(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】定着装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240708BHJP
【FI】
G03G15/20 515
(21)【出願番号】P 2023040812
(22)【出願日】2023-03-15
(62)【分割の表示】P 2022068617の分割
【原出願日】2017-12-27
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】長田 光
(72)【発明者】
【氏名】今泉 徹
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-115512(JP,A)
【文献】特開2014-145829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のフィルムと、
前記フィルムの内部空間に前記フィルムの長手方向に亘って設けられており、前記フィルムの内面に接触するニップ部形成部材と、
前記フィルムの内部空間に前記長手方向に亘って設けられており、前記ニップ部形成部材の前記フィルムと接触する面と反対側の面から前記ニップ部形成部材を前記長手方向に亘って支持する支持部材と、
前記フィルムの内部空間に前記長手方向に亘って設けられており、前記支持部材を前記長手方向に亘って補強する補強部材と、
前記フィルムの外周面に接触し、前記フィルムを介して前記ニップ部形成部材と共にニップ部を形成するローラと、
前記長手方向における前記補強部材の端部に嵌合しており、前記
長手方向への前記フィルムの寄り移動を規制する規制部材と、
を有し、前記ニップ部で画像が形成された記録材を搬送しながら加熱して前記画像を記録材に定着する定着装置において、
前記規制部材は、前記フィルムの端面と対向する面であって、前記フィルムが寄り移動した場合に前記端面が接触する第1の面と、前記フィルムの内面に対向する面であって、前記フィルムの回転をガイドする第2の面と、を有し、
前記第2の面は、前記第1の面に対して垂直であり、
前記規制部材の前記補強部材と嵌合する嵌合部分は、前記規制部材の表面に向って突出する複数の突起部であり、
前記ニップ部における記録材の搬送方向と前記
長手方向の双方に垂直な方向に見た時
の前記規制部材の断面において、前記複数の突起部は、前記補強部材の前記搬送方向における上流側の面に接触する第1の上流側突起部及び第2の上流側突起部と前記補強部材の前記搬送方向における下流側の面に接触する第1の下流側突起部及び第2の下流側突起部を有し、
前記第1の上流側突起部と前記第2の上流側突起部は前記長手方向に並んで配置されており、前記長手方向における前記補強部材の中央部に近い前記第1の上流側突起部のほうが端部に近い前記第2の上流側突起部よりも前記補強部材に向う長さが短い形状となっており、
前記第1の下流側突起部と前記第2の下流側突起部は前記長手方向に並んで配置されており、前記長手方向における前記補強部材の中央部に近い前記第1の下流側突起部のほうが端部に近い前記第2の下流側突起部よりも前記補強部材に向う長さが長い形状となっており、
前記第1の上流側突起部、前記第2の上流側突起部、前記第1の下流側突起部、及び前記第2の下流側突起部によって前記規制部材が前記補強部材に嵌合することによって、前記第1の面は、前記搬送方向の下流側に向かうほど前記フィルムの前記端面から離れる方向に傾斜しており、前記第2の面は、前記フィルムの前記
長手方向における中央に近づくにつれて前記搬送方向の下流側に向かう方向に傾斜していることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記第1の面は平面であり、前記垂直な方向に見たときの前記第1の面の垂線の前記回転軸方向に対する傾斜角を第1の角度とすると、前記第1の角度は、0.5度以上3.0度以下であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記ニップ部形成部材は、板状のヒータであることを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成装置に搭載されるフィルム加熱方式の定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置で用いられるトナーの定着装置として、フィルム加熱方式の定着装置が知られている。フィルム加熱方式の定着装置は、筒状のフィルムと、フィルムの内面と接触するニップ部形成部材と、フィルムを介してニップ部形成部材と共にニップ部を形成するローラと、を有する。このニップ部でトナー像を担持した記録材を挟持搬送しながら加熱し、トナー像を記録材に定着する。
【0003】
ところで、このフィルム加熱方式の定着装置において、フィルムを回転させた時にフィルムがローラの回転軸方向に移動してしまう、所謂フィルムの寄りが発生する場合がある。フィルムの寄りが発生した場合に、フィルムの長手端面と接触してフィルムの移動を規制する規制部材を設ける構成が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィルムの寄りによってフィルムが受けるダメージを軽減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、筒状のフィルムと、前記フィルムの内部空間に前記フィルムの長手方向に亘って設けられており、前記フィルムの内面に接触するニップ部形成部材と、前記フィルムの内部空間に前記長手方向に亘って設けられており、前記ニップ部形成部材の前記フィルムと接触する面と反対側の面から前記ニップ部形成部材を前記長手方向に亘って支持する支持部材と、前記フィルムの内部空間に前記長手方向に亘って設けられており、前記支持部材を前記長手方向に亘って補強する補強部材と、前記フィルムの外周面に接触し、前記フィルムを介して前記ニップ部形成部材と共にニップ部を形成するローラと、前記長手方向における前記補強部材の端部に嵌合しており、前記長手方向への前記フィルムの寄り移動を規制する規制部材と、を有し、前記ニップ部で画像が形成された記録材を搬送しながら加熱して前記画像を記録材に定着する定着装置において、前記規制部材は、前記フィルムの端面と対向する面であって、前記フィルムが寄り移動した場合に前記端面が接触する第1の面と、前記フィルムの内面に対向する面であって