる。
【0037】
以下、図4を参照して、液圧制御ユニット5に設けられる電流センサ41の詳細な構成について説明する。図4は、液圧制御ユニット5の電流センサ41の一例を示す模式図である。
【0038】
図4に示されるように、電流センサ41は、例えば、シャント抵抗411と、オペアンプ412とを含む。
【0039】
シャント抵抗411は、二次電池等の電源7と接続される電磁弁31の巻線314と直列に接続されている。電磁弁31の巻線314には、電源7から電力が供給される。オペアンプ412は、シャント抵抗411に対して並列に接続されており、シャント抵抗411の両端間での電圧差を増幅して出力する。電流センサ41は、シャント抵抗411の抵抗値、及び、オペアンプ412の出力値に基づいて、電磁弁31の巻線314に流れる電流の電流値を検出する。
【0040】
また、図2に示されるように、液圧制御ユニット5には、ブレーキ液の温度を検出する温度センサ42、43が設けられている。なお、温度センサ42、43はブレーキ液の温度に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。温度センサ42は、前輪制動機構12に設けられており、前輪制動機構12のブレーキ液の温度を検出する。温度センサ43は、後輪制動機構14に設けられており、後輪制動機構14のブレーキ液の温度を検出する。温度センサ42、43は、例えば、マスタシリンダ圧センサ内に設けられる。
【0041】
液圧制御ユニット5の制御装置52は、液圧制御機構51の基体51aに組み込まれている上述したコンポーネントの動作を制御する。例えば、制御装置52の一部又は全ては、マイコン、マイクロプロセッサユニット等で構成されている。また、例えば、制御装置52の一部又は全ては、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。制御装置52は、例えば、1つであってもよく、また、複数に分かれていてもよい。また、制御装置52は、基体51aに取り付けられていてもよく、また、基体51a以外の他の部材に取り付けられていてもよい。
【0042】
図5は、液圧制御ユニット5の制御装置52の機能構成の一例を示すブロック図である。図5に示されるように、制御装置52は、例えば、取得部52aと、制御部52bと、評価部52cとを含む。
【0043】
取得部52aは、液圧制御ユニット5に設けられる各センサから情報を取得し、制御部52b及び評価部52cへ出力する。例えば、取得部52aは、各電流センサ41及び温度センサ42、43から情報を取得する。
【0044】
制御部52bは、液圧制御機構51の基体51aに組み込まれている上述したコンポーネントの動作を制御する。それにより、制御部52bは、前輪制動機構12によって前輪3に付与される制動力、及び、後輪制動機構14によって後輪4に付与される制動力を制御することができる。なお、制御部52bは、後述するように、報知装置6の動作を制御することもできる。
【0045】
制御部52bは、上記のコンポーネントの動作を、例えば、車両100の走行状態に応じて制御する。通常時(つまり、後述されるアンチロックブレーキ制御又は自動ブレーキ制御等が実行されていない時)には、制御部52bによって、込め弁31aが開放され、弛め弁31bが閉鎖される。その状態で、第1ブレーキ操作部11が操作されると、前輪制動機構12において、マスタシリンダ21のピストン(図示省略)が押し込まれてホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧が増加し、ブレーキキャリパ23のブレーキパッド(図示省略)が前輪3のロータ3aに押し付けられて、前輪3に制動力が生じる。また、第2ブレーキ操作部13が操作されると、後輪制動機構14において、マスタシリンダ21のピストン(図示省略)が押し込まれてホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧が増加し、ブレーキキャリパ23のブレーキパッド(図示省略)が後輪4のロータ4aに押し付けられて、後輪4に制動力が生じる。
