(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ソーナー装置、目標速度表示方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 15/60 20060101AFI20240709BHJP
G01S 15/58 20060101ALI20240709BHJP
G01S 7/51 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G01S15/60
G01S15/58
G01S7/51
(21)【出願番号】P 2020068498
(22)【出願日】2020-04-06
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】斯波 尚志
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-023577(JP,A)
【文献】特開2010-032319(JP,A)
【文献】特開2011-203185(JP,A)
【文献】国際公開第2019/043749(WO,A1)
【文献】米国特許第04244026(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
G01S 13/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響アレイに接続するプロセッサと、表示装置とを備え、
前記プロセッサは、
前記音響アレイで受信した信号から予め定められた時間範囲の信号を切り出し、
前記音響アレイで受信した信号は、線形周波数変調(Linear Frequency Modulation: LFM)したパルス信号であり、
前記切り出した2つの信号波形について相関値を計算し、
前記相関値のピーク値を検出し、
前記相関値の2乗を時間積分した積分値を算出し、
前記相関値の前記ピーク値と前記積分値、および、周波数変化率の絶対値とパルス長とに基づき、ドップラー係数を算出し、前記ドップラー係数から、目標の相対速度を求め、前記表示装置に表示する、ことを特徴とするソーナー装置。
【請求項2】
音響アレイに接続するプロセッサと、表示装置とを備え、
前記プロセッサは、前記音響アレイで受信した信号から予め定められた時間範囲の信号を切り出し、
前記音響アレイで受信した信号は、線形周波数変調(Linear Frequency Modulation: LFM)したパルス信号であり、
前記切り出した2つの信号波形について相関値RSS(τ)を計算し、
前記相関値RSS(τ)の自己相関Rμμ(τ)のピーク値Rμμ(0)と、前記自己相関Rμμ(τ)の更なる自己相関Raa(τ)のピーク値Raa(0)と、周波数変化率の絶対値とパルス長とに基づき、ドップラー係数を算出し、前記ドップラー係数から、目標の相対速度を求め、前記表示装置に表示する、ことを特徴とするソーナー装置。
【請求項3】
音響アレイに接続するプロセッサと、表示装置とを備え、
前記プロセッサは、前記音響アレイで受信した信号から予め定められた時間範囲の信号を切り出し、
前記音響アレイで受信した信号は、線形周波数変調(Linear Frequency Modulation: LFM)したパルス信号であり、
前記切り出した2つの信号波形について相関値RSS(τ)を計算し、
前記相関値RSS(τ)と、前記相関値の自己相関Rμμ(τ)、前記相関値の自己相関Rμμ(τ)の自己相関Raa(τ)をさらに求め、これらの少なくとも一つを周波数解析することで、ドップラー係数を算出し、前記ドップラー係数から、目標の相対速度を求め、前記表示装置に表示する、ことを特徴とするソーナー装置。
【請求項4】
音響アレイに接続するプロセッサと、表示装置とを備え、
前記プロセッサは、
前記音響アレイで受信した信号から予め定められた時間範囲の信号を切り出し、
前記音響アレイで受信した信号は、線形周波数変調(Linear Frequency Modulation: LFM)またはFH(Frequency Hopping)したパルス信号であり、
前記切り出した2つの信号波形について相関値を計算し、
前記相関値のピーク値を検出し、
前記相関値の2乗を時間積分した積分値を算出し、
事前に求めた前記相関値のピーク値と、前記積分値と、目標の相対速度との関係を記憶した記憶部を備え、