、前記フィルムの回転をガイドする第2の面と、を有し、前記第2の面は、前記第1の面に対して垂直であり、前記規制部材の前記補強部材と嵌合する嵌合部分は、前記規制部材の表面に向って突出する複数の突起部であり、前記ニップ部における記録材の搬送方向と前記長手方向の双方に垂直な方向に見た時の前記規制部材の断面において、前記複数の突起部は、前記補強部材の前記搬送方向における上流側の面に接触する第1の上流側突起部及び第2の上流側突起部と前記補強部材の前記搬送方向における下流側の面に接触する第1の下流側突起部及び第2の下流側突起部を有し、前記第1の上流側突起部と前記第2の上流側突起部は前記長手方向に並んで配置されており、前記長手方向における前記補強部材の中央部に近い前記第1の上流側突起部のほうが端部に近い前記第2の上流側突起部よりも前記補強部材に向う長さが短い形状となっており、前記第1の下流側突起部と前記第2の下流側突起部は前記長手方向に並んで配置されており、前記長手方向における前記補強部材の中央部に近い前記第1の下流側突起部のほうが端部に近い前記第2の下流側突起部よりも前記補強部材に向う長さが長い形状となっており、前記第1の上流側突起部、前記第2の上流側突起部、前記第1の下流側突起部、及び前記第2の下流側突起部によって前記規制部材が前記補強部材に嵌合することによって、前記第1の面は、前記搬送方向の下流側に向かうほど前記フィルムの前記端面から離れる方向に傾斜しており、前記第2の面は、前記フィルムの前記長手方向における中央に近づくにつれて前記搬送方向の下流側に向かう方向に傾斜していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フィルムの寄りによってフィルムが受けるダメージを減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1に係る定着装置を搭載した画像形成装置の断面図である。
【
図2】実施例1に係る定着装置を記録材の搬送方向から見た図、記録材の搬送方向と加圧ローラの回転軸方向との双方に垂直である方向から見た図、及び、その断面図ある。
【
図3】実施例1に係る画像形成装置の温度制御系を示すブロック図である。
【
図4】実施例1に係る定着フィルムの長手断面図、加圧ローラの横断面図、ステーの断面図及び側面図である。
【
図5】本実施例1に係る定着フランジの正面図、側面図、及び正面図において規制面が形成されている領域を示した図である。
【
図6】実施例1に係る定着フランジのC-C‘面における断面図、定着フランジとステーとの嵌合状態をC-C‘面における断面において示した図である。
【
図7】実施例1に係る定着フランジのD-D‘面における断面図、定着フランジとステーとの嵌合状態をD-D‘面における断面において示した図である。
【
図8】実施例1に係る定着フィルムの長手方向が加圧ローラの回転軸方向に対して傾くパターンを示した図である。
【
図9】実施例1に係る定着フランジの規制面における定着フィルムの回転軌道を示した図である。
【
図10】実施例1に係る定着フィルムの傾きパターンに対応した定着フランジの規制面と定着フィルムの長手端部との接触領域を示した図である。
【
図11】実施例1に係る定着フィルムの長手端部と定着フランジの規制面との接触状態及び定着フィルムの軌道を示した図である。
【
図12】実施例1に係る定着装置において、定着フランジのガイド面と定着フィルムの内周面との接触状態を比較した図である。
【
図13】比較例の定着装置において、定着フランジのガイド面と定着フィルム内周面との接触状態を示した図である。
【
図14】実施例1の変形例1に係る定着フランジの定着ニップ部Nと平行である断面と、その断面における定着フランジとステーの嵌合状態を示した図である。
【
図15】実施例1の変形例2に係る定着フランジと定着フランジ支持部材の構成を示した図である。
【
図16】定着フィルムの寄りが発生メカニズムを示した図である。
【
図17】比較例における定着フィルムがダメージを受けるメカニズムを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施例1]
(1)画像形成装置
図1は、本実施例にかかる定着装置を搭載する画像形成装置の概略断面図である。この画像形成装置100は、積載された記録材Pを1枚ずつ分離し搬送する給紙部102、外部装置より提供された画像データに基づき変調して発光したレーザ光を画像形成部に照射するレーザスキャナ103を有する。画像形成装置100は、更に、レーザスキャナ103のレーザ光照射により画像形成を為す画像形成部104、熱の供給及び圧力の付与により記録材Pへの定着を行う定着装置105、上述の各部、各装置のシーケンスを制御する制御装置106を有している。
【0010】
レーザスキャナユニット103において122はレーザユニットであり、外部装置より提供された画像データに基づきレーザ光を変調し発光する。124はレーザユニットからのレーザ光を走査するためのポリゴンミラー、123はポリゴンミラーを回転するためのモータ、125は結像レンズ群、126は折り返しミラーである。
【0011】
(2)定着装置
本実施例の定着装置105は、上述のように立ち上げ時間の短縮や低消費電力化を目的としたフィルム加熱方式の定着装置である。
【0012】
図2(a)は本実施例に係る定着装置105を記録材の搬送方向から見た図である。
図2(b)は定着装置105を加圧ローラ117の回転軸方向と記録材の搬送方向の双方に垂直な方向から見た図である。また、
図2(d)、
図2(e)はそれぞれ、
図2(c)のA-A’、B-B’における断面図を図示したものである。
図2(a)、(b)、(c)においては、定着装置105の内部の様子が分かるように定着フィルム114は透かして点線で示す。
【0013】
定着装置105は、
図2に示すように、筒状のフィルム114と、フィルム114の内面に接触するニップ部形成部材としてヒータ112と、フィルム114を介してヒータ112と共にニップ部を形成する加圧ローラ117と、を有する。以後、加圧ローラ117の回転軸方向を回転軸方向と記す。フィルム114及びヒータ112は、回転軸方向に長い部材である。定着装置105は、更に、ヒータ112をヒータ112のフィルムと接触する側の面と反対側の面から支持する支持部材115と、支持部材115の曲げ剛性を高めるために支持部材を補強するステー116と、とを有している。ステー116の長手方向は、回転軸方向と平行である。更に、
