(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】撮像ユニット、および、内視鏡
(51)【国際特許分類】
A61B 1/05 20060101AFI20240709BHJP
A61B 1/04 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
A61B1/05
A61B1/04 530
(21)【出願番号】P 2023525283
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021217
(87)【国際公開番号】W WO2022254659
(87)【国際公開日】2022-12-08
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】304050923
【氏名又は名称】オリンパスメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関戸 孝典
【審査官】井上 香緒梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-76358(JP,A)
【文献】国際公開第2017/203592(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/094777(WO,A1)
【文献】特開2013-200537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B1/00-1/32
G02B23/24-23/26
H04N5/222-5/257
H04N5/30-5/33
H01L27/14-27/148
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する立体配線板と、
前記凹部に収容された、複数の光学素子と撮像素子とを含む積層素子と、
前記凹部と前記積層素子との隙間を充填する封止樹脂と、を具備し、
前記複数の光学素子は、第1の光学部材に第2の光学部材が配設された複合素子を含み、
前記第2の光学部材の弾性率は、前記第1の光学部材の弾性率および前記撮像素子の弾性率未満であり、前記封止樹脂の弾性率
以上であり、
前記封止樹脂の熱膨張率は、前記第1の光学部材の熱膨張率および前記撮像素子の熱膨張率超であり、前記第2の光学部材の熱膨張率
未満であることを特徴とする撮像ユニット。
【請求項2】
前記積層素子における、前記第1の光学部材の専有率は、前記第2の光学部材の専有率よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の撮像ユニット。
【請求項3】
前記封止樹脂は、熱膨張率が、45ppm/K-80ppm/Kであり、弾性率が1.0GPa-2.5GPaであることを特徴とする請求項1に記載の撮像ユニット。
【請求項4】
前記封止樹脂は、遮光性を有することを特徴とする請求項1に記載の撮像ユニット。
【請求項5】
前記第1の光学部材は、
ガラス板であり、
前記第2の光学部材は、
樹脂レンズであり、
前記複合素子は、ハイブリッドレンズ素子であることを特徴とする請求項1に記載の撮像ユニット。
【請求項6】
前記封止樹脂の厚さは、前記凹部の底面から開口に近づくにつれてより厚いことを特徴とする請求項1に記載の撮像ユニット。
【請求項7】
挿入部の先端部に撮像ユニットを含み、
前記撮像ユニットは、
凹部を有する立体配線板と、
前記凹部に収容された、複数の光学素子と撮像素子とを含む積層素子と、
前記凹部と前記積層素子との隙間を充填する封止樹脂と、を具備し、
前記複数の光学素子は、第1の光学部材に第2の光学部材が配設された複合素子を含み、
前記第2の光学部材の弾性率は、前記第1の光学部材の弾性率および前記撮像素子の弾性率未満であり、前記封止樹脂の弾性率以上であり、
前記封止樹脂の熱膨張率は、前記第1の光学部材の熱膨張率および前記撮像素子の熱膨張率超であり、前記第2の光学部材の熱膨張率未満であることを特徴とする内視鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層素子を含む撮像ユニット、および、先端部に積層素子を含む撮像ユニットが配設された内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡の挿入部の先端部に配設される撮像ユニットは低侵襲化のため細径化が重要である。
【0003】
日本国特開2012-18993号公報には、細径の撮像ユニットを効率良く製造できる積層素子が開示されている。積層素子は、それぞれが複数のレンズを含む複数のレンズウエハと、複数の撮像素子とを樹脂を用いて接着後に、切断することで作製されている。
