(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】校正装置、校正方法及び工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/00 20060101AFI20240708BHJP
G01B 5/00 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
B23Q17/00 Z
G01B5/00 P
(21)【出願番号】P 2023113977
(22)【出願日】2023-07-11
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100227835
【氏名又は名称】小川 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】黄 穂生
(72)【発明者】
【氏名】中村 風人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 圭太
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-157596(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第117047561(CN,A)
【文献】特表2009-519137(JP,A)
【文献】特表2019-509902(JP,A)
【文献】特表2017-518487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00
B23Q 17/00
B23Q 23/00
G01B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械で用いるタッチプローブのための校正装置であって、
棒状に形成され、軸方向に沿って前記校正装置から進出可能な軸部と、
内側において前記軸部を支持する外筒部と、
前記外筒部の内部に配置され、進出する方向へ向けて前記軸部を付勢する付勢部と、
前記軸部を前記付勢部の付勢力に抗して押し込んだ位置に止め置く仮止め機構と、
前記外筒部に配置され、前記軸部を前記外筒部に対して固定可能な固定部と、
前記軸部又は前記外筒部の外周面に沿って形成されたXY校正部と、
前記軸部の先端に形成され、前記軸部の軸方向と直交する平面を有するZ校正部と、
を備えることを特徴とした校正装置。
【請求項2】
前記外筒部は、底部にマグネットを有し、前記底部の一部には、底面の径方向に対して外周側へ向けて傾斜した傾斜面が形成されている、請求項1に記載の校正装置。
【請求項3】
前記外筒部は、前記軸部を支持する薄肉円筒部を有し、前記固定部は、前記薄肉円筒部の外周から前記軸部に向けて半径方向の押圧力を解除可能に付与するクランパを有する、請求項1又は請求項2に記載の校正装置。
【請求項4】
請求項1に記載の校正装置を取り付け可能な前記工作機械であって、
加工工具を取付けるための主軸であって、前記加工工具に代えて基準工具及び前記タッチプローブを取り付け可能な主軸と、
加工対象及び前記校正装置が取り付けられるテーブルと、
前記主軸と前記テーブルとを相対移動させる送り軸部と、
を具備することを特徴とした工作機械。
【請求項5】
前記主軸に装着する基準工具は、先端が前記タッチプローブの測定子の球部と同一半径の球形状を有する、請求項4に記載の工作機械。
【請求項6】
前記主軸に装着する基準工具は、所定以上の荷重がかかると折損するヒューズ構造を有する、請求項4又は請求項5に記載の工作機械。
【請求項7】
請求項1に記載の校正装置を用いた前記タッチプローブの校正方法であって、
前記校正装置を前記工作機械に配置することと、
前記仮止め機構によって前記軸部を押し込んだ位置に止め置くことと、
前記工作機械の主軸に基準工具を取り付け、前記基準工具の先端が前記軸部の前記Z校正部の軸方向上方側の位置になるように前記主軸を相対的に移動させることと、
前記仮止め機構を解除して、前記付勢部によって前記軸部を前記基準工具へ向けて付勢することと、
前記基準工具に当接した前記軸部を前記固定部で固定することと、
前記固定された前記軸部の軸方向の基準座標を取得することと、
前記工作機械の前記主軸に前記タッチプローブを取り付けることと、
前記軸部の軸方向と直交する方向の基準座標を取得することと、
前記基準座標に基づいて前記軸方向及び前記軸方向と直交する方向の校正値を取得することと、
を含むことを特徴とした校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、校正装置、校正方法及び工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、加工を精度よく行うために加工対象となるワークの位置情報、すなわち座標を必要とする。位置情報は、加工する現場において作業者がワークを工作機械に取り付けた後に、作業者の手作業による測定、又は、工作機械に装備され、センサを備えた測定装置による測定によって取得される。ここでいう測定装置とは、センサを有する測定システムであるため、基準となるゲージ等を用いて測定誤差を認識し、測定結果を校正する必要がある。このような校正作業は、キャリブレーション作業とも呼ばれ、測定結果の精度はキャリブレーション作業の精度に強く依存する。
【0003】
