IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川澄化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-医療デバイス 図1
  • 特許-医療デバイス 図2
  • 特許-医療デバイス 図3
  • 特許-医療デバイス 図4
  • 特許-医療デバイス 図5
  • 特許-医療デバイス 図6
  • 特許-医療デバイス 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/962 20130101AFI20240709BHJP
【FI】
A61F2/962
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023037792
(22)【出願日】2023-03-10
(62)【分割の表示】P 2019048430の分割
【原出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2023063395
(43)【公開日】2023-05-09
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2018066989
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】左 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】玉井 裕介
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-531193(JP,A)
【文献】特開2018-033998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/95 - 2/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体管腔内に医療処置具を留置する医療デバイスであって、
シースと、
先端部に前記医療処置具が配置され、前記シース内に挿通される管状部材と、を備え、
前記シースと前記管状部材との軸方向における相対的な移動により前記シースから前記医療処置具を前記生体管腔内に放出し、
前記シース又は前記管状部材を固定する固定部と、
前記固定部に支持される第1ギアを有し、当該固定部を前記軸方向に移動させるラックアンドピニオン機構と、をさらに備え、
前記ラックアンドピニオン機構は、前記第1ギアを前記軸方向と交差する方向に変位させて前記軸方向の位置を変化させることなく噛合状態又は非噛合状態に切り替え可能に構成され、
前記固定部は、前記噛合状態にて前記第1ギアが回転することにより前記軸方向に移動する一方で、前記非噛合状態にて前記軸方向に移動自在である
ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項2】
前記固定部は、
前記第1ギアを支持する第1部材と、
前記第1ギアが噛合する方向に前記第1部材を付勢して前記噛合状態を保持する付勢部材と、を有することを特徴とする請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記ラックアンドピニオン機構は、前記第1ギアに噛合する第2ギアをさらに有し、
前記固定部は、前記第2ギアを支持する第2部材をさらに有し、
前記第2部材は、前記第1部材が前記付勢部材の付勢力に抗して押し込まれるのを規制する規制部を有し、
前記第1部材は、前記第2部材に対して前記軸方向に移動可能に構成され、前記軸方向への移動に伴い、前記規制部による規制が解除され、押し込み可能となることを特徴とする請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記ラックアンドピニオン機構は、内周面に前記第2ギアに噛合するウォームを有するハンドルをさらに有し、
前記ハンドルを前記軸方向の周りに回転させることにより、前記第2ギア及び前記第1ギアが回転することを特徴とする請求項3に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記シース及び前記管状部材の後端側に設けられ、前記シースと前記管状部材を前記軸方向において相対的に移動させる操作部をさらに備え、
前記操作部は、前記固定部と、前記ラックアンドピニオン機構とを有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記操作部は、前記固定部を収容するカバーをさらに有し、
前記ラックアンドピニオン機構は、前記軸方向に沿って前記カバーの内部に設けられるラックを有し、前記ラックに対して前記第1ギアを前記噛合状態又は前記非噛合状態に切り替え可能に構成され、