図2に示すように、定着フィルム114の左右両端部にはそれぞれ定着フランジ120L、120Rが嵌合されている。
【0014】
ニップ部形成部材としての板状のヒータ112は、基板と、電気抵抗層と、保護層と、を有する。基板は、アルミナや窒化アルミニウムなどの良熱伝導性、高耐熱性、及び絶縁性を有する部材である。発熱抵抗層は、基板の表面にスクリーン印刷などにより厚み約10[μm]、幅1~3[mm]の大きさで形成される。発熱抵抗層の材料は、Ag/Pd(銀パラジウム)などが用いられる。保護層は、発熱抵抗層の上にガラスやフッ素樹脂などで形成された層である。このヒータ112は裏面には温度検知手段としてのサーミスタ113が配置されている。このサーミスタ113は
図3に示すようにA/D変換機11を介して温度制御手段としてのCPU10に接続されている。
【0015】
定着フィルム114は、内周長がヒータ112及び支持部材115の外周に対して余裕を持ち、それらに外嵌されている。したがって、定着フィルム114はヒータ112と支持部材115とにガイドされて回転する。この定着フィルム114は、
図4(a)に示すように厚さ20~100μmのポリイミド樹脂からなる基体114aと、この基体の上に設けられた導電プライマ層114bと、を有する。定着フィルム114は、更にこの導電プライマ層114bの上に形成されたPFA、PTFE、FEPなどのフッ素樹脂からなる離型層114cを有する。
【0016】
加圧ローラ117は、
図4(b)に示すように、芯金117aとこの芯金117aの周囲に設けられた耐熱性の弾性層117b、さらに弾性層117bの上に形成された離型層117cにより構成されている。芯金117aはφ8.5[mm]のSUS等の金属である。弾性層117bは絶縁性のシリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱ゴムあるいは耐熱ゴムを発砲して形成した弾性体である。そして弾性層117bの外周にはPFA、PTFE、FEPなどのフッ素樹脂による離型層117cが形成されている。本実施例では加圧ローラ116として外径14.0[mm]、硬度40°(Asker-C600[g]荷重)とした加圧ローラ117を用いている。この加圧ローラ117は、軸受け(不図示)によって回転自在に支持されている。
【0017】
補強部材としてのステー116は、
図4(c)に示すように、回転軸方向に垂直である断面がU字形状に形成されている。ステー116は、回転軸方向から見ると、U字形状の開口部がヒータ112に対向する向きで設けられている。
図2(c)(d)(e)に示すように、このステー116は定着装置に保持された加圧バネからの加圧力Sを定着フランジ120L及び120Rを介して受け、支持部材115、ヒータ112に伝える。これによって、支持部材115、ヒータ112に外嵌された定着フィルム114が加圧ローラ117側に付勢され定着ニップ部Nを形成する。
【0018】
支持部材115は、ヒータ112の定着フィルム114と接触する面と反対側の面からヒータ112を支持する部材である。ステー116を介してヒータ112を加圧ローラ117側へ付勢されている。これによって、ヒータ112、支持部材115に外嵌された定着フィルム114と加圧ローラ117との間に長手方向に渡って均一な定着ニップ部Nを形成する。支持部材115は、ステー116によって補強されている。
【0019】
ステー116はその両端部で加圧力Sを受けていることから、撓みが生じてしまい、ニップ部が長手方向に渡って均一な加圧力にならない場合がある。
【0020】
そのため、支持部材115の厚さは中央部分においてわずかに厚くすることで、ステー116で生じた撓みによる変形を補償し、長手方向にわたって均一な加圧力分布になるようしてもよい。
【0021】
図2に示したように、定着フィルム114の長手両端部には、それぞれ定着フランジ120L、120Rが設けられている。定着フランジ120L、120Rは、加圧ローラ117の長手中央を通り且つその回転軸方向に垂直な仮想面に対し面対称である形状を有する。従って、定着フランジ120Rについてのみ説明する。
【0022】
図5は定着フランジ120Rの形状を示した図である。
図5(a)は、定着フィルム114を外嵌する面を回転軸方向から見た図であり、
図5(b)は、それを記録材Pの搬送方向上流側から見た側面図である。
【0023】
定着フランジ120Rは、定着フィルム114の内周面をガイドするガイド面120Ra(第1の面)と、定着フィルム114が回転軸方向に移動した場合にその移動を規制する規制面120Rb(第2の面)と、を有している。ガイド面120Raは更に、定着フィルム114の長手方向に関し定着フィルム114の長手中央に近づく方向に延びている。
【0024】
図5(c)は、規制面120Rbが形成されている領域を示した図である。定着フランジ120Rを回転軸方向から見た場合に、Lk領域は規制面120Rbが形成されている領域であり、Ln領域は規制面120Rbが形成されていない領域である。規制面120Rbは、定着フィルム114の長手方向から見ると、定着ニップ部を除いた領域において定着フィルム114の内面に沿って定着ニップ部の上流側から下流側まで延びた面である。Ln領域のうちLk領域と隣接する領域には、回転軸方向に関し規制面120Rbよりも定着フィルム114の長手端面から離れた位置に設けられた領域Slである。この定着フランジ120の領域Slは、定着フィルム114の回転方向に関し定着ニップ部Nから離れるほど、回転軸方向おいて規制面140Rb(定着フィルムの長手端面)に近づくように傾斜しているスロープ形状部Slである。
【0025】
また、ガイド面120Raは、規制面120Rb面のどの領域に対しても、規制面120Rbと直角になるように形成されている。これはルーズに外嵌された定着フィルム114の移動可能な範囲において、定着フィルム114が受ける応力をできるだけ低減するためである。
【0026】
図18(a)(b)は、定着フランジ120Rをそれぞれ異なる角度から見た斜視図を示す。スロープ形状部Slは、規制面120Rbに隣接する側の第1スロープ形状部Sl-1と、第1スロープ形状部と隣接する第2スロープ形状部S1-2と、を有する。第2スロープ形状部Sl-2は平面であるのに対して、第1スロープ形状部S1-1は曲面である。第1スロープ形状部は、第2スロープ形状部S1-2と、規制面120Rbと、を滑らかに接続するために曲面で形成されている。
【0027】
図6(a)は、
