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特許7516722ポリ塩化ビニル系成形体、アクチュエータおよびポリ塩化ビニル系成形体製造方法
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  • 特許-ポリ塩化ビニル系成形体、アクチュエータおよびポリ塩化ビニル系成形体製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニル系成形体、アクチュエータおよびポリ塩化ビニル系成形体製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20240709BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20240709BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240709BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20240709BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20240709BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20240709BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C08L27/06
C08J3/20 B CEV
C08K3/013
C08K3/10
C08K5/11
C08K5/12
H02N11/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020116821
(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公開番号】P2022014502
(43)【公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-06-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518385899
【氏名又は名称】AssistMotion株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】橋本 稔
(72)【発明者】
【氏名】堀井 辰衛
(72)【発明者】
【氏名】鉄矢 美紀雄
【審査官】大塚 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-089882(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0055257(US,A1)
【文献】特開2020-096470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/06
C08J 3/20
C08K 3/013
C08K 3/10
C08K 5/11
C08K 5/12
H02N 11/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニルおよび可塑剤を含有して誘電性を有すると共に常温においてゲル状態を呈するポリ塩化ビニル系成形体であって、
チタン酸バリウム、ジルコン酸チタン酸鉛、タンタル酸ストロンチウム・ビスマスおよびチタン酸ストロンチウムのうちの1種類または複数種類で形成されたフィラーを含有し、
前記ポリ塩化ビニル100重量部に対して、前記可塑剤を100~1000重量部含有し、
前記可塑剤が、アジピン酸ジエチル(DEA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジエチル(DESeb)、セバシン酸ジオクチル(DOSeb)、コハク酸ジエチル(DESU)およびフタル酸ジブチル(DBP)のうちの1種類または複数種類であり、
前記ポリ塩化ビニル100重量部に対して、前記フィラーを5~80重量部含有することを特徴とするポリ塩化ビニル系成形体。
【請求項2】
請求項1記載のポリ塩化ビニル系成形体を備え、当該ポリ塩化ビニル系成形体の変形に伴って発生する力を駆動力として出力するアクチュエータ。
【請求項3】
ポリ塩化ビニルおよび可塑剤を含有して誘電性を有すると共に常温においてゲル状態を
呈するポリ塩化ビニル系成形体を製造するポリ塩化ビニル系成形体製造方法であって、
