(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】電波透過性金属光沢部材、これを用いた物品、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 7/025 20190101AFI20240709BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20240709BHJP
C03C 17/09 20060101ALI20240709BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20240709BHJP
H01Q 1/42 20060101ALI20240709BHJP
G01S 7/03 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
B32B7/025
B32B15/01 G
C03C17/09
C23C14/14 B
H01Q1/42
G01S7/03 246
(21)【出願番号】P 2019002727
(22)【出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2018003620
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100167911
【氏名又は名称】豊島 匠二
(72)【発明者】
【氏名】陳 暁雷
(72)【発明者】
【氏名】待永 広宣
(72)【発明者】
【氏名】西尾 創
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 太一
(72)【発明者】
【氏名】中井 孝洋
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-056683(JP,A)
【文献】特開2009-298006(JP,A)
【文献】特開2017-088923(JP,A)
【文献】国際公開第2011/090010(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/025963(WO,A1)
【文献】特開2007-138270(JP,A)
【文献】特開2011-180562(JP,A)
【文献】国際公開第2009/038116(WO,A1)
【文献】特開2009-286082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C03C 15/00-23/00
C23C 14/00-14/58
H01Q 1/42
G01S 7/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波透過性を有する基体と、
前記基体の連続面に直接形成されたアルミニウム又はアルミニウムの合金から成る金属層と、
を備え、
前記金属層は、互いに不連続の複数の分離区分を含む不連続領域を有し、
前記金属層の最大の厚さが15~80nmであり、
前記合金における全金属成分中のアルミニウム含有重量比率が60%以上であり、
前記連続面が酸化インジウム含有材料を利用して形成されていることを特徴とする電波透過性金属光沢部材。
【請求項2】
前記金属層のシート抵抗が90Ω/□以上である、請求項1に記載の電波透過性金属光沢部材。
【請求項3】
電波透過性を有する基体と、
前記基体の連続面に直接形成されたアルミニウム又はアルミニウムの合金から成る金属層と、
を備え、
前記金属層の最大の厚さが15~80nmであり、
前記合金における全金属成分中のアルミニウム含有重量比率が60%以上であり、
前記金属層のシート抵抗が90Ω/□以上であり、
前記連続面が酸化インジウム含有材料を利用して形成されていることを特徴とする電波透過性金属光沢部材。
【請求項4】
前記基体が、フィルム、樹脂成型品、ガラス製品、又は金属光沢を付与すべき物品そのものである請求項1乃至
3のいずれかに記載の電波透過性金属光沢部材。
【請求項5】
前記金属層の電波透過減衰量が10dB以下である、請求項1乃至
4のいずれかに記載の電波透過性金属光沢部材。
【請求項6】
前記基体の連続面を利用して形成された透明な筐体の内面に前記アルミニウムが設けられている、請求項1乃至
5のいずれかに記載の電波透過性金属光沢部材。
【請求項7】
前記アルミニウムの合金が、アルミニウムと、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、銀(Ag)のいずれか1つ以上と、を含む、請求項1乃至
6のいずれかに記載の電波透過性金属光沢部材。
【請求項8】
前記金属層が、基体の連続面に直接形成されたアルミニウム又はアルミニウムの合金(クロムを含有する合金を除く)から成る、請求項1乃至
6のいずれかに記載の電波透過性金属光沢部材。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれかに記載の電波透過性金属光沢部材を用いた物品。
【請求項10】
前記物品が通信機器である、請求項
9に記載の物品。
【請求項11】
電波透過性を有する基体に、ACスパッタリングを用いて、互いに不連続の複数の分離区分を含む不連続領域を有するアルミニウム又はアルミニウムの合金から成る金属層を直接形成する段階を含み、
前記金属層の最大の厚さが15~80nmであり、
前記合金における全金属成分中のアルミニウム含有重量比率が60%以上であることを特徴とする電波透過性金属光沢部材又は該電波透過性金属光沢部材を用いた物品の製造方法。
【請求項12】
電波透過性を有する基体に、ACスパッタリングを用いて、シート抵抗が90Ω/□以上となるようにアルミニウム又はアルミニウムの合金から成る金属層を直接形成する段階を含み、
前記金属層の最大の厚さが15~80nmであり、
前記合金における全金属成分中のアルミニウム含有重量比率が60%以上であることを特徴とする電波透過性金属光沢部材又は該電波透過性金属光沢部材を用いた物品の製造方法。
【請求項13】
前記アルミニウム層は前記基体の連続面に直接形成される、請求項
11又は
12に記載の電波透過性金属光沢部材又は該電波透過性金属光沢部材を用いた物品の製造方法。
【請求項14】
前記連続面が、誘電性樹脂材料、又は、ガラス材料から成る、請求項
13に記載の電波透過性金属光沢部材又は該電波透過性金属光沢部材を用いた物品の製造方法。
【請求項15】
前記連続面が酸化インジウム含有材料を利用して形成されている、請求項
