(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/26 20060101AFI20240708BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20240708BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20240708BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20240708BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
C08L23/26
C08L23/02
C08L97/00
C08L1/00
C08J5/00 CEP
(21)【出願番号】P 2024505615
(86)(22)【出願日】2023-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2023036522
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2022174210
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮太
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/124652(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/039569(WO,A1)
【文献】特開2019-059956(JP,A)
【文献】特開2020-041084(JP,A)
【文献】特開2015-139911(JP,A)
【文献】特開2020-163651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物の製造方法
であって。
(A)全パルプ繊維における、繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の割合が30%以下であって、平均キンク角度が55度以上であるパルプ
と、
(B)親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂
と、
(C)親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂
と、を混練する混練工程を含み、
前記(B)熱可塑性樹脂が、酸変性ポリオレフィンであり、
前記(C)熱可塑性樹脂が、ホモポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、及びブロックポリプロピレンからなる群から選ばれた1種以上を含むものであり、
前記(A)パルプの固形分100質量%に対して、前記(B)熱可塑性樹脂を1~100質量%配合し、前記(C)熱可塑性樹脂を66~9900質量%配合する、樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記(A)パルプの平均アスペクト比が10以上100未満である、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記混練工程では、100℃以上、かつ、前記(B)および(C)のうち最も融点が高い樹脂の融点以下の温度領域を少なくとも含んで混練することを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記(A)パルプに含まれる水の質量が、前記(A)~(C)の合計固形分質量に対して50質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ繊維を含有する樹脂組成物、及びこの樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
持続可能な森林資源の活用、地球温暖化物質・環境負荷物質の排出量削減や軽量化といった観点から、バイオマス資源が注目されている。
【0003】
このようなバイオマス資源である植物繊維と、熱可塑性樹脂とを複合化することにより、繊維強化樹脂を製造する検討がなされている。
【0004】
特許文献1には、ポリプロピレン系樹脂と有機溶剤抽出成分が少ない植物繊維とを含むことにより、反り変形が少なく、ブリードアウトによる塗装不良が低減した複合樹脂組成物の製造が可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
植物繊維と熱可塑性樹脂とを複合化して得られる樹脂組成物は、曲げ弾性率と衝撃強度がトレードオフの関係にあり、両立させることが難しいという課題があった。
【0007】
本発明は、高い曲げ強度および高い曲げ弾性率を有し、さらに衝撃強度とのバランスに優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。また本発明は、この樹脂組成物を得ることが可能な樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下を提供する。
(1) パルプと、親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂と、親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂とを含み、下記条件のいずれかを満足する樹脂組成物。
