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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240709BHJP
   G03G 21/14 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G03G15/20 535
G03G21/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020087095
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021182063
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 直樹
【審査官】藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-139411(JP,A)
【文献】特開2015-108799(JP,A)
【文献】特開2017-107143(JP,A)
【文献】特開2019-159266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されるシート上に形成されたトナー像を定着装置で定着した後、排出するプリントジョブを実行する画像形成装置であって、
前記定着装置は、
加熱されたベルトと加圧ローラーを押圧して、ベルトと加圧ローラー間に前記シートが通過するニップを形成するものであり、
加圧ローラーまたはベルトに回転駆動力を付与する駆動手段と、
駆動手段の駆動トルクの大きさを指標する指標値を検出する検出手段と、
加圧ローラーとベルト間の押圧力を、前記指標値が第1閾値に至るまで第1の大きさにし、前記第1閾値に至ると、前記第1の大きさよりも強い第2の大きさに切り替える切替手段と、
前記指標値が前記第1閾値よりも大きい第2閾値に至ると寿命判定を行う判定手段と、
前記寿命判定が行われた旨を通知する通知手段と
を備え
前記第2の大きさの押圧力は、前記ニップにおける定着性を確保可能な範囲の上限であり、
前記第2閾値は、前記押圧力が前記第2の大きさのときに前記指標値が前記第2閾値に至ると、前記ニップを通過するシートの搬送不良が発生し始めると想定される値であり、
前記画像形成装置は、前記通知手段による通知以後、プリントジョブの実行を禁止する
ことを特徴とする画像形成装置
【請求項2】
前記第1閾値は、前記押圧力が前記第1の大きさのときに前記指標値が前記第1閾値に至ると、前記ニップを通過するシートの搬送不良が発生し始めると想定される値であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置
【請求項3】
前記駆動手段は、モーターであり、前記指標値は、前記モーターの駆動トルクであることを特徴とする請求項1または2に記載の画像形成装置
【請求項4】
前記定着装置は、前記ベルトの周回経路内側に配され、前記ベルトを挟んで前記ベルトの周回経路外側の加圧ローラーからの押圧力を受け止めるベルトガイドをさらに備えることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の画像形成装置
【請求項5】
前記定着装置は、
前記ベルトの周回経路内側に配された加熱ローラーと、
前記加熱ローラーを加熱する加熱手段と、を備え、
前記ベルトは、前記加熱ローラーと前記ベルトガイドとに巻き掛けられていることを特徴とする請求項に記載の画像形成装置
【請求項6】
前記ベルトガイドは、固定パッドであることを特徴とする請求項またはに記載の画像形成装置
【請求項7】
前記定着装置には、前記ベルトの内周面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布部材が設けられていることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の画像形成装置
【請求項8】
前記定着装置は、
前記判定手段を第1判定手段としたとき、前記第1判定手段とは別の方法で装置寿命を判定する第2判定手段と、
前記第1判定手段と前記第2判定手段のうち先に寿命を判定した判定手段の結果を通知する通知手段と、
を備えることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の画像形成装置
【請求項9】
前記第2判定手段は、ニップを通紙されたシートの累積通紙枚数、またはベルトもしくは加圧ローラーの累積回転数が第3閾値に至ると装置寿命と判定することを特徴とする請求項に記載の画像形成装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シート上の未定着画像を定着させる定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンターなどの画像形成装置には、無端状のベルトを用いた定着装置を備えるものがある(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
具体的には、加熱されたベルトの周回経路外側に配された加圧ローラーを、ベルトを挟んでベルトの周回経路内側に配される固定パッドに押圧して、加圧ローラーとベルトとの間にニップを形成し、このニップに、トナー像などの未定着画像が形成されたシートを通過させて、シート上の未定着画像を加熱、加圧により定着する。固定パッドは、周回走行するベルトを案内するとともに加圧ローラーからの押圧力を受け止めるベルトガイドとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-18024号公報
【文献】特開2014-178633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような定着装置では、ベルトの周回走行に伴ってベルトの内周面が固定パッドに摺動することにより、長期間に亘ってベルトの内周面と固定パッドが徐々に摩耗していき、ベルトの内周面と固定パッド間に生じる摩擦力による摺動抵抗も徐々に大きくなる。
【0006】
ベルトに作用する摺動抵抗は、ベルトの回転負荷になり、この回転負荷が大きくなると、加圧ローラーの搬送力により一定の搬送速度でニップを通過しようとするシートに対してベルトが追随できずにベルトの周速が遅れ気味になることがある。ベルトの周速の遅れが大きくなると、やがてシートがベルトに対してスリップするなどシートの搬送性が低下する。シートの搬送性が低下すると、ニップで紙詰まり(ジャム)が生じたり、シートのスリップによるシート上のトナー像の定着ずれが生じたりする。
【0007】
シートの搬送性を維持する方法として、摺動抵抗が大きくなるのに応じて加圧ローラーと固定パッド間の押圧力(荷重)を定着性の確保可能な範囲内で強くする方法が考えられる。押圧力を強くして摺動抵抗を上回る駆動力をベルトに付与することで、ベルトの安定走行を図れるからである。
【0008】
しかし、ベルトや固定パッドの摩耗が進んでいることに変わりはなく、一時的にシートの搬送性を維持できても、押圧力を強くしたことによりベルトと固定パッドの摩耗の進行が早くなり、やがて寿命に至る。寿命に到ると、定着不良やジャムなどが多発することになるので、その前に寿命に至ったことを判定する必要が生じる。このような寿命判定について、上記の特許文献1と2のいずれにも開示されていない。
【0009】
なお、上記ではベルトと固定パッド間の摺動抵抗について説明したが、これに限られず、長期に亘って例えば加圧ローラーを軸支する軸受の回転負荷が徐々に大きくなったり、加圧ローラーまたはベルトに回転駆動力を伝える伝達機構に含まれるギアの摩耗などにより回転負荷が徐々に大きくなったりする場合にも上記同様の問題が生じ得る。
【0010】
本開示は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、シートの搬送性を維持しつつ寿命判定を行える定着装置および画像形成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本開示に係る画像形成装置は、搬送されるシート上に形成されたトナー像を定着装置で定着した後、排出するプリントジョブを実行する画像形成装置であって、前記定着装置は、加熱されたベルトと加圧ローラーを押圧して、ベルトと加圧ローラー間に前記シートが通過するニップを形成するものであり、加圧ローラーまたはベルトに回転駆動力を付与する駆動手段と、駆動手段の駆動トルクの大きさを指標する指標値を検出する検出手段と、加圧ローラーとベルト間の押圧力を、前記指標値が第1閾値に至るまで第1の大きさにし、前記第1閾値に至ると、前記第1の大きさよりも強い第2の大きさに切り替える切替手段と、前記指標値が前記第1閾値よりも大きい第2閾値に至ると寿命判定を行う判定手段と、前記寿命判定が行われた旨を通知する通知手段と、を備え、前記第2の大きさの押圧力は、前記ニップにおける定着性を確保可能な範囲の上限であり、前記第2閾値は、前記押圧力が前記第2の大きさのときに前記指標値が前記第2閾値に至ると、前記ニップを通過するシートの搬送不良が発生し始めると想定される値であり、前記画像形成装置は、前記通知手段による通知以後、プリントジョブの実行を禁止することを特徴とする
