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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】プラズマ含有ガス製造装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20240709BHJP
   B41F 23/04 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H05H1/24
B41F23/04 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020101254
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2021197227
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】石塚 崇
(72)【発明者】
【氏名】塩島 瑞生
(72)【発明者】
【氏名】宮原 秀一
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-515708(JP,A)
【文献】特開平07-220895(JP,A)
【文献】特表2008-539055(JP,A)
【文献】特表2017-509099(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0087875(US,A1)
【文献】特開2010-051941(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026819(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/24-1/26
B41F 23/04
B01J 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を空けて配置される互いに極性の異なる一対の電極、
一対の電極間に形成され、電界を形成して放電することで、空間内のガスをプラズマ含有ガスとするプラズマ処理空間、
少なくとも一方の電極に隣接し、プラズマ処理空間内に設けられる誘電体、
を有し、
一対の電極の陰極が液体電極であって、液体電極とプラズマ処理空間との間に、液体電極と隣接する誘電体が設けられており、誘電体により、プラズマ含有ガスが液体に流入しない構成であり、
一対の電極の陽極が表面にガラス質材料又はセラミック材料の絶縁性被膜が設けられた導電材料により形成されたものであって、絶縁性被膜により、ガスと導電材料が直接接触しない構成となっている、プラズマ含有ガス製造装置。
【請求項2】
空間を空けて配置される一対の電極、
一対の電極間に形成され、電界を形成して放電することで、空間内のガスをプラズマ含有ガスとするプラズマ処理空間、
少なくとも一方の電極に隣接し、プラズマ処理空間内に設けられる誘電体、
を有し、
一対の電極の一方が、導電材料により形成された中心電極であり、
一対の電極のもう一方が、中心電極と離間して対向する誘電体と筐体とで形成された二重管内を液体で満たして液体電極としたものであって、誘電体により、プラズマ含有ガスが液体に流入しない構成である、
プラズマ含有ガス製造装置。
【請求項3】
空間を空けて配置される一対の電極、
一対の電極間に形成され、電界を形成して放電することで、空間内のガスをプラズマ含有ガスとするプラズマ処理空間、
少なくとも一方の電極に隣接し、プラズマ処理空間内に設けられる誘電体、
を有し、
一対の電極の一方が、誘電体を底部に有し上部が解放された容器に液体を入れて構成された液体電極である陰極であり、
一対の電極のもう一方が、前記誘電体に対抗して設けられ、これによりプラズマ処理空間が形成されている、
プラズマ含有ガス製造装置。
【請求項4】
空間を空けて配置される一対の電極、
一対の電極間に形成され、電界を形成して放電することで、空間内のガスをプラズマ含有ガスとするプラズマ処理空間、
少なくとも一方の電極に隣接し、プラズマ処理空間内に設けられる誘電体、
を有し、
一対の電極の一方が、管状の誘電体の管内を液体で満たし液体電極を形成した中心電極であり、
一対の電極のもう一方が、前記中心電極から離間して設けられた導電材料により形成された電極である、
プラズマ含有ガス製造装置。
【請求項5】
空間を空けて配置される一対の電極、
一対の電極間に形成され、電界を形成して放電することで、空間内のガスをプラズマ含有ガスとするプラズマ処理空間、
少なくとも一方の電極に隣接し、プラズマ処理空間内に設けられる誘電体、
を有し、
一対の電極の一方が、導電材料により形成された中心電極であり、
一対の電極のもう一方が、管状の誘電体を中心電極から離間してコイル状に形成し、管状の誘電体の管内を液体で満たして液体電極としたものである、
