(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】光電変換膜および光電変換素子
(51)【国際特許分類】
H10K 30/60 20230101AFI20240708BHJP
H10K 30/30 20230101ALI20240708BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20240708BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240708BHJP
H10K 65/00 20230101ALI20240708BHJP
H10K 39/32 20230101ALN20240708BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20240708BHJP
【FI】
H10K30/60
H10K30/30
H01L27/146 E
H10K85/60
H10K65/00
H10K39/32
H10K101:40
(21)【出願番号】P 2023021905
(22)【出願日】2023-02-15
(62)【分割の表示】P 2021167693の分割
【原出願日】2015-01-06
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2014099816
(32)【優先日】2014-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾花 良哲
(72)【発明者】
【氏名】根岸 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】竹村 一郎
(72)【発明者】
【氏名】榎 修
(72)【発明者】
【氏名】茂木 英昭
(72)【発明者】
【氏名】松澤 伸行
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/123737(WO,A2)
【文献】欧州特許出願公開第01365002(EP,A1)
【文献】国際公開第2012/165670(WO,A1)
【文献】特開2012-169521(JP,A)
【文献】特開2013-075841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般
式(4)で表される可視光を吸収しない透明化合物を含む、光電変換膜
。
【化1】
前記一般式(4)において、
R
41~R
48は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、イミド基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
41~R
48が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基であり、
Ar
1~Ar
4は、互いに独立して、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のヘテロアリール基である。
【請求項2】
一般式(4)において、前記Ar
1~Ar
4が有する置換基、および前記R
41~R
48のうち少なくとも1つ以上は、電子求引基である、請求項1に記載の光電変換膜。
【請求項3】
前記電子求引基は、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、イミド基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、およびハロゲン化アリール基からなる群より選択されたいずれかの置換基である、請求項
2に記載の光電変換膜。
【請求項4】
有機色素化合物をさらに含み、
前記有機色素化合物と、前
記一般式(4)で表される化合物とはバルクヘテロ膜を形成する、請求項1に記載の光電変換膜。
【請求項5】
前記有機色素化合物は、450nm以上600nm以下の波長帯域の緑色光を吸収する化合物である、請求項
4に記載の光電変換膜。
【請求項6】
前記有機色素化合物は、下記一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体である、請求項
4に記載の光電変換膜。
【化2】
前記一般式(1)において、
R
1~R
10は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
1~R
10が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基である。
【請求項7】
前記一般
式(4)で表される化合物のLUMO準位は、前記キナクリドン誘導体のLUMO準位よりも深く、前記一般
式(4)で表される化合物のLUMO準位と、前記キナクリドン誘導体のLUMO準位との差は、0.1eV以上1.0eV以下である、請求項
6に記載の光電変換膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光電変換膜、固体撮像素子、および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機材料によって形成された光電変換膜が積層された多層構造を有する固体撮像素子が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、青色光、緑色光および赤色光をそれぞれ吸収する有機光電変換膜が順次積層された固体撮像素子が開示されている。特許文献1に開示された固体撮像素子では、それぞれの有機光電変換膜において各色に対応する光を光電変換することにより各色の信号を取り出している。
【0004】
また、特許文献2には、緑色光を吸収する有機光電変換膜と、シリコンフォトダイオードとが順次積層された固体撮像素子が開示されている。特許文献2に開示された固体撮像素子では、有機光電変換膜にて緑色光の信号を取り出し、シリコンフォトダイオードにて光進入深さの差を用いて分離された青色光および赤色光の信号を取り出している。
【0005】
一方、太陽電池等の分野では、高い光電変換効率を実現するために、少なくとも一方が結晶微粒子となるように2種類の有機材料を混合し、バルクヘテロ混合膜として光電変換膜を形成する技術が提案されている。具体的には、特許文献3に開示されているように、p型光電変換材料とn型光電変換材料とを共蒸着することで、光電変換膜をバルクヘテロ混合膜として形成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-234460号公報
【文献】特開2005-303266号公報
【文献】特開2002-76391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、2種類の有機材料によりバルクヘテロ混合膜として形成された光電変換膜の分光特性は、混合した2種類の有機材料の分光特性の影響を受けるため、吸収する光の波長帯域が幅広になりやすかった。そのため、バルクヘテロ混合膜として形成された光電変換膜では、特定の波長範囲の光を選択的に吸収することは困難であり、固体撮像素子の光電変換膜として好適な分光特性を有することは難しかった。したがって、このような有機光電変換膜を用いた固体撮像素子の感度向上には限界があった。
【0008】
そこで、本開示では、固体撮像素子の感度を向上させることが可能な、新規かつ改良された光電変換膜、該光電変換膜を含む固体撮像素子、および該固体撮像素子を備える電子機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示によれば、下記一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体と、下記一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体と、を含む光電変換膜が提供される。
【化1】
前記一般式(1)において、
R
1~R
10は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
1~R
10が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基である。
【化2】
前記一般式(2)において、
R
11~R
16は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基であり、
Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基からなる群より選択されるいずれかの置換基であり、
R
11~R
16のうち、少なくとも1つ以上はフッ素である。
【0010】
また、本開示によれば、下記一般式(3)または(4)で表される可視光を吸収しない透明化合物を含む、光電変換膜が提供される。
【化3】
前記一般式(3)において、
R
21~R
32は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
21~R
32が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基である。
前記一般式(4)において、
R
41~R
48は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、イミド基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
41~R
48が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基であり、
Ar
1~Ar
4は、互いに独立して、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のヘテロアリール基である。
【0011】
また、本開示によれば、光電変換膜と、前記光電変換膜を挟んで両側に配置された一対の電極と、前記光電変換膜と一方の電極との間に配置された正孔阻止層と、を備え、前記正孔阻止層のイオン化ポテンシャルは、隣接する一方の電極の仕事関数に対して、2.3eV以上である、光電変換素子が提供される。
【0012】
本開示によれば、光電変換膜は、特定の波長帯域の光を選択的に吸収することができるため、固体撮像素子に対して好適な分光特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本開示によれば、固体撮像素子の感度を向上させることが可能な光電変換膜、該光電変換膜を含む固体撮像素子、および該固体撮像素子を備える電子機器が提供される。
【0014】
なお、上記の効果は必ずしも限定的なものではなく、上記の効果とともに、または上記の効果に代えて、本明細書に示されたいずれかの効果、または本明細書から把握され得る他の効果が奏されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示に係る光電変換素子を含む固体撮像素子(A)、および比較例に係る固体撮像素子(B)を説明する説明図である。
【
図2】本開示に係る光電変換素子の一例を示す概略図である。
【
図3A】実施例4の分光特性変化の評価結果を示すグラフ図である。
【
図3B】比較例7の分光特性変化の評価結果を示すグラフ図である。
【
図3C】比較例8の分光特性変化の評価結果を示すグラフ図である。
【
図3D】比較例9の分光特性変化の評価結果を示すグラフ図である。
【
図3E】参考例の分光特性変化の評価結果を示すグラフ図である。
【
図4】実施例8および比較例19のIPCE測定結果を示すグラフ図である。
【
図5】BTB化合物の分光特性を示すグラフ図である。
【
図6】本開示に係る光電変換素子が適用される固体撮像素子の構造を示す概略図である。
【
図7】本開示に係る光電変換素子が適用された固体撮像素子の単位画素における概略を示した断面図である。
【
図8】本開示に係る光電変換素子が適用される電子機器の構成を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(光電変換膜、固体撮像素子、および電子機器)
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.本開示に係る光電変換素子の概略
2.第1の実施形態
2.1.第1の実施形態に係る光電変換膜の構成
2.2.第1の実施形態に係る光電変換素子の構成
2.3.第1の実施形態に係る実施例
3.第2の実施形態
3.1.第2の実施形態に係る光電変換膜の構成
3.2.第2の実施形態に係る光電変換素子の構成
3.3.第2の実施形態に係る実施例
4.第3の実施形態
4.1.第3の実施形態に係る光電変換素子の構成
4.2.第3の実施形態に係る実施例
5.本開示に係る光電変換素子の適用例
5.1.固体撮像素子の構成
5.2.電子機器の構成
6.まとめ
【0018】
<1.本開示に係る光電変換素子の概略>
図1を参照して、本開示に係る光電変換素子の概略について説明する。
図1(A)は、本開示に係る光電変換素子を含む固体撮像素子を説明する説明図であり、
図1(B)は、比較例に係る固体撮像素子を説明する説明図である。
【0019】
なお、本明細書において、「ある波長の光を吸収する」とは、その波長の光の約70%以上を吸収することを表す。また、逆に「ある波長の光を透過する」または「ある波長の光を吸収しない」とは、その波長の光の約70%以上を透過させ、吸収する光が約30%未満であることを表す。
【0020】
まず、比較例に係る固体撮像素子について説明する。
図1(B)に示すように、比較例に係る固体撮像素子5は、フォトダイオード7R、7G、7Bと、フォトダイオード7R、7G、7B上に形成されたカラーフィルタ6R、6G、6Bと、を備える。
【0021】
カラーフィルタ6R、6G、6Bは、特定の波長の光を選択的に透過させる膜である。例えば、カラーフィルタ6Rは、600nm以上の波長の赤色光2Rを選択的に透過させる膜であり、カラーフィルタ6Gは、450nm以上600nm未満の波長の緑色光2Gを選択的に透過させる膜であり、カラーフィルタ6Bは、400nm以上450nm未満の波長の青色光2Bを選択的に透過させる膜である。
【0022】
また、フォトダイオード7R、7G、7Bは、幅広い波長帯域(例えば、シリコンフォトダイオードの吸収波長は、190nm~1100nm)の光を吸収する光検出器である。そのため、フォトダイオード7R、7G、7B単独では、赤色、緑色、青色等の各色の信号を個別に取り出すことは困難であった。そこで、比較例に係る固体撮像素子では、カラーフィルタ6R、6G、6Bによって各色に対応する光以外を吸収することで、各色に対応する光のみを選択的に透過させて色分離を行い、フォトダイオード7R、7G、7Bにて各色の信号を取り出している。
【0023】
したがって、比較例に係る固体撮像素子5では、大部分の光がカラーフィルタ6R、6G、6Bによって吸収されるため、フォトダイオード7R、7G、7Bは、実質的に入射光の1/3しか光電変換に利用することができなかった。よって、比較例に係る固体撮像素子5では、各色の検出感度の向上には限界があった。
【0024】
次に、本開示に係る光電変換素子を含む固体撮像素子1について説明する。
図1(A)に示すように、本開示に係る光電変換素子を含む固体撮像素子1は、緑色光2Gを吸収する緑色光電変換素子3Gと、青色光2Bを吸収する青色光電変換素子3Bと、および赤色光2Rを吸収する赤色光電変換素子3Rとが順次積層された構成を有する。
【0025】
例えば、緑色光電変換素子3Gは、450nm以上600nm未満の波長の緑色光を選択的に吸収する有機光電変換素子であり、青色光電変換素子3Bは、400nm以上450nm未満の波長の青色光を選択的に吸収する有機光電変換素子であり、赤色光電変換素子3Rは、600nm以上の波長の赤色光を選択的に吸収する有機光電変換素子である。
【0026】
したがって、本開示に係る固体撮像素子1では、光電変換素子それぞれが赤色、緑色、青色に対応した特定の波長帯域の光を選択的に吸収することができる。そのため、本開示に係る固体撮像素子1では、入射光を各色に分離するためのカラーフィルタを設ける必要なく、入射光すべてを光電変換に用いることができる。よって、本開示に係る固体撮像素子1は、比較例に係る固体撮像素子5に対して、光電変換に利用できる光を約3倍に増加させることができるため、各色の検出感度をさらに向上させることができる。
【0027】
なお、本開示に係る固体撮像素子1において、青色光電変換素子3Bおよび赤色光電変換素子3Rは、幅広い波長帯域(具体的には、190nm~1100nmなど)の光を光電変換するシリコンフォトダイオードであってもよい。このような場合、青色光電変換素子3Bおよび赤色光電変換素子3Rは、固体撮像素子1に対する波長ごとの光の進入深さの差を用いて青色光2Bおよび赤色光2Rを色分離する。具体的には、赤色光2Rは、青色光2Bよりも波長が長く散乱されにくいため、入射表面から離れた深さまで進入する。一方、青色光2Bは、赤色光2Rよりも波長が短く散乱されやすいため、より入射表面に近い深さまでしか進入しない。そこで、赤色光電変換素子3Rを固体撮像素子1の入射表面から離れた位置に配置することにより、赤色光2Rを青色光2Bから分離して検出することができる。これにより、青色光電変換素子3Bおよび赤色光電変換素子3Rにシリコンフォトダイオードを用いた場合でも、光の進入深さの差を用いて青色光2Bと赤色光2Rとを分離し、各色の信号を取り出すことができる。
【0028】