【0046】
アンチロックブレーキ制御は、例えば、車輪(具体的には、前輪3又は後輪4)にロック又はロックの可能性が生じた場合に実行され、当該車輪に付与される制動力をライダーによるブレーキ操作によらずに減少させる制御である。例えば、アンチロックブレーキ制御が実行されると、制御部52bによって、込め弁31aが閉鎖され、弛め弁31bが開放され、第1弁31cが開放され、第2弁31dが閉鎖される。その状態で、制御部52bによってポンプ33が駆動されることにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧が減少し、車輪に付与される制動力が減少する。
【0047】
自動ブレーキ制御は、例えば、車両100の旋回時等に車両100の姿勢を安定化する必要性が生じた場合に実行され、車輪(具体的には、前輪3又は後輪4)に付与される制動力をライダーによるブレーキ操作によらずに生じさせる制御である。例えば、自動ブレーキ制御が実行されると、制御部52bによって、込め弁31aが開放され、弛め弁31bが閉鎖され、第1弁31cが閉鎖され、第2弁31dが開放される。その状態で、制御部52bによってポンプ33が駆動されることにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧が増加し、車輪を制動する制動力が生じる。
【0048】
評価部52cは、ブレーキシステム10の作動液であるブレーキ液の粘度を評価する。なお、評価部52cは、ブレーキ液の粘度の評価において、ブレーキ液の粘度の推定値を具体的に特定してもよく、ブレーキ液の粘度の程度をおおまかに特定してもよい。
【0049】
ここで、ブレーキ液等の作動液の粘度は、劣化に伴って変化する。例えば、ブレーキ液は、使用される過程において、大気中の水分を吸収することがある。また、例えば、ブレーキ液の交換作業等において、ブレーキ液中に水分が直接入り込むことがある。これらの要因によってブレーキ液の含水率が上がった結果、ブレーキ液が劣化する。ブレーキ液が劣化してブレーキ液の含水率が上がると、ブレーキ液の粘度が高くなる。ブレーキ液の粘度が高くなると、電磁弁31のアーマチュア312の動きが制限されやすくなる。
【0050】
図3の例では、巻線314へ電流が印加されることによって、二点鎖線により示されるように、電磁弁31が閉鎖された状態となる位置までアーマチュア312が移動している。つまり、アーマチュア312のストローク量Δx(図3を参照)は、電磁弁31を適切に機能させるために十分な大きさとなっている。アーマチュア312のストローク量Δxは、電磁弁31の巻線314への電流の印加が行われた際におけるアーマチュア312の移動開始位置から移動終了位置までの距離(つまり、アーマチュア312の移動量)である。なお、上述したように、タペット313はアーマチュア312と一体として移動可能となっているので、アーマチュア312のストローク量Δxは、タペット313のストローク量と一致する。ブレーキ液の粘度が高くなった場合には、アーマチュア312のストローク量Δxが小さくなり、電磁弁31によるブレーキ液の遮断又は流通が想定通りに実現されなくなる場合がある。なお、ブレーキ液の粘度が高くなった場合には、アーマチュア312の移動速度も小さくなる。このことも、電磁弁31によるブレーキ液の遮断又は流通が想定通りに実現されなくなる要因となり得る。そこで、電磁弁31の作動状態(つまり、電磁弁31が適切に機能する状態であるか否か)を把握するために、ブレーキ液の粘度を評価することが必要となる。
【0051】
本実施形態では、制御装置52が行うブレーキ液の粘度の評価に関する処理に工夫を施すことによって、ブレーキ液の粘度を精度良く評価することが実現される。このようなブレーキ液の粘度の評価に関する処理の詳細については後述する。
【0052】
<液圧制御ユニットの動作>
図6及び図7を参照して、本発明の実施形態に係る液圧制御ユニット5の動作について説明する。