【0004】
国際公開第2015/082328号(特許6533787号)には、積層素子をMIDの溝に収容した撮像ユニットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-18993号公報
【文献】国際公開第2015/082328号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
積層素子は、熱膨張率の異なる複数の素子が積層されている。このため、温度変化が生じると熱応力によって積層素子が損傷する場合があり、積層素子を搭載した撮像ユニットの信頼性を低下させることがあった。
【0007】
本発明の実施形態は、信頼性に優れた撮像ユニットおよび信頼性に優れた内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態の撮像ユニットは、凹部を有する立体配線板と、前記凹部に収容された、複数の光学素子と撮像素子とを含む積層素子と、前記凹部と前記積層素子との隙間を充填する封止樹脂と、を具備し、前記複数の光学素子は、第1の光学部材に第2の光学部材が配設された複合素子を含み、前記第2の光学部材の弾性率は、前記第1の光学部材の弾性率および前記撮像素子の弾性率未満であり、前記封止樹脂の弾性率以上であり、前記封止樹脂の熱膨張率は、前記第1の光学部材の熱膨張率および前記撮像素子の熱膨張率超であり、前記第2の光学部材の熱膨張率未満である。
【0009】
別の実施形態の内視鏡は、撮像ユニットを含み、前記撮像ユニットは、凹部を有する立体配線板と、前記凹部に収容された、複数の光学素子と撮像素子とを含む積層素子と、前記凹部と前記積層素子との隙間を充填する封止樹脂と、を具備し、前記複数の光学素子は、第1の光学部材に第2の光学部材が配設された複合素子を含み、 前記第2の光学部材の弾性率は、前記第1の光学部材の弾性率および前記撮像素子の弾性率未満であり、前記封止樹脂の弾性率以上であり、
前記封止樹脂の熱膨張率は、前記第1の光学部材の熱膨張率および前記撮像素子の熱膨張率超であり、前記第2の光学部材の熱膨張率未満である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、信頼性に優れた撮像ユニットおよび信頼性に優れた内視鏡を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態の撮像ユニットの斜視図である。
【
図3】第1実施形態の変形例1の撮像ユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
図1および
図2に示すように、本実施形態の撮像ユニット1は、立体配線板10と、封止樹脂20と、積層素子30と、を具備する。
【0013】
なお、実施形態に基づく図面は、模式的なものである。各部分の厚みと幅との関係、夫々の部分の厚みの比率などは現実のものとは異なる。図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。一部の構成要素の図示、符号の付与を省略する場合がある。光が入射する方向を「上」という。
【0014】
立体配線板10は、平板ではない配線板、例えば、成形回路部品(MID:Molded Interconnect Device)であり、上面10SAに開口のある有底の凹部(キャビティ)H10を有する。凹部H10に収容されている積層素子30は、光学系を構成している複数の光学素子31、32、33と、撮像部品である撮像素子(イメージセンサ)34とが積層されている。封止樹脂20は、凹部H10と積層素子30のとの隙間に充填されている。
【0015】
光学素子31は、第1の光学部材31Aであるガラス板と、第1の光学部材31Aの下面に配設された第2の光学部材31Bである樹脂レンズと、を有するハイブリッドレンズ素子(複合素子)である。光学素子32は、第1の光学部材32Aであるガラス板と、第1の光学部材32Aの下面に配設された第2の光学部材32Bである樹脂レンズと、を有するハイブリッドレンズ素子である。光学素子33は、ガラス板、例えば赤外線を遮断するガラスからなる赤外線カットフィルタ素子である。
【0016】
なお、断面図では、積層素子30の光学素子等を平板として図示する。また、積層された光学素子を接着している接着層は薄く、熱応力に及ぼす影響は無視できるため、図示していない。
【0017】
ハイブリッドレンズ素子は、ガラス板に、樹脂レンズ/樹脂スペーサを配設することで作製される。例えば、未硬化で液体状またはゲル状の、透明な紫外線硬化型の樹脂をガラス板に配設し、所定の内面形状の凹部のある金型を押し当てた状態で、紫外線を照射して樹脂を硬化する。樹脂レンズの外面形状は金型の内面形状が転写されるために、非球面レンズであっても容易に作製できる。
