(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240709BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 613
B41J2/14 611
B41J2/16 305
(21)【出願番号】P 2020088044
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 稔弘
(72)【発明者】
【氏名】古池 晴信
(72)【発明者】
【氏名】四十物 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】沢崎 立雄
(72)【発明者】
【氏名】西 智尋
(72)【発明者】
【氏名】望月 慎高
(72)【発明者】
【氏名】山崎 泰志
(72)【発明者】
【氏名】外村 修
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-033148(JP,A)
【文献】特開2007-227408(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0170037(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104772988(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
H01L 27/20
41/00-41/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体と、
前記圧電体の駆動により振動する振動板と、
前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、を有し、
前記圧力室基板、前記振動板および前記圧電体がこの順で積層されており、
前記振動板は、
ケイ素の酸化物である酸化シリコンを含む第1層と、
前記第1層と前記圧電体との間に配置され、構成元素としてクロムを含む第2層と、
前記第2層と前記圧電体との間に配置され、ジルコニウムの酸化物である酸化ジルコニウムを含む第3層と、を有する、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第2層は、酸化クロムを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第2層に含まれる酸化クロムは、アモルファス構造を有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
圧電体と、
前記圧電体の駆動により振動する振動板と、
前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、を有し、
前記圧力室基板、前記振動板および前記圧電体がこの順で積層されており、
前記振動板は、
ケイ素の酸化物である酸化シリコンを含む第1層と、
前記第1層と前記圧電体との間に配置され、
構成元素としてチタンを含む酸化物である酸化チタンを含む第2層と、
前記第2層と前記圧電体との間に配置され、ジルコニウムの酸化物である酸化ジルコニウムを含む第3層と、を有し、
前記第2層に含まれる酸化チタンは、ルチル構造を有する、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
圧電体と、
前記圧電体の駆動により振動する振動板と、
前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、を有し、
前記圧力室基板、前記振動板および前記圧電体がこの順で積層されており、
前記振動板は、
ケイ素の酸化物である酸化シリコンを含む第1層と、
前記第1層と前記圧電体との間に配置され、構成元素としてクロム、チタンおよびアルミニウムのうちのいずれかの金属元素を含む第2層と、
前記第2層と前記圧電体との間に配置され、ジルコニウムの酸化物である酸化ジルコニウムを含む第3層と、
前記第1層と前記第2層との間に前記第1層と前記第2層の両方に隣接するようにして配置され、構成元素として前記第2層に含まれる前記金属元素とケイ素とを含む第4層と、を有する、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第2層は、構成元素としてケイ素をさらに含み、
前記第4層におけるケイ素の含有率は、前記第2層におけるケイ素の含有率よりも高い、
ことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
圧電体と、
前記圧電体の駆動により振動する振動板と、
前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、を有し、
前記圧力室基板、前記振動板および前記圧電体がこの順で積層されており、
前記振動板は、
ケイ素の酸化物である酸化シリコンを含む第1層と、
前記第1層と前記圧電体との間に配置され、構成元素としてクロム、チタンおよびアルミニウムのうちのいずれかの金属元素を含む第2層と、
前記第2層と前記圧電体との間に配置され、ジルコニウムの酸化物である酸化ジルコニウムを含む第3層と、
前記第2層と前記第3層の間に前記第2層と前記第3層の両方に隣接するようにして配置され、構成元素として前記第2層に含まれる前記金属元素とジルコニウムとを含む第5層と、を有する、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第2層に含まれる前記構成元素は、ジルコニウムよりも酸化され難い、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記第2層に含まれる前記構成元素は、ケイ素よりも酸化され難い、
ことを特徴とする請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第2層に含まれる前記構成元素の酸化物生成自由エネルギーは、ジルコニウムの酸化物生成自由エネルギーよりも大きい、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記第2層に含まれる前記構成元素の酸化物生成自由エネルギーは、ケイ素の酸化物生成自由エネルギーよりも大きい、
ことを特徴とする請求項10に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記第2層の厚さは、前記第1層および前記第3層のそれぞれの厚さよりも薄い、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記第2層の厚さは、20nm以上50nm以下の範囲内にある、
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記第2層および前記第3層のそれぞれは、不純物を含む、
ことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記第2層における不純物の含有率は、前記第3層における不純物の含有率よりも高い、
ことを特徴とする請求項14に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
前記圧電体を含む複数の圧電素子をさらに有し、
前記複数の圧電素子は、
前記複数の圧電素子に個別に設けられる複数の第1電極と、
前記複数の圧電素子に共通に設けられる第2電極と、を有し、
前記複数の第1電極は、前記圧電体と前記振動板との間に配置される、
ことを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項17】
前記圧電体を含む複数の圧電素子をさらに有し、
前記複数の圧電素子は、
前記複数の圧電素子に共通に設けられる第1電極と、
前記複数の圧電素子に個別に設けられる複数の第2電極と、を有し、
前記第1電極は、前記圧電体と前記振動板との間に配置される、
