(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】赤外線センサおよび光検出方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20240709BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H01L31/10 A
G01J1/02 B
G01J1/02 C
(21)【出願番号】P 2019050852
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2022-02-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】深津 公良
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108831879(CN,A)
【文献】国際公開第2014/192876(WO,A1)
【文献】特開2011-211019(JP,A)
【文献】特開2014-116741(JP,A)
【文献】特開2016-052095(JP,A)
【文献】特開2000-188424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/08-31/119
G01J 1/02-1/08
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長域の赤外線を吸収する第1赤外線吸収層と、
前記第1赤外線吸収層に積層され、前記第1波長域より長い波長域である第2波長域の赤外線を吸収する第2赤外線吸収層と、
前記第1赤外線吸収層と前記第2赤外線吸収層との間に形成されている緩和層とを備え、
前記第1赤外線吸収層の電極と前記第2赤外線吸収層の電極が、前記第1赤外線吸収層と、前記第2赤外線吸収層のうち一方を選択するスイッチ素子を備える回路に接続され、
前記回路は、前記第1赤外線吸収層の第1の電極および前記第2赤外線吸収層の第1の電極にそれぞれ接続された前記スイッチ素子を、1フレームに相当する時間のうち、所定の割合に応じた時間で前記スイッチ素子を切り替えて、前記第1赤外線吸収層と、前記第2赤外線吸収層に生じた光電流を、前記第1赤外線吸収層の第2の電極および前記第2赤外線吸収層の第2の電極が互いに接続された共通電極を介して読み出し、
前記1フレームに相当する時間は、2次元のアレイ状に並べられた素子であり、前記第1赤外線吸収層、前記第2赤外線吸収層および前記緩和層を有する前記素子から、読出し回路が信号を読み出し、読み出した前記信号を合成して赤外線画像を生成する際に、前記赤外線画像1フレーム分の前記信号を読み出す時間であることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項2】
前記第1波長域および前記第2波長域の赤外線を透過する基板をさらに備え、
前記第1赤外線吸収層は、前記第2赤外線吸収層よりも前記基板側に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の赤外線センサ。
【請求項3】
前記第1赤外線吸収層は、前記基板と格子整合する材料で形成され、前記第2赤外線吸収層は、前記緩和層と格子整合する材料で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の赤外線センサ。
【請求項4】
前記第2赤外線吸収層に隣接する層のうち、一方の層は、n型導電層であり、もう一方の層は、p型導電層であることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の赤外線センサ。
【請求項5】
前記第1赤外線吸収層と前記第2赤外線吸収層は、前記第1赤外線吸収層と前記第2赤外線吸収層の間に積層された層を介して互いに導通していることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の赤外線センサ。
【請求項6】
前記第1赤外線吸収層と、前記第2赤外線吸収層の間に、PN接合部を有する障壁層をさらに備えることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の赤外線センサ。
【請求項7】
第1波長域および前記第1波長域よりも長い波長域である第2波長域の赤外線を含む光を入射光として入射し、
前記第1波長域の赤外線を吸収する第1赤外線吸収層において、前記第1波長域の赤外線を第1光電流に変換し、
前記第1赤外線吸収層を透過した前記入射光のうち、前記第2波長域の赤外線を、前記第1赤外線吸収層に緩和層を介して積層され、前記第2波長域の赤外線を吸収する第2赤外線吸収層において第2光電流に変換し、
前記第1光電流および前記第2光電流を、前記第1赤外線吸収層の第2の電極および前記第2赤外線吸収層の第2の電極が互いに接続された共通電極を介して、前記第1赤外線吸収層と、前記第2赤外線吸収層のうち一方を選択するスイッチ素子を備える回路に出力し、
前記回路によって、前記第1赤外線吸収層の第1の電極および前記第2赤外線吸収層の第
1の電極にそれぞれ接続された前記スイッチ素子を、1フレームに相当する時間のうち、所定の割合に応じた時間で切り替えて、前記第1赤外線吸収層と、前記第2赤外線吸収層に生じた光電流を、前記共通電極を介して読み出し、
前記1フレームに相当する時間は、2次元のアレイ状に並べられた素子であり、前記第1赤外線吸収層、前記第2赤外線吸収層および前記緩和層を有する前記素子から、読出し回路が信号を読み出し、読み出した前記信号を合成して赤外線画像を生成する際に、前記赤外線画像1フレーム分の前記信号を読み出す時間であることを特徴とする光検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線センサに関するものであり、特に、複数の波長域の検出を行う赤外線センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線カメラは、可視光にない特徴を生かして、サーモグラフィーなどの熱分布の測定、画像化などに使われている。赤外線カメラに用いるセンサ素子として、ボロメータなど赤外線を受けて発熱した温度変化を電気的な信号に変換することを利用した赤外線センサが幅広く使われている。
【0003】
赤外線センサに用いるボロメータ素子を高密度にアレイ化することで、高解像、高分解能化が急速に進んでいる。また、ボロメータにかわるセンサ素子として、量子型の赤外線センサが注目されている。量子型の赤外線センサは、ボロメータと比べて、熱雑音の影響が大きいため冷却して用いる必要があるが、感度、応答速度が優れている。また、量子型の赤外線センサは、センサ部の構造を変えることで感知できる波長域が異なるように設計することができる。
【0004】
そのような量子型の赤外線センサには、材料にテルル化カドミウム水銀(Mercury cadmium telluride;MCT)を使ったものと、3族-5族半導体を使ったものがある。3族の半導体には、例えば、InやGa、5族の半導体にはAsやSbなどがそれぞれ用いられる。MCTを用いた量子型の赤外線センサには、赤外線を受光すると素子の電気伝導率が増加する光電導効果を使ったものがある。また、3族-5族半導体を使った量子型の赤外線センサには、赤外線の光エネルギーを直接電流に変換する光起電力を使ったものがある。これらの量子型の赤外線センサは、光を吸収する化合物の組成を変えることで感度を有する波長を変えることができる。
【0005】
赤外線は、波長域によって近赤外線、中赤外線および遠赤外線に分類することができる。赤外線のうち近赤外線は、波長が0.8μm~3μm、中赤外線は、波長が3μm~6μm、遠赤外線は、波長が6μm以上の赤外線を示すことが多い。
【0006】
室温から人の体温付近の温度の物体の観測であれば、波長が8μm以上の遠赤外線が使われる。また、それよりも高温の物体の温度分布の識別や、大気の吸収が少ない特長を生かして遠くの物体を撮像するためには、中赤外線のセンサが使われる。中赤外線よりも波長が短い近赤外線は、可視に近い特徴を生かして、夜間などに外部照明を使っての撮像に使われる。また、このような物体の温度分布の識別だけではなく、例えば、有機物の吸収を利用した組成分析などにも赤外線が使われることがあり、赤外線センサは、センシングデバイスとして広く用いることができる。
【0007】