プラズマ含有ガス製造装置。
【請求項6】
液体電極として用いる液体の25℃での電導度が、50~1000μS/cmである、請求項1~5のいずれか1項に記載のプラズマ含有ガス製造装置。
【請求項7】
液体電極を冷却する手段を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のプラズマ含有ガス製造装置。
【請求項8】
液体電極を構成する液体が、水又は水溶液である、請求項1~7のいずれか1項に記載のプラズマ含有ガス製造装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のプラズマ含有ガス製造装置を備える印刷機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ含有ガス製造装置に関する。より詳しくは、プラズマを生成するための電極の一方を水等の液体により形成したプラズマ含有ガス製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))や海洋プラスチック問題をはじめ、環境対応への取り組みが急速に進んでいる。製品開発においても、低炭素化やリサイカブルへの対応が非常に重要となり、印刷市場においてもバイオマス化及び省エネルギー化への取り組みが盛んになっている。
印刷方式のうち、ヒートセット印刷方式は、乾燥ドライヤー部の熱風生成やVOC成分の脱臭等で多大なエネルギーを消費するため、環境負荷やランニングコスト等が大きな課題となっている。インキの製造に際しても、近年の環境配慮に対する意識が急速に高まっている中、石油由来の鉱物油成分が大量に含まれるヒートセットインキのバイオマス化設計が大きな課題となっている。
【0003】
本発明者らは、プラズマの酸化促進性を利用したインキの速乾技術を応用し、ヒートセット印刷方式を代替する、高い環境配慮性と省エネルギー化を実現した新規印刷システムに有用な技術の開発を進めてきた。
そして、プラズマ濃度が高いプラズマ含有ガスを用いると、ヒートセット輪転機の印刷速度(例えば、400m/min)への速乾対応も可能となるとの知見を得た。一方で、プラズマ放電によりプラズマ含有ガスを製造する際には、プラズマ放電に起因して電極の熱化が生じ、この熱によりプラズマが消失・失活する傾向があるため、プラズマ濃度が高いプラズマ含有ガスの製造に際して検討が必要であるとの知見も得た。
【0004】
プラズマ照射を含む印刷方式として、例えば、特許文献1~3に開示の方法が知られている。
特許文献1には、枚葉オフセットインキの新たな乾燥・定着方式として、大気圧プラズマで発生した陰イオンを印刷面と接触させることが提案されている。しかし、乾燥・定着までに時間を必要とするため、速乾性の点で問題があり、大量に早く印刷する方式に適用することは困難である。
特許文献2、3には、インクジェット印刷後のインキを、大気圧プラズマを用いて乾燥・硬化させることが記載されている。しかし、ヒートセット輪転機の印刷速度(例えば、400m/min)への速乾対応のために、高いプラズマ濃度のプラズマ含有ガスを低コストで得ることについて記載されていない。
特許文献4~6には、プラズマ放電に際して、電極を冷却することが記載されている。しかしながら、これらの装置は、プラズマ含有ガスの製造に際して用いられる技術ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-54987号公報
【文献】特開2008-12919号公報
【文献】特開2020-11460号公報
【文献】特開平5-242995号公報
【文献】特開2003-215042号公報
【文献】特開2013-152913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、プラズマ放電によりプラズマ含有ガスを製造する際に発生する電極の熱化が抑制された、装置コスト及び利便性に優れたプラズマ含有ガス製造装置を提供することである。さらに、生成したプラズマの消失・失活を抑制し、プラズマ濃度が高いプラズマ含有ガスを安定して製造できるプラズマ含有ガス製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の発明を完成した。
[1]空間を空けて配置される一対の電極、
一対の電極間に形成され、電界を形成して放電することで、空間内のガスをプラズマ含有ガスとするプラズマ処理空間、
少なくとも一方の電極に隣接し、プラズマ処理空間内に設けられる誘電体、
を有し、一対の電極の少なくとも一方が液体電極である、プラズマ含有ガス製造装置。
[2]液体電極とプラズマ処理空間との間に誘電体が設けられる、[1]に記載のプラズマ含有ガス製造装置。
[3]液体電極として用いる液体の25℃での電導度が、50~1000μS/cmである、[1]又は[2]に記載のプラズマ含有ガス製造装置。