ことを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記圧電体の駆動を制御する制御部と、を有する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、圧電デバイス、および圧電デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピエゾ方式のインクジェットプリンターに代表される液体吐出装置は、圧電素子と、圧電素子の駆動により振動する振動板と、を有する。例えば、特許文献1では、二酸化シリコンからなる弾性膜と酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜とを有する振動板が開示される。ここで、弾性膜は、シリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより形成される。絶縁体膜は、スパッタリング法等により弾性膜上に形成されたジルコニウム単体の層を熱酸化することにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ジルコニウムは、ケイ素に比べて酸化されやすい。このため、特許文献1に記載されるように二酸化シリコンからなる弾性膜と酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜とが接触する構成では、絶縁体膜を形成する際の熱処理等により、弾性膜中の二酸化シリコンがジルコニウムにより還元されてしまう。そうすると、当該還元により生成したケイ素単体が弾性膜から絶縁体膜に拡散し、その拡散に伴って弾性膜と絶縁体膜との間に空隙(ボイド)が形成されるおそれがある。当該空隙は、振動板にその振動に伴って層間?離またはクラック等の損傷を発生させる要因となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明に係る液体吐出ヘッドの一態様は、圧電体と、前記圧電体の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、を有し、前記圧力室基板、前記振動板および前記圧電体がこの順で積層されており、前記振動板は、構成元素としてケイ素を含む第1層と、前記第1層と前記圧電体との間に配置され、構成元素としてクロム、チタンおよびアルミニウムのうちのいずれかの金属元素を含む第2層と、前記第2層と前記圧電体との間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、を有する。
【0006】
本発明に係る液体吐出ヘッドの他の一態様は、圧電体と、前記圧電体の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、を有し、前記圧力室基板、前記振動板および前記圧電体がこの順で積層されており、前記振動板は、構成元素としてケイ素を含む第1層と、前記第1層と前記圧電体との間に配置され、構成元素としてジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含む第2層と、前記第2層と前記圧電体との間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、を有する。
【0007】
本発明に係る液体吐出ヘッドの他の一態様は、圧電体と、前記圧電体の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、を有し、前記圧力室基板、前記振動板および前記圧電体がこの順で積層されており、前記振動板は、構成元素としてケイ素を含む第1層と、前記第1層と前記圧電体との間に配置され、構成元素としてジルコニウムよりも酸化物生成自由エネルギーの大きい金属元素を含む第2層と、前記第2層と前記圧電体との間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、を有する。
【0008】
本発明に係る液体吐出装置の一態様は、前述のいずれかの態様の液体吐出ヘッドと、前記圧電体の駆動を制御する制御部と、を有する。
【0009】
本発明に係る圧電デバイスの一態様は、圧電体と、前記圧電体が積層される振動板と、を有し、前記振動板は、構成元素としてケイ素を含む第1層と、前記第1層と前記圧電体との間に配置され、構成元素としてクロム、チタンおよびアルミニウムのうちのいずれかの金属元素を含む第2層と、前記第2層と前記圧電体との間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、を有する。
【0010】
本発明に係る圧電デバイスの製造方法の一態様は、圧電体と、前記圧電体が積層される振動板と、を有する圧電デバイスの製造方法であって、前記振動板を形成する工程と、前記圧電体を形成する工程と、を含み、前記振動板を形成する工程は、構成元素としてケイ素を含む第1層を形成し、前記第1層の形成後、構成元素としてジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含む第2層を形成し、前記第2層の形成後、構成元素としてジルコニウムを含む第3層を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る液体吐出装置を模式的に示す構成図である。
【
図2】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図である。
【
図4】第1実施形態における液体吐出ヘッドの振動板を示す平面図である。
【
図6】圧電デバイスの製造方法を説明するための図である。
【
図7】第2実施形態に係る液体吐出ヘッドの断面図である。
【
図8】第3実施形態に係る液体吐出ヘッドの断面図である。
【
図9】実施例A7における振動板のSIMSによる分析結果を示す図である。
【
図10】実施例B1における振動板のSIMSによる分析結果を示す図である。
【
図11】比較例における振動板のSIMSによる分析結果を示す図である。
【
図12】実施例C3、C4および比較例における振動板のSIMSによる分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法または縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示している部分もある。また、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0013】
なお、以下の説明は、互いに交差するX軸、Y軸およびZ軸を適宜に用いて行う。また、X軸に沿う一方向をX1方向といい、X1方向と反対の方向をX2方向という。同様に、Y軸に沿って互いに反対の方向をY1方向およびY2方向という。また、Z軸に沿って互いに反対の方向をZ1方向およびZ2方向という。また、Z軸に沿う方向でみることを「平面視」という。
【0014】
ここで、典型的には、Z軸が鉛直な軸であり、Z2方向が鉛直方向での下方向に相当する。ただし、Z軸は、鉛直な軸でなくともよい。また、X軸、Y軸およびZ軸は、典型的には互いに直交するが、これに限定されず、例えば、80°以上100°以下の範囲内の角度で交差すればよい。
【0015】
1.第1実施形態
1-1.液体吐出装置の全体構成
図1は、第1実施形態に係る液体吐出装置100を模式的に示す構成図である。液体吐出装置100は、液体の一例であるインクを液滴として媒体12に吐出するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙である。なお、媒体12は、印刷用紙に限定されず、例えば、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象でもよい。
【0016】
図1に示すように、液体吐出装置100には、インクを貯留する液体容器14が装着される。液体容器14の具体的な態様としては、例えば、液体吐出装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、および、インクを補充可能なインクタンクが挙げられる。なお、液体容器14に貯留されるインクの種類は任意である。
【0017】
液体吐出装置100は、制御ユニット20と搬送機構22と移動機構24と液体吐出ヘッド26とを有する。制御ユニット20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを含み、液体吐出装置100の各要素の動作を制御する。ここで、制御ユニット20は、「制御部」の一例であり、後述の圧電体443の駆動を制御する。
【0018】
搬送機構22は、制御ユニット20による制御のもとで、媒体12をY2方向に搬送する。移動機構24は、制御ユニット20による制御のもとで、液体吐出ヘッド26をX1方向とX2方向とに往復させる。
図1に示す例では、移動機構24は、液体吐出ヘッド26を収容するキャリッジと称される略箱型の搬送体242と、搬送体242が固定される搬送ベルト244と、を有する。なお、搬送体242に搭載される液体吐出ヘッド26の数は、1個に限定されず、複数個でもよい。また、搬送体242には、液体吐出ヘッド26のほかに、前述の液体容器14が搭載されてもよい。
【0019】
