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特許7516760耐水性ガスバリアフィルム及び耐水性ガスバリアフィルムの製造方法
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  • 特許-耐水性ガスバリアフィルム及び耐水性ガスバリアフィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】耐水性ガスバリアフィルム及び耐水性ガスバリアフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240709BHJP
   C08J 7/048 20200101ALI20240709BHJP
【FI】
B32B27/30 102
C08J7/048 CER
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019566972
(86)(22)【出願日】2019-08-09
(86)【国際出願番号】 JP2019031739
(87)【国際公開番号】W WO2020039988
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2018155306
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】西川 健
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-284756(JP,A)
【文献】特開2013-082910(JP,A)
【文献】特開2002-254578(JP,A)
【文献】特開2001-121658(JP,A)
【文献】特開昭63-230757(JP,A)
【文献】特開2006-056927(JP,A)
【文献】特表平10-510871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08J7/04-7/06
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上に少なくともガスバリア層を設けたガスバリアフィルムであって、
前記ガスバリア層は、(a)カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール、(b)完全鹸化されたポリビニルアルコール、及び(c)ポリエチレンイミンを含む塗液から形成される、耐水性ガスバリアフィルム。
【請求項2】
記完全鹸化されたポリビニルアルコールの重合度が3000以下である、請求項1に記載の耐水性ガスバリアフィルム。
【請求項3】
前記ポリエチレンイミンの含有量が、前記ガスバリア層の全量を基準として10質量%以下である、請求項1又は2に記載の耐水性ガスバリアフィルム。
【請求項4】
前記ポリエチレンイミンの重量平均分子量が500以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の耐水性ガスバリアフィルム。
【請求項5】
前記カルボキシ基変性されたポリビニルアルコールが、ビニルエステル系モノマー及びカルボキシ基含有モノマーの共重合体の鹸化物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の耐水性ガスバリアフィルム。
【請求項6】
逐次延伸フィルムである、請求項1~5のいずれか一項に記載の耐水性ガスバリアフィルム。
【請求項7】
基材フィルム上に、(a)カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール、(b)完全鹸化されたポリビニルアルコール、及び(c)ポリエチレンイミンを含む塗液を塗布する工程と、
塗布された前記塗液を加熱して乾燥させ、前記基材フィルム上に塗膜を形成する工程と、
を備える、耐水性ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記基材フィルムを、前記塗膜と共に延伸する工程をさらに備える、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記延伸する工程における延伸倍率が2~20倍である、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリアフィルムに関し、特には耐水性のあるガスバリアフィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素バリア等のガスバリア性を備えた包装材料として、種々のものが開発されている。近年は酸化ケイ素、酸化アルミニウムのような金属酸化物膜をナノスケールでプラスチック基材上に設けたガスバリア性フィルムが数多く提案されている。
【0003】
しかし、金属酸化物膜を形成するには、通常は蒸着法やイオンプレーティング法などを実施するための真空成膜装置や関連製造設備を必要とするため、コスト的に高価なものとなる。