単一の波長域だけではなく、異なる波長域、すなわち中赤外線と遠赤外線など、2つ以上の領域を同時に観察することでより多くの情報を得ることができる。しかし、そのような場合に、赤外線センサを撮像したい対象物や状況に応じて、波長ごとに使い分けする必要があった。そのため、2つ以上の波長域で感度を有しつつ、安定した検出特性を有する赤外線センサがあることが望ましく関連する技術の開発が行われている。そのような、複数の波長域を撮像できる素子としては、例えば、特許文献1のような赤外線センサ素子が開示されている。
【0008】
特許文献1の赤外線センサは、第1の吸収層である中赤外線用の光吸収層と、第2の吸収層である遠赤外線用の光吸収層を積層した構造を備えている。特許文献1の赤外線センサは、第1の吸収層と第2の吸収層に印加するバイアス電圧の極性をそれぞれ逆にすることで、第1の吸収層と第2の吸収層に入射された波長域の異なる光を検出することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の技術は次のような点で十分ではない。特許文献1の赤外線線センサでは、近赤外線を検知するセンサを想定していないため、検知可能な光の波長域が用途に対して狭くなる恐れがある。特許文献1の技術において近赤外線を含むセンサを形成しようすると、第1の吸収層上に形成する第2の吸収層の結晶構造の安定性が低下し必要な感度を得られない恐れがある。そのため、特許文献1は、近赤外領域を含む場合に、異なる波長域の赤外線を精度よく検出するための技術としては十分ではない。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するため、2つの波長域の赤外線を精度よく検出することができる赤外線センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の赤外線センサは、第1赤外線吸収層と、第2赤外線吸収層と、緩和層とを備えている。第1赤外線吸収層は、第1波長域の赤外線を吸収する。第2赤外線吸収層は、第1赤外線吸収層に積層され、第1波長域より長い波長域である第2波長域の赤外線を吸収する。緩和層は、第1赤外線吸収層と第2赤外線吸収層との間に形成されている。また、第1赤外線吸収層の電極と第2赤外線吸収層の電極が回路に接続されている。
【0013】
本発明の光検出方法は、第1波長域および第1波長域よりも長い波長域である第2波長域の赤外線を含む光を入射光として入射する。本発明の光検出方法は、第1波長域の赤外線を吸収する第1赤外線吸収層において、第1波長域の赤外線を第1光電流に変換する。本発明の光検出方法は、第1赤外線吸収層を透過した入射光のうち、第2波長域の赤外線を、第1赤外線吸収層に緩和層を介して積層され、第2波長域の赤外線を吸収する第2赤外線吸収層において第2光電流に変換する。本発明の光検出方法は、第1光電流および第2光電流を、第1赤外線吸収層と第2赤外線吸収層に接続している電極を介して回路に出力する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、2つの波長域の赤外線の検出特性を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態の構成の概要を示す図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態の赤外線センサの断面図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態において赤外線吸収素子が複数、配置された状態を示す断面図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態において赤外線吸収素子がアレイ状に配置された状態を示す上面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態においてアレイ状に赤外線センサを形成した基板と回路を接続した構造を示した斜視図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態の増幅回路部の構成を示した図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態の赤外線センサの製造工程における断面図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態の赤外線センサの製造工程における断面図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態の赤外線センサの製造工程における断面図である。
【
図10】本発明の第3の実施形態の赤外線センサの断面図である。
【
図11】本発明の第3の実施形態の増幅回路部の構成を示した図である。
【
図12】本発明の第3の実施形態の赤外線センサの製造工程における断面図である。
【
図13】本発明の第3の実施形態の赤外線センサの製造工程における断面図である。
【
図14】本発明の第3の実施形態の赤外線センサの製造工程における断面図である。
【
図15】本発明の第3の実施形態における他の構成の赤外線センサを示す断面図である。
【
図16】本発明の第3の実施形態における他の構成の赤外線センサの増幅回路部の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態の赤外線センサの構成の概要を示した図である。本実施形態の赤外線センサは、第1赤外線吸収層11と、第2赤外線吸収層12と、緩和層13とを備えている。第1赤外線吸収層11は、第1波長域の赤外線を吸収する。第2赤外線吸収層12は、第1赤外線吸収層11に積層され、第1波長域より長い波長域である第2波長域の赤外線を吸収する。緩和層13は、第1赤外線吸収層と第2赤外線吸収層との間に形成されている。また、第1赤外線吸収層11の電極と第2赤外線吸収層12の電極が回路に接続されている。
【0017】
本実施形態の赤外線センサは、第1赤外線吸収層11に緩和層13を介して第2赤外線吸収層12が積層されている。そのため、第2赤外線吸収層12の第2波長域の赤外線の吸収特性を安定化させることができるので、第1波長域と第2波長域の2つの波長域の赤外線の検出特性を安定化することができる。
【0018】
(第2の実施形態)
(第2の実施形態の構造)
本発明の第2の実施形態について図を参照して詳細に説明する。
図2は、本実施形態の赤外線センサ100の構成を示す断面図である。本実施形態の赤外線センサ100は、n-InP基板101と、n-InPバッファー層102と、近赤外線吸収層103と、n-InP層104と、p-GaSbバッファー層105と、第1のバリア層106と、中赤外線吸収層107と、第2のバリア層108と、n-GaSbコンタクト層109と、中赤外線n型コンタクト電極110と、p-InP層111と、共通p型電極112と、近赤外線n型コンタクト電極113と、近赤外線n型バンプ電極114と、共通バンプ電極115と、中赤外線n型バンプ電極116と、絶縁膜117を備えている。
【0019】
本実施形態の赤外線センサ100は、近赤外線の波長域と、近赤外線よりも長波長の中赤外線の波長域の2つの波長域の赤外線を検出できることを特徴とする。以下の説明において、近赤外線は、波長が0.8μm~3μmの光のことをいい、中赤外線は、波長が3μm~6μmの光のことをいう。
【0020】
本実施形態の赤外線センサ100の構成について説明する。
【0021】
n-InP基板101は、n-InPを用いて形成され、赤外線センサ100の基材となる化合物半導体基板である。InPは、測定対象となる近赤外線および中赤外線の波長域の赤外線を透過する。InPは、バンドギャップが1.35eVと大きいため、検出対象の近赤外線を含め赤外領域の赤外線を透過する。
【0022】
中赤外線のみを検出する赤外線センサには、GaSb基板など使われるが、GaSbのバンドギャップは、0.67eV程度でありInPのバンドギャップよりも小さい。0.67eVのバンドギャップは、波長に換算すると1.85μmである。そのため、GaSbなどを用いた基板は、近赤外線の波長域の赤外線を吸収し、基板上に形成された赤外線吸収層まで検出対象となる近赤外線が到達しない。よって、近赤外線を測定対象とする赤外線センサには、近赤外線の波長域の赤外線を全て透過するn-InP基板が適している。また、中赤外線吸収層よりも基板に近い層に近赤外線の吸収層を設けるため、近赤外線吸収層の材質と格子整合し、近赤外線吸収層の結晶成長が行いやすいInPが基板の材質として適している。
【0023】