したがって、本開示に係る固体撮像素子1が含む光電変換素子3G、3B、3Rでは、それぞれが赤色、緑色、青色に対応した特定の波長帯域の光を選択的に吸収し、かつ吸収波長以外の波長の光を透過させることが求められる。特に、入射面に最も近い緑色光電変換素子3Gは、緑色帯域(例えば、450nm~600nmの波長帯域)に急峻なピークを有する吸収スペクトルを持ち、450nm未満の帯域および600nmを超える帯域における吸収が小さいことが求められる。
【0029】
本開示の発明者らは、上記事情を鑑みて、固体撮像素子に好適な光電変換膜について鋭意検討を重ねた結果、本開示に係る技術を想到するに至った。本開示に係る光電変換膜は、以下の各実施形態で説明する化合物を含むことにより、特定の波長帯域の光を選択的に吸収し、固体撮像素子の光電変換膜として好適な分光特性を有することができる。よって、本開示に係る光電変換膜を用いることにより、固体撮像素子の感度および解像度を向上させることができる。
【0030】
以下では、このような本開示の第1および第2の実施形態に係る光電変換膜について、それぞれ説明する。また、固体撮像素子の光電変換素子として好適な構成を有する本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子について説明する。
【0031】
<2.第1の実施形態>
[2.1.第1の実施形態に係る光電変換膜の構成]
まず、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜について説明する。本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、下記一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体と、下記一般式(2)で表される緑色光を吸収するサブフタロシアニン誘導体と、を含む光電変換膜である。
【0032】
【0033】
なお、上記一般式(1)において、
R1~R10は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR1~R10が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基である。
【0034】
【0035】
なお、上記一般式(2)において、
R11~R16は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基であり、
Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基からなる群より選択されるいずれかの置換基であり、
R11~R16のうち、少なくとも1つ以上はフッ素である。
【0036】
ここで、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、バルクヘテロ混合膜として形成されてもよい。このような場合、一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体は、p型光電変換材料として機能し、一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体は、n型光電変換材料として機能することで、両者によってバルクヘテロ接合が形成される。
【0037】
バルクヘテロ混合膜とは、例えば、膜を形成するp型光電変換材料およびn型光電変換材料のうち、一方が結晶微粒子状態となり、他方がアモルファス状態となることで、結晶微粒子の表面をアモルファス層が均一に覆う微細構造が形成された膜である。このようなバルクヘテロ混合膜では、電荷分離を誘起するpn接合の面積が微細構造によって大きくなるため、より効率良く電荷分離を誘起することができ、光電変換効率を向上させることができる。なお、バルクヘテロ混合膜は、膜を形成するp型光電変換材料およびn型光電変換材料が共に微細結晶状態となって混合された微細構造を有する膜であってもよい。
【0038】
一方、このようなバルクヘテロ混合膜の分光特性は、混合されるp型光電変換材料およびn型光電変換材料の両方の分光特性の影響を受ける。そのため、バルクヘテロ混合膜を形成するp型光電変換材料およびn型光電変換材料の分光特性が整合していない場合、バルクヘテロ混合膜における光の吸収波長は幅広になりやすかった。したがって、バルクヘテロ混合膜として形成された光電変換膜は、固体撮像素子における光電変換膜として好適な分光特性を得られないことがあった。
【0039】
本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、キナクリドン誘導体と、該キナクリドン誘導体と分光特性が整合したサブフタロシアニン誘導体と含むことにより、固体撮像素子における緑色光の光電変換膜として好適な分光特性を有することができる。
【0040】
具体的には、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜が含むサブフタロシアニン誘導体は、R11~R16のうち、少なくとも1つ以上がフッ素であることにより、キナクリドン誘導体に対して分光特性を整合させることができる。具体的には、R11~R16のうち、少なくとも1つ以上がフッ素であるサブフタロシアニン誘導体は、吸収波長の極大値をより短波長化させ、600nm以上の波長を有する光の吸収を小さくすることができる。これにより、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、緑色帯域(450nm~600nmの波長帯域)に急峻なピークを持つ吸収スペクトルを有するようになるため、固体撮像素子における緑色光の光電変換膜として好適な分光特性を実現することができる。
【0041】
また、光電変換素子および固体撮像素子の製造プロセスでは、加熱を伴う工程(例えば、アニール工程)が行われることがある。光電変換膜に含まれる光電変換材料の耐熱性が低い場合、このような加熱工程における熱によって光電変換材料がマイグレーションし、分光特性が変化することがあった。特に、一般的なサブフタロシアニン誘導体は、耐熱性が低いため、一般的なサブフタロシアニン誘導体を含む光電変換膜は、加熱を伴う工程を経ることにより、吸光度が大きく低下していた。
【0042】
本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜が含むサブフタロシアニン誘導体では、R11~R16のうち、少なくとも1つ以上がフッ素であることにより、耐熱性が大きく向上している。したがって、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、含まれる光電変換材料の耐熱性が高いため、加熱工程における分光特性の変化を抑制することができる。これにより、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、光電変換素子および固体撮像素子の製造プロセスの自由度を向上させることができる。
【0043】
なお、一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体において、R11~R16は、対称性(線対称または点対称)を有するようにフッ素で置換されていてもよいし、対称性を有さないようにフッ素で置換されていてもよい。
【0044】
また、一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体において、Xは、ほう素に結合することができる置換基であれば、いずれの置換基であってもよい。ただし、Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、および置換もしくは未置換のアリールオキシ基からなる群より選択されるいずれかの置換基であることがより好ましい。
【0045】
ここで、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜が含むサブフタロシアニン誘導体は、R11~R16がいずれもフッ素であることが好ましい。具体的には、R11~R16がいずれもフッ素であるサブフタロシアニン誘導体は、後述する実施例で実証されるように、吸収波長の極大値をさらに短波長化することができる。これにより、一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体は、600nm以上の吸収をより小さくすることができるため、緑色光をさらに選択的に吸収することができる。
【0046】
また、一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)-LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位は、キナクリドン誘導体に対して光電変換メカニズムが円滑に行われる準位であることが好ましい。
【0047】
具体的には、一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体がn型光電変換材料として機能し、一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体がp型光電変換材料として機能する場合、サブフタロシアニン誘導体のLUMO準位は、キナクリドン誘導体のLUMO準位よりも深いことが好ましい。すなわち、サブフタロシアニン誘導体のLUMO準位の絶対値は、キナクリドン誘導体のLUMO準位の絶対値よりも大きいことが好ましい。
【0048】
ここで、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜における光電変換メカニズムとしては、以下の2つのメカニズムが考えられる。
【0049】
一つの光電変換メカニズムは、p型光電変換材料であるキナクリドン誘導体が光によって励起され、励起された電子がキナクリドン誘導体からn型光電変換材料であるサブフタロシアニン誘導体に移動するメカニズムである。このような場合、サブフタロシアニン誘導体のLUMO準位は、キナクリドン誘導体において励起された励起電子がサブフタロシアニン誘導体へ円滑に移動することが可能な準位であることが好ましい。具体的には、一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体のLUMO準位は、一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体のLUMO準位に対して、0.1eV以上1.0eV以下の差を有することが好ましい。より具体的には、サブフタロシアニン誘導体のLUMO準位は、-4.8eV以上-3.5eV以下であることが好ましく、-4.5eV以上-3.8eV以下であることがさらに好ましい。
【0050】
また、他の光電変換メカニズムは、n型光電変換材料であるサブフタロシアニン誘導体が光によって励起され、励起された電子がサブフタロシアニン誘導体のLUMO準位に移動するメカニズムである。これにより、正孔がp型光電変換材料であるキナクリドン誘導体からサブフタロシアニン誘導体へ移動することができる。このような場合、サブフタロシアニン誘導体のHOMO準位は、正孔がキナクリドン誘導体からサブフタロシアニン誘導体へ円滑に移動することが可能な準位であることが好ましい。具体的には、サブフタロシアニン誘導体のHOMO準位は、-7.0eV以上-5.5eV以下であることが好ましく、-6.7eV以上-5.8eV以下であることがより好ましい。
【0051】
なお、太陽電池のように起電力を取り出すことを目的とした光電変換膜では、開放端電圧を高くするために、p型光電変換材料のHOMO準位を低くし、n型光電変換材料のLUMO準位を高くすることで、これらの差を大きくすることが求められる。一方、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、特定波長の光の信号を取り出すことを目的とする固体撮像素子に用いられるものである。そのため、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜において、サブフタロシアニン誘導体(n型光電変換材料)のLUMO準位は、キナクリドン誘導体(p型光電変換材料)のHOMO準位ではなく、LUMO準位との関係によって設定されることが好ましい。具体的には、上述したようにサブフタロシアニン誘導体のLUMO準位は、キナクリドン誘導体のLUMO準位との差が0.1eV以上1.0eV以下となるように設定されることが好ましい。
【0052】
ここで、一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体の具体的な例を以下に化合物1~9として示す。しかしながら、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜が含むサブフタロシアニン誘導体は、下記の化合物に限定されるものではない。
【0053】
【0054】
以上説明したように、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体と、一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体とを含むことにより、緑色光(例えば、波長が450nm以上600nm未満の光)を選択的に吸収することができる。また、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、含まれるキナクリドン誘導体およびサブフタロシアニン誘導体が高い耐熱性を有するため、光電変換素子または固体撮像素子の製造プロセスにおいて、分光特性の変化を抑制することができる。したがって、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、固体撮像素子の緑色光電変換素子に対して好適に用いることができ、固体撮像素子の感度を向上させることができる。
【0055】
[2.2.第1の実施形態に係る光電変換素子の構成]
次に、
図2を参照して、本開示の第1の実施形態に係る光電変換素子について説明する。
図2は、本開示の第1の実施形態に係る光電変換素子の一例を示す概略図である。
【0056】
図2に示すように、本開示の第1の実施形態に係る光電変換素子100は、基板102と、基板102上に配置された下部電極104と、下部電極104上に配置された電子阻止層106と、電子阻止層106上に配置された光電変換層108と、光電変換層108上に配置された正孔阻止層110と、正孔阻止層110上に配置された上部電極112とを備える。
【0057】
なお、
図2で示した光電変換素子100の構造は、あくまでも一例であって、本開示の第1の実施形態に係る光電変換素子100の構造が、
図2で示す構造に限定されるものではない。例えば、電子阻止層106および正孔阻止層110は、どちらか一方または両方が省略されてもよい。
【0058】
基板102は、光電変換素子100を構成する各層が積層配置される支持体である。基板102は、一般的な光電変換素子にて使用されるものを使用可能である。例えば、基板102は、高歪点ガラス基板、ソーダガラス基板、およびホウケイ酸ガラス基板等の各種ガラス基板、石英基板、半導体基板、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルアルコール、ポリイミド、およびポリカーボネート等のプラスチック基板などであってもよい。また、基板102は、入射光を透過させ、透過した入射光をさらに他の光電変換素子で受光する場合、透明材料で構成されることが好ましい。
【0059】
下部電極104および上部電極112は、導電性材料で構成され、少なくともいずれか一方は透明導電性材料で構成される。具体的には、下部電極104および上部電極112は、酸化インジウムスズ(In2O3-SnO2:ITO)、酸化インジウム亜鉛(In2O3-ZnO:IZO)等で形成されてもよい。また、下部電極104および上部電極112は、入射光を透過させ、透過した入射光をさらに他の光電変換素子で受光する場合、ITO等の透明導電性材料で構成されることが好ましい。
【0060】
ここで、下部電極104および上部電極112には、バイアス電圧が印加される。例えば、バイアス電圧は、光電変換層108で発生した電荷のうち、電子が上部電極112に移動し、正孔が下部電極104に移動するように極性が設定される。
【0061】
また、バイアス電圧は、光電変換層108で発生した電荷のうち、正孔が上部電極112に移動し、電子が下部電極104に移動するように極性が設定されてもよいことは言うまでもない。このような場合、
図2で示した光電変換素子100において、電子阻止層106および正孔阻止層110の位置が入れ替わる。
【0062】
電子阻止層106は、バイアス電圧が印加された際に下部電極104から光電変換層108に電子が注入され、暗電流が増加することを抑制する層である。具体的には、電子阻止層106は、アリールアミン、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、スチルベン、ポリアリールアルカン、ポルフィリン、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾンなどの電子供与性材料で構成されてもよい。例えば、電子阻止層106は、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン(TPD)、4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(αーNPD)、4,4’,4”-トリス(N-(3-メチルフェニル)N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、テトラフェニルポルフィリン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニンなどで構成されてもよい。
