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特許7516647プラズマ発生装置およびプラズマ発生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】プラズマ発生装置およびプラズマ発生方法
(51)【国際特許分類】
   G21B 3/00 20060101AFI20240708BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
G21B3/00 Z
H05H1/24
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023223510
(22)【出願日】2023-12-28
【審査請求日】2023-12-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524004087
【氏名又は名称】加藤 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 潔
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0233061(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0162104(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0086680(US,A1)
【文献】特開2007-059317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21B 3/00
H05H 1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有する媒体に電位差を与える少なくとも一対の電極と、
前記一対の電極に接続された電源と、
前記媒体に分散された導電性を有する複数のナノ構造材料と、
を備え、
各前記ナノ構造材料は、直径が1nm以上100nm以下、長さが0.5mm以上100mm以下とされた端部を有する長尺とされ
前記電極間の距離が1mm以上100mm以下とされ、
前記電位差が10kV以上1000kV以下とされているプラズマ発生装置。
【請求項2】
絶縁性を有する媒体に電位差を与える少なくとも一対の電極と、
前記一対の電極に接続された電源と、
前記媒体に分散された導電性を有する複数のナノ構造材料と、
を用いて行うプラズマ発生方法、
各前記ナノ構造材料は、直径が1nm以上100nm以下、長さが0.5mm以上100mm以下とされた端部を有する長尺とされ
前記電極間の距離が1mm以上100mm以下とされ、
前記電位差が10kV以上1000kV以下とされているプラズマ発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ発生装置およびプラズマ発生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核融合反応の必要条件は、108K程度の高温、十分な密度、十分な閉じ込め時間である。一般的に問題となるのは、高温発生に必要となる大きなエネルギー・仕事率と、発生する超高圧の閉じ込めである。
【0003】
燃料プラズマを108Kまで加熱すると、温度に比例した圧力が増大し、これを閉じ込めなければ膨張して反応率が低下する(例えば、爆薬ですら103Kの温度(せいぜい5000K程度)に留まるのに、108Kにもなる核融合プラズマはその105倍となる)。高温においては、高エネルギーの熱放射を発して急速に冷える。これは、Stefan-Boltzmannの法則により、黒体ならばT4に比例するエネルギーの熱放射をするため。高温では特に強力な放射となり、そのために中心温度が1600万Kの太陽ですら、黒体と見なせる表面付近の温度は6000K程度にまで下がる。108Kなら単位面積当たり太陽表面の1016倍以上のエネルギーを発することとなり非現実的である。ただし、一般に地上のプラズマの光学的深さは小さいためそこまでの強度にはならないものの、温度に見合った熱放射(高温においてはX線)を発して急速に冷える。このため、あまり時間を掛けて加熱することはできないし、できるだけプラズマの光学的深さを小さくする必要がある。
【0004】