液体吐出ヘッド26は、制御ユニット20による制御のもとで、液体容器14から供給されるインクを複数のノズルのそれぞれからZ2方向に媒体12に吐出する。この吐出が搬送機構22による媒体12の搬送と移動機構24による液体吐出ヘッド26の往復移動とに並行して行われることにより、媒体12の表面にインクによる画像が形成される。ここで、液体吐出ヘッド26は、「圧電デバイス」の一例である。なお、液体吐出ヘッド26の構成および製造方法については、後に詳述する。
【0020】
1-2.液体吐出ヘッドの全体構成
図2は、第1実施形態に係る液体吐出ヘッド26の分解斜視図である。
図3は、
図2中のIII-III線断面図である。
図2に示すように、液体吐出ヘッド26は、Y軸に沿う方向に配列される複数のノズルNを有する。
図2に示す例では、複数のノズルNは、X軸に沿う方向に互いに間隔をあけて並ぶ第1列L1と第2列L2とに区分される。第1列L1および第2列L2のそれぞれは、Y軸に沿う方向に直線状に配列される複数のノズルNの集合である。ここで、液体吐出ヘッド26における第1列L1の各ノズルNに関連する要素と第2列L2の各ノズルNに関連する要素とがX軸に沿う方向で互いに略対称な構成である。
【0021】
ただし、第1列L1における複数のノズルNと第2列L2における複数のノズルNとのY軸に沿う方向での位置が互いに一致してもよいし異なってもよい。以下では、第1列L1における複数のノズルNと第2列L2における複数のノズルNとのY軸に沿う方向での位置が互いに一致する構成が例示される。
【0022】
図2および
図3に示すように、液体吐出ヘッド26は、流路構造体30とノズル板62と吸振体64と振動板36と配線基板46と筐体部48と駆動回路50とを有する。
【0023】
流路構造体30は、複数のノズルNにインクを供給するための流路を形成する構造体である。本実施形態の流路構造体30は、流路基板32と圧力室基板34とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。流路基板32および圧力室基板34のそれぞれは、Y軸に沿う方向に長尺な板状部材である。流路基板32および圧力室基板34は、例えば接着剤により、互いに接合される。
【0024】
流路構造体30よりもZ1方向に位置する領域には、振動板36と配線基板46と筐体部48と駆動回路50とが設置される。他方、流路構造体30よりもZ2方向に位置する領域には、ノズル板62と吸振体64とが設置される。液体吐出ヘッド26の各要素は、概略的には流路基板32および圧力室基板34と同様にY方向に長尺な板状部材であり、例えば接着剤により、互いに接合される。
【0025】
ノズル板62は、複数のノズルNが形成された板状部材である。複数のノズルNのそれぞれは、インクを通過させる円形状の貫通孔である。ノズル板62は、例えば、ドライエッチングまたはウェットエッチング等の加工技術を用いる半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、ノズル板62の製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。
【0026】
流路基板32には、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、空間Raと複数の供給流路322と複数の連通流路324と供給液室326とが形成される。空間Raは、Z軸に沿う方向でみた平面視で、Y軸に沿う方向に延びる長尺状の開口である。供給流路322および連通流路324のそれぞれは、ノズルNごとに形成された貫通孔である。供給液室326は、複数のノズルNにわたりY軸に沿う方向に延びる長尺状の空間であり、空間Raと複数の供給流路322とを互いに連通させる。複数の連通流路324のそれぞれは、当該連通流路324に対応する1個のノズルNに平面視で重なる。
【0027】
圧力室基板34は、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、キャビティと称される複数の圧力室Cが形成された板状部材である。複数の圧力室Cは、Y軸に沿う方向に配列される。各圧力室Cは、ノズルNごとに形成され、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状の空間である。流路基板32および圧力室基板34それぞれは、前述のノズル板62と同様に、例えば、半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、流路基板32および圧力室基板34のそれぞれの製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。
【0028】
圧力室Cは、流路基板32と振動板36との間に位置する空間である。第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、複数の圧力室CがY軸に沿う方向に配列される。また、圧力室Cは、連通流路324および供給流路322のそれぞれに連通する。したがって、圧力室Cは、連通流路324を介してノズルNに連通し、かつ、供給流路322と供給液室326とを介して空間Raに連通する。
【0029】
圧力室基板34のZ2方向を向く面には、振動板36が配置される。振動板36は、弾性的に振動可能な板状部材である。振動板36については、後に詳述する。
【0030】
振動板36のZ1方向を向く面には、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、互いにノズルNに対応する複数の圧電素子44が配置される。各圧電素子44は、駆動信号の供給により変形する受動素子である。各圧電素子44は、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状をなす。複数の圧電素子44は、複数の圧力室Cに対応するようにY軸に沿う方向に配列される。圧電素子44の変形に連動して振動板36が振動すると、圧力室C内の圧力が変動することで、インクがノズルNから吐出される。圧電素子44については、後に詳述する。
【0031】
筐体部48は、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留するためのケースである。
図3に示すように、本実施形態の筐体部48には、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、空間Rbが形成される。筐体部48の空間Rbと流路基板32の空間Raとは、互いに連通する。空間Raと空間Rbとで構成される空間は、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留する液体貯留室(リザーバー)Rとして機能する。筐体部48に形成された導入口482を介して液体貯留室Rにインクが供給される。液体貯留室R内のインクは、供給液室326と各供給流路322とを介して圧力室Cに供給される。吸振体64は、液体貯留室Rの壁面を構成する可撓性のフィルム(コンプライアンス基板)であり、液体貯留室R内のインクの圧力変動を吸収する。
【0032】
配線基板46は、駆動回路50と複数の圧電素子44とを電気的に接続するための配線が形成された板状部材である。配線基板46のZ2方向を向く面は、振動板36に導電性の複数のバンプBを介して接合される。一方、配線基板46のZ1方向を向く面には、駆動回路50が実装される。駆動回路50は、各圧電素子44を駆動するための駆動信号および基準電圧を出力するIC(Integrated Circuit)チップである。
【0033】
配線基板46のZ1方向を向く面には、外部配線52の端部が接合される。外部配線52は、例えば、FPC(Flexible Printed Circuits)またはFFC(Flexible Flat Cable)等の接続部品で構成される。ここで、配線基板46には、
図2に示すように、外部配線52と駆動回路50とを電気的に接続する複数の配線461と、駆動回路50から出力される駆動信号および基準電圧が供給される複数の配線462とが形成される。
【0034】
1-3.振動板および圧電素子の詳細
図4は、第1実施形態における液体吐出ヘッド26の振動板36を示す平面図である。
図5は、
図4中のV-V線断面図である。液体吐出ヘッド26では、
図4および
図5に示すように、圧力室基板34、振動板36および複数の圧電素子44がこの順でZ1方向に積層される。
【0035】
図5に示すように、圧力室基板34には、圧力室Cを構成する孔341が設けられる。これに伴い、圧力室基板34には、互いに隣り合う2つの孔341の間に、X軸に沿う方向に延びる壁状の隔壁部342が設けられる。