【0053】
本実施形態では、評価部52cは、電磁弁31の巻線314への電流の印加開始時において巻線314に流れる電流の電流値の挙動に基づいて、ブレーキ液の粘度を評価する。以下、図6を参照して、巻線314への電流の印加開始時において巻線314に流れる電流の電流値の挙動について説明する。
【0054】
図6は、液圧制御ユニット5の電磁弁31の巻線314への電流の印加開始時における巻線314に流れる電流の電流値の推移の一例を示す模式図である。図6において、横軸は時間t[s]を示し、縦軸は巻線314に流れる電流の電流値i[A]を示している。
【0055】
電磁弁31の巻線314への電流の印加が開始すると、巻線314に流れる電流の電流値iは、目標電流値iswに向けて上昇し始める。そして、電流値iは、目標電流値iswに到達した後、目標電流値iswに維持される。本明細書では、電磁弁31の巻線314への電流の印加開始時は、電流値iが巻線314への電流の印加に伴い上昇し始めてから目標電流値iswに到達するまでの間の時間を意味する。
【0056】
図6中で実線により示される例では、時点t1において、巻線314への電流の印加が開始し、巻線314に流れる電流の電流値iが上昇し始める。その後、時点t4において、電流値iは目標電流値isw1に到達する。そして、時点t4以後において、電流値iは、目標電流値isw1に維持される。なお、図6中の実線の例における目標電流値iswは目標電流値isw1となっているが、制御部52bは、目標電流値iswを変化させることができる。
【0057】
ここで、巻線314への電流の印加が開始すると、コア315が磁化されることによって、コア315に近づく方向の磁力がアーマチュア312に対して作用し、アーマチュア312はタペット313とともにコア315側に吸引され、移動する。この際、アーマチュア312は、巻線314により生じている磁界内を当該磁界に対して相対的に移動する。それにより、巻線314により生じる磁束を弱めるように逆起電力が巻線314に生じる。ゆえに、巻線314に流れる電流の電流値iが目標電流値iswに向けて上昇する過程において、電流値iは一時的に下降する挙動を示す。例えば、図6中の実線の例では、時点t2において、電流値iが下降し始めている。その後、時点t3において、電流値iの下降が終了して、電流値iが目標電流値iswに向けて再度上昇し始めている。
【0058】
本実施形態では、評価部52cは、電磁弁31の巻線314への電流の印加開始時において巻線314に流れる電流の電流値iが目標電流値iswに向けて上昇する過程で電流値iが一時的に下降する際の電流値iの下降量Δiに基づいて、ブレーキ液の粘度を評価する。例えば、図6中の実線の例における下降量Δiは、時点t2での電流値iと時点t3での電流値iとの差に相当する下降量Δi1となっている。アーマチュア312の移動に伴って巻線314に逆起電力が生じる現象に着目すると、ブレーキ液の粘度が高いほど、アーマチュア312のストローク量Δxが小さくなり、電流値iの下降量Δiが小さくなることがわかる。なお、ブレーキ液の粘度が高いほど、アーマチュア312の移動速度も小さくなる。このことも、電流値iの下降量Δiが小さくなる要因となり得る。ゆえに、評価部52cは、例えば、下降量Δiが小さいほど、ブレーキ液の粘度が高いと評価する。このように、アーマチュア312の移動に伴って巻線314に逆起電力が生じる現象に着目することによって、作動液の劣化に伴う粘度の変化を加味してブレーキ液の粘度を評価することができる。ゆえに、ブレーキ液の粘度を精度良く評価することができる。
【0059】
