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特許7516682装置の動作性能パラメータを決定するための方法およびシステム
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  • 特許-装置の動作性能パラメータを決定するための方法およびシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】装置の動作性能パラメータを決定するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/06 20060101AFI20240708BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20240708BHJP
   B60W 40/12 20120101ALI20240708BHJP
   B60W 40/103 20120101ALI20240708BHJP
   B60W 40/114 20120101ALI20240708BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20240708BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
B60W50/06
G01M17/007 H
B60W40/12
B60W40/103
B60W40/114
B60W50/14
G05B11/36 G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023560159
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2022055054
(87)【国際公開番号】W WO2022207212
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】21165650.9
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520467176
【氏名又は名称】シーメンス インダストリー ソフトウェア エヌヴェ
【氏名又は名称原語表記】SIEMENS INDUSTRY SOFTWARE NV
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ルーガ,ルドヴィコ
(72)【発明者】
【氏名】ディリックス,トム
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/175844(WO,A1)
【文献】特開2012-131495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置搭載センサ(SNS)およびコンピュータ実装モデル(MDS、MD2)を用いて、装置の動作に関連するパラメータを推定するコンピュータ実施方法であって、以下の工程:
(a)前記装置搭載センサ(SNS)を用いて前記装置(DVC)の動作中に第1のパラメータセット(PS1)を測定すること、
(b)コンピュータに実装される補足モデル(MD1)を提供し、前記補足モデル(MD1)によって前記第1のパラメータセット(PS1)に基づいて第2のパラメータセット(PS2)を決定すること、
(c)前記第1のパラメータセット(PS1)のパラメータを、前記第2のパラメータセット(PS2)のうちの少なくとも1つの選択されたパラメータ(SPS)と結合して、ハイブリッドパラメータセット(PSH)を得ること、
(d)前記ハイブリッドパラメータセット(PSH)のパラメータをカルマンフィルタモジュール(EKF)に提供すること、
(e)前記カルマンフィルタモジュール(EKF)が、第2のモデル(MD2)によって、それぞれのパラメータタイプに関して前記ハイブリッドパラメータセット(PSH)と等価である第3のパラメータセット(PS3)を推定すること、
(f)前記カルマンフィルタモジュール(EKF)が、前記ハイブリッドパラメータセット(PSH)のパラメータと前記第3のパラメータセット(PS3)のパラメータを比較すること、
(g)前記カルマンフィルタモジュール(EKF)が、出力としての出力パラメータセット(PSO)を推定すること、
を含み、
(i)前記第1のパラメータセット(PS1)のそれぞれ1つの別個のパラメータ(DCP)と前記第2のパラメータセット(PS2)の等価なパラメータとの間の偏差(DVT)を決定すること、