【0004】
世界的に包装材料が必要とされている昨今ではあるが、印刷機等でも加工できるような安価なバリア性材料が、包装材料を安価に供給するために必要となってきている。酸素バリア性を発現させるには、ポリ塩化ビニリデンが従来より使用されているが、焼却時の有害物質の発生という観点から、使用量が減少している。また、エチレンビニルアルコールフィルムも包装用として広く使用されているが、価格としては高い。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1のように、ポリビニルアルコールと無機層状鉱物を使用した材料を薄膜コートする方法が提案されている。この構成により優れたガスバリア性が得られる一方で、耐水性のある密着性を得るにはさらなる検討が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/129520号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題に鑑み、本発明は、酸素バリア性と共に耐水性を有する新たなガスバリアフィルムを提供することを目的とする。本発明はまた、当該耐水性ガスバリアフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面に係る耐水性ガスバリアフィルムは、基材フィルム上に少なくともガスバリア層を設けたガスバリアフィルムであって、ガスバリア層は、(a)カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール及び部分鹸化されたポリビニルアルコールの少なくとも一方、(b)完全鹸化されたポリビニルアルコール、並びに(c)ポリエチレンイミンを含む塗液から形成される。
【0009】
一態様において、部分鹸化されたポリビニルアルコール及び完全鹸化されたポリビニルアルコールの重合度が3000以下であってよい。
【0010】
一態様において、ポリエチレンイミンの含有量が、ガスバリア層の全量を基準として10質量%以下であってよい。
【0011】
一態様において、ポリエチレンイミンの重量平均分子量が500以上であってよい。
【0012】
一態様において、カルボキシ基変性されたポリビニルアルコールが、ビニルエステル系モノマー及びカルボキシ基含有モノマーの共重合体の鹸化物であってよい。
【0013】
一態様において、耐水性ガスバリアフィルムは逐次延伸フィルムであってよい。
【0014】
本開示の一側面に係る耐水性ガスバリアフィルムの製造方法は、基材フィルム上に、(a)カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール及び部分鹸化されたポリビニルアルコールの少なくとも一方、(b)完全鹸化されたポリビニルアルコール、並びに(c)ポリエチレンイミンを含む塗液を塗布する工程と、塗布された塗液を加熱して乾燥させ、基材フィルム上に塗膜を形成する工程と、を備える。
【0015】
一態様において、耐水性ガスバリアフィルムの製造方法は、基材フィルムを、塗膜と共に延伸する工程をさらに備えてよい。
【0016】
一態様において、延伸する工程における延伸倍率が2~20倍であってよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸素バリア性と共に耐水性を有する新たなガスバリアフィルムを提供することができる。また、本発明によれば、当該耐水性ガスバリアフィルムの製造方法を提供することができる。ポリビニルアルコールとポリエチレンイミンとを含む塗液であって、当該ポリビニルアルコールが、少なくともその一部がカルボキシ基変性されたポリビニルアルコール又は部分鹸化されたポリビニルアルコールである塗液を用いることにより、耐水密着性のあるガスバリアフィルムを提供することができる。延伸可能なポリビニルアルコール系の塗膜を備える本発明のガスバリアフィルムは、包装材料として安価で、かつ印刷機等でも加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は一実施形態に係る耐水性ガスバリアフィルムを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<耐水性ガスバリアフィルム>
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、一実施形態に係る耐水性ガスバリアフィルムを示す概略断面図である。耐水性ガスバリアフィルム10は、基材フィルム1上に、基材フィルムにガスバリア性を付与するためのガスバリア層2を備えている。ガスバリア層2は特定の成分から構成されており、優れた耐水性を有する。
【0020】
(基材フィルム)