【0012】
また、前記第1閾値は、前記押圧力が前記第1の大きさのときに前記指標値が前記第1閾値に至ると、前記ニップを通過するシートの搬送不良が発生し始めると想定される値であるとしても良い。
【0015】
さらに、前記駆動手段は、モーターであり、前記指標値は、前記モーターの駆動トルクであるとしても良い。
【0016】
また、前記ベルトの周回経路内側に配され、前記ベルトを挟んで前記ベルトの周回経路外側の加圧ローラーからの押圧力を受け止めるベルトガイドをさらに備えるとしても良い。ここで、前記ベルトの周回経路内側に配された加熱ローラーと、前記加熱ローラーを加熱する加熱手段と、を備え、前記ベルトは、前記加熱ローラーと前記ベルトガイドとに巻き掛けられているとしても良い。ここで、前記ベルトガイドは、固定パッドであるとしても良い。
【0017】
さらに、前記ベルトの内周面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布部材が設けられているとしても良い。
【0018】
また、前記判定手段を第1判定手段としたとき、前記第1判定手段とは別の方法で装置寿命を判定する第2判定手段と、前記第1判定手段と前記第2判定手段のうち先に寿命を判定した判定手段の結果を通知する通知手段と、を備えるとしても良い。
【0019】
ここで、前記第2判定手段は、ニップを通紙されたシートの累積通紙枚数、またはベルトもしくは加圧ローラーの累積回転数が第3閾値に至ると装置寿命と判定するとしても良い。
【発明の効果】
【0021】
上記の構成により、長期間に亘るベルトまたは加圧ローラーの回転負荷の増加に伴って上昇する駆動トルクの指標値を用い、指標値が第1閾値に至ると、加圧ローラーとベルト間の押圧力が第1の大きさのままであればニップを通過するシートの搬送性が低下するとして、これよりも強い第2の大きさに切り替えてシートの搬送性を確保でき、その後、駆動トルクの指標値がさらに上昇して第2閾値に至ると、もはや定着性を維持できない程度まで劣化が進んでいるとして、寿命判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】プリンターの全体構成を示す概略図である。
図2】定着部の概略構成を示す断面図である。
図3】加圧ローラーの押圧機構を説明するための正面断面図である。
図4】制御部の構成を示すブロック図である。
図5】トルク変換テーブルの構成例を示す図である。
図6】累積回転数情報を示す図である。
図7】閾値テーブルの構成例を示す図である。
図8】ニップ荷重と搬送限界トルクの関係を示す図である。
図9】寿命判定処理の内容を示すフローチャートである。
図10】ニップ荷重切り替え処理の内容を示すフローチャートである。
図11】加圧ローラーの累積回転数と駆動モーターの駆動トルクの関係を示す図である。
図12】累積通紙枚数と離型層の厚みの関係を示す図である。
図13】変形例に係る第2寿命判定処理の内容を示すフローチャートである。
図14】変形例に係る寿命判定結果選択処理の内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施の形態に係る定着装置と画像形成装置について、タンデム型のカラープリンター(以下、単に「プリンター」という。)を例に、図面を参照して説明する。
【0024】
〔1〕プリンターの全体構成
図1は、プリンター1の全体構成を示す概略図である。
【0025】
同図に示すようにプリンター1は、画像形成部10と、給紙部20と、定着部30と、制御部40と、操作部50を備え、プリントジョブを実行する。
【0026】
画像形成部10は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色に対応する作像ユニット11Y、11M、11C、11Kと、中間転写ベルト13を備える。
【0027】
作像ユニット11Kは、感光体ドラム12と、感光体ドラム12の周方向に沿って配置された帯電部16、露光部17、現像部18及びクリーナー19を備える。
【0028】
露光部17は、レーザーダイオードなどの発光素子及びレンズ等を備え、制御部40からの駆動信号により、レーザー光を変調して感光体ドラム12上を露光走査する。
【0029】
感光体ドラム12は、不図示の駆動源により回転駆動され、上記露光を受ける前にクリーナー19で表面の残存トナーが除去された後、帯電部16により一様に帯電されており、このように一様に帯電した状態で、上記レーザー光による露光を受けると、感光体ドラム12の表面に静電潜像が形成される。
【0030】
感光体ドラム12に形成された静電潜像は、現像部18により現像され、これにより感光体ドラム12表面にK色のトナー像が作像される。このK色のトナーは、周回走行する中間転写ベルト13を介して感光体ドラム12とは反対側に配された一次転写ローラー14により感光体ドラム12から中間転写ベルト13上に一次転写される。
【0031】
作像ユニット11Y、11M、11Cについても、作像ユニット11Kと同様の構成であり、作像ユニットごとに、対応する色(Y、MまたはC色)のトナー像が感光体ドラム12に作像され、一次転写ローラー14により中間転写ベルト13上に一次転写される。
【0032】
各作像ユニット11Y~11Kにおける作動動作は、そのトナー像が中間転写ベルト13上の同じ位置に重ね合わせて一次転写されるようにタイミングをずらして実行される。これにより、中間転写ベルト13上にY~K色のカラートナー像が形成される。
【0033】
給紙部20は、記録用のシートSを収容する給紙カセット21と、繰り出しローラー22と、搬送ローラー23と、タイミングローラー24を備える。
【0034】
繰り出しローラー22は、給紙カセット21の最上位のシートSに接触して、これを搬送路25に繰り出す。搬送ローラー23は、繰り出しローラー22により繰り出されたシートSをタイミングローラー24に向けて搬送する。タイミングローラー24は、制御部40から指示されたタイミングで記録シートSを下流側に送り出す。
【0035】
画像形成部10において中間転写ベルト13上に多重転写されたカラートナー像は、中間転写ベルト13の周回走行により、中間転写ベルト13と二次転写ローラー15との接触位置である二次転写位置15aに移動する。
【0036】
周回走行する中間転写ベルト13上のトナー像の移動タイミングに合わせて、給紙部20のタイミングローラー24からシートSが搬送路25上を給送されて来ており、シートSが二次転写位置15aを通過する際に二次転写ローラー15により、中間転写ベルト13上のカラートナー像がシートSの表(おもて)面に二次転写される。二次転写位置15aを通過したシートSは、定着部30に送られる。
【0037】
定着部30は、二次転写ローラー15から矢印Dで示す方向(シート搬送方向)に搬送されて来るシートSを定着ニップ3に通して、シートSの表面上のカラートナー像(未定着画像)を加熱、加圧によりシートSに定着する。定着部30を通過したシートSは、排出ローラー26により機外に排出され、排紙トレイ27に収容される。
【0038】
操作部50は、ユーザーからのプリントジョブの実行指示を受け付けるボタンや画像濃度の濃淡の調整を受け付ける濃度調整用のボタンなどに加えて、プリントジョブの実行状況を示す画面やシートのジャムが発生した旨のメッセージ、定着部30が寿命に至った旨のメッセージなどを表示するディスプレイを含む。
【0039】
〔2〕定着部の構成
図2は、定着部30の構成を示す概略断面図である。ここで、同図においてX軸方向、Y軸方向は、プリンター1を正面側から見たときの左右方向、上下方向を表し、Z軸方向は、X軸とY軸の双方に直交する方向であり、プリンター1の奥行方向に相当する。同図は、Z軸に直交するX-Y平面で定着部30を切断した場合の横断面図である。
【0040】
同図に示すように定着部30は、無端状のベルト301と、ベルト301の内周面31bに接する固定パッド302と、ベルト301の内周面31bに接してベルト301を案内するガイド部材303と、固定パッド302とガイド部材303とを固定支持する支持部材304と、ベルト301を加熱する加熱ローラー305と、加熱ローラー305に熱を付与するヒーター306と、ベルト301の内周面31bに潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布部材307と、ベルト301の外周面31aを押圧する加圧ローラー308と、温度センサー309と、駆動モーター310と、加圧ローラー308の押圧機構311(図3)を備える。
【0041】
ベルト301は、固定パッド302と加熱ローラー305とガイド部材303とに巻き掛けられており、加熱ローラー305が不図示のバネなどの弾性部材により固定パッド302から離れる方向に付勢されることにより、ベルト301に一定の大きさの張力が作用するようになっている。
【0042】
ベルト301は、ポリイミドやSUS(ステンレス鋼)、Ni(ニッケル)電鋳等からなる基層の上に、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性の高い材料からなる弾性層と、フッ素チューブおよびフッ素コーティング等の離型性を付与した離型層とがこの順に積層されてなる。