13に記載の電波透過性金属光沢部材又は該電波透過性金属光沢部材を用いた物品の製造方法。
【請求項16】
前記ACスパッタリングは1.5Pa以上の圧力下で行われる、請求項
11乃至
15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
前記ACスパッタリングを行う際の前記基体の温度が20℃以上である、請求項
11乃至
16のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波透過性金属光沢部材、これを用いた物品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、フロントグリル、エンブレムといった自動車のフロント部分に搭載されるミリ波レーダーのカバー部材を装飾するために、光輝性と電波透過性の双方を兼ね備えた金属光沢部材が求められている。
【0003】
ミリ波レーダーは、ミリ波帯の電磁波(周波数約77GHz、波長約4mm)を自動車の前方に送信し、ターゲットからの反射波を受信して、反射波を測定、分析することで、ターゲットとの距離や、ターゲットの方向、サイズを計測することができるものである。計測結果は、車間計測、速度自動調整、ブレーキ自動調整などに利用することができる。このようなミリ波レーダーが配置される自動車のフロント部分は、いわば自動車の顔であり、ユーザに大きな印象を与える部分であるから、金属光沢調のフロント装飾で高級感を演出等するのが好ましい。しかしながら、自動車のフロント部分に金属を使用した場合には、ミリ波レーダーによる電磁波の送受信が実質的に不可能、或いは、妨害されてしまう。したがって、ミリ波レーダーの働きを妨げることなく、自動車の意匠性を損なわせないために、光輝性と電波透過性の双方を兼ね備えた金属光沢部材が必要とされている。
【0004】
この種の金属光沢部材は、ミリ波レーダーのみならず、通信を必要とする様々な機器、例えば、スマートキーを設けた自動車のドアハンドル、車載通信機器、携帯電話、パソコン等の電子機器等への応用が期待されている。更に、近年では、IoT技術の発達に伴い、従来は通信等行われることがなかった、冷蔵庫等の家電製品、生活機器等、幅広い分野での応用も期待されている。
【0005】
金属光沢部材に関して、特開2007-144988号公報(特許文献1)には、クロム(Cr)又はインジウム(In)より成る金属被膜を含む樹脂製品が開示されている。この樹脂製品は、樹脂基材と、当該樹脂基材の上に成膜された無機化合物を含む無機質下地膜と、当該無機質下地膜の上に物理蒸着法により成膜された光輝性及び不連続構造のクロム(Cr)又はインジウム(In)よりなる金属皮膜を含む。無機質下地膜として、特許文献1では、(a)金属化合物の薄膜、例えば、酸化チタン(TiO、TiO2、Ti3O5等)等のチタン化合物;酸化ケイ素(SiO、SiO2等)、窒化ケイ素(Si3N4等)等のケイ素化合物;酸化アルミニウム(Al2O3)等のアルミニウム化合物;酸化鉄(Fe2O3)等の鉄化合物;酸化セレン(CeO)等のセレン化合物;酸化ジルコン(ZrO)等のジルコン化合物;硫化亜鉛(ZnS)等の亜鉛化合物等、(b)無機塗料の塗膜、例えば、シリコン、アモルファスTiO2等(その他、上記例示の金属化合物)を主成分とする無機塗料による塗膜が使用されている。しかしながら、この樹脂製品では、金属皮膜として、クロム(Cr)又はインジウム(In)のみを用いるものであって、これらに比べて価格や光輝性において優れる、例えば、アルミニウム(Al)を金属皮膜として用いることはできない。
【0006】
一方、特開2009-298006号(特許文献2)には、クロム(Cr)又はインジウム(In)のみならず、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)をも金属膜として形成することができる電磁波透過性光輝樹脂製品が開示されている。これらの金属膜は、不連続構造の下地膜を設けることによって形成されるものであるが、下地膜を不連続層とするために、スパッタの基材傾斜角度を0°又は70°に設定しなければならない等の制約があることから、製造が煩雑であるといった問題がある。また、特許文献2によっては、例えば、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、又はこれらの合金を金属膜として形成することもできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-144988号公報
【文献】特開2009-298006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、これら従来技術における問題点を解決するためになされたものであり、クロム(Cr)又はインジウム(In)のみならず、例えば、アルミニウム(Al)等その他の金属が、様々な材料から成る連続面に金属層として形成された、製造が容易な電波透過性金属光沢部材、及びそれを用いた物品を提供することを目的とする。また、本願発明は、クロム(Cr)又はインジウム(In)のみならず、例えば、アルミニウム(Al)等その他の金属を、様々な材料から成る連続面に、金属層として容易に形成することができる、電波透過性金属光沢部材又は該電波透過性金属光沢部材を用いた物品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、AC(交流)スパッタリングを用いることによって、通常は不連続構造になり難い、例えば、アルミニウム(Al)等その他の金属が、様々な材料から成る連続面において不連続構造を発現させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様による電波透過性金属光沢部材は、電波透過性を有する基体と、前記基体の連続面に直接形成されたアルミニウム層と、を備え、前記アルミニウム層は、互いに不連続の複数の分離区分を含む不連続領域を有する。
この態様の電波透過性金属光沢部材によれば、クロム(Cr)又はインジウム(In)のみならず、例えば、アルミニウム(Al)が、様々な材料から成る連続面に金属層として形成された、製造が容易な電波透過性金属光沢部材が提供される。
上記態様の電波透過性金属光沢部材において、前記アルミニウム層のシート抵抗は90Ω/□以上であるのが好ましい。
【0011】
また、上記の課題を解決するため、本発明の他の態様による電波透過性金属光沢部材は、電波透過性を有する基体と、前記基体の連続面に直接形成されたアルミニウム層と、を備え、シート抵抗が90Ω/□以上である。
