(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240709BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20240709BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240709BHJP
【FI】
B32B27/00 101
C09D183/04
C09D7/20
(21)【出願番号】P 2020063947
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲爾
(72)【発明者】
【氏名】桂 大詞
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-161411(JP,A)
【文献】特開2012-097171(JP,A)
【文献】特開2004-292754(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140146(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
C09D 183/04
C09D 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンセン溶解度パラメーターに関するδPおよびδHが以下の関係式を満たす親水基含有炭化水素基を有するシランおよび/またはその誘導体を含む、吸湿膜形成用塗料組成物を、透明体に対して、塗布し
て塗布面を形成し、前記透明体を、その前記塗布面が基体と接触するように、基体に対して積層した後、光の照射を前記透明体側から行うことにより、前記塗料組成物を基体に転写および硬化させて吸湿膜を形成する、積層体の製造方法:
3≦δP≦15;および
3≦δH≦40。
【請求項2】
ハンセン溶解度パラメーターに関するδPおよびδHが以下の関係式を満たす親水基含有炭化水素基を有するシランおよび/またはその誘導体を含む、吸湿膜形成用塗料組成物を、基体に対して、蒸着法で蒸着させた後、120℃以上の加熱または光の照射により、前記塗料組成物を硬化させて吸湿膜を形成する、積層体の製造方法:
3≦δP≦15;および
3≦δH≦40。
【請求項3】
前記シランは、下記一般式(Ia):
【化1】
[式(Ia)中、R
1は、下記一般式(i)~(vi)で表される親水基含有炭化水素基からなる群から選択される1価の有機基である;
R
2は1価の炭化水素基である;
R
101は水素原子または1価の炭化水素基である;
aは1または2の整数である;
bは0~2の整数である;
aとbとの和は3以下の整数である]
で表されるシラン(Ia)を含む、請求項1または2に記載の積層体の製造方法:
【化2】
[式(i)~(vi)中、R
11、R
12、R
21、R
41、R
51およびR
52は、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される1価の親水基である;
R
31は、それぞれ独立して、イミノ基、ケトン基、およびエーテル基からなる群から選択される2価の親水基である;
R
61は1価の炭化水素基である;
A
-はアニオンである;
n1およびn5は、それぞれ独立して、1~10の整数である;
n2、n3、n4、n6およびn7は、それぞれ独立して、0~10の整数である;
式(i)~(iii)の*は結合手を有し得る炭素原子を表す;1分子中、*を有する炭素原子が1つ存在する場合、当該炭素原子が前記
シランのケイ素原子と直接的に結合する;1分子中、*を有する炭素原子が2つ以上で存在する場合、当該炭素原子のうちいずれか1つの炭素原子が前記
シランのケイ素原子と直接的に結合する;
式(iv)~(vi)の*は結合手を有し得る窒素原子を表す;*を有する窒素原子は前記
シランのケイ素原子と直接的に結合する]。
【請求項4】
前記吸湿膜形成用塗料組成物は、該塗料組成物から形成されるポリシロキサンが下記一般式(I)で表されるシロキサン単位(I)を、前記ポリシロキサンを構成する全シロキサン単位に対して20モル%以上で含むような量で、前記シラン(Ia)および/またはその誘導体を含む、請求項3に記載の積層体の製造方法:
【化3】
[式(I)中、R
1は、前記一般式(i)~(vi)で表される親水基含有炭化水素基からなる群から選択される1価の有機基である;
R
2は1価の炭化水素基である;
aは1または2の整数である;
bは0~2の整数である;
aとbとの和は3以下の整数である]。
【請求項5】
前記吸湿膜形成用塗料組成物は、下記一般式(IIa):
【化4】
[式(IIa)中、R
3は1価の炭化水素基である;
R
201は水素原子または1価の炭化水素基である;
cは3以下の整数である]
で表されるシラン(IIa)をさらに含む、請求項3または4に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記塗料組成物は60~160℃の沸点を有する溶媒をさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒は少なくとも1種類以上の極性有機溶剤または水を含む、請求項6に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記吸湿膜形成用塗料組成物は、酸化防止剤、UV吸収剤、IR吸収剤、レベリング剤、無機粒子、有機粒子および重合開始剤からなる群から選択される1種類以上の添加剤をさらに含む、請求項1~7のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記基体は1GPa以上のヤング率を有し、
前記基体および前記吸湿膜は、基体厚み/吸湿膜の厚み≧10の関係式を満たす、請求項1~8のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記積層体は2%以下のヘイズおよび75%以上の可視光透過率を示す、請求項1~9のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記積層体は車両用ウィンドウ部材として使用される、請求項1~10のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体およびその製造方法ならびに吸湿膜形成用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、自動車、トラック、バスおよび電車等の車両において、省エネルギーの観点から、窓等の部材に結露を起こさせない防曇技術が求められている。防曇技術においては、窓等の部材に吸湿膜を形成することにより、結露しようとする水分を吸湿膜内に吸収させ、結果として防曇を達成する。
【0003】
このような吸湿膜としては、例えば、吸水性樹脂層形成用組成物を反応させて得られる硬化エポキシ樹脂を主として含む吸水性樹脂層(特許文献1)、およびポリビニルアセタール樹脂を含む吸水性樹脂層(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2013/183441
【文献】特開2012-117025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明の発明者等は、従来の吸湿膜では以下の問題が生じることを見い出した。
従来の吸湿膜を構成するポリマーは炭素骨格を有するため、傷が付き易く、吸湿膜は耐傷付性に劣った。耐傷付性を向上させるために、架橋密度を上げる、フィラーを添加するなどの解決手段が考えられるが、このような解決手段を施すと、吸湿性が低下した。
【0006】
そこで、吸湿性および耐傷付性の観点から、シランを含むシラン系塗料組成物を用いて、従来の方法により、ポリシロキサン骨格を有する吸湿膜を製造したところ、当該塗料組成物に沈殿が生じたり、得られた吸湿膜にハジキが生じたりする、という新たな問題が生じた。
【0007】
本発明は、吸湿性および耐傷付性の両方に十分に優れた吸湿膜を有する積層体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、吸湿膜の製造時において塗料組成物の沈殿や吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止することができる、吸湿性および耐傷付性の両方に十分に優れた吸湿膜を有する積層体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