前記記憶部に記憶された、前記相関値の前記ピーク値と、前記積分値と、前記目標の相対速度との前記関係を用いて、前記音響アレイで受信した信号に対して今回求めた、前記ピーク値と前記積分値に対応した前記目標の相対速度を推定し、前記表示装置に表示する、ことを特徴とするソーナー装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、
前記切り出した3つ以上の信号波形について、2つ一組のペアを抽出し、
前記ペア間で相関値を計算し、前記ペアごとに、前記ピーク値と前記相関値の2乗の積分値に基づき前記目標の相対速度を求め、
前記目標の相対速度をペア間で平均化する、ことを特徴とする請求項1記載のソーナー装置。
【請求項6】
音響アレイで受信した信号から予め定められた時間範囲の信号を切り出し、
前記音響アレイで受信した信号は、線形周波数変調(Linear Frequency Modulation: LFM)したパルス信号であり、
前記切り出した2つの信号波形について相関値を計算し、
前記相関値のピーク値を検出し、
前記相関値の2乗を時間積分した積分値を算出し、
前記相関値の前記ピーク値と前記積分値、および、周波数変化率の絶対値とパルス長とに基づき、ドップラー係数を算出し、前記ドップラー係数から、目標の相対速度を求め、表示装置に表示する、ことを特徴とする目標速度表示方法。
【請求項7】
音響アレイで受信した、線形周波数変調(Linear Frequency Modulation: LFM)したパルス信号をAD(Analog-Digital)変換器でデジタル信号に変換した信号を受け取り、前記受信した信号から予め定められた時間範囲の信号を切り出す処理と、
前記切り出した2つの信号波形について相関値を計算する処理と、
前記相関値のピーク値を検出する処理と、
前記相関値の2乗を時間積分した積分値を算出する処理と、
前記相関値の前記ピーク値と前記積分値、および、周波数変化率の絶対値とパルス長とに基づき、ドップラー係数を算出し、前記ドップラー係数から、目標の相対速度を求め、表示装置に表示する処理と、
をプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソーナー装置、目標速度表示方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブソーナーでは、例えば周波数一定のPCW(Pulse Continuous Wave:パルス連続波)に対し、目標運動によって生じる反響音のドップラーシフトを基に、目標の視線方向速度を表示している。この表示画面は、例えば
図6に例示されているような表示とされ、TDI(Target Doppler Indicator)と呼ばれる。縦軸を距離、横軸を速度、すなわち、ドップラー周波数変移に基づく変距(目標方位方向の目標速力成分)とした表示形式である。
【0003】
図7に例示したように、PCWの前や後に連続してLFM(Linear Frequency Modulation:線形周波数変調)やHFM(Hyperbolic Frequency Modulation:双曲型周波数変調)等の周波数変調波形を送信するタンデム送信がある。このタンデム送信では、周波数変調波形に対して、送信波形と受信信号との相関処理(レプリカ相関)が行われる。このため、低SNR(Signal to Noise Ratio:信号対雑音比)の環境であっても、SNRが向上し、視認性が上がる。
【0004】
しかし、タンデム送信では、PCWに対して相関処理が行われない。PCWを使って目標の速度を表示するTDIでは、低SNRの状況において視認性が低下する。仮に、PCWに対してレプリカ相関するとしても、ドップラーシフトした反響音と送信波形では相関値が低くなるため、視認性の向上が得られない。
【0005】
そこで、例えば特許文献1に開示されているように、目標のあり得る速度を想定し、複数の速度のドップラー効果による変形を施した波形を予め用意しておき、これら複数の波形と受信信号で相関処理を行い、最も相関値が高くなった波形において、想定していた速度を目標速度とみなす方法が広く使われている。ただし、PCWの相関では、ピークが鋭くない。このため、空間分解能が低く、かつ、低SNRの環境ではノイズのピークと相関のピーク位置を取り違えることも起こりやすい。そこで、ほとんどの場合、LFM等の変調波形について、複数の速度の波形(複数のレプリカ)を準備して相関する方法が取られている。
【0006】