【0063】
光電変換層108は、特定波長の光を選択的に吸収し、吸収した光を光電変換する層である。具体的には、光電変換層108は、上記[2.1.第1の実施形態に係る光電変換膜の構成]にて説明した光電変換膜で形成される。したがって、光電変換層108は、緑色光(例えば、波長が450nm以上600nm未満の光)を選択的に吸収することができる。
【0064】
正孔阻止層110は、バイアス電圧が印加された際に上部電極112から光電変換層108に正孔が注入され、暗電流が増加することを抑制する層である。具体的には、正孔阻止層110は、フラーレン、カーボンナノチューブ、オキサジアゾール、トリアゾール化合物、アントラキノジメタン、ジフェニルキノン、ジスチリルアリーレン、シロール化合物などの電子受容性材料で構成されてもよい。例えば、正孔阻止層110は、1,3-ビス(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾリル)フェニレン(OXD-7)、バソクプロイン、バソフェナントロリン、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(Alq3)などで構成されてもよい。
【0065】
なお、
図2にて示した光電変換素子100の構造のうち、光電変換層108を除いた各層を形成する材料については、特に限定されるものではなく、公知の光電変換素子用の材料を利用することも可能である。
【0066】
ここで、上述した本開示の第1の実施形態に係る光電変換素子100の各層は、蒸着法、スパッタ法、各種塗布法など、材料に応じた適切な成膜方法を選択することにより形成することができる。
【0067】
例えば、本開示の第1の実施形態に係る光電変換素子100を構成する各層のうち、下部電極104および上部電極112は、電子ビーム蒸着法、熱フィラメント蒸着法、および真空蒸着法を含む蒸着法、スパッタリング法、化学的気相成長法(CVD法)、イオンプレーティング法とエッチング法との組合せ、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、およびメタルマスク印刷法といった各種印刷法、またはメッキ法(電気メッキ法および無電解メッキ法)等により形成することが可能である。
【0068】
また、本開示の第1の実施形態に係る光電変換素子100を構成する各層のうち、電子阻止層106、光電変換層108、正孔阻止層110等の有機層は、例えば、真空蒸着法等の蒸着法、スクリーン印刷法およびインクジェット印刷法といった印刷法、レーザ転写法、またはスピンコート法等の塗布法などにより形成することが可能である。
【0069】
以上にて、本開示の第1の実施形態に係る光電変換素子100の構成の一例について説明した。
【0070】
[2.3.第1の実施形態に係る実施例]
以下では、実施例及び比較例を参照しながら、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜および光電変換素子について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜および光電変換素子が下記の例に限定されるものではない。
【0071】
[シミュレーション解析]
まず、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体の分光特性をシミュレーション解析にて評価した。具体的には、以下で構造式を示すサブフタロシアニン誘導体に対してシミュレーション解析を行い、HOMO-LUMO準位および極大吸収波長λmaxを計算した。
【0072】
ここで、「F6-SubPc-Cl」、「F3(C3)-SubPc-Cl」、「F3(C1)-SubPc-Cl」は、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体(実施例1~3)であり、「Bay-F6-SubPc-Cl」、「F12-SubPc-Cl」、「Cl6-SubPc-Cl」、「Bay-Cl6-SubPc-Cl」、「Cl12-SubPc-Cl」は、本開示の第1の実施形態に含まれないサブフタロシアニン誘導体(比較例1~5)である。
【0073】
【0074】
なお、シミュレーション解析には、密度汎関数法(DFT:Density functional theory)による計算を用い、計算プログラムとしては、Gaussian09を用い、「B3LYP/6-31+G**」レベルで計算した。
【0075】
シミュレーション解析によって算出した各サブフタロシアニン誘導体のHOMO-LUMO準位および極大吸収波長λmaxを以下の表1にて示す。なお、表1で示すサブフタロシアニン誘導体のHOMO-LUMO準位および極大吸収波長λmaxは、単分子におけるシミュレーション解析結果であるため、後述する薄膜における実測値とは、厳密には絶対値が一致していない。
【0076】
【0077】
表1を参照すると、実施例1~3に係るサブフタロシアニン誘導体は、比較例1~5に係るサブフタロシアニン誘導体に対して、極大吸収波長λmaxがより短波長化されていることがわかる。
【0078】
具体的には、実施例1~3に係るサブフタロシアニン誘導体は、サブフタロシアニン骨格のβ位(R11~R16)の少なくともいずれか1つ以上がフッ素で置換されているため、極大吸収波長λmaxがより短波長化されている。また、実施例1に係るサブフタロシアニン誘導体は、サブフタロシアニン骨格のβ位(R11~R16)がすべてフッ素で置換されているため、一部がフッ素で置換された実施例2および3に係るサブフタロシアニン誘導体に対して、極大吸収波長λmaxがさらに短波長化されていることがわかる。
【0079】
一方、比較例1および2に係るサブフタロシアニン誘導体は、サブフタロシアニン骨格のα位がフッ素で置換されているため、実施例1~3に係るサブフタロシアニン誘導体に対して、極大吸収波長λmaxが長くなっている。また、比較例2に係るサブフタロシアニン誘導体は、サブフタロシアニン骨格のβ位(R11~R16)がすべてフッ素で置換されているものの、α位もフッ素で置換されているため、実施例1~3に係るサブフタロシアニン誘導体に対して、極大吸収波長λmaxが長くなっている。
【0080】
このような置換基の位置による分光特性の変化は、サブフタロシアニンの分光特性に影響するHOMO準位およびLUMO準位の分子軌道がサブフタロシアニン骨格のα位およびβ位に存在するためと考えられる。したがって、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体は、サブフタロシアニン骨格のα位がいずれも水素であり、かつβ位(R11~R16)の少なくともいずれか1つ以上がフッ素で置換されていることが重要であると考えられる。
【0081】
また、比較例3~5に係るサブフタロシアニン誘導体は、サブフタロシアニン骨格のα位またはβ位が塩素で置換されているため、実施例1~3に係るサブフタロシアニン誘導体に対して、極大吸収波長λmaxが長くなっている。したがって、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体において、サブフタロシアニン骨格を置換する置換基はフッ素であることが重要であると考えられる。
【0082】
[サブフタロシアニン誘導体の合成]
次に、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体の合成方法について説明する。具体的には、上記で示した化合物2(F6-SubPc-Cl)および化合物9(F6-SubPc-OC6F5)を以下の合成方法にて合成した。合成したサブフタロシアニン誘導体は、1HNMR(Nuclear Magnetic Resonance)およびFD-MS(Field Desorption Mass Spectrometry)を用いて同定した。なお、以下に述べる合成方法はあくまでも一例であって、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体の合成方法が下記の例に限定されるものではない。
【0083】
F6-SubPc-Clの合成
以下の反応式1によって、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体であるF6-SubPc-Clを合成した。
【0084】
【0085】
BCl3(14g,120mmol)を溶解させた1-クロロナフタレン(150ml)に、ジフルオロフタロニトリル(30g,183mmol)を加え、窒素雰囲気下で加熱還流した。冷却後、混合物をシリカクロマトグラフィーで分離精製し、さらに、昇華精製によって生成物を精製し、F6-SubPc-Clを得た(11g,収率34%)。
【0086】
F6-SubPc-OC6F5の合成
以下の反応式2によって、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体であるF6-SubPc-OC6F5を合成した。
【0087】
【0088】
上記の合成方法で合成したF6-SubPc-Cl(10g,2.3mmol)を溶解させたクロロベンゼン(100ml)に、ペンタフルオロフェノール(13g,10mmol)を加え、加熱還流した。冷却後、混合物をシリカクロマトグラフィーで分離精製し、さらに、昇華精製によって生成物を精製し、F6-SubPc-OC6F5を得た(5.9g,収率60%)。
【0089】
[分光特性の評価]
続いて、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体の分光特性を評価した。具体的には、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体を含む評価サンプルを作製し、アニール前後における分光特性の変化を測定した。
【0090】
(実施例4)
まず、ITO電極付ガラス基板をUV/オゾン処理にて洗浄した。なお、該ガラス基板におけるITO膜の膜厚は、50nmであった。次に、該ガラス基板を有機蒸着装置に投入し、1×10-5Pa以下の真空中で基板ホルダを回転させながら、上記で合成したF6-SubPc-Clを抵抗加熱法によって蒸着速度0.1nm/秒にて蒸着した。蒸着したF6-SubPc-Clの膜厚は50nmであった。さらに、該有機層を覆うようにITOをスパッタ法にて膜厚50nmで成膜し、分光特性評価サンプルを作製した。
【0091】
(比較例6)
実施例4で用いたF6-SubPc-Clの代わりに、以下で合成方法を説明するF12-SubPc-Clを用いた以外は実施例4と同様にして、分光特性評価サンプルを作製した。
【0092】
なお、比較例6で用いるF12-SubPc-Clを以下の反応式3によって合成した。また、合成したF12-SubPc-Clは、NMRおよびFD-MSを用いて同定した。
【0093】
【0094】
BCl3(14g,120mmol)を溶解させた1-クロロナフタレン(150ml)に、テトラフルオロフタロニトリル(37g,183mmol)を加え、窒素雰囲気下で加熱還流した。冷却後、混合物をシリカクロマトグラフィーで分離精製し、さらに、昇華精製によって生成物を精製し、F12-SubPc-Clを得た(5.3g,収率64%)。
【0095】
(比較例7)
実施例4で用いたF6-SubPc-Clの代わりに、以下で合成方法を説明するSubPc-OC6F5を用いた以外は実施例4と同様にして、分光特性評価サンプルを作製した。
【0096】
なお、比較例7で用いるSubPc-OC6F5を以下の反応式4によって合成した。また、合成したSubPc-OC6F5は、NMRおよびFD-MSを用いて同定した。
【0097】
【0098】
昇華精製済みのサブフタロシアニン(東京化成工業株式会社製)(10g,2.3mmol)を溶解させた1,2-クロロベンゼン(100ml)に、ペンタフルオロフェノール(13g,10mmol)を加え、加熱還流した。冷却後、混合物をシリカカラムクロマトグラフィーで分離精製し、さらに、昇華精製によって生成物を精製し、SubPc-OC6F5を得た(6.5g,収率65%)。
【0099】
(比較例8)
実施例4で用いたF6-SubPc-Clの代わりに、以下で構造式を示すサブフタロシアニンクロライド(SubPc-Cl)を用いた以外は実施例4と同様にして、分光特性評価サンプルを作製した。なお、サブフタロシアニンクロライドは、東京化成工業株式会社から購入した昇華精製済み品を用いた。
【0100】
【0101】
(参考例)
実施例4で用いたF6-SubPc-Clの代わりに、以下で構造式を示すキナクリドン(QD)を用いた以外は実施例4と同様にして、分光特性評価サンプルを作製した。なお、キナクリドンは、東京化成工業株式会社から購入した昇華精製済み品を用いた。
【0102】
【0103】
作製した実施例4、比較例7~9、参考例の分光特性評価サンプルに対して紫外可視分光光度計を用いてアニール前後の分光特性の変化を評価した。具体的には、アニール前、160℃60分アニール後、および160℃210分アニール後において、実施例4、比較例7~9、参考例の分光特性を測定した。分光特性変化の評価結果を
図3A~3Eに示す。
【0104】
ここで、
図3Aは、実施例4(F6-SubPc-Cl)の分光特性変化の評価結果を示すグラフ図である。また、
図3Bは、比較例7(F12-SubPc-Cl)の分光特性変化の評価結果を示すグラフ図であり、
図3Cは、比較例8(SubPc-OC6F5)の分光特性変化の評価結果を示すグラフ図であり、
図3Dは、比較例9(SubPc-Cl)の分光特性変化の評価結果を示すグラフ図である。さらに、
図3Eは、参考例(QD)の分光特性変化の評価結果を示すグラフ図である。
【0105】
図3Aを参照すると、実施例4は、600nm以上の波長の赤色光側の吸収が小さく、緑色光を選択的に吸収することができることがわかる。また、実施例4は、アニール前後で吸光係数がほとんど変化しておらず、高い耐熱性を有していることがわかる。
【0106】
一方、
図3C~3Eを参照すると、比較例7(F12-SubPc-Cl)、比較例8(SubPc-OC6F5)、比較例9(SubPc-Cl)は、600nm以上の波長の吸収が大きく、赤色光も吸収してしまうことがわかる。また、比較例7~9は、いずれもアニール前後で吸収係数が大きく変化しており、耐熱性も低いことがわかる。
【0107】
さらに、実施例4は、
図3Eで示す参考例(キナクリドン)の分光特性と比較して、類似の分光特性を有していることがわかる。したがって、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体は、キナクリドン誘導体とバルクヘテロ混合膜を形成した場合、吸収する光の波長帯域が幅広にならず、緑色帯域に急峻な吸収ピークを有する光電変換膜を形成できることがわかる。
【0108】
以上の結果から、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体は、緑色光を選択的に吸収することができるため、固体撮像素子の緑色光電変換膜の材料として好適であることがわかる。
【0109】
[光電変換素子の評価]
また、以下の作製方法にて、本開示の第1の実施形態に係る光電変換素子を作製した。なお、以下に述べる光電変換素子の構造および作製方法はあくまでも一例であって、本開示の第1の実施形態に係る光電変換素子の構造および作製方法が下記の例に限定されるものではない。
【0110】
ここで、以下の実施例において、F6-SubPc-Cl、F6-SubPc-OC6F5、F12-SubPc-Cl、およびSubPc-OC6F5は、上述した方法により合成し、昇華精製したものを用いた。また、SubPc-Cl、キナクリドン、およびN,N’-ジメチルキナクリドンは、東京化成工業株式会社から購入した昇華精製済み品を用いた。
【0111】
(実施例5)
まず、ITO電極付ガラス基板をUV/オゾン処理にて洗浄した。なお、該ガラス基板における下部電極に相当するITO膜の膜厚は、50nmであった。次に、該ガラス基板を有機蒸着装置に投入し、1×10-5Pa以下に減圧した後、基板ホルダを回転させながら、F6-SubPc-Clおよびキナクリドンを抵抗加熱法によって蒸着した。なお、蒸着速度は、F6-SubPc-Clとキナクリドンとの比が1:1となるようにそれぞれ0.1nm/秒にて蒸着し、合計100nm成膜して光電変換層を形成した。
【0112】
さらに、該光電変換層上にAlSiCuを蒸着法にて膜厚100nmで成膜し、上部電極を形成した。以上の作製方法により1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子を作製した。
【0113】
(実施例6)
実施例5で用いたF6-SubPc-Clの代わりにF6-SubPc-OC6F5を用いた以外は、実施例5と同様にして光電変換素子を作製した。
【0114】
(実施例7)
実施例5で用いたキナクリドンの代わりに、以下で構造式を示すN,N’-ジメチルキナクリドン(DMQD)を用いた以外は、実施例5と同様にして光電変換素子を作製した。
【0115】
【0116】
(比較例10)