図5(a)における定着フランジ120RのC-C’における断面を示した図である。本実施形態の定着フランジ120Rは、この
図9のようにステー116との嵌合部分である嵌合面V1と嵌合面V2とに段差ΔVを設けている。本実施形態におけるΔVは100μmである。
【0028】
図6(b)は、定着フランジ120Lをステー116に嵌合させた状態を示している。ステー116の中心線Cはステー116の長手方向及び加圧ローラ117の回転軸方向と平行である。この状態において、ステー116の中心線Cと垂直な方向(S方向)に力を加えると次のようになる。
図6(b)に示すように、段差ΔVによって、規制面120Rbの垂線120R-Z(定着フランジ120Rのガイド面120Raが延びる方向)がステー116の長手方向に対して傾く。
図6(b)に示すように、記録材の搬送方向から見ると、規制面120Rbの垂線120R-Zがステー中心線Cの延びる方向に関しステー116の長手中央に向かう程、図中下方に向かうように規制面Rbは傾いている。言い換えると、規制面120Rbは、記録材の搬送方向から見ると、搬送方向と回転軸方向との双方に垂直である方向に関しニップ部から離れるにつれて定着フィルム114の長手端面に近づく方向に傾斜している。
【0029】
図6(b)の図中下方向は、加圧ローラ117もしくは定着ニップ部Nに近づく方向に近づく方向である。本実施例においてステー116の中心線と垂線120R-Zのなす角度θ2は0.8度である。角度θ2の好ましい範囲は、0.3度以上1.5度以下である。ガイド面Raは、規制面Rbに垂直であるから、ガイド面Raが延びる方向(ガイド面Raの母線方向)がステー中心線Cとなす角度も0.7度であり、好ましい範囲は0.3度以上1.5度以下である。
【0030】
一方、左側の定着フランジ120Lについても同様の構成により、ステーに対して傾きが生じるようになっている。定着フランジ120Rと定着フランジ120Lを同一のステー116に嵌め合わせて力Sによって保持すると、
図6(b)のように、定着フランジ120Rと120Lの規制面120Rbと120Lbが互いに向き合っている。規制面120Rbと120Lbは、各々の面の垂線120R-Z、120L-Zがステー中心線Cの延びる方向に関しステー116の中央に向かう程、図中下方を向かうように傾斜している。
【0031】
図2(a)に示した本実施形態の定着装置はこのようにして構成されている。定着フランジ120R(L)に力Sが加わってステー116にわずかに撓みが生じ、定着フランジ120R(L)の傾きが変わる場合がある。そのような場合でも、規制面120Rb及び120Lbの垂線120R-Zと120L-Zはそれぞれ前述したように図中下方を向くような角度に設定されている。このような構成は、ステー中心線Cを基準として左右の定着フランジの傾きが決められるので、左右のばらつきが少なく、高い精度で位置決めできる。
【0032】
図7は、
図5(a)に示す定着フランジ120RのD-D’の断面を示した図である。定着フランジ120Rは、
図7に示されているように、ステー116と接触する面が4か所形成されている。嵌合面H1-1と嵌合面H1-2の間隔、嵌合面H2-1と嵌合面H2-2の間隔は、それぞれステー116の記録材の搬送方向の幅とほぼ一致して嵌まり合うよう幅Wtに設定されている。ここで、ステーの嵌合面H1-1は、それよりもステー116の長手方向に関し長手端部側で嵌合するように設定された嵌合面H2-1の位置に対して、記録材の搬送方向に対してΔHだけ下流側に位置するよう設定している。本実施形態においては、ΔHは100μmとしている。尚、ステー116の撓み量が外側の方が多くなりやすいので、それを考慮して嵌合面H2-1と嵌合面H2-2の間隔を嵌合面H1-1と嵌合面H1-2の間隔よりも大きくしても良い。
【0033】
図7(b)は、ステー中心線Cが延びる方向と記録材の搬送方向との双方に垂直である方向から見た断面図であって、ステー116に定着フランジ120Rを嵌合させた状態を示している。ステー116にこの定着フランジ120Rに嵌合すると、嵌合面H1-1と嵌合面H2-1のΔHの段差により、次のようになる。定着フランジ120Rの規制面120Rbの垂線120R-Zがステー中心線Cの延びる方向に関しステー116の長手中央に向かうほど、記録材の搬送方向の下流側に向かうように規制面120Rbは傾く。言い換えると、規制面120Rbは、記録材の搬送方向の下流側に向かうほど定着フィルム114の長手端面から離れる方向に傾斜している。本実施例において、ステー中心線Cと垂線120R-Zのなす角θ1は、1.2度である。角度θ1は、0.5度以上3度以下が好ましい。ガイド面Raは、規制面Rbに垂直であるから、ガイド面Raが延びる方向(ガイド面Raの母線方向)がステー中心線Cとなす角度も1.2度であり、好ましい範囲は0.5度以上3.0度以下である。定着フランジ120Lについても同様の構成である。本実施例においては、前述した角度θ1は角度θ2よりも大きい。
【0034】
この定着フランジ120Rと120Lを同一のステー116に嵌め合わせると、
図7(b)のように、定着フランジ120Rと120Lの規制面120Rbと120Lbが互いに向き合う。そして、規制面120Rbと120Lbは、それぞれの面の垂線120R-Z及び120L-Zがステー中心線の延びる方向に関しステー116の長手中央に向かうほど記録材の搬送方向の下流側に向かうように傾斜している。
【0035】
(3)画像形成動作
画像形成装置100において画像形成は以下の手順で行われる。
図1に示す画像形成装置100の給紙部102は、外部装置より画像情報が画像形成装置へ転送されると、給紙トレイ107より記録材Pを1枚ずつ分離して繰り出される。給紙トレイ107より繰り出された記録材Pは、搬送ローラと搬送ローラに対向して設置された搬送コロとの当接部(搬送ニップ部)によって画像形成部104に搬送される。画像形成部104内に回動可能に軸支された感光ドラム110は、同じく回動可能な帯電ローラ108により一様に帯電され、更に上記画像情報に基づきレーザ光学系103から照射されたレーザ光により潜像が形成される。その感光ドラム110は、トナーを担持した現像スリーブ109に対峙する位置を通過する際に、感光ドラム110と現像スリーブ109間に印加されたバイアスによって感光ドラム110の表面上の帯電域にトナーが付与され、トナー像が形成される。
【0036】
