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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20240709BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20240709BHJP
   H01M 8/0444 20160101ALI20240709BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20240709BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/04225
H01M8/0444
H01M8/0438
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020058793
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158020
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】竹井 力
(72)【発明者】
【氏名】横田 敦吏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆友
(72)【発明者】
【氏名】山田 尚也
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘典
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-041516(JP,A)
【文献】特開2004-362915(JP,A)
【文献】特開2004-220942(JP,A)
【文献】特開2016-035865(JP,A)
【文献】特開平04-095358(JP,A)
【文献】特開平09-180830(JP,A)
【文献】特表2018-517234(JP,A)
【文献】特開2019-102374(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0197616(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードとカソードを含む燃料電池スタックを有する燃料電池装置と、
空気中の酸素と窒素を分離する酸素富化モジュールと、前記酸素富化モジュールによって分離された前記窒素を含む窒素富化空気を前記アノードに供給する窒素供給経路と、前記酸素富化モジュールによって分離された前記酸素を含む酸素富化空気を前記カソードに供給する酸素供給経路と、を有する酸素富化装置と、
を備え
前記燃料電池装置は、前記カソードの上流側で大気を接続する空気供給経路と、前記カソードの下流側で大気と接続する空気排出経路を有し、
前記酸素富化装置は、前記酸素富化モジュールと前記空気排出経路とを接続する空気循環経路を有し、
前記酸素供給経路は、前記酸素富化モジュールと前記空気供給経路とを接続し、
前記カソードに供給された酸素富化空気は、前記空気循環経路、前記酸素富化モジュールおよび前記酸素供給経路を通過して循環する、
燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料電池装置は、前記空気供給経路と前記酸素供給経路との接続部よりも上流に設けられ、前記空気供給経路と大気の間を封鎖する封鎖弁を有する、
請求項に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池装置は、前記アノードに供給される燃料ガスが循環する燃料ガス循環経路を有し、
前記窒素供給経路は、前記酸素富化モジュールと前記燃料ガス循環経路とを接続し、
前記酸素富化装置は、前記窒素供給経路と、前記燃料ガス循環経路との接続を遮断する遮断弁を有する、
請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池装置および前記酸素富化装置を制御する制御部をさらに備える、
請求項1からのいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池装置は、
前記アノード内の空気の窒素濃度を検知する窒素濃度検知部と、
前記カソード内の空気の酸素濃度を検知する酸素濃度検知部と、
を有し、
前記制御部は、前記アノード内の窒素濃度および前記カソード内の酸素濃度が所定濃度以上となった場合、前記燃料電池スタックを作動させる、
請求項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記燃料電池装置は、
前記アノードおよび前記カソード内の圧力を検知する圧力検知部と、
前記カソードから前記空気を排出する空気排出経路と、
を有し、
前記制御部は、前記圧力検知部によって検知した圧力が所定圧力以上の場合、前記空気排出経路から前記空気を排出する、