この態様の電波透過性金属光沢部材によれば、クロム(Cr)又はインジウム(In)のみならず、例えば、アルミニウム(Al)が、様々な材料から成る連続面に金属層として形成された、製造が容易な電波透過性金属光沢部材が提供される。
【0012】
上記態様の電波透過性金属光沢部材において、前記連続面は、誘電性樹脂材料、又は、ガラス材料から成っていてもよい。ここで、前記誘電性樹脂材料は、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル系ポリマー、ポリカーボネートのいずれかから構成されていてもよい。
また、上記態様の電波透過性金属光沢部材において、前記連続面は、酸化インジウム含有材料を利用して形成されていてもよい。
【0013】
また、上記態様の電波透過性金属光沢部材において、前記基体が、フィルム、樹脂成型品、ガラス製品、又は金属光沢を付与すべき物品そのものであってもよい。
【0014】
更に、上記態様の電波透過性金属光沢部材において、前記アルミニウム層の最大の厚さが15~80nmであるのが好ましい。
【0015】
また、上記態様の電波透過性金属光沢部材において、前記アルミニウム層の電波透過減衰量が10dB以下であるのが好ましい。
【0016】
また、上記態様の電波透過性金属光沢部材において、前記アルミニウム層は、アルミニウム(Al)又はアルミニウム(Al)の合金のいずれかであってもよい。ここで、前記アルミニウム(Al)の合金における全金属成分中のアルミニウム含有比率が50%以上であるのが好ましい。
【0017】
また、上記態様の電波透過性金属光沢部材において、前記基体の連続面を利用して形成された透明な筐体の内面に前記アルミニウムが設けられていてもよい。
【0018】
本発明の一態様による電波透過性金属光沢部材又は該電波透過性金属光沢部材を用いた物品の製造方法は、電波透過性を有する基体に、ACスパッタリングを用いて、互いに不連続の複数の分離区分を含む不連続領域を有するアルミニウム層を直接形成する段階を含む。
また、本発明の他の態様による電波透過性金属光沢部材又は該電波透過性金属光沢部材を用いた物品の製造方法は、電波透過性を有する基体に、ACスパッタリングを用いて、シート抵抗が90Ω/□以上となるようにアルミニウム層を直接形成する段階を含む。
これらの態様の電波透過性金属光沢部材又は該電波透過性金属光沢部材を用いた物品の製造方法によれば、クロム(Cr)又はインジウム(In)のみならず、例えば、アルミニウム(Al)等その他の金属を、様々な材料から成る連続面に、金属層として容易に形成することができる。
【0019】
上記態様の電波透過性金属光沢部材の製造方法において、前記アルミニウム層は前記基体の連続面に直接形成されてもよい。ここで、前記連続面は、誘電性樹脂材料、又は、ガラス材料から成っていてもよいし、また、酸化インジウム含有材料を利用して形成されていてもよい。
【0020】
上記態様の電波透過性金属光沢部材の製造方法において、前記ACスパッタリングは1.5Pa以上の圧力下で行われるのが好ましい。
【0021】
また、上記態様の電波透過性金属光沢部材の製造方法において、前記ACスパッタリングを行う際の前記基体の温度が20℃以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば金属層が形成される面が連続面であってもよく、且つ、クロム(Cr)又はインジウム(In)だけでなく、例えば、アルミニウム(Al)等その他の金属をも金属層として用いることができる、製造が容易な電波透過性金属光沢部材、それを用いた物品、及びその製造方法電波透過性が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1の(a)、(b)ともに、本発明の一実施形態による電波透過性金属光沢部材の概略断面図を示す図である。
【
図2】
図2の(a)、(b)ともに、本発明の一実施形態による電波透過性金属光沢部材の表面の電子顕微鏡写真である。
【
図3】実施例及び比較例における金属層の厚さの測定方法を説明する図である。
【
図4】
図2の(b)の一部領域における断面の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一つの好適な実施形態について説明する。説明の便宜のため本発明の好適な実施形態のみを示すが、勿論、これによって本発明を限定しようとするものではない。
【0025】
<1.基本構成>
図1の(a)、(b)に、それぞれ、本発明の一実施形態による電波透過性金属光沢部材(以下、「金属光沢部材」という。)1、1Aの概略断面図を示す。これらの図及び他の図を含め、同様の又は対応する部材には、同じ参照番号を付している。
【0026】
金属光沢部材1、1Aは、共に、電波透過性を有する基体10と、基体10の連続面10a、11aに直接形成された金属層12を含む。金属光沢部材1と金属光沢部材1Aとの相違は、金属光沢部材1Aには、金属光沢部材1と異なり、基体10に下地層11が設けられている点にある。下地層11は、金属層12と基体10との間の濡れ性を小さくするために設けられているものであって、このような下地層11を設けることにより、金属層12は不連続となり易くなる。下地層11を設けているため、金属光沢部材1Aにおける連続面11aは、金属光沢部材1における連続面10aと異なり、基体10そのものの面10aによって形成されていることにはならず、正確には、基体10に設けた下地層11の面11aによって形成されていることになる。この下地層11は、薄膜状のものであるため、不連続部分11bが生じてしまうこともあるが、仮にそのような不連続部分11bが生じたとしても、下地層11は、厚さ10nm程度以下の薄いものであるため、金属層12が、それらの不連続部分11bに起因して不連続となることはない。換言すれば、仮に下地層11に不連続部分11bが存在するとしても、基体10は、金属層12との関係では、下地層11を含んでいるにも拘らず実質的に連続面11aを形成しているものと解してよい。よって、本明細書中の「基体の連続面」の語には、基体そのものの連続面10aのみならず、下地層を含んだ連続面11aも含まれる。このように、これら金属光沢部材1、1Aのいずれにおいても、金属層12は、基体10の連続面10a、11aに直接形成されていることから、それらの平滑性や耐食性は大きく改善されており、また、それらの金属層12を面内にばらつきなく配置することが容易なものとなっている。
【0027】
<2.基体>
<2-1.基体を構成する物品>
基体10は、電波透過性を有することを要し、例えば、フィルム、樹脂成型品、ガラス製品の他、金属光沢を付与すべき物品そのものであってもよい。