(ii)前記偏差(DVT)の値と、前記第3のパラメータセット(PS3)の少なくとも1つのパラメータに関する共分散値(COV)と、の間の相関(CVL)を提供すること、
(iii)決定された前記偏差(DVT)に基づいて、前記相関から共分散値(COV)を決定すること、
(iv)前記出力パラメータセット(PSO)を推定するために、前記共分散値(COV)を前記カルマンフィルタモジュール(EKF)に転送すること、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記装置は、車両であり、
前記少なくとも1つの選択されたパラメータ(SPS)は、車両横滑り角(BTL)である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のパラメータセット(PS1)、前記ハイブリッドパラメータセット(PSH、および前記第3のパラメータセット(PS3)はそれぞれ、横方向速度(PVY)、縦方向速度(PVX)、ヨーレート(PYR)、横方向加速度(PAY)、フロントコーナリング剛性(PCF)、およびリアコーナリング剛性(PCR)のうちの少なくとも1つを含み、
前記カルマンフィルタモジュール(EKF)は、拡張カルマンフィルタである、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記補足モデル(MD1)および/または前記第2のモデル(MD2)のそれぞれに対する入力は、縦方向加速度(PAX)、操舵角(PSA)のうちの少なくとも1つである、
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記補足モデル(MD1)は線形タイプであり、
前記第2のモデル(MD2)は非線形タイプである、
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記共分散値(COV)を決定するための前記別個のパラメータ(DCP)は、ヨーレート(PYR)であり、
決定された前記偏差(DVT)に基づいて前記相関から決定される前記共分散値(COV)は、車両(VCL)の車両タイヤ(VTR)のコーナリング剛性(CRF、CRR)の共分散として前記カルマンフィルタモジュール(EKF)に転送され、
前記相関(CVL)は、偏差が第1の基準よりも小さい場合に第2の基準よりも低い共分散値(COV)を提供し、偏差が前記第1の基準よりも大きい場合に前記第2の基準よりも高い共分散値(COV)を提供する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
以下の追加の工程:
前記出力パラメータセット(PSO)の少なくとも1つのパラメータ、または前記出力パラメータセット(PSO)に基づいて修正されたパラメータを、ユーザ(USR)に対してディスプレイ(DSP)上に表示すること、
をさらに含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
装置の動作に関連するパラメータを推定するために前記装置に適用されるシステム(SYS)であって、
装置搭載センサ(SNS)と、
請求項1~7のいずれか1項に記載のコンピュータ実施方法を実行し、出力としての前記出力パラメータセット(PSO)を生成するように構成された、少なくとも1つの処理ユニット(CPU)と、
を備える、システム(SYS)。
【請求項9】
前記出力パラメータセット(PSO)の少なくとも1つのパラメータ、または前記出力パラメータセット(PSO)に基づいて修正されたパラメータを、ユーザ(USR)に対しディスプレイ(DSP)上に表示するためのディスプレイ(DSP)を含む、
請求項8に記載のシステム(SYS)。
【請求項10】
前記装置は車両であり、
当該システム(SYS)は仮想センサ(VRS)である、
請求項8または9に記載のシステム(SYS)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置搭載センサとコンピュータ実装モデルとを用いて、装置(特に車両)の動作性能パラメータを決定する方法に関する。さらに、本発明は、上記装置(特に車両)の動作性能パラメータを決定するためのシステム(特に、当該装置に適用される仮想センサ)であって、装置搭載センサと、出力パラメータセットを生成するために上述のコンピュータ実装方法を実行するように構成された少なくとも1つの処理ユニットと、を備えるシステムに関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、特に車両用途の仮想センサまたは仮想検知/ソフト検知(プロキシ検知、推論検知、または代理検知)に関するものであり、高コストなまたは非実用的な物理的計測機器に代わる、実現可能で経済的な代替手段を可能にする。仮想検知は、物理的に測定されたデータと適切なモデルとの組合せに基づく推定技術であり、実際のセンサを適用したり対象物に直接接触したりすることなく関心領域内における所望の量の推定を得たり、あるいは直接測定された量の改善(例えば、安定性と信頼性の向上、ノイズ低減など)を得たりすることができる。