請求項4または5に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素富化装置を用いた燃料電池システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の燃料電池システムでは、燃料電池スタックのアノード(水素燃料極)に水素が供給され、カソード(空気極)に空気が供給される。また、特許文献1の燃料電池システムは、燃料電池スタックに吸入する空気の一部を酸素富化モジュールに分流する。分流された空気は、酸素富化モジュールによって酸素と窒素に分離され、酸素濃度の高い酸素富化空気が、燃料電池スタックの吸入口に供給される。また、酸素富化モジュールによって分離された窒素を含む窒素の濃度の高い窒素富化空気は排気される。このように、特許文献1の燃料電池システムでは、分流した空気を酸素富化モジュールに供給することで、酸素富化モジュールによって分離した酸素を有効に利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-115622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の燃料電池システムでは、酸素富化空気を燃料電池スタックのカソードの乾燥を防止するために用いている。しかし、燃料電池スタックの触媒劣化の抑制に酸素富化空気を用いる点については考慮されていない。このような燃料電池システムでは、通常は、燃料電池スタックのアノードおよびカソードは、燃料電池スタックが始動する直前に、空気が充満している。このような状態で燃料電池スタックを始動すると、燃料電池スタックの触媒が劣化し、燃料電池スタックの出力低下の原因となる。
【0005】
また、特許文献1の燃料電池システムでは、窒素富化空気については、排気している。このため、酸素富化モジュールによって分離される窒素を有効に活用できてない。
【0006】
本開示の課題は、酸素富化モジュールによって分離される窒素と酸素を燃料電池スタックの劣化抑制に活用できる燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る燃料電池システムは、燃料電池装置と、酸素富化装置と、を備える。燃料電池装置は、アノードとカソードを含む燃料電池スタックを有する。酸素富化装置は、酸素富化モジュールと、窒素供給経路と、酸素供給経路と、を有する。酸素富化モジュールは、空気中の酸素と窒素を分離する。窒素供給経路は、酸素富化モジュールによって分離された窒素を含む窒素富化空気をアノードに供給する。酸素供給経路は、酸素富化装置によって分離された酸素を含む酸素富化空気をカソードに供給する。
【0008】
この燃料電池システムによれば、窒素濃度が高い窒素富化空気をアノードに供給できる。これによって、アノード内を、窒素濃度が高い窒素富化空気で充満できる。この結果、アノードの触媒劣化を抑制できる。また、カソード内を、酸素濃度が高い酸素富化空気で充満できる。これによって、カソードの触媒劣化を抑制できる。このため、酸素富化モジュールによって分離される窒素と酸素を燃料電池スタックの劣化抑制に活用できる燃料電池システムを提供できる。
【0009】
燃料電池装置は、空気供給経路と、空気排出経路と有してもよい。空気供給経路は、カソードの上流側と大気を接続してもよい。空気排出経路は、カソードの下流側で大気を接続してもよい。酸素富化装置は、空気循環経路を有してもよい。空気循環経路は、酸素富化モジュールと空気排出経路とを接続してもよい。酸素供給経路は、酸素富化モジュールと空気供給経路とを接続してもよい。カソードに供給された空気は、空気循環経路、酸素富化モジュール、および酸素供給経路を通過して循環してもよい。
【0010】
この構成によれば、カソードに供給される酸素富化空気は、酸素富化モジュールを繰り返し通過して循環する。酸素富化空気は、酸素富化モジュールを繰り返し通過することによって酸素濃度が上昇する。これによって、カソードに供給される空気が、酸素濃度がより高い酸素富化空気となる。
【0011】
燃料電池装置は、封鎖弁を有してもよい。封鎖弁は、空気供給経路と酸素供給経路との接続部よりも上流に設けられ、空気供給経路と大気の間を封鎖してもよい。
【0012】
この構成によれば、空気循環経路に大気中の空気が混入することを防止できる。これによって、空気循環経路を流れる空気中の酸素濃度が、低下することを防止できる。
【0013】
燃料電池装置は、燃料ガス循環経路を有してもよい。燃料ガス循環経路は、アノードに供給される燃料ガスが循環してもよい。窒素供給経路は、酸素富化モジュールと燃料ガス循環経路とを接続してもよい。酸素富化装置は、遮断弁を有してもよい。遮断弁は、窒素供給経路と、燃料ガス循環経路との接続を遮断弁してもよい。
【0014】
この構成によれば、酸素富化モジュールによって分離された窒素を、窒素供給路および燃料ガス循環経路を経由してアノードに供給できる。また、酸素富化装置は、酸素富化モジュールによって空気中の窒素を分離している間、遮断弁によって窒素供給経路と、燃料ガス循環経路との間を遮断できる。これによって、アノードに供給した窒素富化空気を燃料ガス循環経路およびアノード内に密閉することができる。この結果、アノード内の窒素富化空気の窒素濃度が低下することを防止できる。また、酸素富化モジュールによって空気中の窒素を分離している間、酸素富化モジュールから窒素が流出し、酸素富化モジュール内の窒素富化空気の窒素濃度が低下することも防止できる。
【0015】
燃料電池システムは、燃料電池装置および酸素富化装置を制御する制御部をさらに備えてもよい。
【0016】
燃料電池装置は、窒素濃度検知部と、酸素濃度検知部と、を有してもよい。窒素濃度検知部は、アノード内の空気の窒素濃度を検知してもよい。酸素濃度検知部は、カソード内の空気の酸素濃度を検知してもよい。制御部は、アノードの窒素濃度およびカソードの酸素濃度が所定濃度以上となった場合、燃料電池スタックを作動させてもよい。
【0017】
この構成によれば、アノードに供給する窒素富化空気の窒素濃度およびカソードに供給する酸素富化空気の酸素濃度が安定する。これによって、燃料電池スタックの触媒劣化をさらに抑制しやすい。
【0018】