感光ドラム110の表面上の帯電域に形成されたトナー像は、感光ドラム110における転写ローラ111との転写ニップ部N2を通過する際に、感光ドラム110と転写ローラ111の間に印加された転写バイアスにより記録材Pへと転写される。記録材Pに担持されたトナー像は、定着装置105において熱の供給と圧力の付与により定着画像となる。そして、定着装置105の搬送力によって排紙ローラ119へと送られ排紙ローラ119によって画像形成装置100の排紙部へ排紙されることで(
図1中M矢印方向)、一連の画像形成過程が終了する。
【0037】
定着装置105による定着処理は以下のように行われる。加圧ローラ117の芯金117aの端部に設けられた駆動ギアGがモータ(不図示)により回転駆動されることによって、加圧ローラ117は矢印方向に回転する。この加圧ローラ117の回転により定着ニップ部Nにおいて加圧ローラ117の外周面と定着フィルム114の離型層114cの外周面(以下、フィルム114表面と記す)との摩擦力により定着フィルム114に回転力が作用する。定着フィルム114は、加圧ローラ117の回転によって、その内面がヒータ112と摺動しながら支持部材115の外回りを矢印方向に回転する。
【0038】
定着フィルム114とヒータ112の間及び定着フィルム114と支持部材115との間には、耐熱性グリスが塗布されている。耐熱性グリスは、基油であるパーフロロポリエーテルや、増稠剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等から構成されているフッ素グリスを用いた。
【0039】
更に、
図3に示すCPU10は、通電制御部としてのトライアック12をオンする。これによりヒータ112の表面に形成された電気抵抗層に通電され、ヒータ112が発熱し昇温する。ヒータ112の温度は、その裏面に設けられたサーミスタ113の出力信号(温度検知信号)としてA/D変換機11を通してCPU10に送られる。CPU10は、温度検知信号に基づいて、トライアック12によりヒータ112に通電する電力を位相制御あるいは波数制御等により制御して、ヒータ112の電力制御を行う。所定の設定温度(目標温度)より低い場合にはヒータ112を昇温させ、設定温度より高い場合にはヒータ112を降温させるようにトライアック12を制御し、ヒータ112を設定温度に保っている。
【0040】
ヒータ112の温度が設定温度まで上昇し、かつ加圧ローラ117の回転によるフィルム114の回転速度が定常化した状態において、未定着トナー画像Tを担持する記録材Pが定着ニップ部に導入される。その記録材Pは定着ニップ部にて定着フィルム114と加圧ローラ117とにより挟持搬送される。その搬送過程において記録材Pの未定着トナー画像Tにヒータ112の熱が定着フィルム114を介して付与されるとともにニップ部による圧力が付与されることによって、未定着トナー画像Tは記録材Pの面に加熱定着される。
【0041】
(4)定着フィルムの姿勢と寄り力発生状態
定着フィルムの寄り力の発生メカニズムについて比較例の定着装置を用いて説明する。
【0042】
本比較例と本実施例の定着装置の相違点は、フランジ1200の取り付け角度だけである。比較例のフランジ1200は、規制面1200Rbが加圧ローラ117の回転軸方向と垂直な平面であり、ガイド面1200Raが加圧ローラ117の回転軸方向と平行な方向に延びるようにステー116(不図示)に設けられている。
【0043】
図16は、回転軸方向と、記録材の搬送方向と、の双方に垂直な方向から比較例の定着フィルム114(破線)と、定着ニップ部Nと、を見た図である。定着フィルム114の長手方向(母線方向)が回転軸方向に対して傾きを有している場合について説明する。
【0044】
定着フィルム114は、本実施例と同じように支持部材115にルーズに懸回されており、加圧ローラ117の回転によりフィルム114は矢印a方向に回転している。
図16の状態において、定着フィルム114への駆動力Fが定着ニップNで加わると、フィルム114には回転力Rと回転軸方向への寄り力Yが作用する。加圧ローラ117の回転軸方向に対する定着フィルム114の長手方向の傾きがα°である場合、フィルム114の寄り力YはFsinαと表せる。定着フィルム114の回転に伴い、寄り力Yが定着フィルム114に作用すると、定着フィルム114の長手端部の任意点Aは、図中の右側「Aの軌跡」に示すような軌道を描きつつの回転軸方向に移動する。このフィルム114を回転軸方向に移動させる力がフィルム114の寄り力である。
【0045】
このように、寄り力は、定着フィルム114の傾きに起因するものである。しかしながら、定着フィルム114はスムーズな回転を実現するために、ある程度ルーズに懸回する必要があるとともに、構成部品の精度や組み付け時のアライメントなどによって、定着フィルムの傾きが発生する。よって、この定着フィルムの傾きを完全になくすことは難しい。
【0046】
一方、定着フィルムにダメージを与える可能性のある別のケースは、定着フィルムの内周面に定着フランジから強い応力が作用する場合である。例えば、ユーザーによる緊急停止や停電などにより、定着装置に記録材が搬送されている時にジャムが発生することがある。このとき、ユーザーがこの定着装置から記録材のジャム処理を行なうと定着フィルムの長手方向にわたって撓むことがある。
図17は、回転軸方向と、記録材の搬送方向と、の双方に垂直な方向から比較例の定着フィルム114とフランジ1200R(L)を見た図である。ユーザーが記録材の搬送方向の下流側(
図17中矢印方向)に向かって記録材を引き抜いてジャム処理を行なうと、定着フィルム114は記録材に引きずられて記録材の搬送方向の下流側に向かって山なりの形状に変形する。すると、それに伴って定着フランジのガイド面1200Raの先端部分(図中矢印J部分)が記録材の搬送方向の上流側の定着フィルム内周面に局所的に大きい接触圧で接触することとなる。定着フィルムのこの腹の部分は弱いため、それほど応力が大きくなくともしわや折り目がつきやすく、破損に至る可能性が高くなる。以上述べたメカニズムによりフィルムの寄りが発生し、定着フィルムがダメージを受ける場合がある。
【0047】
図8は、本実施例の定着装置における加圧ローラ回転中心線に対する定着フィルム114の傾き具合と寄り力の発生状況を示したものである。
図8は、本実施例の定着装置を、記録材の搬送方向と加圧ローラの回転中心線が延びる方向(回転軸方向)との双方に垂直な方向から見た図である。尚、図面を見やすくするために、ステー116、支持部材115等は不図示としている。
【0048】
定着フィルム114の取りうる姿勢は以下の3つのうちのいずれかである。