特許文献1には、工作機械に取り付け可能なベースと、球状のキャリブレーションアーチファクトとを含む工作機械用のキャリブレーション装置が開示されている。しかしながら、上下方向、すなわちZ軸方向の座標原点は、基準工具とゲージブロックとを用いて手動で取得する必要がある。具体的には、測定者は、ゲージブロックが基準工具と球との間に挟み込まれるまで工具を手動で下降するといった工程が必要となり、キャリブレーション装置を使用する場合であってもキャリブレーション作業は煩雑なものとなる。また、水平方向、すなわちX軸方向及びY軸方向座標とZ軸方向座標のキャブレーション作業は別個に行う必要がある。このため、キャリブレーション作業の作業時間と作業工数が増加する。さらに、手作業を伴うキャリブレーション作業には技能が必要とされるため、測定者の技能に応じて測定精度にばらつきが生じ、このような煩雑な作業に係る技能を他人に教えることも容易ではない。
【0004】
そこで、例えば、特許文献2には、ベースと、較正アーチファクトと、較正アーチファクトをベースに取り付けるためのロック可能機構と、を備えた座標位置決め機械の較正デバイスが開示されている。ここでは、較正デバイスのロック可能機構は、外力の適用によって較正アーチファクトがベースに対して移動可能なロック解除状態及び較正アーチファクトの位置がベースに対してロックされるロック状態を採用することができる。しかしながら、工作機械のスピンドルに保持されたバー(長さが既知の基準工具)を位置合わせのために較正アーチファクト(較正球)に当接する際に、操作を誤って較正球の側に移動しすぎるという事態が発生することがある。すると、キャリブレーション装置が壊れるだけでなく、バーを介してスピンドル及び工作機械に多大な負荷をかける可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2019-509902号公報
【文献】特表2023-519290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、校正作業中の基準工具の校正装置への過剰な押し込みを防止すると共に過剰な押し込みを恐れて校正作業に慎重になり過ぎることによる作業効率の低下を抑制し、安全性の高い、かつ、操作性の良い校正装置及び校正方法、並びに、これらを用いた工作機械の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様によれば、工作機械で用いるタッチプローブのための校正装置であって、棒状に形成され、軸方向に沿って校正装置から進出可能な軸部と、内側において軸部を支持する外筒部と、外筒部の内部に配置され、進出する方向へ向けて軸部を付勢する付勢部と、軸部を付勢部の付勢力に抗して押し込んだ位置に止め置く仮止め機構と、外筒部に配置され、軸部を外筒部に対して固定可能な固定部と、軸部又は外筒部の外周面に沿って形成されたXY校正部と、軸部の先端に形成され、軸部の軸方向と直交する平面を有するZ校正部と、を備える校正装置が提供される。
【0008】
さらに、本発明の一の態様によれば、本発明の一の態様に係る校正装置を取り付け可能な工作機械であって、加工工具を取付けるための主軸であって、加工工具に代えて基準工具及びタッチプローブを取り付け可能な主軸と、加工対象及び校正装置が取り付けられるテーブルと、主軸とテーブルとを相対移動させる送り軸部と、を具備する工作機械が提供される。
【0009】
また、本発明の一の態様によれば、本発明の一の態様に係る校正装置を用いたタッチプローブの校正方法であって、校正装置を工作機械に配置することと、仮止め機構によって軸部を押し込んだ位置に止め置くことと、工作機械の主軸に基準工具を取り付け、基準工具の先端が軸部のZ校正部の軸方向上方側の位置になるように主軸を相対的に移動させることと、仮止め機構を解除して、付勢部によって軸部を基準工具へ向けて付勢することと、基準工具に当接した軸部を固定部で固定することと、固定された軸部の軸方向の基準座標を取得することと、工作機械の主軸に前記タッチプローブを取り付けることと、軸部の軸方向と直交する方向の基準座標を取得することと、基準座標に基づいて軸方向及び軸方向と直交する方向の校正値を取得することと、を含む校正方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一の態様に係る校正装置によると、校正装置は、軸方向に沿って校正装置から進出可能な軸部と、進出する方向へ向けて軸部を付勢する付勢部と、軸部を付勢部の付勢力に抗して押し込んだ位置に止め置く仮止め機構と、軸部を外筒部に対して固定可能な固定部とを備える。このため、軸部を付勢部によって付勢し、軸部が進出した位置で固定することができるため、軸部の軸方向における位置決めを簡便、かつ、短時間に行うことができる。また、仮止め機構によって軸部を押し込んだ位置に仮止めすることができる。このため、軸部を固定する位置を設定するために、工作機械の主軸に装着した基準工具の先端部は校正装置の軸部の近傍まで移動すればよく、仮止めを解除し、付勢部によって付勢される軸部を工作機械の主軸に装着した基準工具の先端部に接触させることによって位置を設定することができる。これによって、基準工具の先端部が軸部に衝突して工作機械に負荷がかかることを防止するとともに、基準工具で軸部を所定量押し込むという慎重さの要求される作業がないため、作業効率低下を抑制することができ、工作機械の安全性を確保することができる。さらに、校正装置は、軸部の外周面に沿って形成されたXY校正部と、軸部の先端に形成され、軸部の軸方向と直交する平面を有するZ校正部とを備える。このため、軸部に沿った方向及び軸部に直交する方向の位置合わせを1つの軸部、すなわち校正装置で簡便に行うことができる。これによって、作業者の技能レベルに依存することなく、操作性良く簡便に校正作業を行うことができ、このような校正作業を面倒がらずに定期的に行うことも可能になるため、加工品の品質、すなわち加工精度を安定させることができる。