基体および該基体の表面に形成された吸湿膜を有する積層体であって、
前記吸湿膜は、ハンセン溶解度パラメーターに関するδPおよびδHが以下の関係式を満たす親水基含有炭化水素基を有するポリシロキサンを含む、積層体に関する:
3≦δP≦15;および
3≦δH≦40。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吸湿性および耐傷付性の両方に十分に優れた吸湿膜を有する積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例において吸湿膜を製造するための操作方法を説明するためのフロー図を示す。
【
図2】実施例A2の積層体を用いたスクラッチ試験において、スクラッチ距離と押し込み深さとの関係を、スクラッチ中とスクラッチ後とで示すグラフである。
【
図3】比較例1の積層体を用いたスクラッチ試験において、スクラッチ距離と押し込み深さとの関係を、スクラッチ中とスクラッチ後とで示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[積層体]
本発明の積層体は、基体および当該基体の少なくとも一部の表面に形成された吸湿膜を有する。吸湿膜は基体の一部の表面に形成されていてもよいし、基体の片面全面に形成されていていもよいし、または基体の全表面に形成されていてもよい。
【0013】
基体は、吸湿膜を形成可能な限り、特に限定されない。基体は、例えば、無機材料から構成されていてもよいし、有機材料から構成されていてもよいし、または無機材料と有機材料との複合材料から構成されていてもよい。
【0014】
無機材料は、特に限定されず、あらゆる無機材料であってもよい。無機材料として、例えば、ガラス、金属、セラミックス等が挙げられる。
【0015】
有機材料は、特に限定されず、あらゆる熱硬化性ポリマーおよび/または熱可塑性ポリマーであってもよい。吸湿膜形成時の耐熱性の観点からは通常、熱硬化性ポリマーが使用される。
【0016】
熱硬化性ポリマーとしては、熱硬化性を有するあらゆるポリマーが使用可能である。例えば、以下のポリマーおよびそれらの混合物が挙げられる:
フェノール樹脂;
エポキシ樹脂;
メラミン樹脂;および
尿素樹脂。
【0017】
熱可塑性ポリマーとしては、熱可塑性を有するあらゆるポリマーが使用可能である。例えば、以下のポリマーおよびそれらの混合物が挙げられる:
ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂およびそれらの変性物;
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリ乳酸(PLA)などのポリエステル系樹脂;
ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)などのポリアクリレート系樹脂;
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンエーテル(PPE)などのポリエーテル系樹脂;
ポリアセタール(POM);
ポリフェニレンサルファイド(PPS);
PA6、PA66、PA11、PA12、PA6T、PA9T、MXD6などのポリアミド系樹脂(PA);
ポリカーボネート系樹脂(PC);
ポリウレタン系樹脂;
フッ素系ポリマー樹脂;および
液晶ポリマー(LCP)。
【0018】
基体は、吸湿膜形成時の焼成に対する耐熱性の観点から、無機材料および/または熱硬化性ポリマーから構成されていることが好ましく、無機材料から構成されていることがより好ましい。
【0019】
基体は、吸湿膜の硬化収縮に対する機械的強度の観点から、1GPa以上のヤング率を有することが好ましい。基体のヤング率の上限値は特に限定されない。
【0020】
本明細書中、ヤング率はISO14577に準拠して測定された値を用いている。
【0021】
基体は、吸湿膜の硬化収縮に対する機械的強度の観点から、基体の厚み/吸湿膜の厚み≧10の関係式を満たすことが好ましく、より好ましくは基体の厚み/吸湿膜の厚み≧100の関係式を満たす。
【0022】
基体の厚みは通常、100μm以上であり、好ましくは500μm以上、より好ましくは1000μm以上である。基体の厚みの上限値は特に限定されず、基体の厚みは、例えば10cm以下であってもよい。
【0023】
吸湿膜は、ハンセン溶解度パラメータに関するδPおよびδHが以下の関係式のそれぞれを満たす親水基含有炭化水素基を有するポリシロキサンを含む:
3≦δP≦15;および
3≦δH≦40。
【0024】
ポリシロキサンが有する親水基含有炭化水素基のハンセン溶解度パラメータに関するδPおよびδHは、吸湿性のさらなる向上の観点から、水のハンセン溶解度パラメータに関するδP(16(J/cm3)1/2、)およびδH(42.3(J/cm3)1/2)それぞれに近似していることが好ましい。
【0025】
ポリシロキサンが有する親水基含有炭化水素基のδPまたはδHの少なくとも一方が小さすぎると、親水基を有していたとしても、親水基含有炭化水素基全体としての水との親和性が低下するため、吸湿膜の吸湿性が低下する。
ポリシロキサンが有する親水基含有炭化水素基のδPまたはδHの少なくとも一方が大きすぎると、吸湿膜の製造時において、シランの加水分解反応および脱水縮合反応の暴走が起こり、吸湿膜の製造が困難となる。
【0026】
ポリシロキサンが有する親水基含有炭化水素基のδPは、吸湿膜の吸湿性と耐傷付性のさらなる向上、ならびにポリシロキサン合成時の沈殿および吸湿膜形成時のハジキの防止の観点から、好ましくは4~15(J/cm3)1/2
、より好ましくは5~15(J/cm3)1/2、さらに好ましくは10~15(J/cm3)1/2
、最も好ましくは12~15(J/cm3)1/2である。
【0027】
ポリシロキサンが有する親水基含有炭化水素基のδHは、吸湿膜の吸湿性と耐傷付性のさらなる向上、ならびにポリシロキサン合成時の沈殿および吸湿膜形成時のハジキの防止)の観点から、好ましくは4~40(J/cm3)1/2
、より好ましくは10~30(J/cm3)1/2、さらに好ましくは15~30(J/cm3)1/2
、最も好ましくは26~29(J/cm3)1/2である。
【0028】
ハンセン溶解度パラメータ(HSP:Hansen Solubility parameters)(δ)は、分散力項(δD)(分散力によるエネルギー)、極性項(δP)(双極子相互作用によるエネルギー)および水素結合項(δH)(水素結合によるエネルギー)の3成分に基づいて、物質の極性(例えば溶解性)を考慮したパラメータであり、「δ2=(δD)2+(δP)2+(δH)2」の関係を有する。本発明においては、水に関する吸湿性の観点から、ポリシロキサンが有する親水基含有炭化水素基のδPおよびδHに着目することにより、吸湿性および耐傷付性に優れた吸湿膜を見い出したものである。このとき、ポリシロキサンにおいて、親水基含有炭化水素基を有するシロキサン単位(特に後述のシロキサン単位(I))の含有量にさらに着目することにより、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性が向上するだけでなく、吸湿膜の製造時において塗料組成物の沈殿や吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止できることを見い出したものである。従って、本発明における吸湿膜の吸湿性および耐傷付性に関する効果は本発明が必ず奏する効果であるが、吸湿膜の製造時における塗料組成物の沈殿や吸湿膜のハジキの防止効果は本発明が必ずしも奏さなければならない効果というわけではなく、本発明が奏さなくてもよい効果であって、本発明が奏することが好ましい効果である。
【0029】
親水基含有炭化水素基のハンセン溶解度パラメータに関するδPおよびδHは、詳しくは、当該親水基含有炭化水素基においてシロキサン骨格のケイ素原子と結合する結合手が、当該ケイ素原子の代わりに、水素原子と結合した親水基含有炭化水素化合物のハンセン溶解度パラメータに関するδPおよびδHを用いている。なお、親水基含有炭化水素基においてシロキサン骨格のケイ素原子と結合する原子は炭素原子または窒素原子である。このような親水基含有炭化水素化合物のハンセン溶解度パラメータに関するδPおよびδHは以下の条件により算出される値を用いている:
パソコンソフト:HSPiP(Hansen Solubility parameters)ver.5
【0030】