実施例5で用いたF6-SubPc-Clの代わりにSubPc-Clを用いた以外は、実施例5と同様にして光電変換素子を作製した。
【0117】
(比較例11)
実施例5で用いたF6-SubPc-Clの代わりにSubPc-OC6F5を用いた以外は、実施例5と同様にして光電変換素子を作製した。
【0118】
(比較例12)
実施例5で用いたF6-SubPc-Clの代わりにF12-SubPc-Clを用いた以外は、実施例5と同様にして光電変換素子を作製した。
【0119】
(比較例13)
実施例5で用いたキナクリドンおよびF6-SubPc-Clの代わりに、N,N’-ジメチルキナクリドンおよびSubPc-Clを用いた以外は、実施例5と同様にして光電変換素子を作製した。
【0120】
(比較例14)
実施例5で用いたキナクリドンおよびF6-SubPc-Clの代わりに、N,N’-ジメチルキナクリドンおよびSubPc-OC6F5を用いた以外は、実施例5と同様にして光電変換素子を作製した。
【0121】
(比較例15)
実施例5で用いたキナクリドンの代わりにSubPc-Clを用いた以外は、実施例5と同様にして光電変換素子を作製した。
【0122】
(評価結果)
まず、上記にて作製した実施例5~7および比較例10~15に係る光電変換素子に対して、光電変換効率および分光特性を評価した。
【0123】
光電変換効率の評価は、半導体パラメータアナライザを用いて外部量子効率を測定することによって行った。具体的には、フィルタを介して光源から1.62μW/cm2の光量の光を光電変換素子に照射し、電極間に印加されるバイアス電圧を-1Vとした場合の明電流値、および暗電流値から外部量子効率を算出した。このような外部量子効率の測定を160℃210分アニール前後で行い、アニール後の外部量子効率をアニール前の外部量子効率で除算し、アニール耐性を算出した。
【0124】
また、分光特性の評価は、紫外可視分光光度計を用いて行い、600nmにおける吸光係数を最大吸収波長λmaxにおける吸光係数で除算して、600nmにおける吸光割合を算出した。
【0125】
上記の評価結果を以下の表2に示す。ここで、表2において「QD」は、キナクリドンを表し、「DMQD」は、N,N’-ジメチルキナクリドンを表す。
【0126】
【0127】
表2に示す結果を参照すると、本開示の第1の実施形態に係る光電変換素子である実施例5~7は、比較例10~15に対して、600nmにおける吸光割合が低く、かつアニール耐性が高いことがわかる。また、実施例5~7は、アニール後の外部量子効率が、比較例10~15に対しておおむね高いことがわかる。
【0128】
具体的には、実施例5~7は、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体と、キナクリドン誘導体とを含むため、比較例11~15に対して、600nmにおける吸光割合が低く、またアニール耐性が高いことがわかる。なお、比較例10は、アニール耐性は高いものの、600nmにおける吸光割合が高いため、好ましくない。
【0129】
続いて、実施例5~7および比較例10~15において、光電変換層に用いられたサブフタロシアニン誘導体およびキナクリドン誘導体のHOMO準位およびLUMO準位について測定した。
【0130】
なお、HOMO準位の測定には、UV/オゾン処理を行ったシリコン基板にそれぞれの有機材料を蒸着法によって20nm成膜したサンプルを用いた。各有機材料を成膜したサンプルに対して、UPS(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy:紫外光電子分光)法を用いて、HOMO準位を算出した。
【0131】
また、LUMO準位の測定には、UV/オゾン処理を行った石英基板にそれぞれの有機材料を蒸着法によって50nm成膜したサンプルを用いた。まず、サンプルの透過率および反射率を分光光度計(日本分光V-570)にて測定し、波長に対する吸収係数αを算出した。次に、算出した吸収係数αの可視光領域の吸収端をHOMO-LUMOギャップとして算出し、HOMO準位から該HOMO-LUMOギャップを減算することでLUMO準位を算出した。
【0132】
測定したサブフタロシアニン誘導体およびキナクリドン誘導体のHOMO準位、LUMO準位および極大吸収波長λmaxを以下の表3に示す。なお、表3において「QD」は、キナクリドンを表し、「DMQD」は、N,N’-ジメチルキナクリドンを表す。
【0133】
【0134】
表3に示す結果を参照すると、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体である「F6-SubPc-Cl」は、比較例に係るサブフタロシアニン誘導体である「SubPc-Cl」、「SubPc-OC6F5」、および「F12-SubPc-Cl」に対して、薄膜においても極大吸収波長λmaxが短波長化していることがわかる。
【0135】
また、本開示の第1の実施形態に係るサブフタロシアニン誘導体である「F6-SubPc-Cl」は、実施例5または7においてバルクヘテロ混合膜を形成する「QD」および「DMQD」とのLUMO準位の差が、本開示の第1の実施形態において好ましい範囲(0.1eV以上1.0eV以下)に含まれていることがわかる。
【0136】
以上の結果からわかるように、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体と、一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体とを含むことにより、高い耐熱性を有し、緑色光を選択的に吸収することができる。したがって、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、固体撮像素子における緑色光電変換膜として好適に用いることができ、固体撮像素子の感度を向上させることができる。
【0137】
<3.第2の実施形態>
[3.1.第2の実施形態に係る光電変換膜の構成]
続いて、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜について説明する。本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜は、下記一般式(3)または(4)で表される可視光を吸収しない透明化合物を含む光電変換膜である。
【0138】
【0139】
なお、上記一般式(3)において、
R21~R32は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR21~R32が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基である。
【0140】
また、上記一般式(4)において、
R41~R48は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、イミド基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR41~R48が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基であり、
Ar1~Ar4は、互いに独立して、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のヘテロアリール基である。
【0141】
ここで、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜は、さらに有機色素化合物を含み、第1の実施形態と同様にバルクヘテロ混合膜として形成されてもよい。このような場合、例えば、有機色素化合物がp型光電変換材料として機能し、一般式(3)または(4)で表される透明化合物がn型光電変換材料として機能することで、両者の間でバルクヘテロ接合が形成される。
【0142】
ここで、本開示の第1の実施形態にて説明したように、バルクヘテロ混合膜では、分光特性は、混合されるp型光電変換材料およびn型光電変換材料双方の分光特性の影響を受ける。したがって、p型光電変換材料およびn型光電変換材料の分光特性が整合していない場合、バルクヘテロ混合膜として形成された光電変換膜は、吸収する光の波長帯域が幅広になり、固体撮像素子における光電変換膜として好適な分光特性が得られないことがあった。
【0143】
本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜では、可視光を吸収しない透明化合物である一般式(3)または(4)で表される透明化合物を用いることにより、光電変換膜において吸収される光の波長帯域が幅広になることを防止することができる。具体的には、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜は、一般式(3)または(4)で表される透明化合物が可視光を吸収しないため、含有する有機色素化合物の分光特性を反映した分光特性を有することができる。
【0144】
本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜に含まれる有機色素化合物としては、いかなるものも使用可能である。例えば、有機色素化合物として、シアニン色素、スチリル色素、ヘミシアニン色素、メロシアニン色素(ゼロメチンメロシアニン、シンプルメロシアニンを含む)、3核メロシアニン色素、4核メロシアニン色素、ロダシアニン色素、コンプレックスシアニン色素、コンプレックスメロシアニン色素、アロポーラー色素、オキソノール色素、ヘミオキソノール色素、スクアリウム色素、クロコニウム色素、アザメチン色素、クマリン色素、アリーリデン色素、アントラキノン色素、トリフェニルメタン色素、アゾ色素、アゾメチン色素、スピロ化合物、メタロセン色素、フルオレノン色素、フルギド色素、ペリレン色素、ペリノン色素、フェナジン色素、フェノチアジン色素、キノン色素、ジフェニルメタン色素、ポリエン色素、アクリジン色素、アクリジノン色素、ジフェニルアミン色素、キナクリドン色素、キノフタロン色素、フェノキサジン色素、フタロペリレン色素、ジケトピロロピロール色素、ジオキサン色素、ポルフィリン色素、クロロフィル色素、フタロシアニン色素、金属錯体色素、縮合芳香族炭素環系色素(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、およびフルオランテン誘導体など)を用いることが好ましい。なお、本開示の第2の実施形態では、有機色素化合物としてキナクリドン誘導体を用いることがより好ましい。
【0145】
例えば、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜が一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体を含む場合、一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体の分光特性を反映した分光特性を有することができる。このような場合、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜は、一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体と同様に選択的に緑色光を吸収することができるため、固体撮像素子における緑色光の光電変換膜として好適な分光特性を実現することができる。
【0146】
また、一般式(3)または(4)で表される透明化合物は、一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体と電荷分離に好適なサイズの結晶微粒子を有するバルクヘテロ混合層を形成することができる。これによれば、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜では、キナクリドン誘導体が光を吸収することで生成した励起子を互いの界面で速やかに電荷分離させることができる。特に、一般式(3)または(4)で表される透明化合物は、電子受容性を有し、高い電子移動度を有するため、バルクヘテロ混合膜において電荷分離を高効率で行い、光電変換膜の光電変換効率を向上させることができる。
【0147】
本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜において、一般式(3)または(4)で表される透明化合物と有機色素化合物との混合比は、いずれの割合であってもよいが、例えば、透明化合物:有機色素化合物=10:90~90:10(体積比)が好ましく、20:80~50:50(体積比)がより好ましい。一方、光電変換膜中に含まれる有機色素化合物の絶対量が過少である場合、入射された光が十分に色素に吸収されない可能性があるため、好ましくない。また、光電変換膜中に含まれる透明化合物の絶対量が過少である場合、生成されたキャリア(すなわち、電子および正孔)を対応する電極に円滑に移動させるために必要な透明化合物と有機色素化合物との間の導電パスが形成されなくなるため、好ましくない。
【0148】
ここで、一般式(3)において、R21~R32は、水素または任意の置換基である。好ましくは、R21、R24、R25、R28、R29、およびR32はいずれも水素であってもよい。
【0149】
例えば、一般式(3)で表される透明化合物の具体例としては、以下で構造式を示す化合物を挙げることができる。ただし、本開示の第2の実施形態に係る一般式(3)で表される透明化合物が下記の例示化合物に限定されるわけではない。
【0150】
【0151】
また、一般式(4)において、R41~R48は、互いに独立して、水素または任意の置換基であり、Ar1~Ar4は、互いに独立して、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のヘテロアリール基である。
【0152】
Ar1~Ar4が取り得るアリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、およびインデニル基などが挙げられる。また、Ar1~Ar4が取り得るヘテロアリール基としては、例えば、チエニル基、フラニル基、ピロリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、ピリジニル基、およびピリミジニル基などが挙げられる。
【0153】
なお、Ar1~Ar4は、置換基を有するアリールまたはヘテロアリール基であってもよい。このようなAr1~Ar4が有する置換基としては、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、およびカルボアルコキシ基などが挙げられる。
【0154】
一般式(4)において、Ar1~Ar4が有する置換基、およびR41~R48のうち少なくとも1つ以上は、電子求引基であることが好ましい。すなわち、一般式(4)で表される透明化合物は、置換基として電子求引基を少なくとも1つ以上有することが好ましい。このような場合、一般式(4)で表される透明化合物は、LUMO準位が深くなり(絶対値が大きくなり)、有機色素化合物との電荷分離が効率良く行えるLUMO準位になるため、光電変換効率を向上させることができる。
【0155】
また、一般式(4)で表される透明化合物のLUMO準位をより好適な値にするためには、一般式(4)で表される透明化合物は、より多くの電子求引基を有することが好ましく、有する置換基の電子求引性はより高いことが好ましい。さらに、Ar1~Ar4が電子求引基を置換基として有する場合、電子求引基の置換位置は、Ar1~Ar4とトリアジン環との結合位置に対して、パラ配位の位置であることが好ましい。このような場合、一般式(4)で表される透明化合物は、さらに有機色素化合物との電荷分離が効率良く行えるLUMO準位になるため、光電変換膜の光電変換効率を向上させることができる。
【0156】
なお、上記において、電子求引基とは、例えば、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、イミド基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、およびハロゲン化アリール基などであってもよい。
【0157】
このような一般式(4)で表される透明化合物の好ましい具体例としては、以下で構造式を示す化合物を例示することができる。ただし、本開示の第2の実施形態に係る一般式(4)で表される透明化合物が下記の例示化合物に限定されるわけではない。なお、下記の例示化合物を参照すると、Ar1~Ar4が電子ドナーであるヘテロアリール基である場合、R41~R48は、電子アクセプタとなる電子求引基であることが好ましいことがわかる。
【0158】
【0159】
また、一般式(3)または(4)で表される透明化合物のHOMO-LUMO準位は、有機色素化合物に対して光電変換メカニズムが円滑に行われる準位であることが好ましい。
【0160】
具体的には、一般式(3)または(4)で表される透明化合物がn型光電変換材料として機能し、有機色素化合物がp型光電変換材料として機能するためには、一般式(3)または(4)で表される透明化合物のLUMO準位は、有機色素化合物のLUMO準位よりも低いことが好ましい。
【0161】
ここで、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜における光電変換メカニズムとしては、具体的には以下のメカニズムが考えられる。すなわち、p型光電変換材料である有機色素化合物が光を吸収することで励起され、励起された電子が、n型光電変換材料である一般式(3)または(4)で表される透明化合物に移動することで電荷分離が行われる。このような場合、一般式(3)または(4)で表される透明化合物のLUMO準位は、有機色素化合物において励起された電子が一般式(3)または(4)で表される透明化合物へ円滑に移動することが可能な準位であることが好ましい。