1gの重水燃料を108Kまで1秒で加熱するには、~109J程度、~109W程度のエネルギー・仕事率が必要となるが、現実的ではない。直流電力を用いるなら、日本最強レベルの直流電源である佐久間周波数変換所レベルでも仕事率が足りない。パルス電源ならば仕事率は達成可能だが、上記のエネルギー量は到達困難である。そのうえ実用的なエネルギー増倍率では、出力が最大の通常爆弾並みとなってしまう。そのため、核融合点火には少量の燃料を集中的に加熱する方法が必要不可欠となる。
【0005】
密度を保ち、核融合反応を進めるには、何らかの閉じ込め方式が必要となる。方式によっては、液体も固体も簡単に圧縮し、セラミックですら液体のように振る舞うほどの圧力を閉じ込める必要がある。閉じ込め方式としては、磁場閉じ込めと慣性閉じ込めが種々検討されている。
【0006】
磁場閉じ込めでは、真空中の希薄な(磁場で閉じ込められる程度の密度の)プラズマを加熱することにより、少量の燃料を集中加熱する。
【0007】
108Kまでプラズマを加熱するには、10kV程度の電位差を下らせれば十分である。ただし、プラズマが希薄なため、比較的長時間閉じ込める必要がある。
【0008】
基本的にプラズマを粒子束として扱うが、実際のプラズマは多体系であり流体である(振る舞いがChaoticである)ため、現状、プラズマを思うように閉じ込めておくことができない。
【0009】
また、空間に閉じ込めたプラズマを再加熱するのが困難である。よく用いられる大出力の中性粒子ビームや共鳴マイクロ波は、効率的・安定的に発生させることが難しい。
【0010】
慣性閉じ込め方式では、小さな燃料球に全方向から高エネルギーのレーザーを照射することにより、少量の燃料を集中加熱する。
【0011】
高温に加熱された外殻が急膨張することにより、燃料中心部が10TPaもの高圧に圧縮され(爆縮)、断熱圧縮によって108Kまで加熱されて核融合反応に至る。閉じ込めは小質量な燃料自身の慣性によるため、全てが極めて短時間で終わらねばならない。
【0012】
しかし、均一に燃料球を加熱・圧縮するのが困難である。流体力学的な不安定性により、均一性は本質的に確保しづらいからである。この方式では、燃料を閉じ込めるのみならず積極的に圧縮しなければならないため、不安定性の成長が速く燃料球殻が破けてしまいがちという問題もある。
【0013】
そして、レーザーで点火する場合、電力からレーザーへの変換効率の低さが問題となる。単にレーザーを発生すればよいわけではなく、チャープパルス圧縮などを使ってごく短時間に高エネルギーを詰め込まねばならないため、どうしてもエネルギー効率は低くなる。
【0014】
ワンショットのレーザーであればともかく、連続的に反応を継続するためには各種の問題をクリアする必要がある(レーザー発振器の寿命、炉内に蓄積してくる物質の影響など)。
【0015】
また、従来の閉じ込め方式に共通の問題としては、中性子線やX線が炉壁に直接照射されてダメージを与えることである。このため、適切な除熱や脆化・放射化への対策を行う必要がある。超電導マグネットを用いる方式などは特にデリケートな問題となり得るし(例えば中性子線による冷媒の加熱が問題である)、ブランケットを用いると交換によるメンテナンスコストや低レベル放射性廃棄物の増加・リチウムなど比較的希少な資源の核改変による不可逆的消費をもたらす。
【0016】
トリチウムの調達・取り扱いが困難となるという問題もある。核融合の反応条件が最も緩いのがD-T反応であるため、希少であり放射性物質であるトリチウムを比較的多量に扱う必要がある。
【0017】
特許文献1には、長さが約3mmの1000個のカーボンナノチューブを並列に電極間に接続し、パルス的に電圧を与えて、カーボンナノチューブの閉じ込められた系の内部で核変換を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特表2009-518646号公報(図3など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、特許文献1では、全体で200Ωの1000個のカーボンナノチューブに200ナノ秒、200Vのパルス電圧を10kHzの頻度で印加しており([0070])、200Wを200ナノ秒つまり40000ナノジュールを1000本で分け合うことで、1パルス1本当たり40ナノジュールを印加している。ナノチューブ1本の重さは10-12gのオーダーなので1g当たりでは40000J、グラファイトの比熱は2J/g・K程度なので、結果として計算上の昇温幅は10000Kのオーダーとなる。これに加熱中の周囲への熱散逸やパルス形状の影響等を考えれば、4000Kを超えない温度に留まると予想される。パルス電圧が10kHzなので約100マイクロ秒の非印加期間があるため、その間に冷えて遮熱層が潰れるなどして、全体としてカーボンナノチューブを破壊するには至らない設計とされていると考えられる。
