(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】X線遮蔽性シリコーン組成物、X線遮蔽性シリコーンシート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20240708BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20240708BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20240708BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240708BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20240708BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240708BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/30
C08K9/04
C08K3/22
C08K3/28
C08K3/38
C08J5/18 CFH
(21)【出願番号】P 2024509448
(86)(22)【出願日】2023-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2023043124
【審査請求日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2023068592
(32)【優先日】2023-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小林 真吾
(72)【発明者】
【氏名】長谷 航希
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-099791(JP,A)
【文献】国際公開第2003/029343(WO,A1)
【文献】特開平08-012911(JP,A)
【文献】特開平07-207160(JP,A)
【文献】特開2013-234245(JP,A)
【文献】特開2020-003371(JP,A)
【文献】特開2016-030774(JP,A)
【文献】特開2017-206645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09J 9/00-201/10
C08D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン成分とX線遮蔽性粒子と熱伝導性粒子を含むX線遮蔽性シリコーン組成物であって、
前記組成物100vol.%当たり、前記シリコーン成分は15~60vol.%、前記X線遮蔽性粒子は5~50vol.%、前記熱伝導性粒子は30~80vol.%であり、
前記X線遮蔽性粒子は、沈降性硫酸バリウム及び簸性硫酸バリウムからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記熱伝導性粒子は、アルミナ,酸化亜鉛,酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子であることを特徴とするX線遮蔽性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記組成物のX線遮蔽率は、JIS Z4501:2011及びJIS T61331-1:2016に準拠した測定で30%以上である請求項1に記載のX線遮蔽性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記組成物の熱伝導率は、ISO/CD22007-2:2008 ホットディスク法に準拠した測定で0.8W/mK以上である請求項1に記載のX線遮蔽性シリコーン組成物。
【請求項4】
前記沈降性硫酸バリウム及び簸性硫酸バリウムは、不定形及び破砕形状なる群から選ばれる少なくとも一つの形状である請求項1に記載のX線遮蔽性シリコーン組成物。
【請求項5】
前記X線遮蔽性粒子及び前記熱伝導性粒子からなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子は、少なくとも一部がシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤及びジルコネートカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも一つのカップリング剤で表面処理されている請求項1に記載のX線遮蔽性シリコーン組成物。
【請求項6】
前記X線遮蔽性粒子及び前記熱伝導性粒子からなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子100質量部に対し、前記シランカップリング剤は0.01~10質量部付与されている請求項5に記載のX線遮蔽性シリコーン組成物。
【請求項7】
前記シリコーン成分は、オルガノポリシロキサンであり、25℃における粘度が10~1000000mPa・sである請求項1に記載のX線遮蔽性シリコーン組成物。