【0162】
具体的には、一般式(3)または(4)で表される透明化合物のLUMO準位は、一般式(1)で表される有機色素化合物のLUMO準位との差が0.1eV以上1.0eV以下であることが好ましい。
【0163】
例えば、有機色素化合物として、上記一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体を用いる場合、キナクリドン誘導体のLUMO準位を考慮すると、一般式(3)または(4)で表される透明化合物のLUMO準位としては、-4.8eV以上-3.5eV以下であることが好ましく、-4.5eV以上-3.8eV以下であることがより好ましい。
【0164】
また、一般式(3)または(4)で表される透明化合物のHOMO準位としては、例えば、-7.8eV以上-6.5eV以下であることが好ましく、-7.5eV以上-6.8eV以下であることがより好ましい。
【0165】
ここで、一般式(3)で表される透明化合物と同様のヘキサアザトリフェニレン骨格を有する化合物として、例えば、以下で構造式を示すヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HAT-CN)を例示することができる。
【0166】
【0167】
HAT-CNは、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子において、電荷輸送材料として用いられる化合物である。しかしながら、HAT-CNは、LUMO準位が-5.58eV程度であるため、光電変換膜において共にバルクヘテロ混合膜を形成する有機色素化合物とのLUMO準位の差が大きい。したがって、光電変換膜において、n型光電変換材料としてHAT-CNを用いた場合、HAT-CNと有機色素化合物との界面にて励起電子の移動を円滑に行うことが困難になる。
【0168】
よって、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜に含まれる透明化合物は、一般式(3)または(4)で表される構造を有する化合物の中でも、バルクヘテロ混合膜を形成する有機色素化合物と相対的に近いLUMO準位を有する化合物が好ましい。具体的には、一般式(3)または(4)で表される透明化合物は、有機色素化合物とのLUMO準位の差が0.1eV以上1.0eV以下となる構造を有することが好ましい。
【0169】
以上説明したように、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜は、有機色素化合物と、一般式(3)または(4)で表される透明化合物とを含むことにより、有機色素化合物が吸収する光を選択的に光電変換することができる。例えば、有機色素化合物として一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体を用いた場合、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜は、緑色光(例えば、波長が450nm以上600nm未満の光)を選択的に光電変換することができる。
【0170】
また、一般式(3)または(4)で表される透明化合物は、電子移動度が高く、かつ、有機色素化合物と電荷分離効率が高いバルクヘテロ混合膜を形成することができるため、光電変換膜の光電変換効率を向上させることができる。したがって、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜は、固体撮像素子の光電変換膜に対して好適に用いることができ、固体撮像素子の感度を向上させることができる。
【0171】
[3.2.第2の実施形態に係る光電変換素子の構成]
本開示の第2の実施形態に係る光電変換素子の構成については、本開示の第1の実施形態にて説明した構成と実質的に同様であるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0172】
すなわち、本開示の第2の実施形態に係る光電変換素子は、第1の実施形態に対して、光電変換層108が一般式(3)または(4)で表される透明化合物を含む光電変換膜で構成される点が異なる。
【0173】
[3.3.第2の実施形態に係る実施例]
以下では、実施例および比較例を参照しながら、本開示の第2の実施形態に係る光電変換素子について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本開示の第2の実施形態に係る光電変換素子が下記の例に限定されるものではない。
【0174】
[光電変換素子の作製]
まず、以下の作製方法にて、本開示の第2の実施形態に係る光電変換素子を作製した。なお、以下に述べる光電変換素子の構造および作製方法はあくまでも一例であって、本開示の第2の実施形態に係る光電変換素子の構造および作製方法が下記の例に限定されるものではない。
【0175】
(実施例8)
まず、ITO電極付ガラス基板をUV/オゾン処理にて洗浄した。なお、該ガラス基板における下部電極に相当するITO膜の膜厚は、50nmであった。次に、該ガラス基板を有機蒸着装置に投入し、1×10-4Pa以下に減圧し、基板ホルダを回転させながら、下記で構造式を示す5,6,11,12,17,18-ヘキサアザトリナフチレン(HATNA)と、キナクリドンとを抵抗加熱法によって蒸着した。なお、蒸着速度は、HATNAとキナクリドンとの比が1:1となるようにそれぞれ0.1nm/秒にて蒸着し、合計100nm成膜して光電変換層を形成した。HATNAは、一般式(3)で表される構造を有する透明化合物である。
【0176】
さらに、該光電変換層上にAlSiCuを蒸着法にて膜厚100nmで成膜し、上部電極を形成した。以上の作製方法により1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子を作製した。
【0177】
【0178】
(実施例9)
実施例8で用いたHATNAの代わりに下記で構造式を示す2,3,8,9,14,15-ヘキサクロロ-5,6,11,12,17,18-ヘキサアザトリナフチレン(Cl6-HATNA)を用いた以外は、実施例8と同様にして光電変換素子を作製した。Cl6-HATNAは、一般式(3)で表される構造を有する透明化合物である。
【0179】
【0180】
(実施例10)
実施例8で用いたHATNAの代わりに下記で構造式を示す4,4’-ビス(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン―2-イル)ビフェニル(BTB)を用いた以外は、実施例8と同様にして光電変換素子を作製した。BTBは、一般式(4)で表される構造を有する透明化合物である。
【0181】
【0182】
(比較例16)
実施例8で用いたHATNAおよびキナクリドンの代わりに、キナクリドンのみを用いて膜厚100nmで光電変換層を形成した以外は、実施例8と同様にして光電変換素子を作製した。
【0183】
(比較例17)
実施例8で用いたHATNAの代わりに下記で構造式を示す4,6-ビス(3,5-ジ(ピリジン-4-イル)フェニル)-2-メチルピリミジン(B4PyMPM)を用いた以外は、実施例8と同様にして光電変換素子を作製した。なお、B4PyMPMは、HATNAのLUMO準位と近い値のLUMO準位を有する透明化合物である。
【0184】
【0185】
(比較例18)
実施例8で用いたHATNAおよびキナクリドンの代わりに、下記で構造式を示すサブフタロシアニンクロライド(SubPc-Cl)のみを用いて膜厚100nmで光電変換層を形成した以外は、実施例8と同様にして光電変換素子を作製した。なお、SubPc-Clは、HATNAのLUMO準位と近い値のLUMO準位を有するものの、可視光帯域の光を吸収する化合物である。
【0186】
【0187】
(比較例19)
実施例8で用いたHATNAの代わりにSubPc-Clを用いた以外は、実施例8と同様にして光電変換素子を作製した。
【0188】
なお、上記の実施例において、キナクリドン、SubPc-Clは、東京化成工業株式会社から購入した昇華精製済み品を用いた。また、HATNA、Cl6-HATNA、BTBは、Lumtec社(台湾国)から購入した昇華精製済み品を用いた。
【0189】
[光学変換特性の評価]
まず、上記にて作製した実施例8~10および比較例16~19に係る光電変換素子の光電変換効率および分光特性を評価した。
【0190】
ここで、光電変換効率は、半導体パラメータアナライザを用いて外部量子効率を測定することによって評価した。具体的には、フィルタを介して光源から波長が565nmの光を1.62μW/cm2の光量にて光電変換素子に照射し、電極間に印加されるバイアス電圧を-1Vとした場合の明電流値、および暗電流値から外部量子効率を算出した。
【0191】
また、分光特性は、IPCE(Incident Photon to current Conversion Efficiency)測定装置を用いて、波長に対する外部量子効率の変化率を測定し、ピークの半値幅を算出することで評価した。具体的には、フィルタを介して光源から1.62μW/cm2の光を光電変換素子に照射し、電極間に印加されるバイアス電圧を-1Vとした場合の明電流値、および暗電流値から外部量子効率を算出した。また、上記の外部量子効率の算出を波長ごとに行い、ピークの半値幅を計算した。
【0192】
上記の評価結果を以下の表4に示す。また、実施例8および比較例19のIPCE測定結果を
図4に示す。なお、表4において「QD」は、キナクリドンを表し、「-」は該当する材料を加えなかったことを表す。
図4は、実施例8および比較例19のIPCE測定結果を示すグラフ図であり、実線が実施例8を表し、破線が比較例19を表す。
【0193】
【0194】
表4に示す結果を参照すると、本開示の第2の実施形態に係る光電変換素子である実施例8~10は、比較例16~18に対して外部量子効率が大きく向上していることがわかる。
【0195】
ここで、比較例19は、実施例8~10と同程度に高い外部量子効率を有するものの、n型光電変換材料として可視光を吸収するSubPc-Clを用いている。そのため、比較例19は、IPCE測定によるピークの半値幅が実施例8~10よりも広がっており好ましくない。具体的には、
図4に示すように、比較例19は、波長に対する外部量子効率のプロファイルのピークが実施例8のピークよりも幅広になっており、600nm以上の波長の赤色光や450nm未満の波長の青色光についても吸収してしまうため好ましくない。
【0196】
一方、
図4に示すように、実施例8は、波長に対する外部量子効率のプロファイルのピークが比較例19よりも急峻であり、より選択的に450nm以上600nm未満の緑色光の光を吸収し、光電変換することができることがわかる。したがって、実施例8は、比較例19よりも吸収する光の波長の選択性が高く、固体撮像素子の光電変換素子として好適であることがわかる。
【0197】
続いて、実施例8~10および比較例16~19において光電変換層に用いられたp型光電変換材料およびn型光電変換材料のHOMO準位およびLUMO準位について測定した。
【0198】
なお、HOMO準位の測定には、UV/オゾン処理を行ったシリコン基板にそれぞれの有機材料を蒸着法によって20nm成膜したサンプルを用いた。各有機材料を成膜したサンプルに対して、UPS法を用いてHOMO準位を算出した。
【0199】
また、LUMO準位の測定には、UV/オゾン処理を行った石英基板にそれぞれの有機材料を蒸着法によって50nm成膜したサンプルを用いた。まず、サンプルの透過率および反射率を測定し、波長に対する吸収係数αを算出した。次に、算出した吸収係数αの可視光領域の吸収端をHOMO-LUMOギャップとして算出し、HOMO準位から該HOMO-LUMOギャップを減算することでLUMO準位を算出した。
【0200】
測定したp型光電変換材料およびn型光電変換材料のHOMO準位およびLUMO準位を以下の表5に示す。なお、表5において「QD」は、キナクリドンを表す。
【0201】
【0202】
表5に示す結果を参照すると、実施例8において用いられている「HATNA」および「QD」のLUMO準位の差は、0.25eVであり、実施例9において用いられている「Cl6-HATNA」および「QD」のLUMO準位の差は、1.55eVであり、実施例10において用いられている「BTB」および「QD」のLUMO準位の差は、0.05eVであった。表4の結果を参照すると、LUMO準位の差が本開示の第2の実施形態において好ましい範囲(0.1eV以上1.0eV以下)に含まれる実施例8は、好ましい範囲から外れる実施例9および10に対して外部量子効率が向上していることがわかる。
【0203】
また、比較例17において用いられている「B4PyMPM」は、本開示の第2の実施形態に係る透明材料である「HATNA」に近いLUMO準位を有する透明化合物である。しかしながら、比較例17は、実施例8~10に対して外部量子効率が大きく低下している。これによれば、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜において、外部量子効率を向上させるためには、透明化合物が一般式(3)または(4)で表される構造を有することが重要であることがわかる。
【0204】
具体的には、一般式(3)または(4)で表される透明化合物は、有機色素化合物とのバルクヘテロ混合膜の形成の際に、電荷分離に好適なサイズの結晶微粒子を形成することができる。これにより、一般式(3)または(4)で表される透明化合物を用いた光電変換膜では、外部量子効率が向上すると考えられる。一方、一般式(3)または(4)で表される構造を有さない「B4PyMPM」は、電荷分離に好適なサイズの結晶微粒子を形成することができないため、外部量子効率を向上させることができないと考えられる。
【0205】
[一般式(4)で表される透明化合物の詳細検討]
以下では、一般式(4)で表される透明化合物について、より好ましい構造を検討した。
【0206】
(一般式(4)で表される透明化合物の合成)
まず、一般式(4)で表される透明化合物であり、以下で構造を示すBTB-1~BTB-6の合成方法について説明する。合成したBTB-1~BTB-6は、HPLC(High Performance Liquid Chromatography)にて純度を確認した後、1HNMRおよびMALDI-TOFMS(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization-Time Of Flight Mass Spectrometry)を用いて同定した。なお、以下に述べる合成方法はあくまでも一例であって、一般式(4)で表される透明化合物の合成方法が下記の例に限定されるものではない。
【0207】
【0208】
BTB-1の合成
以下の反応式5によって、BTB-1を合成した。
【0209】
【0210】
アルゴン(Ar)雰囲気下で、4つ口フラスコに、ビフェニルジカルボニルクロライド(28.8g,103mmol)、塩化チオニル(SOCl2)(8.43g,70.9mmol)、オルトジクロロベンゼン(405mL)、塩化アルミニウム(30.6g,230mmol)、ベンゾニトリル61.1g(444mmol)を加え、十分に撹拌した後、150℃で30分間加熱撹拌した。続いて、120℃まで温度を下げた後、塩化アンモニウム(23.1g,432mmol)を加え、再度、170℃で4時間加熱撹拌した。
【0211】
室温まで冷却した後、反応溶液を28%アンモニア水(400mL)およびメタノール(3L)の混合溶液と混合し、析出した固体をろ過により取り出した。析出した固体を純水(1L)で懸濁洗浄し、さらにメタノール(1L)で懸濁洗浄することによって、灰色固体を得た。さらに、得られた灰色固体を2回、昇華精製することにより、目的化合物であるBTB-1を得た(11.4g,収率18%)。
【0212】
BTB-2の合成
上記反応式5において、ベンゾニトリルの替わりに4-フルオロベンゾニトリルを用いた以外は、同様の方法で、BTB-2を合成した。
【0213】
BTB-3の合成
上記反応式5において、ベンゾニトリルの替わりに4-トリフルオロメチルベンゾニトリルを用いた以外は、同様の方法で、BTB-3を合成した。
【0214】
BTB-4の合成
上記反応式5において、ベンゾニトリルの替わりに4-クロロベンゾニトリルを用いた以外は、同様の方法で、BTB-4を合成した。
【0215】
BTB-5の合成
上記反応式5において、ジフェニルカルボニルクロライドの替わりにテトラフルオロジフェニルカルボニルクロライドを用いた以外は、同様の方法で、BTB-5を合成した。
【0216】
BTB-6の合成
上記反応式5において、ジフェニルカルボニルクロライドの替わりにテトラフルオロジフェニルカルボニルクロライドを用い、ベンゾニトリルの替わりに4-クロロベンゾニトリルを用いた以外は、同様の方法で、BTB-6を合成した。
【0217】
(一般式(4)で表される透明化合物の分光特性評価)
次に、一般式(4)で表される透明化合物の単層膜サンプルを作製し、一般式(4)で表される透明化合物の分光特性を確認した。
【0218】