【背景技術】
【0003】
非特許文献1および2から、シングルトラック車両モデルと適応線形タイヤモデルとを結合することによって、タイヤのスリップ角と横力との間の非線形関係は、タイヤのスリップ角の値が大きい場合にのみ考慮すればよいことが知られている。
【0004】
非特許文献3に提案されるように、ロール運動を考慮することによって、横方向速度の推定精度を向上できる可能性がある。
【0005】
非特許文献4および5から、請求項1の前文の側面がそれぞれ知られている。
【0006】
ハンドル(ステアリングホイール)の操舵角は、車両モデルの入力の1つであり得る。ハンドルの操舵角は、一般的には、ハンドルの角度を測定し、それを既知の比率で割ることで得られる。しかし、この関係は非線形であることが知られている。この問題に対処するための推定器が、非特許文献6で提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】F. Naets, S. van Aalst, B. Boulkroune, N. E. Ghouti and W. Desmet, "Design and Experimental Validation of a Stable Two-Stage Estimator for Automotive Sideslip Angle and Tire Parameters(自動車の横滑り角とタイヤパラメータの安定した2段階推定器の設計と実験的検証)," (in IEEE Transactions on Vehicular Technology, vol. 66, no. 11, pp. 9727-9742, Nov. 2017, doi: 10.1109/TVT.2017.2742665)
【文献】S. van Aalst, F. Naets., B. Boulkroune, W. Nijs and W. Desmet, "An Adaptive Vehicle Sideslip Estimator for Reliable Estimation in Low and High Excitation Driving(低加振走行および高加振走行における信頼性の高い推定を可能にする適応型自動車横滑り推定器)", IFAC-PapersOnLine, vol. 51, no. 9, pp. 243-248, 2018
【文献】M. Ricci, "Vehicle parameters estimation techniques in low response maneuvers(低応答操縦における車両パラメータ推定技術)", 2018
【文献】BAFFET G ET AL: "Estimation of vehicle sideslip, tire force and wheel cornering stiffness(車両の横滑り、タイヤ力、および車輪のコーナリング剛性の推定)", CONTROL ENGINEERING PRACTICE, PERGAMON PRESS, OXFORD, GB, vol. 17, no. 11, 1 November 2009 (2009-11-01), pages 1255-1264, XP026666765, ISSN: 0967-0661, DOI: 10.1016/ J.CONENGPRAC.2009.05.005
【文献】ANDERSON R ET AL: "Estimation of tire cornering stiffness using GPS to improve model based estimation of vehicle states(車両状態のモデルベースの推定を改善するための、GPSを用いたタイヤコーナリング剛性の推定)", INTELLIGENT VEHICLES SYMPOSIUM, 2005. PROCEEDINGS. IEEE LAS VEGAS, NV, USA JUNE 6-8, 2005, PISCATAWAY, NJ, USA, IEEE, PISCATAWAY, NJ, USA, 6 June 2005 (2005-06-06), pages 801-806, XP010833895, DOI: 10.1109/IVS.2005.1505203 ISBN: 978-0-7803-8961-8