【0020】
このように、特許文献1では、4000Kを超えない到達温度に留まると考えられ、核融合反応に必要な108K程度の高温を実現することができない。
【0021】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、核融合反応発生装置に使用することができるプラズマ発生装置およびプラズマ発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本開示の参考例に係る核融合反応発生装置は、核融合燃料を含む絶縁性を有する媒体に電位差を与える少なくとも一対の電極と、前記一対の電極に接続された電源と、前記媒体に分散された導電性を有する複数のナノ構造材料と、を備え、各前記ナノ構造材料は、直径が1nm以上100nm以下、長さが0.5mm以上100mm以下とされた端部を有する長尺とされ、前記電極間の距離が1mm以上100mm以下とされ、前記電位差が10kV以上1000kV以下とされている。
【0023】
電源から給電して一対の電極間に電位差を与えると、媒体に分散された複数のナノ構造材料のうち、一方の電極から他方の電極にわたって少なくとも一本の導電パスが形成される。電極間の距離が1mm以上100mm以下で電位差が10kV以上1000kV以下とされているので、形成された導電パスにはプラズマを生成するのに十分なエネルギーが与えられる。これにより、ナノ構造材料によって形成された導電パスはプラズマフィラメントを形成し、プラズマを発生することができる。これにより、108K程度の高温を実現することができる。そして、媒体に核融合燃料(例えば重水やトリチウム、炭化重水素など)を含むので核融合反応の燃料として用いられ、核融合反応を発生させることができる。
ナノ構造材料としては、例えば、カーボンナノチューブなどのナノチューブ、銅ナノワイヤなどのナノワイヤ、ナノコイル、グラフェンナノリボン、導電性ポリマーなどを用いることができる。
【0024】
本開示の一態様に係るプラズマ発生装置は、絶縁性を有する媒体に電位差を与える少なくとも一対の電極と、前記一対の電極に接続された電源と、前記媒体に分散された導電性を有する複数のナノ構造材料と、を備え、各前記ナノ構造材料は、直径が1nm以上100nm以下、長さが0.5mm以上100mm以下とされた端部を有する長尺とされ、前記電極間の距離が1mm以上100mm以下とされ、前記電位差が10kV以上1000kV以下とされている。
【0025】
電源から給電して一対の電極間に電位差を与えると、媒体に分散された複数のナノ構造材料のうち、一方の電極から他方の電極にわたって少なくとも一本の導電パスが形成される。電極間の距離が1mm以上100mm以下で電位差が10kV以上1000kV以下とされているので、形成された導電パスにはプラズマを生成するのに十分なエネルギーが与えられる。これにより、ナノ構造材料によって形成された導電パスはプラズマフィラメントを形成し、プラズマを発生することができる。これにより、108K程度の高温を実現することができる。
ナノ構造材料としては、例えば、カーボンナノチューブなどのナノチューブ、銅ナノワイヤなどのナノワイヤ、ナノコイル、グラフェンナノリボン、導電性ポリマーなどを用いることができる。
【0026】
本開示の参考例に係る核融合反応発生方法は、核融合燃料を含む絶縁性を有する媒体に電位差を与える少なくとも一対の電極と、前記一対の電極に接続された電源と、前記媒体に分散された導電性を有する複数のナノ構造材料と、を用いて行う核融合反応発生方法であって、各前記ナノ構造材料は、直径が1nm以上100nm以下、長さが0.5mm以上100mm以下とされた端部を有する長尺とされ、前記電極間の距離が1mm以上100mm以下とされ、前記電位差が10kV以上1000kV以下とされている。
【0027】