燃料電池装置は、圧力検知部を有してもよい。圧力検知部は、アノードおよびカソード内の圧力を検知する。制御部は、圧力検知部によって検知した圧力が所定圧力以上の場合、空気排出経路から空気を排出してもよい。
【0019】
この構成によれば、アノードに供給する窒素富化空気およびカソードに供給する酸素富化空気の圧力を調整できる。これによって、アノードおよびカソードの故障を防止できる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、酸素富化モジュールによって分離される窒素と酸素を燃料電池スタックの劣化抑制に活用できる燃料電池システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示の実施形態による燃料電池システムのシステム図。
図2】本開示の実施形態による酸素富化モジュール内を説明するための図。
図3】本開示の実施形態による制御部が行う制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図1に示す、実線または破線の太い矢印は後述する燃料ガス、空気、酸素富化空気、酸素富化酸素、および窒素富化空気の流れる方向を示し、以下の説明において、矢印の先端側が下流であり、反対側が上流である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の燃料電池システム1は、レンジエクステンダー型プラグイン燃料電池自動車(PFCV)等の車両に搭載される。車両は、モータジェネレータ(M)8と、駆動用電池(BT)10と、を備える。燃料電池システム1は、主として駆動用電池10を充電する必要がある場合に起動される。燃料電池システム1は、発電した電力をDC-DCコンバータ(図示せず)で電圧を変換したのちに駆動用電池10に供給する。また、燃料電池システム1は、駆動用電池10からモータジェネレータ8への出力が不足する場合は、一時的にモータジェネレータ8へ電力の供給を行う。
【0024】
モータジェネレータ8は、減速機(図示せず)および駆動軸8aを介して駆動輪8bを駆動する。モータジェネレータ8は、インバータ8cを介して、駆動用電池10と接続される。また、インバータ8cは、制御部6と電気的に接続される。本実施形態では、モータジェネレータ8は、三相交流モータであり、制御部6からの指示に基づき、インバータ8cを介して力行と回生とに制御される。インバータ8cは、制御部6から力行を指示されると、駆動用電池10から電力を受け取り、モータジェネレータ8に電力を供給して力行させる。一方、インバータ8cは、制御部6から回生を指示されると、モータジェネレータ8で発電した電力を受け取り、駆動用電池10に電力を供給する。
【0025】
駆動用電池10は、モータジェネレータ8に電力を供給する。本実施形態では、駆動用電池10は、リチウムイオン電池等の二次電池で構成され、複数の電池セルをまとめて構成された図示しない電池モジュールを有する。駆動用電池10は、モータジェネレータ8の電源として機能する。さらに駆動用電池10は、電池モジュールの電圧などから充電率(State Of Charge、以下、SOC)を算出する電池制御部10aに接続される。駆動用電池10は、電池制御部10aを介して制御部6と電気的に接続される。
【0026】
本実施形態の燃料電池システム1は、発電装置としての燃料電池装置2と、酸素富化装置4と、制御部6と、を備える。
【0027】
燃料電池装置2は、燃料電池スタック12と、空気供給経路14と、大気吸気弁(封鎖弁の一例)14aと、過給機16と、燃料ガス循環経路18と、第1水素循環三方弁18aと、第2水素循環三方弁18bと、燃料ガス供給経路20と、燃料ガス排出経路24と、空気排出経路26と、カソード出口弁26aと、圧力センサ(圧力検知部の一例)28と、アノード内窒素濃度センサ(窒素濃度検知部の一例)30と、カソード内酸素濃度センサ(酸素濃度検知部の一例)32と、を有する。
【0028】
燃料電池スタック12は、燃料ガスと空気とが供給され、供給された燃料ガスと空気とによって化学反応を行い発電する。本実施形態では、燃料ガスは水素(H)である。燃料電池スタック12は、発電した電力を駆動用電池10に供給する。
【0029】
燃料電池スタック12は、アノード12aとカソード12bを含む。アノード12aは、アノード側電極触媒層(図示せず)を含む。本実施形態では、アノード側電極触媒層は、カーボン系材料からなる担体、もしくは、酸化スズ(SnO)などのセラミックス系材料からなる担体に、白金(Pt)系材料からなる触媒を担持した電極触媒で構成される。
【0030】
アノード12aの上流には燃料ガス供給経路20が接続され、水素タンク(図示せず)から燃料ガス供給経路20を通過して水素が供給される。アノード12aに供給された水素は、アノード側電極触媒層の電極触媒によって水素イオンと電子に分解される。水素イオンは、カソード側電極触媒層に移動する。電子は、電流となってカソード12bへ移動する。アノード12aの下流には、燃料ガスを排出する燃料ガス排出経路24が接続され、アノード12aで分解されなかった水素が燃料ガス排出経路24を介して排出される。
【0031】
燃料ガス循環経路18は、燃料ガス排出経路24と燃料ガス供給経路20とを接続し、アノード12aに供給される燃料ガスの一部を循環し、再びアノード12aに供給する。燃料ガス循環経路18は、燃料ガス供給経路20と第1水素循環三方弁18aを介して接続される。
【0032】
第1水素循環三方弁18aは、三方のうち二方が、燃料ガス供給経路20の上流と下流を接続し、残りの一方が燃料ガス循環経路18と接続する。第1水素循環三方弁18aは、燃料ガス循環経路18を封鎖する弁と、燃料ガス供給経路20の上流側を封鎖する弁と、を含む。