n-InPバッファー層102は、n-InP基板101上に形成され、InPにSiがドーピングされたバッファー層である。
【0024】
近赤外線吸収層103は、近赤外線の波長域の赤外線を吸収し光電流を生じさせる。また、近赤外線吸収層103は、近赤外線の波長域よりも長い波長域の中赤外線や遠赤外線を透過する。近赤外線吸収層103は、n-InPバッファー層102上に形成されている。近赤外線吸収層103は、InPに格子整合したInGaAs、歪みInGaAs、または、InGaAs/GaAsSbを数nm単位で繰り返す超格子型、特に、タイプ2型を用いて形成されている。近赤外線吸収層103の材料系は、検出対象の近赤外線の波長域の設計に基づいて選択される。InGaAsは、波長が1.6μmまでの近赤外線のみに感度を有し、近赤外線のみを検出することができる。また、InGaAsはバンドギャップが広いため、暗電流が小さく、近赤外線を検出する際のノイズを減らすことができる。
【0025】
近赤外線吸収層が吸収する光の長波長化は、InGaAsの3族のIn組成を増やすことでバンドギャップを小さくし、長波長まで吸収できるようにすることで行われる。また、InGaAs/GaAsSbのタイプ2型超格子を用いることで、近赤外線吸収層103が感度を有する波長は、2.5μm程度まで拡大する。そのような構成とするとき、InGaAsの組成は、In0.4乃至0.6Ga0.6乃至0.4As、GaAsSbの組成は、GaAs0.4乃至0.6Sb0.6乃至0.4の範囲でそれぞれ設定される。また、井戸幅を示す超格子を形成するInGaAsおよびGaAsSbの各層のそれぞれの膜厚は、3nmから7nmとなるように設定される。井戸幅と感度およびカットオフ波長は、トレードオフの関係である。各層のInPに対して格子歪みが大きくなると、結晶性の低下によって暗電流が増加し、雑音が増加する。また、各層のInPに対して格子歪みが大きくなると、結晶成長中に貫通転位が生じることで信頼性の低下が生じ得る。そのため、各層は、InPの格子定数の差が1%以下となるような組成にすることが望ましい。
【0026】
n-InP層104は、近赤外線吸収層103上に形成されている。n-InP層104は、n-InPで形成されている。n-InP層104の一部は、Zn拡散法で選択的にp型化されてp-InP層111として用いられる。n-InP層104の膜厚は、Zn拡散時の制御性や上層のバッファー層による赤外線吸収層の歪みの影響を考慮すると、500nm以上であることが望ましい。
【0027】
p-GaSbバッファー層105は、n-InP層104上にバッファー層としてp型GaSbを用いて形成されている。p-GaSbバッファー層105は、中赤外線吸収層を形成する際に、下層の結晶構造から受ける影響を緩和し安定した結晶を形成するための緩和層としての機能を有する。すなわち、p-GaSbバッファー層105は、InPよりも格子定数が大きい中赤外線吸収層107を形成する際に、中赤外線吸収層107の格子定数へ移行するための緩和層としての機能を有する。そのため、p-GaSbバッファー層105は、中赤外線吸収層107と、格子定数が同等のp-GaSbを用いて形成されている。p型GaSb層は、3μmから5μmの膜厚で形成されている。バッファー層が薄いと、中赤外線層の吸収層に欠陥が生じ、感度の低下やノイズ増大が生じ得る。また、バッファー層が厚すぎると結晶成長工程の時間が長くなることによって生産性が低下し得る。また、上層の結晶品質は、バッファー層の厚さが一定以上となるとそれ以上、厚くすることによる改善効果が低くなる。
【0028】
p-GaSbバッファー層105は、中赤外線用の吸収層の格子定数と同じであるか、格子定数が近いことが望ましい。また、さらに望ましくは、p-GaSbバッファー層105と中赤外線吸収層の格子定数の差は、1パーセント以下であることが望ましい。格子定数の差が1パーセントよりも大きい場合は、p-GaSb層のバッファー層として機能が低下し、中赤外線吸収層の結晶構造が壊れるため、赤外線センサ100の中赤外線用のセンサとして機能が低下し得る。
【0029】
p-GaSbバッファー層105は、GaSb以外を用いて形成されていてもよい。バッファー層には、例えば、InAsSb、GaAsSb、InGaAsSbまたはInGaSbを用いることができる。バッファー層は、GaSbと中赤外線吸収層に用いられるInAs/GaSbの平均格子定数と近い格子定数の組成の層によって形成されることが望ましい。バッファー層を、InAs/GaSbの平均格子定数と近い格子定数の組成を用いて形成することでInAs/GaSbからなる上層の光吸収層を、格子歪の蓄積を生じさせずに多数回積層することが可能になる。
【0030】
第1のバリア層106は、p-GaSbバッファー層105上に形成されている。第1のバリア層106は、p型のInAs/AlAsの超格子を用いた50nmの膜厚の層として形成されている。中赤外線吸収層を構成しているInAs/GaSbの超格子では、ミニバンドが形成され、中赤外線の光が吸収される。しかし、InAs/GaSbの超格子による吸収層は、バンドギャップが狭いため暗電流が流れやすい。暗電流は雑音となるため、センサを高感度化するためには、暗電流を低減することが必要である。また、暗電流を抑制する際に、吸収した光電流の流れを阻害しないことも要求される。光電流の流れを阻害せずに、暗電流を抑制することができる吸収層は、吸収層を価電子帯と伝導帯に障壁がある組成のバリア層によって挟むことで形成することができる。そのような構成とする場合に、吸収層は、電子の流れを阻害するように伝導帯に障壁を有するp型導電層によるバリア層と、正孔の流れを阻害するように価電子帯に障壁を有するn型導電層によるバリア層によって挟まれている構成とする。本実施形態の第1のバリア層106は、p型層として形成されているため、伝導帯に障壁を有している。
【0031】
中赤外線吸収層107は、中赤外線を検知する層である。本実施形態の中赤外線吸収層107は、InAs/GaSbの超格子層として形成されている。中赤外線吸収層107は、GaSbと格子定数が近く、設計のしやすいInAs/GaSbの超格子層は、安定した結晶構造を得やすいため中赤外線の吸収層として適している。中赤外線吸収層107をInAs/GaSbの超格子層の薄膜の各層を形成する際に、各層の結晶構造は、下地の結晶構造の影響を受けやすい。そのため、格子定数の近いバッファー層を下層に有することによる超格子層を形成する際の結晶構造の安定化の効果は特に高くなる。
【0032】
InAs/GaSbの各層の膜厚の設計は、中赤外線のセンサに適した吸収波長になるように行われる。中赤外線吸収層107の全体の厚さは、2μmから5μmで設定される。各吸収層が2μmよりも薄いと、赤外線の吸収が少ないことによって充分な感度が得られない。また、吸収層が5μm以上では、結晶品質が低下し、ノイズの増加や信頼性の低下が生じやすい。
【0033】
第2のバリア層108は、中赤外線吸収層107の上層に形成されている。本実施形態の第2のバリア層108は、GaAs/AlAsを用いた50nmの層として形成されている。本実施形態の第2のバリア層108は、n型の導電層として形成され価電子帯に障壁を有する。
【0034】
n-GaSbコンタクト層109は、中赤外線吸収層107の中赤外線n型コンタクト電極110を形成するためのコンタクト層として形成されている。本実施形態のn-GaSbコンタクト層109は、n-GaSbを用いて形成されている。
【0035】
中赤外線n型コンタクト電極110は、n-GaSbコンタクト層109上に形成されている。中赤外線n型コンタクト電極110は、中赤外線吸収層107に生じた光電流に応じた信号を回路に読み出す電極として形成されている。中赤外線n型コンタクト電極110は、例えば、Auで形成されている。中赤外線n型コンタクト電極110は、下層とオーミックな接触ができる材料であれば他の金属や合金で形成されていてもよい。
【0036】
p-InP層111は、n-InP層をZn拡散法によってp型導電層とした層である。p型ドーパントには、ZnやBeを用いることができる。近赤外線センサのノイズ低減のためには、吸収層の不純物濃度を1014 atom/cm3以下にすることが望ましい。Znは、高温化でInPを拡散しやすい特徴を有する。そのため、Znは、層を結晶成長で形成する工程では入れることはできない。そのため、Zn化合物をn-InP層上に形成し、熱工程でn-InP層へ拡散することでp-InP層111が形成される。このように、p-InP層111を形成することで、近赤外線吸収層103への不純物の拡散を抑止し、近赤外線吸収層103の不純物の濃度を低減することができる。