本開示の一態様に係るプラズマ発生方法は、絶縁性を有する媒体に電位差を与える少なくとも一対の電極と、前記一対の電極に接続された電源と、前記媒体に分散された導電性を有する複数のナノ構造材料と、を用いて行うプラズマ発生方法、各前記ナノ構造材料は、直径が1nm以上100nm以下、長さが0.5mm以上100mm以下とされた端部を有する長尺とされ、前記電極間の距離が1mm以上100mm以下とされ、前記電位差が10kV以上1000kV以下とされている。
【発明の効果】
【0028】
108K程度の高温を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本開示の一実施形態の一実施例に係る核融合反応発生装置を示した概略構成図である。
図2図1に対応し、スイッチをオンとした状態を示した概略構成図である。
図3図1及び図2の計算モデルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本開示に係る一実施形態について説明する。
本実施形態に係る核融合反応発生装置は、点火時に、加熱する燃料の量と空間的な大きさを極限まで小さくする。これにより、慣性核融合の10-6程度の量的・空間的な燃料しか加熱しないことにより、現実的な仕事率で急速な加熱を実現することができる。
【0031】
核融合燃料(例えば重水やトリチウム、炭化重水素など:以下、単に「燃料」という。)としての絶縁性を有する液体(媒体)に、導電性の微小長尺のナノ構造材料(典型的には直径が数10nm程度)を分散したものに、全体の絶縁破壊を起こさない程度の高電圧を印加する。ナノ構造材料としては、例えば、カーボンナノチューブなどのナノチューブ、銅ナノワイヤなどのナノワイヤ、ナノコイル、グラフェンナノリボン、導電性ポリマーなどを用いることができる。
【0032】
部分的な絶縁破壊によりナノ構造材料に電流が流れ、十分に高い電位勾配が印加されていれば、通常ならばナノ構造材料が破断するような温度になっても、自己インダクタンスによって電流は流れ続け、相転移により燃料中に微細なプラズマフィラメントが発生する。プラズマは良導体であるため、これに電流を流して加熱する(ジュール加熱、電球のフィラメントや電熱線と同様のエネルギー集中法)とともに、陽イオンをマイナス極側に電磁ポテンシャルを下らせて加熱する。
【0033】
なお、核融合においては、アメリカ、サンディア国立研究所がZマシンにて金属ワイヤー(直径0.1mm程度)に高電圧を印加しプラズマ化する実験を行っている。これに対して、本実施形態においてはその10-3ほどの直径、10-6ほどの断面積の非常に細いプラズマフィラメントを生成することとなる。プラズマは昇温により高圧になるため速やかに拡散してしまい、また液体に接しているため熱が速やかに拡散してしまうとも考えられるが、液中プラズマのように存在し続けることができる。
【0034】
プラズマフィラメントには、以下の選択性が生ずる。
(1)導電の選択性
プラズマは良導体であるのに対し、周囲の電離していない燃料は絶縁体であるため、プラズマ部分だけが選択的にジュール加熱される。
【0035】
(2)閉じ込めの選択性
プラズマ部分は、電流が流れることでアンペールの法則によって発生した磁場で閉じ込められる(磁場閉じ込め、Zピンチ)。一方、電離していない燃料には閉じ込め力は働かないため、加熱され高圧となったが電離していない燃料がプラズマと周囲の燃料を引き離し、プラズマの熱が周囲に拡散しにくくなる(例えば膜沸騰やバーンアウト)。また、プラズマの表面積が小さいことも熱拡散を遅らせる要素となる。
【0036】
上記のような核融合プラズマが発生するところまでプラズマフィラメントを加熱するのに必要なエネルギーは小さい。プラズマフィラメントに含まれる物質量が少ないからである。仮に加熱中に周囲の燃料を取り込み、太さ100nm(=10-5cm)、長さ1cmのプラズマフィラメントになったとして、その物質量は10-10g程度に過ぎない。
【0037】
プラズマに対する閉じ込め力としては、特に高温においては熱放射による放射圧も重要となる。プラズマの表面積が小さいため、放射のエネルギー密度に比例する放射圧は従来法よりも大きくなるためである。
【0038】
ただし、電離している領域と電離していない領域が明確に分かれるわけではない。ある温度では個々の粒子はMaxwell分布に従った様々な速度を持つため、おおむね5000K~20000K程度では、電離している粒子と電離していない粒子が混在している(サハの電離公式)。電離度は電気抵抗を決めるため、周辺部になるに連れて電流が流れにくくなってゆく領域が発生する。この領域でもジュール加熱がされるが、電離した粒子にはローレンツ力によりプラズマフィラメントへと引き込まれる力が働くため、周辺領域では高エネルギーの粒子だけが引き抜かれることで冷却がされることとなり、熱の散逸は妨げられる。炭素・酸素などの部分電離する原子には、結果的に温度が高く電離度が高いほど強い閉じ込め力が働く(完全に電離すれば重水素とほぼ同じ閉じ込め力が働く)。