【0043】
加圧ローラー308は、アルミ、鉄等からなる中実の芯金381に、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱性の高い材料からなる弾性層382と、フッ素チューブやフッ素系コーティング等の離型性を付与した離型層383とがこの順に積層されてなる。
【0044】
加圧ローラー308は、その回転軸がZ軸に平行であり、加圧ローラー308の軸方向両端部が定着部30の筐体を構成する固定フレーム(不図示:以下、単に「フレーム」という。)に回転自在に支持されるとともに、バネなどの弾性部材312(図3)による付勢力を受けて、加圧ローラー308の外周面38aがベルト301に押圧される。この押圧は、後述の押圧機構311により行われる。
【0045】
加圧ローラー308は、駆動モーター310から付与された回転駆動力により矢印Aで示す方向に所定の回転速度で回転駆動される。この加圧ローラー308の回転により、ベルト301が矢印Bで示す方向(ベルト周回方向)に従動回転(走行)する。なお、芯金381は、中実に限られず、例えば金属製のパイプなどでも良い。
【0046】
固定パッド302とガイド部材303とは、ベルト周回方向に沿って並ぶように配置されており、それぞれが周回するベルト301とともに回転しない非回転体であり、Z軸方向長さがベルト301のZ軸方向長さ(ベルト幅)と略同じ長さになっている。
【0047】
固定パッド302は、ベルトの周回経路内側であり、ベルト301を挟んでベルトの周回経路外側に位置する加圧ローラー308とは反対側の位置に配されており、周回走行するベルト301を案内しつつ加圧ローラー308からの押圧力を受け止めるベルトガイド(バックアップ部材)である。
【0048】
加圧ローラー308の外周面38aとベルト301の外周面31aとが圧接して、ベルト301と加圧ローラー308間に定着ニップ3が形成される。固定パッド302の、ベルト301の内周面31bと接する面には、低摩擦シートとして例えばガラスクロスを基材とした摺動用部材321が貼着されており、固定パッド302とベルト301間に生じる摩擦力の低減が図られている。なお、摺動用部材321を設けない構成をとることもできる。
【0049】
ガイド部材303は、固定パッド302よりもベルト周回方向下流側かつ加熱ローラー305よりもベルト周回方向上流側であり、加熱ローラー305よりも固定パッド302に近い位置に配置されており、ベルト301における定着ニップ3を通過直後のベルト部分31dをさらにベルト周回方向下流に案内する。
【0050】
固定パッド302とガイド部材303とは、ここでは同じ材料から形成されている。例えば、ポリフェニレンスルファイド、ポリイミド、液晶ポリマー等の樹脂が用いられ、耐熱性の優れたものが望ましい。また、アルミ、鉄等の金属、セラミック等で構成されても良いし、これらとシリコーンゴムやフッ素ゴム等とを複合したものを用いるとしても良い。また、固定パッド302とガイド部材303とを別の材料のものとしても良い。
【0051】
支持部材304は、断面コの字状のアルミ、鉄、SUS等の金属製の部材であり、Z軸方向の両端部がフレームに固定支持されており、上下方向に沿った中央部341と、中央部341の上端から左方向に延出された上側水平部342と、中央部341の下端から左方向に延出された下側水平部343とを有する。
【0052】
固定パッド302は、支持部材304の中央部341の右側面に接着等により固定支持されており、ガイド部材303は、支持部材304の上側水平部342の上面に接着等により固定支持されている。
【0053】
潤滑剤塗布部材307は、Z軸方向に長尺であり、ベルト301のベルト幅と略同じ長さになっており、ガイド部材303に設けられた、Z軸方向に沿った溝部339の中に嵌め込まれている。潤滑剤塗布部材307は、潤滑剤を含有しており、その上面がベルト301の内周面31bに接触して潤滑剤をベルト301の内周面31bに塗布する。
【0054】
潤滑剤塗布部材307は、潤滑剤の保持に適した素材、例えばアラミド繊維やフッ素繊維などの繊維状のものやシリコンスポンジ等の多孔質のものが用いられている。ここでは、弾性変形可能なものが用いられるが、これに限られない。潤滑剤としては、シリコン系またはフッ素系の潤滑剤が用いられるが、他の材料のものであっても良い。
【0055】
加熱ローラー305は、アルミやSUS等の金属製の円筒からなり、その回転軸がZ軸方向に平行であり、加熱ローラー305の軸方向両端部がフレームに回転自在に支持される。
【0056】
ヒーター306は、加熱ローラー305の軸方向に沿って長尺のハロゲンヒーターであり、筒状の加熱ローラー305の内空間に挿通され、不図示の電源からの電力供給により発熱した熱を加熱ローラー305に付与する。
【0057】
温度センサー309は、ベルト301の外周面31aの温度を検出してその検出結果を示す検出信号を出力するものであり、ベルト301において加熱ローラー305に巻き掛けられているベルト部分から一定の距離(例えば2~3mm)を開けた位置に配されている。
【0058】
上記の構成において、加圧ローラー308が矢印Aで示す方向に回転駆動されると、その回転駆動力がベルト301に伝わってベルト301が矢印Bで示す方向に従動して走行する。加圧ローラー308の回転駆動中にヒーター306が通電されると、ヒーター306から発せられた熱が加熱ローラー305からベルト301に伝わり、ベルト301の周回走行により定着ニップ3に至る。これにより、ヒーター306の熱が定着ニップ3に供給される。
【0059】
ヒーター306により加熱ローラー305が加熱されているときに、温度センサー309の検出信号が制御部40に送られる。制御部40は、温度センサー309の検出温度に基づいて定着ニップ3の温度が定着に必要な定着温度(例えば170℃)に維持されるようにヒーター306の点灯と消灯を切り替える温調制御を行う。
【0060】
この温調制御により、定着ニップ3の温度が定着温度で安定するようになり、搬送路25を搬送されるシートSが定着ニップ3を通過する際に、シートS上のトナー像が加熱溶融されると共に加圧されてシートS上に定着される。
【0061】
〔3〕加圧ローラーの押圧機構
図3は、加圧ローラー308の押圧機構311を説明するための正面断面図であり、加圧ローラー308の回転軸の軸方向両端部のうち装置正面側の軸部385に対応して装置正面側に配された押圧機構311を示しており、これと同じ構成の押圧機構311が装置背面側の軸部に対応して配されているが、図示が省略されている。装置正面側に配された押圧機構311も装置背面側に配された押圧機構311も同時に同じ動作をするので、以下では、装置正面側の押圧機構311について説明する。
【0062】
同図に示すように押圧機構311は、圧縮コイルバネ312と、バネ受け部材313と、カム314と、切替モーター315を備える。
【0063】
圧縮コイルバネ312の一端3121は、加圧ローラー308の回転軸の軸部385に嵌め込まれている軸受389に連結され、圧縮コイルバネ312の他端3122は、板状のバネ受け部材313の第1主面3131に連結されており、圧縮コイルバネ312の弾性復元力による押圧力P1(またはP2)が加圧ローラー308の軸受389とバネ受け部材313間に作用した状態になっている。なお、軸受389は、フレームに穿設されたX軸方向に長い長孔でありY軸方向の幅が軸受389の径に略等しい貫通孔(不図示)に嵌め込まれており、この貫通孔の中をX軸方向にスライド移動自在に支持されている。
【0064】
カム314は、円板形であり、その周面の一部がバネ受け部材313の第2主面3132に当接しており、円の中心から少しずれた位置に設けられた回転軸319を中心に矢印E方向に切替モーター315の回転駆動力により回転する。ここで、カム314の周面において1周のうち回転軸319に最も近い周面部分を317、回転軸319から最も遠い周面部分を318とする。周面部分317と318を結ぶ直線の長さは、円板形のカム314の直径に等しい。
【0065】
カム314の周面部分317がバネ受け部材313の第2主面3132に当接しているとき、圧縮コイルバネ312の弾性復元力P1(以下、「押圧力P1」という。)が軸受389を介して加圧ローラー308の軸部385に作用して、加圧ローラー308がベルト301を介して固定パッド302を押圧する。押圧力P1により、加圧ローラー308の1周の内、定着ニップ3の部分で加圧ローラー308の弾性層382が圧縮されることにより、シートの搬送方向(矢印D方向)に長さN1のニップ形成領域が生じる。
【0066】
押圧力P1の状態から、カム314が180°だけ矢印E方向に回転すると、「押圧力P2の場合」の例のように、カム314の周面部分318がバネ受け部材313の第2主面3132に当接する状態に変わり、圧縮コイルバネ312による押圧力P2が軸受389を介して加圧ローラー308の軸部385に作用して、加圧ローラー308がベルト301を介して固定パッド302を押圧する。押圧力P2のとき、押圧力P1のときよりも圧縮コイルバネ312が縮んだ状態になるので、より復元力が大きくなり、P1<P2の関係になる。