具体的には、UV/オゾン処理を行った石英基板に対して、蒸着法によって0.5Å/秒の蒸着速度での各有機材料(BTB-1~BTB-6)を50nm成膜したサンプルをそれぞれ作製した。次に、作製したサンプルの透過率および反射率を分光光度計(日本分光V-570)にて測定し、波長に対する吸収係数αを算出した。吸収係数αの測定結果を
図5に示す。
図5は、BTB-1~BTB-6の300nm~800nmの帯域における吸収係数αを示すグラフ図である。
【0219】
図5を参照すると、一般式(4)で表される透明化合物BTB-1~BTB-6は、いずれも400nm~800nmの波長帯域において吸収係数が小さいことがわかった。すなわち、一般式(4)で表される透明化合物BTB-1~BTB-6は、可視光帯域の光を吸収しない透明化合物であることがわかった。
【0220】
(一般式(4)で表される透明化合物の電気特性評価)
続いて、一般式(4)で表される透明化合物を用いて光電変換素子を作製し、光電変換素子の電気特性を評価した。
【0221】
(実施例11)
まず、ITO電極付ガラス基板をUV/オゾン処理にて洗浄した。なお、該ガラス基板において下部電極に相当するITO膜の膜厚は、50nmであった。次に、該ガラス基板を有機蒸着装置に投入し、1×10-5Pa以下に減圧し、基板ホルダを回転させながら、上記で合成したBTB-1と、キナクリドン(昇華精製品,東京化成工業株式会社製)とを抵抗加熱法によって蒸着した。なお、蒸着速度は、BTB-1とキナクリドンとの比が3:7となるように、それぞれ0.3Å/秒、0.7Å/秒にて蒸着し、合計120nm成膜して光電変換層を形成した。
【0222】
続いて、該光電変換層上にLiFを0.02Å/秒にて0.5nm蒸着成膜し、さらに、AlSiCuを蒸着法にて膜厚100nmで成膜し、上部電極を形成した。以上の方法により1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子を作製した。
【0223】
(実施例12~16)
実施例11で用いたBTB-1の替わりにBTB-2~BTB-6を用いた以外は、実施例11と同様にして光電変換素子を作製した。
【0224】
(比較例20)
実施例11で用いたBTB-1の替わりにキナクリドンを用い、キナクリドンのみにて光電変換層を形成した以外は、実施例11と同様にして光電変換素子を作製した。
【0225】
上記にて作製した実施例11~16、比較例20に係る光電変換素子の光電変換効率を評価した。ここで、光電変換効率は、半導体パラメータアナライザを用いて外部量子効率を測定することによって評価した。具体的には、フィルタを介して光源から光を1.62μW/cm2の光量にて光電変換素子に照射し、電極間に印加されるバイアス電圧を-1Vとした場合の明電流値、および暗電流値から外部量子効率を算出した。
【0226】
評価結果を以下の表6にて示す。ただし、表6において「QD」は、キナクリドンを表し、「-」は該当する材料を加えなかったことを表す。
【0227】
なお、外部量子効率評価は、アニール処理前後でそれぞれ評価した。アニール処理は、グローブボックス中でホットプレートを用いて光電変換素子を加熱することで行った。なお、加熱温度は160℃、加熱時間は210分とした。
【0228】
【0229】
表6に示す結果を参照すると、実施例11~16は、比較例20に対して、外部量子効率が向上していることがわかる。また、実施例11~16では、アニール前後で外部量子効率が大きく低下していないため、一般式(4)で表される透明化合物(BTB-1~BTB-6)は、高い耐熱性を有していることがわかる。
【0230】
さらに、実施例11と、実施例12~16とを比較すると、電子求引基を置換基として有するBTB-2~BTB-6を用いた実施例12~16は、電子求引基を置換基として有していないBTB-1を用いた実施例11に対して、外部量子効率が向上していることがわかる。したがって、一般式(4)で表される透明化合物は、置換基として電子求引基を有することが好ましいとわかる。具体的には、一般式(4)において、Ar1~Ar4が有する置換基、およびR41~R48のうち少なくとも1つ以上は、電子求引基であることが好ましいことがわかる。
【0231】
以上の結果からわかるように、本開示の第2の実施形態に係る光電変換素子は、一般式(3)または(4)で表される透明化合物を含むことにより、特定の波長の光を選択的に吸収しつつ、光電変換効率を向上させることができる。したがって、本開示の第2の実施形態に係る光電変換素子は、固体撮像素子における光電変換素子として好適に用いることができ、固体撮像素子の感度を向上させることができる。
【0232】
<4.第3の実施形態>
[4.1.第3の実施形態に係る光電変換素子の構成]
次に、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子について説明する。本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子は、隣接する電極の仕事関数に対して2.3eV以上のイオン化ポテンシャルを有する正孔阻止層を備えた光電変換素子である。
【0233】
具体的には、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子は、第1の実施形態と同様に、基板102と、基板102上に配置された下部電極104と、下部電極104上に配置された電子阻止層106と、電子阻止層106上に配置された光電変換層108と、光電変換層108上に配置された正孔阻止層110と、正孔阻止層110上に配置された上部電極112とを備える。また、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子では、正孔阻止層110のイオン化ポテンシャルと、上部電極112の仕事関数との差が2.3eV以上である。なお、正孔阻止層110のイオン化ポテンシャルは、正孔阻止層110を形成する化合物のHOMO準位が有するエネルギーの絶対値に相当する。
【0234】
一般的に、固体撮像素子に用いられる光電変換素子では、感度を向上させるために外部から電圧を印加して光電変換効率および応答速度を向上させることが多い。しかしながら、光電変換素子に対して外部から電圧を印加した場合、外部電界により電極から注入される正孔および電子が増加するため、光の入射の有無にかかわらず流れる暗電流が増加してしまう。固体撮像素子に用いられる光電変換素子では、光が入射しない際の暗電流と、光が入射した際の明電流との差を信号として取り出すため、暗電流が増加した場合、S/N比が低下する可能性があった。
【0235】
特に、使用環境の温度が高温(例えば、50℃以上)である場合、温度上昇に伴って光電変換素子に流れる暗電流が増加するため、暗電流を抑制することが求められていた。
【0236】
本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子では、隣接する電極の仕事関数と2.3eV以上の差を有するイオン化ポテンシャルを有する正孔阻止層を用いることにより、暗電流を抑制することが可能である。特に、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子では、高温環境(例えば、50℃以上)においても、暗電流の増加を抑制することが可能である。
【0237】
また、正孔阻止層110のイオン化ポテンシャル(すなわち、正孔阻止層110を形成する化合物のHOMO準位の絶対値)と、隣接する電極の仕事関数とのエネルギー差は、より大きいことが好ましい。したがって、正孔阻止層110のイオン化ポテンシャルと、隣接する電極の仕事関数とのエネルギー差の上限は、特に限定されないが、例えば、3.0eV以下であってもよい。
【0238】
例えば、正孔阻止層110と隣接する上部電極112が透明導電性材料である酸化インジウムスズ(ITO)で形成される場合、酸化インジウムスズの仕事関数は4.8eVであるため、正孔阻止層110を形成する化合物のHOMO準位は、-6.8eV以下が好ましく、-7.1eV以下がより好ましい。
【0239】
なお、正孔阻止層110と隣接する上部電極112は、導電性材料で構成されていればよく、上部電極112の構成材料は、上記の酸化インジウムスズに限定されない。例えば、上部電極112は、透明導電性材料で構成されていてもよく、酸化インジウム亜鉛(IZO)、グラフェン透明電極等で構成されていてもよい。
【0240】
また、正孔阻止層110を形成する化合物のLUMO準位は、隣接する光電変換層108のn型光電変換材料と同等、またはより浅い(絶対値がより小さい)ことが好ましい。このような場合、正孔阻止層110は、光電変換により光電変換層108で発生した電子を効率的に上部電極112へ移動させることができる。なお、光電変換層108で発生した電子をより効率的に上部電極112へ移動させるためには、正孔阻止層110を形成する化合物のLUMO準位と、隣接する光電変換層108のn型光電変換材料のLUMO準位との差はより小さいことが好ましい。
【0241】
例えば、光電変換層108に含まれるn型光電変換材料がサブフタロシアニン誘導体である場合、正孔阻止層110を形成する化合物のLUMO準位は、-5.5eV以上-3.3eV以下であることが好ましく、-5.0eV以上-3.5eV以下であることがさらに好ましい。
【0242】
さらに、正孔阻止層110の膜厚は、1nm以上50nm以下であることが好ましく、2nm以上30nm以下であることがより好ましく、5nm以上10nm以下であることが最も好ましい。正孔阻止層110の膜厚が上述の範囲内である場合、正孔阻止層110は、上部電極112からの正孔注入を抑制しつつ、光電変換層108から上部電極112へ電子を効率良く移動させることができる。
【0243】
ここで、正孔阻止層110は、下記一般式(5)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0244】
【0245】
なお、上記一般式(5)において、
R50は、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基であり、
Ar5~Ar8は、置換もしくは未置換のヘテロアリール基である。
【0246】
上記の一般式(5)で表される化合物は、HOMO準位が深く(HOMO準位のエネルギーの絶対値が大きく)、イオン化ポテンシャルが大きい。したがって、一般式(5)で表される化合物は、正孔阻止層110のイオン化ポテンシャルと、隣接する上部電極112の仕事関数との差を2.3eV以上にすることができる。これにより、正孔阻止層110は、外部電界による上部電極112からの正孔の注入を抑制することができるため、高温環境下であっても暗電流を抑制することができる。
【0247】
また、一般式(5)において、Ar5~Ar8が有する置換基、およびR50のうち少なくとも1つ以上は、電子求引基であることが好ましい。すなわち、一般式(5)で表される化合物は、置換基として電子求引基を少なくとも1つ以上有することが好ましい。このような場合、一般式(5)で表される化合物は、HOMO準位がより深くなり(絶対値が大きくなり)、イオン化ポテンシャルが大きくなるため、隣接する上部電極112の仕事関数との差をより大きくすることができる。このような一般式(5)で表される化合物を含む正孔阻止層110は、上部電極112からの正孔注入をさらに抑制することができるため、暗電流をさらに抑制することができる。
【0248】
また、一般式(5)で表される化合物のHOMO準位をより深い値にするためには、一般式(5)で表される化合物は、より多くの電子求引基を有することが好ましく、有する置換基の電子求引性はより高いことが好ましい。このような場合、一般式(5)で表される化合物は、上部電極112からの正孔注入をさらに抑制することができるため、暗電流をさらに抑制することができる。
【0249】
なお、上記において、電子求引基とは、例えば、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、イミド基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、およびハロゲン化アリール基などであってもよい。
【0250】
上述した一般式(5)で表される化合物の好ましい具体例としては、以下で構造式を示す化合物を例示することができる。ただし、本開示の第3の実施形態に係る一般式(5)で表される化合物が下記の例示化合物に限定されるわけではない。
【0251】
【0252】
なお、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子において、基板102、下部電極104、電子阻止層106、光電変換層108、および上部電極112の構成については、第1の実施形態と実質的に同様であるため、ここでの具体的な説明は省略する。ただし、光電変換層108は、上述した第1および第2の実施形態に係る光電変換膜にて構成されることが好ましい。
【0253】
以上説明したように、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子は、隣接する電極の仕事関数に対して、2.3eV以上のイオン化ポテンシャルを有する正孔阻止層を用いることにより、暗電流を抑制することが可能である。特に、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子は、高温環境(例えば、50℃以上)下において、暗電流を効果的に抑制することが可能である。
【0254】
また、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子では、一般式(5)で表される化合物を正孔阻止層に用いることにより、正孔阻止層のイオン化ポテンシャルと隣接する電極の仕事関数とのエネルギー差を2.3eV以上とすることができる。これにより、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子では、高い光電変換効率を維持しつつ、暗電流を抑制することができる。
【0255】
[4.2.第3の実施形態に係る実施例]
以下では、実施例および比較例を参照しながら、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子が下記の例に限定されるものではない。
【0256】
[一般式(5)で表される化合物の合成]
まず、一般式(5)で表される化合物の合成方法について説明する。具体的には、以下の構造式を示すB4PyMPMおよびB3PyMPMを合成した。合成したB4PyMPMおよびB3PyMPMは、1HNMRおよびFD-MSを用いて同定した。なお、以下に述べる合成方法はあくまでも一例であって、一般式(5)で表される化合物の合成方法が下記の例に限定されるものではない。
【0257】
【0258】
B4PyMPMの合成
以下の反応式6および7によって、B4PyMPMを合成した。
【0259】
【0260】
まず、窒素雰囲気下で、3つ口フラスコに、4,6-ジクロロー2-メチルピリミジン(5.0g,30.7mmol)、3,5-ジクロロフェニルボロン酸(12.9g,67.7mmol)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(PdCl2(PPh3)2)(1.07g,0.96mmol)、炭酸ナトリウム水溶液(1.0mol/L,150ml)を加え、アセトニトリル(500ml)溶媒中で10分間撹拌した。反応溶液を水と混合し、析出した固体をろ過により取り出した。析出した固体を純水で懸濁洗浄することによって、白色固体を得た。さらに、得られた白色固体を再結晶することにより、中間化合物Aを得た(11.8g,収率72%)。
【0261】
次に、窒素雰囲気下で、3つ口フラスコに、中間化合物A(4.6g,11.9mmol)、4-ピリジルボロン酸ピナコールエステル(10.8g,52.6mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd2(dba)3)(0.43g,0.48mmol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)(0.322g,1.15mmol)、リン酸カリウム水溶液(1.35mol/L,138ml)を加え、ジオキサン(440ml)溶媒中で24時間撹拌した。反応溶液を水と混合し、析出した固体をろ過により取り出した。析出した固体を純水で懸濁洗浄することによって、白色固体を得た。さらに、得られた白色固体を昇華精製することにより、目的化合物であるB4PyMPMを得た(6.67g,収率77%)。
【0262】
B3PyMPMの合成
反応式7において、4-ピリジルボロン酸ピナコールエステルに替えて、3-ピリジルボロン酸ピナコールエステルを用いた以外は、反応式6および7と同様の方法で、B3PyMPMを合成した。
【0263】
[光電変換素子の評価]
また、以下の作製方法にて、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子を作製した。なお、以下に述べる光電変換素子の構造および作製方法はあくまでも一例であって、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子の構造および作製方法が下記の例に限定されるものではない。
【0264】
(実施例17)