【請求項8】
前記組成物は、非硬化である請求項1に記載のX線遮蔽性シリコーン組成物。
【請求項9】
前記組成物は、付加硬化又は過酸化物硬化により硬化されている請求項1に記載のX線遮蔽性シリコーン組成物。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の組成物は、シート成形、押出成形及びプレス成形なる群から選ばれる少なくとも一つの成形によりシートに成形され、硬化されていることを特徴とするX線遮蔽性シリコーン成形物。
【請求項11】
X線遮蔽性シリコーンシートの製造方法であって、請求項1~
7のいずれか1項に記載のシリコーン組成物を混合し、コンパウンドとし、シート成形、押出成形及びプレス成形からなる群から選ばれる少なくとも一つの成形方法により成形し、硬化することを特徴とするX線遮蔽性シリコーンシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線遮蔽性の高いシリコーン組成物、X線遮蔽性シリコーンシート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCPU等の半導体の性能向上はめざましくそれに伴い発熱量も膨大になっている。そのため発熱するような電子部品には放熱体が取り付けられ、半導体と放熱体との密着性を改善する為に熱伝導性シリコーンシートが使われている。機器の小型化、高性能化、高集積化に伴い熱伝導性シリコーンシートには柔らかさ、高熱伝導性が求められている。また、半導体として代表的なMOSFETや集積回路はX線やγ線のような電離放射線が照射されると絶縁膜として使用されるシリコン酸化膜中で正電荷が蓄積しシリコン表面に負電荷が誘起される。これによりしきい値電圧が負の方向にシフトする。素子特性の変化は、被曝するX線やγ線の量が増加するに従って大きくなり、装置の不具合・故障に繋がっていく。そのためX線発生装置から漏洩する無用なX線を減らし、X線検査などの照射線から被照射体内部の電子部品を保護することも求められている。
特許文献1には縮合型シリコーンと硫酸バリウムによる放射線遮蔽シーリングが提案されている。特許文献2にはX線遮蔽材に硫酸バリウムを使用した放射線遮蔽組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-234245号公報
【文献】特開2017-206645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献のシリコーン組成物は、X線遮蔽性と熱伝導性の両方の特性は十分なものではなく、さらに高いX線遮蔽性と熱伝導性が要求されていた。
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、X線遮蔽性と熱伝導性の両方の特性が高いシリコーン組成物、X線遮蔽性シリコーンシート及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のX線遮蔽性シリコーン組成物は、シリコーン成分とX線遮蔽性粒子と熱伝導性粒子を含むX線遮蔽性シリコーン組成物であって、前記組成物100vol.%当たり、前記シリコーン成分は15~60vol.%、前記X線遮蔽性粒子は5~50vol.%、前記熱伝導性粒子は30~80vol.%であり、前記X線遮蔽性粒子は、沈降性硫酸バリウム及び簸性硫酸バリウムからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、前記熱伝導性粒子は、アルミナ,酸化亜鉛,酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子であることを特徴とする。
【0007】
本発明のX線遮蔽性シリコーン成形物は、シート成形、押出成形及びプレス成形なる群から選ばれる少なくとも一つの成形によりシートに成形され、硬化されている。
【0008】
本発明のX線遮蔽性シリコーンシートの製造方法は、前記のシリコーン組成物を混合し、コンパウンドとし、シート成形、押出成形及びプレス成形からなる群から選ばれる少なくとも一つの成形方法により成形し、硬化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のX線遮蔽性シリコーン組成物は、シリコーン成分とX線遮蔽性粒子と熱伝導性粒子を含み、組成物を100vol.%当たり、シリコーン成分は15~60vol.%、X線遮蔽性粒子は5~50vol.%、熱伝導性粒子は30~80vol.%であることにより、X線遮蔽性と熱伝導性の両方の特性が高いシリコーン組成物、X線遮蔽性シリコーンシート及びその製造方法を提供できる。本発明のX線遮蔽性シリコーン組成物は、X線発生装置から漏洩する無用なX線を減らすことができ、また、X線検査などの照射線から被照射体内部の電子部品を保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態におけるX線遮蔽性シリコーンシートの使用方法を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2A-Bは本発明の実施例で使用する試料の熱伝導率の測定方法を示す説明図である。