[4]液体電極を陰極とする、[1]~[3]のいずれかに記載のプラズマ含有ガス製造装置。
[5]液体電極を冷却する手段を有する、[1]~[4]のいずれかに記載のプラズマ含有ガス製造装置。
[6]液体電極を構成する液体が、水又は水溶液である、[1]~[5]のいずれかに記載のプラズマ含有ガス製造装置。
[7][1]~[6]のいずれかに記載のプラズマ含有ガス製造装置を備える印刷機。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、プラズマ放電でプラズマ含有ガスを製造する際に発生する電極の熱化が抑制された、装置コスト及び利便性に優れたプラズマ含有ガス製造装置が提供される。
また、生成したプラズマの消失・失活を抑制することができ、プラズマ濃度が高いプラズマ含有ガスを安定して製造できるプラズマ含有ガス製造装置が提供される。
そして、ヒートセット輪転機の印刷速度(例えば、400m/min)への速乾対応と、乾燥コストの低減との両立により、従来の油性枚葉印刷にプラズマ含有ガスによる印刷インキの乾燥・硬化を適用し、汎用性の高い印刷システムを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るプラズマ含有ガス製造装置の概略構成図
図2】本発明に係るプラズマ含有ガス製造装置の別の概略構成図
図3】本発明に係るプラズマ含有ガス製造装置の別の概略構成図
図4】本発明に係るプラズマ含有ガス製造装置の別の概略構成図
図5】本発明に係るプラズマ含有ガス製造装置の別の概略構成図
図6】本発明に係るプラズマ含有ガス製造装置の別の概略構成図
図7】本発明に係るプラズマ含有ガス製造装置の別の概略構成図
図8】本発明に係るプラズマ含有ガス製造装置の別の概略構成図
図9】液体電極又は冷却しない金属電極を用いたプラズマ含有ガス製造装置における、稼働時間毎のプラズマ含有ガスによるプラズマインジケータの変色能力(色差ΔE)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0011】
[第1の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置の概略構成図である。
プラズマガス製造装置1は、空間を空けて配置される互いに極性の異なる一対の電極2a及び2bと、一対の電極2a及び2b間に形成され、電界を形成して放電することで、空間内の原料ガスをプラズマ含有ガスとするプラズマ処理空間3と、電極2bに隣接しプラズマ処理空間内に設けられる誘電体4とを有し、電極2bが液体電極(液体を電極としたもの)とされたものである。
互いに極性の異なる一対の電極2a及び2bは、電源5に接続され、電界を形成し放電し得るようにされている。互いに極性の異なる一対の電極2a及び2bについて、どちらを陽極とするか(どちらを陰極とするか)は、特に制限されない。本発明においては、液体電極である電極2bを陰極とすることが好ましい。
互いに極性の異なる一対の電極2a及び2bで構成される放電用電極の間隔は、特に限定されず、必要とするプラズマ含有ガス量、放電密度、電圧等を考慮して適宜好適化すればよい。例えば0.5~3mm程度にすることができる。
【0012】
電極2aは、電極としての機能を有するものであれば特に限定されない。例えば、金属(金、銀、銅、鉄、ニッケル、各種合金等)や炭素等の導電材料により形成することができる。なお、電極2aは、安定したプラズマ放電を得るために、原料ガスと直接接触しない構成とすることができる。そのため、電極2aの表面に、コーティング等の公知の手段により、石英、アルミナ等のガラス質材料やセラミック材料等の絶縁性被膜を設けてもよい。また、電極2aは冷却機構を有していてもよい。冷却機構としては、電極2aの内部に冷却媒体、例えば、冷却水や冷媒が流れる機構等があげられる。
電極2bは、液体により形成される液体電極である。液体としては、特に限定されない。例えば、水道水や工業用水等の水、海水や電解質等を含む水溶液、イオン性液体、導電性液体等の液体が用いられる。本発明においては、水又は水溶液を用いることが好ましい。
なお、本発明においては、電極2aを液体により形成される液体電極とすることもできる。その場合、電極2aを構成する液体の種類は、電極2bを構成する液体と同様のものにすることができる。なお、電極2aを構成する液体と、電極2bを構成する液体とは、同じであっても異なっていてもよい。電極2a及び2bの両者が液体電極である場合には、両電極を効率的に冷却することが可能となる。これにより、電極の熱化がより抑制でき、プラズマ濃度が高いプラズマ含有ガスを安定して製造することが可能となる。
【0013】