【0028】
基体10がフィルムの場合、該フィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリスチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリシクロオレフィン、ポリウレタン、アクリル(PMMA)、ABSなどの単独重合体や共重合体等の材料で形成される。これらの材料によれば、光輝性や電波透過性に影響を与えることもない。これらのフィルムは透明であることが好ましい。また、金属層12を後に形成する観点から、スパッタリングを行う際の高温に耐え得るものであることが好ましく、従って、上記材料の中でも、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリプロピレン、ポリウレタン、アクリル、ABSが好ましい。なかでも、耐熱性とコストとのバランスがよいことから、ポリエチレンテレフタレートやシクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリルが好ましい。基体10は、単層フィルムでもよいし積層フィルムでもよい。加工のし易さ等から、厚さは、例えば、6μm~250μm程度が好ましい。
【0029】
基体10がガラス製品の場合、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、化学強化ガラスなどを用いることができるが、これに限定されることはない。
【0030】
基体10が樹脂成形品の場合、例えば、ABS、PC、PMMA、PP、PE、ポリフタルアミド(PPA)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いることができるが、これに限定されることはない。
【0031】
基体10が金属光沢を付与すべき物品そのものである場合として、例えば、基体10によって、自動車のエンブレム、スマートキーを設けた自動車のドアノブ、携帯電話やパソコン等の通信機器の筐体、冷蔵庫の筐体を形成した場合がある。通信機器等の筐体が透明である場合には、金属層12は、そのような筐体の外面に設けてもよいし、内面に設けてもよい。但し、金属光沢を付与すべき物品は、基体がフィルム、ガラス製品、樹脂成型品の場合と同様の材質、条件を満たしていることが好ましい。
【0032】
<2-2.基体の連続面>
基体10の連続面10aは、例えば、誘電性樹脂材料、ガラス材料から形成することができ、また、基体10の連続面11aは、例えば、誘電性樹脂材料、ガラス材料、及び酸化インジウム含有材料のいずれか1つの材料から形成することができる。必ずしも連続面10a、11aの全ての領域をこれらの材料のいずれか1つから形成する必要はなく、一部の領域と他の領域を、それぞれ異なる材料で形成してもよい。また、連続面10a、11aの一部のみが、これらの材料で形成されていてもよい。
【0033】
誘電性樹脂材料として、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル系ポリマー、ポリカーボネートを使用することができる。誘電性樹脂材料には、Al
2O
3やSiO
2、Nb
2O
3、TiO
2などの誘電性金属酸化物材料や、AlN、SiNなどの誘電性金属窒化物材料を、フィルム等の樹脂成形品上に形成したものも含まれる。例えば、
図1の(a)に示すように、基体10が樹脂成型品の場合、基体10の連続面10aをこれらの材料で形成することにより、金属光沢を付与すべき物品そのものによって連続面10aを形成することができる。換言すれば、金属層12を、基体10に直接形成することができる。
【0034】
ガラス材料として、例えば、無アルカリガラスを使用することができる。例えば、
図1の(a)に示すように、基体10がガラス製品の場合、基体10の連続面10aをこれらの材料で形成することにより、金属光沢を付与すべき物品そのものによって連続面10aを形成することができる。換言すれば、金属層12を、基体10に直接形成することができる。
【0035】
酸化インジウム含有材料としては、例えば、酸化インジウム(In
2O
3)そのものを使用することもできるし、インジウム錫酸化物(ITO)や、インジウム亜鉛酸化物(IZO)のような金属含有物を使用することもできる。但し、第二の金属を含有したITOやIZOの方が、スパッタリング工程での放電安定性が高い点で、より好ましい。ITOにおけるIn
2O
3の重量に対する錫(Sn)の含有率は特に限定されないが、例えば、2.5wt%~30wt%、より好ましくは、3wt%~10wt%であり、また、IZOにおけるIn
2O
3の重量に対する酸化亜鉛(ZnO)の含有率は、例えば、2wt%~20wt%である。これらの酸化インジウム含有材料は、
図1の(b)に示すように、金属層12と基体10との間の濡れ性を小さくするために下地層11として付与されるため、実質的には、基体10の連続面11aを形成し得る。但し、このように連続面11aが誘電性樹脂材料で形成される場合、金属光沢を付与すべき物品そのものによっては、基体10の連続面11aを形成することはできない。下地層11としての酸化インジウム含有層11は、基体10の面に直接設けられていてもよいし、基体10の面に設けられた保護膜等を介して間接的に設けられてもよい。酸化インジウム含有層11の厚さは、シート抵抗や電波透過性、生産性の観点から、通常100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、20nm以下が更に好ましい。一方、積層される金属層12が不連続状態となるように、1nm以上であることが好ましく、確実に不連続状態にするために2nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることが更に好ましい。
【0036】
<3.金属層>
<3-1.金属層の構造>