【文献】G. Streppa, "Rotational motion identification from MEMS inertial sensors(MEMS慣性センサによる回転運動の同定)", 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自動車分野における仮想検知は、主に車両制御の分野で使用されている。本発明はまた、仮想センサの使用を、高価で時間のかかる現在の広範な試験方法に代わるものとして、車両動態解析の領域に拡張することを目的としている。このような応用では、通常は無視できると考えられる非線形現象を考慮する必要があるため、解析および試験には、従来の自動車用の推定器よりも高い精度が必要とされる。これは、難易度の高いオンセンタードライビングシナリオ(直進走行)において特に当てはまり、横方向速度のように、高い横方向加速度では容易に測定できる量でさえ、信頼できなくなる。
【0009】
本発明の1つの目的は、装置(特に車両)の動作パラメータの決定を改善して動的解析および試験を可能にし、その技術分野における現在の慣習を、望ましくは非線形現象(例えば、オンセンタードライビングシナリオ)に関する自動車推定器について、より高精度のものにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、独立請求項により達成される。従属請求項には、発明の有利な改良や変更が記載されている。
【0011】
本発明は、装置搭載センサとコンピュータ実装モデルとを用いて、装置(特に車両)の動作性能パラメータを決定するコンピュータ実施方法を提供する。この方法は、以下のステップ:
(a)前記センサを使用して、前記装置の動作中に第1のパラメータセットを測定すること、
(b)コンピュータに実装された補足モデルを提供し、前記補足モデルによって第2のパラメータセットを決定すること、
(c)前記第1のパラメータセットのパラメータを、前記第2のパラメータセットのうちの少なくとも1つの選択されたパラメータと組み合わせて、ハイブリッドパラメータセットを得ること、
(d)前記ハイブリッドパラメータセットのパラメータを、カルマンフィルタモジュールに提供すること、
(e)前記カルマンフィルタモジュールが、第2のモデルによって、前記ハイブリッドパラメータセットとそれぞれのパラメータ種に関して等価な第3のパラメータセットを推定すること、
(f)前記カルマンフィルタモジュールが、前記ハイブリッドパラメータセットおよび前記第3のパラメータセットの前記パラメータを比較すること、および
(g)前記カルマンフィルタモジュールが、出力パラメータセットを推定すること、
を含む。
【0012】
本発明によるコンピュータ実施発明とは、コンピュータ、コンピュータネットワーク、または他のプログラマブル装置の使用を伴うものであり、1つ又は複数の特徴が、全体的に、または、部分的に、コンピュータプログラムによって実現される。当業者であれば、本明細書または特許請求の範囲に照らして、コンピュータによって実施されるステップと理解され得る本発明に係る全ての方法ステップは、本方法のコンピュータ実施のステップとみなすことができる。コンピュータ実施方法は、コンピュータなしで実施されるステップを含むことができる。
【0013】
本発明によるカルマンフィルタ(Kalman filter)は、経時的に観測される一連の測定を使用する線形二次推定方法で、統計的ノイズやその他の不正確性を含み得るものであり、カルマンフィルタは、未知の変数の推定を生成する。カルマンフィルタは、遷移系および測定系の両方において、加算性独立白色雑音を有する線形システムモデルのための最適線形推定器と考えることができる。
【0014】