前記固定部は、前記噛合状態にて前記第1ギアが回転することにより前記ラックに沿って前記軸方向に移動することを特徴とする請求項5に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体管腔に医療処置具を留置する医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療処置具の一例として、血管、食道、胆管、気管、尿管などの生体管腔に生じた狭窄部又は閉塞部に留置され、病変部位を拡径して生体管腔の開存状態を維持するステントが知られている。ステントは、例えば、線材を筒状に編み込んで形成された骨格部を有しており、網目の変形により径方向に拡縮可能となっている。また、医療処置具の他の例として、ステントからなる骨格部に人工血管(グラフト)等の皮膜部が形成された、いわゆるステントグラフトも知られている。
【0003】
一般に、ステント等の医療処置具を生体管腔に留置する医療デバイスは、シースと、シースに挿通される管状部材と、管状部材とシースとを軸方向に相対的に移動させる操作部と、を備えている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、医療デバイスの一例として、血管内にステントグラフトを留置するステントグラフト留置システムが開示されている。医療処置具は、管状部材の先端部に配置され、収縮状態でシース内に収容される。
【0004】
医療処置具が配置された管状部材は、シースとともに生体管腔内に導入され、病変部位まで移送される。そして、医療処置具の留置位置を調整した上で、例えば、シースを近位側に移動させることにより、シースから医療処置具が露出し、生体管腔内に放出される。
【0005】
特許文献1に開示の医療デバイスは、操作部に送りネジ機構を備えている。具体的には、シースが固定されている筒状の固定部の外周面に雄ねじを設け、固定部の外側に配置される筒状のハンドルの内周面に雌ねじを設け、雄ねじと雌ねじを螺合させることにより、送りネジ機構が形成されている。ハンドルの軸周りの回転に伴い、送りネジによりシースが近位側に移動することにより、医療処置具が少しずつ放出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5846505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の医療デバイスでは、固定部の雄ねじが外部に露出しているため、例えば、手術中に飛散した血液が付着して、医療処置具留置時の操作性が悪化し、医療処置具を留置する際の効率が低下する虞がある。
【0008】
本発明の目的は、生体管腔内に医療処置具を効率よく留置することができる医療デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る医療デバイスは、
生体管腔内に医療処置具を留置する医療デバイスであって、
シースと、
先端部に前記医療処置具が配置され、前記シース内に挿通される管状部材と、を備え、
前記シースと前記管状部材との軸方向における相対的な移動により前記シースから前記医療処置具を前記生体管腔内に放出し、
前記シース又は前記管状部材を固定する固定部と、
前記固定部に支持される第1ギアを有し、当該固定部を前記軸方向に移動させるラックアンドピニオン機構と、をさらに備え、
前記ラックアンドピニオン機構は、前記第1ギアを前記軸方向と交差する方向に変位させて前記軸方向の位置を変化させることなく噛合状態又は非噛合状態に切り替え可能に構成され、
前記固定部は、前記噛合状態にて前記第1ギアが回転することにより前記軸方向に移動する一方で、前記非噛合状態にて前記軸方向に移動自在である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体管腔内に医療処置具を効率よく留置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施の形態に係るステントグラフト留置システムの全体構成を示す斜視図である。
図2図2は、ステントグラフト留置システムにおける血管導入部分の構成を示す断面図である。
図3図3A図3Bは、操作部の構成を示す斜視図である。
図4図4は、操作部の内部構成を示す斜視図である。
図5図5は、操作部の遠位部分の分解斜視図である。
図6図6は、操作部の遠位部分の断面図である。
図7図7は、ギアボックス、トリガー及びギア列の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、本発明に係る医療デバイスの一例として、血管の病変部位(例えば、血管の狭窄部又は閉塞部)に、医療処置具であるステントグラフト14を留置するステントグラフト留置システム1について説明する。
【0013】
図1は、実施の形態に係るステントグラフト留置システム1の全体構成を示す斜視図である。図2は、ステントグラフト留置システム1におけるカテーテル部10の構成を示す断面図である。
図1図2に示すように、ステントグラフト留置システム1は、カテーテル部10及び操作部20を備える。
【0014】
カテーテル部10は、シース11、管状部材12、インナーロッド13及びステントグラフト14を有する。シース11、管状部材12及びインナーロッド13は、それぞれ管形状を有し、シース11の内腔に管状部材12が挿通され、さらに、管状部材12の内腔にインナーロッド13が挿通されている。
【0015】