(条件1)弾性率が2GPa以上かつ衝撃強度が4.5kJ/m2以上
(条件2)弾性率が1GPa以上かつ衝撃強度が8kJ/m2以上
(条件3)弾性率が3GPa以上かつ衝撃強度が3.5kJ/m2以上
(2) 前記パルプが、ユーカリ属、カラマツ属、マツ属、トガサワラ属、トウヒ属、スギ属、コウヨウザン属、ヒノキ属、及びアカシア属からなる群から選ばれる1種以上の樹種由来のパルプを含む(1)に記載の樹脂組成物。
(3) 下記(A)~(C)を混練する混練工程を含む樹脂組成物の製造方法。
(A)全パルプ繊維における、繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の割合が30%以下であって、平均キンク角度が55度以上であるパルプ
(B)親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂
(C)親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂
(4) 前記(A)パルプの平均アスペクト比が10以上100未満である、(3)に記載の樹脂組成物の製造方法。
(5) 前記混練工程では、100℃以上、かつ、前記(B)および(C)のうち最も融点が高い樹脂の融点以下の温度領域を少なくとも含んで混練することを特徴とする、(3)に記載の樹脂組成物の製造方法。
(6) 前記(A)パルプに含まれる水の質量が、前記(A)~(C)の合計固形分質量に対して50質量%以下であることを特徴とする、(3)に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い曲げ強度および高い曲げ弾性率を有し、さらに衝撃強度とのバランスに優れる樹脂組成物を提供することができる。また、この樹脂組成物を得ることが可能な樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値XおよびYを含む。
【0011】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、パルプと、親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂と、親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂とを含み、下記条件のいずれかを満足する。
(条件1)弾性率が2GPa以上かつ衝撃強度が4.5kJ/m2以上
(条件2)弾性率が1GPa以上かつ衝撃強度が8kJ/m2以上
(条件3)弾性率が3GPa以上かつ衝撃強度が3.5kJ/m2以上
【0012】
本発明の樹脂組成物は、弾性率および衝撃強度の値が、上記の特定の条件を満たすものである。本発明において、弾性率とは、曲げ試験により得られる弾性率を意味するものであり、衝撃強度はアイゾット(Izod)衝撃試験により得られる衝撃強度を意味するものである。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、パルプと、親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂と、親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂とを含む材料を、混練することにより得ることができる。具体的な製造方法について、以下で説明する。
【0014】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物の製造方法は、下記(A)~(C)を混練する混練工程を含む。
(A)全パルプ繊維における、繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の割合が30%以下であって、平均キンク角度が55度以上であるパルプ
(B)親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂
(C)親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂
【0015】
(A)パルプ
本発明の樹脂組成物の製造方法に用いる(A)パルプは、全パルプ繊維における、繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の割合が30%以下であって、平均キンク角度が55度以上である。なお、本明細書において、繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維を「ファイン分」と呼ぶことがある。
【0016】
本発明において、全パルプ繊維におけるファイン分の割合は、長繊維による補強効果を発現させるために30%以下であり、27%以下が好ましく、24%以下がより好ましい。ファイン分が多すぎると、補強効果が小さくなる虞がある。ファイン分の割合の下限値は、0.1%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。ファイン分の割合は、パルプを水中で十分に離解したのち、例えばLorentzen & Wettre社製ファイバーテスターを用いて測定することができる。
【0017】