電極2b(液体電極)を構成する液体の電導度は特に限定されない。本発明においては、液体の入手容易性や入手コスト、メンテナンス容易性、放電エネルギー等の観点から、25℃での電導度が、50~1000μS/cmである液体を用いることが好ましい。このような導電度の液体としては、例えば、水道水や各種の電解質を含む水溶液があげられる。液体の電導度を調整することで、放電密度等を調整することもできる。
25℃での電導度が50μS/cm未満の液体を用いた場合、電導度が不足し、放電が弱くなるおそれや、放電に必要なエネルギーが増大してしまいコスト等の面で問題が生じるおそれがある。また、25℃での電導度が1000μS/cmを超える液体を用いた場合、漏電のリスクが高くなり、また、水溶液中の電解質濃度が高くなることによる装置の腐食等の点の問題が生じるおそれがある。
【0014】
プラズマ処理空間3に導入される原料ガスは、プラズマの原料ガスになるとともに、プラズマ化されなかった原料ガスは、プラズマのキャリヤーガスになる。
原料ガスとしては、空気、酸素ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス、アルゴンガス、水蒸気等の気体からなる群より選ばれる1種以上が例示されるが特に限定されない。これらの中でも、空気、酸素ガス、窒素ガス及び二酸化炭素ガスからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
原料ガスは、図示しない原料ガス源から供給され、導入口からプラズマ処理空間3内に導入される。原料ガス源としては、原料ガスの収容容器(ガスボンベ)であってもよく、また、ガスとして空気を用いる場合には、外気取入れブロアであってもよい。本発明においては、使用済みのプラズマ含有ガス又は必要に応じて不純物除去等の処理を行った再生ガスを、循環利用(再利用)してもよい。
【0015】
原料ガスは、導入口からプラズマ処理空間3の内部へ吹き込まれる。原料ガスの供給量は、特に限定されないが、0.1~100m/min、好ましくは0.5~30m/minとすることができる。
電極2aと2bには、電源5から高周波、パルス波、マイクロ波等が印加され、放電開始電圧を超えると、プラズマ処理空間3内に電界が形成される。導入された原料ガスは、その少なくとも一部がプラズマ処理空間3でプラズマ化された後に、プラズマ含有ガスとして放出される。したがって、プラズマ含有ガスは、原料ガスの少なくとも一部をプラズマ化処理して得られるすべてのガスを含む。
【0016】
プラズマを生成する際の圧力は、0.1~10気圧、好ましくは0.7~1.5気圧の圧力範囲とすることが好ましい。また、プラズマを生成する際の温度は、特に限定されないが、取扱性等を考慮すると、低温(150℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは50℃以下)とすることが好ましい。
本発明におけるプラズマは、低温(150℃以下)で発生させた大気圧プラズマであることが好ましい。150℃以上の高温で発生させたプラズマは、冷却効率が悪く、また、プラズマの発生と同時にプラズマの消失・失活が起こるおそれがあるため、プラズマ含有ガス中のプラズマ濃度を高くすることが難しくなるおそれがある。
【0017】
本発明においては、電界の立ち上がり及び立ち下がりに要する時間(立ち上がり及び立ち下がりとは、電圧が連続して増加又は減少することである。)を短くするために、パルス波を印加することが好ましい。電界の立ち上がりや立ち下がりに要する時間は、10μs以下とされ、好ましくは50ns~5μsとされる。
【0018】
プラズマ処理空間3において発生させる電界強度は、特に限定されない。1kV/cm以上、好ましくは20kV/cm以上とすることができる。また、1000kV/cm以下、好ましくは300kV/cm以下とすることができる。パルス波により印加するときの周波数としては、特に限定されない。0.5kHz以上が好ましく、10~20MHz程度や50~150MHz程度とすることができる。電力としては、40W/cm以下、好ましくは30W/cm以下とすることができる。
【0019】
本発明におけるプラズマとしては、科学的に定義されたプラズマであれば特に制限なく用いられる。プラズマは、電離によって生じた荷電粒子を含むエネルギーの高い気体の状態のもので、イオンと電子の数が同数又はほぼ同数で、電気的に中性又はほぼ中性の状態であればよい。プラズマは、互いに離間した電極間での放電等の種々の方法で生成することができる。
【0020】
プラズマ含有ガス中のプラズマは、生成直後は発光を伴う高エネルギー状態となっている。このため、プラズマ原料ガスの種類に応じた色に発光し、様々な化学反応を誘起させることができる。プラズマ含有ガス中のプラズマは、エネルギーの一部を失うことで不可視状態となる。例えば、プラズマ含有ガス中のプラズマは、気流に乗り長距離移送される際に、徐々にエネルギーを失って消光し、最終的に不可視状態となる。また、例えば、プラズマ含有ガス中の発光しているプラズマから、エネルギーを奪う操作等により、消光させて不可視状態とすることができる。