溶剤としてのテトラヒドロフランおよびシクロヘキサンのいずれか1種類と、チタン酸バリウム、ジルコン酸チタン酸鉛、タンタル酸ストロンチウム・ビスマスおよびチタン酸ストロンチウムのうちの1種類または複数種類で形成されたフィラー5~80重量部と、前記ポリ塩化ビニル100重量部とを混合した後に、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジオクチル、コハク酸ジエチルおよびフタル酸ジブチルのうちの1種類または複数種類を前記可塑剤として100~1000重量部混合し、当該混合物を乾燥して前記ポリ塩化ビニル系成形体を製造するポリ塩化ビニル系成形体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニルおよび可塑剤を含有するポリ塩化ビニル系成形体、そのポリ塩化ビニル系成形体を備えたアクチュエータ、並びにそのポリ塩化ビニル系成形体を製造するポリ塩化ビニル系成形体製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のポリ塩化ビニル系成形体およびアクチュエータとして、下記特許文献1において出願人が開示した誘電体用ポリ塩化ビニル系成形体(以下、単に「ポリ塩化ビニル系成形体」ともいう)および電圧駆動装置が知られている。このポリ塩化ビニル系成形体は、ペースト加工用ポリ塩化ビニル100重量部、および可塑剤としてのアジピン酸ジブチル50~1,400重量部を含有して誘電率が少なくとも5,000ファラデー/メートルとなるように形成されている。また、この電圧駆動装置は、上述したポリ塩化ビニル系成形体を含んで構成され、電圧を供給したときのポリ塩化ビニル系成形体の変形によって駆動するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-147552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した従来のポリ塩化ビニル系成形体および電圧駆動装置には、解決すべき以下の課題がある。具体的には、従来のポリ塩化ビニル系成形体を用いた電圧駆動装置の応答時間を本願発明者が測定したところ、500Vの直流電圧を供給したときの応答時間が0.14秒であった。一方、この種の電圧駆動装置をロボット等の機器の動力源として用いる場合には、応答性(応答時間)が重要視される。しかしながら、ポリ塩化ビニル系成形体を用いたこの種の電圧駆動装置についての応答性に着目した評価はこれまでなされておらず、したがって、応答性を向上可能なポリ塩化ビニル系成形体の開発もこれまでなされてこなかった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、応答性を向上し得るポリ塩化ビニル系成形体、アクチュエータおよびそのポリ塩化ビニル系成形体を製造するポリ塩化ビニル系成形体製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく請求項1記載のポリ塩化ビニル系成形体は、ポリ塩化ビニルおよび可塑剤を含有して誘電性を有すると共に常温においてゲル状態を呈するポリ塩化ビニル系成形体であって、チタン酸バリウム、ジルコン酸チタン酸鉛、タンタル酸ストロンチウム・ビスマスおよびチタン酸ストロンチウムのうちの1種類または複数種類で形成されたフィラーを含有し、前記ポリ塩化ビニル100重量部に対して、前記可塑剤を100~1000重量部含有し、前記可塑剤が、アジピン酸ジエチル(DEA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジエチル(DESeb)、セバシン酸ジオクチル(DOSeb)、コハク酸ジエチル(DESU)およびフタル酸ジブチル(DBP)のうちの1種類または複数種類であり、前記ポリ塩化ビニル100重量部に対して、前記フィラーを5~80重量部含有することを特徴とする。
【0008】
また、請求項記載のアクチュエータは、請求項1記載のポリ塩化ビニル系成形体を備え、当該ポリ塩化ビニル系成形体の変形に伴って発生する力を駆動力として出力する。
【0009】
また、請求項記載のポリ塩化ビニル系成形体製造方法は、ポリ塩化ビニルおよび可塑剤を含有して誘電性を有すると共に常温においてゲル状態を呈するポリ塩化ビニル系成形体を製造するポリ塩化ビニル系成形体製造方法であって、溶剤としてのテトラヒドロフランおよびシクロヘキサンのいずれか1種類と、チタン酸バリウム、ジルコン酸チタン酸鉛、タンタル酸ストロンチウム・ビスマスおよびチタン酸ストロンチウムのうちの1種類または複数種類で形成されたフィラー5~80重量部と、前記ポリ塩化ビニル100重量部とを混合した後に、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジオクチル、コハク酸ジエチルおよびフタル酸ジブチルのうちの1種類または複数種類を前記可塑剤として00~1000重量部混合し、当該混合物を乾燥して前記ポリ塩化ビニル系成形体を製造する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るポリ塩化ビニル系成形体およびアクチュエータによれば、強誘電性を有する有機材料で形成されたフィラーおよび強誘電性を有する無機材料で形成されたフィラーの少なくとも一方を含有させたことにより、これらのフィラーを含有していないポリ塩化ビニル系成形体と比較して、応答時間を十分に短縮して応答性を十分に向上させることができる。このため、このポリ塩化ビニル系成形体を用いたアクチュエータによれば、応答性が重要視されるロボット等の機器の動力源への応用を実現することができる。
【0011】
また、本発明に係るポリ塩化ビニル系成形体およびアクチュエータによれば、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、フィラーを5~20重量部含有させたことにより、応答性を十分に向上させつつ変位量の低下を確実に抑えることができる。
【0012】