【0039】
周囲の燃料はプラズマフィラメントに加熱されて温度勾配ができる。密度が一定の状態で温度勾配ができると圧力勾配が生じるため、プラズマフィラメントから離れる方向に粒子の流れが生じる。そのため、この流れに逆らって周囲の冷たい燃料がプラズマフィラメントに影響を与える可能性は低くなる。流れの結果圧力平衡が成立した場合、粒子密度は温度に反比例することとなる。
【0040】
プラズマフィラメントには閉じ込め力が働くものの、これを長時間、安定して閉じ込めておくことは、一般には困難である。キンク不安定性などの流体力学的な不安定性、メゾスコピック領域であるがゆえのゆらぎの大きさなどから、プラズマフィラメントは複雑な形状となってゆく。また、加熱に時間を掛け過ぎると、プラズマフィラメントが周囲の燃料を取り込んで太くなり、より大きな電流が流れて電源の負荷が大きくなってゆく。ゆえに、放射損失を少なくするためにも、ある程度高速に加熱した方がよい。
【0041】
プラズマフィラメントの発熱速度は、電位勾配の大きさで決まるため、絶対的な印加電圧が大きくなくとも、電極間の距離が小さければ大きな発熱速度を実現できる(例えばスパークプラグと同様のエネルギー集中法)。本実施形態では、容易に入手可能な直流電源を用いて電圧100kVとし、電極間の距離を1cmとすれば、水の絶縁耐力に近い10MV/mとなる。また、この条件においては、重水素イオンがマイナス極側に数mm動けば、核融合反応を起こすに十分なエネルギーが与えられる。炭素イオンや酸素イオンならば、さらに短い移動距離で十分なエネルギーが与えられる。
【0042】
プラズマフィラメントに不安定性があることは、核融合点火にとってプラスともなる。ナノチューブやナノワイヤはL/D比(アスペクト比)が大きいため、プラズマフィラメントの全長にわたり、不安定性により多様な形状・状況のプラズマが発生する。そのため、電流が流れなくなった際に自己点火するプラズマが1か所も発生しない確率は低くなり、高い確率での自己点火プラズマの発生が期待できる。
【0043】
加熱する物質量が小さいため、加熱した燃料のみしか核融合反応をしないようでは実用にはならない。プラズマフィラメントを十分に加熱すれば、電流を切った後でも自己点火領域(放射等で外に散逸するエネルギーよりも、核融合により内部で発生するエネルギーの方が大きい領域)がある確率で発生する。自己点火領域がいったん発生すれば、周囲は液体密度の燃料で囲まれているため、主に核融合プラズマからのα線により、自己点火領域は拡大を始める。この拡大は、周囲の燃料が吹き飛ばされて十分に減圧するまで継続する(慣性閉じ込め)。加熱により発生したプラズマは、圧力こそ非常に高いものの、質量は周囲の冷たい燃料の方が桁違いに大きいため、簡単に減圧することはできない。この状況は、爆薬の起爆と類似する。
【0044】
一方、本実施形態においては、(レーザー核融合などとは異なり)燃料の周囲に物体を配置することに強い制限はない。そのため、減圧を遅らせ、核融合反応の持続時間を延長することなどを目的としたタンパー(tamper)を燃料周囲に配置することができる。タンパーが中性子線などによって加熱され、周囲に飛散する反作用でプラズマが圧縮され、減圧するまでの時間を延長できる。
【0045】
タンパーは、慣性により核融合プラズマを閉じ込める、核融合プラズマから放射される中性子線やX線を吸収し炉壁を保護する、核融合プラズマの超高温を、発電を行うのに扱いやすい温度に変換するバッファーとなる、という役割を持つ。そのため、中性子線やX線を吸収する流体であることが望ましい(例えば溶融金属と水の組み合わせ、重金属を分散した水など)。
【0046】
燃料の密度については、燃料の密度が大きければ、加熱中の熱の散逸が大きくなるが、加熱後に働く慣性を大きく取れる。その一方で、燃料の密度が小さければ、加熱中の熱の散逸を小さくできるが、加熱後に働く慣性は小さくなってしまう。燃料を超臨界流体にする等すれば、液体密度以上でナノ構造材料が分散している状態から、大気よりも低密度でナノ構造材料が浮遊している状態まで、燃料の密度は任意に制御できるため、目的に見合った密度に調整して点火ができる。燃料密度は加熱途中で変更してもよい。例えば、最初は水蒸気雰囲気の中で通電加熱を始め、通電途中で冷水を合流させるなどとしても良い。