ステントグラフト14は、皮膜部及び骨格部(いずれも図示略)を有する管状の血管内留置具(医療処置具の一例)である。皮膜部は、骨格部の外周面に、例えば、縫合糸により縫い付けて固定される。骨格部は、例えば、金属細線が軸方向にジグザグ状に折り返されながら、皮膜部の周面に沿って管状に形成された自己拡張型のステント骨格である。骨格部は、径方向内側に収縮した収縮状態から、径方向外側に拡張して管状流路を画成する拡張状態へと変形可能に構成される。
【0016】
インナーロッド13は、遠位端に先端チップ13aを有する。管状部材12の先端部に、ステントグラフト14が配置される。ステントグラフト14の骨格部の端部は、先端チップ13aの近位側に設けられたクレードル(図示略)に接続される。管状部材12は、ステントグラフト14が収縮した状態(折り畳まれた状態)で、シース11内に挿通される。
【0017】
シース11は、可撓性を有する材料で形成される。可撓性を有する材料としては、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、及びポリ塩化ビニル系樹脂等から選択される生体適合性を有する合成樹脂(エラストマー)、これら樹脂に他の材料が混合された樹脂コンパウンド、これらの合成樹脂による多層構造体、並びに、これら合成樹脂と金属線との複合体などが挙げられる。
【0018】
管状部材12及びインナーロッド13を構成する材料としては、例えば、樹脂(プラスチック、エラストマー)又は金属等の、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料が挙げられる。先端チップ13aを構成する材料としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びポリ塩化ビニル系樹脂等から選択される合成樹脂(エラストマー)等の、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料が挙げられる。
【0019】
操作部20は、カテーテル部10の近位端(後端)側に設けられる。操作部20は、シースを固定するシース固定部(本発明における固定部に相当)と、シース固定部を軸方向に移動させる移動機構と、シース固定部を収容するカバー21、22と、を有する。操作部20は、シース11と管状部材12を軸方向において相対的に移動させる際、また、管状部材12とインナーロッド13を軸方向において相対的に移動させる際に用いられる。本実施の形態では、シース固定部は、ギアボックス25等を含んで構成され、移動機構は、ギア列27、ラック28及び前方ハンドル23等を含んで構成される。
【0020】
予め血管内に導入されたガイドワイヤー30(図2参照)をインナーロッド13の内腔に挿通し、ガイドワイヤー30に沿ってカテーテル部10を進行させることにより、カテーテル部10の先端が病変部位まで移送される。本実施の形態では、図3Aに示す状態から図3Bに示す状態となるように操作部20(前方ハンドル23及びボタン263)を操作して、管状部材12に対してシース11を近位側(手元側)に移動させることにより、ステントグラフト14がシース11から放出され、骨格部の自己拡張力によって拡張して血管内に留置される。また、図3Bに示す状態で操作部20(後方ハンドル24)を操作して、インナーロッド13に対して管状部材12を軸方向に移動させることにより、ステントグラフト14とクレードル(図示略)の係合状態が解除され、ステントグラフト14の先端部が開放される。
【0021】
以下に、操作部20の構成について詳述する。図3A図3Bは、操作部20の構成を示す斜視図である。図3Aは、ステントグラフト14を留置する前の状態を示し、図3Bは、ステントグラフト14を留置した後の状態を示す。図4は、操作部20の内部構成を示す斜視図である。図4は、前方カバー21、上部カバー221、前方ハンドル23及び後方ハンドル24を外した操作部20の状態を示す。図5は、操作部20の遠位部分の分解斜視図である。図6は、操作部20の遠位部分の断面図である。図7は、ギアボックス25、トリガー26及びギア列27の分解斜視図である。
【0022】
図3A図3B図4図7に示すように、操作部20は、前方カバー21、カバー本体22、前方ハンドル23、後方ハンドル24、ギアボックス25、トリガー26、ギア列27、ラック28、及びロッド案内シャフト29等を備える。
【0023】
前方カバー21は、中空の半紡錘形状を有し、カバー本体22の遠位側に取り付けられる。前方カバー21は、先端部にカテーテル部10を挿通するための開口21aを有する。
【0024】
カバー本体22は、円筒形状を有する。本実施の形態では、カバー本体22は、半円筒形状の上部カバー221と下部カバー222からなる分割構造を有している。カバー本体22は、内部に、ギアボックス25、トリガー26、ギア列27及びラック28等を収容する。
【0025】
上部カバー221は、軸方向に沿う長円形状のスリット221aを有する。ギア列27の第2ギア272は、スリット221aから外部に突出し、前方ハンドル23のウォーム23aと噛合するようになっている。また、トリガー26のボタン263は、スリット221aから外部に突出し、操作者が操作できるようになっている。スリット221aの軸方向の長さは、ギアボックス25(シース固定部)の移動可能長さよりも長く設定される。