親水基含有炭化水素基は、親水基を含有する炭化水素基のことであり、炭化水素基を含有する親水基であってもよい。親水基含有炭化水素基は、ポリシロキサンが有するシロキサン骨格(特に当該骨格を構成するケイ素原子)に直接的に結合する側鎖基(特にその全体)であり、シロキサン骨格のケイ素原子と結合する原子は炭素原子であってもよいし、または窒素原子であってもよい。このように、ポリシロキサンは親水基を、ハンセン溶解度パラメータに関する所定のδPおよびδHを有する親水基含有炭化水素基の形態で有することにより、親水基の触媒作用(すなわちシロキサン結合形成のための脱水縮合反応の反応性)が適度に低下する。その結果、親水基の消費が有意に抑制されるため、吸湿膜の吸湿性が向上する。またポリシロキサンはシロキサン骨格を有するため、耐傷付性が向上する。例えば、吸湿膜を構成するポリマーが、ポリシロキサン(すなわちシロキサン骨格)の代わりに、炭素骨格を有するポリマー(例えば、硬化エポキシ樹脂、ビニルアセタール樹脂)であると、耐傷付性が低下する。
【0031】
親水基含有炭化水素基は、吸湿膜の吸湿性と耐傷付性のさらなる向上、ならびにポリシロキサン合成時の沈殿および吸湿膜形成時のハジキの防止の観点から、シロキサン骨格のケイ素原子と直接的に結合する原子は炭素原子であることが好ましい。このとき、親水基含有炭化水素基は、少なくとも親水基および当該親水基とシロキサン骨格との間に介在する炭化水素基を含み、親水基は炭化水素基を介してシロキサン骨格のケイ素原子と結合する。親水基含有炭化水素基がその炭素原子でシロキサン骨格のケイ素原子と直接的に結合することにより、親水基の触媒作用(すなわちシロキサン結合形成のための脱水縮合反応の反応性)がより適度に低下する。その結果、親水基の消費がより一層、有意に抑制されるため、吸湿膜の吸湿性がより一層、向上するものと考えられる。
【0032】
本明細書中、吸湿性は、吸湿膜が液体または気体の水を吸収し得る特性であり、吸湿膜の吸水率に基づく特性である。吸湿性は、防曇性および調湿性を包含する。防曇性は、吸湿膜への液体または気体の水の吸収により、水の結露を防止する特性である。調湿性は、吸湿膜への液体または気体の水の吸収および吸湿膜が吸収した液体または気体の水の放出により、周囲環境の湿度を調整し得る特性である。
耐傷付性は、吸湿膜が外力によっても塑性変形し難い特性のことであり、単に、硬度が高いことにより傷付き難い特性とは異なる。詳しくは、物体に外力が付与され、変形が起こるとき、一般的には、当該変形は、元に回復し得る弾性変形と元に回復し得ない塑性変形とを含む。本発明の吸湿膜は、外力による塑性変形の少なくとも一部を弾性変形に有意に変換し得る特性を有するため、塑性変形が十分に低減される。
【0033】
親水基は水分子との親和性が比較的良好な官能基のことであり、1価の有機基であってもよいし、または2価の有機基であってもよい。親水基の具体例として、例えば、ヒドロキシル基(すなわち-OH)、アミノ基(すなわち-NH2)、メルカプト基(すなわち-SH)、スルホン酸基(すなわち-SO3H)、カルボキシル基(すなわち-COOH)等の1価親水基;およびイミノ基(すなわち-NH-)、ケトン基(すなわち-CO-)、およびエーテル基(すなわち-O-)等の2価親水基が挙げられる。
【0034】
親水基含有炭化水素基が親水基および当該親水基とシロキサン骨格との間に介在する炭化水素基を含む場合、当該炭化水素基は、親水基とシロキサン骨格のケイ素原子とを連結するための2価の連結基(以下、単に「連結型炭化水素基」ということがある)である。連結型炭化水素基は、2価飽和または不飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、または2価芳香族炭化水素基であってもよく、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基または2価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基である。2価飽和脂肪族炭化水素基の具体例として、例えば、炭素原子数1~10、好ましくは1~7、より好ましくは1~5の直鎖状および分岐状アルキレン基が挙げられる。2価不飽和脂肪族炭化水素基の具体例として、例えば、炭素原子数1~10、好ましくは1~7、より好ましくは1~5の直鎖状および分岐状アルケニレン基が挙げられる。2価芳香族炭化水素基の具体例として、例えば、炭素原子数6~14、好ましくは6~10、より好ましくは6のアリーレン基が挙げられる。
【0035】
親水基含有炭化水素基の具体例として、下記一般式(i)~(vi)で表される親水基含有炭化水素基が挙げられる。好ましくは下記一般式(i)および(iv)~(vi)で表される親水基含有炭化水素基、より好ましくは下記一般式(i)で表される親水基含有炭化水素基である。
【0036】
【0037】
式(i)~(iii)の*は結合手を有し得る炭素原子を表す。1分子中、*を有する炭素原子が1つ存在する場合、当該炭素原子がシロキサン骨格のケイ素原子と直接的に結合する。1分子中、*を有する炭素原子が2つ以上で存在する場合、当該炭素原子のうちいずれか1つの炭素原子がシロキサン骨格のケイ素原子と直接的に結合する。シロキサン骨格のケイ素原子と直接的に結合する炭素原子は、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、親水基とも直接的に結合していることが好ましい。
式(iv)~(vi)の*は結合手を有し得る窒素原子を表す。*を有する窒素原子は前記シロキサン単位のケイ素原子と直接的に結合する。
式(i)~(vi)中、R11、R12、R21、R41、R51およびR52は、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される1価の親水基であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくはヒドロキシル基およびアミノ基であり、より好ましくはヒドロキシル基である。
R31は、それぞれ独立して、イミノ基、ケトン基、およびエーテル基からなる群から選択される2価の親水基であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくはイミノ基である。
R61は1価の炭化水素基である。R61は、詳しくは、1価飽和または不飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、または1価芳香族炭化水素基であってもよく、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは1価飽和脂肪族炭化水素基である。1価飽和脂肪族炭化水素基として、例えば、炭素原子数1~10、好ましくは1~7、より好ましくは1~5、さらに好ましくは1~3の直鎖状および分岐状アルキル基(特に直鎖状アルキル基)が挙げられる。このようなアルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。1価不飽和脂肪族炭化水素基として、例えば、炭素原子数2~10、好ましくは2~7、より好ましくは2~5、さらに好ましくは2~3の直鎖状および分岐状アルケニル基が挙げられる。このようなアルケニル基の具体例として、例えば、ビニル基等が挙げられる。1価芳香族炭化水素基として、例えば、炭素原子数6~14、好ましくは6~10、より好ましくは6のアリール基が挙げられる。このようなアリール基の具体例として、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。当該複数のR61は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
n1およびn5は、それぞれ独立して、1~10の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~7の整数であり、より好ましくは1~5の整数である。
n2、n3、n4、n6およびn7は、それぞれ独立して、0~10の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは0~7の整数であり、より好ましくは0~5の整数である。
A-はアニオンである。アニオンは1価のアニオンであり、例えば、Cl-,NO3
-,SO4
-,PO4
-等であってもよい。好ましいアニオンはCl-である。
【0038】
式(i)中、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは以下の通りである:
R11およびR12は、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される1価の親水基であり、好ましくはヒドロキシル基およびアミノ基であり、より好ましくはヒドロキシル基である;R11およびR12は同じ基であることが好ましい;
