(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】湿式摩擦紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 17/48 20060101AFI20240708BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
D21H17/48
C09K3/14 520H
C09K3/14 530G
(21)【出願番号】P 2023501808
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(86)【国際出願番号】 DE2021100496
(87)【国際公開番号】W WO2022012708
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】102020118410.7
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102020123040.0
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestr. 1-3, 91074 Herzogenaurach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シュタインメッツ
(72)【発明者】
【氏名】グレゴア マテアン
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第02205592(GB,A)
【文献】特開平07-138450(JP,A)
【文献】特開昭61-063797(JP,A)
【文献】特開平04-198227(JP,A)
【文献】特表2019-534954(JP,A)
【文献】特開昭59-206435(JP,A)
【文献】特開2000-039033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H11/00- 27/42
F16D25/00- 39/00
48/00- 48/12
49/00- 71/04
C09K 3/14
B29B11/16
15/08- 15/14
C08J 5/04- 5/10
5/24
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の繊維からなる少なくとも1つの繊維画分と、少なくとも1種のフィラーの画分と、フェノール樹脂系バインダーの画分と、を含有する、湿式摩擦紙を製造する方法であって、
前記繊維画分と、前記フィラー画分と、フェノラート溶液として溶解された前記バインダーとが、製紙プロセスにおいて、纏めて加工されてパルプが形成され、前記バインダーが
、沈殿
剤によって沈殿され
る湿潤段階を経て、長網スクリーンに塗布された前記パルプが、温度上昇中、乾燥および硬化され
、
前記バインダーが沈殿されるプロセスにおいて保持剤が使用され、前記パルプのゼータ電位が80mV±8mVに設定されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
フェノラートレゾールを前記バインダーとして使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
800秒の滞留時間に基づいて、前記パルプが3000Pa*s未満の粘度に調整されることを特徴とする、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記バインダーの粒子が、沈殿プロセスの結果として、200~1600nmの粒子サイズで沈殿することを特徴とする、請求項1から
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記バインダーが、前記バインダーの硬化中、頻度因子ln20および反応次数<1.5で60KJ/molより大きい活性化エネルギーに調整されることを特徴とする、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
沈殿されたバインダー粒子の粒子サイズが、前記沈殿剤の所定の添加速度および前記沈殿剤の種類によって調整されることを特徴とする、請求項
4または
5に記載の方法。
【請求項7】
前記バインダーが、前記製紙プロセスの乾燥段階において所定の硬度に至ることを特徴とする、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記バインダー
の硬度が、
ローラー処理による前記パルプの
乾燥中、