【0067】
押圧力P1よりも大きな押圧力P2の作用により、加圧ローラー308の回転軸の軸心3851は、固定パッド302に対して、押圧力P1のときの位置から矢印X方向とは逆方向(固定パッド302に近づく方向)に距離Q、移動して、定着ニップ3においてより大きく圧縮されるようになり、ニップ形成領域N1よりも長いN2のニップ形成領域が生じる。なお、同図では、押圧力P1よりもP2の方が加圧ローラー308の圧縮が大きくなることを分かり易くするために、圧縮による変形を誇張して示しているが、実際にはそれほど変形量は大きくはない。
【0068】
押圧力P1、P2は、いわゆる定着ニップ3におけるニップ荷重に相当し、押圧力が大きい方が小さい場合よりも、ニップ3に通紙されるシートSを挟んで加圧ローラー308がベルト301を押す力(垂直抗力に相当)が大きくなる。これにより、ニップ3で生じる加圧ローラー308とシートS間の摩擦力およびシートSとベルト301間の摩擦力が大きくなり、加圧ローラー308の回転駆動力がシートSを介してベルト301に伝わり易くなる。
【0069】
定着部30が新品の場合、押圧力がP1に維持され、押圧力P1のときに加圧ローラー308からシートSを介してベルト301に伝わる回転駆動力が、ベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗よりも十分に大きくなるように、押圧力P1の大きさが予め設定されている。
【0070】
しかし、新品時からプリント枚数が増えるに伴って、周回走行するベルト301が固定パッド302に摺動することでベルト301と固定パッド302との摩擦による摩耗が進み、ベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗が長期間に亘って徐々に大きくなっていく。
【0071】
ベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗が大きくなると、ニップ3を一定速度で搬送されるシートSに対してベルト301が追随できなくなることが生じる。これは、主に次の理由による。
【0072】
すなわち、ニップ3を通過するシートSの表面と裏面のうち、トナー像が形成されている表面がベルト301に接し、トナー像が形成されていない裏面が加圧ローラー308に接する。
【0073】
シートSの表面に形成されている未定着のトナー粒子は、シートSの表面上に主に静電力で付着しているだけなので、シートSの表面との摩擦力が大変小さい。このため、トナー粒子を挟んで接するシートSの表面とベルト301間に生じる摩擦力も小さくなる。
【0074】
一方、未定着のトナー粒子が形成されていないシートSの裏面は直に加圧ローラー308に接し、シートSの裏面と加圧ローラー308間に生じる摩擦力が大きくなる。
【0075】
ニップ3を通過するシートSの裏面に、回転する加圧ローラー308から回転方向の力を付与されてシートSが一定速度で搬送されようとするのに対し、トナー粒子を介するシートSの表面とベルト301間の摩擦力が小さいことから、ベルト301をシートSに追随して周回走行させるのに必要な大きさの押圧力、ここではP1が設定されている。
【0076】
しかし、ベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗が大きくなって、大きくなった摺動抵抗が、押圧力P1により生じる、シートSの表面とベルト301間の摩擦力の大きさに近づきまたはこれを超えるようになると、ベルト301が一定速度で搬送されるシートSに追随できなくなるからである。
【0077】
ベルト301がシートSの搬送速度に追随できなくなることは、ベルト301の周速がシートSの搬送速度よりも遅れ気味になることであり、ベルト301の周速がシートSに対して遅れ気味になると、シートSの表面のトナー像がその遅れ気味のベルト301に接することによる定着ずれが生じたりニップ3でシートSが詰まったりするシートSの搬送性の低下に繋がる。
【0078】
シートSの搬送性の低下を防止するには、ベルト301がシートSに遅れることなく追随できる状態になれば良く、この追随できる状態にするには、シートSの表面とベルト301間の摩擦力が摺動抵抗の増加に応じた分、上がるようにすれば良い。シートSの表面とベルト301間の摩擦力を上げるようにするため、本実施の形態では、上記の押圧力Pを大きくする、ここではP1からP2に強くする。
【0079】
つまり、定着部30の新品時にシートSの搬送性を確保できる押圧力P1を設定し、プリント枚数の増加に伴ってベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗が上昇することにより、ベルト301のシートSの搬送性が低下し始めようとするとき、摺動抵抗の増加に対して、押圧力をP1(第1の大きさ)からP2(第2の大きさ)に強くすることで、シートSの搬送性の低下を防止できる。
【0080】
押圧力PをP1からP2に切り替えることで、シートSの搬送性の低下を防止できるが、ベルト301と固定パッド302がかなり摩耗していることに変わりはない。押圧力PをP2に切り替えた後、しばらくはシートSの搬送性を維持できるが、やがて摺動抵抗がさらに大きくなると、上記と同様の理由によりシートSの搬送性が低下してくる。
【0081】
この場合、押圧力PをP2よりもさらに大きくすることが考えられるが、押圧力Pを大きくしすぎると、ニップ3を通過するシートSのカールが酷くなったり、ベルト301の固定パッド302との摺動による異音が発生したり、シートS上のトナー粒子があまりの高圧により潰されて再現画像が低下したりするなど、定着性の低下を招く。つまり、シートSの搬送性を一時的に維持できても定着性の低下に繋がることになる。
【0082】
この時点では、もはや押圧力Pの増加では対応できず、ベルト301と固定パッド302の寿命に至ったと判定することで、以後、ベルト301と固定パッド302の新品への交換などのメンテナンスを行って、シートSの搬送性と定着性を良好な状態にすることができる。
【0083】
上記の押圧力P1とP2の大きさは、適正な定着性を確保可能な範囲、例えば300~800Nの範囲内に入るように予め実験などにより決められている。具体的には、押圧力P1とP2の切り替えが可能なように圧縮コイルバネ312のバネ定数やカム314の大きさなどが設計される。押圧力P2の大きさは、ここでは適正な定着性を確保可能な定着圧(ニップ圧)の範囲の上限値に設定されている。
【0084】
図3において、押圧力P1のときのカム314の回転角度θ(°)をθ1といい、押圧力P2のときのカム314の回転角度θをθ2として区別する。ここで、回転角度θ1は、カム314の回転軸319の軸心3191を通る鉛直方向の破線316を基準としたとき、軸心3191を中心に基準の破線316に対して時計方向に角度θ1の回転角を有する位置(回転角度位置)にカム314の周面部分318が位置するときの角度をいう。回転角度θ2は、軸心3191を中心に基準の破線316から反時計方向に角度θ2の回転角を有する回転角度位置にカム314の周面部分318が位置するときの角度をいう。
【0085】
カム314の周面部分318が基準の破線316上に位置するときのカム314の回転軸319の回転角度を0°(基準角)とし、切替モーター315の駆動により回転するカム314の回転軸319の回転角度をカム314の回転中にロータリーエンコーダー3192により監視することで、カム314の回転角度θが基準角の0°から回転角度θ1まで回転したか回転角度θ2まで回転したかを検出できる。カム314の回転角度θをθ1にすることで押圧力P1を作用させ、θ2にすることで押圧力P2を作用させることができる。押圧機構311は、制御部40により制御され、押圧機構311と制御部40とが押圧力Pを切り替える切替手段として機能する。以下、押圧力Pをニップ荷重Pという。
【0086】
〔4〕制御部の構成
図4は、制御部40の構成を示すブロック図である。
【0087】
同図に示すように制御部40は、通信インターフェース(I/F)部41と、CPU(Central Processing Unit)42と、ROM43(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)44と、閾値テーブル45と、トルク変換テーブル46と、累積回転数記憶部47などを備え、それぞれが相互に通信を行うことができる。
【0088】
通信I/F部41は、ネットワーク、例えばLANと接続するためのLANカード、LANボードといったインターフェースであり、ネットワークを介して接続される外部の端末装置と通信を行う。
【0089】
CPU42は、外部の端末装置などからネットワークを介してプリントジョブを受信すると、ROM43から必要なプログラムを読み出し、画像形成部10、給紙部20、定着部30を制御して、受信したプリントジョブを円滑に実行させる。
【0090】
また、CPU141は、ニップ荷重切替指示部421と、寿命判定部422と、駆動トルク検出部423と、累積回転数算出部424を含む。
【0091】