n1は、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~3の整数である。
【0039】
式(i)の親水基含有炭化水素基の具体例を以下に示す。なお、以下の具体例においても、式(i)~(iii)においてと同様に、*は結合手を有し得る炭素原子を表す。1分子中、*を有する炭素原子が1つ存在する場合、当該炭素原子がシロキサン骨格のケイ素原子と直接的に結合する。1分子中、*を有する炭素原子が2つ以上で存在する場合、当該炭素原子のうちいずれか1つの炭素原子がシロキサン骨格のケイ素原子と直接的に結合する。後述する式(ii)~(iii)の親水基含有炭化水素基の具体例においても同様に、*は結合手を有し得る炭素原子を表す。
【0040】
【0041】
上記親水基含有炭化水素基(i-1)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが13.5(J/cm3)1/2であり、δHが27.4(J/cm3)1/2である。
【0042】
式(ii)中、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは以下の通りである:
R21は、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される1価の親水基であり、好ましくはヒドロキシル基およびアミノ基であり、より好ましくはヒドロキシル基である;
n2は、好ましくは0~5の整数、より好ましくは0~3の整数である。
【0043】
式(ii)の親水基含有炭化水素基の具体例を以下に示す。
【0044】
【0045】
上記親水基含有炭化水素基(ii-1)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが6.3(J/cm3)1/2であり、δHが10.0(J/cm3)1/2である。
上記親水基含有炭化水素基(ii-2)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが9.3(J/cm3)1/2であり、δHが17.2(J/cm3)1/2である。
上記親水基含有炭化水素基(ii-3)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが6.2(J/cm3)1/2であり、δHが6.3(J/cm3)1/2である。
上記親水基含有炭化水素基(ii-4)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが5.9(J/cm3)1/2であり、δHが13(J/cm3)1/2である。
【0046】
式(iii)中、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは以下の通りである:
R31は、イミノ基、ケトン基、およびエーテル基からなる群から選択される2価の親水基であり、好ましくはケトン基、またはエーテル基である;
n3およびn4は、それぞれ独立して、好ましくは0~5の整数、より好ましくは0~3の整数、さらに好ましくは0~1の整数である。
【0047】
式(iii)の親水基含有炭化水素基の具体例を以下に示す。
【0048】
【0049】
上記親水基含有炭化水素基(iii-1)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが9.1(J/cm3)1/2であり、δHが6.5(J/cm3)1/2ある。
上記親水基含有炭化水素基(iii-2)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが5.5(J/cm3)1/2であり、δHが5.0(J/cm3)1/2ある。
【0050】
式(iv)中、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは以下の通りである:
R41は、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される1価の親水基であり、好ましくはヒドロキシル基およびアミノ基であり、より好ましくはアミノ基である;
n5は、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~3の整数である。
【0051】
式(iv)の親水基含有炭化水素基の具体例を以下に示す。なお、以下の具体例においても、式(iv)~(vi)においてと同様に、*は結合手を有し得る窒素原子を表す。*を有する窒素原子はシロキサン骨格のケイ素原子と直接的に結合する。後述する式(v)~(vi)の親水基含有炭化水素基の具体例においても同様に、*は結合手を有し得る窒素原子を表す。
【0052】
【0053】
上記親水基含有炭化水素基(iv-1)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが7.6(J/cm3)1/2であり、δHが15.9(J/cm3)1/2ある。
【0054】
式(v)中、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは以下の通りである:
R51およびR52は、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される1価の親水基であり、好ましくはヒドロキシル基およびアミノ基であり、より好ましくはヒドロキシル基である;R51およびR52は同じ基であることが好ましい;
n6およびn7は、それぞれ独立して、好ましくは0~5の整数、より好ましくは0~3の整数、さらに好ましくは0~1の整数、特に好ましくは1である。
【0055】
式(v)の親水基含有炭化水素基の具体例を以下に示す。
【0056】
【0057】
上記親水基含有炭化水素基(v-1)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが10.4(J/cm3)1/2であり、δHが22.7(J/cm3)1/2ある。
【0058】
式(vi)中、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは以下の通りである;なお、式(vi)の親水基含有炭化水素基はアンモニウム塩基と称され得る基である:
R61は、炭素原子数1~5、好ましくは1~3の直鎖状または分岐状アルキル基(特に直鎖状アルキル基)である;このようなアルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる;当該複数のR61は、それぞれ独立して、選択されてもよい。全てのR61は同じ基であることが好ましい;
A-はアニオンである。アニオンは1価のアニオンであり、例えば、Cl-,NO3
-,SO4
-,PO4
-等であってもよい。好ましいアニオンはCl-である。
【0059】
式(vi)の親水基含有炭化水素基の具体例を以下に示す。
【0060】
【0061】
上記親水基含有炭化水素基(vi-1)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが5.6(J/cm3)1/2であり、δHが4.7(J/cm3)1/2ある。
【0062】
本発明においては、1価の親水基が単独で、上記した親水基含有炭化水素基が有するδPおよびδHを有する場合、上記の親水基含有炭化水素基は当該1価の親水基であってもよい。
例えば、吸湿膜は、δPおよびδHが上記した範囲内の当該1価の親水基を有するポリシロキサンを含んでもよい。
また例えば、後述の式(I)においてR1は、当該1価の親水基であってもよい。
また例えば、塗料組成物は、δPおよびδHが上記した範囲内の当該1価の親水基を有するシランおよび/またはその誘導体を含んでもよい。
また例えば、後述の式(Ia)においてR1は、当該1価の親水基であってもよい。
【0063】
1価の親水基が単独で、上記した親水基含有炭化水素基が有するδPおよびδHを有する場合において、当該1価の親水基としては、例えば、カルボキシル基、およびメルカプト基等が挙げられる。
カルボキシル基について、ハンセン溶解度パラメータはδPが10(J/cm3)1/2であり、δHが14(J/cm3)1/2ある。
メルカプト基について、ハンセン溶解度パラメータはδPが6(J/cm3)1/2であり、δHが10.2(J/cm3)1/2ある。
【0064】
吸湿膜に含まれるポリシロキサンは、詳しくは、下記一般式(I)で表されるシロキサン単位(I)を含む。