しかしながら、複数のレプリカを事前に用意しておく方法では、目標の速度分解能を上げようとすると、それだけ大量のレプリカが必要となる。このため、相関処理量がレプリカの数だけ増え、計算負荷が増大することになる。例えば目標との相対速度を±100kt(Knot)までを想定し、速度分解能を1ktとすると、201個のレプリカが必要となり、レプリカが一つである通常処理と比較した場合、201倍の計算負荷となる。
【0007】
一方で、特許文献1に開示されているように、ドップラー効果があっても、相関値の低下が小さいHFMを連続して複数回送信し、各々のパルスに該当する反響音間の時間差を計測し、その時間差の伸縮から目標速度を推定する方法を採用しているシステムも存在する。
【0008】
これは、
図8に示すように、ドップラー効果によりパルス長が伸縮する効果を利用するものである。
図8には、複数の連続するHFMによる相関のイメージを説明する模式図であり、横軸は時間、縦軸は相関値である。ドップラー効果によりレプリカ相関によるピークの間隔(時間間隔)が伸縮している。
【0009】
この方法(時間差の伸縮から目標速度を推定する方法)の場合、相関処理(レプリカ相関処理)の回数を少なくすることが可能であり、計算負荷が増大することはない。しかし、この方法では、目標の距離精度が影響する。例えば高性能のソーナーシステムであっても、距離誤差が0.1%以下になるものは無い。仮に0.1%として、10kyd先にある目標距離には、10yd(yard)の誤差があることになる。
【0010】
速度分解能として、1ktが必要であるとすると、パルス間隔が10s(seconds)の場合、1kt分のドップラー効果による影響は、2×1kt/音速=1/1500程度である。このため、時間として、1/150秒、距離として、10m(約11yd)のズレを判別できるようにする必要がある。
【0011】
しかしながら、このズレの大きさ(10m(約11yd))は、上記距離誤差(10yd)と同等となっている。
【0012】
距離誤差に左右されることなく距離のズレを判別するには、パルス長として、例えば10sの10倍、つまり100sあれば十分と考えられる。ところが、100sの時間差があると、特に、ソーナーシステム側も目標側も運動している場合、例えば10kt程度で航行している場合、100sで500m以上も移動していることになる。このため、音波の伝搬経路が変わり、経路の伸縮により、反響音の到達時間が変わるため、推定する目標距離が変わってしまう場合がある。つまり、複数のパルスによる複数の反響音間の時間間隔は伝搬経路の変化に依存するため、正しく速度を求められない場合がある。
【0013】
また、この方法(時間差の伸縮から目標速度を推定する方法)は、波形としてHFMに限定される。このため、FH(Frequency Hopping)のように距離分解能が高い波形を使うことができない。なお、周波数が高い(波長が短い)ほど、距離分解能が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【非特許文献】
【0015】
【文献】海洋音響学会編「海洋音響の基礎と応用」、第139-第141頁、発行所:成山堂書店、2004/4/28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ソーナーシステムにおいて、遠方の目標はSNR(Signal to Noise Ratio:信号対雑音比)が低くなる。しかしながら、遠方の目標であっても高精度で速度が分かるように、高い視認性で目標を表示することが望ましい。
【0017】
また、小型艦船が就役するようになっており、将来的には、より小型の無人機等の利用も想定される。このため、現状よりもソーナー処理用の計算機台数を大幅に減らすことが求められる。
【0018】
したがって、本発明の目的は、例えば低SNR(Signal to Noise Ratio)の環境であっても視認性高く目標の速度を表示可能とするソーナー装置、方法並びにプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一形態によれば、音響アレイに接続するプロセッサと、表示装置とを備え、
前記プロセッサは、前記音響アレイで受信した信号から予め定められた時間範囲の信号を切り出し、前記切り出した信号波形について相関値を計算し、前記相関値のピーク値を検出し、前記相関値の2乗を時間積分した積分値を算出し、前記ピーク値と前記積分値とに基づき、目標の速度を求め、前記表示装置に表示するソーナー装置が提供される。
【0020】