ニップ荷重切替指示部421は、切替モーター315にニップ荷重の切り替えを指示するニップ荷重切替処理を実行する。ニップ荷重切替処理の内容については後述する。
【0092】
寿命判定部422は、ベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗が長期間に亘って大きくなり、ニップ荷重をP1からこれよりも大きなP2に切り替えた以降、シートの搬送性と定着性をこれ以上維持できない程度まで摺動抵抗がさらに大きくなったと判断した場合に、ベルト301と固定パッド302の寿命を判定する。
【0093】
駆動トルク検出部423は、加圧ローラー308を回転駆動する駆動モーター310の駆動トルクの大きさを検出する。この検出は、寿命判定部422の寿命判定の際に、加圧ローラー308の回転駆動中に駆動モーター310の電流値を取得し、取得した駆動モーター310の電流値を、トルク変換テーブル46を参照して駆動トルクの大きさに変換することにより行われる。
【0094】
図5は、トルク変換テーブル46の構成例を示す図である。
【0095】
同図に示すようにトルク変換テーブル46には、駆動モーター310の電流値Iと駆動トルクTrとを対応付けたトルク変換情報が格納されている。
【0096】
ここで、駆動モーター310の駆動トルクTrは、駆動モーター310の回転軸に作用するトルクであり、ベルト310と固定パッド302との間に生じる摺動抵抗と線形的な関係がある。摺動抵抗が増加すれば、これに伴って駆動トルクTrが増加し、駆動トルクTrが増加すると、一定速度での回転の維持に際し、駆動モーター310に流れる電流値Iが増加するという関係がある。つまり、駆動モーター310の電流値Iが駆動トルクTrの大きさを指標する指標値になり、駆動トルクTrがベルト310と固定パッド302間の摺動抵抗と線形的な関係があることから、駆動モーター310の電流値Iは、摺動抵抗の大きさを指標する指標値ともいえる。ここでは、駆動モーター310に流れる電流値が一定時間ごとにサンプリングされ、サンプリングされた駆動モーター310の電流値のそれぞれを平均した値が電流値Iに決められる。トルク変換情報は、予め実験などにより求められて、トルク変換テーブル46に書き込まれる。
【0097】
図4に戻って、累積回転数算出部424は、次の処理を実行する。(a)プリントジョブ実行の度に駆動モーター310からそのプリントジョブの開始から終了までの間に加圧ローラー308が何回転したかを示す回転数の情報を取得する。(b)現に累積回転数記憶部47に記憶されている累積回転数W(図6)を読み出す。(c)読み出した累積回転数Wに、取得した回転数を加算した累積回転数を、更新後の累積回転数Wを示す累積回転数情報471として、累積回転数記憶部47に上書き保存させる。
【0098】
ここで、加圧ローラー308の回転数の取得は、駆動モーター310が回転数の情報を出力するものであれば、その出力値を取得することで行える。また、加圧ローラー308の回転軸の回転数を計数するエンコーダーを別に設け、エンコーダーの計数値をプリントジョブの度に監視することで、加圧ローラー308の回転数を取得することもできる。
【0099】
累積回転数記憶部47に記憶されている累積回転数Wは、定着部30が新品時から現在までの間における加圧ローラー308の累積回転数を示すものになる。
【0100】
閾値テーブル45には、駆動トルク検出部423が検出した駆動トルクTr(摺動抵抗に相当)がどれだけ大きくなるとニップ荷重をP1からP2に切り替えるべきであり、ニップ荷重を切り替えた後、駆動トルクTrがさらにどれだけ大きくなると、ベルト301と固定パッド302の寿命を判定すべきかを判断するのに用いる閾値th1、th2を示す閾値情報が格納されている。
【0101】
図7は、閾値テーブル45の構成例を示す図であり、フラグFが0の場合に対して閾値Th1が対応付けされており、フラグFが1の場合に閾値Th2(>Th1)が対応付けされている。ここで、フラグFは、CPU42により設定されるものであり、定着部30が新品時であるニップ荷重がP1のときに0に自動的に設定されている。新品時以後、ベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗の増加に伴って、駆動トルク検出部423により検出された駆動トルクTrの値が閾値Th1以上になると、フラグFの値が0から1に更新されるようになっている。
【0102】
閾値Th1、Th2は、駆動トルク検出部423により検出された駆動トルクTrの検出値と大小関係を比較するための閾値として予め設定されているものである。
【0103】
図8は、ニップ荷重と、シートの搬送不良が発生し始めると想定される駆動トルク(搬送限界トルク)との関係を表わすグラフ460を示す図であり、横軸がニップ荷重Pを示し、縦軸が搬送限界トルクを示している。
【0104】
同図に示すようにグラフ460は単調増加しており、ニップ荷重が大きくなるのに伴って搬送限界トルクが大きくなる関係を有している。ニップ荷重P0からP2までの範囲465が適正な定着性を確保できる定着圧の範囲を示す。
【0105】
ニップ荷重がP1のとき搬送限界トルクの値がTh1になっており、ニップ荷重がP1のときに実際の駆動トルクTrがTh1未満であればシートSの搬送性を維持できるが、Th1以上になると、ベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗の影響を受けて、シートの搬送不良が発生し始める、つまりシートSの搬送性が低下することを示している。
【0106】
同様に、ニップ荷重がP2(>P1)のとき搬送限界トルクの値がTh2(>Th1)になっており、ニップ荷重がP2のときに実際の駆動トルクTrがTh2未満であればシートSの搬送性を維持できるが、Th2以上になると、ベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗の影響を受けて、シートSの搬送性が低下することを示している。
【0107】
ニップ荷重が大きくなることは、加圧ローラー308がベルト301を介して固定パッド302を押圧する力が大きくなることに等しく、上記のようにニップ3における加圧ローラー308とシートS間の摩擦力とシートSとベルト301間の摩擦力が大きくなって、加圧ローラー308の回転駆動力がシートSを介してベルト301に伝わり易くなる。ニップ荷重を上げることで、ベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗がある程度大きくなっても、ニップ3を通過するシートSに対するベルト301の周速遅れが生じ難くなり、シートSの搬送性を一定以上のレベルで維持できるからである。
【0108】
同図から、ニップ荷重がP1のときには、駆動トルクTrが搬送限界トルクTh1に至るまでは、シートSの搬送性を維持でき、駆動トルクTrが搬送限界トルクTh1以上なると、ニップ荷重がP1のままではシートSの搬送性を維持できなくなるので、ニップ荷重をP1よりも少し上げれば、シートSの搬送性の維持が可能になることが判る。
【0109】
ニップ荷重を上げた直後は、シートSの搬送性の維持できるが、これ以降、駆動トルクTrが上昇して、現在のニップ荷重に対応する搬送限界トルクに至ると、やはりシートSの搬送性を維持できなくなる。この場合、さらにニップ荷重を上げれば良いが、これを繰り返しても、上記のようにベルト301と固定パッド302がかなり摩耗していることから、ニップ荷重を上げるのにも限界がある。そこで、本実施の形態では、定着性を確保可能なニップ圧の範囲465の上限をP2に設定し、P2のときの搬送限界トルクTh2を寿命判定に用いる。
【0110】
つまり、ニップ荷重をP1からP2に切り替える判断に用いる駆動トルクTrの大きさの閾値(第1閾値)として搬送限界トルクTh1を用い、ベルト301と固定パッド302の寿命判定に用いる駆動トルクTrの大きさの閾値(第2閾値)として搬送限界トルクTh2を用いる。詳しくは、次項の寿命判定処理で説明する。
【0111】
〔5〕寿命判定処理
図9は、寿命判定処理の内容を示すフローチャートであり、CPU42の寿命判定部422によりプリントジョブが実行されていない非画像形成時に実行される。より具体的には、一つのプリントジョブの実行が終了し、次のプリントジョブの実行が予定されていない場合に、その終了したプリントジョブの実行終了直後に開始される。
【0112】
同図に示すように加圧ローラー308の累積回転数Wが100の倍数になっているか否かを判断する(ステップS1)。累積回転数Wは、累積回転数記憶部47から読み出される。なお、直前のプリントジョブ実行中に加圧ローラー308の累積回転数Wが100の倍数、例えば500回転に至り、500回転を超えて510回転まで加圧ローラー308が回転してそのプリントジョブが終了した場合、現在の累積回転数Wは510になっており、厳密には100の倍数に等しくはないが、この場合も累積回転数Wが100の倍数になっているとして判断する。
【0113】
加圧ローラー308の累積回転数Wが100の倍数になっていないと判断すると(ステップS1で「No」)、当該処理を終了する。加圧ローラー308の累積回転数Wが100の倍数であると判断すると(ステップS1で「Yes」)、非画像形成時において駆動モーター310を駆動して加圧ローラー308を回転させる(ステップS2)。加圧ローラー308の回転に従動してベルト301が周回走行する。