本発明に用いる(A)パルプは、全パルプ繊維における平均キンク角度が、応力を受けた際にエネルギーを吸収するボイド生成の起点とさせるために55度以上であり、58度以上、150度以下であることが好ましく、60度以上、120度以下であることがより好ましい。詳細は不明であるが、樹脂とパルプ繊維界面が剥離する際に、繊維が屈曲していることで周囲に微細な空孔(ボイド)が形成されやすくなり、このボイドが衝撃強度向上に寄与していると考えられる。平均キンク角度が小さすぎると、エネルギー吸収がうまくいかず衝撃強度が低下する虞がある。また、平均キンク角度が大きすぎると、アスペクト比が低い繊維と同様とみなされ長繊維に期待される十分な補強効果を発現しない虞がある。本発明においてキンク角度とは、繊維が直線状であった場合からの折れ曲がり角度を指す。平均キンク角度とは、直線状にある繊維に対して折れ曲がり度合いを示す平均値であり、例えば、Olson,J他著、“An Analyzer for Fibre Shapeand Length”(Journal ofPulp and Paper Science,21巻11号,1995年,J367頁~J373頁)に定義されている角度の平均値である。本発明の平均キンク角度は、パルプを水中で十分に離解したのち、例えばLorentzen & Wettre社製ファイバーテスターを用いて測定することができる。
【0018】
本発明に用いる、特定の物性パラメータ(ファイン分の割合、平均キンク角度)を有する(A)パルプは、平均キンク角度が55度を下回った場合には、例えば、パルプを、好ましくは低温で、パルプ固形分濃度を、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上の比較的高濃度として、水中で撹拌を行うことにより得ることができる。パルプ固形分濃度を比較的低濃度として叩解処理を行ったり、ナノ化処理を過分に行うと、ファイン分の割合が例えば30%超となるなど、好ましくない。
なお、本願においてパルプ固形分濃度とは、パルプと水の質量から以下の式で算出される。
パルプ固形分濃度(%)=パルプ固形分の質量/(水の質量+パルプ固形分の質量)×100
【0019】
本発明に用いる(A)パルプの平均アスペクト比は、補強材としての機能発現の観点から、10以上100未満であることが好ましく、20以上90未満であることがより好ましい。(A)パルプの平均アスペクト比は、例えば、粉砕処理することにより低下させることができる。平均アスペクト比は、平均繊維長および平均繊維径から、下記の式により算出することができる:
平均アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
また、平均繊維長および平均繊維径は、パルプを水中で十分に離解したのち、Lorentzen & Wettre社製ファイバーテスターにより測定することができる。
【0020】
本発明において、全パルプ繊維における長繊維(以下、「長繊維分」ともいう)の割合は、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。長繊維分の割合が少なすぎると、衝撃強度向上の効果が小さくなる虞や、最大応力向上の効果も小さくなる虞がある。長繊維分の割合の上限値は、特に限定されないが、現実的には100%以下である。ここで、本明細書における長繊維とは、繊維長が0.5mm以上のパルプ繊維を示す。長繊維分の割合は、パルプを水中で十分に離解したのち、例えばLorentzen & Wettre社製ファイバーテスターを用いてパルプ繊維の繊維長分布を測定することにより算出することができる。
【0021】
(パルプ原料)
(A)パルプとしては、使用する原料(パルプ原料)に応じて、木材パルプや非木材パルプに大別される。木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。
【0022】
木材原料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
【0023】
非木材由来の原料としては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。
【0024】
なかでも、本発明におけるキンク角度の特性から、細胞壁の厚さや含有リグニン量の影響などの因子や、また繊維長の特性から、樹種固有の繊維長やその繊維の結晶性など、原材料である木材の樹種や固体の特性に起因する複数の因子の影響が推定されるが、パルプ化後の繊維特性の観点から、生息環境が広く分布し多様な遺伝資源を保有するフトモモ科ユーカリ属、マツ科カラマツ属・マツ属・トガサワラ属・トウヒ属、ヒノキ科スギ属・コウヨウザン属・ヒノキ属、マメ科アカシア属を主体とし、森林認証を獲得し製紙用途に使用されている木材原料をパルプ原料として用いることが好ましい。これら森林認証を得た製紙用パルプ原料は、人類の長年にわたる多様な遺伝資源の交配によって育種、選抜された選抜木がベースとなり、木材原料が有する各種特性において個体間のばらつきが小さく、かつ育種による上記繊維特性を安定して発現しやすい樹種が、再生可能な持続的な経営によって生産された木材を利用していることからより好ましい。このような木材原料として、フトモモ科ユーカリ属としては、Eucalyptus(以下、E.と略す)calophylla、E.citriodora、E.diversicolor、E.globulus、E.grandis、E.gummifera、E.marginata、E.nesophila、E.nitens、E.macarthurii, E.fastigata、E.amygdalina、E.camaldulensis、E.delegatensis、E.gigantea、E.muelleriana、E.obliqua、E.regnans、E.sieberiana、E.viminalisなどを挙げることができる。