【0049】
[1]加圧ローラ回転中心線に対して、定着フィルム114の長手方向(母線方向)が平行である場合:(
図8(a))
[2]加圧ローラ回転中心線に対して、定着フィルム114の長手方向が角度θを持っている場合(加圧ローラ回転中心線に対して、定着フィルム114の回転中心が定着装置の図中右側で記録材の搬送方向の上流側に傾いている場合):(
図8(b))
[3]加圧ローラ回転中心線に対して、定着フィルム114の長手方向が角度-θを持っている場合(加圧ローラ回転中心線に対して、定着フィルム114の回転中心が定着装置の図中右側で記録材の搬送方向の下流側に傾いている場合):(
図8(c))
以下に、各々の定着フィルム114の姿勢と寄り力の発生状態について説明する。フィルムに姿勢に起因する寄り力の発生メカニズムについては前述のとおりであるので、説明は省略する。
【0050】
図8(a)に示した上記[1]の状態は定着フィルム114の長手方向が加圧ローラ回転中心線の延びる方向に対してほぼ平行であるため、前述の寄り力発生メカニズムに基づき、定着フィルム114を加圧ローラ117の回転軸方向へ移動させる寄り力は生じない。従って、定着フィルム114に寄り力は発生しない状態である。
図9は
図8(a)のF-F’の断面図であり、定着フィルム114が回転している時の定着フィルム114の回転軌道(破線)を示したものである。定着フィルム114は加圧ローラ117からの駆動力を受けて回転しているので、
図9に示す定着フランジ120Raの記録材の搬送方向の上流側の領域tに定着フィルム114が押し付けられる力が作用する。これによって、定着フィルム114の内周面は、定着フランジ120Rの記録材の搬送方向の上流側のガイド面(
図8のSr_a部分)に接触しながら回転する。左側の定着フランジ120Lに対しても同様に、定着フィルム114の内周面は定着フランジ120Lの記録材の搬送方向上流側のガイド面部分(図のSl_a部)と接触しながら回転する。そして、定着フィルム114は左右の定着フランジ120R、120Lの記録材の搬送方向の上流側のガイド面にガイドされながら回転する。
【0051】
次に、
図8(b)に示した[2]の状態においては、定着フィルム114の長手方向が、加圧ローラ回転中心線が延びる方向に対して角度θ傾いている。記録材の搬送方向に関し定着フランジ120Lのガイド面120Laの下流側部分(斜線部分Sl_b)と、定着フランジ120Rのガイド面120Raの上流側部分(斜線部分Sr_b)と、が各々定着フィルム114の内周面と接触している状態である。定着フィルム114の右側の内周面は定着フランジ120RのSr_b部分で接触しており、左側の内周面は定着フランジ120LのSl_b部分で接触しているので、定着フィルムの傾きは規制されている。よって、定着フィルム114の傾き角度θはこれ以上大きくならない。この状態は角度θが最も大きい状態、つまり、寄り力が最も大きくなっている状態を示している。
図8(b)のように加圧ローラ回転中心線に対し定着フィルム114の長手方向が傾くと、前述した寄り力発生メカニズムにより、図中右方向への寄り力が発生する。
図8(b)には定着フィルム114が右側の定着フランジ120Rに向かって移動して、定着フィルム114の長手端面が定着フランジ120Rの規制面120Rbに接触し、移動を規制されている状態を示している。このように、定着フィルム114が図中右方向に寄り力が発生する場合は、右側に配置された定着フランジのガイド面120Raのうち、記録材の搬送方向の上流側部分(斜線部分Sr_b)は定着フィルム114の内周面と接触してガイドする。
【0052】
これは、定着フィルム114の右側の記録材の搬送方向の上流側の内周面が定着フランジ120Rのガイド面120Raに接触する方向に傾くことが、右方向への寄り力の発生要因であるためである。更に、定着フィルム114には記録材の搬送方向の上流側部分において定着フランジのガイド面120Raに押し付けられる力が作用するためである。
【0053】
図8(c)に示した[3]の状態においては、定着フィルム114の長手方向が加圧ローラ回転中心線に対して[2]と逆方向の-θの角度を持って傾いている。この
図8(c)に示した[3]の状態と、
図8(b)に示した[2]の状態は、加圧ローラ117の長手中央を通り回転軸方向に垂直な仮想面に対して面対称の構造である。従って、上述した[2]と同様のメカニズムにより、定着フィルム114は左方向に寄り力が発生するため、定着フィルム114の長手端面は定着フランジ120Lの規制面120Lbに接触して、移動が規制される。同時に、左側に配置された定着フランジのガイド面120Laのうち、記録材の搬送方向の上流側部分(斜線部分sl_c)が定着フィルム114の内周面と接触してガイドする。
【0054】
つまり、定着フィルム114に加わる寄り力によって定着フィルム114が回転軸方向に関し近づく側にある定着フランジは、その記録材の搬送方向の上流側のガイド面において定着フィルム114の内周面と接触する。
【0055】
(5)定着フランジの規制面の傾き
図10は、定着フランジ120Rの規制面120Rbのうち定着フィルム114の長手端面が接触する部分を説明するための図である。定着フランジ120Rの定着フィルム114の長手端面と対向する面を加圧ローラ117の回転軸方向から見た図である。
【0056】
図7(b)に示すように、回転軸方向と記録材の搬送方向の双方に垂直な方向から見ると、規制面120Rbは、規制面120Rbの垂線が回転軸方向に関し加圧ローラ117の長手中央に近づくほど記録材の搬送方向の下流側に向かうように傾斜する。従って、定着フィルム114の長手端面は規制面120Rbのうち、記録材の搬送方向の上流側の部分、すなわち
図10(a)の斜線部分X1に接触しやすくなる。これによって、定着フィルム114の長手端面は定着フランジ120Rの規制面120Rbの斜線部分X1で規制される。記録材の搬送方向から見た場合に、規制面120Rbは、
図6(b)で示した規制面120Rbの垂線120R-Zが回転軸方向に関し加圧ローラ117の長手中央に向かうほど加圧ローラ117に近づく方向に向かうように傾斜している。定着フィルム114の長手端部は
図7(b)の斜線部分X2に接触しやすくなる。本実施例の定着フランジ120Rは上述の規制面の2つの傾きが組み合わされているので、
図10(c)に示した斜線部分(X1+X2)において定着フィルム114の端部を規制するように設定されていることが特徴である。
【0057】