本発明の他の一形態によれば、音響アレイで受信した信号から予め定められた時間範囲の信号を切り出し、前記切り出した信号波形について相関値を計算し、前記相関値のピーク値を検出し、前記相関値の2乗を時間積分した積分値を算出し、前記ピーク値と前記積分値とに基づき目標の速度を求め表示装置に表示する目標速度表示方法が提供される。
【0021】
本発明の他の一形態によれば、音響アレイで受信した信号から予め定められた時間範囲の信号を切り出す処理と、前記切り出した信号波形について相関値を計算する処理と、
前記相関値のピーク値を検出する処理と、前記相関値の2乗を時間積分した積分値を算出する処理と、前記ピーク値と前記積分値とに基づき目標の速度を求め表示装置に表示する処理と、をプロセッサに実行させるプログラムが提供される。さらに、本発明によれば、上記プログラムを記憶したコンピュータ可読型記録媒体(例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、又は、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM))等の半導体ストレージ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、例えば低SNR(Signal to Noise Ratio)の環境であっても視認性高く目標の速度を表示可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】本発明の一実施形態の装置の構成例を説明する図である。
【
図3】本発明の一実施形態の装置の処理手順を説明する図である。
【
図8】複数の連続するHFMによる相関を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態を説明するための図であり、LFMを2回送信した場合の目標エコーを模式的に例示した図である。
図1を参照すると、ソーナーシステム(ソーナー装置)は、LFM等、相関後の距離分解能が高い信号波形を、時間を空けて複数回送信し、受信した複数の目標エコー間で相関処理を行う。アクティブソーナー装置でLFMを2回送信した場合、
図1に示すように、受信した信号を予め定められた時間範囲(時間窓)で2つの信号波形を切り出し、切り出した信号波形間の相関を計算する。さらに、ソーナー装置は、相関処理結果(相関値の絶対値の2乗)を時間積分し、積分結果と相関値のピークとの関係から目標の速度を推定する。
図1に示すように、受信信号を逐次切り出す時間窓(予め定められた時間範囲)は、好ましくはLFMの信号波形(パルス長)よりも長い。また、複数切り出す信号についてその時間間隔は送信波形(LFM)の時間間隔に対応する。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、低SNRの環境であっても計算負荷を増大させず、更に、伝搬経路の時間変化に影響されないため、目標の距離精度を高くし、目標の視認性が上がった表示を提供することができる。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態におけるソーナーシステム(ソーナー装置)100(目標速度表示システム)の構成例を示す図である。ソーナーシステム100において、音響アレイ101は、複数の音響素子から構成され、水中に送信制御器(送信制御部)102から出力された電気信号を音響信号に変換して音波を送信し、受信した音波を電気信号に変換する。送信制御器102は、指定された波形の電気信号を生成する。AD変換器(Analog-digital converter)103は、各音響素子から入力されたアナログ電気信号をディジタル信号に変換する。整相処理器(整相処理部)104は、入力された音響素子毎のディジタル信号に対し、方位毎に位相を揃えビームフォーミングし、方位毎にビームとして出力する。相関処理器(相関処理部)105は、ビーム毎に相関処理を行い、目標の速度を算出する。
【0027】
表示装置106は、目標の速度を画面(不図示)に表示する。音響アレイ101やAD変換器103、整相処理器104、表示装置106自体は、一般的なものであり、既存の様々なソーナーシステムで採用されているものを用いてもよい。
【0028】
送信制御器102と相関処理器105に絞って動作を説明する。送信制御器102では予め定められた波形のパルスを、複数回送信できるように電気信号を生成する。この際、各パルスの波形に加え、パルス間の間隔について、相関処理器105と情報を共有する。送信波形の送信回数は例えば2回以上であればよく、回数は特に限定しない。
【0029】