本発明と従来技術との違いの1つは、特にこれらの量について低い値および/または低い動的値のみしか予測されない状況において、所望の量の推定に特に重点が置かれていることである。このような場合、これらの量は、通常は一定またはゼロに設定される。例えば、車両運動力学の場合、コーナリング剛性および横滑り角は、操舵角が小さい状況(すなわち、高速道路上で直線上に留まるために制限されたハンドル操作が実行される「オンセンター性能」)では、一定値またはゼロ値に設定される。本発明は、2つの異なるモデルを考慮することを提案する。1つはハイブリッドパラメータセットを準備するためのものであり、もう1つはカルマンフィルターの一部として、好ましくは非線形挙動(例えば、スリップ角の値が小さい場合に特徴的であり得る車両のタイヤスリップに関するもの)を考慮するものである。なお、スリップ角の量は、従来は、ゼロ、一定、または少なくとも線形挙動であると考えられていたものである。車両力学の場合、例えば、本発明による方法によって得られる少なくとも1つの車両タイヤのコーナリング剛性は、車両の横荷重を計算するために用いることができる。
【0015】
本発明によれば、以下の付加的なステップが提供される:
(i)第1のパラメータセットの1つの別個のパラメータと、前記第2のパラメータセットの等価なパラメータと、のそれぞれの間の偏差を決定すること、
(ii)前記偏差の値と、前記第3のパラメータセットのうちの少なくとも1つのパラメータの共分散値と、の間の相関を提供すること、
(iii)決定された偏差に基づいて、前記相関から共分散値を決定すること、
(iv)前記出力パラメータセットを推定するために、共分散値を前記カルマンフィルタモジュールに転送すること。
共分散は、カルマンフィルタにおいて、決定された測定または推定についての不確実性のレベルを表す。この特徴により、最終的な推定器の性能を調整するためのチューニングパラメータとして共分散を使用する。
【0016】
最も好ましくは、本発明が適用される装置は車両であり、この場合、前記少なくとも1つの選択されたパラメータは、車両の横滑り角であり得る。
【0017】
別の好ましい実施形態では、前記パラメータセットはそれぞれ、横方向速度、縦方向速度、ヨーレート、横方向加速度、フロントコーナリング剛性、およびリアコーナリング剛性のうちの少なくとも1つを含む。
【0018】
最も好ましい前記カルマンフィルタモジュールは、拡張カルマンフィルタであってよく、これは、現在の平均および共分散の推定について線形化するカルマンフィルタの非線形版である。拡張カルマンフィルタは、多変量のテイラー級数展開を適応させて、作用点に関するモデルを線形化する。システムモデルが不正確な場合、モンテカルロ法、特に粒子フィルタ、を推定に使用することができる。拡張カルマンフィルタは、非線形であってもよいが、微分可能な関数であることが望ましい。
【0019】
本発明を車両に適用する1つの好ましい応用例は、補足モデルおよび/または第2のモデルそれぞれへの入力が、縦加速度、操舵角のうちの少なくとも1つである、ものを提供する。これらの量は、従来の測定装置で容易に取得することができ、平均的な車両の標準装備の一部であってもよい。
【0020】
前記補足モデルが線形タイプであり、前記第2のモデルが非線形タイプである場合に、出力される推定の最良の精度が得られるようになる。これにより、好ましくは動作状況に応じて、両方のモデルタイプの利点を利用することができる。線形タイプのモデルは、好ましくは、シングルトラック車両モデルであってよく、非線形タイプのモデルは、適応線形タイヤモデルであってよい。
【0021】
共分散調整によって共通フィルタ出力を調整する場合、本発明の好ましい一実施形態は、共分散値の決定のための前記別個のパラメータが、ヨーレートであることを提供する。ここで、決定された偏差に基づいて前記相関から決定される共分散値は、前記車両の車両タイヤのコーナリング剛性の共分散として前記カルマンフィルタに転送され、前記相関は、偏差が小さい場合にはより低い共分散値を提供し、偏差が大きい場合にはより高い共分散値を提供する。
【0022】
本発明による方法の1つの好ましい使用法は、前記出力パラメータセットの少なくとも1つのパラメータまたは前記出力パラメータセットに基づく修正パラメータを、ユーザに対してディスプレイ上に表示することによって、オペレータまたはユーザに知らせることであってもよい。したがって、本発明によるシステムの好ましい一実施形態は、前記出力パラメータセットの少なくとも1つのパラメータまたは前記出力パラメータセットに基づく修正パラメータを、ユーザに対してディスプレイ上に表示するためのディスプレイを提供する。
【0023】
本発明による方法は、装置、特に車両、に適用される仮想センサという面において、該装置の動作性能パラメータを決定するために有益に使用可能であり、前記システムは、
装置搭載センサと、
本発明に係るコンピュータ実施方法を実行するように構成された少なくとも1つの処理ユニットと、
を備える。