【0026】
ラック28は、上部カバー221の内周面に、スリット221aの軸方向に沿う両周縁に沿って配置されている。本実施の形態では、ラック28は、上部カバー221と一体的に形成されている。ラック28の軸方向の長さは、ギアボックス25(シース固定部)の移動可能長さに対応する。
【0027】
前方ハンドル23は、円筒形状を有し、カバー本体22の外周面に挿嵌される。前方ハンドル23は、内周面に、ウォーム23a(ねじ歯車)を有する。ウォーム23aは、ギア列27の第2ギア272に噛合する。また、前方ハンドル23の内周面であって、ウォーム23aの近位側の位置には、後述するストッパー257と係合する係合溝23bが、円周方向に沿って設けられている。係合溝23bは、前方ハンドル23の内周面から外表面に向けて設けられた、所定の深さの溝である。係合溝23bの一部は、前方ハンドル23の外表面に開口している。
【0028】
ロッド案内シャフト29は、円筒形状を有し、管状部材12の近位端を固定する固定端子(図示略)がロッド案内シャフト29の内部に配置されている。ロッド案内シャフト29は、カバー本体22に固定される。また、ロッド案内シャフト29に配置された固定端子は、後方ハンドル24とともに、送りネジ機構を構成する。
【0029】
後方ハンドル24を軸周りに回転させると、送りネジ機構により固定端子(図示略)がロッド案内シャフト29のスリットに沿って軸方向に移動する。これにより、固定端子に固定された管状部材12がインナーロッド13に沿って軸方向に進退する。具体的には、後述するように、例えば、前方ハンドル23を近位側(手元側)に移動させてステントグラフト14を放出した後、後方ハンドル24を軸周りの一方向(例えば、時計回り等)に回転させることで、インナーロッド13に対して管状部材12を近位側に移動させる。これにより、ステントグラフト14とクレードル(図示略)の係合状態が解除され、ステントグラフト14の先端部が開放される。
【0030】
ギアボックス25は、シース接続部251、ロッド挿通部252、スプリング保持部253、ギア収容部254、規制部256及びストッパー257を有する。本実施の形態では、ギアボックス25が、シース11を固定するシース固定部の一部を構成する。
【0031】
シース接続部251は、円筒形状を有し、シース11の近位端を固定する。本実施の形態では、シース接続部251は、ギアボックス25の先端部に設けられている。
【0032】
ロッド挿通部252は、シース接続部251の近位端側に設けられる。ロッド挿通部252には、シース11の近位端から露出する管状部材12及びインナーロッド13が挿通される。
【0033】
スプリング保持部253は、第1スプリング31を保持する。スプリング保持部253は、上方に突出する凸部253aを有する。
【0034】
ギア収容部254は、ギア列27を収容する。
【0035】
スプリング保持部253及びギア収容部254は、上方が開放されている。スプリング及びギア収容部254は、軸方向に沿う2枚の側板255によって形成される。側板255、255は、それぞれ、貫通穴255a、軸受穴255b及びトリガー接続部255c、係止部255eを有する。また、一方の側板255(図6では、手前側の側板255)は、スプリング取付部255dを有する。
【0036】
貫通穴255aは、近位側に向かって斜め下方に延在する長円穴である。貫通穴255aには、第1ギアシャフト274が挿通される。軸受穴255bは、第2ギアシャフト275を支持する。トリガー接続部255cは、トリガー261の係合穴261bに係合される。スプリング取付部255dには、第2スプリング32の一端が接続される。第2スプリング32は、例えば、圧縮コイルばねで構成される。係止部255eは、トリガー26の係止片261cを係止する。
【0037】
規制部256は、スプリング保持部253よりも遠位側において、幅方向中央に軸方向に沿って設けられている。規制部256は、トリガー26の連結部262の下方に位置し、ボタン263が真下に押下されるのを規制する。
【0038】
ストッパー257は、ギア収容部254の近位側に、上方に向けて設けられたネジ状部材である。ストッパー257は、前方ハンドル23の係合溝23bにつながる開口を介してギアボックス25のねじ孔(符号略)に取り付けられ、冶具を用いることにより、上面位置を調整可能に構成されている。図6に示すように、ストッパー257の上面位置を、前方ハンドル23の内周面よりも高くなるように設定することにより、前方ハンドル23がウォームから脱落するのを防止しつつ、前方ハンドル23とギアボックス25を軸方向に沿って一体的に移動させることができる。
【0039】
トリガー26は、軸方向に沿う2枚の側板261、261を有する。側板261、261は、遠位側において、連結部262で連結されている。連結部262には、ボタン263が配置される。
【0040】
側板261、261は、それぞれ、軸受穴261a、係合穴261b、係止片261c及びスプリング取付部261dを有する。