まず、ITO電極付Si基板をUV/オゾン処理にて洗浄した。なお、該Si基板における下部電極に相当するITO膜の膜厚は、100nmであった。次に、該Si基板を有機蒸着装置に投入し、1×10-5Pa以下に減圧した後、基板ホルダを回転させながら、F6-SubPc-Cl(昇華精製品)およびt-ブチルキナクリドン(東京化成工業株式会社製、昇華精製品)を抵抗加熱法によって蒸着した。蒸着速度は、F6-SubPc-Clとt-ブチルキナクリドン(BQD)との比が1:1となるようにそれぞれ0.5Å/秒にて蒸着し、合計120nm成膜して光電変換層を形成した。
【0265】
次に、光電変換層上に上記で合成したB4PyMPMを抵抗加熱法によって蒸着した。蒸着速度は、0.5Å/秒とし、5nm成膜して正孔阻止層を形成した。続いて、該正孔阻止層上にITOをスパッタ法にて膜厚50nmで成膜し、上部電極を形成した。なお、下部電極および上部電極は、光電変換領域が0.5mm×0.5mmとなるように形成した。さらに、上部電極を形成した素子を窒素置換したグローブボックス中のホットプレート上にて160℃で3.5時間加熱処理することで、光電変換素子を作製した。以下に、光電変換層に用いたF6-SubPc-Clおよびt-ブチルキナクリドン(BQD)の構造式を示す。
【0266】
【0267】
(実施例18)
正孔阻止層を10nmで成膜した以外は、実施例17と同様にして光電変換素子を作製した。
【0268】
(実施例19)
正孔阻止層を20nmで成膜した以外は、実施例17と同様にして光電変換素子を作製した。
【0269】
(実施例20)
B4PyMPMの替わりにB3PyMPMを用いて正孔阻止層を形成した以外は、実施例17と同様にして光電変換素子を作製した。
【0270】
(比較例21)
B4PyMPMの替わりに以下で構造式を示すHATNAを用いて正孔阻止層を形成した以外は、実施例17と同様にして光電変換素子を作製した。
【0271】
(比較例22)
B4PyMPMの替わりに以下で構造式を示すMe6-HATNAを用いて正孔阻止層を形成した以外は、実施例17と同様にして光電変換素子を作製した。
【0272】
【0273】
(比較例23)
正孔阻止層を形成しなかった以外は、実施例17と同様にして光電変換素子を作製した。
【0274】
(評価結果)
まず、実施例17~20、および比較例21~23に係る光電変換素子にて各層に用いた化合物(B4PyMPM、B3PyMPM、HATNA、Me6-HATNA、F6-SubPc-Cl、BQD)のHOMO準位およびLUMO準位を測定した。
【0275】
なお、HOMO準位の測定には、UV/オゾン処理を行ったシリコン基板にそれぞれの化合物を蒸着法にて20nm成膜したサンプルを用いた。各化合物を成膜したサンプルに対して、UPS法を用いてHOMO準位を算出した。
【0276】
また、LUMO準位の測定には、UV/オゾン処理を行った石英基板にそれぞれの有機材料を蒸着法によって50nm成膜したサンプルを用いた。まず、サンプルの透過率および反射率を測定し、波長に対する吸収係数αを算出した。次に、算出した吸収係数αの可視光領域の吸収端をHOMO-LUMOギャップとして算出し、HOMO準位から該HOMO-LUMOギャップを減算することでLUMO準位を算出した。
【0277】
測定した各化合物のHOMO準位およびLUMO準位を以下の表7に示す。なお、上部電極に用いたITOの仕事関数は、4.8eVであった。
【0278】
【0279】
表7の結果を参照すると、実施例17~19の正孔阻止層で用いたB4PyMPMのイオン化ポテンシャル(HOMO準位の絶対値)と、上部電極(ITO)の仕事関数との差は2.8eVであり、本開示の第3の実施形態において好ましい範囲に含まれていることがわかる。また、実施例20の正孔阻止層で用いたB3PyMPMのイオン化ポテンシャルと、上部電極の仕事関数との差は2.4eVであり、本開示の第3の実施形態において好ましい範囲に含まれていることがわかる。
【0280】
一方、比較例21の正孔阻止層で用いたHATNAのイオン化ポテンシャルと、上部電極の仕事関数との差は2.1eVであり、本開示の第3の実施形態において好ましい範囲から外れていることがわかる。また、比較例22の正孔阻止層で用いたMe6-HATNAのイオン化ポテンシャルと、上部電極の仕事関数との差は1.5eVであり、本開示の第3の実施形態において好ましい範囲から外れていることがわかる。
【0281】
また、上記にて作製した実施例17~20および比較例21~23に係る光電変換素子に対して、光電変換効率を評価した。なお、実施例17~20および比較例21~23に係る光電変換素子の評価は、すべて60℃の高温環境下にて行った。
【0282】
光電変換効率の評価は、半導体パラメータアナライザを用いて外部量子効率を測定することによって行った。具体的には、フィルタを介して光源から565nmの波長の光を1.62μW/cm2の光量にて光電変換素子に照射し、電極間に印加されるバイアス電圧を-1Vまたは-5Vとした場合の明電流値、および暗電流値から外部量子効率を算出した。ここで、電極間に印加されるバイアス電圧を-5Vとした条件は、外部量子効率を向上させることができるものの、暗電流も増加してしまう条件である。
【0283】
上記の評価結果を以下の表8に示す。なお、表8において、「-」は該当する層を形成しなかったことを表す。また、「エネルギー差」は、正孔阻止層のイオン化ポテンシャルと、上部電極の仕事関数とのエネルギー差を表し、正孔阻止層を形成する各化合物のHOMO準位の絶対値とITOにて形成した上部電極(ITO)の仕事関数(4.8eV)との差を取ることで算出した。
【0284】
【0285】
表7および8の結果を参照すると、本開示の第3の実施形態に係る実施例17~20は、正孔阻止層を設けなかった比較例23に対して、バイアス電圧-1Vおよび-5Vのいずれでも暗電流を低下させることができることがわかった。また、実施例17~20は、比較例23に対して、バイアス電圧-1Vおよび-5Vのいずれでも外部量子効率を同等以上に向上させることができることがわかった。ただし、正孔阻止層を20nmまで成膜した実施例19では、実施例17および18に対して暗電流をより低下させることができるものの、正孔阻止層を設けなかった比較例23に対して外部量子効率が同程度となっている。したがって、暗電流の低下および外部量子効率の向上を両立させることができる正孔阻止層の好ましい膜厚は、20nm以下であることがわかった。
【0286】
また、比較例21および22は、正孔阻止層のイオン化ポテンシャルと、上部電極の仕事関数とのエネルギー差が本開示の第3の実施形態において好ましい範囲から外れているため、実施例17~20に対して、バイアス電圧-5Vにおいて暗電流が増加しており、好ましくないことがわかった。
【0287】
さらに、実施例17と実施例20とを比較すると、実施例17の方が外部量子効率を向上させることができることがわかった。これは、実施例17の正孔阻止層に用いたB4PyMPMのLUMO準位の方が、実施例20の正孔阻止層に用いたB3PyMPMのLUMO準位よりも好ましいためであると考えられる。具体的には、B4PyMPMのLUMO準位(-4.05eV)は、B3PyMPMのLUMO準位(-3.65eV)よりも、光電変換層のn型光電変換材料として用いたF6-SubPc-ClのLUMO準位(-4.2eV)に対して近いため、より効率的に光電変換により生じた電子を電極へと移動させることができるからであると考えられる。よって、正孔阻止層に用いる化合物のLUMO準位は、光電変換層のn型光電変換材料のLUMO準位よりも浅く(絶対値が小さく)、かつn型光電変換材料のLUMO準位との差が小さいことが好ましいとわかる。
【0288】
以上の結果からわかるように、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子では、隣接する電極の仕事関数に対して、2.3eV以上のイオン化ポテンシャルを有する正孔阻止層を設けることにより、暗電流を抑制することが可能である。特に、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子は、高温(例えば、50℃以上)条件下、および高バイアス電圧条件下において、暗電流の増加を抑制することが可能である。
【0289】
<5.本開示に係る光電変換素子の適用例>
以下では、
図6~8を参照して本開示に係る光電変換膜を含む光電変換素子の適用例について説明する。
【0290】
[5.1.固体撮像素子の構成]
まず、
図6および7を参照して、本開示に係る光電変換素子が適用される固体撮像素子の構成について説明する。
図6は、本開示に係る光電変換素子が適用される固体撮像素子の構造を示す概略図である。
【0291】
ここで、
図6において、画素領域201、211、231は、本開示に係る光電変換膜を含む光電変換素子が配置される領域である。また、制御回路202、212、242は、固体撮像素子の各構成を制御する演算処理回路であり、ロジック回路203、223、243は、画素領域において光電変換素子が光電変換した信号を処理するための信号処理回路である。
【0292】
例えば、
図6(A)に示すように、本開示に係る光電変換素子が適用される固体撮像素子は、1つの半導体チップ200内に、画素領域201と、制御回路202と、ロジック回路203とが形成されてもよい。
【0293】
また、
図6(B)に示すように、本開示に係る光電変換素子が適用される固体撮像素子は、第1半導体チップ210内に、画素領域211と、制御回路212とが形成され、第2半導体チップ220内にロジック回路223が形成された積層型固体撮像素子であってもよい。
【0294】
さらに、
図6(C)に示すように、本開示に係る光電変換素子が適用される固体撮像素子は、第1半導体チップ230内に、画素領域231が形成され、第2半導体チップ240内に制御回路242と、ロジック回路243とが形成された積層型固体撮像素子であってもよい。
【0295】
図6(B)および6(C)にて示した固体撮像素子は、制御回路およびロジック回路の少なくともいずれか一方が、画素領域が形成された半導体チップとは別の半導体チップ内に形成される。したがって、
図6(B)および6(C)で示した固体撮像素子は、
図6(A)で示した固体撮像素子よりも画素領域を拡大することができるため、画素領域に搭載される画素を増加させ、平面分解能を向上させることができる。そのため、本開示に係る光電変換素子が適用される固体撮像素子は、
図6(B)および6(C)で示した積層型固体撮像素子であることがより好ましい。
【0296】
続いて、
図7を参照して、本開示に係る光電変換素子が適用された固体撮像素子の具体的な構造について説明する。
図7は、本開示に係る光電変換素子が適用された固体撮像素子の単位画素における概略を示した断面図である。なお、
図7で示す固体撮像素子300は、画素トランジスタ等が形成された面とは反対側の面から光が入射する裏面照射型の固体撮像素子である。また、
図7では、図面に対して上側が受光面となり、下側が画素トランジスタおよび周辺回路が形成される回路形成面となる。
【0297】
図7に示すように、固体撮像素子300は、光電変換領域320において、半導体基板330に形成された第1フォトダイオードPD1を含む光電変換素子、半導体基板330に形成された第2フォトダイオードPD2を含む光電変換素子、および半導体基板330の裏面側に形成された有機光電変換膜310を含む光電変換素子が光の入射方向に積層された構成を有する。
【0298】
第1フォトダイオードPD1および、第2フォトダイオードPD2は、シリコンからなる半導体基板330の第1導電型(例えば、p型)半導体領域であるウェル領域331に形成される。
【0299】
第1フォトダイオードPD1は、半導体基板330の受光面側に形成された第2導電型(例えば、n型)不純物によるn型半導体領域332と、その一部が半導体基板330の表面側に達するように延長して形成された延長部332aとを有する。延長部332aの表面には、電荷蓄積層となる高濃度のp型半導体領域334が形成される。また、延長部332aは、第1フォトダイオードPD1のn型半導体領域332に蓄積された信号電荷を半導体基板330の表面側に抜き出すための抜出層として形成される。
【0300】
第2フォトダイオードPD2は、半導体基板330の受光面側に形成されたn型半導体領域336と、半導体基板330の表面側に形成され、電荷蓄積層となる高濃度のp型半導体領域338と、にて構成される。
【0301】
第1フォトダイオードPD1および第2フォトダイオードPD2において、半導体基板330の界面にp型半導体領域が形成されることにより、半導体基板330界面で発生する暗電流を抑制することができる。
【0302】
ここで、受光面から最も離れた領域に形成された第2フォトダイオードPD2は、例えば、赤色光を吸収し、光電変換する赤色光電変換素子である。また、第2フォトダイオードPD2よりも受光面側に形成された第1フォトダイオードPD1は、例えば、青色光を吸収し、光電変換する青色光電変換素子である。
【0303】
有機光電変換膜310は、反射防止膜302および絶縁膜306を介して半導体基板330の裏面上に形成される。また、有機光電変換膜310は、上部電極312および下部電極308にて挟持されることで光電変換素子を形成する。ここで、有機光電変換膜310は、例えば、緑色光を吸収し、光電変換する有機膜であり、上記で説明した本開示に係る光電変換膜で形成される。また、上部電極312および下部電極308は、例えば、酸化インジウムスズ、酸化インジウム亜鉛等の透明導電性材料で形成される。
【0304】
また、下部電極308は、反射防止膜302を貫通するコンタクトプラグ304を介して、半導体基板330の裏面側から表面側にかけて形成された縦型転送路348に接続される。縦型転送路348は、半導体基板330の裏面側から接続部340、電位障壁層342、電荷蓄積層344、p型半導体領域346の積層構造にて形成される。
【0305】
接続部340は、半導体基板330の裏面側に形成された高不純物濃度のn型不純物領域からなり、コンタクトプラグ304とオーミックコンタクトのために形成される。電位障壁層342は、低濃度のp型不純物領域からなり、接続部340と電荷蓄積層344との間においてポテンシャルバリアを形成する。電荷蓄積層344は、有機光電変換膜310から転送された信号電荷を蓄積し、接続部340よりも低濃度のn型不純物領域で形成される。なお、半導体基板330の表面には、高濃度のp型半導体領域346が形成される。このようなp型半導体領域346により、半導体基板330界面で発生する暗電流が抑制される。
【0306】
ここで、半導体基板330の表面側には、層間絶縁層351を介して複数層に積層された配線358を含む多層配線層350が形成される。また、半導体基板330表面近傍には、第1フォトダイオードPD1、第2フォトダイオードPD2、および有機光電変換膜310に対応する読出回路352、354、356が形成される。読出回路352、354、356は、それぞれの光電変換素子から出力信号を読み出し、ロジック回路(図示せず)に転送する。さらに、多層配線層350の表面には、支持基板360が形成される。
【0307】
一方、上部電極312の受光面側には、第1フォトダイオードPD1の延長部332aおよび縦型転送路348を遮光するように遮光膜316が形成される。ここで、遮光膜316同士によって区切られた領域が光電変換領域320となる。また、遮光膜316上には、平坦化膜314を介してオンチップレンズ318が形成される。
【0308】
以上にて、本開示に係る光電変換素子が適用される固体撮像素子300について説明した。なお、本開示に係る光電変換素子が適用される固体撮像素子300は、単位画素において縦方向に色分離が行われるため、カラーフィルタ等が形成されていない。
【0309】
[5.2.電子機器の構成]
続いて、
図8を参照して、本開示に係る光電変換素子が適用される電子機器の構成について説明する。
図8は、本開示に係る光電変換素子が適用される電子機器の構成を説明するブロック図である。
【0310】
図8に示すように、電子機器400は、光学系402と、固体撮像素子404と、DSP(Digital Signal Processor)回路406と、制御部408と、出力部412と、入力部414と、フレームメモリ416と、記録部418と、電源部420とを備える。
【0311】
ここで、DSP回路406、制御部408、出力部412、入力部414、フレームメモリ416、記録部418および電源部420は、バスライン410を介して相互に接続されている。
【0312】
光学系402は、被写体からの入射光を取り込み、固体撮像素子404の撮像面上に結像させる。また、固体撮像素子404は、本開示に係る光電変換素子を含み、光学系402によって撮像面上に結像された入射光の光量を画素単位で電気信号に変換して画素信号として出力する。
【0313】
DSP回路406は、固体撮像素子404から転送された画素信号を処理し、出力部412、フレームメモリ416、および記録部418等に出力する。また、制御部408は、例えば、演算処理回路等で構成され、電子機器400の各構成の動作を制御する。
【0314】
出力部412は、例えば、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等のパネル型表示装置であり、固体撮像素子404にて撮像された動画または静止画を表示する。なお、出力部412は、スピーカおよびヘッドフォン等の音声出力装置を含んでもよい。また、入力部414は、例えば、タッチパネル、ボタン等のユーザが操作を入力するための装置であり、ユーザの操作に従い、電子機器400が有する様々な機能について操作指令を発する。
【0315】