【
図3】
図3は本発明の実施例で使用する沈降性硫酸バリウム粒子の顕微鏡(SEM)写真(倍率2000倍)である。
【
図4】
図4は本発明の実施例で使用する不定形アルミナの顕微鏡(SEM)写真(倍率5000倍)である。
【
図5】
図5は本発明の実施例で使用する球状アルミナの顕微鏡(SEM)写真(倍率500倍)である。
【
図6】
図6は本発明の実施例で使用する簸性硫酸バリウムの顕微鏡(SEM)写真(倍率1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、シリコーン成分とX線遮蔽性粒子と熱伝導性粒子を含むX線遮蔽性シリコーン組成物であり、組成物100vol.%当たり、シリコーン成分は15~60vol.%であり、好ましくは17~55vol.%であり、より好ましくは20~50vol.%である。X線遮蔽性粒子は5~50vol.%であり、好ましくは6~45vol.%であり、より好ましくは7~40vol.%である。熱伝導性粒子は30~80vol.%であり、好ましくは32~78vol.%であり、より好ましくは35~75vol.%である。これにより、X線遮蔽性が高い組成物となる。X線遮蔽性粒子が5vol.%未満ではX線遮蔽性が低くなり、50vol.%を超えると熱伝導性粒子の割合が低くなり熱伝導率を高く維持できないことから好ましくない。また、熱伝導性粒子が30vol.%未満では熱伝導率が低くなり、80vol.%を超えるとX線遮蔽性粒子の割合が低くなりX線遮蔽性が低くなることから好ましくない。シリコーン成分はシリコーンポリマー又はオルガノポリシロキサンとも言い、熱硬化性樹脂であり、耐熱性があることから好ましい。
【0012】
前記組成物のX線遮蔽率は、JIS Z 4501:2011及びJIS T61331-1:2016に準拠した測定で30%以上であることが好ましく、より好ましくは30~100%であり、さらに好ましくは35~100%である。これによりX線遮蔽性が高い組成物となる。
【0013】
前記組成物の熱伝導率は、ISO/CD22007-2:2008 ホットディスク法に準拠した測定で0.8W/mK以上であることが好ましく、より好ましくは0.8~10W/mKであり、さらに好ましくは1.0~8.0W/mKである。これにより熱伝導性が高い組成物となり、電子部品などの発熱部と放熱部との間の放熱体:TIM(Thermal Interface Material)として好適である。
【0014】
前記シリコーン組成物は、グリース、パテ、ゲル、エラストマーなるから選ばれる少なくとも一つの状態であるのが好ましい。これらの性状であれば、X線発生装置から漏洩する無用なX線を減らすことができ、また、X線検査などの照射線から被照射体内部の電子部品を保護することができる。グリース状及びパテ状は液状であることから、ディスペンサーに充填して使用するのが好ましい。グリース状組成物及びパテ状組成物は、非硬化であってもよいし、硬化されていてもよい。非硬化である場合は、凹凸の大きい発熱部と放熱部の間に効率よく追従することが出来るため接触熱抵抗を最大限低くすることが可能となり、ポットライフは長く、性状は安定している。ゲル状又はゴム状組成物は、シート成形、押出成形又はプレス成形によりシートに成形し、硬化されているのが好ましい。プレス成形は、それぞれの成形品が異形状にプレス成形されていてもよい。プレス成形は型締め成形ともいわれる。
【0015】
前記X線遮蔽性粒子は、バリウム、タングステン、ビスマス、モリブデン、スズ、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム及びその化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの粒子であるのが好ましい。これらの粒子はX線遮蔽性が高い。この中でも硫酸バリウムが好ましい。硫酸バリウムは、天然の重晶石と呼ばれるバライト鉱物の粉砕品である簸性(ひせい)硫酸バリウム(バライトパウダー)と、化学反応で製造した沈降性硫酸バリウムがある。本発明では簸性(ひせい)硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム又はこれらの混合品を使用できる。沈降性硫酸バリウムは粒子の大きさが整っており、沈降性硫酸バリウムが好ましい。硫酸バリウムの体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)は0.1~30μmが好ましく、より好ましくは0.5~25μm、さらに好ましくは1~20μmである。硫酸バリウムの比重は4.2~4.5であり、融点は1580℃である。硫酸バリウムは不定形ないしは破砕形状のものが好ましい。
【0016】