【0065】
【0066】
式(I)中、R1は、前記一般式(i)~(vi)で表される親水基含有炭化水素基からなる群から選択される1価の有機基であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは前記一般式(i)および(iv)~(vi)で表される親水基含有炭化水素基であり、より好ましくは前記一般式(i)で表される親水基含有炭化水素基であり、さらに好ましくは前記一般式(i-1)で表される親水基含有炭化水素基である。シロキサン単位(I)が複数のR1を有する場合、当該複数のR1は、それぞれ独立して、上記群から選択されてもよい。一般式(i)における好ましいR11、R12およびn1は、式(i)の説明で上記した好ましいR11、R12およびn1と同様である。
【0067】
R2は1価の炭化水素基である。R2は、詳しくは、1価飽和または不飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、または1価芳香族炭化水素基であってもよく、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは1価飽和脂肪族炭化水素基である。1価飽和脂肪族炭化水素基として、例えば、炭素原子数1~10、好ましくは1~7、より好ましくは1~5、さらに好ましくは1~3の直鎖状および分岐状アルキル基が挙げられる。このようなアルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。1価不飽和脂肪族炭化水素基として、例えば、炭素原子数2~10、好ましくは2~7、より好ましくは2~5、さらに好ましくは2~3の直鎖状および分岐状アルケニル基が挙げられる。このようなアルケニル基の具体例として、例えば、ビニル基、等が挙げられる。1価芳香族炭化水素基として、例えば、炭素原子数6~14、好ましくは6~10、より好ましくは6のアリール基が挙げられる。このようなアリール基の具体例として、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。シロキサン単位(I)が複数のR2を有する場合、当該複数のR2は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
【0068】
aは1または2の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは1である。
bは0~2の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは0~1の整数であり、より好ましくは0である。
aとbとの和は3以下(特に1~3)の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは2以下(特に1または2)の整数、より好ましくは1である。
【0069】
ポリシロキサンは通常、シロキサン単位(I)を、当該ポリシロキサンを構成する全シロキサン単位に対して10モル%以上(すなわち10~100モル%)で含み、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上ならびにポリシロキサン合成時の沈殿および吸湿膜形成時のハジキの防止の観点から、好ましくは20モル%以上(すなわち20~100モル%)、より好ましくは40モル%以上(すなわち40~100モル%)、さらに好ましくは60モル%以上(すなわち60~100モル%)、特に好ましくは70モル%以上(すなわち70~100モル%)、最も好ましくは70~95モル%で含む。ポリシロキサンは上記範囲内で構造の異なる2種以上のシロキサン単位(I)を含んでもよく、その場合、それらの合計含有量が上記範囲内であればよい。なお、仮に、吸湿性および耐傷付性に優れた吸湿膜が得られたとしても、吸湿膜の製造過程で、塗料組成物に沈殿が生じたり、得られた吸湿膜にハジキが生じたりする、という新たな問題が生じることがあった。しかしながら、シロキサン単位(I)を、当該ポリシロキサンを構成する全シロキサン単位に対して40モル%以上とすることにより、このような塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキ発生の問題を十分に抑制することができる。
【0070】
ポリシロキサンにおけるシロキサン単位(I)の含有量は、例えば、以下の方法により、測定することができる;
固体29SiNMR、固体1HNMRなど。
【0071】
ポリシロキサンは、下記一般式(II)で表されるシロキサン単位(II)をさらに含んでもよい。
【0072】
【0073】
式(II)中、R3は1価の炭化水素基である。R3としての1価の炭化水素基は、式(I)におけるR2としての1価の炭化水素基と同様である。好ましいR3は1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または1価飽和脂肪族炭化水素基である。式(II)におけるR3として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基はそれぞれ、式(I)におけるR2として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基と同様である。シロキサン単位(II)が複数のR3を有する場合、当該複数のR3は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
【0074】
cは3以下(すなわち0~3)の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは2以下(すなわち0~2)の整数、より好ましくは1または2、さらに好ましくは2である。
cが2であるシロキサン単位(II)は、「2官能シロキサン単位」と称され得る。
cが1であるシロキサン単位(II)は、「3官能シロキサン単位」と称され得る。
cが0であるシロキサン単位(II)は、「4官能シロキサン単位」と称され得る。
【0075】
ポリシロキサンにおけるシロキサン単位(II)の全シロキサン単位に対する含有量は通常、全シロキサン単位における上記したシロキサン単位(I)の含有量の残部である。ポリシロキサンは上記範囲内で構造の異なる2種以上のシロキサン単位(II)を含んでもよく、その場合、それらの合計含有量が上記範囲内であればよい。
【0076】
ポリシロキサンは、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上ならびにポリシロキサン合成時の沈殿および吸湿膜形成時のハジキの防止の観点から、シロキサン単位(I)とともに、シロキサン単位(II)として2官能シロキサン単位および/または3官能シロキサン単位を含むことが好ましい。この場合、シロキサン単位(I)とシロキサン単位(II)とのモル比率(すなわち、シロキサン単位(I)/シロキサン単位(II))は70/30~100/0、特に75/25~100/0であることが好ましい。
【0077】
ポリシロキサンは、吸湿性および耐傷付性のより一層のさらなる向上ならびにポリシロキサン合成時の沈殿および吸湿膜形成時のハジキの防止の観点から、シロキサン単位(I)とともに、シロキサン単位(II)として2官能シロキサン単位を含むことが好ましい。この場合、シロキサン単位(I)と2官能シロキサン単位とのモル比率(すなわち、シロキサン単位(I)/2官能シロキサン単位)は70/30~95/5、特に75/25~90/10であることが好ましい。
【0078】
吸湿膜は、酸化防止剤、UV吸収剤、IR吸収剤、レベリング剤、無機粒子、有機粒子および重合開始剤からなる群から選択される1種類以上の添加剤を含んでもよい。このような添加剤の含有量は特に限定されず、例えば、各添加剤の含有量は、ポリシロキサンに対して、5質量%以下であってもよい。添加剤の合計含有量は、ポリシロキサンに対して、10質量%以下であってもよい。
【0079】
吸湿膜の厚みは通常、1μm以上であり、好ましくは10μm以上、より好ましくは100μm以上である。吸湿膜の厚みの上限値は特に限定されず、吸湿膜の厚みは、例えば1000μm以下であってもよい。
【0080】
積層体は、例えば、後述のようなウィンドウ部材として使用される場合、2%以下のヘイズを有することが好ましく、1%以下のヘイズを有することがより好ましい。この場合における積層体のヘイズの下限値は特に限定されない。
【0081】
積層体のヘイズは、吸湿膜単独のヘイズではなく、吸湿膜および基体のヘイズである。ヘイズはJIS R 3212に従って測定された値を用いている。