【0037】
共通p型電極112は、近赤外線吸収層103と、中赤外線吸収層107のp型の電極である。共通p型電極112は、例えば、Auを用いて形成されている。共通p型電極112は、下層とオーミックな接触ができる材料であれば他の金属や合金で形成されていてもよい。共通p型電極112は、画素ごとに形成されるが、近赤外線素子と中赤外線素子のp型電極を共通化することで電極および画素数は、近赤外線素子または中赤外線素子のみである場合と同じになる。一方で、p型電極が共通化しているため、近赤外線素子と中赤外線素子から同時に光電流を読み出すことはできない。また、以下の説明において、近赤外線素子とは、近赤外線吸収層103、近赤外線吸収層103と隣接する各層および電極等で形成される1画素分の近赤外線の検出部位のことをいう。また、中赤外線素子とは、中赤外線吸収層107、中赤外線吸収層107と隣接する各層および引き出し電極等で形成される1画素分の中赤外線の検出部位のことをいう。
【0038】
近赤外線n型コンタクト電極113は、近赤外線素子のn型電極を接続するコンタクト電極として形成されている。近赤外線n型コンタクト電極113は、例えば、Auを用いて形成されている。近赤外線n型コンタクト電極113は、下層とオーミックな接触ができる材料であれば他の金属や合金で形成されていてもよい。共通pn型電極は、近赤外線素子用と中赤外線素子用にそれぞれ形成されている。近赤外線n型コンタクト電極113は、複数の近赤外線素子に共通の電極として形成されている。n型電極は、画素ごとではなく所定の画素数ごと形成すればよいため、集積化を行っても電極数が大幅に増加することはない。
【0039】
近赤外線n型バンプ電極114は、近赤外線n型コンタクト電極113上に形成され、近赤外線素子のn型電極をROIC(Read Out Integrated Circuit)と接続する。ROICは、画素信号を増幅して、数チャネルの画像信号として出力する機能を有する集積回路である。
【0040】
共通バンプ電極115は、共通p型電極112上に形成され、近赤外線素子と中赤外線素子の共通電極として形成されているp型電極をROICと接続する。
【0041】
中赤外線n型バンプ電極116は、中赤外線n型コンタクト電極110上に形成され、中赤外線のn型電極をROICと接続する。また、各バンプ電極には、例えば、Inを用いたバンプが用いられる。バンプは、In以外の金属や合金であってもよい。
【0042】
絶縁膜117は、メサ加工後の側面および表面の保護を行う保護膜、並びに各電極間を絶縁する絶縁膜として形成されている。本実施形態の絶縁膜117は、シリコン窒化膜を用いて形成されている。絶縁膜117は、保護膜および絶縁膜としての機能を有するものであれば、シリコン酸化膜等の他の材質で形成されていてもよい。
【0043】
図3は、
図2に示した赤外線センサ100において、3画素分の近赤外線素子および中赤外線素子が形成されている構造を示した断面図である。また、
図4は、
図2の赤外線センサ100の近赤外線素子および中赤外線素子をアレイ状に配列した際の上面図である。
図4は、4画素×3画素分の近赤外線素子および中赤外線素子が配列されている赤外線センサ100を示している。本実施形態の赤外線センサ100は、例えば、320画素×256画素や640画素×512画素のように、各画素に対応する素子が2次元のアレイ状に並べることで画像センサとして用いられる。赤外線センサ100の読み出し回路は、各画素に対応する近赤外線素子および中赤外線素子に接続された回路を介して各センサ素子に生じた光電流を読み出す。赤外線センサ100からデータを取得した画像処理回路等は、各画素の近赤外線素子および中赤外線素子に生じた電流値に応じた階調表現を行うことで画像を構成することができる。
【0044】
図3および
図4の赤外線センサ100では、近赤外線素子と中赤外線素子のn型電極は、共通電極として形成されている。
図3では、近赤外線素子のn型電極は、図の左側に近赤外線n型コンタクト電極113として形成され、上層の近赤外線n型バンプ電極114と接続している。また、
図4の赤外線センサ100において、中赤外線素子のn型電極は、中赤外線n型バンプ電極116の下層に形成されている。すなわち、
図4の例において、近赤外線素子のn型電極は、図の横方向の画素間で共通の電極として形成され、中赤外線素子のn型電極は、図の縦方向の画素間で共通の電極として形成されている。また、
図4の例では、各画素を格子状に配列しているが、画素の配列は、格子形状以外であってもよい。また、近赤外線素子と中赤外線素子の数は同数でなくてもよく、近赤外線素子および中赤外線素子は、赤外線センサ100の用途に応じた解像度やセンサ特性を満たすように配置される。
【0045】
近赤外線素子のn型電極は、n-InP基板101を介して各近赤外線素子と接続している。中赤外線素子のn型電極は、各画素の中赤外線素子ごとに形成された中赤外線n型コンタクト電極110をブリッジ部125で接続することで共通電極として形成されている。
【0046】
図5は、アレイ状に近赤外線素子および中赤外線素子を形成した基板と回路を接続した構造を示した斜視図である。
図5の赤外線センサは、同一の基板201上に近赤外線素子203および中赤外線素子207が形成されている。また、各素子が形成された基板201は、バンプ電極214を介して読み出し回路218と接続されている。また、読み出し回路218には、近赤外線素子203と中赤外線素子207のいずれかから光電流を読み出すスイッチ素子を含む増幅回路部が形成されている。
【0047】
図6は、読み出し回路218に形成されている増幅回路部の例を示した図である。
図6の増幅回路部はCTIA(Capacitive Transimpedance Amplifier)型の増幅回路として形成されている。増幅回路は、CTIA型以外の回路であってもよい。
図6の増幅回路部は、基板201上に形成された近赤外線素子301および中赤外線素子302に接続されている。また、増幅回路部には近赤外線素子301に対応する近赤外線スイッチ304と、中赤外線素子302に対応する中赤外線スイッチ305と、増幅器303が形成されている。
【0048】
増幅回路部は、近赤外線素子301および中赤外線素子302の共通のp型電極に接続されている。そのため、スイッチ素子は、近赤外線素子301と中赤外線素子302の信号を分けるために、近赤外線スイッチ304または中赤外線スイッチ305のいずれかがON状態、もう一方がOFF状態となるように制御される。
【0049】
赤外線画像を生成する際に1フレームに相当する時間のうち、あらかじめ設定された割合に応じた時間、それぞれのスイッチ素子がON状態となるように、スイッチ素子の制御が行われる。例えば、1:1と設定されているとき、0.5フレーム分の時間、近赤外線スイッチ304をON状態、中赤外線スイッチ305をOFF状態とし、近赤外線素子301からの信号の読み出しが行われる。0.5フレーム分の時間が経過すると、残りの0.5フレーム分の時間、近赤外線スイッチ304をOFF状態、中赤外線スイッチ305をON状態とし、中赤外線素子302からの信号の読み出しが行われる。読み出し回路は、近赤外線素子301と中赤外線素子302からそれぞれ読み出した信号を合成し、画像データを生成する。また、1フレームを分割する割合は、検出対象の物体や目的に合わせて設定される。
【0050】
上記の説明では、近赤外線と中赤外線の2つの波長域に検出感度を有する赤外線センサについて示したが、近赤外線と遠赤外線、近赤外線と中赤外線から遠赤外線の波長域など他の波長域を組み合わせた赤外線センサであってもよい。また、遠赤外線とは、波長が6μm以上の赤外線を示す。
【0051】
近赤外線と中赤外線の波長域の赤外線センサとする場合でも、近赤外線素子と中赤外線素子がそれぞれ検出する波長域が低波長側または長波長側にシフトした構成であってもよい。そのような構成とする場合には、各赤外線吸収層の組成を変更し、バンドギャップを調整することで検出対象となる波長域が設定される。すなわち、検出対象の赤外線のうち短波長側を第1波長域、第1波長域よりも長波長側を第2波長域としたとき、第1波長域の赤外線を吸収する第1赤外線吸収層と第2波長域の赤外線を吸収する第2赤外線吸収層が、本実施形態の近赤外線吸収層103と中赤外線吸収層107のように積層されていればよい。
【0052】
(第2の実施形態の赤外線センサの製造方法)