前記熱伝導性粒子は、アルミナ(酸化アルミニウム),酸化亜鉛,酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子であるのが好ましい。これらの無機粒子は熱伝導率が高く、電気伝導率は低い。この中でもアルミナ(酸化アルミニウム)はコストも安く、熱伝導率も比較的高いことから好ましい。また、アルミナは、D50(メジアン径)が0.01μm以上1μm未満のいわゆるサブミクロン粒子と、1μm以上50μm未満の小粒子と、50μm以上の大粒子を組み合わせて使用することが好ましい。これにより最密充填できる。なお、銅、金、銀、アルミニウム、タングステンなどの電気伝導性粒子は含まないのが好ましい。電気伝導性粒子は電子部品などの発熱部と放熱部との間の放熱体(TIM)として使用すると、電気的短絡を起こす事故の恐れがある。
【0017】
X線遮蔽性粒子及び熱伝導性粒子からなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子は、少なくとも一部がシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤、又はジルコネートカップリング剤で表面処理されているのが好ましい。この中でもシランカップリング剤が好ましく、少なくとも一部がRaSi(OR’)4-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは3)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物のシランカップリング剤で表面処理されているのが好ましい。シランカップリング剤は予め無機粒子と混合し、熱処理して前処理しておいてもよく(前処理法)、ベースポリマーと硬化触媒と無機粒子を混合する際に添加してもよい(インテグラルブレンド法)。前処理法及びインテグラルブレンド法の場合には、無機粒子100質量部に対し、シランカップリング剤を0.01~10質量部添加するのが好ましい。表面処理することでベースポリマーに充填しやすくなるとともに、無機粒子へ硬化触媒(例えば白金系触媒)が吸着されるのを防ぎ、硬化阻害を防止する効果がある。これは保存安定性に有用である。とくにD50(メジアン径)が10μm以下の小粒子は硬化触媒が吸着される傾向が高いことから、D50(メジアン径)が10μm以下のX線遮蔽性粒子及び熱伝導性粒子を表面処理するのが好ましい。
【0018】
前記のアルコキシシラン化合物(以下単に「シラン」ともいう。)は、一例としてメチルトリメトキシラン,メチルトリエトキシシラン,ジメチルジメトキシシラン,ジメチルジエトキシシラン,トリメチルメトキシシラン,トリメチルエトキシシラン,エチルトリメトキシラン,エチルトリエトキシシラン,プロピルトリメトキシラン,プロピルトリエトキシシラン,ブチルトリメトキシラン,ブチルトリエトキシシラン,ペンチルトリメトキシラン,ヘキシルトリメトキシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン,ヘキサデシルトリメトキシシラン,ヘキサデシルトリエトキシシラン,オクタデシルトリメトキシシラン,オクタデシルトリエトキシシラン等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、一種又は二種以上混合して使用することができる。表面処理剤として、アルコキシシランと片末端シラノールシロキサンや片末端トリメトキシシリルポリシロキサンを併用してもよい。ここでいう表面処理とは共有結合のほか吸着なども含む。
【0019】
前記シリコーン成分は、オルガノポリシロキサンであり、25℃における粘度が10~1000000mPa・sであるのが好ましい。これによりX線遮蔽性粒子及び熱伝導性粒子との均一組成の組成物が得やすい。
【0020】
シリコーンポリマーを硬化架橋させてシリコーンシート状硬化物を得る場合、その硬化架橋方法は限定されるものではない。アルケニル基とSiH基を付加反応させる方法、過酸化物によりアルケニル基やアルキル基を架橋させる方法、シラノールやアルコキシ基を縮合させる方法、さらにそれらを組み合わせて架橋硬化を行う方法などがある。この中でも白金等の触媒を用いてアルケニル基とSiH基を付加反応させて硬化させる方法が、反応に伴う副生成物が生成せず、反応速度がコントロールでき、成形物の深部までスムーズに硬化反応が進行するなどの点から好ましい。また、過酸化物硬化反応はより高い温度で硬化することができ、ゴム、エラストマーなどに好ましい。
【0021】
本発明の製造方法は、シリコーン組成物を混合し、コンパウンドとし、シート成形、押出成形又はプレス成形により成形し、硬化する。シートの厚みは0.2~10mmの範囲が好ましい。また前記シートの硬化条件は、温度70~250℃、加熱時間は1~15分が好ましい。
【0022】
本発明のシリコーン組成物は任意の形状に成形し、電子部品などの発熱部と放熱部との間の放熱体:TIM(Thermal Interface Material)として使用することもできる。
【0023】
前記X線遮蔽性粒子及び前記熱伝導性粒子からなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子の形状は球状,不定形状(破砕状)、鱗片状,多面体状等様々なものを使用できる。平均粒子径を用いる場合は、0.01~150μmの範囲が好ましい。粒子径の測定はレーザー回折光散乱法により、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)を測定する。この測定器としては、例えば堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA-950S2がある。