フレームメモリ416は、固体撮像素子404にて撮像された動画または静止画等を一時的に記憶する。また、記録部418は、固体撮像素子404にて撮像された動画または静止画等を磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記憶媒体に記録する。
【0316】
電源部420は、DSP回路406、制御部408、出力部412、入力部414、フレームメモリ416、および記録部418の動作電源となる各種電源をこれらの供給対象に対して適宜供給する。
【0317】
以上にて、本開示に係る光電変換素子が適用される電子機器400について説明した。本開示に係る光電変換素子が適用される電子機器400は、例えば、撮像装置などであってもよい。
【0318】
<6.まとめ>
以上説明したように、本開示に係る光電変換膜は、上述した化合物を含むことにより、特定の波長帯域の光を選択的に吸収することができる。したがって、本開示に係る光電変換膜を含む光電変換素子は、固体撮像素子の光電変換素子として好適な分光特性を備え、固体撮像素子の感度および解像度を向上させることができる。
【0319】
本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、上記一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体と、上記一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体とを含む。上記一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体は、耐熱性が高く、緑色光を選択的に吸収し、キナクリドン誘導体と整合した分光特性を有する。よって、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、緑色光を吸収する急峻な分光特性を有する。したがって、本開示の第1の実施形態に係る光電変換膜は、緑色光を選択的に吸収することができるため、固体撮像素子の緑色光電変換素子として好適であり、固体撮像素子の感度および解像度を向上させることができる。
【0320】
また、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜は、上記一般式(3)または(4)で表される可視光を吸収しない透明化合物を含む。上記一般式(3)または(4)で表される可視光を吸収しない透明化合物は、可視光に吸収帯域を持たないため、光電変換膜の分光特性に影響を与えない。よって、一般式(3)または(4)で表される透明化合物と、有機色素化合物とを含んで形成された光電変換膜は、有機色素化合物と同じ分光特性を備えることができる。したがって、本開示の第2の実施形態に係る光電変換膜は、有機色素化合物が吸収する光を選択的に吸収することができるため、固体撮像素子の光電変換素子として好適であり、固体撮像素子の感度および解像度を向上させることができる。
【0321】
さらに、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子は、隣接する電極の仕事関数に対して、2.3eV以上のイオン化ポテンシャルを有する正孔阻止層を備える。このような正孔阻止層は、外部電界により電極からの正孔の注入を抑制することができるため、暗電流を低下させることができる。したがって、本開示の第3の実施形態に係る光電変換素子は、暗電流を抑制することができるため、固体撮像素子として好適であり、固体撮像素子の感度および解像度を向上させることができる。
【0322】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0323】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、または上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0324】
なお、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
[1]
下記一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体と、下記一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体と、を含む光電変換膜。
【化32】
前記一般式(1)において、
R
1~R
10は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
1~R
10が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基であり、
【化33】
前記一般式(2)において、
R
11~R
16は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基であり、
Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基からなる群より選択されるいずれかの置換基であり、
R
11~R
16のうち、少なくとも1つ以上はフッ素である。
[2]
前記R
11~R
16は、フッ素である、前記[1]に記載の光電変換膜。
[3]
前記Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、および置換もしくは未置換のアリールオキシ基からなる群より選択されるいずれかの置換基である、前記[1]または[2]に記載の光電変換膜。
[4]
前記サブフタロシアニン誘導体のLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位は、前記キナクリドン誘導体のLUMO準位よりも深く、前記サブフタロシアニン誘導体のLUMO準位と、前記キナクリドン誘導体のLUMO準位との差は、0.1eV以上1.0eV以下である、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の光電変換膜。
[5]
前記キナクリドン誘導体と、前記サブフタロシアニン誘導体とはバルクヘテロ膜を形成する、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の光電変換膜。
[6]
下記一般式(3)または(4)で表される可視光を吸収しない透明化合物を含む、光電変換膜。
【化34】
前記一般式(3)において、
R
21~R
32は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
21~R
32が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基であり、
前記一般式(4)において、
R
41~R
48は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、イミド基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
41~R
48が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基であり、
Ar
1~Ar
4は、互いに独立して、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のヘテロアリール基である。
[7]
一般式(3)において、前記R
21、R
24、R
25、R
28、R
29、およびR
32は水素である、前記[6]に記載の光電変換膜。
[8]
一般式(4)において、前記Ar
1~Ar
4が有する置換基、および前記R
41~R
48のうち少なくとも1つ以上は、電子求引基である、前記[6]に記載の光電変換膜。
[9]
前記電子求引基は、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、イミド基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、およびハロゲン化アリール基からなる群より選択されたいずれかの置換基である、前記[8]に記載の光電変換膜。
[10]
有機色素化合物をさらに含み、
前記有機色素化合物と、前記一般式(3)または一般式(4)で表される化合物とはバルクヘテロ膜を形成する、前記[6]~[9]のいずれか一項に記載の光電変換膜。
[11]
前記有機色素化合物は、450nm以上600nm以下の波長帯域の緑色光を吸収する化合物である、前記[10]に記載の光電変換膜。
[12]
前記有機色素化合物は、下記一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体である、前記[10]または[11]に記載の光電変換膜。
【化35】
前記一般式(1)において、
R
1~R
10は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
1~R
10が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基である。
[13]
前記一般式(3)または(4)で表される化合物のLUMO準位は、前記キナクリドン誘導体のLUMO準位よりも深く、前記一般式(3)または(4)で表される化合物のLUMO準位と、前記キナクリドン誘導体のLUMO準位との差は、0.1eV以上1.0eV以下である、前記[12]に記載の光電変換膜。
[14]
光電変換膜と、
前記光電変換膜を挟んで両側に配置された一対の電極と、
前記光電変換膜と一方の電極との間に配置された正孔阻止層と、を備え、
前記正孔阻止層のイオン化ポテンシャルは、隣接する一方の電極の仕事関数に対して、2.3eV以上である、光電変換素子。
[15]
前記正孔阻止層は、下記一般式(5)で表される化合物を含む、前記[14]に記載の光電変換素子。
【化36】
上記一般式(5)において、
R
50は、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基であり、
Ar
5~Ar
8は、置換もしくは未置換のヘテロアリール基である。
[16]
前記Ar
5~Ar
8が有する置換基、および前記R
50のうち少なくとも1つ以上は、電子求引基である、前記[15]に記載の光電変換素子。
[17]
前記電子求引基は、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、イミド基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、およびハロゲン化アリール基からなる群より選択されたいずれかの置換基である、前記[16]に記載の光電変換素子。
[18]
前記一般式(5)で表される化合物は、以下で構造式を示すいずれかの化合物である、前記[15]に記載の光電変換素子。
【化37】
[19]
前記正孔阻止層の厚みは、5nm以上20nm以下である、前記[14]~[18]のいずれか一項に記載の光電変換素子。
[20]
前記隣接する一方の電極は、透明電極である、前記[14]~[19]のいずれか一項に記載の光電変換素子。
[21]
前記隣接する一方の電極は、酸化インジウムスズまたは酸化インジウム亜鉛のいずれかを少なくとも含む、前記[20]に記載の光電変換素子。
[22]
下記一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体と、下記一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体と、を含む光電変換膜を備える固体撮像素子。
【化38】
前記一般式(1)において、
R
1~R
10は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
1~R
10が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基であり、
【化39】
前記一般式(2)において、
R
11~R
16は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基であり、
Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基からなる群より選択されるいずれかの置換基であり、
R
11~R
16のうち、少なくとも1つ以上はフッ素である。
[23]
下記一般式(3)または(4)で表される可視光を吸収しない透明化合物を含む光電変換膜を備える固体撮像素子。
【化40】
前記一般式(3)において、
R
21~R
32は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
21~R
32が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基であり、
前記一般式(4)において、
R
41~R
48は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、イミド基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
41~R
48が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基であり、
Ar
1~Ar
4は、互いに独立して、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のヘテロアリール基である。
[24]
光電変換膜と、
前記光電変換膜を挟んで両側に配置された一対の電極と、
前記光電変換膜と一方の電極との間に配置された正孔阻止層と、を備え、
前記正孔阻止層のイオン化ポテンシャルは、隣接する一方の電極の仕事関数に対して、2.3eV以上である、光電変換素子を備える固体撮像素子。
[25]
前記光電変換膜は、450nm以上600nm以下の波長帯域の緑色光を吸収する有機色素化合物を含み、吸収した前記緑色光を光電変換する、前記[22]~[24]のいずれか一項に記載の固体撮像素子。
[26]
前記光電変換膜が形成された第1チップと、
前記光電変換膜によって光電変換された信号を処理する信号処理回路が形成され、前記第1チップと積層される第2チップと、を備え、
積層型固体撮像素子として構成された、前記[22]~[24]のいずれか一項に記載の固体撮像素子。
[27]
下記一般式(1)で表されるキナクリドン誘導体と、下記一般式(2)で表されるサブフタロシアニン誘導体と、を含む光電変換膜を備える固体撮像素子と、
前記固体撮像素子に入射光を導く光学系と、
前記固体撮像素子からの出力信号を演算処理する演算処理回路と、を備える電子機器。
【化41】
前記一般式(1)において、
R
1~R
10は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
1~R
10が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基であり、
【化42】
前記一般式(2)において、
R
11~R
16は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基であり、
Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基からなる群より選択されるいずれかの置換基であり、
R
11~R
16のうち、少なくとも1つ以上はフッ素である。
[28]
下記一般式(3)または(4)で表される可視光を吸収しない透明化合物を含む光電変換膜を備える固体撮像素子と、
前記固体撮像素子に入射光を導く光学系と、
前記固体撮像素子からの出力信号を演算処理する演算処理回路と、を備える電子機器。
【化43】
前記一般式(3)において、
R
21~R
32は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
21~R
32が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基であり、
前記一般式(4)において、
R
41~R
48は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、スルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、イミド基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、および置換もしくは未置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるいずれかの置換基、または任意の隣接したR
41~R
48が少なくとも2つ以上縮合して形成されたアリールもしくはヘテロアリール基であり、
Ar
1~Ar
4は、互いに独立して、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のヘテロアリール基である。
[29]
光電変換膜と、前記光電変換膜を挟んで両側に配置された一対の電極と、前記光電変換膜と一方の電極との間に配置された正孔阻止層と、を備え、前記正孔阻止層のイオン化ポテンシャルは、隣接する一方の電極の仕事関数に対して、2.3eV以上である、光電変換素子を備える固体撮像素子と、
前記固体撮像素子に入射光を導く光学系と、
前記固体撮像素子からの出力信号を演算処理する演算処理回路と、を備える電子機器。
【符号の説明】
【0325】
100 光電変換素子
102 基板
104 下部電極
106 電子阻止層
108 光電変換層
110 正孔阻止層
112 上部電極