図4では、面方位(110)のシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成した場合の孔341の平面視形状が破線で示される。なお、孔341の平面視形状は、
図4に示す例に限定されず、任意である。
【0036】
図4に示すように、圧電素子44は、平面視で圧力室Cに重なる。
図5に示すように、圧電素子44は、第1電極441と圧電体443と第2電極442とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。なお、圧電素子44は、電極と圧電体層が交互に多層に積層され、振動板36に向けて伸縮する構成でもよい。また、圧電素子44の層間、または圧電素子44と振動板36との間には、密着性を高めるための層等の他の層が適宜介在してもよい。
【0037】
第1電極441は、圧電素子44ごとに互いに離間して配置される個別電極である。具体的には、X軸に沿う方向に延びる複数の第1電極441が、互いに間隔をあけてY軸に沿う方向に配列される。各圧電素子44の第1電極441には、当該圧電素子44に対応するノズルNからインクを吐出するための駆動信号が駆動回路50を介して印加される。
【0038】
第1電極441は、例えば、イリジウム(Ir)で構成される層と、チタン(Ti)で構成される層と、を有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。ここで、イリジウムは、導電性に優れた電極材料である。このため、第1電極441の構成材料にイリジウムを用いることにより、第1電極441の低抵抗化を図ることができる。また、チタンで構成される層は、圧電体443を形成する際に、島状のTiが結晶核となって圧電体443の配向を制御して、圧電体443の結晶性または配向性を高める。なお、イリジウムで構成される層に代えて、または、当該層に加えて、他の金属材料で構成される層が設けられてもよい。当該他の金属材料としては、例えば、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)、銅(Cu)等の金属材料が挙げられ、これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。或いはこれらの金属元素の酸化物を用いても良い。
【0039】
圧電体443は、複数の圧電素子44にわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状をなす。図示しないが、圧電体443には、互いに隣り合う各圧力室Cの間隙に平面視で対応する領域に、圧電体443を貫通する貫通孔がX軸に沿う方向に延びて設けられる。
【0040】
圧電体443は、一般組成式ABO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する圧電材料で構成される。当該圧電材料としては、例えば、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)、ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等が挙げられる。中でも、圧電体443の構成材料には、チタン酸ジルコン酸鉛が好適に用いられる。
【0041】
第2電極442は、複数の圧電素子44にわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状の共通電極である。第2電極442には、所定の基準電圧が印加される。
【0042】
第2電極442は、例えば、イリジウム(Ir)で構成される。なお、第2電極442の構成材料は、イリジウムに限定されず、例えば、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)または銅(Cu)等の金属材料でもよい。また、第2電極442は、これらの金属材料のうち、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を積層等の形態で組み合わせて用いてもよい。或いはこれらの金属元素の酸化物を用いても良い。
【0043】
図4に示す例では、第2電極442の面上に、第1導電体55および第2導電体56が設けられる。第1導電体55は、第2電極442におけるX1方向の縁辺に沿ってY軸に沿う方向に延びる帯状の導電膜である。第2導電体56は、第2電極442におけるX2方向の縁辺に沿ってY軸に沿う方向に延在する帯状の導電膜である。第1導電体55および第2導電体56は、例えば、金等の電気的に低抵抗な導電材料で構成され、同層として一括形成される。以上の第1導電体55および第2導電体56により、第2電極442における基準電圧の電圧降下が抑制される。また、第1導電体55および第2導電体56は、振動板36の振動領域を規定する錘としても機能する。なお、第1導電体55および第2導電体56は、必要に応じて設ければよく、省略してもよい。
【0044】
以上のように、液体吐出ヘッド26は、圧電体443と、圧電体443の駆動により振動する振動板36と、液体の一例であるインクに振動板36の振動により圧力を付与する圧力室Cが設けられる圧力室基板34と、を有する。また、圧力室基板34、振動板36および圧電体443は、この順で積層される。
【0045】
図5に示すように、振動板36は、第1層361と第2層362と第3層363とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。すなわち、振動板36は、第1層361と、第1層361と圧電体443との間に配置される第2層362と、第2層362と圧電体443との間に配置される第3層363と、を有する。ここで、第1層361は、圧力室基板34に接合される。第3層363は、複数の圧電素子44に接合される。第2層362は、第1層361と第3層363との層間に介在する。なお、
図5では、説明の便宜上、振動板36を構成する層同士の界面が明確に図示されるが、当該界面が明確でなくともよく、例えば、互いに隣り合う2つの層の界面付近において当該2つの層の構成材料同士が混在してもよい。
【0046】
第1層361は、構成元素としてケイ素(Si)を含む層である。より具体的には、第1層361は、例えば、酸化シリコン(SiO2)で構成される弾性膜である。ここで、第1層361には、酸化シリコンおよびその構成元素のほか、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)またはハフニウム(Hf)等の元素が不純物として少量含まれてもよい。このような不純物は、酸化シリコン(SiO2)を柔らかくする効果をもたらす。
【0047】
このように、第1層361は、例えば、酸化シリコンを含む。このような第1層361は、シリコン単結晶基板の熱酸化により、スパッタ法により形成する場合に比べて生産性よく形成することができる。
【0048】
なお、第1層361中のケイ素は、酸化物の状態で存在するほか、単体、窒化物または酸窒化物等の状態で存在してもよい。また、第1層361中の不純物は、第1層361の形成の際に不可避的に混入される元素でもよいし、意図的に第1層361に混入される元素でもよい。
【0049】
第1層361の厚さT1は、振動板36の厚さTおよび幅W等に応じて決められ、特に限定されないが、100nm以上2000nm以下の範囲内であることが好ましく、500nm以上1500nm以下の範囲内であると更に好ましい。
【0050】
第3層363は、構成元素としてジルコニウム(Zr)を含む層である。より具体的には、第3層363は、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)で構成される絶縁膜である。ここで、第3層363には、酸化ジルコニウムおよびその構成元素のほか、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)またはハフニウム(Hf)等の元素が不純物として少量含まれてもよい。このような不純物は、酸化ジルコニウム(ZrO2)を柔らかくする効果をもたらす。
【0051】
このように、第3層363は、例えば、酸化ジルコニウムを含む。このような第3層363は、例えば、スパッタ法等によりジルコニウム単体の層を形成した後に、当該層を熱酸化することにより得られる。このため、第3層363を形成する際、所望厚さの第3層363を容易に得ることができる。また、酸化ジルコニウムが優れた電気絶縁性、機械的強度および靭性を有するので、第3層363が酸化ジルコニウムを含むことにより、振動板36の特性を高めることができる。また、例えば、圧電体443がチタン酸ジルコン酸鉛で構成される場合、第3層363が酸化ジルコニウムを含むことにより、圧電体443を形成する際、高配向率で(100)配向した圧電体443を得やすいという利点もある。