マツ科カラマツ属としては、Larix(以下、L.と略す)leptolepis、L.laricina、L.occidentalis、L.decidua、L.gmeliniiが挙げられ、マツ科マツ属としては、Pinus(以下、P.と略す)radiataが挙げられ、マツ科トガサワラ属としては、Pseudotsuga menziesii、Pseudotsuga japonicaが挙げられ、マツ科トウヒ属としては、Picea mariana、Picea sitcheensis、Picea abiesなどを挙げることができる。またヒノキ科スギ属としては、Cryptomeria japonicaが挙げられ、ヒノキ科コウヨウザン属としては、Cunninghamia lanceolataが挙げられ、ヒノキ科ヒノキ属としては、Chamaecyparis obtuse、Chamaecyparis pisiferaなどを挙げることができる。マメ科アカシア属としては、Acacia(以下、A.と略す)mangiumを挙げることができる。この中でもフトモモ科ユーカリ属のE.globulus、E.grandis、マツ科マツ属のP.radiata、マメ科アカシア属のA.mangiumなどは、長年育種されている樹種で多様性が豊富であり、本発明のような木材パルプ原料を獲得しやすく、好ましい。
本発明において、例えばユーカリ主体のパルプ原料という場合には、ユーカリがパルプ原料の51質量%以上含まれることを意味する。
【0025】
(A)パルプは、未叩解及び叩解のいずれでもよく、所望の樹脂組成物の物性に応じて選択すればよい。ファイン分の割合を少なく保つことができる観点及び工程数減の観点から、未叩解を用いることが好ましい。
【0026】
(A)パルプは、水を15%超含んだ含水パルプであってもよいし、乾燥パルプであってもよい。押出機へのフィードの容易性の観点からは水を含んだ含水パルプであることが好ましく、吐出速度、即ち生産速度アップの観点からは乾燥パルプが好ましく、含水パルプを使用するか、乾燥パルプのいずれを使用するかについては、目的に応じて適宜選択すればよい。本発明において、乾燥パルプとは、絶乾状態および風乾状態いずれも含むため、パルプ含水率が15%以下のパルプを意味する。(A)パルプが含水パルプである場合は、パルプに含まれる水の質量は、乾燥効率の観点から、(A)パルプ、後述する(B)親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂、及び(C)親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂の合計固形分質量に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上45質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上40質量%以下、特に好ましくは1質量%以上35質量%以下である。(A)パルプが乾燥パルプである場合は、パルプに含まれる水の質量は、(A)パルプ、後述する(B)親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂、及び(C)親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂の合計固形分質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上8質量%以下がより好ましい。
【0027】
(B)親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂
(B)熱可塑性樹脂は、親水性官能基で変性されていることが必要である。本発明において親水性とは、水やパルプを構成するセルロース表面との親和性が良好であることを意味する。親水性官能基としては、水酸基,カルボキシ基,カルボニル基,アミノ基,アミド基,スルホ基等が挙げられる。このような(B)親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂として、例えば、塩基変性ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン等が挙げられ、中でも、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)や無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAPE)が挙げられる。
【0028】
本発明で用いる(B)熱可塑性樹脂の融点は、易分散性の観点から、後述する(C)親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂の融点以下であることが好ましい。ここで、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)の融点は、150℃であり、無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAPE)の融点は、120℃である。また、例えば、(C)熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(bPP)の融点は、160~165℃である。