相関処理器105は、
図3に示すフローに従って動作する。
【0030】
相関処理器105は、整相処理器104から出力されるビーム毎の受信信号1051から予め定められた時間範囲の信号を逐次切り出して記憶部(不図示)に保存する(S101)。この時間範囲は、好ましくは、一つのパルスの長さを超える。
【0031】
次に、相関処理器105は、複数の切り出した信号について、その時間間隔が送信パルスの時間間隔となる組み合わせを取り出し、切り出した2つの信号波形の間で相関値を計算する(S102)。
【0032】
その後、相関処理器105は、相関値のピークを検出し(S103)、ピーク値を記憶部1052に保存する。
【0033】
また相関処理器105は、相関結果について積分を行い、積分値を記憶部1053に保存する。
【0034】
そして、相関処理器105は、記憶部1054に予め記憶されたピーク値と積分値の関係性を示す関数に対し、ステップS103、S104で求めたピーク値と積分値を入力として目標の速度を算出する(S105)。ピーク値と積分値の関係性はドップラー効果に依存するため、ピーク値と積分値の関係性から目標の速度を求めることができる。
【0035】
相関処理器105は、目標の速度を表示装置106に出力する(S106)。
【0036】
以下に例として送信波形がLFMの場合を示す。
【0037】
音速をc、ソーナーから目標への向きを正とした場合のソーナーから目標の向きに対するソーナーの速度成分をvs、目標のソーナーから目標の向きに対する目標の速度成分をvo(すなわちソーナーが目標に近づく速度を持つ場合にvsは正、目標がソーナーから遠ざかる速度成分を持つ場合にvoは正)とする。ソーナーシステム100と目標(不図示)との相対速度をv=vs-v0とすると、ドップラー係数η(および、その2乗)は次式(1a)(式(1b))で与えられる(近似される)。
【0038】
【0039】
すなわち、音源の周波数をf0とすると、音源から目標への音波の周波数f1はf1=f0c/(c-v)、目標から反射波の周波数f2はf2=f1(c+v)/c、したがって、
【0040】
【0041】
単一周波数のパルスの場合、目標からの周波数f2はドップラー効果によりηf0となる。
【0042】
ここで、送信波形(複素表現)(レプリカ)を次式(3)のLFMとする。
【0043】
【0044】
式(3)において、Bは振幅、ωは角周波数(=2πf0: f0は開始周波数)、tは時間、μは周波数変化率(チャープ率)、j2=-1, T0はパルス長である。
【0045】
送信波形の瞬時周波数f(t)は、式(3)の送信波形の位相成分φ=ωt+μt2/2を時間微分して以下で与えられる。
【0046】
【0047】
ドップラー効果により受信波形は、式(5)で与えられる。
…(5)
【0048】
ドップラー効果により受信波形(LFM)の瞬時周波数は、単一パルスと同様、送信波形の瞬時周波数f(t)(式(4))に対してηf(t)で与えられるものとする。これは時間をtからηtに設定したものとみなすこともできる。すなわち、受信波形の位相成分φは、上式(4)の瞬時周波数f(t)を0~ηtの範囲で時間積分することで求めるようにしてもよい。
【0049】
【0050】
計算が簡単になるように、式(5)において、t
0=0と置くと、受信波形S(t)は以下で表される。
…(7)
【0051】
例えば同じ波形を2回送信し目標で反射して帰ってくる2つの受信波形(目標エコー)間での相関(相互相関)は、受信波形の自己相関とみなすことができる。
【0052】
まず、τ=0の場合、
…(8)
(ただし、*は複素共役(complex conjugate)演算子)
【0053】
【0054】
上式(9)の関数exp(jμη2τt)の[-T0/(2η), T0/(2η)-τ]を積分区間とする定積分は以下の式(10)で与えられる。
【0055】
【0056】
よって、式(9)は、
…(11)
ただし、sinc(x)は非正規化sinc関数sinx)/xである。
【0057】
上式(11)について、
として近似すると
…(12)
【0058】
以上から、上記R
SS(τ)に関して以下が導かれる。
…(13)
【0059】
上式(13)について、
として近似すると、
…(14)
【0060】
RSS(τ)は、強くτ=0に集中していること、および、τ→∞で急激にゼロになることから、RSS(τ)を無限に続くと見なすことができる。つまり、全てのτにおいてRSS(τ)は、以下の式(15)で近似される。
【0061】
【0062】