上昇するか、もしくは下降する温度プロファイルをローラー毎に段階的に設定することによって調整されることを特徴とする、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
30~60重量%の繊維画分、具体的には、アラミド繊維、リンター繊維およびカーボン繊維の混合物と、20~40重量%のバインダー画分、具体的には、フェノラートレゾールと、20~40重量%のフィラー画分、具体的には、セライトと、が使用されていることを特徴とする、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の繊維からなる少なくとも1つの繊維画分と、少なくとも1種のフィラーの画分と、フェノール樹脂系バインダーの画分と、を含有する、湿式摩擦紙を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
英国特許第2 205 592(A)号明細書により、多孔性繊維母材、不活性フィラーおよびフェノール樹脂で作られる摩擦ライニング材などの湿式摩擦紙が公知であり、この場合、繊維母材は、水性スラリーへ加工され、フェノール樹脂は、エマルジョンの形に加工され、フィラーは、ストック液へと加工される。ストック液は、製紙プロセスの形式で長網スクリーンに塗布され、ローラー処理され、乾燥される。乾燥プロセス中、フェノール樹脂は、熱影響下で硬化される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、湿式摩擦紙の製造方法をさらに発展させることである。詳細には、本発明の目的は、湿式摩擦紙の製造を簡素化し、その特性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、請求項1の主題によって達成される。請求項1に従属する請求項は、請求項1の主題の有利な実施形態を表す。
【0005】
提案された方法は、湿式摩擦紙、または特に自動車の摩擦装置、クラッチ装置および/またはブレーキ装置用の層状摩擦材料の製造に使用される。湿式摩擦紙は、少なくとも1種の繊維、例えば、アラミド繊維、カーボン繊維、リンター繊維などのコットン繊維の繊維画分と、例えば、セライトなどの珪藻土、グラファイト、コークスなどの少なくとも1つのフィラーの画分と、例えば、フェノールレゾールなどのフェノール樹脂系バインダーの画分と、を含有する。さらに、シリコーン樹脂、シラン、凝集剤、保持剤、摩擦粒子などの画分が提供され得る。
【0006】
湿式摩擦紙は、製紙プロセスにおいて製造される。これは、例えば、パルプまたは懸濁液などのスラリーが繊維画分および少なくとも1つのフィラーから形成されることを意味する。繊維は、例えば、数ミリメートルの長さの、短く切断された形状である。高水分含有パルプはまた、場合によっては他の樹脂画分と共に、フェノール樹脂成分がフェノラートとして存在するバインダー画分を含有しており、フェノール樹脂は、強アルカリ性溶液、例えば、水酸化ナトリウム溶液または水酸化カリウム溶液中に溶解されている。
【0007】
パルプは、それ自体周知の製紙プロセスにおいて、湿式摩擦紙へと加工される。例えば、パルプは、長網スクリーン上に配置され、湿式プレスユニットでローラー処理され、適切な厚さにされる。その後、パルプは、必要であれば、さらなるローラー処理によって乾燥させる。この場合、乾燥段階では、対応するローラーは、残存溶剤、例えば、水を蒸発させるために、湿潤段階のローラーより高温にされ得る。
【0008】
本発明により、フェノール樹脂のフェノラートとしてパルプ中に溶解して存在するフェノール樹脂の画分が沈殿される。この目的のために、アルカリ性パルプのpHは、酸を添加することによって低下され、例えば、パルプが中和され、その結果、フェノラートが不溶性フェノール樹脂に変換され、沈殿される。例えば、5%硫酸などの希酸が、沈殿剤として使用され得る。沈殿プロセスは、好ましくは常温または製紙プロセスの周囲温度で、湿潤段階で実行される。
【0009】
沈殿プロセス、好ましくは保持剤の使用によって、沈殿されるフェノール樹脂粒子の均一分布が、長網スクリーン上にあるパルプの領域全体にわたって達成できる。このように、製紙プロセスの加圧およびローラー処理プロセスと完成した湿式摩擦紙の乾燥後は、フェノール樹脂粒子の横方向で均一な分布が、2つの表面間の厚さ全体にわたって達成され得ることによって、湿式摩擦紙からなる相互摩擦素材の摩擦の質は、全耐用期間にわたって、実質的に一定した摩擦特性を有する。
【0010】
さらに、フェノール樹脂粒子などの沈殿したバインダー粒子の粒子サイズは、沈殿剤の所定の添加速度によって調整することができる。特に、例えば、0.5kg/sの速度で沈殿剤を添加することによって、200~1600ナノメートルの範囲の特に小粒径のフェノール樹脂、具体的にはフェノールレゾールを得ることができ、これらは、繊維または繊維画分の繊維バンドルに浸透して、均一な分布で繊維に付着する。