ここで、評価部52cは、電流値iの下降開始時点(例えば、図6中の実線の例では時点t2)から基準時間経過後の時点における電流値iが、下降開始時点における電流値iと比較して基準値以上低い場合(つまり、電流値iの下降開始時点から基準時間経過後の時点における電流値iと、下降開始時点における電流値iとの差が基準値以上である場合)に、電流値iが一時的に下降したと判定する。上記の基準時間及び基準値は、巻線314に逆起電力が生じたことに起因して電流値iが一時的に下降したのか、電流センサ41の検出値がノイズ成分により瞬間的に僅かに下降しただけなのかを区別し得る値に設定される。つまり、評価部52cは、電流値iの下降開始時点から基準時間経過後の時点における電流値iと、下降開始時点における電流値iとの差が基準値未満である場合には、電流センサ41の検出値がノイズ成分により瞬間的に僅かに下降しただけであると判定し、ブレーキ液の粘度の評価を行わない。
【0060】
なお、図6中で破線により示される例は、実線の例と比較して、ブレーキ液の温度が異なる例である。また、図6中で一点鎖線により示される例は、実線の例と比較して、目標電流値iswが異なる例である。これらの例については、後述する。
【0061】
図7は、液圧制御ユニット5の制御装置52が行うブレーキ液の粘度の評価に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。図7に示される制御フローは、例えば、終了した後に、予め設定された時間間隔を空けて繰り返し開始される。図7におけるステップS101及びステップS108は、制御フローの開始及び終了にそれぞれ対応する。
【0062】
なお、図7に示される制御フローでは、評価部52cが、上述したように、電磁弁31の巻線314に流れる電流の電流値iの挙動に基づいて、ブレーキ液の粘度を評価する。ここで、評価部52cは、前輪制動機構12のブレーキ液の粘度を評価する場合、前輪制動機構12の電磁弁31の巻線314に流れる電流の電流値iの挙動に基づいて、ブレーキ液の粘度を評価する。一方、評価部52cは、後輪制動機構14のブレーキ液の粘度を評価する場合、後輪制動機構14の電磁弁31の巻線314に流れる電流の電流値iの挙動に基づいて、ブレーキ液の粘度を評価する。以下で説明するブレーキ液の粘度の評価に関する処理は、通電状態において閉じる弁(具体的には、込め弁31a及び第1弁31c)の電流値iの挙動に基づいて行われてもよく、通電状態において開く弁(具体的には、弛め弁31b及び第2弁31d)の電流値iの挙動に基づいて行われてもよい。
【0063】
図7に示される制御フローが開始されると、ステップS102において、評価部52cは、電磁弁31の巻線314への電流の印加が開始したか否かを判定する。巻線314への電流の印加が開始したと判定された場合(ステップS102/YES)、ステップS103に進む。一方、巻線314への電流の印加が開始していないと判定された場合(ステップS102/NO)、図7に示される制御フローは終了する。
【0064】
例えば、評価部52cは、電流センサ41の検出値に基づいて、巻線314への電流の印加が開始したか否かを判定する。上述したように、巻線314への電流の印加が開始すると、巻線314に流れる電流の電流値iは、目標電流値iswに向けて上昇し始める。ゆえに、評価部52cは、巻線314に流れる電流の電流値iの挙動(例えば、電流値iが所定値を超えて上昇したか否か)に基づいて、巻線314への電流の印加が開始したか否かを判定することができる。
【0065】
ステップS102でYESと判定された場合、ステップS103において、評価部52cは、電磁弁31の巻線314に流れる電流の電流値iの上昇が終了したか否かを判定する。巻線314に流れる電流の電流値iの上昇が終了したと判定された場合(ステップS103/YES)、ステップS104に進む。一方、巻線314に流れる電流の電流値iの上昇が終了していないと判定された場合(ステップS103/NO)、ステップS103の判定処理が繰り返される。
【0066】
例えば、評価部52cは、電流センサ41の検出値に基づいて、巻線314に流れる電流の電流値iの上昇が終了したか否かを判定する。上述したように、巻線314に流れる電流の電流値iは、目標電流値iswまで上昇した後、目標電流値iswに維持される。ゆえに、評価部52cは、巻線314に流れる電流の電流値iの挙動(例えば、電流値iの変動幅が所定値以下になったか否か)に基づいて、巻線314に流れる電流の電流値iの上昇が終了したか否かを判定することができる。