【0011】
本発明の一の態様に係る工作機械によると、本発明の一の態様に係る校正装置を取り付けることができると共に、主軸に基準工具及びタッチプローブを取り付けることができる。このため、校正作業を簡便かつ短時間で行うことができる。さらに、工作機械の主軸に装着した基準工具の先端部が軸部に衝突して工作機械に負荷がかかることを防止又は抑制することができ、工作機械の安全性を確保することができる。
【0012】
本発明の一の態様に係る校正方法によると、軸部に沿った方向及び軸部に直交する方向の位置合わせを1つの校正装置で連続的に行うことができる。これによって、簡便かつ短時間で校正作業を行うことができる。さらに、工作機械の主軸に装着した基準工具の先端部が軸部に衝突して工作機械に負荷がかかることを防止又は抑制することができ、工作機械の安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る校正装置の斜視図を示す。
【
図2】
図2は、校正装置の軸部を進出させた状態の斜視図を示す。
【
図3A-3B】
図3Aは、軸部が上昇した状態の校正装置を
図1の3-3線に沿って切断した断面図を示し、
図3Bは、
図3Aの校正装置の3B-3B線に沿って切断した断面図を示す。
【
図3C-3D】
図3Cは、軸部を押し込み位置で仮止めした状態の校正装置を
図1の3-3線に沿って切断した断面図を示し、
図3Dは、
図3Cの校正装置の3D-3D線に沿って切断した断面図を示す。
【
図3E-3F】
図3Eは、仮止めを解除して軸部を基準工具の先端部に接触した状態の校正装置を
図1の3-3線に沿って切断した断面図を示し、
図3Fは、
図3Eの校正装置の3F-3F線に沿って切断した断面図を示す。
【
図3G-3H】
図3Gは、軸部を固定した状態の校正装置を
図1の3-3線に沿って切断した断面図を示し、
図3Hは、
図3Gの校正装置の3H-3H線に沿って切断した断面図を示す。
【
図4A】
図4Aは、覆い部を取り外した校正装置の斜視図を示す。
【
図4B】
図4Bは、カムレバーをアンクランプ状態にした校正装置を
図1の4-4線に沿って切断した断面図を示す。
【
図4C】
図4Cは、カムレバーをクランプ状態にした校正装置を
図1の4-4線に沿って切断した断面図を示す。
【
図5C-5D】
図5Cは、テーブルに取り付けるときの校正装置の側面図を示し、
図5Dは、テーブルから取り外すときの校正装置の側面図を示す。
【
図6】
図6は、タッチプローブの校正作業のフローチャートを示す。
【
図7】
図7は、基準工具と校正装置とが取り付けられた工作機械の側面図を示す。
【
図8】
図8は、仮の基準座標と基準座標の関係を表すZ校正部の平面図を示す。
【
図9】
図9は、タッチプローブの校正方法を説明するための斜視図を示す。
【
図10】
図10は、X軸方向及びY軸方向の基準座標の取得方法を説明するための平面図を示す。
【
図11A-11B】
図11A-11Bは、第2実施形態に係る仮止め機構によって軸部をクランプした状態を平面視及び側面視で模式的に示したものであり、それぞれ11A-11A線及び11B-11B線に沿って切断した断面図である。
【
図11C-11D】
図11C-11Dは、第2実施形態に係る仮止め機構によって軸部をアンクランプした状態を平面視及び側面視で模式的に示したものであり、それぞれ11C-11C線及び11D-11D線に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る校正装置、工作機械及び校正方法を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0015】
(第1実施形態)
以下、添付図面を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。
図1及び
図2に、校正装置10の斜視図を示す。
図7及び
図9に示すように、校正装置10は、工作機械50において、例えば、ワーク(図示省略)の位置を正確に測定することを目的としてタッチプローブ60の位置を校正するために用いられる。このため、校正装置10は、加工対象としてのワーク(図示省略)を取り付けるための工作機械50のテーブル52に取り付けられる。図中には、工作機械50を工場等の床面のような水平面上に配置したときの装置前後方向、装置左右方向及び装置上下方向を矢印で示す。図中のXは、装置左右方向(X軸方向)を示しており、Yは、装置前後方向(Y軸方向)を示しており、Zは、装置上下方向(Z軸方向)を示す。
【0016】
図1及び
図2に示すように、校正装置10は、外筒部12と、軸部14と、固定部16(
図4A参照)とを備える。校正装置10は、外筒部12を工作機械50のテーブル52(
図7参照)の上面に配置し、棒状に形成された金属製の軸部14を外筒部12の上方側へ向けて進出させる。このとき、進出した軸部14の位置を固定するために固定部16が形成されている。
【0017】
図1及び
図3Aに示すように、外筒部12は、金属製であり、その外周形状は円柱状に形成されている。外筒部12の上方側の中心部には、軸部14を締め付けるための円筒状の薄肉円筒部18が外筒部12と一体で形成されている。薄肉円筒部18及び外筒部12の中心部には、外筒部12及び薄肉円筒部18に収容される軸部14の軸方向、すなわちZ軸方向に沿って穴部20が貫通形成されている。薄肉円筒部18及び外筒部12の上方側部分における穴部20の内径は、軸部14を収容し、かつ、締め付けることができるように、軸部14の外径とほぼ同一に形成されている。
【0018】