(6)定着フィルムの長手端部の規制
本実施例の定着フランジ120Rがどのように定着フィルム114の寄り力による定着フィルム113の移動を規制しつつ、定着フィルムのダメージを抑制しているかについて説明する。
図8(b)で示した定着フィルム114が図中右に寄っている場合について説明する。
図11は、定着フランジ120Rの規制面120Rbの正面図である。
図11においては便宜上、定着フランジの規制面120Rbに対し定着フィルム114の中央を原点Oとして、一般的なXY座標面を当てはめる。ここで言う定着フィルム113の中央(原点O)について説明する。定着フィルム114の長手方向に垂直な断面において、第1の仮想線VL1と、第2の仮想線VL2と、の交点を中央(原点O)とする。第1の仮想線VL1は、定着フィルム114の記録材の搬送方向の幅が最も広い定着フィルム114の部分を通る仮想線である。第2の仮想線VL2は、定着ニップ部の記録材の搬送方向の中央を通り且つ記録材の搬送方向に垂直である方向に延びる仮想線である。第1の仮想線をX軸、第2の仮想線をY軸としたときに、X軸とY軸で分けられる規制面120Rbの4つの領域を第1象限、第2象限、第3象限、第4象限とする。第1象限及び第4象限は記録材の搬送方向の上流側の領域であり、第2象限と第3象限は記録材の搬送方向の下流側の領域である。また、第1象限と第2象限は、第1の仮想線VL1に対して定着ニップ部がある側と反対側の領域であり、第3象限と第4象限は第1の仮想線VL1に対して定着ニップ部がある側の領域である。
【0058】
図11に定着フィルム114の長手端面の回転軌道を描くと、定着フィルム114の長手端部の内周面は第1象限と第4象限の一部で、定着フランジ120Rのガイド面120Raに接触してガイドされている(図中t1の実線矢印範囲)。また、定着フィルム114は、第2象限と第3象限においては、弛みが生じて定着フランジ120Rのガイド面120Raによりガイドされていないフリーな離れた状態である(図中点線矢印範囲)。
【0059】
定着フランジ120Rの第2象限と第3象限の領域に対応する定着フィルム114の長手端部は、その内周面が定着フランジ120Rのガイド面120Raと接触し難いのでガイド面120Raによってバックアップされ難い。内周面がバックアップされない定着フィルム114の長手端面の部分を定着フランジ120Rの規制面120Rbに接触させると、定着フィルム114長手端部の折れや座屈が発生しやすい。その結果、定着フィルム114の破損につながる場合がある。これに対して、本実施例の定着フランジ120Rは、定着フランジ規制面120Rbに傾きを持たせる。この規制面120Rbの傾きによって、第2象限と第3象限において、定着フィルム114の長手端面が規制面120Rbと接触しないもしくは第1像限及び第4像限よりも弱い力で接触する。従って、第2象限と第3象限においては、定着フィルム114の長手端部はダメージを受けにくいのである。
【0060】
規制面120Rbの第1象限の領域は、規制面120Rbの傾きによって定着フィルム114の長手端面が接触しやすくなっている。一方で、この領域に対応する定着フィルム114の内周面は、定着フランジ120Rのガイド面120Raが接触しバックアップされているので、定着フィルム114の長手端部の折れや座屈が生じ難い。更に、規制面120Rbの第1象限は、平面もしくはそれに近い面で構成されているため、定着フィルム114に対する規制応力の変動が最も少ない。つまり、第1象限は、定着フランジ120Rのガイド面120Raに接触してガイドされながら、定着フィルム114の寄り力を定着フランジ120Rの規制面120Rbで規制する状態にする。定着フィルム114の寄り力による定着フィルム114のダメージは最小限に抑えられている。
【0061】
規制面120Rbの第4象限の領域は、第1象限と同様に定着フィルム114の内周面が定着フランジ120Rのガイド面120Raと接触しバックアップされている領域である。定着フィルム114の長手端部が規制面120Rbに接触して折れたり、座屈が生じたりし難い領域である。また、この第4象限は、定着フィルム114の回転方向において、規制面120Rbの始まり部分にあたるため、スロープ形状部Slが形成されている。このスロープ形状部SLは、次のように形成されている。定着フィルム114の回転方向に関し定着フィルム114が定着ニップから出た直後から定着フィルム114の長手方向に関し規制面120Rbよりも外側から徐々に定着フランジ120Rの規制面120Rbに近づく。しかしながら、第4象限の領域は、スロープ形状部Slと、規制面120Rbと、の両方を含む。従って、第4象限の領域で定着フィルムの寄り力を規制するよりも、全ての領域が平面である第1象限部分で定着フィルムの寄り規制を行うほうが、定着フィルム114に対する規制応力の変動が少ないので好ましい。
【0062】
以上、説明したように、
図11に示した定着フランジ120Rの規制面120Rbのうち主に第1象限領域で定着フィルム114の移動の規制を行うことで、定着フィルム114の端部が受けるダメージを小さくできる。
【0063】
一方で、
図8(c)のように定着フィルムが左側に寄った場合においても、同様の構成によって定着フランジ120Lの規制面120Lbの第1象限で規制を行うようになっている。これによって、定着フィルム114が回転軸方向のいずれの方向に寄ったとしても、定着フィルム114の端部の折れや座屈が発生し難い構成にしている。
【0064】
(7)定着フランジのガイド面の傾き
次に定着フランジ120Rのガイド面120Raの傾きについて説明する。定着フランジ120Rのガイド面120Raは定着フィルム114の内周面と接触し定着フィルム114の回転軌道を規制している。
【0065】
前述したようにガイド面120Raの定着フィルム114の長手中央に向かって延びる先端が定着フィルムの内周面に局所的に強く接触しないようにする必要がある。
【0066】
そこで、本実施例の定着装置と、比較例の定着装置と、を比較しながら定着フィルムの取りうる姿勢と、そのとき定着フィルムが受ける応力について説明する。
【0067】
最初に、
図12(a)(b)(c)を用いて本実施例の定着装置について説明する。