また、本発明に係るポリ塩化ビニル系成形体製造方法によれば、溶剤とフィラーとポリ塩化ビニルとを混合した後に、可塑剤を混合し、混合物を乾燥してポリ塩化ビニル系成形体を製造することにより、フィラーとポリ塩化ビニルとを溶剤に溶解させた状態で可塑剤を加えて混合することで、フィラー、ポリ塩化ビニルおよび可塑剤を均一に混合させることができる結果、均質なポリ塩化ビニル系成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】アクチュエータ10の構成を示す構成図である。
図2】PVCゲルシート13の製造方法50を示すフローチャートである。
図3】特性試験の結果を示す第1の特性図である。
図4】特性試験の結果を示す第2の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、ポリ塩化ビニル系成形体、アクチュエータおよびポリ塩化ビニル系成形体製造方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0015】
最初に、図1に示すアクチュエータ10の構成について説明する。アクチュエータ10は本発明に係るアクチュエータの一例であって、同図に示すように、陽電極11、陰電極12およびPVCゲルシート13を備えて構成されている。
【0016】
陽電極11は、導電性を有するメッシュシート(一例として、ステンレスメッシュシート)で構成されている。また、本実施例では、陽電極11は、一例として長方形に形成されている。
【0017】
陰電極12は、導電性を有するシート(一例として、アルミシート)で構成されている。また、本実施例では、陰電極12は、陽電極11と同様の長方形に形成されている。
【0018】
PVCゲルシート13は、本発明に係るポリ塩化ビニル系成形体の一例であって、ポリ塩化ビニル(PVC)、フィラーおよび可塑剤を含有して構成され、誘電性を有すると共に常温においてゲル状態を呈している。また、本実施例では、PVCゲルシート13は、陽電極11と同様の長方形に形成されている。また、PVCゲルシート13は、後述する製造方法50(ポリ塩化ビニル系成形体製造方法:図2参照)によって製造される。このPVCゲルシート13は、電圧の供給によって厚さ方向に変形する特性を有している。
【0019】
この場合、PVCゲルシート13は、強誘電性を有する有機材料で形成されたフィラーおよび強誘電性を有する無機材料で形成されたフィラーの少なくとも一方を含有している。本実施例では、一例として、強誘電性を有する無機材料としてのチタン酸バリウム(BaTiO)で形成されたフィラーを、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、5~20重量部含有している。また、PVCゲルシート13は、アジピン酸ジエチル(DEA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジエチル(DESeb)、セバシン酸ジオクチル(DOSeb)、コハク酸ジエチル(DESU)、およびフタル酸ジブチル(DBP)のうちの1種類または複数種類を、ポリ塩化ビニル100重量部に対して合計で100~1000重量部含有している。
【0020】
また、本実施例では、アクチュエータ10は、図1に示すように、1枚の陽電極11と、2枚の陰電極12と、各電極11,12の上面および下面に配置された4枚のPVCゲルシート13とを積層することによって形成されている。
【0021】
このアクチュエータ10では、電極11,12間に挟まれたPVCゲルシート13に対して電極11,12を介して電圧を供給しているときに、PVCゲルシート13が陽電極11を構成するメッシュの隙間に進入するように変形することで厚み方向に収縮する。また、PVCゲルシート13に対する電圧の供給を停止したときに、PVCゲルシート13の復元(変形の解除)による力を伴ってPVCゲルシート13が厚み方向に伸長する。つまり、このアクチュエータ10では、PVCゲルシート13の変形に伴って発生する力を駆動力F(図1参照)として出力することが可能となっている。ここで、アクチュエータ10が発生する駆動力Fは、陽電極11、陰電極12およびPVCゲルシート13の面積に比例(または、ほぼ比例)し、アクチュエータ10の変位量(伸縮量)は、1枚の陽電極11、1枚の陰電極12および電極11,12間の1枚のPVCゲルシート13を1ユニットとしたときのユニットの積層数に比例(または、ほぼ比例)する。
【0022】
次に、アクチュエータ10の製造方法について説明する。
【0023】
最初にPVCゲルシート13の製造方法を、図2に示す製造方法50のフローチャートを参照して説明する。この製造方法50では、まず、溶剤を計量して、攪拌容器に投入する(ステップ51)。溶剤としては、テトラヒドロフランおよびシクロヘキサンのいずれか1種類を用いることができる。また、溶剤は、ポリ塩化ビニル100重量部に対して600~1000重量部の範囲内で用いるのが好ましく、本実施例では、ポリ塩化ビニル100重量部に対して溶剤を800重量部用いる。
【0024】