基材フィルム1としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネート、シクロオレフィン等からなるフィルムを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの材料はアモルファス状であってよい。基材フィルムは、延伸フィルムであってよく、非延伸フィルムであってよい。ただし、基材フィルムが延伸フィルムであれば、引張強度等の力学的特性や耐熱性に優れる特性を有するので好ましい。基材フィルムとしては、必要に応じて一軸方向(例えばMD方向)にのみ延伸されたフィルムであってよい。
【0021】
基材フィルム1の厚さは、特に制約される事項ではないが、3μm以上100μm以下程度の一般的な厚さであることが望ましい。
【0022】
(ガスバリア層)
ガスバリア層2は、ポリビニルアルコールとポリエチレンイミンとを含み、ポリビニルアルコールは、少なくともその一部にカルボキシ基変性されたポリビニルアルコール又は部分鹸化されたポリビニルアルコールを含む。すなわち、ガスバリア層2は、(a)カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール及び部分鹸化されたポリビニルアルコールの少なくとも一方、(b)完全鹸化されたポリビニルアルコール、並びに(c)ポリエチレンイミンを含む塗液から形成される。より具体的には、ガスバリア層2は当該塗液を加熱乾燥してなるもの(加熱乾燥物)ということができる。
【0023】
一般的に水酸基のみを含む(完全鹸化された)ポリビニルアルコールのみのコート膜では、イオン結合で基材と密着することはできても、その結合は水が関与することで剥がれやすいという課題がある。そこで他の官能基を有する物質を導入して基材との強固な結合をもたらす必要があるが、単に水酸基と結合しやすい材料を入れることは沈殿やポットライフの減少につながる。
【0024】
本発明者はその問題を解決する手段として、完全鹸化されたポリビニルアルコールに加え、カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール又は部分鹸化されたポリビニルアルコールを用いることとした。そして、それらのカルボキシ基又は酢酸基を介して、コート膜と基材とを結合するようにすることで、膜本来のポリビニルアルコールの特性を維持したまま、強固な密着性を得ることができると考えた。コート膜と基材とを結合にはポリエチレンイミンを採用し、カルボキシ基又は酢酸基と、基材との間にポリエチレンイミンを介在させることで、コート膜と基材との強固な結合が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0025】
耐水性ガスバリアフィルムの基材フィルム1及び/又はガスバリア層2には、必要に応じて帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑り剤といった添加剤が含まれていてもよい。さらに、基材フィルム1の、少なくともガスバリア層2側の表面には、コロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理、易接着処理等の改質処理を施してもよい。また、耐水性ガスバリアフィルム10は、フィルムの用途に応じて、さらに印刷層、シーラント層、接着層、保護層などの機能層を備えてもよい。
【0026】
ガスバリア層2の厚さは0.01~20μmが望ましい。厚さが0.01μmより薄いとバリア性が低下し易くなり、厚さが20μmより厚いと層形成時に乾燥が不充分になり易く、巻き取り塗工適性が劣る場合がある。
【0027】
(ポリビニルアルコール)
ポリビニルアルコールとしては、一般的なポリビニルアルコールを使用することができる。ポリビニルアルコールは、ビニルエステル系モノマーを重合させ、次いで鹸化することで得ることができる。ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられるが、一般的には酢酸ビニルを用いる。
【0028】
ポリビニルアルコールは共重合変性又は後変性された変性ポリビニルアルコールであってよい。共重合変性されたポリビニルアルコールは、ビニルエステル系モノマーと、ビニルエステル系モノマーと共重合可能な他のモノマー(不飽和モノマー)とを共重合させた後、鹸化することで得られる。後変性されたポリビニルアルコールは、ビニルエステル系モノマーを重合させた後、鹸化して得られたポリビニルアルコールに、重合触媒の存在下で他のモノマーを共重合させることで得られる。
【0029】
そのような他のモノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類;アクリロニトリル、メタアクロリニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等が挙げられる。
【0030】
また、カルボキシ基変性されたポリビニルアルコールを得る場合、そのような他のモノマー、すなわちカルボキシ基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、それらカルボン酸のモノエステル等が挙げられる。カルボキシ基変性されたポリビニルアルコールの原料としては、酢酸ビニル及びカルボキシ基含有モノマーの組み合わせが望ましい。カルボキシ基変性されたポリビニルアルコールにおける変性量(カルボキシ基変性されたポリビニルアルコールに含まれる全単量体単位(100モル%)中の、カルボキシ基変性された単量体単位の含有率)は特に制限されないが、1~50モル%とすることができる。