【0029】
本発明において、(B)熱可塑性樹脂は、相溶化樹脂としての機能を有する。相溶化樹脂とは、疎水性の異なる(A)パルプと、後述する(C)親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂との均一混合や密着性を高める働きをするものである。相溶化樹脂としての特徴を決める要素として、例えば、無水マレイン酸変性ポリオレフィンの場合は、ジカルボン酸の付加量と母材となるポリオレフィン樹脂の重量平均分子量があげられる。ジカルボン酸の付加量が多いポリオレフィン樹脂はパルプを構成するセルロースのような親水性高分子との相溶性を高めるが、付加の過程で樹脂としての分子量が小さくなってしまい成形物の強度が低下する。最適なバランスとしてジカルボン酸の付加量は、20~100mgKOH/gであり、さらに好ましくは45~65mgKOH/gである。付加量が少ない場合、樹脂中でセルロースの水酸基や変性セルロースに含まれる水酸基や変性官能基との相互作用をする点が少なくなる。また付加量が多い場合、樹脂中のカルボキシ基同士の水素結合などによる自己凝集や、過大な付加反応による母材となるオレフィン樹脂の分子量の減少により強化樹脂としての強度が未達となる。ポリオレフィン樹脂の分子量としては35,000~250,000が好ましく、50,000~100,000がさらに好ましい。分子量がこの範囲から小さい場合は樹脂として強度が低下し、この範囲から大きい場合は溶融時の粘度上昇が大きく、混練時の作業性が低下するとともに成形不良の原因となる。
【0030】
(B)熱可塑性樹脂の配合量は、特には限定されないが、(A)パルプ固形分質量(100質量%)に対して、1~100質量%が好ましく、10~80質量%がさらに好ましい。配合量が100質量%を超えると、セルロースと樹脂の界面形成に必要な量を超えるため、樹脂組成物とした際に強度が低下すると考えられる。
【0031】
また(B)熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。また1種または2種以上のポリマーとポリオレフィンとのグラフト体として使用の場合、グラフト体を構成するポリオレフィン樹脂は特に限定されないが、グラフト体を製造しやすいという観点で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等を使用することができる。
【0032】
(C)親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂
(C)熱可塑性樹脂は、親水性官能基で変性されていないことが必要である。なお、本明細書において(C)親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂を「ベース樹脂」と呼ぶことがある。(C)熱可塑性樹脂の融点は、セルロースの熱分解を回避するために、250℃以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
【0033】
(C)熱可塑性樹脂としては、例えば、ホモポリプロピレン(hPP、融点:165~170℃)、高密度ポリエチレン(HDPE、融点:130~135℃)、低密度ポリエチレン(LDPE、融点:95~135℃)、線状低密度ポリエチレン(L-LDPE、融点:124℃)等のポリオレフィン、ブロックポリプロピレン(bPP、融点:160~165℃)等のブロック共重合体が挙げられる。
【0034】
(C)熱可塑性樹脂の配合量は、特に限定されないが、コンポジットの流動性の観点から、(A)パルプ固形分質量(100質量%)に対して、66~9900質量%が好ましく、100~1900質量%がより好ましい。また、(C)熱可塑性樹脂の配合量は、強度の観点から、(B)熱可塑性樹脂の配合量以上であることが好ましい。
【0035】
本発明においては、上記の(C)熱可塑性樹脂として、エラストマーを併用してもよい。
【0036】
エラストマーとしては、熱可塑性を有するエラストマーの中で一般的なものを目的に応じて選択して用いることができる。例えば、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーなどが挙げられる。これらのエラストマーは1種類で用いてもよいし、2種類以上のエラストマーを組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(混練工程)
本発明の樹脂複合体の製造方法は、上記(A)~(C)を混練する混練工程を含む。本発明の混練工程では、パルプの均一分散の観点から、(A)~(C)を、100℃以上、かつ、(B)および(C)のうち最も融点が高い樹脂の融点以下の温度領域を少なくとも含んで混練することが好ましく、110℃以上、180℃以下の温度領域を少なくとも含んで混練することがより好ましい。
【0038】
混練工程においては、必要に応じて、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤、酸化防止剤等の添加剤を配合してもよい。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されてもよい。
【0039】
混練工程において用いる混練機は、特に限定されないが、一軸または多軸混練機を用いることが好ましい。生産性の観点から、二軸混練機を用いることが好ましい。