【0033】
第1水素循環三方弁18aは、水素を再循環させる場合、燃料ガス供給経路20の上流側の弁を閉じ、燃料ガス循環経路18側の弁を開き、燃料ガス循環経路18と燃料ガス供給経路20の下流側(アノード12a側)を連通する。一方、第1水素循環三方弁18aは、水素をアノード12aに供給する場合、燃料ガス循環経路18側の弁を閉じ、燃料ガス供給経路20の上流側の弁を開き、燃料ガス供給経路20の上流と下流を連通する。
【0034】
また、燃料ガス循環経路18は、燃料ガス排出経路24と第2水素循環三方弁18bを介して接続される。第2水素循環三方弁18bは、三方のうち二方が、燃料ガス排出経路24の上流と下流を接続し、残りの一方が燃料ガス循環経路18と接続する。
【0035】
第2水素循環三方弁18bは、燃料ガス循環経路18を封鎖する弁と、燃料ガス排出経路24の下流側を封鎖する弁を含む。第2水素循環三方弁18bは、水素を再循環させる場合、燃料ガス排出経路24の下流側の弁を閉じ、燃料ガス循環経路18側の弁を開き、燃料ガス排出経路24と燃料ガス循環経路18を連通する。
【0036】
燃料ガス循環経路18上には、循環ポンプ(図示せず)などで構成される水素循環システム18cが設けられ、燃料ガス循環経路18内の水素を圧送する。なお、水素循環システム18cは、後述する窒素富化空気をアノード12aに供給する場合、酸素富化モジュール34から窒素富化空気を燃料ガス循環経路18に引き込む機能を有する。水素循環システム18cは、制御部6と電気的に接続される。また、本実施形態では、第1水素循環三方弁18aおよび第2水素循環三方弁18bはいずれも電磁弁であり、図示はしていないが、制御部6と電気的に接続され、制御部6によって制御される。以下明細書において説明する各弁についても同様である。
【0037】
カソード12bは、アノード12aと電解質膜12cを挟んで反対側に設けられる。カソード12bは、カソード側電極触媒層(図示せず)を含む。本実施形態では、カソード側電極触媒層は、酸化スズ(SnO)などのセラミックス系材料からなる担体に、白金(Pt)系材料からなる触媒を担持した電極触媒で構成される。
【0038】
カソード12bの上流には、空気供給経路14が接続される。空気供給経路14は、カソード12bの上流側で大気と接続し、大気中の空気を、フィルター14bを介してカソード12bに供給する。また、空気供給経路14上は、大気吸気弁14aと、過給機16と、インタークーラ14cが設けられる。大気吸気弁14aは、空気供給経路14に吸入する場合、弁を開いて上流と下流を連通させ、大気とカソード12bを連通させる。過給機16は、大気から空気を吸入するとともにカソード12bに圧送する。インタークーラ14cは、圧送する空気を冷却する。さらに、過給機16は、後述する空気循環経路40の酸素富化空気を圧送するポンプとしても機能する。本実施形態では過給機16は電動ポンプであり、制御部6と電気的に接続される。
【0039】
カソード12bの下流には、空気排出経路26が接続される。空気排出経路26は、カソード12bの下流側で大気と接続し、カソード12bで反応できなかった空気が大気中に排出する。空気排出経路26上には、カソード出口弁26aが設けられる。カソード出口弁26aは、カソード12b内の空気を排出する場合、弁を開いて上流と下流を連通させ、カソード12bと大気を連通させる。
【0040】
圧力センサ28は、アノード12aおよびカソード12b内の圧力を検知する。また、アノード内窒素濃度センサ30は、アノード12a内の空気の窒素濃度を検知する。カソード内酸素濃度センサ32は、カソード内の空気の酸素濃度を検知する。これらセンサは、制御部6と電気的に接続される。
【0041】
酸素富化装置4は、酸素富化モジュール34と、窒素供給経路36と、第1窒素供給三方弁36aと、第2窒素供給三方弁(遮断弁の一例)36bと、酸素供給経路38と、空気循環弁38aと、空気循環経路40と、空気循環三方弁40aと、モジュール内酸素濃度センサ42と、モジュール内窒素濃度センサ44と、有する。
【0042】
酸素富化モジュール34は、図2に示すように、酸素富化膜34aと上流室34bと、下流室34cと、を含む。酸素富化膜34aは、窒素と酸素の透過速度の違いを利用して空気中の酸素が先に透過する一方、窒素は遅れて透過することによって、空気中の酸素と窒素を分離する。したがって、上流室34bには窒素濃度の高い窒素富化空気が充満し、下流室34cには酸素濃度の高い酸素富化空気が充満する。酸素富化膜34aは、例えば、例えば高分子材料やセラミックス材料などによって形成される。モジュール内酸素濃度センサ42は、下流室34cの空気中の酸素濃度を検知する。また、モジュール内窒素濃度センサ44は、上流室34bの空気中の窒素濃度を検知する。
【0043】
窒素供給経路36は、図1に示すように、酸素富化モジュール34によって分離された窒素を含む窒素富化空気をアノード12aに供給する。窒素供給経路36は、酸素富化モジュール34の上流室34bと、燃料ガス循環経路18とを接続する。窒素供給経路36上には、空気循環経路40と接続する第1窒素供給三方弁36aと、燃料ガス循環経路18と接続する第2窒素供給三方弁36bと、逆流防止弁36cと、が設けられる。
【0044】
第1窒素供給三方弁36aは、三方のうち二方が、窒素供給経路36の上流と下流を接続し、残りの一方が空気循環経路40と接続する。第1窒素供給三方弁36aは、空気循環経路40を封鎖する弁と、窒素供給経路36の下流側(酸素富化モジュール34側 破線の太い矢印参照)を封鎖する弁と、を含む。