【0047】
なお、燃料に印加する電圧の波形は、直流、交流、あるいは直流にバイアスされた交流であってもよく、それ以外の、点火にカスタマイズされた波形であってもよい。この波形は、プラズマフィラメントへの燃料の取り込み特性を決定すると考えられる。
【0048】
ナノ構造材料の分散密度、および電極の燃料への接触面積を調整することで、同時に発生する導電路の数を調整できる。導電路が少なければエネルギーの集中によってより高い温度まで加熱できる。導電路が多ければ、ピンチ力により導電路同士が引き合うため、より強く燃料を閉じ込められる。なお、対向する電極間の距離は、1本のカーボンナノチューブよりも大きい寸法としてもよい。
【0049】
カーボンナノチューブを採用する場合、チューブ内に燃料(重水素や重水、炭化重水素など)を入れておいたり、燃料を含む置換基を結合させておいたりしてもよい。これにはトリチウムやリチウムを用いて点火補助材としてもよい。これらは特に燃料密度が小さいときに有効な手段となる。
【0050】
カーボンナノチューブは直径10nm程度の細いものが得やすい。また、材質とサイズからX線の吸収率が極めて低く光学的深さが小さく、キルヒホッフの法則により放射率も低いため放射損失が少ないという利点もある。一方、金属ナノワイヤは電荷密度が高いことによって加熱しやすいという利点がある。
【0051】
ナノ構造材料の分散度により、点火状況を制御しても良い。意図的に分散度を下げ、複数のナノ構造材料が絡まった状態で通電することにより、より多様なプラズマ-燃料配置を出現させるという点火戦略をとることができる。
【0052】
燃料としては、実効密度を上げ、反応確率を上げるためには液体重水素を用いることが好ましい。一方、重水や炭化重水素を用いることで酸素イオンや炭素イオンを混在させることにはメリットがある。まず密度が大きく、より大きな慣性で閉じ込めができる。またイオンが完全電離している場合、重水素イオン、酸素イオン、炭素イオンは比電荷が近いため、電磁的には同じような振る舞いをし、通電中には同じような軌跡を描いて運動するが、電流が止まって熱的な挙動を始めると、重水素イオンに比べて酸素イオンは8倍、炭素イオンは6倍の温度になっている。温度が高いほど拡散速度は大きいため、ピンチ力による閉じ込めから解放されると、まず酸素イオンや炭素イオンが広がって重水素イオンが保温・加熱され、核融合反応が促進されることとなる(これにはソレー効果も関係する)。
【0053】
[実施例]
以下に上述した実施形態に一実施例について図面を用いて説明する。
図1には、本実施形態の一実施例に係る核融合反応発生装置1の概略が示されている。同図に示すように、核融合反応発生装置1は、絶縁性を有する液体2に電位差を与えるように一対の電極3,3が設けられている。電極3,3は例えば金属製とされており電極3,3間の距離は1cmとされている。電極3,3間の距離は、1本のカーボンナノチューブ4よりも大きい寸法とされている。
【0054】
各電極3,3には直流電源(電源)5がスイッチ6を介して電気的に接続されている。直流電源5は100kVの電圧を電極3,3に印加できるようになっている。したがって、液体2に印加される電界強度は10MV/mとなる。
【0055】
液体2は、絶縁性を有し、重水を含む水とされている。液体2中には、多数のカーボンナノチューブ4が分散されている。カーボンナノチューブ4の直径は約10nm、長さは約3mmとされている。
【0056】
スイッチ6は、制御部によってオンオフ動作が制御される。制御部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0057】
図2に示すように、制御部の指令によってスイッチ6をオンとすると、電極3,3間に直流電圧が印加され、液体2に10MV/mの電界強度が加えられる。図2に示すように、カーボンナノチューブ4が液体2中に分散されているので、一定の確率で各カーボンナノチューブ4の端部が他のナノチューブの端部や電極3に十分近接している。そして、カーボンナノチューブ4の端部間またはカーボンナノチューブ4の端部と電極3,3との間隙に絶縁破壊が起こり、電流Iが流れる。純水の絶縁耐力は60MV/m程度なので、その他の部分では電流は流れない。流れる電流Iは導電路のどこでも一定であり、カーボンナノチューブ4の部分では、直径10nmオーダーの狭い領域を通過するため電流密度が高く、その結果エネルギー密度及び磁場強度が高くなる。