【0024】
無機粒子は平均粒子径が異なる少なくとも2つの粒子を併用してもよい。このようにすると大きな粒子径の間に小さな粒子径の粒子が埋まり、最密充填に近い状態で充填でき、熱伝導性や断熱性、電磁波吸収性、材料強度などの特性が高くなるからである。
【0025】
本発明の組成物には、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えばベンガラ、酸化チタンなどの耐熱向上剤、難燃助剤、硬化遅延剤などを添加してもよい。着色、調色の目的で有機或いは無機粒子顔料を添加しても良い。フィラー表面処理などの目的で添加する材料として、アルコキシ基含有シリコーンを添加しても良い。また、付加硬化反応基を持たないオルガノポリシロキサンを添加しても良い。25℃での粘度が10~100,000mPa・s、特に100~10,000mPa・sであることが作業性から望ましい。
【0026】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施形態におけるX線遮蔽性シリコーンシートを放熱構造体10に組み込んだ模式的断面図であり、電子部品の発熱部と放熱部との間の放熱体:TIM(Thermal Interface Material)として使用した例である。X線遮蔽性シリコーンシートは、半導体素子等の電子部品13の発する熱を放熱するものであり、ヒートスプレッダ12の電子部品13と対峙する主面12aに固定され、電子部品13とヒートスプレッダ12との間に挟持される。また、X線遮蔽性シリコーンシート11aは、ヒートスプレッダ12とヒートシンク15との間に挟持される。そして、X線遮蔽性シリコーンシート11a,11bは、ヒートスプレッダ12とともに、電子部品13の熱を放熱するとともにX線を遮蔽する。ヒートスプレッダ12は、例えば方形板状に形成され、電子部品13と対峙する主面12aと、主面12aの外周に沿って立設された側壁12bとを有する。ヒートスプレッダ12は、側壁12bに囲まれた主面12aにX線遮蔽性シリコーンシート11bが設けられ、また主面12aと反対側の他面12cにX線遮蔽性シリコーンシート11aを介してヒートシンク15が設けられる。電子部品13は、例えば、BGA等の半導体素子であり、配線基板14へ実装されている。
【実施例】
【0027】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。各種パラメーターについては下記の方法で測定した。
<熱伝導率>
熱伝導性シリコーンシートの熱伝導率は、ホットディスク(ISO 22007-2:2008準拠)により測定した。この熱伝導率測定装置1は
図2Aに示すように、ポリイミドフィルム製センサ2を2個の試料3a,3bで挟み、センサ2に定電力をかけ、一定発熱させてセンサ2の温度上昇値から熱特性を解析する。センサ2は先端4が直径7mmであり、
図2Bに示すように、電極の2重スパイラル構造となっており、下部に印加電流用電極5と抵抗値用電極(温度測定用電極)6が配置されている。熱伝導率は以下の式(数1)で算出する。
【数1】
<X線遮蔽率、鉛当量>
X線遮蔽率及び鉛当量は、JIS Z 4501:2011(X線防護用具の鉛当量試験方法)及びJIS T61331-1:2016(診断用X線に対する防護用具-第1部:材料の減弱特性の決定方法)に準じて透過X線量を測定してX線遮蔽率及び鉛当量を求めた。
X線装置:コメットテクノロジーズ・ジャパン社製 MGi-450型
X線管電圧及び管電流:100kV,12.5mA,付加ろ過板0.25mmCu
X線管焦点-試料間距離:1500mm
試料-測定器間距離:50mm
測定器:電離箱照射線量率計 東洋メディック株式会社製 RAMTEC-solo型 A4型プローブ使用
X線ビーム:狭いX線ビーム
<硬さ>
下記の2つの硬度を測定した。
(1)ASKER C(ASTM D2240:2021)
(2)SHORE OO(JIS K 7312:1996)
【0028】
(実施例1)
1.原料成分
(1)ベースポリマー
硬化後シリコーンゲルとなる市販の2液付加硬化型シリコーンポリマーを使用した。一方の液(A液)には、ベースポリマー成分(A成分)と白金族系金属触媒(C成分)が含まれており、他方の液(B液)には、ベースポリマー成分(A成分)と架橋剤成分(B成分)であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが含まれている。A液の25℃における粘度は400mPa・s、B液の25℃における粘度は300mPa・sである。
(2)X線遮蔽無機粒子
沈降性硫酸バリウム、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)が5μm、形状は
図3に示す不定形、デシルトリメトキシシランで表面処理したものをベースポリマー100gに対して450g(組成物100vol.%当たり25vol.%)を使用した。
(3)熱伝導性無機粒子