【0114】
加圧ローラー308の回転中に駆動モーター310の駆動トルクTrを検出する(ステップS3)。駆動トルクTrの検出は、駆動トルク検出部423により実行される。駆動トルクTrを検出すると、駆動モーター310の停止により加圧ローラー308の回転を停止させる(ステップS4)。加圧ローラー308の回転時間は、駆動トルクTrの検出に要する時間、例えば10秒程度として予め決められていても良いし、駆動トルクTrの検出値がばらつく場合、ある程度の範囲内に入るまでの時間、継続するとしても良い。
【0115】
現在、フラグFが0であるか否かを判断する(ステップS5)。上記のように定着部30の新品時から時間が経過してニップ荷重がP1からP2に切り替えられるまでの間、フラグFが0に設定されているので、ここではF=0として説明する。
【0116】
フラグFが0と判断すると(ステップS5で「Yes」)、閾値テーブル45を参照して、フラグF=0の場合に対応する閾値Th1を読み出し(ステップS6)、駆動トルクTrの検出値が閾値Th1以上であるか否かを判断する(ステップS7)。否定的な判断を行うと(ステップS7で「No」)、当該処理を終了する。駆動トルクTrの検出値が閾値Th1を下回る場合、ベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗がそれほど増加しておらず、シートSの搬送性を維持できるために、ニップ荷重をP1からP2に切り替える必要がないと判断するものである。
【0117】
一方、肯定的な判断を行うと(ステップS7で「Yes」)、フラグFを1に設定し(ステップS8)、当該処理を終了する。駆動トルクTrの検出値が閾値Th1以上の場合、ベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗の増加によりニップ荷重がP1のままではシートSの搬送性を維持できなくなっており、ニップ荷重をP1からP2に切り替える必要があると判断して、フラグFを1に設定するものである。フラグFが1に設定されることを条件に、ニップ荷重がP1からP2に切り替えられる。この切り替えを、図10に示すニップ荷重切り替え処理のフローチャートを用いて説明する。
【0118】
図10に示すニップ荷重切り替え処理は、CPU42のニップ荷重切替指示部421により非画像形成時に実行、具体的には電源オン時、プリントジョブの開始直前または終了直後、一定時間の経過の度などに実行される。
【0119】
まず、現在のフラグFが0であるか否かを判断する(ステップS21)。フラグFが0の場合(ステップS21で「Yes」)、カム314の回転角度θがθ1であるか否かを判断する(ステップS22)。カム314の回転角度θがθ1(図3)であるか否かは、上記のロータリーエンコーダー3192の検出値を参照することで行われる。
【0120】
カム314の回転角度θがθ1であることを判断すると(ステップS22で「Yes」)、当該処理を終了する。一方、カム314の回転角度θがθ1ではないことを判断すると(ステップS22で「No」)、切替モーター315を駆動してカム314を基準角(0°)から角度θ1まで回転させた後、切替モーター315を停止して(ステップS23)、当該処理を終了する。
【0121】
カム314の回転角度θがθ1のときニップ荷重がP1になり、フラグFが0のときのニップ荷重は、上記のようにP1が適正値になる。このため、フラグFが0のとき、カム314の回転角度θがθ1であれば、カム314を回転させる必要はなく、θ1でなければ、カム314を回転させてカム314の回転角度をθ1にすることで、ニップ荷重を適正なP1に維持できる。
【0122】
フラグFが0から1に切り替えられたことを判断すると(ステップS21で「No」)、カム314の回転角度θがθ2であるか否かを判断する(ステップS24)。肯定的な判断を行うと(ステップS24で「Yes」)、当該処理を終了する。一方、否定的な判断を行うと(ステップS24で「No」)、切替モーター315を駆動してカム314を基準角(0°)から角度θ2まで回転させた後、切替モーター315を停止して(ステップS25)、当該処理を終了する。
【0123】
カム314の回転角度θがθ2のときニップ荷重がP2になり、フラグFが1のときのニップ荷重は、上記のようにP2が適正値になる。このため、フラグFが1のとき、カム314の回転角度θがθ2であれば、カム314を回転させる必要はなく、θ2でなければ、カム314を回転させてカム314の回転角度をθ2にすることで、ニップ荷重を適正なP2に切り替えできる。
【0124】
図9に戻って、フラグFが1に設定(ステップS8)された後、再度、寿命判定処理が開始され、ステップS1~S5が実行された場合、フラグFが1に設定済なので(ステップS5で「No」)、閾値テーブル45を参照して、フラグF=1の場合に対応する閾値Th2を読み出し(ステップS9)、駆動トルクTrの検出値が閾値Th2以上であるか否かを判断する(ステップS10)。否定的な判断を行うと(ステップS10で「No」)、当該処理を終了する。駆動トルクTrの検出値が閾値Th2を下回る場合、フラグFが0のときよりもベルト301と固定パッド302の摺動抵抗が大きくなっているもののニップ荷重がP2(>P1)に切り替えられたことによりニップ3におけるシートSの搬送性を維持できつつ、ベルト301と固定パッド302の寿命にも至っていないとして、当該処理を終了するものである。
【0125】
一方、肯定的な判断、つまり駆動トルクTrの検出値が閾値Th2以上になったことを判断すると(ステップS10で「Yes」)、ベルト301と固定パッド302の寿命に至ったと判定し(ステップS11)、寿命判定の旨を通知して(ステップS12)、当該処理を終了する。
【0126】
駆動トルクTrの検出値が閾値Th2以上になることは、上記のようにこれ以上のニップ荷重の増加を行っても定着性の低下を回避できず、ベルト301と固定パッド302の摩耗がフラグF=0のときのようにニップ荷重の増加では補えない程度まで酷い状態に至っていることから、寿命判定を行うものである。寿命判定により、ユーザーまたはサービスマンに対して、劣化したベルト301や固定パッド302を含む部品または定着部30の自体の新品への交換などのメンテンナンスが必要なことを通知することが可能になる。
【0127】
この通知としては、例えば定着部30のメンテナンスが必要な旨の警告メッセージを操作部50のディスプレイに表示させたり、その警告メッセージをサービスマンにネットワークを介して電子メールで送信したりする方法をとることができる。この通知後、定着部30のメンテナンスが行われたことを契機に、操作部50の警告メッセージを消灯させることができる。また、この通知以後、プリントジョブの実行を禁止し、定着部30のメンテナンスが行われると、プリントジョブの実行禁止を解除する制御を行うこともできる。
【0128】
図11は、加圧ローラー308の累積回転数Wと駆動モーター310の駆動トルクTrとの関係を表わすグラフ461を示す図であり、横軸が累積回転数Wを示し、縦軸が駆動トルクTrを示している。なお、同図では、累積回転数Wが大きくなるのに伴って駆動トルクTrが単調増加することを分かり易いようにグラフ461を直線で示しているが、実際には直線にならずに上下にある程度の幅で変動しながら単調増加していく場合もあり得る。
【0129】
図11に示すように累積回転数WがW1に至るまでの間、駆動トルクTrの大きさが閾値Th1を下回っており、フラグFが0のままになるので(図9のS7で「No」)、ニップ荷重がP1のままに維持される(図10のS21で「Yes」、S22、S23)。
【0130】
累積回転数Wが増えて、寿命に相当するW2の直前のW1に至ると、駆動トルクTrの大きさが閾値Th1に至り、フラグFが0から1に更新されて(図9のS7で「Yes」、S8)、ニップ荷重がP1からP2に切り替えられる(図10のS21で「No」、S24、S25)。ニップ荷重のP1からP2への切り替えと同時に駆動トルクTrが急上昇するが(図11)、閾値Th2には至らず、この時点で寿命判定は行われない。
【0131】
累積回転数WがW1よりもさらに増えて、寿命に相当するW2に至ると、駆動トルクTrの大きさが閾値Th2に至るので、この時点で寿命判定が行われる(図9のS9、S10で「Yes」、S11)。
【0132】
以上、説明したように本実施の形態では、一定の期間が経過する度に、駆動モーター310の駆動トルクTrを検出し、検出値が閾値Th1に至るまでの間、ニップ荷重をP1に維持し、検出値が閾値Th1に至ると、ニップ荷重をP1からP2に切り替えてニップ3におけるシートSの搬送性を確保し、その後、検出値が閾値Th2に至ると、ニップ荷重の切り替えをしても、ベルト301や固定パッド302の劣化により定着性を維持できないとして寿命を判定する。このように駆動モーター310の駆動トルクTrの検出値を用いて、ニップ3を通過するシートSの搬送性を長期間に亘って維持しつつ定着部3の寿命判定が可能になる。
【0133】