【0018】
第1の光学部材31A、31B、および、光学素子33は、例えば、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、サファイアガラスである。第2の光学部材31B、32B、封止樹脂20は、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂である。
【0019】
立体配線板10の母材は、非導電性樹脂、特に、モールド成形できるエンジニアリングプラスチックである。母材は、例えば、PA(ポリアミド)、PC(ポリカーボネート)、LCP(液晶ポリマー)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ナイロン、PPA(ポリフタルアミド)、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)、または、これらの樹脂に無機充填剤を配合した複合樹脂からなる。
【0020】
なお、光学系の構成、すなわち、光学素子(第1の光学部材/第2の光学部材)の構成(厚さ、形状)、種類、数、および積層順序は、仕様に応じて種々の変形が可能である。例えば、第1の光学部材と第2の光学部材とは、交互に配置されなくてもよい。光学素子の主面に絞りとしてパターニングされた遮光膜が配設されていてもよい。また、撮像ユニット1の外形は円柱であるが、角柱またはこれらを複合した形状であってもよい。
【0021】
シリコンを母材とする撮像素子34は、CCD等からなる受光部を有する。撮像素子34は、下面の半田39および立体配線板10のスルホール配線19を介して、駆動信号を受信し撮像信号を送信する。
【0022】
なお、撮像部品は、撮像素子34の下面に撮像信号を処理する半導体素子が積層されていてもよいし、撮像素子53の上面にカバーガラスが配設されていてもよい。
【0023】
封止樹脂20は、立体配線板10の凹部H10の壁面と積層素子30の側面との間の隙間を充填している。封止樹脂20は、積層素子30の側面を封止すると同時に、後述するように、積層素子30に生じる応力を緩和する。
【0024】
隙間の幅、言い替えれば、封止樹脂20の厚さDは、積層素子30に生じる応力を緩和するために、所定超の厚さを有していることが望ましい。このため、隙間の幅は、例えば、100μm-800μmが好ましい。
【0025】
なお、積層素子30の側面から外光が進入するのを防止するため、封止樹脂20は、遮光粒子を含んでいることなどにより、遮光性を有することが好ましい。
【0026】
撮像ユニット1は、以下の表1に示すように、積層素子30の複数の構成部材の弾性率Eおよび熱膨張率αが所定の条件を満たしている。弾性率Eは、JIS K7113に準拠して測定された引張弾性率(25℃)である。熱膨張率は、JIS K7197、JIS R3251、JIS Z 2285に準拠して測定された線膨張率である。
【0027】
【0028】
すなわち、第2の光学部材31B、32Bである樹脂の弾性率E2は、第1の光学部材であるガラス板の弾性率E1および撮像素子34の弾性率E3未満であり、封止樹脂20の弾性率E4以上である。さらに、封止樹脂20の熱膨張率α4は、第1の光学部材であるガラス板31A、32A、33の熱膨張率α1および撮像素子34の熱膨張率α3超であり、第2の光学部材31B、32Bである樹脂レンズの熱膨張率α2未満である。
【0029】
例えば、熱膨張率α1は、5ppm/K-10ppm/Kであり、弾性率E1は70GPa-100GPaである。熱膨張率α2は、60ppm/K-100ppm/Kであり、弾性率E2は、2.6GPa-10GPaである。なお、例えば、「X1-X2」は、「X1超X2未満」を示している。
【0030】
なお、立体配線板10の母材である、例えば、PEEK樹脂は、熱膨張率αが18ppm/K-26ppm/K、弾性率Eが10-20GPaである。半田39は、熱膨張率αが、20ppm/K-30ppm/K、弾性率Eが50GPa-100GPaである。
【0031】
撮像ユニット1では、積層素子30と立体配線板10の隙間に封止樹脂20が充填されている。このために、撮像ユニット1に衝撃等の機械的負荷が作用した際、封止樹脂20も負荷を受けるため、積層素子30への応力が緩和されている。
【0032】
また、外部温度変化および駆動に伴い撮像ユニット1に温度変化が生じると、積層素子30には、第1の光学部材31A、32A、第2の光学部材31B、32B、および、撮像素子34の熱膨張率に差があるため、熱ひずみが生じる。しかし、撮像ユニット1では、積層素子30(第1の光学部材31A、32A、第2の光学部材31B、32B、撮像素子34)よりも弾性率が小さい封止樹脂20が変形し応力を吸収するために、積層素子30に発生する応力が緩和されている。