金属層12は、基体10の連続面10a、11aに、例えば40kHzの中間周波数領域を利用したMF-ACスパッタリング等のACスパッタリングを用いて付与される。ACスパッタリングを用いて金属層12を付与することにより、金属層12は、連続面10a、11aの少なくとも一部の領域において、互いに不連続の状態、更に言えば、隙間12bによって隔てられた複数の分離区分12aを含む不連続領域を形成し得る。隙間12bによって隔てられるため、分離区分12aにおけるシート抵抗は大きくなり、また、電波透過減衰量は小さくなり、この結果、電磁波との相互作用が低下し、電磁波を透過させることができる。これらの分離区分12aは、それぞれ、金属をACスパッタリングすることによって形成されたスパッタ粒子の集合体である。金属層12が連続面10a、11aの上で不連続状態となるメカニズムの詳細は必ずしも明らかではないが、おおよそ、次のようなものであると推測される。即ち、金属層12の薄膜形成プロセスにおいて、不連続構造の形成し易さは、金属層12が付与される被付与部材(本件では、連続面10a、11aを形成する部材)上での表面拡散と関連性があり、被付与部材の温度が高く、被付与部材に対する金属層の濡れ性が小さく、金属層の材料の融点が低い方が不連続構造を形成しやすい、というものである。従って、以下の実施例で特に使用したアルミニウム(Al))以外の金属についても、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、銀(Ag)などの比較的融点の低い金属については、同様の手法で不連続構造を形成し得ると考えられる。尚、本明細書でいう「不連続の状態」とは、隙間12bによって互いに隔てられており、この結果、互いに電気的に絶縁されている状態を意味する。電気的に絶縁されることにより、シート抵抗が大きくなり、所望とする電波透過性が得られることになる。不連続の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、島状、クラック等が含まれる。ここで「島状」とは、
図1の(b)に示されているように、スパッタ粒子の集合体である粒子同士が各々独立しており、それらの粒子が、互いに僅かに離間し又は一部接触した状態で敷き詰められてなる構造を意味する。
【0037】
<3-2.金属層の材料>
金属層12は、十分な光輝性を発揮し得ることは勿論、融点が比較的低いものであることが望ましい。金属層12は、スパッタリングを用いた薄膜成長によって付与されるためである。このような理由から、金属層12としては、融点が約1000℃以下の金属が適しており、例えば、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、銀(Ag)から選択された少なくとも一種の金属、および該金属を主成分とする合金のいずれかを含むことが好ましい。特に、物質の光輝性や安定性、価格等の理由からアルミニウムおよびその合金が好ましい。アルミニウムの合金については、合金における全金属成分中のアルミニウム含有比率が50%以上が好ましく、60%以上のより好ましく、75%以上が更に好ましい。
【0038】
<3-2-1.連続面が基体そのものによって形成される場合>
図1の(a)に示すように、連続面が基体10そのものの面10aによって形成され、金属層12がそのような連続面10aに直接形成される場合、金属層12の厚さは、十分な光輝性を発揮するように、通常15nm以上が好ましく、一方、シート抵抗や電波透過性の観点から、通常80nm以下が好ましい。例えば、20nm~75nmが好ましく、25nm~70nmがより好ましい。この厚さは、均一な膜を生産性良く形成するのにも適しており、また、最終製品である樹脂成形品の見栄えも良い。
【0039】
また、金属層12のシート抵抗は、十分な電波透過性を発揮するように、100~100000Ω/□であるのが好ましい。この場合、電波透過減衰量は、1GHzの波長において、10~0.01[-dB]程度となる。更に好ましくは、1000~50000Ω/□である。
【0040】
<3-2-2.連続面が下地層によって形成される場合>
図1の(b)に示すように、連続面11aが下地層11の面によって形成され、金属層12がそのような基体10の連続面11aに直接形成される場合、金属層12の厚さは、十分な光輝性を発揮するように、通常20nm以上が好ましく、一方、シート抵抗や電波透過性の観点から、通常100nm以下が好ましい。例えば、20nm~100nmが好ましく、30nm~70nmがより好ましい。好ましい値が、上記<3-2-1>と比較して大きな値とすることができるのは、下地層11を設けたことにより、金属層12と基体10との間の濡れ性が小さくなり、金属層12が不連続層を形成しやすくなっているため、従って、厚膜化が可能になっているためである。尚、下地層11は、薄膜状のものであるから、光輝性やシート抵抗等に実質的に影響を与えることはない。この厚さは、均一な膜を生産性良く形成するのにも適しており、また、最終製品である樹脂成形品の見栄えも良い。
【0041】
また、同様の理由から、例えば、下地層11が酸化インジウム含有層の場合、金属層の厚さと酸化インジウム含有層の厚さとの比(金属層の厚さ/酸化インジウム含有層の厚さ)は、0.1~100の範囲が好ましく、0.3~35の範囲がより好ましい。
【0042】
更に、金属層12と下地層11との積層体としてのシート抵抗は、100~100000Ω/□であるのが好ましい。この場合、電波透過減衰量は、1GHzの波長において、10~0.01[-dB]程度となる。更に好ましくは、1000~50000Ω/□である。
【0043】
<4.金属光沢部材の製造方法>
金属光沢部材1、1Aの製造方法の一例を説明する。
<4-1.連続面が基体そのものによって形成される場合>
図1の(a)に示すように、連続面10aが基体10そのものの面によって形成されており、金属層12をそのような連続面10aに直接形成する場合は、連続面10aを形成する工程を経ることなく、連続面10aにACスパッタリングを用いて、直接、金属層12が積層される。
【0044】
<4-2.連続面が下地層によって形成される場合>
図1の(b)に示すように、連続面11aが下地層11によって形成されており、金属層12をそのような連続面11aに直接形成する場合には、少なくとも2つの工程が必要となる。
(1)酸化インジウム含有層を成膜する工程
基体10に対し、酸化インジウム含有層11を成膜する。酸化インジウム含有層11は、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等によって形成することができる。但し、大面積でも厚さを厳密に制御できる点から、スパッタリングが好ましい。
【0045】
(2)金属層を積層する工程
次いで、酸化インジウム含有層11によって形成された連続面11aに、直接、金属層12を積層する。金属層12の積層には、ACスパッタリングを用いる。尚、酸化インジウム含有層11と、金属層12との間には、他の層を介在させずに直接接触させるのが好ましいが、上に説明した酸化インジウム含有層11上における金属層12の表面拡散のメカニズムが確保されるのであれば、他の層を介在させることもできる。