【0052】
なお、第3層363中のジルコニウムは、酸化物の状態で存在するほか、単体、窒化物または酸窒化物等の状態で存在してもよい。また、第3層363中の不純物は、第3層363の形成の際に不可避的に混入される元素でもよいし、意図的に第3層363に混入される元素でもよい。例えば、当該不純物は、第3層363をスパッタ法で形成する際に用いるジルコニウムターゲット中に含まれる不純物である。
【0053】
第3層363の厚さT3は、振動板36の厚さTおよび幅W等に応じて決められ、特に限定されないが、例えば、100nm以上2000nm以下の範囲内である。
【0054】
以上の第1層361と第3層363との間には、第2層362が介在する。このため、第1層361と第3層363との接触が防止される。このため、第1層361と第3層363とが接触する構成に比べて、第1層361中のシリコン酸化物が第3層363中のジルコニウムにより還元されることが低減される。
【0055】
第2層362は、構成元素としてジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含む層である。より具体的には、第2層362は、例えば、当該金属元素の酸化物で構成される。当該金属元素としては、後述のように、アルミニウム、チタン、クロムがあるが、例えば別の例として、マンガン、バナジウム、タングステン、鉄、銅等が挙げられる。
【0056】
このように、第2層362は、ジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含む。言い換えると、第2層362は、ジルコニウムよりも酸化物生成自由エネルギーの大きい金属元素を含む。第2層362は、構成元素としてクロム、チタンおよびアルミニウムのうちのいずれかの金属元素を含むことが好ましい。なお、酸化物生成自由エネルギーの大小関係は、例えば、公知のエリンガムダイアグラムに基づいて評価することが可能である。
【0057】
第2層362に含まれる金属元素がジルコニウムよりも酸化され難い。言い換えると、第2層に含まれる金属元素の酸化物生成自由エネルギーは、ジルコニウムの酸化物生成自由エネルギーよりも大きい。これにより、第2層362に含まれる金属元素がジルコニウムよりも酸化されやすい構成に比べて、つまり第2層に含まれる金属元素の酸化物生成自由エネルギーがジルコニウムの酸化物生成自由エネルギーよりも小さい構成に比べて、第1層361に含まれるシリコン酸化物の還元を低減することができる。このため、当該還元により生成するケイ素単体が第1層361から第2層362に拡散することが低減されるので、第1層361と第3層363との間における当該拡散に起因する空隙の発生を低減することができる。この結果、第2層362を用いない構成に比べて、第1層361と第3層363との間の密着力を高めることができる。
【0058】
クロムは、ケイ素よりも酸化され難い。言い換えると、クロムの酸化物生成自由エネルギーは、ケイ素の酸化物生成自由エネルギーよりも大きい。このため、第2層362に金属元素としてクロムが含まれる場合、ケイ素よりも酸化され難い金属元素が第2層362に含まれない場合に比べて、第1層361に含まれるシリコン酸化物の還元を低減することができる。
【0059】
また、チタンまたはアルミニウムの酸化物は、熱により移動しやすい。このため、第2層362に金属元素としてチタンまたはアルミニウムが含まれる場合、当該金属元素の酸化物によるアンカー効果または化学結合により第1層361および第3層363のそれぞれと第2層362との層間での密着力を高めることができる。
【0060】
しかも、チタンは、ケイ素またはジルコニウムとともに酸化物を形成しやすい。このため、第2層362に金属元素としてチタンが含まれる場合、チタンがケイ素とともに酸化物を形成することにより、第1層361と第2層362との密着力を高めたり、チタンがジルコニウムとともに酸化物を形成することにより、第1層361と第3層363との密着力を高めたりすることもできる。
【0061】
また、第2層362は、クロムを含む場合、例えば、クロムが酸化物を構成しており、酸化クロムを含む。このような第2層362は、スパッタ法等によりクロム単体の層を形成した後に、当該層を熱酸化することにより得られる。このため、第2層362を形成する際、所望厚さの第2層362を容易に得ることができる。
【0062】
ここで、第2層362に含まれる酸化クロムは、多結晶、アモルファスまたは単結晶のいずれのいずれの状態でもよい。ただし、第2層362に含まれる酸化クロムがアモルファス状態であるアモルファス構造を有する場合、第2層362に含まれる酸化クロムが多結晶または単結晶の状態である場合に比べて、第2層362に生じる圧縮応力を低減することができる。この結果、第1層361または第3層363と第2層362との界面に生じる歪みを低減することができる。
【0063】
また、第2層362は、チタンを含む場合、例えば、チタンが酸化物を構成しており、酸化チタンを含む。このような第2層362は、スパッタ法等によりチタン単体の層を形成した後に、当該層を熱酸化することにより得られる。このため、第2層362を形成する際、所望厚さの第2層362を容易に得ることができる。
【0064】
ここで、第2層362に含まれる酸化チタンは、多結晶、アモルファスまたは単結晶のいずれの状態でもよい。ただし、第2層362に含まれる酸化チタンは、多結晶または単結晶の状態であることが好ましく、特に、結晶構造としてルチル構造を有することが好ましい。酸化チタンがとり得る結晶構造の中でも、ルチル構造は、最も安定であり、熱により移動してもアナターゼまたはブロッカイト等の多形に変化し難い。したがって、第2層362に含まれる酸化チタンがルチル構造を有することにより、第2層362に含まれる酸化チタンの結晶構造が他の結晶構造である場合に比べて、第2層362の熱安定性を高めることができる。
【0065】
また、第2層362は、アルミニウムを含む場合、例えば、アルミニウムが酸化物を構成しており、酸化アルミニウムを含む。このような第2層362は、スパッタ法等によりアルミニウム単体の層を形成した後に、当該層を熱酸化することにより得られる。このため、第2層362を形成する際、所望厚さの第2層362を容易に得ることができる。
【0066】
ここで、第2層362に含まれる酸化アルミニウムは、多結晶、アモルファスまたは単結晶のいずれのいずれの状態でもよく、多結晶または単結晶の状態である場合、結晶構造として三方晶系構造を有する。
【0067】
また、第2層362には、前述の金属元素のほか、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、クロム(Cr)またはハフニウム(Hf)等の元素が不純物として少量含まれてもよい。例えば、当該不純物は、第1層361または第3層363に含まれる元素である。当該不純物は、例えば、第2層362中に当該金属元素とともに酸化物の状態で存在する。このような不純物は、第1層361から第2層362へのケイ素の拡散を低減するか、または、第1層361から第2層362へケイ素が拡散しても、当該ケイ素が第3層363へ拡散するのを低減する効果をもたらす。
【0068】
このような観点から、第2層362および第3層363のそれぞれは、不純物を含むことが好ましい。この場合、そうでない場合に比べて、第2層362および第3層363のそれぞれを柔らかくすることにより、振動板36のクラック等のリスクを低減することができる。
【0069】
ここで、第2層362における不純物の含有率は、第3層363における不純物の含有率よりも高いことが好ましい。言い換えると、第2層362および第3層363からなる積層体における厚さ方向での不純物の濃度ピークが第2層362に位置することが好ましい。この場合、第2層362と第3層363との界面または第3層363中に隙間が形成されることが防止または低減される。これに対し、当該濃度ピークが第3層363に位置すると、第3層363中の結晶構造が不純物により歪んでしまう。このため、第2層362と第3層363との界面または第3層363中に隙間されてしまい、この結果、振動板36のクラック等のリスクが高まる場合がある。
【0070】
以上の第2層362中の金属元素は、酸化物の状態で存在するほか、単体、窒化物または酸窒化物等の状態で存在してもよい。また、第2層362中の不純物は、第2層362の形成の際に不可避的に混入される元素でもよいし、意図的に第2層362に混入される元素でもよい。