熱伝導性無機粒子は、次のものを使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が0.3μm、形状は
図4に示す不定形、オクチルトリエトキシシラン表面処理したものをベースポリマー100gに対して160g(組成物100vol.%当たり10vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が35μm、形状は
図5に示す球状のものをベースポリマー100g当たり320g(組成物100vol.%当たり20vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が75μm、球状のものをベースポリマー100g当たり320g(組成物100vol.%当たり20vol.%)を使用した。
2.混合及び硬化物成形
前記ベースポリマーと熱伝導性無機粒子とX線遮蔽無機粒子を均一に混合してコンパウンド(組成物)とした。
このコンパウンド(組成物)をポリエステル(PET)フィルムで挟み、ロールを通してシート成形し、その後、100℃、10分加熱し、シリコーン硬化シートを得た。得られた硬化シートの厚さは2mmであった。
【0029】
(比較例1)
沈降性硫酸バリウムを添加しない以外は実施例1と同様に実施した。
【0030】
(比較例2)
沈降性硫酸バリウムをデシルトリメトキシシランで表面処理したものをベースポリマー100g当たり450g(組成物100vol.%当たり50vol.%)を使用し、アルミナを添加しない以外は実施例1と同様に実施した。
以上の結果を表1にまとめて示す。
【0031】
【0032】
表1から明らかなとおり、実施例1はX線遮蔽率及び鉛当量は比較例1と比べて高く、熱伝導率は実用的には十分である。実施例1は比較例2と比べ熱伝導率は高く、X線遮蔽率及び鉛当量は実用的には十分であり、X線遮蔽性と熱伝導性の両方の特性が高いシリコーン組成物であることが確認できた。また、X線発生装置から漏洩する無用なX線を減らすことができ、X線検査などの照射線から被照射体内部の電子部品を保護するのに好適であることも確認できた。
【0033】
(実施例2)
沈降性硫酸バリウムをデシルトリメトキシシランで表面処理したものをベースポリマー100gに対して90g(組成物100vol.%当たり10vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が0.3μm、形状は不定形、オクチルトリエトキシシラン表面処理したものをベースポリマー100gに対して64g(組成物100vol.%当たり8vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が35μm、形状は球状のものをベースポリマー100gに対して128g(組成物100vol.%当たり16vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が75μm、球状のものをベースポリマー100gに対して128g(組成物100vol.%当たり16vol.%)を使用した。
【0034】
(実施例3)
沈降性硫酸バリウムをデシルトリメトキシシランで表面処理したものをベースポリマー100gに対して200g(組成物100vol.%当たり10vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が0.3μm、形状は不定形、オクチルトリエトキシシラン表面処理したものをベースポリマー100gに対して240g(組成物100vol.%当たり13.5vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が35μm、形状は球状のものをベースポリマー100gに対して480g(組成物100vol.%当たり27vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が75μm、球状のものをベースポリマー100gに対して480g(組成物100vol.%当たり27vol.%)を使用した。
【0035】
(実施例4)
沈降性硫酸バリウムをデシルトリメトキシシランで表面処理したものをベースポリマー100gに対して300g(組成物100vol.%当たり10vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が0.3μm、形状は不定形、オクチルトリエトキシシラン表面処理したものをベースポリマー100gに対して400g(組成物100vol.%当たり15vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が35μm、形状は球状のものをベースポリマー100gに対して800g(組成物100vol.%当たり30vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が75μm、球状のものをベースポリマー100gに対して800g(組成物100vol.%当たり30vol.%)を使用した。
【0036】
(実施例5)