本実施形態の赤外線センサの製造方法について説明する。本実施形態の赤外線センサの製造工程は、主に、n-InP基板101上に形成る各層の結晶成長工程、半導体層の形成工程および読み出し回路とのバンプ実装工程からなる。
図7は、赤外線センサの製造時に、n-InP基板101上への各層の成膜が行われた状態を示す断面図である。また、
図8は、エッチングやドーパントの拡散等によって半導体層が形成された状態を示す断面図である。また、
図9は、読み出し回路とのバンプ実装が行われた状態を示す断面図である。
【0053】
始めに、酸や有機系溶剤を用いた洗浄により、n型のInP基板であるn-InP基板101の表面の酸化膜および汚れが除去される。洗浄が終わると、n-InP基板101上に、n-InPバッファー層102が形成される。n-InPバッファー層102は、300nmから500nmの膜厚のn-InP層として形成される。n-InP層は、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法によって、InPをエピタキシャル成長させ、Siをドーピングすることで形成される。InPの成膜は、例えば、約600℃のチャンバー中でPH3とTMIn (Trimethyl Indium) などの5族のガスと3族の有機金属を供給することで行われる。ドーパントには、例えば、SiH4が用いられる。
【0054】
n-InPバッファー層102が形成されると、n-InPバッファー層102のn-InP上に近赤外線吸収層103が形成される。近赤外線吸収層103は、AsH3とTMGaを用いてMOVPE法によって成膜される。
【0055】
近赤外線吸収層103が形成されると、近赤外線吸収層103の上層にn-InP層104が形成される。n-InP層104は、MOVPE法によって300nmから500nmの膜厚のn-InP、100nmの膜厚のn-GaAsおよび50nmの膜厚のn-InPで成膜することで形成される。
【0056】
n-InP層104が形成されると、基板は、MBE装置に搬入される。MBE装置の搬入前に、n-InP層104の表面の洗浄を行ってもよい。MBE装置に搬入されると、n-InP層104上にp-GaSbバッファー層105が形成される。p-GaSbバッファー層105は、加熱処理による表面の自然酸化膜の除去後に、500℃でBeドープのp-GaSbを4μm、BeドープのInAdSbを1μm成膜することで形成される。
【0057】
p-GaSbバッファー層105が形成されると、p-GaSbバッファー層105上に第1のバリア層106が形成される。第1のバリア層106は、InAs/AlAsの超格子を50nmの膜厚で成膜することで形成される。
【0058】
第1のバリア層106が形成されると、第1のバリア層106の上に、中赤外線吸収層107が形成される。中赤外線吸収層107は、InAs/GaSb層が繰り返し形成され、総膜厚が5μmの層として形成される。
【0059】
中赤外線吸収層107が形成されると、中赤外線吸収層107の上に第2のバリア層108が形成される。第2のバリア層108は、50nmの膜厚のGaAs/AlAsを成膜した後、50nmの膜厚のTeドープGaSbを成膜することで形成される。
【0060】
第2のバリア層108が形成されると、n-InP基板101は、MBE装置から取り出される。n-InP基板101がMBE装置から取り出されると、中赤外線受光層のメサの形成が行われる。メサは、フォトリソグラフィ法にパターニングを行った後にエッチングおよび洗浄処理を行うことで形成される。
【0061】
メサの形成が終わると、Zn拡散に用いるZnOが成膜され、拡散する領域に合わせたZnOのパターニングが行われる。ZnOのパターニングが完了すると、Znの拡散処理のため、n-InP基板101は、加熱炉に挿入され、500℃のN2雰囲下で30分から1時間程度、加熱される。
【0062】
Znの拡散処理が終わると、n-InP基板101は、加熱炉から取り出され、表面に絶縁膜117として用いるシリコン窒化膜が形成される。
【0063】
シリコン窒化膜が形成されると、シリコン窒化膜のパターニングが行われ、各コンタクト電極として、近赤外線n型コンタクト電極113、共通p型電極112、中赤外線n型コンタクト電極110が形成される。各コンタクト電極は、下層とオーミックコンタクトがとれる金属を用いて蒸着法により形成する。
【0064】
コンタクト電極が形成されると、近赤外線n型バンプ電極114、共通バンプ電極115および中赤外線n型バンプ電極116に用いる金属がめっきまたは蒸着法で形成される。バンプが形成されると熱処理が施された後、ROICとのバンプ接合が行われる。バンプ接合が完了すると、アンダーフィルが充填され赤外線センサが完成する。
【0065】
(第2の実施形態の赤外線センサの動作)
本実施形態の赤外線センサ100の動作について説明する。観測対象からの赤外線の波長域の光がn-InP基板101側から入射する。n-InP基板101に入射した近赤外線および中赤外線の波長域の光は、n-InP基板101を透過し、n-InPバッファー層102を介して、近赤外線吸収層103に入射する。
【0066】
近赤外線吸収層103に光が入射すると、近赤外線の波長域の赤外線が近赤外線吸収層103において吸収される。近赤外線の波長域の赤外線が近赤外線吸収層103において吸収されると、光電流が発生する。
【0067】
中赤外線の波長域の赤外線は、近赤外線吸収層103を透過し、n-InP層104、p-GaSbバッファー層105および第1のバリア層106を介して、中赤外線吸収層107に入射する。中赤外線吸収層107に光が入射すると、中赤外線の波長域の赤外線が中赤外線吸収層107において吸収される。中赤外線の波長域の赤外線が中赤外線吸収層107において吸収されると、光電流が発生する。
【0068】
読み出し回路は、スイッチ素子を制御し、近赤外線吸収層103と中赤外線吸収層107に生じた光電流を時分割で読み出し、読み出した信号を増幅する。読み出し回路は、各画素に対応する近赤外線素子301と中赤外線素子302からそれぞれ読み出した信号を合成し、画像データを生成する。
【0069】
(第2の実施形態の効果)
本実施形態の赤外線センサ100は、近赤外線素子と中赤外線素子のモノリシック集積赤外線センサであり、赤外線の中でも、近赤外線と中赤外線を別々に画像化できることに特徴を有する。本実施形態の赤外線センサ100は、n-InP基板101上に形成され、n-InP基板101側に近赤外線素子、近赤外線素子層の次に中赤外線素子が順に形成された構造を有する。
【0070】
n-InP基板を用いた化合物半導体基板では、InPのバンドギャップに相当する1.4eV以上、すなわち、0.9μm以下の波長の光がn-InP基板101で吸収される。そのため、可視光領域の光は、n-InP基板101で吸収され、近赤外線吸収層103には入射されない。
【0071】
n-InP基板101を透過した光のうち、0.9μm以上の波長の光は、近赤外線吸収層103に到達する。近赤外線吸収層103では、n-InP基板101を透過した0.9μm以上の波長のうち、近赤外線の波長域を含む近赤外線吸収層103のバンドギャップに相当する波長の赤外線までが吸収される。そのため、本実施形態の赤外線センサ100の近赤外線吸収層103は、近赤外線用のセンサ素子として機能する。
【0072】
また、近赤外線吸収層103を透過した赤外線は、p-GaSbバッファー層105を介して中赤外線吸収層107に入射される。本実施形態のp-GaSbバッファー層105は、GaSb等で形成されている。GaSbのバンドギャップは、近赤外線を吸収するバンドギャップに相当する。そのため、近赤外線吸収層103で吸収しきれずに透過した近赤外線の波長域の赤外線は、p-GaSbバッファー層105で吸収される。そのため、中赤外線吸収層107に、近赤外線の波長域の赤外線は入射せずに、長波長側の中赤外線と中赤外線よりも長波長の光のみが入射する。すなわち、本実施形態の赤外線センサ100は、p-GaSbバッファー層105を通過した際の近赤外線のカットオフ波長と、中赤外線のカットオン波長が一致している。
【0073】
p-GaSbバッファー層105を透過した中赤外線と中赤外線の波長域よりも長波長側の赤外線は、中赤外線吸収層に入射される。中赤外線吸収層107は、近赤外線の波長域以下の光がカットされた光が入射され、中赤外線の波長域の赤外線のみを吸収する。そのため、本実施形態の赤外線センサ100の中赤外線吸収層107は、中赤外線用のセンサ素子として機能する。このように、本実施形態の赤外線センサ100は、近赤外線吸収層103で近赤外線を検出し、中赤外線吸収層107で中赤外線を検出する画像センサとして機能する。このように、各赤外線吸収層には、検出対象の波長域よりも低波長側の光がカットされて入射されるため、本実施形態の赤外線センサ100は、雑音を抑制して近赤外線と中赤外線を検出することができる。以上より、本実施形態の赤外線センサ100は、近赤外領域を含む異なる波長域の赤外線の検出特性を安定化することができる。