【0045】
第1窒素供給三方弁36aは、酸素富化モジュール34から窒素富化空気をアノード12aに供給する場合、空気循環経路40側の弁を閉じ、窒素供給経路36の下流側の弁を開き、窒素供給経路36の上流と下流を連通する。
【0046】
第2窒素供給三方弁36bは、三方のうち二方が、燃料ガス循環経路18の上流と下流を接続し、残りの一方が窒素供給経路36と接続する。第2窒素供給三方弁36bは、窒素供給経路36を封鎖する弁と、燃料ガス循環経路18の上流側(燃料ガス排出経路24側)を封鎖する弁と、を含む。
【0047】
第2窒素供給三方弁36bは、酸素富化モジュール34から窒素富化空気をアノード12aに供給する場合、燃料ガス循環経路18の上流側の弁を閉じ、燃料ガス循環経路18側の弁を開き、窒素供給経路36と燃料ガス循環経路18の下流側(燃料ガス供給経路20側)とを連通させる。このとき、逆流防止弁36cは、窒素富化空気が下流(燃料ガス循環経路18側)から上流(酸素富化モジュール34側)に逆流することを防止する。
【0048】
一方、酸素富化モジュール34から窒素富化空気をアノード12aに供給しない場合、第2窒素供給三方弁36bは、窒素供給経路36側の弁を閉じ、窒素供給経路36と燃料ガス循環経路18との接続を遮断する。このように、第2窒素供給三方弁36bによって窒素供給経路36と燃料ガス循環経路18との接続を遮断することで、燃料ガス循環経路18およびアノード12a内に窒素富化酸素を密閉する。
【0049】
酸素供給経路38は、酸素富化モジュール34によって分離された酸素を含む酸素富化空気をカソード12bに供給する。酸素供給経路38は、酸素富化モジュール34の下流室34cと、空気供給経路14とを接続する。本実施形態では、酸素供給経路38は、空気供給経路14の大気吸気弁14aよりも下流で、過給機16よりも上流の接続部に接続される。すなわち、大気吸気弁14aは、接続部よりも上流に設けられる。酸素供給経路38上には、空気循環弁38aと、逆流防止弁38bと、が設けられる。空気循環弁38aは、酸素富化モジュール34から酸素富化空気をカソード12bに供給する場合、弁を開き上流(酸素富化モジュール34側)と下流(空気供給経路14側)とを連通させる。このとき、逆流防止弁38bは、窒素富化空気が下流から上流に逆流することを防止する。
【0050】
空気循環経路40は、酸素富化モジュール34の上流室34bと、空気排出経路26と、を接続する。このように、空気循環経路40は、カソード12bに供給された酸素富化空気を、空気循環経路40、酸素富化モジュール34、および酸素供給経路38を通過して循環させる。本実施形態では、空気循環経路40は、窒素供給経路36と、第1窒素供給三方弁36aを介して接続される。このように、空気循環経路40と窒素供給経路36とを接続することによって、カソード12bに酸素富化空気を循環する循環経路を合理化できる。しかし、空気循環経路40は、直接酸素富化モジュール34の上流室34bと接続してもよい。
【0051】
空気循環経路40は、空気循環三方弁40aを介して空気排出経路26と接続される。空気循環三方弁40aは、三方のうち二方が、空気排出経路26の上流と下流を接続し、残りの一方が空気循環経路40と接続する。空気循環三方弁40aは、空気循環経路40を封鎖する弁と、空気排出経路26の下流側(大気側)を封鎖する弁と、を含む。
【0052】
空気循環三方弁40aは、カソード12bに供給された酸素富化空気を循環する場合、空気排出経路26の下流側の弁を閉じて、空気循環経路40側の弁を開き、空気排出経路26の上流と、空気循環経路40と、を連通させる。
【0053】
制御部6は、ECU(Electrоnic Control Unit)6aに記憶されるソフトウェアによって実現される機能構成である。ECU6aは、実際には、演算装置と、メモリと、入出力バッファ等とを含むマイクロコンピュータと、によって構成される。ECU6aは、各センサおよび各種装置からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、燃料電池システム1が、所望の運転状態となるように燃料電池装置2および酸素富化装置4を制御する。また、制御部6は、駆動用電池10の充電率(SOC)を取得し、車両の走行状態などに応じて目標充電率Btを算出する。制御部6は、算出した目標充電率Btと充電率(SOC)とに応じて、燃料電池装置2を起動して発電させる。制御部6は、DC-DCコンバータ(図示無し)を制御して目標充電率Btまで駆動用電池10を充電する。さらに、制御部6は、車両に要求される出力を演算し、インバータ8cを介してモータジェネレータ8を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。
【0054】
次に、図3のフローチャートを用いて、本実施形態の制御部6の制御手順について説明する。制御部6は、図示しないイグニッションスイッチがオンされることで、制御動作を開始する。
【0055】
制御部6は、充電率(SOC)を取得し、目標充電率Bt以下か否か判断する(S1)。制御部6は、目標充電率Bt以下の場合(S1 Yes)、S2に処理を進める。
【0056】
S2では、制御部6は、大気吸気弁14a、空気循環弁38a、およびカソード出口弁26aを開き、過給機16を作動させ、空気循環三方弁40aの空気排出経路26の下流側の弁を閉じ、空気循環経路40側の弁を開き、第1窒素供給三方弁36aの空気循環経路40側の弁を開き、窒素供給経路36の下流側の弁を閉じる(以下明細書および図3において、この制御を酸素富化空気循環制御と記す)。制御部6は、このようにカソード12bと、空気循環経路40、酸素富化モジュール34、および酸素供給経路38を連通させ、酸素富化モジュール34を通過した酸素富化空気を、カソード12bに供給し、S3に処理を進める。