図3Aに示すように、外筒部12の底面側には、穴部20を塞ぐように円板状のマグネット22が配置されている。このため、金属製のテーブル52(
図7参照)に配置された校正装置10の位置がずれないように安定させることができる。穴部20に収容された軸部14の下端部とマグネット22との間には、付勢部としてのコイルバネ24が配置されている。このため、穴部20に収容された軸部14を上方側、すなわち基準工具58及びタッチプローブ60側(
図7及び
図9参照)へ向けて付勢することができる。これによって、軸部14の上方側に配置された基準工具58の先端部に軸部14を当接させることができる。なお、基準工具58の先端部は球形状が好ましい。
【0019】
穴部20に収容された軸部14の上方側には、外周形状が円柱状に形成されたXY校正部26が形成されている。XY校正部26は、軸部14の他の部分よりも軸部14の径方向に延在し、かつ、その中心軸が軸部14の中心軸と一致するように形成されている。
【0020】
軸部14の先端には、軸部14の軸方向と直交する、すなわち校正装置10が取り付けられるテーブル52の取付面AS(
図5C参照)に平行な平面を有するZ校正部28が形成されている。ここで、Z校正部28の平面上において、いかなるX軸方向及びY軸方向の位置に基準工具58が当接した場合であっても、基準工具58が当接したX軸方向及びY軸方向の位置におけるZ軸方向の位置と、XY校正部26の中心軸位置におけるZ軸方向の位置との相対差を、タッチプローブ60で測定することにより、Z校正部28の平面上におけるXY校正部26の中心軸位置での正確なZ軸方向の位置を取得することができる。このため、基準工具58が当接する際のX軸方向及びY軸方向における位置決めを簡便、かつ、短時間に行うことができる。
【0021】
図3A及び
図3Bに示すように、軸部14の下端には、軸部14の外周形状に沿ってリング状に形成され、仮止め機構を構成する止め輪15が取り付けられている。止め輪15は、その外周部の一部が径方向外側、すなわち、軸部14の径方向外側へ向けて延在する引掛け部15aを有する。また、外筒部12の穴部20の下方側には、仮止め機構を構成する第1の段差部12a及び第2の段差部12bが段差状に形成されている。具体的には、第1の段差部12aは、穴部20と同心円状に形成され、穴部20の内径よりも大きい内径を有する。また、第2の段差部12bは、第1の段差部12aの下方側において穴部20及び第1の段差部12aと同心円状に形成され、第1の段差部12aの内径よりも大きい内径を有する。さらに、第2の段差部12bは、止め輪15が取り付けられた軸部14が上下する際に、引掛け部15aが通過できるように、その一部が切り欠いて形成されている。軸部14は、穴部20の上方側へ向けて連通する第1の段差部12aの上端に止め輪15が当接するため、この位置で上方側への移動が制限される。
【0022】
また、
図3C及び
図3Dに示すように、コイルバネ24の付勢力、すなわち、バネ力に抗して軸部14を第2の段差部12bまで下方側へ押し下げ、引掛け部15aと第2の段差部12bの切り欠いている部分とが底面視で重ならない位置まで軸部14を回転すると、止め輪15の引掛け部15aが第2の段差部12bに当接し、この位置で軸部14の上方側への移動を制限する。このため、軸部14をこの位置に止め置いて、仮止めすることができる。ここでは、引掛け部15aは、第2の段差部12bの切り欠いている部分から90度程度回転移動されている。
【0023】
また、
図3E及び
図3Fに示すように、基準工具58(
図7参照)の先端部を仮止めした軸部14の上方側へ所定の間隔を空けて移動した状態で、軸部14を回転し、引掛け部15aを第2の段差部12bの切り欠いている部分から通過させると、軸部14は、コイルバネ24のバネ力によって上昇する。このため、軸部14側の移動によって、Z校正部28を基準工具58の先端部に当接させることができる。
【0024】
さらに、
図3G及び
図3Hに示すように、Z校正部28を基準工具58の先端部に当接した状態で、後述するように、カムレバー32を回動して、軸部14をクランプすることによって、校正装置10における軸部14の高さ位置を固定することができる。
【0025】
図4Aには、軸部14及び覆い部34を取り外した状態の校正装置10の斜視図を示す。薄肉円筒部18の径方向外側に形成された固定部16(
図4A参照)は、薄肉円筒部18を押圧するための金属製のクランパとしての押圧部30と、押圧部30を加圧するための金属製のカムレバー32と、押圧部30の外側を覆うように配置された硬質樹脂製の覆い部34と、カムレバー32を突き当てる突き当て部31(
図4C参照)と、を有する。なお、ここでは、覆い部34は硬質樹脂製として説明するが、これに限らず、覆い部が硬質樹脂以外の他の材料で構成されてもよい。
【0026】
図4Aから
図4Cに示すように、押圧部30は、薄肉円筒部18の外側を囲むように、すなわち挟み込むように形成され、内幅が薄肉円筒部18の外径と同一に形成された内側部36を有する。また、押圧部30の一方の長手方向端部は、外筒部12にボルト29で締結されており、他方の長手方向端部には内側部36まで貫通する隙間30aが形成されている。さらに、押圧部30の他方の長手方向端部には、軸部分が隙間30aを通って押圧部30の内部まで延在する棒状のピン40が取り付けられている。押圧部30から露出するピン40には、カラー38が取り付けられ、ピン40の端部にはカムレバー32がネジ33で回転可能に連結されている。
【0027】