【0074】
また、本実施形態の赤外線センサ100は、近赤外線吸収層103と、中赤外線吸収層107のp型導電層が電気的に接続された共通電極を有している。p型導電層の電極を共通化することで高集積化を行っても、回路の大きさの増大を抑制することができる。また、本実施形態の赤外線センサ100は、n型導電層の電極に接続しているスイッチ素子を切り替えることで、近赤外線吸収層と、中赤外線吸収層の光電流を個別に読み出し、動画の単位フレーム内で、各吸収層それぞれの信号を個別に積分する処理を行っている。そのような処理を行ってフレーム間で信号合成することにより、近赤外線と中赤外線の画像信号を融合した画像データを生成することできる。
【0075】
(第3の実施形態)
(第3の実施形態の構成)
本発明の第3の実施形態について図を参照して詳細に説明する。
図10は、本実施形態の赤外線センサ400の構成を示す断面図である。本実施形態の赤外線センサは、n-InP基板401と、n-InPバッファー層402と、近赤外線吸収層403と、InP層404と、p-GaSbバッファー層405と、第1のバリア層406と、中赤外線吸収層407と、第2のバリア層408と、n-GaSbコンタクト層409と、中赤外線n型コンタクト電極410と、p-InP層411と、近赤外線p型コンタクト電極412と、近赤外線n型コンタクト電極413と、近赤外線n型バンプ電極414と、中赤外線n型バンプ電極416と、絶縁膜417を備えている。また、本実施形態の赤外線センサ400は、読み出し回路418と、p-InP層419と、n-InP層420と、p-InP層421と、中赤外線p型コンタクト電極422と、近赤外線p型バンプ電極423と、中赤外線p型バンプ電極424をさらに備えている。
【0076】
第2の実施形態の赤外線センサは、近赤外線素子と中赤外線素子間でp型電極を共通化していたが、本実施形態の赤外線センサ400は、近赤外線素子と中赤外線素子が電気的に分離されて、独立して信号を読み出す構成を有していることを特徴とする。
【0077】
本実施形態の赤外線センサ400の構成について説明する。
【0078】
本実施形態のn-InP基板401、n-InPバッファー層402、近赤外線吸収層403、InP層404、第1のバリア層406、中赤外線吸収層407、第2のバリア層408、n-GaSbコンタクト層409、中赤外線n型コンタクト電極410、p-InP層411、近赤外線n型コンタクト電極413、近赤外線n型バンプ電極414および中赤外線n型バンプ電極416の構成と機能は、第2の実施形態の同名称の部位と同様である。
【0079】
本実施形態のp-GaSbバッファー層405は、p-InP層421上に形成される。また、p-GaSbバッファー層405上には、中赤外線吸収層407が形成される。p-GaSbバッファー層405の材質や構成は、第2の実施形態のp-GaSbバッファー層105と同様である。
【0080】
近赤外線p型コンタクト電極412は、近赤外線吸収層403のp型の電極である。近赤外線p型コンタクト電極412は、例えば、Auを用いて形成されている。
【0081】
絶縁膜417は、各電極間を絶縁する絶縁膜である。本実施形態の赤外線センサ400では、近赤外線素子と中赤外線素子でp型電極が独立しているため、近赤外線p型コンタクト電極412と中赤外線p型コンタクト電極422の間にも絶縁膜417が形成されている。
【0082】
p-InP層419、n-InP層420およびp-InP層421は、近赤外線吸収403層の上層のInP層404上に形成されている。p-InP/n-InP/p-InP層は、ホモ接合を形成する。また、p-InP層419、n-InP層420およびp-InP層421は、近赤外線吸収層403と中赤外線吸収層407を分離状態とする構造において、半導体層間を高抵抗化するために形成されている。
【0083】
中赤外線p型コンタクト電極422は、中赤外線吸収層407のp型の電極として形成されている。
【0084】
近赤外線p型バンプ電極423は、近赤外線p型コンタクト電極412上に形成され、近赤外線素子のp型電極をROICと接続する。
【0085】
中赤外線p型バンプ電極424は、中赤外線p型コンタクト電極422上に形成され、近赤外線素子のp型電極をROICと接続する。
【0086】
本実施形態の赤外線センサ400は、近赤外線素子と中赤外線素子のp型電極間で逆バイアスとなるように、近赤外線のp型層にかかる電位と、中赤外線のp型層にかかる電位を読み出し回路で制御する。InPのホモ接合のPN接合部は、逆バイアス時でもInPの広いバンドギャップによって、トンネル電流や、熱的に励起された暗電流量を、吸収層で発生する暗電流よりも充分に小さくすることができる。そのため、近赤外線吸収層403と、中赤外線吸収層407間のリーク電流は、それぞれの素子由来の暗電流よりも充分小さくすることができる。この障壁層には、InPのみで構成されるホモ接合以外の層を用いてもよい。障壁層には、バンドギャップが1.0eV以上の組成の層を用いることができる。障壁層には、例えば、InPと格子整合する系であれば、InAlAs層を組み合わせたヘテロ障壁層を用いることができる。
【0087】
本実施形態の赤外線センサ400には、第2の実施形態と同様に読み出し用の回路が接続されている。本実施形態の赤外線センサ400は、障壁層を備えることで近赤外線素子と中赤外線素子を同時に動作可能な構成を有している。本実施形態の赤外線センサの読み出し回路は、
図11のような増幅回路部を備えている。
【0088】
図11の読み出し回路の増幅回路部は、近赤外線素子501に対応した近赤外線増幅回路503と、中赤外線素子502に対応した中赤外線増幅回路504を備えている。このように、近赤外線と中赤外線で回路を分けることで近赤外線素子と中赤外線素子で検知した情報を同時に画像化することができる。
【0089】
本実施形態の赤外線センサは、近赤外線素子と中赤外線素子がInPによってホモ接合している。近赤外線素子501のほうが、中赤外線素子502よりも動作印加の逆バイアス電圧を大きくすることができるため、通常の動作条件でも近赤外線素子501のP層のほうが、中赤外線素子502のP層よりも電位が低い状態になる。素子間をInPのホモ接合とすることで、逆バイアス時のリーク電流は、近赤外線素子501、中赤外線素子502の暗電流よりも充分に小さくなる。そのため、電気的なクロストークはほとんど無視できるほど小さくすることができる。
【0090】
このような構造にすることにより、同時に近赤外線素子501と中赤外線素子502を動作させることができ、画像信号のフレームレートと同じ積分時間とすることが可能になり、高感度化することができる。また、このように同一フレーム内で合成が可能にすることで高フレームレート化することもできる。
【0091】
近赤外線吸収層と、中赤外線吸収層のp型電極は、それぞれ読み出し回路に接続する必要があるために、有効な画素数は、近赤外線の画素数と、中赤外線の画素数の和になる。また、近赤外線素子の画素数と中赤外線素子の画素数は、同数でもよく、また、異なっていてもよい。
【0092】
(第3の実施形態の赤外線センサの製造方法)
本実施形態の赤外線センサ400の製造方法について説明する。
図11は、赤外線センサの製造時に、n-InP基板401上への各層の成膜が行われた状態を示す断面図である。また、
図12は、エッチングやドーパントの拡散等によって半導体層が形成された状態を示す断面図である。また、
図13は、読み出し回路とのバンプ実装が行われた状態を示す断面図である。
【0093】
始めに、前処理としてn-InP基板401の洗浄が行われ、表面の酸化膜の除去が行われる。洗浄が行われた基板は、MOVPE法を用いた成膜装置に搬入される。
【0094】
成膜装置に搬入されると、n-InPバッファー層402が形成される。n-InPバッファー層402は、約600℃の温度のチャンバー中で、PH3とTMInなどの5族のガスと3族の有機金属を供給し、InPをエピタキシャル成長させることで形成される。ドーパントには、例えば、SiH4が用いられる。n-InPバッファー層402が形成されると、n-InPバッファー層402上に近赤外線吸収層403が形成される。近赤外線吸収層103は、例えば、AsH3とTMGaを原料ガスとして用いた、2μmの膜厚のInGaAs層として形成される。近赤外線吸収層403は、歪InGaAsやInGaAs/GaAsSbの超格子を用いて形成されていてもよい。