上式(15)の相関値RSS(τ)において、そのピークはτ=0のときの値であり、exp(0)=1, sinc(0)=1より、ピーク値Pは、次式(16)で表される。
【0063】
【0064】
ここで、RSS(τ)についてさらにその自己相関をとってみる。以下では、式(15)のRSS(t)を、次式のようにRμ(t)で表し、その自己相関をRμμ(τ)(RSS(τ)の自己相関)とする。
【0065】
【0066】
【0067】
上式(18)の積分項の導出について以下に概説する。よく知られた数学公式、
…(19)
を変形すると、
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
したがって、α≠0ならば、以下が成り立つ。
…(27)
【0077】
常にη, T
0>0であるため、上式(23)について、μ≠0ならば、以下で表せる。
…(28)
【0078】
したがって、μ≠0ならば、式(18)は次式(29)で与えられる。
【0079】
【0080】
ところで、RSS(τ)は、以下で与えられる(以下に上式(13)を再掲)。
…(13)
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
したがって、上式(33)より、ドップラー係数ηは次式で求めることができる。
…(34)
【0086】
ここで、RSS(0)は、相関値RSS(τ)のピークPであることから、上式(34)は以下で表される。
【0087】
【0088】
なお、Rμμ(0)は相関結果RSS(t)の絶対値の2乗の時間積分である。積分値Rμμ(0)の値が求まれば、自己相関の関数形Rμμ(τ)を求める必要はない。ただし、ここでは、後述する自己相関の自己相関を求めるために、自己相関の関数形Rμμ(τ)を導出した。
【0089】
式(35)において、周波数変化率μは設定値であることから、ドップラー係数ηを求めることができる。よって、上式(1a)から、相対速度vは次式(36)で求まる。
【0090】
【0091】
表示装置106は、上式(36)で算出された相対速度vを相関処理器105から受けとり、例えば
図4に例示したように表示する。なお、表示装置106は、相関処理器105から相関値のピーク値Pと相関値の2乗の積分値S、周波数変化率μ、パルス長T0を受け取り上式(36)を計算することで、相対速度vを求め、目標距離と対応付けて、画面表示するようにしてもよい。
【0092】
相関値の2乗の積分の範囲を、例えばLFM信号のパルス間隔(信号間隔)以上に設定することで、相関前後のSNRの比であるプロセスゲイン(process gain:処理利得)を、レプリカ相関を行った場合と同等以上とすることが可能である。相関処理を行わないPCWに基づく表示と比べて、視認性を上げることができる。
【0093】
例えばPCWの場合のプロセスゲインは、パルス長T=1s、分析幅Δf=1Hzを次式(37)に代入すると、PG=0dBである。
【0094】
【0095】
これに対して、LFMのレプリカ相関のプロセスゲインは、帯域幅B=100Hz、パルス長T=1sを次式へ代入すると、PG=23dBと非常に大きくなる。
…(38)
【0096】
なお、上式(37)、(38)は、非特許文献1の式(11.84)、(11.65)を引用したものである。
【0097】
本実施形態によれば、複数パルスは使っているものの、音波の伝搬経路のパルス間隔の変動に影響されずに目標速度を推定することができる。
【0098】
以上に加え、
図4で例示するように、相関のピークで目標位置を示すため、目標の位置を高精度で把握できる。更に、FH等を送信波形として使えることにより、HFMの場合よりも距離分解能を高くすることができ、目標の視認性を上げることができる。
【0099】
以下では、式(29)の自己相関結果Rμμ(τ)をもう一度自己相関することを考える。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
式(45)からドップラー係数ηは次式(46)で与えられる。
…(46)
【0108】
このように、相関値RSS(τ)の自己相関Rμμ(τ)のピーク値Rμμ(0)と、自己相関Rμμ(τ)を更に自己相関した後のピーク値Raa(0)からも、ドップラー係数ηを求めることができる。求めたドップラー係数ηから、上式(36)にしたがって相対速度vが求まる。
【0109】
【0110】
【0111】
上式(42)に示す自己相関の自己相関
…(49)
を見てわかるように、
【0112】
【0113】