【0031】
原料モノマーの重合には重合触媒が用いられる。重合触媒としては2,2-アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等のラジカル重合触媒などが上げられる。重合方法は特に制限されず、塊状重合、乳化重合、溶媒重合等を採用することができる。
【0032】
重合後、原料モノマーの重合物は鹸化工程に供される。鹸化は、重合物をアルコールを含む溶媒に溶解し、アルカリ又は酸を用いて行うことができるが、鹸化速度の観点からアルカリを用いることが望ましい。アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、ナトリウムエチラート、カリウムエチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。鹸化後の鹸化物(ポリビニルアルコール)は乾燥され、粉末として得ることができる。
【0033】
完全鹸化されたポリビニルアルコールの鹸化度は98モル%以上であるが、99モル%以上であってよい。完全鹸化されたポリビニルアルコールの鹸化度が98モル%以上であることで、充分なバリア性を得易くなる。また、部分鹸化されたポリビニルアルコールの鹸化度は75モル%以上98モル%未満とすることができ、80~95モル%であってよい。部分鹸化されたポリビニルアルコールの鹸化度が75モル%以上であることで、充分なバリア性を得易くなり、また98モル%未満であることで良好な濡れ性を得易くなる。
【0034】
ポリビニルアルコール(部分鹸化及び完全鹸化されたポリビニルアルコール)の重合度は300~3000又は300以上3000未満の範囲であることが望ましい。重合度が300より小さいとバリア性が低下し易く、3000より大きいと粘度が高すぎて塗工適性が低下し易い。この観点から、重合度は300~1500であってよい。
【0035】
(ポリエチレンイミン)
ポリエチレンイミンは、エチレンイミンの共重合体であって、二級アミンのみを含む直鎖状のもの、および一級、二級、三級アミンを含む分岐状のものが挙げられるが、いずれを使用しても差し支えない。また複数種類を混合してもよい。またカチオン基など官能基が導入された誘導体を用いてもよい。
【0036】
ポリエチレンイミンの重量平均分子量は500以上、又は1500以上であることが望ましい。重量平均分子量が小さすぎるポリエチレンイミンは膜内部に浸透する傾向があるため、充分な耐水化が図られない虞がある。なお、当該重量平均分子量の上限は10万とすることができる。
【0037】
<耐水性ガスバリアフィルムの製造方法>
耐水性ガスバリアフィルムの製造方法は、基材フィルム上に、(a)カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール及び部分鹸化されたポリビニルアルコールの少なくとも一方、(b)完全鹸化されたポリビニルアルコール、並びに(c)ポリエチレンイミンを含む塗液を塗布する工程(塗布工程)と、塗布された塗液を加熱して乾燥させ、基材フィルム上に塗膜を形成する工程(加熱乾燥工程)と、を備える。同製造方法は、基材フィルムを、塗膜と共に延伸する工程(延伸工程)をさらに備えてもよい。
【0038】
(塗布工程)
カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール、部分鹸化されたポリビニルアルコール、及び完全鹸化されたポリビニルアルコールの各粉末を必要量秤量し、80℃以上に加熱した水に溶解させる。各粉末を個々に溶解させた水溶液を予め準備してもよい。水溶液中の固形分量は特に問わないが、固形分量が20質量%未満であることが取り扱い上望ましい。なお、塗布効率等の観点から、当該固形分量の下限は1質量%とすることができる。
【0039】
ポリビニルアルコールを含む水溶液にさらにポリエチレンイミンを加えることで塗液を得る。塗液には、必要に応じ防腐剤、アルコール、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、金属キレート剤等を加えても良い。
【0040】
カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール及び部分鹸化されたポリビニルアルコールの少なくとも一方を(a)成分、完全鹸化されたポリビニルアルコールを(b)成分、ポリエチレンイミンを(c)成分としたとき、塗液中の(a)~(c)成分の量比等は、塗膜中の各成分の量比等が例えば後述の所望の値となるよう適宜調整すればよい。
【0041】
塗布工程は、水溶液を用いた塗布方式により実施することができる。塗布方式としては公知の方法を用いることができ、具体的には、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター等のウェット成膜法が挙げられる。