【0040】
混練機に(A)~(C)、及び必要に応じて配合される添加剤を投入する際には、市販されている各種フィーダーやサイドフィーダーを用いることができる。(B)熱可塑性樹脂や(C)熱可塑性樹脂をあらかじめ粉末化しておいた場合は、投入前に(A)パルプ、(B)熱可塑性樹脂、(C)熱可塑性樹脂、及び必要に応じて配合される酸化防止剤等を市販の混合機などにより混合して投入することができる。樹脂が粉末化していない場合でも、例えばペレット用のフィーダーと(A)パルプ用のフィーダーのように、複数台のフィーダーを準備することで投入することができる。混練工程において、混練機に投入する(A)パルプの固形分の配合量は、(A)の固形分、(B)、(C)、及び必要に応じて配合される添加剤の合計量に対して、1~60質量%であることが好ましく、3~50質量%であることがより好ましい。
【0041】
溶融混練の設定温度は使用する(B)熱可塑性樹脂および(C)熱可塑性樹脂の溶融温度に合わせて調整することができる。溶融混練時の加熱設定温度は、熱可塑性樹脂供給業者が推奨する、最低加工温度±10℃程度が好ましい。混合温度をこの温度範囲に設定することにより、(A)パルプおよび樹脂を均一に混合することができる。
【0042】
混練機から排出された樹脂組成物は、ペレット状に加工してもよい。例えばペレット状に加工する場合は、混練機にダイスを取り付け、排出孔から排出されるストランドを切断機構により切断する等して、大きさが調節されたペレットを得ることができる。ホットカット方式により作製してもよい。前記切断機構は、回転式カッター機構など各種公知の切断機構を特に制限なく用いることができる。
【0043】
本発明によれば、高い曲げ強度および高い曲げ弾性率を有し、さらに衝撃強度とのバランスに優れる樹脂組成物を提供することができる。また、この樹脂組成物を得ることが可能な樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【0044】
(用途)
本発明の樹脂組成物を用いて、成形材料及び成形体(成型材料及び成型体)を製造することができる。成形体の形状としては、フィルム状、シート状、板状、ペレット状、粉末状、立体構造など各種形状等の各種形状の成形体が挙げられる。成形方法として、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等を用いることができる。
【0045】
成形体(成型体)は、モビリティ分野に加え、家電分野にも使用できる。
【0046】
自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等;携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築材;文具等の事務機器等、容器、コンテナー等として有効に使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0048】
(パルプ繊維の平均繊維長、平均繊維径、ファイン分の割合、平均キンク角度、繊維長分布の測定)
パルプ繊維の平均繊維長、平均繊維径、ファイン分、平均キンク角度、繊維長分布は、Lorentzen & Wettre社製ファイバーテスターを用いて測定した。本発明において繊維長とは、ISO16065に基づく長さ加重平均繊維長の事を示す。また、本発明において繊維径とは、長さ加重平均繊維径のことを示す。具体的には、パルプ絶乾質量0.15gに対して総量300gになるように水を加えて、ホモディスパーにて回転数3000rpmにて2分間撹拌を行った後、ファイバーテスターにて測定した。
【0049】
本発明において、ファイン分とは繊維長が0.2mm以下の繊維長をもつ繊維をさす。
【0050】
本発明において、長繊維分とは0.5mm以上の繊維長をもつ繊維をさす。長繊維分の割合は、上記のように測定して得られた繊維長分布から別途以下のように算出した。
長繊維分の割合=(長繊維本数)/(全繊維本数)×100
【0051】
(評価用試験片の作製)
実施例、比較例及び参考例で得られたペレット状の樹脂成型体150gを小型成形機(Xplore Instruments社製「MC15」)に投入し、加熱筒(シリンダー)の温度200℃、金型温度は40℃の条件で、バー試験片を成形した(厚さ4mm、並行部長さ80mm)。
【0052】
(曲げ弾性率、最大応力の測定)
上記の通りにして得られた試験片について、精密万能試験機(島津製作所(株)製「オートグラフAG-Xplus」)を用いて、試験速度10mm/分、支点間距離は64mmで弾性率、及び最大応力を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
(アイゾット(Izod)衝撃試験)
上記の通りにして得られた試験片中央部に深さ2mmの切り欠き(ノッチ)を挿入した。アイゾット衝撃試験機(株式会社東洋精機製作所製「衝撃試験機IT」)を用いて、JIS K 7110に基づいてハンマーを選択し、ノッチ側を打撃し、ノッチから亀裂を進展させ、その衝撃強度を算出した。値が大きいほど耐衝撃性に優れる。
【0054】
(密度)
上記の通りにして得られた試験片について、Micromeritics社製AccuPycIIを使用し、ガス置換法により密度を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(樹脂組成物の製造に使用した混練機と運転条件)
(株)テクノベル製「MFU15TW-45HG-NH」二軸混練機