【0095】
近赤外線吸収層403が形成されると、近赤外線吸収層403上にInP層404が形成される。InP層404は、300から500nmの膜厚のn-InP、100nmの膜厚のn-InGaAs、50nmの膜厚のn-InPが積層された層として形成される。InP層404の一部は、Zn拡散法で選択的にp型化されてp-InP層411として用いられる。
【0096】
InP層404が形成されると、n-InP基板401は、MOVPE装置から取り出される。MOVPE装置から取り出されたn-InP基板401は、洗浄処理が施され、MBE装置に搬入される。
【0097】
MBE装置に搬入されるとInP層404上に、p-InP層419、n-InP層420およびp-InP層421が障壁層として形成される。各層は、約500℃の温度のチャンバー内で、100nmの膜厚のBeドープのp型InP、100nmの膜厚のSiドープのn-InP、100nmの膜厚のBeドープのp型InPの順に成膜される。
【0098】
p-InP層421が形成されると、p-InP層421上に、p-GaSbバッファー層405として、Beドープのp型InPが100nm、Beドープのp-GaSbが4μm、BeドープのInAsSbが1μmの膜厚で形成される。InAsSbが形成されると、InAsSb上に、第1のバリア層406として、50nmの膜厚のInAs/AlAsの超格子が形成される。
【0099】
第1のバリア層406が形成されると、第1のバリア層406上に中赤外線吸収層407が形成される。中赤外線吸収層407は、5μmの膜厚のInAs/GaSbの超格子として形成される。
【0100】
中赤外線吸収層407が形成されると、中赤外線吸収層407上に第2のバリア層408が形成される。第2のバリア層408は、50nmの膜厚のGaAs/AlAsの層として形成される。第2のバリア層408が形成されると、第2のバリア層408上にn-GaSbコンタクト層409が形成される。n-GaSbコンタクト層409は、50nmの膜厚のTeドープのGaAsを用いて形成される。
【0101】
n-GaSbコンタクト層409が形成されたn-InP基板401は、MBE装置から取り出され、メサが形成される。メサが形成されると、p-InP層411を形成するためのZnOの成膜およびパターニングが行われる。ZnOのパターニングが行われると、500℃、N2雰囲気下で約1時間、熱処理が施され、Znの拡散によってp-InP層411が形成される。
【0102】
Znの拡散によってp-InP層411が形成さると、絶縁膜417として用いるシリコン窒化膜がプラズマCVD法によって形成される。シリコン窒化膜が形成されると、各電極部分のパターニングが行われ、n型層およびp型層に対してオーミックコンタクトがとれる金属で各電極が形成される。本実施形態の赤外線センサでは、中赤外線n型コンタクト電極410、中赤外線p型コンタクト電極422、近赤外線n型コンタクト電極413および中赤外線p型コンタクト電極422が形成される。
【0103】
各電極が形成されると、電極上にバンプが形成され、熱処理後に読み出し回路418と接合される。接合が行われると、n-InP基板401と読み出し回路418との間にアンダーフィルが充填され赤外線センサが完成する。
【0104】
(第3の実施形態の赤外線センサの動作)
本実施形態の赤外線センサ400の動作について説明する。観測対象からの赤外線の波長域の光がn-InP基板401側から入射する。n-InP基板401に入射した近赤外線および中赤外線の波長域の光は、n-InP基板401を透過し、n-InPバッファー層402を介して、近赤外線吸収層403に入射する。
【0105】
近赤外線吸収層403に光が入射すると、近赤外線の波長域の赤外線が近赤外線吸収層403において吸収される。近赤外線の波長域の赤外線が近赤外線吸収層403において吸収されると、光電流が発生する。
【0106】
中赤外線の波長域の赤外線は、近赤外線吸収層403を透過し、InP層404、p-InP層419、n-InP層420、p-InP層421、p-GaSbバッファー層405および第1のバリア層406を介して中赤外線吸収層407に入射する。中赤外線吸収層407に光が入射すると、中赤外線の波長域の赤外線が中赤外線吸収層407において吸収される。中赤外線の波長域の赤外線が中赤外線吸収層407において吸収されると、光電流が発生する。
【0107】
読み出し回路は、近赤外線吸収層403と中赤外線吸収層407に生じた光電流をそれぞれ読み出し、読み出した信号を増幅する。読み出し回路は、各画素に対応する近赤外線素子と中赤外線素子からそれぞれ読み出した信号を合成し、画像データを生成する。
【0108】
(第3の実施形態の効果)
本実施形態の赤外線センサ400は、近赤外線吸収層403と、中赤外線吸収層407のp型電極を分離し、層間も高抵抗化された障壁層によって絶縁されている。そのため、本実施形態の赤外線センサ400は、近赤外線吸収層403と、中赤外線吸収層407において近赤外線と中赤外線を同時に検出することができるので、近赤外線と中赤外線の波長域を同時に画像化することができる。
【0109】
(第3の実施形態の他の構成の例)
第3の実施形態の赤外線センサは、中赤外線素子のpn極性を、第3の実施形態の構成に対して上層側と下層側で反転させた構造であってもよい。上層側とは、中赤外線吸収層に対してバンプ電極等が形成された側のことをいい、下層側とは、中赤外線吸収層に対して赤外線吸収層が形成されている側のことをいう。
図15は、中赤外線素子のpn極性を反転させた赤外線センサの構成を示した断面図である。
【0110】
図15の赤外線センサ600は、n-InP基板601と、n-InPバッファー層602と、近赤外線吸収層603と、InP層604と、p-InP層619、n-InP層620と、p-GaSbバッファー層605と、第2のバリア層608と、中赤外線吸収層607と、第1のバリア層606と、n-GaSbコンタクト層609と、p-InP層611と、絶縁膜617を備えている。また、赤外線センサ600は、近赤外線n型コンタクト電極613と、近赤外線p型コンタクト電極612と、中赤外線n型コンタクト電極610と、中赤外線p型コンタクト電極622をさらに備えている。また、赤外線センサ600は、近赤外線n型バンプ電極614、中赤外線n型バンプ電極616、近赤外線p型バンプ電極623、中赤外線p型バンプ電極624をさらに備えている。
【0111】
図15の赤外線センサ600は、近赤外線素子の上のInP層604上に、p-InP層619とn-InP層620が形成され、さらに、その上にp-GaSbバッファー層605を形成されている。このような構成とした場合に、中赤外線素子のpnの極性が反転する。読み出し回路をこの極性にあわせて作製することで、第3の実施の形態と同じ機能を有する赤外線センサを得ることができる。
図16は、
図15の構成の赤外線センサ600に用いる読み出し回路の増幅回路部の構成を示した図である。
図16では、中赤外線素子702のpとnが第3の実施形態の構成と反転している。そのような構成とした場合でも、第3の実施形態と同様に、近赤外線素子701用の近赤外線増幅回路703と、中赤外線素子702用の中赤外線増幅回路704でそれぞれの読み出した信号を元に、近赤外線と中赤外線を同時に画像化することができる。
【0112】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0113】
[付記1]
第1波長域の赤外線を吸収する第1赤外線吸収層と、
前記第1赤外線吸収層に積層され、前記第1波長域より長い波長域である第2波長域の赤外線を吸収する第2赤外線吸収層と、
前記第1赤外線吸収層と前記第2赤外線吸収層との間に形成されている緩和層と
を備え、
前記第1赤外線吸収層の電極と前記第2赤外線吸収層の電極が回路に接続されていることを特徴とする赤外線センサ。
【0114】
[付記2]
前記第1波長域および前記第2波長域の赤外線を透過する基板をさらに備え、
前記第1赤外線吸収層は、前記第2赤外線吸収層よりも前記基板側に積層されていることを特徴とする付記1に記載の赤外線センサ。
【0115】
[付記3]