【0082】
積層体は、例えば、後述のようなウィンドウ部材として使用される場合、75%以上の可視光透過率を有することが好ましく、85%以上の可視光透過率を有することがより好ましい。この場合における積層体の可視光透過率の上限値は特に限定されない。
【0083】
積層体の可視光透過率は、吸湿膜単独の可視光透過率ではなく、吸湿膜および基体の可視光透過率である。可視光透過率はJIS R 3212に従って測定された値を用いている。
【0084】
[吸湿膜形成用塗料組成物]
本発明の吸湿膜形成用塗料組成物(以下、単に「塗料組成物」ということがある)は、上記した親水基含有炭化水素基を有するシランおよび/またはその誘導体を含む。誘導体は、シランの二量体(すなわちジシロキサン)等のシランオリゴマーを包含する。詳しくは、本発明の塗料組成物は、親水基含有炭化水素基を有するシラン系原料(例えばシランおよび/またはジシロキサン等のシランオリゴマー)を含む。
【0085】
親水基含有炭化水素基を有するシランは、前記したシロキサン単位(I)を含む構造式を有するシラン、例えば、下記一般式(Ia)で表されるシラン(Ia)を含む。
【0086】
【0087】
式(Ia)中、R1は、前記一般式(i)~(vi)で表される親水基含有炭化水素基からなる群から選択される1価の有機基であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは前記一般式(i)および(iv)~(vi)で表される親水基含有炭化水素基であり、より好ましくは前記一般式(i)で表される親水基含有炭化水素基であり、さらに好ましくは前記一般式(i-1)で表される親水基含有炭化水素基である。シラン(Ia)が1分子中、複数のR1を有する場合、当該複数のR1は、それぞれ独立して、上記群から選択されてもよい。一般式(i)における好ましいR11、R12およびn1は、式(i)の説明で上記した好ましいR11、R12およびn1と同様である。
【0088】
式(Ia)中、R2は1価の炭化水素基である。R2としての1価の炭化水素基は、式(I)におけるR2としての1価の炭化水素基と同様である。好ましいR2は1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または1価飽和脂肪族炭化水素基である。式(Ia)におけるR2として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基はそれぞれ、式(I)におけるR2として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基と同様である。シラン(Ia)が1分子中、複数のR2を有する場合、当該複数のR2は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
【0089】
式(Ia)中、R101は水素原子または1価の炭化水素基である。R101としての1価の炭化水素基は、式(I)におけるR2としての1価の炭化水素基と同様である。好ましいR101は、水素原子、1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または1価飽和脂肪族炭化水素基である。式(Ia)におけるR101として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基はそれぞれ、式(I)におけるR2として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基と同様である。シラン(Ia)が1分子中、複数のR101を有する場合、当該複数のR101は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
【0090】
式(Ia)中、aは1または2の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは1である。
bは0~2の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは0~1の整数であり、より好ましくは0である。
aとbとの和は3以下(特に1~3)の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは2以下(特に1または2)の整数、より好ましくは1である。
【0091】
親水基含有炭化水素基を有するシランの誘導体は、上記シラン(Ia)の二量体(すなわちジシロキサン)等のシランオリゴマーを包含する。詳しくは、シラン(Ia)の二量体は通常、上記したシラン(Ia)のうち、1分子中のOR101基の数(すなわち「4-a-b」)が1以上の整数、特に2以上(すなわち2または3)の整数(好ましくは3)であるシラン(Ia)2分子が脱水縮合してなるジシロキサンのことである。
【0092】
親水基含有炭化水素基を有するシランの誘導体は、例えば、下記一般式(Ia’)で表されるジシロキサン(Ia’)を含む。
【0093】
【0094】
式(Ia’)中、R1は、前記一般式(Ia)におけるR1と同様である。好ましいR1は、前記一般式(Ia)における好ましいR1と同様である。ジシロキサン(Ia’)が1分子中、複数のR1を有する場合、当該複数のR1は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
式(Ia’)中、R2は、前記一般式(Ia)におけるR2と同様である。好ましいR2は、前記一般式(Ia)における好ましいR2と同様である。ジシロキサン(Ia’)が1分子中、複数のR2を有する場合、当該複数のR2は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
式(Ia’)中、R101は、前記一般式(Ia)におけるR101と同様である。好ましいR101は、前記一般式(Ia)における好ましいR101と同様である。ジシロキサン(Ia’)が1分子中、複数のR101を有する場合、当該複数のR101は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
式(Ia’)中、aは1または2の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは1である。
bは0~2の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは0~1の整数であり、より好ましくは0である。
aとbとの和は3以下(特に1~3)の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは2以下(特に1または2)の整数、より好ましくは1である。
【0095】
シラン(Ia)およびその誘導体の具体例を以下に示す。
【0096】
【0097】
【0098】
シラン(Ia)およびその誘導体は、市販品として入手することができるし、または公知の方法により製造することもできる。
シラン(Ia)の市販品として、例えば、アルキレングリコールシラン(商品名「X-12-1098」;信越化学工業社製)、カルボキシルシラン(商品名「X-12-1135」;信越化学工業社製)、エチレンジアミンシラン(商品名「KBP64」;信越化学工業社製)、アミノアルコール(商品名「X-12-1121」;信越化学工業社製)、4級アンモニウムシラン(商品名「X-12-1126」;信越化学工業社製)が挙げられる。
アルキレングリコールシラン(「X-12-1098」;信越化学工業社製)は、親水基含有炭化水素基を有するシラン誘導体に属する化合物であり、上記構造式(Ia-1)で表されるジシロキサン化合物である。
エチレンジアミンシラン(商品名「KBP64」;信越化学工業社製)は、親水基含有炭化水素基を有するシラン誘導体に属する化合物であり、上記構造式(Ia-2)で表されるジシロキサン化合物である。
アミノアルコール(商品名「X-12-1121」;信越化学工業社製)は、親水基含有炭化水素基を有するシラン誘導体に属する化合物であり、上記構造式(Ia-3)で表されるジシロキサン化合物である。
4級アンモニウムシラン(商品名「X-12-1126」;信越化学工業社製)は、親水基含有炭化水素基を有するシラン誘導体に属する化合物であり、上記構造式(Ia-4)で表されるジシロキサン化合物である。
カルボキシルシラン(商品名「X-12-1135」;信越化学工業社製)は、親水基を有するシラン誘導体に属する化合物であり、上記構造式(Ia-5)で表されるジシロキサン化合物である。
【0099】