本開示は、定着装置に限られず、定着装置における寿命判定方法であるとしてもよい。また、その方法をコンピュータが実行するプログラムであるとしてもよい。また、本開示に係るプログラムは、例えば磁気テープ、フレキシブルディスク等の磁気ディスク、DVD-ROM、DVD-RAM、CD-ROM、CD-R、MO、PDなどの光記録媒体、フラッシュメモリ系記録媒体等、コンピュータ読み取り可能な各種記録媒体に記録することが可能であり、当該記録媒体の形態で生産、譲渡等がなされる場合もあるし、プログラムの形態でインターネットを含む有線、無線の各種ネットワーク、放送、電気通信回線、衛星通信等を介して伝送、供給される場合もある。
【0134】
〔6〕変形例
以上、本開示を実施の形態に基づいて説明してきたが、本開示は、上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例が考えられる。
【0135】
(6-1)上記実施の形態では、ベルト301の駆動トルクTrを検出するステップS2以後の処理の実行条件を加圧ローラー308の累積回転数Wが100の倍数のときとしたが、100の倍数に限られることはなく、他の数値、例えば1K(=1000)や10Kなどでも良い。
【0136】
また、加圧ローラー308の累積回転数Wに限られず、例えばベルト301の累積周回数、加熱ローラー305の累積回転数、プリント累積枚数(現在までの間にプリントされたシートSの累積枚数)などを用い、その累積周回数、累積回転数またはプリント累積枚数がある値に至る度に、その至った時点以降で非画像形成時に、ステップS2以後の処理を実行するとしても良い。
【0137】
(6-2)上記実施の形態では、駆動モーター310の駆動トルクTrの検出値が閾値Th1に至ると、ニップ荷重をP1から、これよりも大きく且つ定着性を維持できる荷重範囲465(図8)の上限であるP2に切り替えるというニップ荷重の2段階切り替え制御を説明したが、これに限られない。例えば、ニップ荷重をP1、P2、P3(但し、P1<P3<P2)の3段階に切り替え可能としたとき、駆動トルクTrの検出値が閾値Th1に至るとニップ荷重をP1からP3に切り替え(1回目)、その後、駆動トルクTrの検出値が閾値Th3(但し、Th1<Th3<Th2)に至るとニップ荷重をP3からP2に切り替え(2回目)、その後、駆動トルクTrの検出値が閾値Th2に至ると、寿命判定を行う制御とすることもできる。閾値Th3は、ニップ荷重がP3のときの搬送限界トルクに相当する。
【0138】
同様にニップ荷重を4段階以上に切り替え可能として、段階ごとに対応する閾値Th1、Th3、Th4・・・と駆動トルクTrの検出値との比較により、1段階ずつニップ荷重を大きくしていく制御をとることができる。ここで、閾値Th1<Th3<Th4・・・<Th2の関係があり、寿命判定に用いる閾値Th2(第2閾値)を除く、閾値Th1、Th3、th4・・・のそれぞれを、駆動トルクTrの検出値がその閾値に至った時点でこの時点以後もシートSの搬送性を維持すべくニップ荷重を切り替えるのに用いる閾値(第1閾値)と捉えることができる。
【0139】
(6-3)上記実施の形態では、ニップ荷重P2を、定着性を確保可能なニップ荷重の範囲465の上限に設定するとしたが、これに限られず、定着性にある程度の余裕を持たせるために範囲465の上限よりも一定値だけ小さい値をP2に設定するとしても良い。また、ニップ荷重を上げても定着性に特に問題が生じない場合には、これ以上、ニップ荷重を上げてもシートの搬送性を維持できない値をP2に設定することもできる。シートの搬送性を維持できないことが寿命に達したことになる。
【0140】
(6-4)上記実施の形態では、駆動モーター310の駆動トルクTrが駆動モーター310の電流値と一定の関係を有することから、駆動トルクTrの大きさを指標する指標値として、駆動モーター310の検出電流値を用いて、駆動トルクTrの大きさを求める構成例を説明したが、これに限られない。例えば、駆動モーター310の回転軸または加圧ローラー308の回転軸に掛かる駆動トルクを公知のトルク測定器やトルクセンサーで検出した結果を駆動トルクTrの大きさを指標する指標値として用いることもできる。
【0141】
(6-5)上記実施の形態では、図9に示す寿命判定処理の実行により定着部30(ベルト301または/および固定パッド302)の寿命判定を行うとしたが、これに限られない。上記実施の形態に係る寿命判定処理を第1寿命判定処理としたとき、これとは別の方法による第2寿命判定処理を実行可能にして、先に寿命判定した方の判定結果を用いる構成をとることもできる。
【0142】
ここで、第2寿命判定処理は、加圧ローラー308の離型層383の新品時からの摩耗量が所定量に至った時点を寿命に達したと判定とする方法を用いることができる。
【0143】
加圧ローラー308の離型層383は、シートSの裏面に直に接する、加圧ローラー308の表面層に相当し、離型層383の摩耗が進むほど、ニップ3を通過するシートSの加圧ローラー308からの離型性が低下する。この離型性が低下すると、ニップ3を通過中に加圧ローラー308の離型層383と密着した状態のシートSがニップ3を出ても加圧ローラー308に密着したままになり、加圧ローラー308から離れることができず、加圧ローラー308に巻き付いてジャムが生じるおそれがある。加圧ローラー308の離型層383の摩耗量を監視して、この巻き付きジャムが生じ始める摩耗量に至る前に寿命判定することで、加圧ローラー308の巻き付きジャムの発生を防止できる。
【0144】
加圧ローラー308の離型層383の摩耗量は、ニップ3を通過したシートSの累積通紙枚数が多くなるのに伴って増加する。これは、次の(a)と(b)の理由による。
【0145】
(a)シートSの搬送方向先端(シート先端)がニップ3に入る際、加圧ローラー308の離型層383に当たることで、僅かな量ではあるがシート先端が離型層383を削って摩耗が生じる。(b)シートSがニップ3を通過する際、駆動側である離型層383に対して従動側であるシートSが離型層383に密着した状態で追随することで、加圧ローラー308からシートSに搬送力が伝わるが、離型層383に対してシートSの追随が僅かに遅れて両者間に搬送方向のずれが生じることがある。このずれが生じたときに離型層383がシートSの裏面に擦られるようになって僅かな量の摩耗が生じる。この(a)と(b)の摩耗がニップ3を1枚のシートSが通紙される度に繰り返されるからである。
【0146】
図12は、累積通紙枚数と離型層383の厚みの関係を表わすグラフ463を示す図であり、横軸が累積通紙枚数Jを示し、縦軸が離型層383の厚みUを示している。ここで、累積通紙枚数Jは、加圧ローラー308の新品時以降、ニップ3を通過したシートSの累積枚数を示す。離型層383の厚みUaは、新品の加圧ローラー308における厚みを示し、厚みUb(<Ua)は、これよりも厚みが少ない範囲に入ると、シートSが加圧ローラー308に巻き付くことが発生すると想定される厚みの値であり、シート搬送限界として示している。
【0147】
グラフ463から、累積通紙枚数Jが多くなるのに伴って離型層383の厚みUが徐々に小さくなり、累積通紙枚数Jがニップ荷重のP1からP2への切り替えが行われたときの累積通紙枚数Jaを超えると、それまでよりも離型層383の厚みUの減少率が大きくなっている(グラフ463の勾配が急になっている)ことが判る。これは、ニップ荷重がP1からこれよりも大きいP2に切り替わったことで、上記の主に(b)の摩耗の進行が早まるからと考えられる。
【0148】
累積通紙枚数がJbに至ると、離型層383の厚みがシート搬送限界Ubまで減少し、これが加圧ローラー308の寿命に達したことの判断になる。予め実験などにより、離型層383の厚みがシート搬送限界Ubまで減少すると想定されるときの累積通紙枚数Jbが求められる。そして、新品時以降、プリントジョブの終了の度に、加圧ローラー308の寿命を判定する第2寿命判定処理を実行する。
【0149】
図13は、第2寿命判定処理の内容を示すフローチャートである。この第2寿命判定処理は、CPU42により実行される。
【0150】
まず、現在の累積通紙枚数Jを取得する(ステップS51)。累積通紙枚数Jは、加圧ローラー308の新品時以降、ニップ3を通紙されたシートSの枚数を累積して得られた枚数である。例えば、現在の累積通紙枚数Jを不図示の記憶部に記憶しておき、1枚のシートSがニップ3を通過する度に、現在の累積通紙枚数Jに1をインクリメントした値を、更新後の累積通紙枚数Jとして上書き保持することにより、現在の累積通紙枚数Jをその記憶部から読み出して取得することができる。
【0151】
取得した累積通紙枚数JがJb(第3閾値)以上であるか否かを判断する(ステップS52)。累積通紙枚数JがJb未満であることを判断すると(ステップS52で「No」)、加圧ローラー308が寿命に未だ達していないとして、当該処理を終了する。
【0152】
これ以後、第2寿命判定処理が実行された場合に、取得した累積通紙枚数JがJb以上であることを判断すると(ステップS52で「Yes」)、加圧ローラー308が寿命に達したとして寿命判定を行い(ステップS53)、当該処理を終了する。
【0153】