【0046】
<5.実施例及び比較例>
<5-1.連続面が基体そのものによって形成される場合>
実施例及び比較例では、フィルムを基体10として用いて各種試料を準備した。準備した各種試料について、シート抵抗、電波透過減衰量、及び光沢度を評価した。シート抵抗と電波透過減衰量は、電波透過性に関する評価、光沢度は、光輝性に関する評価である。光沢度とシート抵抗の値は大きい方が好ましく、電波透過減衰量の値は小さい方が好ましい。
評価方法の詳細は以下のとおりである。
【0047】
(1)シート抵抗
ナプソン社製非接触式抵抗測定装置NC-80MAPを用い、JIS-Z2316に従って渦電流測定法により金属層のシート抵抗を測定した。
このシート抵抗は、90Ω/□以上であることが必要であり、200Ω/□以上であるのが好ましく、250Ω/□以上であるのがより好ましく、600Ω/□以上であることが更に好ましい。90Ω/□より小さいと、充分な電波透過性が得られないという問題がある。
【0048】
(2)電波透過減衰量
1GHzにおける電波透過減衰量をKEC法測定評価治具およびアジレント社製スペクトルアナライザCXA signal Analyzer NA9000Aを用いて評価した。ミリ波レーダーの周波数帯域(76~80GHz)における電磁波透過性と、マイクロ波帯域(1GHz)における電磁波透過性には相関性があり、比較的近い値を示すことから、今回の評価では、マイクロ波帯域(1GHz)における電波透過性、即ち、マイクロ波電界透過減衰量を指標とした。
このマイクロ波電界透過減衰量は、10[-dB]以下であることが必要であり、5[-dB]以下であるのが好ましく、2[-dB]以下であることがより好ましい。10[-dB]以上であると、90%以上の電波が遮断されるという問題がある。
【0049】
(3)光沢度
日本電色工業社製ハンディ型光沢計PG-II Mを用い、JIS-Z8741に従って、金属層の20°鏡面光沢度を測定した。光沢度は、下記<5-2.>で使用した可視光反射率と、相関関係にあり実質的には同じ評価を行っているということができるが、ここでは、金属光沢の定量的表現に優れる光沢度を使用した。
この光沢度は、十分な光輝性を有するために500以上が必要であり、750以上であるのが好ましく、更に好ましくは1000以上である。光沢度が、500より小さいと、光輝性が低下し、外観に優れないという問題がある。
(4)金属層の厚さ
実施例及び比較例においては、金属層におけるバラツキ、更に詳細には、
図1に示す分離区分12a間の厚さにおけるバラツキを考慮して、分離区分12aの厚さの平均値を金属層の厚さとした。以下、この平均値を、便宜上、「最大の厚さ」と呼ぶ。尚、個々の分離区分12aの厚さは、下地(
図1における連続面10a、11aに相当)から垂直方向に最も厚いところの厚さとした。
図2に、電波透過性金属光沢部材の表面の電子顕微鏡写真(SEM画像)の一例を示す。
図2の(a)のSEM画像における画像サイズは1.16μm×0.85μm、
図2の(b)のSEM画像における画像サイズは、1.16μm×0.85μmである。最大の厚さを求めるに際し、先ず、
図2に示すような電波透過性金属光沢部材の表面に現れた金属層において、
図3に示すような一辺5cmの正方形領域3を適当に抽出し、該正方形領域3の縦辺及び横辺それぞれの中心線A、Bをそれぞれ4等分することによって得られる計5箇所の点「a」~「e」を測定箇所として選択した。
次いで、選択した測定箇所それぞれにおける、
図4に示すような断面画像(透過型電子顕微鏡写真(TEM画像))において、おおよそ5個の分離区分12aが含まれる視野角領域を抽出した。
これら計5箇所の測定箇所それぞれにおける、おおよそ5個の分離区分12a、即ち、約25個(5個×5箇所)の分離区分12aの個々の厚さを求め、それらの平均値を「最大の厚さ」とした。
【0050】
【0051】
[実施例1]
基体10としてのフィルム(以下、「基材フィルム」と呼ぶ。)として、三菱樹脂社製PETフィルム(厚さ125μm)を準備した。また、金属層には、アルミニウム層を用いた。基材フィルムの連続面に、ACスパッタリング(40kHzの中間周波数領域を利用したMF-ACスパッタリング)を用いて、20nmの最大の厚さのアルミニウム(Al)層を直接形成し、金属光沢部材(以下、「金属フィルム」と呼ぶ。)を得た。Al層を形成する際の基材フィルムの温度は130℃に設定し、基材フィルムを収容するチャンバにおけるアルゴン(Ar)ガスの圧力は2Paに設定した。
【0052】
実施例1の構成において、基材フィルムの連続面は高い平滑性と耐食性を発揮し、その一方で、この連続面においてアルミニウム層は不連続な状態に形成された複数の分離区分12aを含むことから、そのシート抵抗は大きな値となり、また、電波透過減衰量は比較的良好な結果を示した。尚、表1では、便宜上、電波透過減衰量の「評価」結果として、当該電波透過減衰量が2[-dB]より小さい場合を「◎」で、2[-dB]以上で且つ5[-dB]より小さい場合を「○」で、5[-dB]以上で且つ10[-dB]より小さい場合を「△」で、10[-dB]以上を「×」で、それぞれ表している。
また、実施例1の構成においては、光輝性についても実用に十分耐え得る結果が得られた。尚、便宜上、表1では、光沢度の「評価」結果として、当該光沢度が1000以上である場合を「◎」で、750以上で且つ1000より小さい場合を「○」で、500以上で且つ750より小さい場合を「△」で、500より小さい場合を「×」で、それぞれ表している。更に、電波透過性と光輝性の「総合評価」として、いずれかの評価に「×」があれば「×」とし、それ以外については「○」とした。結果、実施例1について、総合評価は「○」となり、電波透過性と光輝性の双方を兼ね備えた良好な金属光沢部材、或いは、金属フィルムが得られた。
【0053】
[実施例2]~[実施例6]
実施例2~6については、基材フィルムの連続面に形成するアルミニウム層の最大の厚さを、実施例1の最大の厚さより大きくなるように段階的に増やした。また、実施例4~6については、アルゴンガスの圧力を実施例1よりも大きな値に設定した。その他の条件は実施例1と同じである。
シート抵抗に関して、実施例2~4では、実施例1と同様に、3kΩ/□を超える大きな値となり、一方、実施例5、6では、実施例2~4ほどではないが、実用上は十分な大きな値が得られた。実施例5、6において、シート抵抗が実施例1より低い値となったのは、アルミニウムの堆積量が多くなり、不連続領域が減少したことによるものと考えられる。電波透過減衰量に関して、実施例2~6の全てにおいて、実施例1の値と同等又はそれを上回る結果が得られた。一方、光沢度に関しては、当然のことながら、実施例2~6の全てにおいて、実施例1の値を上回る結果が得られた。