カムレバー32は、Z軸方向に沿って延在する中心軸周りに水平方向に沿って回動可能に形成されている。また、カムレバー32は、中心軸側においてカム形状に形成されたカム部32aと、カム部32aから中心軸の径方向、ここでは水平方向に沿って延在するレバー部32bとを有する。このため、
図4Bに示すような軸部14のアンクランプ状態から、レバー部32bを突き当て部31に当接する側へ向けて回動させると、
図4Cに示すように、カム部32aがカラー38を介して押圧部30を押圧し、弾性変形することによって隙間30aが塞がり、内側部36が薄肉円筒部18を両側から半径方向内側へ向けて均等に押圧する。これによって、薄肉円筒部18が弾性的につぶれて軸部14を締め付けるため、軸部14の基準工具58に当接した位置と姿勢をくずすことなく軸部14を薄肉円筒部18に対して固定するクランプ状態となる。また、押圧部30には、ピン40の押圧部30側の端部及びピン40の側部を固定するためのネジ42、44が取り付けられている。このため、カムレバー32をアンクランプ状態からクランプ状態へと回動すると、カム部32aのリフト量だけ押圧部30を安定して引き寄せることができ、薄肉円筒部18及び軸部14を安定してクランプすることができる。
【0028】
また、
図4Cに示すクランプ状態において、レバー部32bを突き当て部31から離隔する側へ向けて回動させ、
図4Bに示すアンクランプ状態とすると、カラー38及び押圧部30及び薄肉円筒部18はカム部32aによって押圧されなくなる。このため、薄肉円筒部18は軸部14を解放し、軸部14はコイルバネ24のばね力によって上方側へ向けて進出することができる。
【0029】
図5A及び
図5Bには、校正装置10の側面図及び底面図を示す。外筒部12の底部には、中心部に配置されたマグネット22の径方向外側の一部に、底面の径方向に対して外筒部12の外周側かつ上方側へ向けて傾斜した傾斜面12dが形成されている。なお、ボルト35は、覆い部34を外筒部12に固定するボルトである。
【0030】
図5C及び
図5Dには、テーブル52(
図7参照)の取付面ASへ取付け及び取り外しをする際の校正装置10の側面図を示す。
図5Cに示すように、校正装置10を取付面ASへ取付ける場合には、校正装置10を傾けて、傾斜面12dが取付面ASに当接するように配置し、この状態から傾斜面12dを支点として校正装置10を図中矢印の方向へ傾け、外筒部12の底面を取付面ASに当接させることができる。また、
図5Dに示すように、校正装置10を取付面ASから取り外す場合には、校正装置10を図中矢印の方向へ傾けて傾斜面12dを取付面ASに当接させることによってマグネット22を取付面ASから離し、マグネット22が取付面ASに直接接触していない状態で校正装置10を取付面ASから取り外すことができる。このため、マグネット22の磁力によって、校正装置10が勢いよく取付面ASと当接する、すなわち、衝突することを防止又は抑制することができる。さらに、磁力の作用する方向、すなわち、上下方向に沿って校正装置10を引っ張り上げる必要がないため、校正装置10を取付面ASから操作性良く簡便に取り外すことができる。これによって、校正装置10を取付け及び取り外しをする際に取付面ASを傷つけることを防止又は抑制することができる。また、磁力オン・オフ切換えレバー付の通常のマグネットスタンド方式を採用していないため、校正装置10のテーブル52への取付け、取外しが迅速に行える。
【0031】
図6に示すフローチャートに沿った校正方法の説明を通じて、本実施形態に係る校正装置10、校正方法及び工作機械50の作用効果を以下に説明する。
【0032】
はじめに、ステップS10へ移行し、
図7に示すように、加工対象測定用のタッチプローブ60の校正を行う工作機械50のテーブル52に校正装置10を設置する。ここで、Z校正部28の上面(平面)が、工作機械50の工具を取り付けるための主軸54の下側端面に対して平行になるように、すなわちZ校正部28の平面が水平になるように校正装置10を設置する。
【0033】
つぎに、ステップS20へ移行し、
図3C及び
図3Dに示すように、軸部14を外筒部12へ押し込み、かつ、回転させることによって、軸部14を仮止めする。さらに、ステップS30へ移行して、長さLTが明らかになっている工具ホルダ56に取り付けられた基準工具58を主軸54に装着し、ステップS40へ移行して、基準工具58の位置決めをする。位置決めは、工作機械50に配置され、主軸54をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に沿って移動させるための送り軸部としての送り軸装置(図示省略)によって、基準工具58の先端、ここでは、下端が軸部14のZ校正部28の上方側に所定の間隔を空けて位置するように位置決めされる。所定の間隔は、軸部14の仮止め位置と上昇位置間のストロークの範囲内ならどこでもよく、例えば、ストロークが7mmならば約4mmが選ばれる。基準工具58を軸部14に当接しながら軸部14を押し込む作業がないため衝突を防ぐことができる。
【0034】
基準工具58が位置決めされると、ステップS50へ移行し、
図3E及び
図3Fに示すように、軸部14を回転して仮止めを解除し、バネ力によって軸部14を上方側へ向けて付勢する。これによって、
図7に示すように、基準工具58の下端にZ校正部28を当接させることができる。Z校正部28が当接すると、ステップS60へ移行し、
図3G及び
図3Hに示すように、Z校正部28と基準工具58とが当接した状態で、カムレバー32を突き当て部31側へ向けて回動させて、軸部14を固定する。
【0035】