が共通項であり、角周波数ωηの信号(exp(jωητ))が
…(51)
【0114】
で変調されているとみなすことができる。すなわち、式(47)~(49)の相関値(少なくとも1つであってもよい)について、周波数解析を行う。例えば、
で変調されている波形について、変調の平均周波数を求めることで、ドップラー係数ηを得ることができる。
【0115】
なお、時間領域の波形sinc(Wx)(ただし、W=μηT
0/2)をフーリエ変換すると、周波数領域での矩形波となる。
…(52)
【0116】
のフーリエ変換は、周波数領域でのδ関数となり、δ関数と式(52)の矩形波の周波数領域での畳み込み演算の結果は、矩形波が得られる。矩形波の幅Wの情報から、ドップラー係数ηを得るようにしてもよい。
【0117】
以下に、PCWの例について説明する。ここで、送信波形(レプリカ)を次式とする。
【0118】
【0119】
受信波形は、簡単化のため、t
0=0とおいて
…(54)
【0120】
送信波形を2回送信し、目標で反射した2つの受信波形の自己相関を計算する。
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
以上をまとめると、
において
…(58)
となる。
【0125】
この自己相関の自己相関について、τ=0で求めてみる。
…(59)
【0126】
【0127】
式(60)から、ドップラー係数ηは以下で与えらる。
…(61)
【0128】
距離分解能が低く、低SNRの環境ではノイズのピークと相関のピークを取り違う可能性があるパルスをPCWとした場合、ドップラー係数ηは次式で与えられる。
【0129】
【0130】
本実施形態によれば、LFMに変えて、より距離分解能が高いFH(Frequency Hopping)等の他の波形を用いることもできる。ただし、この場合は、目標の相対速度を上記のLFMやPCWのように簡単な数式で示すことができない。このため、予め相関のピーク値、積分値と相対速度の関係性を求めて置き、その関係性を用いて、相関値のピーク値と積分値から相対速度を推定する。
【0131】
なお、本実施形態において、送信波形が3つ以上の場合、例えば2つ一組のペアを複数通り抽出し、ペア毎に相関値を計算し、ペア毎に、相関値のピーク値と、相関値の積分値に基づき、目標の速度を推定し、推定した速度をペア間で平均することで速度の推定精度を向上させることができる。
【0132】
受信信号が高SNRの場合は、複数のパルスを送信せず、単一のパルスで自己相関し、自己相関のピークと、自己相関の絶対値の2乗の積分値との関係から目標の速度を求めてもよい。
【0133】
上記実施形態では、送信機と受信機が同じ場所(送信、受信を共通の音響アレイで行う)にあるモノスタティックソーナーでのイメージで説明したが、送信機と受信機の間に距離を置いて設置したバイスタティックソーナーや、送信機が一つで複数の受信機で信号を受けるマルチスタティックソーナーへも適用できる。
【0134】
図5は、本発明の実施の形態を説明する図であり、コンピュータ装置200に実装した場合の構成を説明する図である。
図5を参照すると、コンピュータ装置200は、プロセッサ201と、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の半導体メモリ等(あるいは、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等であってもよい)のメモリ202と、表示装置203と、
図2の音響アレイ101やAD変換器103と接続するインタフェース204(バスインタフェース)を備えている。プロセッサ201はDSP(Digital Signal Processor)であってもよい。メモリ202に格納されたプログラム205を実行することで、プロセッサ201は、
図2の送信制御器102、整相処理器104、相関処理器105の処理を実行する。
【0135】
本実施形態によれば、低SNR状況下でも、目標からのエコーが2つあれば、目標視線方向の相対速度を推定可能としている。また、高SNR状況下では、目標からのエコーが1つであっても目標視線方向の相対速度を推定可能としており、送信波形(レプリカ信号)は不要である。
【0136】
上記実施形態では、ソーナーシステムを例に説明したが、本発明はソーナーシステムに制限されるものでなく、例えばレーダシステムやレーザシステム等への適用も考えられる。可能である。
【0137】