【0054】
図2の(a)に、実施例6によって得られた金属光沢部材(金属フィルム)表面のSEM画像を示す。
【0055】
[実施例7]~[実施例11]
実施例7~11の全てにおいて、連続面に形成されるアルミニウム層の最大の厚さを、実施例2の最大の厚さと同じとし、且つ、基材フィルムの温度以外のスパッタ条件を揃えた。基材フィルムの温度は、実施例2よりも低温に設定した。実施例7~11の間においては、基材フィルムの材質を変更した。実施例7では、ポリエチレンテレフタレート(三菱ケミカル社製PETフィルム、厚さ125μm)、実施例8では、アクリル(三菱ケミカル社製PMMA、厚さ125μm)、実施例9では、ポリカーボネート(住友化学社製PC、厚さ125μm)、実施例10では、無アルカリガラス(コーニング社製、厚さ400μm)、実施例11では、ITO/PET(ITOにおけるIn2O3の重量に対する錫(Sn)の含有率は10wt%、膜厚は5nmである)を、それぞれ使用した。このように、実施例7~11では、基材フィルムの材質を変更したにも関わらず、それらの全てにおいて、電波透過性及び光輝性ともに、実施例1~6と少なくとも同等か、又は、それらを上回る結果が得られた。よって、実施例7~11の結果から、基材フィルムの材質に拘らず、電波透過性と光輝性の双方を兼ね備えた金属光沢部材、或いは、金属フィルムが得られることは明らかである。
【0056】
[比較例1]~[比較例2]
比較例1では、基材フィルムの連続面に形成されるアルミニウム層の最大の厚さを、実施例1~11の最大の厚さより薄くし、これとは逆に、比較例2では、厚くした。また、アルゴンガスの圧力を、実施例1~11の圧力よりも低い値に設定した。その他の条件については、実施例1~6と同じである。
【0057】
比較例1では、アルミニウム層の厚さが薄いため、シート抵抗や電波透過減衰量については良好な結果が得られたが、その一方で、光沢性については不十分な結果となった。一方、比較例2では、アルミニウム層の厚さが厚いため、光沢性については十分な結果が得られたが、シート抵抗や電波透過減衰量の値は悪化し、実用に耐え得るものではなかった。
【0058】
[比較例3]
スパッタリングの方法とアルゴンガスの圧力以外の条件については、実施例2と同じ条件とした。アルゴンガスの圧力は、比較例1、2と同様に、実施例1~11より低い値に設定した。また、スパッタリングの方法として、ここでは、DCスパッタを用いた。DCスパッタ装置は、実施例1と同様の装置であり、電源のみ直流方式に変更したものを使用した。この場合、電波透過性及び光輝性ともに不十分な結果となった。
【0059】
[比較例4]
製膜方法として、ここでは、真空蒸着を用いた。より詳細には、アルバック社製高真空蒸着装置EX-550を用い、基材をチャンバー内にセットし、10-4Paまで真空引き後、抵抗加熱方式にてアルミを1nm/secのレートで30nm製膜した。この場合、電波透過性及び光輝性ともに不十分な結果となった。
【0060】
<5-2.連続面が下地層によって形成される場合>
実施例及び比較例では、フィルムを基体10として用いて各種試料を準備した。準備した各種試料について、シート抵抗、電波透過減衰量、及び可視光反射率を評価した。ここで、シート抵抗と電波透過減衰量は、電波透過性に関する評価、可視光反射率は、光輝性に関する評価である。可視光反射率とシート抵抗の値は大きい方が好ましく、電波透過減衰量の値は小さい方が好ましい。
評価方法の詳細は以下のとおりである。
【0061】
(1)シート抵抗
上記「<5-1>(1)」と同様の方法で測定した。
このシート抵抗は、90Ω/□以上であることが必要であり、200Ω/□以上であるのが好ましく、250Ω/□以上であるのがより好ましく、600Ω/□以上であることが更に好ましい。90Ω/□より小さいと、充分な電波透過性が得られないという問題がある。
【0062】
(2)電波透過減衰量
上記「<5-1>(2)」と同様の方法で測定、評価した。更に詳細には、ミリ波レーダーの周波数帯域(76~80GHz)における電磁波透過性と、マイクロ波帯域(1GHz)における電磁波透過性には相関性があり、比較的近い値を示すことから、今回の評価では、マイクロ波帯域(1GHz)における電波透過性、即ち、マイクロ波電界透過減衰量を指標とした。
このマイクロ波電界透過減衰量は、10[-dB]以下であることが必要であり、5[-dB]以下であるのが好ましく、2[-dB]以下であることがより好ましい。10[-dB]以上であると、90%以上の電磁波が遮断されるという問題がある。
【0063】
(3)可視光反射率
日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U4100を用い、550nmの測定波長における反射率を測定した。基準として、Al蒸着ミラーの反射率を反射率100%とした。 この可視光反射率は、十分な光輝性を有するために20%以上が必要であり、40%以上であるのが好ましく、更に好ましくは50%以上である。可視光反射率が、20%より小さいと、光輝性が低下し、外観に優れないという問題がある。
(4)金属層の厚さ
上記「<5-1>(4)」と同様の方法で「最大の厚さ」として測定した。
【0064】
【0065】
[実施例12]
基材フィルムとして、三菱樹脂社製PETフィルム(厚さ125μm)を用いた。
先ず、DCマグネトロンスパッタリングを用いて、基材フィルムの面に沿って、50nmの厚さのITO層をその上に直接形成した。ITO層を形成する際の基材フィルムの温度は、130℃に設定した。ITOは、In2O3に対してSnを10wt%含有させたものである。
【0066】
次いで、ACスパッタリング(40kHzの中間周波数領域を利用したMF-ACスパッタリング)を用いて、ITO層の上に、50nmの最大の厚さのアルミニウム(Al)層を形成し、金属光沢部材(金属フィルム)を得た。Al層を形成する際の基材フィルムの温度は、130℃に設定し、基材フィルムを収容するチャンバにおけるアルゴン(Ar)ガスの圧力を0.22Paに設定した。
【0067】
図2の(b)は、これらの処理の結果得られた金属光沢部材(金属フィルム)表面のSEM画像であり、
図4は、この
図2の(b)の一部領域における断面の画像である。画像サイズは1.16μm×0.85μmである。実施例1等についても、これと同様の断面が得られると考えてよい。
【0068】