軸受穴261a及び係合穴261bは、軸方向に沿う長円形状を有する。軸受穴261aは、第1ギアシャフト274が挿通される。係合穴261bには、ギアボックス25のトリガー接続部255cが係合される。係止片261cは、ギアボックス25の係止部255eに係止される。スプリング取付部261dには、第2スプリング32の他端が接続される。
【0041】
ボタン263は、下方に突出する凸部263aを有する。スプリング保持部253の凸部253aとボタン263の凸部263aとの間に、第1スプリング31が装着される。第1スプリング31は、例えば、圧縮コイルばねで構成される。
【0042】
トリガー26は、第1スプリング31により斜め上方に付勢された状態で、ギアボックス25に取り付けられる。このとき、トリガー26の側板261は、ギアボックス25の側板255の外側に位置し、係止片261cは係止部255eの下方に位置する。ギアボックス25のトリガー接続部255cがトリガー26の係合穴261bに挿嵌され、トリガー26の係止片261cがギアボックス25の係止部255eに係止されることで、ギアボックス25とトリガー26は一体化され、付勢状態で保持される。
【0043】
すなわち、本実施の形態では、シース固定部は、第1ギア271を支持するトリガー26(第1部材)と、第2ギア272を支持するギアボックス25(第2部材)と、トリガー26とギアボックス25との間に介在し、第1ギア271がラック28に噛合する方向にトリガー26を付勢して噛合状態を保持する第1スプリング31(付勢部材)と、を含んで構成されている。なお、本実施の形態では、ギアボックス25(第2部材)は、第2ギア272とともに第1ギア271も支持している。
【0044】
ギア列27は、第1ギア271、第2ギア272、第3ギア273を有する。第1ギア271は、ラック28と噛合するピニオンギアである。本実施の形態では、第3ギア273を挟んで2つの第1ギア271が設けられている。第2ギア272は、前方ハンドル23のウォーム23aと噛合するウォームホイールである。第3ギア273は、第2ギア272の回転を第1ギア271に伝達する中継ギアである。第3ギア273は、第1ギア271と同じ第1ギアシャフト274に固定される。
【0045】
第1ギア271及び第3ギア273が固定されている第1ギアシャフト274は、ギアボックス25の貫通穴255aを介してトリガー26の軸受穴261aに挿通される。第2ギア272が固定されている第2ギアシャフト275は、ギアボックス25の軸受穴255bに挿通される。
【0046】
操作部20において、前方ハンドル23が軸周りに回転されると、ウォーム23aを介して第2ギア272が回転する。第2ギア272の回転は、第3ギア273を介して第1ギア271に伝達される。第1ギア271の回転は、ラック28により軸方向に沿う直線運動に変換される。ラック28はカバー本体22に固定されているので、ギア列27を有するギアボックス25が、軸方向に移動する。
【0047】
シース11はギアボックス25に固定されており、管状部材12はカバー本体22と一体化されているロッド案内シャフト29の固定端子(図示略)に固定されているので、管状部材12に対してシース11が軸方向に移動することになる。これにより、管状部材12に配置されたステントグラフト14をシース11から少しずつ露出させ、放出することができ、ステントグラフト14の留置位置の微調整を行うことができる。
【0048】
また、本実施の形態では、ラック28と第1ギア271は、噛合状態又は離間状態に切り替え可能に構成されている。具体的には、トリガー26のボタン263を押下すると、トリガー26は、ギアボックス25のトリガー接続部255cを軸に下方に回動し、トリガー26とともに第1ギア271が下方に下がる。これにより、第1ギア271とラック28は離間状態となる。このとき、第1ギア271が固定されている第1ギアシャフト274は、ギアボックス25に設けられた長円形状の貫通穴255aに沿って移動する。一方、前方ハンドル23と第2ギア272の係合状態及び第2ギア272と第3ギア273の係合状態は保持される。
【0049】
したがって、ラック28が配置されているカバー本体22に対して、ギアボックス25、トリガー26、ギア列27及び前方ハンドル23は、軸方向に移動自在となる。これにより、ステントグラフト14の留置位置を微調整した後に、ボタン263を押下して近位側にスライドすることで、ステントグラフト14を一気に放出することができる。なお、ボタン263の押下が解除されると、第1スプリング31及び第2スプリング32の復元力によりトリガー26は元の状態に復帰し、ラック28と第1ギア271は噛合状態となる。
【0050】
また、本実施の形態では、ギアボックス25(第2部材)は、トリガー26が第1スプリング31(付勢部材)の付勢力に抗して押し込まれるのを規制する規制部256を有している。一方、トリガー26は、ギアボックス25に対して軸方向に移動可能に構成されている。具体的には、トリガー26は、長円形状の軸受穴261aと第1ギアシャフト274の係合、及び、長円形状の係合穴261bとトリガー接続部255cの係合によって、ギアボックス25と連結されている。
【0051】
したがって、トリガー26のボタン263を近位側に移動させて初めて、規制部256による規制が解除され、トリガー26を押し込み可能となる。これにより、ラック28と第1ギア271の噛合状態が誤操作により解除されるのを防止することができる。