【0042】
なお、塗布工程に先立ち、基材フィルムを予め延伸する予備延伸工程を実施することができる。特に、後述の逐次延伸フィルムを得る場合は、予備延伸工程により、基材フィルムを一軸方向(例えばMD方向)にのみ延伸する。延伸倍率は2~20倍とすることができる。
【0043】
(加熱乾燥工程)
加熱乾燥工程における乾燥温度は90℃以上が望ましい。また、乾燥温度は250℃未満であれば問題ない。塗工後のドライ膜厚は0.01~20μmが望ましい。より薄いほうが加工速度は速くなり、またより厚いほうがバリア性は良くなる。必要により適宜調整してよい。
【0044】
カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール及び部分鹸化されたポリビニルアルコールの少なくとも一方を(a)成分、完全鹸化されたポリビニルアルコールを(b)成分、ポリエチレンイミンを(c)成分としたとき、塗膜中の各成分の量を以下のとおり調整することが好ましい。
形成された塗膜において、(a)成分及び(b)成分の合計量は、塗膜の全量を基準として、90~99.9質量%であることが好ましく、95~99.5質量%であることがより好ましい。また、(a)成分及び(b)成分の合計量に対する(a)成分の量比((a)成分の量/(a)成分及び(b)成分の合計量)は、0.01~0.5であることが好ましく、0.02~0.4であることがより好ましい。これによりバリア性と濡れ性とが良好に維持され易い。
【0045】
形成された塗膜において、(c)成分の含有量は、塗膜の全量を基準として、10質量%以下、又は5質量%以下であることが望ましい。多く入れすぎるとバリア性の低下につながってしまう。(c)成分の含有量の下限は0.01質量%とすることができる。
【0046】
(延伸工程)
塗膜に充分な柔軟性があるため、本工程では基材フィルムを塗膜と共に延伸することができる。延伸は熱収縮特性をコントロールするために実施される。延伸工程では、基材フィルムはそのTg以上の温度で所定の倍率まで延伸される。延伸倍率は2~20倍とすることができ、3~10倍であってもよい。延伸倍率が2倍よりも小さいと収縮特性はあまり変わらず、20倍よりも大きいとフィルムによっては破れてしまう虞がある。本製造方法においては、塗膜形成後に基材フィルムを延伸することができるため、インラインでのバリアコートが可能である。したがって、上記製造方法により低コストで耐水性ガスバリアフィルムを得ることができる。
【0047】
上記製造方法により得られる耐水性ガスバリアフィルムは、必要に応じて一軸方向(例えばMD方向)に予備延伸された基材フィルムに塗膜を形成した後、さらに他の一軸方向(例えばTD方向)に延伸することにより得てもよい。このような工程により得られるフィルムは、二軸同時ではなく逐次に延伸されたフィルムであることから、逐次延伸フィルムであるということができる。
【0048】
延伸工程後、必要に応じて後加熱工程を実施してもよい。
【実施例
【0049】
以下、本発明を実施例(但し、実施例3は参考例)により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
<フィルムの作製>
[(a1)カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール水溶液の準備]
酢酸ビニルとマレイン酸とを、触媒として2,2-アゾビスイソブチロニトリルを用いて重合させた。重合物を水酸化ナトリウム水溶液(メタノール含有)で鹸化した後に、80度で乾燥させて、(a)カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール粉末を得た。その粉末を90℃にて水に溶解させた。
【0051】
[(a2)部分鹸化されたポリビニルアルコール水溶液の準備]
酢酸ビニルを、触媒として2,2-アゾビスイソブチロニトリルを用いて重合させた。重合物を水酸化ナトリウム水溶液(メタノール含有)で部分鹸化した後に、80℃で乾燥させて、重合度1000の(a)部分鹸化されたポリビニルアルコール粉末を得た。鹸化度は87モル%であった。その粉末を90℃にて水に溶解させた。
【0052】
[(b)完全鹸化されたポリビニルアルコール水溶液の準備]
酢酸ビニルを、触媒として2,2-アゾビスイソブチロニトリルを用いて重合させた。重合物を水酸化ナトリウム水溶液(メタノール含有)で鹸化した後に、80℃で乾燥させて、重合度500の(b)完全鹸化されたポリビニルアルコール粉末を得た。鹸化度は98モル%以上であった。その粉末を90℃にて水に溶解させた。
【0053】
[(c)ポリエチレンイミンの準備]
重量平均分子量の異なるポリエチレンイミンを複数種準備した。
【0054】
[塗液の調製]