【0071】
また、第2層362の厚さT2は、振動板36の厚さTおよび幅Wに応じて決められ、特に限定されないが、第1層361の厚さT1および第3層363の厚さT3のそれぞれよりも薄いことが好ましい。この場合、振動板36の特性を最適化しやすいという利点がある。
【0072】
具体的な第2層362の厚さT2は、第2層362に含まれる金属元素がチタンの場合、20nm以上50nm以下の範囲内にあることが好ましく、25nm以上40nm以下の範囲内にあることがより好ましい。また、第2層362に含まれる金属元素がアルミニウムの場合、20nm以上50nm以下の範囲内にあることが好ましく、20nm以上35nm以下の範囲内にあることが特に好ましい。また、第2層362に含まれる金属元素がクロムの場合、1nm以上50nm以下の範囲内にあることが好ましく、2nm以上30nm以下の範囲内にあることがより好ましい。ここから、第2層362に含まれる金属元素がチタン、アルミニウム、クロムのいずれである場合であっても、第2層362の厚さT2が20nm以上50nm以下の範囲内に含まれていれば、好ましい条件を満足することがわかる。厚さT2がこのような範囲内にあることにより、第1層361と第3層363との間の密着力を第2層362により高める効果を好適に発揮させることができる。
【0073】
これに対し、厚さT2が薄すぎると、第2層362に含まれる金属元素の種類等によっては、第1層361からのケイ素単体の拡散を第2層362により低減する効果が低下する傾向を示す。例えば、第2層362が酸化チタンで構成される場合、厚さT2が薄すぎると、製造時の熱処理の条件等によっては、第1層361から第2層362に拡散したケイ素単体が第3層363に到達してしまう場合がある。一方、厚さT2が厚すぎると、第2層362の製造時の熱処理を十分に行うことができなかったり、当該熱酸化に長時間を要する結果、他の層に悪影響を与えたりする場合がある。
【0074】
1-4.圧電デバイスの製造方法
図6は、圧電デバイスの製造方法を説明するための図である。以下、
図6に基づいて、前述の液体吐出ヘッド26を製造する場合を例に圧電デバイスの製造方法を説明する。
【0075】
液体吐出ヘッド26の製造方法は、
図6に示すように、基板準備工程S10と振動板形成工程S20と圧電素子形成工程S30と圧力室形成工程S40とを有する。ここで、振動板形成工程S20は、第1層形成工程S21と第2層形成工程S22と第3層形成工程S23とを有する。以下、各工程を順次説明する。
【0076】
基板準備工程S10は、圧力室基板34となるべき基板を準備する工程である。当該基板は、例えば、シリコン単結晶基板である。
【0077】
振動板形成工程S20は、前述の振動板36を形成する工程であり、基板準備工程S10の後に行われる。振動板形成工程S20では、第1層形成工程S21と第2層形成工程S22と第3層形成工程S23とがこの順で行われる。
【0078】
第1層形成工程S21は、前述の第1層361を形成する工程である。第1層形成工程S21では、例えば、基板準備工程S10で準備したシリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより、酸化シリコン(SiO2)で構成される第1層361が形成される。
【0079】
第2層形成工程S22は、前述の第2層362を形成する工程である。第2層形成工程S22では、例えば、第1層361上に、スパッタ法によりクロム、チタンまたはアルミニウムの層を形成し、当該層を熱酸化することにより、酸化クロム、酸化チタンまたは酸化アルミニウムで構成される第2層362が形成される。なお、第2層362の形成は、熱酸化を用いる方法に限定されず、例えば、CVD法または原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法等を用いてもよい。また、第2層形成工程S22における熱酸化は、後述の第3層形成工程S23における熱酸化と一括して行ってもよい。
【0080】
第3層形成工程S23は、前述の第3層363を形成する工程である。第3層形成工程S23では、例えば、第2層362上に、スパッタ法によりジルコニウムの層を形成し、当該層を熱酸化することにより、酸化ジルコニウムで構成される第3層363が形成される。
【0081】
圧電素子形成工程S30は、前述の複数の圧電素子44を形成する工程であり、第3層形成工程S23の後に行われる。圧電素子形成工程S30では、第3層363上に、第1電極441、圧電体443および第2電極442がこの順で形成される。
【0082】
第1電極441および第2電極442のそれぞれは、例えば、スパッタ法等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。圧電体443は、例えば、ゾルゲル法により圧電体の前駆体層を形成し、その前駆体層を焼成して結晶化することにより形成される。
【0083】
圧電素子44の形成後には、必要に応じて、その形成後の基板の両面のうち圧電素子44が形成される面とは異なる面がCMP(chemical mechanical polishing)等により研削され、当該面の平坦化または当該基板の厚さ調整が行われる。
【0084】
圧力室形成工程S40は、前述の圧力室Cを形成する工程であり、圧電素子形成工程S30の後に行われる。圧力室形成工程S40では、例えば、圧電素子44の形成後のシリコン単結晶基板の両面のうち圧電素子44が形成される面とは異なる面を異方性エッチングすることにより、圧力室Cを構成する孔341が形成される。孔341が形成される結果、圧力室基板34が得られる。このとき、当該異方性エッチングのエッチング液として、例えば、水酸化カリウム水溶液(KOH)等が用いられる。また、このとき、第1層361は、当該異方性エッチングを停止させる停止層として機能する。
【0085】
圧力室形成工程S40の後、圧力室基板34に流路基板32等を接着剤により接合する工程等を適宜に行うことにより、液体吐出ヘッド26が得られる。
【0086】
2.第2実施形態
以下、本発明の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用または機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0087】
図7は、第2実施形態に係る液体吐出ヘッド26Aの断面図である。液体吐出ヘッド26Aは、振動板36に代えて振動板36Aを有する以外は、前述の第1実施形態の液体吐出ヘッド26と同様である。振動板36Aは、第2層362に代えて第2層362Aを有する以外は、振動板36と同様である。なお、
図7では、説明の便宜上、振動板36Bを構成する層同士の界面が明確に図示されるが、当該界面が明確でなくともよく、例えば、互いに隣り合う2つの層の界面付近において当該2つの層の構成材料同士が混在してもよい。
【0088】
第2層362Aは、層362aと層362bとを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。層362aおよび層362bのそれぞれは、ジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含む層であり、例えば、当該金属元素を含む酸化物で構成される。
【0089】
ただし、層362aおよび層362bを構成する材料の組成は、互いに異なる。具体的には、層362aおよび層362bにおける不純物の種類または含有率が互いに異なる。当該不純物は、前述の第1実施形態と同様、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、クロム(Cr)またはハフニウム(Hf)等の元素である。このような層362aおよび層362bの形成は、例えば、スパッタ法等により当該金属元素の単体からなる層を形成し、当該層に対して厚さ方向における不純物の分布を異ならせるように熱処理の時間または温度等を調整することにより行われる。なお、これらの層の形成は、特に限定されず、例えば、CVD(chemical vapor deposition)法等により各層を個別の成膜により行ってもよい。
【0090】
層362aに不純物としてケイ素が含まれる場合、層362bを「第2層」と捉えることができ、この場合、層362aを「第4層」と捉えることができる。すなわち、層362aは、第1層361と層362bとの間に配置され、層362aに含まれる金属元素とケイ素とを含む。このように、層362aにケイ素が含まれることにより、第1層361から第2層362Aへのケイ素の拡散が低減されるか、または、第1層361から第2層362Aへケイ素が拡散しても、当該ケイ素が第3層363へ拡散するのを低減することができる。また、第1層361と第2層362Aとの界面に隙間が生じ難くなるという効果もある。