【0067】
ステップS103でYESと判定された場合、ステップS104において、評価部52cは、ブレーキ液の粘度を評価する。具体的には、上述したように、評価部52cは、電磁弁31の巻線314への電流の印加開始時において巻線314に流れる電流の電流値iが目標電流値iswに向けて上昇する過程で電流値iが一時的に下降する際の電流値iの下降量Δiに基づいて、ブレーキ液の粘度を評価する。例えば、ステップS102の後、ステップS103でYESと判定されるまでの間、取得部52aは、各時点において電流値iを取得し続けており、評価部52cは、得られた電流値iの履歴に基づいて、下降量Δiを特定することができる。
【0068】
ここで、ブレーキ液の粘度の評価精度を向上させる観点では、評価部52cは、電流値iの下降量Δiに加えて、他のパラメータに基づいてブレーキ液の粘度を評価することが好ましい。
【0069】
例えば、評価部52cは、電流値iの下降量Δiに加えて、ブレーキ液の温度に基づいて、ブレーキ液の粘度を評価する。評価部52cは、前輪制動機構12のブレーキ液の粘度の評価では、例えば、温度センサ42から取得されるブレーキ液の温度に基づいて、ブレーキ液の粘度を評価する。一方、評価部52cは、後輪制動機構14のブレーキ液の粘度の評価では、例えば、温度センサ43から取得されるブレーキ液の温度に基づいて、ブレーキ液の粘度を評価する。
【0070】
ここで、ブレーキ液の温度が低いほど、ブレーキ液の粘度が高くなるという関係がある。図6中で破線により示される例では、実線の例と比較して、ブレーキ液の温度が低く、ブレーキ液の粘度が高くなっている。それにより、図6中で破線により示される例では、実線の例と比較して、電流値iの下降量Δiが小さくなっている。具体的には、図6中の破線の例における下降量Δiは、下降量Δi1よりも小さい下降量Δi2となっている。
【0071】
上記のように、ブレーキ液の温度が低いほど、電流値iの下降量Δiが小さくなる傾向がある。このように、電流値iの下降量Δiは、ブレーキ液の温度の変化に伴って変化する。ゆえに、評価部52cは、下降量Δiのみならず、ブレーキ液の温度も加味してブレーキ液の粘度を評価することによって、ブレーキ液の粘度の評価精度を向上させることができる。
【0072】
また、例えば、評価部52cは、電流値iの下降量Δiに加えて、目標電流値iswに基づいて、ブレーキ液の粘度を評価する。
【0073】
ここで、図6中で一点鎖線により示される例では、実線の例と比較して、目標電流値iswが小さい。具体的には、図6中の一点鎖線の例における目標電流値iswは、目標電流値isw1よりも小さい目標電流値isw2となっている。それにより、図6中で一点鎖線により示される例では、実線の例と比較して、電流値iの下降量Δiが大きくなっている。具体的には、図6中の一点鎖線の例における下降量Δiは、下降量Δi1よりも大きい下降量Δi3となっている。
【0074】
上記のように、目標電流値iswが小さいほど、電流値iの下降量Δiが大きくなる傾向がある。このように、電流値iの下降量Δiは、目標電流値iswの変化に伴って変化する。ゆえに、評価部52cは、下降量Δiのみならず、目標電流値iswも加味してブレーキ液の粘度を評価することによって、ブレーキ液の粘度の評価精度を向上させることができる。
【0075】
上記では、ブレーキ液の粘度の評価において、電流値iの下降量Δiに加えてブレーキ液の温度が用いられる例と、電流値iの下降量Δiに加えて目標電流値iswが用いられる例とを順に説明した。ただし、ブレーキ液の粘度の評価精度をより効果的に向上させる観点では、評価部52cは、電流値iの下降量Δiに加えて、ブレーキ液の温度と目標電流値iswの双方に基づいて、ブレーキ液の粘度を評価することが好ましい。なお、ブレーキ液の粘度の評価において粘度の推定値が具体的に特定される場合には、粘度の推定値と各パラメータ(例えば、下降量Δi、ブレーキ液の温度、及び、目標電流値isw)との関係を規定し、粘度の推定値の特定に用いられる数式又はマップ等は、理論式に基づいて決定されてもよく、実験結果に基づいて決定されてもよい。