前記第1赤外線吸収層は、前記基板と格子整合する材料で形成され、前記第2赤外線吸収層は、前記緩和層と格子整合する材料で形成されていることを特徴とする付記2に記載の赤外線センサ。
【0116】
[付記4]
前記緩和層と前記第2赤外線吸収層は、互いに同一の元素を含む化合物で形成されていることを特徴とする付記1から3いずれかに記載の赤外線センサ。
【0117】
[付記5]
前記緩和層は、GaSb、InAsSb、GaAsSb、InGaAsSbまたはInGaSbPのうち、少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする付記1から4いずれかに記載の赤外線センサ。
【0118】
[付記6]
前記第2赤外線吸収層に隣接する2層のうち、一方の層は、価電子帯に障壁を有し、もう一方の層は、伝導帯に障壁を有することを特徴とする付記1から5いずれかに記載の赤外線センサ。
【0119】
[付記7]
画素ごとに前記第1赤外線吸収層および前記第2赤外線吸収層にそれぞれ接続しているp型電極と、複数の画素ごとに前記第1赤外線吸収層および前記第2赤外線吸収層にそれぞれ接続しているn型電極が形成されていることを特徴とする請求項1から6いずれかに記載の赤外線センサ。
【0120】
[付記8]
前記第1赤外線吸収層と前記第2赤外線吸収層は、前記第1赤外線吸収層と前記第2赤外線吸収層の間に積層された層を介して互いに導通していることを特徴とする付記1から7いずれかに記載の赤外線センサ。
【0121】
[付記9]
前記第1赤外線吸収層のp型電極と、前記第2赤外線吸収層のp型電極が共通電極として形成されていることを特徴とする付記1から8いずれかに記載の赤外線センサ。
【0122】
[付記10]
前記回路は、前記第1赤外線吸収層と、前記第2赤外線吸収層のうち一方を選択するスイッチ素子を備え、
前記回路は、前記スイッチ素子を時分割で切り替えて、前記第1赤外線吸収層と、前記第2赤外線吸収層に生じた光電流を読み出すことを特徴とする付記1から9いずれかに記載の赤外線センサ。
【0123】
[付記11]
前記第1赤外線吸収層と、前記第2赤外線吸収層の間に、極性が互いに反対の2層が積層された障壁層をさらに備えることを特徴とする付記1から7いずれかに記載の赤外線センサ。
【0124】
[付記12]
前記障壁層は、InP、InAlAs、InAlAsPまたはInAlGaAsのうち少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする付記11に記載の赤外線センサ。
【0125】
[付記13]
第1波長域および前記第1波長域よりも長い波長域である第2波長域の赤外線を含む光を入射光として入射し、
前記第1波長域の赤外線を吸収する第1赤外線吸収層において、前記第1波長域の赤外線を第1光電流に変換し、
前記第1赤外線吸収層を透過した前記入射光のうち、前記第2波長域の赤外線を、前記第1赤外線吸収層に緩和層を介して積層され、前記第2波長域の赤外線を吸収する第2赤外線吸収層において第2光電流に変換し、
前記第1光電流および前記第2光電流を、前記第1赤外線吸収層と前記第2赤外線吸収層に接続している電極を介して回路に出力することを特徴とする光検出方法。
【0126】
[付記14]
前記第1波長域および前記第2波長域の赤外線を透過する基板に前記入射光を入射し、
前記基板の入射側とは反対側の面に形成されている前記第1赤外線吸収層に、前記入射光を前記基板を介して入射することを特徴とする付記13に記載の光検出方法。
【0127】
[付記15]
前記第1赤外線吸収層と前記第2赤外線吸収層を接続する共通電極を介して、前記第1光電流と前記第2光電流を時分割で選択して一方ごとに出力することを特徴とする付記13または14に記載の光検出方法。
【0128】
[付記16]
前記第1赤外線吸収層と前記第2赤外線吸収層を極性が互いに反対の2層が積層された障壁層を介して分離し、
前記第1光電流と前記第2光電流を、前記第1赤外線吸収層と前記第2赤外線吸収層にそれぞれ独立に接続している電極を介して出力することを特徴とする付記13または14に記載の光検出方法。
【0129】
[付記17]
第1波長域の赤外線を吸収する第1赤外線吸収層を有機金属気相成長法または分子線エピタキシー法で形成し、
緩和層を分子線エピタキシー法で形成し、
前記第1波長域よりも長波長の赤外線を吸収する第2赤外線を吸収する第2赤外線吸収層を、分子線エピタキシー法で前記緩和層を介して前記第1赤外線吸収層に積層することを特徴とする赤外線センサの形成方法。
【0130】
[付記18]
前記第1赤外線吸収層を、前記基板と格子整合する材料で形成し、前記第2赤外線吸収層を、前記緩和層と格子整合する材料で形成することを特徴とする付記17に記載の赤外線センサの形成方法。
【0131】
[付記19]
前記緩和層と前記第2赤外線吸収層は、同一の元素を含む化合物で形成されていることを特徴とする付記17または18に記載の赤外線センサの形成方法。
【0132】
[付記20]
前記緩和層は、GaSb、InAsSb、GaAsSb、InGaAsSbまたはInGaSbPのうち、少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする付記17から19いずれかに記載の赤外線センサの形成方法。
【0133】
[付記21]
前記第1赤外線吸収層の形成後に、極性が互いに反対の2層が積層された障壁層を分子線エピタキシー法で形成し、
前記第2赤外線吸収層を前記障壁層と前記緩和層を介して前記第1赤外線吸収層に積層することを特徴とする付記17から20いずれかに記載の赤外線センサの形成方法。
【0134】
[付記22]
前記障壁層は、InP、InAlAs、InAlAsPまたはInAlGaAsのうち少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする付記21に記載の赤外線センサの形成方法。
【符号の説明】
【0135】
11 第1赤外線吸収層
12 第2赤外線吸収層
13 緩和層
100 赤外線センサ
101 n-InP基板
102 n-InPバッファー層
103 近赤外線吸収層
104 n-InP層
105 p-GaSbバッファー層
106 第1のバリア層
107 中赤外線吸収層
108 第2のバリア層
109 n-GaSbコンタクト層
110 中赤外線n型コンタクト電極
111 p-InP層
112 共通p型電極
113 近赤外線n型コンタクト電極
114 近赤外線n型バンプ電極
115 共通バンプ電極
116 中赤外線n型バンプ電極
117 絶縁膜
118 読み出し回路
125 ブリッジ部
200 赤外線センサアレイ
203 近赤外線素子
207 中赤外線素子
214 バンプ電極
218 読み出し回路
300 増幅回路部
301 近赤外線素子
302 中赤外線素子
303 増幅器
304 近赤外線スイッチ
305 中赤外線スイッチ
400 赤外線センサ
401 n-InP基板
402 n-InPバッファー層
403 近赤外線吸収層
404 InP層
405 p-GaSbバッファー層
406 第1のバリア層
407 中赤外線吸収層
408 第2のバリア層
409 n-GaSbコンタクト層
410 中赤外線n型コンタクト電極
411 p-InP層
412 近赤外線p型コンタクト電極
413 近赤外線n型コンタクト電極
414 近赤外線n型バンプ電極
416 中赤外線n型バンプ電極
417 絶縁膜
418 読み出し回路
419 p-InP層
420 n-InP層
421 p-InP層
422 中赤外線p型コンタクト電極
423 近赤外線p型バンプ電極
424 中赤外線p型バンプ電極
500 増幅回路部
501 近赤外線素子
502 中赤外線素子
506 近赤外線用増幅器
507 中赤外線用増幅器
600 赤外線センサ
601 n-InP基板
602 n-InPバッファー層
603 近赤外線吸収層
604 InP層
605 p-GaSbバッファー層
606 第1のバリア層
607 中赤外線吸収層
608 第2のバリア層
609 n-GaSbコンタクト層
610 中赤外線n型コンタクト電極
611 p-InP層
612 近赤外線p型コンタクト電極
613 近赤外線n型コンタクト電極
614 近赤外線n型バンプ電極
616 中赤外線n型バンプ電極
617 絶縁膜
619 p-InP層
620 n-InP層
622 中赤外線p型コンタクト電極
623 近赤外線p型バンプ電極
624 中赤外線p型バンプ電極
700 増幅回路部
701 近赤外線素子
702 中赤外線素子
706 近赤外線用増幅器
707 中赤外線用増幅器