【0011】
適切な凝集剤および/または保持剤を添加することにより、例えば、80mV±8mVの好適なゼータ電位が設定され得ることによって、高い転換率の凝集、フェノール樹脂の実質的に100%の添加、が実現され得る。
【0012】
改良された強化特性が、例えば、湿式紙を担体プレートなどの対応するキャリアに接着するプロセスにおいて、パルプのレオロジー特性を適切に調整することによって達成される。ここでは、800秒の滞留時間に基づいて、粘度を3000Pa*s未満に調整することが有利であることが証明されている。言うまでもなく、粘度は他の滞留時間によって変化する可能性があり、粘度を決定するには、指定された滞留時間まで粘度を追跡する必要がある場合がある。
【0013】
フェノール樹脂などのバインダーの硬度、ひいてはその耐摩耗強さ、弾性、耐熱性などは、製紙プロセスの乾燥段階において調整され得る。この場合、ローラーにて均一な温度を設定することもできるか、または乾燥段階において、上昇するか、もしくは下降する温度プロファイルをローラー毎に段階的に設定することもできる。湿式紙の優れた特性、特に、キャリア材料に接着した場合の補強効果は、バインダーの硬化プロセスの活性化電位の調整に依存する。この目的のために、フェノール樹脂とその反応物は、頻度因子ln20および反応次数1.5未満で、硬化プロセスの活性化エネルギーが60KJ/molを超えるように有利に調整される。
【0014】
湿式摩擦紙を製造するための有利な組成物は、例えば、以下を含有することができる。
-40~60重量%の繊維画分、具体的には、アラミド繊維、リンター繊維およびカーボン繊維の混合物、
-30~40重量%のバインダーの画分、具体的には、アルカリ性溶液中にフェノラートとして存在するフェノール樹脂、
-20~40重量%のフィラーの画分、具体的には、セライト。
【0015】
特に有利な組成物は、例えば、以下を含有する。
-26重量%のアラミド繊維、
-6重量%のリンター繊維、
-9重量%のカーボン繊維、
-30重量%のフェノール樹脂(フェノールレゾールなど。高アルカリ性溶液中にてフェノラートとして存在し、後に沈殿させる)、
-29重量%のセライト。
【0016】
言うまでもなく、本発明の概念は、特に提案された方法に従って製造された、記載された湿式摩擦紙も含む。湿式摩擦紙は、対向する2つの表面間で、樹脂粒子の均一分布を有する。バインダーの画分から形成されるバインダー粒子の粒子サイズは、200~1600nmであることが好ましい。
【0017】
製紙プロセスが完了した後、湿式摩擦紙は、シート形状またはロール形状である。この湿式摩擦紙からの摩擦ライニングの製造は、径方向または軸方向に効果を有する摩擦ライニングとしての後の用途に応じて、径方向または軸方向の摩擦面を有するリングまたはリングセグメントの形状にパンチングまたは切断などすることにより、行われる。製紙プロセスに続き、または乾燥段階において、摩擦ライニングまたは湿式摩擦紙の表面の形状を、意図された摩擦面上に、例えば、異なる加圧強度によって与え得る。別法として、またはこれに加えて、用途特定的に必要な穴を設けることもできる。
【0018】
本発明において、湿式摩擦紙から製造される摩擦ライニング、ブレーキライニングなどが本発明に含まれ、本特許出願の一部とみなされ得ることは言うまでもない。
【0019】
要約すると、以下の調整パラメータのうちの少なくとも1つ、有利にはいくつかが、提案された湿式紙の製造プロセスにおいて有利である。
-沈殿した樹脂粒子の粒子サイズは、バインダー、特に、フェノールレゾールの特性と、硫酸などの使用される酸の調整後のpH値を使用したフェノラートの沈殿条件と、沈殿速度、すなわち、酸が添加される速度と、の組み合わせを用いて調整される。
-レオロジー特性を調整は、適切な水または溶媒を加えて、および必要に応じて、樹脂を十分に流動させて補強効果を確保するために、流動化剤を追加することにより、調整される。
-ゼータ電位の調整は、バインダーの品質、例えば、その極性、官能基の種類と数、パルプの特性など、によって設定される。説明したゼータ電位の調整は、沈殿した粒子が繊維画分にしっかりと結合するための前提条件として機能する。
-特定の活性化エネルギーでの反応挙動により、パルプの乾燥の調整と組み合わせて、湿式摩擦紙が、必要な硬化、およびキャリア材料との接着中の接着プロセス中の良好な最終硬化を確実に達成できる。活性化エネルギーを適切に調整することにより確実に達成できることは、抄紙機の乾燥部で湿式紙が乾燥シリンダーに付着しないこと、および担体材料への湿紙の接着時間が好ましくは1分をかなり下回ること、である。