【0076】
次に、ステップS105において、制御部52bは、ブレーキ液の粘度が基準粘度よりも高いか否かを判定する。ブレーキ液の粘度が基準粘度よりも高いと判定された場合(ステップS105/YES)、ステップS106に進み、制御部52bは、目標電流値iswを現在の値より大きくする。ゆえに、図7に示される制御フローが繰り返される過程で、ブレーキ液の粘度が基準粘度以下になるまで(つまり、ステップS105でNOと判定されるまで)、目標電流値iswが徐々に大きくなっていく。一方、ブレーキ液の粘度が基準粘度以下であると判定された場合(ステップS105/NO)、ステップS107に進む。
【0077】
ステップS105の基準粘度は、ブレーキ液の劣化に起因する粘度の上昇が生じているか否かを判断し得る値に設定される値であり、温度が低くなるにつれて大きくなるように設定される。つまり、ブレーキ液の粘度が基準粘度以下であると判定された場合(つまり、ステップS105でNOと判定された場合)、ブレーキ液は劣化しておらず、あるいは、劣化の程度が微小であり、電磁弁31が適切に機能する状態であると判断できる。
【0078】
一方、ブレーキ液の粘度が基準粘度よりも高いと判定された場合(つまり、ステップS105でYESと判定された場合)、ブレーキ液の劣化に起因する粘度の上昇が生じており、電磁弁31が適切に機能しなくなっている状態であると判断できる。具体的には、ブレーキ液の劣化に起因する粘度の上昇が生じると、ストローク量Δxが不足し、ブレーキ液の遮断又は流通が想定通りに実現されなくなってしまう場合がある。このような場合に、制御部52bは、目標電流値iswを現在の値よりも大きくする。それにより、ストローク量Δxの不足を回避し、電磁弁31を適切に機能させることができる。上記のように、ストローク量Δxの不足を回避する観点では、制御部52bは、ブレーキ液の粘度の評価結果に基づいて、目標電流値iswを制御することが好ましい。
【0079】
ステップS105でNOと判定された場合、又は、ステップS106の次に、ステップS107において、制御部52bは、ブレーキ液の評価結果に基づいて、報知動作を制御し、図7に示される制御フローは終了する。
【0080】
報知動作は、各種情報をライダーに報知する動作である。例えば、報知動作は、報知装置6によって行われ、情報を表示する動作であってもよく、音声出力する動作であってもよい。なお、報知動作が設定時間継続した場合に図7に示される制御フローが終了してもよく、報知動作を停止させるための入力操作がライダーにより行われた場合に図7に示される制御フローが終了してもよい。
【0081】
ステップS107では、例えば、制御部52bは、ブレーキ液の粘度が基準粘度よりも高いと判定された場合(つまり、ステップS105でYESと判定された場合)、ブレーキ液の劣化に起因する粘度の上昇が生じている旨を報知する報知動作を報知装置6に行わせる。それにより、ブレーキ液の交換をライダーに促すことができる。一方、制御部52bは、ブレーキ液の粘度が基準粘度以下であると判定された場合(つまり、ステップS105でNOと判定された場合)、報知装置6による報知動作を停止させる。ただし、ステップS105でNOと判定された場合、制御部52bは、ブレーキ液は劣化していない、あるいは、劣化の程度が微小である旨を報知する報知動作を報知装置6に行わせてもよい。
【0082】
なお、報知動作は、報知装置6以外の装置によって行われてもよい。例えば、報知動作は、ライダーの頭に装着されるヘルメットに設けられる表示装置(例えば、ライダーの視線上に配置される透過性を有するディスプレイ)によって行われてもよい。また、例えば、報知動作は、ライダーの頭に装着されるヘルメットに設けられる音声出力装置によって行われてもよい。また、例えば、報知動作は、車両100に設けられ、又は、ライダーに装着される振動発生装置による振動を発生させる動作であってもよい。また、例えば、報知動作は、車両100を瞬時的に減速させる動作であってもよい。なお、上記の瞬時的な減速は、駆動源の出力を低下させることによって実現されてもよく、液圧制御ユニット5により制動力を生じさせることによって実現されてもよく、車両100の変速機構の変速比を変化させることによって実現されてもよい。