【0057】
S3では、制御部6は、モジュール内酸素濃度センサ42からモジュール内酸素濃度Oc1を取得し、モジュール内酸素濃度Oc1が第1所定酸素濃度OT1以上か否か判断する(S3)。制御部6は、モジュール内酸素濃度Oc1が第1所定酸素濃度OT1以上の場合(S3 Yes)、酸素富化モジュール34が機能していると判断して、S4に処理を進める。
【0058】
S4では、制御部6は、大気吸気弁14aを閉じる。このように、制御部6は、大気吸気弁14aを閉じることで、循環する酸素富化空気に大気中の空気が混入することを防止する。これによって、制御部6は、酸素富化空気の酸素濃度が、低下することを防止できる。制御部6は、大気吸気弁14aを閉じると、S5に処理を進める。
【0059】
S5では、制御部6は、モジュール内酸素濃度センサ42およびモジュール内窒素濃度センサ44から、モジュール内酸素濃度Oc1およびモジュール内窒素濃度Nc1を取得する。制御部6は、モジュール内酸素濃度Oc1が第2所定酸素濃度OT2以上、かつ、モジュール内窒素濃度Nc1が第1所定窒素濃度NT1以上か否か判断する。
【0060】
制御部6は、モジュール内酸素濃度Oc1が第2所定酸素濃度OT2以上、かつ、モジュール内窒素濃度Nc1が第1所定窒素濃度NT1以上の場合(S5 Yes)、アノード12aに窒素を供給できる状態と判断して、S6に処理を進める。
【0061】
S6では、制御部6は、過給機16を停止し、空気循環弁38aを閉じ、第1窒素供給三方弁36aの空気循環経路40側の弁を閉じ、窒素供給経路36の下流側の弁を開き、窒素供給経路36の上流と下流を連通する。制御部6は、第2窒素供給三方弁36bの、燃料ガス循環経路18の第2水素循環三方弁18b側の弁を閉じ、燃料ガス循環経路18側の弁を開き、窒素供給経路36と燃料ガス循環経路18の下流側を連通する。制御部6は、第1水素循環三方弁18aの燃料ガス供給経路20の上流側の弁を閉じ、燃料ガス循環経路18側の弁を開き、燃料ガス循環経路18と燃料ガス供給経路20の下流側(アノード12a側)を連通する。制御部6は、第2水素循環三方弁18bの燃料ガス排出経路24の下流側の弁を開き、燃料ガス循環経路18側の弁を閉じ、燃料ガス排出経路24と大気を連通する。そして、制御部6は水素循環システム18cを作動させ、酸素富化モジュール34の上流室34bに充満した窒素富化空気を燃料ガス循環経路18に引き込み、アノード12aに窒素を供給する(以下明細書および図3において、この制御を窒素富化空気供給制御と記す)。また、この状態では、制御部6は、空気循環三方弁40aの空気循環経路40側の弁を開き、空気排出経路26の下流側の弁を閉じカソード12bの酸素富化空気が排気されないようにする。制御部6は窒素供給制御を行ったのち、S7に処理を進める。
【0062】
S7では、制御部6は、アノード内窒素濃度センサ30からアノード12a内の窒素濃度Nc2を取得する。制御部6は、アノード12a内の窒素濃度Nc2が通常の空気に含まれる窒素濃度である通常窒素濃度NRより大きいか否か判断する。制御部6は、アノード12a内の窒素濃度Nc2が通常の空気に含まれる窒素濃度である通常窒素濃度NRより大きい場合(S7 Yes)、窒素富化空気が問題なくアノード12aに供給されているとして、S8に処理を進める。
【0063】
S8では、制御部6は、第2窒素供給三方弁36bは、窒素供給経路36側の弁を閉じ、窒素供給経路36と燃料ガス循環経路18との接続を遮断する。また、制御部6は、第2水素循環三方弁18bの燃料ガス排出経路24の下流側の弁を閉じ、燃料ガス循環経路18側の弁を開き、燃料ガス排出経路24と燃料ガス循環経路18を連通する。制御部6は、このようにして、アノード12a、燃料ガス循環経路18、燃料ガス供給経路20の第1水素循環三方弁18aよりも下流側、および燃料ガス排出経路24の第2水素循環三方弁18bよりも上流側で構成される閉じられた経路の中に、窒素富化空気と密閉する(以下明細書および図3において、この制御を窒素富化空気密閉制御と記す)。これによって、制御部6は、アノード12a内の窒素富化空気の窒素濃度が低下することを防止する。また、これによって、酸素富化空気循環制御の間、酸素富化モジュール34から窒素が流出し、酸素富化モジュール34内の窒素富化空気の窒素濃度が低下することも防止できる。制御部6は、窒素富化空気密閉制御を行った後、S9に処理を進める。
【0064】
S9では、制御部6は、再び酸素富化空気循環制御を行う。制御部6は、酸素富化空気循環制御を行った後、S10に処理を進める。
【0065】
S10では、制御部6は、モジュール内酸素濃度Oc1が第3所定酸素濃度OT3以上、かつ、モジュール内窒素濃度Nc1が第2所定窒素濃度NT2以上であるか否か判断する。ここで、第3所定酸素濃度OT3は第2所定酸素濃度OT2よりも濃い濃度である。また、第2所定窒素濃度NT2は、第1所定窒素濃度NT1よりも濃い濃度である。このように制御部6は、酸素富化空気循環制御を繰り返し行うことで、モジュール内酸素濃度Oc1およびモジュール内窒素濃度Nc1を上昇させる。制御部6は、モジュール内酸素濃度Oc1が第3所定酸素濃度OT3以上、かつ、モジュール内窒素濃度Nc1が第2所定窒素濃度NT2以上である場合(S10 Yes)、S11に処理を進める。
【0066】
S11では、制御部6は、再び窒素富化酸素供給制御を行う。制御部6は、窒素富化酸素供給制御を行ったのち、S12に処理を進める。