次いで、フィラーを計量して、溶剤が投入されている攪拌容器に攪拌しつつ投入する(ステップ52)。フィラーとしては、強誘電性を有する有機材料で形成されたフィラーおよび強誘電性を有する無機材料で形成されたフィラーの少なくとも一方を用いる。本実施例では、強誘電性を有する無機材料の一例としてのチタン酸バリウム(BaTiO)で形成されたフィラーを用いる。また、フィラーは、ポリ塩化ビニル100重量部に対して5~20重量部の範囲内で用いるのが好ましく、本実施例では、ポリ塩化ビニル100重量部に対してフィラーを10重量部用いる。
【0025】
続いて、ポリ塩化ビニルを計量し、フィラーと溶剤とが十分に混合(溶解)した後に、計量したポリ塩化ビニルを攪拌しつつ攪拌容器に投入する(ステップ53)。本実施例では、溶剤800重量部に対して100重量部のポリ塩化ビニルを計量して投入する。
【0026】
続いて、フィラーとポリ塩化ビニルと溶剤とが十分に混合(溶解)した状態で、可塑剤を計量して、フィラーとポリ塩化ビニルと溶剤とが投入されている攪拌容器に攪拌しつつ投入する(ステップ54)。可塑剤としては、アジピン酸ジエチル(DEA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジエチル(DESeb)、セバシン酸ジオクチル(DOSeb)、コハク酸ジエチル(DESU)、フタル酸ジブチル(DBP)のうちの1種類または複数種類を用いることができる。また、可塑剤は、ポリ塩化ビニル100重量部に対して100~1000重量部の範囲内で用いるのが好ましく、本実施例では、ポリ塩化ビニル100重量部に対して可塑剤を600重量部用いる。
【0027】
次いで、ポリ塩化ビニル、溶剤、フィラーおよび可塑剤(これらの混合物)が収容された攪拌容器を脱泡装置にセットして脱泡処理を実行する(ステップ55)。続いて、成膜機を用いて脱泡処理の終了した混合物をシート状に加工するシート化処理を実行する(ステップ56)。次いで、シート状に加工したシート体を乾燥して溶剤を蒸発させる乾燥処理を実行する(ステップ57)。続いて、シート体を長方形状に裁断する(ステップ58)。これに応じて以上により製造方法50が終了し、PVCゲルシート13が製造される。
【0028】
続いて、図1に示すように、1枚の陽電極11、2枚の陰電極12、および4枚のPVCゲルシート13を積層する。以上により、アクチュエータ10の製造が完了する。
【0029】
次に、本発明に係るポリ塩化ビニル系成形体およびアクチュエータの特性試験の結果について説明する。
【0030】
この特性試験では、実施例1として、ポリ塩化ビニル100重量部に対してチタン酸バリウム(BaTiO)で形成されたフィラーを10重量部含有させると共に、ポリ塩化ビニル100重量部に対して600重量部のアジピン酸ジブチル(DBA)を可塑剤として用いたPVCゲルシート13を上述した製造方法50で製造し、そのPVCゲルシート13を用いてアクチュエータ10を3つ製造した。また、実施例2として、ポリ塩化ビニル100重量部に対してチタン酸バリウム(BaTiO)で形成されたフィラーを40重量部含有させると共に、実施例1と同量のアジピン酸ジブチル(DBA)を可塑剤として用いたPVCゲルシート13を上述した製造方法50で製造し、そのPVCゲルシート13を用いてアクチュエータ10を3つ製造した。また、実施例3として、ポリ塩化ビニル100重量部に対してチタン酸バリウム(BaTiO)で形成されたフィラーを80重量部含有させると共に、実施例1と同量のアジピン酸ジブチル(DBA)を可塑剤として用いたPVCゲルシート13を上述した製造方法50で製造し、そのPVCゲルシート13を用いてアクチュエータ10を3つ製造した。また、比較例として、フィラーを含有させずに、実施例1と同量のアジピン酸ジブチル(DBA)を可塑剤として用いたPVCゲルシート13を上述した製造方法50に準じた方法で製造し、そのPVCゲルシート13を用いてアクチュエータ10を3つ製造した。
【0031】
また、この特性試験では、実施例1~3および比較例の各アクチュエータ10に対して直流500Vの駆動用電圧を供給したときの各アクチュエータ10の収縮時の変位量(厚み方向の歪み)を測定すると共に、駆動用電圧の供給開始から変位量が最大となるまでに要した時間(収縮時の応答時間)を測定した。また、駆動用電圧の供給を停止したときから変位量が0となるまで(初期状態に回復するまで)に要した時間(回復時の応答時間)を測定した。
【0032】
この特性試験の測定値に基づき、ポリ塩化ビニル100重量部に対するフィラーの重量比率を横軸に規定し、収縮時の応答時間および回復時の応答時間を縦軸に規定して、両者の関係を表した関係図を図3に示す。同図では、実施例1~3および比較例における各々3つのアクチュエータ10についての各測定値の平均値をプロットしている。同図から、フィラーを含有させた実施例1~3のアクチュエータ10は、フィラーを含有させていない比較例のアクチュエータ10と比較して、応答時間が十分に短縮されることが明らかである。つまり、フィラーを含有させてPVCゲルシート13を構成することで、応答性が十分に向上することが理解される。
【0033】