図8に示すように、Z校正部28の平面に基準工具58の先端が当接した位置を取得し(ステップS70)、Z軸方向の基準Z座標Zmとされる。また、基準Z座標Zmを設定したX軸方向及びY軸方向の位置は、必ずしもZ校正部28の中心、すなわち基準座標(Xm,Ym)とはならない。そこで、Z校正部28の平面に基準工具58の先端が当接した位置を測定し、X軸方向及びY軸方向の仮基準座標(Xm1,Ym1)とされる。
【0036】
基準Z座標Zm及び仮基準座標(Xm1,Ym1)が設定されると、ステップS80へ移行し、基準工具58に代えて、
図7に示すタッチプローブ60を主軸54に装着する。つぎに、ステップS90へ移行し、タッチプローブ60の先端に配置された測定子62が、仮基準座標(Xm1,Ym1)に位置決めされる。さらに、ステップS100へ移行し、このように主軸54に装着されたタッチプローブ60によって、X軸、Y軸及びZ軸の位置の校正が行われる。なお、基準工具58の先端部は、平形状、尖り形状、球形状、実際の切削工具等、種々考えられる。軸部14先端のZ校正部28の平面は、微視的には工作機械50の主軸54の軸線と垂直になる保証も、完全な平面度である保証もない。したがって、Z校正部28に当接する基準工具58の先端部は、通常、点接触となる球形状が選択される。しかし、仮基準座標(Xm1,Ym1)におけるZ校正部28に対する基準工具58と測定子62との当接位置に厳密にはごくわずかな差が生じることが考えられる。この差も極力0にする高精度測定のためには、基準工具58の先端部を測定子62の球部半径Rと同一寸法の半径Rの球形状にすることが好ましい。
【0037】
ステップS90及びステップS100におけるX軸、Y軸及びZ軸の位置の校正について具体的に説明する。はじめに、X軸方向及びY軸方向の基準座標(Xm,Ym)を取得する。なお、タッチプローブ60は、測定対象と接触すると信号を発することができる。工作機械は、制御装置と信号を受信する受信装置を備えており、タッチプローブ60が測定対象と接触したことを検知できる。また、タッチプローブ60の測定子62は、基準座標(Xm,Ym)の取得における測定時には、移動方向に対して常に同じ位相を向くように制御されている。
図10に示すように、工作機械50は、送り軸装置によって主軸54を相対的に移動させ、仮基準座標(Xm1,Ym1)にあるタッチプローブ60の測定子62をX軸正方向(X軸+方向)へ経路C3(
図9参照)に沿って移動する。移動された測定子62がXY校正部26に接した位置C3PにおいてX座標を測定する。また、タッチプローブ60の測定子62をX軸負方向(X軸-方向)へ経路C4(
図9参照)に沿って移動する。移動された測定子62がXY校正部26に接した位置C4PにおいてX座標を測定する。ここで、位置C3P及び位置C4PのY座標はYm1で一定であるため、工作機械50は、これらのX座標の平均値を位置C3Pと位置C4Pとの中間位置における第1のX座標を算出することができる。
【0038】
さらに、工作機械50は、送り軸装置によって主軸54を相対的に移動させ、X座標を第1のX座標としたタッチプローブ60の測定子62をY軸正方向(Y軸+方向)へ経路C5(
図9参照)に沿って移動する。移動された測定子62がXY校正部26に接した位置においてY座標を測定する。また、タッチプローブ60の測定子62をY軸負方向(Y軸-方向)へ経路C6(
図9参照)に沿って移動する。移動された測定子62がXY校正部26に接した位置においてY座標を測定する。ここで、2箇所のX座標は第1のX座標で一定であるため、工作機械50は、これらのY座標の平均値を中間位置におけるY座標、すなわち基準座標Ymとして算出することができる。
【0039】
さらに、工作機械50は、送り軸装置によって主軸54を相対的に移動させ、Y座標を基準座標Ymとしたタッチプローブ60の測定子62をX軸+方向へ経路C3に沿って移動する。移動された測定子62がXY校正部26に接した位置においてX座標を測定する。また、タッチプローブ60の測定子62をX軸-方向へ経路C4に沿って移動する。移動された測定子62がXY校正部26に接した位置においてX座標を測定する。ここで、2箇所のY座標はYmで一定であるため、工作機械50は、これらのX座標の平均値を中間位置におけるX座標、すなわち基準座標Xmとして算出することができる。これによって、タッチプローブ60の測定子62を基準座標(Xm,Ym)に位置決めする。
【0040】
図9に示されるように、基準座標(Xm,Ym)に位置決めされたタッチプローブ60の測定子62によって、X軸方向位置及びY軸方向位置の校正測定が行われる。はじめに、タッチプローブ60の測定子62をX軸+方向へ位置決めする、すなわち経路C3に沿って移動する。移動した測定子62がXY校正部26に接した位置でX軸+方向の校正測定を行い、X軸+方向の校正値(X座標及びY座標)を取得する。また、タッチプローブ60の測定子62をX軸負方向(X軸-方向)へ位置決めする、すなわち経路C4に沿って移動する。移動した測定子62がXY校正部26に接した位置でX軸-方向の校正測定を行い、X軸-方向の校正値(X座標及びY座標)を取得する。
【0041】
さらに、タッチプローブ60の測定子62をY軸+方向へ位置決めする、すなわち経路C5に沿って移動する。移動した測定子62がXY校正部26に接した位置でY軸+方向の校正測定を行い、Y軸+方向の校正値(X座標及びY座標)を取得する。また、タッチプローブ60の測定子62をY軸-方向へ位置決めする、すなわち経路C6に沿って移動する。移動した測定子62がXY校正部26に接した位置でY軸-方向の校正測定を行い、Y軸-方向の校正値(X座標及びY座標)を取得する。X軸+方向、X軸-方向、Y軸+方向及びY軸-方向の校正値の取得を複数回繰り返し、その平均値が校正値として工作機械50に記憶される、すなわち記録される。