【0067】
S12では、制御部6は、圧力センサ28からアノード12aの圧力Pnおよびカソード12b内の圧力Pоを取得する。制御部6は、アノード12aの圧力Pnが所定圧力Pnt以下か否か判断する。また、制御部6は、カソード12b内の圧力Pоが所定圧力Pot以下か判断する。制御部6は、アノード12aの圧力Pnが所定圧力Pnt以下、かつ、カソード12b内の圧力Pоが所定圧力Pot以下の場合(S12 Yes)、S12に処理を進める。
【0068】
S13では、制御部6は、アノード内窒素濃度センサ30からアノード12a内の窒素濃度Nc2を取得する。制御部6は、アノード12a内の窒素濃度Nc2が第3所定窒素濃度NT3以上か否か判断する。制御部6は、アノード12a内の窒素濃度Nc2が第3所定窒素濃度NT3以上である場合(S13 Yes)、アノード12a内の窒素濃度が上昇している判断して、S14に処理を進める。
【0069】
S14では、制御部6は、アノード内窒素濃度センサ30からアノード12a内の窒素濃度Nc2を取得する。また、制御部6は、カソード内酸素濃度センサ32からカソード12b内の酸素濃度Oc2を取得する。制御部6は、アノード12a内の窒素濃度Nc2が目標窒素濃度NF以上か否か判断する。同様に、制御部6は、カソード12b内の酸素濃度Oc2が目標酸素濃度OF以上か否か判断する。制御部6は、アノード12a内の窒素濃度Nc2が目標窒素濃度NF以上、かつ、カソード12b内の酸素濃度Oc2が目標酸素濃度OF以上の場合(S14 Yes)、アノード12aおよびカソード12bの両方が、燃料電池スタック12の劣化を防止できる酸素濃度および窒素濃度である判断し、S15に処理を進める。
【0070】
S15では、制御部6は、燃料電池スタック12始動するため、高圧水素をアノード12aに供給する。制御部6は、第1水素循環三方弁18aの燃料ガス循環経路18側の弁を閉じ、燃料ガス供給経路20の上流側の弁を開き、燃料ガス供給経路20の上流と下流を連通し、水素をアノード12aに供給する。制御部6は、第2水素循環三方弁18bの燃料ガス循環経路18側の弁を閉じ、燃料ガス排出経路24の下流側の弁を開き、燃料ガス排出経路24の上流と下流を連通する。これによって、制御部6は、アノード12aの下流と大気を接続し、水素を導入しやすくする。このとき、制御部6は、駆動用電池10の充電率SOCを再度取得し、燃料電池スタック12を始動すべき充電率か否か判断してもよい。
【0071】
さらに、制御部6は、大気吸気弁14aを開き、大気中の空気を導入する。また、制御部6は、空気循環三方弁40aの空気循環経路40側の弁を閉じ、空気排出経路26の下流側の弁を開き、空気排出経路26の上流と下流を連通し、酸素富化空気の循環を停止する。制御部6は、カソード出口弁26aについては、燃料電池スタック12の運転状況に合わせて適宜開く。制御部6は、このように各種弁を制御して燃料電池スタック12を始動する。制御部6は、燃料電池スタック12を始動すると、処理を最初に戻す。
【0072】
制御部6は、駆動用電池10の充電率(SOC)が目標充電率Bt未満の場合(S1 NO)、S1の前に処理を戻し、充電率(SOC)が目標充電率Btとなるまで処理を進めない。また、制御部6は、モジュール内酸素濃度Oc1が第1所定酸素濃度OT1未満の場合(S3 NO)、S2の前に処理を戻し、酸素富化空気循環制御を継続する。
【0073】
制御部6は、モジュール内酸素濃度Oc1が第2所定酸素濃度OT2未満、または、モジュール内窒素濃度Nc1が第1所定窒素濃度NT1未満の場合(S5 NO)、S16に処理を進める。制御部6は、モジュール内酸素濃度Oc1が第2所定酸素濃度OT2以上、かつ、モジュール内窒素濃度Nc1が第1所定窒素濃度NT1以上となるまで大気吸気弁14aは閉じた状態で酸素富化空気循環制御を継続する。
【0074】
制御部6は、アノード12a内の窒素濃度Nc2が通常窒素濃度NR以下の場合(S7 NO)、S6の前に処理を戻し、窒素濃度Nc2が通常窒素濃度NRより大きくなるまで窒素富化空気供給制御を続ける。
【0075】
制御部6は、モジュール内酸素濃度Oc1が第3所定酸素濃度OT3未満、または、モジュール内窒素濃度Nc1が第2所定窒素濃度NT2未満である場合(S10 NO)、モジュール内酸素濃度Oc1が第3所定酸素濃度OT3以上、かつ、モジュール内窒素濃度Nc1が第2所定窒素濃度NT2以上となるまで、酸素富化空気循環制御を続ける。
【0076】
制御部6は、アノード12aの圧力Pnが所定圧力Pnt以上、または、カソード12b内の圧力Pоが所定圧力Pot以上の場合(S12 NO)、S17に処理を進める。
【0077】
S17では、制御部6は、第2水素循環三方弁18bの燃料ガス排出経路24下流側の弁を開き、燃料ガス循環経路18側の弁を閉じ、アノード12aの下流と大気を連通させる。また、制御部6は、空気循環三方弁40aの空気排出経路26下流側の弁を開き、空気循環経路40側の弁を閉じ、カソード12bの下流と大気を連通させる(図3において、この制御を圧抜き制御と記す)。これによって、アノード12a内の窒素富化空気が燃料ガス排出経路24を経由して、大気に排出される。また、カソード12b内の酸素富化空気が空気排出経路26を経由して、大気に排出される。このため、アノード12a内およびカソード12b内の圧力が低下する。この結果、燃料電池スタック12の故障を防止できる。
【0078】
制御部6は、アノード12a内の窒素濃度Nc2が第3所定窒素濃度NT3未満である場合(S13 NO)、S8の前に処理を戻す。制御部6は、このように窒素富化空気密閉制御、酸素富化空気循環制御、および、窒素富化空気供給制御を繰り返す。