【0091】
ここで、層362bは、ケイ素を含んでもよいが、層362aにおけるケイ素の含有率は、層362bにおけるケイ素の含有率よりも高いことが好ましい。言い換えると、層362bにおけるケイ素の含有率は、層362aにおけるケイ素の含有率よりも低いことが好ましい。層362aおよび層362bにおけるケイ素の含有率の関係をこのようにすることにより、例えば、第2層362Aが酸化チタンを含む場合、第2層362Aにおける酸化チタンのケイ素による結晶歪みを低減することができる。また、層362bにおけるケイ素の含有率を低くすることにより、層362bと第3層363との密着力を高めることができる。
【0092】
また、層362bに不純物としてジルコニウムが含まれる場合、層362aを「第2層」と捉えることができ、この場合、層362bを「第5層」と捉えることができる。すなわち、層362bは、層362aと第3層363の間に配置され、層362aに含まれる金属元素とジルコニウムとを含む。このように、層362bにジルコニウムが含まれることにより、第3層363から第2層362Aへのジルコニウムの拡散が低減されるか、または、第3層363から第2層362Aへジルコニウムが拡散しても、当該ジルコニウムが第1層361へ拡散するのを低減することができる。また、第3層363と第2層362Aとの界面に隙間が生じ難くなるという効果もある。
【0093】
以上の第2実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様、振動板の層間?離またはクラック等の損傷の発生を低減することができる。
【0094】
3.第3実施形態
以下、本発明の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用または機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0095】
図8は、第3実施形態に係る液体吐出ヘッド26Bの断面図である。液体吐出ヘッド26Bは、振動板36に代えて振動板36Bを有する以外は、前述の第1実施形態の液体吐出ヘッド26と同様である。振動板36Bは、第2層362に代えて第2層362Bを有する以外は、振動板36と同様である。なお、
図8では、説明の便宜上、振動板36Bを構成する層同士の界面が明確に図示されるが、当該界面が明確でなくともよく、例えば、互いに隣り合う2つの層の界面付近において当該2つの層の構成材料同士が混在してもよい。
【0096】
第2層362Bは、層362aと層362bと層362cとを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。層362a、層362bおよび層362cのそれぞれは、ジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含む層であり、例えば、当該金属元素を含む酸化物で構成される。
【0097】
ただし、層362a、層362bおよび層362cを構成する材料の組成は、互いに異なる。具体的には、層362a、層362bおよび層362cにおける不純物の種類または含有率が互いに異なる。当該不純物は、前述の第1実施形態と同様、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、クロム(Cr)またはハフニウム(Hf)等の元素である。このような層362a、層362bおよび層362cの形成は、例えば、スパッタ法等により当該金属元素の単体からなる層を形成し、当該層に対して厚さ方向における不純物の分布を異ならせるように熱処理の時間または温度等を調整することにより行われる。なお、これらの層の形成は、特に限定されず、例えば、CVD(chemical vapor deposition)法等により各層を個別の成膜により行ってもよい。
【0098】
前述の第2実施形態と同様、層362aに不純物としてケイ素が含まれる場合、層362bを「第2層」と捉えることができ、この場合、層362aを「第4層」と捉えることができる。
【0099】
また、層362cに不純物としてジルコニウムが含まれる場合、層362bを「第2層」と捉えることができ、この場合、層362cを「第5層」と捉えることができる。すなわち、層362cは、層362bと第3層363の間に配置され、層362bに含まれる金属元素とジルコニウムとを含む。このように、層362cにジルコニウムが含まれることにより、第3層363から第2層362Bへのジルコニウムの拡散が低減されるか、または、第3層363から第2層362Bへジルコニウムが拡散しても、当該ジルコニウムが第1層361へ拡散するのを低減することができる。また、第3層363と第2層362Bとの界面に隙間が生じ難くなるという効果もある。
【0100】
以上の第3実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様、振動板の層間?離またはクラック等の損傷の発生を低減することができる。
【0101】
4.変形例
以上の例示における各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。なお、以下の例示から任意に選択される2以上の態様は、互いに矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0102】
4-1.変形例1
液体吐出ヘッドは、圧電体および振動板を有する構成であればよく、前述の実施形態の構成に限定されない。また、前述の実施形態では、圧電デバイスの一例として液体吐出ヘッドを説明したが、これに限定されない。圧電デバイスは、液体吐出ヘッドのほか、例えば、圧電体および振動板を有する圧電アクチュエーター等の駆動デバイスでもよく、圧電体および振動板を有する圧力センサー等の検出デバイス等でもよい。
【0103】
4-2.変形例2
前述の各形態では、液体吐出ヘッド26、26Aまたは26Bは、圧電体443を含む複数の圧電素子44を有する。ここで、当該複数の圧電素子44は、当該複数の圧電素子に個別に設けられる複数の第1電極441と、当該複数の圧電素子44に共通に設けられる第2電極442と、を有する。複数の第1電極441は、圧電体443と振動板36との間に配置される。
【0104】
このように、前述の各形態では、第1電極441が個別電極であり第2電極442が共通電極である構成を例示するが、第1電極441を、複数の圧電素子44にわたり連続する共通電極とし、第2電極442を圧電素子44ごとに個別の個別電極としてもよい。また、第1電極441および第2電極442の双方を個別電極としてもよい。
【0105】
4-3.変形例3
前述の各形態では、液体吐出ヘッド26を搭載する搬送体242を往復させるシリアル方式の液体吐出装置100を例示するが、複数のノズルNが媒体12の全幅にわたり分布するライン方式の液体吐出装置にも本発明を適用することが可能である。
【0106】
4-4.変形例4
前述の各形態で例示する液体吐出装置100は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体吐出装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する液体吐出装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を吐出する液体吐出装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。
【実施例】
【0107】
以下、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0108】
A.第2層に酸化チタンを用いた振動板の製造
A-1.実施例A1
まず、面方位(110)のシリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより、酸化シリコンで構成される厚さ1460nmの第1層を形成した。
【0109】
次に、第1層上に、スパッタ法によりチタンからなる膜を成膜し、当該膜を650℃で熱酸化することにより、主に酸化チタンで構成される厚さ10nmの第2層を形成した。
【0110】
続いて、第2層上に、スパッタ法によりジルコニウムからなる膜を成膜し、当該膜を900℃で熱酸化することにより、酸化ジルコニウムで構成される厚さ400nmの第3層を形成した。
【0111】
その後、水酸化カリウム水溶液(KOH)等をエッチング液として用いてシリコン単結晶基板の他方の面を異方性エッチングすることにより、第1層を底面とする凹部を形成した。