また、この特性試験の測定値に基づき、回復時の応答時間を横軸に規定し、変位量を縦軸に規定して、両者の関係を表した関係図を図4に示す。同図では、実施例1~3および比較例における各々3つのアクチュエータ10についての各測定値の平均値をプロットしている。同図から、フィラーを含有させた実施例1~3のアクチュエータ10と、フィラーを含有させていない比較例のアクチュエータ10とを比較すると、フィラーを含有させた実施例1~3のアクチュエータ10では、変位量が同程度でかつ応答時間が十分に短縮されることが明らかである。つまり、フィラーを含有させてPVCゲルシート13を構成することで、変位量を低下させることなく応答性が十分に向上することが理解される。また、同図から、実施例1~3のアクチュエータ10同士を比較すると各々の応答時間が同程度である一方、フィラーの重量比率が小さいほど変位量が大きいとが理解される。
【0034】
また、上述した特性試験の追加試験として、ポリ塩化ビニル100重量部に対するフィラーの重量比率を1~50重量部の範囲内で上述した実施例1~3とは異なる重量比率に変更して、収縮時の変位量、収縮時の応答時間、および回復時の応答時間を測定した(図示を省略する)。その結果、ポリ塩化ビニル100重量部に対するフィラーの含有比率が5重量部未満のアクチュエータ10では、フィラーを含有していないアクチュエータ10と比較して、応答時間の明確な短縮が確認できなかった。また、ポリ塩化ビニル100重量部に対するフィラーの含有比率が20重量部を超えるアクチュエータ10では、ポリ塩化ビニル100重量部に対するフィラーの含有比率が20重量部以下のアクチュエータ10と比較して、変位量が極端に小さかった。これらのことから、ポリ塩化ビニル100重量部に対するフィラーの重量比率は、5~20重量部の範囲内であることが好ましいことが理解される。
【0035】
このように、このPVCゲルシート13およびアクチュエータ10によれば、強誘電性を有する有機材料で形成されたフィラーおよび強誘電性を有する無機材料で形成されたフィラーの少なくとも一方を含有させたことにより、これらのフィラーを含有していないPVCゲルシート13と比較して、応答時間を十分に短縮して応答性を十分に向上させることができる。このため、このPVCゲルシート13を用いたアクチュエータ10によれば、応答性が重要視されるロボット等の機器の動力源への応用を実現することができる。
【0036】
また、このPVCゲルシート13およびアクチュエータ10によれば、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、フィラーを5~20重量部含有させたことにより、応答性を十分に向上させつつ変位量の低下を確実に抑えることができる。
【0037】
また、この製造方法50によれば、溶剤とフィラーとポリ塩化ビニルとを混合した後に、可塑剤を混合し、混合物を乾燥してPVCゲルシート13を製造することにより、フィラーとポリ塩化ビニルとを溶剤に溶解させた状態で可塑剤を加えて混合することで、フィラー、ポリ塩化ビニルおよび可塑剤を均一に混合させることができる結果、均質なPVCゲルシート13を製造することができる。
【0038】
なお、上述したPVCゲルシート13、アクチュエータ10および製造方法50は、本発明に係るポリ塩化ビニル系成形体、アクチュエータおよびポリ塩化ビニル系成形体製造方法の一例であって、適宜変更した構成および方法を採用することができる。例えば、上述したPVCゲルシート13では、強誘電性を有する無機材料としてのチタン酸バリウム(BaTiO)で形成されたフィラーを用いているが、強誘電性を有する他の無機材料(例えば、ジルコン酸チタン酸鉛、タンタル酸ストロンチウム・ビスマス、チタン酸ストロンチウム等)で形成されたフィラーを用いる構成および方法を採用することもできる。また、強誘電性を有する有機材料(例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(ビニリデンフルオリド-co-トリフルオロエチレン)等)で形成されたフィラーを用いる構成および方法を採用することもできる。さらに、強誘電性を有する無機材料で形成されたフィラー、および強誘電性を有する有機材料で形成されたフィラーの双方を用いる構成および方法を採用することもできる。
【0039】
また、上述したPVCゲルシート13では、アジピン酸ジエチル(DEA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジエチル(DESeb)、セバシン酸ジオクチル(DOSeb)、コハク酸ジエチル(DESU)およびフタル酸ジブチル(DBP)のうちの1種類を可塑剤として用いているが、これらの可塑剤のうちの複数種類を用いる構成および方法を採用することもできる。また、上述した製造方法50では、溶剤としてテトラヒドロフランを用いたが、シクロヘキサンを溶剤として用いる方法を採用することもできる。
【0040】
また、上述したアクチュエータ10は、1枚の陽電極11、2枚の陰電極12および4枚のPVCゲルシート13を備えて構成されているが、アクチュエータ10を構成する陽電極11、陰電極12およびPVCゲルシート13の数(上述したユニットの積層数)は任意に規定することができる。
【0041】
また、上述したアクチュエータ10の構成では、陽電極11、陰電極12およびPVCゲルシート13が長方形に形成されているが、他の平面視形状(例えば、円形、楕円形、四角形以外の多角形)の陽電極11、陰電極12およびPVCゲルシート13を採用することもできる。
【符号の説明】
【0042】
10 アクチュエータ
11 陽電極
12 陰電極
13 PVCゲルシート
50 製造方法
F 駆動力
図1
図2
図3
図4