図12(a)は、定着フィルム114の長手方向が加圧ローラ117の回転軸方向に対して傾斜角θを有し、定着フィルム114が図中右側に寄っている状態(破線)を示している。図中右側の定着フランジ120Rのガイド面120Raは定着フィルム114の内周面と面で接触するため、定着フィルム114は大きな応力を受けない。一方、図中左側の定着フランジ120Lのガイド面120Laも定着フィルム114の内周面と面で接触し定着フィルム114の回動する姿勢を維持しているために接触しているので定着フィルム114は大きな応力を受けない。
【0068】
図12(b)は、定着フィルムが図中右側に寄っている状態(破線)で、定着フィルム114の長手方向が加圧ローラ117の回転中心線と平行である場合を示している。ユーザーによる緊急停止などによって定着ニップ部に記録材Pを挟んだままジャムが発生してしまい、その記録材Pの除去を行った時に発生する場合がある。
【0069】
本実施例の定着装置は、このような場合においても、ガイド面120Raの先端Xr及びガイド面Laの先端Xlは、定着フィルム114の内周面から離れている。これは、定着フランジ120のガイド面120Ra及び120Laの延びる方向(母線方向)が、加圧ローラ117の長手中央に向かうにつれて記録材の搬送方向の下流側に向かうようにガイド面120Ra及びRbが傾斜しているためである。
【0070】
図12(c)は、記録材Pの重送が発生した場合や、ユーザーによって強い力でジャム処理を行われた場合などに、可撓性を有する定着フィルム114が記録材の搬送方向に向かって弓なり形状に撓んだ状態(破線)を示している。ガイド面120Raの先端Xr及びガイド面Laの先端Xlは、定着フィルム114の内周面に対して
図12(b)の状態よりも接近することになる。しかしながら、ガイド面120Ra及びRbが延びている方向(母線方向)が前述した方向に傾斜しているので、定着フィルム114が受けるダメージは軽減される。
【0071】
一方、
図13の(a)(b)(c)ははいずれも比較例としての定着装置である。本比較例の定着装置は、定着フランジ120Rの規制面120Rbについては、本実施例と同様に傾斜しているが、ガイド面120Raの延びる方向(母線方向)は、加圧ローラ回転中心線と平行である。
【0072】
図13の(a)は、定着フィルム114の長手方向が加圧ローラ117の回転軸方向に対して傾斜角θを有し、定着フィルム114が図中右側に寄っている状態を示している。この場合は、定着フランジ120Rのガイド面120Ra及び120Laの先端は定着フィルム114の内面に接触しないので、定着フィルム114はダメージを受け難い。
【0073】
図13の(b)は、定着フィルムが図中右側に寄っている状態で、定着フィルム114の長手方向が加圧ローラ117の回転中心線と平行である場合を示している。この場合、ガイド面120Raの先端Xr及びガイド面Laの先端Xlは、定着フィルム114の内周面に接触しているが、局所的な接触になり難い定着フィルム114は大きなダメージは受けない。
【0074】
図13(c)は、記録材Pの重送が発生した場合や、ユーザーによって強い力でジャム処理を行われた場合などに、可撓性を有する定着フィルム114が記録材の搬送方向に向かって弓なり形状に撓んだ状態を示している。この状態において、ガイド面120Raの先端Xr及びガイド面Laの先端Xlは、局所的に定着フィルム114の内周面に食い込み、そこに折り目がついて、破損に至る場合がある。
【0075】
以上述べたことから、本実施例の定着装置は比較例よりも、フィルムの寄りが発生した場合に定着フィルム114の長手端部の及び内周面がダメージを受けにくいという効果を奏する。
【0076】
尚、本実施例においては、定着フランジ114の規制面120Rbとガイド面120Raとの角度を直角に維持したまま、定着フランジ114を傾ける構成であったが、これに限定されない。
【0077】
また、定着フランジ120Rの傾き量は、発生する寄り力や定着フィルム114の強度によって最適値が異なるので構成に合わせて適宜設定すればよい。
【0078】
本実施例の構成においては、定着フランジ120Rと定着フランジ120Lを同一部材であるステー116に嵌め合わせる構成とすることによって、120R-Z(規制面120Rbに対する垂線)とステーの中心線Cとに傾きが生じるように設定した。このような構成の場合、ステー中心線Cを基準として左右の定着フランジの傾きが決められるので、左右のばらつきが少なく、且つ精度良く傾きを保持することができる。
【0079】
本実施例においては定着フランジ120とステーの嵌合部分の形状で、技術思想を実現した例を示したが、本発明はこの実施例にとらわれるものではなく、あらゆる変形が可能である。
【0080】
以下に本実施例の変形例1及び2の構成を示し説明する。
【0081】
(変形例1)
図14(a)に示した定着フランジ130Rは、定着フランジ120Rに対して、ステー116との嵌合部分に段差を設けずに、定着フランジ130Rの規制面130Rbに対する垂線が傾く形状としたものである。
【0082】
定着フランジ130Rは、ステー116と嵌まり合う部分の幅をWtとして平行になっているとともに、規制面130Rbに対する垂線130R-Zがステー116の中心線に対して、傾きが生じる形状とした。
【0083】
この定着フランジ130Rと同様の構成を持つ定着フランジ130Lを同一のステー116に嵌め合わせると、
図14(b)のように、定着フランジ130Rと130Lの規制面130Rbと130Lbが互いに向き合う。そして、それぞれの規制面の垂線130R-Z、130L-Zが共に記録材の搬送方向下流側を向く構成となる。従って、本変形例1においても実施例1と同様の効果が得られる。
【0084】
(変形例2)
図15は、変形例2の定着フランジの規制面140Rbを、回転軸方向と記録材の搬送方向の双方に垂直である方向から見た図である。この定着フランジ140R、140Lは共にステー116に嵌合しておらず、定着装置105内の定着フランジ支持部材150R、150Lによって定着フランジの傾きが生じるように保持されている。
【0085】
この構成においても、定着フランジ140Rと140Lの規制面140Rbと140Lbが互いに向き合って、それぞれの規制面に対する垂線140R-Z、140L-Zが共に記録材の搬送方向下流側を向く構成となる。従って、本変形例2においても実施例1と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0086】
112 ヒータ
114 定着フィルム
115 支持部材
116 ステー
117 加圧ローラ
120L、120R 定着フランジ
120La、120Ra 定着フランジのガイド面
120Lb、120Rb 定着フランジの規制面