【0079】
また、制御部6は、アノード12a内の窒素濃度Nc2が目標窒素濃度NF未満、また、カソード12b内の酸素濃度Oc2が目標酸素濃度OF未満の場合(S14 No)、アノード12a内の窒素濃度Nc2が目標窒素濃度NF以上、かつ、カソード12b内の酸素濃度Oc2が目標酸素濃度OF以上となるまで、窒素富化空気密閉制御、酸素富化空気循環制御、および、窒素富化空気供給制御を繰り返す。
【0080】
制御部6が上記のとおり制御を行うことで、カソード12bに供給される酸素富化空気は、酸素富化モジュール34を繰り返し通過して循環する。酸素富化空気は、酸素富化モジュール34を繰り返し通過することによって酸素濃度が上昇すると同時に、酸素富化モジュール34の窒素濃度も上昇する。これによって、制御部6は、アノード12aに供給する窒素富化空気の窒素濃度およびカソード12bに供給する酸素富化空気の酸素濃度を、目標となる濃度まで上昇させることができる。このため、アノード12aに供給する窒素富化空気の窒素濃度およびカソード12bに供給する酸素富化空気の酸素濃度が、安定する。この結果、燃料電池スタック12の触媒劣化を抑制しやすい。このような、触媒劣化の効果は、カソード12bの触媒がセラミックス系材料からなる担体の場合により顕著である。
【0081】
さらに、本実施形態の燃料電池システム1では、酸素富化空気循環制御において、燃料電池装置2の過給機16を用いて酸素富化空気を循環させる。また、窒素富化空気供給制御において、燃料電池装置2の燃料ガス循環経路18および水素循環システム18cを用いて窒素富化空気をアノード12aに供給する。これによって、これら制御のために新たな圧送装置を用いる必要がない。このため、酸素富化モジュール34によって分離される窒素と酸素を燃料電池スタック12の劣化抑制に活用しながらも、コンパクトかつ低コストである燃料電池システム1を提供できる。
【0082】
また、本実施形態の燃料電池システム1は、レンジエクステンダー型プラグイン燃料電池自動車(PFCV)等の車両に搭載される。このため、本実施形態の燃料電池システム1は、燃料電池スタック12を始動させる前に、窒素富化空気密閉制御、酸素富化空気循環制御、および、窒素富化空気供給制御を行うことができる。これによって、燃料電池スタック12を始動させる前に、アノード12aに供給する酸素富化空気の酸素濃度、およびカソード12bに供給する窒素富化空気の窒素濃度を、目標濃度まで高めることができる。
【0083】
以上説明したとおり、本開示によれば、酸素富化モジュール34によって分離される窒素と酸素を燃料電池スタック12の劣化抑制に活用できる燃料電池システム1を提供できる。
【0084】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0085】
(a)上記実施形態では、カソード12bの電極触媒に用いる担体としてセラミックス系材料の酸化スズ用いたが、本開示はこれに限定されるものではない。セラミックス系材料であれば公知の電極材料を用いることができる。また、担体に用いるセラミックス系材料としては、雰囲気中の水蒸気を吸着できる等の理由から親水性を有するセラミックスを用いるのが好ましい。このようなセラミックスとしては、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ニオブ、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどがある。
【0086】
(b)上記実施形態では、アノード12aの電極触媒として、カーボン系材料からなる担体、もしくは、酸化スズ(SnO)などのセラミックス系材料からなる担体に、白金(Pt)系材料からなる触媒を担持した電極触媒を用いたが、本開示はこれに限定されるものではない。アノード12aの電極触媒は、公知の電極材料を用いることができる。
【0087】
(c)上記実施形態では、制御部6は、充電率SOCが目標充電率Btとなった場合、酸素富化空気循環制御を行う例を用いて説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。制御部6は、燃料電池スタック12が停止中から始動する場合、酸素富化空気循環制御を行ってもよい。
【0088】
(d)上記実施形態では、燃料電池システム1は、レンジエクステンダー型プラグイン燃料電池自動車(PFCV)等の車両に搭載される例を用いて説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。燃料電池システム1は、燃料電池スタック12から直接モータジェネレータ8に電力を供給する車両に搭載されてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1:燃料電池システム,2:燃料電池装置,4:酸素富化装置,6:制御部
12:燃料電池スタック,12a:アノード,12b:カソード
14:空気供給経路,14a:大気吸気弁(封鎖弁の一例)
18:燃料ガス循環経路,26:空気排出経路,28:圧力センサ(圧力検知部の一例)
30:アノード内窒素濃度センサ(窒素濃度検知部の一例)
32:カソード内酸素濃度センサ(酸素濃度検知部の一例)
34:酸素富化モジュール,36:窒素供給経路
36b:第2窒素供給三方弁(遮断弁の一例),38:酸素供給経路,
40:空気循環経路,
OF:目標酸素濃度,NF:目標窒素濃度
Pn:アノード内の圧力 Po:カソード内の圧力
Pnt :所定圧力,Pot :所定圧力
図1
図2
図3