【0112】
以上により、第1層、第2層および第3層からなる振動板を製造した。
【0113】
A-2.実施例A2
チタンからなる膜の厚さを変更することにより、第2層の厚さを15nmとした以外は、前述の実施例A1と同様にして振動板を製造した。
【0114】
A-3.実施例A3
チタンからなる膜の厚さを変更することにより、第2層の厚さを20nmとした以外は、前述の実施例A1と同様にして振動板を製造した。
【0115】
A-4.実施例A4
チタンからなる膜の厚さを変更することにより、第2層の厚さを25nmとした以外は、前述の実施例A1と同様にして振動板を製造した。
【0116】
A-5.実施例A5
チタンからなる膜の厚さを変更することにより、第2層の厚さを30nmとした以外は、前述の実施例A1と同様にして振動板を製造した。
【0117】
A-6.実施例A6
チタンからなる膜の厚さを変更することにより、第2層の厚さを35nmとした以外は、前述の実施例A1と同様にして振動板を製造した。
【0118】
A-7.実施例A7
チタンからなる膜の厚さを変更することにより、第2層の厚さを40nmとした以外は、前述の実施例A1と同様にして振動板を製造した。
【0119】
A-8.実施例A8
チタンからなる膜の厚さを変更することにより、第2層の厚さを50nmとした以外は、前述の実施例A1と同様にして振動板を製造した。
【0120】
A-9.実施例A9
チタンからなる膜の厚さを変更することにより、第2層の厚さを60nmとした以外は、前述の実施例A1と同様にして振動板を製造した。
【0121】
B.第2層に酸化アルミニウムを用いた振動板の製造
B-1.実施例B1
主に酸化アルミニウムで構成される厚さ20nmの第2層を形成した以外は、前述の実施例A1と同様にして振動板を製造した。ここで、第2層の形成には、原子層堆積法を用いた。
【0122】
B-2.実施例B2
第2層の厚さを30nmとした以外は、前述の実施例B1と同様にして振動板を製造した。
【0123】
B-3.実施例B3
第2層の厚さを35nmとした以外は、前述の実施例B1と同様にして振動板を製造した。
【0124】
B-4.実施例B4
第2層の厚さを40nmとした以外は、前述の実施例B1と同様にして振動板を製造した。
【0125】
B-5.実施例B5
第2層の厚さを45nmとした以外は、前述の実施例B1と同様にして振動板を製造した。
【0126】
B-6.実施例B6
第2層の厚さを50nmとした以外は、前述の実施例B1と同様にして振動板を製造した。
【0127】
C.第2層に酸化クロムを用いた振動板の製造
C-1.実施例C1
主に酸化クロムで構成される厚さ1nmの第2層を形成するとともに第3層の厚さを600nmとした以外は、前述の実施例A1と同様にして振動板を製造した。ここで、第2層の形成は、第1層上に、スパッタ法によりクロムからなる膜を成膜し、当該膜を650℃で熱酸化することにより行った。
【0128】
C-2.実施例C2
第2層の厚さを2nmとした以外は、前述の実施例C1と同様にして振動板を製造した。
【0129】
C-3.実施例C3
第2層の厚さを5nmとした以外は、前述の実施例C1と同様にして振動板を製造した。
【0130】
C-4.実施例C4
第2層の厚さを15nmとした以外は、前述の実施例C1と同様にして振動板を製造した。
【0131】
C-5.実施例C5
第2層の厚さを30nmとした以外は、前述の実施例C1と同様にして振動板を製造した。
【0132】
C-6.実施例C6
第2層の厚さを50nmとした以外は、前述の実施例C1と同様にして振動板を製造した。
【0133】
D.第2層を用いない振動板の製造
D-1.比較例
第2層の形成を省略した以外は、前述の実施例A1と同様にして振動板を製造した。
【0134】
E.評価
E-1.不純物ピーク位置、第2層構成およびSi拡散
各実施例および比較例の振動板について、SIMS(二次イオン質量分析)により分析を行った。分析結果の一部を代表的に
図9から
図12に示す。
図9は、実施例A7における振動板のSIMSによる分析結果を示す図である。
図10は、実施例B1における振動板のSIMSによる分析結果を示す図である。
図11は、比較例における振動板のSIMSによる分析結果を示す図である。
図12は、実施例C3、C4および比較例における振動板のSIMSによる分析結果を示す図である。なお、
図12は、ケイ素の分布を示す。
【0135】
この分析の結果、実施例A1-A7、B1-B6では、振動板の厚さ方向における鉄(Fe)またはクロム(Cr)等の不純物濃度のピークが第2層に位置することがわかった。実施例A8、A9、C1-C6では、不純物濃度のピークが第3層に位置することがわかった。比較例では、不純物濃度のピークが第1層と第3層との界面に位置することがわかった。これらの結果を表1に示す。
【0136】
【0137】
また、実施例A1-A3およびC1-C4では、第2層の厚さ方向での全域にわたり不純物が拡散しており、第2層が1層で構成されることがわかった。実施例B1-B6、C5およびC6では、第2層における第3層側の一部のみに不純物が拡散しており、第2層が不純物の拡散する層としない層との2層で構成されることがわかった。実施例A4-A9では、第2層における第3層側の一部に不純物が拡散するとともに、第2層における不純物の拡散しない層における第1層側の一部にケイ素が拡散しており、第2層が3層で構成されることがわかった。これらの結果も表1に示す。
【0138】
また、第3層へのケイ素の拡散の有無を以下の基準に従い評価した。この評価結果を表1に示す。
【0139】
A:第3層へのケイ素の拡散がない。
B:第3層へのケイ素の拡散が若干認められる。
C:第3層へのケイ素の拡散が顕著に認められる。
【0140】
E-2.水分侵入
各実施例および各比較例について、振動板を小片に切り出し、温度45℃および湿度95%の重水雰囲気下に24時間曝した後、SIMSにより分析を行った。この分析の結果を以下の基準に従い評価した。この評価結果を表1に示す。
【0141】
A:第1層と第3層との間への水分の侵入がない。
B:第1層と第3層との間への水分の侵入が若干認められる。
C:第1層と第3層との間への水分の侵入が顕著に認められる。
【0142】
E-3.密着性
各実施例C1-C6および比較例について、以下のように、第1層と第3層との間の密着性を評価した。
【0143】
まず、振動板を小片に切り出し、エッチング液として希フッ酸(水:フッ酸=50:1)を用い、当該小片を60分間エッチング液に浸した後、当該小片の端面からエッチングにより変色した部分の幅を10か所測定し、そのエッチング量の平均値を求めた。
【0144】
その結果、実施例C1では、エッチング量が310μmであった。実施例C2では、エッチング量が288μmであった。実施例C3では、エッチング量が170μmであった。実施例C4では、エッチング量が11μmであった。実施例C5およびC6では、それぞれ、エッチング量が10μm以下であった。比較例では、エッチング量が346μmであった。
【0145】
以上の結果から以下の基準に従い密着性を評価した。その結果を表1に示す。
A:エッチング量が極めて少なく、密着性が良好である。
B:エッチング量が若干多いが、密着性の向上が認められる。
C:エッチング量が極めて多く、密着性が悪い。
【0146】
E-4.その他
各実施例および比較例について、振動板の断面をSTEM(走査型透過電子顕微鏡)により観察した。その結果、各実施例では、第1層と第3層との間に隙間が生じていなかった。これに対し、比較例では、第1層と第3層との間に隙間が生じていた。ただし、実施例A9では、第3層中に隙間が生じていた。これは、FeおよびCrにより第3層の酸化ジルコニウムの結晶構造にひずみが生じたことによるものである。
【0147】
E-5.総合評価
以上の評価結果を踏まえて、総合評価を行った。この結果を表1に示す。表1中の総合評価の結果を示すA、B、CおよびDは、この順でAが最もよい。以上のように、各実施例は、比較例に比べて、第3層へのケイ素の拡散が低減され、優れた耐久性を示すことがわかる。
【符号の説明】
【0148】
20…制御ユニット(制御部)、26…液体吐出ヘッド、26A…液体吐出ヘッド、26B…液体吐出ヘッド、34…圧力室基板、36…振動板、36A…振動板、36B…振動板、44…圧電素子、100…液体吐出装置、361…第1層、362…第2層、362A…第2層、362B…第2層、362a…層(第4層)、362b…層(第2層)、362c…層(第5層)、363…第3層、441…第1電極、442…第2電極、443…圧電体、T1…厚さ、T2…厚さ、T3…厚さ