これらの図から明らかなように、本実施例では、金属光沢部材のITO層は、基材フィルムの面に沿って連続状態で設けられていることから高い平滑性と耐食性を発揮し、その一方で、アルミニウム層は、ITO層に積層されることによって不連続な状態に形成された複数の部分12aを含むことから、そのシート抵抗は260Ω/□となり、その電波透過減衰量は1GHzの波長において4.5[-dB]となり、電波透過性について良好な結果が得られた。尚、表1では、便宜上、電波透過減衰量の「評価」結果として、当該電波透過減衰量が2[-dB]より小さい場合を「◎」で、2[-dB]以上で且つ5[-dB]より小さい場合を「○」で、5[-dB]以上で且つ10[-dB]より小さい場合を「△」で、10[-dB]以上を「×」で、それぞれ表している。
また、この金属光沢部材の可視光反射率は56%となり、光輝性についても良好な結果が得られた。尚、便宜上、表1では、可視光反射率の「評価」結果として、当該可視光反射率が50%より大きい場合を「◎」で、50%以下で且つ40%より大きい場合を「○」で、40%以下で且つ20%より大きい場合を「△」で、20%以下を「×」で、それぞれ表している。更に、電波透過性と光輝性の「総合評価」として、両者が同じ評価結果の場合には同じ評価結果を、一方が片方より悪い結果の場合には悪い方の評価結果を、それぞれ示している。結果、実施例11について、総合評価は「○」となり、電波透過性と光輝性の双方を兼ね備えた良好な金属光沢部材、或いは、金属フィルムが得られた。
【0069】
[実施例13]~[実施例15]
ITO層の上に積層するアルミニウム層の最大の厚さを、実施例13、14については実施例12のそれよりも薄くなるように変更し、一方、実施例15については実施例12のそれよりも厚くなるように変更した。その他の条件については実施例12と同じである。
この場合、シート抵抗及び電波透過減衰量については、実施例13~15の全てにおいて、実施例12と同様の値及び結果が得られた。一方、可視光反射率については、アルミニウム層の最大の厚さが実施例12のそれより薄い実施例13、14については若干劣る結果となったが、実施例15については、実施例12よりも良好な結果が得られた。但し、実施例13、14についても、実用に十分耐え得るものである。
【0070】
[実施例16]~[実施例17]
ITO層の厚さを、実施例12よりも薄くなるように設定した。その他の条件については、実施例12と同じである。
この場合、シート抵抗及び電波透過減衰量については、実施例16~19の全てにおいて、実施例12よりも良好な結果が得られた。また、可視光反射率については、実施例16~19の全てにおいて、実施例12と同様の値及び結果が得られた。これらの実施例により、ITO層の厚さは薄くてもよいことが明らかとなり、ITO層の厚さを薄くすることにより、材料コストを抑制できることが明らかとなった。
【0071】
[実施例20]~[実施例23]
ITO層におけるSnの含有率を、実施例20については実施例12のそれより大きくなるように変更し、一方、実施例21~23については実施例12のそれより小さくなるように変更した。尚、実施例23のITO層ではSnをゼロとしていることから、より正確には、ITO層ではなく、酸化インジウム(In2O3)層となっている。その他、実施例23では、アルミニウム層は40nmとした。その他の条件については、実施例12と同じである。
この場合、シート抵抗及び電波透過減衰量については、実施例20~22において、実施例12と同様の結果が得られ、実施例23においては、実施例12より若干劣る結果となった。また、可視光反射率については、実施例20~22において、実施例12と同様の値及び結果が得られ、実施例23において、実施例12より若干劣る結果となった。これの結果から、ITO層は、Snを含有するのがより好ましいことが明らかとなった。
【0072】
[実施例24]
ITOではなく、酸化インジウムにZnOを含有させたIZOを用いた。ZnOは、In2O3に対して11wt%含有する。その他の条件については、実施例12と同じである。
この場合、シート抵抗及び電波透過減衰量については、実施例12よりも若干劣る結果となった。一方、可視光反射率については、実施例12と同様の値及び結果が得られた。実施例12より総合評価は劣るものの、ZnOを含有させた場合でも、十分に実用可能であることが明らかとなった。
【0073】
[比較例5]
ITO層の上に積層するアルミニウム層の最大の厚さを、実施例12のそれよりも厚くなるように変更した。その他の条件については、実施例12と同じである。
この場合、可視光反射率については、厚さを増した分、実施例11よりも良好な結果が得られた。一方、シート抵抗及び電波透過減衰量については、実施例12のそれらよりも大きく劣る結果となり、実用不可能なものとなった。
【0074】
[比較例6]
ITO層を設けることなく、基材フィルム上にアルミニウム層を直接成膜した。その他の条件については、実施例12と同じである。
この場合、可視光反射率については、実施例12と同様の値及び結果が得られたが、シート抵抗及び電波透過減衰量については、実施例12のそれらよりも大きく劣る結果となり、実用不可能なものとなった。
【0075】
<6.金属薄膜の利用>
金属光沢部材1Aに形成された金属層12は、厚さ20nm~100nm程度の薄いものであって、これのみを金属薄膜として使用することもできる。例えば、基体10のような基体に積層されたインジウム酸化物含有層11の上に、スパッタリングで金属層12を形成して、フィルムを得る。また、これとは別に、接着剤を基材の上に塗工して接着剤層付きの基材を作成する。フィルムと基材を、金属層12と接着剤層が接するように貼り合せ、十分に密着させた後にフィルムと基材を剥離させることで、フィルムの最表面に存在した金属層(金属薄膜)12を基材の最表面に転写させることができる。
【0076】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る金属フィルムや金属光沢部材は、例えば、フロントグリル、エンブレム、といった自動車のフロント部分に搭載されるミリ波レーダーのカバー部材を装飾するために好適に用いることができる。また、例えば、携帯電話やスマートフォン、タブレット型PC、ノート型PC、冷蔵庫など、意匠性と電波透過性の双方が要求される様々な用途にも利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 金属光沢部材
3 金属フィルム
10 基材フィルム
10a 連続面
11 下地層(酸化インジウム含有層)
11a 連続面
12 金属層