沈降性硫酸バリウムをデシルトリメトキシシランで表面処理したものをベースポリマー100gに対して540g(組成物100vol.%当たり28.6vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が0.3μm、形状は不定形、オクチルトリエトキシシラン表面処理したものをベースポリマー100gに対して160g(組成物100vol.%当たり9.5vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が35μm、形状は球状のものをベースポリマー100gに対して320g(組成物100vol.%当たり19vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が75μm、球状のものをベースポリマー100gに対して320g(組成物100vol.%当たり19vol.%)を使用した。
以上の結果を表2にまとめて示す。
【0037】
【0038】
表2から実施例2~5はいずれもX線遮蔽率及び鉛当量は高く、熱伝導率は実用的には十分であり、X線遮蔽性と熱伝導性の両方の特性が高いシリコーン組成物であることが確認できた。
【0039】
(実施例6)
沈降性硫酸バリウム:D50(メジアン径)が0.24μm、形状は
図4に示す不定形のものをベースポリマー100gに対して450g(組成物100vol.%当たり25vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が2.4μm、形状は不定形、デシルトリメトキシシラン表面処理したものをベースポリマー100gに対して160g(組成物100vol.%当たり10vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が35μm、形状は球状のものをベースポリマー100gに対して320g(組成物100vol.%当たり20vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が75μm、球状のものをベースポリマー100gに対して320g(組成物100vol.%当たり20vol.%)を使用した。
【0040】
(実施例7)
簸性硫酸バリウム:D50(メジアン径)が9.5μm、形状は
図6に示す不定形のものをベースポリマー100gに対して450g(組成物100vol.%当たり25vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が0.3μm、形状は不定形、オクチルトリエトキシシラン表面処理したものをベースポリマー100gに対して160g(組成物100vol.%当たり10vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が35μm、形状は球状のものをベースポリマー100gに対して320g(組成物100vol.%当たり20vol.%)を使用した。
・アルミナ:D50(メジアン径)が75μm、球状のものをベースポリマー100gに対して320g(組成物100vol.%当たり20vol.%)を使用した。
以上の結果と参考のため実施例1の結果を表3にまとめて示す。
【0041】
【0042】
表3から明らかなとおり、実施例7はサブミクロンの硫酸バリウム、実施例8は簸性硫酸バリウムであり、X線遮蔽率及び鉛当量は高く、熱伝導率は実用的には十分であった。粒子径や種類が制限されるものではないことを確認できた。
【0043】
(実施例8)
非硬化性シリコーンポリマーを使用する以外は実施例1と同様に実施した。非硬化性シリコーンポリマーは25℃における粘度は300mPa・sであった。
【0044】
【0045】
表4から実施例8は非硬化性シリコーンポリマーを使用しているため、流動性を保有しており、硬さ計では1未満となり測定出来なかった。X線遮蔽率及び鉛当量は実施例1と同等であった。また、熱伝導率は実用的には十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のX線遮蔽性シリコーン組成物及びX線遮蔽性シリコーンシートは、X線発生装置から漏洩する無用なX線を減らすことができ、また、X線検査などの照射線から被照射体内部の電子部品を保護するのに好適である。
【符号の説明】
【0047】
1 熱伝導率測定装置
2 センサ
3a,3b 試料
4 センサの先端
5 印加電流用電極
6 抵抗値用電極(温度測定用電極)
10 放熱構造体
11a,11b 熱伝導性シート
12 ヒートスプレッダ
12b ヒートスプレッダ側壁
13 電子部品
14 配線基板
15 ヒートシンク
【要約】
シリコーン成分とX線遮蔽性粒子と熱伝導性粒子を含み、組成物100vol.%当たり、シリコーン成分15~60vol.%、X線遮蔽性粒子5~50vol.%、熱伝導性粒子30~80vol.%のX線遮蔽性シリコーン組成物である。この成形物は、一例としてシート成形又はプレス成形によりシートに成形し、硬化したものである。前記シートの製造方法は、一例としてシリコーン組成物を混合し、コンパウンドとし、シート成形、押出成形又はプレス成形により成形し硬化する。これにより、X線遮蔽性と熱伝導性の両方の特性が高いシリコーン組成物、X線遮蔽性シリコーンシート及びその製造方法を提供する。