【0058】
図3には、図1及び図2を単純化した計算モデルが示されている。
計算の単純化のため、複数のカーボンナノチューブ4が電極3,3間で一連に直列結合したモデルを考える。
【0059】
一連のカーボンナノチューブの体積は1×10-6×10-6=10-12(cm3)である。参考として、電球のフィラメントは1×10-2×10-2=10-4(cm3)である。カーボンナノチューブと電球フィラメントの粒子密度が同程度なら(固体の粒子密度は大差ない)同じ電力を注入した場合、カーボンナノチューブの粒子ひとつが受け取るエネルギーは、電球フィラメントの108倍となり、高速加熱が可能となる。
【0060】
カーボンナノチューブがグラファイトと同程度の密度であれば、10-12 cm3のカーボンナノチューブの質量は2.2×10-12gとなる。プラズマの定圧比熱は、20000Kにおいて100J/g・K程度(文献値:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjtp1987/4/1/4_1_3/_pdf/-char/jaのFig.6より)なので、このカーボンナノチューブを108Kまで加熱するのに必要なエネルギーは10-2Jのオーダーとなる。したがって、100kVの電圧であればこのエネルギーを十分に注入できる。
【0061】
次に、本実施形態に係る核融合反応発生装置によって108Kまで加熱できないとすればどういう要因があるかについて検討する。
加熱の途中で特にナノチューブが蒸発した段階で電流が途切れることが考えられる。しかし、自己インダクタンスによって電流が途切れることはないといえる。また、炭素蒸気が導電を妨げない実例として、カーボンアークランプがある。
発生したプラズマの太さが急激に増大し、十分なエネルギーを注入する前に電源容量をオーバーしてしまうことが考えられる。しかし、プラズマの表面積が小さく熱が流れにくいこと、非電離ガスによる遮熱層ができることから、プラズマが太くなり電源容量オーバーとなることはない。実際の液中プラズマでも、プラズマの太さが急激に増大するような現象は確認されていない。
【0062】
以上説明した本実施形態の作用効果は以下の通りである。
電源から給電して一対の電極間に電位差を与えると、液体に分散された複数のナノ構造材料のうち、一方の電極から他方の電極にわたって少なくとも一本の導電パスが形成される。電極間の距離が1cm程度で電位差が100kV程度とされているので、形成された導電パスにはプラズマを生成するのに十分なエネルギーが与えられる。これにより、ナノ構造材料によって形成された導電パスはプラズマフィラメントを形成し、プラズマを発生することができる。これにより、108K程度の高温を実現することができる。そして、媒体に重水素を含むので核融合反応の燃料として用いられ、核融合反応を発生させることができる。
【0063】
なお、上述した実施形態及び実施例では核融合反応発生装置ないし核融合反応発生方法として説明したが、プラズマ発生装置ないしプラズマ発生方法として用いることもできる。
また、カーボンナノチューブ4として、直径が10nmとして説明したが、直径が1nm以上100nm以下、長さが0.5mm以上100mm以下の範囲であれば良い。
電極3,3間の距離を1cmとして説明したが、1mm以上100mm以下の範囲であれば良い。
電極3,3の電位差を100kVとして説明したが、10kV以上1000kV以下の範囲であり、電極間距離と共に全体の絶縁破壊を起こさない程度の電界強度となれば良い。
【符号の説明】
【0064】
1 核融合反応発生装置
2 液体(媒体)
3 電極
4 カーボンナノチューブ
5 電源
6 スイッチ
【要約】
【課題】108K程度の高温を実現することができる核融合反応発生装置を提供する。
【解決手段】 核融合反応発生装置1は、重水を含む絶縁性を有する液体に電位差を与える少なくとも一対の電極3,3と、一対の電極3,3に接続された直流電源5と、液体に分散された導電性を有する複数のカーボンナノチューブ4と、を備えている。各カーボンナノチューブ4は、直径が10nm程度、長さが3mm程度とされている。電極3,3間の距離が1cmとされている。電極3,3の電位差が100kVとされている。
【選択図】図1
図1
図2
図3