図14は、第1寿命判定処理と第2寿命判定処理のいずれの判定結果を用いるかを選択する寿命判定結果選択処理の内容を示すフローチャートである。この処理は、CPU42により一定時間ごとやプリントジョブ終了の度などに繰り返し実行される。
【0154】
まず、寿命判定通知を発行済であるか否かを判断する(ステップS61)。この寿命判定通知は、後述のステップ64による寿命判定の通知のことである。
【0155】
寿命判定通知を発行済ではないことを判断すると(ステップS61で「No」)、第1寿命判定処理が寿命判定をしたか否かを判断する(ステップS62)。この判断は、図9に示すステップS11の寿命判定がなされたか否かにより行われる。第1寿命判定処理が寿命判定を未だしていないことを判断すると(ステップS62で「No」)、第2寿命判定処理が寿命判定をしたか否かを判断する(ステップS63)。この判断は、図13に示すステップS53の寿命判定がなされたか否かにより行われる。第2寿命判定処理が寿命判定を未だしていないことを判断すると(ステップS63で「No」)、当該寿命判定結果選択処理を終了する。
【0156】
これ以後、寿命判定結果選択処理が実行された場合に、寿命判定通知が発行済ではなく(ステップS61で「No」)、第1寿命判定処理が寿命判定をしたことを判断すると(ステップS62で「Yes」)、寿命判定を通知して(ステップS64)、当該寿命判定結果選択処理を終了する。ステップS64の寿命判定の通知は、図9のステップS12の寿命通知と同じ処理により行われる。
【0157】
これ以後、寿命判定結果選択処理が実行された場合、既に寿命判定通知が発行済になるので(ステップS61で「Yes」)、当該寿命判定結果選択処理を終了する。
【0158】
一方、第1寿命判定処理が寿命判定をしていない状態で(ステップS61で「No」、S62で「No」)、第2寿命判定処理が寿命判定をしたことを判断すると(ステップS63で「Yes」)、寿命判定を通知して(ステップS64)、当該寿命判定結果選択処理を終了する。これ以後、寿命判定結果選択処理が実行された場合、既に寿命判定通知が発行済になるので(ステップS61で「Yes」)、当該寿命判定結果選択処理を終了する。つまり、第1寿命判定処理と第2寿命判定処理のうち、先に寿命判定した結果のみが寿命判定通知として出力される。
【0159】
このように2つの寿命判定処理を用いて先に寿命判定した結果が通知されるので、寿命判定によるメンテンナンスの実行タイミングをより早期に実施することができる。
【0160】
なお、上記では第2寿命判定処理において、加圧ローラー308の離型層383の厚みが摩耗により減少したことを寿命判定に用いたが、これに限られず、他の寿命判定処理、例えばベルト301の離型層の摩耗による減少が所定の大きさに達した場合、ベルト301または加圧ローラー308の累積回転数がこれらの物理的な破壊に至ると想定される回転数(第3閾値)に達した場合などを寿命判定とすることもできる。
【0161】
(6-6)上記実施の形態では、ニップ荷重の切り替え機構として、カム314(図3)を用いた加圧ローラー308の押圧機構311の構成例を説明したが、ニップ荷重を切り替え可能な構成であればカム314に限られない。例えば、カム314に代えて、直動モーターの軸でバネ受け部材313をニップ3に対して遠近する方向に段階的に移動距離を変化させて、圧縮コイルバネ312の縮み量(バネの力量)を変化させることで、ニップ荷重をP1とP2に切り替える構成を用いることもできる。
【0162】
(6-7)上記実施の形態では、ニップ3を通過するシートSの搬送性の低下(シートSに追随しなくなること)が生じる主因をベルト301と固定パッド302間の摺動抵抗の増大とする例を説明したが、これに加えてまたはこれに代えて、例えば加熱ローラー305の回転軸とこれの軸受との間の摩擦抵抗が長期間に亘って増大していく構成では、この摩擦抵抗がベルト301に対する回転負荷(ブレーキに相当)になってベルト301がシートSに対して追随できなくなって搬送性が低下する場合もある。
【0163】
また、駆動モーター310の回転軸から減速用のギア列を含む伝達機構を介して加圧ローラー308に回転駆動力を伝える構成では、長期間の使用に伴ってギア列に含まれる各ギアの回転軸の摩耗や歯の摩耗により各ギアの負荷トルクが上がることにより加圧ローラー308の回転軸、つまり駆動モーター310の回転軸の負荷トルクが大きくなることもある。
【0164】
さらに、加圧ローラー308が駆動側、ベルト301が従動側の構成例を説明したが、これに代えて、例えばベルト301が駆動側、加圧ローラー308が従動側の構成もあり得る。この構成例としては、駆動モーターによって駆動される加熱ローラー305の回転に伴ってベルト301が周回走行し、ベルト301に押圧されている加圧ローラー308が周回走行中のベルト301から回転駆動力を受けて従動回転する構成になる。
【0165】
この構成では、従動側の加圧ローラー308の回転負荷の増大により、ニップ3を通過するシートSに対して加圧ローラー308が追随できなくなると、ニップ3におけるシートSの搬送性が低下するおそれが生じる。この構成でも上記同様にニップ荷重を大きくすることで、周回走行するベルト301からシートSを介して加圧ローラー308に回転方向の力が伝わり易くなり、シートSの搬送性の低下を回避できる。
【0166】
また、ベルト301と加圧ローラー308間にニップ荷重を生じさせる機構として、加圧ローラー308を固定パッド302にベルト301を介して押圧する押圧機構311の例を説明したが、これに限られず、例えば固定パッド302を加圧ローラー308にベルト301を介して押圧する機構をとることもできる。また、加圧ローラー308と固定パッド302の両方を相互に近づける方向に移動させて押圧する機構など、ベルト301と加圧ローラー308を相対的に押圧する機構とすることができる。
【0167】
(6-8)上記実施の形態では、ベルト301を固定パッド302と加熱ローラー305とに巻き掛ける構成例を説明したが、これに限られない。加熱されたベルトと加圧ローラーを押圧して、ベルトと加圧ローラー間にシートSが通過するニップ3を形成する定着装置であれば良い。例えば、ベルト301が定着部30に装着されていない部品単体のときに外部からの力が何も作用していない自然状態で円筒形を保持できる自己形状保持可能なベルトであれば、加熱ローラー305やガイド部材303を配しない構成をとることができる。この構成の場合、ヒーター306をそのベルトの周回経路の内側に配して、ベルトの内周面を加熱する構成をとることができる。また、ベルト301の張架構成によって、バックアップ部材としての固定パッド302がなくてもベルト301と加圧ローラー308間に定着に必要なニップ荷重を確保可能であれば、固定パッド302を設けない構成をとることもできる。
【0168】
さらに、非回転体である固定パッドを、ベルト301を介して加圧ローラー308から押圧力を受け止めつつベルト301の走行をガイドするベルトガイドとして用いる構成例を説明したが、これに限られず、例えば回転体であるローラー形状のものを用いることもできる。
【0169】
また、ベルト301をヒーター306で加熱する構成例を説明したが、これに限られず、例えば電磁誘導によりベルト自体が発熱する電磁誘導加熱方式の定着装置にも適用できる。電磁誘導により発熱するベルトが加熱されたベルトに相当する。
【0170】
(6-9)上記実施の形態では、本開示に係る画像形成装置をタンデム型のカラープリンターに適用した場合の例を説明したが、これに限られない。無端状のベルトを有する定着装置およびこれを備える画像形成装置に適用できる。画像形成装置としては、カラー画像形成を実行可能なものやモノクロ画像形成のみが実行可能なものに適用でき、またプリンターに限られず、例えば複写機、ファクシミリ装置、MFP(Multiple Function Peripheral)等の画像形成装置に適用できる。
【0171】
上記の各部材の大きさ、形状、材料、個数などは一例であり、装置構成に応じて適した大きさ、形状、材料、個数等が予め決められる。
【0172】
また、上記実施の形態及び上記変形例の内容をそれぞれ可能な限り組み合わせるとしてもよい。本開示の効果を得られる範囲で、定着部などの各部の機構や各部材を別の機構や別の形状の部材に代えて適用することとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本開示は、無端状のベルトを有する定着装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0174】
1 プリンター
3 定着ニップ
30 定着部
40 制御部
42 CPU
45 閾値テーブル
46 トルク変換テーブル
47 累積回転数記憶部
301 ベルト
302 固定パッド
305 加熱ローラー
306 ヒーター
307 潤滑剤塗布部材
308 加圧ローラー
310 駆動モーター
311 加圧ローラーの押圧機構
315 切り替えモーター
421 ニップ荷重切替指示部
422 寿命判定部
423 駆動トルク検出部
424 累積回転数算出部
465 定着性を確保可能なニップ荷重の範囲
S 記録シート
Th1、Th2 閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14