【0033】
封止樹脂20は、積層素子30を保護するために、熱膨張率α4が、45ppm/K-80ppm/Kであり、弾性率E4が、1.0GPa-2.5GPaであることが好ましい。
【0034】
なお、積層素子30における第1の光学部材の専有率(光軸方向の厚さの合計)は、第2の光学部材の専有率よりも小さいことが、熱膨張によるひずみが小さいため、好ましい。
【0035】
<第1実施形態の変形例>
図3に示す変形例の撮像ユニット1Aは、撮像ユニット1と類似し同じ効果を有するため、同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0036】
撮像ユニット1Aの積層素子30Aでは、光学素子32は、第1の光学部材32Aであるガラス板と、第1の光学部材32Aの上面に配設された第2の光学部材32Cである樹脂レンズと、下面に配設された第2の光学部材32Bである樹脂レンズおよび樹脂スペーサと、を有するハイブリッドレンズ素子である。
【0037】
撮像ユニット1Aでは、立体配線板10Aの凹部H10Aは、開口の面積が底面の面積よりも広い。すなわち、凹部H10Aの壁面は上面10SAに対して垂直ではなく傾斜している。前述したように、外部温度変化および駆動によって、撮像ユニットに温度変化が生じると、積層素子には熱ひずみが発生する。積層素子では積層された各光学部材に生じるひずみは累積する。積層素子は下部の撮像素子34が、凹部H10の底面に固定されているため、上部ほど熱ひずみが大きくなる。
【0038】
弾性率が小さい封止樹脂20の変形による応力緩和効果は封止樹脂20の厚さDが厚いほど大きい。撮像ユニット1Aでは、立体配線板10Aの凹部H10Aが、底面から開口に近づくにつれて断面積が広くなっているため、封止樹脂20の厚さDは、底面から開口に近づくにつれてより厚くなる。熱ひずみの大きさに対応して、封止樹脂の厚さDが変化しているため、撮像ユニット1Aは、撮像ユニット1よりも信頼性が高い。
【0039】
凹部H10Aの壁面の傾斜角度θは、例えば、1度超5度未満程度が望ましい。傾斜角度θが前記範囲超であれば、封止樹脂20による応力緩和効果が顕著である。傾斜角度θが前記範囲未満であれば、撮像ユニットの光軸直交方向の寸法の増加が小さい。
【0040】
<第2実施形態>
図4に示す本実施形態の内視鏡9は、挿入部91と、操作部92と、ユニバーサルコード93と、内視鏡コネクタ94と、を具備する。
【0041】
細長管形状の挿入部91は、生体の体腔内に挿入される。挿入部91は、先端側から順に先端部91A、湾曲部91B、可撓管91Cが連設されており、全体として可撓性を備えている。
【0042】
先端部91Aは、内部に各種のユニットを有する硬質部材91A1を有している。各種のユニットは、撮像ユニット1、1Aト、処置具挿通チャンネル、照明ユニット等である。
【0043】
湾曲部91Bは、湾曲操作を行うための操作部92の湾曲ノブの回動操作に応じて、上下左右方向へと湾曲する。
【0044】
可撓管91Cは、受動的に可撓自在である柔軟性を有する管状部材である。可撓管91Cの内部には、処置具挿通チャンネル、各種の電気信号線、ライトガイドファイバー束等が挿通されている。電気信号線は、先端部91Aに内蔵される撮像ユニットから延出され操作部92を経てユニバーサルコード93へと延設される。ライトガイドファイバー束は、外部機器である光源装置からの光を先端部91Aの先端面へと導光する。
【0045】
操作部92は、挿入部91の基端部に連設されており、複数の操作部材等を有する。ユニバーサルコード93は、可撓性を有し、操作部92から延出する管状部材である。内視鏡コネクタ94は、ユニバーサルコード93と、外部機器とを接続するための接続部材である。
【0046】
内視鏡9は、挿入部91の先端部91Aに配設された撮像ユニット1、1Aを具備する。すでに説明したように、撮像ユニット1、1Aは、信頼性が高いため、内視鏡9は信頼性が高い。
【0047】
内視鏡は、挿入部が軟性の軟性鏡でも、挿入部が硬性の硬性鏡でもよい。また内視鏡の用途は、医療用でも工業用でもよい。
【0048】
本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更、組み合わせおよび応用が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1、1A・・・撮像ユニット
9・・・内視鏡
10・・・立体配線板
19・・・スルホール配線
20・・・封止樹脂
30・・・積層素子
31、32、33・・・光学素子
31A、32A・・・第1の光学部材
31B、32B・・・第2の光学部材
34・・・撮像素子
39・・・半田