スクリュー径:15mm、L/D:45、処理速度:300g/時
スクリュー回転数200rpm、設定温度は使用する樹脂に応じて適宜変更し、120~160℃で運転した。
【0056】
(樹脂組成物の製造に使用した材料)
(A)パルプ
(B)親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂
・MAPP:(東洋紡(株)製 酸変性ポリプロピレン H1000P、融点150℃)
(C)親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂(「ベース樹脂」ともいう)
・bPP:((株)プライムポリマー製 ポリプロピレン J466HP、融点160-165℃)
・hPP(高弾性PP):((株)プライムポリマー製 ポリプロピレン J108M、融点165-170℃)
・HDPE:(日本ポリエチレン(株)製 ポリエチレン HJ580、融点130-135℃)
・L-LDPE:((株)プライムポリマー製 ポリエチレン ウルトゼックス20200J、融点124℃)
(D)酸化防止剤:(BASF製 Irganox1010)
【0057】
(実施例1)
(パルプの処理)
ユーカリ(E.grandis)主体のパルプ原料に対して水を加えヘンシェルミキサーを用いて粉砕処理することにより、ファイン分14.5%、平均キンク角度67.2度、平均アスペクト比42.1、長繊維分65.3%、含水率40%の(A)パルプを得た。
【0058】
(混練工程)
上記の(A)パルプ、(B)熱可塑性樹脂(MAPP)、(C)ベース樹脂(bPP)、(D)酸化防止剤を、(A)/(B)/(C)/(D)の固形分質量比が(27/5/67/1)となるように混合した。なお、この質量比を示す場合における(A)の質量は、絶対乾燥物としての質量である。また、(A)パルプに含まれる水の質量は、(A)、(B)、および(C)の合計固形分質量に対して、18.2質量%であった。得られた混合物を混練機に投入し、設定温度160℃で混練し、樹脂組成物を得た。次いで、これを、ペレタイザーを用いてペレット化し、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。
【0059】
(実施例2)
パルプの処理において、パルプ原料としてアカシア(A.mangium)主体のものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ファイン分16.3%、平均キンク角度60.6度、平均アスペクト比36.8、長繊維分53.8%、含水率40%の(A)パルプを得た。このパルプを用いたこと以外は実施例1と同様に混練工程を行い、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。なお、(A)パルプに含まれる水の質量は、(A)、(B)、および(C)の合計固形分質量に対して、18.2質量%であった。
【0060】
(実施例3)
パルプの処理において、パルプ原料として実施例2とは異なる産地のアカシア(A.mangium)主体のものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ファイン分13.3%、平均キンク角度61.8度、平均アスペクト比38.1、長繊維分69.6%、含水率40%の(A)パルプを得た。このパルプを用いたこと以外は実施例1と同様に混練工程を行い、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。なお、(A)パルプに含まれる水の質量は、(A)、(B)、および(C)の合計固形分質量に対して、18.2質量%であった。
【0061】
(実施例4)
パルプの処理において、パルプ原料としてパイン(P.radiata)主体のものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ファイン分21.9%、平均キンク角度65.2度、平均アスペクト比69.8、長繊維分52.0%、含水率40%の(A)パルプを得た。このパルプを用いたこと以外は実施例1と同様に混練工程を行い、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。なお、(A)パルプに含まれる水の質量は、(A)、(B)、および(C)の合計固形分質量に対して、18.2質量%であった。
【0062】
(実施例5)
混練工程において、(A)パルプ、(B)熱可塑性樹脂(MAPP)、(C)ベース樹脂(bPP)、(D)酸化防止剤を、(A)/(B)/(C)/(D)の固形分質量比が(51/1/47/1)となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。なお、(A)パルプに含まれる水の質量は、(A)、(B)、および(C)の合計固形分質量に対して、34.3質量%であった。
【0063】
(実施例6)
混練工程において、(A)パルプ、(B)熱可塑性樹脂(MAPP)、(C)ベース樹脂(bPP)、(D)酸化防止剤を、(A)/(B)/(C)/(D)の固形分質量比が(11/5/83/1)となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。なお、(A)パルプに含まれる水の質量は、(A)、(B)、および(C)の合計固形分質量に対して、7.4質量%であった。
【0064】
(実施例7)