【0042】
工作機械50は、X軸+方向、X軸-方向、Y軸+方向及びY軸-方向の校正値からタッチプローブ60の測定子62の主軸54に対する偏心量を演算し、基準座標(Xm,Ym)から偏心量を考慮した基準座標(Xm2,Ym2)へと位置決めする(図中C7)。このように、偏心量が考慮された基準座標(Xm2,Ym2)へ位置決めされたタッチプローブ60の測定子62をさらにZ軸負方向(Z軸-方向)へ位置決めする、すなわち経路C8に沿って移動する。移動した測定子62がZ校正部28に接した位置でZ軸-方向の校正測定を行い、Z軸-方向の校正値(Z座標)を取得する。これを複数回繰り返し、その平均値が校正値として工作機械50に記録される。
【0043】
本実施形態に係る校正装置10、校正方法及び工作機械50によれば、Z校正部28が形成された軸部14をコイルバネ24によって外筒部12からZ軸方向に沿って進出させることができ、固定部16によって進出した位置、すなわち基準工具58の先端がZ校正部28に当接した位置で軸部14を固定することができる。このため、基準工具58のZ軸方向の位置合わせを簡便に行うことができる。また、タッチプローブ60の校正作業を行うためには、X軸、Y軸及びZ軸方向の基準座標を取得する必要があるが、既存の手段では、工具長LTが把握されている基準工具を数μm単位で徐々に近づけつつ、ゲージブロックを出し入れして接触確認を行う作業を手動で実施する必要があった。このため、位置合わせに非常に時間がかかり、また誤操作による基準工具とゲージブロックの衝突のリスクもあった。しかしながら、ここでは、基準工具58は、Z軸方向の位置合わせの前に所定の位置までZ校正部28に近づけるだけでよく、操作性良くかつ安全にZ校正部の位置合わせをすることができる。
【0044】
また、本実施形態に係る校正装置10、校正方法及び工作機械50によれば、仮止め機構12a、12b、15によって軸部14を押し込んだ位置に仮止めすることができる。このため、軸部14を固定する位置を設定するために、工作機械50の基準工具58は校正装置10の軸部14の近傍まで移動すればよく、仮止めを解除し、コイルバネ24によって付勢される軸部14を工作機械50の基準工具58に接触させることによって位置を設定することができる。これによって、基準工具58が軸部14を押し込み過ぎて工作機械50に負荷がかかることを防止又は抑制することができ、工作機械50の安全性を確保することができる。
【0045】
さらに、本実施形態に係る校正装置10、校正方法及び工作機械50によれば、校正装置10は、軸部14の外周面に沿って形成されたXY校正部26と、軸部14の先端に形成され、Z軸方向と直交する平面を有するZ校正部28とを備える。このため、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の位置合わせを1つの軸部14、すなわち校正装置10によって簡便に行うことができる。これによって、作業者の技能レベルに依存することなく、校正作業を行うことができる。さらに、このような簡便な校正作業を定期的に行うことが可能になるため、加工品の品質、すなわち加工精度を安定させることができる。
【0046】
本実施形態に係る工作機械50によると、工作機械50には校正装置10を取り付けることができると共に、工作機械50の主軸54に基準工具58及びタッチプローブ60を取り付けることができる。このため、校正作業を操作性良く簡便かつ短時間で行うことができる。
【0047】
本実施形態に係る校正方法によると、軸部14の軸方向に沿ったZ軸方向及び軸方向に直交するX軸方向及びY軸方向の位置合わせを1つの校正装置10で連続的に行うことができる。これによって、操作性良く簡便かつ短時間で校正作業を行うことができる。
【0048】
以上により、本実施形態に係る校正装置10、校正方法及び工作機械50は、加工対象測定用のタッチプローブ60を容易に校正することができる。
【0049】
(第2実施形態)
以下、
図11Aから
図11Dを用いて第2実施形態に係る校正装置70について説明する。第1実施形態と同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0050】
図11Aから
図11Dには、仮止め機構74a,76を有する校正装置70の模式的な平面図及び側面図を示す。
図11A及び
図11Bに示すように、校正装置70の外筒部72は、水平方向に沿って貫通形成された角溝72aを有し、角溝72aには、角柱形状の係止軸76がスライド可能に配置されている。また、軸部74の下方側には、係止軸76の外周形状に沿った凹部74aが形成されている。このため、
図11Bに示すように、凹部74aと角溝72aとが対向する位置まで軸部74を押し下げ、その状態において、
図11Aに示すように、係止軸76を角溝72a及び凹部74aに挿し込むことによって、係止軸76と凹部74aとが係合するため、軸部74を係止、すなわち、仮止めすることができる。また、
図11Cに示すように、係止軸76を角溝72aから押し出し、円弧状逃げ部76aが軸部74に対向すると、係止軸76と軸部74Aとの係合が解除されるため、仮止めを解除することができ、
図11Dに示すようにコイルバネ24のバネ力によって、係合が解除された軸部74を上昇させることができる。
【0051】
本実施形態に係る校正装置70によれば、仮止め機構74a、76によって軸部74を押し込んだ位置に仮止めすることができる。このため、軸部74を固定する位置を設定するために、工作機械50の基準工具58は校正装置10の軸部74の近傍まで移動すればよく、仮止めを解除し、コイルバネ24によって付勢される軸部74を工作機械50の基準工具58に接触させることによって位置を設定することができる。これによって、基準工具58が軸部74を押し込み過ぎて工作機械50に負荷がかかることを防止又は抑制することができ、工作機械50の安全性を確保することができる。