このような視覚センサは、現実世界のある部分をシミュレートする特定のデジタルツインとして理解することができ、物理的実体を測定するセンサによってフィードバックに接続されて、そのシミュレーションを仮想センシング位置の周囲の現実世界の環境と整合させる。
【0024】
本発明による方法の有利な構成および実施形態は、特許請求の範囲および以下の説明の態様から導かれる。
【0025】
以下に、本発明の実施形態を、単なる例示として、添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明による方法ステップおよび仮想センサとしての本発明によるシステムを示す概略図である。
【0027】
図面は概略的な形で図示されている。異なる図において、類似または同一のパラメータに、同一の参照符号が付されている場合があることに留意されたい。
【0028】
図面の説明
図1は、本発明による方法-ステップとこの方法を実施するためのシステムの概略図を示しており、前記システムは仮想センサである。図1は、装置(DVC)~ここでは、本発明による方法が組み込まれ得る車両(VCL)~に適用される前記方法を示す。ここでは、センサ(SNS)を使用して、車両(VCL)の運転中における第1のパラメータセット(PS1)の測定[ステップa]が実行される。車両(VCL)は、ユーザからの入力(IPT)として、ハンドルにおける操舵角δと、前後加速度axと、を自動車のエンジンからそれぞれ受け取る。操舵角δは、ハンドルにおける角度を測定し、既知の比率で除算することによって得ることができる。前後加速度axは、加速度計によって得ることができる。この入力(IPT)は、第2のパラメータセット(PS2)を決定するために、コンピュータに実装された補足モデル(MD1)に転送される[ステップb]。
【0029】
補足モデル(MD1)は、線形モデルである。補足モデル(MD1)は、横滑り角βlinに関し次式が適用され得るという微小角度の仮定の下で、線形補足モデル(MD1)を時間積分することによって得られ、仮想測定とみなすことができる仮想横滑り角βlinを受け取る。
【数1】
式中、vyは横方向速度であり、vxは縦方向速度である。
【0030】
補足モデル(MD1)は、以下のように定式化することができる。
【数2】
【0031】
次のステップ(c)では、第1のパラメータセット(PS1)のパラメータが、第2のパラメータセット(PS2)のうちの少なくとも1つの選択されたパラメータ(SPS)~ここでは、βlin~と組み合わされて、ハイブリッドパラメータセット(PSH)が得られる。このハイブリッドパラメータセット(PSH)は、測定量と、仮想センサ測定とみなされる少なくとも1つの計算量と、を含む。
【0032】
続くステップ(d)において、ハイブリッドパラメータセット(PSH)のパラメータは、カルマンフィルタモジュール(EKF)に提供される。
【0033】
カルマンフィルタモジュール(EKF)は、ステップ(e)内で、第2のモデル(MD2)によって、それぞれのパラメータタイプに関してハイブリッドパラメータセット(PSH)と等価である第3のパラメータセット(PS3)を推定する。ここで、カルマンフィルタモジュール(EKF)は、適応線形タイヤモデルと結合されたシングルトラックモデルを採用する拡張カルマンフィルタであり、次の状態方程式のセットを結果として生じる。
【0034】
【数3】
コーナリング剛性値Cf,Crは、横加速度が低レベルであってもタイヤの非線形挙動を考慮するために(オンセンタードライビング条件と同様)、ランダムウォークモデルを用いてモデル化される。
【0035】
カルマンフィルタモジュール(EKF)の初期出力方程式のセットは以下のとおりである。
【数4】
【0036】
カルマンフィルタモジュール(EKF)の最終的な出力方程式は、前記補足モデル(MD1)から得られた前記横滑り角βlinの仮想測定でこの方程式を補強することにより得られ、ここでは、上記で参照した線形モデルを経時的に積分することによって得られる。最終的な方程式は、次のようになる。
【数5】
前記横滑り角βlinの仮想測定は、コーナリング剛性が基本的に観測不可能となる直進走行中に、信頼できる参照を提供する。さらに、前記横滑り角βlinの仮想測定は、特に横方向加速度が低レベルの場合に、測定が非常に困難な横方向速度に対する追加の基準を提供する。
【0037】
方法ステップ(f)において、カルマンフィルタモジュール(EKF)は、ハイブリッドパラメータセット(PSH)および第3のパラメータセット(PS3)のパラメータを比較する。このことは、図1に、差分(DIF)の決定によって示される。