【0083】
上記では、図7を参照して、ブレーキ液の粘度の評価に関する処理の流れの一例を説明したが、ブレーキ液の粘度の評価に関する処理の流れは、図7のフローチャートの例に限定されない。例えば、図7のフローチャートに対して、追加的なステップが加えられてもよい。また、例えば、図7のフローチャート中の一部のステップ(例えば、ステップS105及びステップS106等)が省略されてもよい。また、例えば、図7のフローチャート中の一部のステップの順序が変更されてもよい(例えば、ステップS105の前にステップS107が行われてもよい。)。
【0084】
また、上記では、電流値iの下降量Δiが過度に小さい場合について言及していないが、このような場合に、評価部52cは、上記で説明した処理以外の処理を行ってもよい。例えば、評価部52cは、電流値iの下降量Δiが基準量よりも小さい場合、ブレーキ液の温度が上昇した後にブレーキ液の粘度を評価してもよい。基準量は、巻線314への電流の印加開始時にアーマチュア312が移動していないと判断できる程度に小さな値に設定される。つまり、電流値iの下降量Δiが基準量よりも小さい場合、巻線314への電流の印加開始時にアーマチュア312が移動していないと判断できる。
【0085】
電流値iの下降量Δiが基準量よりも小さい場合、下降量Δiが過度に小さいので、下降量Δiに基づいてブレーキ液の粘度を評価することが困難である。また、ブレーキ液の粘度の上昇以外の要因に起因してアーマチュア312が移動しなくなっている可能性も考えられる。ゆえに、このような場合には、評価部52cは、ブレーキ液の温度が上昇してブレーキ液の粘度が低くなった後に、ブレーキ液の粘度を評価する。それにより、アーマチュア312が移動しなくなっていた要因がブレーキ液の粘度の上昇であった場合には、ブレーキ液の粘度の低下に伴い下降量Δiが基準量以上となった状態で、下降量Δiを用いたブレーキ液の粘度の評価を行うことができる。一方、アーマチュア312が移動しなくなっていた要因がブレーキ液の粘度の上昇以外の要因であった場合には、下降量Δiが基準量よりも小さい状態に維持されるので、上記要因を把握することができる。
【0086】
<液圧制御ユニットの効果>
本発明の実施形態に係る液圧制御ユニット5の効果について説明する。
【0087】
液圧制御ユニット5において、評価部52cは、電磁弁31の巻線314への電流の印加開始時において巻線314に流れる電流の電流値iが目標電流値iswに向けて上昇する過程で電流値iが一時的に下降する際の電流値iの下降量Δiに基づいて、作動液であるブレーキ液の粘度を評価する。それにより、アーマチュア312の移動に伴って巻線314に逆起電力が生じる現象に着目することによって、作動液の劣化に伴う粘度の変化を加味してブレーキ液の粘度を評価することができる。ゆえに、ブレーキ液の粘度を精度良く評価することができる。
【0088】
好ましくは、液圧制御ユニット5において、評価部52cは、電流値iの下降量Δiに加えて、ブレーキ液の温度に基づいて、ブレーキ液の粘度を評価する。それにより、ブレーキ液の温度と下降量Δiとの関係性に着目して、ブレーキ液の粘度をより適切に評価することができる。ゆえに、ブレーキ液の粘度の評価精度を向上させることができる。
【0089】
好ましくは、液圧制御ユニット5において、評価部52cは、電流値iの下降量Δiに加えて、目標電流値iswに基づいて、ブレーキ液の粘度を評価する。それにより、目標電流値iswと下降量Δiとの関係性に着目して、ブレーキ液の粘度をより適切に評価することができる。ゆえに、ブレーキ液の粘度の評価精度を向上させることができる。