【0021】
誘電体4は、例えば、ガラス、セラミックのような誘電性を備えた材料である。チタン酸バリウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の誘電率が2000以下の誘電体を用いることもできる。本発明においては、特に限定されないが、耐久性、材料コスト等の点から、ガラスを用いることが好ましい。
誘電体4は、電極2bと近接してプラズマ処理空間3内に設けることができ、電極2bと隣接させることが好ましい。なお、電極2aを液体電極とした場合には、電極2aと近接するさらなる誘電体4を設けることができる。液体電極を用いると、誘電体と電極との間に空隙が形成されず、その空隙にプラズマが発生することがないため、電力の節約、熱発生の抑制、電極の腐食の防止等の点で有利である。
【0022】
第1の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置は、誘電体4と筐体6との間に水等の液体を存在させ、この液体を電極2bとしたものである。
本発明において、冷却効率等の観点から、図1のように、誘電体4と筐体6との間に導入口から水等の液体を導入するとともに、放出口から液体を放出可能として流通可能な構成とすることができる。放出口から放出させた液体は、廃棄又は別用途に使用することもでき、また、必要に応じて少なくとも一部に対して熱交換処理等を行った後に、導入口に導き循環利用(再利用)することができる。循環利用(再利用)は、全量でもよく、少なくとも一部でもよい。
本発明において、液体を流通又は循環しない構成とすることができる。例えば、図7に示されるように、冷却フィン7a等の空冷機構を設けることができる。その際、必要に応じて、空冷機構に気流を接触させる構成とすることができる。液体を流通又は循環しない構成とした場合、液体の蒸発や流出等を防止するために、蓋8等の蓋部材を設けてもよく、また、液体表面に不揮発性又は難揮発性の液体の膜等を設けてもよい。さらに、液体自体を、不揮発性又は難揮発性の液体とすることができる。
【0023】
プラズマ処理空間3や筐体6の形状は、任意の形状とすることができる。例えば、筒状、球状、箱状等があげられる。また、例えば、プラズマ処理空間3は、プラズマ含有ガスの放出口に近づくほど細くなるように加工されてノズル形状となっていてもよい。また、誘電体4と筐体6との間の液体を存在させる空間は、仕切り等を入れて液体の流路を形成してもよく、撹拌部材等を存在させて高温の液体が偏在しないようにすることもできる。
【0024】
[第2の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置]
図2に示される第2の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置は、電極2aを中心電極とし、中心電極と離間して対向する誘電体4と筐体6とで形成された二重管を設けるとともに、二重管内を水等の液体で満たすことで電極2bとしたものである。
管状の誘電体4内は、水等の冷却媒体を流通させることができ、これにより電極2bの温度上昇を抑制することができる。
【0025】
[第3の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置]
図3に示される第3の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置は、誘電体4を底部に有する容器内に水等の液体を入れて電極2bを構成し、誘電体4と電極2aとの間にプラズマ処理空間3を形成したものである。誘電体4を底部に有する容器には、図示しない液体注入装置(液体注入口)及び図示しない液体排出装置(液体排出口)を設け、液体を流通させることができる。また、液体を冷却するファン等の空冷機構を設けることもできる。
【0026】
[第4の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置]
図4に示される第4の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置は、管状の誘電体4の管内を水等の液体で満たして電極2bを形成して中心電極とし、管状の電極2aを中心電極から離間して設けたものである。
管状の誘電体4内は、水等の冷却媒体を流通させることができ、これにより電極2bの温度上昇を抑制することができる。
図4では、管状の電極2aの外周に筐体6が設けられているが、必要に応じて設けなくてもよく、また、一部だけに設ける構成としてもよい。また、管状の電極2aは、線状の電極2aをコイル状に巻くことで環状としたものでもよい。
【0027】
[第5の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置]