【0038】
ステップ(g)において、拡張カルマンフィルタモジュール(EKF)は、カルマンフィルタ出力モジュール(EKF-OTP)によって、出力パラメータセット(PSO)を推定する。この推定は、線形二次推定(LQE)として知られている既知の方法で行われる。線形二次推定(LQE)は、測定履歴を含む前記測定を使用するアルゴリズムである。これらの測定は、統計的ノイズやその他の不正確さを含む可能性がある。カルマンフィルタモジュール(EKF)は、単一の測定のみに基づく推定よりも正確である可能性が高い状態変数の推定を生成する。カルマンフィルタモジュール(EKF)は、各時間枠の変数に対する同時確率分布を推定する。
【0039】
単純化されたモデル(補足モデル(MD1))の結果としてのβlinのような仮想参照を使用することは、特定の動作条件における車両の実際の挙動を正しく表現する可能性があるが、他の動作条件ではエラーや制限を招くこともある。
【0040】
図1は、精度を高めるために、この問題にそれぞれ対処するための以下の追加のステップを示す。
(i)第1のパラメータセット(PS1)のうちのそれぞれ1つの別個のパラメータ(DCP,DCP1)と、第2のパラメータセット(PS2)のうちの等価なパラメータ(DCP,DCP2)と、の間の偏差(DVT)を決定すること
(ii)前記偏差(DVT)の値と、前記第3のパラメータセット(PS3)の少なくとも1つのパラメータに関する共分散値(COV)と、の間の相関(CVL)を提供すること
(iii)決定された偏差(DVT)に基づいて、前記相関(CVC)から、共分散値(COV)を決定すること
(iv)前記出力パラメータセット(PSO)を推定するために、前記共分散値(COV)を前記カルマンフィルタモジュール(EKF)に転送すること
図に示すように、共分散モジュール(CVM)は、所定の相関関係に基づいて共分散値(COV)を提供する。
【0041】
偏差(DVT)は、線形補足モデル(MD1)が各時間ステップで信頼できるかどうかを決定する非線形性の尺度である。ここでは、次のようになる。
【数6】
【0042】
偏差(DVT)の値は、次に、前記第3のパラメータセット(PS3)のうちの少なくとも1つのパラメータに関する共分散値(COV)(例えば、コーナリング剛性QCf,QCrの共分散値と仮想横滑り角測定Rβlinの共分散値)を適合させるために使用される。共分散(COV)は、前記モデルまたは前記尺度のいずれかに置かれた信頼度に応じて最終的な推定器の性能を調整するための調整パラメータとして使用される。
【0043】
好ましくは、前記偏差(DVT)値と共分散値(COV)との間の相関(CVL)は、より低い偏差の場合にはより低い共分散値を提供し、より高い偏差の場合にはより高い共分散値を提供することができる。詳細には、以下の規則を適用することが好ましい。
【表1】
【0044】
図1に示すシステム(SYS)は、本発明に係るコンピュータ実施方法を実行し、前記出力パラメータセット(PSO)を生成するように構成された、少なくとも1つの処理ユニット(CPU)を備える。システム(SYS)はさらに、前記出力パラメータセット(PSO)の少なくとも1つのパラメータまたは前記出力パラメータセット(PSO)に基づく修正パラメータを、ユーザ(USR)に向けてディスプレイ(DSP)上に表示するためのディスプレイ(DSP)を備える。
【0045】
本発明を好適な実施形態を用いて詳細に説明したが、本発明は、開示された実施例によって限定されるものではなく、請求項によって規定される範囲によって限定され、独立請求項によって規定される本発明の範囲から逸脱することなく、当業者によって数多くの追加的な修飾や変形がなされ得ることが理解される。
【0046】
なお、本出願を通して「a」または「an」を用いることは、複数を除外するものではなく、また、「含む(comprising)」は他のステップまたはパラメータを除外するものではない。また、異なる実施形態に関連して記載されるパラメータは、組み合わされてもよい。特許請求の範囲における参照符号は、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことにも留意されたい。
なお、本明細書は、少なくとも下記の特許請求の範囲に記載の構成を開示する
(1)
装置搭載センサ(SNS)およびコンピュータ実装モデル(MDS、MD2)を用いて、装置、特に車両(VCL)、の動作性能パラメータを決定するコンピュータ実施方法であって、以下の工程:
(a)前記センサ(SNS)を用いて前記装置(DVC)の動作中に第1のパラメータセット(PS1)を測定すること、
(b)コンピュータに実装される補足モデル(MD1)を提供し、前記補足モデル(MD1)によって第2のパラメータセット(PS2)を決定すること、
(c)前記第1のパラメータセット(PS1)のパラメータを、前記第2のパラメータセット(PS2)のうちの少なくとも1つの選択されたパラメータ(SPS)と結合して、ハイブリッドパラメータセット(PSH)を得ること、
(d)前記ハイブリッドパラメータセット(PSH)のパラメータをカルマンフィルタモジュール(EKF)に提供すること、
(e)前記カルマンフィルタモジュール(EKF)が、第2のモデル(MD2)によってそれぞれのパラメータタイプに関して前記ハイブリッドパラメータセット(PSH)と等価である第3のパラメータセット(PS3)を推定すること、
(f)前記カルマンフィルタモジュール(EKF)が、前記ハイブリッドパラメータセット(PSH)および前記第3のパラメータセット(PS3)の前記パラメータを比較すること、
(g)前記カルマンフィルタモジュール(EKF)が、出力パラメータセット(PSO)を推定すること、
を含み、
(i)前記第1のパラメータセット(PS1)のそれぞれ1つの別個のパラメータ(DCP)と前記第2のパラメータセット(PS2)の前記等価なパラメータとの間の偏差(DVT)を決定すること、
(ii)前記偏差(DVT)の値と、前記第3のパラメータセット(PS3)の少なくとも1つのパラメータに関する共分散値(COV)と、の間の相関(CVL)を提供すること、
(iii)決定された前記偏差(DVT)に基づいて、前記相関(CVC)から共分散値(COV)を決定すること、
(iv)前記出力パラメータセット(PSO)を推定するために、前記共分散値(COV)を前記カルマンフィルタモジュール(EKF)に転送すること、
を含むことを特徴とする、方法
(2)
前記装置は、車両であり、
前記少なくとも1つの選択されたパラメータ(SPS)は、車両横滑り角(BTL)である、
前記構成の少なくとも1つに記載の方法
(3)
前記パラメータセット(PS1、PSH、PS3)はそれぞれ、横方向速度(PVY)、縦方向速度(PVX)、ヨーレート(PYR)、横方向加速度(PAY)、フロントコーナリング剛性(PCF)、およびリアコーナリング剛性(PCR)のうちの少なくとも1つを含み、
前記カルマンフィルタモジュール(EKF)は、拡張カルマンフィルタである、
前記構成の少なくとも1つに記載の方法
(4)
前記補足モデル(MD1)および/または前記第2のモデル(MD2)のそれぞれに対する入力は、縦方向加速度(PAX)、操舵角(PSA)のうちの少なくとも1つである、
前記構成の少なくとも1つに記載の方法
(5)
前記補足モデル(MD1)は線形タイプであり、
前記第2のモデル(MD2)は非線形タイプである、
前記構成の少なくとも1つに記載の方法
(6)
前記共分散値(COV)を決定するための前記個別パラメータ(DCP)は、前記ヨーレート(PYR)であり、
決定された前記偏差(DVT)に基づいて前記相関(CVC)から決定される前記共分散値(COV)は、前記車両(VCL)の車両タイヤ(VTR)のコーナリング剛性(CRF、CRR)の共分散として前記カルマンフィルタ(EKF)に転送され、
前記相関(CVL)は、偏差が小さい場合に低い共分散(COV)値を提供し、偏差が大きい場合に高い共分散(COV)値を提供する、
前記構成の少なくとも1つに記載の方法
(7)
以下の追加の工程:
前記出力パラメータセット(PSO)の少なくとも1つのパラメータ、または前記出力パラメータセット(PSO)に基づいて修正されたパラメータを、ユーザ(USR)に対してディスプレイ(DSP)上に表示すること、
をさらに含む、
前記請求項の少なくとも1つに記載の方法
(8)
装置、特に車両(VCL)、の動作性能パラメータを決定するために前記装置に適用されるシステム(SYS)、特に仮想センサ(VRS)、であって、
装置搭載センサ(SNS)と、
前記請求項のうちの少なくとも1つに記載の前記コンピュータ実施方法を実行し、前記出力パラメータセット(PSO)を生成するように構成された、少なくとも1つの処理ユニット(CPU)と、
を備える、システム(SYS)
(9)
前記出力パラメータセット(PSO)の少なくとも1つのパラメータ、または前記出力パラメータセット(PSO)に基づいて修正されたパラメータを、ユーザ(USR)に対しディスプレイ(DSP)上に表示するためのディスプレイ(DSP)を含む、
構成(8)に記載のシステム(SYS)
図1