混練工程において、(A)パルプ、(B)熱可塑性樹脂(MAPP)、(C)ベース樹脂(bPP)、(D)酸化防止剤を、(A)/(B)/(C)/(D)の固形分質量比が(22/5/72/1)となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。なお、(A)パルプに含まれる水の質量は、(A)、(B)、および(C)の合計固形分質量に対して、14.8質量%であった。
【0065】
(実施例8)
混練工程において、(C)ベース樹脂としてbPPに代えてhPPを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。
【0066】
(実施例9)
混練工程において、(C)ベース樹脂としてbPPに代えてhPPを用い、エラストマー(三井化学社製、タフマーDF740、融点55℃)を併用し、これらを質量比でhPP:エラストマー=49:18で用いたこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。なお、(A)パルプに含まれる水の質量は、(A)、(B)、および(C)の合計固形分質量に対して、18.2質量%であった。
【0067】
(実施例10)
混練工程において、(C)ベース樹脂としてbPPに代えてHDPEを用いたことおよび設定温度130℃で運転したこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。
【0068】
(実施例11)
混練工程において、(C)ベース樹脂としてbPPに代えてL-LDPEを用いたことおよび設定温度120℃で運転したこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。
【0069】
(比較例1)
パルプの処理において、ブナ主体のパルプ原料に対してホーライ製「UGO3-280XKFT」を使用して事前の粉砕処理を行った後に400メッシュで分級したこと以外は実施例1と同様にして、ファイン分99.6%、平均キンク角度94度、平均アスペクト比5.8、長繊維分0.1%未満、含水率40%の(A)パルプを得た。このパルプを用いたこと以外は実施例1と同様に混練工程を行い、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。なお、(A)パルプに含まれる水の質量は、(A)、(B)、および(C)の合計固形分質量に対して、18.2質量%であった。
【0070】
(比較例2)
混練工程において、(A)パルプ、(B)熱可塑性樹脂(MAPP)、(C)ベース樹脂(bPP)、(D)酸化防止剤を、(A)/(B)/(C)/(D)の固形分質量比が(51/1/47/1)となるように混合したこと以外は比較例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。なお、(A)パルプに含まれる水の質量は、(A)、(B)、および(C)の合計固形分質量に対して、34.3質量%であった。
【0071】
(比較例3)
混練工程において、(C)ベース樹脂としてbPPに代えてhPPを用いたこと以外は比較例2と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。
【0072】
(比較例4)
パルプの処理において、パルプ原料としてパイン(P.radiata)主体のものを、パルプ固形分濃度を3質量%として水中で撹拌処理を十分に行ったものを、ヘンシェルミキサーに入れて攪拌しながら乾燥させたこと以外は実施例1と同様にして、ファイン分10.3%、平均キンク角度51.7度、平均アスペクト比69.4、長繊維分36.8%、含水率40%の(A)パルプを得た。このパルプを用いたこと以外は実施例1と同様に混練工程を行い、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。なお、(A)パルプに含まれる水の質量は、(A)、(B)、および(C)の合計固形分質量に対して、18.2質量%であった。
【0073】
(参考例1~4)
それぞれ、bPPニート樹脂、hPPニート樹脂、HDPEニート樹脂、L-LDPEニート樹脂のみを用いて、ペレタイザーを用いてペレット化し、ペレット状の樹脂組成物(成型体)を得た。
【0074】
【0075】
表1に示すように、実施例1~11の樹脂組成物は、パルプと、親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂と、親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂とを含み、(条件1)弾性率2GPa以上かつ衝撃強度4.5kJ/m2以上、(条件2)弾性率1GPa以上かつ衝撃強度8kJ/m2以上、(条件3)弾性率3GPa以上かつ衝撃強度3.5kJ/m2以上のいずれかを満足するものであり、高い曲げ強度および高い曲げ弾性率を有し、さらに衝撃強度のバランスに優れることがわかる。
【要約】
パルプと、親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂と、親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂とを含み、下記条件のいずれかを満足する樹脂組成物を提供する。
(条件1)弾性率が2GPa以上かつ衝撃強度が4.5kJ/m2以上
(条件2)弾性率が1GPa以上かつ衝撃強度が8kJ/m2以上
(条件3)弾性率が3GPa以上かつ衝撃強度が3.5kJ/m2以上