図5に示される第5の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置は、電極2aを中心電極として、管状の誘電体4を中心電極から離間してコイル状に形成し、管状の誘電体4の管内を液体で満たして電極2b(液体電極)としたものである。
管状の誘電体4内は、水等の冷却媒体を流通させることができ、これにより電極2bの温度上昇を抑制することができる。
図5では、管状の誘電体4は、筐体6の内側に形成されているが、管状の誘電体4を気密に接合することで、コイル状とした管状の誘電体4を筐体とすることも可能である。
【0028】
[第6の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置]
図6、7に示される第6の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置は、第1の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置において、筐体6に冷却部材7を設けたものである。冷却部材7は、図6に示されるように別部材として取り付けてもよく、また、図7に示されるように筐体6と一体的に形成して筐体6自体が冷却部材として機能する構造を有していてもよい。
冷却部材7は、伝熱性に優れた材料により構成されており、例えば、銀、銅、アルミニウム等の熱伝導性の高い金属、酸化アルミニウム、シリカ、窒化ケイ素、グラファイト等の熱伝導性の高いフィラーを含むセラミック、これらを複合化した材料等で構成することができる。
第6の実施形態においては、冷却部材7として、冷却フィン7aを多数有する構造とすることで、冷却部材7の放熱特性を向上させることができる。また、必要に応じて、冷却部材7(冷却フィン7a)に送風する装置や、冷却部材7中に冷媒の流通経路を設けることで、冷却効率を向上させることもできる。
【0029】
[第7の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置]
図8に示される第7の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置は、第2の実施形態に係るプラズマ含有ガス製造装置において、筐体6に冷却部材7を設けたものである。冷却部材7としては、第6の実施形態に記載したようなものがあげられる。
【0030】
[プラズマ含有ガスの用途]
本発明のプラズマ含有ガス製造装置により製造されるプラズマ含有ガスは、印刷機における乾燥装置において、印刷インキの乾燥・硬化のために印刷物と接触するように用いることが好ましい。接触手段としては、特に限定されず、例えば、印刷物にプラズマ含有ガスを噴射させてもよく、また、プラズマ含有ガス雰囲気中で印刷物を移動させてもよい。
このような用途に用いる際には、本発明のプラズマ含有ガス製造装置は、印刷機内または印刷機に付属して設けられる。
【実施例
【0031】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
液体電極として水電極を用い、これを陰極としたプラズマ含有ガス製造装置を用いて、プラズマ含有ガスを製造した。
運転開始1分後のプラズマ含有ガスを袋に注入した後に、プラズマインジケータ(サクラクレパス社製PLAZMARK(登録商標))を袋内に入れ、1分間振とうする。
変色したプラズマインジケータ(サクラクレパス社製PLAZMARK(登録商標))のΔEを測定する。
同様にして、運転開始1分後、5分後、10分後、15分後、20分後、25分後、30分後及び45分後に得られたプラズマ含有ガスについて、プラズマインジケータのΔEを測定した。
結果を、図9に示す。
【0033】
[比較例1]
水電極に代えて金属電極を陰極としたプラズマ含有ガス製造装置を用い、プラズマ含有ガスを製造した。実施例と同様に、運転開始1分後、5分後及び10分後に得られたプラズマ含有ガスについて、実施例と同様にプラズマインジケータのΔEを測定した。なお、運転中は、金属電極の冷却は行わなかった。
結果を図9に併せて示す。
【0034】
図9より、液体電極とした場合には、長時間の連続運転を行った場合でも、製造されるプラズマ含有ガス中のプラズマ濃度は、ほぼ一定に保たれていることが分かった。一方、冷却を行わない金属電極を用いた場合には、わずか5分でプラズマ含有ガス中のプラズマ濃度が低下(ΔEが小さくなっている)し、10分後にはプラズマ濃度が大幅に低下していることがわかった。
【符号の説明】
【0035】
1 プラズマ含有ガス製造装置
2a 電極
2b 電極(液体電極)
3 プラズマ処理空間
4 誘電体
5 電源
6 筐体
7 冷却部材
7a 冷却フィン
8 蓋
G プラズマ原料ガス
W 液体
PG プラズマ含有ガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9