上記の特許文献1、非特許文献1の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施の形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ乃至選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【0138】
上記した実施形態は例えば以下のように付記される。
【0139】
(付記1)
受信アレイに接続するプロセッサと、表示装置とを備え、
前記プロセッサは、
前記受信アレイで受信した信号から予め定められた時間範囲の信号を切り出し、
前記切り出した信号波形について相関値を計算し、
前記相関値のピーク値を検出し、
前記相関値の2乗を時間積分した積分値を算出し、
前記ピーク値と前記積分値とに基づき、目標の速度を求め、前記表示装置に表示する、ことを特徴とする装置(受信装置)。
【0140】
(付記2)
前記受信アレイで受信した信号が、線形周波数変調(Linear Frequency Modulation: LFM)したパルス信号であり、
前記プロセッサは、
前記切り出した2つの信号波形の間の相関値を計算し、
前記相関値の前記ピーク値と前記積分値、および、周波数変化率の絶対値とパルス長に基づきドップラー係数を算出し、前記目標の速度を求める、ことを特徴とする付記1記載の装置(受信装置)。
【0141】
(付記3)
前記受信アレイで受信した信号が、線形周波数変調(Linear Frequency Modulation: LFM)したパルス信号であり、
前記プロセッサは、
前記相関値の自己相関Rμμ(τ)のピーク値Rμμ(0)と、前記自己相関Rμμ(τ)の更なる自己相関Raa(τ)のピーク値Raa(0)と、周波数変化率の絶対値とパルス長とに基づき、ドップラー係数を算出し、前記目標の速度を求める、ことを特徴とする付記1記載の装置(受信装置)。
【0142】
(付記4)
前記プロセッサは、
前記相関値RSS(τ)と、前記相関値の自己相関Rμμ(τ)、前記相関値の自己相関Rμμ(τ)の自己相関Raa(τ)をさらに求め、これらの少なくとも一つを周波数解析することで、ドップラー係数を算出し、前記目標の速度を求める、ことを特徴とする付記1記載の装置(受信装置)。
【0143】
(付記5)
前記受信アレイで受信した信号が、連続パルス波信号(Pulse Continuous Wave: PCW)であり、
前記プロセッサは、
前記相関値のピーク値と、前記相関値の自己相関である前記積分値と、パルス長に基づきドップラー係数を算出し、前記目標の速度を求める、ことを特徴とする付記1記載の装置(受信装置)。
【0144】
(付記6)
少なくとも、前記ピーク値と、前記積分値と、前記装置と前記目標の相対速度との関係を事前に記憶部に記憶しておき、
前記プロセッサは、
前記受信アレイで受信した信号に対して求めた、少なくとも前記ピーク値と前記積分値とに基づき、前記目標の速度を求める、ことを特徴とする付記1記載の装置(受信装置)。
【0145】
(付記7)
前記受信アレイで受信した信号が単一パルスであり、
前記プロセッサは、
前記単一パルスの自己相関値を計算し、
前記単一パルスの前記自己相関値のピーク値と前記自己相関値の2乗の積分値とに基づき、前記目標の速度を求める、ことを特徴とする付記1記載の装置(受信装置)。
【0146】
(付記8)
前記プロセッサは、
前記切り出した3つ以上の信号波形について、2つ一組のペアを抽出し、
前記ペア間で相関値を計算し、前記ペアごとに、前記ピーク値と前記相関値の2乗の積分値に基づき前記目標の速度を求め、
前記目標の速度をペア間で平均化する、ことを特徴とする付記1記載の装置(受信装置)。
【0147】
(付記9)
前記プロセッサは、送信信号を所定の送信間隔で出力する制御を行い、
複数切り出した信号について前記信号の間の時間間隔が前記送信間隔に対応する信号間で前記相関値を計算する、ことを特徴とする付記1乃至3のいずれか1に記載の装置(受信装置)。
【0148】
(付記10)
前記予め定められた時間範囲は、前記受信した信号のパルス長さよりも長いことを特徴とする付記2又は3記載の装置(受信装置)。
【符号の説明】
【0149】
100 ソーナーシステム(装置)
101 音響アレイ(受信アレイ)
102 送信制御器
103 AD変換器
104 整相処理器
105 相関処理器
106 表示装置
200 コンピュータ装置
201 プロセッサ
202 メモリ
203 表示装置
204 インタフェース
205 プログラム
1051 受信信号
1052-1054 記憶部