【0090】
好ましくは、液圧制御ユニット5において、制御部52bは、ブレーキ液の粘度の評価結果に基づいて、報知動作を制御する。それにより、ブレーキ液の粘度の評価結果を示す情報をライダーに報知することができる。ゆえに、ライダーは、電磁弁31が適切に機能する状態であるのか否かを把握することができる。よって、安全性が向上する。また、ブレーキ液が劣化していることをライダーに報知することによって、ブレーキ液の交換をライダーに促すことができる。
【0091】
好ましくは、液圧制御ユニット5において、制御部52bは、ブレーキ液の粘度の評価結果に基づいて、目標電流値iswを制御する。それにより、ブレーキ液の劣化に起因する粘度の上昇が生じ、電磁弁31が適切に機能しなくなっている場合に、ストローク量Δxの不足を回避し、電磁弁31を適切に機能させることができる。
【0092】
好ましくは、液圧制御ユニット5において、制御部52bは、ブレーキ液の粘度が基準粘度よりも高い場合に、目標電流値iswを大きくする。それにより、ブレーキ液の劣化に起因する粘度の上昇が生じ、電磁弁31が適切に機能しなくなっている場合に、ストローク量Δxの不足を回避し、電磁弁31を適切に機能させることが適切に実現される。
【0093】
好ましくは、液圧制御ユニット5において、評価部52cは、電流値iの下降量Δiが基準量よりも小さい場合、ブレーキ液の温度が上昇した後にブレーキ液の粘度を評価する。それにより、アーマチュア312が移動しなくなっていた要因がブレーキ液の粘度の上昇であった場合には、ブレーキ液の粘度の低下に伴い下降量Δiが基準量以上となった状態で、下降量Δiを用いたブレーキ液の粘度の評価を行うことができる。一方、アーマチュア312が移動しなくなっていた要因がブレーキ液の粘度の上昇以外の要因であった場合には、下降量Δiが基準量よりも小さい状態に維持されるので、上記要因を把握することができる。
【0094】
好ましくは、液圧制御ユニット5において、評価部52cは、電流値iの下降開始時点から基準時間経過後の時点における電流値iが、下降開始時点における電流値iと比較して基準値以上低い場合に、電流値iが一時的に下降したと判定する。それにより、巻線314に逆起電力が生じたことに起因して電流値iが一時的に下降したのか、電流センサ41の検出値がノイズ成分により瞬間的に僅かに下降しただけなのかを区別することができる。ゆえに、アーマチュア312の移動に伴って巻線314に逆起電力が生じる現象に着目してブレーキ液の粘度を評価することが適切に実現される。
【0095】
本発明は実施形態の説明に限定されない。例えば、実施形態の一部のみが実施されてもよい。
【符号の説明】
【0096】
1 胴体、2 ハンドル、3 前輪、3a ロータ、4 後輪、4a ロータ、5 液圧制御ユニット、6 報知装置、7 電源、10 ブレーキシステム、11 第1ブレーキ操作部、12 前輪制動機構、13 第2ブレーキ操作部、14 後輪制動機構、21 マスタシリンダ、22 リザーバ、23 ブレーキキャリパ、24 ホイールシリンダ、25 主流路、26 副流路、27 供給流路、31 電磁弁、31a 込め弁、31b 弛め弁、31c 第1弁、31d 第2弁、32 アキュムレータ、33 ポンプ、41 電流センサ、41a 電流センサ、41b 電流センサ、41c 電流センサ、41d 電流センサ、42 温度センサ、43 温度センサ、51 液圧制御機構、51a 基体、52 制御装置、52a 取得部、52b 制御部、52c 評価部、100 車両、311 ケース、312 アーマチュア、313 タペット、314 巻線、315 コア、316 スプリング、317 第1流路、318 第2流路、411 シャント抵抗、412 オペアンプ、i 電流値、isw 目標電流値、isw1 目標電流値、isw2 目標電流値、Δi 下降量、Δi1 下降量、Δi2 下降量、Δi3 下降量、Δx ストローク量。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7