【0052】
(変形例)
以下、第1実施形態及び第2実施形態に係る工作機械50の変形例について説明する。第1実施形態及び第2実施形態と同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0053】
本変形例に係る工作機械50の基準工具78は、径方向に沿って切り欠いた1つ又は複数の切欠き部79a、79bを有して基準工具78の剛性を低下させたヒューズ構造を有する。このため、基準工具78を校正装置10、70の軸部14、74へ向けて移動する際に、基準工具78で誤って軸部14、74を押し込み過ぎた場合に、基準工具78に作用する負荷が基準工具78側へ伝達することを防止又は抑制するために基準工具78を折損させることができる。これによって、基準工具78が軸部14、74を押し込み過ぎて工作機械50に負荷がかかることを防止又は抑制することができ、工作機械50の安全性を確保することができる。
【0054】
なお、固定部16は、押圧部30と、カムレバー32と、覆い部34と、突き当て部31と、を有するとして説明したが、これに限らない。例えば、固定部は、軸部の外周を包囲する薄肉円筒部と、回転させるとカム部分の接触によって薄肉円筒部を変形させ固定することができるカムレバー部と、軸部を固定する方向にカムレバー部を回転させたときにカムレバー部が突き当たる突き当て部と、を有して構成されてもよい。カムレバー部を回転させるだけで、軸部を固定することができ、突き当て部によって容易にトルク管理できるといった作用効果を得ることができる。また、これに代えて、締付部の外周側に設けた、ねじ締め方式の丸軸用クランプ等によって軸部が固定されてもよい。
【0055】
また、XY校正部26は、軸部14の外周に形成されているとして説明したが、これに限らず、外筒部の外周面に形成されてもよい。外筒部の外周面にXY校正部を形成した場合には、軸部の進出によってXY校正部とZ校正部の位置関係が変化するため、この変化量の補正が必要になるものの、XY校正部が軸部の外周面に形成されている場合と同様に、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の位置合わせを1つの校正装置によって簡便に行うことができる。
【0056】
さらに、外筒部12はマグネット22によって金属製のテーブル52に固定されているとして説明したが、これに限らず、ボルト締め等の手段によって工作機械の任意の位置に着脱可能に配置されてもよく、又は、工作機械の所定の位置に常に固定されていてもよい。着脱可能に配置される場合には、不使用時には工作機械の外側に保管しておけるため、切りくずやクーラントの影響を受けない。また、着脱可能であれば複数の工作機械で使用することができる。
【0057】
また、校正装置を工作機械に配置することと、基準工具に当接した軸部を固定部で固定することとは、マニピュレーターを用いて行い、工作機械の主軸に基準工具を取り付けることと、工作機械の主軸にタッチプローブを取り付けることとは、工具交換装置を用いて行ってもよい。オペレータが介在せずとも、マニピュレーターによって自動で校正をおこなうことができる。また、校正装置を工作機械に配置したときのマニピュレーターの座標情報から、仮基準座標Xm1、Ym1を決定する仮基準座標決定部を備えていてもよいし、軸部を固定する前に基準工具と軸部の当接を確認する撮像装置を備えていてもよい。工作機械の制御装置は、予め設定された周期毎に校正を行うよう工作機械を制御してもよい。
【0058】
以上、校正装置10、70、校正方法及び工作機械50の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば、主軸の向きが鉛直な立形工作機械に代えて、主軸の向きが水平な横形工作機械であってもよい。その場合、校正装置は軸部が水平になるようにテーブルの鉛直面に取り付けられる。上記のほか、当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解できると考えられる。
【符号の説明】
【0059】
10 校正装置
12 外筒部
12a 第1段差部(仮止め機構)
12b 第2段差部(仮止め機構)
12d 傾斜面
14 軸部
15 止め輪(仮止め機構)
16 固定部
18 薄肉円筒部
22 マグネット
24 コイルバネ(付勢部)
26 XY校正部
28 Z校正部
30 押圧部(クランパ)
32 カムレバー
50 工作機械
52 テーブル
54 主軸
58 基準工具
60 タッチプローブ
【要約】
【課題】校正作業中の基準工具の校正装置への過剰な押込みを防止すると共に過剰な押込みを恐れて校正作業に慎重になり過ぎることによる作業効率の低下を抑制し、安全性の高いかつ操作性の良い校正装置及び校正方法並びにこれらを用いた工作機械を提供する。
【解決手段】校正装置10は、軸方向に沿って校正装置10から進出可能な軸部14と、内側において軸部14を支持する外筒部12と、外筒部12の内部に配置され、進出する方向へ向けて軸部14を付勢するコイルバネ24と、軸部14をコイルバネ24の付勢力に抗して押込んだ位置に止め置く仮止め機構12a、12b、15と、外筒部12に配置され、軸部14を外筒部12に対して固定可能な固定部16と、軸部14の外周面に沿って形成されたXY校正部26と、軸部14の先端に形成され、軸部14の軸方向と直交する平面を有するZ校正部28とを備える。
【選択図】
図1