塗料組成物は、当該塗料組成物から形成されるポリシロキサンがシロキサン単位(I)を、当該ポリシロキサンを構成する全シロキサン単位に対して上記した範囲内で含むような量で、シラン(Ia)および/またはその誘導体を含む。
【0100】
塗料組成物は、下記一般式(IIa)で表されるシラン(IIa)をさらに含んでもよい。
【0101】
【0102】
式(IIa)中、R3は1価の炭化水素基である。R3としての1価の炭化水素基は、式(I)におけるR2としての1価の炭化水素基と同様である。好ましいR3は1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または1価飽和脂肪族炭化水素基である。式(IIa)におけるR3として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基はそれぞれ、式(I)におけるR2として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基と同様である。シラン(IIa)が1分子中、複数のR3を有する場合、当該複数のR3は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
【0103】
式(IIa)中、R201は水素原子または1価の炭化水素基である。R201としての1価の炭化水素基は、式(I)におけるR2としての1価の炭化水素基と同様である。好ましいR201は、水素原子、1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または1価飽和脂肪族炭化水素基である。式(Ia)におけるR201として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基はそれぞれ、式(I)におけるR2として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基と同様である。シラン(IIa)が1分子中、複数のR201を有する場合、当該複数のR201は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
【0104】
式(IIa)中、cは3以下(すなわち0~3)の整数であり、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点から、好ましくは2以下(すなわち0~2)の整数、より好ましくは1または2、さらに好ましくは2である。
cが2であるシラン(IIa)は、「2官能シラン」と称され得る。
cが1であるシラン(IIa)は、「3官能シラン」と称され得る。
cが0であるシラン(IIa)は、「4官能シラン」と称され得る。
【0105】
シラン(IIa)の具体例を以下に示す。
【0106】
・2官能シラン
ジメチルジメトキシシラン
ジメチルジエトキシシラン
ジエチルジメトキシシラン
ジエチルジエトキシシラン
【0107】
・3官能シラン
モノメチルトリメトキシシラン
モノメチルトリエトキシシラン
モノエチルトリメトキシシラン
モノエチルトリエトキシシラン
【0108】
シラン(IIa)は、市販品として入手することができるし、または公知の方法により製造することもできる。
シラン(IIa)の市販品として、例えば、「KBM-22」(ジメチルジメトキシシラン、信越化学工業社製、2官能シラン)、「KBM-13」(モノメチルトリメトキシシラン、信越化学工業社製、3官能シラン)、「KBE-22」(ジメチルジエトキシシラン、信越化学工業社製、2官能シラン)、「KBE-13」(モノメチルトリエトキシシラン、信越化学工業社製、3官能シラン)等が挙げられる。
【0109】
所望のポリシロキサンがシロキサン単位(II)を含む場合、塗料組成物は、当該塗料組成物から形成されるポリシロキサンがシロキサン単位(II)を、当該ポリシロキサンを構成する全シロキサン単位に対して上記した範囲内で含むような量で、シラン(IIa)を含む。好ましい実施態様においては、塗料組成物は、当該塗料組成物から形成されるポリシロキサンがシロキサン単位(I)とシロキサン単位(II)を上記したモル比率(シロキサン単位(I)/シロキサン単位(II))で含むような量で、シラン(1a)および/またはその誘導体(例えばジシロキサン(Ia’))とシラン(IIa)を含む。より好ましい実施態様においては、塗料組成物は、当該塗料組成物から形成されるポリシロキサンがシロキサン単位(I)と2官能シロキサン単位を上記したモル比率(シロキサン単位(I)/2官能シロキサン単位)で含むような量で、シラン(1a)および/またはその誘導体(例えばジシロキサン(Ia’))とシラン(IIa)を含む。塗料組成物におけるシラン(Ia)(ジシロキサン(Ia’)を含む)およびシラン(IIa)(例えば2官能シラン、3官能シラン)の比率は通常そのまま、ポリシロキサンにおけるシロキサン単位(I)およびシロキサン単位(II)(例えば、2官能シロキサン単位、3官能シロキサン単位)の比率に反映される。
【0110】
塗料組成物は通常、溶媒をさらに含んでもよい。
溶媒の沸点は、塗工性の観点から、好ましくは60~160℃であり、より好ましくは70~90℃である。
溶媒の種類は、溶媒がポリシロキサンの貯蔵に影響を及ぼさない限り特に限定されず、例えば、エタノール、メタノール、IPA等の極性有機溶媒;および水が挙げられる。溶媒は、溶解性の観点から、少なくとも1種類以上の極性有機溶剤または水を含むことが好ましい。
【0111】
塗料組成物における溶媒の含有量は特に限定されず、通常は、塗料組成物全量に対するシラン(Ia)(ジシロキサン(Ia’)を含む)およびシラン(IIa)の合計含有量が5~80質量%、好ましくは10~50質量%となるような量である。
【0112】
塗料組成物は、上記した添加剤をさらに含んでもよい。
【0113】
[積層体の製造方法]
(直接塗布方式)
積層体は、塗料組成物を基体に直接塗布方式により塗布した後、硬化させることにより製造することができる。詳しくは、まず塗料組成物を調製する。次いで、基体に対して、塗料組成物を塗布した後、塗料組成物を硬化させて吸湿膜を形成し、積層体を得ることができる。
【0114】
塗料組成物の調製工程においては通常、シラン(Ia)(ジシロキサン(Ia’)を含む)および溶媒を混合する。シラン(IIa)を用いる場合においては、まず、シラン(IIa)の加水分解反応を進行させる観点から、シラン(IIa)を酸成分と混合した後、これにシラン(Ia)(ジシロキサン(Ia’)を含む)および溶媒を添加し、混合する。酸成分としては、塗料組成物を酸条件に調整可能な限り特に限定されず、例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、酪酸等が挙げられる。なお、本調製工程は通常、室温(例えば15~25℃)で実施例されればよい。
【0115】
塗料組成物の塗布工程において、塗布方法は、基体表面の少なくとも一部に塗料組成物を付着または適用できる限り特に限定されず、例えば、フローコート法、ドロップキャスト法、スピンコート法、バーコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、ディップコート法およびダイコート法等が挙げられる。
【0116】
塗料組成物の硬化工程においては、一旦、塗料組成物を乾燥(例えば仮焼き)した後、加熱(例えば焼成)または光照射により、硬化を行う。硬化は、シロキサン結合の形成反応(すなわち脱水縮合反応)に基づく硬化反応である。
【0117】
加熱温度および加熱時間は、硬化が達成される限り特に限定されない。
例えば、加熱温度は、120℃以上、特に120~250℃であってもよい。
また例えば、加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定され、150~200℃の場合、0.5~5時間、特に1~3時間であってもよい。
【0118】
照射光および照射時間は、硬化が達成される限り特に限定されない。
例えば、照射光は、活性エネルギー線であってもよい。
また例えば、照射光は、照射条件が200nm以上400nm以下の波長域の光で、照度が100~500mW/cm2および積算光量が100~1000mJ/cm2であってもよい。
【0119】
(転写方式)
積層体は、透明体上の塗料組成物を転写方式により基体に転写した後、硬化させることにより製造することができる。詳しくは、まず塗料組成物を調製する。次いで、透明体に対して塗料組成物を塗布する。この透明体を、その塗料組成物塗布面が基体と接触するように、基体に対して積層した後、光の照射を透明体側から行う。これにより、塗料組成物が硬化するとともに、塗料組成物が基体に転写される。この後、透明体を剥離することにより、基体上に吸湿膜が形成され、積層体を得ることができる。