【0052】
このように、本実施の形態に係るステントグラフト留置システム1(医療デバイス)は、血管(生体管腔)内にステントグラフト14(医療処置具)を留置する医療デバイスであって、シース11と、先端部にステントグラフト14が配置され、ステントグラフト14が収縮した状態でシース11内に挿通される管状部材12と、シース11及び管状部材12の後端側に設けられ、管状部材12に対してシース11を軸方向に移動させる操作部20と、を備える。操作部20は、シースを固定するギアボックス25(固定部)と、ギアボックス25を軸方向に移動させる移動機構と、ギアボックス25を収容するカバー本体22(カバー)と、を有する。
移動機構は、軸方向に沿ってカバー本体22の内部に設けられるラック28と、ギアボックス25に支持されラック28に係合する第1ギア271を含むギア列27と、ギア列27を動作させる前方ハンドル23(ハンドル)と、を有する。前方ハンドル23の操作に伴い第1ギア271が回転することにより、ラック28に沿ってギアボックス25が軸方向に移動し、管状部材12に対してシース11を近位側に移動させてシース11からステントグラフト14が放出される。
【0053】
ステントグラフト留置システム1によれば、前方ハンドル23を操作して、カバー本体22内に配置されるラックアンドピニオンからなる移動機構を動作させ、管状部材12に対してシース11を移動させるので、ステントグラフト14を少しずつ放出しながら、留置位置の微調整を行うことができる。また、ラックアンドピニオン機構は、カバー本体22に内包されているので、手術中に飛散する血液が付着して操作性が悪化することもない。したがって、ステントグラフト留置システム1によれば、血管内にステントグラフト14を効率よく留置することができる。
【0054】
また、ラック28と第1ギア271は、噛合状態又は離間状態に切り替え可能に構成され、ギアボックス25(固定部)は、ラック28と第1ギア271が離間状態となっている場合に、軸方向に移動自在となっている。したがって、前方ハンドル23を操作することでギアボックス25を軸方向の近位側に移動させて、留置位置が微調整されたステントグラフト14を一気に放出することができる。
【0055】
さらに、後方ハンドル24を操作して、インナーロッド13に対して管状部材12を近位側に移動させることで、ステントグラフト14とクレードル(図示略)の係合状態を解除してステントグラフト14の先端部を開放することができるので、当該ステントグラフト14の留置を効率よく行うことができる。すなわち、ステントグラフト14を一気に放出するために近位側に移動させた前方ハンドル23の近傍に、ステントグラフト14の先端部を開放するための後方ハンドル24が設けられているため(図3B参照)、操作者の手を前方ハンドル23から後方ハンドル24へ即座に移動させることができ、操作者が直感的にステントグラフト14の留置操作を行うことができるようになる。
【0056】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0057】
例えば、本発明は、実施の形態で説明したステントグラフト14に限らず、消化器系管腔などの生体管腔に留置されるステントを留置する医療デバイスに適用することができる。また、医療デバイスによって留置される医療処置具には、ステントグラフトの他、癒着防止材や、血栓除去デバイス(特開2015―107301号公報参照)のように、デバイスの先端部分を生体管腔内に一時的に留置されるものも含まれる。
【0058】
また例えば、移動機構のギア列は、ハンドルの操作をラックに伝達できる構成を有していればよく、実施の形態で示した構成に限定されない。
【0059】
また、実施の形態では、管状部材12に対してシース11を近位側に移動させてステントグラフト14を放出する構成について説明したが、本発明は、シースに対して管状部材を遠位側に移動させて医療処置具を放出する医療デバイスに適用することもできる。すなわち、本発明は、ハンドルの操作に伴い第1ギアが回転することにより、ラックに沿って固定部が軸方向に移動し、シースに対して管状部材を遠位側に移動させて医療処置具が生体管腔内に放出される医療デバイスに適用することができる。
【0060】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0061】
1 ステントグラフト留置システム(医療デバイス)
10 カテーテル部
11 シース
12 管状部材
13 インナーロッド
14 ステントグラフト(医療処置具)
20 操作部
21 前方カバー
22 カバー本体
23 前方ハンドル(ハンドル)
24 後方ハンドル
25 ギアボックス(固定部、第2部材)
26 トリガー(第1部材)
27 ギア列(移動機構)
271 第1ギア
272 第2ギア
273 第3ギア
274 第1ギアシャフト
275 第2ギアシャフト
28 ラック(移動機構)
29 ロッド案内シャフト
31 第1スプリング
32 第2スプリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7