各種ポリビニルアルコール及びポリエチレンイミンの量が表1に示す割合となるように、各種ポリビニルアルコール水溶液及びポリエチレンイミンを秤量し、これを10分間以上混合した。これにより各例に用いられる塗液を得た。塗液中の(a1)カルボキシ基変性されたポリビニルアルコール又は(a2)部分鹸化されたポリビニルアルコールと、(b)完全鹸化されたポリビニルアルコールの合計含有量(固形分量)は、塗液の全量を基準として10質量%となるように調整した。
【0055】
(実施例1)
(a1)カルボキシ基変性されたポリビニルアルコールと、(b)完全鹸化されたポリビニルアルコールとを質量比で約1:2の割合となるように混合し、これに重量平均分子量1800のポリエチレンイミンを添加し、塗液を調製した。ポリエチレンイミンの添加量は、塗膜中の含有量が2質量%となるように調整した。この塗液を、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材(P60、東レ株式会社製)上に、バーコート法により塗布した。そして、塗液を150℃で3分間乾燥硬化させることにより、基材上に厚さ200nmの塗膜を形成した。
【0056】
(実施例2)
(a1)カルボキシ基変性されたポリビニルアルコールと、(b)完全鹸化されたポリビニルアルコールとを質量比で約1:2の割合となるように混合し、これに重量平均分子量10000のポリエチレンイミンを添加し、塗液を調製した。ポリエチレンイミンの添加量は、塗膜中の含有量が1質量%となるように調整した。その後は、実施例1と同様にして基材上に塗膜を形成した。
【0057】
(実施例3)
(a1)カルボキシ基変性されたポリビニルアルコールに代えて、(a2)部分鹸化されたポリビニルアルコールを用いたこと以外は、実施例2と同様にして基材上に塗膜を形成した。
【0058】
(実施例4)
厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材に代えて、厚さ20μmの未延伸ポリプロピレンフィルム基材を用いたこと以外は、実施例2と同様にして基材上に塗膜を形成した。その後、未延伸ポリプロピレンフィルム基材を、塗膜と共にTD方向に延伸した。延伸倍率は3倍とした。
【0059】
(実施例5)
重量平均分子量1800のポリエチレンイミンに代えて、重量平均分子量10000のポリエチレンイミンを用いたこと、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材に代えて、厚さ150μmの未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム基材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして基材上に塗膜を形成した。その後、未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム基材を、塗膜と共にTD方向に延伸した。延伸倍率は3倍とした。
【0060】
(実施例6)
重量平均分子量1800のポリエチレンイミンに代えて、重量平均分子量600のポリエチレンイミンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして基材上に塗膜を形成した。
【0061】
(実施例7)
ポリエチレンイミンの添加量を、塗膜中の含有量が10質量%となるように調整したこと以外は、実施例2と同様にして基材上に塗膜を形成した。
【0062】
(比較例1)
(b)完全鹸化されたポリビニルアルコールのみを含む塗液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして基材上に塗膜を形成した。
【0063】
【表1】
【0064】
<フィルムの性能評価>
フィルムの性能は、下記の方法に従って評価した。結果を表2に示す。
[耐水密着性]
作製したフィルムの塗膜面を、接着剤を介してCPPフィルムと貼り合わせた後、これを15mm×100mmに切り出してサンプルとした。剥離面を出した後にサンプルを水に浸し、JIS Z1707に準拠してラミネート強度を測定した。測定条件は、剥離速度300m/min、剥離角度180度とした。ラミネート強度が1.0N以上であれば、耐水密着性は良好であると評価できる。
【0065】
[酸素透過度]
JIS-K7129 C法に順ずる差圧式ガスクロマトグラフィ法にて、30℃、70RH%の条件下において、作製したフィルムの酸素透過度を測定した。酸素透過度が50(cc/m・day・atm)以下であれば、バリア性は良好であると、酸素透過度が15(cc/m・day・atm)以下であれば、バリア性は特に良好であると評価できる。
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示すように、実施例のフィルムは耐水密着性及びバリア性とも良好であった。一方、比較例のフィルムはバリア性は良好だが、耐水密着性が不良であった。
【0068】
以上の結果から、本発明の耐水性ガスバリアフィルムは耐水密着性が良好で、かつ優れたバリア性を有することがわかった。
【符号の説明】
【0069】
1…基材フィルム、2…ガスバリア層、10…耐水性ガスバリアフィルム。
図1