【0120】
転写方式における塗料組成物の調製工程は、直接塗布方式における塗料組成物の調製工程と同様である。
【0121】
転写方式における塗料組成物の塗布工程は、塗料組成物を透明体に塗布すること以外、直接塗布方式における塗料組成物の塗布工程と同様である。透明体は、硬化工程において照射光を透過できる限り特に限定されず、例えば、ガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル等から構成されていてもよい。透明体の厚みは、剥離可能な限り特に限定されず、例えば、100μm~50mmであってもよい。
【0122】
転写方式における塗料組成物の硬化工程は、光照射を透明体側から行うことにより硬化を行うこと以外、直接塗布方式における塗料組成物の硬化工程と同様である。
【0123】
(蒸着方式)
積層体は、塗料組成物を基体に蒸着法により蒸着させた後、硬化させることにより製造することができる。詳しくは、まず塗料組成物を調製する。次いで、基体に対して塗料組成物を蒸着法により蒸着させた後、塗料組成物を硬化させて吸湿膜を形成し、積層体を得ることができる。
【0124】
蒸着方式における塗料組成物の調製工程は、直接塗布方式における塗料組成物の調製工程と同様である。
【0125】
塗料組成物の蒸着工程において、蒸着方法としては、例えば、化学蒸着(CVD)法等が挙げられる。
【0126】
蒸着方式における塗料組成物の硬化工程は、直接塗布方式における塗料組成物の硬化工程と同様である。
【実施例】
【0127】
(実施例A1~A6、B1~B4および比較例2)
アルキレングリコールシラン、2官能シランおよび3官能シランは表1および表2に記載の比率および量で使用した。
【0128】
アルキレングリコールシランは商品名「X-12-1098」(信越化学工業社製)を用いた。このアルキレングリコールシランは、親水基含有炭化水素基を有するシラン誘導体に属する化合物であり、前記構造式(Ia-1)で表されるジシロキサン化合物である。
【0129】
2官能は商品名「KBM-22」(化学名:ジメチルジメトキシシラン、信越化学工業社製)を用いた。
3官能シランは商品名「KBM-13」(化学名:モノメチルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)を用いた。
【0130】
操作方法の詳細は以下の通りであった(
図1参照)。
図1は、吸湿膜を製造するための操作方法を説明するためのフロー図を示す。
(1)ガラス容器に2官能シランおよび/または3官能シランと酢酸溶液(5mM)を添加し、混合した(20℃)。
(2)混合して得られた溶液にスターラチップを入れ、栓をして、30分間撹拌した(20℃)。
(3)濃縮したアルキレングリコールシラン(重量比、水:シラン=1:1)とエタノールを添加し、塗料組成物を得た(20℃)。
(4)IPA(イソプロピルアルコール)で脱脂したガラス基板(ヤング率72GPa、厚み2mm)に、バーコータ(120μm)で、塗料組成物を、焼成後の厚みが10~20μmとなるように塗布した。
(5)塗膜を有するガラス基板を仮焼き(60℃×2時間)した後、焼成(180℃×2時間)してポリシロキサン吸湿膜(厚み10μm)を形成し、積層体を得た。
【0131】
(比較例1)
ガラス容器にポリビニルアルコール(東京化成工業株式会社製)および蒸留水を添加し、混合した。
混合して得られた溶液にスターラチップを入れ、栓をして、30分間撹拌し、塗料組成物を得た。
IPA(イソプロピルアルコール)で脱脂したガラス基板に、バーコータ(120μm)で、塗料組成物を、乾燥後の厚みが10μmとなるように塗布した。
塗膜を有するガラス基板を乾燥(70℃×3時間)してポリビニルアルコール吸湿膜を形成し、積層体を得た。
【0132】
(硬度)
各積層体における吸湿膜の鉛筆硬度をJIS K5600に従って求めた。
【0133】
(吸湿性)
各積層体における吸湿膜の吸水率を以下の方法により測定した。
詳しくは、湿度20%RH環境下で、吸水膜を有するガラス基板(以下、サンプルという)の重量を天秤で測定し、予め測定していたガラス基板のみの重量から、吸湿膜の重量を算出した。
サンプルを、95%RH(設定温度:30℃)の恒温恒湿環境下で1~2時間保持した後、サンプルの重量変化を天秤で測定し、吸湿膜の吸水量とした。
吸湿膜の重量および吸湿膜の吸水量から、以下の式に基づいて、吸水率を算出した。
【0134】
【0135】
吸湿性を吸水率に基づいて評価を行った。
◎:0.15≦吸水率(最良);
○:0.10≦吸水率<0.15(良);
△:0.05≦吸水率<0.10(実用上問題なし);
×:吸水率<0.05(実用上問題あり)。
【0136】
(耐傷付性)
各積層体における吸湿膜の傷抵抗値を以下の方法により測定した。
詳しくは、押し込み圧子を用いたスクラッチ試験を行い、耐傷付性能評価を行った。スクラッチ後の傷の形状を観測し、傷の深さを塑性変形深さと定義し、これを耐傷付性能パラメータとして取り扱う。耐傷付性能は、式(1)で定義しており、傷抵抗値として扱う。傷抵抗値が高い程、耐傷付性が高く、傷つきにくいことを意味している。
【0137】
【0138】
耐傷付性を傷抵抗値に基づいて評価を行った。
◎:1.00×104≦傷抵抗値(最良);
○:1.00×103≦傷抵抗値<1.00×104(良);
△:1.00×102≦傷抵抗値<1.00×103(実用上問題なし);
×:傷抵抗値<1.00×102(実用上問題あり)。
【0139】
実施例A2の積層体を用いたスクラッチ試験において、スクラッチ距離と押し込み深さとの関係を、スクラッチ中とスクラッチ後とで測定し、
図2に示した。
比較例1の積層体を用いたスクラッチ試験において、スクラッチ距離と押し込み深さとの関係を、スクラッチ中とスクラッチ後とで測定し、
図3に示した。
図2~
図3より、実施例A2(本発明)の積層体においては、スクラッチ中において押し込み深さはより大きいものの、スクラッチ後において、塑性変形深さがより小さいことが明らかである。このことは、本発明の積層体における吸湿膜は耐傷付性に十分に優れていることを示している。
【0140】
(総合評価)
吸湿性および耐傷付性の評価結果について、総合的に評価した。
◎:吸湿性および耐傷付性の評価結果が◎であった。
○:吸湿性および耐傷付性の評価結果のうち最低の評価結果が○であった。
△:吸湿性および耐傷付性の評価結果のうち最低の評価結果が△であった。
×:吸湿性および耐傷付性の評価結果のうち最低の評価結果が×であった。
【0141】
(撹拌後の溶液の外観)
溶液としての塗料組成物の外観を目視により評価した。
「透明」な溶液は、溶液の製造段階で、脱水縮合反応(すなわちシロキサン結合が形成される反応)の暴走が十分に抑制されていることを意味する。
「不透明」な溶液は、溶液の製造段階で、脱水縮合反応(すなわちシロキサン結合が形成される反応)が暴走し、十分に抑制されていないことを意味する。
【0142】
(焼成後の状態)
焼成後に得られた吸湿膜の外観を目視により評価した。
「きれいな膜」は、ハジキのない膜のことであり、吸湿膜の焼成段階で、脱水縮合反応(すなわちシロキサン結合が形成される反応)の暴走が十分に抑制されていることを意味する。
「ハジキ」は、ハジキが生じた膜を意味し、吸湿膜の焼成段階で、脱水縮合反応(すなわちシロキサン結合が形成される反応)が暴走し、十分に抑制されていないことを意味する。
【0143】
【0144】
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の積層体およびその製造方法ならびに吸湿膜形成用塗料組成物は、吸湿性(例えば防曇性および調湿性)が要求される、あらゆる用途で有用である。
例えば、本発明の積層体は、車両用部材として有用である。車両として、例えば、自動車、トラック、バスおよび電車等が挙げられる。車両用部材としては、例えば、ルーフウィンドウ、フロントウィンドウ、三角窓、リアウィンドウ、リアクオータウィンドウ、バックウインドウなどの車両用ウィンドウ部材等が挙げられる。
また例えば、本発明の積層体は、建築用部材として有用である。建築用部材としては、例えば、窓などのウィンドウ部材等が挙げられる。
【0146】
本発明の積層体は特に、車両用部材(例えば車両用ウィンドウ部材(特に車両用ウィンドウ))として使用されることが好ましい。このとき、本発明の積層体は、基体の片面全面(詳しくは基体(特にウィンドウ)の内装側全面)に吸湿膜を有することが好ましい。